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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20230101AFI20240501BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20240501BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20240501BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240501BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20240501BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
B01D61/04
B01D61/16
C02F1/44 D
C02F1/52 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020004205
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021109163
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和史
(72)【発明者】
【氏名】武内 聡
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-094510(JP,A)
【文献】特開昭61-149292(JP,A)
【文献】特開昭51-111755(JP,A)
【文献】特開2019-013862(JP,A)
【文献】特開2018-089598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70 - 1/78
1/52 - 1/56
1/58 - 1/64
1/44
B01D 21/00 - 21/34
61/00 - 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を処理する水処理方法であって、
前記地下水が炭酸ガスを含み、
前記地下水を空気に曝す前に前記地下水のpHを7.0未満に調整した後に、
前記地下水のpHが7.0未満である条件下で、前記地下水中のFe2+を酸化してFe3+とし、
次いで、前記地下水中の負に帯電したコロイド状物質を凝集させて凝集物とし、前記凝集物を含む水をろ過する、水処理方法であり、
前記地下水のpHを7.0未満に調整するためにpH調整剤添加手段を用い、
前記pH調整剤添加手段が設けられた管路の第1の端部が、地上に汲み上げた前記地下水を送液する管路と接続され、
前記pH調整剤添加手段が設けられた管路の第2の端部が、原水槽の気相部分と接続されている、水処理方法。
【請求項2】
地下水を処理する水処理方法であって、
前記地下水が炭酸ガスを含み、
前記地下水のpHが7.0未満であり、
前記地下水を空気に曝す前に前記地下水中のFe2+を酸化してFe3+とし、
次いで、前記地下水中の負に帯電したコロイド状物質を凝集させて凝集物とし、前記凝集物を含む水をろ過する、水処理方法であり、
前記地下水中のFe 2+ を酸化するために1以上の酸化剤添加手段を用い、
少なくとも1つの前記酸化剤添加手段が設けられた管路の第1の端部が、地上に汲み上げた前記地下水を送液する管路と接続され、
少なくとも1つの前記酸化剤添加手段が設けられた管路の第2の端部が、原水槽内の液相に浸漬されている、水処理方法。
【請求項3】
前記地下水中のFe2+を酸化する際に、酸化剤を使用する、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記地下水が、被圧地下水である、請求項1~のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記コロイド状物質を凝集させる際に、凝集剤を使用する、請求項1~のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記コロイド状物質がシリカ、有機物からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1~のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記凝集物を含む水をろ過した後のろ過水を、限外ろ過膜及び逆浸透膜の少なくとも一方を用いて処理する、請求項1~のいずれか一項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水は、除鉄処理等の種々の処理を必要に応じて行うことで水資源として利用できる。井戸水等の地下水から鉄を除去する方法として、例えば、下記(1)、(2)の方法が知られている。
(1)揚水した井戸水を空気に曝すことで井戸水中の鉄を酸化して懸濁させ、次いで、凝集剤として硫酸アルミニウムを添加することで井戸水中のコロイド状物質を鉄とともに凝集させ、凝集物を砂ろ過塔でろ過する方法(例えば、非特許文献1)。
(2)揚水した井戸水に塩素系の酸化剤を添加することで井戸水中の鉄を酸化して懸濁させ、次いで、凝集剤として硫酸アルミニウムを添加することで井戸水中のコロイド状物質を鉄とともに凝集させ、凝集物を砂ろ過塔でろ過する方法(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】高井 雄,中西 弘 用水の徐鉄・徐マンガン処理,産業用水調査会,p53-67,1987.6
【文献】高井 雄,中西 弘 用水の徐鉄・徐マンガン処理,産業用水調査会,p82-86,1987.6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に被圧層に存在する地下水には炭酸ガスが溶解していることが多い。上記(1)の方法では、地下水を空気に曝すことで鉄を酸化している。地下水を空気に曝した際に炭酸ガスが地下水から放出されるため、地下水のpHが塩基性領域側に移動する。その結果、鉄の酸化によって生じたFe3+からFe(OH) 、Fe(OH)2+等の水酸化鉄が生成し、地下水中の負に帯電した物質と結合し、水中で分散する。また、上記(2)の方法でも鉄を酸化する際の条件によっては、水酸化鉄が生成する。
このように生成する水酸化鉄と負に帯電した物質が結合したものは、水中で分散し、凝集しないため、粒径が非常に細かく、砂ろ過塔におけるろ過不良の原因となる。そのため、上記(1)、(2)の方法では、充分量の硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を使用することで、分散物の荷電を中和し、コロイド状物質を水酸化鉄とともに確実に凝集させ、凝集物として砂ろ過塔でろ過している。
【0005】
しかし、コロイド状物質を凝集させるための凝集剤の使用量が多いほど、凝集物が多量に発生し、処理工程で砂ろ過塔に堆積する凝集物の量が多くなる。その結果、砂ろ過塔のろ過能を回復するための再生の頻度が高くなる。地下水の処理効率の向上、処理コストの削減の観点から砂ろ過塔の再生頻度を低くするためには、凝集剤の使用量は可能な限り低減することが望ましい。
上記(1)、(2)の方法においては、充分量の凝集剤を使用しないと水酸化鉄の凝集が不充分となり、砂ろ過塔における鉄成分のろ過不良が起きるおそれがある。ろ過不良が起きた状態で、砂ろ過塔のろ過水を限外ろ過膜、逆浸透膜等の分離膜によってさらに処理する場合には、ろ過水に残留した鉄成分が分離膜の閉塞を頻発させる原因となる。
【0006】
本発明は、凝集剤の使用量を低減しながら、酸化した鉄成分を地下水からろ過によって充分に除去でき、ろ過後の地下水を分離膜によって処理する場合には分離膜の閉塞を低減できる水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の態様を有する。
[1] 地下水を処理する水処理方法であって、前記地下水のpHが7.0未満である条件下で、前記地下水中のFe2+を酸化してFe3+とし、次いで、前記地下水中の負に帯電したコロイド状物質を凝集させて凝集物とし、前記凝集物を含む水をろ過する、水処理方法。
[2] 前記地下水中のFe2+を酸化する前に、前記地下水のpHを7.0未満に調整する、[1]の水処理方法。
[3] 前記地下水中のFe2+を酸化する際に、酸化剤を使用する、[1]又は[2]の水処理方法。
[4] 前記地下水が炭酸ガスを含み、前記地下水を空気に曝す前に前記地下水中のFe2+を酸化する、[1]~[3]のいずれかの水処理方法。
[5] 前記コロイド状物質を凝集させる際に、凝集剤を使用する、[1]~[4]のいずれかの水処理方法。
[6] 前記コロイド状物質がシリカ、有機物からなる群から選ばれる少なくとも一つである、[1]~[5]のいずれかの水処理方法。
[7] 前記凝集物を含む水をろ過した後のろ過水を、限外ろ過膜及び逆浸透膜の少なくとも一方を用いて処理する、[1]~[6]のいずれかの水処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凝集剤の使用量を低減しながら、酸化した鉄成分を地下水からろ過によって充分に除去できる。ろ過後の地下水を分離膜によって処理する場合には分離膜の閉塞を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る水処理方法に用いる処理システムの概略図である。
図2】第1の実施形態に係る水処理方法に用いる処理システムが備える地下水源、管路、原水処理部の模式図である。
図3】地下水中のコロイド状物質に起因して鉄成分のろ過不良が起きる原因を説明するための模式図である。
図4】一実施形態に係る水処理方法において、コロイド状物質をFe3+によって凝集させる様子の一例を説明するための模式図である。
図5】第2の実施形態に係る水処理方法に用いる処理システムが備える地下水源、管路、原水処理部の模式図である。
図6】第3の実施形態に係る水処理方法に用いる処理システムが備える地下水源、管路、原水処理部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る水処理方法は、地下水を処理する方法である。地下水は、特に限定されない。地下水は、不圧地下水でもよく、被圧地下水でもよいが、溶解性の鉄を0.03mg/L以上含む地下水が好適に適用される。例えば、井戸水、温泉水、湧き水、鉱水、鉱泉水等が挙げられる。ただし、地下水はこれらの例示に限定されない。
地下水は、通常、鉄、マンガン等の金属イオン;シリカ、有機物等の負に帯電したコロイド状物質を含む。地下水は、金属イオン、コロイド状物質以外に、カルシウム、マグネシウム、細菌等をさらに含むことがある。
例えば、被圧地下水は、これらの成分に加えて、炭酸ガス(遊離炭酸)をさらに含むことがある。炭酸ガス及び溶解性の鉄を含む被圧地下水、温泉水等の地下水は自然界においてpHが7.0未満であることが多く、本実施形態に係る水処理方法に好適に適用できる。
【0011】
以下、本発明の水処理方法のいくつかの実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
図1は、本実施形態に係る水処理方法に用いる処理システム1の概略図である。処理システム1は、地下水源11と原水処理部12と砂ろ過塔13と活性炭14と中間水槽15と限外ろ過膜ろ過装置16と逆浸透膜ろ過装置17と濃縮水槽18と処理水槽19を備える。図1に示す処理システム1を用いる水処理方法では、まず、地下水源11から地下水が管路21を流れ、原水処理部12に供給される。
【0012】
<第1の実施形態>
図2は、第1の実施形態における地下水源11と管路21、21と原水処理部12Aを示す模式図である。
地下水源11は井戸41、41を有する。井戸41、41には揚水手段42、42がそれぞれ挿入されている。揚水手段42、42のそれぞれは、井戸41、41内から地下水を汲み上げて揚水し、汲み上げた地下水を管路21、21に送液する。揚水手段42、42は、地下水を地上に汲み上げることができる形態であれば特に限定されない。例えば、汲み上げポンプを有する揚水装置等が挙げられる。
図2に示す原水処理部12Aにおいては、2つの管路21、21の第1の端部は、揚水手段42、42とそれぞれ接続され、管路21、21の第2の端部は合流点Gで互いに接続されている。
【0013】
原水処理部12Aは、管路45Aと原水槽47とpH調整剤添加手段48と第1の酸化剤添加手段51と第2の酸化剤添加手段52を有する。
【0014】
管路45Aは、第1の端部が2つの管路21、21の両方と合流点Gで接続され、第2の端部が原水槽47内の気相部分と接続されている。
管路45AにはpH調整剤添加手段48が設けられている。pH調整剤添加手段48は、管路45A内にpH調整剤を供給して、pH調整剤と地下水とを混合する。pH調整剤添加手段48は、pH調整剤を管路45A内の地下水に注入するとも言える。
pH調整剤は、地下水のpHを7.0未満に調整できる化合物であれば特に限定されない。例えば、塩酸、硫酸等の酸成分が挙げられる。
管路45Aは、pH調整剤によってpHが7.0未満に調整された地下水を原水槽47内に供給する。
【0015】
第1の酸化剤添加手段51は、原水槽47内の地下水に酸化剤を供給する。酸化剤は、原水槽47内の地下水に含まれるFe2+をFe3+に酸化できる化合物であれば、特に限定されない。例えば、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、さらし粉等の塩素系酸化剤が挙げられる。
【0016】
第2の酸化剤添加手段52は、原水槽47内の地下水に酸化剤を必要に応じて供給する。第2の酸化剤添加手段52は、後段の中間水槽15、処理水槽19(図1参照)に設けられた図示略の濃度計と電気的に接続されている。第2の酸化剤添加手段52は、図示略の濃度計の測定値に基づき、原水槽47内の地下水に酸化剤を必要に応じて供給する。
例えば、後段の中間水槽15、処理水槽19内の水中の鉄成分の濃度が所定の数値より高い場合には、地下水中のFe2+の酸化を促進するために、第2の酸化剤添加手段52は原水槽47内に酸化剤を供給する。第2の酸化剤添加手段52は、バックアップ用の酸化剤添加手段として機能するとも言える。
【0017】
本実施形態に係る水処理方法では、地下水のpHが7.0未満である条件下で、地下水中のFe2+を酸化してFe3+とする。Fe2+を酸化する際には、酸化剤を使用する。
図2に示す地下水源11、原水処理部12Aにおいては、地下水は井戸41、41のそれぞれから、管路21、21をそれぞれ流れ、合流点Gで合流する。合流した地下水は、管路45A内を図中に示す矢印の向きに流れる。
管路45Aでは、pH調整剤添加手段48によって供給されるpH調整剤によって、地下水のpHを7.0未満に調整する。その後、地下水は、管路45Aの第2の端部から原水槽47内の気相部分で放流される。
原水槽47内には第1の酸化剤添加手段51によって酸化剤が供給され、酸化剤と地下水とが混合される。原水槽47内で放流される地下水は、pH調整剤添加手段48によってpHが7.0未満に調整されている。そのため、第1の酸化剤添加手段51によって供給される酸化剤と地下水とを混合すると、地下水のpHが7.0未満である条件下で、地下水中のFe2+を酸化してFe3+とする酸化反応が開始する。この酸化反応により、地下水中のFe2+が酸化され、Fe3+となる。
【0018】
従来の水処理方法では充分量の凝集剤を使用することで、凝集剤によってコロイド状物質とともに水酸化鉄を確実に凝集させていた。凝集剤の使用量を低減すると、上述の通り、水酸化鉄の凝集が不充分となり、鉄成分のろ過不良が起きるおそれがある。
図3は、地下水中のコロイド状物質に起因して鉄成分のろ過不良が起きる原因を説明するための模式図である。図3に示すように従来の方法においては、水酸化鉄160の正電荷は、水酸基(OH)の結合により、結合前のFe3+(3価の陽イオン)よりも低下する。そのため、水酸化鉄160の正電荷がコロイド状物質65の負電荷に対して相対的に少なくなるという状況が生じ得る。この状況下では、水酸化鉄160によってコロイド状物質65の負電荷を中和できない。
【0019】
例えば、コロイド状物質65がシリカである場合、水酸化鉄160はコロイド状物質65と結合し、コロイダルシリカ鉄170となると推定される。しかし、水酸化鉄160の正電荷がコロイド状物質65の負電荷より少ないため、コロイダルシリカ鉄170は負電荷を帯びたままとなる。その結果、コロイダルシリカ鉄170同士は、互いの負電荷によって反発し、水中に分散してしまうと考えられる。
ここで、分散状態のコロイダルシリカ鉄170は粒径が細かく、砂ろ過等のろ過により除去できない。そのため、コロイダルシリカ鉄170の凝集が不充分なままろ過を行うと、ろ過不良が起き、ろ過水にコロイダルシリカ鉄170が鉄成分として残存する。加えて、コロイド状物質65もその粒径によってはろ過水に残存し、シリカ成分、有機物成分として残存することもあると考えられる。
【0020】
コロイダルシリカ鉄170及びコロイド状物質65の負電荷を中和して凝集させるために、上述の従来の(1)、(2)の方法のように、凝集剤を使用して正電荷を充分に補充することも考えられるが、コロイダルシリカ鉄170及びコロイド状物質65を確実に凝集させるためには、凝集剤の使用量が増えてしまう。このように、凝集剤の使用量を増やさずに、鉄成分のろ過不良を防ぐことを目的としてコロイダルシリカ鉄170及びコロイド状物質65を確実に凝集させることは困難である。
【0021】
これに対して、本実施形態に係る水処理方法では、pHが7.0未満である条件下で、地下水中のFe2+を酸化してFe3+とし、次いで、地下水中のコロイド状物質をFe3+によって凝集させる。
地下水のpHが7.0未満である地下水においては、水酸化物イオン(OH)の存在量が相対的に少ない。この状態でFe3+が酸化によって生成するため、Fe3+がFe(OH) 、Fe(OH)2+等の水酸化鉄に変化しにくく、水酸化鉄の生成量が少なくなる。加えて、周囲の水酸化物イオン(OH)の存在量が相対的に少ないため、Fe3+は、3価の陽イオンとしての状態を水中で維持できる。
【0022】
図4は、本実施形態に係る水処理方法において、コロイド状物質をFe3+によって凝集させる様子の一例を説明するための模式図である。
図4に示すように、Fe3+60は3価の陽イオンの状態を水中で維持しているため、上述の水酸化鉄160(図3参照)との比較において、コロイド状物質65の負電荷を中和できるような正電荷を充分に多く保持している。そのためFe3+60は、コロイド状物質65の負電荷を中和してコロイド状物質65を凝結させることができる。その結果、コロイド状物質65とFe3+60とが結合し、凝結物70が発生する。凝結物70は電荷が中和されているため、凝結物70同士は凝集して凝集物71となり、凝集物71の粒径が粗大化する。
【0023】
このように、本実施形態に係る水処理方法では、水酸化物イオン(OH)の存在量が相対的に少なく、水酸化鉄がそもそも生成しにくいため、粒径が細かいコロイド状の水酸化鉄160(図3参照)も生成しにくい。加えて、Fe3+が3価の陽イオンとしての状態を水中で維持できるため、コロイド状物質65の負電荷を中和するための陽イオンを凝集剤の使用によって補充しなくても、コロイド状物質65がFe3+によって充分に凝集する。
本実施形態に係る水処理方法ではFe3+を凝集剤として利用し、コロイド状物質65とともにFe3+を凝集させる。この凝集反応により、コロイド状物質と結合した鉄(III)を含む凝集物が生成する。
【0024】
地下水中のFe2+を酸化してFe3+とし、次いで、地下水中のコロイド状物質をFe3+によって凝集させる際の地下水のpHは、7.0未満であり、5.8以上7.0未満が好ましく、6.5以上6.9以下がより好ましい。地下水のpHが前記下限値以上であると、pH調整剤の使用量を減らすことができ、水処理の低コスト化を図りやすくなる。
地下水のpHが前記上限値以下であると、水酸化鉄がさらに生成しにくく、かつ、Fe3+が3価の陽イオンとしての状態を水中でさらに維持しやすくなる。その結果、凝集剤の使用量をさらに低減でき、酸化した鉄成分を地下水からろ過によってさらに充分に除去でき、ろ過後の地下水を分離膜によって処理する際の分離膜の閉塞をさらに効果的に低減できる。
【0025】
図1に示す処理システム1においては、Fe3+によるコロイド状物質の凝集反応が起きた後、凝集物を含む水が管路22を流れ、砂ろ過塔13に供給される。この凝集物を含む水を砂ろ過塔13でろ過し、凝集物を除去する。
これにより、地下水中の酸化した鉄成分をろ過により充分に除去でき、コロイド状物質65に由来する成分の一部も併せて除去できる。
ここで、地下水はその性状に応じてコロイド状物質として、シリカ、有機物等を含む。そのため、砂ろ過塔13では、地下水中の鉄成分に加えて、シリカ成分、有機物成分がさらに除去されることがある。例えば、地下水がコロイド状物質としてシリカを多く含む場合、凝集物にはシリカ成分が多く含まれるため、砂ろ過塔13でシリカ成分を除去できる。また、地下水がコロイド状物質として有機物を含む多く場合、凝集物には有機物成分が多く含まれるため、砂ろ過塔13で有機物成分を除去できる。
さらに、地下水が鉄以外にマンガン等の種々の金属をさらに含む場合には、鉄に加えて、マンガンが砂ろ過塔13で接触酸化により酸化され、ろ過によって除去される。
【0026】
次いで、図1に示す処理システム1を用いる水処理方法においては、砂ろ過塔13のろ過水は管路23を流れ、活性炭14に通水される。活性炭14では、塩素がろ過水から除去される。その後、活性炭14を通過したろ過水は管路24を流れ、中間処理槽15に貯留される。
【0027】
中間処理槽15内のろ過水の一部は、管路25を流れ、限外ろ過膜を備える限外ろ過膜ろ過装置16に供給される。限外ろ過膜ろ過装置16では、ろ過水中の濁質分や細菌類が限外ろ過膜によって除去される。限外ろ過膜ろ過装置16の透過水は管路26を流れ、処理水槽19に処理水として貯留される。
一方、中間処理槽15内のろ過水の残部は、管路27を流れ、逆浸透膜を備える逆浸透膜ろ過装置17に供給される。逆浸透膜ろ過装置17では、ろ過水に残存した硬度成分、シリカ、塩類が逆浸透膜によって除去される。
その後、逆浸透膜ろ過装置17の透過水は管路28を流れ、処理水槽19に処理水として貯留される。処理水槽19では、限外ろ過膜ろ過装置16の透過水と逆浸透膜ろ過装置17の透過水とが混合され、処理水の硬度が調整される。
【0028】
(第1の実施形態の作用効果)
以上説明した第1の実施形態に係る水処理方法によれば、pHが7.0未満である条件下でFe2+を酸化するため、ろ過不良の原因となる水酸化鉄が生成しにくい。加えて、pHが7.0未満であることから、Fe3+が3価の陽イオンの状態を維持したままコロイド状物質と結合し、コロイド状物質を凝集させることができる。このようにFe3+が凝集剤のように機能するため、コロイド状物質の電荷を中和するために凝集剤を外添してさらに使用する必要がなく、従来の方法と比較して凝集剤の使用量を低減できる。
ここで、Fe2+の酸化によって生じたFe3+の大半は、Fe3+の状態を維持したまま、コロイド状物質の凝集反応に利用されると考えられる。そのため、この凝集反応で生成する凝集物は、地下水中の大半のFe3+を含む。したがって、この凝集物をろ過によって除去することで、酸化した鉄成分を地下水から充分に除去できる。
以上より、第1の実施形態に係る水処理方法によれば、凝集剤の使用量を低減しながら、酸化した鉄成分を地下水からろ過によって充分に除去でき、ろ過後の地下水を分離膜によって処理する際の分離膜の閉塞を低減できる。
加えて、凝集剤の使用量を低減できることから、凝集物の発生量が低く抑えられ、砂ろ過塔に堆積する凝集物の量が少なくなる。その結果、砂ろ過塔のろ過能を回復するための再生の頻度も低くなると期待される。
【0029】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る水処理方法では、地下水が炭酸ガスを含む。第2の実施形態に係る水処理方法では、地下水を空気に曝す前に地下水中のFe2+を酸化する。
以下、第2の実施形態に係る水処理方法について図面を参照しながら説明する。
【0030】
図5は、第2の実施形態に係る水処理方法における地下水源11と原水処理部12Bを示す模式図である。原水処理部12Bは、管路45Bと原水槽47と排圧弁49と第1の酸化剤添加手段51と第2の酸化剤添加手段52を有する。管路45Bは、第1の端部が管路21、21の両方と接続され、地下水を原水槽47内に供給する管路である。
【0031】
原水処理部12Bは、下記の点で原水処理部12Aと異なる。
・原水処理部12AがpH調整剤添加手段48を有するのに対し、原水処理部12BはpH調整剤添加手段48を有しない点。
・第1の酸化剤添加手段51が管路45Bに設けられている点。
・管路45Bの第2の端部が、原水槽47内の地下水(液相)に浸漬されている点。
・管路45Bに管路45B内の圧力を低減する排圧弁49が設けられている点。
【0032】
第2の実施形態においては、地下水が炭酸ガスを含む。そのため、地下水のpHは地下水源11において初めから7.0未満である。
原水処理部12Bにおいては、地下水は井戸41、41のそれぞれから、管路21、21をそれぞれ流れ、合流点Gで合流する。その後地下水は、管路45Bを流れ、管路45B内で第1の酸化剤添加手段51から供給される酸化剤と混合される。このように原水処理部12Bにおいては、第1の酸化剤添加手段51によって酸化剤を管路45B内の地下水に注入できる。
管路45Bの第2の端部は、原水槽47内の地下水に浸漬されている。そのため、酸化剤と混合された地下水は、原水槽47の液相に供給され、その後第2の酸化剤添加手段52から供給され得る酸化剤と必要に応じて混合される。
このように原水処理部12Bにおいては、地下水が第1の酸化剤添加手段51から供給される酸化剤と管路45B内で混合され、その後、原水槽47の液相に供給される。そのため、原水処理部12Bによれば、地下水を空気に曝す前に地下水中のFe2+を酸化してFe3+とする酸化反応が開始する。
次いで、Fe3+によってコロイド状物質を凝集させて凝集物とし、凝集物を含む水を砂ろ過塔13でろ過して凝集物を除去する(図1参照)。その後、ろ過水は、第1の実施形態で説明した内容と同様にして図1に示す処理システム1によって処理される。
【0033】
(第2の実施形態の作用効果)
以上説明した第2の実施形態に係る水処理方法においては、地下水が炭酸ガスを含むため、地下水のpHが初めから7.0未満である。この条件下でFe2+を酸化するため、水酸化鉄がそもそも生じにくく、Fe3+が3価の陽イオンの状態を維持できる。したがって、第1の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0034】
一般に、炭酸ガスを含む地下水(例えば、被圧地下水)にあっては、空気に曝されることで炭酸ガスが地下水から放出される。
第2の実施形態においては、地下水のpHがあらかじめ7.0未満にあることに加えて、その地下水を空気に曝す前にFe2+を酸化する。そのため、酸成分を使用してpHを7.0未満に調整する必要がなく、第1の実施形態と比較して酸成分の使用量を低減でき、水処理の低コスト化を図ることができる。また、原水処理部の構成からpH調整剤添加手段を省略でき、装置構成が簡素化する。
【0035】
地下水が炭酸ガスを含む場合、仮に地下水が原水槽47内の気相部分で放流された場合には、原水槽47内の気相の空気に曝されることで、地下水から炭酸ガスが放出され、地下水のpHが上昇する可能性がある。
これに対し、第2の実施形態では管路45Bの第2の端部から地下水を原水槽47内の液相に直接供給できる。そのため、原水槽47内の気相を経由して地下水が供給されるような第1の実施形態と比較して、原水槽47内において炭酸ガスが地下水から放出されにくい。よって、第2の実施形態においては第1の実施形態と比較して、炭酸ガスの放出に起因するpHの上昇が起きにくく、地下水のpHが7.0未満である条件をより確実に保持できる。
したがって、水酸化鉄の生成をさらに確実に低減でき、ろ過水中の鉄成分の残存をさらに確実に低減できると期待される。加えて、Fe3+が3価の陽イオンの状態を確実に維持でき、Fe3+によるコロイド状物質の凝集効果のさらなる向上も期待できる。
【0036】
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態に係る水処理方法について説明する。
第3の実施形態に係る水処理方法では、コロイド状物質を凝集させる際に、凝集剤を使用する。以下、第3の実施形態に係る水処理方法について図面を参照しながら説明する。
【0037】
図6は、第3の実施形態に係る水処理方法における地下水源11と原水処理部12Cを示す模式図である。原水処理部12Cは、管路45Bと原水槽47と排圧弁49と凝集剤添加手段50と第1の酸化剤添加手段51と第2の酸化剤添加手段52を有する。
【0038】
原水処理部12Cは、凝集剤添加手段50を有する点で原水処理部12Bと異なる。
凝集剤添加手段50は、原水処理部12C内に凝集剤を供給して、凝集剤と地下水とを混合する。凝集剤は特に限定されない。例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化鉄等が挙げられる。
【0039】
第3の実施形態においても、地下水は炭酸ガスを含む。そのため、地下水のpHは地下水源11において初めから7.0未満である。
原水処理部12Cにおいては、地下水は原水処理部12Bと同様に井戸41、41から流れる。その後、管路45B内で第1の酸化剤添加手段51によって酸化剤と混合され、地下水が空気に曝される前にFe2+を酸化してFe3+とする酸化反応が開始する。その後、地下水は原水槽47の液相に供給され、原水槽47内で凝集剤添加手段50から供給される凝集剤と混合される。
このように、第3の実施形態においては、Fe2+の酸化反応によって生じるFe3+に加えて、凝集剤添加手段50から供給される凝集剤をさらに使用し、コロイド状物質をより確実に凝集させて凝集物とする。
【0040】
(第3の実施形態の作用効果)
以上説明した第3の実施形態に係る水処理方法においても、地下水のpHが7.0未満である条件下で、地下水中のFe2+を酸化するため、第1の実施形態と同様の作用効果が得られる。また、地下水が炭酸ガスを含み、地下水を空気に曝す前に地下水中のFe2+の酸化反応を開始し、その後地下水を原水槽47の液相に供給するため、第2の実施形態と同様の作用効果も得られる。
加えて、第3の実施形態に係る水処理方法によれば、Fe3+に加えて、凝集剤をさらに使用するため、コロイド状物質をさらに確実に凝集させることができる。第3の実施形態に係る水処理方法においても、第1の実施形態、第2の実施形態と同様の理由から、Fe3+をコロイド状物質の凝集剤として利用できる。そのため、このFe3+と併用することで、凝集剤添加手段50から供給される凝集剤の使用量を低く抑えることができる。
したがって、従来の方法と比較して凝集剤添加手段50から供給される凝集剤の使用量が少量であっても、シリカ、有機物等のコロイド状物質の充分な凝集効果を期待でき、鉄成分等のろ過不良が起きにくく、地下水から鉄成分等をろ過によって充分に除去できる。
【0041】
<他の実施形態>
以上いくつかの実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
例えば、鉄を酸化し、次いでコロイド状物質をFe3+で凝集させる際においては、発明の効果が得られる範囲内であれば、地下水のpHは厳密に7.0未満でなくてもよい。発明の効果が得られる範囲内としては、Fe3+からFe(OH) 、Fe(OH)2+が生成する反応を抑制でき、かつ、Fe3+が地下水中で3価の陽イオンの状態を維持できるようなpHの範囲内が考えられる。
例えば、図1に示す地下水源11においては、井戸の数が2つであるが、他の実施形態において井戸の数は1つでもよく、3つ以上でもよい。
他にも、図1に示す処理システム1に係る実施形態においては、中間水槽15のろ過水は、限外ろ過膜ろ過装置16又は逆浸透膜ろ過装置17のいずれか一方によって処理されるが、他の実施形態においては限外ろ過膜ろ過装置16及び逆浸透膜ろ過装置17の両方によって中間水槽15内のろ過水を処理してもよい。
他にも、処理システム1において、管路22~28は、説明の便宜上、「管路」の語を用いて説明したが、管路22~28は、大気開放下で水が空気に曝されながら流れるような流路の形態であってもよい。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明する。本発明は、以下の記載によって限定されない。
【0043】
<測定方法>
ろ過水の鉄の濃度は、ポータブル吸光光度計(HACH社製「DR1900)を使用して測定した。
ろ過水の色度は、濁色度計(共立理化社製「DTC-4DG」)を使用して測定した。
ろ過水の濁度は、濁色度計(共立理化社製「DTC-4DG」)を使用して測定した。
【0044】
<地下水>
本実施例及び比較例で使用した地下水は、シリカ、有機物等のコロイド状物質、鉄:3mg/L、マンガン:0.6mg/Lに加えて、炭酸イオンをさらに含む。空気に曝す前の地下水のpHは7.2であった。
【0045】
<実施例1~3>
実施例1~3では、地下水に次亜塩素酸ナトリウムを添加する前に、表1に示すpHとなるように地下水に硫酸を添加して地下水のpHを7.0未満に調整した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを地下水に添加して地下水中のFe2+を酸化してFe3+とし、地下水中のシリカ、有機物等のコロイド状物質を凝集させ、5Aろ紙でろ過した。ろ過水中の鉄の濃度、色度、濁度を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
<比較例1>
比較例1では、地下水のpHを調整する前に、次亜塩素酸ナトリウムを地下水に添加して地下水中のFe2+を酸化してFe3+とし、次いで、pHが6.2となるように硫酸を添加した。その後、地下水中のシリカ、有機物等のコロイド状物質を凝集させ、5Aろ紙でろ過した。ろ過水中の鉄の濃度、色度、濁度を表2に示す。
【0048】
<比較例2~4>
比較例2~4では、次亜塩素酸ナトリウムの添加後に、硫酸の代わりに表2に示すpHとなるように水酸化ナトリウムを地下水に添加した以外は、比較例1と同様にしてろ過水を得た。ろ過水中の鉄の濃度、色度、濁度を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表1に示すように、地下水のpHを7.0未満に調整した後に地下水中のFe2+を酸化した実施例1~3では、ろ過水中の鉄の濃度を充分に低減できた。
これに対して、次亜塩素酸ナトリウムの添加後にpHを6.2に調整した比較例1では、ろ過水中の鉄の濃度が実施例1~3と比較して高く、鉄を充分に除去できなかった。
比較例2~4ではFe2+を酸化してFe3+とした後に、pHを塩基性側に調整した。Fe3+を含む水酸化鉄は塩基性側で溶解度が低くなり、沈殿しやすい性質があるが、表2に示すように酸化後にpHを塩基性側に調整しても、ろ過水に鉄成分が残存した。また、比較例4のろ過水の色度は高く、ろ過不良が起きていることが示唆された。
これらの結果から、本実施形態に係る水処理方法によれば、凝集剤の使用量を低減しながら、酸化した鉄成分を地下水からろ過によって充分に除去できると考えられた。なお、比較例3において、ろ過水の鉄の濃度が比較例1より低いにもかかわらず、色度が比較例1よりも高くなっているのは、色度計による測定の誤差の範囲内である。
【符号の説明】
【0051】
1 水処理システム
11 地下水源
12 原水処理部
13 砂ろ過塔
14 活性炭
15 中間水槽
16 限外ろ過膜ろ過装置
17 逆浸透膜ろ過装置
19 処理水槽
45 管路
47 原水槽
48 pH調整剤添加手段
50 凝集剤添加手段
51 第1の酸化剤添加手段
52 第2の酸化剤添加手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6