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特許7481256セラミックマトリックス複合体を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】セラミックマトリックス複合体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20240501BHJP
   B28B 1/50 20060101ALI20240501BHJP
   B29B 15/14 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C04B35/80 300
B28B1/50
B29B15/14
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020539741
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 US2019013935
(87)【国際公開番号】W WO2019143768
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】62/619,198
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508135080
【氏名又は名称】アルバニー エンジニアード コンポジッツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ タガート
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0341263(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0320785(US,A1)
【文献】特開昭63-288974(JP,A)
【文献】特開平02-141481(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101880172(CN,A)
【文献】特開2003-147495(JP,A)
【文献】特開2000-185977(JP,A)
【文献】特開平02-167343(JP,A)
【文献】特表2016-504265(JP,A)
【文献】特表2004-510674(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0096619(US,A1)
【文献】米国特許第05853653(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84、41/80-41/91
B28B 1/00-1/50
B29B 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックマトリックス複合体を製造する方法であって、
注入ツールに空洞を設けること
注入ツールの空洞中にプリフォームを配置すること;
注入ツールの空洞中で、溶媒、マトリックスバインダー及び固体粒子を有するスラリーをプリフォームに浸透させること;
注入ツールを加熱して、それによって、溶媒の沸点より高く、マトリックスバインダーの沸点より低い温度にプリフォームを加熱して、溶媒を蒸発させ、蒸発した溶媒を排出することによって、マトリックスバインダーを完全には硬化させずに、少なくとも幾らかの溶媒を除去すること;
得られたプリフォームが所望の特性を達成するまで、浸透及び溶媒の除去を繰り返すこと;並びに
所望の特性が達成された後に、注入ツール及びプリフォームを、プリフォーム中のマトリックスバインダーを完全に硬化するのに十分な温度に加熱することによって、注入ツール中のマトリックスバインダーを硬化すること、
を含み、所望の特性は、密度及び空隙率からなる群から選択される少なくとも1つであり、
溶媒が、イソプロピルアルコール、アセトン及び水からなる群から選択され、
マトリックスバインダーが、シラン及びケイ酸アルミニウムからなる群から選択され、
固体粒子が、酸化物セラミック材料及び二酸化ケイ素からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
少なくとも幾らかの溶媒を除去することが、溶媒とマトリックスバインダー間の蒸気圧における違いを利用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも幾らかの溶媒を除去することが、真空を適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶媒がイソプロピルアルコール又はアセトンであり;
マトリックスバインダーがシランであり;
固体粒子が酸化物セラミック材料である、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
固体粒子が1nm~1000nmの粒度分布を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
スラリーが、50wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~50wt%の溶媒を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
スラリーが、75wt%~81wt%の固体粒子及び19wt%~25wt%の溶媒を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
酸化物セラミック材料が、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム及びイットリア安定化ジルコニアからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
プリフォームを焼結することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
溶媒が水であり;
マトリックスバインダーがシランであり;
固体粒子が二酸化ケイ素である、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
固体粒子が1nm~1000nmの粒度分布を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
スラリーが、50wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~50wt%の溶媒を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
スラリーが、75wt%~81wt%の固体粒子及び19wt%~25wt%の溶媒を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
固体粒子がコロイダルシリカである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
プリフォームを焼結することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
固体粒子が1nm~1000nmの粒度分布を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
スラリーが、50wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~50wt%の溶媒を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
スラリーが、55wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~45wt%の溶媒を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
スラリーが、75wt%~81wt%の固体粒子及び19wt%~25wt%の溶媒を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
プリフォームの様式が、2次元(2D)乾燥繊維(又はプリプレグ)レイアップ、2D織物のラミネートレイアップ、ピンガイド繊維配置によって作り出されたプリフォーム、3次元(3D)織物プリフォーム及び編組プリフォームからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックマトリックス複合体を製造する方法に関する。特に、本開示は、複合体のプリフォームへの、マトリックス材料の浸透に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックマトリックス複合体(CMC)は、複合体材料の下位群、並びにセラミックの下位群である。CMCは、セラミック繊維に強化されたセラミック材料を形成するためにセラミックマトリックス中に埋め込まれたセラミック繊維を有する。マトリックス及び繊維は、任意のセラミック材料又は炭素及び炭素繊維を含む場合がある。
【0003】
酸化物セラミック材料は2つのカテゴリー、モノリシック酸化物セラミック及び酸化物セラミックマトリックス複合体(CMC)に分類される。モノリシック酸化物セラミック材料は、1600℃超で、ホットプレス及び焼結された純粋な酸化物セラミック粉末から構成される。酸化物CMCは、酸化物セラミック繊維を用いて強化された酸化物セラミックマトリックスから構成される。酸化物繊維は、モノリシックに対して改善された機械的性質を提示する。繊維強化の繊細な性状のために、酸化物CMCは、典型的には、酸化物繊維/織物のいずれかの上に被覆された液体スラリーを使用する(予備含浸(「プリプレグ」)等)か、又は酸化物繊維プリフォーム中への液体浸透を使用して(ゾル-ゲル法等)製造される。
【0004】
炭素(C)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al23)及びムライト(Al23-SiO2)繊維が、通常、CMCのために使用される。粒子(「ウィスカー」又は「プレートレット」といわれる)がマトリックス中に埋め込まれる。マトリックス材料はC、SiC、アルミナ及びムライトを含む。
【0005】
製造プロセスは、通例、3つの工程:
(1)所望の形のプリフォームへの、繊維のレイアップ及び固定;
(2)マトリックス材料の浸透;並びに
(3)最終機械加工、及び、要求される場合には、被覆又は含浸等をして空隙を減少させるさらなる処理、
からなる。
【0006】
酸化物CMCの多くは2次元(2D)複数プライのレイアップである。これは、典型的には、バインダーを含有する溶媒和酸化アルミニウムマトリックススラリーを用いて、乾燥織物をプリプレグすることによって行われる。すなわち、スラリーは溶媒、マトリックスバインダー及び粒子を含有する。マトリックスは、熱硬化性であり、続く処理の間の容易な取り扱いを可能とするために一部のみ硬化される。プリプレグされた酸化物CMCは、後に、マトリックス材料を十分に硬化する温度にさらされる。
【0007】
次いで、酸化物CMC複合体のためのプライは、プリプレグされた織物から切り取られ、(オートクレーブ処理のために)真空バッグ中にレイアップされるか、又は圧縮のためにプレス処理される。これが行われた後、オーブン硬化及び焼結処理工程が実施され、プロセスを完了する。追加の高密度化が所望される場合には、通例、20wt%~60wt%の固体を含有する種々の希釈スラリーを用いて真空浸透がなされ、硬質化された酸化物CMCを通る浸透を改善する。
【0008】
別の通常の処理方法は、乾燥2Dプライ又は3次元(3D)プリフォームの積層物をレイアップし、酸化アルミニウムスラリーを浸透するものである。この手法において、乾燥プライは、2枚のツーリングプレート(プラテン)の間に積層され、高い固体含有量、しばしば75wt%以上の固体、を含有する酸化物スラリー配合物を用いて、スラリー浴中で、浸透される。この後、硬化工程及び焼結工程が行われる。その後は、酸化物CMCは、硬質化され、自立性である(もはやツール中にある必要がないことを意味する)。
【0009】
硬化/焼結された、自立性酸化物CMCは、追加の連続(1回又は複数回の)浸漬によって再浸透される場合があり、ここで、浸漬は酸化物CMCのスラリー浴中での浸漬であり、スラリー浴は低い質量分率の酸化物固体を含有する酸化物スラリー配合物を有する。この後、再び、硬化工程及び焼結が行われる。次いで、再浸透及び硬化/焼結工程は、所望の密度及び空隙率が達成されるまで、より希釈されたスラリーを用いて(浸透を改善するため)繰り返される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの方法を使用する酸化物CMCは、複雑な形状を有する複合体において、実行するには時間がかかる場合があり、実行することが困難である場合がある。2D酸化アルミニウムをプリプレグする手法については、幾つかの重大な難点が存在する。それらは、次のことを含む。
・(浸透されたサブミクロンサイズの粒子に起因して)しばしば酸化物プリプレグが乏しい形状追従性を有し、しばしば乏しい流動特性を有するので、酸化物CMCプリプレグを用いて複雑な形をレイアップすることは非常に困難な場合がある。
・鋭い半径又は鋭いエッジの周りにプライを形成すること、とりわけ軸外れプライを使用することは、プライ中にしわ又は他の異常を引き起こさずに達成することが非常に困難である場合がある。
・とりわけ軸外れプライを使用する場合、複雑な部品のためのプライキットは非常に大規模である(多数の異なるサイズ及び外形のプライ)場合がある。これは組み立てに時間がかかる場合があり、人的レイアップの誤りをもたらす場合がある。
・プライのレイアップ、真空袋詰め及びオートクレーブサイクルは、時間がかかり、かつ多くの人手を要する場合がある。
【0011】
加えて、スラリー浸透もまた難点を有し、それらは次のことを含む。
・追加のスラリー浸透は、外表面を封鎖し、CMCのアクセスできない内部空隙を作り出す場合がある。すなわち、後の処理サイクルにおいて、CMCの中央に、スラリー粒子が満足には浸透しない場合がある。CMC外表面は低空隙率であるとともに高密度となり、依然として多孔性の領域を有するCMCの中央へ、マトリックスを浸透させない場合がある。機械加工等の追加の処理工程が、内部の多孔性の領域をアクセス可能にするのに、必要となる場合がある。
・浴中の追加のスラリー浸透は、所望しない位置におけるマトリックスの発達をもたらす場合があり、それは酸化物CMCの寸法公差を維持するために最終機械加工を必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、セラミックマトリックス複合体を製造する方法であって、溶媒、マトリックスバインダー及び粒子を有するスラリーを織物プリフォームに浸透させることを含む方法を説明する。少なくとも幾らかの溶媒は、マトリックスバインダーを硬化させずに除去される。浸透及び溶媒除去は、プリフォームの所望の特性が達成されるまで繰り返される。所望の特性は、典型的には、密度、空隙率及び繊維体積率からなる群から選択される少なくとも1つである。所望の特性が達成された後、スラリーが硬化され、プリフォームが焼結される。
【0013】
ある実施態様において、少なくとも幾らかの溶媒は、溶媒とマトリックスバインダー間の化学的又は物理的性質における違い、例えば沸点温度又は蒸気圧であるがそれらに限定されない違い、を利用することによって除去される。
【0014】
ある実施において、溶媒の沸点より高く、マトリックスバインダーの沸点より低い温度にプリフォームを加熱して、溶媒を蒸発させ、次いで、スラリーがプリフォーム中に浸透され、蒸発した溶媒が排出される。特定の実施において、溶媒はイソプロピルアルコール又はアセトンであり、マトリックスバインダーはケイ酸アルミニウム又はシランであり、固体粒子は酸化物セラミック材料である。
【0015】
特定の実施態様において、マトリックスバインダーとの組み合わせにおいて、溶媒は水であってよく、粒子は二酸化ケイ素であってよいと考えられる。より詳細には、特定の実施態様において、粒子はコロイダルシリカであってよい。
【0016】
幾つかの実施において、固体粒子は1nm~1000nmの粒度分布を有する。幾つかの実施において、スラリーは、50wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~50wt%の溶媒を有する。特に、幾つかの実施において、スラリーは、75wt%~81wt%の固体粒子及び19wt%~25wt%の溶媒を有する。
【0017】
幾つかの実施態様において、酸化物セラミック材料は、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム及びイットリア安定化ジルコニアからなる群から選択される。
【0018】
添付図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれており、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成している。ここに示される図面は、本発明の異なる実施態様を例示し、本明細書とともに本発明の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】スラリー浸透によるCMCの高密度化のために一般化された系の配置を例示する。
図2】開示される方法の実施のフローチャートである。
図3】3D繊維構造体の様々な様式を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示中の用語「含んでいる」(原文中”comprising”)及び「含む」(原文中”comprises”)は、「含んでいる」(原文中”including”)及び「含む」(原文中”includes”)を意味することができる。本発明の他の態様は、以下の開示(及び本発明の範囲内)において説明されるか、又はそれから自明(及び本発明の範囲内)である。
【0021】
用語「糸」(原文中”threads”)、「繊維」(原文中”fibers”)、「トウ」(原文中”tows”)及び「糸(ヤーン)」(原文中”yarns”)は、以下の説明において、互換的に使用される。本明細書中で使用される「糸」、「繊維」、「トウ」及び「糸(ヤーン)」は、モノフィラメント、マルチフィラメント糸(ヤーン)、より糸(ヤーン)、マルチフィラメントトウ、加工糸(ヤーン)、編組トウ、被覆糸(ヤーン)、2成分糸(ヤーン)、並びに当業者にとって公知である任意の材料の牽切加工繊維から作られる糸(ヤーン)をいう場合がある。糸(ヤーン)は、炭素、ナイロン、レーヨン、ガラス繊維、綿糸、セラミック、アラミド、ポリエステル、金属、ポリエチレンガラス、及び/又は所望の物理的、熱的、化学的若しくは他の性質を示す他の材料から作られてよい。
【0022】
「スラリー」は液体キャリア(溶媒)中の固体(例えばセラミック粒子等の粒子)の分散体を意味し、例えばバインダー、界面活性剤、分散剤等の添加物もまた含有してよい。
【0023】
「CMC」はセラミックマトリックス複合体を意味する。CMCの下位範疇は「酸化物CMC」を含む。
【0024】
本発明、その利用によって達せられるその利点及び目的のよりいっそうの理解のために、添付の説明事項が参照され、本発明の非限定的実施態様が添付の図面中に例示され、同一の符号によって対応する構成要素が同定される。
【0025】
本開示は、プリフォーム/成形ツール(互換的に、「ツール」及び「注入ツール」ともいわれる)中における、プリフォームのスラリー浸透によって、セラミックマトリックス複合体を製造する方法に向けたものであり、ここでプリフォームは、例えば2D織物のラミネートレイアップ、ピンガイド繊維配置によって作り出されたプリフォーム、3D織物プリフォーム、又は編組プリフォーム(以降、繊維プリフォームの様式は、用語「プリフォーム」及び「繊維プリフォーム」の中に含まれる)である。本方法の特徴は、バインダーを完全に硬化又は固定させることなく、注入ツールからスラリー溶媒を除去することである。
【0026】
本方法は、溶媒とバインダー間の化学的又は物理的性質の違いを活用又は利用する。性質の違いを使用することで、溶媒を除去してバインダーを完全には硬化させないプロセスは、結果として得られるCMCの密度、空隙率及び繊維体積率のより良好な制御を可能とすることができる。未硬化バインダーは、粒子/バインダーが型の中で流動することを可能とし、それにより設計因子、例えば最終的なCMCの設計因子、例えば密度、空隙率及び繊維体積率の操作が可能となる。
【0027】
浸透
幾つかの実施態様において、この処理で使用される注入スラリーは、酸化物セラミック材料、マトリックスバインダー(「バインダー」)及び溶媒を含み、酸化物セラミック材料は酸化アルミニウム粒子又はイットリア安定化ジルコニア(YSZ又はZrO2)を含む。スラリー中の粒子は、典型的には、1nm~1000nmの粒度分布を有するサブミクロンの粉砕された粒子である。ある実施態様において、粒子は二酸化ケイ素であってよく、特定の実施態様において、コロイダルシリカ粒子であってよい。スラリーは、50wt%~85wt%の固体及び15wt%~50wt%の溶媒を有することができる。55wt%~85wt%の固体及び15wt%~45wt%の溶媒を有するスラリーは、50wt%~54wt%の固体を使用するよりも、より良い時間効率であることができる。60wt%~75wt%の固体及び25wt%~40wt%の溶媒を有するスラリーを使用できることが期待される。特定の実施において、酸化アルミニウムスラリーは、75wt%~81wt%の固体及び19wt%~25wt%の溶媒を有する。
【0028】
使用されるバインダーは、ケイ酸アルミニウム、シラン又は他の一般に公知であるマトリックスバインダーであってよい。使用される溶媒は高揮発性溶媒、例えばイソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、又は類似のものである。「高揮発性」は、マトリックスバインダーよりも高揮発性であることを意味する。幾つかの実施態様において、溶媒は水であってよい。
【0029】
従って、CMCは3つの構成要素:(1)溶媒、(2)マトリックスバインダー、及び(3)粒子を含む。CMCは3つの構成要素の任意の組み合わせを含む。例えば、溶媒は、イソプロピルアルコール、アセトン又は水の任意のものであってよく;マトリックスバインダーは、ケイ酸アルミニウム、シラン、又は他の一般に公知であるマトリックスバインダーの任意のものであってよく;粒子は、酸化アルミニウム粒子又はイットリア安定化ジルコニア(YSZ又はZrO2)を含むセラミック材料であるか、又は二酸化ケイ素(コロイダルシリカを含む)であってよい。これらの構成要素それぞれは、先述のように説明される通りに特徴づけられることができる。
【0030】
繊維プリフォーム
2D織物乾燥繊維(又はプリプレグ)レイアップ、3次元(3D)織物プリフォーム、ピンガイド繊維配置によって作り出されたプリフォーム、編組プリフォーム、又は他のプリフォームは、酸化アルミニウム繊維を用いて製造することができる。2D構造は、0°/90°、0°/-45°/90°/45°又はそれらの任意の組み合わせを含むラミネート構造プライレイアップスケジュールを有することができる。「0°/90°」レイアップスケジュールは、連続層中で、専断的な基準面に関して、0°と90°の間で縦糸が互い違いになることを意味する。「0°/-45°/45°/90°」レイアップスケジュールは、連続層中で、専断的な基準面に関して、前記縦糸の角を提供する。同様に、0°/-60°/90°/60°レイアップを使用することができる。
【0031】
幾つかの実施例において、プリフォームは製造される物品のニアネットシェイプ技術である。すなわち、プリフォームは所望の最終(ネット)形に非常に近く、表面仕上げ、機械加工又は研磨、及び/又は浪費のための要求を減少させることができる。さらに、処理時間を減少させることができる。
【0032】
3D繊維構造は、図3中に示す通り、直行310、プライ-プライ320又は角インターロック330のいずれかであってよい。縦及び横(fill)方向における繊維体積は、用途に応じて変えることができる。酸化アルミニウム繊維は、例えば任意の3M(登録商標)Nextel(登録商標)繊維グレード及び任意のデニール、又は他の類似の繊維であってよい。
【0033】
ツール及び装置
図1は、酸化物CMCを製造するための本方法を実施するために使用することができる、マトリックス浸透系の単純化した図を例示している。系は、マトリックススラリーを提供するためのマトリックス入口105、並びにプリフォーム(図示されていない)からマトリックススラリー及び特にスラリーの溶媒を除去するためのマトリックス出口110を含む。プリフォームは注入ツール115の空洞中に配置され、空洞はプリフォームに対して補完する形状を有する。空洞をさらすことを可能とするために、注入ツールは、プリフォームを収容するための少なくとも2つの部品中にある。
【0034】
注入ツール115の部品は、上部プラテン120a及び下部プラテン120bを有するツールプレス装置によって結束することができる。プラテン120a、120bは、マトリックススラリーの浸透の圧力に反して、注入ツールの部品を結束する目的に供する。注入ツールに熱を適用するための加熱装置(図示されていない)は、ツールプレス装置の一部であるか、又は分離していてよい。
【0035】
マトリックス入口105は、陽圧下で、管130を通して、注入ツール115の1つ又は複数の入口ポート135へ、マトリックススラリーを供給するためのシリンダー注入装置125を含む。弁160は、プリフォームの高密度化中に溶媒が除去されるとき、プリフォーム中への流動を抑制するために提供することができる。マトリックス出口110は、マトリックストラップ145及び管155を通して、注入ツール115の1つ又は複数の出口ポート140へ、陰圧を提供するための真空ポンプ150を含む。
【0036】
1つ又は複数の入口ポート135においてマトリックススラリーに適用される陽圧であって、1つ又は複数の出口ポート140において適用される陰圧に結合される陽圧は、浸透中の、プリフォームの全体にわたる、マトリックススラリーの平均的分配を補助することができる。マトリックストラップ145は、スラリー浸透中に1つ又は複数の出口ポート140から出ていく余剰のスラリーを捕捉することができる。1つ又は複数の出口ポート140適用される陰圧もまた、プリフォームの高密度化のための溶媒を排出することができる。
【0037】
使用中、弁160は開いていて、陽圧下で、シリンダー注入装置から注入ツール中のプリフォームへ、マトリックススラリーを提供することを可能とする。真空ポンプによって陰圧を適用することができ、プリフォーム全体を通してマトリックススラリーの排出を補助する。注入ツールを出ていくスラリーは、スラリーがプリフォームに浸透したことの示唆を可能とする。注入ツールを出ていく余剰のスラリーは、トラップによって捕捉することができる。
【0038】
弁160は、プリフォームの高密度化中、閉塞することができる。プロセスのこの部分において、溶媒はマトリックススラリーから分離されていて、1つ又は複数の出口ポートに適用される陰圧によって、注入ツールから排出される。スラリー中の固体酸化物粒子及びバインダーは、プリフォームの間隙中に残存し、そのためにプリフォームをより高密度にする。
【0039】
プロセス
図2は、本開示によって酸化物CMCを製造する方法についてのフローチャート200を例示している。2D織物ラミネートレイアップ、3D織物プリフォーム、ピンガイド繊維配置によって作り出されたプリフォーム、編組プリフォーム又は他のプリフォーム(一般に「プリフォーム」)は、当業者にとって公知の技術によって調製される210。
【0040】
工程220において、プリフォームは注入ツール中、例えば樹脂トランスファー成形ツール中に配置され、次いで、注入ツールは注入ツールプレス装置230中に積載され、注入ツールプレス装置230は続くツールへの圧力の適用中にツールを結束するために、注入ツールに圧力を適用する。
【0041】
注入ツール及びプレス装置中のプリフォームは、工程240、242、244、246、248及び250において、1回目のスラリー浸透を受ける。工程240において、陽圧で、注入ツールの入口ポート中に及びツール中のプリフォーム中に、スラリーが注入される。陰圧又は真空圧を242に適用することができ、プリフォームを通したスラリーの平均的分散を補助する。
【0042】
特定の実施において、スラリーは、サブミクロンの酸化アルミニウム粒子及びシランバインダーから構成されるIPA溶媒和混合物である。プリフォームは、例えば、8.56”×8.56”×0.938”(21.7cm×21.7cm×2.4cm)の公称サイズを有する航空機アンテナ窓ハウジングである場合がある。200psi~250psi(10340mmHg~12930mmHg)の圧力、及び約50cc/minの流束で、注入ツール中にスラリーを注入することができる。上の航空機アンテナ窓ハウジングの例に加えて、酸化物CMCは他の用途、タービン排気構造体、レドーム、ミサイル、人工衛星及び他の高温環境用途を含む用途、における使用法を見出す。
【0043】
次いで、注入ツールにおけるスラリーの圧力が開放され、射出成形ツールを加熱することによって、プリフォーム中のスラリーに熱が加えられる244。スラリーが所定の温度に達するとき、溶媒除去工程246が開始されて、プリフォームから溶媒を排出する。真空ポンプを使用することができ、溶媒の排出を補助するために、注入ツールの出口ポートに陰圧を適用する。溶媒の除去の後、熱が除去され、工程248において注入ツールを冷却することができる。スラリーからの溶媒の除去は、プリフォームの間隙中にスラリーの固体酸化物粒子を残らせ、そのためにプリフォームをより高密度にする。
【0044】
マトリックスバインダーを完全に硬化させずに溶媒を除去することは、溶媒とバインダー間の異なる物理的性質を使用することで可能となる。物理的性質の違いは、異なる沸点、状態図、蒸気圧式及び曲線、反応性、並びにそのようなものを含む。すなわち、バインダーは「Bステージ」(原文中”B-staged”)である。「Bステージ」(原文中”B-staging”)は接着剤から少なくとも幾らかの溶媒を除去する処理であり、それによって構造は、部分的にのみ硬化された固体を意味する「ステージ」(原文中”staged”)であることができる。
【0045】
特定の実施において、溶媒とマトリックスバインダー間の沸点の違いを使用することができ、溶媒をボイルオフするが、マトリックスバインダーの硬化を回避する。1つの実施例において、スラリーは、サブミクロンの酸化アルミニウム粒子及びシランバインダーから構成されるIPA溶媒和混合物である。この実施例において、熱を加えて、スラリーの温度を大気圧でのIPAの沸点180oF(82.5℃)に上げ、それはシランバインダーの硬化温度250oF(121.1℃)より低い。従って、約180oFへのスラリー温度の上昇は、シランマトリックスバインダーを硬化させることなく、IPA溶媒のボイルオフ又は蒸発をもたらす。蒸発した溶媒を排出するために、真空吸引圧力を注入ツールに適用することができる。例えば、20inHg(508mmHg)の吸引圧力を使用することができる。
【0046】
溶媒の除去は、プリフォーム中に自由/開放空隙を作り出すことができる。すなわち、プリフォーム中の開放体積は、プリフォーム中でバインダーから溶媒を除去することによって作り出される。例えば、スラリーが80wt%の固体及び20wt%の溶媒である場合、除去された溶媒は、幾らかの空隙をプリフォーム中に残存させる。
【0047】
工程250において、酸化物CMCが所望の密度、空隙率及び/又は繊維体積率を有するか否かの判定がされる。酸化物CMCが所望の密度、空隙率及び/又は繊維体積率を有さない場合、工程240~250に従って、同一の又は異なるスラリー配合物を用いて、2回目のスラリー浸透を実施することができる。
【0048】
2回目の浸透において、1回目の溶媒除去から作り出されたプリフォーム中の開放体積が、スラリーによって充填される。次いで、要求される場合は、2回目の浸透は溶媒が取り除き、追加の浸透のための自由/開放空隙を作り出す。これは所望のCMC密度、空隙率及び/又は繊維体積率が達成されるまで繰り返される。
【0049】
特定の実施において、1回目の浸透と同一のスラリー配合物が使用される。この実施において、希釈又は代わりのスラリー配合物は必要ない。上で検討された実施のように、航空機アンテナ窓ハウジングの1回目の浸透において、200psi~250psi(10340mmHg~12930mmHg)の圧力、及び約50cc/minの流速で、スラリーを注入型中に注入することができる。通常、2回目の浸透におけるスラリーの体積は、1回目の浸透におけるものよりも小さい。
【0050】
浸透の完了の後、注入ツール及びプリフォームは、プリフォーム中のマトリックスバインダーを硬化する温度に加熱される252。マトリックスバインダーの硬化の後、熱が注入ツールから除去され、工程254でツールを冷却することができる。注入ツールは、プレス装置から除去される256。次いで、CMCは型から取り出され(すなわち、注入ツールから除去され)258、焼結される260。典型的な焼結温度は1000℃~1200℃である。
【0051】
他の実施態様は以下の特許請求の範囲内である。
本発明の実施形態としては、以下の実施形態を挙げることができる。
(付記1)
セラミックマトリックス複合体を製造する方法であって、
溶媒、マトリックスバインダー及び固体粒子を有するスラリーをプリフォームに浸透させること;
マトリックスバインダーを硬化させずに、少なくとも幾らかの溶媒を除去すること;並びに
プリフォームの所望の特性が達成されるまで、浸透及び溶媒の除去を繰り返すこと、
を含み、所望の特性は、密度、空隙率及び繊維体積率からなる群から選択される少なくとも1つである、方法。
(付記2)
少なくとも幾らかの溶媒を除去することが、溶媒とマトリックスバインダー間の化学的又は物理的性質における違いを利用することを含む、付記1に記載の方法。
(付記3)
化学的又は物理的性質が沸点温度である、付記2に記載の方法。
(付記4)
化学的又は物理的性質が蒸気圧である、付記2に記載の方法。
(付記5)
スラリーをプリフォームに浸透させること;
溶媒の沸点より高く、マトリックスバインダーの沸点より低い温度にプリフォームを加熱して、溶媒を蒸発させること;及び
蒸発した溶媒を排出すること、
を含む、付記3に記載の方法。
(付記6)
溶媒がイソプロピルアルコール又はアセトンであり;
マトリックスバインダーがケイ酸アルミニウム又はシランであり;
固体粒子が酸化物セラミック材料である、
付記5に記載の方法。
(付記7)
固体粒子が1nm~1000nmの粒度分布を有する、付記6に記載の方法。
(付記8)
スラリーが、50wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~50wt%の溶媒を有する、付記7に記載の方法。
(付記9)
スラリーが、75wt%~81wt%の固体粒子及び19wt%~25wt%の溶媒を有する、付記8に記載の方法。
(付記10)
酸化物セラミック材料が、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム及びイットリア安定化ジルコニアからなる群から選択される、付記8に記載の方法。
(付記11)
所望の特性が達成された後にスラリーを硬化すること;及び
プリフォームを焼結すること、
を含む、付記1に記載の方法。
(付記12)
溶媒が水であり;
マトリックスバインダーがケイ酸アルミニウム又はシランであり;
固体粒子が二酸化ケイ素である、
付記5に記載の方法。
(付記13)
固体粒子が1nm~1000nmの粒度分布を有する、付記12に記載の方法。
(付記14)
スラリーが、50wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~50wt%の溶媒を有する、付記13に記載の方法。
(付記15)
スラリーが、75wt%~81wt%の固体粒子及び19wt%~25wt%の溶媒を有する、付記14に記載の方法。
(付記16)
固体粒子がコロイダルシリカである、付記12に記載の方法。
(付記17)
所望の特性が達成された後にスラリーを硬化すること;及び
プリフォームを焼結すること、
を含む、付記12に記載の方法。
(付記18)
固体粒子が1nm~1000nmの粒度分布を有する、付記1に記載の方法。
(付記19)
スラリーが、50wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~50wt%の溶媒を有する、付記1に記載の方法。
(付記20)
スラリーが、55wt%~85wt%の固体粒子及び15wt%~45wt%の溶媒を有する、付記19に記載の方法。
(付記21)
スラリーが、75wt%~81wt%の固体粒子及び19wt%~25wt%の溶媒を有する、付記20に記載の方法。
(付記22)
プリフォームの様式が、2次元(2D)乾燥繊維(又はプリプレグ)レイアップ、2D織物のラミネートレイアップ、ピンガイド繊維配置によって作り出されたプリフォーム、3次元(3D)織物プリフォーム及び編組プリフォームからなる群から選択される、付記1に記載の方法。
図1
図2
図3