(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】電池電圧均等化装置
(51)【国際特許分類】
B60L 58/22 20190101AFI20240501BHJP
H02J 7/00 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
B60L58/22
H02J7/00 P
(21)【出願番号】P 2020063427
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 健志
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-176483(JP,A)
【文献】特開2005-160251(JP,A)
【文献】特開2006-49198(JP,A)
【文献】特開2015-100174(JP,A)
【文献】特開2018-129902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0293006(US,A1)
【文献】国際公開第2011/155034(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/021589(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 58/22
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の電池からなる車載用バッテリの電池電圧均等化装置であって、
前記電池のそれぞれの電池電圧を計測する電圧計測部と、
前記車載用バッテリの充放電電流を計測する電流計測部と、
前記電池のそれぞれの前記電池電圧を均等化するセルバランス部と、
前記電圧計測部が計測する前記電池電圧に基づいて前記セルバランス部を介した電圧均等化制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、それぞれの前記電池電圧に基づいて前記電圧均等化制御が必要と判定され、且つ前記電流計測部が計測する前記車載用バッテリの放電電流が安定したと判定されたことを条件として、前記電圧均等化制御を開始する、電池電圧均等化装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記放電電流の変化量が所定の第1変化量閾値よりも小さい状態が所定の第1期間だけ継続された場合に、前記放電電流が安定したと判定する、請求項1に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電圧均等化制御の実行中において、前記放電電流の変化量が所定の第2変化量閾値を超えたことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、請求項2に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記放電電流が所定の第1電流閾値よりも少ない状態が所定の第2期間だけ継続された場合に、前記放電電流が安定したと判定する、請求項1に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電圧均等化制御の実行中において、前記放電電流が所定の第2電流閾値を超えたことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、請求項4に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記電流計測部が計測する前記車載用バッテリの充電電流が安定したと判定されたことを条件として、前記電圧均等化制御を開始する、請求項1乃至5のいずれかに記載の電池電圧均等化装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記充電電流の変化量が所定の第3変化量閾値よりも小さい状態が所定の第3期間だけ継続された場合に、前記充電電流が安定したと判定する、請求項6に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項8】
前記制御部は、充電時の前記電圧均等化制御の実行中において、前記充電電流の変化量が所定の第4変化量閾値を超えたことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、請求項7に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記充電電流が所定の第3電流閾値よりも多い状態が所定の第4期間だけ継続された場合に、前記充電電流が安定したと判定する、請求項6に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項10】
前記制御部は、充電時の前記電圧均等化制御の実行中において、前記充電電流が所定の第4電流閾値を下回ったことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、請求項9に記載の電池電圧均等化装置。
【請求項11】
前記車載用バッテリの電池温度を計測する温度計測部を備え、
前記制御部は、前記温度計測部が計測する前記電池温度が所定の温度閾値以上である場合に、前記電圧均等化制御を禁止する、請求項1乃至10のいずれかに記載の電池電圧均等化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池電圧均等化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両等の移動体は、走行用動力源として例えばリチウムイオン電池からなる組電池が搭載される。このような組電池は、所望の電圧を出力できるよう複数の電池セルが直列に接続される。ただし、直列に接続された複数の電池セルは、それぞれの電池電圧が不均一になると、充放電可能な電力量が制限される等の問題が生じることが知られている。そのため、このような組電池は、例えば特許文献1に開示されるようなセルバランス回路により電池電圧の均等化が行われることが多い。
【0003】
より具体的には、特許文献1には、組電池の出力電圧を変換してそれぞれの電池セルに充電電圧を印加することができるトランスを導通制御することにより、電池電圧が相対的に低い電池セルを充電して電池電圧の均等化を行うことができるトランス方式のアクティブセルバランス回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、組電池として構成される車載用バッテリは、走行中においては電池セルの電池電圧が安定しないため、例えばイグニションがオフの状態など移動体の停止中にセルバランス制御が実行されることになる。このため、従来のセルバランス回路では、比較的長時間に亘り車両を走行させる場合には、セルバランス制御を行う機会が減少して組電池の電池電圧のばらつきを拡大させてしまう虞が生じる。また、従来のセルバランス回路では、車両側から例えば車速やイグニション状態を表す情報を受信することによりセルバランス制御が行われるため、車両との信号送受信を行う複雑な制御及び構成が必要となる虞が生じる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両側との信号送受信を行うことなく、車両の走行中においても車載用の組電池に対してセルバランス制御を行う機会を確保することができる電池電圧均等化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、直列接続された複数の電池からなる車載用バッテリの電池電圧均等化装置であって、前記電池のそれぞれの電池電圧を計測する電圧計測部と、前記車載用バッテリの充放電電流を計測する電流計測部と、前記電池のそれぞれの前記電池電圧を均等化するセルバランス部と、前記電圧計測部が計測する前記電池電圧に基づいて前記セルバランス部を介した電圧均等化制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、それぞれの前記電池電圧に基づいて前記電圧均等化制御が必要と判定され、且つ前記電流計測部が計測する前記車載用バッテリの放電電流が安定したと判定されたことを条件として、前記電圧均等化制御を開始する、電池電圧均等化装置である。
【0008】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記制御部は、前記放電電流の変化量が所定の第1変化量閾値よりも小さい状態が所定の第1期間だけ継続された場合に、前記放電電流が安定したと判定する、電池電圧均等化装置である。
【0009】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第2の態様において、前記制御部は、前記電圧均等化制御の実行中において、前記放電電流の変化量が所定の第2変化量閾値を超えたことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、電池電圧均等化装置である。
【0010】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記制御部は、前記放電電流が所定の第1電流閾値よりも少ない状態が所定の第2期間だけ継続された場合に、前記放電電流が安定したと判定する、電池電圧均等化装置である。
【0011】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様は、上記した本発明の第4の態様において、前記制御部は、前記電圧均等化制御の実行中において、前記放電電流が所定の第2電流閾値を超えたことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、電池電圧均等化装置である。
【0012】
<本発明の第6の態様>
本発明の第6の態様は、上記した本発明の第1乃至5のいずれかの態様において、前記制御部は、前記電流計測部が計測する前記車載用バッテリの充電電流が安定したと判定されたことを条件として、前記電圧均等化制御を開始する、電池電圧均等化装置である。
【0013】
<本発明の第7の態様>
本発明の第7の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記制御部は、前記充電電流の変化量が所定の第3変化量閾値よりも小さい状態が所定の第3期間だけ継続された場合に、前記充電電流が安定したと判定する、電池電圧均等化装置である。
【0014】
<本発明の第8の態様>
本発明の第8の態様は、上記した本発明の第7の態様において、前記制御部は、充電時の前記電圧均等化制御の実行中において、前記充電電流の変化量が所定の第4変化量閾値を超えたことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、電池電圧均等化装置である。
【0015】
<本発明の第9の態様>
本発明の第9の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記制御部は、前記充電電流が所定の第3電流閾値よりも多い状態が所定の第4期間だけ継続された場合に、前記充電電流が安定したと判定する、電池電圧均等化装置である。
【0016】
<本発明の第10の態様>
本発明の第10の態様は、上記した本発明の第9の態様において、前記制御部は、充電時の前記電圧均等化制御の実行中において、前記充電電流が所定の第4電流閾値を下回ったことを条件として、前記電圧均等化制御を終了する、電池電圧均等化装置である。
【0017】
<本発明の第11の態様>
本発明の第11の態様は、上記した本発明の第1乃至10のいずれかの態様において、前記車載用バッテリの電池温度を計測する温度計測部を備え、前記制御部は、前記温度計測部が計測する前記電池温度が所定の温度閾値以上である場合に、前記電圧均等化制御を禁止する、電池電圧均等化装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車両側との信号送受信を行うことなく、車両の走行中においても車載用の組電池に対してセルバランス制御を行う機会を確保することができる電池電圧均等化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電池電圧均等化装置の回路を表す全体構成図である。
【
図2】第1実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。
【
図3】第2実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。
【
図4】第3実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。
【
図5】第4実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、または省略などを行っており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0021】
<第1実施形態>
図1は、電池電圧均等化装置1の回路を表す全体構成図である。電池電圧均等化装置1は、直列接続された複数の電池Bからなる車載用バッテリBmに接続されることにより、それぞれの電池Bの電池電圧を均等化するトランス方式のアクティブセルバランス回路である。電池電圧均等化装置1は、電動車両に搭載され、電動車両の走行用動力源として使用される車載用バッテリBmに対して必要に応じてセルバランス制御を実行する。
【0022】
ここで、それぞれの電池Bは、単一の電池セルからなる二次電池であってもよく、複数の電池セルが直列に接続されてそれ自体が組電池を構成する二次電池であってもよい。また、車載用バッテリBmは、本実施形態においては4つの電池Bが接続されているものとして説明するが、電池Bの接続数は任意に変更することができる。さらに、電池電圧均等化装置1は、セルバランス制御の形態は問わず、トランス方式でなくてもよく、パッシブセルバランス回路であってもよい。
【0023】
電池電圧均等化装置1は、電圧計測部2、電流センサ3、電流計測部4、温度センサ5、温度計測部6、セルバランス部7、及び制御部8を備える。
【0024】
電圧計測部2は、複数の電池Bのそれぞれの電池電圧を計測し、デジタル値として後述する制御部8へ出力する。電流センサ3は、車載用バッテリBmからインバータを介して車両のモータ(いずれも図示せず)へ繋がる導電路上に設けられ、車載用バッテリBmの充放電電流Iを取得する。電流計測部4は、電流センサ3で取得された充放電電流Iのアナログ値をデジタル値に変換して制御部8へ出力する。
【0025】
温度センサ5は、車載用バッテリBmに近接する位置に設けられ、車載用バッテリBmの電池温度を取得する。温度計測部6は、温度センサ5で取得された電池温度Tのアナログ値をデジタル値に変換して制御部8へ出力する。
【0026】
セルバランス部7は、本実施形態においては、トランスT、スイッチSW、複数のダイオードD、及び複数のコンデンサCを含み、後述する制御部8からの制御に基づいて車載用バッテリBmのセルバランス制御を行う。
【0027】
トランスTは、車載用バッテリBmの出力電圧が入力される一次側巻線T1、及びそれぞれの電池Bに対応する複数の二次側巻線T2を含む。トランスTは、車載用バッテリBmとの間に設けられるスイッチSWにより通電制御が行われることで、車載用バッテリBmの出力電圧が交流電力に変換されて一次側巻線T1に入力される。また、トランスTは、一次側巻線T1に入力された電圧を、それぞれの電池Bを充電するための充電電圧に変換してそれぞれの二次側巻線T2に出力する。
【0028】
スイッチSWは、本実施形態においては、Nチャネル型のMOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)であり、ドレインが一次側巻線T1の一端に接続され、ソースが組電池BPの負側に接続されると共に、ゲートが後述する制御部8に接続されている。そして、スイッチSWは、制御部8により連続的にON/OFF制御されることにより、上記のようにトランスTを通電制御することができる。
【0029】
ダイオードD及びコンデンサCは、それぞれの二次側巻線T2からそれぞれの電池Bへの導電路上に整流・平滑回路として設けられ、それぞれの二次側巻線T2が出力する交流電圧を直流電圧に変換して個々の電池Bを充電するための充電電圧を形成する。
【0030】
制御部8は、例えば図示しないタイマーを含む公知のマイコン制御回路からなり、それぞれの電池Bの電池電圧に基づいて電圧均等化の要否を判断し、電圧均等化が必要であると判断した場合には、詳細を後述するように車載用バッテリBmの充放電電流Iが安定したと判断されたことを条件として、セルバランス部7のスイッチSWにPWM信号を出力してセルバランス制御を実行する。また、制御部8は、電圧均等化が必要でないと判断した場合、又はセルバランス制御の実行中に電池電圧のばらつきが解消された場合には、スイッチSWへの信号出力を停止する。
【0031】
ここで、電圧均等化の要否判断は、それぞれの電池電圧のばらつき方により判断することができ、例えば各電池電圧の最大値と最小値との差や、各電池電圧の標準偏差が所定の閾値以上であるか否か等の基準により行うことができる。
【0032】
また、制御部8は、温度計測部6が計測する電池温度が所定の温度閾値以上である場合に、セルバランス制御の実行中であるか否かに拘らず、電圧均等化制御を禁止する。すなわち、制御部8は、セルバランス制御の実行中に電池温度が温度閾値以上となった場合には、セルバランス制御を停止する。ここで、所定の温度閾値とは、電池Bの劣化が促進される程度の高温に達しないよう監視するために予め任意に設定される電池温度の閾値である。
【0033】
次に、セルバランス制御の実行条件について説明する。上記したように、制御部8は、電池電圧に基づき電圧均等化が必要であると判断し、且つ車載用バッテリBmの充放電電流Iが安定したと判断したことを条件として、車両のイグニションがオフ状態でなくともセルバランス制御を実行する。ここでは、イグニションがオンである状態において、電圧均等化が必要であり、且つセルバランス制御の実行中において電圧均等化が完了しない場合について説明することとする。
【0034】
図2は、第1実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。より具体的には、
図2は、車両の走行状態において、車載用バッテリBmの放電電流Idの変化量ΔIdに対するセルバランス制御の実行タイミングを表している。尚、制御部8は、電流センサ3を流れる電流の方向に基づいて、充放電電流Iが放電電流Idであるか、又は充電電流Icであるかを判別することができる。
【0035】
本実施形態においては、制御部8は、車載用バッテリBmの放電電流Idの変化量ΔIdが所定の第1変化量閾値ΔIth1よりも小さい状態が所定の第1期間T1だけ継続された場合に、放電電流Idが安定したと判定して電圧均等化制御を開始する。また、制御部8は、電圧均等化制御の実行中において、放電電流Idの変化量ΔIdが所定の第2変化量閾値ΔIth2を超えたことを条件として、電圧均等化制御を終了する。
【0036】
ここで、所定の第1変化量閾値ΔIth1とは、一定時間ごとにサンプリングされる放電電流Idの変化量ΔIdについて、今回の変化量ΔIdが前回の変化量ΔIdに対して顕著に変化したか否かを判定するために予め任意に設定される閾値である。また、所定の第1期間T1とは、放電電流Idの変化量ΔIdが顕著に変化しない状態が持続するか否かを判定するために予め任意に設定される閾値である。
【0037】
そして、所定の第2変化量閾値ΔIth2とは、電圧均等化制御の実行中において放電電流Idの変化量ΔIdが再び顕著に変化したことを判定して電圧均等化制御を停止させるために、予め任意に設定される閾値である。
【0038】
尚、第2変化量閾値ΔIth2は、本実施形態においては第1変化量閾値ΔIth1と同じ値であるものとして例示しているが、第1変化量閾値ΔIth1よりも大きい値として設定しておくことにより電圧均等化制御の実行期間をより確保することができる。
【0039】
以上の条件を踏まえて
図2の状況における動作について説明すると、タイミングt1の直後においては、放電電流Idの変化量ΔIdがサンプリングの度に第1変化量閾値ΔIth1の範囲を超えて変動するため、制御部8のタイマーでは第1期間T1のカウントが開始されず、セルバランス制御も開始されない。
【0040】
これに対し、タイミングt2においては、放電電流Idの変化量ΔIdが、直前のサンプリング値と比較して第1変化量閾値ΔIth1の範囲内であるため、制御部8のタイマーで第1期間T1のカウントが開始される。
【0041】
そして、タイミングt2からタイミングt3までの第1期間T1に、放電電流Idの変化量ΔIdが第1変化量閾値ΔIth1の範囲を超えて変動しない場合には、制御部8は、車載用バッテリBmの放電電流Idが安定したと判断し、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を開始する。
【0042】
また、タイミングt4においては、放電電流Idの変化量ΔIdが、直前のサンプリング値と比較して第2変化量閾値ΔIth2の範囲を超えて変動するため、制御部8は、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を終了すると共に、タイマーによるカウントをリセットする。尚、仮にタイミングt4よりも前に電圧均等化が完了した場合には、その時点でセルバランス制御を終了する。
【0043】
以降も同様の手順により、放電電流Idの変化量ΔIdが、直前のサンプリング値と比較して第1変化量閾値ΔIth1の範囲内となるタイミングt5においてタイマーにおけるカウントを開始する。ただし、タイミングt6においては、放電電流Idの変化量ΔIdが第1期間T1を経過する前に第1変化量閾値ΔIth1の範囲を超えて変動している。このため、タイミングt6においては、タイマーによるカウントがリセットされる。
【0044】
以上のように、第1実施形態に係る電池電圧均等化装置1によれば、第1変化量閾値ΔIth1、第2変化量閾値ΔIth2、及び第1期間T1を予め設定しておくことにより、車載用バッテリBmの放電電流Idの変化量ΔIdに基づいて放電電流Idの安定性を判断することができる。
【0045】
このため、電池電圧均等化装置1は、車両のイグニションがオフ状態でなくとも、更にはアイドリング時のような車速がゼロの状態でなくとも、放電電流Idが安定した場合に車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を実行することができる。すなわち、電池電圧均等化装置1は、例えば高速道路等において定速走行が長期間継続される場合であっても、セルバランス制御を実行する機会を逸することなく、車載用バッテリBmを良好な状態に維持することができる。
【0046】
また、電池電圧均等化装置1は、電流センサ3において取得される車載用バッテリBmの放電電流Idの変化量ΔIdに基づいて電圧均等化制御の実行可否を判断するため、車両との信号送受信を行う複雑な制御及び構成が不要となる。
【0047】
従って、第1実施形態に係る電池電圧均等化装置1によれば、車両側との信号送受信を行うことなく、車両の走行中においても車載用の組電池に対してセルバランス制御を行う機会を確保することができる。
【0048】
<第2実施形態>
続いて、第2実施形態に係る電池電圧均等化装置1について説明する。第2実施形態に係る電池電圧均等化装置1は、上記した第1実施形態の電池電圧均等化装置1における電流安定性の判断条件が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と異なる部分について説明することとし、第1実施形態と共通する構成要素については、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0049】
図3は、第2実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。より具体的には、
図3は、車両の走行状態において、車載用バッテリBmの放電電流Idに対するセルバランス制御の実行タイミングを表している。
【0050】
本実施形態においては、制御部8は、車載用バッテリBmの放電電流Idが所定の第1電流閾値Ith1よりも少ない状態が所定の第2期間T2だけ継続された場合に、放電電流Idが安定したと判定して電圧均等化制御を開始する。また、制御部8は、電圧均等化制御の実行中において、放電電流Idが所定の第2電流閾値Ith2を超えたことを条件として、電圧均等化制御を終了する。
【0051】
ここで、所定の第1電流閾値Ith1とは、一定時間ごとにサンプリングされる放電電流Idについて、車両の信号待ちに伴うアイドリング状態や、降坂路における走行状態など、車載用バッテリBmの電力をあまり消費しない状態を判定するために予め任意に設定される閾値である。また、所定の第2期間T2とは、放電電流Idが比較的少ない状態が持続するか否かを判定するために予め任意に設定される閾値である。
【0052】
そして、所定の第2電流閾値Ith2とは、電圧均等化制御の実行中において放電電流Idが再び増加したことを判定して電圧均等化制御を停止させるために、予め任意に設定される閾値である。
【0053】
尚、第2電流閾値Ith2は、本実施形態においては第1電流閾値Ith1と同じ値であるものとして例示しているが、第1電流閾値Ith1よりも大きい値として設定しておくことにより電圧均等化制御の実行期間をより確保することができる。
【0054】
以上の条件を踏まえて
図3の状況における動作について説明すると、タイミングt7の直後においては、放電電流Idが第1電流閾値Ith1以上であるため、制御部8のタイマーでは第2期間T2のカウントが開始されず、セルバランス制御も開始されない。
【0055】
これに対し、タイミングt8においては、放電電流Idが第1電流閾値Ith1よりも少なくなるため、制御部8のタイマーで第2期間T2のカウントが開始される。
【0056】
そして、タイミングt8からタイミングt9までの第2期間T2に、放電電流Idが第1電流閾値Ith1以下である場合には、制御部8は、車載用バッテリBmの放電電流Idが安定したと判断し、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を開始する。
【0057】
また、タイミングt10においては、放電電流Idが第2電流閾値Ith2を超えるため、制御部8は、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を終了すると共に、タイマーによるカウントをリセットする。尚、仮にタイミングt10よりも前に電圧均等化が完了した場合には、その時点でセルバランス制御を終了する。
【0058】
以降も同様の手順により、放電電流Idが第1電流閾値Ith1よりも小さくなるタイミングt11においてタイマーにおけるカウントを開始する。ただし、タイミングt12においては、放電電流Idが第2期間T2を経過する前に第1電流閾値Ith1を超えている。このため、タイミングt12においては、タイマーによるカウントがリセットされる。
【0059】
以上のように、第2実施形態に係る電池電圧均等化装置1によれば、第1電流閾値Ith1、第2電流閾値Ith2、及び第2期間T2を予め設定しておくことにより、車載用バッテリBmの放電電流Idの安定性を判断することができる。従って、第2実施形態に係る電池電圧均等化装置1は、第1実施形態に係る電池電圧均等化装置1と同様に、車両側との信号送受信を行うことなく、車両の走行中においても車載用の組電池に対してセルバランス制御を行う機会を確保することができる。
【0060】
<第3実施形態>
続いて、第3実施形態に係る電池電圧均等化装置1について説明する。第3実施形態に係る電池電圧均等化装置1は、上記した第1実施形態又は第2実施形態の電池電圧均等化装置1において、車載用バッテリBmが車両側からの回生電力で充電可能な場合に、充電中に回生電流が安定する期間においてセルバランス制御を行う点が第1実施形態又は第2実施形態と異なる。以下、第1実施形態と異なる部分について説明することとし、第1実施形態又は第2実施形態と共通する構成要素については、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0061】
図4は、第3実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。より具体的には、
図4は、車両が比較的長距離の降坂路で車載用バッテリBmを回生充電している場合において、車載用バッテリBmの充電電流Icの変化量ΔIcに対するセルバランス制御の実行タイミングを表している。
【0062】
本実施形態においては、制御部8は、車載用バッテリBmの充電電流Icの変化量ΔIcが所定の第3変化量閾値ΔIth3よりも小さい状態が所定の第3期間T3だけ継続された場合に、充電電流Icが安定したと判定して電圧均等化制御を開始する。また、制御部8は、電圧均等化制御の実行中において、充電電流Icの変化量ΔIcが所定の第4変化量閾値ΔIth4を超えたことを条件として、電圧均等化制御を終了する。
【0063】
ここで、所定の第3変化量閾値ΔIth3とは、一定時間ごとにサンプリングされる充電電流Icの変化量ΔIcについて、今回の変化量ΔIcが前回の変化量ΔIcに対して顕著に変化したか否かを判定するために予め任意に設定される閾値である。また、所定の第3期間T3とは、充電電流Icの変化量ΔIcが顕著に変化しない状態が持続するか否かを判定するために予め任意に設定される閾値である。
【0064】
そして、所定の第4変化量閾値ΔIth4とは、電圧均等化制御の実行中において充電電流Icの変化量ΔIcが再び顕著に変化したことを判定して電圧均等化制御を停止させるために、予め任意に設定される閾値である。
【0065】
尚、第4変化量閾値ΔIth4は、本実施形態においては第3変化量閾値ΔIth3と同じ値であるものとして例示しているが、第3変化量閾値ΔIth3よりも大きい値として設定しておくことにより電圧均等化制御の実行期間をより確保することができる。
【0066】
以上の条件を踏まえて
図4の状況における動作について説明すると、タイミングt13の直後においては、充電電流Icの変化量ΔIcがサンプリングの度に第3変化量閾値ΔIth3の範囲を超えて変動するため、制御部8のタイマーでは第3期間T3のカウントが開始されず、セルバランス制御も開始されない。
【0067】
これに対し、タイミングt14においては、充電電流Icの変化量ΔIcが、直前のサンプリング値と比較して第3変化量閾値ΔIth3の範囲内であるため、制御部8のタイマーで第3期間T3のカウントが開始される。
【0068】
そして、タイミングt14からタイミングt15までの第3期間T3に、充電電流Icの変化量ΔIcが第3変化量閾値ΔIth3の範囲を超えて変動しない場合には、制御部8は、車載用バッテリBmの充電電流Icが安定したと判断し、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を開始する。
【0069】
また、タイミングt16においては、充電電流Icの変化量ΔIcが、直前のサンプリング値と比較して第4変化量閾値ΔIth4の範囲を超えて変動するため、制御部8は、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を終了すると共に、タイマーによるカウントをリセットする。尚、仮にタイミングt16よりも前に電圧均等化が完了した場合には、その時点でセルバランス制御を終了する。
【0070】
以降も同様の手順により、充電電流Icの変化量ΔIcが、直前のサンプリング値と比較して第3変化量閾値ΔIth3の範囲内となるタイミングt17においてタイマーにおけるカウントを開始する。ただし、タイミングt18においては、充電電流Icの変化量ΔIcが第3期間T3を経過する前に第3変化量閾値ΔIth3の範囲を超えて変動している。このため、タイミングt18においては、タイマーによるカウントがリセットされる。
【0071】
以上のように、第3実施形態に係る電池電圧均等化装置1によれば、第3変化量閾値ΔIth3、第4変化量閾値ΔIth4、及び第3期間T3を予め設定しておくことにより、車載用バッテリBmの充電電流Icの変化量ΔIcに基づいて充電電流Icの安定性を判断することができる。
【0072】
このため、電池電圧均等化装置1は、車両のイグニションがオフ状態でなくとも、更にはアイドリング時のような車速がゼロの状態でなくとも、回生電力の充電電流Icが安定した場合に車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を実行することができる。すなわち、電池電圧均等化装置1は、例えば高速道路等において降坂路の定速走行が長期間継続される場合であっても、セルバランス制御を実行する機会を逸することなく、車載用バッテリBmを良好な状態に維持することができる。
【0073】
また、電池電圧均等化装置1は、電流センサ3において取得される車載用バッテリBmの充電電流Icの変化量ΔIcに基づいて電圧均等化制御の実行可否を判断するため、車両との信号送受信を行う複雑な制御及び構成が不要となる。
【0074】
従って、第3実施形態に係る電池電圧均等化装置1によれば、車両側との信号送受信を行うことなく、車両の走行中においても車載用の組電池に対してセルバランス制御を行う機会を確保することができる。
【0075】
尚、車両が充電スタンドに停車して車載用バッテリBmを充電する場合、当然ながら充電スタンドから供給される充電電流Icはほとんど変動しないため、本実施形態に係る電池電圧均等化装置1の構成により充電中にセルバランス制御を行うことができる。
【0076】
<第4実施形態>
続いて、第4実施形態に係る電池電圧均等化装置1について説明する。第4実施形態に係る電池電圧均等化装置1は、上記した第3実施形態の電池電圧均等化装置1における電流安定性の判断条件が第3実施形態と異なる。以下、第3実施形態と異なる部分について説明することとし、第3実施形態と共通する構成要素については、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0077】
図5は、第4実施形態に係る電流安定性の判断条件に基づいてセルバランス制御を実行する場合のタイミングチャートである。より具体的には、
図5は、車両が比較的長距離の降坂路で車載用バッテリBmを回生充電している場合において、車載用バッテリBmの充電電流Icに対するセルバランス制御の実行タイミングを表している。
【0078】
本実施形態においては、制御部8は、車載用バッテリBmの充電電流Icが所定の第3電流閾値Ith3よりも多い状態が所定の第4期間T4だけ継続された場合に、充電電流Icが安定したと判定して電圧均等化制御を開始する。また、制御部8は、電圧均等化制御の実行中において、充電電流Icが所定の第4電流閾値Ith4を下回ったことを条件として、電圧均等化制御を終了する。
【0079】
ここで、所定の第3電流閾値Ith3とは、一定時間ごとにサンプリングされる充電電流Icが十分に大きいか否かを判定するために予め任意に設定される閾値である。ここで、充電電流Icは、回生可能な電流に上限値があることから、充電電流Icが十分に大きい場合には、当該上限値の近傍で充電電流Icが安定することになる。また、所定の第4期間T4とは、充電電流Icが安定する状態が持続するか否かを判定するために予め任意に設定される閾値である。
【0080】
そして、所定の第4電流閾値Ith4とは、電圧均等化制御の実行中において充電電流Icが再び低下したことを判定して電圧均等化制御を停止させるために、予め任意に設定される閾値である。
【0081】
尚、第4電流閾値Ith4は、本実施形態においては第3電流閾値Ith3と同じ値であるものとして例示しているが、第3電流閾値Ith3よりも小さい値として設定しておくことにより電圧均等化制御の実行期間をより確保することができる。
【0082】
以上の条件を踏まえて
図5の状況における動作について説明すると、タイミングt19の直後においては、充電電流Icが第3電流閾値Ith3以下であるため、制御部8のタイマーでは第4期間T4のカウントが開始されず、セルバランス制御も開始されない。
【0083】
これに対し、タイミングt20においては、充電電流Icが第3電流閾値Ith3よりも多いため、制御部8のタイマーで第4期間T4のカウントが開始される。
【0084】
そして、タイミングt20からタイミングt21までの第4期間T4に、充電電流Icが第3電流閾値Ith3を超えている場合には、制御部8は、車載用バッテリBmの充電電流Icが安定したと判断し、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を開始する。
【0085】
また、タイミングt22においては、充電電流Icが第4電流閾値Ith4以下に低下するため、制御部8は、車載用バッテリBmに対するセルバランス制御を終了すると共に、タイマーによるカウントをリセットする。尚、仮にタイミングt22よりも前に電圧均等化が完了した場合には、その時点でセルバランス制御を終了する。
【0086】
以降も同様の手順により、充電電流Icが第3電流閾値Ith3よりも多い状態となるタイミングt23においてタイマーにおけるカウントを開始する。ただし、タイミングt24においては、充電電流Icが第4期間T4を経過する前に第3電流閾値Ith3以下に低下している。このため、タイミングt24においては、タイマーによるカウントがリセットされる。
【0087】
以上のように、第4実施形態に係る電池電圧均等化装置1によれば、第3電流閾値Ith3、第4電流閾値Ith4、及び第4期間T4を予め設定しておくことにより、車載用バッテリBmの充電電流Icの安定性を判断することができる。従って、第4実施形態に係る電池電圧均等化装置1は、第3実施形態に係る電池電圧均等化装置1と同様に、車両側との信号送受信を行うことなく、車両の走行中においても車載用の組電池に対してセルバランス制御を行う機会を確保することができる。
【0088】
以上で各実施形態についての説明を終えるが、本技術は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば上記の各実施形態では、一定時間ごとにサンプリングされる電流値又はその変化量の安定性に基づく電圧均等化制御を例示したが、当該電流値及び変化量は、直前の一定期間に測定される複数の測定値による平均、いわゆる移動平均により算出されてもよい。この場合、電池電圧均等化装置1は、測定値を平均化することでノイズの影響を抑え誤動作を抑制することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 電池電圧均等化装置
2 電圧計測部
4 電流計測部
7 セルバランス部
8 制御部
B 電池
Bm 車載用バッテリ
I 充放電電流
Id 放電電流
Ic 充電電流