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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】植物賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/36 20060101AFI20240501BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240501BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240501BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A01N37/36
A01P21/00
A01N25/02
A01G7/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020045774
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021098682
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019230697
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】植村 謙太
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168860(WO,A1)
【文献】特開2009-209054(JP,A)
【文献】特開2001-342191(JP,A)
【文献】特開平11-029410(JP,A)
【文献】特開平10-324602(JP,A)
【文献】特開平09-295908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/00-37/52
A01P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシオクタデセン酸またはその塩が分散しているかまたは溶解しており、pHが7より大きいことを特徴とする植物賦活剤であって、前記ヒドロキシオクタデセン酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸である植物賦活剤
【請求項2】
請求項記載の植物賦活剤であって、pHが8.5以上、10以下の範囲である。
【請求項3】
請求項1または2記載の植物賦活剤を、希釈剤を用いて10~1000質量倍に希釈して用いる植物賦活剤の使用方法。
【請求項4】
植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられる請求項1または2記載の植物賦活剤。
【請求項5】
前記植物賦活剤が、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される請求項1、2または4のいずれか1項記載の植物賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させること等を目的として、植物の生長を調整する技術が開発されてきた。温度条件や日照条件の最適化や施肥などの対策に加え、生長促進、休眠抑制、ストレス抑制等の植物生長調節作用を有する植物賦活剤を用いて植物を賦活させる方法が報告されている。
【0003】
このような植物賦活剤を始めとする農薬等の散布には、水希釈散布剤として、乳剤や水和剤等を使用したものが広く用いられてきたが、散布剤の保存安定性や水性懸濁液とされた場合の均一性の問題などがあった。
【0004】
特許文献1には、水性懸濁状農薬組成物の保存安定性の向上を目的として、農薬活性化合物、防腐剤、pH調節剤、界面活性剤、増粘剤、凍結防止剤、および、消泡剤を含有し、pHが7以下であることを特徴とする航空散布用水性懸濁状農薬組成物が記載されている。
【0005】
特許文献2には、オキソ脂肪酸またはその塩もしくはエステルを有効成分として含むことを特徴とする植物賦活剤が報告されている。特許文献1に記載の植物賦活剤は、植物への優れた抵抗性誘導効果および生長促進効果を有するが、この植物賦活剤の保存安定性についてまでは、考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-239560号公報
【文献】国際公開第2018/168860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、優れた病害抵抗性および生長促進効果ならびに改善された保存安定性を有する植物賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、「オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」と「水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」とから選ばれる少なくとも1種の化合物が分散しているかまたは溶解しており、pHが7より大きいことを特徴とする植物賦活剤に関する。
【0009】
前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が以下の式:
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である植物賦活剤が好ましい。
【0010】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1の直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基の炭素数が8~10であり、R2のアルキル基の炭素数が4~6であるオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0011】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1が式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含むオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0012】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2が、炭素数5のアルキル基であるオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0013】
前記オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0014】
前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0015】
前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が、以下の式(II)および/または(III):
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である植物賦活剤が好ましい。
【0016】
前記水酸化脂肪酸が、R3の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有する植物賦活剤が好ましい。
【0017】
前記水酸化脂肪酸が、R3が、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4が、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である植物賦活剤が好ましい。
【0018】
前記水酸化脂肪酸が、R3が、炭素数7の直鎖の飽和炭化水素基(-(CH27-)であり、R4が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)である植物賦活剤が好ましい。
【0019】
前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0020】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0021】
前記水酸化脂肪酸が、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0022】
なお、「オクタデカエン酸」は慣用的な表記であり(例えば、特開平3-14539号公報等)、上述の「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」または「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」とも表記される。同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」または「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」とも表記される。なお、実施例では、かっこ書きで製造元の表記も併記している。また、上記説明は、本明細書、特許請求の範囲、図面および要約書中で使用される「オクタデカエン酸」全てに適用される。
【0023】
「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0024】
【化1】
【0025】
「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0026】
【化2】
【0027】
前記植物賦活剤が、8.5以上、10以下の範囲であるpHを有する植物賦活剤であることが好ましい。
【0028】
なお、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の誘導体としては、それぞれ、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸のエステルが望ましい。また、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の塩としては、後述されるが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩を使用できる。
【0029】
本発明はまた、上記の植物賦活剤を、希釈剤を用いて10~1000質量倍に希釈して用いる植物賦活剤の使用方法に関する。
【0030】
前記植物賦活剤が、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられる植物賦活剤であることが好ましい。
【0031】
前記植物賦活剤が、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される植物賦活剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の植物賦活剤は、病害抵抗性誘導効果および生長促進効果が高く、かつ、保存安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
植物賦活剤
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が分散しているかまたは溶解しており、pHが7より大きいことを特徴とする。
【0034】
本発明における「植物賦活」とは、何らかの形で植物の生長活動を活性化または維持するように調整することを意味するものであり、生長促進(茎葉の拡大、塊茎塊根の生長促進等を包含する概念である)、休眠抑制、植物のストレス(例えば病害など)に対する抵抗性を誘導、付与し、抗老化等の植物生長調節作用を包含する概念である。
【0035】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を植物賦活効果のための有効成分として含む。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、植物の茎葉または根の一部に施用されることによって、植物に生長促進効果を付与することができる。本発明の植物賦活剤が接種された植物体において、未処理植物と比較して、植物の生長指標である葉の長さおよび葉の重さの増加、塊茎または塊根の生長促進が確認されることから、本発明の植物賦活剤は植物に生長促進効果を付与していると考えられる。本発明の植物賦活剤を用いることによって、植物体の生育を促進し、野菜や穀物、果物等の植物体の収量増加をもたらすことができる。本発明の植物賦活剤の植物生長促進効果は非常に高く、この結果、商品作物の優れた収量増加効果や向上された収穫効率をもたらすことができる。さらに、本発明の植物賦活剤は、植物の茎葉または根の一部に施用することにより、植物体において抵抗性誘導に関係するサリチル酸経路を活性化することができ、この結果、植物に病害などへの抵抗性を誘導することができる。
【0036】
本発明の植物賦活剤において、上記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、植物賦活剤中に分散しているかまたは溶解している。ここで、「分散しているかまたは溶解している」とは、植物賦活剤中に分離や沈殿物が見られないことを意味している。沈殿物の生成は、目視や動的光散乱粒子径測定装置等で判断することができる。
【0037】
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を分散または溶解して得られる本発明の植物賦活剤は、pHが7より大きくなるようにコントロールされている。pHが7以下では、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が溶液中で沈殿したり、または、保存のあいだにオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩の凝集が進行したり沈殿してきたりするおそれがある。植物賦活剤中に沈殿物が存在すると、例えば散布時に、溶液中の沈殿物によって散布用のノズルなどに詰まりが生じるおそれがある。また、植物賦活剤における有効成分濃度にばらつきが生じることになり、期待する効果が得られなかったり、また、沈殿物を含んだ植物賦活剤が施用されることによって施用された植物体において、有効成分の施用用量が多すぎることにより薬害が生じたりするおそれもある。
【0038】
植物賦活剤のpHが7より大きくなると、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が植物賦活剤の溶液中で長期間の時間にわたって分散または溶解状態のままに維持され得る。したがって、本発明の植物賦活剤は、有効成分が沈殿することなく、均一に溶解または分散した状態で安定的に保存され得る。例えば、本発明の植物賦活剤のpHは、7より大きく、10より小さい範囲程度に調整され得る。このpHの範囲の上限は、植物賦活剤の安定性の点から制限されるものではなく、適宜選択され得るものであるが、あまりpHが高すぎると施用される植物種によっては悪影響が生じる可能性があることが留意される。
【0039】
本発明の植物賦活剤は、数か月から36カ間程度、好ましくは少なくとも18カ間、より好ましくは少なくとも6カ月、またはそれ以上、溶解または分散状態を保持したままであり、また約15℃(室温)から90℃(高温)の範囲の温度で保存されていても溶解または分散状態のままである。もちろん、本発明の植物賦活剤は、輸送中に分離することもない。長期にわたって植物賦活剤が安定であればあるほど、植物賦活剤の大量合成や長期保存が可能となり、製造コストを安くすることができる。なお、植物賦活剤の安定性は、沈殿物の生成や粘度の変化等で評価することができる。
【0040】
保存期間中も植物賦活剤中の有効成分濃度はほぼ不変であるため、本発明の植物賦活剤を散布した場合、その有効成分濃度は、保存期間とは関係なく一定であり得る。また、散布等の際に、沈殿物によって植物賦活剤の取り扱いに問題が起きるおそれもない。薬害の発生も起きることなく、植物の生育が顕著に向上され得る。
【0041】
本発明の植物賦活剤のpHをコントロールする方法としては、特に限定されるものではなく、pH調整用の化合物として一般的に用いられるアルカリ剤を、所望の量添加することによって行われ得る。例えば、アルカリ剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機酸や有機酸のカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩などが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。アルカリ剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の植物賦活剤中に分散または溶解されている、植物賦活効果を示すための有効成分としての本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、天然にも存在するため、環境負荷が少ないという点においても非常に優れている。
【0043】
本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式:
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0044】
本発明の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1の直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基の炭素数は8~10であり、R2のアルキル基の炭素数は4~6である。また、別の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1は式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含んでいる。さらに、別の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1は、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2は、炭素数5のアルキル基であることが好ましい。
【0045】
本発明のオキソ脂肪酸としては、具体的には、ケトオクタデカジエン酸が挙げられる。例えば、ケトオクタデカジエン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸ならびにそれらの異性体等が挙げられる。
【0046】
なお、オキソ脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明のオキソ脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、オキソ脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0047】
本発明の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式(II)および/または(III)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0048】
本発明の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3の炭化水素基は6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基は4個~6個の炭素原子を有する。また、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4は、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。さらに、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、炭素数7の直鎖の飽和炭化水素基(-(CH27-)であり、R4は、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)であることが好ましい。
【0049】
本発明の水酸化脂肪酸としては、具体的には、ヒドロキシオクタデカエン酸が挙げられる。例えば、ヒドロキシオクタデカエン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸およびそれらの異性体が挙げられる。
【0050】
なお、水酸化脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明の水酸化脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、水酸化脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0051】
なお、本明細書において例示されている化合物に異性体が存在する場合、特に記載のない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0052】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物として、上述のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や上述の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩のうちの少なくとも一つを含んでいればよく、すなわち、2以上のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩または水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含んでいてもよいし、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩との両方を含んでいてもよい。
【0053】
本発明の植物賦活剤は、分散または溶解の際のpHに大きく影響しないものであれば必要に応じて、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、アルカリ剤以外の他の成分を含んでもよい。このような他の成分としては、増粘剤や消泡剤、分散剤、界面活性剤、凍結防止剤等の農業上容認可能な添加剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本発明の植物賦活剤は、任意の方法で植物に施用することができる。例えば、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。具体的な施用方法は、施用される栽培植物や使用形態によって適宜選択され得るが、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、液面散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌灌注施用、塗布処理等の表面処理、育苗箱施用、単花処理、株元処理等が例示され得る。施用された植物において、本発明の植物賦活剤は、植物生長促進効果および例えば病害などのストレスに対する抵抗性を付与する。
【0055】
本発明の植物賦活剤を施用することのできる植物は、特に限定されるものではなく、植物一般に対して良好に用いることができる。例えば、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科の植物に対して、好適に施用され得る。また、施用の対象となる植物は野生型の植物に限定されず、例えば変異体や形質転換体等であってもよい。また、それぞれの植物の品種も特に限定されない。
【0056】
本発明の植物賦活剤を製造するためにオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を溶解または分散させるための方法としては、特段の制限はなく、公知の混合方法を用いることができる。例えば、分散液の均一性の向上等を目的として、ペイントシェーカー、ビーズミル、攪拌型分散機、ホモジナイザー、およびスターラー等を用いて、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を混合することもできる。
【0057】
本発明の植物賦活剤は、例えば水などの希釈剤を用いて、例えば約10~1000質量倍などに希釈されて、植物に施用されてもよい。希釈後の植物賦活剤においても、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が沈殿してくることはない。
【0058】
本発明の一実施形態において、本発明の植物賦活剤は、8.5以上、10以下程度の範囲であるpHを有する。このような範囲のpHに植物賦活剤のpHがコントロールされていると、上述のように植物賦活剤を希釈して植物に施用する場合においても、希釈後の植物賦活剤のpHが好適なものとなり得、本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が希釈後の植物賦活剤の溶液中でも安定的に分散されるかまたは溶解され得る。8.5以上、10以下の範囲であるpHの植物賦活剤を希釈した場合、希釈後に得られる植物賦活剤は、例えば、7より大きく、8.5未満であるpHを有する。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、希釈後の植物賦活剤中で安定的に溶解または分散されている。希釈後の植物賦活剤のpHは、7.5以上、8.0以下であることがさらに好適である。
【0059】
本発明の植物賦活剤には、得られる植物賦活剤について本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を配合することができる。当該その他の添加剤としては、上記に例示されているが、このような添加剤は、植物賦活剤が希釈されて用いられる場合、希釈前の植物賦活剤に添加されていてもよいし、また、希釈後に添加されてもよい。また、植物賦活剤を希釈するための希釈剤も、限定されるものではなく、得られる植物賦活剤について本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択され得る。例えば、希釈剤としては、水、アルコール類などが挙げられる。
【0060】
本発明においては、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の濃度は、0.0001~1重量%であることが望ましく、特に0.001~0.5重量%が望ましい。濃度が高すぎても、低すぎても植物賦活剤としての効果が低下するからである。なお、前記濃度は、植物賦活剤を希釈して使用する場合は、希釈後の濃度を言う。
【実施例
【0061】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
<植物賦活剤の調製>
実施例1
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物として、ケトオクタデカジエン酸である13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)((9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、ケイマンケミカル社製、100μg/100μLエタノール溶液)を用いた。13-oxoODA(100μg/100μLエタノール溶液)10mL(10mg)をエバポレーターでエタノールを蒸散させた。そこに、イオン交換水を100mL加えて溶解させ、100μg/mL(0.01質量%)の13-oxoODA水溶液を調整した後、そこから3mLを分取し、0.5mol/L水酸化カリウム溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)を5μL加えて水溶液のpHを8.5とした。これを、実施例1の試験用植物賦活剤とした。
実施例2
実施例1で調製した100μg/mLの13-oxoODA水溶液3mLを分取し、そのpHを、0.5mol/L水酸化カリウム溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)を8μL加えて、10に調整した。これを、実施例2の試験用植物賦活剤とした。
実施例3
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物として、ヒドロキシオクタデカエン酸である、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),10(S),13(S)-trihydroxy-11(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)、および、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),12(S),13(S)-trihydroxy-10(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)を2:1で混合した混合物を用いた。9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(200mg/L エタノール溶液)を30mL(6mg)と9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(200mg/L エタノール溶液)15mL(3mg)とを混合し、エバポレーターでエタノールを蒸散させた。そこに、イオン交換水を90mL加えて溶解させ、ヒドロキシオクタデカエン酸換算で濃度が100μg/mL(0.01質量%)の水溶液を調製し、そこから3mLを分取し、0.5mol/L水酸化カリウム溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)を5μL加えてこの水溶液のpHを8.5とした。これを、実施例3の試験用植物賦活剤用とした。
実施例4
実施例3で調製した、ヒドロキシオクタデカエン酸換算で濃度が100μg/mLの水溶液から3mLを分取し、そのpHを、0.5mol/L水酸化カリウム溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)を8μL加えて、10に調整した。これを、実施例4の試験用植物賦活剤とした。
実施例5
実施例1で調製したpH8.5の100μg/mLの13-oxoODA水溶液1mLに、希釈剤としてイオン交換水を9mL加えて10倍に希釈して、10μg/mL(0.001質量%)の13-oxoODA水溶液を10mL調製し、この水溶液のpHを7.5に調整した。これを、実施例5の試験用植物賦活剤とした。
実施例6
実施例3で調製した、ヒドロキシオクタデカエン酸換算で濃度が10μg/mLの水溶液1mLに、希釈剤としてイオン交換水を9mL加えて10倍に希釈して、10μg/mL(0.001質量%)のヒドロキシオクタデカエン酸水溶液を10mL調製し、この水溶液のpHを8.0に調整した。これを、実施例6の試験用植物賦活剤とした。
比較例1
実施例1で調製した100μg/mLの13-oxoODA水溶液3mLを分取し、リン酸(一級、富士フイルム和光純薬(株)製)20μLを添加してpH3に調整した。これを、比較例1の試験用植物賦活剤とした。
比較例2
実施例3で調製した、ヒドロキシオクタデカエン酸換算で濃度が100μg/mLの水溶液3mLを、リン酸(一級、富士フイルム和光純薬(株)製)20μLを添加してpH3に調整した。これを、比較例2の試験用植物賦活剤とした。
【0063】
<評価方法>
上記実施例1~6ならびに比較例1および2で調製した試験用植物賦活剤を下記の方法で試験し、評価した。
【0064】
<沈殿の有無>
作製した試験用植物賦活剤(実施例1~6ならびに比較例1および2)を室温で5週間静置し、目視で確認した。実施例1~6の試験用植物賦活剤では、沈殿物は確認できなかった。一方、pHが3に調整されている比較例1および2の試験用植物賦活剤では、沈殿物が確認された。
【0065】
以上の結果より、植物賦活剤のpHを7より大きく調整することで、植物賦活剤の有効成分であるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が安定的に溶解した、または、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の凝集が抑制され安定的に分散した植物賦活剤が作製できることがわかる。