IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用動力伝達装置の潤滑構造 図1
  • 特許-車両用動力伝達装置の潤滑構造 図2
  • 特許-車両用動力伝達装置の潤滑構造 図3
  • 特許-車両用動力伝達装置の潤滑構造 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】車両用動力伝達装置の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240501BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020126861
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023724
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 伊織
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼塚 祐介
(72)【発明者】
【氏名】早坂 昌也
(72)【発明者】
【氏名】阪口 和幸
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085198(JP,A)
【文献】特開2002-181168(JP,A)
【文献】中国実用新案第210034362(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
減速大歯車と噛み合うモータ出力歯車を有して前記ケース内に略水平に配設されており、回転軸心に油路が形成されるとともに該油路が軸方向の一端部に開口し、走行用動力源に連結されている回転軸と、
前記ケースに設けられた円筒形状の軸受保持部の内周側に隙間嵌めにより配設されて前記回転軸の前記一端部を回転自在に支持している軸受と、
を有し、オイルポンプから吐出された潤滑油が前記回転軸の前記油路に供給される車両用動力伝達装置の潤滑構造において、
前記軸受保持部の内周側部分における前記ケースの内壁面と、前記軸受および前記回転軸との間には、軸端空隙部が設けられており、
前記オイルポンプから供給された潤滑油が、前記軸端空隙部の上方位置に設けられた油導入部から該軸端空隙部内に導入されるように、該油導入部に連続して前記ケースに設けられた油孔と、
前記ケースの前記内壁面であって前記軸受保持部の中心部分に、先端が前記回転軸の前記油路内に挿入されるように前記内壁面から突出して設けられ、前記軸端空隙部を流下する前記潤滑油を受け入れて前記回転軸の前記油路内へ流入させる樋状部と、
を有し、且つ、前記油導入部は、前記回転軸心の真上から周方向へずれた位置であって動力伝達時に前記減速大歯車と前記モータ出力歯車との噛み合いに起因する噛合い反力が作用しない角度範囲である非負荷領域に設けられており、前記ケースの前記内壁面には前記油導入部から下方へ流下する前記潤滑油を受け止めて前記樋状部へ導く傾斜ガイドが、前記油導入部と前記樋状部とを直線で結ぶように設けられている
ことを特徴とする車両用動力伝達装置の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用動力伝達装置の潤滑構造に係り、特に、オイルポンプから吐出された潤滑油を回転軸の軸心部分に設けられた油路へ供給する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) ケースと、(b) 前記ケース内に略水平に配設されており、回転軸心に油路が形成されるとともにその油路が軸方向の一端部に開口している回転軸と、(c) 前記ケースに設けられた円筒形状の軸受保持部の内周側に配設されて前記回転軸の前記一端部を回転自在に支持している軸受と、を有し、(d) オイルポンプから吐出された潤滑油が前記回転軸の前記油路に供給される車両用動力伝達装置の潤滑構造が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例であり、ディファレンシャル装置32によって機械的に回転駆動される第1オイルポンプP1から吐出された潤滑油が、回転軸である動力伝達軸34の軸心に設けられた油路に供給されるようになっている。また、特許文献2には、回転軸の軸心に設けられた油路の開口部に、一対の外筒部材および内筒部材を有するバッフルプレートを配設し、回転軸(シャフト30)の油路(オイル通路31)に供給される潤滑油量を調整する技術が記載されている。
なお、本明細書における「潤滑」は、摩擦や摩耗を防止するためだけでなく、例えば回転機等に潤滑油を供給して冷却する場合も含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-48549号公報
【文献】特開2010-216569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では部品点数が増えることから、例えば軸受保持部に油孔を設けて、オイルポンプから供給された潤滑油を油孔からケースと回転軸との間の軸端空隙部へ供給し、その軸端空隙部からケースの内壁面に沿って流下する潤滑油を回転軸の油路に流入させることが考えられる(非公知)。その場合、ケースの内壁面であって軸受保持部の中心部分に、先端が回転軸の油路内に挿入される樋状部が設けられ、軸端空隙部を流下する潤滑油を樋状部で受け止めて回転軸の油路内に導くことになるが、樋状部の真上から流下した潤滑油が樋状部で受け止められる際に跳ね返って樋状部から飛び出し、回転軸の油路内に潤滑油を安定的に供給することが難しいという問題があった。例えば高車速時等に多量の潤滑油を回転軸の油路へ供給したい場合、オイルポンプから多量の潤滑油が供給されても、樋状部から飛び出す潤滑油量が多くなって、回転軸の油路に供給される潤滑油量が不足する可能性があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、オイルポンプから供給された潤滑油を簡単な構成で回転軸の油路内へ安定的に供給できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) ケースと、(b) 減速大歯車と噛み合うモータ出力歯車を有して前記ケース内に略水平に配設されており、回転軸心に油路が形成されるとともにその油路が軸方向の一端部に開口し、走行用動力源に連結されている回転軸と、(c) 前記ケースに設けられた円筒形状の軸受保持部の内周側に隙間嵌めにより配設されて前記回転軸の前記一端部を回転自在に支持している軸受と、を有し、(d) オイルポンプから吐出された潤滑油が前記回転軸の前記油路に供給される車両用動力伝達装置の潤滑構造において、(e) 前記軸受保持部の内周側部分における前記ケースの内壁面と、前記軸受および前記回転軸との間には、軸端空隙部が設けられており、(f) 前記オイルポンプから供給された潤滑油が、前記軸端空隙部の上方位置に設けられた油導入部からその軸端空隙部内に導入されるように、その油導入部に連続して前記ケースに設けられた油孔と、(g) 前記ケースの前記内壁面であって前記軸受保持部の中心部分に、先端が前記回転軸の前記油路内に挿入されるように前記内壁面から突出して設けられ、前記軸端空隙部を流下する前記潤滑油を受け入れて前記回転軸の前記油路内へ流入させる樋状部と、を有し、且つ、(h) 前記油導入部は、前記回転軸心の真上から周方向へずれた位置であって動力伝達時に前記減速大歯車と前記モータ出力歯車との噛み合いに起因する噛合い反力が作用しない角度範囲である非負荷領域に設けられており、前記ケースの前記内壁面には前記油導入部から下方へ流下する前記潤滑油を受け止めて前記樋状部へ導く傾斜ガイドが、前記油導入部と前記樋状部とを直線で結ぶように設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このような車両用動力伝達装置の潤滑構造においては、オイルポンプから供給された潤滑油がケースに設けられた油孔を介して油導入部から軸端空隙部内へ導入され、その軸端空隙部を流下する潤滑油が樋状部に流入して回転軸の油路内に供給されるが、油導入部は回転軸心の真上から周方向へずれた位置であって動力伝達時に減速大歯車とモータ出力歯車との噛み合いに起因する噛合い反力が作用しない角度範囲である非負荷領域に設けられており、その油導入部から流下した潤滑油は、油導入部と樋状部とを直線で結ぶように設けられている傾斜ガイドにより受け止められて樋状部に流入させられる。すなわち、油導入部から流下した潤滑油は、傾斜ガイドにより斜めに流下させられて樋状部に流入させられるため、真上から落下して樋状部で受け止められる場合に比較して樋状部に流入する際の速度が遅くなり、樋状部に流入した潤滑油が跳ね返って飛び出すことが抑制され、回転軸の油路内に潤滑油が安定的に供給されるようになる。また、油孔から非負荷領域に設けられた油導入部へ導入された潤滑油の一部は、軸受の外輪と軸受保持部との間の隙間へ流入し、軸受保持部に隙間嵌めされている外輪の滑り回転等による摩耗が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の潤滑構造を有する車両用動力伝達装置の一例を説明する骨子図で、複数の軸が共通の平面内に位置するように展開して示した展開図である。
図2図1の車両用動力伝達装置の複数の軸の位置関係を説明する断面図である。
図3図1の車両用動力伝達装置において、第3軸線S3上に配設されたギヤシャフト(回転軸)の支持構造を具体的に説明する図で、図4における III- III矢視部分に相当する断面図である。
図4図3においてギヤシャフトの一端部を支持しているトランスアクスルケースの内壁面を軸方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、駆動力源としてエンジン(内燃機関)を備えているエンジン駆動車両や、エンジンおよび電動モータを備えているハイブリッド車両、或いは電動モータを駆動力源として用いて走行する電気自動車など、種々の車両用動力伝達装置の潤滑構造に適用され得る。車両用動力伝達装置は、例えば回転軸を含む複数の軸が車両幅方向と平行に配設されるとともに、駆動力を左右の駆動輪に分配するディファレンシャル装置が共通のケース内に配設されたトランスアクスルであるが、ディファレンシャル装置を備えていない横置き型或いは縦置き型の変速機などでも良い。4輪駆動型の車両用動力伝達装置にも適用され得る。回転軸を回転自在に支持する軸受としては、ボールベアリングが好適に用いられるが、ローラベアリング等の他の軸受を採用することもできる。軸受は、一般に内輪および外輪の一方が圧入固定(締り嵌め)され、他方が隙間嵌めされる。例えば内輪が回転軸に圧入固定され、外輪が軸受保持部に隙間嵌めされるが、外輪を軸受保持部に圧入固定するとともに、内輪を回転軸に隙間嵌めするようにしても良い。
【0010】
オイルポンプは、エンジンや動力伝達経路の所定の回転部材等によって機械的に回転駆動される機械式オイルポンプでも良いし、専用の電動モータによって任意のタイミングで回転駆動される電動式オイルポンプでも良い。オイルポンプから吐出された潤滑油を所定の潤滑部位へ供給する供給油路としては、例えばケースとは別体に構成されたオイル供給パイプが好適に用いられるが、ケースの側壁の内部や軸部材等に供給油路を設けることもできる。オイルポンプから吐出された潤滑油の少なくとも一部が、ケースに設けられた油孔を介して油導入部から軸端空隙部内に導入される。油孔は、例えば軸受保持部の外周面から内周面に貫通するように設けられ、その外周面側の開口部から潤滑油が供給されて、内周面側の開口部である油導入部から軸端空隙部内に流入させられる。油孔の外周面側の開口位置は、回転軸が配設された収容空間内でも良いし、その収容空間の外側でも良い。その外周面側の開口部には、例えばオイル供給パイプを直接連結することもできるが、オイル供給パイプ等の供給油路から吐出された潤滑油を受け止めて油孔内に流入させる油受け部を設けることもできる。外周面側の開口位置、すなわち上記油受け部等の配設位置は、例えば油導入部と同様に回転軸心の真上から周方向へずれた位置に設けられるが、油受け部等を回転軸心の真上に設け、油孔を回転軸心まわりの周方向へ傾斜させて設けるようにしても良い。
【0011】
油導入部は、回転軸心の真上から周方向へずれた位置に設けられるが、このずれ角度は、潤滑油が傾斜ガイドから樋状部に流入する際の流速を抑制する上で20°以上が適当で30°以上が望ましい。また、ずれ角度が大きくなり過ぎると、潤滑油が傾斜ガイドで受け止められる際に飛び散る可能性があるため、70°以下が適当で60°以下が望ましい。すなわち、回転軸心の真上から周方向へのずれ角度は20°~70°の範囲内が適当で、30°~60°程度の範囲内が望ましい。この油導入部は、例えば軸受保持部の内周面側の油孔の開口部でも良いが、軸受保持部の内周側に軸受の外輪を位置決めする円環形状の台座が設けられ、その台座の内周側に軸端空隙部が設けられる場合、その台座の一部を切り欠いて油導入部を設けても良い。傾斜ガイドは、例えば潤滑油を樋状部へ直線的に案内する平板形状でも良いが、下方へ凹状に湾曲した凹湾曲板形状など、種々の態様が可能である。ケースの内壁面との間に溝が形成されるように、断面がL字型の傾斜ガイドを採用することもできる。また、樋状部は、傾斜ガイドからの潤滑油の流入を許容するように、断面が上方に開口するU字状や半円形状等とされるが、傾斜ガイドから潤滑油が流入する部分を除いて円筒形状等の筒形状とすることも可能である。
【実施例
【0012】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0013】
図1は、本発明の潤滑構造を有する車両用動力伝達装置10を説明する骨子図で、動力伝達機構12を備えている。図1は、動力伝達機構12を構成している複数の軸が共通の平面内に位置するように展開して示した展開図で、図2は複数の軸の位置関係を示した断面図である。車両用動力伝達装置10は、複数の軸が車両幅方向に沿って配置されるFF車両等の横置き型のハイブリッド車両用のトランスアクスルで、車両幅方向と略平行すなわち略水平な第1軸線S1~第4軸線S4を備えている。第1軸線S1上には、エンジン16にダンパ装置18を介して連結された入力軸22が設けられているとともに、その第1軸線S1と同心にシングルピニオン型の遊星歯車装置24および第1モータジェネレータMG1が配設されている。遊星歯車装置24および第1モータジェネレータMG1は電気式差動部26として機能するもので、差動機構である遊星歯車装置24のキャリア24cに入力軸22が連結され、サンギヤ24sに第1モータジェネレータMG1のロータ軸28が連結され、リングギヤ24rにエンジン出力歯車Geが設けられている。サンギヤ24sおよびリングギヤ24rは、キャリア24cに回転自在に配設された複数のピニオン24pと噛み合わされている。
【0014】
第1モータジェネレータMG1は、電動モータおよび発電機として択一的に用いられるもので差動制御用回転機に相当し、発電機として機能する回生制御などでサンギヤ24sの回転速度が連続的に制御されることにより、エンジン16の回転速度が連続的に変化させられてエンジン出力歯車Geから出力される。また、第1モータジェネレータMG1のトルクが0とされてサンギヤ24sが空転させられることにより、エンジン16からの出力が遮断されるとともに、モータ走行時や惰性走行時等におけるエンジン16の連れ廻りが防止される。エンジン16は、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関で、走行用駆動力源として用いられる。前記入力軸22は第1モータジェネレータMG1の軸心を挿通させられて第2オイルポンプP2に連結されており、エンジン16によって第2オイルポンプP2が機械的に回転駆動されるようになっている。
【0015】
第2軸線S2上には、減速大歯車Gr1および減速小歯車Gr2が設けられたカウンタシャフト36が回転可能に配設されており、減速大歯車Gr1は前記エンジン出力歯車Geと噛み合わされている。減速大歯車Gr1はまた、第3軸線S3上に配設されたモータ出力歯車Gmと噛み合わされている。モータ出力歯車Gmはギヤシャフト42に設けられており、そのギヤシャフト42は、第3軸線S3と同心に配設された第2モータジェネレータMG2のロータ軸44とスプライン嵌合部46を介して動力伝達可能に連結されている。第2モータジェネレータMG2は電動モータおよび発電機として択一的に用いられるもので、電動モータとして機能するように力行制御されることにより走行用駆動力源として用いられる。この第2モータジェネレータMG2は走行用回転機に相当する。車両用動力伝達装置10は、エンジン16および電気式差動部26が配設された第1軸線S1とは異なる第3軸線S3上に第2モータジェネレータMG2が配設された複軸式のハイブリッド車両用動力伝達装置である。
【0016】
上記減速小歯車Gr2は、第4軸線S4上に配設されたディファレンシャル装置48のデフリングギヤGdと噛み合わされており、エンジン16および第2モータジェネレータMG2からの駆動力がディファレンシャル装置48を介して左右のドライブシャフト52に分配され、左右の駆動輪54に伝達される。第4軸線S4は、図2から明らかなように、第1軸線S1~第4軸線S4の中で最も車両下方側位置に定められており、第2軸線S2および第3軸線S3は第4軸線S4の上方位置に定められており、第1軸線S1は第4軸線S4よりも車両前側の斜め上方位置に定められている。更に具体的には、第4軸線S4は、第3軸線S3の略真下に定められている。
【0017】
デフリングギヤGdはポンプ駆動歯車Gpとも噛み合わされており、第1オイルポンプP1がデフリングギヤGdに連動して、言い換えれば駆動輪54に連動して、機械的に回転駆動されるようになっている。すなわち、第1オイルポンプP1は、出力回転部材であるデフリングギヤGdと噛み合わされて回転駆動されることにより、車速Vに対応する吐出量で潤滑油を吐出する機械式オイルポンプであり、車速Vの上昇に伴って吐出量が多くなる。この第1オイルポンプP1は、デフリングギヤGdに連動して回転する減速大歯車Gr1や減速小歯車Gr2等の他の出力回転部材にポンプ駆動歯車Gpを噛み合わせて回転駆動されるようにすることもできる。
【0018】
車両用動力伝達装置10は、エンジン16に一体的に固設されるとともにブラケット等を介して車体によって支持されるトランスアクスルケース60を備えている。トランスアクスルケース60は、フロントケース部材62、中間ケース部材64、およびリヤカバー66の3つのケース部材にて構成されており、それぞれの軸方向の端部に設けられたフランジ等の突き合わせ部が互いに突き合わされた状態で、多数の締結ボルトにより締結されて互いに一体的に接合されている。フロントケース部材62は、エンジン16側に向かって開口する開口部がエンジン16に一体的に固設されており、エンジン16との間にダンパ装置18を収容する第1収容空間72が形成される。中間ケース部材64は、筒形状の外筒74と、その外筒74から内周側へ延び出すように、前記第1軸線S1~第4軸線S4と略直交する姿勢で設けられた仕切り壁76とを一体に備えており、フロントケース部材62と仕切り壁76との間に、前記電気式差動部26、カウンタシャフト36、ギヤシャフト42、ディファレンシャル装置48等を収容する第2収容空間78が形成される。フロントケース部材62および仕切り壁76は、エンジン出力歯車Ge、カウンタシャフト36、ギヤシャフト42、ディファレンシャル装置48等を、ベアリングを介して回転可能に支持する支持部を備えている。また、リヤカバー66と仕切り壁76との間には、前記第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2を収容する第3収容空間80が形成される。リヤカバー66および仕切り壁76は、ベアリングを介してロータ軸28、44を回転可能に支持する支持部を備えている。
【0019】
図3は、第3軸線S3上に配設されたギヤシャフト42の支持構造を具体的に説明する断面図である。ギヤシャフト42の第2モータジェネレータMG2側の端部は、ロータ軸44よりも小径とされて、そのロータ軸44の円筒内に嵌め入れられ、スプライン嵌合部46を介して動力伝達可能に連結されている。ロータ軸44は、一対の第1軸受92a、92b(図1参照)を介して第3軸線S3まわりに回転自在にトランスアクスルケース60によって支持されている。第1軸受92aおよび92bは、ロータ軸44の軸方向において第2モータジェネレータMG2のロータの両側に配置されている。ギヤシャフト42は、一対の第2軸受96a、96bを介して第3軸線S3まわりに回転自在にトランスアクスルケース60によって支持されている。第2軸受96aおよび96bは、ギヤシャフト42の軸方向においてモータ出力歯車Gmの両側に配置されている。ギヤシャフト42は、第2モータジェネレータMG2の動力をカウンタシャフト36に伝達して駆動輪54を回転駆動する駆動軸として機能するとともに、カウンタシャフト36からモータ出力歯車Gmを介してエンジン16の動力等が伝達される。ギヤシャフト42にはまた、惰性走行時等に駆動輪54からディファレンシャル装置48、カウンタシャフト36を介して逆入力回転(被駆動回転)が伝達される。
【0020】
上記第2軸受96a、96bは何れもボールベアリングで、それぞれトランスアクスルケース60に支持部として設けられた円筒形状の第2軸受保持部106a、106bの内側に配設されて保持されている。第2軸受保持部106aは、第3軸線S3と同心に中間ケース部材64の仕切り壁76に一体に設けられており、第2軸受保持部106bは、第3軸線S3と同心にフロントケース部材62に一体に設けられている。そして、本実施例では第2軸受96a、96bの内輪108a、108bがギヤシャフト42に圧入固定され、外輪110a、110bが第2軸受保持部106a、106bに隙間嵌めされている。
【0021】
前記第1オイルポンプP1および第2オイルポンプP2は、トランスアクスルケース60の底部に設けられたオイル貯留部120(図2参照)から潤滑油122を吸入し、それぞれ独立に設けられたオイル供給油路へ吐出することにより、動力伝達機構12の各部を分担して潤滑するようになっている。本実施例では、第1オイルポンプP1から吐出された潤滑油122が、第1オイル供給油路として設けられたオイル供給パイプ124によって複数の潤滑部位へ供給され、その一部が図3に示すようにギヤシャフト42の上方位置に設けられたノズル126から下方へ向かって吐出されることにより、ギヤシャフト42の回転軸心を貫通して設けられた油路128へ供給されるようになっている。すなわち、車両用動力伝達装置10は、ノズル126から下方へ吐出された潤滑油122を、ギヤシャフト42の一端部である軸受96bで支持されている図3の右側の端部から油路128内へ導入する潤滑構造130を備えている。油路128内に供給された潤滑油122はロータ軸44側へ供給され、第1軸受92a、92bや第2軸受96aの潤滑、或いは第2モータジェネレータMG2のロータの冷却等に用いられる。ギヤシャフト42やロータ軸44の軸方向の中間位置には必要に応じて径方向孔が設けられ、油路128内に供給された潤滑油122がその径方向孔から外部へ流出させられて所定の潤滑部位の潤滑に用いられても良い。本実施例では、トランスアクスルケース60がケースで、ギヤシャフト42がケース内に略水平に配設された回転軸で、第2軸受保持部106bが軸受保持部で、第2軸受96bが回転軸の一端部を回転自在に支持する軸受で、第1オイルポンプP1が回転軸の油路128に潤滑油122を供給するオイルポンプである。また、第3軸線S3は、回転軸であるギヤシャフト42の回転軸心に相当する。
【0022】
上記潤滑構造130を、図3および図4を参照して具体的に説明する。図4は、ギヤシャフト42の一端部を支持しているフロントケース部材62の内壁面62fを、ギヤシャフト42の軸方向から見た側面図で、図3図4における III- III矢視部分、すなわち潤滑油122の流通経路に沿って切断した断面図である。これ等の図において、フロントケース部材62に設けられた第2軸受保持部106bの外周側であって第3軸線S3よりも上側部分には、前記ノズル126から吐出された潤滑油122を受け止める油受け部132が設けられている。油受け部132は、上方に向かって開口しているとともに、上方へ向かうに従って幅寸法が広くなる断面がU字形状乃至はV字形状を成しており、第2軸受保持部106bに沿って内壁面62fから突出するように、フロントケース部材62に一体に設けられている。これにより、図4に矢印Aで示すようにオイル供給パイプ124から下方へ吐出された潤滑油122が、油受け部132によって適切に受け止められる。この油受け部132の先端側(図3における左側)は開口しているが、必要に応じて潤滑油122の流出を制限する側壁等を設けることもできる。なお、上記油受け部132をフロントケース部材62と別体に構成して後付けすることもできる。
【0023】
上記油受け部132の底部であって内壁面62f側の端部には、円筒形状の第2軸受保持部106bの外周面から内周面に貫通するように油孔134が設けられている。フロントケース部材62の内壁面62fであって第2軸受保持部106bの内周側には、シム136を介して外輪110bを位置決めする円環形状の台座138が設けられているが、その台座138の一部を切り欠いて油導入部140が設けられており、上記油孔134は、その油導入部140に達するように軸方向へ傾斜して設けられている。これにより、油受け部132によって受け止められた潤滑油122は、油孔134を通って軸受96bの外輪110bの後側の油導入部140へ流下させられ、更にその油導入部140を通って台座138の内周側へ流下させられる。台座138の内周側には、内輪108bおよびギヤシャフト42の端面と内壁面62fとの間に軸端空隙部142が設けられており、油導入部140から流下した潤滑油122は、この軸端空隙部142内に流入させられる。
【0024】
ここで、上記油導入部140は、第3軸線S3まわりにおいて第3軸線S3の真上から周方向へずれた位置に設けられている。具体的には、図4において第3軸線S3の真上から右廻り方向へ45°~60°ずれた角度範囲に設けられている。また、ギヤシャフト42には、モータ出力歯車Gmと減速大歯車Gr1との噛合いに起因して、駆動および被駆動の動力伝達時に軸心と直角方向に負荷(噛合い反力)が加えられるが、本実施例ではこの負荷が作用しない角度範囲である非負荷領域Φ1(図2参照)の範囲内に油導入部140が設けられている。したがって、油孔134から油導入部140へ供給された潤滑油122の一部は、外輪110bと第2軸受保持部106bとの間の隙間へ流入し、第2軸受保持部106bに隙間嵌めされている外輪110bの滑り回転等による摩耗が抑制される。本実施例では、油受け部132も、図4から明らかなように油導入部140に対応して第3軸線S3の真上から右廻り方向へずれた位置に設けられており、図4の側面図において油導入部140の真上に油受け部132が設けられているとともに、その真上にオイル供給パイプ124のノズル126が配置されている。なお、図2のΦ2は、駆動或いは被駆動の動力伝達時にギヤシャフト42に負荷が加えられる角度範囲(負荷領域)である。
【0025】
一方、油導入部140から軸端空隙部142内へ流下した潤滑油122の一部は、外輪110bと内輪108bとの間へ流入し、ボールを含む軸受96bの潤滑に用いられるとともに、軸受96bから図3における左方向へ流出した潤滑油122は、図2に矢印Cで示されるように第4軸線S4付近へ流下させられ、その第4軸線S4上に配設されたディファレンシャル装置48やそのデフケースの軸受等の潤滑に用いられる。前記油受け部132から外部へ流出したり飛散したりした潤滑油122も、その一部は第4軸線S4付近へ流下させられて、ディファレンシャル装置48等の潤滑に用いられる。
【0026】
フロントケース部材62の内壁面62fであって第2軸受保持部106bの中心部分には、先端が前記ギヤシャフト42の油路128内に挿入されるように、内壁面62fから垂直すなわち第3軸線S3と平行に突き出す樋状部146が、フロントケース部材62に一体に設けられている。また、フロントケース部材62の内壁面62fであって台座138の内周側には、前記油導入部140の下端と樋状部146とを直線で結ぶように平板状の傾斜ガイド144が、内壁面62fから垂直に突き出すようにフロントケース部材62に一体に設けられている。これにより、油導入部140から内壁面62fに沿って流下した潤滑油122は、傾斜ガイド144により受け止められて、図4に矢印Bで示されるように傾斜ガイド144上を第3軸線S3方向へ向かって斜めに流下させられ、樋状部146内へ流入させられるとともに、その樋状部146内を軸方向へ流通してギヤシャフト42の油路128内へ供給される。樋状部146は、上方に開口するように断面がU字状乃至は半円形状を成しているとともに、傾斜ガイド144の傾斜角度は30°程度であり、傾斜ガイド144で受け止められた潤滑油122が樋状部146内へ円滑に流入させられる。上記傾斜ガイド144や樋状部146から漏れ出したり飛散したりした潤滑油122は、軸受96bの潤滑に用いられるとともに、第4軸線S4付近へ流下させられてディファレンシャル装置48等の潤滑に用いられる。なお、上記傾斜ガイド144および樋状部146をフロントケース部材62と別体に構成して後付けすることもできる。
【0027】
このように本実施例の車両用動力伝達装置10の潤滑構造130においては、第1オイルポンプP1からオイル供給パイプ124を介して供給された潤滑油122が油受け部132によって受け止められ、第2軸受保持部106bに設けられた油孔134を介して油導入部140から軸端空隙部142内へ導入され、その軸端空隙部142を流下する潤滑油122が樋状部146に流入してギヤシャフト42の油路128内に供給されるが、油導入部140は第3軸線S3の真上から周方向へずれた位置に設けられており、その油導入部140から流下した潤滑油122は傾斜ガイド144により受け止められて樋状部146に流入させられる。すなわち、油導入部140から流下した潤滑油122は、傾斜ガイド144により斜めに流下させられて樋状部146に流入させられるため、真上から落下して樋状部146で受け止められる場合に比較して樋状部146に流入する際の速度が遅くなり、樋状部146に流入した潤滑油122が跳ね返って飛び出すことが抑制され、ギヤシャフト42の油路128内に潤滑油122が安定的に供給されるようになる。これにより、例えば高車速時等に多量の潤滑油122が軸端空隙部142に供給された場合でも、その潤滑油122がギヤシャフト42の油路128内へ適切に供給され、第1軸受92a、92bや第2軸受96aの潤滑、或いは第2モータジェネレータMG2のロータの冷却等が適切に行なわれる。
【0028】
また、油導入部140から軸端空隙部142内へ流下した潤滑油122の一部は、軸受96b内に流入してボールを含む軸受96bの潤滑に用いられるとともに、軸受96bから流出した潤滑油122は第4軸線S4付近へ流下させられ、ディファレンシャル装置48等の潤滑に用いられるため、それ等の軸受96bやディファレンシャル装置48等が適切に潤滑される。
【0029】
また、油導入部140は、ギヤシャフト42の回転軸心である第3軸線S3まわりにおいて、駆動および被駆動の動力伝達時に負荷が作用しない非負荷領域Φ1の範囲内に設けられているため、油孔134から油導入部140へ供給された潤滑油122の一部は、外輪110bと第2軸受保持部106bとの間の隙間へ流入し、外輪110bの滑り回転等による摩耗が抑制される。
【0030】
また、例えば前記油導入部140が樋状部146の真上に設けられ、潤滑油122が油導入部140から真下に落下して樋状部146で受け止められる場合には、潤滑油122が跳ね返って樋状部146から飛び出すことで、ギヤシャフト42の油路128内へ供給される潤滑油量が不足するとともに、軸受96b等へ供給される潤滑油量が過剰となって攪拌損失が悪化する恐れがあるが、本実施例によれば油路128内へ潤滑油122が適切に供給されるとともに、軸受96b等へ潤滑油122が過剰に供給されることによる攪拌損失の悪化が抑制される。すなわち、油導入部140の位置や大きさ、軸端空隙部142の軸方向寸法、傾斜ガイド144の傾斜角度や突出寸法等は、軸端空隙部142内に供給された潤滑油122がギヤシャフト42の油路128および軸受96bの両方へ適切に分配されるように、実験やシミュレーション等によって適当に設定される。
【0031】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0032】
10:車両用動力伝達装置 42:ギヤシャフト(回転軸) 60:トランスアクスルケース(ケース) 62f:内壁面 96b:第2軸受(軸受) 106b:第2軸受保持部(軸受保持部) 122:潤滑油 128:油路 130:潤滑構造 134:油孔 140:油導入部 142:軸端空隙部 144:傾斜ガイド 146:樋状部 P1:第1オイルポンプ(オイルポンプ) S3:第3軸線(回転軸心)
図1
図2
図3
図4