(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】燃料電池用ポンプ
(51)【国際特許分類】
H02P 6/21 20160101AFI20240501BHJP
F04C 28/06 20060101ALI20240501BHJP
F04B 49/02 20060101ALI20240501BHJP
H02P 6/18 20160101ALI20240501BHJP
【FI】
H02P6/21
F04C28/06 B
F04B49/02 331B
H02P6/18
(21)【出願番号】P 2020097709
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文博
(72)【発明者】
【氏名】森 達志
(72)【発明者】
【氏名】石川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】柿元 巧
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155409(JP,A)
【文献】特開2009-247082(JP,A)
【文献】特開2009-264172(JP,A)
【文献】特開2014-143775(JP,A)
【文献】特開2018-166387(JP,A)
【文献】特開2017-050210(JP,A)
【文献】特開2006-283664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/21
F04C 28/06
F04B 49/02
H02P 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給するポンプ部と、
前記ポンプ部を駆動するモータと、
前記モータの駆動を制御する制御部と、
前記ポンプ部を収容するポンプ室、前記モータを収容するモータ室及び前記制御部を収容する制御室を備えるハウジングと、を備える燃料電池用ポンプであって、
前記制御部は、前記ポンプ部が起動するまでの起動制御手段と、前記ポンプ部が起動した後のセンサレスベクトル制御手段とを備え、
前記起動制御手段は、外気温を検出する温度検出部により検出された前記外気温が予め設定された設定温度よりも高い場合は通常起動モード処理を実行し、前記温度検出部により検出された前記外気温が前記設定温度以下である場合は低温起動モード処理を実行し、
前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行され、
前記ポンプ部が起動した後に前記センサレスベクトル制御手段に移行
し、
前記低温起動モード処理は複数回実行され、
前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、前記起動電流の供給時間を長く設定することを特徴とする燃料電池用ポンプ。
【請求項2】
燃料電池に燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給するポンプ部と、
前記ポンプ部を駆動するモータと、
前記モータの駆動を制御する制御部と、
前記ポンプ部を収容するポンプ室、前記モータを収容するモータ室及び前記制御部を収容する制御室を備えるハウジングと、を備える燃料電池用ポンプであって、
前記制御部は、前記ポンプ部が起動するまでの起動制御手段と、前記ポンプ部が起動した後のセンサレスベクトル制御手段とを備え、
前記起動制御手段は、外気温を検出する温度検出部により検出された前記外気温が予め設定された設定温度よりも高い場合は通常起動モード処理を実行し、前記温度検出部により検出された前記外気温が前記設定温度以下である場合は低温起動モード処理を実行し、
前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行され、
前記ポンプ部が起動した後に前記センサレスベクトル制御手段に移行し、
前記低温起動モード処理は複数回実行され、
前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、前記起動電流の供給時間を短く設定し、設定された前記起動電流の供給時間は前記通常起動モード処理の実行時の前記起動電流の供給時間よりも長いことを特徴とする燃料電池用ポンプ。
【請求項3】
前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行時での前記起動電流の周期を徐々に短くすることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の燃料電池用ポンプ。
【請求項4】
前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行時での前記起動電流の周期を徐々に長くすることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の燃料電池用ポンプ。
【請求項5】
燃料電池に燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給するポンプ部と、
前記ポンプ部を駆動するモータと、
前記モータの駆動を制御する制御部と、
前記ポンプ部を収容するポンプ室、前記モータを収容するモータ室及び前記制御部を収容する制御室を備えるハウジングと、を備える燃料電池用ポンプであって、
前記制御部は、前記ポンプ部が起動するまでの起動制御手段と、前記ポンプ部が起動した後のセンサレスベクトル制御手段とを備え、
前記起動制御手段は、外気温を検出する温度検出部により検出された前記外気温が予め設定された設定温度よりも高い場合は通常起動モード処理を実行し、前記温度検出部により検出された前記外気温が前記設定温度以下である場合は低温起動モード処理を実行し、
前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行され、
前記ポンプ部が起動した後に前記センサレスベクトル制御手段に移行し、
前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行時での前記起動電流の周期を徐々に長くすることを特徴とする燃料電池用ポンプ。
【請求項6】
前記低温起動モード処理は複数回実行されることを特徴とする請求項
5に記載の燃料電池用ポンプ。
【請求項7】
前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、が実行され、
前記低温起動モード処理における前記起動電流値の最大値は、前記通常起動モード処理における前記起動電流値の最大値よりも大きいことを特徴とする請求項1
~請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池用ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料ガスである水素と酸化剤ガスである空気に含まれる酸素とを化学反応させて発電を行う燃料電池を備える燃料電池システムを搭載した車両が実用化されている。燃料電池用ポンプは、例えば、燃料電池に水素を供給するポンプとして用いられている。燃料電池用ポンプとしては、例えば特許文献1のようなルーツポンプがある。ルーツポンプは、ハウジングと、水素を燃料電池に供給するポンプ部と、ハウジング内に形成され、ポンプ部を収容するポンプ室と、ポンプ部を駆動するモータと、を備えている。また、ルーツポンプは、モータの駆動を制御する制御部を備えている。そして、制御部は、ポンプ部を起動させる際には、予め設定された起動電流値をモータへ供給することでモータの駆動を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池用ポンプでは、燃料電池にて酸素と反応しなかった水素(水素オフガス)がポンプ室に吸入される。水素は、燃料電池の発電に伴い生成された水を含んでいる。このため、例えば、低温環境下でポンプ部の運転が停止されると、ポンプ室内に存在する水が凍結して氷となる。ここで、ポンプ室内において、ポンプ部とポンプ室とを区画するハウジングの内面との間に存在する水が凍結して氷になっていると、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着してしまう場合がある。
【0005】
ここで、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されているか否かを考慮せずに、制御部が予め設定された起動電流値をモータに常に供給する場合を考える。この場合、例えば、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていたとすると、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていない場合に比べて、ポンプ部の起動に要する時間が長くなってしまい、応答性が悪い。
【0006】
そこで、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されている場合であってもすぐにポンプ部が駆動可能となるような起動電流値を制御部がモータに常に供給することを考える。この場合、例えば、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていないときであっても、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されているときにポンプ部が駆動可能となるような起動電流値を制御部がモータに供給することになる。したがって、不必要な大きな起動電流値をモータに供給してしまうことになるため、電力を無駄に消費してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、起動に要する時間を短くすることができるとともに、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる燃料電池用ポンプ及び燃料電池用ポンプの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する燃料電池用ポンプは、燃料電池に燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給するポンプ部と、前記ポンプ部を駆動するモータと、前記モータの駆動を制御する制御部と、前記ポンプ部を収容するポンプ室、前記モータを収容するモータ室及び前記制御部を収容する制御室を備えるハウジングと、を備える燃料電池用ポンプであって、前記制御部は、前記ポンプ部が起動するまでの起動制御手段と、前記ポンプ部が起動した後のセンサレスベクトル制御手段とを備え、前記起動制御手段は、外気温を検出する温度検出部により検出された前記外気温が予め設定された設定温度よりも高い場合は通常起動モード処理を実行し、前記温度検出部により検出された前記外気温が前記設定温度以下である場合は低温起動モード処理を実行し、前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行され、前記ポンプ部が起動した後に前記センサレスベクトル制御手段に移行する。
【0009】
ここで、温度検出部により検出された外気温が設定温度よりも高い場合には、ポンプ室内に水が存在していても、水がポンプ室内で凍結することが無いと推定される。また、温度検出部により検出された外気温が設定温度以下である場合には、ポンプ室内に水が存在していると、水がポンプ室内で凍結すると推定される。このような推定は、予め実験等によって把握されている。したがって、「設定温度」とは、ポンプ室内に水が存在しているときに、ポンプ室内で水が凍結するか否かを判別するために、実験等によって予め求められた温度である。
【0010】
そして、制御部は、温度検出部により検出された外気温が設定温度以下である場合は、低温起動モード処理を実行する。したがって、例えば、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていたとしても、通常起動モード処理の実行時よりもモータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行される。よって、例えば、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されているにもかかわらず、制御部が通常起動モード処理を実行することが無いため、ポンプ部の起動に要する時間を短くすることができる。
【0011】
一方で、制御部は、温度検出部により検出された外気温が予め設定された設定温度よりも高い場合は、通常起動モード処理を実行する。したがって、例えば、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていないにもかかわらず、低温起動モード処理のような、通常起動モード処理の実行時よりもモータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行されることが無い。その結果、不必要な大きな起動電流値をモータに供給したり、モータへの起動電流の供給時間が無駄に長くなったりすることが回避されるため、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。以上のことから、ポンプ部の起動に要する時間を短くすることができるとともに、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0012】
上記燃料電池用ポンプにおいて、前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、が実行され、前記低温起動モード処理における前記起動電流値の最大値は、前記通常起動モード処理における前記起動電流値の最大値よりも大きいとよい。
【0013】
これによれば、モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のどちらか一方のみが実行される場合に比べて、ポンプ部をさらに起動し易くすることができる。
【0014】
上記燃料電池用ポンプにおいて、前記低温起動モード処理は複数回実行されるとよい。
これによれば、例えば、制御部が1回目の低温起動モード処理を実行してもポンプ部が起動しなかった場合に、制御部が低温起動モード処理を再び実行することにより、モータの回転方向の切り換えにより発生する衝撃力が、ポンプ部とポンプ室とを区画するハウジングの内面との間に存在する氷に伝達される。これにより、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部を引き剥がし易くなり、ポンプ部を起動させ易くすることができる。
【0015】
上記燃料電池用ポンプにおいて、前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、前記起動電流の供給時間を長く設定するとよい。
例えば、温度検出部により検出された外気温が設定温度に対して低いほど、ポンプ部が氷を介してハウジングに強固に固着されている可能性が高い。このような場合、制御部が、低温起動モード処理を1回実行しただけでは、ポンプ部が起動しない虞がある。そこで、制御部は、低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、起動電流の供給時間を長く設定するようにした。これによれば、例えば、制御部が、低温起動モード処理の実行回数が増加しても、起動電流の供給時間を常に一定にする場合に比べて、低温起動モード処理の実行回数が少ない段階で、ポンプ部を起動させることが可能となる。したがって、ポンプ部の起動に要する時間を短くすることができるとともに、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0016】
上記燃料電池用ポンプにおいて、前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、前記起動電流の供給時間を短く設定し、設定された前記起動電流の供給時間は前記通常起動モード処理の実行時の前記起動電流の供給時間よりも長いとよい。
【0017】
例えば、温度検出部により検出された外気温が設定温度以下であったとしても、温度検出部により検出された外気温が設定温度に近い温度であるほど、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていても、それほど強固には固着されていない可能性が高い。このような場合、制御部が、低温起動モード処理を数回実行すれば、ポンプ部が直に起動し始める可能性が高い。そこで、制御部は、低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、起動電流の供給時間を短くするようにした。これによれば、例えば、制御部が、低温起動モード処理の実行回数が増加しても、起動電流の供給時間を常に一定にする場合に比べて、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部を引き剥がした後でも、制御部が不必要にモータへ起動電流を供給してしまう時間を極力短くすることができる。したがって、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0018】
上記燃料電池用ポンプにおいて、前記制御部は、前記低温起動モード処理の実行時での前記起動電流の周期を徐々に短くするとよい。
例えば、温度検出部により検出された外気温が設定温度に対して低いほど、ポンプ部が氷を介してハウジングに強固に固着されている可能性が高い。このような場合、モータが速い回転速度で急に回転し始めるよりも、遅い回転速度で回転し始めた方が、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部を引き剥がし易い。そこで、制御部は、低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期を徐々に短くするようにした。これによれば、起動電流の周期が常に一定である場合と比べて、モータが遅い回転速度で回転し始める。ポンプ部が氷を介してハウジングに強固に固着されている場合であっても、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部を引き剥がすことができ、ポンプ部を起動させ易くすることができる。
【0019】
上記燃料電池用ポンプにおいて、前記低温起動モード処理の実行時での前記起動電流の周期を徐々に長くするとよい。
例えば、温度検出部により検出された外気温が設定温度以下であったとしても、温度検出部により検出された外気温が設定温度に近い温度であるほど、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていても、それほど強固には固着されていない可能性が高い。このような場合、モータが速い回転速度で急に回転し始めたとしても、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部を十分に引き剥がすことが可能である。そこで、制御部は、低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期を徐々に長くするようにした。これによれば、起動電流の周期が常に一定である場合と比べて、モータが速い回転速度で急に回転し始めるため、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていても、それほど強固には固着されていない場合であれば、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部をすぐに引き剥がすことができる。そして、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部を引き剥がした後でも、制御部からモータへ起動電流が供給されるが、制御部は、低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期が徐々に長くなるようにしているため、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0020】
上記課題を解決する燃料電池用ポンプの制御方法は、燃料電池に燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給するポンプ部と、前記ポンプ部を駆動するモータと、前記モータの駆動を制御する制御部と、を備える燃料電池用ポンプの制御方法であって、前記制御部は、前記ポンプ部が起動するまでの起動制御方法と、前記ポンプ部が起動した後に移行するセンサレスベクトル制御方法とを備え、前記起動制御方法は、外気温を検出する温度検出部により検出された外気温と予め設定された設定温度とを比較する温度比較工程と、前記温度比較工程での比較結果において、前記温度検出部により検出された前記外気温が予め設定された設定温度よりも高い場合は通常起動モード処理を実行し、前記温度検出部により検出された前記外気温が前記設定温度以下である場合は低温起動モード処理を実行し、前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行される処理実行工程と、を有し、前記処理実行工程を経て前記ポンプ部が起動した後に前記センサレスベクトル制御方法に移行する。
【0021】
これによれば、制御部は、温度比較工程での比較結果において温度検出部により検出された外気温が設定温度以下である場合は、処理実行工程において低温起動モード処理を実行する。したがって、例えば、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていたとしても、通常起動モード処理の実行時よりもモータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行される。よって、例えば、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されているにもかかわらず、制御部が、処理実行工程において通常起動モード処理を実行することが無いため、ポンプ部の起動に要する時間を短くすることができる。
【0022】
一方で、制御部は、温度比較工程での比較結果において温度検出部により検出された外気温が予め設定された設定温度よりも高い場合は、処理実行工程において通常起動モード処理を実行する。したがって、例えば、ポンプ部を起動させる際に、ポンプ部が氷を介してハウジングに固着されていないにもかかわらず、低温起動モード処理のような、通常起動モード処理の実行時よりもモータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行されることが無い。その結果、不必要な大きな起動電流値をモータに供給したり、モータへの起動電流の供給時間が無駄に長くなったりすることが回避されるため、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。以上のことから、ポンプ部の起動に要する時間を短くすることができるとともに、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0023】
上記燃料電池用ポンプの制御方法において、前記処理実行工程は、前記低温起動モード処理では、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへ供給される起動電流値を大きくすること、及び、前記通常起動モード処理の実行時よりも前記モータへの起動電流の供給時間を長く設定すること、を実行し、前記低温起動モード処理における前記起動電流値の最大値は、前記通常起動モード処理における前記起動電流値の最大値よりも大きく、前記低温起動モード処理は複数回実行されるとよい。
【0024】
これによれば、例えば、制御部が、処理実行工程において、1回目の低温起動モード処理を実行してもポンプ部が起動しなかった場合に、処理実行工程において制御部が低温起動モード処理を再び実行することにより、モータの回転方向の切り換えにより発生する衝撃力が、ポンプ部とポンプ室とを区画するハウジングの内面との間に存在する氷に伝達される。これにより、ポンプ部とハウジングの内面との間に存在する氷からポンプ部を引き剥がし易くなり、ポンプ部を起動させ易くすることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、起動に要する時間を短くすることができるとともに、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態における燃料電池用ポンプを示す平断面図。
【
図3】低温起動モード処理を実行してポンプ部を起動させた際の電流と時間との関係を示すグラフ。
【
図4】インバータ装置の制御を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、燃料電池用ポンプ及び燃料電池用ポンプの制御方法を具体化した一実施形態を
図1~
図4にしたがって説明する。本実施形態の燃料電池用ポンプは、燃料ガスである水素と酸化剤ガスである空気に含まれる酸素とを化学反応させて発電を行う燃料電池に水素を供給するポンプとして用いられる。
【0028】
図1に示すように、燃料電池用ポンプ10のハウジング11は、モータハウジング12、ギアハウジング13、ロータハウジング14、及びカバー部材15を有する筒状である。モータハウジング12は、板状の底壁12aと、底壁12aの外周部から筒状に延びる周壁12bと、を有する有底筒状である。ギアハウジング13は、板状の底壁13aと、底壁13aの外周部から筒状に延びる周壁13bと、を有する有底筒状である。ギアハウジング13は、モータハウジング12の周壁12bの開口側の端部に連結されている。ギアハウジング13の底壁13aは、モータハウジング12の周壁12bの開口を閉塞している。
【0029】
ロータハウジング14は、板状の底壁14aと、底壁14aの外周部から筒状に延びる周壁14bと、を有する有底筒状である。ロータハウジング14は、ギアハウジング13の周壁13bの開口側の端部に連結されている。ロータハウジング14の底壁14aは、ギアハウジング13の周壁13bの開口を閉塞している。カバー部材15は、板状である。カバー部材15は、ロータハウジング14の周壁14bの開口側の端部に連結され、底壁14aと対向するとともに周壁14bを閉塞している。モータハウジング12の周壁12bの軸心方向、ギアハウジング13の周壁13bの軸心方向、及びロータハウジング14の周壁14bの軸心方向はそれぞれ一致している。
【0030】
燃料電池用ポンプ10は、ハウジング11に互いに平行に配置された状態で回転可能に支持される駆動軸16及び従動軸17を有している。駆動軸16及び従動軸17の回転軸線方向は、各周壁12b,13b,14bの軸心方向に一致している。駆動軸16には、円板状の駆動ギア18が固定されている。従動軸17には、駆動ギア18と噛合する円板状の従動ギア19が固定されている。駆動軸16には駆動ロータ20が設けられている。従動軸17には駆動ロータ20と噛合する従動ロータ21が設けられている。
【0031】
燃料電池用ポンプ10は、駆動軸16を回転させて駆動ロータ20及び従動ロータ21を駆動するモータ22を備えている。モータ22は、ハウジング11内に形成されたモータ室23に収容されている。モータ室23は、モータハウジング12の底壁12a、モータハウジング12の周壁12b、及びギアハウジング13の底壁13aによって区画されている。モータ22は、駆動軸16に一体回転可能に止着された円筒状のモータロータ22aと、モータハウジング12の周壁12bの内周面に固定されるとともにモータロータ22aを取り囲む円筒状のステータ22bと、を有している。ステータ22bは、図示しないティースに捲回されたコイル22cを有している。そして、モータ22は、コイル22cに電力が供給されることにより駆動して、モータロータ22aが駆動軸16と一体的に回転する。
【0032】
ハウジング11内には、駆動ギア18及び従動ギア19を収容するギア室24が形成されている。ギア室24は、ギアハウジング13の底壁13a、ギアハウジング13の周壁13b、及びロータハウジング14の底壁14aによって区画されている。駆動ギア18及び従動ギア19は、互いに噛合した状態でギア室24に収容されている。ギア室24には、オイルが封入されている。オイルは、駆動ギア18及び従動ギア19の潤滑及び温度上昇の抑制に寄与する。駆動ギア18及び従動ギア19は、オイルに浸されながら回転することにより、焼き付いたり磨耗したりすることなく高速回転が可能になっている。
【0033】
ハウジング11内には、駆動ロータ20及び従動ロータ21を収容するポンプ室としてのロータ室25が形成されている。ロータ室25は、ロータハウジング14の底壁14a、ロータハウジング14の周壁14b、及びカバー部材15によって区画されている。駆動ロータ20及び従動ロータ21は、互いに噛合した状態でロータ室25に収容されている。
【0034】
燃料電池用ポンプ10は、モータ22の駆動を制御する制御部としてのインバータ装置60を備えている。モータハウジング12の底壁12aには、有底筒状のカバー61が取り付けられている。そして、モータハウジング12の底壁12aとカバー61とによって、インバータ装置60を収容する制御室としてのインバータ室62が区画されている。本実施形態において、ロータ室25、ギア室24、モータ室23、及びインバータ室62は、駆動軸16の回転軸線方向においてこの順に並んで配置されている。
【0035】
ギアハウジング13の底壁13aは、駆動軸16の回転軸線方向でギア室24とモータ室23とを隔てている。ロータハウジング14の底壁14aは、駆動軸16の回転軸線方向でギア室24とロータ室25とを隔てている。駆動軸16は、ギアハウジング13の底壁13a及びロータハウジング14の底壁14aを貫通している。従動軸17は、ロータハウジング14の底壁14aを貫通している。
【0036】
ギアハウジング13の底壁13aの内底面13eには、駆動軸16を回転可能に支持する第1軸受26を収容する円孔状の第1軸受収容凹部27が形成されている。駆動軸16は、第1軸受収容凹部27を貫通している。また、第1軸受収容凹部27の底面27aには、駆動軸16が貫通するとともにギア室24とモータ室23との間をシールする環状の第1シール部材28が収容される円孔状の第1シール収容凹部29が形成されている。第1シール収容凹部29は、第1軸受収容凹部27に連通している。また、駆動軸16の回転軸線方向における第1軸受26と第1軸受収容凹部27の底面27aとの間には、環状の第1スペーサ30が配置されている。
【0037】
ロータハウジング14の底壁14aの外面14eには、駆動軸16及び従動軸17をそれぞれ回転可能に支持する第2軸受31及び第3軸受36を収容する円孔状の第2軸受収容凹部32及び第3軸受収容凹部37がそれぞれ形成されている。駆動軸16は、第2軸受収容凹部32を貫通している。従動軸17は、第3軸受収容凹部37を貫通している。
【0038】
第2軸受収容凹部32の底面32aには、駆動軸16が貫通するとともにギア室24とロータ室25との間をシールする環状の第2シール部材33が収容される円孔状の第2シール収容凹部34が形成されている。第2シール収容凹部34は、第2軸受収容凹部32に連通している。また、駆動軸16の回転軸線方向における第2軸受31と第2軸受収容凹部32の底面32aとの間には、環状の第2スペーサ35が配置されている。
【0039】
第3軸受収容凹部37の底面37aには、従動軸17が貫通するとともにギア室24とロータ室25との間をシールする環状の第3シール部材38が収容される円孔状の第3シール収容凹部39が形成されている。第3シール収容凹部39は、第3軸受収容凹部37に連通している。また、従動軸17の回転軸線方向における第3軸受36と第3軸受収容凹部37の底面37aとの間には、環状の第3スペーサ40が配置されている。
【0040】
ギアハウジング13の底壁13aの内底面13eには、従動軸17の一端部を回転可能に支持する第4軸受41を収容する円孔状の第4軸受収容凹部42が形成されている。第4軸受収容凹部42の開口縁は、ギアハウジング13の底壁13aの内底面13eに連続している。従動軸17の一端部は、第4軸受収容凹部42内に配置され、第4軸受41に回転可能に支持されている。従動軸17の他端部は、第3軸受収容凹部37及び第3シール収容凹部39を貫通してロータ室25に突出している。従動軸17の他端部には従動ロータ21が取り付けられており、従動軸17の他端部は自由端になっている。よって、従動軸17は、ハウジング11に片持ち支持されている。
【0041】
モータハウジング12の底壁12aの内底面12eには、駆動軸16の一端部を回転可能に支持する第5軸受43を収容する円筒状の軸受部44が形成されている。駆動軸16の一端部は、軸受部44の内側に配置され、第5軸受43に回転可能に支持されている。駆動軸16の他端部は、第1シール収容凹部29、第1軸受収容凹部27、ギア室24、第2軸受収容凹部32、及び第2シール収容凹部34を貫通してロータ室25に突出している。駆動軸16の他端部には駆動ロータ20が取り付けられており、駆動軸16の他端部は自由端になっている。よって、駆動軸16は、ハウジング11に片持ち支持されている。
【0042】
図2に示すように、駆動ロータ20及び従動ロータ21は、駆動軸16及び従動軸17の回転軸線方向に直交する断面視が二葉状(瓢箪状)に形成されている。駆動ロータ20は、二条の山歯20aと、両山歯20aの間に形成された谷歯20bと、を有している。従動ロータ21は、二条の山歯21aと、両山歯21aの間に形成された谷歯21bと、を有している。
【0043】
そして、駆動ロータ20及び従動ロータ21は、駆動ロータ20の山歯20aと従動ロータ21の谷歯21bとの噛合、及び駆動ロータ20の谷歯20bと従動ロータ21の山歯21aとの噛合を繰り返しながらロータ室25内を回転可能になっている。駆動ロータ20は、
図2に示す矢印R1の方向に回転し、従動ロータ21は、
図2に示す矢印R2の方向へ回転する。
【0044】
ロータハウジング14の周壁14bにおける重力方向Z1の下部には、吸入口45が形成されている。また、ロータハウジング14の周壁14bにおける重力方向Z1の上部には、吐出口46が形成されている。吸入口45は、第1接続配管50aを介して燃料電池50の水素排出口50bに接続されている。吐出口46は、第2接続配管50cを介して燃料電池50の水素供給口50dに接続されている。
【0045】
図1及び
図2に示すように、モータ22の駆動によって駆動軸16が回転すると、互いに噛合された駆動ギア18及び従動ギア19のギア連結を介して従動軸17が駆動軸16に対して逆回転する。これにより、駆動ロータ20及び従動ロータ21が互いに噛合された状態でそれぞれ逆回転し、燃料電池用ポンプ10では、駆動ロータ20及び従動ロータ21が回転すると、燃料電池50にて酸素と反応しなかった水素(水素オフガス)が水素排出口50b、第1接続配管50a、及び吸入口45を介してロータ室25に吸入される。そして、ロータ室25に吸入された水素は、駆動ロータ20及び従動ロータ21の回転によって、吐出口46から吐出されて第2接続配管50c及び水素供給口50dを介して燃料電池50に供給される。したがって、駆動ロータ20及び従動ロータ21は、燃料電池50に水素を供給するポンプ部Pを構成している。本実施形態の燃料電池用ポンプ10は、駆動ロータ20及び従動ロータ21によってポンプ部Pが構成されているルーツポンプである。
【0046】
図1に示すように、燃料電池用ポンプ10は、外気温T1を検出する温度検出部としての温度センサ63と、燃料電池用ポンプ10の吐出圧力を検出する圧力センサ64と、を備えている。圧力センサ64は、駆動ロータ20及び従動ロータ21の回転によって、ロータ室25から吐出口46を介して第2接続配管50cに吐出される水素の圧力を検出する。温度センサ63及び圧力センサ64は、インバータ装置60に電気的に接続されている。
【0047】
インバータ装置60には、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信した場合には、ポンプ部Pが起動していると判定し、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信していない場合には、ポンプ部Pが停止していると判定する判定プログラムが予め記憶されている。ここで、「ポンプ部Pが停止している状態」とは、「駆動ロータ20及び従動ロータ21が回転していない状態」を言い、「ポンプ部Pが起動し始めた状態」とは、「駆動ロータ20及び従動ロータ21が回転し始めた状態」を言う。インバータ装置60は、ポンプ部Pが起動するまでの起動制御手段と、ポンプ部Pが起動した後のセンサレスベクトル制御手段とを備えている。
【0048】
インバータ装置60は、温度センサ63により検出された外気温T1に関する信号を受信する。インバータ装置60には、温度センサ63から受信した信号に基づいて、温度センサ63により検出された外気温T1と予め設定された設定温度T2とを比較する温度比較プログラムが予め記憶されている。インバータ装置60には、温度センサ63により検出された外気温T1が予め設定された設定温度T2よりも高い場合は通常起動モード処理を実行し、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2以下である場合は低温起動モード処理を実行する処理実行プログラムが予め記憶されている。
【0049】
ここで、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2よりも高い場合には、ロータ室25内に水が存在していても、水がロータ室25内で凍結することが無いと推定される。また、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2以下である場合には、ロータ室25内に水が存在していると、水がロータ室25内で凍結すると推定される。このような推定は、予め実験等によって把握されている。したがって、「設定温度T2」とは、ロータ室25内に水が存在しているときに、ロータ室25内で水が凍結するか否かを判別するために、実験等によって予め求められた温度である。
【0050】
インバータ装置60には、通常起動モード処理を実行する場合、ポンプ部Pを起動させるのに必要最低限の起動電流値である起動電流を必要最低限の時間だけモータ22へ供給するプログラムが予め記憶されている。なお、通常起動モード処理の実行時での起動電流の周期は常に一定に設定されている。
【0051】
インバータ装置60には、低温起動モード処理を実行する場合、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22へ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22への起動電流の供給時間を長く設定することの両方を実行するプログラムが起動制御手段として予め記憶されている。具体的には、インバータ装置60は、低温起動モード処理を実行する場合、例えば、通常起動モード処理の実行時においてモータ22へ供給される起動電流値に対して約2倍の起動電流値をモータ22へ供給する。さらに、インバータ装置60は、低温起動モード処理を実行する場合、例えば、通常起動モード処理の実行時でのモータ22への起動電流の供給時間に対して、モータ22への起動電流の供給時間を約10倍長く設定する。
【0052】
図3に示すように、インバータ装置60には、低温起動モード処理を複数回実行するプログラムが予め記憶されている。インバータ装置60は、例えば、1回目の低温起動モード処理を実行しても、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信しなかった場合には、ポンプ部Pが停止している、すなわち、ポンプ部Pがまだ起動していないと判定し、低温起動モード処理を再び実行する。
【0053】
インバータ装置60には、低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期を徐々に短くするプログラムが予め記憶されている。低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期は常に徐々に短くなるように設定されている。
【0054】
また、インバータ装置60には、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信して、ポンプ部Pが起動し始めたと判定した場合に、モータ22をセンサレスベクトル制御するベクトル制御モード処理を実行するプログラムがセンサレスベクトル制御手段として予め記憶されている。
【0055】
さらに、インバータ装置60には、通常起動モード処理の実行後、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信しない場合、何らかの異常が生じたと判定する異常判定処理を実行するプログラムが予め記憶されている。
【0056】
次に、本実施形態の燃料電池用ポンプ10の制御方法を説明しながら、本実施形態の作用について説明する。インバータ装置60は、ポンプ部Pが起動するまでの起動制御方法と、ポンプ部Pが起動した後に移行するセンサレスベクトル制御方法と、を備えている。
【0057】
図4に示すように、インバータ装置60は、ポンプ部Pを起動しようとする際には、まず、ステップS11において、温度センサ63により検出された外気温T1に関する信号を受信する。そして、インバータ装置60は、ステップS12において、温度センサ63から受信した信号に基づいて、温度センサ63により検出された外気温T1と予め設定された設定温度T2とを比較する温度比較工程を行う。
【0058】
インバータ装置60は、ステップS12で行われた温度比較工程での比較結果において、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度よりも高い場合、ステップS13に移行しステップS13において、通常起動モード処理を実行する処理実行工程を行う。これにより、インバータ装置60は、ポンプ部Pを起動させるのに必要最低限の起動電流値である起動電流を必要最低限の時間だけモータ22へ供給する。このときの起動電流の周期は、常に一定の周期である。そして、インバータ装置60は、ステップS14において、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信したか否かを判定する。インバータ装置60は、ステップS14において、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信したと判定すると、ステップS15の通常制御に移行し、ポンプ部Pが起動し始めたと判定して、ステップS15においてモータ22をセンサレスベクトル制御するベクトル制御モード処理を実行する。一方で、インバータ装置60は、ステップS14において、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信していないと判定すると、ステップS16に移行し、何らかの異常を検出したと判定して、異常判定処理を行う。
【0059】
ところで、燃料電池用ポンプ10では、燃料電池50にて酸素と反応しなかった水素(水素オフガス)がロータ室25に吸入される。水素は、燃料電池50の発電に伴い生成された水を含んでいる。このため、例えば、低温環境下でポンプ部Pの運転が停止されると、ロータ室25内に存在する水が凍結して氷となる。ここで、ロータ室25内において、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータ室25とを区画するモータハウジング12の内面との間に存在する水が凍結して氷になっていると、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に固着してしまう場合がある。
【0060】
インバータ装置60は、ステップS12で行われた温度比較工程での比較結果において、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2以下である場合、ステップS17に移行し、ステップS17において、低温起動モード処理を実行する処理実行工程を行う。これにより、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22へ供給される起動電流値が大きくなるとともに、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22への起動電流の供給時間が長くなる。つまり、低温起動モード処理における起動電流値の最大値は、通常起動モード処理における起動電流値の最大値よりも大きい。
【0061】
また、このときの起動電流の周期は、通常起動モード処理の実行時の起動電流の周期とは違い、インバータ装置60は、起動電流の周期を徐々に短くする。例えば、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2に対して低いほど、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に強固に固着されている可能性が高い。このような場合、モータ22が速い回転速度で急に回転し始めるよりも、遅い回転速度で回転し始めた方が、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21を引き剥がし易い。
【0062】
また、ステップS17において、1回目の低温起動モード処理が実行されると、ステップS18に移行し、ステップS18において、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信したか否かを判定する。インバータ装置60は、ステップS18において、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信していないと判定すると、ステップS17に移行し、2回目の低温起動モード処理を実行する。このように、インバータ装置60は、1回目の低温起動モード処理を実行しても、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信しなかった場合には、ポンプ部Pが停止している、すなわち、ポンプ部Pがまだ起動していないと判定し、低温起動モード処理を再び実行する。
【0063】
インバータ装置60によって、2回目の低温起動モード処理が実行されると、モータ22の回転方向の切り換えによって発生する衝撃力が、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータ室25とを区画するモータハウジング12の内面との間に存在する氷に伝達される。これにより、駆動ロータ20及び従動ロータ21とモータハウジング12の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21が引き剥がされ、駆動ロータ20及び従動ロータ21が回転し始める。そして、インバータ装置60は、ステップS18において、圧力センサ64から吐出圧力の検出信号を受信したと判定すると、ステップS15の通常制御に移行し、ポンプ部Pが起動し始めたと判定して、ステップS15において、モータ22をセンサレスベクトル制御するベクトル制御モード処理を実行する。
【0064】
本実施形態では、低温起動モード処理を2回実行したことでポンプ部Pが起動したが、低温起動モード処理を2回実行してもポンプ部Pが起動しなかった場合には、インバータ装置60は、ステップS17以降の処理を繰り返し行う。
【0065】
したがって、起動制御方法は、ステップS11、ステップS12、ステップS13、ステップS14、ステップS17、及びステップS18を含む。また、センサレスベクトル制御方法は、ステップS15を含む。
【0066】
上記実施形態では、以下の効果を得ることができる。
(1)インバータ装置60は、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2以下である場合は、低温起動モード処理を実行する。したがって、例えば、ポンプ部Pを起動させる際に、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に固着されていたとしても、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22へ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22への起動電流の供給時間を長く設定することの両方が実行される。よって、例えば、ポンプ部Pを起動させる際に、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に固着されているにもかかわらず、インバータ装置60が通常起動モード処理を実行することが無いため、ポンプ部の起動に要する時間を短くすることができる。
【0067】
一方で、インバータ装置60は、温度センサ63により検出された外気温T1が予め設定された設定温度T2よりも高い場合は、通常起動モード処理を実行する。したがって、例えば、ポンプ部Pを起動させる際に、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に固着されていないにもかかわらず、低温起動モード処理のような、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22へ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22への起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方が実行されることが無い。その結果、不必要な大きな起動電流値をモータ22に供給したり、モータ22への起動電流の供給時間が無駄に長くなったりすることが回避されるため、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。以上のことから、ポンプ部Pの起動に要する時間を短くすることができるとともに、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0068】
(2)例えば、モータ22へ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22への起動電流の供給時間を長く設定すること、のどちらか一方のみが実行される場合に比べて、ポンプ部Pをさらに起動し易くすることができる。
【0069】
(3)例えば、インバータ装置60が1回目の低温起動モード処理を実行してもポンプ部Pが起動しなかった場合に、インバータ装置60が低温起動モード処理を再び実行する。すると、モータ22の回転方向の切り換えにより発生する衝撃力が、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータ室25とを区画するロータハウジング14の内面との間に存在する氷に伝達される。これにより、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21を引き剥がし易くなり、ポンプ部Pを起動させ易くすることができる。
【0070】
(4)例えば、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2に対して低いほど、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に強固に固着されている可能性が高い。このような場合、モータ22が速い回転速度で急に回転し始めるよりも、遅い回転速度で回転し始めた方が、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21を引き剥がし易い。そこで、インバータ装置60は、低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期を徐々に短くするようにした。これによれば、起動電流の周期が常に一定である場合と比べて、モータ22が遅い回転速度で回転し始める。すると、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に強固に固着されている場合であっても、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21を引き剥がすことができる。したがって、ポンプ部Pを起動させ易くすることができる。
【0071】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0072】
○ 実施形態において、インバータ装置60は、低温起動モード処理では、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22へ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22への起動電流の供給時間を長く設定することの一方のみを実行するようにしてもよい。要は、インバータ装置60は、低温起動モード処理では、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22へ供給される起動電流値を大きくすること、及び、通常起動モード処理の実行時よりもモータ22への起動電流の供給時間を長く設定すること、のうち少なくとも一方を実行すればよい。
【0073】
○ 実施形態において、インバータ装置60は、低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、起動電流の供給時間を長く設定するような制御をしてもよい。例えば、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2に対して低いほど、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に強固に固着されている可能性が高い。このような場合、インバータ装置60が、低温起動モード処理を1回実行しただけでは、ポンプ部Pが起動しない虞がある。そこで、インバータ装置60は、低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、起動電流の供給時間を長く設定するようにしてもよい。これによれば、例えば、インバータ装置60が、低温起動モード処理の実行回数が増加しても、起動電流の供給時間を常に一定にする場合に比べて、低温起動モード処理の実行回数が少ない段階で、ポンプ部Pを起動させることが可能となる。したがって、ポンプ部Pの起動に要する時間を短くすることができるとともに、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0074】
また、例えば、起動電流の供給時間を常に3秒間に設定して3回目の低温起動モード処理によりポンプ部Pが起動した場合に比べて、1回目~3回目の低温起動モード処理における供給時間をそれぞれ1秒間、2秒間、及び3秒間に設定して3回目の低温起動モード処理によりポンプ部Pが起動した場合の方が起動に要する時間を短縮することができる。
【0075】
○ 実施形態において、インバータ装置60は、低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、起動電流の供給時間を短く設定し、設定された起動電流の供給時間は通常起動モード処理の実行時の起動電流の供給時間よりも長くなるような制御をしてもよい。例えば、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2以下であったとしても、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2に近い温度であるほど、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に固着されていても、それほど強固には固着されていない可能性が高い。このような場合、インバータ装置60が、低温起動モード処理を数回実行すれば、ポンプ部Pが直に起動し始める可能性が高い。そこで、インバータ装置60は、低温起動モード処理の実行回数が増加するにつれて、起動電流の供給時間を短くするようにしてもよい。これによれば、例えば、インバータ装置60が、低温起動モード処理の実行回数が増加しても、起動電流の供給時間を常に一定にする場合に比べて、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21を引き剥がした後でも、インバータ装置60が不必要にモータ22へ起動電流を供給してしまう時間を極力短くすることができる。したがって、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0076】
また、例えば、起動電流の供給時間を常に3秒間に設定して3回目の起動制御によりポンプ部Pが起動した場合に比べて、1回目~3回目の起動制御における供給時間をそれぞれ3秒間、2秒間、及び1秒間に設定して3回目の起動制御によりポンプ部Pが起動した場合の方が起動に要する時間を短縮することができる。
【0077】
○ 実施形態において、低温起動モード処理実行時での起動電流の周期を徐々に長くする設定であってもよい。例えば、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2以下であったとしても、温度センサ63により検出された外気温T1が設定温度T2に近い温度であるほど、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に固着されていても、それほど強固には固着されていない可能性が高い。このような場合、モータ22が速い回転速度で急に回転し始めたとしても、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21を十分に引き剥がすことが可能である。そこで、インバータ装置60は、低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期を徐々に長くするようにした。これによれば、起動電流の周期が常に一定である場合と比べて、モータ22が速い回転速度で急に回転し始めるため、駆動ロータ20及び従動ロータ21が氷を介してロータハウジング14に固着されていても、それほど強固には固着されていない場合であれば、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21をすぐに引き剥がすことができる。そして、駆動ロータ20及び従動ロータ21とロータハウジング14の内面との間に存在する氷から駆動ロータ20及び従動ロータ21を引き剥がした後でも、インバータ装置60からモータ22へ起動電流が供給されるが、インバータ装置60は、低温起動モード処理の実行時での起動電流の周期が徐々に長くなるようにしているため、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できる。
【0078】
○ 実施形態において、低温起動モード処理実行時での起動電流値の大小、起動電流の供給時間の長短、及び起動電流の周期の長短は、互いに組み合わせてもよい。要は、起動電流値や供給時間を常に一定に設定した場合に比べて、ポンプ部Pの起動に要する時間を短縮することができたり、電力を無駄に消費してしまうことを抑制できたりするような設定であればよい。
【0079】
○ 実施形態において、燃料電池用ポンプは、燃料ガスである水素と酸化剤ガスである空気に含まれる酸素とを化学反応させて発電を行う燃料電池に水素を供給するポンプとしたが、燃料電池に空気を供給するポンプとしてもよい。
【0080】
○ 実施形態において、燃料電池用ポンプ10は、駆動ロータ20及び従動ロータ21によってポンプ部Pが構成されているルーツポンプであったが、例えば、ポンプ部Pとして羽根車を用いたカスケードポンプや遠心式ポンプであってもよい。要は、燃料電池用ポンプ10は、ポンプ部Pが燃料電池50に燃料ガスとしての水素、または酸化剤ガスとしての空気等を供給することができるような構成であればよい。
【0081】
○ 実施形態において、温度センサ63により検出したのは外気温T1であったが、例えば、ロータ室25の温度を検出して外気温T1を推定するような構成であってもよい。要は、燃料電池用ポンプ10の外部の温度環境を推定できるような構成であればよい。
【0082】
○ 実施形態において、圧力センサ64によってポンプ部Pが起動したか否か判定する構成であったが、モータ22のトルクを検出するトルクセンサ等であってもよい。要は、ポンプ部Pの起動の前後における変化を検出できるような検出器を用いる構成であればよい。
【0083】
○ 実施形態において、圧力センサ64によってポンプ部Pが起動したか否か判定する構成であったが、圧力センサ64によるステップS14及びステップS18は無くてもよい。すなわち、
図4において、ステップS13の場合、ステップS13からステップS15に移行できなかったらリトライすればよい。また、
図4において、ステップS17の場合、ステップS17からステップS15に移行できなかったらリトライすればよい。
【0084】
○ 実施形態において、駆動ロータ20及び従動ロータ21は、駆動軸16及び従動軸17の回転軸線方向に直交する断面視が、例えば、三葉状であったり、四葉状であったりしてもよい。
【0085】
○ 実施形態において、駆動ロータ20及び従動ロータ21は、例えば、ヘリカル形状であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
10…燃料電池用ポンプ、11…ハウジング、22…モータ、23…モータ室、25…ポンプ室としてのロータ室、50…燃料電池、60…制御部としてのインバータ装置、62…制御室としてのインバータ室、63…温度検出部としての温度センサ、P…ポンプ部、T1…外気温、T2…設定温度。