(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240501BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20240501BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20240501BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
H01L21/52 B
B23K35/26 310A
H01L21/52 D
B23K1/00 330E
C22C13/00
(21)【出願番号】P 2021048077
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長井 彰平
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-065301(JP,A)
【文献】特開2019-013957(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
B23K 35/26
B23K 1/00
C22C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(20)と、
前記基板の法線方向で前記基板に対向している半導体素子(10)と、
前記半導体素子を前記基板に接合するSn系はんだ層(30)と、
を備えており、
前記Sn系はんだ層に含まれるSn結晶のC軸(31)が、前記法線方向から見たときの前記Sn系はんだ層の中央部(32)において前記法線と45度より大きい角度で交差しており、前記中央部32を囲む周辺部(33)において前記法線と45度以下の角度で交差している、または、前記法線と平行である、半導体装置。
【請求項2】
前記C軸は、前記中央部において前記法線と直交している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
基板(20)と、
前記基板の法線方向で前記基板に対向している半導体素子(10)と、
前記半導体素子を前記基板に接合するSn系はんだ層(30)と、
を備えている半導体装置の製造方法であり、
前記半導体素子と前記基板の間に配置されたSn系はんだ材(35)を熱して溶かす第1工程と、
溶融した前記Sn系はんだ材を冷やして固化させる第2工程と、
を備えており、
前記第2工程では、前記基板と冷却器の間に伝熱板(50)が挟まれており、前記伝熱板は、前記法線方向からみたときの前記Sn系はんだ層の中央部(32)に対向する第1範囲(51)の熱伝導率が、前記中央部を囲む周辺部(33)に対向する第2範囲(52)の熱伝導率よりも高い、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、半導体素子がSn系はんだ層で基板に接合されている半導体装置が開示されている。Sn結晶は異方性を有する。Sn系はんだ層は、温度変化により非弾性歪を生じるが、この非弾性歪に異方性がある。非弾性歪は、Sn結晶構造のC軸方向で最も大きい。非弾性歪の大きい方向に繰り返し力が加わると、Sn系はんだ層の劣化の進みが早くなる。そこで、特許文献1の技術では、Sn系はんだ層に含まれるSn結晶のC軸がSn系はんだ層の最大応力方向と直交するようにSn系はんだ層を形成する。基板と半導体素子の間のはんだ層に作用する最大応力は基板に平行な方向を向く。すなわち、特許文献1の技術では、Sn系はんだ層に含まれるSn結晶のC軸が基板の法線方向を向くようにSn系はんだ層を形成する。
【0003】
一方、はんだ層に電流が流れると、エレクトロマイグレーションという現象が生じることが知られている(特許文献2)。エレクロマイグレーションは、電子の流れにより金属原子が移動する現象である。Sn(錫)はCu(銅)などの金属と比較して電子流による原子移動が生じ易いことが知られている。すなわち、Sn系はんだ層ではエレクトロマイグレーションが進行し易い。Sn系はんだ層でエレクトロマイグレーションが進行すると、Sn系はんだ層の金属分布が不均一になる。すなわち、Sn系はんだ層が劣化する。Sn結晶のC軸が電子流の方向と一致すると、エレクトロマイグレーションが進行し易くなる。基板と半導体素子がはんだ層で接合されている半導体装置の場合、電子流(すなわち電流)は、主に、基板の法線方向に流れる。すなわち、Sn結晶のC軸が基板の法線方向を向くようにSn系はんだ層を形成すると、エレクロマイグレーションが進行し易くなる。そこで、特許文献2の技術では、Sn結晶のC軸が基板と平行になるようにSn系はんだ層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-65301号公報
【文献】特開2016-51844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Sn系はんだ層の非弾性歪を小さくするにはSn結晶のC軸を基板の法線方向に向ければよいが、その場合、エレクトロマイグレーションの影響が大きくなる。Sn系はんだ層をエレクトロマイグレーションの影響を低減するにはSn結晶のC軸を基板の法線に直交させればよいが、その場合、非弾性歪が大きくなる。本明細書は、非弾性歪とエレクトロマイグレーションの双方に対して耐性が高い半導体装置とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する半導体装置は、基板と、基板の法線方向で基板に対向している半導体素子と、半導体素子を基板に接合するSn系はんだ層を備える。Sn系はんだ層に含まれるSn結晶のC軸は、法線方向から見たときのSn系はんだ層の中央部において法線と45度より大きい角度で交差している。C軸は、中央部を囲む周辺部において法線と45度以下の角度で交差している、または、C軸は法線と平行である。なお、C軸と法線のなす角度は、鋭角側の角度を意味する。
【0007】
上記した半導体装置では、Sn系はんだ層の中央部ではC軸が法線と45度より大きい角度で交差する。C軸が法線と45よりも大きい角度で交差していれば、Sn系はんだ層は、非弾性歪は小さくならないが、エレクトロマイグレーションの影響を抑えることができる。周辺部では、C軸が法線と45度以下の角度で交差している、またはC軸が法線と平行であるので、エレクトロマイグレーションの影響を抑える効果は小さいが、Sn系はんだ層の非弾性歪は小さくなる。しかし、周辺部は中央部と比べて電流が小さい。電流が小さいことで、周辺部におけるエレクトロマイグレーションの影響は、半導体装置全体としてみると小さい。一方、周辺部の非弾性歪を抑えることで、周辺部に囲まれている中央部の歪も抑えられる。本明細書が開示する半導体装置は、非弾性歪とエレクトロマイグレーションの双方に対して耐性が高い。
【0008】
中央部では、C軸が法線と直交しているとよい。Sn系はんだ層では、電流は、周辺部よりも中央部で多く流れる。それゆえ、中央部でC軸が法線と直交していると、エレクトロマイグレーションに対して特に高い耐性を得ることができる。逆に、周辺部では電流が多く流れないので、エレクトロマイグレーションの影響が少ない。
【0009】
本明細書は、上記した構造を有する半導体装置の製造方法も開示する。その製造方法は、第1工程と第2工程を備える。第1工程では、半導体素子と基板の間に配置されたSn系はんだ材を熱して溶かす。第2工程では、溶融したSn系はんだ材を冷やして固化させる。第2工程では、基板と冷却器の間に伝熱板が挟まれる。伝熱板は、基板の法線方向からみたときのSn系はんだ層の中央部に対向する第1範囲の熱伝導率が、中央部を囲む周辺部に対向する第2範囲の熱伝導率よりも高い。
【0010】
上記した伝熱板を用いると、Sn系はんだ層の中央部では熱が基板の法線方向に流れる。周辺部では、熱は法線方向に対して斜めに流れる。溶融したSn系はんだ材は、C軸が熱流に直交するように結晶化する。それゆえ、上記の伝熱板を採用することによって、中央部ではC軸は基板の法線に直交し、周辺部ではC軸が法線に対して傾斜するSn系はんだ層を形成することができる。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1のII-II線に沿った半導体装置の断面図である。
【
図5】半導体装置の製造工程を説明する図である(第1工程)。
【
図6】半導体装置の製造工程を説明する図である(第2工程)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施例)
図1、
図2を参照して第1実施例の半導体装置2を説明する。
図1に、半導体装置2の平面図を示す。
図2に、半導体装置2の断面図を示す。
図2は、
図1のII-II線に沿った半導体装置2の断面を示している。半導体装置2は、基板20の上に半導体素子10が接合されたデバイスである。
【0014】
図1、
図2の座標系において、Z軸は、基板20の法線方向に相当する。半導体素子10は基板20の法線方向で基板20に対向している。
【0015】
はんだ層30が半導体素子10を基板20に接合している。説明の都合上、基板20の法線方向(Z方向)からみたときのはんだ層30の中央部を中央部32と称し、中央部32を囲む領域を周辺部33と称する。
【0016】
半導体素子10は、パワートランジスタであり、一方の面にコレクタ電極11が配置されており、他方の面にエミッタ電極12が配置されている。
図2では、電極以外の半導体素子の構造は図示を省略した。基板20には配線パターン21が形成されている。配線パターン21は基板20の表面に形成された導通経路を意味する。
【0017】
基板20の配線パターン21と半導体素子10の電極(コレクタ電極11)が対向している。はんだ層30は、配線パターン21とコレクタ電極11に接する。基板20には不図示の回路が実装されており、はんだ層30と配線パターン21が、半導体素子10のコレクタ電極11を回路に電気的に接続する。エミッタ電極12を回路と電気的に接続する部材は図示を省略した。
【0018】
はんだ層30はSn(錫)を含有する。Snを含有するはんだはSn系はんだと称される。はんだ層30は、Sn系はんだ層である。Sn系はんだ材の一例として、Sn-3Ag-0.5Cu合金が知られている。はんだ層30ではSnが結晶化している。はんだ層30の中央部32と周辺部33ではSn結晶のC軸31の向きが相違する。中央部32におけるC軸31aと、周辺部33におけるC軸31bを区別なく示すときにはC軸31と表記する。
【0019】
中央部32におけるC軸31aは、基板20の法線22に対して45度よりも大きい角度で交差する。周辺部33におけるC軸31bは、法線22に対して45度以下の角度で交差する。あるいは、周辺部33におけるC軸31bは、法線22に対して平行である。
【0020】
図2(および
図3、
図4)では、角度Ang-aが、中央部32におけるC軸31aと法線22のなす角度を表し、角度Ang-bが、周辺部33におけるC軸31bと法線22のなす角度を表す。なお、C軸31と法線22のなす角度は、両線のなす鋭角を意味する。鈍角側も含む表現の場合は、次の通りである。中央部32におけるC軸31aと法線22のなす角度Ang-aは、45度よりも大きく、135度よりも小さければよい。周辺部33におけるC軸31bと法線22のなす角度Ang-bは、45度以下であればよい、または、135度以上であればよい。
【0021】
中央部32と周辺部33でC軸31の向きを上記の通りに異ならせることの利点を以下に説明する。Sn系はんだでは、はんだ内のSn結晶のC軸の向きが電流の流れる方向に一致すると、エレクトロマイグレーションが進行する(すなわち、はんだが劣化する)ことが知られている。逆に、C軸の向きが電流の方向と直交すると、エレクトロマイグレーションの進行が最も遅くなる。一方、Sn系はんだでは、C軸の方向の非弾性歪が他の方向の非弾性歪よりも大きくなる。従って、C軸の向きがはんだに作用する最大応力の向きに一致すると、はんだに生じる非弾性歪が大きくなる。すなわち、応力に起因する劣化が進行する。逆に、C軸の向きが最大応力の向きに直交すると、非弾性歪が最も小さくなる。すなわち、応力に起因する劣化の進行が最も遅くなる。
【0022】
基板20と半導体素子10に挟まれたはんだ層30では、電流の流れは基板20の法線22の方向を向き、最大応力の方向は法線22に直交する。C軸31が法線22に対して45度よりも大きい角度で交差する場合、非弾性歪を抑制する効果よりもエレクトロマイグレーションを抑制する効果が大きい。C軸が法線に対して45度以下の角度で交差する場合、エレクトロマイグレーションを抑制する効果よりも非弾性歪を抑制する効果が大きい。
【0023】
そこで、周辺部33よりも大電流が流れる中央部32では、C軸31aが法線22に対して45度よりも大きい角度で交差するようにはんだ層30を配置する。大電流が流れる中央部32では、エレクトロマイグレーションを抑制する顕著な効果が得られる。中央部32を囲む周辺部33では、C軸31bが法線22に対して45度以下の角度で交差するようにはんだ層30を配置する。周辺部33では、非弾性歪を抑制する顕著な効果が得られる。周辺部33で非弾性歪を抑えることができれば、周辺部33に囲まれている中央部32の非弾性歪も抑えることができる。中央部32では、C軸の向きに起因する非弾性歪抑制効果が小さくても、周辺部33が及ぼす非弾性歪抑制効果が得られる。半導体装置2のはんだ層30は、非弾性歪とエレクトロマイグレーションの双方に対して耐性が高い。
【0024】
(第2実施例)
図3に、第2実施例の半導体装置2aの断面図を示す。半導体装置2aでは、はんだ層30の中央部32におけるC軸31aは法線22に対して直交している(Ang-a=90度)。中央部32を囲んでいる周辺部33におけるC軸31bは法線22に平行である(Ang-b=0度)。C軸31の向きを上記の通りにすると、中央部32ではマイグレーションに対して最大の抑制効果が得られ、周辺部33では非弾性歪に起因する劣化に対して最大の抑制効果が得られる。
【0025】
(第3実施例)
図4に、第3実施例の半導体装置2bの断面図を示す。半導体装置2bでは、はんだ層30の中央部32におけるC軸31aは法線22に対して直交している(Ang-a=90度)。中央部32を囲んでいる周辺部33におけるC軸31bは法線22に対して45度で傾斜する(Ang-b=45度)。C軸31の向きを上記の通りにすると、中央部32ではマイグレーションに対して最大の抑制効果が得られ、周辺部33では非弾性歪に起因する劣化に対する抑制効果と、マイグレーションに対する抑制効果の両方が得られる。
【0026】
(第4実施例)次に、第1実施例の半導体装置2の製造方法を説明する。この製造方法は、第1工程と第2工程を含む。第1工程では、基板と半導体素子の間に配置したSn系はんだ材を加熱し、溶融させる。
図5に示すように、例えば、基板20と、半導体素子10と、それらの間に挟まれたSn系はんだ材35を高温炉60に入れて加熱する。第2工程では、溶けたはんだ材を冷却して固化させる。良く知られているように、固体あるいはペースト状のはんだ材を目的の場所に配置した後にはんだ材を溶かす接合方法は、リフローはんだ工程と呼ばれる。
【0027】
図6に、第2工程の様子を示す。なお、
図6では、配線パターン21と電極11、12の図示は省略した。溶融したSn系はんだ材を固化させるために、基板20に冷却器40が取り付けられる。基板20と冷却器40の間には、伝熱板50が挟まれる。伝熱板50は、基板20の法線方向(Z方向)からみたときの半導体素子の中央部32に対向する第1範囲51の熱伝導率が、中央部32を囲む周辺部33に対向する第2範囲52の熱伝導率よりも高い。
【0028】
溶けたSn系はんだ材の熱は、伝熱板50を通じて冷却器40に移動する。中央部32は、熱伝導率の高い第1範囲51に面しているので、中央部32の熱は基板20の法線(図中の座標系のZ軸)に平行に移動する。点線矢印線53が、はんだ層30の中央部32の熱の移動方向を表している。
【0029】
周辺部33は、熱伝導率の低い第2範囲52に面している。周辺部33の熱は、法線に平行には流れず、熱伝導率の高い第1範囲51に近づくように斜めに流れる。点線矢印線54が、周辺部33の熱の移動方向を表している。Snが固化する場合、熱流に対してC軸が直交するように結晶化する。それゆえ、中央部32ではC軸31aが法線(Z軸)に直交し、周辺部33ではC軸31bが法線(Z軸)に対して傾く。伝熱板50の第1範囲51と第2範囲52の境界の位置を適切に決めることにより、周辺部33におけるC軸31bを法線(Z軸)に対して45度以下にすることができる。こうして、第1実施例の半導体装置2が得られる。
【0030】
第2範囲52の熱伝導率は第1範囲51の熱伝導率よりも低ければよいので、第2範囲52は空隙であってもよい。
【0031】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。半導体素子10は、トランジスタに限られない。
【0032】
はんだ層30の中央部32と周辺部33は、境界が明確になっていなくともよい。別言すれば、中央部32と周辺部33の境界領域においては、C軸31の向きが徐々に変化していてよい。中央部32の大部分の領域でC軸31aが法線22に対して45度より大きな角度で交差しており、周辺部33の大部分の領域でC軸31bが法線22に対して45度以下の角度で交差していればよい。あるいは、周辺部33の大部分の領域でC軸31bが法線と平行であればよい。
【0033】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0034】
2、2a、2b:半導体装置 10:半導体素子 11、12:電極 20:基板 21:配線パターン 22:法線 30:はんだ層 31、31a、31b:C軸 32:中央部 33:周辺部 35:Sn系はんだ材 40:冷却器 50:伝熱板 51:第1範囲 52:第2範囲 60:高温炉