(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】動作支援器具
(51)【国際特許分類】
A61F 2/50 20060101AFI20240501BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61F2/50
B25J11/00 Z
(21)【出願番号】P 2020154287
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】山路 直樹
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07744552(US,B1)
【文献】特開2017-006219(JP,A)
【文献】特開2020-066529(JP,A)
【文献】特表2020-503183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/50
B25J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の腹部に配置される気密性を有する筒状バッグと、
人体の左右の大腿部のそれぞれの前側に配置される脚部パッドと、
人体の上半身の前側であって且つ前記筒状バッグよりも上方に配置される胸部パッドと、
前記筒状バッグと前記脚部パッドとを連結する下部ロッドであって、人体が直立状態のときに前記大腿部に沿って上下方向に延びる下部ロッドと、
前記筒状バッグと前記胸部パッドとを連結する上部ロッドであって、人体が直立状態のときに前記腹部に沿って上下方向に延びる上部ロッドと、
を備える、
動作支援器具。
【請求項2】
請求項1に記載の動作支援器具において、
前記上部ロッドの軸方向に沿って前記胸部パッドをスライド移動させるためのスライド移動手段であって、前記軸方向のうちの前記上部ロッドから離れる方向に前記胸部パッドを付勢するスライド移動手段が前記胸部パッドまたは前記上部ロッドに設けられている、
動作支援器具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動作支援器具において、
前記筒状バッグを人体の腹部に配置するための腰部ベルトと、
一端が前記腰部ベルトに固定され、他端が前記胸部パッドに固定される連結ベルトであって、人体の側部に配置される連結ベルトと、
を備える、
動作支援器具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の動作支援器具において、
前記筒状バッグは、
前記腹部のうちの右側腹部に配置される第1筒状バッグと、
前記腹部のうちの左側腹部に配置される第2筒状バッグであって、前記第1筒状バッグと連結された第2筒状バッグと、を有する、
動作支援器具。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の動作支援器具において、
前記下部ロッドは、左右の前記大腿部のうちの片側あたり少なくとも2本、間隔をあけて設けられている、
動作支援器具。
【請求項6】
請求項5に記載の動作支援器具において、
前記筒状バッグの長手方向において、2本の前記下部ロッドの間に前記上部ロッドが位置するように、前記下部ロッドの上端部および前記上部ロッドの下端部が前記筒状バッグに取り付けられている、
動作支援器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の動作を支援する動作支援器具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。その技術は、次のように構成されている。
【0003】
特許文献1には、アクチュエータを用いて人体の動作を支援する動作支援装置が記載されている。この動作支援装置は、背中装着部、大腿抑え部、および股下構造体を備えている。背中装着部は、肩ベルトにより利用者の肩で支持された状態で背中に装着されるものであってフレーム状部材とされている。また、大腿抑え部は、利用者の両大腿部の前方側にそれぞれ配置されるものであって大腿部の前方側を抑える部材である。大腿抑え部の一端側には背中装着部の腰サポート部の両端部に回動可能に連結される第1連結部が設けられる。第1連結部は、ギア、プーリー、回転軸、円盤部材など様々な構成の組み合わせを採用し得るとのことである。
【0004】
上記腰サポート部の両端部にアクチュエータが内蔵されており、当該アクチュエータで第1連結部を駆動することにより、背中装着部に対して大腿抑え部が回動するようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の動作支援装置には、次のような問題がある。
【0007】
前記のとおり、特許文献1に記載の動作支援装置の背中装着部は、肩ベルトにより利用者の肩で支持された状態で背中に装着されるものである。そのため、利用者が前屈したとき、またはしゃがんだときに肩にテンションがかかる。肩にテンションがかかると、腰椎に圧縮力が作用する。前屈・しゃがみこみ動作を深く行うと、肩に大きなテンションがかかって腰椎への圧縮力が増し利用者の腰に負担がかかることがある。
【0008】
また、動作支援装置を構成する前記の第1連結部は、高荷重に耐える構造が必要となり、複雑な構造になるとともに、重量が重くなってしまう。
【0009】
さらには、特許文献1に記載のような機械式のものは大型であり、使用しないときにコンパクトに収納することができないという問題もある。そのため、広いスペースを保管時に確保しなければならない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、腰への負担が小さく、且つ比較的軽量で簡易な構造であり、しかもコンパクトに収納することができる人体の動作を支援するための動作支援器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、人体の腹部に配置される気密性を有する筒状バッグと、人体の左右の大腿部のそれぞれの前側に配置される脚部パッドと、人体の上半身の前側であって且つ前記筒状バッグよりも上方に配置される胸部パッドと、前記筒状バッグと前記脚部パッドとを連結する下部ロッドであって、人体が直立状態のときに前記大腿部に沿って上下方向に延びる下部ロッドと、前記筒状バッグと前記胸部パッドとを連結する上部ロッドであって、人体が直立状態のときに前記腹部に沿って上下方向に延びる上部ロッドと、を備える動作支援器具である。
【0012】
本発明の動作支援器具は、次のような作用効果を奏するものである。
【0013】
人体の前屈動作またはしゃがみ動作により、前記下部ロッドの上端部および前記上部ロッドの下端部によって前記筒状バッグの容積が小さくなるように前記筒状バッグが変形し、この変形により生じる反力によって人体を起こす動作や前傾、中腰姿勢の維持が補助される。
【0014】
本発明の動作支援器具は、特許文献1に記載の動作支援装置のような肩にテンションがかかるものではないため、腰への負担が小さい。また、人体に作用するアシスト力は、容積が小さくなるように筒状バッグが変形したときの変形により生じる反力によるものである。すなわち、本発明において人体に作用するアシスト力は筒状バッグが担う。筒状バッグは、比較的軽量で且つ簡易な構造である。また、本発明を構成する上記筒状バッグ、ロッド(上部ロッドおよび下部ロッド)などは、保管時に場所をとるものではない。そのため、使用しないときに動作支援器具を保管場所にコンパクトに収納することができる。
【0015】
本発明において、前記上部ロッドの軸方向に沿って前記胸部パッドをスライド移動させるためのスライド移動手段であって、前記軸方向のうちの前記上部ロッドから離れる方向に前記胸部パッドを付勢するスライド移動手段が前記胸部パッドまたは前記上部ロッドに設けられていることが好ましい。
【0016】
この構成によると、上部ロッドに対して胸部パッドが下方へスライド移動可能となる。利用者が前屈したとき、またはしゃがんだときに、上部ロッドに対して胸部パッドが下方へスライド移動することで、利用者の顎などに胸部パッドが当たることを防止することができる。利用者が前屈姿勢、またはしゃがみ姿勢から起き上がったときは、スライド移動手段の有する付勢力で、胸部パッドは上方へスライド移動し、元の位置に戻る。
【0017】
また本発明において、前記筒状バッグを人体の腹部に配置するための腰部ベルトと、一端が前記腰部ベルトに固定され、他端が前記胸部パッドに固定される連結ベルトであって、人体の側部に配置される連結ベルトと、をさらに備えることが好ましい。
【0018】
この構成によると、利用者が前屈したとき、またはしゃがんだときに、連結ベルトで胸部パッドが下方に引っ張られ、胸部パッドをより確実に下方へスライド移動させることができる。
【0019】
また本発明において、前記筒状バッグは、前記腹部のうちの右側腹部に配置される第1筒状バッグと、前記腹部のうちの左側腹部に配置される第2筒状バッグであって、前記第1筒状バッグと連結された第2筒状バッグと、を有することが好ましい。
【0020】
この構成によると、第1筒状バッグと第2筒状バッグとの連結部を支点にして、筒状バッグが曲がるので、人体が動きやすいよう筒状バッグは変形していき、その変形抵抗力がしゃがみ動作をアシストするので、利用者は、前屈動作やしゃがみ動作を行い易い。
【0021】
また本発明において、前記下部ロッドは、左右の前記大腿部のうちの片側あたり少なくとも2本、間隔をあけて設けられていることが好ましい。
【0022】
この構成によると、大腿部を押さえる脚部パッドの動きが安定する。
【0023】
また本発明において、前記筒状バッグの長手方向において、2本の前記下部ロッドの間に前記上部ロッドが位置するように、前記下部ロッドの上端部および前記上部ロッドの下端部が前記筒状バッグに取り付けられていることが好ましい。
【0024】
人体の前屈動作またはしゃがみ動作により、下部ロッドの上端部および上部ロッドの下端部によって筒状バッグがねじられるところ、上記構成によると、筒状バッグの長手方向において、筒状バッグのねじり変形範囲を広くすることができ、人体の動きの自由度、安定性が上がる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、腰への負担が小さく、且つ比較的軽量で簡易な構造であり、しかもコンパクトに収納することができる人体の動作を支援するための動作支援器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る動作支援器具を装着した利用者の直立状態のときの正面図である(上肢の図示は省略)。
【
図3】
図1、2の直立状態から利用者がしゃがんだときの状態を示す側面図である(上肢の図示は省略)。
【
図4】
図1、2の直立状態から利用者が前屈したときの状態を示す側面図である(上肢の図示は省略)。
【
図5】上部ロッドおよび下部ロッドが取り付けられた第1筒状バッグの斜視図である。
【
図6】人体(利用者)の前屈動作またはしゃがみ動作により変形した
図5に示す第1筒状バッグの斜視図である。
【
図7】上部ロッドおよび下部ロッドが取り付けられた第1筒状バッグの第1変形例を示す斜視図である。
【
図8】上部ロッドおよび下部ロッドが取り付けられた第1筒状バッグの第2変形例を示す斜視図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る動作支援器具を装着した利用者の直立状態のときの側面図である(上肢の図示は省略)。
【
図10】
図9の直立状態から利用者が少し前屈したときの状態を示す側面図である(上肢の図示は省略)。
【
図11】
図10の状態から利用者が少し膝を曲げたときの状態を示す側面図である(上肢の図示は省略)。
【
図12】
図11の状態から利用者がさらに膝を曲げてしゃがんだときの状態を示す側面図である(上肢の図示は省略)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1~6を参照しつつ本発明の第1実施形態に係る動作支援器具101の構成についてまず説明する。
【0029】
人体Pの動作を支援する動作支援器具101は、人体P(利用者)の腹部(下腹部)に配置される気密性を有する筒状バッグ1と、人体Pの左右の大腿部のそれぞれの前側に配置される1組の脚部パッド2、3と、人体Pの上半身の前側であって且つ筒状バッグ1よりも上方に配置される胸部パッド4とを備えている。筒状バッグ1は、腰部ベルト7にて人体Pの腹部(下腹部)に配置されている。
【0030】
上記筒状バッグ1は、その容積が小さくなるように押されたりすることで変形し、変形によってアシスト力としての反力が生じるものとされる。そのため、筒状バッグ1は、変形したときに内部に封入されたガス(例えば空気)が外部に漏れ出ないもの、すなわち、気密性を有するものとされる。具体的には、筒状バッグ1として、例えば、コーティング被膜付きの基布を接続加工したもの、繊維補強ホースなどガス封入で内圧を確保できるものが用いられる。
【0031】
本実施形態の筒状バッグ1は、人体Pの腹部のうちの右側腹部(右側下腹部)に配置される第1筒状バッグ5と、左側腹部(左側下腹部)に配置される第2筒状バッグ6とで構成されている。第1筒状バッグ5と第2筒状バッグ6とは、長手方向の端部同士部分で連結されている(例えば縫合による連結)。筒状バッグ5、6の連結部分は人体Pの腹部(下腹部)のほぼ中心に位置する。また、第1筒状バッグ5は、人体Pが直立状態のとき、人体Pの右側股関節の少し上方に位置し、第2筒状バッグ6は、人体Pの左側股関節の少し上方に位置する。
【0032】
上記のように、相互に連結された第1筒状バッグ5と第2筒状バッグ6とで筒状バッグ1が構成されていると、第1筒状バッグ5と第2筒状バッグ6との連結部分を支点にして、筒状バッグ1が例えばVの字に曲がるので、人体Pが動きやすいよう筒状バッグ1は変形していき、その変形抵抗力がしゃがみ動作をアシストするので、利用者は、前屈動作やしゃがみ動作を行い易い。
【0033】
脚部パッド2、3は、例えば、布で形成される。脚部パッド2と第1筒状バッグ5とは、下部ロッド8で連結される。同様に、脚部パッド3と第2筒状バッグ6とは、下部ロッド8で連結される。これら下部ロッド8は、人体Pが直立状態のときに大腿部に沿って上下方向に延びる。本実施形態では、下部ロッド8は、左右の大腿部のうちの片側あたり2本、間隔をあけて設けられている。2本の下部ロッド8は、脚部パッド2(脚部パッド3)の両端部にそれぞれの下端部が固定される。下部ロッド8は、例えば、FRP製の中空の棒部材である。左右の大腿部のうちの片側あたり2本、下部ロッド8を設けることで、大腿部を押さえる脚部パッド2、3の動きを安定させることができる。
【0034】
人体Pの胸部に配置される胸部パッド4は、例えば、布で形成される。胸部パッド4と第1筒状バッグ5とは、上部ロッド9で連結される。同様に、胸部パッド4と第2筒状バッグ6とは、上部ロッド9で連結される。これら上部ロッド9は、人体Pが直立状態のときに腹部に沿って上下方向に延びる。本実施形態では、上部ロッド9は、左右の筒状バッグ5、6のうちの片側あたり1本設けられている。計2本の上部ロッド9は、胸部パッド4の両端部にそれぞれの上端部が固定される。上部ロッド9は、例えば、FRP製の中空の棒部材である。
【0035】
上部ロッド9と第1筒状バッグ5との取り付け構造、および下部ロッド8と第1筒状バッグ5との取り付け構造は、例えば、
図5に示すとおりである。なお、上部ロッド9と第2筒状バッグ6との取り付け構造、および下部ロッド8と第2筒状バッグ6との取り付け構造は、第1筒状バッグ5の場合と同じである。
【0036】
上部ロッド9の下端部は、例えば、第1筒状バッグ5の長手方向のほぼ真ん中の側面に布片10にて固定される。第1筒状バッグ5と布片10とで上部ロッド9の下端部を挟み込むようにして第1筒状バッグ5の側面に布片10を縫合することにより、上部ロッド9の下端部は固定される。なお、上部ロッド9の下端は、径が大きくされるなどして、布片10から抜けないようにされている。
【0037】
下部ロッド8の上端部は、例えば、第1筒状バッグ5の長手方向のそれぞれの端部の側面に布片10にて固定される。第1筒状バッグ5と布片10とで下部ロッド8の上端部を挟み込むようにして第1筒状バッグ5の側面に布片10を縫合することにより、下部ロッド8の上端部は固定される。なお、上部ロッド9の上端は、径が大きくされるなどして、布片10から抜けないようにされている。
【0038】
ここで、本実施形態では、第1筒状バッグ5の長手方向において、2本の下部ロッド8の間に上部ロッド9が位置するように、下部ロッド8の上端部および上部ロッド9の下端部が第1筒状バッグ5に取り付けられている(第2筒状バッグ6についても同様)。
【0039】
なお、第1筒状バッグ5の長手方向において、第1筒状バッグ5の一端側から他端側へ、例えば、2本の下部ロッド8、1本の上部ロッド9という順で各ロッドが第1筒状バッグ5に取り付けられてもよい。この場合、人体Pの前屈動作またはしゃがみ動作により、下部ロッド8の上端部および上部ロッド9の下端部によって第1筒状バッグ5がねじられるところ、2本の下部ロッド8同士の間部分では、第1筒状バッグ5(筒状バッグ1)にあまりねじれが生じない。
【0040】
これに対し、
図5、6に示すような本実施形態の場合には、第1筒状バッグ5の長手方向において、図中左上側の下部ロッド8と上部ロッド9との間、および図中右下側の下部ロッド8と上部ロッド9との間の両方で第1筒状バッグ5に明確なねじれが生じるので、筒状バッグのねじり変形範囲を広くすることができ、人体Pの動きの自由度、安定性が上がる。
【0041】
次に、このような構成を有する動作支援器具101の動作(人体の動作のアシスト)について説明する。
【0042】
図3は、動作支援器具101を装着した利用者が
図1、2の直立状態からしゃがんで(膝を曲げ腰を落として)、両手で荷物を持ち上げる動作を行う状態を示す側面図である。なお、
図3において上肢の図示は省略されている。
【0043】
図3に示すように利用者がしゃがむと、利用者の上半身の動きに追従して上部ロッド9は筒状バッグ1(第1筒状バッグ5および第2筒状バッグ6)を支点に前方へ回動する。また、下部ロッド8は利用者の大腿部の動きに追従して筒状バッグ1を支点に上方へ回動する。
【0044】
これにより、上部ロッド9の下端部および下部ロッド8の上端部によって、
図6に示すように筒状バッグ1はねじられ、筒状バッグ1の容積が小さくなるように筒状バッグ1は変形する。また、利用者のしゃがみ動作により、利用者の下腹部の前に位置する筒状バッグ1は、上部ロッド9の下端部および下部ロッド8の上端部に押圧され、この押圧によっても筒状バッグ1は容積が小さくなるように変形する。
【0045】
これらの変形により生じる反力が、上部ロッド9を介して胸部パッド4に伝達され、胸部パッド4が利用者の胸部を持ち上げる力として作用する(例えば
図6に示す力Fa)。また、上記反力が、下部ロッド8を介して脚部パッド2、3に伝達され、脚部パッド2、3が利用者の大腿部を押し下げる力として作用する(例えば
図6に示す力Fb)。これらの力でアシストされることにより、利用者は荷物を持って容易に起き上がることができる。
【0046】
図4は、動作支援器具101を装着した利用者が
図1、2の直立状態から前屈して、両手で荷物を持ち上げる動作を行う状態を示す側面図である。なお、
図4において上肢の図示は省略されている。
【0047】
図4に示すように利用者が前屈すると、利用者の上半身の動きに追従して上部ロッド9は筒状バッグ1(第1筒状バッグ5および第2筒状バッグ6)を支点に前方へ回動する。また、下部ロッド8は、利用者の下腹部の動きに追従して筒状バッグ1が下方へ向きを変えることで筒状バッグ1に対して相対的に回動する。
【0048】
これにより、上部ロッド9の下端部および下部ロッド8の上端部によって、
図6に示すように筒状バッグ1はねじられ、筒状バッグ1の容積が小さくなるように筒状バッグ1は変形する。また、利用者の前屈動作により、利用者の下腹部の前に位置する筒状バッグ1は、上部ロッド9の下端部および下部ロッド8の上端部に押圧され、この押圧によっても筒状バッグ1は容積が小さくなるように変形する。
【0049】
これらの変形により生じる反力が、上部ロッド9を介して胸部パッド4に伝達され、胸部パッド4が利用者の胸部を持ち上げる力として作用する(例えば
図6に示す力Fa)。また、上記反力が、下部ロッド8を介して脚部パッド2、3に伝達され、脚部パッド2、3が利用者の大腿部を押す力として作用する(例えば
図6に示す力Fb)。これらの力でアシストされることにより、利用者は荷物を持って容易に上半身を起こすことができる。
【0050】
図7は、上部ロッド9および下部ロッド8が取り付けられた第1筒状バッグ5の第1変形例を示す斜視図である。
【0051】
図5に示す実施形態では、人体P(利用者)の下腹部と接する側とは反対側の第1筒状バッグ5の側面に、上部ロッド9の下端部および下部ロッド8の上端部が固定されている。これに対して、
図7に示す第1変形例では、人体P(利用者)の下腹部と接する側とは反対側の第1筒状バッグ5の側面に、下部ロッド8の上端部が固定され、その反対側の側面、すなわち、人体P(利用者)の下腹部と接する側の第1筒状バッグ5の側面に、上部ロッド9の下端部が固定されている。
【0052】
図8は、上部ロッド9および下部ロッド8が取り付けられた第1筒状バッグ5の第2変形例を示す斜視図である。
図8に示す第2変形例では、人体P(利用者)の下腹部と接する側とは反対側の第1筒状バッグ5の側面に、上部ロッド9の下端部が固定され、その反対側の側面、すなわち、人体P(利用者)の下腹部と接する側の第1筒状バッグ5の側面に、下部ロッド8の上端部が固定されている。
【0053】
なお、図示を省略するが、人体P(利用者)の下腹部と接する側の第1筒状バッグ5の側面に、上部ロッド9の下端部および下部ロッド8の上端部の両方が固定されてもよい。
【0054】
また、人体P(利用者)の下腹部と接する側の第1筒状バッグ5の側面に、2本の下部ロッド8のうちの一方の下部ロッド8の上端部が固定され、その反対側の側面、すなわち、人体P(利用者)の下腹部と接する側とは反対側の第1筒状バッグ5の側面に、2本の下部ロッド8のうちの他方の下部ロッド8の上端部が固定されてもよい。
【0055】
このように、第1筒状バッグ5(第2筒状バッグ6、筒状バッグ1)への上部ロッド9および下部ロッド8の取り付けには様々な形態がある。
【0056】
図9~12は、本発明の第2実施形態を示す。第2実施形態と第1実施形態との相違点は、次のとおりである。なお、第2実施形態の動作支援器具102の説明においては、第1実施形態の動作支援器具101を構成する部材と同様の部材について同一の符号を付し、その説明を適宜省略するものとする。
【0057】
図1~4に示す第1実施形態の動作支援器具101を構成する胸部パッド4と第1筒状バッグ5とは上部ロッド9で単に連結されたものであり、胸部パッド4は上部ロッド9に対してその軸方向にスライド移動するものではない。そのため、
図1、2の直立状態からしゃがみ動作(
図3参照)または前屈動作(
図4)を利用者が行うと、利用者の下腹部と胸部とが近づく結果、胸部パッド4が相対的に上方へずれる。直立状態のときの胸部パッド4の位置が高いと、これが原因で、利用者がしゃがんだり前屈したりしたときに、利用者の顎などに胸部パッド4が当たることがある。
【0058】
そのため、利用者がしゃがんだり前屈したりしたときに、利用者の顎などに胸部パッド4が当たることのないよう、
図9~12に示す第2実施形態の動作支援器具102では、胸部パッドとしての胸部接触板11が上部ロッド9に対してその軸方向にスライド移動可能とされている。
【0059】
胸部接触板11は、例えば中空構造とされ、上部ロッド9の軸方向に沿って当該胸部接触板11をスライド移動させるためのスライド移動手段としてのバネ12がその中空部分に内蔵されている。このバネ12は、上部ロッド9の軸方向のうちの上部ロッド9から離れる方向に胸部接触板11を付勢するように胸部接触板11の中空部分に内蔵される。
【0060】
また、本実施形態では、胸部接触板11と腰部ベルト7とを連結する連結ベルト13が、人体P(利用者)の両側部に配置されている。連結ベルト13の一端は腰部ベルト7に固定され、連結ベルト13の他端は胸部接触板11に固定される。
【0061】
本実施形態の動作支援器具102の動作について説明する。なお、第1実施形態の動作支援器具101の動作と共通の動作については、その説明を省略し、動作支援器具102の特有の動作、言い換えれば、さらに得られる動作について説明する。
【0062】
図9~12は、動作支援器具102を装着した利用者が直立状態からしゃがむまでの各状態を順に示す側面図である。なお、
図9~12において上肢の図示は省略されている。
【0063】
図9~12で示すように、利用者が直立状態からしゃがんでいくと、その過程で腰が後方へ移動していく。これに追従して、連結ベルト13の一端側(腰部ベルト7との固定側)も後方へ移動していく。その結果、連結ベルト13によって、胸部接触板11が引っ張られ、胸部接触板11は下方へスライド移動する。そのため、胸部接触板11は、利用者が直立状態のときの胸の前の位置から相対的にさほど動かない。これにより、利用者の顎などに胸部接触板11が当たることを防止することができる。
【0064】
利用者が起き上がると、すなわち直立状態に戻ると、腰が前方へ移動することで連結ベルト13による拘束が緩み、バネ12の付勢力によって、胸部接触板11は上方へスライド移動し、元の位置に戻る。
【0065】
以上説明した、第1実施形態の動作支援器具101、および第2実施形態の動作支援器具102は、特許文献1に記載の動作支援装置のような肩にテンションがかかるものではないため、人体P(利用者)の腰への負担が小さい。また、人体Pを起こすアシスト力は、容積が小さくなるように筒状バッグ1(筒状バッグ5、6)が変形したときの変形により生じる反力によるものである。筒状バッグ1(筒状バッグ5、6)は、比較的軽量で且つ簡易な構造である。また、上記筒状バッグ1、ロッド(上部ロッド9および下部ロッド8)などは、保管時に場所をとるものではない。そのため、使用しないときに動作支援器具101(102)を保管場所にコンパクトに収納することができる。さらには、動作支援器具101、102は、軽量(例えば約1kg)なので、利用者はその脱着が容易である。
【0066】
第2実施形態の動作支援器具102を構成する胸部接触板11は、当該胸部接触板11をスライド移動させるためのスライド移動手段(バネ12)を有する。この構成により、利用者が前屈したとき、またはしゃがんだときに、上部ロッド9に対して胸部接触板11が下方へスライド移動し、利用者の顎などに胸部接触板11が当たることを防止することができる。
【0067】
なお、利用者が女性の場合などは、乳房によって胸部接触板11を下方へスライド移動させることができる場合がある。そのため、連結ベルト13は省略し得る。
【0068】
ただし、第2実施形態の動作支援器具102のように連結ベルト13を人体P(利用者)の側部に配置した場合には、女性でも男性でも胸部接触板11をより確実に下方へスライド移動させることができる。
【0069】
上記の実施形態は次のように変更可能である。
【0070】
筒状バッグ1は、相互に連結された第1筒状バッグ5と第2筒状バッグ6とで構成されるのではなく、1本の筒状バッグとされてもよい。さらには、筒状バッグ1が、相互に連結された3本以上の筒状バッグで構成されてもよい。
【0071】
胸部接触板11をスライド移動させるためのスライド移動手段として、バネ12に代えて空気(ガス)が用いられてもよい。例えば、胸部接触板11の内部に空気室(ガス室)を設け、この空気室の空気の圧縮により上部ロッド9に対して胸部接触板11を下方へスライド移動させる構成とされてもよい。また、スライド移動手段は上部ロッド9の上端に設けられてもよい。
【0072】
上記実施形態では、下部ロッド8は、左右の大腿部のうちの片側あたり2本、間隔をあけて設けられている。これに代えて、左右の大腿部のうちの片側あたり3本以上、下部ロッド8が設けられてもよいし、左右の大腿部のうちの片側あたり1本、下部ロッド8が設けられてもよい。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、その他に、当業者が想定できる範囲で種々の変更を行うことは勿論可能である。
【符号の説明】
【0074】
1:筒状バッグ
2:脚部パッド
3:脚部パッド
4:胸部パッド
5:第1筒状バッグ
6:第2筒状バッグ
7:腰部ベルト
8:下部ロッド
9:上部ロッド
11:胸部接触板(胸部パッド)
12:バネ(スライド移動手段)
13:連結ベルト
101、102:動作支援器具
P:人体