(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】多孔質ハニカム構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/06 20060101AFI20240501BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20240501BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20240501BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20240501BHJP
【FI】
C04B38/06 D
C04B35/195
B01D39/20 D
B01D46/00 302
(21)【出願番号】P 2021029261
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2022-10-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青木 翼
(72)【発明者】
【氏名】仙藤 皓一
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-182885(JP,A)
【文献】特開2018-149510(JP,A)
【文献】特開2018-183709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/06
C04B 35/195
B01D 39/20
B01D 46/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体であって、
多孔質ハニカム構造体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有し、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される気孔率が45~60%であり、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)及び累積50%細孔径(D50)が、0.45≦(D50-D10)/D50の関係を満たし、且つ、3μm≦D50≦10μmである
(但し、D50=10μmを除く)、
多孔質ハニカム構造体。
【請求項2】
0.50≦(D50-D10)/D50である請求項1に記載の多孔質ハニカム構造体。
【請求項3】
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、1.3≦(D90-D10)/D50の関係を満たす請求項1又は2に記載の多孔質ハニカム構造体。
【請求項4】
1.7≦(D90-D10)/D50である請求項3に記載の多孔質ハニカム構造体。
【請求項5】
多孔質隔壁の厚みが、40~150μmである請求項1~4の何れか一項に記載の多孔質ハニカム構造体。
【請求項6】
多孔質隔壁は、共振法で測定されるヤング率が8~15GPaである請求項1~5の何れか一項に記載の多孔質ハニカム構造体。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の多孔質ハニカム構造体の製造方法であって、
コージェライト化原料、有機造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を成形することで得られるハニカム成形体であって、当該ハニカム成形体の内部を通過し、隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有するハニカム成形体を得る工程と、
前記ハニカム成形体を焼成する工程と、
を含み、
有機造孔材は、ハニカム成形体中にコージェライト化原料100質量部に対して1.5質量部以上含まれ、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積10%粒子径(D10)及び累積50%粒子径(D50)が、0.32≦(D50-D10)/D50の関係を満たし、且つ、10μm≦D50≦30μmである、
製造方法。
【請求項8】
有機造孔材は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)及び累積90%粒子径(D90)が、0.80≦(D90-D10)/D50の関係を満たす請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質ハニカム構造体に関する。また、本発明は多孔質ハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質ハニカム構造体は、耐熱性、耐熱衝撃性、耐酸化性といった点で優れていることから、内燃機関、ボイラー等からの排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタや、排ガス浄化用触媒の触媒担体として広く用いられている。
【0003】
多孔質ハニカム構造体を構成する材料としては、耐熱衝撃性の高さからコージェライトが多用されている。コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体は、コージェライト化原料、造孔材、バインダー及び分散媒に各種添加剤を適宜加えて得られた原料組成物を混練し、坏土とした後、所定の口金を介して押出成形することで、ハニカム形状の成形体(ハニカム成形体)を作製し、このハニカム成形体を乾燥した後に焼成することで製造することが出来る。
【0004】
多孔質ハニカム構造体の性能を左右するパラメータの一つとして、気孔率及び細孔径分布が知られている。そして、気孔率及び細孔径分布を制御することで、密度、機械的強度、熱膨張係数、熱質量等を向上する技術が開発されてきた。例えば、特許文献1(特表2012-509840号公報)では、40~55%の全気孔率、中央細孔径(d50)が6μm未満、且つ、0.4未満のdf値(=(d50-d10)/d50)を有する細孔径分布を有する多孔質コージェライトセラミック体が開示されている。特許文献2(特開2015-145333号公報)では、40~55%の全気孔率、中央細孔径(d50)が3~10μm、且つ、0.4未満のdf値(=(d50-d10)/d50)を有する細孔径分布を有する多孔質コージェライトセラミック体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-509840号公報
【文献】特開2015-145333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2において示唆されているように、従来、コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体においては、細孔径を小さくし、細孔径分布を狭くすることにより多孔質ハニカム構造体の性能向上を図っていた。しかしながら、本発明者の研究結果によると、細孔径を小さくし、細孔径分布を狭くするという手法では耐熱衝撃性において必ずしも満足のいく特性が得られないことが分かった。多孔質ハニカム構造体は、温度変化の大きい環境下での使用が想定されることが多いため、優れた耐熱衝撃性を有することは実用上有利である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体において耐熱衝撃性を改善することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのような多孔質ハニカム構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体においては、細孔径は全体的に小さくしながらも、細孔径分布は広い方が高い耐熱衝撃性が得られることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0009】
[1]
コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体であって、
多孔質ハニカム構造体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有し、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される気孔率が45~60%であり、
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)及び累積50%細孔径(D50)が、0.45≦(D50-D10)/D50の関係を満たし、且つ、3μm≦D50≦10μmである、
多孔質ハニカム構造体。
[2]
0.50≦(D50-D10)/D50である[1]に記載の多孔質ハニカム構造体。
[3]
多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、1.3≦(D90-D10)/D50の関係を満たす[1]又は[2]に記載の多孔質ハニカム構造体。
[4]
1.7≦(D90-D10)/D50である[3]に記載の多孔質ハニカム構造体。
[5]
多孔質隔壁の厚みが、40~150μmである[1]~[4]の何れか一項に記載の多孔質ハニカム構造体。
[6]
多孔質隔壁は、共振法で測定されるヤング率が8~15GPaである[1]~[5]の何れか一項に記載の多孔質ハニカム構造体。
[7]
[1]~[6]の何れか一項に記載の多孔質ハニカム構造体の製造方法であって、
コージェライト化原料、有機造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を成形することで得られるハニカム成形体であって、当該ハニカム成形体の内部を通過し、隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有するハニカム成形体を得る工程と、
前記ハニカム成形体を焼成する工程と、
を含み、
有機造孔材は、ハニカム成形体中にコージェライト化原料100質量部に対して1.5質量部以上含まれ、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積10%粒子径(D10)及び累積50%粒子径(D50)が、0.32≦(D50-D10)/D50の関係を満たし、且つ、10μm≦D50≦30μmである、
製造方法。
[8]
有機造孔材は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)及び累積90%粒子径(D90)が、0.8≦(D90-D10)/D50の関係を満たす[7]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体において耐熱衝撃性を改善することが可能となる。多孔質ハニカム構造体の耐熱衝撃性が改善されることで、例えば、自動車の排気ラインのような温度変化の大きな環境下で触媒担体として使用したときの耐久性を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ウォールスルー型のハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】ウォールスルー型のハニカム構造体をセルの延びる方向に平行な断面で観察したときの模式的な断面図である。
【
図3】ウォールフロー型のハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図4】ウォールフロー型のハニカム構造体をセルの延びる方向に平行な断面で観察したときの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
(1.コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体)
本発明に係るコージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体は一実施形態において、多孔質ハニカム構造体の内部を通過し、多孔質隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有する。当該多孔質ハニカム構造体は一実施形態において、ウォールスルー型又はウォールフロー型の柱状ハニカム構造体として提供される。当該多孔質ハニカム構造体の用途は特に制限はない。例示的には、ヒートシンク、フィルタ(例:GPF、DPF)、触媒担体、摺動部品、ノズル、熱交換器、電気絶縁用部材及び半導体製造装置用部品といった種々の産業用途に使用される。中でも、内燃機関、ボイラー等からの排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタや、排ガス浄化用触媒の触媒担体として好適に利用可能である。とりわけ、当該多孔質ハニカム構造体は、自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として好適に利用可能である。
【0014】
コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体においてコージェライトが占める質量割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましい。コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体においてコージェライトが占める質量割合は不可避的不純物を除き実質的に100質量%とすることも可能である。
【0015】
図1及び
図2には、ウォールスルー型の自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として適用可能な柱状ハニカム構造体100の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。この柱状ハニカム構造体100は、外周側壁102と、外周側壁102の内周側に配設され、第一底面104から第二底面106まで流体の流路(セルチャンネル)を形成する複数のセル108を区画形成する多孔質隔壁112とを備える。外周側壁102の外表面が柱状ハニカム構造体100の側面103を形成する。この柱状ハニカム構造体100においては、各セル108の両端が開口しており、第一底面104から一つのセル108に流入した排ガスは、当該セルを通過する間に浄化され、第二底面106から流出する。なお、ここでは第一底面104を排ガスの上流側とし、第二底面106を排ガスの下流側としたが、第一底面及び第二底面の区別は便宜上のものであり、第二底面106を排ガスの上流側とし、第一底面104を排ガスの下流側としてもよい。
【0016】
図3及び
図4には、ウォールフロー型の自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として適用可能な柱状ハニカム構造体200の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。この柱状ハニカム構造体200は、外周側壁202と、外周側壁202の内周側に配設され、第一底面204から第二底面206まで流体の流路を形成する複数のセル208a、208bを区画形成する多孔質隔壁212とを備える。外周側壁202の外表面が柱状ハニカム構造体200の側面203を形成する。
【0017】
柱状ハニカム構造体200において、複数のセル208a、208bは、第一底面204から第二底面206まで延び、第一底面204が開口して第二底面206に目封止部209を有する複数の第1セル208aと、外周側壁202の内側に配設され、第一底面204から第二底面206まで延び、第一底面204に目封止部209を有し、第二底面206が開口する複数の第2セル208bに分類することができる。そして、この柱状ハニカム構造体200においては、第1セル208a及び第2セル208bが多孔質隔壁212を挟んで交互に隣接配置されている。
【0018】
柱状ハニカム構造体200の上流側の第一底面204にスス等の粒子状物質を含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル208aに導入されて第1セル208a内を下流に向かって進む。第1セル208aは下流側の第二底面206に目封止部209を有するため、排ガスは第1セル208aと第2セル208bを区画する多孔質隔壁212を透過して第2セル208bに流入する。粒子状物質は多孔質隔壁212を通過できないため、第1セル208a内に捕集され、堆積する。粒子状物質が除去された後、第2セル208bに流入した清浄な排ガスは第2セル208b内を下流に向かって進み、下流側の第二底面206から流出する。なお、ここでは第一底面204を排ガスの上流側とし、第二底面206を排ガスの下流側としたが、第一底面及び第二底面の区別は便宜上のものであり、第二底面206を排ガスの上流側とし、第一底面204を排ガスの下流側としてもよい。
【0019】
多孔質隔壁の気孔率の下限は、用途に応じて適宜調整すればよいが、流体の圧力損失を低く抑えるという観点からは、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。また、隔壁の気孔率の上限は、ハニカム焼成体の強度を確保するという観点から、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましい。気孔率は、水銀ポロシメータを用いて水銀圧入法によって測定される。水銀圧入法はJIS R1655:2003において規定されている。
【0020】
多孔質ハニカム構造体の耐熱衝撃性を高める上では、細孔径分布を制御することが有利である。ガス浄化性能を高めるために細孔径は全体的に小さくしながらも、細孔径分布は広い方が高い耐熱衝撃性が得られる。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、これは、以下の理由によると推定される。従来技術のように細孔径分布がシャープな場合、隔壁を構成する基材のネックの太さが均一になり、ネック部の強度も均一になるため、クラックが発生しやすい。一方、細孔径分布がブロードな場合、基材のネック部分が不均一であるため、ネック部の強度も不均一であり、所々に存在する強度の大きなネック部に支えられてクラックが発生しにくくなる。
【0021】
具体的には、多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)及び累積50%細孔径(D50)が、0.45≦(D50-D10)/D50の関係を満たすことが好ましく、0.50≦(D50-D10)/D50の関係を満たすことがより好ましく、0.55≦(D50-D10)/D50の関係を満たすことが更により好ましい。(D50-D10)/D50に上限は特に設定されないが、(D50-D10)/D50≦0.80を満たすことが一般的であり、(D50-D10)/D50≦0.70を満たすことが典型的であり、(D50-D10)/D50≦0.60を満たすことがより典型的である。水銀圧入法はJIS R1655:2003に規定されている。
【0022】
また、多孔質隔壁は、上述した(D50-D10)/D50の条件に加えて、3μm≦D50≦10μmを満たすことが望ましい。多孔質隔壁における累積50%細孔径(D50)の下限が3μm以上であることで、排ガス浄化用触媒の剥離を抑制できるという利点が得られる。多孔質隔壁のD50の下限は4μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、多孔質隔壁における累積50%細孔径(D50)の上限が10μm以下であることで、排ガス浄化用触媒の隔壁内部への浸み込みを抑制できるという利点が得られる。多孔質隔壁のD50の上限は8μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。
【0023】
更に、多孔質隔壁は、水銀圧入法により測定される体積基準の累積細孔径分布において、小細孔側からの累積10%細孔径(D10)、累積50%細孔径(D50)及び累積90%細孔径(D90)が、1.3≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことが好ましく、1.5≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことがより好ましく、1.7≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことが更により好ましく、1.9≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことが更により好ましく、2.1≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことが最も好ましい。(D90-D10)/D50に上限は特に設定されないが、(D90-D10)/D50≦2.8を満たすことが一般的であり、(D90-D10)/D50≦2.6を満たすことが典型的であり、(D90-D10)/D50≦2.4を満たすことがより典型的である。水銀圧入法はJIS R1655:2003に規定されている。
【0024】
多孔質隔壁は一実施形態において、共振法で測定されるヤング率が8~15GPaである。多孔質隔壁におけるヤング率の下限が8GPa以上であることで、隔壁強度を確保できるという利点が得られる。多孔質隔壁におけるヤング率の下限は9GPa以上であることが好ましく、10GPa以上であることがより好ましい。また、多孔質隔壁におけるヤング率の上限が15GPa以下であることで、耐熱衝撃性が向上するという利点が得られる。多孔質隔壁におけるヤング率の上限は14GPa以下であることが好ましく、13GPa以下であることがより好ましい。共振法はJIS R1602-1995に規定されている。
【0025】
多孔質ハニカム構造体に関する上記の細孔特性(気孔率及び細孔径分布)及びヤング率は、多孔質ハニカム構造体の複数個所から試料を採取して測定したときの平均値を測定値とする。
【0026】
柱状ハニカム構造体の各底面形状には特に制限はないが、例えば、円形状、長丸形状、楕円形状、オーバル形状、及び複数の異なる円弧成分からなる形状といったラウンド形状、並びに、三角形状、四角形状等の多角形状が挙げられる。ラウンド形状とは単純閉曲線の中でも、外周輪郭が内側へ凹んだ部分のない単純閉凸曲線で構成された形状を指す。
【0027】
セルの流路方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、柱状ハニカム構造体に流体を流したときの圧力損失が小さくなり、ガス浄化性能が優れたものとなる。
【0028】
柱状ハニカム構造体の各底面の面積は特に制限はないが、例えば、1900~97000mm2とすることができ、典型的には6400~32000mm2とすることができる。
【0029】
柱状ハニカム構造体の高さ(第一底面から第二底面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。柱状ハニカム構造体の高さは、例えば40mm~300mmとすることができる。柱状ハニカム構造体の高さと各底面の最大径(柱状ハニカム構造体の各底面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、柱状ハニカム構造体の高さが各底面の最大径よりも長くてもよいし、柱状ハニカム構造体の高さが各底面の最大径よりも短くてもよい。
【0030】
セル密度(単位断面積当たりのセルの数)についても特に制限はなく、例えば6~2000セル/平方インチ(0.9~311セル/cm2)、更に好ましくは50~1000セル/平方インチ(7.8~155セル/cm2)、特に好ましくは100~600セル/平方インチ(15.5~92.0セル/cm2)とすることができる。ここで、セル密度は、一方の底面におけるセルの数(目封止されたセルも算入する。)を、外周側壁を除く当該底面の面積で割ることにより算出される。
【0031】
多孔質隔壁の厚みについても特に制限はないが、例えば40μm~150μmとすることが好ましい。柱状ハニカム構造体の強度及びガス浄化性能を高めるという観点から、隔壁の厚みの下限は、40μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、圧力損失を抑制するという観点から、隔壁の厚みの上限は、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。本明細書において、隔壁の厚みは、セルの延びる方向に直交する断面において、隣接するセルの重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁を横切る長さを指す。
【0032】
(2.製造方法)
本発明の一実施形態に係る多孔質ハニカム構造体は、例えば以下の製造方法によって製造可能である。まず、コージェライト化原料、有機造孔材、バインダー、分散媒及び必要に応じてその他の添加剤(界面活性剤等)を含有する原料組成物を混練して坏土を形成する。次いで、坏土を成形することにより所望のハニカム成形体、典型的には柱状ハニカム成形体を作製する。成形方法としては押出成形が好適に使用可能である。押出成形に際して、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることで、当該ハニカム成形体の内部を通過し、隔壁によって区画される複数のセルチャンネルを有するハニカム構造を構築可能である。
【0033】
コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料である。コージェライト化原料としては、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ等を使用することができ、アルミナ(Al2O3)(アルミナに変換される水酸化アルミニウムの分を含む):30~45質量%、マグネシア(MgO):11~17質量%及びシリカ(SiO2):42~57質量%の化学組成からなることが望ましい。
【0034】
コージェライト化原料、特にタルク及びシリカは、多孔質ハニカム構造体の細孔径分布に有意に影響を与えることから、粉砕、篩別等により粒度調整がなされた原料を使用することが好ましい。具体的には、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、各コージェライト化原料の小粒子側からの累積50%粒子径(D50)の下限は、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることが更により好ましい。また、各コージェライト化原料の小粒子側からの累積50%粒子径(D50)の上限は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることが更により好ましい。
【0035】
有機造孔材としては、ポリアクリル酸系のポリマー、澱粉、発泡樹脂及びポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate:PMMA)等の高分子化合物の他、コークス(骸炭)を例示することが出来る。特に、ポリアクリル酸系のポリマーを使用することが好適である。有機造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。有機造孔材の含有量の下限は、ハニカム構造体の気孔率を高めるという観点からは、コージェライト化原料100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であるのがより好ましく、1.5質量部以上であるのが更により好ましい。有機造孔材の含有量の上限は、ハニカム構造体の強度を確保するという観点からは、コージェライト化原料100質量部に対して10.0質量部以下であることが好ましく、7.5質量部以下であるのがより好ましく、5.0質量部以下であるのが更により好ましい。
【0036】
有機造孔材の粒度分布は、多孔質ハニカム構造体の細孔特性に顕著に影響を与える。このため、粉砕、篩別等により適切な粒度分布を有する有機造孔材を使用することが求められる。具体的には、有機造孔材は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積10%粒子径(D10)及び累積50%粒子径(D50)が、0.32≦(D50-D10)/D50の関係を満たすことが好ましく、0.33≦(D50-D10)/D50の関係を満たすことがより好ましく、0.34≦(D50-D10)/D50の関係を満たすことが更により好ましい。(D50-D10)/D50に上限は特に設定されないが、(D50-D10)/D50≦0.80を満たすことが一般的であり、(D50-D10)/D50≦0.70を満たすことが典型的であり、(D50-D10)/D50≦0.60を満たすことがより典型的であり、(D50-D10)/D50≦0.40を満たすことが有利である。
【0037】
また、有機造孔材は、上述した(D50-D10)/D50の条件に加えて、10μm≦D50≦30μmを満たすことが望ましい。有機造孔材における累積50%粒子径(D50)の下限が10μm以上であることで、排ガス浄化用触媒の剥離を抑制するのに有効な大きさの細孔径が得られるという利点が得られる。有機造孔材のD50の下限は13μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、有機造孔材における累積50%粒子径(D50)の上限が30μm以下であることで、排ガス浄化用触媒の基材内部への浸み込みを抑制するのに有効な大きさの細孔径が得られるという利点が得られる。有機造孔材のD50の上限は28μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。
【0038】
更に、有機造孔材は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、小粒子側からの累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)及び累積90%粒子径(D90)が、0.75≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことが好ましく、0.78≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことがより好ましく、0.80≦(D90-D10)/D50の関係を満たすことが更により好ましい。(D90-D10)/D50に上限は特に設定されないが、(D90-D10)/D50≦1.50を満たすことが一般的であり、(D90-D10)/D50≦1.45を満たすことが典型的であり、(D90-D10)/D50≦1.40を満たすことがより典型的である。
【0039】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。また、バインダーの含有量は、ハニカム成形体の強度を高めるという観点から、コージェライト化原料100質量部に対して4質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であるのがより好ましく、6質量部以上であるのが更により好ましい。バインダーの含有量は、焼成工程での異常発熱によるキレ発生を抑制する観点から、コージェライト化原料100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であるのがより好ましい。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0040】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0041】
界面活性剤としては、特に限定されないが、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコールなどが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、コージェライト化原料100質量部に対して5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、例えば0.5~2質量部とすることができる。
【0042】
ハニカム成形体を乾燥した後、脱脂及び焼成を実施することで多孔質ハニカム構造体が得られる。乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程の条件は公知の条件を採用すればよく、特段に説明を要しないが以下に具体的な条件の例を挙げる。
【0043】
乾燥工程においては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。なかでも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。目封止部を形成する場合は、乾燥したハニカム成形体のセルチャンネルの端部の所定位置に目封止部を形成した上で目封止部を乾燥し、ハニカム乾燥体を得る。
【0044】
次に脱脂工程について説明する。バインダーの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300~1000℃程度である。従って、脱脂工程はハニカム成形体を200~1000℃程度の範囲に加熱して実施すればよい。加熱時間は特に限定されないが、通常は、10~100時間程度である。脱脂工程を経た後のハニカム成形体は仮焼体と称される。
【0045】
焼成工程は、ハニカム成形体の材料組成にもよるが、例えば仮焼体を1350~1600℃に加熱して、3~10時間保持することで行うことができる。
【0046】
多孔質ハニカム構造体を触媒担体として使用する場合には、多孔質隔壁に触媒を担持させることができる。多孔質隔壁に触媒を担持させる方法自体は特に制限はなく、公知の方法を採用すればよいが、例えば、多孔質隔壁に触媒組成物スラリーを接触させた後に、乾燥及び焼成する方法が挙げられる。
【0047】
触媒組成物スラリーは、その用途に応じて適切な触媒を含有することが望ましい。触媒としては、限定的ではないが、煤、窒素酸化物(NOx)、可溶性有機成分(SOF)、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)等の汚染物質を除去するための酸化触媒、還元触媒及び三元触媒が挙げられる。特に、本発明に係る多孔質ハニカム構造体をDPF又はGPFといったフィルタとして用いる場合、排気ガス中の煤及びSOF等のパティキュレート(PM)がフィルタに捕集されるため、パティキュレートの燃焼を補助するような触媒を担持することが好ましい。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、Zr、Ca、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【実施例】
【0048】
<実施例1~6、比較例1~4>
(1)コージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体の製造
試験番号に応じて、表2に示す各質量割合で、コージェライト化原料(タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ)、有機造孔材(ポリアクリル酸系のポリマー)、バインダー(ヒドロキシプロポキシルセルロース)、界面活性剤(脂肪酸石鹸)、及び水を混練して坏土を調製した。有機造孔材としては、粒度分布を調整した二種類のポリマーA、Bを使用した。
【0049】
上記で使用したコージェライト化原料及びポリマーA、Bの体積基準の累積粒度分布を、粒度分布測定装置(HORIBA社製の商品名:LA-960)を用いてレーザー回折/散乱法により測定した。この際、セルに試料(粉体)と水(分散しづらい場合はβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム水溶液も加える)を入れ、混ぜて分散させてから、粒度分布測定装置にセットした。表1に、ポリマーA及びポリマーBの他、ポリマーAとポリマーBを混合した実施例6におけるポリマーの混合物の累積10%径(D10)、累積50%径(D50)、累積90%径(D90)、(D50-D10)/D50、及び(D90-D10)/D50を示す。表2にコージェライト化原料及びポリマーA、Bの累積50%径(D50)を示す。
【0050】
【0051】
【0052】
試験番号に応じたそれぞれの坏土を連続押出成形機に投入し、所定形状の口金を介して押出成形することにより円柱状のハニカム成形体を得た。得られた円柱状のハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、所定の寸法となるように両底面を切断してハニカム乾燥体を得た。
【0053】
得られたハニカム乾燥体について、大気雰囲気下で約200℃で約8時間加熱脱脂し、更に大気雰囲気下で約1430℃で4時間焼成し、各試験番号に係るコージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体を得た。なお、各試験番号に係るコージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体は以下の特性評価に必要な数を作製した。
【0054】
(2)仕様
得られた多孔質ハニカム構造体の仕様は以下である。
全体形状:直径約132mm×高さ約90mmの円柱状
セルの流路方向に垂直な断面におけるセル形状:正方形
セル密度(単位断面積当たりのセルの数):表3参照
隔壁厚:表3参照(口金の仕様に基づく公称値)
【0055】
(3)細孔特性(気孔率、細孔径分布)
上記の製造方法によって得られたコージェライトを含有する多孔質ハニカム構造体の多孔質隔壁の気孔率及び体積基準の累積細孔径分布(D10、D50、D90)を、水銀ポロシメータ(Micromeritics社製の商品名:AutoPore IV)を用いてJIS R1655:2003に規定されている水銀圧入法により測定した。水銀ポロシメータによる測定は、円柱状の多孔質ハニカム構造体の高さ方向中央部の中心付近と外周付近の2か所から試料(縦×横×高さ=約13mm×約13mm×約13mmの立方体)をそれぞれ採取して行い、その平均値を測定値とした。この際、コージェライトの真密度2.52g/cm3を使用した。各試験番号に係る多孔質ハニカム構造体について、気孔率及び細孔径分布の測定結果を表3に示す。
【0056】
(4)ヤング率
各試験番号に係る多孔質ハニカム構造体について、弾性率測定装置を用いてJIS R1602-1995に規定されている共振法により測定した。ヤング率(=曲げ共振法による弾性率)の測定は、円柱状の多孔質ハニカム構造体の高さ方向中央部の中心付近と外周付近の2か所から試料(幅×厚さ×長さ=約20mm×約10mm×約90mmの直方体)をそれぞれ採取して行い、その平均値を測定値とした。
【0057】
(5)耐熱衝撃性
各試験番号に係る多孔質ハニカム構造体について、以下の方法により耐熱衝撃性を測定した。結果を表3に示す。
1.多孔質ハニカム構造体を設定温度(初期設定温度=550℃)に保持された電気炉に1200秒間入れる。
2.多孔質ハニカム構造体を電気炉から取り出し、室温の耐熱レンガの上に置き、15分間自然放置する。
3.15分後、冷却ファンを使用して多孔質ハニカム構造体の温度を室温まで下げる。
4.目視によるクラックの有無確認を行う。
5.クラック無ならば合格。
6.クラック無の場合は、1.の設定温度を50℃ずつ上げてクラックが入るまで上記手順を繰り返し、「クラック発生温度-50℃」を測定値とする。
【0058】
【0059】
(6)考察
表3に示す結果から分かるように、実施例1~6、比較例1~4はそれぞれ、3μm≦D50≦10μmの条件を満たしており、全体としては細孔径が小さい。しかしながら、実施例1~6においては、更に0.45≦(D50-D10)/D50の関係を満たし、細孔径分布が広いことで、耐熱衝撃性が比較例1~4に比べて顕著に向上していることが分かる。そして、実施例1~6の中でも、0.50≦(D50-D10)/D50を満たす実施例1~4は特に耐熱衝撃性が優れていたことが分かる。
【符号の説明】
【0060】
100 柱状ハニカム構造体
102 外周側壁
103 側面
104 第一底面
106 第二底面
108 セル
112 隔壁
200 柱状ハニカム構造体
202 外周側壁
203 側面
204 第一底面
206 第二底面
208a 第1セル
208b 第2セル
212 隔壁