(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】トルク制限ネジ
(51)【国際特許分類】
F16B 31/02 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
F16B31/02 L
(21)【出願番号】P 2021567861
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 US2020033597
(87)【国際公開番号】W WO2020236813
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-03-28
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518030139
【氏名又は名称】ペン エンジニアリング アンド マニュファクチュアリング コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】PENN ENGINEERING & MANUFACTURING CORP.
【住所又は居所原語表記】5190 Old Easton Road,Danboro,PA 18916 USA
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】マロニー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ストッツ,ジェイアール.,ロバート
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/004039(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2003/0049092(US,A1)
【文献】米国特許第05090249(US,A)
【文献】特開2018-008353(JP,A)
【文献】特開平09-210038(JP,A)
【文献】特開平09-242729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ、およびこのネジに回転自在に固定し、かつ該ネジを取り囲むキャップを有するトルク制限ネジアセンブリであって、
前記ネジが、
上部に狭いネック部と底部に拡大径の基底部とを有するネジヘッドであって、このネック部の上部が変形可能なリムを構成する中心凹部を有するネジヘッドと、
複数の周辺ラジアル方向歯を有し、各歯がその間に外向き面を有する隣接カムを有する前記ネジヘッドの基底部と、
前記基底部から下向きに延在するネジ付設シャンクと、を有し、
前記キャ
ップは、
下向きに延在する複数の弾性トルク伝達アームを備えた本体であって、前記弾性トルク伝達アームが、該アームの内向き面が前記
隣接カムに係合するように設けられた本体を有し、
前記アームが、第1回動方向とは逆の第2回動方向ではなく、
締め付け解除方向である前記第1回動方向において前記
周辺ラジアル方向歯のラジアル方向壁に係合可能な後エッジを有し、前記カムに対して前記アームを把持する摩擦によって
、締め付け方向である前記第2回
動方向における前記キャップの回転が前記ネジに所定のトルクを与え、更に、
内径が小さい内部ラジアル方向カラー部を有する前記キャップの軸方向スルーボアを有し、
前記キャップを前記ネジに回転自在に捕え、ネジネックリムが変形したこのネックリムと前記ネジヘッド基底部との間に前記キャップの内部カラー部を取り込む手段を有する
ことを特徴とするトルク制限ネジアセンブリ。
【請求項2】
前記
隣接カムに対して内向きのバネ力を印加するように前記
弾性トルク伝達アームが構成配置された請求項1に記載のネジアセンブリ。
【請求項3】
前記ネジヘッドの底面が平面である請求項2に記載のネジアセンブリ。
【請求項4】
前記アームの端部と前記基底部の平面との間に垂直方向に隙間が生じるように、前記
弾性トルク伝達アームの端部が軸方向において前記ネジヘッドの基底部に届かない構成である請求項3に記載のネジアセンブリ。
【請求項5】
前記キャップと前記ネジとが最小限の軸方向遊びで緩くかつ回動可能に接合する請求項1に記載のネジアセンブリ。
【請求項6】
前記ネジの中心軸からの距離が漸増的に変化するポイントを有するランプによって各ネジカム面が構成される請求項1に記載のネジアセンブリ。
【請求項7】
前記キャップスルーボアの上部がソケットであり、このソケットが前記ネジアセンブリを回動させる手段(ツール)係合面を有する請求項1に記載のネジアセンブリ。
【請求項8】
前記ネジヘッド基底部の歯のそれぞれが、前記
弾性トルク伝達アームの一つの後エッジに係合可能なラジアル方向壁を有する請求項1に記載のネジアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2019年5月21日を出願日とし、“トルク制限ネジ”を発明の名称とし、Ser.No.62/850,664を出願番号とする仮特許出願の優先権を主張する非仮特許出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明はネジ/ボルトなどのファスナーに関する。具体的には、本発明はファスナーを回動させるために供給するトルク量を非破壊的に制限できるタイプのファスナーに関する。
【背景技術】
【0003】
従来からトルク制限ネジは存在している。一つのタイプのネジは駆動部およびヘッド部を備えた二個構成ヘッドを有する。これらを接続する金属はより薄い部分であるため、望ましいトルクを受けると壊れることになる。このため、ネジヘッドの外側から駆動することが必要になり、ヘッドをカウンターボア内に装着することができなくなる。金属薄片が中断プロセス時にせん断によって変形する恐れがある。
【0004】
他のタイプのトルク制限ネジは、ノブにより近いヘッド内に複雑な摩擦ディスククラッチおよびバネを備える。これは大きなつまみネジまたはノブタイプのファスナーに有効であるが、小さなネジアセンブリには向いていない。標準的なネジの場合、トルクレンチを使用して望むトルクに従って装着できるが、例えトルクレンチを使用しても、標準的なネジの場合締め付けが過剰になる。
【0005】
トルク制限ネジを使用する大きな理由は、ネジの過剰締め付けによるネジアセンブリの損傷を防ぐためである。このように、経済的に製造でき、広範な用途に応じて設計変更を容易に実施できるトルク制限ネジに対する必要性は依然として認められる。
【発明の概要】
【0006】
本発明のネジは2個構成の集合体であり、ネジのヘッドが締め付け方向に設計締め付けトルクまで回動してネジを駆動できる一方で、緩める方向にも逆回動できるアセンブリである。このネジ装置はネジ、およびネジのヘッドを取り巻くキャップを有する。このネジ装置は上部にヘッド、およびネジヘッドの基底部から下向きに延在するネジ付設シャンクを備える。このネジは、ネジの中心軸を中心にしてキャップを回動させることによって回動する。上方に延在する薄壁部分を張り出すことによってネジの最上端部にキャップを緩くリベットで留めることによってキャップを回動自在に固着する。このキャップは、ネジヘッドの外側に係合する複数の軸方向に延在する周辺アームを備える。
【0007】
ネジヘッドの外側については、それぞれがネジの中心軸からの距離が異なるポイントを有するカム面によって分離した周辺係合歯が一部を構成する。キャップのアームについては、カムの外面に摩擦係合するように配置する。また、カム面については、キャップからネジに伝達される目的の設計トルク量を供給するように軸方向にテーパー化し、隣接するカム面については、隣接カム面間においてラジアル方向に変化するポイント間の領域を架橋する半径方向壁が構成する周辺歯によって接続する。
【0008】
ネジが回動すると、キャップトルクアームが、カムの上部エッジに係合することによって外向きに押し動かされる。設計トルクに達するか超えた後は、キャップアームがカムにそって単純に摺動してから、半径方向壁を過ぎて回転したときに、“クリック音”が発生し、次のカム面に対して跳ね返る。キャップアームは離脱方向にネジの歯の半径方向壁に確実に係合し、ネジを離脱させるが、非破壊的トルク制限は生じない。
【0009】
本発明のファスナーは締め付け過剰になることは絶対なく、トルクレンチを使用する必要はない。キャップはボアを介して上からリベット締め付け手段(riveting tool)にアクセスでき、ネジ/キャップアセンブリを簡単に得ることができる。トルク制限機能に加えて、本発明ファスナーは民生用電子機器などの大型アセンブリ、小型アセンブリの両者においてソケットヘッド式キャップネジを使用する標準的な組み立て操作に使用できる。
【0010】
本発明の一実施態様を示す添付図面および説明から、製造が容易で、機能を簡単に変更できるトルク制限ネジの提供を目的とする本発明が実現できることが当業者にとって明らかになるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明ファスナーアセンブリを示す上部正面斜視図である。
【
図2】
図2は、ネジ構成部を示す上部正面斜視図である。
【
図3】
図3は、キャップ構成部を示す上部正面斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5のA-A線に沿って作図した正面断面図である。
【
図7】
図7は、矢印が両回動方向を示す底面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、本発明ファスナー10の主要構成部はキャップ11およびネジ13である。キャップは本体9を備え、これから弾性アーム17が下向きに延在する。ネジ13のヘッドを取り囲むキャップ11は、上部に駆動ソケット16を備える。ネジのネジ付設シャンクはネジヘッドの基底部から下向きに延在する。ネジが締め付け方向に回動すると、アーム17がネジ基底部周囲のカム15を弾性的に把持する。カム15は、各歯25の構造を定める半径方向壁によって分離される。各アーム17はそれぞれ前エッジ12および後エッジ14を備える。後エッジ14は、キャップが締め付け解除方向に回動すると、周囲の係合歯の半径方向壁に係合する。
【0013】
次に
図2を参照して説明すると、ネジ構成部13を分離して示す。ネジヘッド22は平面状基底部を備え、これからネジ付設シャンク24が延在する。ヘッドは狭くなったネック19を備え、また上部に変形可能なリム18を形成する凹部(depression or well)を有する。係合歯はカム15によって連続的に分離している。各カム面については、ファスナーの中心軸からの距離が漸増的に変化するポイントを有するランプによって構成する。
【0014】
図3を参照して説明すると、キャップ構成部11を分離して示す。キャップの主体9は下向きに延在する弾性アーム17を備え、また上部に駆動ソケット16を有する。
【0015】
図4はファスナーの上面図であり、図示のように、キャップ11はファスナーを回動させる手段を受け取る駆動ソケット16を備える。ネジ上部の凹部20が薄壁状の変形性リム18になり、これを使用して、
図6に見られるように、軸方向遊びが最小な状態でネジをキャップに緩くリベット留めする。
【0016】
図5および
図6は正面図であり、
図6にはキャップ11とネジ13との間の内部関係を示す。ネジのネックリムの21の張り出し部分(flared portion)が、張り出しリム21とネジ13の拡大平面状基底部27との間にキャップ11の内側カラー23を取り込むことによってキャップをネジに緩くリベット留めする。上部が開放しているキャップのスルーボア(through bore)によって、開放ソケットを介して上からリベット手段にアクセスできる。このため、製造が容易になり、また経済的になり、これが本発明の大きな作用効果になる。ファスナーが締め付け解除方向に回動する際には、キャップアーム17の後エッジが歯のラジアル方向壁25に係合することになる。
【0017】
図7を参照して説明すると、この底面図は、キャップアーム17がネジの歯25のラジアル方向壁に係合する位置にあるネジ13を示す。最外側矢印によって示す反時計方向にキャップ11を回動する場合には、ネジに摩擦回動力を与えた状態で、キャップアームがカム15にずり上がる。各カム面については、ネジの中心軸からの距離が漸増変化するポイントを備えたランプが構成する。逆方向にキャップが回動する場合には、キャップアームが歯のラジアル方向壁に確実に係合するため、回動力が直接伝わることになる。なお、底面からではなく上から見た場合、回動方向は逆になる。即ち、右手方向のネジスレッドが締め付けられるため、時計方向に起こるネジに伝わる摩擦力は小さくなる。
【0018】
ファスナーの正常操作時には、キャップのトルクアームがカム部分のランプに摩擦係合し、ネジをメネジに駆動する。トルクアームが手指と全く同様に、バネ力をネジの中心に向けて働かせ、ネジを把持する。アームがランプ付きカム面を摺動すると、バネ力および付随して生じる摩擦が、アームがランプの端部から滑り離れ、次のカムのランプの低い点に戻るまで、増加する。このため、キャップがネジに与えるトルクが効率よく小さくなる。逆のネジ締め付け解除方向では、アームがラチェット歯のラジアル方向壁の平面に押し当り、ネジを確実に解除する。
【0019】
キャップおよびネジが締め付け方向(通常は時計方向)に回動すると、ネジが回動している間キャップのアームがネジヘッドのカムによって外向きに偏向する。アームの偏向によって生じる力については、標準的な片持ち式ビーム偏向式やシミュレーションを使用して評価できる。アームには、アームとネジヘッドのカムとの交点において外向きの押し力が作用する。操作の適正化から見て、アームはキャップ材料の降伏の原因となる点を超えて偏向してはならない。ネジの回動時、アームは高さの中間点付近まで押される。アームの下部については、カム端部のラジアル方向壁の平坦面に後エッジを押し付けることによってネジの締め付け解除のためにのみ使用する。
【0020】
降伏しないように、締め付け解除に必要なアームの面積と偏向とをバランスさせることが必要条件である。カムについては、ネジの正方向回動時に、カムの軸方向長さが短くなるようにテーパー化できる。このため、キャップとバランス条件を満足するネジとの間の接触ポイントが軸方向下向きのスロープを構成する。曲げ力に曝されるアームの長さが長くなるため、ネジ回動時のビーム偏向が容易になる作用効果が得られる。
【0021】
部分的には、キャップアームの長さを制限することによって、ファスナーは締め付け動作時の構成部材の表面を保護する。ネジの基底部が上部アセンブリ部材に接触した後は、ネジの回動中断状態で、ネジのヘッドが回動を続け、トルクを適正化する。この締め付け段階では、ネジとキャップとの相対的な運動が、キャップトルクアームが上部部材と接触した場合に上部部材を損傷させる恐れがある。アームの端部と
図5に示すネジヘッドの基底部の平面との間に垂直方向隙間を設けてあるため、この損傷は生じない。アームの前エッジが半径をもつため、上部部材に進入する鋭いエッジもなくなる。
【0022】
一般的に、トルクアーム数は変更できるため、トルクアーム数については増減可能である。トルクアーム構成を強化するためには、トルクアーム数の変更が必要な場合もあり、また望むトルク制限を実現するために、以下に示す方法を併用することも可能である。
【0023】
トルク制限ネジのカム面に伝達されるトルクを調節するいくつかの方法を以下に示す。
1.トルクアームの厚さ調節。トルクアームを肉厚にすると、より硬くなり、より大きなトルクを伝達できることになる。より薄くすると、可撓性が強くなり、トルク伝達量が少なくなる。
2.トルクアームの基底部における半径調節。半径が大きくなると、より硬くなるため、トルク伝達量が多くなる。半径が小さくなると、より可撓性が強くなるため、トルク伝達量が少なくなる。半径が大きくなると、アームの可撓性のより強い部分が短くなり、有効な作用が得られる。半径が小さくなると、より可撓性の強い部分が長くなる。
3.トルクアームの長さ調節。アームが長くなると、可撓性が強くなる(トルク伝達量が小さくなる)。アームが短くなると、より硬くなる(トルク伝達量が増加する)。
4.キャップとネジとの間の摩擦係数の調節。キャップおよびネジについては、異なる素材から形成でき、および/または異なる係合仕上げ処理を施すことができるため、摩擦係数の増減が可能になる。摩擦が小さくなると、トルク伝達量が小さくなり、また摩擦が大きくなると、トルク伝達量が小さくなる。
【0024】
以上、本発明の一実施態様を説明してきたが、当業者ならば、本発明の精神および範囲から逸脱しなくても図示の構成および説明してきた構成を各種の転用構成および変更構成に適用できることは明確に理解できるはずである。従って、本発明は特許請求の範囲およびその法的な等価体によってのみ制限を受けるものである。
【符号の説明】
【0025】
9 本体
10 ファスナー
11 キャップ
12 前エッジ
13 ネジ
14 後エッジ
15 カム
16 駆動ソケット
17 弾性アーム
18 変形性リム
19 ネック
20 凹部
21 張り出しリム
22 ネジヘッド
23 内側カラー
24 ネジ付設シャンク
25 ラジアル方向壁/歯
27 拡大平面状基底部