(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】レニウムを含む超合金から作製されたタービン構成部品及び関連する製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 19/03 20060101AFI20240501BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20240501BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20240501BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C22C19/03 H
F01D5/28
C23C4/06
C23C14/14 D
(21)【出願番号】P 2020521875
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(86)【国際出願番号】 FR2018052584
(87)【国際公開番号】W WO2019077271
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-27
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】306047664
【氏名又は名称】サフラン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザブーンジ,アマール
(72)【発明者】
【氏名】ジャッケ,ビルジニー
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-092168(JP,A)
【文献】特表2012-532249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0044634(US,A1)
【文献】特開2003-183752(JP,A)
【文献】特開2007-186792(JP,A)
【文献】国際公開第2006/104138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/03
F01D 5/28
C23C 4/06
C23C 14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウムを含み、γ-γ’Ni相を有し、平均クロム質量分率が0.08未満である、単結晶ニッケル基超合金の基板(2);
前記基板(2)を覆うニッケル基金属超合金副層(3)
を含み、
前記金属超合金副層(3)が、アルミニウム、ニッケル、クロム、ケイ素、ハフニウムおよび任意選択的にコバルト、モリブデン、タングステン、チタン、タンタルおよび白金から選択される少なくとも1種の元素からなり、およびγ-Ni相
からなる残部とともに、金属超合金副層(3)の全体に基づいて体積で60%から85%のγ’-Ni
3Al相
からなる
ことを特徴とする、タービン構成部品(1)。
【請求項2】
前記基板(2)の平均レニウム質量分率が0.04より大きい、請求項1に記載の構成部品。
【請求項3】
前記副層(3)の平均白金質量分率が0.05未満である、請求項1又は2に記載の構成部品。
【請求項4】
前記副層(3)の平均アルミニウム質量分率が0.06~0.25である、請求項1~3のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項5】
前記副層(3)の平均クロム質量分率が0.07~0.20である、請求項1~4のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項6】
前記副層(3)の平均ハフニウム質量分率が5%未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項7】
前記副層(3)の平均ケイ素質量分率が5%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項8】
前記副層(3)を覆う酸化アルミニウム保護層(4)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項9】
前記保護層(4)を覆う断熱セラミック層(9)を含む、請求項8に記載の構成部品。
【請求項10】
前記副層(3)の厚さが5μm~50μmである、請求項1~9のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項11】
タービン構成部品(1)を製造するための方法であって、アルミニウム、ニッケル、クロム、ケイ素、ハフニウムおよび任意選択的にコバルト、モリブデン、タングステン、チタン、タンタルおよび白金から選択される少なくとも1種の元素からな
るニッケル基金属超合金の副層(3)であって、γ-Ni相
からなる残部とともに、金属超合金の副層(3)の全体に基づいて体積で60%から85%のγ’-Ni
3Al相
からなるニッケル基金属超合金の副層(3)を、レニウムを含み、γ-γ’Ni相を有し、平均クロム質量分率が0.08未満である、単結晶ニッケル基超合金の基板(2)上に真空蒸着するステップを含む、方法。
【請求項12】
前記蒸着が、物理気相成長、溶射、ジュール蒸発、パルスレーザーアブレーション及びスパッタリングから選択される方法によって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記副層(3)が、様々な金属材料の標的を同時噴霧及び/又は同時蒸発することによって蒸着される、請求項11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、航空技術において使用される、タービン翼又はノズルベーンなどのタービン部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボジェットエンジンでは、燃焼室から発生する排気ガスは1200℃、さらには1600℃を上回る高温に達する場合がある。したがって、例えば、タービン翼などのこれらの排気ガスと接触するターボジェットエンジンの部品は、このような高温においてそれらの機械的特性を維持できなければならない。
【0003】
この目的のために、ターボジェットエンジンの特定の部品を「超合金」で製造することが知られている。超合金は、それらの融点に比較的近い温度(典型的にはそれらの溶融温度の0.7~0.8倍)において機能できる、高強度金属合金の部類である。
【0004】
これらの超合金の耐熱性を増大させるため、及びこれらの酸化及び腐食を防止するために、熱障壁として作用する被覆剤で超合金を被覆することが知られている。
【0005】
図1は、タービン構成部品1、例えば、タービン翼6又はノズルベーンの断面の概略図を示す。構成部品1は、熱障壁10で被覆された単結晶金属超合金2で作製された基板2を含む。
【0006】
熱障壁10は、典型的には、金属副層、保護層及び断熱層からなる。金属副層は金属超合金基板を覆う。金属副層自体は、金属副層の酸化によって形成される保護層で覆われる。保護層は、超合金基板の腐食及び/又は酸化を防止する。断熱層は保護層を覆う。断熱層は、セラミック、例えばイットリア化ジルコニアで作製されてもよい。
【0007】
金属副層は、超合金基板の表面と保護層との間に結合をもたらす。金属副層は、「ボンドコート」と称されることもある。
【0008】
副層は、単一のニッケルアルミナイドβ-NiAl又は修飾白金β-NiAlPtから作製されてもよい。副層の平均アルミニウム質量分率(0.35~0.45)は、酸化アルミニウム(Al2O3)の保護層のみを形成して、超合金基板の酸化及び腐食を防止するのに十分である。
【0009】
しかし、構成部品が高温に供されると、超合金基板と金属副層の間のニッケル、特にアルミニウムの濃度の差によって、種々の元素の拡散、特に基板から金属副層へのニッケルの拡散、及び金属副層から超合金へのアルミニウムの拡散が生じる。この現象は「相互拡散」と呼ばれる。
【0010】
相互拡散は、副層と接触する基板の一部分において、一次及び二次反応域(SRZ)の形成をもたらし得る。
【0011】
図2は、基板2に重なる副層3の断面の顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真は、構成部品が、構成部品1の温度動作条件をシミュレートするための一連の熱サイクルに供される前に撮影された。基板2はレニウムに富む、すなわち、レニウムの平均質量分率が0.04より大きい。レニウムを超合金の組成物に使用して、超合金部品の耐クリープ性を増大させることが知られている。また、基板がレニウムに富む場合には、平均クロム質量分率が低い、すなわち0.08未満である超合金を使用して、構造体の耐酸化性及び耐食性を増大させることが知られている。典型的に、基板2はγ-γ’Ni相を有する。基板3は、β-NiAlPt型のものである。基板は、副層3に直接覆われる基板2の一部に、一次相互拡散域5を有する。基板2はまた、一次相互拡散域5が直接重なる二次相互拡散域6を有する。
図2に示される二次相互拡散域の厚さは、およそ35μm、より一般的には20~50μmである。
【0012】
図3は、基板2に重なる副層3の断面の顕微鏡写真である。顕微鏡写真は、上記の一連の熱サイクルに供された後の副層3及び基板2を示す。副層3は基板2を覆う。基板2は、一次相互拡散域5及び二次相互拡散域6を有する。
図3の白色セグメントに表されるように、二次相互拡散域の厚さは局所的に100μmより大きくてもよく、150μmまで厚くしてもよい。
【0013】
レニウムを含有する低クロム超合金をβ-NiAlPt型の副層と組み合わせると、二次反応域が形成される。構成部品1を、例えば1000℃を上回る高温条件に供することによって二次反応域が形成されると、基板2にクラック8及び/又は高い機械的応力が生じ、それによって超合金の機械的特性(クリープ、疲労)が著しく劣化する。
【0014】
したがって、超合金基板と副層の間の相互拡散は、超合金部品の寿命に悪影響を及ぼし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
(発明の要旨)
本発明の目的は、超合金タービン構成部品の酸化及び腐食を効率的に防止するとともに、使用時のその寿命を、公知の構成部品と比較して向上させるための解決法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、本発明において、レニウムを含み、γ-γ’Ni相を有し、平均クロム質量分率が0.08未満である、単結晶ニッケル基超合金で作製された基板、基板を覆うニッケル基金属超合金副層を含み、金属超合金副層が、少なくともアルミニウム、ニッケル、クロム、ケイ素、ハフニウムを含み、体積が主にγ’-Ni3Al相で占められることを特徴とする、タービン構成部品によって達成される。
【0017】
金属副層は基板の構造に近い同素構造を有するため、二次反応域の形成が防止される及び/又は制限される。したがって、例えば、1000℃を上回る高温条件に供される構成部品の基板におけるクラックの形成及び酸化アルミニウムの保護層の剥離が制限されるか、又は防止される。
【0018】
さらに、金属副層は、主にバルクγ’-Ni3Al相で占められる一方でアルミニウムを含むため、金属副層が酸化されて、加工条件下においては、公知の金属副層を使用するよりも長時間にわたって保護アルミニウム層を形成することができる。
【0019】
さらに、タービン構成部品は、以下の特徴を有してもよい:
・副層が、γ-Ni相も有する;
・基板の平均レニウム質量分率が0.04より大きい;
・副層の平均白金質量分率が0~0.05である;
・副層の平均アルミニウム質量分率が0.06~0.25である;
・副層の平均クロム質量分率が0.07~0.20である;
・副層の平均ハフニウム質量分率が5%未満である;
・副層の平均ケイ素質量分率が5%未満である;
・副層が、コバルト、モリブデン、タングステン、チタン及びタンタルから選択される少なくとも1種の元素をさらに含む;
・酸化アルミニウムの保護層が、副層を覆う;
・断熱セラミック層が、保護層を覆う;
・副層の厚さが5μm~50μmである。
【0020】
本発明はさらに、タービン構成部品を製造するための方法であって、体積が主にγ’-Ni3Al相で占められ、任意選択的にγ-Ni相を有する、ニッケル基超合金の副層を、レニウムを含み、γ-γ’Ni相を有する、ニッケル基超合金基板に真空蒸着するステップを含む、方法に関する。
【0021】
蒸着は、物理気相成長、溶射(例えば、高速酸素燃料、すなわちHVOFシステムによる)、ジュール蒸発、パルスレーザーアブレーション及びスパッタリングから選択される方法によって行われてもよい。
【0022】
副層は、異なる金属材料の標的を同時噴霧及び/又は同時蒸発することによって蒸着されてもよい。
【0023】
他の特色及び利点が、単なる例示であり非限定的な、また添付の図面とともに読むべきである以下の説明においてさらに強調される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】タービン構成部品、例えば、タービン翼又はノズルベーンの断面の概略図である。
【
図2】基板に重なる副層の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【
図3】基板に重なる副層3の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態によるタービン構成部品の基板を覆う、熱障壁の断面の概略図である。定義 「超合金」という用語は、酸化、腐食、クリープ及び高温高圧でのサイクル(特に機械的又は熱的)応力に非常に良好な耐性を持つ複合合金を指す。超合金は、それらの融点に比較的近い温度(典型的にはそれらの溶融温度の0.7~0.8倍)において機能できる高強度合金の部類を構成するため、航空技術、例えば、タービン翼に使用される構成部品の製造において特に用途を有する。
【0025】
超合金は、マトリックスを形成する第一の相(「γ相」と呼ぶ)と、マトリックス中で硬化する析出物を形成する第二の相(「γ’相」と呼ぶ)からなる2相微細構造を有してもよい。
【0026】
超合金の「基」は、マトリックスの主要な金属成分である。多くの場合、超合金は鉄、コバルト又はニッケルを基として含むが、チタン又はアルミニウムを基として含むこともある。
【0027】
「ニッケル基超合金」は、耐酸化性、耐高温破壊性及び重量の間の良好な妥協点をもたらすという利点を有するため、ターボジェットエンジンの最も熱くなる構成部品に使用されることは妥当である。
【0028】
ニッケル基超合金は、任意選択的に、α置換の固溶体に添加物(Co、Cr、W、Mo)を含有する、オーステナイト系面心立方γ-Ni型のγ相(又はマトリックス)と、γ’-Ni3X型(X=Al、Ti又はTaである)のγ’相(又は析出物)からなる。γ’相は、面心立方構造から派生した、マトリックスと整合する、すなわちそれに非常に近い原子格子を有する、規則化したL12構造を有する。
【0029】
その規則正しい特徴に起因して、γ’相は、機械的耐性が、約800℃まで温度とともに増大するという顕著な特性を有する。γ相とγ’相の間の非常に強力な整合性は、ニッケル基超合金の非常に高い熱時機械的強度を付与し、この強度自体は、比γ/γ’及び硬化する析出物の大きさに依存する。
【0030】
本発明のすべての実施形態において、超合金は、レニウムに富む、すなわち超合金の平均レニウム質量分率は0.04より大きいため、超合金構成部品の耐クリープ性を、レニウム不含超合金で作製された構成部品と比較して増大させることが可能である。また、本発明のすべての実施形態において、超合金はクロム含有量が低い、すなわち平均クロム質量分率が0.08未満、優先的には0.05未満であるため、超合金にレニウムが存在する場合に、構造体の耐酸化性が増大する。
【0031】
したがって、ニッケル基超合金は、一般的に、700℃までは高く、800℃を超えると急激に機械的強度が低下する。
【0032】
「質量分率」という用語は、元素又は元素群の質量の、総質量に対する比を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図4は、本発明の実施形態による、タービン構成部品1の基板2を覆う、熱障壁10の断面の概略図を示す。
【0034】
図4に示される要素は、独立して、
図1に示されるタービン翼6、ノズルベーン、又はタービンの任意の他の要素、部品若しくは構成部品の要素を表してもよい。
【0035】
基板2は、ニッケル基超合金から形成される。基板2のレニウムの平均質量分率は0.04より大きい、優先的には0.045~0.055である。優先的には、基板のクロムの平均質量分率は低い、すなわち0.08未満、好ましくは0.05未満である。
【0036】
熱障壁10は、金属副層3、保護層4及び断熱層9からなる。
【0037】
基板2は、金属副層3で覆われる。金属副層3は、保護層4で覆われる。保護層4は、断熱層9で覆われる。
【0038】
金属副層3を、基板2の構造に近い同素構造で蒸着することにより、二次反応域の形成が防止される。特に、蒸着した副層3は、基板同様にγ相及びγ’相を有する。
【0039】
副層3はアルミノ形成組成を有するため、構成部品は耐酸化性及び耐食性である。特に、副層3の体積の大部分はγ’-Ni3Al相である。優先的には、副層3はγ-Ni相も有する。したがって、副層3は、基板2の構造に近い構造を示すとともに、アルミニウムの余裕量を含むため、大部分が、アルミニウム質量分率がより低いγ-Ni相である副層よりも長時間にわたって、酸化して酸化アルミニウムの保護層4を形成することができる。優先的には、アルミニウム副層3の平均質量分率は0.06~0.25、優先的には0.06~0.12である。
【0040】
以下の表1は、ニッケル基超合金副層3の組成例を示す。様々な組成をA~Cの文字で表記する。また、副層3のγ相についての体積分率(%)及び副層3のγ’相についての体積分率を、1000℃で熱処理した副層3について記載する。
【0041】
【0042】
組成Aは、NiCrAlHfSiPt型の副層3に対応し、大部分を占めるγ’-Ni3Al相及びγ-Ni相を有する。組成Bは、NiCrAlHfSi型の副層3に対応し、大部分を占めるγ’-Ni3Al相及び優先的にはγ-Ni相を有する。1100℃で熱処理された副層3では、γ相を表す副層3の体積分率は40体積%であり、γ’相を表す副層3の体積分率は60体積%である。組成Cは、NiCrAlHfSi型の副層3に対応し、大部分を占めるγ’-Ni3Al相及びγ-Ni相を有する。
【0043】
一般的に、副層3は、優先的には、平均白金質量分率が0.02未満である及び/又は平均クロム質量分率が0.07~0.17である。これにより、構成部品の耐酸化性が増大する。
【0044】
副層3は、真空下で、例えば物理気相成長(PVD)によって蒸着してもよい。様々なPVD法、例えばスパッタリング、ジュール蒸発、レーザーアブレーション及び電子ビーム物理気相成長を、副層3の製造に使用することができる。副層3は、溶射によって蒸着されてもよい。
【0045】
したがって、副層3は、基板2に白金などの化学元素を拡散させて副層を形成する方法を使用することなく、基板2に蒸着し得る。こうした蒸着法はまた、基板2上に副層3を形成することを容易にし、副層3の化学組成の制御を向上させることができる。さらに、こうした蒸着法は、公知の方法とは反対に、γ’-Ni3Al相を含む、任意選択的にγ-Ni相を含む副層3の蒸着を可能とする。
【0046】
副層3を蒸着させるときに、様々な金属材料の複数の標的を、同時に並行して使用することができる。この種の蒸着は、同時蒸発又は同時スパッタリングによって行うことができる。このとき、副層3の蒸着時にそれぞれの標的に課される蒸発又はスパッタリングのそれぞれの速度により、前記層の化学量論が決定される。