(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】核酸を抽出する装置および方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240501BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N15/10 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022011151
(22)【出願日】2022-01-27
(62)【分割の表示】P 2018506478の分割
【原出願日】2016-02-26
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】102015207481.1
(32)【優先日】2015-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102015211393.0
(32)【優先日】2015-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102015211394.9
(32)【優先日】2015-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517368349
【氏名又は名称】エイ・ジェイ イヌスクリーン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】AJ Innuscreen GmbH
【住所又は居所原語表記】Robert-Roessle-Strasse 10, D-13125 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ティモ ヒレブラント
(72)【発明者】
【氏名】トアステン シュトロー
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0071643(US,A1)
【文献】特開2013-253989(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0083598(US,A1)
【文献】国際公開第2014/035986(WO,A1)
【文献】Journal of Virological Methods,2012年,Vol.183,p.8-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が導通されるピペットチップと、前記ピペットチップ内に配置された、粗さのある表面または構造化された表面を有する材料とを含む核酸を抽出する装置であって、前記材料は、前記ピペットチップから出て行かない大きさを有し、その傍らを液体が流れることができる間隔を形成するようにその長辺が前記ピペットチップの長手方向に沿って配置されており、収容された前記材料は、金属タワシ、
または亜鉛メッキされた木ね
じであり、
前記粗さのある表面とは、表面に触れるかまたは表面を見ることによって、この表面が平滑でないと認識できるものと理解されるべきである、ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記ピペットチップは、内壁が粗面化されているか、または収容された前記材料が内壁に固定化されていることを特徴とする、請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の装置の少なくとも1つを含む、核酸を自動的に抽出するためのウォークアウェイ原理による機器。
【請求項4】
自動ピペッティング装置または自動抽出装置であることを特徴とする、請求項
3に記載の機器。
【請求項5】
核酸を自動的に抽出する方法であって、
a)溶解された生物学的試料に、水溶液の極性を低下させる少なくとも1種の物質を加えるか、または核酸を固相に結合させるための手段を加えるステップと、
b)このステップa)における混合物を、請求項
1に記載の粗さのある材料または構造化された材料が中に存在するピペットチップで吸い上げて、出し入れするピペッティング操作を何度も行うことで、液体を前記材料の傍らを通って移動させ、その粗さのある材料または構造化された材料に核酸が沈着するステップと、
c)前記ピペットチップを試料から取り出すステップと、
d)ピペットチップを洗浄バッファー溶液中に浸漬させ、出し入れするピペッティング操作を何度も行うことで、液体を前記材料の傍らを通って移動させるステップと、
e)ピペットチップを乾燥させて、洗浄バッファーの残留アルコールを除去するステップと、
f)溶出バッファーを用いて、前記溶出バッファーの出し入れするピペッティング操作を何度も行うことで、溶出バッファーを前記材料の傍らを通って移動させることによって、核酸を引き離すステップと、
を特徴とする方法。
【請求項6】
前記水溶液の極性を低下させるための物質として、有機溶剤、好ましくはアルコールが使用されることを特徴とする、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
自動ピペッティング装置または自動抽出装置による、請求項
5に記載の自動的な方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、核酸を迅速かつ高効率に、そして定量的に単離または精製することができる新規の装置である。核酸の抽出のための新規の装置は、研究室における手動式の抽出のためにも、現場条件下でも使用することができる。核酸抽出の自動化に関して、特有の利点を表す。
【0002】
古典的な条件下では、細胞および組織からのDNAの単離は、核酸を含有する出発材料を強力に変性し還元する条件下で、部分的にタンパク質分解酵素を使用して可溶化させ、出てきた核酸フラクションをフェノール/クロロホルム抽出ステップを介して精製し、核酸を透析またはエタノール沈殿によって水相から取得することによって行われる(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.,1989,CSH,“Molecular Cloning”)。核酸を細胞から、特に組織から単離するためのこれらの「古典的な方法」は、非常に時間がかかるものであり(一部では48時間より長い)、かなりの装置上のコストが必要となり、さらにまた現場条件下で実現することもできない。さらに、そのような方法は、僅かではない規模で使用されるフェノールおよびクロロホルム等の化学薬品に基づき健康を脅かすものである。
【0003】
核酸の単離のための次世代の方法は、VogelsteinおよびGillespie(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1979,76,615-619)によって開発され初めて記載されたアガロースゲルからのDNA断片の分取的および分析的な精製のための方法を基礎としている。該方法は、単離すべきDNAバンドを含むアガロースをカオトロピック塩(NaI)の飽和溶液中で溶解させることと、DNAをガラス粒子に結合させることを組み合わせている。ガラス粒子上に固定されたDNAは、引き続き、洗浄溶液(20mMのTris塩酸[pH7.2];200mMのNaCl;2mMのEDTA;50%(容量/容量)のエタノール)で洗浄され、次いで担体粒子から引き離される。この方法は、今日まで一連の改変を経ており、現時点までに様々な起源由来の核酸の抽出および精製の様々な方法のために使用され、最終的には、核酸の手動式の単離と自動化された形式の単離を問わないほぼ全ての市販のキットのための基礎となっている。さらに、VogelsteinおよびGillespieによって最初に公表された、場合によりさらなる利点を持つ核酸の単離の基本原理に関連する多くの特許および公開公報が存在する。これらの別形は、種々な無機担体材料が使用されることにも、核酸の結合のために使用されるバッファーの種類にも関係している。それらの例は、とりわけ、担体材料として微粉砕されたガラス粉末(BIO 101、カリフォルニア州ラホヤ)、珪藻土(Sigma社)またはシリカゲルもしくはシリカ懸濁液またはガラス繊維フィルタまたは鉱物粘土(独国特許出願公開第4139664号明細書、米国特許第5,234,809号明細書、国際公開第95/34569号パンフレット、独国特許第4321904号明細書、独国特許第20207793号明細書)が使用される、種々のカオトロピック塩の溶液の存在下での無機担体への核酸の結合である。これら全ての特許は、核酸をガラスまたはケイ素を基礎とする無機担体材料へと、カオトロピック塩溶液の存在下で結合させることを基礎としている。より新しい特許文献においては、核酸を、当業者に公知の使用される無機材料への吸着のために、溶解バッファー/結合バッファー系の成分として、いわゆるアンチカオトロピック塩が非常に効率的かつ効果的に使用できることが開示されている(欧州特許第1135479号明細書)。まとめると、先行技術は、つまり核酸を無機材料へと、カオトロピック塩もしくはアンチカオトロピック塩を含有するバッファーの存在下で、またはカオトロピック塩およびアンチカオトロピック塩の混合物を含むバッファーの存在下で結合させ、このようにしてさらに単離できるという旨で説明することができる。この場合に、追加で脂肪族アルコールを結合の媒介のために使用する好ましい別形も存在する。核酸の単離および精製のための全ての慣用の市販製品がこの原理に基づいていることも当業者には公知である。この場合に、使用される無機担体は、緩い充填物の形で、濾過膜の形で、または懸濁液の形でも存在する。自動化された抽出過程の実施のために、しばしば常磁性粒子または磁性粒子が使用される。この粒子は、例えば、磁性コアもしくは常磁性コアを有するケイ酸塩系材料であるが、さもなくばまた表面が核酸の結合のために必要な官能性を有するように表面変性された酸化鉄粒子である。特に自動化された抽出をより簡単に実施し得るために、改変されたピペットチップが使用された。これらのピペットチップは、それらが核酸の結合のために必要とされる担体材料(多孔質無機担体材料または多孔質アニオン交換体等)を既に収容することを特徴とする。ここで独国特許第3717211号明細書といった特許文献は、核酸の単離のために多孔質クロマトグラフィー材料を有するピペットチップを記載している。欧州特許第1951904号明細書といった特許文献は、上方部および下方部からなり、それらの間に同様に多孔質クロマトグラフィー担体材料が存在するピペットチップであって、核酸の自動化された単離のために使用されるというピペットチップを開示している。核酸の抽出のための改変されたピペットチップは、米国特許出願公開第2013/0078619号明細書といった公開公報においても開示されている。このピペットチップにおいても、核酸の直接的な結合のために多孔質無機担体材料(多孔質ガラス)が存在する。これらの改変されたピペットチップに共通していることは、多孔質クロマトグラフィー材料を扱うことである(緩い充填物または固い多孔質体)。これらの担体材料は、ピペットチップ内で常に水平に存在する。処理されるべき液体は、使用される多孔質材料中を通じて流れる。抽出過程は、試料を溶解させ、核酸の担体材料への吸着のために必要な結合条件を調整した後に、このバッチをピペッティング操作過程によって多孔質担体材料中に通すことを基礎としている。核酸は、その担体材料へと結合する。その後に、洗浄バッファーを、該担体材料中を通じてピペッティング操作する。その後に、乾燥ステップが行われる(しばしば、出し入れするピペッティング操作を行うか、または真空をかける)。最後に、溶出剤が、該担体材料中を通じてピペッティング操作される。この場合に、結合された核酸は、担体材料から引き離される。担体材料を収容しているピペットチップの使用は、核酸抽出の(特に)自動化された過程をかなり簡単にするということである。これらの着想が既に一部は比較的古いにもかかわらず(1987年5月22日付けの独国特許第3717211号明細書といった特許文献)、そのような方法は定着しなかった。その原因となっているのは、この場合に、幾つかの根本的な問題である。
【0004】
1)核酸を含有する高粘度の溶解物のピペッティング操作は、制限されて機能するにすぎないか、またはそれにより、クロマトグラフィー材料の完全な閉塞がもたらされる。そのため、抽出は不可能である。
【0005】
2)多孔質材料を介した溶解物のピペッティング操作は、気泡形成をもたらす。気泡形成は、ピペッティング操作ステップの回数が増えるほど激しくなり、同様に抽出プロセスを不可能にし得る。
【0006】
3)多孔質材料からのアルコール性成分の除去は困難であり、しばしば十分に取り出されない。
【0007】
先行技術には、国際公開第01/05510号パンフレットといった公開公報も該当する。そこには、磁性粒子を含む中空体が記載されている。この磁性粒子の表面特性については、記載がなされていない。磁性粒子による核酸の結合は、通常、平滑な鉄粒子によって行われる。その先行技術においては、磁性特性のみで、表面特性は何ら役割を担っていない。
【0008】
したがって、本発明の課題は、既知の問題点を解決することと、改変されたピペットチップによって簡単かつ迅速な核酸の抽出法を可能にすることであった。
【0009】
前記課題は、特許請求の範囲の特徴部によって解決された。請求項1によれば、液体が導通される中空体を含む核酸を抽出する装置であって、前記中空体内に粗さのある表面または構造化された表面を有する材料が、その周りを液体が流れることができるように配置されている装置が提供される。有利な一実施形態においては、ピペットチップが中空体として機能する。粗さのある表面または構造化された表面を有する材料は、ピペットチップから下に出て行くことはできず、それにより先行技術に記載される磁性粒子(国際公開第01/05510号パンフレット)とは異なっている大きさを有する。請求項2~請求項6は、該装置の有利な実施形態を記載している。また、本発明は、該装置を使用するウォークアウェイ原理による機器も含む。さらに、該装置による核酸の単離のための方法が記載される。この方法は、
a)溶解された生物学的試料に、水溶液の極性を低下させる少なくとも1種の物質を加えるか、または核酸を固相に結合させるための手段を加えるステップと、
b)このステップa)における混合物を、請求項1から5までのいずれか1項に記載の粗さのある材料または構造化された材料が中に存在するピペットチップで吸い上げて、出し入れするピペッティング操作を何度も行うことで、この場合に液体を該材料の傍らを通って移動させ、その粗さのある材料または構造化された材料に核酸が沈着し、それとともに固相へと結合されるステップと、
c)該ピペットチップを試料から取り出すステップと、
d)ピペットチップを洗浄バッファー溶液中に浸漬させ、出し入れするピペッティング操作を何度も行うことで、この場合に液体を該材料の傍らを通って移動させるステップ、
e)ピペットチップを乾燥させて、洗浄バッファーの残留アルコールを除去するステップと、
f)溶出バッファーを用いて、該溶出バッファーの出し入れするピペッティング操作を何度も行うことで、この場合に溶出バッファーを該材料の傍らを通って移動させることによって、核酸を引き離すステップと、
を特徴としている。
【0010】
驚くべきことに、それは、簡単な手段で達成することができる。核酸を結合する材料は、ピペットチップ中に水平ではなく垂直に収容されるので、該核酸を結合する材料の一方の側または両方の側で、液体は妨害されずにその傍らを通って流れることができることが見出された。もう一つの実施形態においては、ピペットチップは、核酸を結合する粒状材料であって、この材料間に十分に大きな空所が存在するため、液体は同様にこの材料の傍らを通って流れ、この材料中には貫通しない種類の粒状材料で充填されていてもよい。その他の可能な一実施形態は、ピペットチップ中に表面構造化された材料が存在することにある。この場合に、該液体は、同様に材料の「構造」の傍らを通って流れる。これらの全ての実施形態は、結局のところ、核酸の単離のために使用される液体が、クロマトグラフィー材料中を貫通せずに、核酸を結合する材料の傍らを通って移動することを意味する。本発明による手段で核酸を液体試料から単離できるという原理は、この場合に完全に新しい原理に基づいている。この原理は、核酸をクロマトグラフィー担体材料で単離する公知の原理とは根本的に異なっている。核酸の結合のために使用される材料が粗さのある表面を有するか、または表面構造化されて、その平滑性が表面上の構造(これは、規則的であっても不規則であってもよい)によって相殺される材料が扱われることが必須であることが明らかになる。まとめると、ピペットチップ内部で、収容された材料によって核酸が吸着し得る二次元/三次元の構造が生ずることが必須である。核酸の結合は、試料中に含まれる核酸が、該試料と粗さのある表面との接触後に、その粗さのある表面、構造化された表面または二次元/三次元の網目上に沈着することに基づくと思われる。この場合に、それは、例えばアルコールの添加によって環境の極性がより低くなり、それによって核酸の可溶性が低下することによって起こる。驚くべきことに、これらの記載された表面上での核酸の「沈着」は、極めて効率的に高い収率および純度で機能する。
【0011】
したがって、本発明の骨子は、遊離の核酸または溶解により遊離された核酸が水性環境中に存在し、その水性環境の極性が有機物質によって、核酸の可溶性が低下するように調整されており、その後にこの水性環境を本発明によるピペットチップ中に吸い込むことで、核酸が、該ピペットチップ中に収容された材料/網目の傍らを通って移動し(それは何度もピペッティング操作をすることによって行われ得る)、該材料/網目の表面上に沈着し、引き続き沈着されたDNAをその表面から再び引き離して提供することにある。任意に、表面上に沈着された核酸を洗浄し、洗浄ステップ後に引き離すこともできる。
【0012】
それにより、本発明による方法による実際の抽出過程は、以下のステップに基づいている。核酸を含有する試料を水性形で準備した後に、核酸の沈着のために必要とされる条件を調整することで、核酸は、ピペットチップ中に収容された材料上に沈着し得る。そのバッチを、ピペッティング操作過程によって、ピペットチップ中に垂直に収容された核酸を結合する材料の「傍らを通ってピペッティング操作」する。核酸は、その材料上に沈着する。その後に、任意に洗浄バッファーを、同様に核酸を結合する材料の「傍らを通ってピペッティング操作」してよい。その後に、乾燥ステップが行われる(例えば、しばしば、出し入れするピペッティング操作を行う)。最後に、溶出剤を再び、垂直に配置された核酸を結合する材料の「傍らを通ってピペッティング操作」し、この場合に、結合された核酸が引き離される。核酸は、目下、必要とされる後続用途のために存在する。該方法は、実施が極めて迅速かつ簡単であり、極めて高い収率および純度での核酸の単離を可能にする。粘性の溶液に関する問題、そしてアルコール性成分の除去または著しい気泡形成に関する問題といった、全て水平に配置された多孔質担体材料が使用される場合か、または多孔質クロマトグラフィー材料で充填されているピペットチップの場合に起こる問題も起こらない。該方法は、汎用的に使用することが可能であり、自動化された形式でも手動式にも実施することができる。該方法は、理想的には自動化された核酸抽出の使用のために適している。それというのも、核酸の結合のため、結合された核酸の洗浄のため、そして核酸を引き離すために必要とされるステップは、多数のピペッティング操作のみであるからである。この場合に、本発明によるピペットチップは、今までの構造的構成によって、またはピペットチップの多孔質クロマトグラフィー材料での充填によって引き起こされる先行技術から公知の欠点を回避する。
【0013】
核酸の結合のために使用されるピペットチップ中に垂直に収容される材料は、非常に様々であってよい。無機材料の他に、表面が平滑でなく、粗さがあるかまたは構造化されている改変されたプラスチック材料を使用することもできる。その材料には、いわゆる複合材料、つまりポリマーおよび、例えば有機成分からなる混合物も、無機成分ならびに複合材料も含まれる。粗面化された表面もしくは構造化された表面(平滑でない表面)を準備すること、または二次元/三次元の網目の形成をもたらす材料をピペットチップ中に収容することだけが必須であり、ここで、核酸はその際にこれらの構造上に沈着する。前記材料の構造は、同様に制限されない(丸形、矩形等)。その材料は、複数の材料(例えば複数の粒状物)であってもよい。単純な実施形態においては、核酸の単離のために、ピペットチップ中に収容されたネジだけが使用され得る。該材料がピペットチップ中に収容され、常にその周りを液体が流れることができることが重要であって、その液体は収容された材料中を貫通する必要はない。また、(射出成形部材から作製されて)その結合材料が既に中に存在するピペットチップを使用することもでき、もはや結合材料はチップ中に収容される必要はない。粗さのある磁性材料の使用も有利である。そのような材料は、粒状物として商品名TECACOPM(登録商標)で知られている。
【0014】
概念「粗さのある表面」とは、表面に触れるかまたは表面を見ることによって、この表面が平滑でないと認識できるものと理解されるべきである。しかしながら、この表面は、ある構造(例えば複数の溝)を有する表面であってもよい。この構造によって、該構造自体、つまり複数の溝自体が平滑であり得るとしても、表面の平滑性は相殺される。本発明によれば、そのような表面は、「構造化された表面」と呼ばれる。その表面を見るかまたは触れることによって、該表面が平滑かまたは粗さがあるかを認識可能でない場合に、レーザ光線をこの表面に当てる試験を実施することができる。平滑な表面の場合に、レーザは、表面上で主方向でのみ反射される。粗さのある表面の場合には、あらゆる空間方向に散乱が起こる。そのような一つの試験は、キール大学のウェブサイト(http://www.tf.uni-kiel.de/matwis/amat/semitech_en/kap_3/illustr/oberflaechenstrukture.pdf)に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】中空体中に垂直に収容された、核酸を結合するポリマー材料でできたディスクの例示的な図である。
【
図2】単離された核酸のゲル電気泳動分析を示す図である。
【0016】
以下で本発明を、実施例をもとにより詳細に説明するつもりである。この場合に、それらの実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0017】
実施例
実施例1: 改変されたピペットチップを使用した本発明による方法によるNIH 3T3細胞からの核酸の手動式の抽出
1mlのピペットチップ(Sarstedt社)中に、ポリエチレン製のディスクを、終端から三分の一のところに垂直に固定した。5×105個のNIH 3T3細胞を使用した。核酸の単離のために使用される抽出用化学薬品は、この場合に、部分的には、市販の抽出キットinnuPREP Blood DNA Kit/IPC16X(Analytik Jena AG社)から採用された。溶解バッファー(溶解溶液CBV)およびプロテイナーゼKによって、細胞を60℃で15分間にわたって溶解させた。溶解は、2.0mlの反応容器中で行った。溶解後に、そのバッチに400μlのイソプロパノールを加えた。引き続き、改変されたピペットチップを使用し、ピペットを用いることによって、出し入れするピペッティング操作をそのバッチに20回行った。その後に、3個のさらなる2mlの反応容器を、アルコール性洗浄バッファー(洗浄溶液LS、80%エタノール、80%エタノール)で充填した。次いでそのピペットチップを、逐次その都度の洗浄バッファー中に浸漬させて、出し入れするピペッティング操作をそれぞれ5回行った。最後の洗浄ステップの後に、チップを乾燥させ、それにより残留エタノールを除去した。結合された核酸の溶出は、100μlの溶出バッファーを用いて行った。これを再び、2mlの反応容器中に入れた。出し入れするピペッティング操作を30回行った。ピペットチップを取り出した後に、単離された核酸は反応容器中に存在する。該方法は、極めて簡単かつ迅速である。
【0018】
単離された核酸の検出は、分光測光的測定によって行われた。
【0019】
【0020】
それらの結果が示しているように、本発明による手段で、標準的な抽出用化学薬品を使用して、標準的なピペットによる僅かなピペッティング操作ステップによるだけで、核酸を結合させて単離することが可能である。収率は極めて高いことが明らかになる。
【0021】
実施例2: 改変されたピペットチップを使用して、市販の自動抽出装置を使用した、本発明による方法によるNIH 3T3細胞からの核酸の自動化された抽出
自動化された抽出は、自動抽出装置InnuPure C16(Analytik Jena AG社)を用いて実施した。この自動抽出装置は、磁性粒子による核酸抽出を基礎としている。本発明による方法に従う核酸抽出の実施のために、該自動抽出装置のために利用されるピペットチップを、本発明による手段に相応するように改変させた。ピペットチップ中に、その下から三分の一のところに垂直に、粗面化されたポリマーから製造されたディスクを収容したが、該ディスクは、その内径を閉鎖しないため、ピペットチップのピペット機能は保たれたままである。この場合に、種々の材料でできた粗面化されたディスクを使用した。核酸抽出のために、それぞれ5×105個のNIH 3T3細胞を使用した。核酸の単離のために使用される抽出用化学薬品は、この場合に、部分的には、市販の抽出キットinnuPREP Blood DNA Kit/IPC16X(Analytik Jena AG社)から採用された。溶解バッファー(溶解溶液CBV)およびプロテイナーゼKによって、細胞を60℃で15分間にわたって2.0mlの反応容器中で溶解させた。
【0022】
引き続き、核酸の精製のためには、Innupure C16の自動化された方法を使用した。抽出のために必要な溶液は、予め充填されたDeep Wellプレート中に存在していた。上記の溶解物を、400μlのイソプロパノールで充填されたキャビティ中に入れた。この後に、その溶液を、ピペットチップによって、該溶液がチップ中に収容されたディスクのわきをかすめて流れるように良く混合した。100回の繰り返しを行った。
【0023】
その後に、逐次、アルコール性洗浄バッファー(洗浄溶液LS、80%エタノール、80%エタノール)を収容している3個のさらなるキャビティにおいて、それぞれ5回良く混合した。
【0024】
最後の洗浄ステップに引き続き、本発明によるチップおよびそこの中に収容されたディスクを、空気の200回のピペッティング操作によって乾燥させ、それにより残留エタノールを除去した。核酸の溶出は、機器によって事前に50℃に温度調節された100μlの溶出バッファーと一緒に120回にわたり良く混合することによって行った。溶出バッファーの全容量は、200μlであった。
【0025】
その方法は、極めて簡単かつ迅速であり、市販の自動抽出装置を、本発明による方法をそれに相応する本発明による手段を用いて実施するために使用できることを示している。磁性粒子ベースの抽出と比べて時間の浪費はより大幅に少ない。単離された核酸の検出は、分光測光的測定によって行われた。
【0026】
【0027】
図2は、単離された核酸のゲル電気泳動分析を示している。
【0028】
示されているのは、本発明による方法によって単離された核酸を、0.8%アガロースゲル中で電気泳動により分離したものである。試料は、試料1から始めて左から右へと施与した。
【0029】
それらの結果が示しているように、様々なポリマーからなり得る本発明による手段で、標準的な抽出用化学薬品を使用して、標準的なピペッティングプラットフォームによる僅かなピペッティング操作ステップによるだけで、核酸を結合させて単離することが可能である。収率は極めて高いことが明らかになる。
【0030】
実施例3: 核酸の単離のための種々の材料を収容するピペットチップを使用して、市販の自動抽出装置を使用した、本発明による方法による血液細胞からの核酸の自動化された抽出
自動化された抽出は、自動抽出装置InnuPure C16(Analytik Jena AG社)を用いて実施した。この自動抽出装置は、磁性粒子による核酸抽出を基礎としている。本発明による方法に従う核酸抽出の実施のために、該自動抽出装置のために利用されるピペットチップを、本発明による手段に相応するように改変させた。3種の異なるチップを使用した。
【0031】
タイプ1: 金属でできた三次元の網目を収容するピペットチップ(そのために、市販の、いわゆる金属タワシ(ステンレススパイラル)であって、そこから幾らか材料を切り取ったものを利用した。この材料を、ピペットチップ中に詰め込んだ。溶液が傍らを通ってピペッティング操作される三次元の網目が得られる)
タイプ2: 亜鉛メッキされた木ネジ(これらは、前記記載によれば構造化された表面を表す)が互いに向き合って差し込まれたピペットチップ
タイプ3: 表面が事前に粗面化された4つのプラスチック粒状物を有するピペットチップ。これらのポリエチレン製のプラスチック粒状物は、前記記載によれば粗さのある表面を有する材料を表す。ポリプロピレンを有する強磁性材料。
【0032】
核酸抽出のために、それぞれ事前に単離された2mlの全血からの血液細胞を使用した。該血液細胞を、200μlのPBS中に再懸濁した。核酸の単離のために使用される抽出用化学薬品は、この場合に、部分的には、市販の抽出キットinnuPREP Blood DNA Kit/IPC16(Analytik Jena AG社)から採用された。全抽出過程は、機器InnuPure C16(Analytik Jena AG社)によって自動化された形式で実施した。その機器は、ウォークアウェイ原理を基礎としている。そのために、Deep Wellプレートは、必要とされる試薬で予め充填される。その際、逐次、ピペットチップ(本発明による改変を伴う)が、個々のキャビティ中に案内され、その都度の溶液は、出し入れするピペッティング操作によってピペットチップ中に吸い込まれ、該ピペットチップ中に収容された材料の傍らを通ってピペッティング操作される。
【0033】
まず最初に、細胞懸濁液を、予め充填されたDeep Wellプレートの第一のキャビティ中に移した。このキャビティ中には、溶解バッファーとプロテイナーゼKが存在している。この場合に溶解は、溶解物が本発明によるピペットチップによって出し入れするピペッティング操作が多数行われるようにして行った。溶解後に、溶解物を隣のキャビティに移した。このキャビティ中には、イソプロパノールが存在する。再び多数の出し入れするピペッティング操作が行われ、したがって液体はピペットチップの内側に持続的に吸い込まれ、この場合にピペットチップ中に存在する材料の傍らを通った。このステップで、核酸は該材料上に結合する。このステップの後に、ピペットチップを隣のキャビティに移動させた。このキャビティ中には、アルコール性洗浄バッファーが存在する。したがって、結合された核酸を、再び多数のピペッティング操作過程を経ることによって洗浄する。ピペットチップの乾燥後に、このピペットチップを、水が存在するさらなるキャビティに移動させた。出し入れするピペッティング操作によって、核酸は該材料から引き離され、最終的に溶解された形で存在する。それにより、抽出過程全体は、完全に自動化された形式で成し終えられている。
【0034】
その方法は、極めて簡単かつ迅速であり、市販の自動抽出装置を、本発明による方法のそれに相応する本発明による手段を用いた実施のために使用できることを示している。磁性粒子ベースの抽出と比べて時間の浪費はより大幅に少ない。
【0035】
単離された核酸の検出は、分光測光的測定によって行われた。
【0036】
【0037】
図1: 中空体中に垂直に収容された、核酸を結合するポリマー材料でできたディスクの例示的な図を示している。本発明による方法による核酸抽出のために使用することができる本発明による手段の例示的な実施形態が表されている。