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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】止水構造の形成方法、及び、止水構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/62 20060101AFI20240501BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20240501BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240501BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240501BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240501BHJP
   C04B 24/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
E04B1/62 C
E04G21/02 103A
C04B28/02
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B24/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021019118
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022122056
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-088937(JP,A)
【文献】特開2013-203561(JP,A)
【文献】特開2017-218765(JP,A)
【文献】特開2011-236639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0245658(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62ー 1/99
E04G 21/00-21/22
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打継面を有するように打設された先打コンクリートと、前記打継面に打継ぐ後打コンクリートとの間を止水する止水構造の形成方法であって、
前記先打コンクリートの硬化後に、前記打継面に止水材料を配置し、
前記止水材料を硬化前の樹脂で覆う、止水構造の形成方法。
【請求項2】
前記止水材料を、前記先打コンクリートの厚さ方向に垂直な方向、かつ、前記打継面の延在方向に連続して延在するように配置する、請求項1記載の止水構造の形成方法。
【請求項3】
打継面を有するように打設された先打コンクリートと、前記打継面に打継ぐ後打コンクリートとの間を止水する止水構造の形成方法であって、
前記先打コンクリートの硬化後に、前記打継面に止水材料を配置し、
前記止水材料を硬化前の樹脂で覆い、
前記先打コンクリートは、ひび割れ誘発目地を有しており、
前記止水材料を配置することが、前記先打コンクリートの厚さ方向に垂直な方向、かつ、前記打継面の延在方向に連続して延在するように第1の延在長さで第1の止水材料を配置するとともに、前記ひび割れ誘発目地を有する部分から前記先打コンクリートの厚さ方向へ向かう仮想線を横断するように、かつ、前記第1の止水材料を配置した箇所とは前記厚さ方向において異なる箇所に第2の延在長さで第2の止水材料を配置することを含む、止水構造の形成方法。
【請求項4】
前記止水材料は粉体であり、セメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、及び、微生物と前記微生物の栄養剤とを含む混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の止水構造の形成方法。
【請求項5】
前記打継面において、前記止水材料を配置する箇所にあらかじめ凹部を形成して前記先打コンクリートを硬化させる、請求項1~4のいずれか一項記載の止水構造の形成方法。
【請求項6】
前記硬化前の樹脂が硬化する前に前記後打コンクリートを打継ぐ、請求項1~5のいずれか一項記載の止水構造の形成方法。
【請求項7】
打継面を有するように打設された先打コンクリートと、前記打継面に打継ぐ後打コンクリートとの間を止水する止水構造であって、
前記打継面に配置された止水材料層と、
前記止水材料層を覆う硬化前の樹脂層と、を備える止水構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水構造の形成方法及び止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の構築においては、一回あたりの打設量や支保工の組み立て手順等といった施工上の都合により、コンクリートを何度かに分けて打設する、いわゆる打継ぎが行われる。例えば、底版部や頂版部と壁部との間、或いは壁部の途中において、水平な打継目が形成されることがある。この場合、硬化した下部のコンクリート(下部リフト)の上に上部のコンクリート(上部リフト)を打設するため、下部リフトの上面に取り残されたレイタンスや埃等により、界面が脆弱となり易く、水みちが生じて漏水の原因となり易い傾向にあった。
【0003】
そこで、このような不都合を解消するために、コンクリートを打継ぎする際、打継面に所定の処理を施す方法が知られている。例えば、下記特許文献1には、ポルトランドセメントと、セメント成分を含むセメント結晶増殖剤と、炭酸カルシウム粉末と、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤と、水とを含むペースト状の止水材料が開示されている。このペーストを打継面に塗布することによって、打継目において優れた止水性を付与できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-203561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート構造物においては、可能な限り漏水を少なくできることが望ましいが、例えば地下構造物に適用される場合等といった浸水が生じ易い条件では、上記止水材料を適用した場合であっても十分に漏水を防ぐことができないことがある。また、そもそも上記止水材料はペースト状であるため、外部から水が浸入してこなくても長期間を経るうちにコンクリート内で変質(例えば硬化)して所期の効果が得られなくなる懸念がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、打継コンクリートにおける漏水の要因となり易い部位において優れた止水性を奏する止水構造の形成方法、及び、その止水構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、打継面を有するように打設された先打コンクリートと、打継面に打継ぐ後打コンクリートとの間を止水する止水構造の形成方法であって、先打コンクリートの硬化後に、打継面に止水材料を配置し、止水材料を硬化前の樹脂で覆う、止水構造の形成方法を提供する。
【0008】
一般に打継コンクリートが水に晒されたとき、脆弱部分になりやすい打継ぎ部分から水がコンクリート内部に浸入し、コンクリートの反対側から漏水する水みちが形成されることがある。本発明が適用された打継コンクリートでは、打継ぎ部分にできたひび割れ等から水が浸入すると、打継面に形成した止水構造に浸入水が到達する。止水構造では、樹脂で覆われている後打コンクリート側よりも、レイタンスや埃等が取り残されている先打コンクリート側のほうが水に対して相対的に脆弱であるので、先打コンクリート側に浸入水が誘導される。そして、そこには止水材料があるため、止水材料が浸入水と反応して硬化することで、又は、止水材料が浸入水と反応してその生成物が水みちを埋めることで、浸入水が遮断される。これによって、コンクリートの反対側からの漏水を防ぐことができる。また、本発明では、硬化した先打コンクリートと樹脂との間に止水材料を水や空気を遮断した状態で保つことができるので、完成した打継コンクリート内において止水材料が長期間にわたって変質することがなく、したがって止水材料の有効期限が長く保たれる。
【0009】
本発明において、止水材料を、先打コンクリートの厚さ方向に垂直な方向、かつ、打継面の延在方向に連続して延在するように配置することが好ましい。止水材料が連続して延在することで、水が打継ぎ部分のどの箇所から浸入したとしても浸入水が止水構造に接触するので、本発明の効果が確実に発揮される。
【0010】
また、本発明は、打継面を有するように打設された先打コンクリートと、打継面に打継ぐ後打コンクリートとの間を止水する止水構造の形成方法であって、先打コンクリートの硬化後に、打継面に止水材料を配置し、止水材料を硬化前の樹脂で覆い、先打コンクリートは、ひび割れ誘発目地を有しており、止水材料を配置することが、先打コンクリートの厚さ方向に垂直な方向、かつ、打継面の延在方向に連続して延在するように第1の延在長さで第1の止水材料を配置するとともに、ひび割れ誘発目地を有する部分から先打コンクリートの厚さ方向へ向かう仮想線を横断するように、かつ、第1の止水材料を配置した箇所とは厚さ方向において異なる箇所に第2の延在長さで第2の止水材料を配置することを含む、止水構造の形成方法を提供する。
【0011】
先打コンクリートがひび割れ誘発目地を有する場合、その箇所にひびが入ることが予定されているので、その箇所から水がコンクリートに浸入しやすいことが想定される。上記発明では当該目地の近傍において止水構造を厚さ方向に複数箇所設けることになるので、止水効果をより高めることができる。
【0012】
上記いずれの発明においても、止水材料は粉体であることが好ましく、止水材料はセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、及び、微生物と微生物の栄養剤とを含む混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0013】
上記いずれの発明においても、打継面において、止水材料を配置する箇所にあらかじめ凹部を形成して先打コンクリートを硬化させることが好ましい。打継面に凹部を形成すると止水材料を配置しやすくなり、また、止水材料を樹脂で覆いやすくなる。
【0014】
上記いずれの発明においても、硬化前の樹脂が硬化する前に後打コンクリートを打継ぐことが好ましい。樹脂の硬化前に後打コンクリートを打継ぐことで、樹脂と後打コンクリートとの一体性が高まり、樹脂と後打コンクリートとの間に浸入水が入り込むことを防止することができ、したがって先打コンクリート側のほうへ浸入水を誘導しやすくなる。
【0015】
また、本発明は、打継面を有するように打設された先打コンクリートと、打継面に打継ぐ後打コンクリートとの間を止水する止水構造であって、打継面に配置された止水材料層と、その止水材料層を覆う硬化前の樹脂層と、を備える止水構造を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、打継コンクリートにおける漏水の要因となり易い部位において優れた止水性を奏する止水構造の形成方法、及び、その止水構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】打継ぎ工法によって構築したコンクリート構造物を厚さ方向から見た断面図である。
図2図1のコンクリート構造物のうち、上部リフトを仮に取り除いて見た場合の平面図である。
図3】第1の実施形態を示す断面図である。止水構造を形成する工程が(A)、(B)、(C)の順に進む様子を示している。
図4】第2の実施形態を示しており、図2に対応する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
本発明は、打継ぎ工法によってコンクリート構造物を構築するに際し、その打継面において止水構造を形成する方法である。本発明が適用されたコンクリート構造物は、一方の側から打継ぎ部分のひび割れ等に水が浸入したときにその浸入を遮断するように働き、コンクリート構造物の反対側から水が漏出することが防止される。先打コンクリートと後打コンクリートとの間に止水構造を設けることでこれが達成される。以下の説明ではコンクリート壁を垂直方向に打継ぐ場合を例にして説明するが、本発明は水平方向に打継ぐ場合にも適用可能である。
【0020】
<第1の実施形態>
はじめに、本実施形態の止水構造の形成方法が適用されたコンクリート構造物について説明する。図1は、打継ぎ工法によって構築したコンクリート構造物1を厚さ方向から見た断面図である。コンクリート構造物1は、下部リフト(先打コンクリート)2上に、上部リフト(後打コンクリート)3が打継ぎされた構造を有しており、下部リフト2と上部リフト3の間に水平打継目4が存在した状態となっている。この水平打継目4には、二本の止水構造5Aが形成されている。また、下部リフト2と上部リフト3の内部には複数の鉛直鉄筋6が配置されている。
【0021】
図2は、図1に示されているコンクリート構造物1のうち、上部リフト3を仮に取り除いて見た場合の平面図である。二本の止水構造5Aは互いに平行をなし、下部リフト2上において下部リフト2の厚さ方向に垂直な方向に延在している。なお、本明細書において下部リフト2と止水構造5Aとを含めた構造体を「打継ぎ前構造体」(符号10)と呼ぶ。
【0022】
止水構造5Aは、止水材料層51Aと、止水材料層51Aを上から覆う樹脂層52Aとからなっている。止水材料層51Aは下部リフト2の打継面2aに設けられた凹部2b内に止水材料が敷設されてなるものであり、この止水材料層51Aを打継面2aとの間に閉じ込めるようにして樹脂層52Aが設けられている。ここで、一本の止水構造5Aを構成している止水材料層51Aの幅(下部リフト2の厚さ方向の長さ)W1は、凹部2bの幅に等しく、下部リフト2の厚さに対して1%~20%であることが好ましく、3%~15%であってもよく、5%~10%であってもよい。また、樹脂層52Aの幅(下部リフト2の厚さ方向の長さ)は、止水材料層51Aの幅W1よりも広く、当該幅方向の両端部が打継面2aと接することで樹脂層52Aが止水材料層51Aに蓋をする格好となっている。凹部2bの深さは、5mm~50mmであることが好ましく、10mm~40mmであってもよく、15mm~30mmであってもよい。
【0023】
止水材料層51Aを構成している止水材料は、粉体であることが好ましい。止水材料は、セメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、及び、微生物とその微生物の栄養剤とを含む混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これらのうち、セメントは水和反応によって硬化するので好ましく、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメント等、公知のセメントを用いることができる。高炉スラグ微粉末とフライアッシュは、浸入水がアルカリ性である場合に好ましい。微生物とその栄養剤としては、例えばバシラス属の細菌と乳酸カルシウムであることが好ましい。この場合、水の浸入によって細菌が活動し、乳酸カルシウムから炭酸カルシウムを生じてひび割れを埋める働きをする。
【0024】
樹脂層52Aを構成する樹脂は、樹脂層52Aを形成するときは未硬化の液状であり、その後硬化する樹脂を用いる。また、当該樹脂は不透水性である。樹脂の材料としては、コンクリートとの接着性が高く、かつ、止水材料層51Aの上に適用してから硬化が完了するまで数分間~数十分間の時間的猶予を得られるように調整できるものが好ましい。例えば公知のフレッシュコンクリート打継ぎ用接着剤が好適である。樹脂名としてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、クロロプレンゴム等が挙げられる。なかでもエポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0025】
次に、止水構造5Aの形成方法について説明する。下部リフト2を構築するため、複数の鉛直鉄筋6を配置した型枠内にコンクリートを打設する。このとき、打継面2aとなるその上面において凹部2bを形成するため、上面に棒状の部材を押し当てておく。ここでは止水構造5Aを二本設けるために、二本の棒状の部材を互いに平行になるように配置する。この状態でコンクリートを養生し硬化させる。硬化後に棒状の部材を取り除くことで、凹部2bが形成された打継面2aを有する下部リフト2ができる(図3(A))。
【0026】
その後、凹部2b内に止水材料を敷設し、止水材料層51Aを形成する(図3(B))。敷設方法は特に限定されない。そして、液状の硬化性樹脂を用いて止水材料層51Aのそれぞれを覆うことで、樹脂層52Aを形成する。樹脂を止水材料層51A上に適用する方法は特に限定されないが、止水材料が粉体である場合を考慮すると、刷毛やローラーによる塗布よりも、スプレーによる方法が好ましい。スプレー時は、例えば二液型の硬化性樹脂を用いる場合は二液を同時に噴射することができるノズルを用いることが好ましい。樹脂は、止水材料層51Aの直上だけでなく、止水材料層51Aの幅方向からはみ出して打継面2aと接着する部分を設けておく。樹脂層52Aを形成することで、止水構造5Aが完成する(図3(C))。
【0027】
未硬化の樹脂層52Aはその後、硬化し始める。樹脂層52Aが硬化する前に上部リフト3を構成するコンクリートを打継ぐ。上部リフト3が硬化することで、水平打継目4に止水構造5Aが形成されたコンクリート構造物1(図1)が完成する。
【0028】
コンクリートは一般に、水に晒されたとき、脆弱部分になりやすい打継ぎ部分から水がコンクリート内部に浸入し、コンクリートの反対側から漏水する水みちが形成されることがある。これに対し、止水構造5Aを有するこのコンクリート構造物1では、打継ぎ部分にできたひび割れ等から水が浸入すると、打継面2aに形成した止水構造5Aに浸入水が到達する。止水構造5Aでは、樹脂層52Aで覆われている上部リフト3側よりも、レイタンスや埃等が取り残されている下部リフト2側のほうが水に対して相対的に脆弱である。したがって、樹脂層52Aと下部リフト2とが互いに接している樹脂層52Aの幅方向の端部において、樹脂層52Aと上部リフト3との界面ではなく、樹脂層52Aと下部リフト2との界面のほうに水みちを形成するように浸入水が誘導される。そして、その誘導先には止水材料があるため、止水材料が浸入水と反応して硬化することで、又は、止水材料が浸入水と反応してその生成物が水みちを埋めることで、浸入水が遮断される。これによって、コンクリート構造物1の打継ぎ部分にひび割れが生じた場合であってもこれを自己修復することができ、コンクリート構造物1の反対側から漏水することを防止することができる。
【0029】
また、本実施形態では下部リフト2の打継面2aに止水材料を敷設するための凹部2bを形成するので、止水材料を配置しやすく、また、止水材料層51Aを未硬化の液状樹脂で覆うことも容易である。硬化した下部リフト2と樹脂層52Aとの間では、止水材料を水や空気を遮断した状態に留め置くことができるので、完成したコンクリート構造物1内において止水材料が長期間にわたって変質することがなく、したがって止水材料の有効期限が長く保たれる。しかも、本実施形態で用いる止水材料は公知の材料を乾燥した粉体のまま用いることもできるので、止水材料に特殊な技術(例えばカプセル化)を施す必要がなく、低コストで実施することができる。
【0030】
また、本実施形態においては、止水材料層51Aが下部リフト2の厚さ方向に垂直な方向、かつ、打継面2aの延在方向に連続して延在するように配置するので、水が打継ぎ部分のどの箇所から浸入したとしても浸入水が止水構造5Aに接触するので、本実施形態の効果が確実に奏される。
【0031】
また、本実施形態では、未硬化の樹脂層52Aが硬化する前に上部リフト3を打継ぐので、樹脂層52Aと上部リフト3との一体性が高まり、樹脂層52Aと上部リフト3との間に浸入水が入り込むことを防止することができ、したがって下部リフト2側のほうへ浸入水を誘導することができる。また、上部リフト3を打継ぐ際には一般に下部リフト2の打継面2aに水を撒くところ、本実施形態では樹脂層52Aを設ける幅を止水材料層51Aの幅W1よりも広くして樹脂層52Aと打継面2aとが接着する部分が存在するので、打継面2aに撒いた水が止水材料に接触することが防止される。
【0032】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、図4に示されているとおり、下部リフト20がひび割れ誘発目地2cを有している場合に好適に適用できるものである。本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、下部リフト20が鉛直方向に延びるひび割れ誘発目地2cを有している点、及び、止水構造として第1の実施形態における止水構造5Aと同様の第1の止水構造5Aを形成することに加えて、ひび割れ誘発目地2cの近傍に第2の止水構造5Bを形成する点である。図4では、打継ぎ前構造体100として、下部リフト20の打継面20aに合計四本の止水構造5A,5A,5B,5Bが形成されている様子を示している。
【0033】
本実施形態では、第1の止水構造5Aと第2の止水構造5Bの形成位置を下部リフト20の厚さ方向で異なるものとする。すなわち、下部リフト20の厚さ方向に垂直な方向、かつ、打継面20aの延在方向に連続して延在するように第1の止水材料層51Aを配置するとともに、第1の止水材料層51Aを配置した箇所とは厚さ方向において異なる箇所(ここでは、コンクリート表面に近い側)に第2の止水材料層51Bを形成する。その後、それぞれを覆うようにして樹脂層52A,52Bを設けることで第1の止水構造5A及び第2の止水構造5Bを形成する。ここで、第1の止水材料層51A及び第2の止水材料層51Bを敷設する前に、それぞれの位置に第1の実施形態と同様の凹部を設ける。第1の止水材料層51Aと第2の止水材料層51Bを敷設する順序はどちらが先であってもよい。
【0034】
また、本実施形態では、第1の止水材料層51Aの延在長さL1と第2の止水材料層51Bの延在長さL2とを異なるものとする。すなわち、第1の止水材料層51Aは下部リフト20の延在長さ全体にわたる第1の延在長さL1を有するように形成し、第2の止水材料層51Bは、それよりも短い第2の延在長さL2を有するように形成する。なお、図4では、図示の都合上、第1の延在長さL1を図示上下方向の省略線で示した範囲内を指しているように見えるが、実際は第1の止水材料層51Aの延在長さ全てを指しているものと理解すべきものである。
【0035】
ここで、第2の止水材料層51Bの形成位置に関し、下部リフト20の厚さ方向の位置としてはコンクリート表面から少なくとも5cm離すことが好ましい。また、下部リフト20の形成位置に関し、延在方向の位置としては、ひび割れ誘発目地2cを有する部分から下部リフト20の厚さ方向へ向かう仮想線Aを横断するように位置させることが好ましい。図4に示した態様では、第2の止水材料層51Bの延在方向中央位置が仮想線Aの位置と一致している。また、第2の止水材料層51Bの幅(下部リフト20の厚さ方向の長さ)W2は、第1の止水材料層51Aの幅W1と同一であってもよく異なっていてもよい。
【0036】
本実施形態のように下部リフト20がひび割れ誘発目地2cを有する場合、その箇所にひびが入ることが予定されているので、その箇所から水がコンクリートに浸入しやすいことが想定される。本実施形態ではひび割れ誘発目地2cの近傍において複数の止水構造5A,5Bが厚さ方向に設けられているので、止水効果がより高まる。すなわち、ひび割れ誘発目地2cがある打継ぎ部分から浸入した水ははじめに止水構造5Bに接触するが、もし止水構造5Bで浸入水を完全に遮断できなかった場合でも、次に止水構造5Bが働くことで浸入水を完全に遮断することができる。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では止水材料の敷設を容易にするために下部リフト2の上面に凹部2bを形成したが、凹部2bを形成しないで平坦な打継面に止水材料を載せる態様としてもよい。また、上記実施形態では止水構造5Aを二本設ける態様を示したが、例えば中央に一本のみを設ける態様としてもよい。また、止水構造5Aの平面視形状は直線状に限られず、ジグザグ形状等であってもよく、連続しておらず断続的であってもよい。
【0038】
また、上記実施形態ではコンクリート壁を垂直方向に打継ぐ態様を示したが、本発明は水平方向に打継ぐ場合にも適用可能である。この場合の止水構造は鉛直方向に延在することになる。止水材料を可溶性の材料でできた細長い袋体に封入し、打継面に形成した凹部にこれを嵌め込んだうえで樹脂層で覆うという手順にて止水構造を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、コンクリートの打継ぎ工法に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…コンクリート構造物、2,20…下部リフト(先打コンクリート)、2a,20a…打継面、2b…凹部、2c…ひび割れ誘発目地、3…上部リフト(後打コンクリート)、4…水平打継目、5A,5B…止水構造、51A,51B…止水材料層、52A,52B…樹脂層、6…鉛直鉄筋、10,100…打継ぎ前構造体、A…仮想線、L1,L2…止水材料層の延在長さ、W1,W2…止水材料層の幅。
図1
図2
図3
図4