IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東拓工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-多層樹脂製ホース 図1
  • 特許-多層樹脂製ホース 図2
  • 特許-多層樹脂製ホース 図3
  • 特許-多層樹脂製ホース 図4
  • 特許-多層樹脂製ホース 図5
  • 特許-多層樹脂製ホース 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】多層樹脂製ホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20240501BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 27/02 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
F16L11/08 B
B32B1/08 B
B32B27/02
B32B27/12
B32B27/20 A
B32B27/30 101
B32B3/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020014897
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021121747
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000221502
【氏名又は名称】東拓工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇賀 寛文
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185017(JP,A)
【文献】特開2015-072027(JP,A)
【文献】特開2006-145014(JP,A)
【文献】特開2016-049714(JP,A)
【文献】特開2011-064305(JP,A)
【文献】特開平07-299879(JP,A)
【文献】米国特許第05381834(US,A)
【文献】特開2004-116557(JP,A)
【文献】特開2006-300225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
B32B 1/08
B32B 27/02
B32B 27/12
B32B 27/20
B32B 27/30
B32B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明のホース壁に緯糸が螺旋状に配糸され、当該ホース壁の内部又は外周に硬質樹脂製補強芯が配された多層樹脂製ホースにおいて、
前記緯糸は液晶ポリエステル繊維を含む補強糸として構成され、
前記ホース壁は、2以上の軟質透明樹脂を積載した多層構造で構成され、前記緯糸は、紫外線の透過を抑制する顔料が添加された有色透明の軟質透明樹脂の層に載置又は埋入され、
前記紫外線を遮蔽若しくは吸収する硬質樹脂製補強芯が前記ホース壁の外周又は前記ホース壁の内部に螺旋状に配されており、前記緯糸は、前記硬質樹脂製補強芯の直下となり、前記顔料は、黄色、橙色、緑色を呈する
ことを特徴とする多層樹脂製ホース。
【請求項2】
前記軟質透明樹脂は、軟質塩化ビニル樹脂である請求項1に記載の多層樹脂製ホース。
【請求項3】
前記顔料は、前記ホース壁を構成する軟質透明樹脂に対して重量比で0.03%以上混入されていることを特徴とする請求項に記載の多層樹脂製ホース。
【請求項4】
前記顔料による紫外線の吸収量は、可視光に隣接する360nm~400nmの波長域において70%以上である請求項1に記載の多層樹脂製ホース。
【請求項5】
前記多層構造を構成する2以上の軟質透明樹脂の間に、ホース軸方向の伸びを抑制するアラミド繊維製補強糸が配糸されている請求項1~の何れかに記載の多層樹脂製ホース。
【請求項6】
前記緯糸は、前記ホース壁と、前記硬質樹脂製補強芯とで包囲される
ことを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の多層樹脂製ホース。
【請求項7】
前記硬質樹脂製補強芯の周面のうち、筒状のホース壁側を向く部分には凹入部が形成されており、前緯糸は、当該凹入部に挿入されている
ことを特徴とする請求項1~の何れかに記載の多層樹脂製ホース。
【請求項8】
緯糸は硬質樹脂製補強芯の直下となるホース壁内の位置に配糸され、ホース壁の外周に固着された前記硬質樹脂製補強芯の周面が、有色透明の合成樹脂で覆われている
ことを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の多層樹脂製ホース。
【請求項9】
圧送用途又は吸引搬用途の耐圧ホースである請求項1~の何れかに記載の多層樹脂製ホース。
【請求項10】
紫外線暴露下で使用される耐圧ホースである請求項1~の何れかに記載の多層樹脂製ホース。
【請求項11】
ホース壁の多層構造をなす2以上の軟質透明樹脂の層のうち、1つの層には、前記紫外
線の透過を抑制する顔料が添加され、他の層には、当該顔料とは別の色を呈する顔料が添加されている
ことを特徴とする請求項1~1の何れかに記載の多層樹脂製ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透明のホース壁に緯糸が螺旋状に配糸され、当該ホース壁の内部又は外周に硬質樹脂製補強芯が配された多層樹脂製ホースに関し、特に、屋外の直射日光による紫外線暴露の下、耐圧用途に使用される際の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
灌漑作業、土木作業における吸排水の用途の多層樹脂製ホースとしては多種多様なホース構造が製品化されている。また、顧客からの要望から、搬送物が確認できるよう透明の軟質樹脂製のホース壁としたものが登場している。特に近年は、河川の氾濫・決壊により生じた大量の泥水を除去するという泥水除去作業に多く使用されており、台風、豪雨の被災地の復興事業での需要が急速に高まっている。特許文献1に記載された多層樹脂製ホースは、筒状のホース壁の外周面において、芯材が位置しない領域に、芯材と平行なアラミド繊維の緯糸を単又は複数本設けている。緯糸を設けた補強コード部により、ホース壁の耐圧強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4709537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、河川の氾濫・決壊により生じた大量の泥水等を短期間に除去すべくポンプの能力を増強すると、必然的に多層樹脂製ホースのホース壁の内側に加わる圧力が大きくなる。ホース壁に多大な圧力が加わった場合、特許文献1に記載されているような既存のアラミド繊維の緯糸による補強では強度が不足する。更に泥水から加わる圧力が緯糸の強度を上回ると、ホース壁の破断を招く恐れがある。
【0005】
アラミド繊維の強度面の不足を補える繊維素材について発明者らが検討を重ねたところ、代替素材として、液晶ポリエステル繊維が候補に挙がった。しかし液晶ポリエステル繊維は強度や耐熱性の面でアラミド繊維より優れているものの、紫外線に対する耐性(耐紫外線性)が低く劣化し易い。アラミド繊維の紫外線暴露による促進試験を行った結果、アラミド繊維がほとんど強度低下せず、ほぼ元の強度を維持しているのに対し、液晶ポリエステル繊維は元の強度の40%を下回るレベルまで低下した。これは、液晶ポリエステル繊維は紫外線暴露下での長期使用が難しいことを意味する。
【0006】
搬送物が視認できるようホース壁は透明樹脂で形成されるので、液晶ポリエステル繊維を緯糸に用いた場合、当該緯糸は、屋外においてあらゆる方位から入射してくる紫外線に晒され、液晶ポリエステル繊維の劣化が急速に進行する。
【0007】
泥水からホース壁に作用する多大な圧力に一時的に耐久したとしても、素材劣化により早期に耐久性を失うので、緯糸の繊維素材をアラミド繊維から液晶ポリエステル繊維に置き換えただけでは、日差しが強い屋外での過酷な使用には耐えるような多層樹脂製ホースを実用化することはできないという問題がある。
【0008】
本開示の目的は、強度、耐紫外線性を両立することで、日差しが強い屋外での過酷な使用に耐えることができる多層樹脂製ホースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明は上記課題を解決するため、以下の手段としている。具体的には、 透明のホース壁に緯糸が螺旋状に配糸され、当該ホース壁の内部又は外周に硬質樹脂製補強芯が配された多層樹脂製ホースにおいて、前記緯糸は液晶ポリエステル繊維を含む補強糸として構成され、前記ホース壁は、2以上の軟質透明樹脂を積載した多層構造で構成され、前記緯糸は、紫外線の透過を抑制する顔料が添加された有色透明の軟質透明樹脂の層に載置又は埋入され、前記紫外線を遮蔽若しくは吸収する硬質樹脂製補強芯が前記ホース壁の外周又は前記ホース壁の内部に螺旋状に配されており、前記緯糸は、前記硬質樹脂製補強芯の直下となる構造としている。
【0010】
前記多層ホース壁の素材として、360nm以下のより短波長側の紫外線を通しにくい透明軟質塩化ビニル樹脂を選択するのが好ましい。
【0011】
前記顔料は、黄色、橙色、緑色を呈するものが、可視光近傍の紫外線を吸収し、透明ホース壁の紫外線通過を阻止できる点で好ましい。
【0012】
前記顔料は、ホース内の搬送物が確認できるようにするため、前記合成樹脂製ホース壁を構成する軟質透明樹脂に対して重量比で0.03%以上混入されていることが好ましい。
【0013】
前記顔料による紫外線の吸収量は、可視光に隣接する360nm~400nmの波長域において70%以上であると好ましい。
【発明の効果】
【0014】
硬質樹脂製補強芯直下のホース壁には液晶ポリエステル製の緯糸が配糸されているので、ホースが多大な圧力を受けたとしても、ホースが破断することはない。また本件発明では、ホース壁の紫外線の透過を抑制する顔料を配合した有色透明状のホース壁と、紫外線を遮蔽あるいは吸収する硬質樹脂製補強芯により、液晶ポリエステル繊維を含む緯糸が包囲されている構造となっている。こうした構造により、強い日差しの中長時間紫外線に晒されても液晶ポリエステル製の緯糸の劣化が進行せず、その強度を長時間維持することができる。液晶ポリエステル繊維の糸の強度、耐紫外線性が高められることで、例えば、夏場の泥水除去という過酷な使用に耐久することができ、河川の氾濫で生じた泥水を多く搬送して、被災地の復旧に寄与することができる。
【0015】
さらに本件発明は、多層樹脂製ホースのホース壁の多層構造を構成する素材として、液晶ポリエステル繊維を選択したことに加え、ホース壁の多層構造に工夫を加えることで、選択された素材である液晶ポリエステル繊維の弱点を克服することが可能になった。こうした素材選択やホース壁の多層構造の工夫で、強度、耐紫外線性を高めたので、既存のホース製造装置の利用による量産が可能となり、台風や豪雨の被災地からの切迫した要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)は、多層樹脂製ホース100の外観を示す。図1(b)は、図1(a)に示した多層樹脂製ホース100のうち、一点鎖線100Lに示される部分を切り欠いて示す。
図2】様々な方位から入射してくる紫外線から、液晶ポリエステル繊維の緯糸105がどのように保護されるかを示す。
図3】第2実施形態にかかる多層樹脂製ホース110の構成を示す
図4】第3実施形態にかかる多層樹脂製ホース120の構成を示す。
図5図5(a)、(b)は、入射光の波長域に対する透過率変化を示す。
図6】キセノンウェザーメーターを用いた液晶ポリエステル繊維の劣化促進試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示にかかる多層樹脂製ホースの実施形態を説明する。
【0018】
[1]第1実施形態
(1-1)多層樹脂製ホース100の構成
本開示にかかる多層樹脂製ホースの外観を図1(a)に示す。図1(a)に示すように、多層樹脂製ホース100は、ホース壁100Wと、硬質補強芯104とで構成され、硬質補強芯104は、ホース壁100Wの外周に螺旋状に巻回した状態で固着されている。硬質補強芯104は硬質の塩化ビニル樹脂からなり、不透明な黄色を呈する。図1(a)に示す多層樹脂製ホース100は、土木工事等の施行に用いられる圧送・吸引搬送用の耐圧ホースであり、紫外線暴露下で使用される。多層樹脂製ホース100の両端には、図示しない取付金具又は他のホース端部が接続される。
【0019】
図1(b)は、図1(a)に示した多層樹脂製ホース100のうち、一点鎖線100Lに示される部分を切り欠いて示す。尚、図1(b)における切断部分ではクロス糸103を明示しているが、図1(b)の非切断部分ではクロス糸103を省略している。非切断部分にクロス糸103を表すと、硬質補強芯104と、緯糸105との位置関係が判りづらくなり、理解を阻害するからである。
【0020】
図1(b)に示すように、多層樹脂製ホース100の筒状のホース壁100Wは、無色透明の塩化ビニル樹脂からなる内周壁101に、有色透明の塩化ビニル樹脂からなる外周壁102を積層した多層構造になっている。外周壁102を構成する有色透明の塩化ビニル樹脂は、黄色の顔料が添加されることで着色される。内周壁101と、外周壁102との間には網目状のクロス糸103が介挿されている。クロス糸103は、アラミド繊維製縦糸131、132を交差させ、網目にしたものである。
【0021】
外周壁102は、黄色に着色された有色透明の上層102aと、塩化ビニル製の中間層102bとで構成される。この中間層102bはクロス糸103を固定する役割を担う接着層としての役割を有しており、有色透明でも無色透明であってもよい。中間層102bは有色透明又は無色透明の接着層であり、クロス糸103を固定する役割をもつ。クロス糸103の上に、塩化ビニル製の中間層102bが積層されることで、クロス糸103は、外周壁102に固定される。有色透明の上層102aの表面には液晶ポリエステル繊維の緯糸105が載置される。緯糸105は外周壁102の周面であって、硬質補強芯104の真下となる位置に配される。硬質補強芯104の周面には凹入部141が形成されており、硬質補強芯104の直下に配された緯糸105は、凹入部141に嵌り込む。
【0022】
(1-2)搬送物の視認性
多層樹脂製ホース100のホース壁を構成する内周壁101、102は、透明の塩化ビニル樹脂により構成されているので、図1(b)に示す硬質補強芯104のピッチ間142から、多層樹脂製ホースの内部空間を通過する泥水等の搬送物の有無が外部から視認できるようになっている。
【0023】
(1-3)緯糸105による補強
黄色透明の外周壁102の周面に沿って、液晶ポリエステル繊維の緯糸105が配糸されているので、泥の塊、砕石等がホース壁100Wの内周壁101に当たって、ホース壁の内側に多大な負荷が生じたとしても多層樹脂製ホース100は周方向に大きく伸長することはない。また、内周壁101と、外周壁102との間に配糸された網目状のクロス糸103はアラミド繊維であり、液晶ポリエステル繊維ほど耐圧強度や耐熱温度は高くないが、繊維の軸方向の伸びがしなやかで紫外線に対しても強い。ホースの伸びを適度に抑制しつつ、ホースの可撓性を担保できる観点から、ホース壁100Wの内部に、アラミド繊維製のクロス糸103を配糸している。緯糸105による補強と、クロス糸103による補強とで、多層樹脂製ホース100は、搬送物の搬送時における1.0MPaの圧力に対しても耐久する。
【0024】
(1-4)外周壁102に添加された顔料による保護
多層樹脂製ホース100が屋外で使用されるので、緯糸105には全方位から入射する紫外線に晒される。これに対し、ホース壁100Wでは硬質補強芯104の周面のうち、筒状のホース壁100W側を向く部分に凹入部141を形成し、液晶ポリエステル製の緯糸105を凹入部141に挿入する構造を採用している。ホース壁100Wの緯糸である液晶ポリエステル繊維の大半が紫外線を遮蔽する硬質樹脂補強芯104に取り囲まれるので、長期間にわたる屋外での紫外線暴露下(太陽光下)で使用されたとしても、緯糸105の破断を抑制することができる。こうした構造により、液晶ポリエステル繊維の緯糸105が全方位から入射してくる紫外線からどのように保護されるかを説明する。
【0025】
緯糸105の1つの部位105Pに向かう紫外線として、図2に示すような光源となる太陽から直接、緯糸の一部位105Pに向かう紫外線L1、L2、L3、L10、L11と、多層樹脂製ホース100の反対側壁面102Lを通じて緯糸の一部位105Pに向かう紫外線L4、L5、L6、L7、L8とを想定する。図2の右側は開口端101Pであり、当該開口端101Pから入射される紫外線としては紫外線L9を想定する。
【0026】
多層樹脂製ホース100の下側から進行してくる紫外線L4、L5、L6、L7、L8は、多層樹脂製ホース100の反対側壁面102Lにおける黄色透明の外周壁102に入射するが外周壁102を通過しない。また、ホース開口端101Pより大きな入射角にて外周壁102に入射しようとする紫外線L9は、有色透明の上層102aのうち、部位105Pの直下にあたる部分に入射するものの、紫外線L4、L5、L6、L7、L8と同様、当該有色透明の上層102aを通過しない。
【0027】
何故なら、外周壁102の上層102aの着色に用いられる黄色の顔料は、可視光に近い波長域(360~400nm)の紫外線を多く吸収するからである。例えば、0.1%の顔料添加で、黄色透明の外周壁102の紫外線透過率は0.1%となり、紫外線L4、L5、L6、L7、L8をはじめ、紫外線L9も、緯糸の一部位105Pにほとんど到達しない。緯糸の一部位105Pは、黄色透明の外周壁102の外周面において、図2に示すように芯材の一部位104Pの直下に配されている。硬質補強芯104を構成する硬質樹脂は不透明であり、外周壁102と同様、黄色の硬質色を呈している。そのため図2における紫外線L1、L2、L3、L10、L11は、硬質補強芯104を構成する硬質樹脂を通過せず、緯糸の一部位105Pは紫外線L1、L2、L3、L10、L11から保護される。
【0028】
緯糸105の各部位は、様々な方位から入射してくる紫外線から保護されるので、多層樹脂製ホース100は、長期にわたり強度を維持することができる。
【0029】
尚、多層樹脂製ホース100において硬質補強芯104を黄色の硬質色としたが橙色の硬質色としてもよい。また、外周壁102も黄色の顔料で着色したが、橙色の顔料又は緑色の顔料で着色してもよい。
【0030】
[2]製造装置及び製造方法
本件発明のホースは、特開昭53-72082、特公昭46-25275、特公昭49-8965などに開示される周知の螺旋巻付形式の成型機を用いて製造することができる。螺旋巻付形式の成型機は、内周壁101、外周壁102を構成する軟質樹脂材、クロス糸103、緯糸105、硬質補強芯104を構成する硬質樹脂材を下層側から上層側へと順次螺旋状に巻付けて積層することで製造される。
【0031】
[3]まとめ
以上のように本実施形態によれば、アラミド繊維のクロス糸103に加え、強度及び耐紫外線性が高められた液晶ポリエステル繊維の緯糸105を採用したことで耐圧性が向上する。
【0032】
紫外線の透過を抑制する顔料で着色された外周壁102と、紫外線を遮蔽する硬質樹脂製補強芯104とで、液晶ポリエステル繊維の緯糸105が取り囲まれている状態で紫外線から保護されているので、例えば、夏場の日差しが強い時期に長時間紫外線に晒されたとしても、液晶ポリエステル製の緯糸105の劣化が進行しない。液晶ポリエステル繊維の糸の強度、耐紫外線性が高められることで、多層樹脂製ホースが強い日差しの中、長時間晒されたとしても、その強度を長時間維持することができる。
【0033】
[4]第2実施形態
第1実施形態では、多層樹脂製ホース100の筒状のホース壁が内周壁101、外周壁102により構成され、螺旋状の硬質補強芯104の周面のうち、凹入部141を除く部分は外部に露出していた。螺旋状の硬質補強芯104の周面が露出しているので、屋外の作業において地面上で多層樹脂製ホース100を引き回そうとすると、摩擦力が大きくなり、搬送が難しくなる。また硬質補強芯104のピッチ間142(図1(b)参照)に土砂が入り込むので、硬質補強芯104のピッチ間に入り込んだ土砂を取り去るための掃除が必要になる。一方、多層樹脂製ホースのホース壁の形状としては様々なものがあり、硬質補強芯104の周面のうち、凹入部141を除く部分を樹脂で埋め、多層樹脂製ホース100の周面を平坦化してもよい。こうした平坦化を行えば、上記の掃除の手間は省ける。
【0034】
第2実施形態では、こうした観点から多層樹脂製ホースを図3に示すように構成することとした。図3において硬質補強芯104の周面は、黄色の顔料が添加された有色透明の軟質塩化ビニルの第1層106、無色透明の軟質塩化ビニルの第2層107で覆われている。第1実施形態では内周壁101と、外周壁102とを合わせたものをホース壁100Wとしたが、第2実施形態では、内周壁101、外周壁102に第1層106、第2層107を追加したものを多層樹脂製ホース110のホース壁110Wとする(尚、図3では省略しているが、第1実施形態の外周壁102と同様、ホース壁110Wの外周壁102も、黄色に着色された有色透明の上層102aと、塩化ビニル製の中間層102bとで構成される。)
また、硬質補強芯104には凹入部141が存在せず、緯糸105は、ホース壁110Wの有色透明の軟質塩化ビニルに埋入され、外周壁102上の、硬質補強芯104の直下となる。
【0035】
硬質補強芯104のピッチ間142が、黄色透明の軟質塩化ビニルの第1層106によって満たされているので、多層樹脂製ホース110は周面が平坦化され、地面上における多層樹脂製ホース110を引き回す際の摩擦力が低下し搬送が容易になり施工性が向上する。また、硬質補強芯のピッチ間142に土砂が入り込むことがなくなり、掃除の手間が省ける。
【0036】
液晶ポリエステル繊維の緯糸105は、第1層106、第2層107の追加により拡張されたホース壁の内部にあり、硬質補強芯104と共に有色透明の軟質塩化ビニルからなる第1層106で覆われているので、緯糸105はあらゆる方位から入射する紫外線から保護される。
【0037】
[5]第3実施形態
第3実施形態では、第1実施形態にかかる多層樹脂製ホース100の構成、第2実施形態にかかる多層樹脂製ホース110の構成の双方の長所を取り入れた内外フラット構造の多層樹脂製ホースを開示する。
【0038】
第3実施形態にかかる多層樹脂製ホース120の構成を図4に示す。
【0039】
図4に示すように、第3実施形態にかかる多層樹脂製ホース120の筒状のホース壁120Wは、無色透明の塩化ビニル樹脂からなる内周壁101に、黄色に着色された塩化ビニル製の中間層102bと、無色透明、又は、黄色に着色された有色透明の外層102aとを積層した多層構造になっている。内周壁101と、塩化ビニル製の中間層102bとの間には網目状のクロス糸103が介挿されている。第1実施形態で述べたように、中間層102bはクロス糸103を固定する役割を担う接着層としての役割を有する。
【0040】
緯糸105は、外層102aと、中間層102bとの界面近くに位置している。また外層102aは、第2実施形態のホース壁110Wと同様、硬質補強芯104の周面を覆う。硬質補強芯104の周面が覆われたことで、第2実施形態同様、第3実施形態にかかる多層樹脂製ホース120の周面は平坦化される。
【0041】
同じように、ホース壁の周面を平坦化した第2実施形態の多層樹脂製ホース110と比較して、本実施形態の多層樹脂製ホース120はホース壁120Wの厚みが減り、軽量化、小サイズが可能になったので、第1実施形態にかかる多層樹脂製ホース100、第2実施形態にかかる多層樹脂製ホース110と比較して実用性が更に向上する。
【0042】
[6]ホース壁着色による紫外線抑制、液晶ポリエステル繊維の保護試験
外周壁102に顔料を添加するにあたって、顔料による色、添加率をどのように設定するかについて検討を行った。図5(a)(b)は、入射光の波長域に対する透過率変化を示す。図5(a)では、軟質塩化ビニル製のホース壁の厚みを1.0mm、顔料を0.03重量%としており、図5(b)では、ホース壁の厚みを1.0mm、顔料を0.1重量%としている。
【0043】
図5(a)、(b)の横軸は波長であり、横軸に示される波長のうち、360nmから400nmにかけての波長域が可視光の波長域に隣接しており、無着色の透明塩化ビニル樹脂を多層樹脂製ホース100では、当該波長域において80%の紫外線を透過する。
【0044】
図5(a)に示すようにホース壁の厚みを1.0mm、顔料を0.03%とした場合、赤色、青色の顔料では紫外線抑制の効果が小さく、50%程度の紫外線をカットできる。一方、緑色の顔料を使用すると、紫外線の透過率は30%となり、黄色の顔料を使用すると、20%まで透過率を低下させることができる。
【0045】
更に図5(b)に示すようにホース壁の厚みを1.0mm、顔料を0.1%とした場合、赤色、青色の顔料での透過率は20%~30%となる。更に緑色の顔料を使用すると、紫外線の透過率は10%未満となり、黄色の顔料を使用すると透過率はほぼ0%になる。
【0046】
こうした検証の下、可視光に隣接する360nm~400nmの波長域において、紫外線を70%以上吸収する黄色、橙色、緑色の顔料を、外周壁102の着色に使用することにした。また、透明塩化ビニル樹脂のホース壁に顔料を混入する際の重量比を0.03%以上とした。
【0047】
図6は、キセノンウェザーメーターを用いた液晶ポリエステル繊維の劣化促進試験の結果を示す。この試験では、液晶ポリエステル繊維の試料に400Nの荷重をかけ、この状態で350時間の時間が経過するのを待ち、当該時間経過により液晶ポリエステル繊維の引張強度がどれだけ低下するかを測定した。無着色の透明塩化ビニル樹脂は引張強度の変化が激しく、300時間(半年分の促進期間にあたる)の経過により、引張強度が400Nから100Nにまで低下する(図6のLOW1参照)。これに対して黄色の顔料で着色された透明塩化ビニル樹脂は、125時間の経過で引張強度の低下は5%、300時間(半年分の促進期間にあたる)の経過で引張強度の低下は6%程度となり(図6のLOW2参照)、ほぼ引張強度を維持できることが判明した。
【0048】
[7]変形例
なお、本発明に係る耐圧・耐摩耗ホース及びその製造方法は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できることは勿論である。
【0049】
(1)上記第1実施形態では、外周壁102を黄色の顔料で着色したがこれに限られない。外周壁102を黄色以外の青、赤、緑の色を呈する顔料で着色してもよいし、さらに、内周壁101を顔料で着色してもよい。また、硬質補強芯104は、紫外線を遮蔽する不透明の硬質樹脂で構成するとしたがこれに限らない。紫外線を遮蔽あるいは吸収する樹脂であれば他の硬質樹脂を採用してもよい。更に、透明の硬質樹脂で構成してもよい。
【0050】
(2)第2実施形態に示した第2層107を顔料で着色してもよい。また、ホース壁110Wの樹脂全体を黄色の顔料で着色してもよい。更に、クロス糸103はアラミド繊維で構成するとしたが、別種の補強繊維で構成するとしてもよい。また、内周壁101、外周壁102は軟質の塩化ビニル樹脂の他、透明で360nm以下の短波長紫外線を吸収できるエラストマーや軟質樹脂で形成してもよい。
【0051】
(3)ホース壁100W、110W、120Wを内周壁101、外周壁102からなる多層構造としたがこれに限られない。内周壁101を赤色、青色等、黄色以外の顔料で着色してもよい。このように、内周壁101を、黄色以外の別の色で着色すると、泥水等の搬送に伴う内周壁101の摩耗や削れに伴う劣化度合いが一目瞭然となる。つまり、ホース壁100W、110W、120Wを構成する軟質樹脂に劣化がないとホース壁100W、110W、120Wは黄色を呈する。しかし外周壁102を構成する軟質樹脂材の劣化が進み、ホース壁100W、110W、120Wに亀裂が発生すると、内周壁101を着色した顔料である青色、黄色は、亀裂を通じて外部から視認されるようになる。ホース壁100Wの表面から、内周壁101の色が視認できるかどうかを手掛かりにすれば多層樹脂製ホースの交換時期の到来を判断することができる。尚、こうした多層樹脂製ホースの劣化度合いを確認するため、内周壁101を複数色の軟質樹脂材の多層構造として構成してもよい。また外周壁102を複数色の軟質樹脂材の多層構造として構成してもよい。
【0052】
(4)硬質補強芯104をオレフィン系樹脂で構成してもよい。硬質補強芯104をオレフィン系樹脂とすることで軽量化を図ることができる。
【0053】
(5)尚、緯糸105は液晶ポリエステル繊維を主体とする限り、別種の繊維と撚り合わせたものでもよい。クロス糸103、緯糸105を繊度が異なるもの或いは撚り本数の異なるものとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
多層樹脂製ホースは、工業、土木工事、灌漑工事の吸圧送、ハンドリングを要する吸圧送、水中ポンプの立ち上がり、急傾斜、吊り下げ、ダンパー車によるサクションに用いられるので、工業、土木業、農業の産業分野に利用される。
【符号の説明】
【0055】
100,110,120 多層樹脂製ホース
101 内周壁
102 外周壁
103 クロス糸
104 硬質補強芯
105 緯糸
131、132 縦糸
141 凹入部
図1
図2
図3
図4
図5
図6