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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】イオン源及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20240501BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240501BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20240501BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20240501BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20240501BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01J49/04 900
G01N27/62 G
G01N27/62 F
H01J49/16 800
H01J49/06 800
H01J49/04 040
G01N1/00 101R
G01N1/22 T
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020204216
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091397
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 安章
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 昌和
(72)【発明者】
【氏名】熊野 峻
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-301749(JP,A)
【文献】特開2009-103711(JP,A)
【文献】特開2007-139551(JP,A)
【文献】特開2009-115651(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0282304(US,A1)
【文献】特開2013-008606(JP,A)
【文献】特開平05-203637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/04
G01N 27/62
H01J 49/16
H01J 49/06
G01N 1/00
G01N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質の蒸気をイオン化するイオン化部と、
所望の温度に保持される固定側加熱部と、
前記固定側加熱部と対向して配置され、所望の温度に保持されるとともに、前記化学物質を含んでいる加熱対象物を前記固定側加熱部とで挟み込むようにして、前記加熱対象物を加熱する可動側加熱部と、
を有し、
前記固定側加熱部は、前記イオン化部と一体となって構成され、
前記固定側加熱部は、加熱によって生じる前記化学物質の蒸気を前記イオン化部へ導入するための導入部を有する
ことを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記可動側加熱部は、
空気を前記加熱対象物へ送る空気取入部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記固定側加熱部は、前記イオン化部を構成する電極の一部である
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記可動側加熱部において、前記固定側加熱部に対して対向する側の面に、アダプタ部が設けられ、
前記アダプタ部は、着脱部によって前記アダプタ部の前記可動側加熱部から着脱可能である
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
前記固定側加熱部において、前記可動側加熱部に対して対向する側の面に、アダプタ部が設けられ、
前記アダプタ部は、着脱部によって前記固定側加熱部から着脱可能である
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項6】
前記アダプタ部は、
前記アダプタ部の外部から取り入れられた空気で満たされる溝部を内部に有している
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のイオン源。
【請求項7】
前記アダプタ部は、
周縁に凸部を有し、
前記凸部は、
一部に前記アダプタ部の外部と連通している凹部を有する
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のイオン源。
【請求項8】
前記アダプタ部は、
多孔質体で構成される
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のイオン源。
【請求項9】
前記イオン化部を構成する電極であるとともに、イオン化された前記化学物質の蒸気を質量分析計へ導入する電極であり、前記イオン化部に存在するイオン化された前記化学物質の蒸気を前記質量分析計へ導入する細孔を有する細孔付電極を有し、
前記固定側加熱部は、
前記細孔付電極に対して断熱されている
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
前記導入部にフィルタ部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項11】
検査対象である化学物質の蒸気をイオン化するイオン源と、
イオン化された前記化学物質の蒸気を分析する分析部と、
を有する分析装置であって、
前記イオン源は、
加熱対象物から導入された前記化学物質の蒸気をイオン化するイオン化部と、
所望の温度に保持される固定側加熱部と、
前記固定側加熱部と対向して配置され、所望の温度に保持されるとともに、前記化学物質を含んでいる前記加熱対象物を前記固定側加熱部とで挟み込むようにして、前記加熱対象物を加熱する可動側加熱部と、
を有し、
前記固定側加熱部は、前記イオン化部と一体となって構成され、
前記固定側加熱部は、加熱によって生じる前記化学物質の蒸気を前記イオン化部へ導入するための導入部を有する
ことを特徴とする分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質を分析する際に用いられるイオン源及び分析装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
違法薬物の持ち込みを防止する方法の一つとして、トレース検査が行われる。カバンの外側に覚せい剤や麻薬類等の違法薬物が付着していれば、カバンの内部に前記した違法薬物が隠蔽されている可能性がある。そこで、検査員が、カバンの外側を拭き取り、カバンの表面から拭き取った表面の付着物を化学分析手段で同定する検査が行われる。このような検査における分析には、イオンモビリティ法や質量分析法がよく用いられている。
【0003】
特許文献1は、「検査対象から採取した試料が付着した検査片を加熱するステップと、加熱された前記検査片から発生する気体を試料ガスとして吸引するステップと、該吸引された試料ガスをイオン化するステップと、イオン化された試料ガスのイオンの質量を分析して質量スペクトルを取得する第1の分析ステップと、第1の固有のm/z値のイオンが存在するか判定する第1の判定ステップと、前記第1の判定ステップの判定結果に応じてタンデム質量分析を行う第2の分析ステップと、前記タンデム質量分析で得られた質量スペクトルで第2の固有のm/z値のイオンが存在するか判定する第2の判定ステップとを備え、前記検査片を加熱するステップは、間隔を離して対向配置された2枚の加熱板の間に前記検査片を挿入して加熱することを特徴とする」特定薬物の探知方法及び探知装置が開示されている(請求項1参照)。
【0004】
特許文献2は、「装置は、危険物質に由来する試料が付着する拭き取り部材を収納し試料を加熱するオーブン1と、オーブン外部から試料を加熱する赤外線を発生する光源と、オーブンで気化した試料をイオン化するイオン源部2と、気化した試料をイオン源部に導入する吸引ポンプ3と、イオンの質量分析を行なう質量分析部4と、排気部10と、質量分析部の出力信号を処理し危険物質の有無判定を行なうデータ処理装置5と、判定結果を表示する操作パネル7と、判定結果に基づいて警報を発する警報機6と、装置各部のための電源部8と、装置各部を制御する制御部9とを備える。操作パネルから入力される装置各部に指定する動作条件に基づいて、制御部は装置各部を制御する」危険物探知装置及び危険物探知方法が開示されている(要約参照)。
【0005】
特許文献3は、「有機酸又は有機酸塩を用いて有機酸ガス発生器3から有機酸ガスを発生させ、試料ガスと混合させてイオン源4に導入し、イオン化を行い、質量分析部5で質量スペクトルを得る。データ処理部6は、得られた質量スペクトルに基づいて、探知対象の目的化学物質から生成される固有のm/zをもつ分子に有機酸から生成される分子が付加された固有の有機酸付加イオンのm/zの検出の有無を判定する。有機酸付加イオンのm/zのイオンピークがあった場合、探知対象の目的化学物質が存在すると判断して警報を鳴らす」化学物質探知装置及び化学物質探知方法が開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3800422号公報
【文献】特開2004-212073号公報
【文献】特開2009-103711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(従来の危険物探知装置1A)
図8から図10を用いて、従来の危険物探知装置1Aについて説明する。
図8は、従来の危険物探知装置1Aの構成を示す図である。
危険物探知装置1Aは、加熱器200、吸引ポンプ303、イオン源100A、真空ポンプ305、質量分析計(分析部)306、データ処理装置308を有する。加熱器200及びイオン源100Aは配管301によって接続されている。また、イオン源100A及び吸引ポンプ303は吸気管302によって接続している。質量分析計306及び真空ポンプ305は真空配管304を介して接続している。なお、イオン源100A及び質量分析計306は一体の装置となっている。そして、質量分析計306及びデータ処理装置308は信号ライン307を介して電気的に接続している。
【0008】
検査員は、カバン等の検査対象物の表面を拭き取った布等を加熱器200にセットする。本明細書では加熱器200にセットされる布としてワイプ材W(図9参照)が想定されているが、ワイプ材W以外のものが用いられてもよい。加熱器200によって、セットされたワイプ材Wが加熱され、ワイプ材Wに付着している化学物質が気化する。気化した化学物質の蒸気は、180℃~200℃に加熱された配管301を介し、さらに、吸気管302を介してイオン源100Aに接続されている吸引ポンプ303による吸気によってイオン源100Aに導入される。イオン源100Aでイオン化された化学物質は、真空配管304を介して質量分析計306と接続している真空ポンプ305によって真空排気された質量分析計306に導入される。質量分析計306は、導入された化学物質を質量分析する。質量分析計306で得られた信号は、信号ライン307を介してデータ処理装置308に送られ、データ処理装置308によって処理される。データ処理装置308には化学物質のデータベース(不図示)が登録されており、信号がデータベースと一致した場合、データ処理装置308は発報を行う。
【0009】
(加熱器200)
図9は、従来の加熱器200の構造を示す断面図である。
加熱器200は、可動側加熱部210及び固定側加熱部220を有する。
可動側加熱部210は、モータ(不図示)に接続された駆動部211が駆動することで上下方向に駆動可能である(白抜上下矢印)。検査員がワイプ材Wを、可動側加熱部210と固定側加熱部220との隙間に挿入する。すると、駆動部211が駆動することで、可動側加熱部210を上方(紙面上方向)に押し上げる。上方向とは重力の働く方向とは逆方向のことである。これにより、ワイプ材Wは可動側加熱部210と固定側加熱部220との間に挟まれ、加熱される。可動側加熱部210と固定側加熱部220の温度は、200℃以上に保たれることが望ましい。可動側加熱部210と固定側加熱部220が密着すると空気の取入れが困難になる。そのため、可動側加熱部210と固定側加熱部220の少なくとも一方には、空気をワイプ材Wの周囲に取り入れるための空気口212が設けられる。ワイプ材Wに付着している化学物質は、熱により気化する。気化によって生じた化学物質の蒸気は、加熱された配管301を介してイオン源100Aへと導入される(白抜矢印)。
【0010】
(イオン源100A)
図10は、従来のイオン源100Aの構造を示す図である。
イオン源100Aは、針電極131、対向電極132、イオン化領域(イオン化部)133、細孔付電極134、細孔135を有する。
イオン源100Aには針電極131が設けられ、数キロボルトの高電圧が印可される。この高電圧により、針電極131と、針電極131に対向して配置されている対向電極132との間にコロナ放電が生じる。例えば、針電極131の電圧が4キロボルト、対向電極132の電圧が500ボルトであるとする。この場合、コロナ放電により針電極131の周囲に存在する大気中の水蒸気がイオン化され、ヒドロニウムイオン(H)が生成される。このようにコロナ放電で生成されるイオンは一次イオンNと呼ばれる。一次イオンNは、対向電極132と細孔付電極134によって生成される電界によりイオン化領域133に導入される。
【0011】
加熱器200から配管301を介して(矢印A1)、イオン化領域133に導入された化学物質の蒸気は、対向電極132に開口されている導入部136を介して針電極131側に流れる。この際、化学物質の蒸気のうち、一部の成分は、針電極131側から流れてくる一次イオンNと反応し、イオン化する。化学物質の蒸気のうち、イオン化した成分をイオン成分と称する。
化学物質の蒸気のうち、イオン化しない成分は吸引ポンプ303(図8参照)により吸気管302を介して排気される(矢印A2)。化学物質の蒸気におけるイオン化反応の例としては、Mを化学物質の分子とすると、この化学物質がヒドロニウムイオンと反応して、下記に示すプロトン付加分子を生成する。
【0012】
M + H → (M+H) + H
【0013】
このようにして生成されたイオン成分は、対向電極132と細孔付電極134との電位差により細孔付電極134の方向にドリフトする。対向電極132の電圧は、例えば500ボルト、細孔付電極134の電圧は、例えば30ボルトに印加されている。イオン成分は細孔付電極134に開口する細孔135から質量分析計306の真空部(不図示)に取り込まれる(白抜矢印A4)。質量分析計306に取り込まれたイオン成分は、質量分析計306によって質量分析される。イオン源100Aの全体や、細孔付電極134は180℃程度に加熱されている。
【0014】
図8に示す危険物探知装置1Aにおいて、検出対象となる化学物質の種類によっては、加熱器200で発生した化学物質の蒸気の一部が配管301の内壁面等に吸着される現象が生じる。配管301の内壁面等に化学物質が吸着されるとイオン源100Aに到達する分子の数が減る。これにより、イオン化されて質量分析される化学物質の量が減るため、質量分析計306で観測される信号量(S)が低下する。また、配管301の内壁面等に吸着された化学物質は時間ともに少しずつ脱離し、イオン源100Aに流れ込むため、バックグラウンドのノイズ(化学物質を導入しなくても得られる信号、N)が上昇する。危険物探知装置1Aの感度は信号強度とバックグラウンドのノイズとの比(S/N比)で決まるため、化学物質の吸着はSの低下、Nの上昇を招く。そのため、結果として危険物探知装置1Aの感度低下が生じる。従って、高感度な危険物探知装置1Aを実現するため、配管301の内壁面等に対する化学物質の吸着を低減することが望まれている。
【0015】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、分析装置の感度向上を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記した課題を解決するため、本発明は、化学物質の蒸気をイオン化するイオン化部と、所望の温度に保持される固定側加熱部と、前記固定側加熱部と対向して配置され、所望の温度に保持されるとともに、前記化学物質を含んでいる加熱対象物を前記固定側加熱部とで挟み込むようにして、前記加熱対象物を加熱する可動側加熱部と、を有し、前記固定側加熱部は、前記イオン化部と一体となって構成され、前記固定側加熱部は、加熱によって生じる前記化学物質の蒸気を前記イオン化部へ導入するための導入部を有することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分析装置の感度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係るイオン源を示す図である
図2】第1実施形態に係る危険物探知装置の構成を示す図である。
図3】第2実施形態に係るイオン源の一部の構成を示す図である。
図4】隙間アダプタの具体的な例を示す図である。
図5】隙間アダプタの別の具体例を示す図である。
図6】第3実施形態に係るイオン源の一部を示す図である。
図7】第4実施形態に係るイオン源の構成を示す図である。
図8】従来の危険物探知装置の構成を示す図である。
図9】従来の加熱器の構造を示す断面図である。
図10】従来のイオン源の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。それぞれの図において、同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0020】
[第1実施形態]
(イオン源100)
図1は、第1実施形態に係るイオン源100を示す図である。図1において、図10と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。また、適宜、図8を参照する。
イオン源100において、図10に示すイオン源100Aと異なる点は、イオン源100のイオン化領域(イオン化部)133に対応する部分に(細孔付電極134の底部外面に対向するように)ワイプ材Wを加熱する可動側加熱部110(詳細は後記)が設けられている点である。
【0021】
即ち、図1に示すイオン源100は、図8に示す加熱器200とイオン源100Aとを一体とすることで、配管301に相当する部分を省略している。図1における配管301が省略されていることにより、イオン源100を使用している危険物探知装置1(図2参照)は、図8に示す危険物探知装置1Aと比較して、化学物質の吸着を大幅に低減することができる。これにより、より多くの化学物質が質量分析計306(図2参照)に到達する。この結果、危険物探知装置1(図2参照)の感度を大幅に向上することができる。
【0022】
可動側加熱部110及び細孔付電極134には、可動側加熱部110及び細孔付電極134を加熱するためのヒータ151が設けられている。可動側加熱部110は、フィルタ121と当該可動側加熱部110の間にワイプ材Wを置けるように、上下方向に可動である。
この可動側加熱部110及び細孔付電極134はヒータ151によって180℃程度に加熱されている。そして、細孔付電極134の一端(底部)に開口部121が設けられている。この細孔付電極134の底部は、図8に示す加熱器200の固定側加熱部220の機能を兼ねる。
【0023】
検査員が、ワイプ材Wを可動側加熱部110と細孔付電極134の底面との隙間に挿入すると、モータ(不図示)に接続された駆動部111が上下方向駆動する(白抜上下矢印A3)。つまり、可動側加熱部110が上方(紙面上方向;図1のZ方向)に押し上げられる。前記のように、上方向は重力が働く方向とは逆方向のことである。これにより、ワイプ材Wは可動側加熱部110と細孔付電極134との間に挟まれ、可動側加熱部110及び細孔付電極134によって加熱される。可動側加熱部210には、空気をワイプ材Wへ送るための空気口112が設けられる。このような、空気口112が設けられることにより、加熱によって気化した化学物質の蒸気が効率よくイオン化領域133へ導入される。
【0024】
ワイプ材Wの加熱が完了すると、可動側加熱部110が下方(紙面下方向;図1の-Z方向に下げられる。
【0025】
また、細孔付電極134と、対向電極132との間には、絶縁体123が挿入されることにより、細孔付電極134と、対向電極132とが絶縁されている。
【0026】
ワイプ材Wに付着してる化学物質は、可動側加熱部110及び細孔付電極134の熱により気化する。この結果、化学物質の蒸気が発生する。なお、化学物質の蒸気がイオン化される手法、イオン化された成分が質量分析計306に導入される手法は、図10で前記したものと同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0027】
ワイプ材Wに埃等が付着していると、埃がイオン化領域133に取り込まれ、細孔135を閉塞させる等の悪影響を及ぼす。従って、図1の例に示すように、細孔付電極134の開口部121にはフィルタ122が設けられるのが望ましい。このようにすることによって、ワイプ材Wに付着している埃等がイオン化領域133に導入されることを防ぐことができる。
【0028】
図1に示すイオン源100によれば、ワイプ材Wに付着している化学物質は、加熱により気化した後、イオン化領域133に直接導入される。即ち、イオン化領域133の直近で化学物質が気化される。そのため、イオン化領域133での化学物質の蒸気の濃度を高くすることができ、質量分析計306が強い信号を出力することが可能となる。また、化学物質の蒸気は吸気管302から速やかに排気されるので、バックグラウンドも測定終了後は速やかに下がる。これらの効果から、質量分析計306から出力される信号のS/N比を改善することができる。従って、高感度な危険物探知装置1(図2参照)を実現することが可能となる。
【0029】
(危険物探知装置1)
図2は、第1実施形態に係る危険物探知装置1の構成を示す図である。
図2に示す危険物探知装置(分析装置)1は、図8に示す危険物探知装置1Aの加熱器200と、イオン源100Aとが一体となったイオン源100が設けられている。これに伴い、図8の加熱器200と、配管301とが省略されている。その他の構成は図8と同様であるため、同一の符号を付して、説明を省略する。
【0030】
[第2実施形態]
(イオン源100a)
図3は、第2実施形態に係るイオン源100aの一部の構成を示す図である。図3ではイオン源100aのうち、可動側加熱部110の周辺のみを示している。なお、図3において、図1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。また、第2実施形態以降において、危険物探知装置1の構成は図2と同様であるので図示及び説明を省略する。
【0031】
図3に示すイオン源100aでは、第1実施形態のイオン源100と同様、ワイプ材Wが可動側加熱部110と細孔付電極134との隙間に挟み込まれる。そして、可動側加熱部110と細孔付電極134とがワイプ材Wを挟み込むように加熱することで、ワイプ材Wに付着している化学物質を気化させる。その際、可動側加熱部110と細孔付電極134において、ワイプ材Wに接触する面(ワイプ材Wに対向する面)は、繰り返しの使用により汚れが徐々に堆積していく。この汚れを取るために、ユーザは従来の加熱器200(図8及び図9参照)で行っていたのと同様に、第1実施形態でも定期的に分解し、可動加熱部110や可動加熱部110に対向する細孔付電極134の部分等を有機溶媒やブラシを用いてクリーニングする必要がある。
【0032】
そこで、図3に示す第2実施形態でのイオン源100aには、可動側加熱部110や細孔付電極134のワイプ材Wに接する面(対向する面)の少なくとも一方に、空気取入構造を有する隙間アダプタ140が設けられている。なお、図3の例では、可動側加熱部110及び細孔付電極134の双方において、ワイプ材Wに接する面に隙間アダプタ140a,140bが設けられている。隙間アダプタ140は、可動側加熱部110に備えられる隙間アダプタ140aと、細孔付電極134の底部に備えられる隙間アダプタ140bを有する。隙間アダプタ140の具体的な構造は後記する。隙間アダプタ140は、金属や、セラミック等で構成される。
【0033】
(隙間アダプタ140a)
図4は、隙間アダプタ140aの具体的な例を示す図である。図4に示す構造は、隙間アダプタ140bについても同様である。
図4には溝(溝部)143を有する隙間アダプタ140aが示されている。なお、図4に示す例では、可動側加熱部110に、可動側加熱部110を加熱するためのヒータ151(図1参照)が取り付けられるヒータ取付穴142が設けられている。さらに、隙間アダプタ140aと、可動側加熱部110とは、ねじ等の取付部(着脱部)146によって着脱可能である。取付部146は、ねじに限らず、隙間アダプタ140aと、可動側加熱部110とが嵌着することで着脱可能となっていてもよい。
【0034】
また、隙間アダプタ140aには空気口141が設けられている。空気口141は、隙間アダプタ140a及び可動側加熱部110を貫通する孔である。空気口141は、隙間アダプタ140aの溝143に空気を取り込むものである。ここで、空気口141は可動側加熱部110の空気口112と連通している。これによって、隙間アダプタ140aの外部から取り込まれた空気が溝143を満たす。
【0035】
隙間アダプタ140aが細孔付電極134に取り付けられている場合、すなわち、図4に示す隙間アダプタ140aが図3に示す隙間アダプタ140bである場合、空気口141は開口部121と連通する。加熱によって生じた上昇気流によって、隙間アダプタ140aや、隙間アダプタ140bの溝143に貯留している空気が隙間アダプタ140bの空気口141を介して開口部121へ上昇する。これとともに、化学物質の蒸気も開口部121へ上昇する。従って、化学物質の蒸気がイオン化領域133へ導入されやすくなる。加熱による上昇気流によって、隙間アダプタ140aの空気口141から、さらに空気が導入される。
【0036】
ちなみに、隙間アダプタ140a,140bは、前記したように金属や、セラミック等で構成される。
【0037】
隙間アダプタ140aにワイプ材Wが密着しても、空気口141から取り込まれた空気は可動側加熱部110によって温められる。そして、温められた空気が溝143の中を行き渡ることにより、ワイプ材Wを均一に加熱する。
そして、空気口141を介して取り込まれた空気は、ワイプ材Wの加熱により発生した化学物質の蒸気とともに、図3に示す開口部121を介してイオン化領域133に導入される。これによって、気化した化学物質の蒸気は、高効率でイオン化領域133に導入される。
【0038】
図3に示すような構成を有するイオン源100aのクリーニングを行う際、ユーザはイオン源100aの全体を分解する必要はない。イオン源100aのクリーニングを行う際、ユーザは、取付部146によって隙間アダプタ140(140a,140b)だけを取り外し、クリーニングする。又は、ユーザは、新しい隙間アダプタ140(140a,140b)と交換する。
【0039】
(隙間アダプタ140A)
図5は、隙間アダプタ140の別の具体例を示す図である。図5に示す隙間アダプタ140Aは、図3に示す隙間アダプタ140aとしても用いられてもよいし、隙間アダプタ140bとしても用いられてもよい。また、隙間アダプタ140Aも、ねじのような取付部146によって、取り付けられている可動側加熱部110や、細孔付電極134に対して着脱可能である。
【0040】
図5では、土手構造を有する隙間アダプタ140Aが示されている。図5に示すように、隙間アダプタ140Aの外周部には土手部(凸部)144が設けられている。そして、土手部144には凹部145が設けられている。凹部145が、図4における空気口141としての機能を有し、凹部145から空気が取り込まれる。凹部145から取り込まれた空気は、可動側加熱部110によって加熱され、ワイプ材Wを加熱する。図5に示す構造でもワイプ材Wを均一に加熱することができる。つまり、凹部145から取り込まれた空気は、可動側加熱部110によって温められる。温められた空気が、土手部144で囲まれた領域内に行き渡ることでワイプ材Wが均一に加熱される。従って、気化した化学物質の蒸気を効率よくイオン化領域133に導入することができる。
【0041】
なお、図5に示す隙間アダプタ140Aが用いられる場合、凹部145が可動側加熱部110の空気口112の機能を有するため、可動側加熱部110において空気口112が設けられなくてもよい。
【0042】
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態に係るイオン源100bの一部を示す図である。図6では、イオン源100bのうち、可動側加熱部110の周囲のみが示されている。
図6に示す例では、可動側加熱部110においてワイプ材Wに接する面に、多孔質体で構成された隙間アダプタ140cが設けられている。同様に、細孔付電極134の底面(ワイプ材Wに接する面)には多孔質体で構成された隙間アダプタ140cが設けられている。
一般に隙間アダプタ140は、熱伝達のよい金属板で構成されるのが望ましい。しかし、図6に示すような多孔質体で構成された隙間アダプタ140cが用いられてもよい。隙間アダプタ140cは、例えば、セラミック等で構成される。
【0043】
多孔質体で構成されている隙間アダプタ140cがワイプ材Wに押し当てられると、多孔質体に多数設けられている孔から空気が導入され、加熱されている細孔付電極134によって多孔質体の内部で温められる。これにより、第2実施形態と同様、ワイプ材Wの表面を均一に加熱することができる。また、隙間アダプタ140cは全体が多孔質体で構成されているため、隙間アダプタ140140cの全面から空気を取り入れることが可能となる。そのため、多量の空気を取り入れることができる。
【0044】
また、発生した化学物質の蒸気は、多孔質体の孔から細孔付電極134に開口する開口部121を介してイオン化領域133に導入される(白抜矢印A5)。そして、多孔質体そのものが図1及び図3に示すフィルタ122の役目を果たすので、開口部121に取り付けるフィルタ122を省略できる。また、隙間アダプタ140cも、図4に示すような取付部146によって細孔付電極134に対して着脱可能である。あるいは、細孔付電極134と、隙間アダプタ140cとは、互いに嵌設されることにより、細孔付電極134と、隙間アダプタ140cとが着脱可能であってもよい。イオン源100bをクリーニングする際、ユーザは多孔質体で構成される隙間アダプタ140cを新しい隙間アダプタ140cに交換するだけでよい。
【0045】
なお、図6に示す例では、可動側加熱部110の上面(ワイプ材Wの側)、及び、細孔付電極134の底面(ワイプ材Wの側)に多孔質体で構成される隙間アダプタ140cが設けられている。しかし、これに限らず、可動側加熱部110の上面(ワイプ材Wの側)のみに隙間アダプタ140cが設けられてもよい。あるいは、細孔付電極134の底面のみに隙間アダプタ140cが設けられてもよい。
【0046】
[第4実施形態]
(イオン源100c)
図7は、第4実施形態に係るイオン源100cの構成を示す図である。図7において、図1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
化学物質の吸着は、図8に示す配管301の内壁面だけではなく、図8に示すイオン源100Aや、イオン化領域133の内壁面にも生じる。このため、イオン源100Aや、イオン化領域133の温度は、化学物質が熱分解しない範囲で、できる限り高く保つとよい。しかし、一般に細孔付電極134には真空を保持するためのOリングRが取り付けられる。このような場合、OリングRの耐熱性により、細孔付電極134の温度を200℃以上に保つことは避けるのが好ましい。
【0047】
そこで、第4実施形態では、図7に示すように、イオン化領域133の底面を加熱部124としている。可動側加熱部110及び加熱部124はヒータ151によって200℃以上に加熱されている。その上で、加熱部124と細孔付電極134との間が断熱材125により熱的に遮蔽されている。ここで、加熱部124は図9の固定側加熱部220に相当するものである。断熱材125は必ずしも絶縁体である必要はない。
【0048】
図7に示すイオン源100cでも、ワイプ材Wが可動側加熱部110と加熱部124とによって挟み込まれることで、ワイプ材Wが加熱される。加熱によりワイプ材Wから発生する化学物質の蒸気は、加熱部124に設けられている開口部121を介してイオン化領域133に直接導入される。図7に示す構成を有することにより、イオン源100cのうち、細孔付電極134以外の部分が200℃以上の高い温度に設定可能となる。これにより、化学物質の吸着を低減することができる。このように、図7に示すイオン源100cによれば、細孔付電極134と熱的に遮蔽されている加熱部124を設けることにより、細孔付電極134の温度が高熱になることがない。このため、細孔付電極134にOリングR等を設けることが可能となる。
【0049】
また、図7に示すイオン源100cの場合、加熱部124と、対向電極132との間に設けられている絶縁体123aが省略されてもよい。あるいは、絶縁体123aが絶縁断熱材で構成されてもよい。
【0050】
なお、第4実施形態においても、可動側加熱部110や、加熱部124におけるワイプ材Wが接する側には、図3図5に示す隙間アダプタ140や、図6に示す隙間アダプタ140cが設けられてもよい。
【0051】
図3図5に示す隙間アダプタ140,140Aは金属等で構成されていることを想定しているが、これに限らない。例えば、セラミック等で構成されてもよい。
また、駆動部111による可動側加熱部110の駆動は、手動で行われてもよいし、図示しない制御装置によって駆動制御されてもよい。
さらに、本実施形態はイオン源100,100a~100bが危険物を探知するための危険物探知装置1に適用されるものとしている。すなわち、イオン源100,100a~100cでイオン化される化学物質が、麻薬や、爆発物等の危険物であるとしている。しかし、これに限らず、イオン源100,100a~100cでイオン化される化学物質が麻薬や、爆発物等の危険物でなくてもよい。
そして、本実施形態では検査対象物を拭き取り、加熱器200で加熱されるものとして、ワイプ材Wが用いられているが、これに限らず、例えば、綿棒等でもよい。
【0052】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0053】
また、データ処理装置308を構成する各構成、機能、各部等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、データ処理装置308の各構成、機能等は、CPU等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD(Hard Disk)に格納すること以外に、メモリや、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0054】
1,1A 危険物探知装置(分析装置)
100,100A,100a~100c イオン源
110,210 可動側加熱部
111,211 駆動部
112,212 空気口
121 開口部(導入部)
122 フィルタ(フィルタ部)
123,123a 絶縁体
124 加熱部(固定側加熱部)
125 断熱材
131 針電極
132 対向電極
133 イオン化領域(イオン化部)
134 細孔付電極(固定側加熱部、電極)
135 細孔
136 導入部
140,140A,140a~140c 隙間アダプタ(アダプタ部)
141 空気口
142 ヒータ取付穴
143 溝(溝部)
144 土手部(凸部)
145 凹部
146 取付部(着脱部)
151 ヒータ
200 加熱器
220 固定側加熱部
301 配管
302 吸気管
303 吸引ポンプ
304 真空配管
305 真空ポンプ
306 質量分析計(分析部)
307 信号ライン
308 データ処理装置
A1,A2 矢印
A3 白抜上下矢印
A4,A5 白抜矢印
N 一次イオン
R Oリング
W ワイプ材(加熱対象物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10