(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】波面解析装置、蛍光顕微鏡画像化システムおよび対象を顕微鏡画像化する方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20240501BHJP
G01J 9/00 20060101ALI20240501BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240501BHJP
G02B 21/18 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G02B21/00
G01J9/00
G01N21/64 E
G02B21/18
(21)【出願番号】P 2021544776
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2020052403
(87)【国際公開番号】W WO2020157265
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-18
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】304032424
【氏名又は名称】イマジン・オプチック
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ハームズ、ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】レベック、ザビエル
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-060202(JP,A)
【文献】特表2014-521093(JP,A)
【文献】特開2006-187482(JP,A)
【文献】特開2013-148436(JP,A)
【文献】特開2017-150816(JP,A)
【文献】特開平08-261842(JP,A)
【文献】Keelan Lawrencea ET AL,"Scene-based Shack-Hartmann Wavefront Sensor for Light-Sheet Microscopy",Proc. of SPIE,2018年02月23日,Vol. 10502,105020B-1~105020B-6
【文献】V. Michau ET AL,"Shack-Hartmann Wavefront Sensing with Extended Sources",Proc. of SPIE,Vol. 6303,2006年08月31日,63030B-1~63030B-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 - 21/36
G01J 3/00 - 9/04
G01N 21/62 - 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元の光学的領域と、蛍光性の対象(10)と、を持つ蛍光顕微鏡画像化システム(100、200、300)であって、
-前記対象を照明するための照明経路(105)と、
-前記対象の光学的領域を画像化するための画像化経路(103)であって、瞳面(P
4
)内に瞳を持つ顕微鏡対物レンズ(103)および画像検出面(P
6
)を備えた画像検出器(140)を備えた画像化経路(103)と、
-前記顕微鏡対物レンズ、および、前記対象からの波面を解析するように構成された波面解析装置(110)を備えた解析経路(101)と、
-前記画像化経路からの光学的欠陥を解析するために前記装置を分岐するためのビームスプリッタ部品(135)と、
を備え、
前記波面解析装置(110)は、
-前記顕微鏡対物レンズの焦点面と光学的に共役な検出面(P
3
)を備えた2次元検出器(112)と、
-解析面(P
5
)内に配置されたマイクロレンズ(115)の2次元配列(114)と、を備え、
-前記解析面(P
5
)と前記瞳面(P
4
)とを光学的に共役させるように構成された光リレーシステム(116)と、
-検出面(P
3
)と光学的に共役な面(P
2
)内に配置され、解析視野を決定するように構成された視野絞り(118)と、
-前記マイクロレンズにより生成された一組の画像に基づき、前記解析面内の波面の特性パラメータの2次元マップを決定するように構成された処理ユニット(120)と、
を備え、
前記マイクロレンズ(115)の各々は、前記検出面上で、顕微鏡対物レンズの焦点面(P
1
)内に配置された対象の画像を前記解析視野内に生成するように構成され、
前記光学的領域は、前記顕微鏡対物レンズの焦点面に重ね合わせられ、
前記対象の照明は、前記画像化経路の蛍光励起のための第1の照明と、前記解析経路の蛍光励起のための第2の照明と、を備え、
前記第2の照明は、十字形の2次元パターンに従って、前記対象の構造化された照明を生成することを特徴とする蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項2】
前記マイクロレンズ(115)の各々は、正方形の瞳を持ち、互いに接合されることを特徴とする請求項1に記載の
蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項3】
前記マイクロレンズは所定の形状の瞳を持ち、
前記視野絞り(118)の形状は、前記マイクロレンズの瞳の形状と同じであることを特徴とする請求項1または2に記載の
蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項4】
前記視野絞りの面と前記検出面とを光学的に共役とすることのできる1つ以上の光学部品をさらに備え、
前記視野絞りのサイズは、前記マイクロレンズの瞳のサイズを、前記1つ以上の光学部品で定義される光学倍率(G)で割った値以下であることを特徴とする請求項3に記載の
蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項5】
前記視野絞り(118)のサイズは可変であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の
蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項6】
前記視野絞りの位置は、前記検出面(P
3)と光学的に共役な面(P
2)内で可変であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の
蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項7】
前記視野絞りは、所定の空間周波数で、一方向に空間的に構造化されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の
蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項8】
前記2次元検出器は、基本検出要素の2次元配列を備え、
前記マイクロレンズの回折点は、一方向に0.2個から2個の基本検出要素を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の
蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項9】
前記ビームスプリッタ部品(135)は、第1のスペクトル帯の光を反射し、前記第1のスペクトル帯と異なる第2のスペクトル帯の光を透過することのできる二色部品であることを特徴とする請求項
1から8のいずれかに記載の蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項10】
前記瞳面(P
4)と光学的に共役な補正面(P
7)を備えた波面補正装置(145)をさらに備え、
前記補正面は、前記解析経路内に含まれ、
前記波面補正装置は、前記対象からの波面であって前記波面解析装置で解析された波面を補正するように構成されることを特徴とする請求項
1から9のいずれかに記載の蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項11】
光シートタイプの蛍光顕微鏡画像化システム(200)であって、
前記照明経路(105)は、前記対象を側方照明することにより、前記光学的領域を生成するように構成されることを特徴とする請求項
1から10のいずれかに記載の蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項12】
マルチフォトンタイプの蛍光顕微鏡画像化システム(300)であって、
前記照明経路(105)は、
-超短波パルスレーザ光を発する1つ以上のレーザ光源(150)を備え、
前記超短波パルスレーザ光の各々は、マルチフォトン蛍光を発するために、前記対物レンズの焦点面の焦点にフォーカスされ、
前記照明経路(105)は、
-前記焦点を横方向にスキャンするように構成されたスキャン装置(152)をさらに備えることを特徴とする請求項
1から10のいずれかに記載の蛍光顕微鏡画像化システム。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の蛍光顕微鏡画像化システムを用いて、対象を顕微鏡画像化する方法であって、
-
前記照明経路を用いて光学的領域に沿って前記対象を照明するステップと、
-
前記画像化経路の画像検出器の検出面内で前記対象の光学的領域を画像化するステップと、
-前記顕微鏡対物レンズを備えた解析経路と、
前記波面解析装置と、を用いて、前記対象の光学的領域からの波面を解析するステップと、を備え、
前記対象の照明は、前記画像化経路の蛍光励起のための第1の照明と、前記解析経路の蛍光励起のための第2の照明と、を備え、
前記第2の照明は、十字形の2次元パターンに従って、前記対象の構造化された照明を生成することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、明細書、特許請求の範囲、図面および要約書を含む。
【0002】
本開示は、波面解析装置、波面解析装置を備えた顕微鏡画像化システムおよび波面解析装置を用いた顕微鏡画像化方法に関する。より具体的には、本開示は、選択的領域(例えば、光シートまたはマルチフォトンシステム)を用いた蛍光顕微鏡画像化システムおよび方法ならびに蛍光顕微鏡画像化方法に関する。
【背景技術】
【0003】
顕微鏡、特に高分解能の画像化においては、分解能およびコントラストの面での画像品質は、画像検出器(例えばカメラ)上の入射波面に直接関係する。波面(すなわち、波の同位相面)は、画像化システムの光学部品に起因する光学的欠陥(例えば、光学部品の製品不良、調整不良、顕微鏡対物レンズの液浸媒質と対象との間の屈折率の違い等)および対象自身の両方の原因により乱される。これは、特に、透明または半透明の生体を対象として、対象の深部における平面に相当する画像を生成する場合に顕著である。実際、生体構造の複雑さに起因して、生体対象における屈折率の空間分布は、顕微鏡スケールでは不均一である。従って対象の深部における平面の異なる点から発する光は、対象内の層を通過するに従って乱される。その結果、これらの各点を源とする波面は完全な波面(平面または球面として定義された波面)と異なるものとなり、対応する画像は劣化する。
【0004】
補償光学(Adaptive Optics。以下「AO」という)は、特に画像化システムで使われる場合、当該システムで生成される画像の品質を改善する目的で、各点における波面の不良を補正するために、波面を動的に修正する技術である。典型的にはAOシステムは、3つの主要部品、すなわち波面の解析(または計測)装置と、波面の修正装置と、波面の解析から得られたパラメータを修正装置で適用される光学的修正に変更するための制御装置と、を備える。AO技術は、顕微鏡画像化に使用されると、光学システムと関心対象とに起因する光学的欠陥を修正することにより、画像化性能を著しく改善することができる。これらの様々な実施例は、以下に開示されている(文献1)。
文献1:"Adaptive optics for fluorescence microscopy", by M. J. Booth et al.
【0005】
顕微鏡画像化においてAOを実施する方法は近年進歩しているが、それらはすべて、光波の位相の局所的変更を可能とする波面修正装置の使用に基づく。これらの波面修正装置としては、例えば形状可変ミラー、液晶変調器(またはSLM:Spatial Light Modulator「空間光変調器」)、形状可変レンズなどが知られている。形状可変ミラーは、例えば反射皮膜と、当該反射皮膜を制御された方法で局所的に変形させるための一組のアクチュエータと、を備える。
【0006】
しかしながら顕微鏡画像化においてAOを実施する様々な方法は、光学的欠陥の修正のための測定方法の点で互いに異なる。光学的欠陥の測定方法を区別するための2つの主要なカテゴリーがある。1つは、顕微鏡によって生成された画像の解析に基づく間接測定法である。この方法は、画像の変形につながる波面の品質を表す品質基準を使う。もう1つは、光学的欠陥の直接測定法である。この方法は、波面解析器(例えば、シャック・ハルトマン型波面解析器)を使う。
【0007】
第1の方法(間接測定法)は、簡易に実施することができる。すなわち波面解析器を使用しないため、より安価な機器構成が可能である。しかしながらこの方法は全体最適化に基づくため、反復アルゴリズムの使用し、収束安定性を必要とする。このため、特に生体対象の動的画像化に使用した場合、実行速度と調整とに限界がある。
【0008】
従って特に生体対象の顕微鏡画像化に関しては、波面修正と連携した光学的欠陥の直接測定に基づく方法が、光学システムと対象とに起因する光学的欠陥を修正し、画像のコントラストおよび分解能を改善するのに非常によい性能をもたらすことが分かっている。このような方法は、例えば以下に開示されている(文献2)。
文献2:N. Ji, "Adaptive optical fluorescence microscopy"
【0009】
しかしながら光学的欠陥の直接測定法は、実施が困難であるという問題がある。実際この測定を行うには、一般に単一の波面を発する「点源」が必要となる。現在最も効果的な方法は、画像内の発光領域(「人工星」または「ガイド星」とも呼ばれる)を光学的に誘起し分離することを含む。その第1の例では、関心対象内に置かれた蛍光ビーズ(そのサイズは、使用される顕微鏡の回折限界に実質的に等しい)を用いてガイド星が生成される。これは対象の実質的な変更を必要とする(文献3)。
文献3:米国特許第855730 B2号明細書
第2の例では、関心対象内で2光子蛍光放射を局所的に発生する超短波レーザを用いて、ガイド星が生成される(文献4)。
文献4:米国特許出願公開第2015/0362713号明細書
【0010】
これらの方法は、関心対象の準備の面でも、機器設計の面でも、顕微鏡画像化において複雑な構成を必要とする。さらに波面源としての点源は、対象に起因する光学的欠陥の測定、従って対応するAO修正のみを可能とする。これは、対象のアイソプラネティックパッチで制限される視野内(すなわち、対応する画像が実質的に劣化しない程度に、光画的欠陥の変化が非常に小さいような視野内)で有効である。しかしながら、高分解能顕微鏡における大半の生体対象は、実質的な位相変動に対応する複数の微細構造から成り、アイソプラネティックパッチは一般に100平方ミクロンに制限される。これは、大型構造の時空間高分解能研究(例えば、神経画像化分野における神経回路網の研究)が著しく制限されることを表す。
【0011】
ごく最近、「光シート」タイプの顕微鏡画像化システムにおけるAO法であって、光学的欠陥の測定に点源の使用を必要としないものが提案された(文献5)。
文献5:K. Lawrence et al., "Scene-based Shack-Hartmann wavefront sensor for light-sheet microscopy"
この目的のために、シャック・ハルトマン型波面解析器であって、当該解析器の各マイクロレンズが拡大された対象画像を生成するものが提案されている。波面は、交差相関処理または相互相関処理を用いて解析される。これにより得られる波面の局所的勾配の2次元マップが得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら本出願人は、上記の従来技術には限界があることを明らかにした。実際、マイクロレンズにより生成された画像間には重なりがあることが分かる。この重なりにより、相互相関計算において誤差が生じ、波面解析の精度が低下する可能性がある。さらに上記の方法では、与えられた視野上で平均波面の解析のみが可能であり、対象のアイソプラネティックパッチが考慮されることはない。
【0013】
特に本開示の目的は、上記の課題のすべてまたは一部を解決する波面解析装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様では、本開示は、波面解析装置に関する。この波面解析装置は、
光学的領域と、瞳面内に瞳を備えた顕微鏡対物レンズと、を有する蛍光顕微鏡画像化システムに接続するように構成され、
前記波面解析装置)は、
-検出面を備えた2次元検出器)と、
-解析面内に配置されたマイクロレンズの2次元配列と、を備え、
前記マイクロレンズの各々は、前記波面解析装置が前記蛍光顕微鏡画像化システムに接続されたとき、前記検出面上で、所定の解析視野内に、顕微鏡対物レンズの焦点面内に配置された対象の画像を生成するように構成され、
前記波面解析装置は、
-前記解析面と前記瞳面とを光学的に共役させるように構成された光リレーシステムと、
-検出面と光学的に共役な面内に配置され、前記解析視野を決定するように構成された視野絞りと、
-前記マイクロレンズにより生成された一組の画像に基づき、前記解析面内の波面の特性パラメータの2次元マップを決定するように構成された処理ユニットと、をさらに備える。
【0015】
本開示では、波面とは、光波の同位相面のことをいう。
【0016】
1つ以上の実施の形態では、波面の特性パラメータは、解析面内における波面の2次元方向の局所的傾き(または局所的傾斜)を含む。
【0017】
1つ以上の実施の形態では、局所的傾きの2次元マップを決定することは、マイクロレンズによって生成された画像の位置の変化を決定することを含む。この変化は、参照波面(例えば、平坦な波面)により生成された画像の参照位置に対する変化として測定される。例えば、マイクロレンズにより生成された画像の位置の変化は、画像間の交差相関処理によって決定される。
【0018】
1つ以上の実施の形態では、波面の特性パラメータは、解析面内で捕らえられた波面の、光学的欠陥のない光波に相当する参照波面(例えば、平坦な波面)に対する局所的変化をさらに含む。この参照波面に対する波面の局所的変化の2次元マップは、波面の局所的傾きの2次元マップに基づいて取得することができる。
【0019】
本出願人らは、本開示に係る波面解析装置は、従来技術の装置に比べ、ガイド星を生成することなく、解析の精度を著しく改善できることを明らかにした。実際、この波面解析装置に配置された視野絞りにより、マイクロレンズにより検出面上に生成された画像のサイズを制御することができ、2つの隣接するマイクロレンズにより2つの画像間に生成された重なりを制限することができる。このとき、波面解析装置が接続された顕微鏡画像化システムの視野のサイズは制限されない。
【0020】
本開示では、「マイクロレンズ」とは、横方向のサイズ(すなわち、解析面内で測ったサイズ)が5mm以下、焦点深度が20mm以下、瞳のサイズが5mm以下の任意の光学的フォーカス部品のことをいう。マイクロレンズは、例えば2つの面(その少なくとも一方は平坦でなく、例えば凸面または球面である)を持つ透明な材料で構成されてもよい。
【0021】
1つ以上の実施の形態では、マイクロレンズマトリックスのマイクロレンズは、2次元マトリックスに配置された同一のレンズである。
【0022】
1つ以上の実施の形態では、マイクロレンズアレイのマイクロレンズは、互いに接続され、正方形の瞳を持つ。
【0023】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りは、透過視野絞りであり、例えば所定の有限のサイズの開口を備える。1つ以上の実施の形態では、視野絞りは、反射視野絞りであり、例えば所定の有限のサイズの反射部品を備える。特段の断りのない限り、本明細書全体を通して、視野絞りの形状および/またはサイズはそれぞれ、透過視野絞りの場合は開口の形状および/またはサイズのことをいい、反射視野絞りの場合は反射部品の形状および/またはサイズのことをいう。
【0024】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りの形状は、マイクロレンズの瞳の形状に類似する。
【0025】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りのサイズは、マイクロレンズにより生成された隣接する2つの画像が重なりを持たないように決定される。
【0026】
特に1つ以上の実施の形態では、波面解析装置は、視野絞りの面と検出面とを光学的に共役にすることのできる1つ以上の光学部品を備え、視野絞りのサイズは、マイクロレンズのサイズを、上記の1つ以上の光学部品で定義される光学倍率で割った値以下である以下である。
【0027】
1つ以上の実施の形態では、上記の1つ以上の光学部品は、光リレーシステムを備える。
【0028】
従って1つ以上の実施の形態では、正方形のマトリックスにおいて接合されたマイクロレンズであり、マイクロレンズのサイズはdmであり、光学倍率をGとしたとき、視野絞りはサイズがdm/Gの正方形である。
【0029】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りのサイズは、所定のアイソプラネティックパッチに相当する解析視野以下である。
【0030】
アイソプラネティックパッチは、対象の視野であり、その内部での光学的欠陥の変化が非常に小さいものとして定義される。あるアイソプラネティックパッチの任意の点からなる領域に起因する波面の測定値は、所定の解析面において、最も近い解析波長の分数(例えば、解析波長の4分の1)と同じ波面欠陥を持つ。実際これは、波面を補正するために、アイソプラネティックパッチ全体で同じ補正が適用できることを意味する。
【0031】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りのサイズは可変である。従って、解析視野のサイズを変えることができる。これにより、対象のアイソプラネティックパッチを決定することができる。例えば、対象のアイソプラネティックパッチは、一連の波面測定をすることによって決定することができる。この測定の各々は、視野絞りのサイズを最大サイズから減少させながら測定することによって行うことができる。このときアイソプラネティックパッチは、測定された波面が大きく変化しない(すなわち、解析波長の数分の1(例えば4分の1)より大きく変化しない)ときの最大のサイズに相当する。
【0032】
1つ以上の実施の形態では、このサイズは、隣接する2つのマイクロレンズにより生成された隣接する2つの画像が重なりを持たないときのサイズと、最小サイズとの間で変化する。
【0033】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りは、一辺の長さが可変の正方形である。
【0034】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りの位置は、波面解析装置の検出面と光学的に共役な面内で可変である。従って、顕微鏡対物レンズの焦点面に対する解析視野の横位置の関数として波面を測定することができる。これにより、補正が可能な場合は、光学的欠陥補正システムを用いて、上記の位置の関数として最適な補正を適用することができる。
【0035】
実際には、複雑な対象の場合、アイソプラネティックパッチのサイズは限定される。顕微鏡画像化システムは、所定のサイズの画像化視野を画像化する。典型的には、(解析器の)解析視野はより小さく、可能なアイソプラネティックパッチはさらに小さい。視野絞りを動かすことにより、異なる画像化視野内で波面の欠陥を測定することができ、さらにはこれらの異なる画像化視野内でアイソプラネティックパッチを決定することができる。
【0036】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りは、空間的に構造化された光学的透過率(または光学的反射率)を持つ。光学的透過率(または光学的反射率)を構造化することにより、マイクロレンズにより生成された画像内に、さらなる強度パターンを描くことができる。これにより、画像処理中に、画像間の交差相関の精度を向上させることができる。
【0037】
1つ以上の実施の形態では、上記の光学的透過率(または光学的反射率)は、透明領域と不透明領域との(または、反射領域と非反射領域との)、マイクロレンズアレイのマイクロレンズのカットオフ周波数以上の空間周波数での規則的な変化を含むために、構造化される。この特徴的は構成により、マイクロレンズにより生成された画像内に、さらなる強度パターン、すなわちモアレ効果に起因するパターンを描くことができる。この構成は、対象がマイクロレンズアレイのマイクロレンズのカットオフ周波数以上の空間周波数を持つ構造のみを含む対象である場合に、特に有用である。
【0038】
1つ以上の実施の形態では、2次元検出器は、一方向に0.2個から5個の基本検出要素を備え、有利には一方向に0.2個から2個の基本検出要素を備える。マイクロレンズの回折点のサイズは、一方向に、強度が最大となる両辺上に位置する2つの最小強度間の距離によって定義される。本出願人らは、この特徴的な構成が、波面測定精度と解析視野との間のよい折衷であることを明らかにした。
【0039】
1つ以上の実施の形態では、本開示は、3次元の光学的領域と、蛍光性の対象と、を持つ蛍光顕微鏡画像化システムに関する。
【0040】
第2の態様では、
3次元の光学的領域と、蛍光性の対象と、を持つ蛍光顕微鏡画像化システムは、
-前記対象を照明するための照明経路と、
-前記対象の光学的領域を画像化するための画像化経路と、を備え、
画像化経路は、瞳面内に瞳を持つ顕微鏡対物レンズと、画像検出面を備えた画像検出器と、を備え、
前記光学的領域は、前記顕微鏡対物レンズの焦点面に重ね合わせられ、
前記蛍光顕微鏡画像化システムは、前記顕微鏡対物レンズと、前述の波面解析装置と、を備えた解析経路をさらに備え、
当該波面解析装置は、前記対象からの波面を解析するように構成され、
前記解析面は、前記瞳面と光学的に共役であり、
前記波面解析装置の検出面は、前記顕微鏡対物レンズの焦点面と光学的に共役であり、
前記蛍光顕微鏡画像化システムは、前記画像化経路からの光学的欠陥を解析するために前記装置を分岐するためのビームスプリッタ部品をさらに備える。
【0041】
本明細書では、蛍光とは、所定のスペクトル帯における光子の吸収による光励起に起因する、対象からの発光であると理解される。蛍光の発光は、線形の1光子吸収メカニズムに起因するものであっても、非線形の2以上の光子吸収メカニズムに起因するものであってもよい。典型的にはこのメカニズムは、吸収光と、対象を形成する蛍光素子(または、対象に加えられた蛍光素子(例えば、生体対象の場合、蛍光タンパク質)との間の相互作用に起因する。
【0042】
3次元の蛍光対象は、微細構造を持ち、固有蛍光特性が与えられた(または、「マーカー」を付与することにより生成された)任意の対象を含む。3次元の蛍光対象は、例えば細胞、細胞培養液、動物などの生体対象を含む。これらの生体対象は、蛍光特性(当該対象に固有のものであれ、追加的な蛍光要素により誘発されたものであれ)を持つ。3次元の関心蛍光対象の中で、特に動物の脳の蛍光神経構造は、神経画像化の研究で引用される。
【0043】
本明細書では、光学的領域を備えた蛍光顕微鏡画像化システムは、顕微鏡対物レンズを備えた画像化システムである。このシステムでは、対象の光学的領域からの蛍光であって、顕微鏡対物レンズの光軸に垂直なもののみが検出される。光学的領域は、対象を照明するための様々な既知の方法を用いて生成することができる。光学的領域の厚さは、顕微鏡対物レンズの視野深度のオーダかそれ以下であってよい。
【0044】
波面解析は、測定された波面の特性パラメータの2次元マップを、解析平面において決定することを含む。
【0045】
特性パラメータは、例えば、解析面内における波面の2次元方向の局所的傾き(または局所的傾斜)を含む。
【0046】
1つ以上の実施の形態では、制御ユニットが、局所的傾きの2次元マップ(すなわち、欠陥のない光波に相当する参照波面(例えば、平坦な波面))に対する波面偏差の2次元マップ)に基づいて、決定するように構成される。この欠陥のない光波に相当する参照波面に対する波面偏差の2次元マップは、対象の特性(例えば、対象内の不均一性の存在および分布)を決定するために使うことができる。例えば対象が細胞の場合、当該細胞核の屈折率は、細胞質の屈折率と異なる。このとき、生体機能などの細胞の特性を推測するために、欠陥のない光波に相当する参照波面に対する波面偏差の2次元マップにより、細胞核および各点での波面の数値を画像化することができる。これに対し、対象の画像化経路のみから作られる強度情報からは、こうした情報は得られない。
【0047】
1つ以上の実施の形態では、画像化経路は、画像検出器からの信号を処理するための処理ユニットを備える。もちろん実際には、解析経路および画像化経路の処理ユニットは、同じユニットに統合されていてもよい。
【0048】
1つ以上の実施の形態では、ビームスプリッタ部品は、二色タイプであってもよい。この場合、入射ビームを、反射光のための第1スペクトル帯と、透過光のための第1のスペクトル帯と異なる第2のスペクトル帯とに分岐することができる。
【0049】
1つ以上の実施の形態では、二色タイプのビームスプリッタ部品は、上記の2つのスペクトル帯を、画像化経路と解析経路とに分岐することができる。
【0050】
1つ以上の実施の形態では、照明経路は、少なくとも2つの光源を備える。一方は画像化経路での蛍光励起に使われ、他方は解析経路での蛍光励起に使われる。照明経路は、2次元パターンで構造化された照明を生成するように構成される。
【0051】
1つ以上の実施の形態では、2次元パターンは十字形である。
【0052】
均一なまたはわずかにコントラストのある蛍光を発する対象の場合、この実施の形態により、波面解析装置の検出面内に画像を得ることができる。これらの画像は、当該画像間の相互相関計算を促進するジオメトリに従って、波面解析装置のマイクロレンズにより生成される。
【0053】
1つ以上の実施の形態では、第2の態様に係る顕微鏡画像化システムは、顕微鏡対物レンズの瞳面と光学的に共役な補正面を備えた波面補正装置をさらに備える。この補正面は、解析経路内に含まれる。波面補正装置は、対象からの波面であって波面解析装置で解析された波面を補正するように構成される。
【0054】
波面補正装置は、参照波面を得ることを目的に、補正面内の波の位相を局所的に変えるものであると理解される。波面補正方法の目的(例えば、画像化システムの性能の最大化)に応じて、参照波面は平坦な波面または特定の波面であってもよい。
【0055】
波面補正装置は、例えば例えば形状可変ミラーを備える。こうした形状可変ミラーは一般に、反射皮膜と、当該反射皮膜の軸位置を局所的に変形させることのできるアクチュエータと、からなる。波面補正装置はまた、液晶変調器(SLM)を備えてもよい。こうした液晶変調器は一般に、2次元に配列され、屈折率を局所的に変化させるための電極に接続された液晶セルからなる。波面補正装置はまた、形状可変レンズを備えてもよい。こうした形状可変レンズは一般に、当該レンズの形状および/または厚さが局所的に可変な能動的素子からなる。
【0056】
1つ以上の実施の形態では、波面解析装置の処理ユニットは、解析面での波面の解析機能として補正装置を制御するように構成される。
【0057】
1つ以上の実施の形態では、光学的領域を備えた蛍光顕微鏡画像化システムは、「光シート」タイプである。この場合照明経路は、対象の側方照明により光学的領域を生成するように構成される。
【0058】
1つ以上の実施の形態では、「光シート」タイプの蛍光顕微鏡画像化システムは、補正装置を備える。当該補正装置の補正面は、解析経路と画像化経路とで共通である。補正装置を用いて波面を補正することにより、特に顕微鏡対物レンズの焦点面が対象の深部にあるとき、画像の品質を改善することができる。これは、対象の表面と焦点面との間の不均一性に起因して発生する光学的欠陥が補償されるためである。
【0059】
1つ以上の実施の形態では、蛍光顕微鏡画像化画像化システムは、マルチフォトンタイプである。
【0060】
1つ以上の実施の形態では、蛍光顕微鏡画像化システムは、
-超短波パルスレーザ光を発光する1つ以上のレーザ光源と、
-焦点を横方向にスキャンするように構成されたスキャン装置と、を備え、
顕微鏡対物レンズは、マルチフォトン蛍光を生成するために、上記の超短波パルスレーザ光のパルスの各々を、当該顕微鏡対物レンズの焦点面の焦点にフォーカスすることができる。
【0061】
1つ以上の実施の形態では、マルチフォトン蛍光顕微鏡画像化システムは、補正装置を備える。このとき補正面は、解析経路と照明経路とで共通である。補正装置を用いて波面を補正することにより、画像の品質を改善することができる。従って画像の各点において、蛍光信号を生成することができる。これは、対象の表面と焦点面との間の不均一性に起因して各パルスが通過するときに発生する光学的欠陥が補償されるためである。
【0062】
1つ以上の実施の形態では、本開示は、上記の第2の態様の蛍光顕微鏡画像化システムおよびその実施の形態により生成された光学的領域を用いて、対象を顕微鏡画像化する方法に関する。
【0063】
より具体的には、本開示は、光学的領域を備えた蛍光顕微鏡画像化システムを用いて、対象を顕微鏡画像化する方法に関する。この方法は、
-照明経路を用いて、光学的領域に沿って前記対象を照明するステップと、
-瞳面内に瞳を持つ顕微鏡対物レンズと、画像検出器と、を備えた画像化経路を用いて、前記画像検出器の検出面内で、前記対象の光学的領域を画像化するステップと、
-前記顕微鏡対物レンズを備えた解析経路と、上記のいずれかに記載の波面解析装置と、を用いて、前記対象の光学的領域からの波面を解析するステップと、を備え、
前記波面解析装置の解析面および検出面は、それぞれ前記顕微鏡対物レンズの瞳面および焦点面と光学的に共役であり、
前記解析経路は、ビームスプリッタを用いて、前記画像化経路から分岐されている。
【0064】
1つ以上の実施の形態では、波面を解析するステップは、波面の2次元マップを決定するステップ、例えば波面の局所的傾きを決定するステップを含む。
【0065】
1つ以上の実施の形態では、顕微鏡画像化システムは、前記対象の光学的領域からの波面を、顕微鏡対物レンズの瞳面と光学的に共役な補正面において補正するステップを更に備える。この補正面は解析面内に配置される。
【0066】
1つ以上の実施の形態では、ビームスプリッタ部品は二色タイプである。このとき画像化するステップは第1のスペクトル帯で実行され、解析は第1のスペクトル帯と異なる第2のスペクトル帯で実行される。
【0067】
この実施の形態は、例えば、2つのタイプの対象に蛍光素子を導入することによって実施することができる。このとき、波面を解析するために対象の画像を生成することを目的とした蛍光発光の光子を使わないことができる。これは、蛍光の弱い対象(一般に生体対象は蛍光が弱い)の場合、特に重要である。
【0068】
1つ以上の実施の形態では、対象の照明は、画像化経路の蛍光励起のための第1の照明と、解析経路の蛍光励起のための第2の照明と、を含む。第2の照明は、2次元パターンに従って、対象の構造化された照明を生成する。
【0069】
1つ以上の実施の形態では、2次元パターンは十字形である。
【0070】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りのサイズは可変である。このとき、対象を顕微鏡画像化する方法は、異なるサイズの視野絞りに関して波面を解析するステップと、波面の異なる解析に基づいて、少なくとも1つのアイソプラネティックパッチを決定するステップと、をさらに備える。
【0071】
1つ以上の実施の形態では、視野絞りの位置は視野絞りの面内で可変である。このとき、対象を顕微鏡画像化する方法は、異なる位置の視野絞りに関して波面を解析するステップと、波面の異なる解析に基づいて、複数のアイソプラネティックパッチを決定するステップと、をさらに備える。
【0072】
1つ以上の実施の形態では、対象を顕微鏡画像化する方法は、前記対象の光学的領域からの波面を、視野絞りの異なる領域において、上記の複数のアイソプラネティックパッチの関数として連続的に補正するステップをさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】本開示に係る、顕微鏡画像化システムに接続された波面解析装置の模式図である。
【
図2A】本開示に係る波面解析装置の検出面内で、マイクロレンズアレイによって生成された画像である。
【
図2B】本開示に係る波面解析装置内で、画像化システムの画像検出面上に生成された画像である。
【
図3】画像化システムの画像検出面上に生成された生体対象の画像と、マイクロレンズアレイを用いて、視野絞りのサイズおよび位置で定義された異なるサイズおよび位置の2つの解析視野で本開示に係る波面解析装置の検出面内に生成された画像と、を示す図である。
【
図4】本開示に係る「光シート」タイプの蛍光顕微鏡画像化システムの例を表す図である。
【
図5】本開示に係る「マルチフォトン」タイプの蛍光顕微鏡画像化システムの例を表す図である。
【
図6】それぞれ対象の微細構造の空間周波数および構造化された視野絞りの空間周波数に相当する異なる空間周波数を備えた2つの強度パターンの重ね合わせの結果生じたモアレ現象による強度パターンの例を示す図である。
【
図7A】本開示に係る「光シート」タイプの蛍光顕微鏡画像化システムにおいて、十字形の2次元パターンに従って構造化された対象の照明の例を示す図である。
【
図7B】本開示に係る「マルチフォトン」タイプの蛍光顕微鏡画像化システムにおいて、十字形の2次元パターンに従って構造化された対象の照明の例を示す図である。
【
図8】マイクロレンズアレイマイクロレンズのスケールにおける、ゼロでない波面傾斜を用いて、本発明に係る波面解析システムの検出面上に形成された幾何学的構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
図1は、本開示に係る波面解析装置110の模式図である。波面解析装置110は、光学的領域を備える蛍光顕微鏡画像化システム100に接続される。
【0075】
光学的領域を備える蛍光顕微鏡画像化システム100は、蛍光対象10の3次元の光学的領域を照明するための照明経路(
図1には示されない)を備える。
【0076】
顕微鏡画像化システム100はまた、画像化経路103と、波面解析110を備えた解析経路101と、を備える。
【0077】
図1の例では、画像化経路103は、瞳面P
4内に瞳131を備える顕微鏡対物レンズ130と、フォーカシングレンズ134と、蛍光フィルタ132と、検出面P
6を備える画像検出器140と、画像検出器140で得られた信号を処理するための処理ユニット142と、を備える。
【0078】
顕微鏡画像化システムの種類(例えば、光シートまたはマルチフォトン)によっては、画像検出器140は、2次元検出器(例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラまたは高感度CMOS(Complementary Metal Oxide Sensor)カメラ(例えば、sCMOSカメラ、スポット検出器(例えば、光電子増倍管)))であってもよい。
【0079】
関心対象10は、顕微鏡対物レンズ130の焦点面P1の近辺に置かれる。関心対象10は、例えば透明または半透明のサンプル(例えば、蛍光生体対象)である。顕微鏡対物レンズ130の焦点面P1は、例えば関心対象10の表面からゼロでない距離に置かれ、深部に位置する面の画像を生成する。
【0080】
顕微鏡画像化システム100は、光学的領域を備えた蛍光顕微鏡画像化システムであり、すなわち、異なる技術を用いて、顕微鏡対物レンズの光軸に垂直な光学的領域から発する光のみを選択することができる顕微鏡である。光学的領域は、対物レンズの焦点面に位置する。光学的領域の厚さは、顕微鏡対物レンズの領域の深さより小さくてもよい。蛍光顕微鏡(例えば、光シート蛍光顕微鏡、マルチフォトン蛍光顕微鏡など)の内部に光学的領域を生成するためのいくつかの技術的手段が存在する。これらについては、
図4および5を参照して説明する。簡単のため、蛍光性の光学的領域を生成する手段を備えた対象の照明経路は、
図1には示さない。
【0081】
蛍光フィルタ132は、選択された蛍光放射に相当するスペクトル帯のみを通過させるスペクトルフィルタである。これは、対象により後方散乱光されることが可能な光の励起を目的とする。蛍光フィルタ132は、間の励起ビームと蛍光放射ビームとの間の相対的なスペクトル特性に応じて、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタであってよい。
【0082】
フォーカシングレンズ134により、生成されるべき光学的領域の画像を画像検出面P6上の焦点面P1に重ね合わせることができる。フォーカシングレンズ134は、しばしば「チューブレンズ」と呼ばれる1つ以上のレンズを備えてもよい。このレンズは、画像検出器140の特性(特に、画像検出器140の基本検出要素のサイズまたは画像検出器140のピクセルのサイズ)と組み合わされて、スペクトル重なり効果なく焦点面P1のサンプリングが可能である(すなわち、シャノンの定理で定義されるサンプリング条件を満たす)という特性を持つ。
【0083】
顕微鏡画像化システム100はまた、ビームスプリッタ部品135を備える。これにより、対象から放射された蛍光を画像化経路103から取り出し、解析経路上の波面解析装置110に送ることができる。
【0084】
1つ以上の実施の形態では、ビームスプリッタ部品135は、ビームスプリッタキューブまたはビームスプリッタプレートを備える。これにより、対象からの蛍光部分(例えば、50%)を画像検出器140に透過(または反射)し、対象からの蛍光以外の部分を波面解析装置110に反射(または透過)することが可能となる。
【0085】
1つ以上の実施の形態では、ビームスプリッタ部品135は、プレートまたは二色キューブを備える。これにより、対象からの蛍光の第1のスペクトル帯の部分を画像検出器140に透過(または反射)し、対象にからの蛍光の第2のスペクトル帯の部分を波面解析装置110に反射(または透過)することができる。これらの2つのスペクトル帯は、重なりを持たない。例えば、二色タイプのスプリッタ部品は、1つ以上の蛍光励起源および対象上の2つのタイプの蛍光マーカーに付随して使用される。これにより、2つの分離した蛍光放射スペクトルが得られる。これにより、波面測定のための画像検出器140による画像生成にとって有用な信号の消失を防ぐことができる。これにより、画像化経路103上および解析経路101上の測光バランスが最適化される。例えば、神経画像化に使われる動物モデル(ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ)の脳のような生体対象の場合、波面解析装置110により波面を測定するために解剖学的蛍光マーカーを使うことができ、画像化のために特定の蛍光マーカー(例えば、個々のニューロンの反応に関連したカルシウム活動マーカー)を使うことができる。これら2つのマーカーは、2つの分離したスペクトル帯で蛍光信号を発する。
【0086】
図1に示される波面解析装置(または波面測定装置)110は、検出面P
3を備えた2次元検出器112を備える。2次元検出器112は、マイクロレンズ115のマトリックス114(これらのマトリックスは、解析面P
5内に配置される)からの光信号を検出するように構成される。波面解析装置110はまた、解析面P
5と顕微鏡対物レンズ130の瞳面P
4とを光学的に共役させるように構成された光リレーシステム116と、視野絞り118と、検出器112からの信号を処理するための処理ユニット120と、を備える。
【0087】
2次元検出器112は例えば対象からの、所定のスペクトル帯の蛍光を検出するように構成されたCCDまたはCMOSタイプの2次元カメラである。典型的には、蛍光顕微鏡で使用される蛍光マーカーは、可視または近赤外のスペクトル帯(例えば、400nm以上900nm以下)の光を発する。しかしながら必要であれば、他の検出技術(例えば、2次元検出器のピクセル上の他の感光性材料)を用いて、検出器の感度を他のスペクトル帯に適合させてもよい。例えばInGaAsは、0.9μm以上1.7μm以下の遠赤外線に感度を持つ。このスペクトル帯では、特に散乱環境でより深い光侵入深度を持つことから、様々な蛍光マーカーが開発されている。
【0088】
マイクロレンズアレイ114は、解析面P5内に配置された(例えば、2次元マトリックスに配置された)光フォーカシング部品115の2次元配列を備える。実際、光フォーカシング部品115(またはマイクロレンズ)の各々は、同じ焦点距離fmおよび同じ瞳サイズdmによって特徴づけられる。ただし瞳サイズは、マイクロレンズの形状の関数で定義される。マイクロレンズアレイ114は、異なる技術により製造することができる。こうした技術は、ガラスなどの光学材料からなる基板の機械加工、光学基板上に堆積した感光性レジンへのフォトリソグラフィの適用、基板上への光学材料の反復的堆積によるフレネルレンズのアレイの形成、モールドを用いたプラスチック光学材料のプレスなどを含むが、これらに限定されない。典型的にはマイクロレンズは、直径dmの円形の瞳または一辺がdmの正方形の瞳を持つ。使われる技術に応じて、別の瞳の形状(例えば六角形の瞳)が採用されてもよい。好ましくは、互いに接合された正方形のマイクロレンズが使われる。この接合形状の特性により、すべての入射光が可能となる(これは、接合されない円形の瞳とは異なる)。透過効果を最大化するため、一般に反射防止処理が施される。これは、マイクロレンズアレイのスペクトル利用帯に相当する。マイクロレンズアレイ114は、2次元検出器112からからfmの距離の位置に置かれる。マイクロレンズの各々は、検出面P3内に画像を生成する。
【0089】
ビームスプリッタ部品135により、波面解析装置1107内に、対象焦点面P1と共役な中間画像面P2を定義することができる。視野絞り118は、中間画像面P2内に置かれる。マイクロレンズアレイ114と組み合わされた光リレーシステム116により、光リレーシステム116の焦点距離とマイクロレンズアレイ114の焦点距離との比で定まる倍率で、中間画像面P2と検出面P3とを光学的に共役とすることができる。さらに、フォーカシングレンズ134(チューブレンズ)と組み合わされた光リレーシステム116により、光リレーシステム116の焦点距離とフォーカシングレンズ134の焦点距離との比で定まる倍率で、顕微鏡対物レンズ130の瞳面P4と解析面P5(マイクロレンズアレイの面)とを光学的に共役とすることができる。
【0090】
中間画像面P2内に置かれた視野絞り118により、マイクロレンズアレイ114の各マイクロレンズ115によって画像化される視野のサイズを制限することができる。有利な実施の形態では、視野絞り118のサイズおよび形状は、マイクロレンズアレイ114隣接するマイクロレンズに起因する2つの隣接する画像に重なりが生じないように選ばれる。例えば一辺がdmの正方形のマイクロレンズで、焦点距離がfc=3fmの光リレーシステム116の場合、一辺が3dm以下の正方形の視野絞り118を選ぶことができる。視野絞り118は、波面解析装置110の(従って、解析経路101の)一部であるが、画像化経路105の一部ではない。このため、画像検出器140によって画像化される視野の最小化が回避される。
【0091】
処理ユニット120は、検出器112からの信号を処理し、特に対象の光学的領域に起因する波面を測定するために(すなわち、波面のパラメータ特性を決定するために)これらの信号に関するすべての処理を実行するように構成される。
【0092】
処理ユニット120は、一般に本開示に係る方法に含まれる計算および/または処理ステップを実行するように構成される。一般に本発明で計算または処理ステップ(特に方法に含まれるステップ)というとき、各計算または処理ステップは、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェアまたはこれらの任意の好適な組み合わせにより実行できると理解されたい。ソフトウェアが使われる場合、各計算または処理ステップは、コンピュータプログラム命令またはソフトウェアコードにより実行可能である。これらの命令は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体(または処理ユニット)に記憶または送信することができ、および/または、これらの計算または処理ステップを実行するためにコンピュータ(または処理ユニット)によって実行することができる。
【0093】
もちろん、処理ユニット120および処理ユニット140は、同一のユニット(例えばコンピュータ)に統合されていてもよい。
【0094】
このようにマイクロレンズアレイ114の各マイクロレンズ115は、蛍光性の光学的領域の検出器112の検出面P3上で、前述のように視野絞り118で定まる視野内に、画像を生成する。対象および/または光画像化システムが収差を持たない場合、各マイクロレンズは、使われるマイクロレンズの光軸上に中央付けられた対象の光学的領域の検出面上に画像を生成する。面P1が不均一な対象の深部にあるとき、特に瞳131内に光学収差が存在する。これは平坦でない波面に相当する。この場合、検出面P3上に、マトリックス115の各マイクロレンズで生成された各画像に横移動が観測される。この移動は、対応するマイクロレンズ上の波面の局所的変化(すなわち波面の傾斜)に比例する。面P4およびP5が共役であるため、これらの画像の各々は、画像化経路103上の検出器140で生成された画像に対応する。しかしながら、瞳131の部分を通過した部分は、レンズ116および134により、マトリックスP3のマイクロレンズの画像に相当する。この移動は、シャック・ハルトマン型波面解析器と同じ方法で見ることができる。これについては、点源に使われるとおなじタイプのセンサを用いて、画像ではなく各マイクロレンズに起因する回折点の移動が観測される。
【0095】
マイクロレンズアレイ114のマイクロレンズ115のスケールでの不完全な波面が原因で波面解析システムの検出面で生まれる幾何学的効果と、マイクロレンズの有利なサイズの例については、
図8を参照しながら後で詳しく述べる。
【0096】
例示として、
図2Aは、シャック・ハルトマン型波面解析器のマイクロレンズアレイによって生成された回折点を表す画像202と、本開示に係る波面解析器のマイクロレンズアレイのマイクロレンズによって生成された画像を表す画像204と、を示す。画像206は、マイクロレンズによって生成された拡大画像である。
図2Bは、画像化経路の検出器上で生成された同じ対象の画像である。この例では、対象はチューブリンの蛍光マーカーを含むHeLaタイプの蛍光細胞であり、画像化システムは光シートタイプの画像化システムである。この例では、マイクロレンズは、互いに接合した正方形であり、焦点距離と一辺の長さとの比は15である。この比の値は開口数に相当し、実施的に顕微鏡対物レンズの開口数より小さい。これにより、マイクロレンズによって生成された画像の分解能の低下が説明される。画像206にはその一例である。これが理由で、マイクロレンズによって生成された画像は、画像化経路の検出器上で生成された画像との比較を通して、対象の空間周波数のローパスフィルタリングを実行する。この例では、視野絞りによって定まる解析視野の表面は、顕微鏡で画像化される視野のほぼ4分の1に相当する。
【0097】
処理ユニット120を用いてマイクロレンズの組により生成された画像のすべての移動を測定することにより、導出されるべき瞳面P4内の波面の傾斜の2次元マップを作成することができる。ここから数値積分を用いて、波面のマップを導出することができる。マイクロレンズによって生成された画像の移動の測定は、典型的には、各画像の参照画像に対する交差相関処理によって行われる。この参照画像は、例えば参照マイクロレンズ(例えば、マイクロレンズアレイ114の中央のマイクロレンズ)によって生成された画像として定義される。各マイクロレンズにより検出面P3上に画像化された視野を制限することにより、視野絞り118は、隣接するマイクロレンズに起因する画像同士が重なることを防ぐ。こうした重なりは、交差相関処理の計算中に誤差を発生させる可能性が高い。
【0098】
例えば
図1に示されるように、波面解析装置110は、光学的領域を備えた蛍光顕微鏡内で動作すると、対象内に点源が存在しなくても、必要な波面の測定を行うことができる。これに対し、例えばシャック・ハルトマン型波面解析器を使用するときは点源が必要である。
【0099】
波面解析器110は、光学的領域を備えた蛍光顕微鏡内で動作すると、視野絞り118によって定められる解析視野上で、必要な光学的欠陥の測定を行うことができる。解析視野の大きさがアイソプラネティックパッチより大きい場合、波面の測定は、視野絞り118によって定められる視野上での平均波面の測定に相当する。
【0100】
1つ以上の実施の形態では、視野絞り118は「アクティブ」である(すなわち、面P2の大きさおよび/または位置が可変である)と呼ばれる。
【0101】
一例では、視野絞りは可変のサイズを持つ。例えば、対となって互いに向かい合って正方形の透過領域を形成する最大4個の不透明のプレートからなる正方形の透過視野絞りの場合、これらのプレートを可動部品(これはモータ駆動されてもされなくてもよい)上に配置することができる。これにより、向かい合うように配置された2つのプレート間の相対距離を調節することができる。視野絞りが可変開口を持つことにより、例えば視野絞りのサイズを減少させながら一連の波面測定を実行することにより、画像化視野の領域内に、対象のアイソプラネティックパッチを定義することができる。2つの連続する測定間で波面が変化しなくなったとき、2つの測定のうちの最初の方に相当する視野絞りのサイズは、当該領域における対象のアイソプラネティックパッチのサイズに相当する。
【0102】
ある例では、視野絞り118はまた、面P2内で可変な位置にあってもよい。例えば可変な位置は、横位置をモータ駆動することによって(例えば、圧電モータまたはステッパモータを用いて)得られる。
【0103】
視野絞り118の可変な位置を可変のサイズと組み合わせることにより、異なる視野領域でアイソプラネティックパッチの大きさを決定することができ、異なる画像可視野領域で解析面内の波面の光学的欠陥を決定することができる。有利には、視野絞り118の大きさは、各領域で決定されるアイソプラネティックパッチの大きさより小さいものが選ばれる。
【0104】
図3は、画像化システムの画像検出面P
6上に生成された生体対象の画像302と、マイクロレンズアレイを用いて、視野絞りのサイズおよび位置で定義された異なるサイズおよび位置の2つの解析視野で本開示に係る波面解析装置の検出面P
3内に生成された画像304、306と、を示す。
【0105】
神経画像化(ショウジョウバエ、マウス、ゼブラフィッシュの脳)における生体対象の場合、典型的な視野は、一辺が400μmから500μmである。対応する「平均」アイソプラネティックパッチは、一辺が約150μmである(必要であれば参照可能である。
【0106】
図4は、本開示に係る「光シート」タイプの蛍光顕微鏡画像化システム200の例を表す図である。
【0107】
蛍光顕微鏡画像化システム200は、
図1のシステムの部品と似た部品を備える。類似の部品には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0108】
光シート蛍光顕微鏡では、照明経路105が、対象の側方照明により光学的領域を生成するように構成される。照明経路は、1つ以上の励起ビーム(これらは、異なるスペクトル帯で発光してもよい)を発する1つ以上の光源(
図4には示されない)を備えてもよい。蛍光励起ビームは、顕微鏡対物レンズの光軸に垂直な面上に、薄い入射光面(その厚さは、一般に顕微鏡対物レンズの視野深度と等しい)を生成する。励起ビームは、対物レンズ130の焦点面P
1の外にあるサンプルを通過しない。これにより、疑似蛍光信号の透過を防ぐことができる。
【0109】
図4に示される例では、「光シート」タイプ蛍光顕微鏡画像化システムは、解析経路101と画像化経路103とに共通な補正面P
7を備えた補正装置145を備える。補正装置145を用いて波面を補正することにより、検出器140の検出面P
6上に生成された画像の品質を改善することができる。対象の表面と焦点面との間の不均一性に起因する光学的欠陥を補償することができるので、これは特に顕微鏡対物レンズの焦点面が対象の深部に位置するとき顕著である。
【0110】
図4に示される顕微鏡画像化システム200は、解析経路と画像化経路103との共通部に、アフォーカル光学システム136、137をさらに備える。顕微鏡画像化システム200はまた、画像化経路103上に、チューブレンズ134を備える。これにより、画像検出面P
6上に画像を生成することができる。顕微鏡画像化システム200はさらに、解析経路101上に、中間画像面P
2を生成するためのレンズ146を備える。波面解析装置110の視野絞り118は、この中間画像面P
2内に設置される。
【0111】
図5は、本開示に係る「マルチフォトン」タイプの蛍光顕微鏡画像化システム300の例を表す図である。
【0112】
蛍光顕微鏡画像化システム300は、
図1のシステムの部品と似た部品を備える。類似の部品には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0113】
マルチフォトン蛍光顕微鏡では、励起ビームに関する非線形関係で特徴づけられる蛍光が使われる。すなわち対象の蛍光信号は、局所的に最小パワー密度が実現されたときのみ発せられる。典型的にはこの条件は、励起ビームがフォーカスされたとき(すなわち、顕微鏡対物レンズの焦点面内で)のみ満たされる。これにより、疑似蛍光信号を本質的に防ぐことができる。
【0114】
図5に示される例では、照明経路105は、超短波パルスレーザ光を発する1つ以上のレーザ光源150と、選択的に1つ以上の集光レンズ151と、を備える。これにより、顕微鏡対物レンズ130は、マルチフォトン蛍光を生成するために、各パルスを対物レンズの焦点面P
1の焦点上にフォーカスすることができる。照明経路105は、焦点面P
1内で焦点を横方向にスキャンするように構成されたスキャン装置152をさらに備える。
図5に示される顕微鏡画像化システムの例では、検出器140は、例えば1次元検出器(例えば、対象10から発せられ、スプリッタ部品135によって焦点の位置ごとに送信される光のエネルギーを検出するように構成された光電子増倍管)を備える。検出器140は、対象の2次元画像を生成するために、スキャン装置152と協調動作する。
【0115】
1つ以上の実施の形態では、マルチフォトン蛍光顕微鏡画像化システム300は、補正面P7を備えた補正装置145を備える。この例では、補正面P7は、解析経路101と照明経路105とで共通である。補正装置を用いて波面を補正することにより、焦点の精度を改善することができる。これにより、各パルスが通過するときの表面と焦点面との間での対象の不均一性に起因する光学的欠陥を補償することができるので、画像の各点における蛍光信号を強めることができる。
【0116】
図5に示される顕微鏡画像化システム300は、解析経路と照明経路との共通部に、アフォーカル光学システム157、158をさらに備える。顕微鏡画像化システム300はまた、画像化経路103上に、チューブレンズ134を備える。これにより、画像検出面P
6上に画像を生成することができる。顕微鏡画像化システム200はさらに、解析経路101上に、中間画像面P
2を生成するためのレンズ146を備える。波面解析装置110の視野絞り118は、この中間画像面P
2内に設置される。
【0117】
本出願人は、本開示に係る光領域を備えた顕微鏡画像化システムであるかを問わず、マイクロレンズにより生成された画像の相対位置を決定するための交差相関処理計算を使用することにより、画像の特性(特に、これらの画像を形成する強度パターンのサイズおよびコントラスト)とは独立にこれらの位置を正確に測定することができることを明らかにした。
【0118】
実際、例えばマイクロレンズによって生成された均一な画像の組では正確な相関計算をすることができない。この場合、相関処理は、相関ピーク位置の正確な決定を可能とする構造を持たない。この例は、例えば均一な対象(あるいは、細部のみからなる対象)で起きる。これらに特徴的なサイズは、マイクロレンズアレイのマイクロレンズで画像化できる最小サイズより小さい。
【0119】
図6および
図7は、本開示に係る顕微鏡画像化方法の2つの実施の形態を示す。この方法によれば、本開示に係る波面解析装置110の検出面P
3内で生成された画像の処理を改善することができる。
【0120】
図6は第1の例を示し、ここでは視野絞り118が構造化される。例えば視野絞りは、透過視野絞りである。この場合、透過率が一方向に構造化され、所定の空間周波数で規則的に変化する透明領域と不透明領域とが形成される。別の例では、視野絞りは反射視野絞りである。この場合、反射率が一方向に構造化され、所定の空間周波数で規則的に変化する反射領域と非反射領域とが形成される。
【0121】
図6の画像602は、視野絞りにより透明領域と不透明領域とが一方向に空間周波数k
0で規則的に変化するように構造化された透過率の例である。
【0122】
画像601は、視野絞りの面(
図1のP
2)内における、理論的な蛍光対象の画像である。この画像では、蛍光構造と非蛍光構造とが、一方向に空間周波数kで規則的に変化する。
【0123】
画像603は、2つの強度パターン601および602の重ね合わせの画像である。2つの周期的な強度パターンおよび異なる空間周波数が視野絞りの面内で重ね合わせられるとき、視野絞りの面と共役な面内で視認可能なモアレ現象が発生する。画像603に示されるように、モアレ現象では、視野絞りと共役な面内に、さらなる周期的な強度パターンが見られる。このさらなるパターンの空間周波数は、最初のパターンの2つの空間周波数のベクトル差に相当する。さらなるパターンの空間周波数は、2つの最初のパターンの空間周波数より実質的に小さい。
【0124】
実際にはいずれの任意においても、対象の面の画像の空間周波数成分は複雑であり、多くの空間周波数からなる。いくつかの複雑な顕微鏡対象(特に、微小管のアレイのような生体対象)は、非常に小さな特徴的サイズの構造から構成され、従って非常に高い空間周波数を持つ。本開示に係る波面解析装置は、特にマイクロレンズアレイを通して、検出面内に、視野絞りの面の共役化された画像の組を生成する。このマイクロレンズアレイは個々のマイクロレンズからなり、その開口数は顕微鏡対物レンズの開口数より実質的に小さい。これにより、各マイクロレンズによる視野と、交差相関計算によりマイクロレンズで生成された画像の運動測定の感度との間に折衷が与えられる。これにより、マイクロレンズで生成された視野絞りの面の画像が生成される。その空間周波数成分は、高空間周波数上で、マイクロレンズの開口数に直接比例する形で、実質的に低減される。従って、前述の対象の場合、マイクロレンズで生成された画像は、正確な交差相関計算をするのに十分な詳細を含まないことがあり得る。この場合、構造化(例えば画像602に示されるパターン)された視野絞りを配置することにより、マイクロレンズで生成された画像は、画像603に示されるようなモアレ現象に従うさらなる強度パターンを示す。このとき、少なくとも1つの空間周波数が、検出面P3内を透過すると考えられる。有利なことに、対象の特性を示すこのさらなるパターンにより、特に前述の対象において、モアレパターンがないときよりも正確な交差相関計算を実行することができる。
【0125】
対象の画像が、
図6の画像601に示されるような唯一の空間周波数を定義する強度パターンに一致しない場合、モアレ現象によって生成されるさらなる強度パターンは、画像603に例示されるものより複雑である。
【0126】
例えば、視野絞りの透過(または反射)パターンは、決定された空間周波数とともに選ぶことができる。このとき、結果として生じるモアレパターン(画像603)は、マイクロレンズによって伝達される最大空間周波数Fmaxより小さい周波数を持つ。これにより、対象の波面測定の精度を改善することができる。このとき、ほとんどの空間周波数は、マイクロレンズで伝達される最大空間周波数と当該最大空間周波数の2倍との間に及ぶ。一辺がdm、焦点距離がfm、中央画像化波長がλの正方形のマイクロレンズの場合、この最大空間周波数Fmaxは、Fmax=dm/λfmで与えられる。
【0127】
図7Aおよび
図7Bは、第2の例を示す。ここでは、対象の照明が構造化される。
図7Aは、本開示に係る光シートタイプの画像化システム内で構造化された照明を示す。
図7Bは、本開示に係るマルチフォトンタイプの画像化システム内で構造化された照明を示す。
【0128】
図7Aは、正面図、すなわち、例えば
図4に示される光学的領域を備えた「光シート」タイプの蛍光顕微鏡画像化システムの顕微鏡対物レンズの焦点面P
1内において、対象の光学的領域701の光軸に垂直なものの例である。
【0129】
表面702は、解析視野を模式的に示す。この解析視野のサイズは、本開示に係る波面解析装置の視野絞りによって定義される。前述のように、対象から発せられる蛍光の強度の意味で、解析視野702が均一な領域に相当する場合は、画像間の相対位置を決定するために、波面解析装置のマイクロレンズで生成された画像の間で正確な交差相関計算をするのは難しい。これは、2つの均一な強度パターンの間の交差相関が、正確に位置決めすることのできる相関ピークを生成しないためである。本出願人は、光学的領域において、対象ための構造化された照明を有利に使うことができ、これにより、以下のような画像の組が得られることを明らかにした。すなわちこの画像は、照明強度パターンが存在するマイクロレンズで生成され、これにより2次元の相関ピークを決定する交差相関計算が可能である。
【0130】
図7Aの例は簡単化された実装に相当し、「光シート」タイプの照明経路105上に少なくとも1つの追加的な光源が使われる。この光源は、2つのビーム703を用いて対象を照明するように構成される。これらのビームは、例えば2つの直行する方向に配置され、それらの交叉点は面702内に置かれる。少なくとも2つの非平行な方向を持つ照明パターンは、図示される照明構造に必要とされる条件を満たす。有利なことに、この追加的な光源は、特定のスペクトル帯に一致する照明を与える。これにより、第1の光源による照明で生成された蛍光放射とは異なる特定のスペクトル帯からの蛍光放射が可能となる。これにより、画像化経路と波面解析装置との間の二色ビームスプリッタの使用と組み合わされて、波面の解析のための画像化経路で意図される光の使用が不要となる。さらに、マイクロレンズで生成された画像のコントラストを最大化することができる。
【0131】
図7Bは、正面図、すなわち、例えば
図5に示される光学的領域を備えた「マルチフォトン」タイプの蛍光顕微鏡画像化システムの顕微鏡対物レンズの焦点面P
1内において、対象の光学的領域701の光軸に垂直なものの例である。
【0132】
表面702は、解析視野を模式的に示す。この解析視野のサイズは、本開示に係る波面解析装置の視野絞りによって定義される。前述のように、対象から発せられる蛍光の強度の意味で、解析視野702が均一な領域に相当する場合は、画像間の相対位置を決定するために、波面解析装置のマイクロレンズで生成された画像の間で正確な交差相関計算をするのは難しい。これは、2つの均一な強度パターンの間の交差相関が、正確に位置決めすることのできる相関ピークを生成しないためである。本出願人は、光学的領域において対象の構造化された照明を有利に使うことができ、これにより、以下のような画像の組が得られることを明らかにした。すなわちこの画像は、照明強度パターンが存在するマイクロレンズで生成され、これにより2次元の相関ピークを決定する交差相関計算が可能である。
【0133】
図7Bの例は簡単化された実装に相当し、「マルチフォトン」タイプの照明経路上に少なくとも1つの追加的な光源が使われる。この光源は、パターン704で対象を照明するように構成される。これらのパターンは、例えば2つの直行する方向に配置され、それらの交叉点は面702内に置かれる。実際には「マルチフォトン」タイプの顕微鏡の場合、このパターンは、対物レンズの焦点面内で、典型的には一対の検流計を用いて、さらなる光源の焦点を連続的にスキャンすることによって生成される。少なくとも2つの非平行な方向を持つ照明パターンは、図示される照明構造に必要とされる条件を満たす。有利なことに、この追加的な光源は、特定のスペクトル帯に一致する照明を与える。これにより、第1の光源による照明で生成された蛍光放射とは異なる特定のスペクトル帯からの蛍光放射が可能となる。これにより、画像化経路と波面解析装置との間の二色ビームスプリッタの使用と組み合わされて、波面の解析のための画像化経路で意図される光の使用が不要となる。さらに、マイクロレンズで生成された画像のコントラストを最大化することができる。
【0134】
図8は、マイクロレンズ115のスケールにおける不完全な波面を用いて、本発明に係る波面解析システムの検出面上に形成された幾何学的構造を示す。
【0135】
例えば
図8に示されるように、マイクロレンズアレイ114が、一辺がd
m、焦点距離がf
mの正方形の瞳を備えた、隣接するマイクロレンズの組を備えると仮定する。波面801が、マイクロレンズの面に相当する解析面P
5に入射すると仮定する。このとき
図8に示されるように、マイクロレンズ上における波面の、完全に平坦な波面に対する偏差は、入射ビームの波長λに相当する。
【0136】
本開示に係る波面解析装置では、波面解析の分解能は、マイクロレンズに相当する。局所的な波面は、解析面と角度αをなす基本波面に対応するマイクロレンズを用いて測定することができる。このとき、α=δ/dmである。ただしδは、波面の、参照波面(この例では平坦な波面)に対する局所的偏差である。従って、波面の、平坦な波面に対する局所的偏差はδ=λであり、α=λ/dmである。ただしλは、dmよりはるかに小さい。検出面P3上のマイクロレンズの焦点に形成される回折点は、横方向に距離sだけ移動する。ただしsは、以下で与えられる。
s=λf/d
【0137】
マイクロレンズ115に関し、回折点のサイズtは、強度が最大となる両辺上に位置する2つの最小強度間で測定され、以下で与えられる。
t=2λf/d
【0138】
先行技術によれば、基本検出要素またはピクセルの2次元配列で構成される2次元検出器(例えばカメラ)について、検出器で正確に抽出される高コントラストの強度パターンに関して、こうした強度パターン(例えば、回折点や複雑な模様)の位置を100分の1ピクセルまでの局所精度で測定できることが知られている。本開示に係る波面解析装置の場合、回折点と2つのピクセルとが一方向で一致するように2次元検出器がデザインされると、強度パターンの100分の1ピクセルまでの局所精度については、マイクロレンズ上の入射波面の偏差を最大精度λ/100で測定することができる。同様に、回折点と10分の2のピクセルとが一方向で一致するように2次元検出器がデザインされると、強度パターンの100分の1ピクセルまでの局所精度については、マイクロレンズ上の入射波面の偏差を最大精度λ/10で測定することができる。実際に精度がλ/10未満の波面測定は、画像化のための対象の特徴づけを目的とする測定として十分有効ではない。
【0139】
このように本出願人は、有利なことに、本開示に係る波面解析装置は、マイクロレンズアレイのマイクロレンズの回折点が、1次元方向に、2次元検出器の検出面内のピクセルサイズの0.2倍から2倍の大きさを持つようにデザインできることを明らかにした。
【0140】
以上、いくつかの実施の形態を用いて説明したが、上記の波面解析装置、顕微鏡画像化システムおよび波面解析装置を使う方法に様々な変形、変更、改良が可能であることは当業者に明らかである。こうした変形、変更、改良も、以下の請求項で定義される本発明の範囲内にあることが理解される。
【0141】
[参照文献]
文献1:.M. J. Booth et al. "Adaptive optics for fluorescence microscopy", extracted from the following publication, "Fluorescence Microscopy: Super-resolution and other Novel Techniques", A. Cornea et al., Academic Press, 2014.
文献2:N. Ji "Adaptive optical fluorescence microscopy", Nature Methods 14, 374-380, 2017.
文献3:米国特許第855730 B2号明細書
文献4:米国特許出願公開第2015/0362713号明細書
文献5:K. Lawrence et al. "Scene-based Shack-Hartmann wavefront sensor for light-sheet microscopy", Proc. SPIE 10502, Adaptive Optics and Wavefront Control for Biological Systems IV, 2018.