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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】血液サンプルの血小板を分析する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/49 20060101AFI20240501BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240501BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240501BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G01N33/49 X
G01N33/483 C
G01N21/64 F
C12Q1/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021529530
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 FR2019051867
(87)【国際公開番号】W WO2020025891
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】1857095
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】521047063
【氏名又は名称】エタブリスマン フランセ デュ サン
(73)【特許権者】
【識別番号】500248467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(73)【特許権者】
【識別番号】500262120
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】メートル, ブランディーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アングニュー, カトリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ ラ サール, アンリ
(72)【発明者】
【氏名】ガシェ, クリスチャン
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-517948(JP,A)
【文献】国際公開第2017/045691(WO,A1)
【文献】Lesley M. Chapman,Platelets Present Antigen in the Context of MHC Class I,J Immunol,2012年,Vol.189 No.2,Page.916-923
【文献】Binita Shah,Mean platelet volume reproducibility and association with platelet activity and anti-platelet therapy,Platelets,2014年,Vol.25 No.3,Page.188-192
【文献】D Vucetic et al,Flow cyrometry analysis of platelet populations: usefulness for monitoring the storage lesion in pooled buffy-coat platelet concentrates,Blood Transfusion,2018年01月31日,Vol.16,Page.83-92
【文献】Abcam, "Product datasheet Anti-HLA Class I antibody [W6/32]",2006年04月12日,https://www.abcam.com/hla-class-i-antibody-w632-ab22432.html
【文献】K Javela et al,Mean platelet size related to glycoprotein-specific autoantibodies and platelet-associated IgG,International Journal of Labiratory Hematology,2007年12月31日,vol.29,Page.433-441
【文献】小池由佳子,網血小板/幼若血小板比率の臨床応用,血栓止血誌,2018年,Vol.29 No.6,Page.555-557
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/49
G01N 33/483
G01N 21/64
C12Q 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプル中に存在する血小板集団を同定する方法であって、
(a)血液サンプル中に存在する血小板を分析する工程と、
(b)工程(a)の結果を用いて血小板集団を同定する工程と
を有し、
上記血小板集団は幼若血小板集団であり、
前記工程(a)が、
(a1)蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンドを上記サンプルに添加する工程と、
(a2)フローサイトメーターを用いて上記血小板の平均蛍光強度(MFI血小板)を測定する工程と、
(a3)上記フローサイトメーターを用いて平均前方散乱(FSC)パラメータを測定し、MFI血小板/FSC比を決定する工程と
を有する、
方法。
【請求項2】
上記血液サンプルは、全血のサンプル、又は血小板を含む全血画分のサンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記リガンドは抗体又は抗体断片である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
上記蛍光色素は、励起波長及び発光波長がRNAを検出するための試薬に干渉しない蛍光色素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記MFI血小板測定値を内部標準の平均蛍光強度(MFI標準)に対して正規化することで、正規化血小板平均蛍光強度(MFI正規化血小板)が得られ、工程(a3)は、上記フローサイトメーターを用いて平均前方散乱(FSC)パラメータを測定して、MFI正規化血小板/FSC比を決定することで構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
上記内部標準は上記蛍光色素結合リガンドに結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記内部標準は上記蛍光色素結合リガンドに結合するポリスチレンマイクロビーズである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
上記リガンドは、MHC Iアルファ鎖に少なくとも部分的に結合する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項6~のいずれか1項に方法を実施するためのキットであって、
蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンド、
内部標準、及び
指示書
を有するキット。
【請求項10】
蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンド、内部標準、及び指示書を有するキットであって、
(a)請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を実施することで対象の血液サンプル中に存在する血小板集団を同定する工程と、
(b)上記対象においてMFI血小板/FSC比及び/又はMFI正規化血小板/FSC比が、健常対象で測定した同パラメータに対して増加している場合、末梢性血小板減少症の陽性判定を下し、
上記対象においてMFI血小板/FSC比及び/又はMFI正規化血小板/FSC比のパラメータが、健常対象で測定した同パラメータと同様又は同一である場合、中枢性血小板減少症の陽性判定を下す工程と
を有する、
対象における末梢性又は中枢性血小板減少症を体外判定する方法を実施するための、
キット。
【請求項11】
蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンド、内部標準、及び指示書を有するキットであって、
(a)請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を実施することで、中枢性又は末梢性血小板減少症の治療を受けた患者の血液サンプル中に存在する血小板集団を同定する工程と、
(b)上記患者においてMFI血小板/FSC比及び/又はMFI正規化血小板/FSC比が、健常対象で測定した同パラメータに対して増加している場合、末梢性血小板減少症の治療が必要であると判定し、
上記患者においてMFI血小板/FSC比及び/又はMFI正規化血小板/FSC比のパラメータが、健常対象で測定した同パラメータと同様又は同一である場合、中枢性血小板減少症の治療が必要であると判定する工程と
を有する、
中枢性又は末梢性血小板減少症の治療の治療効果を体外で判定する方法を実施するための、
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体外血液分析方法の分野に関し、特に血液サンプル中に存在する血小板を分析する方法の分野に関する。より具体的には、本発明に係る方法を用いると、対象における末梢性又は中枢性血小板減少症を体外診断できる。
【背景技術】
【0002】
血小板は核を持たない血液細胞であり、骨髄中の巨核球が分裂して生成される。ヒトにおいて、通常は150,000~400,000個/μLの平均濃度で血液中に存在しており、出血を防止及び停止させる全ての現象を包含する生物学的プロセスである止血において必要不可欠な役割を果たす。
【0003】
いくつかの病態は、血液中の血小板数の異常に関係している。これは、血小板の血中濃度の上昇(すなわち血小板増加症)であったり、血小板の血中濃度の低下(すなわち血小板減少症)であったりする。
【0004】
血小板増加症の大半は重度の骨髄損傷(特に骨髄増殖症候群)に起因する。適切な医学的処置を採用できるように、このような種類の血小板増加症を検出することが必須である。血中血小板及び幼若血小板比率の初期分析は、はるかに侵襲的な手順である骨髄生検分析を行うこともある診査工程を容易に決定できる単純な手順である。
【0005】
血小板減少症は以下の2種類に識別できる。
・中枢性又は本態性血小板減少症:巨核球形成における質及び/又は数の欠陥に起因し、低血小板生成、ひいては低血小板血中濃度として現れる。中枢性血小板減少症にはいろいろな原因があり、遺伝的原因や後天的なものが考えられ、例えば、ビタミンB12欠乏、何らかのがん、脊髄形成異常症、肝損傷、又は化学療法や放射線療法のようなある種の治療が挙げられる。原因が特定されないケースもある。ベルナール・スーリエ症候群又はメイ・ヘグリン異常(MYH9)等、中枢性血小板減少症に関連することが知られている疾患もある。
【0006】
・末梢性血小板減少症は、循環血小板数の低下、代償的な巨核球形成の増加、それによる血小板生成の上昇を特徴とする。末梢性血小板減少症は、通常、自己抗体、又はある種の薬剤(ヘパリン、キニーネ等)の存在下で血小板に結合する抗体の作用などによって循環血小板が破壊されることで引き起こされる。従って、末梢性血小板減少症は、幼若血小板(未成熟血小板ともいう)比率の上昇を特徴とする。末梢性血小板減少症の最も一般的な原因は、自己免疫に由来する特発性血小板減少性紫斑病(ITP)である。また、末梢性血小板減少症は、循環血小板の消費をもたらしたり、アレルギー由来であったりする場合もある患者の炎症症状によっても説明され得る。
【0007】
血小板減少症は、点状出血又は紫斑として可視化される出血を引き起こすこともあり、鼻や口からの異常出血、重度の月経、血腫も生じ得る。
【0008】
血小板減少症の治療はその原因によって異なる。従って、中枢性血小板減少症と末梢性血小板減少症とを識別できることが必須である。
【0009】
血中の血小板数を、通常は「全血球数」、「CBC」、又は「血液像」と呼ばれる血液検査によって、測定することで、血小板減少症を同定する。血小板数が血液1Lあたり150×10個未満である場合、血小板減少症であると診断される。しかしながら、血小板数を測定するだけでは、中枢性血小板減少症と末梢性血小板減少症とを識別することはできない。
【0010】
従って、中枢性血小板減少症と末梢性血小板減少症との識別においては、血中の幼若血小板量、すなわち骨髄で生成されたばかりの血小板の量を決定することが特に肝心である。幼若血小板は、ラージRNA(メッセンジャーRNA及びリボソームRNA)含量が多く、サイズがわずかに大きいことで、他の循環血小板と識別される。RNAに結合すると蛍光放射が1000倍に増大する染料であるチアゾールオレンジ(TO)又はその類似体(アクリジンオレンジ等)を用いて、フローサイトメトリーにより幼若血小板を判別する。しかしながら、特にヒトにおいては、幼若血小板集団が通常は全血小板のわずか1~2%であることから、TO及びその類似体を幼若血小板の分析に用いるのは難儀である。事実、血小板におけるTO(又はその類似体)蛍光の一部は、細胞質RNAを標的とするRNaseによる処理に無反応であり、これは、ミトコンドリア核酸、又は密顆粒中に存在するヌクレオチドと結合した際の蛍光によって説明できる。従って、TO(又はその類似体)で血小板を標識すると、以下の2つの集団が明らかになる。1つ目は「TObright」と呼ばれるものであり、その強い蛍光は、RNaseで処理すると劇的に減少することから、RNA含量が多く、幼若血小板と効果的に対応するものである。2つ目は「TOdim」と呼ばれるものであり、そのTO(又はその類似体)蛍光は弱く、RNase処理に無反応であることから、細胞質RNAをほとんど又は全く含まず、幼若血小板と対応しない。
【0011】
このような制約があるにもかかわらず、血小板減少症の原因(すなわち、中枢性か末梢性か)を特定するのに今日まで使用されてきた手順は、TO類似体を用いて全血サンプル中の「未成熟血小板画分」又は「IPF」と呼ばれる幼若血小板集団を決定することに基づいている。例えば、Sysmex(登録商標)として知られているプロセスが挙げられる。Sysmex(登録商標)プロセスでは、RNAに対してTOと類似した特性を示す分子であるアクリジンオレンジ誘導体の存在下の蛍光を血小板サイズと統合するアルゴリズムを用いている。このプロセスを用いてIPF比率を得て、それにより孤立性血小板減少症に直面しても臨床診断を下すことができる。IPFレベルが高いことが明らかになれば末梢性血小板減少症が示されていると考えられる一方、Sysmex法で測定した従来のIPFレベル(15%未満)では中枢性血小板減少症が示され得る。しかしながら、上述の通り、一部のアクリジンオレンジはミトコンドリア核酸、又は密顆粒中のヌクレオチドと結合し、後者はRNase処理に無反応なので、偽陽性を生じ得る。
【0012】
このように、特に末梢性血小板減少症又は中枢性血小板減少症の体外診断のために、チアゾールオレンジ(TO)又はその類似体の1種(アクリジンオレンジ等)を使用せずに、血液サンプル中に存在する血小板を信頼性及び再現性のある方法で分析できる使いやすいプロセスが真に求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、血小板の細胞膜における主要組織適合遺伝子複合体クラスI(MHC I)分子の発現レベルのフローサイトメトリー測定が血小板年齢と相関しており、発現レベルが高いほど「幼若血小板」に対応することを明らかにした。従って、本発明者らは、蛍光色素と結合した抗MHC Iアルファ鎖リガンドを用いてフローサイトメトリーによって血液サンプル中の血小板を分析する方法を開発した。この分析方法は、末梢性血小板減少症と中枢性血小板減少症とを識別するのに特に好適である。
【0014】
本発明の第1の目的は、血液サンプル中に存在する血小板を分析する方法であって、
(a)蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンドを上記サンプルに添加する工程と、
(b)フローサイトメーターを用いて上記血小板の平均蛍光強度(MFI血小板)を測定する工程と、
(c)上記フローサイトメーターを用いて平均前方散乱(FSC)パラメータを測定し、MFI血小板/FSC比を決定する工程と
を有する方法に関する。
【0015】
本発明の第2の目的は、血液サンプル中に存在する血小板集団を同定する方法であって、
(a)本発明に係る方法を実施することで血液サンプル中に存在する血小板を分析する工程と、
(b)工程(a)の結果を用いて血小板集団を同定する工程と
を有する方法に関する。
【0016】
本発明の第3の目的は、対象における末梢性又は中枢性血小板減少症を体外診断する方法であって、
(a)本発明に係る分析方法を実施することで対象の血液サンプル中に存在する血小板を分析するか、或いは本発明に係る同定方法を実施することで対象の血液サンプル中に存在する血小板集団を同定する工程と、
(b)工程(a)の結果を末梢性又は中枢性血小板減少症の診断に用いる工程と
を有する方法に関する。
【0017】
本発明の第4の目的は、中枢性又は末梢性血小板減少症の治療の治療効果を体外でモニタリングする方法であって、
(a)本発明に係る分析方法を実施することで、中枢性又は末梢性血小板減少症の治療を受けた患者の血液サンプル中に存在する血小板を分析するか、或いは本発明に係る同定方法を実施することで、中枢性又は末梢性血小板減少症の治療を受けた患者の血液サンプル中に存在する血小板集団を同定する工程と、
(b)工程(a)の結果を末梢性又は中枢性血小板減少症の治療の治療効果を決定するのに用いる工程と
を有する方法に関する。
【0018】
本発明の第5の目的は、炎症性疾患又は心血管系疾患の発生を体外で予後診断する方法であって、
(a)本発明に係る分析方法を実施することで対象の血液サンプル中に存在する血小板を分析するか、或いは本発明に係る同定方法を実施することで対象の血液サンプル中に存在する血小板集団を同定する工程と、
(b)工程(a)の結果を炎症性疾患又は心血管系疾患の発生の予後診断に用いる工程と
を有する方法に関する。
【0019】
本発明の第6の目的は、本発明に係る診断方法、治療の治療効果のモニタリング方法、或いは炎症性疾患又は心血管系疾患の発生の予後診断方法を実施するためのキットであって、
蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンド、
内部標準、及び
指示書
を有するキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】マウス幼若血小板ではMHC I分子の表面発現がより高いことを表す。(A)マウス血小板でのTO及びMHC I発現の代表的なFACS分析のグラフである。PE又はAlexa-647結合抗GPIbベータ抗体及びチアゾールオレンジ(TO)で血小板を標識した(左パネル)。GPIbベータ+血小板を選択し、PE結合抗MHC I抗体、又はAlexa-647結合ヤギ抗マウス二次抗体で顕示した抗β2m抗体で共標識することでMHC I発現を分析した(右パネル)。TObright血小板は薄灰色で強調した(左パネル及び右パネル)。(B)TOdim血小板又はTObright血小板においてFSCパラメータの平均蛍光強度(MFI)に対するMHC IのMFI又はGPIbβのMFIの比を算出して、MHC I分子及びGP1bβ分子の表面発現を評価した(p<0.05、***p<0.001、ns p>0.05;n=3)。
図2】血小板加齢中に体内でMHC I分子の表面発現が低下することを表す。ジフテリア毒素(DT)で処理したiDTR PF4 creマウスの血小板を単離及びビオチン化し、WTマウスに輸血した。輸血から5分後、24時間後、48時間後、及び72時間後のビオチン化輸血血小板(▲)及び内在性TOdim(□)又はTObright(●)血小板における(A)MHC I発現、(B)GPIbβ発現、及び(C)TO標識のフローサイトメトリー分析を行った。結果は、標識のMFIとFSCパラメータのMFIとの比として表す(n=3、3つの独立した実験の代表)。
図3】HLA I分子は、チアゾールオレンジに対する蛍光性の高いヒト血小板によって優先的に発現されることを表す。(A)ヒト血小板でのTO及びMHC I発現の代表的なFACSグラフである。PE結合抗GPIb及びTOで血小板を標識した(左パネル)。GPIbβ+血小板を選択し、A647結合抗MHC I及びPE-CY7結合抗β2m抗体で染色してMHC I発現を分析した(右パネル)。TObright血小板は薄灰色で強調した(左パネル及び右パネル)。(B)TOdim血小板又はTObright血小板におけるMHC IのMFI(抗β2m標識若しくは抗HLA I標識)又はGPIbβのMFIとFSCパラメータのMFIとの比を算出して、MHC I分子及びGP1bβ分子の細胞表面発現を評価した(p<.05、**p<.01、ns p>.05;n=7)。
図4】MHC I分子を高密度で発現しているヒト血小板は、幼若血小板の特徴を示していることを表す。ヒト血小板でのリボソームタンパク質発現、TO、及びMHC I分子発現の代表的なFACSグラフを表す。ヒト血小板を固定し、透過処理し、PE結合抗GPIb、mAbリボソームPタンパク質抗体、A647結合抗MHC I、PE-CY7結合抗β2m抗体、及びTOで共標識してから、FACSで分析した。(A)GPIbβ+血小板を選択した。TObright血小板を濃灰色で強調してリボソームタンパク質発現を分析した(右上パネル)。TObright又は高Pリボソーム血小板を濃灰色で強調してMHC I分子の発現を分析した(下パネル)。(B)HLA I分子を強く又は弱く発現している集団におけるリボソームPタンパク質又はTObright標識の分布を分析した。
図5-1】MHC Iの細胞表面発現は、患者における幼若血小板比率を決定するのに信頼できる基準であることを表す。(A)TObright及びHLA Ihigh血小板比率についてはFACS分析で、MFI比率についてはSysmex(登録商標)システムで、健常提供者の血液サンプルを試験した(n=6)。(B)健常提供者又はMyH9欠損患者の血液サンプルを分析し、血小板におけるTO及びHLA IのMFIをFACS分析で決定した。結果は、FSCのMFIに対するHLA I標識(W6/32若しくはβ2m)又はTO標識のMFIの比として表す。
図5-2】(C)RNase処理前後の各血液サンプルにおけるTO標識のFACSグラフである。各条件についてTObright血小板比率を示す。
図5-3】(D)0.1μM、0.5μM、1μM、10μM、50μM、又は100μMのTRAPで健常提供者のクエン酸血サンプルを活性化してから、IPF比率をSysmex(登録商標)で推定するか(上パネル)、或いはHLA I/FSC比又はβ2m/FSC比をフローサイトメトリーで分析した(下パネル)(n=3~5)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本出願人らは、正確で再現性のある方法で血液サンプル中の血小板を分析する方法を開発した。本方法を用いると、特に血小板減少症の原因(中枢性か末梢性か)を体外で決定できる。
【0022】
<定義>
「血小板」は、骨髄中の巨核球が分裂して生成される血液細胞である。哺乳類において血小板は核を持たず、ヒトにおいて、脾臓又は肝臓中のマクロファージで除去されるまでの寿命はおよそ7~10日である。血小板は一次止血に必須の成分である。ヒトにおいて、血小板の直径は2~4ミクロンであり、その正常な血中濃度は血液1リットルあたり150~400×10個である。その数は年齢とともに減少する傾向にある。血小板は、表面に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子を発現する。
【0023】
「幼若血小板」という語は、骨髄で新たに生成された血小板、すなわち、24時間齢未満、例えば12時間未満の血小板を意味する。
【0024】
血小板濃度が血液1リットルあたり150×10個未満である場合、血小板レベルは低いとみなされ、「血小板減少」又は「血小板減少症」と呼ばれ、出血リスクが増大する。
【0025】
血小板濃度が血液1リットルあたり400×10個超である場合、血小板レベルは高いとみなされ、「血小板増加症」と呼ばれ、血栓症リスクを伴う。
【0026】
血小板減少症は以下の2種類に識別できる。
・中枢性又は本態性血小板減少症:巨核球形成における質及び/又は数の欠陥に起因し、低血小板生成をもたらす(血液1リットルあたりの血中血小板濃度が150×10個未満)。中枢性血小板減少症にはいろいろな原因があり、遺伝的原因や後天的なものが考えられ、例えば、ビタミンB12欠乏、何らかのがん、脊髄形成異常症、肝損傷、又は化学療法や放射線療法のようなある種の治療が挙げられる。原因が特定されないケースもある。ベルナール・スーリエ症候群又はメイ・ヘグリン異常(MYH9)等、中枢性血小板減少症に関連することが知られている疾患もある。
【0027】
・末梢性血小板減少症は、循環血小板数の低下、代償的な巨核球形成の増加、それによる血小板生成の上昇を特徴とする。末梢性血小板減少症は、通常、自己抗体、又はある種の薬剤(ヘパリン、キニーネ等)の存在下で血小板に結合する抗体の作用などによって血小板が破壊されることで引き起こされる。従って、末梢性血小板減少症は、幼若血小板(未成熟血小板ともいう)比率の上昇を特徴とする。末梢性血小板減少症の一般的な原因は、自己免疫に由来する特発性血小板減少性紫斑病(ITP)である。また、末梢性血小板減少症は、循環血小板の消費をもたらしたり、免疫由来であったりする場合もある患者の炎症症状によっても説明され得る。
【0028】
主要組織適合遺伝子複合体クラスI(MHC I)分子は自己認識系を構成し、Tリンパ球にペプチド抗原を提示する。ヒトにおいては、MHC Iはヒト白血球抗原(HLA)クラスIと呼ばれる。これらの分子は、ほとんど全ての有核細胞の細胞膜及び血中血小板で発現される。これらは、アルファ鎖(3つの免疫グロブリン様ドメインα1、α2、及びα3を有する)とベータ-2ミクログロブリン(β2m)との非共有会合からなる。細胞膜で発現されたMHC Iは常にペプチドと会合しており、これによってMHC Iが安定化する。MHC Iは、特にCD8Tリンパ球への抗原提示に関与し、自己と非自己との識別を可能とする。
【0029】
本明細書中、「血液サンプル」という語は、血小板を含む任意のサンプルを包含する。血液サンプルは、例えば、対象の血液から得られる。全血サンプル、有利には当業者のベストプラクティスに従って抗凝固剤の存在下で採血されたものであることが好ましい。上記抗凝固剤はEDTA又はクエン酸塩であってもよい。
【0030】
本発明の意味において、「リガンド」という語は、標的に特異的に結合する分子を表す。従って、例えば、本発明の文脈において、MHC Iに結合するリガンドは、MHC Iに特異的に結合するリガンドを表す。
【0031】
本発明の具体的な実施形態において、上記リガンドは、アルファ鎖と会合していないβ2m鎖、すなわち可溶性β2m鎖には結合できない。
【0032】
本発明の別の具体的な実施形態において、上記リガンドは、アルファ鎖と会合していないβ2m鎖に結合できる。この具体的な実施形態において、本発明に係る方法を実施した際に血液サンプル中に存在する可溶性β2m鎖がMHC Iへの結合に干渉しないよう、十分に高い濃度でリガンドを使用するのが有利である。
【0033】
本発明の具体的な実施形態において、上記リガンドは、MHC Iの全てのアイソタイプ、すなわち、アイソタイプA(HLA A)、アイソタイプB(HLA B)、及びアイソタイプC(HLA C)に結合できる。
【0034】
上記リガンドは、抗体、抗体断片、アプタマー、タンパク質、ペプチド、又は小分子であってもよい。当業者であれば、本発明の文脈で使用できるリガンドを容易に得ることができる。例えば、アプタマーの場合はSelex法、抗体の場合は免疫化及びクローニング法が挙げられる。好ましい実施形態において、上記リガンドは抗体又は抗体断片である。本発明で使用できるいくつかの抗体は市販されており、例えば、ハイブリドーマATCC HB-95によって産生された抗体W6/32、例えばBiolegend社製のAPC結合済み抗体W6/32、又はBiolegend社製のフルオロフォアPE/Cy7結合済み抗ヒトβ2m抗体(品番:316318)が挙げられる。
【0035】
本明細書中、「抗体」という語はその最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を有する様々な抗体構造、特にモノクローナル抗体を包含する。これらは、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又はマウス抗体等の非ヒト抗体であってもよい。
【0036】
本発明の文脈において、上記リガンドは、フローサイトメトリーでその検出を可能とする手段、好ましくは蛍光色素(又はフルオロフォア)と結合している。「蛍光色素」という語は、励起して蛍光を発することができる分子を意味する。蛍光色素が発する蛍光強度(又はMFI)は、蛍光色素の蛍光強度を検出及び測定できるフローサイトメーターを用いるなど、任意の公知手段によって測定できる。
【0037】
「フローサイトメトリー」は、レーザービームを介して粒子又は細胞を高速で移動させてそれらをカウント及び特徴付けすることができる広く採用されている技術である。フローサイトメトリーは、個々の粒子、分子、又は細胞の蛍光強度を、レーザービームの前でそれらを1つずつ通過させることで測定できることから、非常に有利な技術である。
【0038】
本発明の意味において、「内部標準」は、フローサイトメトリーで測定した蛍光強度(MFI)の正規化を可能とする。本発明の文脈において、上記内部標準は、リガンドに結合する要素であることが好ましい。特に、リガンドが吸着可能なポリスチレンマイクロビーズであってもよい。各種のリガンドに適合した多くの内部標準が市販されており、例えば、マウス抗体のカッパ鎖を有する抗体がリガンドである場合に使用できる「BD Compbead No.552843」標準が挙げられる。
【0039】
本発明の意味において、「対象」は、哺乳類、例えば、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、又はヒトを意味し、上記対象はヒトであることが好ましい。本発明の意味において、「健常対象」は、異常な血中血小板数を引き起こす病態を何ら示さず、且つ薬物療法を受けていない対象を意味する。
【0040】
本明細書中、「診断」という語はその最も広い意味で使用され、当業者によって一般的に使用され、よく理解されている。この用語は、例えば、対象において病態が生じる確率、リスク、又は可能性の決定を表す。
【0041】
本発明の意味において、「治療」、「治療する」、又は「治療に応答する」という語は、病態の改善、軽減、回復、又はその進行の阻害を意味する。特に、病態の治療は、骨髄による正常な血小板生成を回復させることからなっていてもよい。
【0042】
<血小板を分析する方法又は血小板集団を同定する方法>
本明細書は、血液サンプル中に存在する血小板を分析する方法であって、
(a)蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンドを上記サンプルに添加する工程と、
(b)フローサイトメーターを用いて上記血小板の平均蛍光強度(MFI血小板)を測定する工程と
を有する方法に関する。
【0043】
本発明は、血液サンプル中に存在する血小板を分析する方法であって、
(a)蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンドを上記サンプルに添加する工程と、
(b)フローサイトメーターを用いて上記血小板の平均蛍光強度(MFI血小板)を測定する工程と、有利には
(c)上記フローサイトメーターを用いて平均前方散乱(FSC)パラメータを測定し、MFI血小板/FSC比を決定する工程と、
を有する方法に関する。
【0044】
実際に、本出願人は、血小板表面でのMHC I発現レベルが血小板年齢と相関することを見出した。従って、より幼若な血小板は、より加齢した血小板よりも多くのMHC Iを細胞膜上に発現する。
【0045】
特に、本出願人は、FSCパラメータに対して正規化した血小板表面でのMHC I発現レベルがその年齢と相関することを見出した。従って、より幼若な血小板は、より加齢した血小板よりも細胞膜上のMHC I分子密度が高い。
【0046】
<工程(a)>
工程(a)は、蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンドを上記サンプルに添加することで構成される。この工程は、例えば振とう下、蛍光色素結合リガンドを血液サンプルに添加することで実施される。振とうさせることによって混合物を均質化して、標識化リガンドと血小板との接触を促進する。
【0047】
インキュベート時間は、標識化リガンドを血小板と接触させるのに十分な時間とすべきである。典型的には、当業者が採用するインキュベート時間は、抗体の場合には20~30分であるが、使用するリガンドに応じて短縮することもでき、その場合、5分未満、例えば、4分未満、3分未満、2分未満、1分未満、30秒未満としてもよい。また、インキュベート時間は、5分超、10分超、更には15分超にもできる。
【0048】
本発明に係る分析方法は全血サンプルを用いて実施できるので、非常に実施しやすい。それにもかかわらず、特定の血液サンプルの使用に限定されない。例えば、多血小板血漿(PRP)や、全血から単離した血小板等、血小板を含む全血画分であってもよい。上記血液サンプルは全血サンプルであることが好ましい。
【0049】
具体的な実施形態において、上記血液サンプルは、血液サンプル中に元々存在している成分以外の成分、例えば、緩衝液(pH調整を可能とする)や、EDTA又はクエン酸塩等の好適な抗凝固剤を含んでいてもよい。
【0050】
具体的な実施形態において、上記リガンドは、抗体、抗体断片、アプタマー、タンパク質、ペプチド、又は小分子から選択できる。適切なリガンド量は実験者であれば容易に決定できる。例えば、リガンドが抗体である場合、0.1μg/mL~10μg/mLの範囲の濃度で添加できる。リガンドを飽和状態でサンプルに添加することで、血小板を適切に標識できる。
【0051】
具体的な実施形態において、上記リガンドは抗体又は抗体断片であり、例えば、ハイブリドーマATCC HB-95によって産生されたW6/32抗体、又はMHC Iへの結合能を保持した断片である。また、β2mに結合する抗体であってもよく、その場合、血中に存在する可溶性β2mが当該方法の実施に干渉しないよう、十分に高い濃度で抗体を用いるべきである。
【0052】
上記リガンドは、フローサイトメーターでその検出を可能とする手段、好ましくは蛍光色素(又はフルオロフォア)と結合している。上記リガンドは蛍光色素と直接結合していても間接的に結合していてもよく、直接結合しているのが好ましい。リガンドを蛍光色素と結合する方法は広く文献に記載されている。従って、結合に特段の技術的な困難さは存在しない。
【0053】
フローサイトメーターで検出できる限り、本方法は特定の蛍光色素に限定されない。上記蛍光色素は、励起波長及び発光波長がRNAを検出するのに使用される試薬に干渉しない蛍光色素であることが有利である。フルオロフォアの一例について以下の記載及び実施例で言及するが、これらに限定されない。FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、PE(R-フィコエリトリン)、APC(アロフィコシアニン)、PerCP(ペリジニンクロロフィルタンパク質)、PE-CF594、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)-Cy5.5、PE-テキサスレッド、GFP(緑色蛍光タンパク質)、YFP(黄色蛍光タンパク質)、又はCFP(シアン蛍光タンパク質)。
【0054】
<工程(b)>
工程(b)は、フローサイトメーターを用いて上記血小板の平均蛍光強度(MFI血小板)を測定することで構成される。当然ながら、上記フローサイトメーターは上記蛍光色素の蛍光を検出及び測定できる。測定は上記フローサイトメーターによって自動的に実施される。上記フローサイトメーターのパラメータ化に特段の技術的な困難さは存在しない。具体的には、当業者であれば、選択した蛍光色素に応じてフローサイトメーターをどのようにセットアップすればよいか分かる。
【0055】
工程(b)で実施する測定によって、標識化リガンドに結合した血小板を同定でき、1つ以上の血小板集団、とりわけ幼若血小板集団を同定できる。
【0056】
<工程(c)>
工程(c)は、上記フローサイトメーターを用いて平均前方散乱(FSC)パラメータを測定し、MFI血小板/FSC比を決定することで構成される。蛍光強度に加えて、上記フローサイトメーターは、粒子径、例えば血小板サイズを表すことができる他のパラメータを測定できる。血小板サイズを表すために最も一般的に測定されるパラメータは前方散乱(FSC)であり、以下、「FSC血小板」ともいう。これは、FSC-A、FSC-H、又はFCS-Wであってもよい。通常はFSC-Aが使用される。
【0057】
具体的な実施形態において、MFI血小板測定値を内部標準の平均蛍光強度(MFI標準)に対して正規化することで、正規化血小板平均蛍光強度(MFI正規化血小板)が得られる。上記内部標準は、工程(a)において上記リガンドの前若しくは後に、又は上記リガンドと同時に、好ましくは上記リガンドの前に、上記サンプルに添加するのが好ましい。適切な内部標準量は実験者であれば容易に決定でき、好ましくは血小板数と同じ桁の量を投入することで決定できる。
【0058】
実験間、実験室間、及び/又は実験者間の変動を克服できることから、MFI血小板測定値を内部標準に対して正規化するのが非常に有利である。
【0059】
具体的な実施形態において、上記内部標準は上記蛍光色素結合リガンドに結合し、例えば、上記蛍光色素結合リガンドは上記内部標準に吸着する。従って、この具体的な実施形態において、MFI標準は、上記標準と結合した蛍光色素から発せられ、該蛍光色素の蛍光を検出及び測定できるフローサイトメーターで測定された平均蛍光強度である。上記フローサイトメーターは、標識化血小板と標識化内部標準とを識別できるよう調整すべきである。一般的にはサイズによって識別する。従って、サイズによって識別する場合、標識化標準と血小板とを容易に識別できるように該標準のサイズを選択することが必須となる。
【0060】
上記内部標準は、上記蛍光色素結合リガンドが吸着するポリスチレンマイクロビーズであることが有利である。例えば、上記蛍光色素結合リガンドに結合する抗体で被覆されたポリスチレンマイクロビーズであってもよい。例えば、マウス抗体のカッパ鎖を有する抗体(キメラ抗体等)がリガンドである場合に使用できる市販品である「BD Compbead No.552843」が挙げられる。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、上記フローサイトメーターを用いて平均FSC拡散パラメータ(FSC)を測定し、MFI血小板/FSC比又はMFI正規化血小板/FSC比を決定する工程(c)を更に有する。血小板をより精密に分析できることから、MFI血小板/FSC比又はMFI正規化血小板/FSC比を決定することが非常に有利である。これにより、1つ以上の血小板集団、特に幼若血小板集団をより精密に識別できる。工程(c)は、フローサイトメーターによって工程(b)と同時に自動的に実行される。この具体的な実施形態において、上記比の決定は、フローサイトメーターで測定した値を用いて自動的に行われる。MFI正規化血小板/FSC比は、例えば、(MFI血小板/FSC血小板)/(MFI標準/FSC標準)比を算出することで得られる。血小板サイズを表すFSC血小板と同様に、FSC標準パラメータは標準粒子径を表す。
【0062】
本発明はまた、血液サンプル中に存在する血小板集団、好ましくは幼若血小板集団を同定する方法であって、
(a)本発明に係る方法を実施することで血液サンプル中に存在する血小板を分析する工程と、
(b)工程(a)の結果を用いて血小板集団、好ましくは幼若血小板集団を同定する工程と
を有する方法に関する。
【0063】
血小板集団の同定は、上述したパラメータに従ってフローサイトメーターによって自動的に実行される。
【0064】
<診断方法>
本発明は、対象における末梢性又は中枢性血小板減少症を体外診断する方法であって、
(a)本発明に係る血小板を分析する方法を実施することで対象の血液サンプル中に存在する血小板を分析する工程と、
(b)工程(a)の結果を末梢性又は中枢性血小板減少症の診断に用いる工程と
を有する方法に関する。
【0065】
本発明に従って血小板を分析して得られた結果から、対象における末梢性血小板減少症を診断できる。具体的には、上記対象においてMFI血小板、MFI正規化血小板、MFI血小板/FSC比、及び/又はMFI正規化血小板/FSC比のパラメータが、健常対象で測定した同パラメータに対して増加している場合、末梢性血小板減少症の陽性診断を下す。
【0066】
当該対象において上記パラメータが、健常対象で測定した同パラメータと比較して増加している場合、当該対象において幼若血小板量が増加していることを表しており、骨髄活性が増大していることが確認されるので、末梢性血小板減少症と診断できる。
【0067】
好ましい実施形態において、上記パラメータのうちの1つ以上の増加は、1.5倍超程度であり、例えば2倍超、2.5倍超、3倍超、又は3.5倍超程度である。
【0068】
本発明に従って血小板を分析して得られた結果から、対象における中枢性血小板減少症を診断できる。具体的には、上記対象においてMFI血小板、MFI正規化血小板、MFI血小板/FSC比、及び/又はMFI正規化血小板/FSC比のパラメータが、健常対象で測定した同パラメータと同様又は同一である場合、中枢性血小板減少症の陽性診断を下す。
【0069】
具体的な実施形態において、上記対象は、血小板減少症であると或いは血小板減少症になりやすいと以前に診断されている。そして、本発明に係る診断方法によって、血小板減少症の原因(中枢性か末梢性か)を知ることができる。
【0070】
<治療の治療効果をモニタリングする方法>
本発明はまた、中枢性又は末梢性血小板減少症の治療の治療効果を体外でモニタリングする方法であって、
(a)本発明に係る分析方法を実施することで、中枢性又は末梢性血小板減少症の治療を受けた患者の血液サンプル中に存在する血小板を分析する工程と、
(b)工程(a)の結果を中枢性又は末梢性血小板減少症の治療の治療効果を決定するのに用いる工程と
を有する方法に関する。
【0071】
<予後診断方法>
本発明はまた、炎症性疾患又は心血管系疾患の発生を体外で予後診断する方法であって、
(a)本発明に係る分析方法を実施することで対象の血液サンプル中に存在する血小板を分析する工程と、
(b)工程(a)の結果を炎症性疾患又は心血管系疾患の発生の予後診断に用いる工程と
を有する方法に関する。
【0072】
具体的な実施形態において、上記炎症性疾患は敗血症である。他の具体的な実施形態において、上記心血管系疾患はアテローム性動脈硬化症である。
【0073】
<診断キット>
本発明はまた、対象における末梢性血小板減少症又は中枢性血小板減少症を診断するためのキット、治療の治療効果をモニタリングするためのキット、或いは炎症性疾患又は心血管系疾患の発生を予後診断するためのキットであって、
・蛍光色素と結合したMHC Iに結合するリガンド、
・内部標準、及び
・本発明に係る体外診断方法を実施するための指示書
を有するキットに関する。
【0074】
<治療方法>
本発明はまた、対象における末梢性血小板減少症又は中枢性血小板減少症を治療する方法であって、
・本発明に係る体外診断方法を実施することと、
・該診断が陽性である場合、上記対象の適切な治療を開始することと
を有する方法に関する。
【0075】
適切な治療は、特に文献[8](参照により本出願に援用される)、具体的には「First-line therapy」、「Second-line therapy」、「Third-line therapy」、及び「Other new agents」の章、並びに表2(18~19ページ)に記載されている。
【実施例
【0076】
材料及び方法
<試薬>
試薬は市販のものである。チアゾールオレンジ(TO)はSigma-Aldrich社製である。キシラジン(Rompun(登録商標))及びケタミン(Imalgene 1,000(登録商標))はそれぞれBayer社製及びMerial社製である。ビオチンはThermoFischer社から、ジフテリア毒素(DT)はSanta Cruz社から供給されたものである。
【0077】
<抗体及びフローサイトメトリー>
我々の実験室において、血小板糖タンパク質GPIbベータ(Ram1、[7])の細胞外ドメインに対するラットモノクローナル抗体を作製し、Alexa647又は488と結合させた。アロフィコシアニン(APC)と結合した抗HLAIマウス抗体(クローンW6/32)(品番:311410)、PE-CY7と結合したヒト抗β2m(品番:316318)、及びAPC-cy7と結合したヒト抗CD45(クローン2D1)(品番:368516)はBiolegend社製である。フィコエリトリン(PE)と結合したマウス抗H2(クローンM1/42)(品番:125506)及びAPC-CY7と結合したストレプトアビジン(品番:405208)はBiolegend社から購入した。マウス抗b2ミクログロブリン(β2m)抗体(クローンS19.8)(品番:555299)はBD Pharmingen社製である。PE-cy7と結合したマウス抗CD45抗体(クローン30-F11)(品番:25-0451)はInvitrogen社から供給されたものである。ヒト抗リボソームPタンパク質抗体は、台湾国立陽明大学のSun教授[1]よりご提供いただいたものである。
【0078】
1%BSA及び6mM EDTAを含むPBS10体積部で全血を希釈した。1/200に希釈した「FcRブロッキング」試薬(Milteny Biotec社)でFcγ受容体をブロッキングしてから、抗体で標識した。洗浄工程の後、PBS中1μg/mlのTOで15分間、細胞を対抗標識した(counter-labeled)。次いで、1%パラホルムアルデヒド20体積部でサンプルを希釈し、フローサイトメトリー(LSRFortessaTM細胞分析装置、BD Biosciences社)で45分間分析した。データはBD FACSDivaソフトウェアで分析した。
【0079】
<マウス>
Charles River Laboratories社から購入した8~10週齢のC57Bl6/Jマウスで実験した。[2]に既に記載されているようにジフテリア毒素受容体及びPF4導入遺伝子の両方に対して陽性であるマウス(文中ではPF4-cre/iDTRという)を作製した。
【0080】
<血小板輸血>
ジフテリア毒素(DT)(100ng/日、腹腔内)を4日間注射して、PF4-cre/iDTRマウスを重度の血小板減少状態とした。最後の注射から8日後、抗凝固剤としてクエン酸塩(3.8%)を使用して、麻酔をかけたマウスの腹部大動脈から血液を採取し、[3]に既に記載されているように血小板を単離した。洗浄した架橋血小板をビオチン化し、1.2×10個/μLで再懸濁させ、懸濁液150μLをWTマウスの後眼窩洞に注射した。輸血(0時間)から5分後、30分後、2時間後、24時間後、48時間後、及び72時間後に血液サンプルを採取した。
【0081】
<倫理的声明>
研究を実施したEtablissement Francais du Sang-Grand Est(EFS-Alsace)によって採用された無給のボランティア提供者からヒト血液サンプルを得た。各採血時、提供者は、サンプルが研究目的で使用されることが表示されたインフォームドコンセントにサインした。動物実験の倫理的承認は欧州連合指令2010/63/EUに従ったものであった。研究はComite regional d’ethique pour l’experimentation animale de Strasbourg(CREMEAS)(CEEA35)によって承認された。
【0082】
<統計分析>
統計分析はGraphPadソフトウェア(Prism5.02)を用いて行った。
【0083】
結果
<マウス幼若血小板は表面により多くのMHC I分子を発現する>
まず、マウス血小板の表面でのクラスI分子の発現がその年齢に依存しているかどうかを分析した。マウスでは、チアゾールオレンジ(TO)標識によって2つの血小板集団を容易に識別できる。そのうち約10%は強いTO蛍光(TObright)を示し(図1A左)、12時間齢未満である[2]。抗β2m抗体又は抗MHC I(H2)抗体で標識してからTO標識した後、血小板表面でのMHC I分子の発現をフローサイトメトリーで推定した。クラスI分子の発現は、TOdim血小板よりもTObright血小板においてより多いように見えた(図1A右)。血小板が幼若であるほどサイズが大きくなるため、より多くのMHC I分子が発現されるという事実を排除するために、TOdim集団及びTObright集団の両方において平均FSCパラメータ(細胞サイズと相関したパラメータ)に対するβ2m又は重鎖(H2)標識の平均蛍光強度(MFI)の比を算出した(図1B)。上記比はTOdim血小板集団よりもTObright集団で著しく高かった(H2/FSC比:TObrightにおいて14.55±0.46であるのに対し、TOdimにおいて8.35±0.14、p<0.001;β2m/FSC比:TObrightにおいて44.78±16.50であるのに対し、TOdimにおいて8.25±2.32、n=3、p<0.05)。一方、主要な血小板特異的糖タンパク質であるGPIbβの発現を分析したところ、その比は両血小板集団について同様であった(GPIb/FSC比:TObrightにおいて247.07±3.57であるのに対し、TOdimにおいて254.70±8.15、n=3、ns)。
【0084】
総じて、これらのデータから、恒常性条件下においてマウス幼若血小板は表面により多くのMHC I分子を発現することが分かった。
【0085】
<血小板の加齢に伴って体内でクラスI分子の表面発現が低下する>
次いで、体内で加齢によって血小板でのMHC I表面発現が影響を受けるかどうかを決定した。iDTR PF4 creマウスを利用して同調的幼若血小板集団を得た[2]。ジフテリア毒素(DT)を4日間、毎日投与したところ、成熟巨核球の消失が誘発されて、血小板生成が妨げられ、進行性血小板減少症が生じた。処理を止めてから4日後(8日目)、巨核球形成及び血小板生成が著しく向上し、その結果、一過的に幼若血小板が圧倒的多数となった(データは示さず、[2])。従って、DT処理したiDTR PF4 creマウスの血小板を8日目に単離し、ビオチン化し、WTマウスに輸血した。輸血後の様々な時間において、ビオチン化輸血血小板でのMHC I発現をフローサイトメトリーで分析し、内在性血小板でのMHC I発現と比較した。その結果、輸血から5分後のビオチン化血小板では(TO平均蛍光)/(平均FSC)比が高く、内在性TObright血小板と同等であることが分かった。24時間後には、内在性TOdim血小板と等しかったことから(図2C)、体内での輸血血小板の加齢が確認された。注目すべきこととして、ビオチン化輸血血小板でのMHC I発現は時間経過に伴って次第に減少した。輸血から5分後、ビオチン化血小板でのMHC I発現は内在性TObright血小板での発現レベルと同様であった。24時間後、この発現レベルは著しく低下して内在性TOdim血小板での発現レベルと同じになった(図2A)。この実験から、体内において、血小板表面でのMHC I分子の発現レベルはその年齢と関係することが分かる。一方、輸血血小板でのGPIbβ発現は72時間という期間にわたって安定していた(図2B)。
【0086】
総じて、これらのデータから、24時間齢未満の幼若血小板を識別する際のMHC I発現パラメータの関連性が強調された。
【0087】
<HLA I分子はヒトTObright血小板によって優先的に発現される>
ヒトにおいて、TObright血小板は全血小板集団の1~2%に相当する(図3A左パネル)。ヒト血小板表面でのHLA I分子の発現を特徴付けるために、抗β2m抗体、汎抗HLAクラスI抗体(W6/32)[4]で共標識してからTOで対抗標識した。フローサイトメトリー分析から、マウスで観察されたように、TObright血小板はHLA I分子をより高レベルで発現することが明らかになった(図3A右パネル、灰色で強調)。
【0088】
血小板サイズとは無関係に血小板集団におけるHLA I分子の分布を分析するために、マウス血小板の場合と同じアプローチ、すなわち(HLA IのMFI)/(FSCパラメータ)比を採用した(図3B)。今回も、TOdim血小板よりもTObright血小板でこの比がより高いことが分かった(β2m/FSC比:TObrightにおいて11.58±1.25であるのに対し、TOdimにおいて6.59±0.762、n=7、p<0.05;W632/FSC比:TObrightにおいて16.02±1.99であるのに対し、TOdimにおいて8.46±0.93、n=7、p<0.001)。逆に、(GPIbβのMFI)/(FSC)比はTOdimとTObrightとで同様であり、幼若血小板でのHLA I分子発現の特殊性が強調された。
【0089】
<HLA I分子を強く発現するヒト血小板は、より高いリボソームタンパク質含量(幼若血小板の特徴)を有する>
リボソームPタンパク質抗原は、mRNA翻訳に必要な3つのリボソームサブユニット(RLP0、2、及び3)のC末端部に存在している[5]。mRNA翻訳は主として血小板寿命の最初の数時間で起こるため[2]、少なくともTObright血小板ではリボソームPタンパク質抗原の検出が期待される。
【0090】
ヒト血小板を固定し、透過処理し、リボソームPタンパク質抗原に対する抗体、抗β2m抗体、汎抗HLA I抗体(W6/32)、及びTOで共標識してから、フローサイトメトリーで分析した(図4A)。
【0091】
リボソームPタンパク質に対する抗体で標識することで、ヒト血小板の13.3±%(n=4)がこのタンパク質を発現する一方、TObright血小板亜集団では83±%(n=4)であることが明らかになり、この抗原はより幼若な血小板でより多く発現されることが示された。更に、MHC I分子発現を分析すると、濃灰色で表したTObright血小板又は高リボソームP血小板上で存在が増大したことが分かった(下パネル)。次いで、HLA I分子(W6/32又は抗β2mで標識)の発現が高い又は低い集団におけるリボソームPタンパク質の分布を分析した。図4Bに示す通り、リボソームPタンパク質はHLA Ihigh血小板の大半で発現されたが、HLA Ilow血小板ではほんの少数であった(それぞれ82.77±10.63%、10.47±3.59%、n=4)(図4B)。
【0092】
<血小板でのHLA I分子の発現レベルは、患者における幼若血小板比率を評価する基準として使用できる>
臨床用途においてこれらの観察結果の関連性を調査するために、健常提供者、又は循環中の幼若血小板比率の増加に関連する病態を有する患者から得たヒト血小板の表面でのHLA I分子の発現を評価した。まず、健常ボランティアにおいて「HLA Ihigh」血小板及びTObright血小板の比率をSysmex(登録商標)により提供されたIPF比率と比較した(図5A、n=6)。HLA Ihigh血小板及びTObright血小板の比率は同様であった(2.25%±0.26に対し、2.17%±0.19、n=6)。一方、IPF比率はより不均一ではあったが、健常ボランティアでは依然として15%未満であった(6.7%±1.6、n=6)。
【0093】
最後に、Sysmex(登録商標)分析によってIPF比率が高いことが分かったmyosin9欠損患者2名(それぞれIPFが64.9%及び42.7%)の血小板表面でのHLA I分子の発現を分析した。
【0094】
各患者のクエン酸血をβ2mに対する抗体、汎抗HLA I抗体(W6/32)、及びTOで共標識してから、フローサイトメトリーで分析した。注目すべきこととして、一方の患者(P1)のみβ2m/FSC比及び(W6/32)/FSC比がコントロールと比較して高かったのに対し、TO/FSC比は両患者(P1及びP2)とも健常ボランティアと比較して高かった(図5B)。TOがRNAだけでなく顆粒の内容物とも結合できるという事実を考慮して、TO標識の前にRNaseA処理を実施した。フローサイトメトリー分析から、RNaseA処理によって患者1のTObright血小板比率が著しく低下したことが分かった(RNaseA処理後のTObright4.9%に対し、RNaseA処理前のTObright15.9%)。一方、この処理は患者2のTObright血小板集団には影響を及ぼさなかったことが分かった(RNaseA処理後のTObright26.1%に対し、RNaseA処理前のTObright29.4%)(図5C)。
【0095】
IPFの推定は、特に凝集体の存在を原因として、血小板活性化によってバイアスが掛かる可能性があることが知られているので[6]、HLA I分子の表面発現が幼若血小板比率を評価するためのより信頼性の高い基準となるかどうかを検証した。
【0096】
従って、各濃度(0.1μM、0.5μM、1μM、10μM、50μM、又は100μM)の血小板凝集試薬TRAPとともにクエン酸血をインキュベートしてから、フローサイトメトリー又はSysmex(登録商標)技術で分析した。0.5μMのTRAPから、Sysmex(登録商標)技術ではIPFの著しい増加が観察されたが(0.5μM TRAP条件ではIPF10.7±8%であるのに対し、非活性化条件ではIPF4.2±0.8%、n=3)、β2m/FSC比又はW632/FSC比は安定したままであった(0.5μM TRAP条件では1.3±0.4であるのに対し、非活性化条件では1.5±0.3、n=3)。なお、TRAPの用量が高くなるほど(100μM)、HLA I/FSC比が増加したが、これは顆粒中に存在するHLA I複合体の細胞膜へ曝露されたことが原因かもしれない(図5D)。しかしながら、このような増加は健常ボランティアで見られた参照値内に留まっていたことに注目すると、興味深い。
【0097】
これらのデータから、HLA I分子の発現レベルは、幼若血小板比率が高い患者サンプルの検出においてTO標識又はSysmex(登録商標)技術よりも信頼性が高いことが示唆される。
【0098】
<FSC(FSC-A)に対して正規化する利点>
(a)健常提供者7名及びベルナール・スーリエ症候群患者1名から採取した血液サンプルを本発明に係る方法で分析し、必要に応じてFSCを用いて(すなわち、FSC正規化を行って又は行わずに)比を算出した。結果を図6に表す。
【0099】
正規化を行わずに得られた結果に関して言えば、BSS患者は末梢性血小板減少症を患っているようである。実際、正規化を行わないデータから、BSS患者の血小板は表面により多くのHLA I分子を発現するように思われる。従って、この患者は健常提供者より多くの幼若血小板を有しているようである。
【0100】
FSCを用いて比を算出することで、BSS患者の血小板は表面により多くのHLA I分子を発現しないことが分かる。従って、BSS患者は健常提供者と同程度の幼若血小板しか有していない。故に、正規化することで偽陽性を回避できる。
【0101】
(b)健常提供者21名、骨髄線維症(MF)患者1名、メイ・ヘグリン異常(MYH9)患者2名、及び血栓性血小板減少性紫斑病(ITP)患者2名から採取した血液サンプルを本発明に係る方法で分析し、必要に応じてFSCを用いて(すなわち、FSC正規化を行って又は行わずに)比を算出した。結果を図7に表す。
【0102】
血小板サイズを考慮しない場合、全ての患者がより多くの幼若血小板を有しているとの疑いを持てるようであり、従って「末梢性血小板減少症」と分類されるようである。この知見はMF患者及びITP患者の病態(骨髄活性の増大)と一致するが、MYH9患者の骨髄活性は増大していないかもしれない。
【0103】
血小板サイズに対する比から、MYH9患者2は実際には偽陽性であり、健常提供者と同程度の幼若血小板しか有していないことが分かる。
【0104】
<考察>
結果から、血小板サイズに関連してフローサイトメトリーでMHC I発現レベルを測定することは、血小板の分析、特に幼若血小板の同定に有用であることが分かった。実際に、幼若血小板は表面により多くのMHC Iを発現し、このレベルは血小板の年齢に伴って低下することが分かった。これら全ての結果から、対象における幼若血小板比率を評価する際のMHC I/FSC比の利点が強調される。
【0105】
今日まで、臨床医は通常、TOによるRNA標識を可視化させて、サンプル中に存在する幼若血小板(TObright)を分析している。だが、この技術には、細胞質RNAを結合させるのに使用する試薬(TO)が顆粒中に含まれるヌクレオチドとも結合し得る以上、制約がある。MHC I発現の測定によって、RNAの非特異的な標識を回避できる。
【0106】
更に、MHC I発現の測定によって、Sysmex(登録商標)法では偽陽性を生じさせる凝集体が分析サンプル中に存在するという別の問題も回避できる。
【0107】
MFI血小板パラメータの測定によるMHC I発現レベルの測定値を、特に血小板サイズ等の粒子径を表すことができるFSCパラメータに対して正規化し、次いで内部標準の蛍光強度(MFI標準)に対して正規化した場合、本発明者らが得た結果は非常に正確であった。このような正規化によって、特に、実験間、実験室間、及び/又は実験者間の変動を補正することができる。
【0108】
本発明者らが(MFI血小板/FSC血小板)/(MFI標準/FSC標準)比(すなわち、MFI正規化血小板/FSC)を決定することで血小板を分析した場合、更により正確な結果が得られた。この比から、血小板を驚くほど精密に分析できる。最終的には、1つ以上の血小板集団、特に幼若血小板集団をより精密に識別できる。結論として、フローサイトメトリーで測定したMHC I発現レベルは、血液サンプル中に存在する血小板を分析するための、特に幼若血小板比率を決定するための良好なマーカーである。従って、MHC I分子の発現密度は、対象における末梢性又は中枢性血小板減少症を診断するために、及び中枢性又は末梢性血小板減少症の治療の治療効果をモニタリングするために選択されるマーカーを構成する。
【0109】
<[参照番号]として本願で引用された文献>
1.Sun,K.H.,et al.,Monoclonal antibodies against human ribosomal P proteins penetrate into living cells and cause apoptosis of Jurkat T cells in culture.Rheumatology(Oxford),2001.40(7):p.750-6.
2.Angenieux,C.,et al.,Time-Dependent Decay of mRNA and Ribosomal RNA during Platelet Aging and Its Correlation with Translation Activity.PLoS One,2016.11(1):p.e0148064.
3.Hechler,B.,et al.,Platelets are dispensable for antibody-mediated transfusion-related acute lung injury in the mouse.J Thromb Haemost,2016.14(6):p.1255-67.
4.Tran,T.M.,et al.,The epitope recognized by pan-HLA class I-reactive monoclonal antibody W6/32 and its relationship to unusual stability of the HLA-B27/beta2-microglobulin complex.Immunogenetics,2001.53(6):p.440-6.
5.Derylo,K.,et al.,The uL10 protein,a component of the ribosomal P-stalk,is released from the ribosome in nucleolar stress.Biochim Biophys Acta,2018.1865(1):p.34-47.
6.Miyazaki,K.,et al.,Immature platelet fraction measurement is influenced by platelet size and is a useful parameter for discrimination of macrothrombocytopenia.Hematology,2015.20(10):p.587-92.
7.Perrault,C.et al.,Novel Monoclonal Antibody against the Extracellular Domain of GPIbModulates vWF Mediated Platelet Adhesion,Thromb Haemost,2001.86:p.1238-48.
8.Nomura,S.,Advances in Diagnosis and Treatments for Immune Thrombocytopenia,Clinical Medicine Insights:Blood Disorders,2016.9:p.15-22.

図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】