(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20240501BHJP
B24B 37/26 20120101ALI20240501BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B24B37/24 E
B24B37/24 B
B24B37/26
H01L21/304 622F
(21)【出願番号】P 2020058676
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柏田 太志
(72)【発明者】
【氏名】徳重 伸
(72)【発明者】
【氏名】高木 正孝
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-025549(JP,A)
【文献】特開2018-051668(JP,A)
【文献】特開2015-063782(JP,A)
【文献】特開2012-096344(JP,A)
【文献】特開平06-220151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と、該不織布に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有し、
前記研磨層の平均厚さをTとしたとき、前記研磨面から前記定盤面に向かって0.05T以上0.35T以下である研磨領域の空隙率V1と、前記定盤面から前記研磨面に向かって0.05T以上0.35T以下である定盤領域の空隙率V2と、の差(V1-V2)が、2.0%以上15.0%以下である、
研磨パッド。
【請求項2】
前記空隙率V1が、
7.0%以上
75.0%以下であり、
前記空隙率V2が、
5.0%以上
60.0%以下である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記研磨領域と、前記定盤領域と、の間の領域を、中間領域としたとき、
前記中間領域の空隙率V3は、前記空隙率V2より大きく、かつ、前記空隙率V1未満である、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記研磨層の平均厚さTは、0.8mm以上4.0mm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記研磨面に、深さ0.5mm以上0.7mm以下の溝が形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨パッドの製造方法であって、
不織布に対して樹脂を含浸させることにより、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有する樹脂含浸不織布を得る、樹脂含浸工程と、
前記樹脂含浸不織布の表面のいずれか一方又は両方を除去する、表面除去工程と、
を有する、研磨パッドの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂含浸工程は、前記不織布に対して第1の樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、該樹脂溶液が含浸した前記不織布を凝固液に浸漬して、前記第1の樹脂を凝固させる湿式凝固工程を含む、請求項6記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂含浸工程は、前記不織布に対して、プレポリマーと、硬化剤と、を含む溶液を含浸させ、前記プレポリマーと前記硬化剤とを反応させて第2の樹脂を形成する乾式凝固工程を含む、請求項6又は7に記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂含浸工程において、前記湿式凝固工程後に前記乾式凝固工程を行う、請求項8に記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項10】
研磨スラリーの存在下、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、研磨加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコンウェハ、ガラス、磁気ディスク、サファイア、及びSiCのような平坦性が要求される材料には、研磨パッドを用いた研磨加工が行われる。
【0003】
従来、そのような研磨加工に用いる研磨パッドについて、所望の性能を研磨パッドに付与することを目的として、空隙率が全体として均一な研磨パッドが開発されてきた。例えば、空隙率が全体として均一であり、かつ、硬度が低い(軟らかい)研磨パッドを被研磨物の研磨に用いると、研磨後の被研磨物にスクラッチが発生することを抑制することができる傾向にあることが知られている。
【0004】
他方、硬度の異なる2以上の層を接着剤により接着した研磨パッドも開発されている。例えば、特許文献1には、極細繊維を表面に有する研磨布であって、極細繊維層、接着層、補強層の三層構造からなり、接着層が面方向に非連続な構造を有することを特徴とする研磨布が開示されている。特許文献1には、上記のような研磨布は、研磨加工時の加工安定性、および研磨布製造時の工程通過性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献1に記載のものを始めとする従来の研磨パッドを詳細に検討したところ、従来の研磨パッドを用いた研磨では、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状を十分良好に保ちながら、スクラッチの発生を抑制させることが困難であるということがわかった。
【0007】
例えば、空隙率が全体として均一であり、かつ、硬度が低い(軟らかい)研磨パッドは、研磨パッドが被研磨物に対して過度に追従するため、得られる被研磨物の端部形状がダレる又はハネる傾向にある。また、特許文献1に開示されるような、硬度の異なる2以上の層を接着剤により接着した研磨パッドは、そのような接着層が存在することに起因して、研磨後の被研磨物の平坦性が十分ではない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状を十分良好に保ちながら、スクラッチの発生を抑制させることができる研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、研磨面側の空隙率と、定盤面側の空隙率との差が所定の範囲である研磨パッドが、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状を十分良好に保ちながら、スクラッチの発生を抑制させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
不織布と、該不織布に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有し、
前記研磨層の平均厚さをTとしたとき、前記研磨面から前記定盤面に向かって0.05T以上0.35T以下である研磨領域の空隙率V1と、前記定盤面から前記研磨面に向かって0.05T以上0.35T以下である定盤領域の空隙率V2と、の差(V1-V2)が、2.0%以上15.0%以下である、
研磨パッド。
[2]
前記空隙率V1が、7.0%以上75.0%以下であり、
前記空隙率V2が、5.0%以上60.0%以下である、[1]記載の研磨パッド。
[3]
前記研磨領域と、前記定盤領域と、の間の領域を、中間領域としたとき、
前記中間領域の空隙率V3は、前記空隙率V2より大きく、かつ、前記空隙率V1未満である、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
[4]
前記研磨層の平均厚さTは、0.8mm以上4.0mm以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[5]
前記研磨面に、深さ0.5mm以上0.7mm以下の溝が形成されている、[1]~[4]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[6]
[1]~[5]のいずれか1つに記載の研磨パッドの製造方法であって、
不織布に対して樹脂を含浸させることにより、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有する樹脂含浸不織布を得る、樹脂含浸工程と、
前記樹脂含浸不織布の表面のいずれか一方又は両方を除去する、表面除去工程と、
を有する、研磨パッドの製造方法。
[7]
前記樹脂含浸工程は、前記不織布に対して第1の樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、該樹脂溶液が含浸した前記不織布を凝固液に浸漬して、前記第1の樹脂を凝固させる湿式凝固工程を含む、[6]記載の研磨パッドの製造方法。
[8]
前記樹脂含浸工程は、前記不織布に対して、プレポリマーと、硬化剤と、を含む溶液を含浸させ、前記プレポリマーと前記硬化剤とを反応させて第2の樹脂を形成する乾式凝固工程を含む、[6]又は[7]に記載の研磨パッドの製造方法。
[9]
前記樹脂含浸工程において、前記湿式凝固工程後に前記乾式凝固工程を行う、[8]に記載の研磨パッドの製造方法。
[10]
研磨スラリーの存在下、[1]~[5]のいずれか1つに記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、研磨加工物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状を十分良好に保ちながら、スクラッチの発生を抑制させることができる研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
[研磨パッド]
本実施形態の研磨パッドは、不織布と、該不織布に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、該研磨層の研磨面側の空隙率が、定盤面側の空隙率よりも所定の範囲内で高いものである。以下、各構成についてより詳細に説明する。
【0014】
(空隙率)
上記構成を有するために、本実施形態の研磨層における、研磨領域の空隙率V1と、定盤領域の空隙率V2との差(V1-V2)は、2.0%以上15.0%以下である。ここで、「研磨領域」とは、研磨層の平均厚さをTとしたときに、研磨面から定盤面に向かって0.05T以上0.35T以下である領域である。また、「定盤領域」とは、研磨層の平均厚さをTとしたときに、定盤面から研磨面に向かって0.05T以上0.35T以下である領域である。また、「研磨面」とは、被研磨物を研磨する研磨層の面であり、「定盤面」とは、定盤に直接又は間接的に固定される研磨層の面である。「定盤に間接的に固定される」とは、接着剤又は接着テープなどを介して研磨層が定盤に固定される態様を含むことを意味する。
【0015】
このように、研磨層における研磨領域の空隙率を定盤領域の空隙率よりも所定の範囲内で高くすることにより、研磨時において研磨面にかかる研磨圧力をより応力分散することができる。そのため、スクラッチの発生を抑制することができる。
【0016】
また、定盤領域の空隙率を研磨領域の空隙率よりも所定の範囲内で低くすることにより、定盤領域の剛性がより向上し、研磨パッドが被研磨物に過度に追従することを抑制する。そのため、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、端部形状がより良化する。更に、定盤領域の空隙率が所定の範囲内で低いため、定盤領域の剛性が高く、定盤の凹凸の影響を受けにくい。そのため、得られる被研磨物の平坦性がより向上する。
【0017】
なお、本実施形態において「被研磨物の平坦性がより向上する」とは、被研磨物の研磨された表面が全体としてより平坦であることを意味する。これは、グローバル平坦性が良好であるということもできる。また、「端部形状がより良化する」とは、被研磨物の研磨された表面のうち、その表面の端部がより平坦であることを意味する。これは例えば、被研磨物の外周に生じる、ダレ形状やハネ形状(「スキージャンプ形状」ともいう。)が抑制されていることを意味する。
【0018】
上記のような観点から、研磨領域の空隙率V1と、定盤領域の空隙率V2との差(V1-V2)は、好ましくは3.0%以上12.0%以下であり、より好ましくは4.0%以上10.0%以下であり、更に好ましくは5.0%以上9.0%以下である。上記空隙率の差(V1-V2)が上記の範囲にあることにより、研磨領域の剛性と定盤領域のクッション性とのバランスに一層優れ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、及び端部形状がより良化する。
【0019】
研磨領域の空隙率V1は、特に限定されないが、好ましくは7.0%以上75.0%以下であり、より好ましくは10.0%以上65.0%以下であり、更に好ましくは15.0%以上50.0%以下であり、更により好ましくは22.0%以上35.0%以下であり、特に好ましくは23.0%以上35.0%以下である。上記空隙率V1が上記の範囲にあると、研磨領域の軟性が一層向上するため、スクラッチの発生を一層抑制できる傾向にある。
【0020】
定盤領域の空隙率V2は、特に限定されないが、好ましくは5.0%以上60.0%以下であり、より好ましくは10.0%以上45.0%以下であり、更に好ましくは15.0%以上30.0%以下であり、特に好ましくは15.0%以上25.0%以下である。上記空隙率V2が上記の範囲にあると、定盤領域の剛性が一層向上するため、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にある。
【0021】
研磨領域と定盤領域との間の領域、すなわち、研磨面から定盤面に向かって0.35T超過0.65T未満である領域を中間領域としたとき、中間領域の空隙率V3は、好ましくは、空隙率V2より大きく、かつ、空隙率V1未満である。すなわち、研磨層から、研磨面から定盤面に向かって0.05T以下の領域及び定盤面から研磨面に向かって0.05T以下の領域を除いた残部を3等分した場合、研磨面側に位置する部分と、中央に位置する部分と、定盤面側に位置する部分とは、この順に空隙率が大きくなることが好ましい。本実施形態の研磨層は、より好ましくは、研磨面から定盤面に向かって、研磨層の厚さ方向に垂直な断面の断面空隙率が連続的に小さくなる。そのような態様によれば、研磨領域の軟性と定盤領域の剛性とのバランスに一層優れる。そのため、得られる被研磨物の平坦性及び端部形状を一層十分良好に保ちながら、スクラッチの発生を一層抑制させることができる傾向にある。
【0022】
なお、本明細書において「研磨面から定盤面に向かって、研磨層の厚さ方向に垂直な断面の断面空隙率が連続的に小さくなる」とは、研磨層において研磨層の厚さ方向に垂直な任意の2つの断面の空隙率を測定した際に、研磨面側に位置する断面の空隙率が定盤面側に位置する断面の空隙率よりも漸増する傾向を示すことを意味する。
【0023】
中間領域の空隙率V3と、定盤領域の空隙率V2との差(V3-V2)は、好ましくは3.0%以上10.0%以下であり、より好ましくは4.0%以上8.5%以下であり、更に好ましくは5.0%以上6.5%以下である。上記空隙率の差(V3-V2)が上記の範囲にあることにより、定盤領域の剛性が一層向上する。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、及び端部形状が一層良化する傾向にある。
【0024】
研磨領域の空隙率V1と、中間領域の空隙率V3との差(V1-V3)は、好ましくは0.3%以上7.5%以下であり、より好ましくは0.7%以上5.0%以下であり、更に好ましくは1.0%以上2.5%以下である。上記空隙率の差(V1-V3)が上記の範囲にあることにより、研磨層の定盤面側のクッション性が一層向上する。その結果、スクラッチの発生を抑制することができ、また、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にある。
【0025】
上述した各空隙率及びその差を上記の範囲に制御する方法としては、特に制限されないが、例えば、研磨層が含有する樹脂の含浸量を適宜調整する方法が挙げられる。具体的には、研磨層の樹脂含浸量が厚さ方向で異なるように調整する場合、研磨領域の樹脂含浸量を、定盤領域の樹脂含浸量より小さくすることが考えられる。
【0026】
研磨層の樹脂含浸量が厚さ方向で異なるように調整する方法としては、特に制限されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、不織布に含浸させた樹脂を凝固する際に、不織布の内部において凝固する樹脂の量と比較して、不織布の表面において凝固する樹脂の量が多くなる(以下、「マイグレーション」ともいう。)ような条件下で樹脂を凝固する。すなわち、樹脂のマイグレーションが生じた樹脂含浸不織布は、不織布の中央部における空隙率が高くなり、不織布の表面部における空隙率が低くなる。その後、例えば、不織布の中央部を露出させるように、不織布を上下にスライスすることにより、空隙率が低い領域、及び空隙率が高い領域を有する樹脂含侵不織布を得る。すなわち、厚さ方向で樹脂含浸量の異なる樹脂含侵不織布を得ることができる。また、マイグレーションを生じた樹脂含浸不織布の一方又は両方の表面にバフ等の加工を施すことにより、厚さ方向で樹脂含浸量の異なる樹脂含侵不織布を得てもよい。
【0027】
上記方法に加えて又は代えて、不織布に樹脂を均一に含浸させた後、得られた樹脂含浸不織布の一部の領域にのみ更に樹脂を含浸させることで、一部の領域のみ樹脂含浸量が高い樹脂含浸不織布を得てもよいし、得られた樹脂含浸不織布の一部の領域をその樹脂が可溶な溶媒に浸漬し、その部分の樹脂の一部を除去することで、一部の領域のみ樹脂含浸量が高い樹脂含浸不織布を得てもよい。
【0028】
なお、研磨層の各領域における空隙率は、例えば、研磨層の厚さ方向に平行な断面の断面空隙率を測定することで算出することができる。具体的には、研磨層の厚さ方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得られたSEM写真を用いて当該断面の空隙率を測定すればよい。より詳細には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0029】
本実施形態の研磨層は、研磨領域、定盤領域、及び中間領域が一体となった1つの研磨層であり、例えば、空隙率が異なる2以上の層を接着部により接着して積層型の研磨層としたものは含まれない。積層型の研磨層としては、具体的には、空隙率が相対的に高い研磨層と、空隙率が相対的に低い定盤層とを、接着剤又は接着シートにより接着したものが挙げられる。このような場合、そのような接着部が存在することに起因して、研磨面内の荷重にばらつきが生じ、得られる被研磨物の平坦性が悪化する傾向にある。また、接着部が存在する部分と存在しない部分ではスラリーの透過性が異なるため、接着部を有する研磨層ではスラリーの目詰まりも生じやすくなる傾向にある。その結果、研磨パッドの寿命が短くなる。
【0030】
これに対して、本実施形態の研磨層は、1つの層が空隙率の異なる研磨領域と定盤領域とを有し、その間に接着部を有する必要がないため、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、端部形状がより良化する。また、本実施形態の研磨層は、1つの層が空隙率の異なる研磨領域と定盤領域とを有し、その間に接着部を有する必要がないため、スラリーの透過性が均一で、目詰まりも生じにくい。その結果、本実施形態の研磨パッドの寿命は長くなる傾向にある。
【0031】
ここで、「接着部」とは、接着剤の硬化物を含有し、かつ、2以上の部材を接着している部分のことを意味し、例えば、接着剤の硬化物、及び接着剤を有する接着シートが挙げられる。例えば、空隙率の異なる層A又は層Bのいずれか一方の表面に接着剤を塗布し、その接着剤を塗布した表面に他方の層を密着させた後に接着剤を硬化させることで、接着剤の硬化物を介して層Aと層Bとを接合した場合、その接着剤の硬化物は「接着部」に相当する。上記接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド系接着剤、ポリエステル系接着剤、エチレン-酢酸ビニル系接着剤、アクリル系接着剤、オレフィン系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、及びシリコーン系接着剤が挙げられる。
【0032】
本実施形態の研磨層の平均厚さTは、特に限定されないが、好ましくは0.8mm以上4.0mm以下であり、より好ましくは0.9mm以上2.0mm以下であり、更に好ましくは1.0mm以上1.5mm以下である。上記平均厚さTが上記の範囲にあることにより、研磨パッドの被研磨物に対する追従性が一層好適な範囲となるため、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にある。
【0033】
また、研磨層の研磨面には、好ましくは、深さ0.5mm以上0.7mm以下の溝が形成されている。このような溝が研磨面に形成されていることにより、研磨時における研磨面でのスラリーの流動性が一層向上し、研磨レートが一層向上する傾向にある。
【0034】
(不織布)
研磨層を構成する不織布としては、研磨パッドの研磨層に使用されるものであれば特に限定されず、種々公知のものを用いることができる。そのような不織布としては、特に限定されないが、従来公知の常法、例えば、スパンボンド法、メルトブローン法、乾式法又は湿式法により製造されたものであってもよい。また、本実施形態の研磨層に含まれる不織布として、市販のものを用いてもよい。
【0035】
不織布に含まれる繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリヘキサメチレンテレフタレートのうちの1種以上を含む芳香族ポリエステル系繊維;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及びポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体のうちの1種以上を含む脂肪族ポリエステル系繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、及びポリアミド6-12のうちの1種以上を含むポリアミド系繊維;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、及び塩素系ポリオレフィンのうちの1種以上を含むポリオレフィン系繊維;エチレン単位を25~70モル%含有する変性ポリビニルアルコールを含む変性ポリビニルアルコール系繊維;並びに、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーを含むエラストマー系繊維が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本実施形態の研磨層を構成する不織布は、好ましくは芳香族ポリエステル系繊維を含み、より好ましくはポリエチレンテレフタレート系繊維を含む。芳香族ポリエステルは剛性に優れるため、不織布が上記態様であると、研磨パッドの被研磨物に対する追従性が一層好適な範囲となる。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にある。
【0037】
不織布に含まれる繊維としては、特に限定されないが、好ましくは1.0dtex以上10.0dtex以下の繊維であり、より好ましくは1.5dtex以上7.0dtex以下の繊維であり、更に好ましくは2.0dtex以上4.0dtex以下の繊維である。このような繊維を用いることにより、研磨パッドの被研磨物に対する追従性が一層好適な範囲となる。その結果、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にある。
【0038】
不織布に含まれる繊維の繊維長は特に限定されないが、例えば、1cm以上10cm以下であってもよく、1.5cm以上8.0cm以下であってもよく、2cm以上6cm以下であってもよい。また、上記繊維の断面形状は特に限定されないが、例えば、円形であってもよく、楕円形であってもよい。なお、不織布に含まれる繊維の繊維長は、従来公知の方法により測定すればよい。
【0039】
なお、研磨層が有する不織布は、1種類の繊維単独からなるものであってもよく、2種以上の繊維を含むものであってもよい。
【0040】
(樹脂)
研磨層を構成する樹脂としては、研磨パッドの研磨層に使用されるものであれば特に限定されず、種々公知のものを用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、湿式含浸により不織布に含浸できる樹脂、及び乾式含浸により不織布に含浸できる樹脂が挙げられる。本実施形態の研磨層が含有する樹脂としては、1種の樹脂を単独で、又は2種以上の樹脂を用いることができる。
【0041】
湿式含浸により不織布に含浸できる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン、及びポリウレタンポリウレアのようなポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート、及びポリアクリロニトリルのようなアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、及びポリフッ化ビニリデンのようなビニル系樹脂、ポリサルホン、及びポリエーテルサルホンのようなポリサルホン系樹脂、アセチル化セルロース、及びブチリル化セルロースのようなアシル化セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂、並びにポリスチレン系樹脂が挙げられる。ポリウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0042】
湿式含浸により不織布に含浸できる樹脂の23±2℃における100%モジュラスは、好ましくは5.0MPa以上20.0MPa以下であり、より好ましくは6.0MPa以上18.0MPa以下であり、更に好ましくは7.0MPa以上16.0MPa以下である。上記樹脂の100%モジュラスが上記の範囲にあることにより、研磨領域の剛性と定盤領域のクッション性とのバランスに一層優れ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、及び端部形状がより良化する傾向にある。
【0043】
なお、「100%モジュラス」とは、その樹脂からなるシートを100%伸ばしたとき、すなわち、元の長さの2倍に伸ばしたとき、の引張力を試験片の初期断面積で除した値である。
【0044】
乾式含浸により不織布に含浸できる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、硬化剤であるアミン化合物及び/又は多価アルコール化合物と、それらを溶解可能な溶媒とを含む溶液から得られるポリウレタン系樹脂が挙げられる。ここで、ウレタンプレポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、2,4-トリレンジイソシアネートとプレンツカテコールとの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、及びイソシアヌル酸とヘキサメチレンジイソシアネートとの付加物が挙げられる。また、硬化剤のうちアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-メチル-2,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[3-(イソプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルペンチルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス(3,5-ジアミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、トリメチルエチレンビス-4-アミノベンゾネート、及びポリテトラメチレンオキサイド-di-p-アミノベンゾネートが挙げられる。硬化剤のうち多価アルコール化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールメタンが挙げられる。これらのウレタンプレポリマー及び硬化剤は、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0045】
末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーにおける、イソシアネート基含有率は、特に限定されないが、好ましくは3%以上20%以下であり、より好ましくは4%以上15%以下であり、更に好ましくは5%以上10%以下である。
【0046】
本実施形態の研磨層は、樹脂として、好ましくはウレタン樹脂を含有する。あるいは、好ましくは、湿式樹脂である第1の樹脂と、乾式樹脂である第2の樹脂とを含有する。また、本実施形態の研磨層は、樹脂として、より好ましくは熱可塑性ウレタン樹脂及び熱硬化性ウレタン樹脂を含有する。このような樹脂を用いることにより、研磨層の酸化剤等に対する耐薬品性が一層向上するため、酸化剤等を用いた難削材の研磨に対して、製品寿命が一層長くなる傾向にある。
【0047】
本実施形態の研磨パッドを製造する方法は、上述した本実施形態の研磨パッドの構成が得られる方法である限り、特に限定されるものではない。研磨パッドを製造する方法としては、例えば、以下に記載する研磨パッドの製造方法を用いることができるが、以下に限られるものではない。
【0048】
[研磨パッドの製造方法]
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、不織布に対して樹脂を含浸させることにより、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有する樹脂含浸不織布を得る樹脂含浸工程と、得られた樹脂含浸不織布の表面のいずれか一方又は両方を除去する表面除去工程とを有する。
【0049】
上記の構成を有することにより、研磨領域の空隙率V1と、定盤領域の空隙率V2との差(V1-V2)が、2.0%以上15.0%以下である研磨層をより容易に得ることができる。以下、各工程について説明する。
【0050】
(樹脂含浸工程)
本実施形態の研磨パッドの製造方法における樹脂含浸工程は、不織布に対して樹脂を含浸させることにより、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有する樹脂含浸不織布を得る工程である。樹脂含浸工程は、上記の構成を有する樹脂含浸不織布を得ることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、湿式凝固又は乾式凝固により、不織布に樹脂を含浸させる工程であってもよい。なお、本実施形態において、湿式凝固に用いる樹脂を「第1の樹脂」といい、乾式凝固により形成される樹脂を「第2の樹脂」という。
【0051】
湿式凝固工程においては、不織布に対して第1の樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、該樹脂溶液が含浸した不織布を凝固液に浸漬して、第1の樹脂を凝固させる。このように、樹脂溶液を、第1の樹脂に対して貧溶媒である凝固液に浸漬することで樹脂を凝固再生させる方法を、湿式凝固という。不織布に樹脂溶液を含浸した状態で、第1の樹脂を湿式凝固させることで、凝固液中では、不織布の繊維に付着している樹脂溶液の表面において樹脂溶液の溶媒と凝固液との置換が進行するため、樹脂は繊維の表面に凝固再生される。
【0052】
乾式凝固工程においては、不織布に対して、プレポリマーと、硬化剤と、を含む溶液を含浸させ、プレポリマーと硬化剤とを反応させて第2の樹脂を形成する。このように、樹脂のプレポリマーと、プレポリマーに対する硬化剤とを反応させることで第2の樹脂を凝固させる方法を、乾式凝固という。不織布にプレポリマーと硬化剤とを含む溶液を含浸した状態で、プレポリマーと硬化剤とを反応させることで、不織布の繊維の表面に第2の樹脂を凝固させることができる。
【0053】
上記湿式凝固工程は、例えば、以下のようにすればよい。まず、上述した第1の樹脂と、該第1の樹脂を溶解可能であって後述する凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて研磨層に配合するその他の添加剤とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。上記の溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、メチルエチルケトン(MEK)、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0054】
次に、不織布を樹脂溶液に十分に浸漬した後、1対のローラ間で加圧可能なマングルローラを用いて、不織布から樹脂溶液を絞り落とすことで、不織布に付着している樹脂溶液の量を所望の量に調整し、かつ、不織布に樹脂溶液を均一又は略均一に含浸させる。
【0055】
次いで、樹脂溶液を含浸した不織布を、上記樹脂に対する貧溶媒、例えば水、を主成分とする凝固液中に浸漬することにより、第1の樹脂を凝固再生させる。凝固液中には、樹脂の凝固再生速度を制御するために、樹脂溶液中の溶媒以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。マイグレーションの生じた樹脂含浸不織布を容易に得ることができる観点から、凝固液中の水の含有量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。同様の観点から、凝固液は、特に好ましくは、水である。
【0056】
ここで、第1の樹脂を凝固再生させる工程において、凝固再生の条件を調整することにより、不織布の内部において凝固する樹脂の量と比較して、不織布の表面において凝固する樹脂の量を多くすることができる。このようなマイグレーションは、以下の理由により生じると推察されるが、以下の理由に限られるものではない。
【0057】
上述の通り、第1の樹脂を凝固再生させる工程において、不織布の繊維に付着している樹脂溶液中で、樹脂溶液の溶媒と凝固液との置換が起きることにより、不織布の繊維の表面に樹脂が凝固する。この際、不織布内では、バルク(不織布の外)から不織布内への凝固液の浸入(以下、「凝固液浸入」という。)、不織布の表面から不織布の内部への凝固液の拡散(以下、「凝固液拡散」という。)、樹脂溶液の溶媒と凝固液とが置換することによる樹脂の凝固(以下、「樹脂凝固」という。)、及び不織布内での樹脂溶液の拡散(以下、「樹脂溶液拡散」という。)などの複数の反応が、以下のように進行すると推察される。
【0058】
すなわち、第1の樹脂を含浸した不織布を凝固液に浸漬すると、まず、凝固液浸入が生じると共に、不織布の凝固液との界面に近い部分、すなわち不織布の表面において、樹脂凝固が生じる。不織布中に浸入したものの樹脂凝固を生じなかった凝固液は、凝固液の濃度勾配に起因して、不織布の表面から、不織布の凝固液との界面から遠い部分、すなわち不織布の中心部へと、拡散する。その後、拡散した凝固液は、不織布の中心部において樹脂凝固を生じる。一方、樹脂溶液は、不織布の中心部から、樹脂溶液の濃度が低い不織布の表面へと拡散すると共に、新たに浸入した凝固液と混和することで、不織布の表面において、再び樹脂凝固を生じる。
【0059】
ここで、凝固液浸入及び樹脂凝固の速度に比べて、樹脂溶液の拡散速度が速く、かつ、凝固液の拡散速度が遅くなる条件においては、不織布の中心部に比べて、不織布の表面において、優先的に樹脂凝固が生じると推察される。その結果、そのような場合には、厚さ方向で表面から中心に向かって樹脂含浸量が少なくなる樹脂含浸不織布、すなわち、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有する樹脂含浸不織布が得られると推察される。
【0060】
したがって、本実施形態の研磨パッドの製造方法における樹脂含浸工程において、湿式凝固により樹脂を含浸させる場合、好ましくは、凝固液浸入及び樹脂凝固の速度に比べて、樹脂溶液の拡散速度が速く、かつ、凝固液の拡散速度が遅くなる条件で樹脂を含浸させる。具体的には、樹脂溶液の粘度を小さくすると樹脂溶液の拡散速度が速くなる傾向にあり、凝固液の粘度を大きくすると凝固液の拡散速度が遅くなる傾向にある。また、凝固再生の反応温度を高くすると凝固液浸入、樹脂凝固、樹脂溶液拡散、及び凝固液拡散の速度が速くなる傾向にある。また、樹脂溶液における第1の樹脂の濃度を大きくすると樹脂凝固の速度が速くなる傾向にある。また、樹脂凝固の速度は、第1の樹脂及び樹脂溶液に含まれる溶媒の種類よって調整することもできる。また、凝固液における、上記貧溶媒の含有量を調整することによっても、樹脂凝固及び凝固液拡散の速度を制御することができる傾向にある。
【0061】
上記の観点から、上記樹脂溶液のB型回転粘度計を用いて測定した20℃における粘度は、好ましくは8000cp以下であり、より好ましくは100cp以上5000cp以下であり、更に好ましくは400cp以上3000cp以下である。このような樹脂溶液の粘性は、用いる樹脂の濃度の他、樹脂の種類及び分子量により調整することができる。
【0062】
上記の観点から、凝固再生における反応温度、すなわち凝固液の温度は、好ましくは10℃以上70℃以下であり、より好ましくは15℃以上60℃以下であり、更に好ましくは、20℃以上50℃以下である。
【0063】
また、樹脂溶液における第1の樹脂の濃度は、樹脂溶液全体に対して、好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上70質量%以下であり、更に好ましくは40質量%以上65質量%以下である。
【0064】
上記乾式凝固工程は、例えば、以下のようにしてもよい。まず、プレポリマーと、硬化剤と、それらを溶解可能な溶媒とを含むプレポリマー溶液を準備する。次に、不織布をプレポリマー溶液に十分に浸漬した後、1対のローラ間で加圧可能なマングルローラを用いて、不織布からプレポリマー溶液を絞り落とす。これにより、不織布に付着しているプレポリマー溶液の量を所望の量に調整し、かつ、不織布にプレポリマー溶液を均一又は略均一に含浸させる。次いで、プレポリマー溶液を含浸させた不織布を乾燥室内で乾燥させる。これにより、プレポリマーと硬化剤とが重合反応を生じ、第2の樹脂を凝固させることができる。
【0065】
ここで、プレポリマー溶液を含浸させた不織布を乾燥させる工程において、プレポリマー溶液の配合比及び乾燥の条件を調整することにより、マイグレーションを生じさせることができる。マイグレーションは、以下の理由により生じると推察されるが、以下の理由に限られるものではない。
【0066】
プレポリマー溶液を含浸させた不織布を乾燥させる工程では、不織布に含まれるプレポリマー溶液を乾燥させる、すなわちプレポリマー溶液に含まれる溶媒を除去することによって、プレポリマー及び硬化剤の濃度が上昇する。そのため、プレポリマーと硬化剤とが重合反応を生じ、第2の樹脂を形成させることができる。この際、不織布内では、溶媒の蒸発(以下、「溶媒蒸発」という。)、プレポリマーと硬化剤とが重合反応することによる樹脂の凝固(以下、「重合反応」という。)、蒸発した溶媒の拡散(以下、「蒸発溶媒拡散」という。)、及び不織布内でのプレポリマー溶液の拡散(以下、「溶液拡散」という。)などの複数の反応が、以下のように進行すると推察される。
【0067】
すなわち、プレポリマー溶液を含浸させた不織布を乾燥室内に設置すると、まず、不織布の全体において溶媒蒸発が生じると共に、不織布の全体において、重合反応が生じ始める。蒸発した溶媒は、蒸発溶媒拡散により不織布の表面からバルク(不織布の外)へと拡散されるため、持続的に溶媒蒸発及び重合反応が生じる。また、プレポリマー溶液は、不織布内でプレポリマー溶液が均一に存在するように溶液拡散を生じる。
【0068】
ここで、溶媒蒸発及び重合反応の速度に比べて、プレポリマー溶液の拡散速度が速く、かつ、蒸発した溶媒の拡散速度が遅くなる条件においては、不織布の中心部に比べて、不織布の表面において、優先的に重合反応が生じると推察される。その結果、そのような場合には、厚さ方向で表面から中心に向かって樹脂含浸量が少なくなる樹脂含浸不織布、すなわち、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有する樹脂含浸不織布が得られると推察される。
【0069】
したがって、本実施形態の研磨パッドの製造方法における樹脂含浸工程において、乾式凝固により樹脂を含浸させる場合、好ましくは、溶媒蒸発及び重合反応の速度に比べて、プレポリマー溶液の拡散速度が速く、かつ、蒸発した溶媒の拡散速度が遅くなる条件で樹脂を含浸させることが好ましい。具体的には、プレポリマー溶液の粘度を小さくするとプレポリマー溶液の拡散速度が速くなる傾向にあり、プレポリマー溶液におけるプレポリマー及び硬化剤の濃度を大きくすると重合反応の速度が速くなる傾向にある。また、重合反応の速度は、プレポリマー及び硬化剤の種類によっても調整することができる。
【0070】
上記の観点から、上記プレポリマー溶液のB型回転粘度計を用いて測定した20℃における粘度は、好ましくは8000cp以下であり、より好ましくは100cp以上5000cp以下であり、更に好ましくは400cp以上3000cp以下である。プレポリマー溶液の粘性は、用いるプレポリマー及び硬化剤の濃度や、それらの種類及び分子量により調整することができる。
【0071】
また、プレポリマー溶液におけるプレポリマーの濃度は、プレポリマー溶液全体に対して、好ましくは20質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは25質量%以上55質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以上50質量%以下である。
【0072】
また、プレポリマー溶液における硬化剤の濃度は、プレポリマー溶液全体に対して、好ましくは3質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは4質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0073】
別の実施形態において、上記樹脂含浸工程において、湿式凝固と乾式凝固とを組み合わせてもよい。例えば、湿式凝固を行い、その後乾式凝固を行ってもよいし、乾式凝固を行い、その後湿式凝固を行ってもよい。湿式凝固を行い、その後乾式凝固を行うことで、第1の樹脂上に第2の樹脂が形成される。乾式凝固を行い、その後湿式凝固を行うことで、第2の樹脂上に第1の樹脂が形成される。このなかでも、湿式凝固工程後に乾式凝固工程を行うことが好ましい。このように第1の樹脂と第2の樹脂とを組み合わせて用いることにより、得られる研磨層の硬度及び耐薬品性のような物理的特性及び/又は化学的特性をより好適に調整することができる。
【0074】
また、湿式凝固を行い、第1の樹脂が可溶な溶媒に浸漬することで、その第1の樹脂の一部を溶解させて、その後乾式凝固を行ってもよいし、乾式凝固を行い、第2の樹脂が可溶な溶媒に浸漬することで、その第2の樹脂の一部を溶解させて、その後湿式凝固を行ってもよい。このように、初めに形成した第1の樹脂又は第2の樹脂の一部を溶解させる工程を再溶解工程ともいう。再溶解工程を経ることで、第1の樹脂と第2の樹脂の相溶性がより向上する傾向にある。
【0075】
なお、樹脂含浸工程で用いられる不織布及び樹脂の詳細及び好ましい条件は、上述の研磨層におけるものと同じである。
【0076】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、上記樹脂含浸工程の後、得られた樹脂含浸不織布を洗浄及び乾燥する工程を有していてもよい。そのような洗浄及び乾燥工程は、例えば、以下のとおりである。まず、樹脂含浸不織布を水等の洗浄液中で洗浄し、樹脂含浸不織布中に残存するDMF等の溶媒を除去する。洗浄後、樹脂含浸不織布を洗浄液から引き上げ、マングルローラ等を用いて余分な洗浄液を絞り落とす。その後、樹脂含浸不織布を、100℃以上150℃以下の乾燥室中で乾燥させる。
【0077】
本実施形態の研磨パッドの製造方法における表面除去工程は、上記樹脂含浸工程により得られた樹脂含浸不織布の表面のいずれか一方又は両方を除去する工程である。表面除去工程は、上記の構成を有する樹脂含浸不織布を得ることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、スライス及びバフ等のような加工であってもよい。
【0078】
上記表面除去工程は、例えば、得られた樹脂含浸不織布を厚さ方向に2等分することにより、樹脂含浸不織布の中央部を露出させた後、樹脂含浸不織布表面のスキン層をバフ処理等によって除去する工程であってもよい。あるいは、得られた樹脂含浸不織布の表面を除去することにより研磨面を形成する工程と、その樹脂含浸不織布の研磨面とは反対の表面を除去することにより定盤面を形成する工程とを含んでもよい。この際、その樹脂含浸不織布の表面の除去質量に関して、定盤面を形成する工程における除去質量よりも、研磨面を形成する工程における除去質量の方が大きくすればよい。なお、樹脂含浸不織布の表面の除去質量は、表面除去工程により除去された部材の質量を測定することで求めてもよいし、表面除去工程前後で樹脂含浸不織布の質量を測定し、その差を計算することで求めてもよい。
【0079】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、必要に応じて、研磨層の表面及び/又は裏面にドレス処理(研削処理)を施すドレス工程を有していてもよい。ドレス処理(研削処理)の方法としては、特に限定されず、公知の方法により研削することができる。具体的には、ダイヤモンドドレッサーによる研削が挙げられる。
【0080】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、好ましくは、研磨層の定盤面に両面テープを貼り付ける工程と、所定形状、好ましくは円板状に切り出す工程を有する。両面テープとしては、特に限定されないが、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して用いることができる。
【0081】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、更に必要に応じて、研磨面に、溝加工、エンボス加工、及び/又は穴加工(パンチング加工)を施す加工工程を有していてもよい。溝加工及びエンボス加工の形状としては、特に限定されないが、例えば、格子型、同心円型、及び放射型のような形状が挙げられる。
【0082】
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、好ましくは、研磨面に溝を加工する工程を有する。本実施形態の研磨パッドの製造方法を用いて得られる研磨パッドは、研磨層の定盤面側の空隙率が、研磨面側の空隙率よりも所定の範囲内で低いため、溝加工時に定盤面が安定し、溝の加工が容易である。溝加工を施された研磨パッドは、研磨時の研磨面におけるスラリーの流動性が一層向上するため、研磨レートが一層向上する。
【0083】
溝加工の際の溝の深さは、好ましくは、0.5mm以上0.7mm以下である。上記の範囲の深さの溝が形成されると、研磨時の研磨面におけるスラリーの流動性が一層向上するため、研磨レートが一層向上する。
【0084】
以上、本実施形態の研磨パッドの製造方法を説明したが、上述したように、本実施形態の研磨パッドを製造する方法はこれに限られない。例えば、上記の樹脂含浸工程に代えて、不織布に樹脂を均一に含浸させた後、得られた樹脂含浸不織布の一部の領域にのみ更に樹脂を含浸させることで、一部の領域のみ樹脂含浸量が高い樹脂含浸不織布を得てもよい。あるいは、上記の樹脂含浸工程に代えて、不織布に樹脂を均一に含浸させた後、得られた樹脂含浸不織布の一部の領域をその樹脂が可溶な溶媒に浸漬し、その部分の樹脂の一部を除去することで、一部の領域のみ樹脂含浸量が高い樹脂含浸不織布を得てもよい。
【0085】
[研磨加工物の製造方法]
本実施形態の研磨加工物の製造方法は、研磨スラリーの存在下、上記の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨し、研磨加工物を得る研磨工程を有する。研磨工程は、一次研磨(粗研磨)であってもよく、二次研磨(仕上げ研磨)であってもよく、それら両方の研磨を兼ねるものであってもよい。
【0086】
本実施形態の研磨加工物の製造方法においては、研磨スラリーの供給と共に、保持定盤で被研磨物を研磨パッド側に押圧しながら、保持定盤と研磨用定盤とを相対的に回転させることで、被研磨物の加工面が研磨パッドで化学機械研磨により研磨加工される。保持定盤と研磨用定盤は、互いに異なる回転速度で同方向に回転してもよく、異方向に回転してもよい。
【0087】
研磨スラリーは、被研磨物や研磨条件等に応じて、水、過酸化水素に代表される酸化剤などの化学成分、添加剤、砥粒(研磨粒子;例えば、SiC、SiO2、Al2O3、CeO2)等を含んでいてもよい。
【0088】
また、被研磨物としては、特に限定されないが、例えば、シリコンウェハ、ガラス、磁気ディスク、サファイア、及びSiCのような平坦性が要求される材料が挙げられる。このなかでも、本実施形態の研磨加工物の製造方法は、シリコンウェハの製造方法として好適に用いることができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
2.2dtexのポリエチレンテレフタレート繊維と、3.3dtexのポリエチレンテレフタレート繊維とを、その配合比が上記の順に2:1になるように配合して、厚さ3.5mmの不織布を得た。
【0091】
ポリウレタン樹脂(DIC社製、製品名「クリスボン」、23±2℃における100%モジュラス12MPa)55質量部、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)45質量部を混合することにより、樹脂溶液を調製した。上記の不織布を室温の上記樹脂溶液に浸漬させた後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて不織布に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、樹脂を凝固再生させて第1の樹脂を含浸する不織布を得た。
【0092】
第1の樹脂を含浸する不織布を凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して洗浄した後、乾燥させた。次いで、DMFと純水とを、この順に65:35の配合比で混合した溶媒に、上記で得られた第1の樹脂を含浸する不織布を浸漬した。その後、上記と同様の手順で、洗浄・乾燥を行った。
【0093】
プレポリマーとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)と2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)とを反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを準備した。このイソシアネート末端ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基含有率が7.6%であった。次に、準備したウレタンプレポリマー426質量部に対して、架橋剤として3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)74質量部、並びに有機溶媒としてDMF150質量部、及びメチルエチルケトン(MEK)350質量部を配合しプレポリマー溶液を調製した。このプレポリマー溶液のウレタン樹脂固形分は、樹脂量換算で50質量%であった。上記の浸漬後の第1の樹脂を含浸する不織布を室温の上記プレポリマー溶液に浸漬させた後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて不織布にプレポリマー溶液を略均一に含浸させた。上記不織布を乾燥させることで、第1の樹脂及び第2の樹脂を含浸する樹脂含浸不織布を得た。得られた樹脂含浸不織布は、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有するものであった。
【0094】
得られた樹脂含侵不織布を乾燥室から取り出し、樹脂含浸不織布の中央部をスライスすることで2枚のシートを得た。当該シートの表面にバフ処理を施し、表面のスキン層を除去することで、2枚の研磨層を得た。
【0095】
[比較例1]
樹脂を凝固再生させて第1の樹脂を含浸する不織布を得る工程において、凝固液として、水に代えて、DMFを20質量%含む水を用いたこと以外は、実施例1と同様にして研磨層を得た。
【0096】
[空隙率]
温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽中に40時間保持した研磨層をサンプルとして用いた。カッターを用いて各研磨層を厚さ方向に切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてその断面を下記条件で観察した。得られたSEM写真から研磨領域、定盤領域、及び中間領域のそれぞれにおける断面空隙率を算出した。上記の測定を3回行い、得られた値の相加平均を、研磨領域、定盤領域、及び中間領域のそれぞれの空隙率とした。結果を表1に示す。なお、SEM像から断面空隙率を算出する際には、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、製品名「JSM5500LV」)付属の画像処理ソフトを用いた。
(測定条件)
測定装置 :走査型電子顕微鏡(日本電子社製、製品名「JSM5500LV」)
測定倍率 :35倍
測定範囲(研磨領域):研磨面から定盤面に向かって0.05T以上0.35T以下の範囲
測定範囲(定盤領域):定盤面から研磨面に向かって0.05T以上0.35T以下の範囲
測定範囲(中間領域):研磨面から定盤面に向かって0.35T超過0.65T未満の範囲
【0097】
[面品位確認試験]
研磨層の定盤面にアクリル系接着剤を有する両面テープを貼り付けることで研磨パッドを得た。研磨装置に両面テープを介して研磨パッドを設置した。シリコンウェハを被研磨物として、下記条件にて研磨加工を施した。
(研磨条件)
研磨機 :スピードファム社製、製品名「DSM20B-5P-5D」
回転数(上層) :-13.4rpm
回転数(下層) :35.0rpm
回転数(リングギア):7.0rpm
回転数(サンギア) :25.0rpm
研磨圧力 :ロード5000N(15.0kPa)
研磨剤温度 :25℃
研磨剤吐出量 :4.5L/min
研磨剤 :コロイダルシリカスラリー
被研磨物 :シリコンウェハ(300mmφ)
研磨時間 :20分
ドレス :100番手ダイヤモンドドレッサーにて3kPa、15min
サンプル数 :各例につき25枚
【0098】
(平坦性)
上記研磨加工を施した合計25枚の被研磨物について、ウェハ平坦度測定装置(株式会社コベルコ科研社製、製品名「LSW3020」)を用いて、以下のようにして平坦性を評価した。まず、上記研磨試験前の被研磨物のGBIR(以下、「GBIR0」という。)と、上記研磨試験後の被研磨物のGBIRとを測定し、その差をそれぞれ求めた。そして、25枚の被研磨物について、上記GBIRの差の絶対値(以下、「ΔGBIR」という。)の研磨試験前のGBIR(GBIR0)に対する比(ΔGBIR/GBIR0)の平均を算出した。得られた比(ΔGBIR/GBIR0)の平均値に基づいて、以下の評価基準で平坦性を評価した。比(ΔGBIR/GBIR0)が小さいほど、得られた被研磨物の平坦性が高いことを意味する。なお、GBIRはEE(Edge Exclusion)2mmの条件で測定した。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:比(ΔGBIR/GBIR0)が10%以下である。
B:比(ΔGBIR/GBIR0)が10%を超え15%以下である。
C:比(ΔGBIR/GBIR0)が15%を超える。
【0099】
(端部形状)
上記研磨加工を施した合計25枚の被研磨物について、ウェハ平坦度測定装置(株式会社コベルコ科研社製、製品名「LSW3020」)を用いて、以下のようにして端部形状を評価した。まず、上記研磨試験前の被研磨物のESFQR(以下、「ESFQR0」という。)と、上記研磨試験後の被研磨物のESFQRとを測定し、その差をそれぞれ求めた。そして、25枚の被研磨物について、上記ESFQRの差の絶対値(以下、「ΔESFQR」という。)の研磨試験前のESFQR(ESFQR0)に対する比(ΔESFQR/ESFQR0)の平均を算出した。得られた比(ΔESFQR/ESFQR0)の平均値に基づいて、以下の評価基準で端部形状を評価した。比(ΔESFQR/ESFQR0)が小さいほど、得られた被研磨物の端部形状が良好であることを意味する。なお、ESFQRはEE(Edge Exclusion)1mm(角度5°、長さ10mm)の条件で測定を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:比(ΔESFQR/ESFQR0)が20%以下である。
B:比(ΔESFQR/ESFQR0)が20%を超え25%以下である。
C:比(ΔESFQR/ESFQR0)が25%を超える。
【0100】
(スクラッチ)
研磨試験後の被研磨物6枚の表面を対象として、ウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、製品名「Surfscan SP1DLS」)を用いて被研磨物の研磨面の面品位を評価した。具体的には、ウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、製品名「Surfscan SP1DLS」)の高感度測定モードにて被研磨物の研磨面を測定し、その表面におけるスクラッチの有無を調べ、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
○:スクラッチの発生が認められた被研磨物が無い場合
×:スクラッチの発生が認められた被研磨物が1枚以上ある場合
【0101】
[研磨レート]
上記研磨加工の研磨レートを以下のようにして測定した。すなわち、研磨レートは、研磨加工前後の被研磨物の厚さの差である研磨量を、研磨時間で除したものであり、研磨加工前後の被研磨物について、厚み測定結果の平均値から求めた。厚み測定には、光学式膜厚膜質測定器(スピードファム社製、製品名「LATC厚み測定機」)を用いた。結果を表1に示す。
【0102】
[製品寿命確認試験]
(研磨パッドの目詰まり)
上記研磨加工後の研磨パッドについて、以下のようにして研磨パッドの目詰まりを評価することで、研磨パッドの製品寿命を評価した。すなわち、上記研磨加工後の研磨パッドを目視により確認し、スラリーの目詰まりに起因する研磨パッドの硬化の発生を下記の基準で評価した。ほとんど研磨パッドの硬化が発生していなかった場合を「A」、やや研磨パッドの硬化が発生していた場合を「B」、かなり研磨パッドの硬化が発生していた場合を「C」と判定した。結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
なお、実施例1で得られた研磨層を、研磨面から定盤面に向かって0.5Tの厚さで面方向に切断し、さらにそれを、接着剤を用いて再度接着させることで、研磨領域と定盤領域が接着剤で接着された研磨パッドについても試験を行った。その結果、研磨領域と定盤領域とが一体となっておらず、接着剤により接着された研磨パッドは、その接着剤の影響により、得られた被研磨物の平坦性及び端部形状が劣るほか、目詰まりも生じやすいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の研磨パッドは、シリコンウェハ、ガラス、磁気ディスク、サファイア、及びSiCのような平坦性が要求される材料の研磨に用いられ、特に、シリコンウェハの研磨に好適に用いられる研磨パッドとして、産業上の利用可能性を有する。