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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】収差補正装置および電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20240501BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01J37/153 A
H01J37/28 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022019349
(22)【出願日】2022-02-10
(65)【公開番号】P2023116936
(43)【公開日】2023-08-23
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】森下 茂幸
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-108650(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0147605(US,A1)
【文献】H.Rose,outline of a spherically corrected semiaplanatic medium-voltage transmission electron microscopy,Optik,Vol.85,No.1(1990),ドイツ,1990年06月01日,p.19-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子および前記第2多極子の少なくとも一方は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子を有し、
前記第2部分は、複数の第2極子を有し、
前記第1部分が発生させる6極子場と前記第2部分が発生させる6極子場の強度を異ならせることによって前記光軸に沿って強度が変化する6極子場を発生させ、
前記光軸に沿って強度が変化する6極子場を変調してコンビネーション収差を発生させる元となる収差が導入される面の位置を制御することによって、前記コンビネーション収差を補正する、収差補正装置。
【請求項2】
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子が発生させる6極子場および前記第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方は、前記光軸に沿って強度が変化
前記第1多極子は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と、第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子を有し、
前記第2部分は、複数の第2極子を有し、
前記複数の第1極子の先端を結ぶ円の径と、前記複数の第2極子の先端を結ぶ円の径は、異なる、収差補正装置。
【請求項3】
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子が発生させる6極子場および前記第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方は、前記光軸に沿って強度が変化し、
前記第1多極子は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と、第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子と、前記複数の第1極子の各々に巻かれた第1コイルと、を含み、
前記第2部分は、複数の第2極子と、前記複数の第2極子の各々に巻かれた第2コイルと、を含み、
前記第1コイルの巻き数と前記第2コイルの巻き数は、異なる、収差補正装置。
【請求項4】
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子が発生させる6極子場および前記第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方は、前記光軸に沿って強度が変化し、
前記第1多極子は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と、第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子と、前記複数の第1極子の各々に巻かれた第1コイルと、を含み、
前記第2部分は、複数の第2極子と、前記複数の第2極子の各々に巻かれた第2コイルと、を含み、
前記第1コイルに流れる電流量と前記第2コイルに流れる電流量は、異なる、収差補正装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記第1多極子が発生させる6極子場および前記第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方を前記光軸に沿って強度を変化させることによって、6次スリーローブ収差を補正する、収差補正装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記第1多極子が発生させる6極子場は、前記光軸に沿って強度が変化し、
前記第1多極子が発生させる6極子場の前記光軸に沿った強度分布は、非対称である、収差補正装置。
【請求項7】
請求項において、
前記第2多極子が発生させる6極子場は、前記光軸に沿って強度が変化し、
前記第2多極子が発生させる6極子場の前記光軸に沿った強度分布は、非対称である、収差補正装置。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記転送レンズ系は、前記第1多極子の中心からずれた第1面の像を、前記第2多極子の中心からずれた第2面に転送する、収差補正装置。
【請求項9】
請求項において、
前記転送レンズ系が前記第1面の像を前記第2面に転送することによって、4次スリー
ローブ収差を補正する、収差補正装置。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記第1多極子および前記第2多極子は、電子線の一次軌道を変化させない、収差補正装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の収差補正装置を含む、電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収差補正装置および電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)や走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)等の電子顕微鏡において、収差補正は、高分解能像を取得するうえで重要な技術である。
【0003】
例えば、特許文献1には、4段の6極子場を発生させることで、6次スリーローブ収差を補正可能な球面収差補正装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-179650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された収差補正装置のように、収差補正装置では、多極子の段数を増やすことで、高次幾何収差を補正していた。しかしながら、多極子の段数を増やすと、収差補正装置が大きくなり、電子顕微鏡本体の高さが高くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る収差補正装置の一態様は、
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子および前記第2多極子の少なくとも一方は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子を有し、
前記第2部分は、複数の第2極子を有し、
前記第1部分が発生させる6極子場と前記第2部分が発生させる6極子場の強度を異ならせることによって前記光軸に沿って強度が変化する6極子場を発生させ、
前記光軸に沿って強度が変化する6極子場を変調してコンビネーション収差を発生させる元となる収差が導入される面の位置を制御することによって、前記コンビネーション収差を補正する
本発明に係る収差補正装置の一態様は、
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子が発生させる6極子場および前記第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方は、前記光軸に沿って強度が変化し、
前記第1多極子は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と、第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子を有し、
前記第2部分は、複数の第2極子を有し、
前記複数の第1極子の先端を結ぶ円の径と、前記複数の第2極子の先端を結ぶ円の径は、異なる
本発明に係る収差補正装置の一態様は、
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子が発生させる6極子場および前記第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方は、前記光軸に沿って強度が変化し、
前記第1多極子は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と、第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子と、前記複数の第1極子の各々に巻かれた第1コイルと、を含み、
前記第2部分は、複数の第2極子と、前記複数の第2極子の各々に巻かれた第2コイルと、を含み、
前記第1コイルの巻き数と前記第2コイルの巻き数は、異なる。
本発明に係る収差補正装置の一態様は、
6極子場を発生させる第1多極子と、
6極子場を発生させる第2多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子および前記第2多極子は、光軸に沿って配置され、
前記第1多極子が発生させる6極子場および前記第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方は、前記光軸に沿って強度が変化し、
前記第1多極子は、前記光軸に沿って配置された、第1部分と、第2部分と、を有し、
前記第1部分は、複数の第1極子と、前記複数の第1極子の各々に巻かれた第1コイルと、を含み、
前記第2部分は、複数の第2極子と、前記複数の第2極子の各々に巻かれた第2コイルと、を含み、
前記第1コイルに流れる電流量と前記第2コイルに流れる電流量は、異なる
【0007】
このような収差補正装置では、第1多極子が発生させる6極子場および第2多極子が発生させる6極子場の少なくとも一方を光軸に沿って強度を変化させることによって、6次スリーローブ収差を補正できる。したがって、このような収差補正装置では、装置の小型化を図ることができ、電子顕微鏡の高さを低くできる。
【0008】
本発明に係る電子顕微鏡の一態様は、
上記収差補正装置を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る収差補正装置の構成を示す図。
図2】第1多極子を模式的に示す図。
図3】第1多極子の第1部分を模式的に示す図。
図4】第1多極子の第2部分を模式的に示す図。
図5】比較例に係る収差補正装置を示す図。
図6】第2実施形態に係る収差補正装置の構成を示す図。
図7】第3実施形態に係る収差補正装置の構成を示す図。
図8】第4実施形態に係る収差補正装置の構成を示す図。
図9】第5実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図10】第6実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図11】第1多極子の変形例を示す図。
図12】第1多極子の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0011】
1. 第1実施形態
1.1. 収差補正装置
まず、第1実施形態に係る収差補正装置について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る収差補正装置100の構成を示す図である。図1では、収差補正装置100が電子顕微鏡の照射系に組み込まれている場合を図示している。図1には、電子線の軸上軌道(Axial ray)を実線で示し、軸外軌道(Field ray)を破線で示している。また、図1には、第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布および第2多極子120が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布を図示している。
【0012】
収差補正装置100は、電子顕微鏡の照射系に組み込まれている。照射系は、試料Sに電子線を照射するための光学系である。収差補正装置100は、照射系の球面収差を補正する。図示の例では、収差補正装置100と対物レンズ2の間に、転送レンズ4および転送レンズ6が配置されている。
【0013】
収差補正装置100は、図1に示すように、第1多極子110と、第2多極子120と、転送レンズ系130と、を含む。
【0014】
第1多極子110および第2多極子120は、光軸OAに沿って配置されている。光軸OAは、第1多極子110の中心、および第2多極子120の中心を通る。第1多極子110と第2多極子120は、光軸OAに沿った方向に互いに離隔して配置されている。収差補正装置100では、電子線の進行方向に、第1多極子110、第2多極子120の順で配置されている。
【0015】
第1多極子110は、6極子場(磁場6極子場または電場6極子場)を発生させる。6極子場は3回対称である。第2多極子120は、第1多極子110が発生させる6極子場とは極性が逆の6極子場を発生させる。収差補正装置100では、第1多極子110および第2多極子120が二段の6極子場を発生させることによって、照射系の球面収差を補正する。
【0016】
第1多極子110は、電子線の進行方向に対して厚みを有している。すなわち、第1多極子110は、光軸OAに沿った厚みを有している。第1多極子110は、厚みのある6極子場における3回非点と3回非点のコンビネーション収差(combination aberration)として負の球面収差を発生させる。同様に、第2多極子120は、光軸OAに沿った厚みを有しており、厚みのある6極子場における3回非点と3回非点のコンビネーション収差として負の球面収差を発生させる。
【0017】
ここで、コンビネーション収差とは、ある場所で発生した収差(収差1)がある距離伝搬することにより入射点が変わり、別の収差(収差2)の影響を受けたとき、収差1と収
差2の組み合わせにより生まれる組み合わせ収差のことである。
【0018】
収差補正装置100では、光軸OAに沿った厚みを持った6極子場が負の球面収差を発生させることを利用して、収差補正を行う。収差補正装置100では、第1多極子110および第2多極子120によって2段の6極子場を発生させることによって負の球面収差を発生させ、照射系の正の球面収差を打ち消す。これにより、照射系の球面収差を補正できる。
【0019】
図2は、第1多極子110を模式的に示す図である。図2には、第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布を図示している。
【0020】
第1多極子110は、図2に示すように、第1部分110Aと、第2部分110Bと、を有している。第1部分110Aおよび第2部分110Bは、光軸OAに沿って配置されている。図示の例では、第1部分110Aは、第2部分110Bの前段に配置されている。すなわち、電子線は、第1部分110A、第2部分110Bの順で通過する。
【0021】
図3は、第1多極子110の第1部分110Aを模式的に示す図である。図4は、第1多極子110の第2部分110Bを模式的に示す図である。図3は、第1部分110Aを光軸OAに沿った方向から見た図であり、図4は、第2部分110Bを光軸OAに沿った方向から見た図である。
【0022】
第1多極子110の第1部分110Aは、複数の第1極子112Aを有している。複数の第1極子112Aは、放射状に配置されている。隣り合う第1極子112Aの極性は、逆である。各第1極子112Aには、コイル114が巻かれている。コイル114に流す電流を制御することによって、光軸OA上の磁場の強度を変えることができる。
【0023】
図示の例では、第1極子112Aの数は6つであり、6つの第1極子112Aによって6極子場を発生させる。なお、第1部分110Aの極子の数は、6極子場を発生させることが可能であれば特に限定されず、極子の数は12個であってもよい。
【0024】
第1多極子110の第2部分110Bは、複数の第2極子112Bを有している。複数の第2極子112Bは、放射状に配置されている。隣り合う第2極子112Bの極性は、逆である。各第2極子112Bには、コイル114が巻かれている。コイル114に流す電流を制御することによって、光軸OA上の磁場の強度を変えることができる。コイル114は、光軸OAに沿って並ぶ第1極子112Aと第2極子112Bに共通である。
【0025】
図示の例では、第2極子112Bの数は、6つであり、6つの第2極子112Bによって6極子場を発生させる。なお、第2部分110Bの極子の数は、6極子場を発生させることが可能であれば特に限定されず、極子の数は12個であってもよい。
【0026】
第1極子112Aの光軸OAに沿った幅と、第2極子112Bの光軸OAに沿った幅は、例えば、等しい。光軸OAに沿って並ぶ第1極子112Aと第2極子112Bは、接していてもよいし、離隔していてもよい。
【0027】
図3に示すように、各第1極子112Aの先端と光軸OAとの間の距離は、互いに等しい。そのため、複数の第1極子112Aの先端を結ぶことで、光軸OAを中心とする円C1を形成できる。
【0028】
図4に示すように、各第2極子112Bの先端と光軸OAとの間の距離は、互いに等しい。そのため、複数の第2極子112Bの先端を結ぶことで、光軸OAを中心とする円C
2を形成できる。
【0029】
複数の第1極子112Aの先端を結ぶ円C1の径と、複数の第2極子112Bの先端を結ぶ円C2の径は、異なっている。円C1の径と円C2の径が異なっていることによって、第1多極子110が発生させる6極子場は、光軸OAに沿って強度が変化する。第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は、第1多極子110の中心(第1極子112Aと第2極子112Bの境界の位置)を境として強度が異なる。
【0030】
図示の例では、円C1の径は、円C2の径よりも大きい。そのため、第2部分110Bが光軸OA上に発生させる6極子場の強度は、第1部分110Aが光軸OA上に発生させる6極子場の強度よりも大きい。したがって、第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は、非対称である。第1多極子110が発生させる6極子場の強度分布は、第1多極子110の中心を通り光軸OAに対して垂直な軸に関して、非対称である。
【0031】
上述したように、第1多極子110は、第1部分110Aと第2部分110Bを有することによって光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させるが、第1多極子110において6極子場の向きは変化しない。第1多極子110が発生させる6極子場では、電子線の二次以上の軌道が変化し、一次軌道は変化しない。
【0032】
図2に示す例では、第1極子112Aと第2極子112Bが一体となって1つの極子を構成し、当該極子にコイル114が巻かれている。すなわち、第1極子112Aおよび第2極子112Bにおいて、磁場を発生させるためのコイルは共通である。なお、図示はしないが、第1極子112Aおよび第2極子112Bにそれぞれコイルを巻き、第1極子112Aと第2極子112Bを光軸OAに沿って近接して配置してもよい。この場合も、図2に示す例と同様に、光軸OAに沿って6極子場の強度を変化させることができる。
【0033】
第2多極子120は、図2図4に示す第1多極子110と同様の構成を有している。すなわち、第2多極子120は、第1多極子110と同様に、光軸OAに沿って配置された、第1部分120Aと、第2部分120Bと、を有し、第1部分120Aは、複数の第1極子122Aを有し、第2部分120Bは、複数の第2極子122Bを有している。複数の第1極子122Aの先端を結ぶ円の径は、複数の第2極子122Bの先端を結ぶ円の径よりも大きい。
【0034】
第2多極子120が発生させる6極子場の強度分布は、図1に示すように、第1多極子110が発生させる6極子場の強度分布と同様であり、第2部分120Bが光軸OA上に発生させる6極子場の強度は、第1部分120Aが光軸OA上に発生させる6極子場の強度よりも大きい。第2多極子120が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は、非対称である。第2多極子120が発生させる6極子場では、一次軌道は変化しない。
【0035】
転送レンズ系130は、複数のレンズを含む。図示の例では、転送レンズ系130は、第1レンズ130aと、第2レンズ130bと、を含む。転送レンズ系130は、第1面F1の像を第2面F2に転送する。すなわち、転送レンズ系130は、第1面F1と第2面F2を共役にする。第1面F1は、第1多極子110の中心からずれている。第2面F2は、第2多極子120の中心からずれている。
【0036】
このように、収差補正装置100では、第1多極子110が発生させる6極子場の中心からずれた第1面F1を、第2多極子120が発生させる6極子場の中心からずれた第2面F2に転送する。すなわち、転送レンズ系130は、第1多極子110が発生させる6極子場の中心を第2多極子120が発生させる6極子場の中心に転送しない。
【0037】
図示の例では、光軸OAに沿った方向において、第1面F1は第1多極子110の前方に位置し、第2面F2は第2多極子120の前方(第1多極子110と第2多極子120の間)に位置している。
【0038】
1.2. 動作
次に、収差補正装置100の動作について説明する。図5は、比較例に係る収差補正装置1000を示す図である。比較例に係る収差補正装置1000は、2段6極子場型の球面収差補正装置である。第1多極子1100が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は、一様である。同様に、第2多極子1200が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は、一様である。
【0039】
以下では、収差補正装置100の動作を、比較例に係る収差補正装置1000と比較しながら説明する。
【0040】
<球面収差>
収差補正装置1000において、第1多極子1100および第2多極子1200は、厚みのある6極子場における3回非点と3回非点のコンビネーション収差として負の球面収差を発生させる。したがって、収差補正装置1000では、第1多極子1100および第2多極子1200によって負の球面収差を発生させ、照射系の正の球面収差を打ち消す。これにより、照射系の球面収差を補正できる。
【0041】
収差補正装置100では、収差補正装置1000と同様に、第1多極子110および第2多極子120が厚みのある6極子場における3回非点と3回非点のコンビネーション収差として負の球面収差を発生させる。したがって、収差補正装置100では、収差補正装置1000と同様に、照射系の球面収差を補正できる。
【0042】
<4次スリーローブ収差>
収差補正装置1000では、転送レンズ系1300は、第1多極子1100が発生させる6極子場の中心に位置する第1面F1の像を、第2多極子1200が発生させる6極子場の中心に位置する第2面F2に転送する。
【0043】
これに対して、収差補正装置100では、転送レンズ系130は、第1多極子110の中心からずれた第1面F1の像を第2多極子120の中心からずれた第2面F2に転送する。収差補正装置100では、第1面F1を第1多極子110の中心からずらし、第2面F2を第2多極子120の中心からずらして、第1面F1と第2面F2との間の距離である転送距離を調整することによって、4次スリーローブ収差を補正できる。
【0044】
<6次スリーローブ収差>
収差補正装置1000では、6回非点および6次スリーローブ収差が残留してしまう。6回非点は、第1多極子1100の厚み、および第2多極子1200の厚みを調整することによって補正できる。しかしながら、収差補正装置1000では、6次スリーローブ収差を補正できない。
【0045】
これに対して、収差補正装置100では、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させ、第2多極子120が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させることによって、6次スリーローブ収差を補正する。
【0046】
収差補正装置1000では、第1多極子1100は、光軸OAに沿った強度が一定の6極子場を発生させる。そのため、第1多極子1100が発生させる6極子場の光軸OAに
沿った強度分布は対称である。すなわち、第1多極子1100が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は、第1多極子1100の中心をとおり光軸OAに垂直な軸に関して対称である。同様に、第2多極子1200は、光軸OAに沿った強度が一定の6極子場を発生させる。第2多極子1200が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は対称である。
【0047】
これに対して、収差補正装置100では、第1多極子110は、光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させる。第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は非対称である。すなわち、第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は、第1多極子110の中心をとおり光軸OAに垂直な軸に関して非対称である。同様に、第2多極子120は光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させ、第2多極子120が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は非対称である。
【0048】
ここで、6次スリーローブ収差は、5次以下の球面収差(3次球面収差および5次球面収差)および5次以下の3回対称収差(4次スリーローブ収差および3回非点)のコンビネーション収差として発生する。コンビネーション収差は、収差が光学的に異なる面で導入されることによって発生する収差である。そのため、収差補正装置100では、6極子場の強度を変調させ、6次スリーローブ収差を発生させる元となる収差の位置(収差が導入される面の位置)を制御することによって6次スリーローブ収差を制御し、6次スリーローブ収差を補正する。
【0049】
このように、収差補正装置100では、第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度を変化させ、第2多極子120が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度を変化させることによって、6次スリーローブ収差を補正する。
【0050】
<6回非点>
上記のように、収差補正装置1000では、6回非点が残留してしまうが、6回非点は、第1多極子1100の厚み、および第2多極子1200の厚みを調整することによって補正できる。
【0051】
これに対して、収差補正装置100では、第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度を変化させ、第2多極子120が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度を変化させることによって、6回非点を補正する。
【0052】
6回非点は、3回非点と4次スリーローブ収差のコンビネーション収差として発生する。したがって、収差補正装置100では、6次スリーローブ収差を補正する場合と同様に、6極子場の強度を変調させ、6回非点を発生させる元となる収差の位置を制御することによって6回非点を制御し、6回非点を補正する。
【0053】
1.3. 効果
収差補正装置100は、6極子場を発生させる第1多極子110と、6極子場を発生させる第2多極子120と、第1多極子110と第2多極子120との間に配置された転送レンズ系130と、を含む。また、第1多極子110および第2多極子120は、光軸OAに沿って配置され、第1多極子110が発生させる6極子場は、光軸OAに沿って強度が変化し、第2多極子120が発生させる6極子場は、光軸OAに沿って強度が変化する。
【0054】
収差補正装置100では、第1多極子110が発生させる6極子場の強度を光軸OAに沿って変化させ、第2多極子120が発生させる6極子場の強度を光軸OAに沿って変化
させることによって、6次スリーローブ収差を補正できる。
【0055】
さらに、収差補正装置100では、第1多極子110が発生させる6極子場の強度を光軸OAに沿って変化させ、第2多極子120が発生させる6極子場の強度を光軸OAに沿って変化させることによって、6回非点を補正できる。
【0056】
このように収差補正装置100では、2段の多極子(第1多極子110および第2多極子120)によって、高次幾何収差を補正できる。したがって、収差補正装置100では、装置の小型化を図ることができ、電子顕微鏡の高さを低くできる。
【0057】
収差補正装置100では、第1多極子110が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は非対称であり、第2多極子120が発生させる6極子場の光軸OAに沿った強度分布は非対称である。そのため、収差補正装置100では、6次スリーローブ収差を補正できる。さらに、収差補正装置100では、6回非点を補正できる。
【0058】
収差補正装置100では、転送レンズ系130は、第1多極子110の中心からずれた第1面F1の像を第2多極子120の中心からずれた第2面F2に転送する。そのため、収差補正装置100では、4次スリーローブ収差を補正できる。
【0059】
収差補正装置100では、第1多極子110および第2多極子120は、電子線の一次軌道を変化させない。このように、収差補正装置100では、電子線の一次軌道を変化させることなく、高次幾何収差を補正できる。
【0060】
収差補正装置100では、第1多極子110は、光軸OAに沿って配置された、第1部分110Aと、第2部分110Bと、を有し、第1部分110Aは、複数の第1極子112Aを有し、第2部分110Bは、複数の第2極子112Bを有している。複数の第1極子112Aの先端を結ぶ円C1の径と、複数の第2極子112Bの先端を結ぶ円C2の径は、異なる。そのため、収差補正装置100では、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させることができる。
【0061】
収差補正装置100では、第2多極子120は、光軸OAに沿って配置された、第1部分120Aと、第2部分120Bと、を有し、第1部分120Aは、複数の第1極子122Aを有し、第2部分120Bは、複数の第2極子122Bを有している。複数の第1極子122Aの先端を結ぶ円の径と、複数の第2極子122Bの先端を結ぶ円の径は、異なる。そのため、収差補正装置100では、第2多極子120が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させることができる。
【0062】
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係る収差補正装置について、図面を参照しながら説明する。図6は、第2実施形態に係る収差補正装置200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る収差補正装置200において、第1実施形態に係る収差補正装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0063】
上述した収差補正装置100では、図1図4に示すように、第1多極子110の第2部分110Bが光軸OA上に発生させる6極子場の強度は、第1多極子110の第1部分110Aが光軸OA上に発生させる6極子場の強度よりも大きく、第2多極子120の第2部分120Bが光軸OA上に発生させる6極子場の強度は、第1部分120Aが光軸OA上に発生させる6極子場の強度よりも大きい。これにより、収差補正装置100では、6次スリーローブ収差を補正できる。
【0064】
これに対して、収差補正装置200では、図6に示すように、第1多極子110の第1部分110Aが光軸OA上に発生させる6極子場の強度は、第1多極子110の第2部分110Bが光軸OA上に発生させる6極子場の強度よりも大きく、第2多極子120の第2部分120Bが光軸OA上に発生させる6極子場の強度は、第1部分120Aが光軸OA上に発生させる6極子場の強度よりも大きい。これにより、収差補正装置200では、収差補正装置100と同様に、6次スリーローブ収差や6回非点を補正できる。また、収差補正装置200では、収差補正装置100と同様に、種々の幾何収差を補正できる。
【0065】
3. 第3実施形態
次に、第3実施形態に係る収差補正装置について、図面を参照しながら説明する。図7は、第3実施形態に係る収差補正装置300の構成を示す図である。以下、第3実施形態に係る収差補正装置300において、第1実施形態に係る収差補正装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0066】
上述した収差補正装置100では、図1図4に示すように、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させ、第2多極子120が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させた。
【0067】
これに対して、収差補正装置300では、図7に示すように、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が一定な6極子場を発生させ、第2多極子120が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させる。
【0068】
収差補正装置300では、第1多極子110が発生させる6極子場は、第1多極子110の中心を通り光軸OAに垂直な軸に関して対称である。第1多極子110を構成する複数の極子において、極子の先端と光軸OAとの間の距離は等しい。
【0069】
収差補正装置300では、第2多極子120が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させることによって、収差補正装置100と同様に、6次スリーローブ収差や6回非点を補正できる。また、収差補正装置300では、収差補正装置100と同様に、種々の幾何収差を補正できる。
【0070】
4. 第4実施形態
次に、第4実施形態に係る収差補正装置について、図面を参照しながら説明する。図8は、第4実施形態に係る収差補正装置400の構成を示す図である。以下、第4実施形態に係る収差補正装置400において、第1実施形態に係る収差補正装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0071】
上述した収差補正装置100では、図1図4に示すように、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させ、第2多極子120が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させた。
【0072】
これに対して、収差補正装置400では、図8に示すように、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させ、第2多極子120が光軸OAに沿って強度が一定な6極子場を発生させる。
【0073】
収差補正装置400では、第2多極子120が発生させる6極子場は、第2多極子120の中心を通り光軸OAに垂直な軸に関して対称である。第2多極子120を構成する複数の極子において、極子の先端と光軸OAとの間の距離は等しい。
【0074】
収差補正装置400では、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子
場を発生させることによって、収差補正装置100と同様に、6次スリーローブ収差や6回非点を補正できる。また、収差補正装置400では、収差補正装置100と同様に、種々の幾何収差を補正できる。
【0075】
5. 第5実施形態
次に、第5実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図9は、第5実施形態に係る電子顕微鏡500の構成を示す図である。
【0076】
電子顕微鏡500は、収差補正装置100を含む。電子顕微鏡500は、照射系520に収差補正装置100が組み込まれた走査透過電子顕微鏡である。電子顕微鏡500は、図9に示すように、電子源510と、照射系520と、試料ステージ530と、結像系540と、検出器550と、を含む。
【0077】
電子源510は、電子線を放出する。電子源510は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0078】
照射系520は、電子源510から放出された電子線を集束して電子プローブを形成し、当該電子プローブで試料Sを走査する。照射系520は、複数のコンデンサーレンズ522と、偏向器524と、を含む。
【0079】
複数のコンデンサーレンズ522は、電子源510から放出された電子線を集束して電子プローブを形成する。なお、対物レンズ2が試料Sの前方につくる磁界は、コンデンサーレンズ522とともに電子プローブを形成するためのレンズとして機能する。
【0080】
偏向器524は、集束された電子線を二次元的に偏向する。偏向器524で電子線を偏向することによって、電子プローブで試料Sを走査できる。図示はしないが、照射系520は、コンデンサーレンズ522以外のレンズや絞りなどを含んでいてもよい。
【0081】
収差補正装置100は、照射系520に組み込まれている。収差補正装置100は、照射系(コンデンサーレンズ522)の収差を補正する。図1に示すように、収差補正装置100と対物レンズ2との間には、転送レンズ4および転送レンズ6が配置されている。
【0082】
試料ステージ530は、試料ホルダー532に保持された試料Sを支持する。試料ステージ530によって、試料Sを位置決めすることができる。
【0083】
結像系540は、試料Sを透過した電子線で結像するための光学系である。結像系540は、試料Sを透過した電子線を検出器550に導く。結像系540は、対物レンズ2と、中間レンズ544と、投影レンズ546と、を含む。
【0084】
検出器550は、例えば、試料Sで高角度に非弾性散乱された電子を円環状の検出器で検出する暗視野STEM検出器であってもよいし、試料Sを透過して入射電子線と同じ方向に出射する透過波を検出する明視野STEM検出器であってもよい。
【0085】
電子顕微鏡500では、電子源510から放出された電子線は、照射系520によって集束され電子プローブを形成する。電子プローブは、偏向器524によって二次元的に偏向される。これにより、電子プローブで試料Sを走査できる。試料Sを透過した電子線は、結像系540によって検出器550に導かれ、検出器550で検出される。例えば、電子プローブによる走査と同期して、試料S上を透過した電子を検出器550で検出することで、走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を取得することができる。
【0086】
電子顕微鏡500は、収差補正装置100を含むため、高分解能のSTEM像を得ることができる。
【0087】
6. 第6実施形態
次に、第6実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図10は、第6実施形態に係る電子顕微鏡600の構成を示す図である。以下、第6実施形態に係る電子顕微鏡600において、第5実施形態に係る電子顕微鏡500の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0088】
上述した図9に示す電子顕微鏡500は、収差補正装置100が照射系520に組み込まれた走査透過電子顕微鏡であったが、電子顕微鏡600は、図10に示すように、収差補正装置100が結像系540に組み込まれた透過電子顕微鏡(TEM)である。
【0089】
照射系520は、電子源510から放出された電子線を試料Sに照射する。例えば、照射系520は、観察領域に対して平行ビームを照射する。
【0090】
対物レンズ2は、試料Sを透過した電子線でTEM像を結像するための初段のレンズである。中間レンズ544および投影レンズ546は、対物レンズ2によって結像された像をさらに拡大し、検出器550上に結像する。
【0091】
収差補正装置100は、結像系540に組み込まれている。収差補正装置100は、結像系540(対物レンズ2)の収差を補正する。
【0092】
検出器550は、試料Sを透過した電子を検出する。検出器550は、結像系540によって結像された像を撮影する。検出器550は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等のデジタルカメラである。
【0093】
電子顕微鏡600では、電子源510から放出された電子線は、照射系520で集束されて試料Sに照射される。試料Sの観察領域には、例えば、平行ビームが照射される。試料Sを透過した電子線は、結像系540によって透過電子顕微鏡像(TEM像)を結像する。TEM像は、検出器550で撮影される。電子顕微鏡600では、収差補正装置100によって結像系540の収差を補正できるため、高分解能のTEM像を得ることができる。
【0094】
7. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0095】
図11は、第1多極子110の変形例を示す図である。
【0096】
上述した第1実施形態では、図2に示すように、複数の第1極子112Aの先端を結ぶ円C1の径と、複数の第2極子112Bの先端を結ぶ円C2の径を異ならせることによって、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させた。
【0097】
これに対して、図11に示すように、第1部分110Aは、複数の第1極子112Aと、複数の第1極子112Aの各々に巻かれた第1コイル114Aと、を含む。同様に、第2部分110Bは、複数の第2極子112Bと、複数の第2極子112Bの各々に巻かれた第2コイル114Bと、を含む。
【0098】
ここで、第1コイル114Aの巻き数と第2コイル114Bの巻き数は、異なる。これ
により、第1多極子110が光軸OAに沿って6極子場の強度を変化させることができる。図示の例では、第2コイル114Bの巻き数は、第1コイル114Aの巻き数よりも多い。そのため、第2部分110Bが発生させる6極子場の光軸OA上の強度は、第1部分110Aが発生させる6極子場の光軸OA上の強度よりも大きい。
【0099】
このように、第1コイル114Aの巻き数および第2コイル114Bの巻き数を制御することによって、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させることができる。
【0100】
図12は、第1多極子110の変形例を示す図である。
【0101】
図12に示すように、第1極子112Aと光軸OAとの間の距離と、第2極子112Bと光軸OAとの間の距離を等しくし、かつ、第1コイル114Aの巻き数および第2コイル114Bの巻き数を等しくした第1多極子110において、第1コイル114Aに流す電流量および第2コイル114Bに流す電流量を制御することによって、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させてもよい。
【0102】
図示の例では、第2コイル114Bに流す電流量は、第1コイル114Aに流す電流量よりも大きい。したがって、図10に示すように、第2部分110Bが発生させる6極子場の光軸OA上の強度を第1部分110Aが発生させる6極子場の光軸OA上の強度よりも大きくできる。
【0103】
なお、第1多極子110において、第1部分110Aと第2部分110Bにおいて、複数の極子の先端を結ぶ円の径、コイルの巻き数、およびコイルに流す電流量を組み合わせて、第1多極子110が光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させてもよい。
【0104】
第2多極子120についても、上述した第1多極子110と同様の手法で、光軸OAに沿って強度が変化する6極子場を発生させることができる。
【0105】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0106】
2…対物レンズ、4…転送レンズ、6…転送レンズ100…収差補正装置、110…第1多極子、110A…第1部分、110B…第2部分、112A…第1極子、112B…第2極子、114…コイル、114A…第1コイル、114B…第2コイル、120…第2多極子、120A…第1部分、120B…第2部分、122A…第1極子、122B…第2極子、130…転送レンズ系、130a…第1レンズ、130b…第2レンズ、200…収差補正装置、300…収差補正装置、400…収差補正装置、500…電子顕微鏡、510…電子源、520…照射系、522…コンデンサーレンズ、524…偏向器、530…試料ステージ、532…試料ホルダー、540…結像系、544…中間レンズ、546…投影レンズ、550…検出器、600…電子顕微鏡、1000…収差補正装置、1100…第1多極子、1200…第2多極子、1300…転送レンズ系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12