(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】汚染土壌の湿式清浄方法及び汚染土壌の湿式清浄システム
(51)【国際特許分類】
B09C 1/00 20060101AFI20240501BHJP
C02F 11/143 20190101ALI20240501BHJP
B03B 5/00 20060101ALI20240501BHJP
B03B 7/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B09C1/00 ZAB
C02F11/143
B03B5/00 A
B03B7/00
(21)【出願番号】P 2020052108
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 達生
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】石田 能康
(72)【発明者】
【氏名】上村 昭博
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 直樹
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-103436(JP,A)
【文献】特開2014-161841(JP,A)
【文献】特開2019-171304(JP,A)
【文献】特開2015-221421(JP,A)
【文献】特開2011-183380(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0336937(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0319685(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
B09B 3/40
C02F 11/143
B03B 5/00
B03B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PFOS及びPFOA類縁化合物の少なくともいずれかを含む汚染物質による汚染土壌の湿式清浄方法であって、
前記汚染土壌に加水し、砂礫を分離するとともに、少なくとも、前記砂礫に含まれる砂から所定粒径より小さい細粒からなる泥を剥離することによって、前記汚染土壌を清浄砂礫と汚染泥に分離する工程と、
前記汚染泥に、
前記所定粒径より大きい吸着剤を混合する工程と、
前記汚染泥中の細粒と前記吸着剤を分離する工程と、
前記吸着剤を熱処理する工程と、
を含む汚染土壌の湿式清浄方法。
【請求項2】
前記汚染泥の分離は、前記細粒の粒径と前記吸着剤の粒径の差を利用して行われる、請求項1に記載の汚染土壌の湿式清浄方法。
【請求項3】
前記吸着剤の熱処理は、熱分解炉による前記汚染物質の熱分解であり、前記吸着剤は、粒状活性炭である、請求項1又は2に記載の汚染土壌の湿式清浄方法。
【請求項4】
前記熱処理により発生する廃ガスより、フッ化水素ガスを除去する工程をさらに含む、請求項3に記載の汚染土壌の湿式清浄方法。
【請求項5】
前記汚染土壌を清浄砂礫と汚染泥に分離する工程は、
前記汚染土壌から清浄礫を分離する工程と、
礫分離後の前記汚染土壌中の砂から、ウォータージェットにより、前記汚染物質及び細粒を剥離する工程と、
礫分離後の前記汚染土壌から清浄砂を分離する工程と、
を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の汚染土壌の湿式清浄方法。
【請求項6】
前記吸着剤を熱処理する工程において、PFOS及びPFOA類縁化合物が付着した、又は、フッ素含有有機化合物を含有する廃棄物を同時に熱処理する、請求項1~5のいずれか1項に記載の汚染土壌の湿式清浄方法。
【請求項7】
PFOS及びPFOA類縁化合物の少なくともいずれかを含む汚染物質による汚染土壌の供給装置と、
前記汚染土壌に加水し、砂礫を分離するとともに、少なくとも、前記砂礫に含まれる砂から所定粒径より小さい細粒からなる泥を剥離することによって、前記汚染土壌を清浄砂礫と汚染泥に分離する清浄砂礫分離装置と、
前記汚染泥に、
前記所定粒径より大きい吸着剤を混合する混合装置と、
前記汚染泥中の細粒と前記吸着剤を分離する吸着剤分離装置と、
前記吸着剤を熱処理する熱処理装置と、
を含む汚染土壌の湿式清浄システム。
【請求項8】
前記供給装置、前記清浄砂礫分離装置、前記混合装置、前記吸着剤分離装置及び前記熱処理装置は可搬式である、
請求項7に記載の汚染土壌の湿式清浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の湿式清浄方法及び汚染土壌の湿式清浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌しすすぎを行なった後、前記汚染物質を吸着した前記微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去して、該所定粒径を超える洗浄土壌を得る汚染土壌の洗浄方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、土壌汚染物質として、PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)及びPFOA(パーフルオロオクタン酸)が問題となっており、土壌中の濃度はもちろん、当該土壌より流出する水についてもPFOS・PFOA濃度を下げる必要性が指摘されている。PFOS・PFOAは難分解性であり、自然に分解されることがほとんどなく、汚染土壌の清浄化が必要である。
【0005】
しかしながら、土壌中のPFOS・PFOAを現実的なコストで除去する実用的な方法は知られていない。PFOS・PFOAの分解除去については、研究室レベルにより分解が可能である報告がなされているほかは、汚染土壌中の汚染物質を固定化してその流出を防止しようとする技術が大半であり、汚染土壌の根本的な清浄化をするものではない。
【0006】
上述の特許文献1に記載された技術では、汚染土壌より所定粒径を超える清浄土壌を分離できる可能性はあるものの、所定粒径を下回る汚染された土壌粒子、すなわち、汚染泥は依然として残存する。土壌の種類にも依存するものの、土壌中にしめる泥の割合は決して小さいものではなく、上記技術では引き続き大量の汚染泥が残存する。
【0007】
熱分解炉による加熱によりPFOS・PFOAを分解できることは知られている。しかしながら、大量の汚染泥を加熱処理するためには、大規模な設備を設置し、大量のエネルギーを投入する必要があり、現実的とはいえない。また、PFOS・PFOAによる土壌の汚染は、特定の工場や空港・軍事基地の跡地など、局所的に生じていることが知られている。このような局所的な土壌汚染に対して上述のような大規模な設備を逐一建設することは現実的でなく、かといって、少数の設備に集約すると汚染土壌の搬送の手間及びコストが生じ、いずれにしても実現困難である。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、土壌中のPFOS・PFOAを現実的なコストで、かつ、局所的な土壌汚染に対しても小規模な設備により清浄化できる汚染土壌の湿式清浄方法及び汚染土壌の湿式清浄システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄方法は、PFOS及びPFOA類縁化合物の少なくともいずれかを含む汚染物質による汚染土壌の湿式清浄方法であって、前記汚染土壌に加水し、砂礫を分離するとともに、少なくとも、前記砂礫に含まれる砂から所定粒径より小さい細粒からなる泥を剥離することによって、前記汚染土壌を清浄砂礫と汚染泥に分離する工程と、前記汚染泥に、前記所定粒径より大きい吸着剤を混合する工程と、前記汚染泥中の細粒と前記吸着剤を分離する工程と、前記吸着剤を熱処理する工程と、を含む。
【0010】
さらに、本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄方法では、前記汚染泥の分離は、前記細粒の粒径と前記吸着剤の粒径の差を利用して行われてよい。
【0011】
さらに、本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄方法では、前記吸着剤の熱処理は、熱分解炉による前記汚染物質の熱分解であり、前記吸着剤は、粒状活性炭であってよい。
【0012】
さらに、本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄方法は、前記熱処理により発生する廃ガスより、フッ化水素ガスを除去する工程をさらに含んでよい。
【0013】
さらに、本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄方法において、前記汚染土壌を清浄砂礫と汚染泥に分離する工程は、前記汚染土壌から清浄礫を分離する工程と、礫分離後の前記汚染土壌中の砂から、ウォータージェットにより、前記汚染物質及び細粒を剥離する工程と、礫分離後の前記汚染土壌から清浄砂を分離する工程と、を含んでよい。
【0014】
さらに、本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄方法は、前記吸着剤を熱処理する工程において、PFOS及びPFOA類縁化合物が付着した、又は、フッ素含有有機化合物を含有する廃棄物を同時に熱処理してよい。
【0015】
また、本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄システムは、PFOS及びPFOA類縁化合物の少なくともいずれかを含む汚染物質による汚染土壌の供給装置と、前記汚染土壌に加水し、砂礫を分離するとともに、少なくとも、前記砂礫に含まれる砂から所定粒径より小さい細粒からなる泥を剥離することによって、前記汚染土壌を清浄砂礫と汚染泥に分離する清浄砂礫分離装置と、前記汚染泥に、前記所定粒径より大きい吸着剤を混合する混合装置と、前記汚染泥中の細粒と前記吸着剤を分離する吸着剤分離装置と、前記吸着剤を熱処理する熱処理装置と、を含む。
【0016】
さらに、本発明の一側面に係る汚染土壌の湿式清浄システムでは、前記供給装置、前記清浄砂礫分離装置、前記混合装置、前記吸着剤分離装置及び前記熱処理装置は可搬式であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係る汚染土壌の湿式清浄システムの構成図である。
【
図2】湿式清浄システムにより実施される汚染土壌の湿式清浄方法の流れを説明するフロー図である。
【
図3】本発明の好適な実施形態において清浄砂礫分離装置により実施される汚染土壌からの清浄砂礫の分離方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の好適な実施形態に係る汚染土壌の湿式清浄システム1の構成図である。湿式清浄システム1には、供給装置2、清浄砂礫分離装置3、混合装置4、吸着剤分離装置5、熱処理装置6、排ガス清浄化装置7及び脱水装置8が含まれる。
【0019】
供給装置2は、汚染地域より採取された汚染土壌を清浄砂礫分離装置3に供給する。ここで、本明細書でいう汚染土壌は、PFOS及びPFOAとその類縁化合物の少なくともいずれかが含まれることにより汚染された土壌を指す。なお、以降の本明細書では、PFOS及びPFOAとその類縁化合物を「PFOS及びPFOA類縁化合物」と称するものとし、「PFOS及びPFOA類縁化合物」は、ペルフルオロオクチルスルホニル基(C8F17SO2-)又はペルフルオロオクチル基(C8F17-)を分子中に有する全ての化学物質をいうものとする。もちろん、かかる汚染土壌にPFOS及びPFOA類縁化合物以外の汚染物質、例えば、いわゆるPOPs(残留性有機汚染物質)と称される汚染物質が含まれ、かかる汚染物質をも除去するようにすることは全く差支えがなく、当該汚染物質がPFOS及びPFOA類縁化合物に類する性質を持つ場合には、本実施形態に係る汚染土壌の湿式清浄システム1により当該汚染物質の清浄化も十分に行えるものと考えられる。以降、本実施形態では、汚染物質としてPFOS及びPFOA類縁化合物を対象としているため、以降はPFOS及びPFOA類縁化合物による汚染とその清浄化について説明をする。
【0020】
なお、汚染土壌の湿式清浄システム1により清浄化処理が行われる土壌には、土壌以外の汚染された、又は汚染されていない廃棄物が混入していても差し支えない。それら廃棄物は、土壌を構成する礫・砂・泥を構成する細粒と同様に取り扱われるか、又は同様に取り扱うために細かく破砕するなどの前処理を施してもよい。
【0021】
供給装置2は、ベルトコンベアシステムやホッパといった、通常の土壌搬送装置であってよい。供給装置2を含め、以降説明する各装置は、汚染地域又はその近隣にて組み立て設置できる可搬式のものであり、汚染土壌の清浄化の開始・完了時に、トラックの荷台などに積載して簡易に搬入・搬出できるものである。したがって、供給装置2を含め、湿式清浄システム1に含まれる各装置は、その使用にあたって適切な設置工事は必要であるものの、それら装置を恒久的な施設として建設する必要は必ずしもない。
【0022】
清浄砂礫分離装置3は、汚染土壌より、清浄砂礫を分離する装置である。この分離の際に、汚染土壌の洗浄と砂礫の分離のために、汚染土壌には水が加えられる。ここで、土壌には、大小さまざまな粒径の土壌粒が含まれており、それらを大きいほうから大まかに区分すると、礫、砂、細粒となる。そして粘土分を構成する細粒と水とが混合されたスラリーが泥である。そのため、加水後の汚染土壌から清浄砂礫を分離された残渣は、細粒と水と汚染物質の混合物である汚染泥となる。
【0023】
PFOS及びPFOA類縁化合物は、比較的水に溶けやすい性質を持つことが知られている。そのため、清浄砂礫分離装置3において汚染土壌に加水することにより、土壌中のPFOS及びPFOA類縁化合物の大部分は、汚染土壌中の水分か洗浄のために加えられた水中に溶けだし、一部分が土壌粒の表面に吸着されていると考えられる。そして、土壌粒の体積と表面積との関係から、PFOS及びPFOA類縁化合物を含む汚染物質の大半は粒径の小さい土壌粒に吸着保持されている。また、粒径の大きな礫や砂といった土壌粒の表面に付着した汚染物質は、機械的物理的作用や、水洗により容易に剥離される。したがって、加水された汚染土壌から清浄な礫や砂を分離するためには、礫や砂の表面に付着している粘土分、すなわち、細粒をできる限り取り除くことが望ましい。
【0024】
したがって、清浄砂礫分離装置3は、汚染土壌を解砕するとともに、礫や砂の表面に付着した細粒を機械的作用や水洗により剥離することにより、汚染物質を除去した清浄砂礫を汚染泥から分離する装置である。本実施形態における清浄砂礫分離装置3の具体的な構成例は後述する。
【0025】
混合装置4は、汚染泥に吸着剤である粒状活性炭を混合する装置である。装置の具体的構成としては、粒状活性炭を汚染泥に対し所定の割合で供給する、ホッパなどの搬送装置と、供給された粒状活性炭と汚染泥とを混合するドラムミキサーなどの混合機を有するものであってよい。
【0026】
ここで、粒状活性炭は、PFOS及びPFOA類縁化合物を吸着する吸着剤として使用している。したがって、ここで使用する吸着剤としては、活性炭以外の吸着剤、例えばシリカゲルやゼオライト等であってもよい。また、その理由は後述するが、吸着剤の粒径は所定より大きいものとする。したがって、混合装置4では、所定粒径より大きい吸着剤を汚染泥に混合するものであり、そのような吸着剤の一具体例が、粒状活性炭である。
【0027】
汚染泥に粒状活性炭が混合されることにより、水中に溶解していたり、細粒表面に付着したりしていたPFOS及びPFOA類縁化合物の大部分は粒状活性炭に吸着され保持される。よって、混合装置4からは、汚染泥と粒状活性炭の混合物が排出されるが、その中に含まれる水及び土壌の細粒からはPFOS及びPFOA類縁化合物の大部分が除去されており、PFOS及びPFOA類縁化合物を吸着した粒状活性炭と混合されている状態となっている。
【0028】
吸着剤分離装置5は、汚染泥と粒状活性炭の混合物から、吸着剤、ここでは粒状活性炭を分離する。汚染泥と粒状活性炭の混合物中において、土壌の細粒はすでに清浄化されており、粒状活性炭の粒径は細粒の粒径より大きいため、振動篩、サイクロンによる遠心分離、ハイメッシュセパレータやスパイラル分級による遠心分離、又は浮遊分離等により、単に粒径の大きな粒子を分離することで粒状活性炭が得られる。そのため、粒状活性炭の粒径は、土壌の細粒より大きく、篩等の上述した方法により分離が可能な大きさに設定される。したがって、篩を用いる場合を例とすると、粒状活性炭は通さないが、土壌の細粒は通過する目の篩を使用することにより、この分離は容易に行える。粒状活性炭を分離された残渣は、PFOS及びPFOA類縁化合物がほぼ取り除かれた清浄泥となる。この清浄泥中には、清浄化された細粒と、粒状活性炭に吸着しきれなかった若干のPFOS及びPFOA類縁化合物が溶解した水が含まれる。
【0029】
熱処理装置6は、粒状活性炭に吸着されたPFOS及びPFOA類縁化合物を熱分解するための加熱装置である。熱処理装置6としては、具体的には、表面溶融炉、ロータリーキルン、亜臨界水反応資源再生装置、加熱水蒸気発生装置、電気炉といった既知の装置を利用することができ、PFOS及びPFOA類縁化合物を十分に熱分解するため、温度850℃以上、滞留時間2秒以上となるものを選択することが望ましい。また、この熱処理は、粒状活性炭ごとPFOS及びPFOA類縁化合物を加熱処理することにより行われるため、熱処理装置6の形式や大きさは、粒状活性炭の処理量に応じて適切なものを選定する。
【0030】
なお、本実施形態では吸着剤として、粒状活性炭を使用するものとして説明した。粒状活性炭のように、燃焼可能な担体を吸着剤として用いると、吸着剤自体の燃焼熱を熱処理のエネルギーとして利用できるため、熱処理装置6におけるエネルギーコストを低減することができ、好ましい。したがって、粒状活性炭以外にも、燃焼熱を発生する吸着剤であれば同様の効果が得られる。
【0031】
そして、熱処理装置6にて熱処理される対象は、粒状活性炭のみであり、若干の水分は含まれるが、原則として、土壌粒子は含まれない。そのため、熱処理を要する物質の質量総量が小さく、熱処理の負荷が低減されているため、熱処理装置6として小型のものが使用できるとともに、エネルギーコストを現実的なレベルに低く抑えることができる。また、PFOS及びPFOA類縁化合物は粒状活性炭に吸着され、高濃度に濃縮された状態で熱処理が実施されるため、熱処理の効率も高いものとなる。
【0032】
また、この熱処理装置6では、吸着剤である粒状活性炭の燃焼熱も利用できるため、発生熱に余裕を持たせることもできる。このような発生熱の余裕を利用して、PFOS及びPFOA類縁化合物を含有する化学薬品や、PFOS及びPFOA類縁化合物が付着した、又は、フッ素含有有機化合物を含有する廃棄物を、粒状活性炭と同時に熱処理装置6に投入し、安全に熱処理を行うこともできる。特に、廃プラスチックなど、燃焼熱を発生する廃棄物が汚染地域の近隣で発生し、又は、汚染土壌中に混入した廃棄物として分離されるような場合には、まとめてその処分ができるとともに、その燃焼熱を熱処理エネルギーとして利用できるため、経済的である。
【0033】
また、汚染地域の土壌に含まれる汚染された地下水を揚水し、かかる汚染水に含まれるPFOS及びPFOA類縁化合物その他の汚染物質を活性炭やイオン交換樹脂その他の吸着剤により浄化する場合があり、その際に生じる汚染物質を含有する吸着剤を、熱処理装置6により合わせて熱分解するようにしてもよい。
【0034】
熱処理装置6からは、フッ化水素ガスを含む排ガスが排出される。そのため、排ガス清浄化装置7では、排ガスに含まれるフッ化水素ガスをはじめ、その他の有害な成分を除去する。清浄化された排ガスは清浄排気として、大気中に放出される。また、排ガスから取り除かれた汚染物質は汚染水や塵埃となり、それぞれ、それらの性質に応じて適切な廃棄処分又は資源としての再利用がなされる。
【0035】
また、吸着剤分離装置5から排出された清浄泥は、脱水装置8により脱水され、水と細粒とに分離される。細粒はすでに清浄化されているため清浄細粒として建設資材その他の用途に再利用したり、土壌に戻したりすることができる。また、脱水された水には、吸着剤により吸着しきれなかったPFOS及びPFOA類縁化合物が若干溶解されている可能性があるため、原則的には再利用し、清浄砂礫分離装置3において汚染土壌に加える再利用水として再使用する。このようにすることで、PFOS及びPFOA類縁化合物を含む水を環境中に放出することなく、循環利用でき、また、汚染土壌の湿式清浄システム1が使用する水の総量を低減する効果が期待できる。
【0036】
なお、本実施形態に係る汚染土壌の湿式清浄システム1では、吸着剤分離装置5により分離した吸着剤のみを熱処理装置6にて熱処理するものとしたが、これに替え、脱水装置8により得られる清浄細粒から分離される、PFOS及びPFOA類縁化合物を含む水を熱処理装置6により熱処理するようにしてもよい。ただし、この場合には水分を十分に加熱する必要があるため、エネルギーコストの点で不利が予想される。
【0037】
図2は、湿式清浄システム1により実施される汚染土壌の湿式清浄方法の流れを説明するフロー図である。以下、当該湿式清浄方法の説明に際しては、適宜
図1を参照するものとする。
【0038】
まずステップS1にて、PFOS及びPFOA類縁化合物の少なくともいずれかを含む汚染物質により汚染された汚染土壌を搬入する。この搬入は、土壌汚染地域から重機等を用いて採取された汚染土壌を、供給装置2により逐次搬入することによりなされる。
【0039】
続くステップS2において、汚染土壌から清浄砂礫の分離を行う。この分離は汚染土壌に加水して、清浄砂礫分離装置3によりなされ、結果的に清浄砂礫と、汚染泥との分離がなされれば、その方法は必ずしも限定する必要はない。
【0040】
図3には、本実施形態において清浄砂礫分離装置3により実施される汚染土壌からの清浄砂礫の分離方法の一例を示す。清浄砂礫分離装置3では、まずステップS21により汚染土壌塊の解砕を行う。通常、土壌は礫、砂及び細粒と適宜の水分を含み、それらが一体に結合して大きな塊を形成しているため、これを細かく砕き、分離可能な状態とする。この時汚染土壌に加水し、解砕を容易にするとともに、汚染土壌の洗浄を行う。なお、ここでいう洗浄は、汚染土壌を構成する土壌粒の表面に吸着されているPFOS及びPFOA類縁化合物を、添加した水中に溶解剥離する意味である。この解砕には、回転式やロータリー式、破砕刃式などの適宜の機械的方法や、水流を利用した方法など、土壌に適した適宜の方法を選択してよい。
【0041】
続いてステップS22において、解砕済みの汚染土壌から礫を分離する。この分離は、いわゆる湿式分離により実施してよい。この分離に用いる機器の具体例としては、振動篩、サイクロン、ハイメッシュセパレータ、ログウォッシャ、スパイラル分級器、クラッシュファイヤーイヤーやこれらの組み合わせ等が挙げられる。礫は粒子が大きいため、その表面に付着した砂や細粒、汚染物質は容易に剥離し、また、前述したとおり、PFOS及びPFOA類縁化合物は比較的水に溶解しやすい性質を持っているため、この分離により十分に清浄な礫が得られるが、礫の排出口において水によるシャワーを当てるなどして、濡れている礫の表面に付着したPFOS及びPFOA類縁化合物を含有する水を洗い流すことにより、礫の清浄化をより完全なものとしてもよい。
【0042】
また、礫の表面に付着したPFOS及びPFOA類縁化合物が残存し、あるいは礫の表面に粘土分(細粒)が固着している場合には、これらを剥離するため、
図3に示したように、分離した礫を再度ステップS21へと戻して解砕の工程を再実施したり、礫の表面研磨をドラム式研磨機などの適宜の設備によって行ったりすることにより、礫を清浄化するとよい。
【0043】
礫が除去された後は、砂、細粒及び水の混合物であるスラリーが残存するが、この時、細粒は必ずしも完全に解砕されておらず、それらの一部分は砂を含み、あるいは含まない形で互いに固着して小径の粒子を形成している。そして、PFOS及びPFOA類縁化合物はこの粒子内部に取り込まれていたり、砂に強固に付着した細粒に吸着されていたりしており、このままでは砂及び細粒から除去することができない。
【0044】
そこで、ステップS23において、ウォータージェット処理を行い、水流を利用して上述の小径の粒子を砂及び細粒に破砕し、また砂の表面に付着した細粒を剥離する。このウォータージェット処理は、単に高圧水を吹き付ける処理であってもよいし、コリジョンジェット(登録商標)処理と称される、砂、細粒及び水の混合物であるスラリー自体に高圧をかけ高速の噴流として噴出させ、適宜のターゲットに衝突させ、あるいは、噴流同士を互いに衝突させる方法によりなされてもよい。この処理の結果、スラリーは、細粒及びPFOS及びPFOA類縁化合物が剥離された清浄な砂と、PFOS及びPFOA類縁化合物を吸着した解砕された細粒と、PFOS及びPFOA類縁化合物が溶解した水との混合物となっている。
【0045】
さらに、ステップS24にて、スラリーから砂を分離する。この分離もまた、いわゆる湿式分離により実施してよく、砂と細粒との粒径の差により容易に行われる。この分離も礫と同様、振動篩、サイクロン、ハイメッシュセパレータ、ログウォッシャ、スパイラル分級器、クラッシュファイヤーイヤーやこれらの組み合わせ等の機器により行ってよい。また、ステップS23におけるウォータージェット処理により砂は清浄化されているため、この分離により、十分に清浄な砂が得られることになる。排出口において水によるシャワーを当てるなどの水洗を礫と同様に行ってもよい。
【0046】
以上は汚染土壌から清浄砂礫を分離する方法の一例であり、かかる方法やかかる方法に類する方法を用いることにより、汚染土壌を清浄砂礫と汚染泥とに分離することができる。また、清浄砂礫分離装置3は、かかる方法を実施できる一群の装置であってよく、必ずしも単独の装置として製造され設置される必要はない。
【0047】
図2に戻り、ステップS3において、混合装置4により汚染泥に所定粒径より大きい吸着剤、本実施形態では粒状活性炭が混合される。この所定粒径は、続く工程において吸着剤と土壌中の細粒とを分離できるものに設定され、少なくとも、その平均径は、土壌中の細粒の平均径より大きいものとされる。
【0048】
PFOS及びPFOA類縁化合物の吸着能は、土壌中の細粒より、吸着剤のほうが大きい。そのため、本実施形態に即して説明すると、スラリー中の細粒表面に吸着され付着していたPFOS及びPFOAは、粒状活性炭に吸着保持されることになり、細粒からは剥離される。さらに、スラリー中の水分に溶解していたPFOS及びPFOA類縁化合物の大部分もまた、粒状活性炭に吸着される。この結果、スラリーは、清浄化された細粒と、少量のPFOS及びPFOA類縁化合物を溶解した水と、PFOS及びPFOA類縁化合物を吸着した粒状活性炭の混合物となる。
【0049】
なお、スラリー中に含まれる水に含まれるPFOS及びPFOA類縁化合物の濃度は十分に低く、さらに、各国において定められる環境基準値を下回るように管理されることが望ましい。そのような基準値としては、例えば、50ng/Lである。この水は、原則として再利用され、環境中に排出されないものとして想定されているが、その含有するPFOS及びPFOA類縁化合物の濃度を十分に低いものに保つことで、かかる水の漏洩が生じた際や、土壌の清浄化処理が終了した際に残存する水を廃棄する際に、周辺環境を汚染することを防止できる。
【0050】
そして、ステップS4において、吸着剤分離装置5により吸着剤を分離する。この分離は、吸着剤の粒径と、土壌の細粒の粒径の差、すなわち、吸着剤の粒径が細粒の粒径より大きいことを利用して行われる。この結果、汚染土壌に含まれていた礫、砂は十分に清浄化された上で、また、PFOS及びPFOA類縁化合物は吸着剤に吸着された状態で取り出される。後には、十分に清浄化された細粒と、少量のPFOS及びPFOA類縁化合物を溶解した水の混合物である、汚染泥が残る。
【0051】
ステップS5では、吸着剤を熱処理装置6である適宜の加熱炉、一例として、ロータリーキルンにより加熱することにより、PFOS及びPFOA類縁化合物を分解する。この時、残存していた水分は水蒸気に、粒状活性炭は燃焼して二酸化炭素になり、PFOS及びPFOA類縁化合物は分解されてフッ化水素ガス及び二酸化炭素となり、排ガスとして排出される。
【0052】
排ガス中には高濃度のフッ化水素ガスが含まれる可能性があり、これをそのまま大気中に放出することはできないため、ステップS6では、かかる排ガスの清浄化、すなわち、廃ガス中からの有害物質の除去を排ガス清浄化装置7により行う。
【0053】
具体的には、排ガスからのフッ化水素ガスの除去方法として、いわゆるスクラバーを用いてフッ化水素を水性液中に溶解させたり、排ガスを乾燥水酸化アルミニウム充填塔に通してフッ化アルミニウムとして固定したりする方法などが挙げられる。排ガス中に残留するフッ化水素ガスの濃度を十分に下げるため、これらの装置を多段にしたり、組み合わせたりしてよい。
【0054】
また、排ガス中に含まれる他の汚染物質を除去するため、排ガス清浄化装置7には、除塵装置や、脱硫装置等の装置が含まれてもよい。また、各汚染物質の除去装置において処理を行う際の排ガスの温度が適正なものとなるよう、排ガス清浄化装置7は熱交換器を備えていてもよい。かかる排ガス清浄化装置7により清浄化された清浄排気は大気中に放出され、水性液中に溶解し、あるいは固定化されたフッ化化合物や塵埃、硫化物などは、それぞれ適宜の処理乃至再利用がなされる。
【0055】
そして、ステップS4において吸着剤が分離された後の残渣である汚染泥は、ステップS7において脱水され、清浄細粒と、少量のPFOS及びPFOA類縁化合物を溶解した水とに分離される。脱水された水は、ステップS2における清浄砂礫の分離の際に添加する水として循環利用される。
【0056】
以上説明した汚染土壌の湿式清浄方法では、熱処理による分解(ステップS5)の段階で、土壌を構成する礫、砂及び細粒の全てが分離されている。したがって、土壌を構成する粒子を含む状態での熱処理が必要なく、そのため、熱処理を要する汚染物質量が小さく抑えられるため、熱処理装置6自体が小規模なものですむ。
【0057】
このことにより、本実施形態に係る汚染土壌の湿式清浄方法及び、同方法を実現する汚染土壌の湿式清浄システム1においては、熱処理装置6を恒久的な設備として建設する必要がなく、可搬可能な装置として構成することが可能であるとともに、熱処理に要するエネルギーコストを実用的に十分低いものに抑えることができるのである。
【0058】
その結果、本実施形態に係る汚染土壌の湿式清浄システム1は、PFOS及びPFOA類縁化合物による土壌の汚染が生じている特定の区域に必要な時に設置して、汚染土壌の清浄化を行い、清浄化の終了後はこれを速やかに撤去することが容易である。そのため、大量の汚染土壌を長距離運送するコストを不要と出来るほか、多数か所の汚染区域に対して同一の設備を繰り返し使用することにより、総合的な設備コストを低減することができ、実用上の価値が極めて高いシステムとなっている。
【符号の説明】
【0059】
1 湿式清浄システム、2 供給装置、3 清浄砂礫分離装置、4 混合装置、5 吸着剤分離装置、6 熱処理装置、7 排ガス清浄化装置、8 脱水装置。