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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/202 20210101AFI20240501BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20240501BHJP
   H01M 50/291 20210101ALI20240501BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20240501BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240501BHJP
【FI】
H01M50/202 501P
H01M50/105
H01M50/291
H01M50/293
H01M10/0562
H01M10/0585
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020074545
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021174578
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 大介
(72)【発明者】
【氏名】松川 秀利
(72)【発明者】
【氏名】村上 健二
(72)【発明者】
【氏名】長屋 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元彦
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/200399(WO,A1)
【文献】特開2012-113875(JP,A)
【文献】特開2013-065526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 10/0562
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層、正極および負極を有する板状の発電要素と、
前記発電要素を収納する密閉空間を有すると共に、前記発電要素を包み込む薄膜のシート部材からなる包装材と、
前記包装材を収容し、前記包装材よりも硬い材料で作られた容器と、を備える電池であって、
さらに前記容器と前記包装材との間隙に配置された充填材を備え、
前記充填材は、前記間隙のうち前記発電要素の板厚方向において前記発電要素と重なる2つの第1間隙の全体に亘って前記容器と前記包装材とに接し、ASTM E595-15に規定される質量損失比が1.0%以下の材料である電池。
【請求項2】
前記包装材は、前記シート部材が重ね合わされて貼着されてなるシール部を前記密閉空間の周囲の少なくとも一部に有し、
前記充填材は、前記間隙のうち前記板厚方向において前記シール部と重なる2つの第2間隙の少なくとも一部に亘って前記容器と前記包装材とに接する請求項1記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質層を備える電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包装材で密封した発電要素を容器に収容した電池が知られている。特許文献1には、電解質に有機溶媒を使用した電池において、容器と包装材との間隙に、水や空気などの流体を密封した流体内包袋を配置する技術が開示されている。特許文献2には、電解質に有機溶媒を使用した電池において、容器と包装材との間隙に、発泡ゴムやシリコーンゴム等で作られた緩衝材を配置する技術が開示されている。流体内包袋や緩衝材は、包装材の膨れを緩衝し、容器の変形を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-303579号公報
【文献】特開2017-4655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記技術では、低圧力の環境下(例えば地球の大気圏外など)や高温環境下において、包装材に封入された有機溶媒の気化による包装材の膨れが大きくなるため、流体内包袋や緩衝材が包装材の膨れを緩衝できずに容器が変形する。
【0005】
固体電解質層を備える発電要素が包装材で密封された電池においても、包装材の空間に液体やガスが存在する場合に、低圧力の環境下や高温環境下において、空間内の液体が気化したりガスが膨張したりして、包装材が膨らむ。特許文献1に開示の流体内包袋が包装材と容器との間に配置されると、高温や低圧力の環境下において流体内包袋の中の流体が膨張して、破裂したり容器を変形させたりするおそれがある。特許文献2に開示の緩衝材が包装材と容器との間に配置されると、高温や低圧力の環境下において緩衝材が放出するガス(いわゆるアウトガス)が多くなり、包装材の膨れに抗する緩衝材の反力が低下したり隙間が生じたりして、包装材の膨れを緩衝材が緩衝できなくなり、容器が変形するおそれがある。
【0006】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、高温や低圧力の環境下にあっても容器の変形を低減できる電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の電池は、固体電解質層、正極および負極を有する板状の発電要素と、発電要素を収納する密閉空間を有すると共に、発電要素を包み込む薄膜のシート部材からなる包装材と、包装材を収容し、包装材よりも硬い材料で作られた容器と、を備える。さらに容器と包装材との間隙に配置された充填材を備え、充填材は、間隙のうち発電要素の板厚方向において発電要素と重なる2つの第1間隙の全体に亘って容器と包装材とに接し、ASTM E595-15に規定される質量損失比が1.0%以下の材料である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の電池によれば、発電要素を密閉空間に収納する包装材と容器との間隙のうち、発電要素の板厚方向において発電要素と重なる第1間隙の全体に亘って、容器と包装材とに充填材が接する。充填材はASTM E595-15に規定される質量損失比が1.0%以下の材料なので、充填材に含まれる揮発成分が少なく、高温や低圧力の環境下における充填材の変質を低減できる。よって密閉空間にガスや液体が存在する場合に、高温や低圧力の環境下において密閉空間内のガスが膨張して包装材が膨れても、第1間隙の全体に存在する充填材によって、容器に加わる力が分散される。よって包装材の膨れによる容器の変形を低減できる。
【0009】
請求項2記載の電池によれば、包装材において密閉空間の周囲の少なくとも一部にシート部材が重ね合わされて貼着されてなるシール部が存在する。充填材は、容器と包装材との間隙のうち発電要素の板厚方向においてシール部と重なる2つの第2間隙の少なくとも一部に亘って容器と包装材とに接する。これにより密閉空間にガスや液体が存在する場合に、密閉空間内のガスが膨張して密閉空間の圧力が高くなっても、第2間隙に充填材が有るので、請求項1の効果に加え、シール部の破壊を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施の形態における電池の斜視図である。
図2】電池の分解立体図である。
図3】発電要素を含む包装物の分解立体図である。
図4図1のIV-IV線における電池の断面図である。
図5】充填材が配置される前の電池の断面図である。
図6図1のVI-VI線における電池の断面図である。
図7】充填材が配置される前の電池の断面図である。
図8図1のVIII-VIII線における電池の断面図である。
図9】充填材が配置される前の電池の断面図である。
図10】発電要素を含む他の包装物の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における電池10の斜視図である。図2は電池10の分解立体図である。図3は発電要素12を含む包装物11の分解立体図である。図4図1のIV-IV線における電池10の断面図である。図面では発電要素12、包装材22、容器30等の厚さが誇張して示されている。
【0012】
図1に示すように電池10は、発電要素12(図2参照)を含む包装物11が容器30に収納されている。容器30は箱型の容器本体31と蓋38とを備え、容器30の外に端子15,20が設けられている。電池10は、発電要素12が固体で構成された固体リチウムイオン電池である。発電要素12が固体で構成されているとは、発電要素12の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。
【0013】
図2に示すように容器本体31は、矩形の板である第1板32と、第1板32とほぼ同じ形の板であって第1板32とほぼ平行に配置される第2板33と、第1板32の1辺と第2板33の1辺とをつなぐ矩形の板である第3板34と、第3板34とほぼ同じ形の板であって第3板34とほぼ平行に配置され、第1板32の別の1辺と第2板33の別の1辺とをつなぐ第4板35と、第1板32、第2板33、第3板34及び第4板35をつなぐ第5板36と、を備えている。
【0014】
蓋38は、第5板36とほぼ同じ形の板である。蓋38は、容器本体31において第5板36の反対側に開いた口37を覆い、容器本体31に接合され口37を塞ぐ。蓋38には、蓋38の厚さ方向に貫通する端子挿通孔39が形成されている。端子15,20は端子挿通孔39を通過して容器30の外に引き出される。
【0015】
本実施形態では容器本体31及び蓋38は、鋼鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタニウム、チタニウム合金などの1種以上からなる金属製である。これに限られるものではなく合成樹脂製の容器本体31及び蓋38を採用することは可能である。
【0016】
容器30の第3板34と第4板35との間の距離、及び、第5板36と蓋38との間の距離は、第1板32と第2板33との間の距離より長い。従って容器30の6面を構成する各板および蓋38の各面の中央に、各面に垂直な向きの力が加えられたときに、第1板32及び第2板33は、第3板34、第4板35、第5板36及び蓋38よりも弾性変形し易い。
【0017】
容器30に収納される包装物11は、発電要素12と、発電要素12を収納する包装材22と、を備えている。容器30の第1板32、第2板33、第3板34、第4板35、第5板36及び蓋38は包装材22よりも硬い。包装材22は、発電要素12の厚さ方向に重ねて収納部24が配置されている。本実施形態ではシール部23は包装材22の全周に設けられている。シール部23と収納部24との境界25は、発電要素12の周囲に位置する。
【0018】
シール部23は、端子15,20と交わる第1部23aと、第1部23aの反対側に設けられた第2部23bと、第1部23aと第2部23bとをつなぐ第3部23c及び第4部23dと、を備えている。端子15,20は第1部23aから包装材22の外に引き出されている。集電層14,19と端子15,20との間にもそれぞれ接着層(図示せず)が設けられており、この接着層と第1シート部材26及び第2シート部材27の接着層とが第1部23a(シール部23)において溶着されている。包装材22は密閉空間28(図4参照)への水分の浸入等を抑制し、発電要素12の性能低下を抑制する。
【0019】
図3に示すように発電要素12は、順に、正極13、固体電解質層17及び負極18を含む。本実施形態では発電要素12の板厚方向(図3上下方向)から見て、正極13、固体電解質層17及び負極18は形状が略矩形である。但し正極13、固体電解質層17及び負極18の形状に制限はない。
【0020】
正極13は集電層14と複合層16とが積層されている。端子15は集電層14に接続されている。負極18は集電層19と複合層21とが積層されている。端子20は集電層19に接続されている。集電層14,19は導電性を有する部材であり、例えばNi,Ti,Fe,Cu及びAlから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼、炭素材料などによって形成されている。
【0021】
複合層16は活物質およびイオン伝導体を含む。正極13の活物質およびイオン伝導体は特に制限がない。活物質としては、例えばCo,Mn,Ni等の遷移金属元素およびLiを含む金属酸化物、TiS等の硫化物などが挙げられる。イオン伝導体としては、例えばLi6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr12等の酸化物系、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3等の硫化物系、LiCB1112等の水素化物系が挙げられる。
【0022】
固体電解質層17はイオン伝導体を含む。固体電解質層17のイオン伝導体も特に制限がない。固体電解質層17のイオン伝導体は、正極13のイオン伝導体と同様に、酸化物系、硫化物系および水素化物系が挙げられる。
【0023】
負極18の複合層21は活物質およびイオン伝導体を含む。負極18の活物質およびイオン伝導体は特に制限がない。負極18の活物質としては、例えばLi、Li-Al合金、LiTi12、黒鉛、In、Si、Si-Li合金、SiO等が挙げられる。負極18のイオン伝導体は、正極13のイオン伝導体と同様に、酸化物系、硫化物系および水素化物系が挙げられる。
【0024】
包装材22は第1シート部材26及び第2シート部材27からなる。本実施形態では発電要素12の板厚方向から見て、第1シート部材26及び第2シート部材27は形状が略矩形である。但し第1シート部材26及び第2シート部材27の形状に制限はない。第1シート部材26及び第2シート部材27は、集電層14,19、複合層16,21及び固体電解質層17よりも大きい。
【0025】
第1シート部材26及び第2シート部材27は、例えば順に、表層、バリア層および接着層(いずれも図示せず)を含む。第1シート部材26及び第2シート部材27は、接着層を向き合わせて配置される。表層は、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミドで作られる。バリア層は、例えばアルミニウム等の金属箔や蒸着層で作られる。接着層は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンを主成分とする共重合体等のオレフィン系樹脂で作られる。第1シート部材26及び第2シート部材27は、必要に応じて、これら以外の層を設けても良いし、バリア層を複数設けても良いし、表層を省略しても良い。
【0026】
第1シート部材26及び第2シート部材27の接着層の溶着によりシール部23(図4参照)が形成され、シール部23の内側に収納部24が形成される。発電要素12は、シール部23及び収納部24によって作られた包装材22の密閉空間28(図4参照)に収納されている。
【0027】
図4に示すように電池10は、容器30と包装材22との間に充填材40が配置されている。充填材40は、容器30の間隙41(図5及び図7参照)に詰められた有機材料であり、弾性変形する絶縁体である。充填材40は、ASTM E595-15に規定される質量損失比が1.0%以下の材料である。充填材40の材料としては、例えば主成分がエポキシ樹脂であるNB3040,NB3041B(いずれも製造元は株式会社ダイゾー)が挙げられる。
【0028】
ASTM E595-15はアウトガスレート測定試験の規定である。質量損失比(TML)は、アウトガスレート測定試験前後の試料の質量減の割合である。質量損失比は、TML(%)=(W-W)/W×100の式から算出される。但しWは23±1℃、50±5%RH、常圧の環境下で秤量した試料の質量であり、Wは125±1℃、真空度7×10-3Pa以下の環境下で秤量した試料の質量である。
【0029】
図5は充填材40が配置される前の電池10の断面図である。図5は、図4の断面図における電池10の、充填材40を取り除いた状態が図示されている。図6図1のVI-VI線における電池10の断面図である。図7は充填材40が配置される前の電池10の断面図である。図7は、図6の断面図における電池10の、充填材40を取り除いた状態が図示されている。
【0030】
図5及び図7に示すように発電要素12は、包装材22の広い面を第1板32及び第2板33に向けて容器30に収容される。包装材22は、包装材22のシール部23のうち第1部23a以外の第2部23b、第3部23c及び第4部23dを折り曲げて発電要素12の板厚方向(図5及び図7上下方向)に重ねた状態で、発電要素12と共に容器30に収納されている。容器30の容積をできるだけ小さくするためである。
【0031】
容器30と包装材22との間隙41は、発電要素12の板厚方向において発電要素12と重なる第1間隙42,43と、発電要素12の板厚方向においてシール部23と重なる第2間隙44-51と、を含む。第1間隙42は発電要素12と第1板32との間隙である。第1間隙43は発電要素12と第2板33との間隙である。第1間隙42,43は、発電要素12の板厚方向において、包装材22によって第1間隙42と第1間隙43の2つに仕切られている。
【0032】
図5に示すように、第2間隙44は第1部23aと第1板32との間隙である。第2間隙45は第1部23aと第2板33との間隙である。第2間隙46は第2部23bと第1板32との間隙である。第2間隙47は第2部23bと第2板33との間隙である。第2部23bのうち発電要素12の板厚方向に重なっている部分と第2板33との間隙は、第2間隙47ではなく第1間隙43である。
【0033】
図7に示すように、第2間隙48は第3部23cと第1板32との間隙である。第2間隙49は第3部23cと第2板33との間隙である。第3部23cのうち発電要素12の板厚方向に重なっている部分と第2板33との間隙は、第2間隙49ではなく第1間隙43である。
【0034】
第2間隙50は第4部23dと第1板32との間隙である。第2間隙51は第4部23dと第2板33との間隙である。第4部23dのうち発電要素12の板厚方向に重なっている部分と第2板33との間隙は、第2間隙51ではなく第1間隙43である。
【0035】
第2間隙44,46,48,50は互いにつながっており、第1間隙42の周りに位置する。第2間隙45,47,49,51は互いにつながっており、第1間隙43の周りに位置する。第2間隙44-51は、発電要素12の板厚方向において、包装材22によって第2間隙44,46,48,50と第2間隙45,47,49,51の2つに仕切られている。
【0036】
容器30と包装材22との間隙41は、さらに第2間隙44,45(図5参照)と蓋38との間の第3間隙52、第2間隙46,47と第5板36との間の第4間隙53、第2間隙48,49(図7参照)と第3板34との間の第5間隙54、及び、第2間隙50,51と第4板35との間の第6間隙55を含む。
【0037】
図8図1のVIII-VIII線における電池10の断面図である。図9は充填材40が配置される前の電池10の断面図である。図9は、図8の断面図における電池10の、充填材40を取り除いた状態が図示されている。
【0038】
図9に示すように容器30と包装材22との間隙41は、さらに第1隅56、第2隅57、第3隅58及び第4隅59を含む。第1隅56は第3間隙52と第6間隙55とをつなぎ、第2隅57は第3間隙52と第5間隙54とをつないでいる。第3隅58は第4間隙53と第5間隙54とをつなぎ、第4隅59は第4間隙53と第6間隙55とをつないでいる。
【0039】
充填材40は、例えば、硬化する前の液状の充填材40の材料を口37から容器本体31の中へ注入した後、包装物11を容器本体31の中へ入れ、充填材40の材料に包装材22を浸す方法によって間隙41に充填される。充填材40の材料が間隙41の中で硬化すると、充填材40が間隙41に配置されることになる。本実施形態では充填材40は、第1間隙42,43の全体、第2間隙44,45の一部、第2間隙46-51の全体、第4間隙53の一部、第5間隙54の一部、第6間隙55の一部、第3隅58の一部および第4隅59の一部に存在し、第3間隙52、第1隅56及び第2隅57に存在しない。
【0040】
充填材40は、間隙41のうち第1間隙42の全体に亘って包装材22と第1板32とに接しており、第1間隙43の全体に亘って包装材22と第2板33とに接している。第1間隙42,43に配置された充填材40に気泡や空隙は存在しても良い。但し包装材22から第1板32まで連続してつながる気泡や空隙、包装材22から第2板33まで連続してつながる気泡や空隙は、第1間隙42,43の充填材40に存在しない。
【0041】
発電要素12が収納された包装材22の密閉空間28にガスや液体が存在する場合には、高温や低圧力の環境下では密閉空間28内の液体が気化しガスが膨張して密閉空間28の圧力が上昇し、包装材22の収納部24が膨らむ。収納部24が膨らむときの、発電要素12の厚さ方向における収納部24の変形は、シール部23の近くで小さく、シール部23から離れて収納部24の中央へ向かうにつれて大きくなる。よって収納部24が膨らむときに充填材40に加わる力は、シール部23の近くで小さく、シール部23から離れて収納部24の中央へ向かうにつれて大きくなる。
【0042】
電池10は第1間隙42,43の全体に亘って容器30と包装材22とに充填材40が接するので、収納部24が膨れたときに、充填材40を介して第1板32及び第2板33に加わる力が分散される。これにより収納部24が膨れたときに第1板32及び第2板33の中央に包装材22が加える力を低減できる。
【0043】
充填材40はASTM E595-15に規定される質量損失比が1.0%以下の材料である。従って充填材40に含まれる揮発成分が少なくアウトガスの発生が少ないので、地球の大気圏外などの低圧力の環境下や高温環境下において充填材40の変質を低減できる。よって高温や低圧力の環境下において密閉空間28内のガスが膨張して収納部24が膨れても、第1間隙42,43の全体に存在する充填材40によって、容器30の第1板32及び第2板33に加わる力が分散される。従って収納部24が膨れたときの第1板32及び第2板33(容器30)の変形を低減できる。
【0044】
さらに充填材40は、間隙41のうち発電要素12の板厚方向においてシール部23と重なる第2間隙44,46,48,50及び第2間隙45,47,49,51の少なくとも一部に亘って第1板32及び第2板33と包装材22とに接している。これは、第2間隙44,46,48,50の少なくとも一部において、発電要素12の板厚方向に亘って第1板32と包装材22とに充填材40が接しており、その部分の発電要素12の板厚方向に対応する第2間隙45,47,49,51において、発電要素12の板厚方向に亘って第2板33と包装材22とに充填材40が接していることを意味する。これは発電要素12の板厚方向に沿う電池10の断面を観察して確認できる。
【0045】
充填材40が、第2間隙44,46,48,50及び第2間隙45,47,49,51の少なくとも一部に亘って第1板32及び第2板33と包装材22とに接している部分では、包装材22の密閉空間28内のガスが膨張して密閉空間28の圧力が高くなっても、シール部23の破壊(剥離や開裂など)を低減できる。よってシール部23が破壊したところから密閉空間28に水分が浸入する等の不具合の発生を低減できる。
【0046】
本実施形態では、さらに、(1)第1部23aにおける境界25の全長に亘って包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、第1部23aにおける境界25の全長に亘って包装材22と第2板33とに充填材40が接している。よって密閉空間28の圧力が高くなっても、第1部23aの破壊を低減できる。
【0047】
(2)第2間隙46の全体に亘って包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、第2間隙47の全体に亘って包装材22と第2板33とに充填材40が接している。よって密閉空間28の圧力が高くなっても、第2部23bの破壊を低減できる。
【0048】
(3)第2間隙48の全体に亘って包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、第2間隙49の全体に亘って包装材22と第2板33とに充填材40が接している。よって密閉空間28の圧力が高くなっても、第3部23cの破壊を低減できる。
【0049】
(4)第2間隙50の全体に亘って包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、第2間隙51の全体に亘って包装材22と第2板33とに充填材40が接している。よって密閉空間28の圧力が高くなっても、第4部23dの破壊を低減できる。
【0050】
なお、第2間隙44-51に配置された充填材40に気泡や空隙は存在しても良い。そのような気泡や空隙が存在しても、充填材40はシール部23の破壊を防ぐ機能を果たすからである。
【0051】
上記(1)-(4)のいずれか1以上を省略することは当然可能である。また(1)において、第1部23aにおける境界25の一部について包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、その境界25の一部について包装材22と第2板33とに充填材40が接していても良い。これにより密閉空間28の圧力が高くなっても、第1部23aの破壊を低減できる。
【0052】
(2)において、第2部23bにおける境界25の一部について包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、その境界25の一部について包装材22と第2板33とに充填材40が接していても良い。これにより密閉空間28の圧力が高くなっても、第2部23bの破壊を低減できる。
【0053】
(3)において、第3部23cにおける境界25の一部について包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、その境界25の一部について包装材22と第2板33とに充填材40が接していても良い。これにより密閉空間28の圧力が高くなっても、第3部23cの破壊を低減できる。
【0054】
(4)において、第4部23dにおける境界25の一部について包装材22と第1板32とに充填材40が接し、かつ、その境界25の一部について包装材22と第2板33とに充填材40が接していても良い。これにより密閉空間28の圧力が高くなっても、第4部23dの破壊を低減できる。
【0055】
図10は発電要素12を含む他の包装物60の斜視図である。包装物60は、発電要素12と、発電要素12を収納する包装材61と、を備えている。包装材61は、接着層(図示せず)が向き合うように2つに折り曲げられたシート部材62の接着層を溶着してシール部63が作られている。シール部63は包装材61の一部(本実施形態では3辺)に設けられている。シール部63によって作られた包装材61の密閉空間に、発電要素12が収納されている。シート部材62は、第1シート部材26や第2シート部材27と同様に構成されているので説明を省略する。
【0056】
シール部63は、端子15,20と交わる第1部63aと、第1部63aの反対側に設けられた第2部63bと、第1部63aと第2部63bとをつなぐ第3部63cと、を備えている。端子15,20は第1部63aから包装材61の外に引き出されている。包装物60は包装物11と同様に容器30に収納され、電池が作られる。包装物60を使って得られる電池も、容器30と包装材61との間隙41に配置された充填材40により、電池10と同様の作用効果を実現できる。
【実施例
【0057】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0058】
試験者は包装物および電池のサンプルを作製して、低圧力や高温の環境下における包装材や容器の変形を調べた。まず、固体電解質および固体電解質層の調製方法、固体電解質層を含む発電要素が包装材に封入された包装物の作製方法を説明する。
【0059】
(固体電解質の調製)
Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr12という組成になるようにLiCO,MgO,La(OH),SrCO及びZrOを秤量した。なお焼成時のLiの揮発を考慮して、元素換算で15mol%程度過剰になるようにLiCOをさらに加えた。これらをボールミルで湿式混合し、乾燥後、1100℃で10時間の仮焼を行った。仮焼後の粉末にバインダーを加え、ボールミルで湿式混合した。乾燥後の粉末を金型に投入し、1.5ton/cmの静水圧を加え、成形体を得た。この成形体を、成形体と同じ組成の仮焼粉末で覆い、1100℃で4時間の焼成を行い、焼結体を得た。焼結体のイオン伝導率は1×10-3S/cmであった。この焼結体をAr雰囲気のグローブボックス内で粉砕し、LLZ粉末を得た。
【0060】
(固体電解質層の調製)
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミドに、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを0.8M複合したイオン液体とLLZ粉末を、Ar雰囲気のグローブボックス内で乳鉢と乳棒で混合し、混合粉末(LLZ粉末90wt%)を得た。Ar雰囲気のグローブボックス内で混合粉末とバインダー(ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)を100:3の割合で有機溶媒と共に乳鉢と乳棒で混合した後、アプリケータ(クリアランス500μm)を用いてアルミニウム箔の上に成膜し、70℃で1時間の減圧乾燥を行い、固体電解質層を得た。
【0061】
(包装物の作製)
固体電解質層を調製した方法と同様にして、活物質としてLiCoOを添加した正極を作製した。同様に、アルミニウム箔の代わりに銅箔を使用し、活物質としてグラファイトを添加した負極を作製した。正極、固体電解質層、負極を積層し加圧して発電要素を得た。発電要素を1辺が50mmの正方形の形状に切り出し、正極および負極に端子を接続したものを、アルミニウム箔がラミネートされたポリエステルフィルム(第1シート部材および第2シート部材)からなる包装材に収納して包装物を得た。包装材の密閉空間には、発電要素と共に、グローブボックス内のアルゴンガス、フィルムや各種部材に付着した有機ガスや溶剤、水分などが封入されている。
【0062】
【表1】
表1はサンプルの種類と各サンプルの変形の一覧表である。
【0063】
No.1のサンプルは、容器に収容されていない包装物であった。No.2のサンプルは、縦55mm横65mmの矩形の底面をもち高さが3mmのステンレス鋼製の中空板状の容器に包装物が収容されていた。
【0064】
No.3のサンプルは、包装材と容器との間隙のうち発電要素の板厚方向において発電要素と重なる2つの第1間隙の全体に亘って容器と包装材とに充填材が接していた。充填材はシリコーンゴム(Q)を主成分とするRTVゴム(KE45W-100(信越化学工業製))であり、100℃で30分以上加熱して硬化させた。
【0065】
No.4のサンプルは、包装材と容器との間隙のうち発電要素の板厚方向において発電要素と重なる2つの第1間隙の全体に亘って容器と包装材とに充填材が接していた。充填材はエポキシ樹脂を主成分とするNB3040(ダイゾー製)であり、100℃で10分以上加熱して硬化させた。
【0066】
No.5のサンプルは、3.7V,40mAhの市販のリチウムイオンポリマー電池(型番DTP301120(PHR),SHENZHEN DATA POWER TECHNOLOGY LTD製)であった。No.6のサンプルはNo.1のサンプルと同じ種類であった。No.7のサンプルはNo.3のサンプルと同じ種類であった。No.8のサンプルはNo.4のサンプルと同じ種類であった。
【0067】
No.9のサンプルは、包装材と容器との間隙のうち発電要素の板厚方向において発電要素と重なる2つの第1間隙の全体に亘って容器と包装材とに充填材が接していた。さらに、包装材と容器との間隙のうち発電要素の板厚方向においてシール部と重なる2つの第2間隙の全体に亘って容器と包装材とに充填材が接していた。充填材はエポキシ樹脂を主成分とするNB3040(ダイゾー製)であり、100℃で10分以上加熱して硬化させた。
【0068】
(変形の測定)
No.1-4の各サンプルを真空デシケータ内に入れ、発電要素が25℃(室温)、雰囲気が1.01×10Pa(常圧)のときの各サンプルの厚さT1(mm)と、発電要素が25℃、雰囲気が1×10Pa(低圧力)のときの各サンプルの最大の厚さT2(mm)とをノギスで測定し、変形(mm)=T2-T1を求めた。
【0069】
同様にNo.5-9の各サンプルを真空デシケータ内に入れ、発電要素が25℃、雰囲気が1.01×10Paのときの各サンプルの厚さT1(mm)と、発電要素が100℃(高温)、雰囲気が1×10Pa(低圧力)のときの各サンプルの最大の厚さT3(mm)とをノギスで測定し、変形(mm)=T3-T1を求めた。No.5,6のサンプルは、変形を測定できる限界を超えた。
【0070】
表1の変形の欄には、No.1のサンプルの変形(mm)に対するNo.2-9のサンプルの変形(mm)を、No.1のサンプルの変形を100として記した。
【0071】
表1に示すように包装物の100の変形によって(No.1)、容器に47の変形が生じることが明らかになった(No.2)。第1間隙にRTVゴムが配置されたNo.3は変形が30なので、第1間隙に充填材を配置することにより、No.2に比べて容器の変形を低減できた。第1間隙にNB3040が配置されたNo.4は変形が15なので、No.3に比べ、さらに変形を小さくできることが明らかになった。
【0072】
No.1とNo.6を比較して明らかなように、100℃(高温)、1×10Pa(低圧力)の環境下では変形がさらに大きくなった。No.5に示すように、市販の電池も大きく変形した。この環境下では、第1間隙にRTVゴムが配置されたNo.7は変形が295であった。これに対し、第1間隙にNB3040が配置されたNo.8は変形が23であった。No.8は、No.7に比べ、変形を著しく小さくできることが明らかになった。
【0073】
No.8の充填材であるNB3040は、ASTM E595-15に規定される質量損失比が1.0%以下の材料である。一方、No.7の充填材であるRTVゴムは、125℃で24時間加熱したところ3.5質量%の減量が生じた。No.7のRTVゴムは高温環境下で変質して、包装材の膨れに抗するゴムの反力が低下したり隙間が生じたりして、包装材の膨れをゴムが緩衝できなくなり、No.8に比べて容器の変形が大きくなったと推察される。
【0074】
これに対しNB3040は揮発成分が少なくアウトガスの発生が少ないので、高温かつ低圧力の環境下においても充填材の変質を低減できると推察される。よって包装材が膨れても第1間隙に存在する充填材(NB3040)によって容器に加わる力が分散される。従ってNo.8は包装材が膨れたときの容器の変形を低減できたと推察される。
【0075】
第1間隙および第2間隙にNB3040が配置されたNo.9の変形は、第1間隙にNB3040が配置されたNo.8の変形とほぼ同じであった。No.9のサンプルは第2間隙に配置された充填材がシール部に接しているので、継続して高温かつ低圧力の環境下にサンプルがおかれても、シール部の破壊を低減できるものと推察される。
【0076】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。発電要素12や容器30の形状は一例であり、適宜設定できる。例えば容器本体31の第3板34、第4板35、第5板36及び蓋38の1以上を湾曲した形状にすることは当然可能である。
【0077】
実施形態では、容器30の内側に包装材22が配置された電池10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。包装材22と容器30との間に中間部材を配置することは当然可能である。中間部材は、合成樹脂や金属などによって板状、格子状、枠状等に形成される。中間部材は容器30の一部である。中間部材と包装材22との間に充填材40が配置される。
【0078】
実施形態では、正極13の集電層14の片面に複合層16を形成し、負極18の集電層19の片面に複合層21を形成し、複合層16と複合層21との間に固体電解質層17を配置した発電要素12について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電層の両面に複合層16,21を形成した電極(いわゆるバイポーラ電極)と固体電解質層17とを交互に積層し、それを単一の電槽に収容した、いわゆるバイポーラ構造の発電要素12とすることは当然可能である。
【0079】
実施形態では、包装材22の外に引き出された端子15,20が、容器30の外に引き出されている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。包装材22の外に引き出された端子15,20の少なくとも一方に別の端子を接続し、その端子を容器30の外に引き出すようにすることは当然可能である。
【0080】
実施形態では、イオン伝導のキャリアがLiである固体リチウムイオン電池を発電要素12とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他のキャリアを使う固体電池を発電要素12に採用することは当然可能である。他のキャリアとしては、例えばAg,Cu,Na,F,H等が挙げられる。
【0081】
実施形態では、発電要素12の端子15,20が、両方ともシール部23の第1部23aから引き出される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば端子15,20の片方をシール部23の第1部23aから引き出し、もう片方をシール部23の第2部23bから引き出すようにすることは当然可能である。
【0082】
実施形態では、箱型の容器本体31の中へ液状の充填材40の材料を注入した後、包装物11を容器本体31の中へ入れ、充填材40の材料に包装材22を浸し、硬化させることによって間隙41に充填材40を配置する方法について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、板状に成形された充填材40を準備し、その充填材40を発電要素12に重ねて容器30の中に配置することは当然可能である。また、箱型の容器本体31に代えて、第1板32、第2板33、第3板34、第4板35及び第5板36を接合して容器本体31を組み立てる場合に、第1板32、第2板33及び包装物11のいずれかに充填材40の材料を塗布した後、包装物11が収容された容器本体31を組み立て、容器本体31の中の充填材40を硬化させることは当然可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 電池
12 発電要素
13 正極
17 固体電解質層
18 負極
22,61 包装材
23,63 シール部
26 第1シート部材(シート部材)
27 第2シート部材(シート部材)
28 密閉空間
30 容器
40 充填材
41 間隙
42,43 第1間隙
44,45,46,47,48,49,50,51 第2間隙
62 シート部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10