(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ホスホネート難燃剤とポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240501BHJP
C08K 5/5353 20060101ALI20240501BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240501BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20240501BHJP
C07F 9/38 20060101ALI20240501BHJP
C07F 9/40 20060101ALI20240501BHJP
C07F 9/6533 20060101ALI20240501BHJP
C07F 9/6509 20060101ALI20240501BHJP
C07F 9/6521 20060101ALI20240501BHJP
C07F 9/6574 20060101ALI20240501BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/5353
C08K3/013
C08K3/016
C07F9/38 E
C07F9/40 E
C07F9/6533
C07F9/6509 Z
C07F9/6521
C07F9/6574 Z
C07F9/6574 A
C09K21/12
(21)【出願番号】P 2021507482
(86)(22)【出願日】2019-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2019071616
(87)【国際公開番号】W WO2020035458
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】102018119835.3
(32)【優先日】2018-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504098118
【氏名又は名称】ケミッシュ ファブリーク ブーデンハイム カーゲー
【氏名又は名称原語表記】CHEMISCHE FABRIK BUDENHEIM KG
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】ファスベンダー、バージット
(72)【発明者】
【氏名】フッテラー、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルムター、ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイス、ヘルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ラムゼイ、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】アッカーマン、ニクラス
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-095648(JP,A)
【文献】特開平06-049082(JP,A)
【文献】特開昭50-095227(JP,A)
【文献】特開2016-030798(JP,A)
【文献】特開昭54-135724(JP,A)
【文献】特開昭54-037829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C07F 9/00-9/94
C09K 21/00-21/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料、特に熱可塑性ポリマー材料を含み、前記ポリマー材料にハロゲンフリー難燃剤が組成物全体に対して1~40重量%の量で含有及び/又は結合された組成物において、前記難燃剤が、式(I)の化合物、その対応するアンモニウム塩、その対応するホスホネート塩、又はそれらの混合物であることを特徴とする組成物。
【化1】
(式(I)中、
(i)R
1及びR
2は、同一の又は異なる置換基であり、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル
、アルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む単核及び多核の芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アルキル又はアリールアルコールからなる群から選択され、又は、
(ii)R
1及びR
2は
Nと共に
ヘテロ環を形成し、
該ヘテロ環は、炭素、酸素、硫黄、リン、珪素及び窒素から選択される4~8の環原子を含む飽和又は単不飽和又は多不飽和のヘテロ環
であり、ここで前記ヘテロ環において前記環原子として窒素原子を含む場合、これらの窒素原子が、H、アルキル、アリール、又は以下の構造(II)をもつメチルビスホスホネート基
からなる群から選択される置換基を有し:
【化2】
また、ここで前記ヘテロ環において前記環原子として炭素、リン又は珪素を含む場合、これらの原子は、H、アルキル、アリール、-NH
2、-NHR、-NR
2、-OH、-OR、=O、-I、-Cl、-Br、(式中、R=アルキル、アリール)からなる群から選択される置換基を有してもよく、
ここで-X-は酸素原子(-O-)であるか、または-X-は単結合であり、
(i)R
3、R
4、R
5及びR
6は、同一の又は異なる置換基であり、H、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル、アルケニル及びアルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む多核芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アルキル又はアリールアルコール、カチオンからなる群から選択され、ここで前記カチオンは、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、B
3+、Al
3+、Zn
2+、NH
4
+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンであり、ここで、
(ia)R
1及びR
2がメチルに等しい場合、R
3、R
4、R
5及びR
6は、同一の又は異なる置換基であり、
H、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル、アルケニル及びアルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む多核芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アルキル又はアリールアルコール、カチオンからなる群から選択され、ここで前記カチオンは、Mg
2+、Ca
2+、B
3+、Al
3+、Zn
2+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンであり、
及び/又は、
(ii)-X-が酸素原子(-O-)である場合、-OR
3及び-OR
4は共に、及び/又は、-OR
5及び-OR
6は共に、ホスホネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスホン酸エステルを形成し、
及び/又は、
(iii)-X-が単結合である場合、R
3及び-OR
4は共に、ホスフィネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスフィン酸エステルを形成し、及び/又は、-OR
5及び-OR
6は共に、ホスホネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスホン酸エステルを形成する。)
【請求項2】
R
1及びR
2は
Nと共に
、モルホリン環又はピペリジン環を形成することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
R
1及びR
2が同一の又は異なる置換基であり、前記置換基の少なくとも1つがメラミン
から1つのアミノ基
を抜いた残基(2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-6-イル)であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
乾燥した前記難燃剤が、320℃を超える温度で、好ましくは335℃を超える温度で、特に好ましくは350℃を超える温度で、10重量%の質量損失に達することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記難燃剤のリン含有量が、少なくとも19.5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、特に好ましくは少なくとも21.5重量%、最も好ましくは少なくとも23.5重量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記基R
3、R
4、R
5及びR
6の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、特に好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは4つが、カチオン又はH,好ましくはHであり、ここで前記カチオンが、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、B
3+、Al
3+、Zn
2+、NH
4
+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記基R
3、R
4、R
5及びR
6の少なくとも1つが、有機基であり、前記有機基のそれぞれが3つを超える炭素原子を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリマー材料が、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリウレタン(PU)、ポリ尿素、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル(ASA)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ尿素、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリラクチド、ポリシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリ(イミド)、ビスマレイミドトリアジン、熱可塑性ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、前述のポリマーのコポリマー及び/又は混合物からなる群から選択される熱可塑性プラスチックであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリマー材料が、前記難燃剤を、組成物全体に対して少なくとも3重量%又は少なくとも5重量%又は少なくとも10重量%又は少なくとも15重量%の量で、及び/又は、最大で35重量%又は最大で30重量%又は最大で25重量%の量で含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
好ましくは、窒素塩基、メラミン誘導体、ホスフェート、ピロホスフェート、ポリホスフェート、有機及び無機ホスフィネート、有機及び無機ホスホネート及び前述の化合物の誘導体から選択され、好ましくは、メラミンを含むアンモニウムポリホスフェート、メラミン樹脂、メラミン誘導体、シラン、シロキサン、ポリシロキサン、シリコーン又はポリスチレンで被覆された及び/又は被覆且つ架橋されたアンモニウムポリホスフェート粒子、並びに、メラミン、メラム、メレム、メロン、アンメリン、アンメリド、2-ウレイドメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、ジアミノフェニルトリアジン、メラミン塩及び付加体、メラミンシアヌレート、メラミンボレート、メラミンオルトホスフェート、メラミンピロホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、アルミニウムジエチルホスフィネート、メラミンポリホスフェートを含む1,3,5-トリアジン化合物、オリゴマー及びポリマー1,3,5-トリアジン化合物及び1,3,5-トリアジン化合物のポリホスフェート、グアニン、ピペラジンホスフェート、ピペラジンポリホスフェート、エチレンジアミンホスフェート、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、ボロホスフェート、1,3,5-トリヒドロキシエチルイソシアヌレート、1,3,5-トリグリシジルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート及び前述の化合物の誘導体から選択される少なくとも1つの更なる難燃剤成分を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
炭酸カルシウム、タルクやクレイ、マイカ等のシリケート、シリカ、硫酸カルシウム及び硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維及びガラス球、並びに、木粉、セルロース粉体及び活性炭及び黒鉛から選択される少なくとも1つのフィラーを含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリマー材料を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、特に好ましくは少なくとも80重量%、及び最も好ましくは少なくとも90重量%の量で含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物の製造方法において、前記難燃剤が、重縮合又は重付加によって前記ポリマー材料に導入される前記ポリマー材料の共縮合成分又は共付加成分であり、前記ポリマー材料が、好ましくはポリエステル又はポリウレタンであることを特徴とする方法。
【請求項14】
ポリマー材料、特に熱可塑性ポリマーに難燃物性を与えるための難燃剤としての、式(I)の化合物、その対応するアンモニア塩、その対応するホスホネート塩又は前述の化合物の混合物の使用。
【化3】
(式中、
(i)R
1
及びR
2は、同一の又は異なる置換基であり、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル
、及びアルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む多核芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アルキル又はアリールアルコールからなる群から選択され、又は、
(ii)R
1及びR
2は
Nと共に
ヘテロ環を形成し、該ヘテロ環は、炭素、酸素、硫黄、リン、珪素及び窒素から選択される4~8の環原子を含む飽和又は単不飽和又は多不飽和のヘテロ環
であり、ここで前記ヘテロ環において前記環原子として窒素原子を含む場合、これらの窒素原子が、H、アルキル、アリール、又は以下の構造(II)をもつメチルビスホスホネート基
からなる群から選択される置換基を有し:
【化4】
また、ここで前記ヘテロ環において前記環原子として炭素、リン又は珪素を含む場合、これらの原子は、H、アルキル、アリール、-NH
2、-NHR、-NR
2、-OH、-OR、=O、-I、-Cl、-Br、(式中、R=アルキル、アリール)からなる群から選択される置換基を有してもよく、
ここで-X-は酸素原子(-O-)であるか、または-X-は単結合であり、
(i)R
3、R
4、R
5及びR
6は、同一の又は異なる置換基であり、H、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル、アルケニル及びアルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む多核芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アルキル又はアリールアルコール、カチオンからなる群から選択され、ここで前記カチオンは、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、B
3+、Al
3+、Zn
2+、NH
4
+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンであり、
及び/又は
(ii)-X-が酸素原子(-O-)である場合、-OR
3及び-OR
4は共に、及び/又は、-OR
5及び-OR
6は共に、ホスホネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスホン酸エステルを形成し、
及び/又は
(iii)-X-が単結合である場合、R
3及び-OR
4は共に、ホスフィネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスフィン酸エステルを形成し、及び/又は、-OR
5及び-OR
6は共に、ホスホネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスホン酸エステルを形成する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料と、アミノメチルビスホスホネートに基づくリン含有難燃剤とを含む組成物、その組成物を製造するプロセス、その難燃剤の使用、及びその難燃剤の選択された構造に関する。
【背景技術】
【0002】
難燃特性を有するポリマー材料を提供する物質が数多く知られているが、それらは単独で用いられるか、同様の又は補助的な難燃特性を与える他の物質と組み合わせて用いられる。最も良く知られている難燃剤としては、ハロゲン化有機化合物、金属水酸化物、有機又は無機のホスフェートやホスホネート、ホスフィネート、並びに、1,3,5-トリアジン化合物の誘導体及びそれらの混合物がある。これらの難燃剤は、低分子量物質と高分子量物質とに区別できる。高分子量物質、すなわちClariant製のハロゲン化ポリオールExolit OP 550等のポリマー難燃剤は、低分子量難燃添加剤とは対照的に、ポリマー材料において可塑化効果が無視できる程度であり且つマイグレーション能が低い点で有利であるが、それらは、特に溶融能が低い場合、技術的処理中に保護すべきポリマー材料と混合しにくいことが多い。更に、高分子量難燃剤を添加した場合、ポリマー材料の硬化が損なわれうる。
【0003】
従って、使用されている難燃剤の大半は低分子量化合物である。この分野において、とりわけリン含有化合物が特に効率的であることが分かっている。ポリマー材料では、火災の際には、これらは膨張して嵩のある保護層となり、これは泡沸と称される。ここで、酸素の供給を抑制する分離層が形成されて、ポリマー材料が更に燃焼するのを防止する。更に、固相における難燃作用は、ポリマー材料の炭化量の増加や無機ガラスの形成に基づくものである。気相メカニズムも難燃活性に寄与し、ポリマー材料の燃焼プロセスは、リン化合物の燃焼から生じるPOラジカルとのラジカル結合によって大幅に減速される。最も重要なリン含有化合物は、ハロゲン化ホスフェートであるトリス(2-クロロエチル)ホスフェート(TCEP)及びトリス(2-クロロイソプロピル)ホスフェート(TCPP)である。しかしながら、それらの使用に伴う潜在毒性及び生態学的問題、特にこの種のホスフェートは生物蓄積を生じるが地方自治体の下水処理場では排水からそれらを除去するのが難しいため、それらの使用はますます規制されてきている。更に、それらはハロゲンを含み、火災の際には、HXガスや他の有毒化合物の発生及び放出に繋がる。この種の腐食性の燃焼ガスは、特に電子分野において大きなリスクとなる。
【0004】
ホスフェート含有難燃剤の代替物は、ハロゲン化ホスホネート及びハロゲンフリーホスホネートである。ホスフェートと比べて、これらは、特に顕著な難燃気相活性を示す。特許文献1は、ポリウレタンにおける難燃剤としての、リン含有量が最大で23.2重量%のアミノメタンホスホン酸エステルの使用を記載している。このアミノメタンホスホン酸エステルは、ヘキサメチレンテトラミン及びジアルキルホスホネート又はジアリールホスホネートから生成される。これらのホスホネートを使用するには、それらを、ポリウレタン形成混合物のポリオール成分において他の任意に必要とされる添加物と共に溶解し、ポリイソシアネートをそれに添加する。イソシアネート基への添加によって、NH基を含むエステルがポリマー材料に組み込まれる。
【0005】
特許文献2は、ポリマー材料、特にポリウレタンにおいて難燃性添加物として主に使用されるN,N-ビス-(2-ヒドロアルキル)アミノメタンホスホン酸ジメチルエステルの製造に関する。それらを合成するには、ジメチルホスファイト及びオキサゾリジンの混合物を、触媒としてのH-酸化合物に添加する。生成物は、末端第二ヒドロキシ基を有するため、ポリウレタン形成混合物のポリオール成分に添加すると、ポリマー材料に組み込まれる。そして、添加されたH-酸物質は、ポリマー材料内に残り、その結果、物性が損なわれうる。その代案として、それらをホスホン酸エステルから分離できるようにするために、ポリオール成分に添加する前に、それらを対応するアルカリ塩に変換する必要がある。
【0006】
特許文献3は、発泡体、熱可塑性プラスチック、及びデュロプラスチックにおいて難燃剤として使用できるアミノメタンホスホン酸アリールエステルに関する。対応する化合物は、アミンをトリアルキルホスファイト又はトリアリールホスファイト及びパラホルムアルデヒドと反応させることによって生成される。生成物は、押出成形プロセスで処理されるポリマー材料に、又は、重縮合反応における共縮合成分の添加物として添加できる。
【0007】
非特許文献1は、DOPO(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン10-オキシド)、パラホルムアルデヒド及びピペラジンから生成される、難燃作用をもつDOPO誘導体を開示している。それらは、ハロゲンフリーであり、ポリカーボネートにおいて使用する際に難燃作用を有する。しかしながら、これらの化合物は、上述の文献においても、P-CH2N基のP-C結合が弱いため、熱安定性が低いことを示している。P-C結合は原則的には化学的且つ熱的に安定しているが、α-アミノ基がホモリシスにより生成される炭素ラジカルを安定化させているため、これらの難燃剤におけるP-C結合の切断が比較的低い温度でも発生する。ホモリシスにより形成される三級アミンはモル質量が低いため、それが揮発性成分として逃げて、それに応じて質量損失をもたらす。難燃剤がポリマー材料に組み込まれると、アミンの放出によってヒュームがより多く形成される。その低い分解温度のために、その難燃剤は、それが組み込まれるポリマー材料の成形プロセス中も、部分的に分解される。これらの難燃剤の更なる欠点は、その低いリン含有量のために、ポリマー材料に対して高濃度で添加する必要があり、そのため、ポリマー材料の加工性や可撓性及び他の生成物物性が大きく損なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】独国特許第2128060号明細書
【文献】欧州特許第0001996号明細書
【文献】カナダ特許第2027078号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Liu et al.,Ind.Eng.Chem.Res.(2017),56,8789-8696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この背景に鑑み、本発明は、先行技術において知られている材料と同様の又はより良好な難燃特性をもち、良好な難燃作用をもちながら同時に組成物においてより低い濃度で使用することができ、既知の難燃剤よりも高い温度、好ましくはポリマー材料の処理温度及び/又は製造温度よりも極めて高く且つ分解温度と同じ又は少し低い温度でのみ分解し、且つ、その分解によって生じるポリマー材料におけるヒューム密度及び/又はヒューム毒性がより低いハロゲンフリー難燃剤を有するポリマー材料の組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、ポリマー材料、特に熱可塑性又はデュロプラスチックポリマー材料を含むとともに、それにハロゲンフリー難燃剤が組成物全体に対して1~40重量%の量で含有及び/又は結合され、前記難燃剤が式(I)の化合物、その対応するアンモニウム塩、その対応するホスホネート塩又はそれらの混合物である組成物を用いて本発明によって実現される。
【0012】
【0013】
(式(I)中、
(i)R1及びR2は、同一の又は異なる置換基であり、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル、及びアルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む多核芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アルキル又はアリールアルコールからなる群から選択され、又は、
(ii)R1及びR2はNと共にヘテロ環を形成し、該ヘテロ環は、炭素、酸素、硫黄、リン、珪素及び窒素から選択される4~8の環原子を含む飽和又は単不飽和又は多不飽和のヘテロ環であり、ここで、前記ヘテロ環において前記環原子として窒素原子を含む場合、これらの窒素原子がH、アルキル、アリール、又は以下の構造(II)をもつメチルビスホスホネート基からなる群から選択される置換基を有し、
【0014】
【0015】
また、ここで前記ヘテロ環において前記環原子として炭素、リン又は珪素を含む場合、これらの原子は、H、アルキル、アリール、-NH2、-NHR、-NR2、-OH、-OR、=O、-I、-Cl、-Br、(式中、R=アルキル、アリール)からなる群から選択される置換基を有してもよく、
ここで-X-は酸素原子(-O-)であるか、または-X-は単結合であり、
(i)R3、R4、R5及びR6は、同一の又は異なる置換基であり、H、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル、アルケニル及びアルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む多核芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アリル、アルキル又はアリールアルコール、カチオンからなる群から選択され、ここで前記カチオンは、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、B3+、Al3+、Zn2+、NH4
+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンであり、ここで、
(ia)R1及びR2がメチルに等しい場合、R3、R4、R5及びR6は、同一の又は異なる置換基であり、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル、アルケニル及びアルキニル、未置換の又はアルキル置換されたフェニル、最大4つの核を含む多核芳香族、最大4つの核を含む単核又は多核のヘテロ芳香族、シリル、アリル、アルキル又はアリールアルコール、カチオンからなる群から選択され、ここで前記カチオンは、Mg2+、Ca2+、B3+、Al3+、Zn2+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンであり、
及び/又は、
(ii)-X-が酸素原子(-O-)である場合、-OR3及び-OR4は共に、及び/又は、-OR5及び-OR6は共に、ホスホネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスホン酸エステルを形成し、
及び/又は、
(iii)-X-が単結合である場合、R3及び-OR4は共に、ホスフィネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスフィン酸エステルを形成し、及び/又は、-OR5及び-OR6は共に、ホスホネート基のP原子を含み、原子数4~10の環サイズをもつ環状ホスホン酸エステルを形成する。)
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図7】MOMP-Et
4の示差走査熱量測定を示す。
【
図9】MOMP-DOPO
2の示差走査熱量測定を示す。
【
図11】MOMP-H
2Znの示差走査熱量測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る難燃剤は、独国特許出願公開第3133308号明細書に記載されたプロセスを用いて製造できる。このプロセスによれば、無水酢酸又は塩化アセチルとリン酸からの反応生成物を化学量論比でアルキルホルムアミドと反応させると、アルキルアミノメタンジホスホン酸又はそのアクリル誘導体を、非常に高い収率で得ることができる。可能な限り高い収率を得るために、第一の反応工程、すなわち無水酢酸又は塩化アセチルとリン酸との反応は、40℃~60℃の反応温度で実施する。第一の反応工程では、上記遊離体(educts)、無水酢酸又は塩化アセチルとリン酸の代わりに、三塩化リン及び酢酸の混合物を使用してもよい。例えば、メチル及びジメチルホルムアミドやエチル及びジエチルホルムアミドといったモノアルキル及びジアルキルホルムアミド並びにモルホリン、ピペリジン、ピロリジン、オキサゾリジン及びアルカノールアミンのホルミル化合物を、適切なアルキルホルムアミドとして示すことができる。
【0018】
好ましい実施形態において、R1及びR2はNと共に、モルホリン又はピペリジン環、特に好ましくは式(II)及び(III)の構造を形成する。
【0019】
【0020】
好ましくは、これらの構造において、Xは-O-であり、R3、R4、R5及びR6は、H、Na+、NH4
+、Zn2+又はAl3+である。特に好ましい実施形態において、基R3、R4、R5及びR6の全てはHである。更に好ましい実施形態において、基R3、R4、R5及びR6のうち、3つはナトリウムであり、1つの基はHである。
【0021】
更なる実施形態において、R1及びR2はNと共に、1,3,5-トリアジンシクロヘキサン環、特に好ましくは式(IV)の構造を形成する。
【0022】
【0023】
更に好ましい実施形態において、R1及びR2はNと共に、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリシクロヘキサン環、特に好ましくは式(V)の構造を形成する。
【0024】
【0025】
更に好ましい実施形態において、R1及びR2は、同一の又は異なる置換基であり、置換基の少なくとも1つがメラミンであり、ここでアミノ基の窒素原子が、H、アルキル、アリール、又は以下の構造(II)をもつメチルビスホスホネート基からなる群から選択される置換基を有する。
【0026】
【0027】
特に好ましくは、アミノ基の窒素原子のそれぞれにおける置換基の1つがHであり、他が構造(II)をもつメチルビスホスホネート基である。他の好ましい実施形態において、窒素原子のそれぞれにおける両方の置換基が、構造(II)をもつメチルビスホスホネート基である。
【0028】
本発明に係る難燃剤は、窒素に対して位置αにある炭素が1つのホスホネート基と置換されているだけである先行技術で既知のホスホネートよりも高い熱安定性を有している。これは、分解温度が、比較対象となる既知のホスホネートよりも高いことを意味する。本発明の文脈において、“分解温度”は、難燃剤の乾燥サンプルの質量損失が2重量%に達する温度を意味すると理解されるべきである。一例として、アミノトリスメチレンホスホン酸(ATMP、CAS:6419-19-8)は、176.4℃ですでに2重量%の質量損失に達している(
図5を参照)。対応する質量損失は、本発明に係るホスホネートによってのみ、非常に高い温度で得られる(
図2及び4を参照)。温度によって決まるサンプルの質量損失は、熱重量分析によって測定できる。この場合、“乾燥”とは、難燃剤の含水量が0.5重量%未満であることを意味する。難燃剤の含水量は、当業者によく知られている方法、例えば、比色分析カールフィッシャー滴定や近赤外分光法で測定してもよい。本発明に係る難燃剤は、押出成形で通常採用される処理温度では分解せず、火災中に晒されるより高い温度で分解してその難燃作用を示すため、押出成形で処理されるポリマー材料に組み込むのに特に適している。
【0029】
また、本発明に係る難燃剤は、ヒューム生成が低いという点で有利である。これは、分解後のより高い残留質量(residual mass)がそれを証明している。
【0030】
本発明者らは、本発明に係る難燃剤の増大した熱安定性は、その特定の構造によるものだと考えている。原理的には、アミノメタンホスホネートの熱分解中、初めに、P-CN2N基の弱いP-C結合が壊れる。P-C結合は原則的には化学的且つ熱的に安定しているが、αアミノ基がホモリシスにより生成される炭素ラジカルを安定化させているため、アミノメタンホスホネート内のP-C結合が低い温度でも壊れる。先行技術の化合物においては、αアミノ基は比較的低い分子量を有するため、ホモリシスに続いて、対応するアミンが気体状生成物として離脱しうる。アミンの離脱は反応の熱力学的駆動力を構成するため、これが発生するのが好ましい。本発明の難燃剤において、更なるホスホネート基が、アミノ基に対して位置αにおいて炭素ラジカルに結合する。このようにして、アミンはより高い分子量を有し、原理的には、それが離脱する程度は非常に低くなる。アミンはより低い温度で離脱しうるため、それらは低い質量を有する必要があり、これは、第二のホスホネート基に対するP-C結合が均等に開裂する場合にのみ実現できる。この場合特に不安定な炭素アニオンが生成されうるため、この反応は発生しないか、あるいは実質的に発生しない。対応して、ポリマー材料における分解中、発生するアミンの放出は非常に小さく、観察されるヒュームの発生も低い。更に、結合の開裂後、アミンはすぐには離脱せず、その後逆反応、すなわち2つのラジカルが結合して出発化合物を形成することも考えられる。上述の効果が、先行技術の化合物において利点であった程ではないが、P-C結合を開裂させるのに寄与するため、本発明に係るアミノメタンホスホネートが非常に高い熱安定性を示す。
【0031】
本発明の好ましい実施形態において、分解温度、すなわち2重量%の乾燥難燃剤の質量損失は、200℃、特に好ましくは220℃を超える温度で、最も特に好ましくは245℃を超える温度でのみ達する。
【0032】
アミノ基に対して位置αにある炭素原子がホスホネート基と二重に置換されるため、本発明に係る難燃剤は、既知の先行技術のホスホネートよりも高いリン含有量を有する。リン含有難燃剤の難燃効果は、リン含有量の増加に伴って増大することが示されている。従って、使用する難燃剤の単位質量当たりの有効性、すなわち難燃効果は、本発明に係る難燃剤において特に高い。そして、ポリマー材料における難燃剤の濃度が低くても、良好な難燃効果が得られる。同時に、ポリマー材料の物性、特に加工性及び破断点伸びはほとんど影響を受けない。好ましい実施形態において、難燃剤のリン含有量は、少なくとも19.5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、特に好ましくは少なくとも21.5重量%、最も好ましくは少なくとも23.5重量%である。本発明に係る難燃剤のリン含有量を高くするために、基R1-R6は、出来るだけ低い質量を有すると有利である。
【0033】
特に、有利には触媒作用による重合反応の1つ以上の成分に対して添加物として添加する場合、本発明に係る難燃剤は、塩又はエステルとして、特に好ましくは塩として使用するのが有利である。これによって、成分、例えば反応用触媒との、難燃剤の遊離酸基のあらゆる反応を避けられる。pH応答性ポリマー材料、すなわち構造が修飾され、及び/又は、酸の作用によって分解するポリマー材料とでも、本発明に係る難燃剤は、塩又はエステルとして使用すると有利である。更に、この種の用途においては、塩の形態が、水に溶解し、ポリオールとある程度均質に混合される。難燃剤をエステルとして使用する場合、これは疎水性としてみなされるため、追加的に、マトリックスとの良好な結合が得られ、またより良好な機械的特性及びポリマーからのマイグレーションの低減に繋がる。
【0034】
従って、本発明の好ましい実施形態において、基R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、特に好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは4つがカチオンであり、そのカチオンが、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、B3+、Al3+、Zn2+、NH4
+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンである。Na+及びCa2+が特に好ましい。Na+の使用が、低モル質量であるため難燃剤におけるリンの重量比を出来るだけ高く維持できることから最も特に好ましい。
【0035】
特に、保護すべきポリマーが非極性ポリオレフィンではなくポリアミドやポリウレタン、ポリ尿素、ポリエステル等の極性ポリマーである場合、本発明に係る難燃剤を酸として使用するのが有利である。特に共縮合/付加成分を使用する場合、難燃剤が酸であると有利である。従って、本発明の好ましい実施形態において、基R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、特に好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは4つがHである。一例として、本発明に係る難燃剤は、共付加成分として、ポリウレタン発泡プロセスに酸の形態で使用すると有利である。この理論に縛られるのを望むことなく、本発明者らは、イソシアネート及びホスホン酸基の反応のために、難燃剤がポリマーに組み込まれると共に特に安定なP-O-C(=O)-N基を形成し、それがポリウレタンの分解挙動にプラスの効果をもたらすと考えている。これは、重付加により生成される他のポリマー、例えば酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、ポリエチレングリコール及びポリ尿素の場合にも当てはまる。ここで再び、ホスホン酸基が成分の一つと反応することによってポリマーに組み込まれる。そして特に好ましくは、本発明に係る難燃剤は、これらのポリマーの製造において共付加成分として酸の形態で使用される。
【0036】
類似的に、好ましい実施形態において、本発明に係る難燃剤は、重縮合反応において共縮合成分として酸の形態で使用される。本発明者らは、ホスホン酸基が縮合反応の成分のヒドロキシ又はアミノ基と反応してこうしてポリマーに組み込まれると考えている。従って、本発明に係る難燃剤は、好ましくは、ポリエステル、ポリカーボネート及びポリアミドの製造において共縮合成分として酸の形態で使用される。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、基R3及び/又はR4及び/又はR5及び/又はR6は、2を超える炭素原子を含む有機基である。短鎖炭素基、特にメチルをもつホスホン酸エステルが、先行技術で知られている。これらは、分解条件下でアルキル化効果を有するが、そのため毒性が高い場合がある。一例として、ヒトDNAが恒久的に損傷しうる。しかしながら、アルキル化効果は、鎖長が長くなるにつれて急速に低下する。
【0038】
難燃剤を導入しうるポリマー材料は、好ましくは、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリ尿素、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル(ASA)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ尿素、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリラクチド、ポリシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリ(イミド)、ビスマレイミドトリアジン、熱可塑性ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリラクチド(PLA)、ポリヒドロ酪酸(PHB)、前記ポリマーのコポリマー及び/又は混合物からなる群から選択される。特に好ましくは、本発明に係る難燃剤は、上述のポリマー材料の発泡体、特に好ましくはポリウレタン発泡体において使用される。この点に関して、難燃剤は好ましくは、添加物又はポリオール成分の共縮合/付加成分として添加される。難燃剤を添加物として添加する場合は、塩又はエステルとして使用すると有利である。難燃剤を共縮合/付加成分として添加する場合は、好ましくは酸として使用する。
【0039】
特に好ましくは、この目的で使用される難燃剤において、R1及びR2はNと共に、モルホリン環を形成することで、式(II)の構造をもつ難燃剤が得られる。
【0040】
【0041】
これらのホスホネートは、難燃効果を示すだけでなく、ポリウレタン発泡を促進することが確認されている。
【0042】
好ましい実施形態において、ポリマー材料は、難燃剤を、ポリマー組成物全体に対して少なくとも1.5重量%又は少なくとも5重量%又は少なくとも10重量%又は少なくとも15重量%の量で、及び/又は、最大で35重量%又は最大で30重量%又は最大で25重量%の量で含む。
【0043】
これらの量で、一方でポリマー組成物の良好な難燃作用が確保され、他方でポリマー材料の加工及び材料物性の影響が小さくなる。
【0044】
本発明に係る難燃剤は、他の難燃剤、例えば他のメカニズムで難燃化するものと組み合わせて使用すると有利なことがある。本発明に係る難燃剤と他の難燃剤の相互作用を利用することによって、相乗効果、すなわち個々の成分の難燃作用の単純な合計を超えた効果が得られる。
【0045】
好ましい実施形態において、ポリマー材料は、好ましくは、窒素塩基、メラミン誘導体、ホスフェート、ピロホスフェート、ポリホスフェート、有機及び無機ホスフィネート、有機及び無機ホスホネート及び前述の化合物の誘導体から選択され、好ましくは、メラミンを含むアンモニウムポリホスフェート、メラミン樹脂、メラミン誘導体、シラン、シロキサン、ポリシロキサン、シリコーン又はポリスチレンで被覆された及び/又は被覆且つ架橋されたアンモニウムポリホスフェート粒子、並びに、メラミン、メラム、メレム、メロン、アンメリン、アンメリド、2-ウレイドメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、ジアミノフェニルトリアジン、メラミン塩及び付加体、メラミンシアヌレート、メラミンボレート、メラミンオルトホスフェート、メラミンピロホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、アルミニウムジエチルホスフィネート、メラミンポリホスフェートを含む1,3,5-トリアジン化合物、オリゴマー及びポリマー1,3,5-トリアジン化合物及び1,3,5-トリアジン化合物のポリホスフェート、グアニン、ピペラジンホスフェート、ピペラジンポリホスフェート、エチレンジアミンホスフェート、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、ボロホスフェート、1,3,5-トリヒドロキシエチルイソシアヌレート、1,3,5-トリグリシジルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート及び前述の化合物の誘導体から選択される少なくとも1つの更なる難燃剤成分を含む。好ましい実施形態において、ポリマー材料は、分散性を向上するために、更なる難燃剤成分としてワックス、シリコーン、シロキサン、脂肪又は鉱油を含む。
【0046】
好ましくは、ポリマー材料は、本発明に係る難燃剤に加えて、更なる難燃剤成分としてホスフェート、特にアンモニウムポリホスフェートを含む。ホスフェートの固相活性は通常ホスホネートのものよりも高いが、他方でホスホネートはより高い気相活性を有するため、その組み合わせを使用することによって特に良好な難燃作用が得られる。
【0047】
好ましい実施形態において、ポリマー材料における本発明に係る難燃剤の少なくとも1つの更なる難燃剤成分に対する比率は、1:18~1:1、好ましくは1:9~1:4、特に好ましくは1:6~1:4である。これらの比率は、更なる難燃剤成分としてアンモニウムポリホスフェートを使用する場合にも有効である。
【0048】
より好ましくは、本発明に係る難燃剤に加えて、ポリマー材料は、炭酸カルシウム、タルクやクレイ、マイカ、カオリン、珪灰石等のシリケート、シリカ、硫酸カルシウム及び硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維及びガラス球、並びに、木粉、セルロース粉体及び活性炭及び黒鉛から選択される他のフィラーを含む。これらのフィラーは、ポリマー材料に、更なる所望の物性を与える。特に、これによりポリマー材料の価格を低減でき、ポリマー材料を着色でき、例えばガラス繊維で補強することでその機械的特性を向上できる。
【0049】
本発明の更なる実施形態において、ポリマー材料は、1500重量ppm未満、好ましくは900重量ppm未満の総ハロゲン含有量を有する。ハロゲン含有量は、燃焼イオンクロマトグラフィー(CIC)等の当業者によく知られている分析方法を用いて測定できる。既知の難燃剤では、望ましくない無機的及び有機的に結合したハロゲンの形態のハロゲンが多く導入されるため、特にハロゲン含有量が低いと、先行技術の難燃剤と比べて有利である。本発明の文脈において、“ハロゲンフリー”という用語は、その最大量に含まれるハロゲンによる少量の混入を許容する。いずれにせよ、ハロゲンによる悪影響を避けるために、ハロゲン含有量は概して低く抑えられるべきである。
【0050】
難燃剤を、変形処理中に保護すべきポリマー材料に組み込む場合、その難燃剤の組み込み中に、分散剤を使用すると有利である。従って、本発明の更なる実施形態において、分散剤が、本発明に係るポリマー材料中に、本発明に係る難燃剤の重量に対して0.01~10重量%の量で、好ましくは0.1~5.0重量%の量で使用され、分散剤は、好ましくは、オレアミドやエルカミド等の脂肪酸モノアミド、脂肪酸ビスアミド及び脂肪酸アルカノールアミドを含む脂肪酸アミドから、グリセロールエステル及びワックスエステルを含む脂肪酸エステルから、C16~C18の脂肪酸から、セチル及びステアリル脂肪酸アルコールを含む脂肪酸アルコールから、天然及び合成ワックス、ポリエチレンワックス及び酸化ポリエチレンワックスから、金属ステアレート、好ましくはCa、Zn、Mg、Ba、Al、Cd及びPbステアレートから選択される。前述の分散剤を添加することによって、難燃剤の投入能力、ポリマー材料の押出成形性、及びポリマー材料中に分散させた難燃剤の均質性が向上する。
【0051】
本発明の更なる実施形態において、本発明に係る難燃剤は、0.6重量%未満、好ましくは0.4重量%未満の自由水含有量(水分含有量)を有する。低い含水量も、難燃剤の投入能力、ポリマー材料の押出成形性、及びポリマー材料中に分散させた難燃剤の均質性を向上、また加水分解に左右される分解も防止する。
【0052】
難燃剤は、様々な手段を使用してポリマー材料に導入できる。まず第一に、難燃剤は、成形プロセス中にポリマー材料に組み込んでもよい。例えば、ポリマー材料が押出成形によって加工される場合、難燃剤は、押出成形プロセス中に、例えばマスターバッチを用いて添加してもよい。本発明の文脈において“マスターバッチ”は、最終用途において高くなる濃度で難燃剤及び任意の更なる添加物を含む、顆粒又は粉体の形態のポリマー材料である。本発明に係るポリマー材料を製造するために、マスターバッチを、マスターバッチに含まれる難燃剤を含まない他のポリマー材料と、最終生成物における難燃剤の所望の濃度に対応した量又は比率で組み合わせる。マスターバッチは、高いプロセス信頼性を保証し、加工・投入が非常に容易であるという点で、ペーストや粉体、液体の形態の様々な物質の添加よりも有利である。押出成形を用いることで、難燃剤は、ポリマー材料中に均一に分散される。
【0053】
他の実施形態において、難燃剤は、重縮合又は重付加によるポリマー材料の製造に使用される、ポリマー材料の共縮合成分又は共付加成分である。難燃剤は、このようにしてポリマー材料に結合させることができる。難燃剤のポリマーへの組み込みは、適切な分析技術、特に31P NMR分光法を使用して検証できる。特に好ましい実施形態において、ポリマー材料は、ポリエステル又はポリウレタンである。対応する手順は、難燃剤が確実にポリマー材料に結合しポリマー材料から殆ど離脱しない又は全く離脱しない、すなわち“浸出”が特に低いという利点を有する。
【0054】
本発明はまた、式Iの化合物、その対応するアンモニア塩、その対応するホスホネート塩又はそれらの混合物である難燃剤において、基R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つがH又はカチオンであり、ここでそのカチオンが、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、B3+、Al3+、Zn2+、NH4
+、又は、メラミン又はその縮合生成物、好ましくはメラム、メレム、メロン、尿素、グアニジン、モルホリン及びピペラジンからなる群から選択されるアミン化合物のアンモニウムイオンであることを特徴とする難燃剤を含む。
【0055】
本発明はまた、ポリマー材料、特に熱可塑性ポリマーに難燃性を与えるための難燃剤としての、式Iに係る化合物、その対応するアンモニア塩、その対応するホスホネート塩又はそれらの混合物の使用を含む。
【実施例】
【0056】
以下、本発明に係る難燃剤の具体的な実施形態、本発明に係る組成物の製造例、並びに、難燃剤の例及び添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0057】
本発明に係る難燃剤の具体的な実施形態
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
本発明に係る組成物の製造例
【0072】
【0073】
更なる難燃剤:
Budit 240:国際公開第2014/124933号明細書の実施例1に基づき製造されたリン含有部分架橋ポリアクリレート
Budit 315:Chemische Fabrik Budenheim KG製のメラミンシアヌレート
Budit 342:Chemische Fabrik Budenheim KG製のメラミンポリホスフェート
Budit 667:アンモニウムポリホスフェートに基づくChemische Fabrik Budenheim KG製の膨張難燃剤系
TCPP:Sigma Aldrich製のトリス(2-クロロイソプロピル)ホスフェート、TCPP(CAS:13674-84-5)
OP550:Clariant AG製のリン含有ポリオール、Exolit OP 550(CAS:184538-58-7)
【0074】
測定方法:
動的示差熱量(DSC)測定を、10K/分の加熱速度で、窒素雰囲気下、25℃~500℃の範囲内で、同時に熱重量分析及び差走査熱量測定(STA/TG-DSC)を行うための機器、Netzsch Geratebau GmbH製のモデルSTA409 PC/3/H Luxxを用いて行った。サンプルは、およそ15mgに計量した。分析には、NETZSCH Proteusソフトウェアを使用した。
【0075】
熱重量分析(TGA)を、10K/分の加熱速度で、窒素雰囲気下、25℃~800℃の範囲内で、同時に熱重量分析及び差走査熱量測定(STA/TG-DSC)を行うための機器、Netzsch Geratebau GmbH製のモデルSTA409 PC/3/H Luxxを用いて行った。サンプルは、12-15mgに計量した。TGA曲線を分析するために、NETZSCH Proteusソフトウェアを使用した。
【0076】
実施例1:モルホリンアミノメチレンジホスホン酸(MOMP-H4)の合成
0.1モルの4-ホルミルモルホリンを500mL丸底フラスコに入れ、0.2モルのホスホン酸及び30mLの無水酢酸と混合した。反応溶液を、65℃で90分間攪拌した。次に、~30mbarの減圧下、ロータリーエバポレーターで、形成された酢酸及び余分な水を除去し、85℃で4時間乾燥キャビネットにおいて、残渣を、残っている溶媒から分離した。
【0077】
実施例2:ピペラジンジ(アミノメチレンジホスホン酸)(PIMP-H4)の合成
0.28モルのホスホン酸を、250mL丸底フラスコにおいて、31mLの脱塩水に溶解し攪拌した。この目的のために、15分間をかけて、30mLの脱塩水中の0.07モルのジホルミルピペラジンの溶液を滴加した。添加中、数度の温度上昇が観察された。添加が完了した後、反応混合物を、還流下更に3時間攪拌した。溶液を冷却した後、ロータリーエバポレーターを使用して余分な水を除去した。飽和ピペラジン溶液を、液体蒸留残渣に滴下した。熱の発生と共に、非晶質の白い沈殿物が形成された。
【0078】
実施例3:ジメチルアミノメチレンジホスホン酸(DAMP-H4)の合成
0.9モルのジメチルホルムアミドを500mL丸底フラスコに入れ、1.8モルのホスホン酸及び225mLの無水酢酸と混合した。反応溶液を、90℃で90分間撹拌した。次に、~300mbarの減圧下、ロータリーエバポレーターで、形成された酢酸及び余分な水を除去し、85℃で4時間乾燥キャビネットにおいて、残渣を残っている溶媒から分離した。
【0079】
実施例4:モルホリンアミノメチレンジホスホン酸(MOMP-H-Na3)の三ナトリウム塩の水溶液の合成
0.289mmolのモルホリンアミノメチレンジホスホン酸(MOMP-H4)を50mLの脱塩水に溶解し、0.867mmolのNaOHを添加した。溶液について~9のpHが得られた。
【0080】
実施例5:モルホリンアミノメチレンジホスホン酸テトラエチルエステル(MOMP-Et4) の合成
MOMP-Et4を製造するために、0.1モルのモルホリンを反応器に入れて撹拌した。更なる0.1モルのトリエトキシメタンを滴加した。次に、0.2モルのジエチルホスファイトを添加した。混合物を、120℃に加熱し、この温度で4時間攪拌した。反応が完了した後、生成物を、50mbar及び150℃で真空蒸留により精製した。
【0081】
【0082】
適切に置換された化合物はポリウレタン発泡合成において触媒として働きうるため、本発明の好ましい実施形態において、基R3、R4、R5及びR6の全ては、カチオン又は有機基、特に好ましくはエチルである。いずれもポリウレタンの合成を促進し且つ調製されたポリマーの難燃特性を向上するため、この種の化合物の使用は特に有利である。例えばMOMP-H4等のP-OH基を含む化合物は、対応する触媒作用を示さない。おそらくこれは、それが双性イオン(PO-/NH+)の形態で存在し、その四級アミノ基は触媒物性を何ら示さないためである。
【0083】
以下の試験において示されたように、発泡形成の開始時間として知られているものは、例えばMOMP-H4等のP-OH基を含む化合物と比較して、適切に置換された化合物を使用したときに大幅に短くなる。
【0084】
全般的方法:ポリオール(22.5g)を、触媒(エチレングリコール、1.05g)、ペンタン(4.5g)及び各難燃剤と1000rpmで混合した。ディスペンサーをオフにした状態でイソシアネート(MDI、60.0g)を添加し、混合物を1500rpmで10秒間攪拌し、すぐにデカントした。
【0085】
【0086】
実施例6:モルホリンアミノメチレンジ-DOPO(MOM-DOPO2)の合成
【0087】
【0088】
【0089】
反応は、縮合反応であり、4-ホルミルモルホリン(4-FM)上のホルミル官能基から且つDOPO分子のP-H基から、H2Oの脱離を伴って、生成物MOM-DOPO2が形成された。この目的のために、40gのDOPOを、250mLフラスコにおいて、100mLの無水酢酸(Ac2O)に溶解し、混合物を120℃に加熱した。その温度に達したときに、10gの4-FMを添加した。5時間後、80mLの水で中和し、雰囲気温度にて冷却させた。冷却後、白色固体が沈殿し、それをろ過し、水で洗浄した。更なる副生成物として、酢酸が形成された。
【0090】
実施例7:モルホリンアミノメチレンジホスホン酸Zn塩(MOMP-H2Zn)の合成
Zn塩(1:1)を製造するために、50.0g(0.191モル)のMOMPを500gのH2Oに分散させ、14.6gのZnO(0.191モル)を添加した。反応混合物を、95℃に加熱し、この温度で4時間攪拌した。次に、バッチを50℃まで冷却し、固体を母液から分離した。フィルターケーキを、周囲空気中120℃で乾燥させた。
【0091】
【0092】
実施例8:ピペラジンジアミノメチレンジホスホン酸(PIMP-H4)の合成
【0093】
【0094】
0.1モルの1,4-ジホルミルピペラジン及び0.1モルの無水酢酸を反応器に入れ、撹拌した。混合物を120℃に加熱した。別に、0.4モルのリン酸を0.3モルの無水酢酸に溶解した。そして、この溶液を、反応器に滴加した。次に、更なる0.5モルの無水酢酸を添加し、バッチを135℃に加熱した。30分の反応時間後、2.1モルの水を滴加した。40分の更なる反応時間後、バッチを室温まで冷却した。次に、70mLの水酸化ナトリウム溶液を添加した。生成物を母液から分離し、水に溶解した。次に、溶液を、硫酸で再び沈殿させ、生成物をろ過し、洗浄し、乾燥させた。
【0095】
難燃剤の実施例:
組成物
様々なポリマーにおける難燃特性を試験し、本発明に係る難燃剤組成物を分類するために、IEC/DIN EN60695-11-10で標準試験片に対してUL94試験を行った。
【0096】
UL94-V試験
各測定につき、5つの試験片を垂直位置に固定し、ブンゼンバーナーの炎を自由端に保持した。この点に関して、試験片の下方に配置したカット綿を用いて、燃焼時間及び燃焼部分の滴下も評価した。試験及び2cmの高さのブンゼンバーナーの炎を用いた炎処理の正確な実施を、アンダーライターズ・ラボラトリーズの規格UL94によるプロトコルに従って行った。
【0097】
結果は、難燃剤クラスV-0~V-2への分類として示した。V-0は、試験を行った5つの試験片の総燃焼時間が50秒未満であり、滴下した試験片のグローイングや燃焼している成分によりカット綿が発火することはなかったことを意味する。分類V-1は、試験を行った5つの試験片の総燃焼時間が50秒を超えたが250秒未満でありここでもカット綿は発火しなかったことを意味する。V-2は、試験を行った5つの試験片の総燃焼時間が250秒未満であったが、5つの試験の少なくとも1つにおいて滴下した試験片成分によりカット綿が発火したことを意味する。略語NCは、“not classifiable(分類不可能)”を表し、250秒を超える総燃焼時間が測定されたことを意味する。分類不可能の多くの場合において、試験片は完全に燃え尽きた。
【0098】
UL94-HB試験
各測定につき少なくとも3つの試験片を水平位置に固定し、ブンゼンバーナーの炎を自由端に保持した。この点に関して、燃焼速度及び総燃焼長を評価した。試験及び2cmの高さのブンゼンバーナーの炎を用いた燃焼処理の正確な実施を、アンダーライターズラボラトリーズの規格UL94に記載されている通りに行った。
【0099】
結果は、難燃性分類HBへの分類として示した。分類“HB”は、2つのマーク、燃焼端から25mmにある第1のマークと、燃焼端から100mm離れた第2のマークとの間における燃焼速度が40mm/分未満であったことを意味する。また、炎の先端は、100mmのマークを越えなかった。略語NCは、“non classifiable(分類不可能)”を表し、75mmの長さに亘って、燃焼速度>40mm/分又は総燃焼長>100mmであったことを意味する。
【0100】
実施例9:ポリプロピレンにおけるMOMP-H4の難燃物性
ポリマー
難燃剤組成物を製造するために、以下の実施例において、以下のポリマー材料を使用した。
Borealis AG製、ポリプロピレン(PP)HD120MO
【0101】
粒度がおよそ3×1×1mmの顆粒を、ポリプロピレンに対して一般的な押出条件下で、Thermo Fisher Scientific Inc.製の二軸押出機、Process11モデルを用いて製造した。押出成形プロセスは、およそ5-7kg/hのスループットで、且つ、スクリュー速度を450-500rpm及び押出ゾーンにおける温度を190-220℃として行った。続くホットプレスで、良質の、UL94に準拠した試験片が得られた。試験片の厚さは、1.6~3.2mmであった。押出成形プロセス中、実施例1に従って製造したホスホネートが、ポリマー材料に組み込まれた。
【0102】
【0103】
実施例10:ポリウレタン(PU)におけるMOMP-H4の難燃物性
難燃剤組成物を製造するために、以下の成分を発泡反応において共に反応させた:
ポリオール:22.5g
触媒(エチレングリコール):1.05g
ペンタン:4.5g
イソシアネート(MDI):60g
【0104】
反応前に、本発明に係る難燃剤をポリオール成分に添加した。以下の表に示す難燃剤の重量比は、ポリオール、触媒、難燃剤及びイソシアネートの質量の合計に対するものである。
【0105】
【0106】
実施例11:熱可塑性ポリウレタン(TPU)におけるMOMP-H4の難燃物性
以下の実施例において難燃剤組成物を製造するために、以下のポリマー材料を使用した:
BASF SE製、熱可塑性ポリウレタン:(TPU)Elastollan1185A
【0107】
粒度がおよそ3×1×1mmの顆粒を、TPUに対して一般的な押出条件下で、Thermo Fisher Scientific Inc.製の二軸押出機、Process11モデルを用いて製造した。押出成形プロセスは、およそ5kg/hのスループットで、且つ、スクリュー速度を300rpm及び押出ゾーンにおける温度を205℃として行った。続くホットプレスで、良質の、UL94に準拠した試験片が得られた。試験片の厚さは、0.8mmであった。押出成形プロセス中、実施例1に従って製造したホスホネートが、ポリマー材料に組み込まれた。
【0108】
【0109】
実施例12:熱可塑性ポリアミド(PA)におけるMOMP-H2Znの難燃物性
以下の実施例において難燃剤組成物を製造するため、以下のポリマー材料を使用した:
ポリアミド6:Ultramid B3S(BASF)
PA用ガラス繊維(GF):CS7928(Lanxess)
【0110】
粒度がおよそ3×1×1mmの顆粒を、PA6に対して一般的な押出条件下で、Thermo Fisher Scientific Inc.製の二軸押出機、Process11モデルを用いて製造した。押出成形プロセスは、およそ5kg/hのスループットで、且つ、スクリュー速度を300rpm及び押出ゾーンにおける温度を280℃として行った。続くホットプレスで、良質の、UL94に準拠した試験片が得られた。試験片の厚さは、0.8mmであった。押出成形プロセス中、実施例7(MOMP-H2Zn)に従って製造したホスホネートが、ポリマー材料に組み込まれた。
【0111】
【0112】
添付の図面は熱重量測定を表し、以下を示す。
図1:DAMP-H
4の示差走査熱量測定
図2:DAMP-H
4の熱重量測定
図3:MOMP-H
4の示差走査熱量測定
図4:MOMP-H
4の熱重量測定
図5:ATMPの示差走査熱量測定
図6:ATMPの熱重量測定
図7:MOMP-Et
4の示差走査熱量測定
図8:MOMP-Et
4の熱重量測定
図9:MOMP-DOPO
2の示差走査熱量測定
図10:MOM-DOPO
2の熱重量測定
図11:MOMP-H
2Znの示差走査熱量測定
図12:MOMP-H
2Znの熱重量測定
図13:PIMPの示差走査熱量測定
図14:PIMPの熱重量測定
【0113】