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特許7481108炭素繊維複合材料の製造方法および炭素繊維複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材料の製造方法および炭素繊維複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20240501BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240501BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240501BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240501BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08J5/06 CER
C08J5/06 CES
C08J5/06 CEZ
C08J5/06 CFG
C08L101/00
C08K3/013
C08K3/04
C08K7/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019221125
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021091745
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】白木 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】秋山 文男
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-057811(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044694(WO,A1)
【文献】特開2013-199520(JP,A)
【文献】特開2006-028313(JP,A)
【文献】特開2011-213797(JP,A)
【文献】特開2014-065830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10、5/24
B29B 11/16、15/08-15/14
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と長さ5mm以上20mm以下の不連続炭素繊維とを熱可塑性樹脂の融点以上の温度で混合して熱可塑性樹脂組成物とする工程を有する、炭素繊維複合材料の製造方法であって、不連続炭素繊維が、長さ5mm以上20mm以下の第1の不連続炭素繊維と、第1の不連続炭素繊維より平均繊維径の小さな長さ5mm以上20mm以下の第2の不連続炭素繊維とを含み、第1の不連続炭素繊維の平均繊維径が6.5μm以上15μm以下であり、第2の不連続炭素繊維の平均繊維径が3μm以上6.5μm未満であり、第1の不連続炭素繊維の平均繊維径が、第2の不連続炭素繊維の平均繊維径の1.1~4倍であり、第一の不連続炭素繊維にサイジング剤として酸変性ポロプロピレン樹脂が付着していることを特徴とする、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項2】
第1の不連続炭素繊維と第2の不連続炭素繊維との重量比率が1:9~9.9:0.1である、請求項1に記載の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項3】
第1および第2の不連続炭素繊維のループ試験における破断エネルギーが60mJ/1000fil.以上である、請求項1に記載の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂と重量平均繊維長0.65mm以上20mm以下の不連続炭素繊維とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる炭素繊維複合材料であって、不連続炭素繊維が、重量平均繊維長0.65mm以上20mm以下の第1の不連続炭素繊維と、第1の不連続炭素繊維より平均繊維径の小さな重量平均繊維長0.65mm以上20mm以下の第2の不連続炭素繊維とを含み、第1の不連続炭素繊維の平均繊維径が6.5μm以上15μm以下であり、第2の不連続炭素繊維の平均繊維径が3μm以上6.5μm未満であり、第1の不連続炭素繊維の平均繊維径が、第2の不連続炭素繊維の平均繊維径の1.1~4倍であり、第一の不連続炭素繊維にサイジング剤として酸変性ポロプロピレン樹脂が付着していることを特徴とする、炭素繊維複合材料。
【請求項5】
炭素繊複合材料中の不連続炭素繊維の含有率が20重量%以上である、請求項4に記載の炭素繊維複合材料。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリアミドまたはポリカーボネートである、請求項4または5のいずれかに記載の炭素繊維複合材料。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と、繊維長5mm以上20mm以下の不連続炭素繊維を含むペレットであって、不連続炭素繊維として、長さ5mm以上20mm以下の第1の不連続炭素繊維と、第1の不連続炭素繊維より平均繊維径の小さな長さ5mm以上20mm以下の第2の不連続炭素繊維とを含み、
第1の不連続炭素繊維の平均繊維径が6.5μm以上15μm以下であり、第2の不連続炭素繊維の平均繊維径が3μm以上6.5μm未満であり、第1の不連続炭素繊維の平均繊維径が、第2の不連続炭素繊維の平均繊維径の1.1~4倍であり、第一の不連続炭素繊維にサイジング剤として酸変性ポロプロピレン樹脂が付着していることを特徴とするペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂および炭素繊維からなる炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維複合材料は、軽く、引張強度・引張弾性率が高く、耐熱性、耐薬品性、疲労特性、耐摩耗性に優れる、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れる、電磁波シールド性、X線透過性に富むといった優れた特長を有していることから、スポーツ・レジャー、航空・宇宙、一般産業用途に幅広く適用されている。従来は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂をマトリクスとすることが多かったが、最近は、リサイクル性や高速成形性の観点から熱可塑性樹脂をマトリクスとすることが注目されている。
【0003】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法として、コンパウンドペレットの射出成形、長繊維ペレットの長繊維射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ランダムマットを使用したスタンピング成形等がある。
【0004】
これらのうち、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを混合した後に成形型に供給する射出成形や押出成形は、複雑な形状を容易に成形することができ、かつ、バリ取りなどの後加工が不要であり、生産性が高いことから、急速に市場が成長している。
【0005】
一般的に、炭素繊維複合材料においては、複合材料中の炭素繊維の繊維長が長い方が、得られる炭素繊維複合材料の機械的特性が向上することが知られている。しかし、射出成形や押出成形では、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを混合する工程において、炭素繊維と熱可塑性樹脂とのせん断の影響や、炭素繊維同士の摩擦などによって、炭素繊維が折損しやすく、得られる炭素繊維複合材料の機械的特性が不十分となるという課題があった。
【0006】
この課題を解決するために、例えば特許文献1では、環状ポリシランを滑剤として添加することで、繊維の折損を抑制することが提案されている。しかし、特許文献1のように滑剤などの添加剤を添加する方法では、繊維の折損の抑制効果はまだまだ満足できるものではなく、また、たとえ繊維の折損を抑制できたとしても添加剤によりかえって熱可塑性樹脂の強度低下を招き、機械的特性が不十分となる場合があった。
【0007】
他方、特許文献2には、射出成形機のスクリューの圧縮比を調整することで、繊維と熱可塑性樹脂を混合する際の過剰な繊維の折損を抑制することが開示されている。しかし、この方法では、実際に複合材料を成形する際に取りうる成形条件が制限され、成形効率が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-124275号公報
【文献】特開2014-46631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、成形時の炭素繊維の折損を抑制し、炭素繊維の重量平均繊維長が長く、優れた力学特性を発現し得る炭素繊維複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維とを混練する工程を有する炭素繊維複合材料の製造方法において、平均繊維径の異なる不連続炭素繊維を用いた場合には、単一の平均繊維径の不連続炭素繊維のみを用いた場合より、炭素繊維の折損を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維とを熱可塑性樹脂の融点以上の温度で混合して熱可塑性樹脂組成物とする工程を有する、炭素繊維複合材料の製造方法であって、不連続炭素繊維が、第1の不連続炭素繊維と、第1の不連続炭素繊維より平均繊維径の小さな第2の不連続炭素繊維とを含むことを特徴とする、炭素繊維複合材料の製造方法である。
【0012】
本発明はまた、熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる炭素繊維複合材料であって、不連続炭素繊維が、第1の不連続炭素繊維と、第1の不連続炭素繊維より平均繊維径の小さな第2の不連続炭素繊維とを含むことを特徴とする、炭素繊維複合材料である。
【0013】
繊維径の小さい不連続炭素繊維は、可とう性に優れ折損しにくいため重量平均繊維長が長く、アスペクト比が大きくなる。このため、不連続繊維を一定の割合で混入することで、炭素繊維複合材料の強度が向上する。しかし、繊維径の大きい不連続炭素繊維のみを用いた場合に比較して、複合材料中に混入する不連続炭素繊維の本数が多くなり、炭素繊維複合材料中の繊維径の小さい不連続炭素繊維の本数が多くなりすぎると、炭素繊維が絡み合い折損しやすくなって、重量平均繊維長は短くなり強度が低下することになる。
【0014】
本発明は、繊維径の大きい不連続炭素繊維と繊維径の小さい不連続炭素線の混入比率を特定の割合とすることに大きな特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形時の炭素繊維の折損を抑制し、炭素繊維の重量平均繊維長が長く、優れた力学特性を発現し得る炭素繊維複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔不連続炭素繊維〕
本発明では不連続炭素繊維として、平均繊維径の異なる2種類の不連続炭素繊維を用いる。平均繊維径の異なる2種類の不連続炭素繊維を併用することで、第1の不連続炭素繊維のみを用いた場合より、高い強度の炭素繊維複合体を得ることができる。
【0017】
本発明において、第1の不連続炭素繊維の平均繊維径は、好ましくは6.5μm以上15μm以下、さらに好ましくは6.5μm以上10μm以下である。6.5μm未満であると、第2の不連続炭素繊維との繊維径の差が小さくなり強度向上効果があまり発現せず好ましくなく、15μmを超えると炭素繊維の可とう性が低下し、炭素繊維自身が折損しやすくなるため好ましくない。
【0018】
第2の不連続炭素繊維の平均繊維径は、好ましくは3μm以上6.5μm未満、さらに好ましくは4μm以上6μm以下である。3μm未満であると、同じ炭素繊維重量含有率の場合に炭素繊維複合材料中の不連続繊維の本数が多くなりすぎて好ましくなく、6.5μm以上であると第1の不連続繊維との繊維径の差が小さくなり強度向上効果があまり発現せず好ましくない。
【0019】
第2の不連続炭素繊維の平均繊維径に対して、第1の不連続炭素繊維の平均繊維径は、好ましくは1.1~4倍、さらに好ましくは1.2~3倍、特に好ましくは1.4~2倍の範囲にある。1.1倍未満であると第1、2の不連続繊維の繊維径の差が小さくなり強度向上効果があまり発現せず好ましくなく、4倍を超えると不連続炭素繊維の折損を抑制することができず好ましくない。
【0020】
第1の不連続炭素繊維と第2の不連続炭素繊維との割合は、好ましくは第1:第2の重量比として1:9~9.9:0.1、さらに好ましくは7:3~9:1、特に好ましくは4:6~8:2である。第2の不連続炭素繊維の割合が0.1未満、9を超えるいずれにおいても、得られる複合材料中の不連続炭素繊維の重量平均繊維長が低下し好ましくない。
【0021】
本発明に用いる不連続炭素繊維として、ピッチ系、レーヨン系、アクリロニトリル系のいずれの炭素繊維を使用してもよく、機械的強度の観点からアクリロニトリル系が好ましい。
【0022】
第1および第2の不連続炭素繊維は、不連続炭素繊維と熱可塑性樹脂混練時の折損抑制の観点から、ループ試験における破断エネルギーが、好ましくは60mJ/1000fil.以上、さらに好ましくは80mJ/1000fil.以上である。ループ試験における破断エネルギーは折損抑制の観点から高い方が好ましく、その上限は特に限定されるものではないが、200mJ/1000fil.もあれば充分である。また、本発明において、第2の不連続炭素繊維の破断エネルギーが、第1の不連続炭素繊維の破断エネルギーよりも高いことが炭素繊維の折損をより抑制しやすいため好ましく、第1の不連続炭素繊維の破断エネルギーの1.1倍~1.5倍であることが好ましく、1.2~1.4倍であることがより好ましい。第1および第2の不連続炭素繊維の破断エネルギーの差がこの範囲であると、強度向上効果がより高く発現する。破断エネルギーの差が大きすぎると強度向上効果があまり発現しない場合がある。
【0023】
不連続炭素繊維は、連続炭素繊維を芯とし、熱可塑性樹脂を鞘とする構成の押出成形物を所定の長さに切断して、炭素繊維複合成形体を成形するためのペレットとすることで、不連続炭素繊維とされていることが好ましい。このときに用いられる連続炭素繊維として、公知の物を用いることができ、それらは市販されている。連続炭素繊維は、炭素繊維の単糸であってもよく、複数の単糸が集束されたものであってもよい。
【0024】
本発明に用いる炭素繊維としては特に制限が無く、ピッチ系、レーヨン系、PAN系等何れの炭素繊維も使用できるが、操作性、工程通過性、及び機械強度等を鑑みるとアクリロニトリル(PAN)系が好ましい。炭素繊維の繊度、強度等の特性も特に制限が無く、公知の何れの炭素繊維も制限無く使用できる。
【0025】
好ましいアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維について、以下に詳しく説明する。
【0026】
<前駆体繊維>
炭素繊維の前駆体繊維としては、アクリロニトリルを好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上含有し、その他の単量体を10質量%以下含有する単量体を単独または共重合した紡糸溶液を紡糸して製造するアクリル系前駆体繊維が好ましい。
【0027】
その他の単量体としてはイタコン酸、(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。紡糸後の原料繊維を、水洗、乾燥、延伸、オイリング処理することにより、前駆体繊維が得られる。前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では1000本以上が好ましく、12000本以上がより好ましく、24000本以上がさらに好ましい。
【0028】
前駆体繊維の単繊維径は、5~30μmであることが好ましく、6~20μmであることがより好ましい。炭素繊維の単繊維径は、前駆体繊維の単繊維径に比例するため、前駆体繊維の単繊維径を変更することで、得られる炭素繊維の単繊維径を所望の値とすることができる。
【0029】
<耐炎化処理>
得られた前駆体繊維を、加熱空気中200~300℃で10~100分間加熱し耐炎化処理する。耐炎化処理では、前駆体繊維を延伸倍率0.90~1.20の範囲で繊維を延伸処理することが好ましい。
【0030】
<炭素化処理>
耐炎化処理した前駆体繊維を、300~2000℃で炭素化することで炭素繊維が得られる。より引張強度の高い緻密な内部構造をもつ炭素繊維束を得るためには、300℃~1000℃で低温炭素化した後、1000~2000℃で高温炭素化する二段階の炭素化工程を経て、炭素化処理を行うことが好ましい。より高い弾性率が求められる場合は、さらに2000~3000℃の高温で黒鉛化処理を行ってもよい。
【0031】
<表面酸化処理>
上記で得られた炭素繊維は、サイジング剤及びマトリクスとなる樹脂との濡れ性を改善するために、表面処理を行うことが好ましい。表面処理は、従来公知のいずれの方法でも行うことができるが、装置が簡便であり、工程での管理が容易であることから、工業的には電解酸化を用いることが一般的である。
【0032】
表面処理の電気量は、炭素繊維1gに対して10~150クーロンになる範囲とすることが好ましい。電気量をこの範囲で調節すると、繊維としての力学的特性に優れ、かつ、樹脂との接着性の向上した炭素繊維を得ることができる。
【0033】
電解酸化に用いる電解液としては、例えば、硝酸、硫酸、硫酸アンモニウムや炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。電解液の電解質濃度は0.1規定以上が好ましく、0.1~1規定がより好ましい。
【0034】
<サイジング処理>
このようにして得られた炭素繊維に、サイジング剤をサイジング処理する。サイジング液におけるサイジング剤の濃度は、0.1~25質量%が好ましい。炭素繊維へのサイジング剤溶液の付与方法は、特に限定されないが、ローラーサイジング法、ローラー浸漬法、スプレー法およびその他公知の方法を用いることができる。中でも、一束あたりの単繊維数が多い炭素繊維束についても、サイジング剤溶液を均一に付与しやすい、ローラー浸漬法が好ましく用いられる。サイジング剤溶液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤濃度変動を抑えるため10~50℃の範囲が好ましい。また、サイジング剤溶液を付与した後に、余剰のサイジング剤を絞り取る絞り量の調整することでも、サイジング剤の付着量を調整できる。
【0035】
サイジング剤としては、エポキシ樹脂系、ポリオレフィン樹脂系、ポリアミド樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、ポリイミド樹脂系、フェノール樹脂系等のサイジング剤が例示される。これらのサイジング剤のうちでも、耐熱性が高いものが好ましい。また、マトリクス樹脂との親和性の観点から、マトリクス樹脂と同種のサイジング剤を用いることも好ましい。
【0036】
<乾燥処理>
サイジング処理後の炭素繊維は、サイジング処理時の分散媒であった水等を蒸散させるため乾燥処理が施され、サイジング剤付着炭素繊維が得られる。乾燥にはエアドライヤーを用いることが好ましい。乾燥温度は特に限定されるものではないが、汎用的な水系エマルジョンの場合は通常100~180℃に設定される。また、乾燥工程の後、200℃以上の熱処理工程を経てもよい。
【0037】
炭素繊維束には、繊維束の集束性を向上させるため、空気等の流体を吹き付けるなどの方法で交絡処理を行うこともできる。炭素繊維束の交絡数は0~10個/mであることが好ましく、0~5個/mであることがさらに好ましい。また、炭素繊維束は、撚り数が0~1回/mであることが好ましい。
【0038】
<チョップ工程>
上記のようにして得られた炭素繊維束を必要に応じて所定の長さに切断し、炭素繊維チョップドストランドとすることもできる。
【0039】
炭素繊維チョップドストランドの長さは、5~20mmが好ましく、15mm以下がより好ましい。繊維長がこの範囲であると、取扱い性と、射出成型機やペレット製造用の押出機等にチョップドストランドを供給する際の供給安定性を両立しやすくなる。炭素繊維束の切断方法としては、ロービングカッター等のロータリー式カッターや、ギロチンカッター等の通常用いられているカッターを適宜用いることが出来る。
【0040】
炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は高い方が、複合材料を製造する際に成形機に安定して供給しやすいため好ましく、好ましくは500g/L以上である。
【0041】
〔熱可塑性樹脂〕
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレンや高密度ポリエチレンなどのポリオレフィン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリテトラフロロエチレン、非晶ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンを挙げることができる。なかでも、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネートが好ましい。ポリアミドとしては、例えばナイロン6、ナイロン66を用いることができる。
【0042】
〔炭素繊維複合材料の製造方法〕
本発明の炭素繊維複合材料の製造方法は、熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維とを熱可塑性樹脂の融点以上の温度で混合して熱可塑性樹脂組成物とする工程を有する。
【0043】
熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維とを熱可塑性樹脂の融点以上の温度で混合することにより、熱可塑性樹脂中に不連続炭素繊維が分散し複合化される。混合時の温度は、例えば熱可塑性樹脂の融点以上の温度、好ましくは融点+10℃以上の温度、さらに好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃の温度である。融点未満であると不連続炭素繊維が分散しないので好ましくない。
【0044】
熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維の混合工程は、従来公知の押出機や混練機を用いて行うことができる。例えば、単軸または2軸スクリュー押出機などの押出機や、ニーダ、ブレンダなどの混練機を用いることができる。
【0045】
熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維との混合工程は、射出成形機、押出成形機などの成形装置の中で成形時に行われてもよく、予め混合したものを成形機に供給してもよい。
【0046】
〔ぺレット〕
熱可塑性樹脂と不連続炭素繊維を予め混合した熱可塑性樹脂組成物を成型機に供給する場合、成型機にはペレットの形態で熱可塑性樹脂組成物を供給することが好ましい。
【0047】
ペレットは、例えば円柱状や角柱状、好ましくは円柱状であり、長さが例えば3~20mmであり、直径が例えば3~5mmであり、長さ/直径が例えば0.5~5である。
【0048】
すなわち本発明は、発明の一態様として、熱可塑性樹脂と、繊維長3mm以上の不連続炭素繊維を含むペレットであって、不連続炭素繊維として、第1の不連続炭素繊維と、第1の不連続炭素繊維より平均繊維径の小さな第2の不連続炭素繊維とを含むことを特徴とするペレットを包含する。
【0049】
このペレットの製造では従来公知の方法を用いることができる。具体的には、不連続炭素繊維である炭素繊維チョップドストランドを、熱可塑性樹脂と混練してペレット化する方法や、連続炭素繊維である炭素繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を接触させ、熱可塑性樹脂で炭素繊維束を被覆させ、または、熱可塑性樹脂を連続炭素繊維である炭素繊維束に含浸させ、炭素繊維束に熱可塑性樹脂を付与した後、熱可塑性樹脂が付与された炭素繊維束を所望の長さに切断し長繊維ペレットとする方法などを用いることができる。中でも、含まれる不連続炭素繊維の繊維長の長いペレットを得る観点から、以下に説明する連続炭素繊維である炭素繊維束に熱可塑性樹脂を付与する方法をとることが好ましい。
【0050】
この連続炭素繊維である炭素繊維束に熱可塑性樹脂を付与する方法としては、例えば、ダイに取付けた樹脂浴中に連続炭素繊維である炭素繊束を連続的に供給しながら、連続的に含浸して複合化する引抜法、連続炭素繊維である炭素繊維束を連続的に供給しながら、繊維束の周囲に溶融した樹脂組成物を連続的に被覆して複合化する電線被覆法、連続炭素繊維である炭素繊維束に粉末状熱可塑性樹脂を吹きつけた後、熱可塑性樹脂を溶融させ含浸させる方法を挙げることができる。
【0051】
〔炭素繊維複合材料〕
本発明は、不連続炭素繊維の重量含有率の高い炭素繊維複合材料の強度・弾性率を向上させることを目的としている。本発明の方法により得られる炭素繊維複合材料においては、炭素繊維複合材料の重量あたりの不連続炭素繊維の含有率は、好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30~60重量%、特に好ましくは40~60重量%である。
【0052】
また本発明において、炭素繊維複合材料中の不連続炭素繊維の重量平均繊維長は、複合材料の物性の観点から長いほど好ましい。より好ましくは、0.1mm以上であり、0.5mm以上がさらに好ましく、0.65mm以上が特に好ましい。炭素繊維複合材料中の不連続炭素繊維の重量平均繊維長の上限は、特に限定されるものではないが、複合材料の補強効果の観点から20mmもあれば充分である。
【0053】
上記のペレットを用いた炭素繊維複合材料の成形方法は、公知の方法を用いて行うことができ、たとえば、射出成形、押出成形、押出射出成形、射出圧縮成形、押出圧縮成形といった成形方法を用いることができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。実施例、比較例において用いた成分や試験方法は以下のとおりである。
(1)炭素繊維束1
ポリアクリロニトリル繊維を、空気中250℃で耐炎化処理を行った後、窒素ガス雰囲気下、最高温度650℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1300℃で高温炭素化させて製造した炭素繊維を、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い電解酸化により表面処理を行い、未サイジング処理炭素繊維束(引張強度:5100MPa、引張弾性率:245GPa、単繊維径:7μm、フィラメント数:12000本、繊度0.8g/m)を得た。
得られた未サイジングの炭素繊維束を、酸変性ポリプロピレン樹脂のサスペンジョン溶液に連続的に浸漬させ、炭素繊維束に前記サスペンジョンを含浸させた。続いて、150℃の乾燥機に3分間通して水分を蒸発させ、酸変性ポリプロピレン樹脂が付着した炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束のサイジング剤付着量は1重量%であった。
【0055】
(2)炭素繊維束2
製品名テナックスIMS60 E13 24K(帝人株式会社製、引張強度:5800MPa、引張弾性率:290GPa、単繊維径:5μm、フィラメント数:24000本、繊度0.8g/m)を用いた。
【0056】
(3)ポリプロピレン樹脂:
プライムポリマー社製プライムポリプロJ105G(射出成形グレード、ホモポリプロピレン、メルトフローレート9g/10分)と三洋化成社製ユーメックス1010(マレイン酸10%変性ポリプロピレン)を99:1の割合で均一混合したものを用いた。
【0057】
(4)長繊維ペレット1
内部にしごきバーを備えた含浸ヘッドの一端から炭素繊維束を6m/分の速度で連続的に供給し、含浸ヘッド内で溶融押出機から直接供給された溶融樹脂(ポリプロピレン樹脂)を炭素繊維束に含浸させた。含浸ヘッドの下流側スリットノズル間隙は100μmとし、含浸ヘッド内の溶融樹脂の温度及び上下ノズル部材の温度を230℃に調整した。含浸ヘッドの他端からスリットノズルを介して熱可塑性樹脂が含浸された炭素繊維束を排出した後、まだ樹脂が溶融しているうちに直径4mmの丸ダイスを通して繊維束を丸棒状に成形した。次いで、樹脂が冷えて固まった後に炭素繊維の配向方向に垂直に長さ10mmにカットして、長繊維ペレット1を得た。得られた長繊維ペレット1における炭素繊維の重量含有率は40重量%であった。
【0058】
(5)長繊維ペレット2
炭素繊維として、炭素繊維束2を用いた以外は長繊維ペレット1と同様にして、長繊維ペレット2を得た。得られた長繊維ペレット2における炭素繊維の重量含有率は40重量%であった。
【0059】
(6)炭素繊維の重量含有率(Wf)
炭素繊維複合材料の万能試験片のゲージ部分を鋸で切断し、約1gのサンプルを採取した。サンプル重量を精確に秤量した後、JIS K7075の濃硫酸分解法に準拠して、マトリクスのポリプロピレン樹脂を分解し、炭素繊維を単離した。炭素繊維を水で十分に洗い乾燥した後、正確に重量を測定した。炭素繊維の重量含有率を下記の式を用いて求めた。
炭素繊維の重量含有率(Wf)
= 炭素繊維の重量/炭素繊維複合材料の重量×100(%)
【0060】
(7)重量平均繊維長
次に、前記(6)の炭素繊維を水中に投入し、超音波装置を用いて炭素繊維を分散させた後、四分法を5回以上繰り返した後、濾過した。濾紙上に残った炭素繊維3000本以上について繊維長を測定し、その重量平均繊維長を下記の式を用いて求めた。
重量平均繊維長 = Σ(繊維長) / Σ(繊維長)
【0061】
(8)ループ試験時の破断エネルギー
2本の炭素繊維ストランドを用意した。まず、炭素繊維ストランド1の両端を揃えてループを形成した。炭素繊維ストランド2を炭素繊維ストランド1が形成するループに引っ掛けた後、炭素繊維ストランド2の両端を揃えて炭素繊維ストランド2についてもループを形成した。炭素繊維ストランド1、2の両端を引張試験機のチャックに取り付けた。取り付けの際には炭素繊維ストランド1が形成するループの固定端から炭素繊維ストランド2が形成するループの固定端までの炭素繊維ストランドに沿った長さの初期値を500mmとした。
【0062】
次いで、250mm/minの速度でチャックに移動させ、炭素繊維ストランド1または2が完全に破断するまで、チャックに負荷した荷重と変位とを連続的に測定した。得られた荷重-変位曲線において、荷重-変位曲線とX軸に囲まれた部分の面積から炭素繊維ストランドの破断エネルギーE(mJ)を算出した。更に炭素繊維ストランドのフィラメント数からフィラメント1000本あたりの破断エネルギー(mJ/1000本)を求めた。
【0063】
(9)引張強度および引張弾性率
万能試験片について、JIS K 7073に準拠して引張試験を実施した。
【0064】
〔実施例1〕
長繊維ペレット1および2を、20:80の重量比で混合し、射出成形機(型締力140トン、射出容積80cm)にてシリンダー温度230℃、金型温度60℃、射出圧力100MPa、射出時間5秒、冷却時間30秒、および全成形サイクル60秒の条件で、JIS K7139 タイプA1型の多目的試験片を作製した。
【0065】
〔実施例2~5〕
長繊維ペレット1および2の添加量を表1に記載の割合に変更した以外は実施例1と同様にして射出成型し、多目的試験片を作製した。評価結果を表1にまとめて記載する。
【0066】
〔比較例1〕
長繊維ペレット1を用いず、長繊維ペレット2のみを用いた以外は実施例1と同様にして射出成型し、多目的試験片を作製した。評価結果を表1にまとめて記載する。
【0067】
〔比較例2〕
長繊維ペレット2を用いず、長繊維ペレット1のみを用いた以外は実施例1と同様にして射出成型し、多目的試験片を作製した。評価結果を表1にまとめて記載する。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の炭素繊維複合材料は、炭素繊維複合材料が使用されてきた用途に、具体的には、スポーツ・レジャー、航空・宇宙および一般産業用途に幅広く用いることができる。