(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】腱治癒に対するPEDF由来短鎖ペプチドの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20240501BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20240501BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20240501BHJP
C07K 14/475 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
A61K38/10
A61K38/18
A61P19/04 ZNA
C07K14/475
(21)【出願番号】P 2020554857
(86)(22)【出願日】2019-04-08
(86)【国際出願番号】 US2019026307
(87)【国際公開番号】W WO2019199661
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-05
(32)【優先日】2018-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519124338
【氏名又は名称】ブリム バイオテクノロジー インク
【氏名又は名称原語表記】BRIM BIOTECHNOLOGY, INC.
【住所又は居所原語表記】8F, No.1, Alley 30, Lane 358 Ruiguang Rd., Neihu Dist. Taipei, 11492 (TW)
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】リー フランク ウェン-チー
(72)【発明者】
【氏名】リー ユァン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ ヨウ-ピン
(72)【発明者】
【氏名】ホ ツォン‐チュアン
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEDF由来短鎖ペプチド(PDSP)、または前記PDSPの変異体を含む、腱損傷の治療に使用するための医薬組成物であって、
前記PDSP、または前記PDSPの変異体が、14-29アミノ酸長を有し、
S-X-X-A-X-Q/H-X-X-X-X-I/V-I-X-R(配列番号5)の配列からなるヒト色素上皮由来因子(PEDF
)由来コアペプチドフラグメントを有し、前記PEDF由来コアペプチドフラグメントのC末端及びN末端のいずれか又は両方にはPEDFに由来しない延長部分が付加してもよ
い
医薬組成物。
【請求項2】
前記
PEDF由来コアペプチドフラグメントが、SLGAEQRTESIIHR(配列番号2)の配列
からなる
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記
PEDF由来コアペプチドフラグメントが、配列番号6~75のいずれか1つの配列の配列
からなる
請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEDF由来ペプチド、および損傷後の腱治癒に対するそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腱は密な結合組織を含み、体の動きの制御に重要な、骨への筋力の伝達を実行する。腱の損傷は一般的であり、多くの場合、腱を過度に伸ばすことによって引き起こされる。しかし、腱は、その無血管性および無細胞性(acellularity)のために、重度の損傷後の自己治癒能力が限られている。他のタイプの結合組織とは異なり、腱の損傷部位に骨髄間葉系間質細胞(BM-MSC)を動員することは困難である。したがって、腱の修復は遅く、比較的困難なプロセスである。
【0003】
近年、腱の再生および修復を加速するために、細胞療法に基づくアプローチを採用するための集中的な努力が払われてきた。腱の再生に適切な細胞源を提供するために、成人のMSCを得ることができる。ただし、細胞移植には時間のかかる増殖プロセスが必要である。さらに、コスト、技術的問題および安全性の問題は、患者に利益を提供する点で障害である。腱幹/前駆細胞(TSPC)の増殖を刺激する成長因子は、腱の修復を促進するための代替的な選択肢である可能性がある。近年の研究では、腱周囲でCD146マーカーを運ぶTSPCが、結合組織成長因子(CTGF)を局所的に提供した後、腱創傷で増殖するように刺激され得ることが示されている。多血小板血漿(PRP)注射は、腱損傷治癒のための血小板由来成長因子(PDGF)の可能性を獲得するための別の例であるが、おそらく調製物中のPDGFの濃度が低いため、効果は限られている。さらに、成長因子治療は、細胞療法の待機期間を省き、急性腱損傷に対して容易に利用可能である。
【0004】
いくつかの成長因子は、TSPCの増殖を誘発する能力を有すると報告されている。結合組織成長因子(CTGF)は、CD146+TSPCのクローン原性能を増強することが実証されている。線維芽細胞成長因子(FGF)-2は、Scleraxis(Scx)およびSRY-box含有遺伝子9(Sox9)の発現によって特徴付けられるTSPCの成長を促進する。さらに、bFGF、インスリン様成長因子(IGF)-1およびPDGF-BBのヒドロゲル併用物により、脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)の生存率が向上して、インビボでの腱治癒を促進し得ることが報告されている。
【0005】
色素上皮由来因子(PEDF)は、ほとんどの体組織に広く発現している。PEDFは、いくつかの幹/前駆細胞の増殖を媒介することが報告されている。例えば、PEDFは、神経前駆細胞(neuronal progenitor cell)およびヒト胚性幹細胞の増殖を刺激するのに効果的である。近年の試験ではさらに、PEDFおよびPEDF由来短鎖ペプチド(PDSP)が、角膜上皮幹細胞、筋サテライト細胞および肝幹細胞の増殖を刺激し得ることが実証された。これらの観察結果は、PDSPが、腱損傷を含むいくつかのタイプの組織損傷に対する有望な可能性を有する治療剤であり得ることを示唆している。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一態様は、腱損傷を治療するための医薬組成物または方法に関する。本発明の一実施形態による方法は、それを必要とする対象に、PEDF由来短鎖ペプチド(PDSP)、またはPDSPの変異体を含む医薬組成物を投与する工程を含み、PDSPは、ヒト色素上皮由来因子(PEDF)の残基93~106を含み、PDSPの変異体は、PDSPのセリン-93、アラニン-96、グルタミン-98、イソロイシン-103、イソロイシン-104およびアルギニン106を含み、他の位置に1つ以上のアミノ酸置換を含み、残基位置番号は、ヒトPEDFでの残基位置番号に基づく。PDSPは、配列番号1~75のいずれか1つの配列の配列を含む。
【0007】
本発明の他の態様は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヌクレオステミン陽性TSPC増殖に対する29量体変異体の影響を示す。初代ウサギTSPCを75T細胞培養フラスコ内でほぼコンフルエンスまで培養し、次いで、TSPCマーカー、ヌクレオステミン(>98%;緑色)の免疫染色により確認した。ヘキスト33258(青色)により核を染色し、落射蛍光顕微鏡により視覚化した。10μMの29量体またはその変異体を用いて、ヌクレオステミン陽性TSPCを24時間処理した。細胞増殖アッセイキット(BioVision;カタログ番号:K307)を用いて、24時間増殖後のTSPCの数を検出した。PDSP溶媒を用いて処理したTSPCを100%として設定した。結果は、3つの独立した実験の平均±SEとして表されている。
【0009】
【
図2】29量体変異体を用いて処理したTSPC内のサイクリンD1の発現のウエスタンブロット分析の結果を示す。10μMの29量体またはその変異体を用いて、初代ウサギTSPCを24時間処理した。3つの独立した実験から得られた代表的なブロット(A)およびSDを用いた濃度測定分析(B)を示す。β-アクチンに対してサイクリンD1発現を正規化した。*P<0.01対溶媒処理細胞。
#P<0.05対29量体処理細胞。
【0010】
【
図3】29量体変異体により処置した腱の術後1週間後の組織学的外観を示す。H&E染色による組織病理学的分析の代表的な顕微鏡写真。高倍率でのH&E染色切片は、コラーゲン線維間の細胞の相対的な欠乏を伴う非損傷腱組織を示す。損傷領域は、脂肪沈着を示す黄色の矢印、細胞充実度の高い領域を示す黒色の矢印、および血管を示す*によって示される変性および炎症を示す。
【0011】
【
図4】アキレス腱治癒に対する29量体変異体/アルジネートゲルの効果を示す。(A)高倍率での代表的なH&E染色縦断面は、ビヒクル/アルジネートおよび29量体/アルジネートを用いて1週間処置した非損傷腱組織および損傷腱での核の形態を示す。(B)組織病理学的スコア。線維構造、線維配列、核の丸み、常在細胞密度、および炎症(炎症細胞の浸潤、血管新生および脂肪沈着)によって、総スコアを決定した。データは平均±SEとして報告されている。*P<0.0005対ビヒクル/アルジネート処置腱。
#P<0.05対29量体/アルジネート処置腱。
【0012】
【
図5】損傷したアキレス腱のCD146陽性TSPC増殖に対する29量体変異体/アルジネートゲルの効果を示す。(A)代表的なCD146染色縦断面。(元の倍率×200)。(B)損傷腱切片の200倍視野当たりのCD146陽性TSPCの数。データは平均±SEとして報告されている。6つの切片/腱標本から総CD146
+細胞を評価し、各群ラット3匹とした。*P<0.001対ビヒクル/アルジネート処置腱。
#P<0.001対29量体/アルジネート処置腱。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、PEDF由来短鎖ペプチド(PDSP)を使用して腱損傷を治療するための方法に関する。ヒト色素上皮由来因子(PEDF)は、418個のアミノ酸を含み、分子量が約50kDaの分泌タンパク質である。PEDFは、多くの生物学的機能を有する多機能タンパク質である(例えば、米国特許出願公開第2010/0047212号明細書を参照)。PEDFの様々なペプチド領域が様々な機能に関与していることが見出されている。例えば、34量体断片(PEDFの残基44~77)は抗血管新生活性を有することが特定されており、44量体断片(PEDFの78~121残基)は神経栄養特性を有することが特定されている。
【0014】
本発明の発明者らは、PEDFの特定の短鎖ペプチドを使用して、腱損傷を治療することができることを発見した。さらに、治療効果は、CD146+TSPCの増殖を誘発する、これらのPDSPの能力から生じる可能性があることが見出された。CD146+TSPCはラット腱の末梢領域に分布し、CD146+TSPCはラット膝蓋腱の創傷治癒を促進することが分かっている。
【0015】
本発明のPDSPは、ヒトPEDF残基93~121(93SLGAEQRTESIIHRALYYDLISSPDIHGT121;配列番号1)に対応するペプチド領域に基づく。本発明者らは、この29量体に基づいて、セリン-93、アラニン-96、グルタミン-98、イソロイシン-103、イソロイシン-104およびアルギニン-106が、これらの残基をアラニンにより(またはアラニン-96をグリシンに)個別に置換した場合に活性が顕著に失われることから証明されるように、活性にとって重要であることを特定した。対照的に、29量体内の他の残基のアラニン(またはグリシン)置換は活性を顕著に変化させなかったことから、これらの他の残基(すなわち、残基94、95、97、99~102、105および107~121)にアミノ酸置換(特に、相同なアミノ酸置換)を有するPDSP変異体も腱損傷の予防および/または治療に使用することができることが示唆された。
【0016】
これらの結果は、抗侵害受容効果を含むコアペプチドが、残基93~106(93SLGAEQRTESIIHR106;配列番号2)を含む領域にあることを示している。したがって、腱損傷に対する治療活性を有する最短のPDSPペプチドは、14量体であり得る。当業者であれば、C末端および/またはN末端でのこのコアペプチドに対する追加のアミノ酸の付加が、この活性に影響を与えないことを理解するであろう。すなわち、本発明のPDSPは、ヒトPEDFの残基93~106(-)を含む任意のペプチドであり得る。したがって、本発明のPDSPペプチドは、実験で使用された29量体を含めて、14量体、15量体、16量体などであり得る。
【0017】
さらに、上記のように、これらの短鎖ペプチド内の置換は、重要な残基(セリン-93、アラニン-96、グルタミン-98、イソロイシン-103、イソロイシン-104およびアルギニン-106)が保存されている限り、活性を保持することができる。さらに、マウス変異体(ヒトの配列と比較して、ヒスチジン-98およびバリン-103の2つの置換を有する)も活性である。対応するマウス配列は、mo-29量体(SLGAEHRTESVIHRALYYDLITNPDIHST、配列番号3)およびmo-14量体(SLGAEHRTESVIHR、配列番号4)である。したがって、活性コアの一般的な配列は(93S-X-X-A-X-Q/H-X-X-X-X-I/V-I-X-R106(Xは任意のアミノ酸残基を表す);配列番号5)である。
【0018】
本発明のPDSPペプチドは、タンパク質/ペプチド発現系を使用して化学的に合成または発現され得る。これらのPDSPペプチドは、腱損傷の治療のための医薬組成物に使用され得る。医薬組成物は、任意の薬学的に許容される賦形剤を含み得、医薬組成物は、局所投与、経口投与、注射などの投与に適した形態で製剤化され得る。そのような用途のための様々な製剤は、当技術分野で知られており、本発明の実施形態とともに使用することができる。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態は、対象(例えば、ヒト、ペットまたは他の対象)の腱損傷を治療するための方法に関する。本明細書で使用される場合、用語「治療する(treat)」または「治療する(treating)」は、状態の部分的または全体的な改善を含み、これは、全体的な治癒を含む場合も含まない場合もある。方法は、対象に医薬組成物を投与する工程を含み得、医薬組成物は、本発明のPDSP(PDSPの活性変異体を含む)の有効量を含む。当業者であれば、有効量が対象の状態(例えば、体重、年齢など)、投与経路、および他の因子に依存することを理解するであろう。そのような有効量を見出すことは、常用的な技術のみを伴い、当業者であれば、有効量を見出すために発明の努力または過度の実験を必要としないであろう。
【0020】
本発明の実施形態は、以下の特定の実施例により説明される。特定の実施例では、29量体(配列番号1)が使用される。ただし、他のPDSP(例えば、14量体、配列番号2または配列番号3など)もまた、同じ結果を達成するために使用することができる。当業者であれば、これらの実施例は例示のみを目的としており、本発明の範囲から逸脱することなく、変更および修正が可能であることを理解するであろう。
【0021】
材料および方法
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎児血清(FBS)、抗生物質-抗真菌剤溶液およびトリプシンをInvitrogen(Carlsbad,CA,USA)から購入した。5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム(ITSE)培地サプリメント、ヘキスト33258色素、アルギン酸ナトリウム塩およびあらゆる化学物質をSigma-Aldrich(St.Louis,MO,USA)から入手した。ディスパーゼIIおよびコラゲナーゼIをRoche(Indianapolis,IN,USA)から入手した。抗BrdU抗体(GTX42641)をGeneTex(Taipei,Taiwan)から入手した。抗ヌクレオステミン(ab70346)抗体をAbcam(Cambridge,MA,USA)から入手した。蛍光色素コンジュゲート二次抗体はいずれも、BioLegend(San Diego,CA,USA)から購入した。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)色素をMerck(Rayway,NJ,USA)から購入した。PDSP 29量体および29量体変異体を合成し、安定性のためにNH2末端でのアセチル化と、COOH末端でのアミド化とによって修飾し、GenScript(Piscataway,NJ,USA)での質量分析(純度>90%)によって特性評価した。DMSO中でストック(10mM)として、各PEDF由来合成ペプチドを再構成した。
【0022】
動物試験
温度制御(24~25℃)および12:12の明暗サイクルの下で、全動物を動物室に収容した。標準的な飼料および水道水を自由に摂取させた。実験手順は、Mackay Memorial Hospital Review Board(New Taipei City,Taiwan,R.O.C.)によって承認され、国の動物福祉規制に準拠して実施した。
【0023】
腱幹細胞の単離および培養
この試験では、ニュージーランドホワイトウサギ(6~8月齢、3.0~4.0kg)から得られたアキレス腱を使用した。50μg/mlのゲンタマイシンを含有する滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)を用いて、アキレス腱を2回洗浄した。腱および腱鞘を小片に切断した(1~2mm3)。次いで、1mlの平衡塩溶液(BSS;Alcone)中に3mg/mlのI型コラゲナーゼおよび4mg/mlのディスパーゼを含有する溶液中で、各100mgの断片を37°Cで4時間消化させた。消化された組織をPBSで3回洗浄し、遠心分離(800g、10分間)によって収集した。消化された組織を組織培養プレート(Falcon Labware;NJ,USA)に置き、10%FBSおよび50μg/mlゲンタマイシンを補充した高グルコースDMEM中に再懸濁し、5%CO2、37℃に維持した。5日後、緩んだ組織残留物を除去するために培地を交換した。続いて、腱細胞を10%FBS培地と2日間インキュベートし、次いで、基礎培地(2%FBS、1%ITSE、300μg/ml L-グルタミン、1%抗生物質-抗真菌剤溶液)を用いてさらに10日間培養した。3日ごとに培地を交換した。継代のために、0.25%トリプシン/EDTAを用いて腱細胞を回収し、血球計算器により細胞を計数し、24時間かけて、96ウェル細胞培養プレートの各ウェルに約5×103個の細胞を播種するか、6ウェル細胞培養プレートの各ウェルに2×105個の細胞を播種した。次いで、これらの増殖した腱細胞を、新鮮な基礎培地中の10μMの29量体またはその変異体を用いてさらに24時間処理し、それぞれ細胞増殖アッセイおよびウエスタンブロット分析に供した。
【0024】
細胞増殖アッセイ
BioVision(カタログ番号:K307)から細胞増殖アッセイキット(Fluorometric)を購入し、製造業者の推奨に従って細胞増殖を評価するために使用した。SPECTRAmax GEMINI XS蛍光マイクロプレート分光光度計(Molecular Devices、Sunnyvale,CA,USA)を用いて、励起について480nm、発光について538nmで蛍光を読み取った。
【0025】
免疫細胞化学
4%パラホルムアルデヒドを用いて細胞を固定した後、4°Cでメタノールにより1分間処理し、1%ヤギ血清および5%BSAを用いて1時間ブロックした。ヌクレオステミンに対する抗体(1:100希釈)を用いて、細胞を室温で3時間染色した。続いて、スライドをFITC-ロバ抗ウサギIgG(1:500希釈;BioLegend、San Diego,CA)と20分間インキュベートし、次いで、ヘキスト33258を用いて6分間対比染色した。Triton X100(0.5%)を含むPBSを用いてスライドを3回リンスした。最後に、FluorSave(商標)試薬(Calbiochem)とともに切片をマウントし、Zeiss落射蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0026】
ウエスタンブロット分析
細胞溶解、SDS-PAGE、およびイムノブロッティングに使用される抗体は、記載されているように実施した(Ho et al.,15-deoxy-Delta(12,14)-prostaglandin J2 induces vascular endothelial cell apoptosis through the sequential activation of MAPKS and p53.J Biol.Chem.,2008;283(44):30273-30288)。モデルGS-700イメージングデンシトメーター(Bio-Rad Laboratories、Hercules,CA)を用いてイムノブロットのバンド強度を評価し、Labworks 4.0ソフトウェアを使用して分析した。
【0027】
ラットアキレス腱損傷に対する外科的処置
腱治癒に対する29量体ペプチドの効果を検討するために、Orhanらによって報告されたようにアキレス腱損傷のラットモデルを確立した(The effect of extracorporeal shock waves on a rat model of injury to tendon Achilles.A histological and biomechanical study.J.Bone Joint Surg.Br.2004;.86(4):.613-618)。キシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって、成体の10週齢のオスのスプラーグドーリーラット(初期体重=312±11g)を麻酔した。次いで、踵骨付着部位の1cm近位のアキレス腱を通して18G針を全層挿入することによって、左アキレス腱損傷を作成した。これにより、切断された端の収縮を防ぐために無傷の腱組織に隣接する水平の創傷を作成した。創傷を滅菌生理食塩水で洗浄した後、皮膚切開を閉じた。100μMの29量体またはDMSOビヒクルと混合した150μlのアルジネートゲルを皮下注射することにより、腱病変の周囲の領域に処置を適用した(1実験条件当たりラット6匹)。
【0028】
DNA合成のインビボ検出
細胞増殖を検出するために、DMSO中でストック(80mM)としてBrdUを再構成した。手術後0、3、5日目に、350μlのPBSと混合した150μlのBrdUをラットに腹腔内注射した。抗BrdU抗体を用いたBrdU標識によってDNA合成を評価した。
【0029】
腱損傷の組織学的検査
腱と周囲の軟組織とを切開した。標本を4%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液中に固定し、次いで、パラフィンブロックに包埋した。切片(厚さ5μm)を縦方向に切断し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)を用いて染色するか、免疫組織化学的検査に使用した。最も重度に変性した領域を含むように、1つの腱当たり36の切片を注意深く調製した。Leica DC 500カメラ(Leica Microsystems、Wetzlar,Germany)を備えたNikon Eclipse 80i顕微鏡(Nikon Corporation、Tokyo,Japan)を使用して画像を取得した。損傷した腱組織を含む各試料の4つの切片を選択し、2名の盲検観察者により評価して、Chenらによって提案された0から3の改変された半定量的評価スコアに従って腱の形態を評価した(Tendon derived stem cells promote platelet-rich plasma healing in collagenase-induced rat Achilles tendinopathy.Cell Physiol.Biochem.,2014;34(6):2153-68)。スコアにより、線維構造(0~3)、線維配列(0~3)、核の丸み(0~3)、常在細胞密度(0~3)、および炎症(0~3;炎症細胞の浸潤、血管新生および脂肪沈着)を分析した。この評価系によれば、完全に正常な腱は0のスコアを取得したが、最大に異常な腱には15のスコアが割り当てられた。
【0030】
免疫組織学的染色
ホルマリン固定パラフィン包埋腱標本をキシレン中で脱パラフィン化し、段階的な一連のエタノール濃度で再水和した。10%ヤギ血清を用いてスライドを60分間ブロックした後、CD146に対する一次抗体(1:50希釈)と室温(RT)で2時間インキュベートした。続いて、スライドを適切なペルオキシダーゼ標識ヤギ免疫グロブリン(1:500希釈;Chemicon、Temecula,CA)と20分間インキュベートし、次いで、色素原基質(3,3’-ジアミノベンジジン)と2分間インキュベートした後、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【0031】
統計
結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)として表した。統計的比較に一元配置分散分析を使用した。特に指定がない限り、P<0.05が有意であると考えられた。
【0032】
培養でTSPC増殖を誘発する細胞分裂活性に必要な、29量体内の重要なアミノ酸残基の同定
ラットモデルによって証明されるように、色素上皮由来因子(PEDF)由来短鎖ペプチドの断片(29量体;残基Ser93~Thr121、24量体;Ser93~Pro、および20量体;Ser93~Leu112)が、腱断裂の治癒を促進することを示した。以前の試験の結果はまた、培地に添加された29量体、24量体および20量体が、培養された腱幹/前駆細胞(TSPC)の増殖を誘発することができることを示した。本明細書では、29量体の配列に沿ったアラニンまたはグリシンによる単一残基の置換を設計および合成して、29量体の細胞分裂活性に関与する重要な残基を解明した。PEDF残基93~121のアミノ酸配列に基づいて合計で29個のペプチド変異体を合成し、そのうち27個は単一のアラニン変化を伴い、2個は単一のグリシン変化を伴う(A96GおよびA107G)。まず、TSPCの増殖に対する29量体変異体の影響を検討した。
【0033】
ウサギTSPCの単離については上記で説明した。29量体変異体のうちの1つを10μMで用いて、低血清培地中のTSPCを24時間処理した。細胞内の核酸に特異的に結合し、緑色蛍光を生成する核色素を提供するキットに基づく細胞増殖キットによって、細胞増殖を検討した。29量体処理は、DMSO溶媒対照と比較してTSPC増殖を増加させた(135±6.1%対100±4.0%、
図1)。結果から、S93A(106±3.8%)、A96G(102±4.0)、Q98A(106±5.4%)、I103A(106±5.3%)、I104A(112±1.7%)およびR106A(106±3.5%)の変異が、29量体の細胞分裂活性を著しく損なった(102~112%対135%)ことが明らかにされた。これらの結果は、29個のアミノ酸のうち6個が29量体の活性に重要であることを示唆している。さらに、L94A(113±5.2%)、R99A(116±7.0)、A107G(117±3.8%)およびP116A(115±3.7%)の変異により、29量体の細胞分裂活性が112~117%まで部分的に低下した。残りの置換は、29量体(>117%)と比較して、細胞分裂活性の半分超を維持した。これらの結果は、29量体内の残りの19残基がアミノ酸置換に耐えることができることを示唆している。
【0034】
一方、29量体およびその変異体にTSPCを24時間曝露すると、溶媒処理細胞と比較して、増殖マーカーであるサイクリンD1タンパク質の2.9±0.5の誘導倍率がもたらされた。T100A変異体およびH105A変異体は、サイクリンD1タンパク質の発現を誘発するのに、29量体と同様の効果を示した(2.7±0.5倍および2.7±0.3倍;
図2)。ただし、サイクリンD1タンパク質誘発に対する29量体の効果は、それぞれ残基S93、A96、Q98、I103、I104およびR106でのアラニン/グリシン置換によってほとんど消失した(1.3±0.1、1.5±0.3、1.3±0.1、0.9±0.1、1.3±0.2および1.0±0.3)。まとめると、アラニンスキャンデータは、TSPCに対する29量体の細胞分裂効果が、アミノ酸置換によって影響を受けることを示している。データはまた、位置Ser93、Ala96、Gln98、Ile103、Ile104およびArg106でのPDSPが、TSPC増殖の誘発に対するPDSP効果を維持するために重要であることを示唆している。
【0035】
実験的腱損傷のラットモデルに対する29量体変異体の治療効果
損傷した腱に対する29量体ペプチドの治療効果を検討するために、アキレス腱に18G針を全層挿入することによって、アキレス腱損傷のラットモデルを確立した。以前のプロトコルで説明したように、5日間で90%の負荷の29量体を放出する、150μlのアルジネートゲル中の29量体を送達した(Ho et al.,PEDF-derived peptide promotes skeletal muscle regeneration through its mitogenic effect on muscle progenitor cells.Am J Physiol.Cell Physiol.2015 Aug 1;309(3):C159-68)。
図3、術後1週間でのH&E染色による組織学的分析に示すように、ビヒクル/アルジネートゲル処置は、線維組織の損失を示し、治癒領域内の炎症性マトリックス(黄色の矢印によって示される)および脂肪沈着および/または壊死領域(黒色の矢印によって示される)の実質的な存在を示したのに対して、29量体/アルジネートゲル群は、良好に整列したコラーゲン線維の均一な外観を示し、29量体が腱治癒を促進することを示した。特に、術後1週間で、ビヒクル群によって処置された損傷した腱は、多数の丸い細胞(線維芽細胞および炎症細胞;
図4A)の存在を示した。対照的に、29量体処置は細胞密度の大幅な増加を示し、それらの核の形態は、コラーゲン線維に平行に配置された正常な紡錘形の腱細胞と、わずかに丸い常在細胞とを示した。顕微鏡的には、T100A変異体またはH105A変異体を含有するアルジネートゲルによって処置された損傷した腱も、良好に整列したコラーゲン線維の均一な外観を示し、29量体処置と同様に変性事象は示さなかった。重要なことに、S93A、A96G、Q98A、I103A、I104AおよびR106Aによる処置は、線維組織の損失を示し、腱損傷領域内の炎症性マトリックス、脂肪沈着および血管増生(アスタリスクによって示される)の著しい増加を伴った(
図3)。
【0036】
2名の盲検試験者によってスコア分析を実施した。総組織病理学的スコアは上記の通りであり、
図4Bのヒストグラムに示されており、29量体/アルジネート処置は、ビヒクル/アルジネート群と比較して、総スコアを有意に低下させた(7.9±0.4対12.7±0.6;P<0.0005)。T100A変異体およびH105A変異体も、総組織病理学的スコアを低下させることができた(8.0±0.5および7.8±0.7)。注目すべきことに、S93A、A96G、Q98A、I103A、I104AおよびR106Aによる処置は、29量体の処置と比較して、総組織病理学的スコア(11.2~13.7の値)の低下に影響を与えなかった。
【0037】
全体として、動物試験の結果は、S93、A96、Q98、I103、I104およびR106を含め、29量体の残基が、29量体の腱治療効果を維持するための重要な残基であることを裏付けている。これらの結果はまた、腱治療効果を有するコアペプチドが、ヒトPEDFの残基93~106(93SLGAEQRTESIIHR106;配列番号2)に位置することを示唆している。したがって、本発明の実施形態によれば、腱損傷の治療のためのPDSPは、14量体(残基93~106)と同じくらい短くてもよい。当業者であれば、追加のアミノ酸がC末端および/またはN末端に含まれ得る場合であっても、このコア領域を含むペプチドが同じ活性を保持することを理解するであろう。それが、本発明の実施形態による、腱損傷を治療するためのペプチドであり、実施例で使用された29量体を含む14量体、15量体、16量体などであり得る。
【0038】
さらに、上記のように、これらの短鎖ペプチド内の置換は、重要な残基(セリン-93、アラニン-96、グルタミン-98、イソロイシン-103、イソロイシン-104およびアルギニン-106)が保存されている限り、活性を保持することができる。さらに、マウス変異体(ヒトの配列と比較して、ヒスチジン-98およびバリン-103の2つの置換を有する)も活性である。対応するマウス配列は、mo-29量体(SLGAEHRTESVIHRALYYDLITNPDIHST、配列番号3)およびmo-14量体(SLGAEHRTESVIHR、配列番号4)である。したがって、活性コアの一般的な配列は(93S-X-X-A-X-Q/H-X-X-X-X-I/V-I-X-R106(Xは任意のアミノ酸残基を表す);配列番号5)である。
【0039】
損傷した腱でのTSPCの広がりに対する29量体変異体の影響
CD146はTSPCマーカーの1つである。CD146
+TSPCはラット腱の末梢領域に分布し、CD146
+TSPCはラット膝蓋腱の創傷治癒を促進することが分かっている。29量体によって誘発される腱修復の機序を試験するために、負傷後1週間の時点で、損傷した腱に位置するTSPCのCD146免疫染色を測定した。結果から、29量体/アルジネートゲル処置腱の治癒領域では多数のCD146
+TSPCが検出可能であったのに対して、ビヒクル/アルジネートゲル処置腱ではCD146
+TSPCが少なかったことが明らかにされた(
図5;200倍視野当たり86.8±6.0細胞対38.3±7.8細胞)。したがって、29量体処置によるTSPC増殖の活性化は、迅速な腱創傷治癒を促進する。
【0040】
次に、29量体変異体を用いて1週間処置した損傷した腱でのCD146+TSPCの分布を検討した。T100A変異体またはH105A変異体を含有するアルジネートゲルによって処置した損傷した腱は、29量体/アルジネート処置と同様に、顕著なCD146+TSPC増殖(200倍視野当たり85.0±8.4細胞および88.5±7.8細胞)を示した。注目すべきことに、CD146免疫染色により、S93A、A96G、Q98A、I103A、I104AおよびR106Aによる処置が、損傷した腱でのCD146陽性TSPCの増加に影響を与えなかったことが明らかにされた(200倍視野当たり40.5~49.5細胞)。動物試験ではさらに、これらの重要な残基が29量体の生物学的活性を維持するために重要な役割を果たすことが確認された。
【0041】
まとめると、アラニンスキャンデータは、アキレス腱断裂のラットモデルによって証明されるように、29量体の治療効果がアミノ酸置換によって影響を受けることを示している。さらに、位置S93、A96、Q98、I103、I104およびR106の29量体残基は、腱修復に対する29量体活性にとって重要である。したがって、最小コアペプチドは、
93S-X-X-A-X-Q/H-X-X-X-X-I/V-I-X-R
106(Xは任意のアミノ酸残基を表す)(配列番号5)として表され得る。本発明の実施形態とともに使用され得るPDSP配列のいくつかの例を以下の表に示す(位置の番号付けは14量体の位置に基づく)。これらの例は、限定することを意図したものではない。
【表1】
【0042】
本発明の実施形態は、限られた数の例を用いて説明されている。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、変更および修正が可能であることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、付随する特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【配列表】