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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】スピンドル装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 19/02 20060101AFI20240501BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20240501BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B23B19/02 A
B23Q11/00 A
F16F15/12 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019134283
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021016918
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼松 和秀
(72)【発明者】
【氏名】宮本 数人
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-052104(JP,A)
【文献】特開平04-008406(JP,A)
【文献】特開平03-213202(JP,A)
【文献】特開平02-311206(JP,A)
【文献】実開平05-063701(JP,U)
【文献】実開平05-031810(JP,U)
【文献】米国特許第05039261(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23B 31/00-33/00
B23Q 3/00-3/154
B23Q 11/00-13/00
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有し、ハウジングに回転自在に支持されて先端部に工具が装着される主軸と、
該主軸の前記中空部に内蔵され、前記中空部内で前記主軸の軸方向に移動可能なドローバーと、を備え、
該ドローバーを前記軸方向に移動させることにより、前記主軸の先端部に装着された工具を交換可能とするスピンドル装置において、
前記ドローバーを前記軸方向に付勢する付勢手段と、
前記主軸の内周面と前記ドローバーの外周面との間の隙間に前記付勢手段と非接触状態で装填され、少なくとも前記主軸の径方向に弾性を有して前記ドローバーの前記軸方向の移動を許容する装填部材と、を有し、
前記装填部材は、少なくとも前記ドローバーの前記軸方向の中央領域に配置されていることを特徴とするスピンドル装置。
【請求項2】
中空部を有し、ハウジングに回転自在に支持されて先端部に工具が装着される主軸と、
該主軸の前記中空部に内蔵され、前記中空部内で前記主軸の軸方向に移動可能なドローバーと、を備え、
該ドローバーを前記軸方向に移動させることにより、前記主軸の先端部に装着された工具を交換可能とするスピンドル装置において、
前記ドローバーを前記軸方向に付勢する付勢手段と、
前記主軸の内周面と前記ドローバーの外周面との間の隙間に前記付勢手段と非接触状態で装填され、少なくとも前記主軸の径方向に弾性を有して前記ドローバーの前記軸方向の移動を許容する装填部材と、を有し
前記装填部材は、前記軸方向に間隔をおいて複数配置されていることを特徴とするスピンドル装置。
【請求項3】
前記装填部材は、前記ドローバーの外周面に装着された環状の弾性体であり、
前記弾性体は、幅寸法が、該弾性体の径方向の厚さ寸法の3倍以下に設定されており、前記主軸の内周面と線状に接触することを特徴とする請求項1又は2に記載のスピンドル装置。
【請求項4】
前記装填部材は、前記ドローバーの外周面に装着され、環状に形成された単一の弾性体であり、
前記弾性体は、前記ドローバーの外周面及び前記主軸の内周面と接触することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のスピンドル装置。
【請求項5】
前記装填部材は、常態で前記主軸と前記ドローバーとにより押圧された状態にあることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のスピンドル装置。
【請求項6】
前記装填部材は、断面が円形状又は楕円形状であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のスピンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工具を回転させて加工を行う装置において、回転自在な主軸に対し、工具を交換自在に取付けたスピンドル装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハウジングに回転自在に支持された中空状の主軸と、主軸の中空部の先端領域に装着されたコレットチャックと、主軸の中空部に内蔵されてコレットチャックの後端に連結されたドローバーと、ドローバーを中空部の後方へ付勢する付勢手段とを備えたスピンドル装置が記載されている。コレットチャックは、工具を外側から締付けて固定するチャック部を有し、ドローバーは、コレットチャックと付勢手段とにより主軸内で支持されて、主軸と一体的に回転する。
【0004】
このスピンドル装置では、ドローバーを主軸に対して軸方向の基端側(工具が装着される主軸先端の反対側)へ引き込むことにより、コレットチャックのチャック部を締めて工具をクランプする。また、付勢手段に抗してドローバーを先端側へ押し出すことで、コレットチャックのチャック部を開放して工具をアンクランプする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-237068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したスピンドル装置では、ドローバーを主軸に対して軸方向に移動させるために、主軸の内周面とドローバーの外周面との間に隙間が設けられている。主軸が回転すると、隙間が存在することにより、ドローバーが主軸の中空部内で振動するが、高速回転になるとドローバーの振動が増大して騒音が発生するという問題がある。また、振動を抑制するためにドローバーや主軸の形状を変えようとすると、スピンドル装置全体のサイズ変更に繋がってしまい、サイズ感が損なわれるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、装置のサイズ感を変えることなく、主軸を高速回転させた際にドローバーの振動が増大することを抑制することが可能なスピンドル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るスピンドル装置は、中空部を有し、ハウジングに回転自在に支持されて先端部に工具が装着される主軸と、該主軸の前記中空部に内蔵され、前記中空部内で前記主軸の軸方向に移動可能なドローバーと、を備え、該ドローバーを前記軸方向に移動させることにより、前記主軸の先端部に装着された工具を交換可能とするスピンドル装置において、前記主軸の内周面と前記ドローバーの外周面との間の隙間に装填され、少なくとも前記主軸の径方向に弾性を有して前記ドローバーの前記軸方向の移動を許容する装填部材を有することを特徴とする。
【0009】
上記スピンドル装置によれば、主軸の内周面とドローバーの外周面との間の隙間に、径方向に弾性を有する装填部材が存在することにより、主軸が高速回転してドローバーが主軸の中空部内で振動した際に、装填部材によってその振動を吸収することができ、これにより、ドローバーの振動を抑制することができる。また、この装填部材は、ドローバーの軸方向の移動を許容するので、工具を交換する際に、ドローバーが軸方向へ移動することを阻害することもない。また、主軸やドローバーの形状を変えることなく、これらの間の隙間に装填部材を配置することで振動を抑制することができるので、装置のサイズ感が損なわれることもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るスピンドル装置によれば、スピンドル装置のサイズ感を変えることなく、主軸を高速回転させた際に生じるドローバーの振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るスピンドル装置を備えた加工装置の正面図。
図2図1に示す加工装置においてカバーを閉じた状態を示す正面図。
図3】スピンドル装置のモータ部の断面図。
図4図3においてXで囲む領域の拡大断面図。
図5】弾性体の平面図及び断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明に係るスピンドル装置10を備えた加工装置80の正面図であり、図2は、図1に示す加工装置80においてカバー84を閉じた状態を示す正面図である。加工装置80は、例えば、歯科用セラミック材料や歯科用樹脂材料等の被加工物を切削加工する装置である。加工装置80は、ケース本体82と、カバー84と、スピンドル装置10と、スピンドル移動装置86と、工具マガジン88と、制御部19とを備える。スピンドル装置10、スピンドル移動装置86及び工具マガジン88は、ケース本体82の内部に収容されている。スピンドル装置10は、主軸20に脱着可能に装着された切削工具11(以下、単に「工具11」と称する)を回転駆動することにより、被加工物を切削加工する。
【0013】
以下の加工装置80の説明において、左、右、上、下とは、加工装置80の正面にいる使用者から見た場合の左、右、上、下の方向を意味する。また、加工装置80の正面側を前方、奥行側を後方という。
【0014】
ケース本体82は、底壁部82aと、左壁部82bと、右壁部82cと、左壁部82b及び右壁部82cの上端を繋ぐ上壁部82dと、底壁部82a、左壁部82b、右壁部82c及び上壁部82dの後端を繋ぐ後壁部と、を備え、これらの壁部によって囲まれた箱型に形成され、その内部に収容空間を有している。ケース本体82の正面となる前面部には、開口81が形成されている。
【0015】
カバー84は、開口81を閉鎖可能な矩形の板状に形成されている。カバー84は、ケース本体82の左壁部82b及び右壁部82cの前方側に設けられたスライド機構83により、ケース本体82に対して上下方向にスライド移動可能に構成されている。また、カバー84には、ケース本体82の内部を視認可能な窓部84aが設けられている。加工装置80は、ケース本体82に対してカバー84を上方側にスライド移動させることにより開口81が開放状態となり、カバー84を下方側にスライド移動させることにより開口81が閉鎖状態となる。
【0016】
スピンドル装置10は、工具11を脱着する機能を搭載した自動工具交換(ATC:Auto Tool Changer)スピンドル装置であり、主軸20に装着された工具11を回転させるモータ部12と、工具11の交換を行うためのアクチュエータ部18とを備える。
【0017】
図3は、スピンドル装置10のモータ部12の断面図である。モータ部12は、ハウジング13と、ハウジング13内で回転可能なロータ14と、ハウジング13に固定されるステータ15とを備える。ロータ14は、主軸20と、ドローバー30と、主軸20とドローバー30との間に装填される装填部材である弾性体40と、コレットチャック50と、付勢手段56と、永久磁石58とを備える。なお、図3では、ドローバー30及び弾性体40を非断面状態で示しており、弾性体40にドットを付している。
【0018】
ハウジング13は、ロータ14及びステータ15を内包する筐体であって、略円筒状に形成されている。ハウジング13には、ロータ14を回転自在に支持する軸受28が取付けられている。
【0019】
主軸20は、中空状の軸部材であって、例えば金属材料等で形成され、軸受28を介してハウジング13に回転自在に支持される。ドローバー30は、中実の軸部材であって、例えば金属材料等で形成され、主軸20の中空部22に挿通される。以下の説明では、スピンドル装置10において、主軸20の中心軸が伸びる方向を軸方向Zと称し、スピンドル装置10の軸方向Zにおいて工具11が取付けられる側を先端側、先端の反対側(図3においてアクチュータ部18が取付けられる側)を基端側と称する。
【0020】
主軸20の中空部22は、その先端部に、先端に向かって内径が大きくなるテーパ状に形成されたテーパ孔23を有する。主軸20の基端部には、フランジ部材26を介して円筒状のカラー28が、主軸20と同軸となるように一体的に取付けられている。カラー28の内径は、主軸20の中空部22の内径よりも大きく設定されている。主軸20の先端部には、中空部22に挿入されたコレットチャック50を介して工具11が装着される。
【0021】
ドローバー30は、アクチュエータ部18とコレットチャック50との間に配設されて、アクチュエータ部18からの動力をコレットチャック50に伝達するものである。ドローバー30は、その中心軸が主軸20の中心軸と一致するようにセンタリング保持された状態で、中空部22内を軸方向Zに移動可能に構成される。具体的には、主軸20の中空部22内を軸方向Zに移動可能となるように、その外径が、主軸20の内径よりも小さく設定されている。本実施形態のドローバー30は、主軸20の回転時に、先端側を支持するコレットチャック50と、基端側を支持する付勢手段56とによりセンタリング保持されており、主軸20の回転時には、このコレットチャック50及び付勢手段56を介して主軸20に固定される。ドローバー30の基端部には、鍔部37を有するナット36が螺合されている。
【0022】
付勢手段56は、ドローバー30を主軸20の軸方向Zの基端側に付勢するものである。本実施形態において付勢手段56は、カラー28の内部に配置されるようにドローバー30の外周に装着されている。付勢手段56としては、例えば、ドローバー30の外周に装着可能なコイルバネや皿バネ等を用いることができる。付勢手段56は、先端部がフランジ部材26に固定され、基端部がナット36の鍔部37に当接しており、ナット36をアクチュエータ部18側に付勢している。ドローバー30は、このナット36を介して付勢手段56により主軸20の基端側に常時、付勢されている。
【0023】
コレットチャック50は、主軸20の中空部22に組み込まれて工具11を保持する工具保持部材であり、円柱状に形成された胴部52と、胴部52と連なって外径が次第に大きくなるテーパ状に形成されたチャック部54とを備える。胴部52には、ドローバー30の先端が挿入・固定される係止凹部53が設けられている。チャック部54は、工具11を保持する部位であり、工具11を外側から締め付け可能となるように拡径・縮径可能に構成されている。コレットチャック50は、胴部52が主軸20の中空部22内に収容され、チャック部54の外周面が主軸20のテーパ孔23の内周面と当接するように主軸20に組み込まれる。組付け状態で、コレットチャック50のチャック部54及び胴部52の中心軸は主軸20の中心軸と一致する。チャック部54は、コレットチャック50を中空部22内で軸方向Zの先端側に移動させることにより、テーパ孔23の内面に沿って拡径し、工具11を開放するアンクランプ状態となる。また、チャック部54は、コレットチャック50を軸方向Zの基端側に移動させることにより、テーパ孔23の内面に沿って縮径し、工具11を締付固定するクランプ状態となる。
【0024】
図4は、図3のXで囲む領域の拡大断面図である。弾性体40は、主軸20の内周面24と、ドローバー30の外周面32との間の隙間Sに装填され、装填状態で主軸20の径方向(ドローバー30の径方向と同じ)に弾性を有し、且つドローバー30の軸方向Zの移動を許容する。弾性体40は、例えば、ゴム材や、発泡材等で形成することができ、ドローバー30の外周を囲む環状であることが好ましい。本実施形態において弾性体40は、図5に示すように環状に形成されたゴム製のOリングで形成されており、このOリングは、ドローバー30の外周面に装着される。
【0025】
本実施形態において弾性体40は、幅寸法Wを比較的小さく設定することにより、主軸20の内周面24に対して周方向に沿う線状に接触している。弾性体40を線状に接触させるために、弾性体40の幅寸法Wは、弾性体40の径方向の厚さ寸法Dの3倍以下に設定されることが好ましく、厚さ寸法Dの2倍以下に設定されることがより好ましい。弾性体40は、設置状態で主軸20の内周面24とドローバー30の外周面32の両方に接触していることが好ましい。本実施形態では弾性体40が、常態で、内周面24と外周面32とにより僅かに潰されて径方向に弾性変形した状態、すなわち、主軸20とドローバー30とによって押圧された状態となっている。
【0026】
弾性体40の断面形状は、円形状、楕円形状など、適宜、選択することができる。本実施形態では、断面が円形状の弾性体40を用いている。
【0027】
弾性体40は、ドローバー30の外周面に少なくとも1つ配置され、本実施形態では、軸方向Zに間隔をおいて4つの弾性体40-1~40-4が配置されている。なお、弾性体40を複数配置する場合、その数は4つに限られず、2つ以上とすることができる。また、複数の弾性体40は、軸方向Zに隣接配置してもよいが、それぞれ間隔をおいて配置されることが好ましい。また、隣り合う弾性体40の離間距離L(図4に示すように、軸方向Zにおいて弾性体40が配置されていない領域の距離)は、弾性体40の幅寸法W以上であることが好ましい。
【0028】
弾性体40の配置位置は、ドローバー30の両端部を支持する部材の間(本実施形態では先端部を支持するコレットチャック50と、基端部を支持する付勢手段56との間)であれば何れの位置でもよいが、少なくともドローバー30の軸方向Zの中央領域に配置されることが好ましい。ここで中央領域とは、スピンドル装置10が工具11を保持した状態で、ドローバー30の両端部を支持する部材の間(本実施形態では、コレットチャック50の基端縁50aと付勢手段56の先端縁56aとの間)を軸方向Zに3等分した場合の中央領域をいう。本実施形態では、2つの弾性体40-3及び40-4が、ドローバー30の中央領域に位置している。
【0029】
なお、図示していないが、弾性体40は、ドローバー30の中央領域と、その両側の領域とに少なくとも1つずつ配置されることが好ましい。
【0030】
また、弾性体40は、隙間Sに装填された状態でドローバー30の径方向に伸縮自在であって、ドローバー30の径方向の変位を抑制可能なものであればよく、その形状は、環状のものに限られない。一例として、弾性体40は、ドローバー30の外周面32又は主軸20の内周面24に装着された円弧状のものであってもよい。
【0031】
永久磁石58は、ロータ14を回転させるための磁束を形成するものであり、主軸20の外周面に固定されている。ステータ15は、ロータ14を囲むようにロータ14の主軸20と同軸に配置された略円筒状のステータコア16と、ステータコア16に巻きつけられたコイル17とを備える。永久磁石58は、通電されるコイル17とともに磁界を発生させてロータ14を回転させるトルク(回転力)を発生させる。
【0032】
アクチュエータ部18は、ドローバー30を主軸20に対して軸方向Zの先端側に押圧する外力Fを付与する。アクチュエータ部18としては、例えば、軸方向Zへ押圧力を付与するピストンロッドを有する動力シリンダ(例えば、油圧シリンダ等)とすることができる。
【0033】
スピンドル移動装置86は、ケース本体82の収容空間内で、スピンドル装置10を移動させるものであり、例えば、スピンドル装置10の移動を案内するガイド部材や、ガイド部材に沿ってスピンドル装置10を移動させる駆動装置等を用いて、スピンドル装置10を加工装置80の左右方向や上下方向(スピンドル装置10の軸方向Zと一致する方向)等に移動させることができる。
【0034】
工具マガジン88は、箱状に形成され、その内部に複数の工具収容孔が形成されており、この工具収容孔にスピンドル装置10に交換自在に装着される工具11が収容される。
【0035】
制御部19は、スピンドル装置10及びスピンドル移動装置86と電気的に接続されており、スピンドル装置10は、この制御部19により切削に関する制御が行われる。制御部19は、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)等の情報処理手段、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するデバイス等を備えて構成されている。
【0036】
次に、上述したスピンドル装置10の動作を説明する。スピンドル装置10は、主軸20に工具11が装着された状態(すなわち、コレットチャック50による工具11のクランプ状態)において、制御部19によりアクチュエータ部18を作動させてドローバー30に外力Fを付与すると、付勢手段56による付勢力に抗してドローバー30及びコレットチャック50が中空部22内で軸方向Zの先端側へ移動する。すると、この移動に追従してチャック部54の少なくとも一部が主軸20の外部へ突出して拡径し、工具11に対してアンクランプ状態となる。なお、ドローバー30の先端側への移動は、ナット36の鍔部37が、カラー28に当接することで規制される。また、アクチュエータ部18からの外力Fを解放すると、付勢手段56によりドローバー30及びコレットチャック50が中空部22内で軸方向Zの基端側へ移動する。すると、この移動に追従してチャック部54が縮径し、工具11をクランプする状態となる。コレットチャック50は、クランプ時に、チャック部54が主軸20のテーパ孔23の内周面と当接して係止することにより、主軸20内に固定される。また、スピンドル装置10は、コイル17に電流を流して磁界を発生させることにより、ロータ14が回転する。ロータ14の回転は制御部19によって制御することができる。
【0037】
加工装置80において、スピンドル装置10に装着される工具11を交換する際には、スピンドル移動装置86によってスピンドル装置10を工具マガジン88の位置まで移動させる。次に、コレットチャック50に保持されている工具11をアンクランプ状態にして工具マガジン88の工具収容孔に戻す。その後、次に使用する工具11の上方位置までスピンドル装置10を移動させ、コレットチャック50によって使用する工具11の上端部を保持する。
【0038】
スピンドル装置10は、工具11が装着された状態でモータ部12を駆動し、ロータ14を回転させると、工具11が主軸20の中心軸まわりに回転する。既述のとおり、主軸20の内周面24とドローバー30の外周面32との間には、ドローバー30を軸方向Zに摺動させるために隙間Sが形成されており、この隙間Sの影響により、主軸20を回転させるとドローバー30が中空部22内で変位しようとする。主軸20の回転数が高くなって(例えば、回転数が60000rpm以上)、隙間Sの影響によりドローバー30が中空部22内で振動し、その振動が大きくなると騒音が発生するが、上述したスピンドル装置10では、隙間Sに弾性体40を配置したことにより、ドローバー20の振動を径方向に伸縮する弾性体40によって吸収することができる。これにより、ドローバー20の振動が抑制され、振動に起因する高速回転時の騒音の発生を防止することができる。また、ドローバー20の振動が増大化すると、この振動が主軸20及び工具11に伝わり、工具11による切削加工の精度が低下するが、弾性体40によって振動を抑制することができるので、高速回転時の加工精度を向上させることができる。
【0039】
特に、弾性体40は、常態で主軸20とドローバー30とにより押圧された状態にあるので、ドローバー30が変位しようとした際に、この変位を弾性体40によって瞬時に抑制することができる。そのため、主軸20の高速回転時に限らず、低速回転時においてもドローバー30の振動を効果的に抑制することができる。
【0040】
また、この弾性体40は、ドローバー30が中空部22内で軸方向Zへ移動することを許容するものであるため、工具11を交換する際に、ドローバー30が軸方向Zへ移動することを阻害することもない。例えば、隙間Sを金属材料等、高剛性の材料で埋めた場合には、摩擦が大きくなってドローバー30の移動が阻害されるおそれがあるが、径方向に柔軟性を有する弾性体40を用いることで、摩擦を抑えてドローバー30の移動を許容することが可能である。
【0041】
また、本実施形態のスピンドル装置10では、ドローバー30や主軸20の形状や構造を従来と変えることなく、隙間Sに弾性体40を配置する簡易な構造で振動を抑制することができ、振動抑制のためにスピンドル装置10のサイズを変更する必要もない。それ故、従来の装置のサイズ感を損うことなく、スピンドル装置10の騒音低減や、高速回転時の加工精度向上を達成することができる。
【0042】
また、弾性体40は、幅寸法Wを大きくして(例えば、ドローバー30の直径以上の寸法)、主軸20の内周面24と面状に接触するものとしてもよいが、本実施形態のように、幅寸法Wを小さくして内周面24と線状に接触することで、ドローバー30を中空部内で移動させる際の摩擦抵抗を小さくすることができる。本実施形態では、弾性体40の幅寸法Wがドローバー30の半径以下に設定することで、ドローバー30が軸方向Zへ移動する際の摩擦抵抗を十分に低減している。
【0043】
また、弾性体40の断面形状が角部を有する四角形や三角形等の場合、ドローバー30を軸方向Zへ移動させる際に、角部に大きな摩擦力が生じてしまうが、弾性体40の断面を円形状や楕円形状とすることにより、摩擦力を抑制してドローバー30の移動をスムーズにさせることができる。また、断面形状を円形や楕円形とすることで、ドローバー30に対する弾性体40の装着や、主軸20に対するドローバー30及び弾性体40の組付けを容易に行うことが可能である。
【0044】
また、弾性体40をドローバー30の軸方向Zに間隔をおいて複数配置することで、弾性体40によってドローバー30を支持する点が多くなり、ドローバー30の振動を抑制する効果がより高くなる。
【0045】
また、本実施形態では、弾性体40がドローバー30の軸方向Zの中央領域に配置されているので、ドローバー30において径方向の変位が大きくなる中央領域の振動を効果的に抑制することができる。特に、ドローバー30の軸方向Zの移動を良好にするために、弾性体40の数を少なくする場合には、弾性体40を軸方向Zの中央領域に配置することで、摩擦抵抗を抑制しながら、径方向の振動を効果的に抑制することが可能である。なお、図示していないが、弾性体40を3つ以上配置する場合には、中央領域及びその両側の領域のそれぞれに1つ以上配置することで、振動をより効果的に抑制することができる。
【0046】
このように、本実施形態のスピンドル装置10では、従来のスピンドル装置に弾性体40を配置する簡易な構造で、振動の発生を抑制することができ、弾性体40を配置することにより、主軸20の回転数が60000rpm以上になる高速回転時において、弾性体40を配置していない従来のものに比べて、ドローバー30の振動のピーク値を50%~75%低減することが可能である。
【実施例
【0047】
本発明の効果を確かめるため、発明例及び比較例にかかるスピンドル装置を用いて主軸の高速回転時に発生する振動を評価する試験を行った。発明例のスピンドル装置は図3に示す構成とし、ドローバーに装着される弾性体はゴム製のOリングであって、その配置は図3に示すものとした。比較例では弾性体を装着しない構成とし、その他の構成は発明例と同じものとした。発明例及び比較例のそれぞれにおいて、スピンドル装置のモータ部のハウジングに加速度センサを取り付け、ドローバーの径方向の加速度のピーク値を測定することにより、振動の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、発明例のスピンドル装置は、比較例のスピンドル装置に比べて加速度のピーク値が75%低減され、弾性体を装着する簡易な構造でありながら、振動抑制効果が高いことがわかる。
【0050】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
例えば、本発明において隙間Sに装填される装填部材は、部材自体が弾性を有する弾性体40に限られず、装填状態でドローバー30の径方向(すなわち、主軸20の径方向)に弾性を有し、中空部22内のドローバー30の変位を抑制可能なものであればよく、隙間Sに装填された状態で径方向に伸縮可能なバネであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 スピンドル装置
11 工具
12 モータ部
13 ハウジング
14 ステータ
15 ロータ
18 アクチュエータ部
19 制御部
20 主軸
30 ドローバー
36 ナット
40 弾性体(装填部材)
50 コレットチャック
56 付勢手段
80 加工装置
図1
図2
図3
図4
図5