(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】飛行時間検出のシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/36 20100101AFI20240501BHJP
【FI】
G01S19/36
(21)【出願番号】P 2022126914
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2020210950の分割
【原出願日】2016-07-15
【審査請求日】2022-08-09
(32)【優先日】2015-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520460904
【氏名又は名称】スター アリー インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホア、ウェンシェン
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161443(JP,A)
【文献】特開2014-022975(JP,A)
【文献】特開2013-142606(JP,A)
【文献】特開2013-142607(JP,A)
【文献】特開2011-220998(JP,A)
【文献】特開2010-249759(JP,A)
【文献】特開2007-232694(JP,A)
【文献】特開2003-152600(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0256972(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0143598(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 19/00-19/55
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号源から所定の時間に送信され、受信機で受信されてデジタル化されたプローブ信号から復調された信号に基づいて前記信号源と前記受信機との間の距離を決定するための方法であって、
(i)遅延時間値d0、・・・、dn-1の各値kについて、復調された信号と、遅延時間値だけ遅延されたプローブ信号のレプリカとの間の相関
を計算するステップであって、式中y(n)は前記復調された信号サンプルであり、s(n)は前記プローブ信号の信号サンプルであり、nはインデックスであって、前記nの値はサンプル時間を表す、該ステップと、
(ii)前記計算された相関のなかのいずれが最大値を有するかを決定するステップと、
(iii)前記計算された相関の最大値に基づいて距離を推定するステップとを含み、
前記相関を計算する前記(i)ステップは、
(a)相関
を計算するステップと、
(b)インデックス値1、・・・、n-1の各値jについて、相関
と
の和をとることによって、相関
を計算するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記プローブ信号は、疑似ランダムノイズ(PRN)コード信号を含み、前記PRNコード信号は一連のセクションを含み、各セクションは、所定の持続時間を有し、かつ複数の所定の波形のうちの1つに対応するサンプルを有することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
は、
(i)信号サンプルy(n-d
j)が信号サンプルs(n)に整列されていると仮定して、信号サンプルy(n-d
j)と信号サンプルy(n-d
j-1)をそれぞれ、前記PRNコード信号のセクションに従って分割すること、
(ii)信号サンプルy(n-d
j)及び信号サンプルy(n-d
j-1)の各セクションを、前記PRNコード信号の整列されたセクションの所定の波形に関連付けること、及び
(iii)前記所定の波形の各々について、
(a)前記所定の波形に関連付けられた各セクション内で、信号サンプルs(n)の積と、信号サンプルy(n-d
j)におけるサンプルと信号サンプルy(n-d
j-1)における対応するサンプルとの差をコヒーレントに合計し、
(b)前記所定の波形に関連するセクションの積をコヒーレントに合計すること
を利用して計算されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
遅延時間値d0、・・・、dn-1は、外部データソースから受信した粗遅延時間推定値に対するオフセットであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
受信した信号の電力、通信チャネルの期待されるゲイン、相加性雑音の標準偏差、及び信号対雑音比のなかの1つ以上を計算するステップを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項
2に記載の方法であって、
前記プローブ信号は、キャリア信号を前記PRNコード信号で変調することによって形成されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法であって、
前記PRNコード信号の各セクションの前記所定の波形は、前記セクションでの信号遷移、及び前記セクションの前または後の1つ以上のセクションでの信号遷移に基づいて分類されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項
2に記載の方法であって、
前記PRNコード信号の各セクションは、複数チップの期間を含み、前記チップは時間単位であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記PRNコード信号の各セクションは、選択された2つのチップ間のそれぞれの中間点を境界として設定されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、
前記復調された信号は、RFフロントエンド回路から出力されるデジタル信号値を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、
前記復調された信号の各信号値は、前記受信された信号の同相値及び直角位相サンプルを表す複素数によって表されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項3に記載の方法であって、
各相関の値は、前記復調された信号と前記PRNコード信号にマスキング関数を適用した後に計算されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、
前記マスキング関数をそれ自体に掛けると1であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、
計算された前記相関の値に基づいて複数の統計的状態を維持するステップを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記統計的状態は、確率分布に関連することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記統計的状態は、前記確率分布から計算された確率の対数によって表されることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法であって、
前記統計的状態は、加算性ガウス雑音モデルに基づいて計算されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法であって、
前記統計的状態の1つは確率分布に関連し、ある相関に関連する前記遅延時間値が所定の閾値未満である前記確率分布の確率に対応するとき、前記復調された信号の1つ以上のサンプルが前記相関に寄与することから除外されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
前記確率分布は経時的に更新されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項3に記載の方法であって、
前記復調された信号の1つ以上のセクションの信号値が、前記相関に寄与することから除外されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項3に記載の方法であって、
前記復調された信号の1つ以上のセクションの信号値が、前記信号値が信号遷移に従うときに前記相関に寄与することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項1に記載の方法であって、
受信された信号の周波数及び位相を推定するステップを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、
前記周波数及び前記位相は、カルマンフィルタを用いて推定されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体間で送信されるプローブ信号の飛行時間に基づいた2つの物体間の距離の測定に関する。特に、本発明は、グローバル・ポジショニング・システム(GPS)などの測位システムを用いた2つの物体間の距離の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
信号の「飛行時間」は、多くの場合、物体の位置または時間を決定するために使用される。「飛行時間」は、プローブ信号が送信される時間とプローブ信号が受信される時間との間で測定されるタイムオフセットである。物体間の距離は、飛行時間とプローブ信号の伝播速度(例えば、GPS信号の場合、光の速度)との積である。GPSシステムでは、飛行時間は、「擬似距離測定値」と呼ばれる。多くのシステムでは、飛行時間を更なる計算に使用することができる。例えば、GPSシステムでは、複数の擬似距離測定値を用いて、地球に対する物体の3次元位置を決定する。計算された位置の精度を更に改善すべく、クロックオフセットを計算することもできる。GPSシステムの様々な態様の詳細な説明は、例えば、Pratap Misra及びPer Engeによる「Global Position System:Signals,Measurement and Performance」(「Enge」)、及びその引用文献に記載されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一実施形態によれば、GPS受信機などの位置決定装置は、整合フィルタにおいて一般的な相関を計算すべく使用される前に、受信信号のセクションが2つ以上のカテゴリに分類され、かつカテゴリに応じて蓄積される方法を用いて、送信されたプローブ信号の飛行時間に基づいてモバイルデバイスの位置を決定する。
【0004】
本発明の方法を用いて相関を計算し、本明細書に記載された更なる時間節約技術を必要に応じて適用することにより、本発明は、相関を計算するために従来技術の方法で必要とされるものより大幅に減少したいくつかの算術演算を用いて位置決定を達成することができる。算術演算の数を減少させることにより、本発明の方法を実施するデバイスに要求される電力消費を大幅に減少させることができ、それにより重要な利点を実現することができる。
【0005】
本発明は、添付の図面と共に以下の詳細な説明を考慮することで、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の一実施形態による、GPS受信機100のブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、
図1の任意のオフセット計算チャネル(103-1、103-2、・・・103-c)を表すオフセット計算チャネル200の実装を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、オフセット計算チャネル(例えば、
図2のオフセット計算チャネル200)の操作方法を示すフローチャート図である。
【
図4】本発明の一実施形態による、
図3のオフセットの精推定ステップ302における操作を示すフローチャート図である。
【
図5】本発明の一実施形態による、バイナリプローブ信号(すなわち、+1レベルまたは-1レベルのいずれかによって表される値を有する)を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態による、復調信号604のセクションへの分割を示す図である。
【
図7】本発明による、セクション境界701の前、間、及び後の、プローブ信号(702、703、705、及び706)、及び中央プローブ信号704の波形を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態による、マスクされたプローブ信号s
m(n)を示す。
【
図9】本発明の一実施形態による、各セクションのカテゴリを表す2ビット値が、前後のチップに遷移が存在するか否かに基づいて割り当てられる中央プローブ信号903の分類スキームを示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態による、前の、現在の、及び次のセクションが信号遷移を含むか否かをそれぞれ表す3ビット値によってセクションのカテゴリがエンコードされる分類スキームを示す図である。
【
図11】本発明による、単一T分類及びマスキング下のカテゴリ1セクション(すなわち、対応するプローブ信号において遷移が生じるセクション)に対する相対オフセットxの確率分布がどのように発展するかを確率閾値スキームを用いて示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態による、アキュムレータを操作する方法1200を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の詳細な説明では、2つの物体間で送信されるプローブ信号は、一方の物体から送信され、かつ他方の物体に受信されるプローブ信号、あるいは1つの物体によって送信され、第2の物体から反射され、その後第1の物体によって受信されるプローブ信号を指すことができる。本発明は、GPS、より一般的には、GPS、GLONASS、Galileo、Beidou、及び他の同様のシステムを含む全地球測位衛星システム(GNSS)に適用可能である。実際に、本発明は、GNSS/GPSシステムだけでなく、任意のタイムオフセット測定システムにも適用可能である。例えば、本発明は、レーダアンテナから送信され、対象物によって反射され、その後レーダアンテナに受信されるレーダプローブ信号の飛行時間の測定に適用することができる。別の例として、本発明は、ローカル送信機からローカル受信機に送信されることによりローカル位置測定を行う信号の飛行時間の決定にも適用することができる。飛行時間技術は、通信システムにおける信号同期に適用され得る。この詳細な説明では、本発明を図示するためにGPS受信機が使用される。しかし、本発明は、GPS受信機における適用に限定されず、上述の適用、及び他の適用にも限定されない。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態による、GPS受信機100のブロック図である。
図1に示すように、複数のGPS衛星の信号がアンテナ101によって受信される。これらの信号は、典型的に、増幅され、復調され、中間周波数(IF)にダウンコンバートされる。各信号はまた、デジタル領域での処理のために、RFフロントエンド102によってデジタル化される。その結果生じる信号は、その後、対応するGPS衛星から送信された信号を受信信号が含むかどうかをそれぞれ決定する1以上のオフセット計算チャネル(103-1、103-2、・・・、103-c)によって処理される。識別された各GPS衛星信号について、そのGPS衛星とGPS受信機100との間のオフセットすなわち飛行時間が計算される。CPU104は更に、GPS受信機100の位置及び時間を計算すべく、オフセット計算チャネル(103-1、103-2、・・・103-c)から決定されたオフセットを処理する。CPU104はまた、オフセット計算チャネル(103-1、103-2、・・・103-c)を制御する。オフセット計算チャネル(103-1、103-2、・・・103-c)及びそれらの制御の詳細を以下に説明する。
図1において、CPU104は、一般に、CPU回路自体と、任意のメモリ、ストレージ(例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ)またはCPU操作をサポートするために必要な他の構成要素との両方を指す。
【0009】
図2は、本発明の一実施形態による、
図1の任意のオフセット計算チャネル(103-1、103-2、・・・103-c)を表すオフセット計算チャネル200の実装を示すブロック図である。
図2に示すように、RFフロントエンドからのインプット201のブロックは、RFフロントエンド102から生成された、デジタル化された同相信号及び直角位相信号(すなわち、I信号及びQ信号)の提供を表す。デジタル化された直角位相信号であるI及びQは、チャネル特有の復調器202に供給される。数値発振器、すなわちNCO203から可変周波数信号を受信するチャネル特有の復調器202は、例えば、ドップラー効果、受信機の動き、ローカルクロックドリフト及び任意の他の影響によって引き起こされる残りの周波数の変調効果を除去する。各チャネルは、上述のNCO203及びチャネル特有の復調器202によって表される、チャネル特有のNCOとチャネル特有の復調器とを含む。復調されたI信号及びQ信号は、その後オフセット推定器204において処理される。CPU205は、NCO203、チャネル特有の復調器202、及びオフセット推定器204を制御する。CPU205は、スタンドアローンの計算回路であってもよく、また、
図1に示す全体的なシステム制御回路であるCPU104によって実装されてもよい。
【0010】
図3は、本発明の一実施形態による、オフセット計算チャネル(例えば、
図2のオフセット計算チャネル200)の操作方法を示すフローチャート図である。
図3に示すように、粗推定ステップ301は、多くのGPS/GNSSシステムにおいて「信号取得」としても一般に知られている粗推定を実行する。粗推定は、精推定ステップ302によって
図2に表される精推定に備えて、オフセット及び周波数変調の探索範囲を減少させる。例えば、GPSシステムにおける粗推定すなわち信号取得は、約0.5チップ(各チップは約1μ秒の時間単位である)の位置精度、及び100Hz~500Hzの間のドップラー周波数推定精度を提供することができる。オフセット粗推定は、セルタワーからの位置推定値などの他の情報を参照することによって補助され得る。このような補助情報を用いるシステムは、Assisted GPS(AGPS)システムと呼ばれる。AGPSの構造及び操作については、例えば、Engeによって議論されている。粗推定ステップ301はまた、受信信号における信号対雑音比(SNR)、オフセット精度(すなわち「オフセット誤差」)、及び周波数精度(すなわち「周波数誤差」)の推定値を提供することができる。
【0011】
精推定ステップ302は、オフセット及び周波数変調のそれぞれをより高精度に推定する精推定を提供する。例えば、本発明の一実施形態では、精推定は、-0.5チップ~0.5チップの間のオフセット、及び-250Hz~250Hzの間の変調周波数を探索する。様々な理由により、粗推定ステップ301及び精推定ステップ302のいずれか一方または両方が、必ずしも成功するわけではない。推定ステップが成功しない場合、ステップ303において、粗推定ステップ301が繰り返される。精推定ステップが成功した後、オフセット計算チャネルは、精推定ステップ302を繰り返す前に、予め定められた時間、待機すなわちアイドルステップ304に入ることができる。待機時間は、GPS受信機100における電力消費を減少させる。
【0012】
図4は、本発明の一実施形態による、
図3の精推定ステップ302における作動を示すフローチャート図である。一般的に、精推定ステップは、収集された受信信号のデータサンプル及び経過時間に基づいて、1組の統計的状態を保持及び更新する。一実施形態では、これらの統計的状態は、オフセットの確率分布に関連する。(反対に、オフセットの確率分布は、これらの統計的状態から得ることができる。)いくつかの実施形態では、オフセットの確率分布は、統計的状態として直接使用することができる。例えば、一実施形態では、統計的状態は、確率分布の対数に比例する量によって表される。(このような表現は、確率の乗算が確率の対数の加算として実行されることを可能にする。)
【0013】
図4に示すように、初期統計的状態の分布取得ステップ401において、オフセットxの確率分布P
0(x)の事前推定が得られる。一実施形態では、確率分布P
0(x)は、粗推定ステップ301から得られる。例えば、一実施形態では、オフセットxの分布P(x)は、GPS受信機の信号取得から得られ、P(x)は探索範囲
【0014】
【0015】
の範囲にあり、tcはチップタイムである。この実施形態において、オフセットxがこの探索範囲外である確率は小さいと考えられる。初期分布推定P0(x)は、セルタワーからの補助データなどのサイド情報から得ることができる。初期探索範囲は、セルタワーの通信範囲によってカバーされる範囲であってもよい。信号取得中にオフセットxの範囲のみが推定される場合、いくつかの実施形態では、初期分布P0(x)は、粗推定であってもよいが、他の実施形態では、単純な一様分布が使用され得る。他の実施形態では、信号取得中にオフセットxについて標準偏差が推定される場合、ガウス分布が使用されてもよい。
【0016】
データサンプル取得ステップ402では、受信されたプローブ信号のデータサンプルが取得され、データサンプル取得ステップ402において確率分布P(x)を更新するために使用される。確率分布P(x)がこの実施形態の統計的状態に対応するため、ステップ403における確率分布P(x)への更新は、統計的状態を更新する。ステップ404では、更新された確率分布P(x)に基づいて、オフセットxに対する更新された推定がその後実行される。ステップ405において、オフセットxの正常な更新がアウトプットされる。あるいは、オフセットxの計算値が予め定められた精度要件を満たすために精密化を必要とする場合、受信されたプローブ信号の追加のデータサンプルがデータサンプル取得ステップ402に戻って取得される。そうでなければ、すなわちオフセットxが現在の探索範囲内で推定できない場合には、ステップ408で失敗信号がアウトプットされる。その場合、例えば
図3に関連して先に示したように、粗推定ステップ301に戻ることによって新しい粗推定が実行される。待機/アイドルステップ406では、オフセットxの推定が成功すると、推定器は、電力を節約するために予め定められた時間、待機すなわちアイドル状態になってもよい。予め定められた時間は、ユーザによって指定されてもよい。確率分布P(x)は、及びそれに対応して統計的状態もまた、待機/アイドルステップ406で指定された時間経過した後、ステップ407で更新される。オフセットは、確率分布P(x)からオフセットxの期待値を計算することによって推定することができる。オフセットxの推定値の分散は、確率分布からも得ることができる。確率分布を更新し、データサンプリングを行うための操作は、プローブ信号の特性、その送信、伝播、受信及び処理に基づいている。
【0017】
一実施形態では、バイナリプローブ信号は、
図5に示すように、+1レベル~-1レベルの間で交互に繰り返される。
図5に示すように、プローブ信号は、+1レベルから-1レベルまで、または-1レベルから+1レベルまで遷移すなわち「ジャンプ」することができる。GPS C/A信号及びGNSS BOC信号は、バイナリ信号の例である。プローブ信号は、次の遷移の前に少なくとも1つのチップの各状態に留まる。GPS/GNSSでは、各衛星には、+1及び-1信号レベルによって送信信号でエンコードされ、周期的に繰り返される特別なコードシーケンスが割り当てられる。コードシーケンスは、GPS C/Aの1023チップに及ぶ。送信されたプローブ信号は、例えば予め定められた周波数(例えば、GPS C/Aの場合、約1.575GHzのキャリア周波数)の予め定められたキャリア信号によって、更に変調されてもよい。
【0018】
一実施形態では、受信された信号は、チップ時間tcの何分の一かである持続時間tsをそれぞれ有する間隔でサンプリングされる。
【0019】
【0020】
ここで、Mは整数である。いくつかの実施形態では、整数または分数に近くなるようにMを選択することもでき、本発明の同じまたは同様の利点を達成することができる。信号は、処理及び送信の方法に沿って歪む可能性がある。典型的には、信号は、送信フィルタ、変調器、送信アンテナ、通信チャネル(例えば、自由空間)、受信アンテナ、受信機フィルタ、及び復調器を通過する。歪みは、その公称時間より実際上長い遷移時間として現れ、傾きまたは他の効果を生じる可能性がある。一実施形態では、Mは、歪んだ信号であっても、各遷移が持続時間ts未満で完了するように選択される。一実施形態では、IまたはQ(すなわち、それぞれ同相または直角位相)チャネルからの復調信号(IFにおける)のサンプルが使用される。復調信号がゼロ位相に近い場合、Iチャネルのみが必要とされる。いくつかの実施形態では、同相サンプル及び直角位相サンプルの両方が取得される。Iチャネル及びQチャネルの1つのみが使用される場合、サンプルは、相対時間0、ts、2ts、3ts、・・・、nts、・・・で取得され、y(0)、y(1)、y(2)、・・・、y(n)、・・・と表記される。あるいは、Iチャネル及びQチャネルの両方がサンプリングされる場合、アウトプット信号y(n)は複素数値である。
【0021】
【0022】
ここで、
【0023】
【0024】
であり、yI(n)及びyQ(n)はそれぞれ、時間nにおける復調信号の同相及び直角位相サンプルを表す。
【0025】
信号s(n)を、推定された探索範囲の中心におけるタイムオフセットを有するプローブ信号(「中央プローブ信号」)のレプリカを表すものとする。信号s(n)は、事前知識(例えば、上述の粗推定ステップ301からの知識)に基づき、予想される歪みのない受信信号の形式として解釈され得る。更に、xを、雑音の少ない復調信号と中央プローブ信号s(n)との間の推定オフセット(「相対オフセット」)と示す。擬似距離及び受信機の位置は、相対オフセットxに基づいて導き出すことができる。信号s(n)を探索範囲の中心で、相対オフセットを有するようにして選択することは、単に数学的な便宜のためである。信号s(n)のオフセットは、探索範囲内の任意の他の位置(例えば、探索範囲の最初)に設定することができる。
【0026】
確率分布は、ベイズのルールに従って更新されてもよい。
【0027】
【0028】
ここで、P(x|y)は、復調信号のサンプルyが観察された後のオフセットxの確率分布の推定である。P(y)は、xとは独立しているため、P(y)は明示的に計算する必要がない正規化係数である。数式(3)の両辺で対数をとると、対数尤度方程式が得られる。
【0029】
【0030】
ここで、Lは対数尤度操作を示すか、または一般的に、
【0031】
【0032】
y(n)を雑音の少ない受信信号z(n)と相加性雑音ε(n)の和としてモデル化する。
【0033】
【0034】
ここで、γは通信チャネルのゲインであり、γ(n)はガウス分布を有すると仮定される。信号z(n)は、上述の信号s(n)のシフトされたバージョンであると仮定することができる。(実証的には、受信信号の以降の分析に基づいて、この仮定はほとんどの場合で有効である。)すなわち、
【0035】
【0036】
ここで、xは相対オフセットを表す。したがって、z(n)はまた、この詳細な説明において「シフトされた信号」と呼ばれる。
【0037】
一般性を失うことなく、信号の期待値を1に設定することができる。すなわち、
【0038】
【0039】
信号y(n)の信号対雑音比(SNR)は、以下によって提供される。
【0040】
【0041】
ここで、σは相加性雑音σ(n)のガウス分布の標準偏差である。したがって、
【0042】
【0043】
相加性雑音σ(n)は、ガウス分布であると仮定されるため、
【0044】
【0045】
ここで、β0は定数である。したがって、
【0046】
【0047】
y2(n)項及びs2(n)項が一定であると仮定すると、数式(11)は次のように書き直され得る。
【0048】
【0049】
ここで、β1は正規化係数である。数量L'(y|x)(「オフセットxを与えられた信号y(n)の正規化されていない対数尤度」)を、以下のように定義する。
【0050】
【0051】
2つの信号v(n)及びs(n)に対する相関演算は、以下によって与えられる。
【0052】
【0053】
数式(13)は、以下のように書き換えられてもよい。
【0054】
【0055】
上記の数式(8)から想起されるように、係数γ/σ2はSNR及びσから得られる。
【0056】
【0057】
確率分布を正規化することにより、すべての確率の和が1に等しくなることが確実になる。正規化されていない確率分布を定義する。
【0058】
【0059】
したがって、P(x|y)は、以下によって与えられる。
【0060】
【0061】
ここで、信号y(n)は実数の数列である。したがって、この結果はIまたはQサンプルに直接適用できる。一実施形態では、信号が確実に復調され得る場合、2つのチャネルのうち1つのみ(例えばIチャネルのみ)を使用する必要がある。しかし、信号y(n)が複素数の数列である場合、すなわちIチャネルとQチャネルとの両方がサンプリングされる場合(例えば、数式2の信号)、相関値conv(y,s,x)及びゲイン値γが使用される。
【0062】
【0063】
NcチップのそれぞれからM個のサンプルが取得された場合、サンプルの総数NはNcMである。Ncxチップとして与えられたオフセットxの探索範囲と共に、相関の単純な実装を用いると、conv(y,s,x)を計算するために必要な積和演算ステップの総数Ctは以下の通りである。
【0064】
【0065】
一実施形態では、プローブ信号を複数のセクションに分割し、各セクションを1組のカテゴリの1つに分類し、割り当てられたカテゴリに従って各セクションを処理することにより、必要とされる積和演算ステップの数を大幅に減少させることができる。分類ステップは、プローブ信号の前処理において実行されてもよい。
【0066】
実行時に、復調信号のサンプルは、中央プローブ信号(すなわち、上述の信号s(n))によって導かれるセクションに割り当てられる。各セクションは、中央プローブ信号s(n)の対応するセクションと同じカテゴリに分類される。復調信号のサンプルは、その後、カテゴリ(k)及びサンプルインデックスオフセット(m)に基づいてアキュムレータA(k,m)のセットに蓄積される。アキュムレータの値は、探索範囲内の各オフセットxの相関を計算するために使用される。
【0067】
分類スキーム下では、探索範囲Rx内の相対オフセットの、任意のシフトされたプローブ信号における所与のカテゴリの各セクションは、同じカテゴリに割り当てられた同じプローブ信号の他のセクションと区別できない。探索範囲Rxは、「許容範囲」または「許容オフセット範囲」と呼ばれる。有限数のカテゴリに分類することができる信号は、「セクション分類可能」信号と呼ばれる。バイナリ信号は、常にセクション分類可能である。
【0068】
図6は、本発明の一実施形態による、復調信号604のセクションへの分割例を示す図である。
図6はまた、中央プローブ信号603を示す。セクション境界601は、中央プローブ信号603における対応するチップの中間点にそれぞれ設定される。各セクションは、1チップ時間(t
c)持続する。
図6に示すように、各セクションは、セクション内の中央プローブ信号603の波形に従って分類される。例えば、隣接セクション602は、カテゴリ「0」及びカテゴリ「1」に分類される。残りのセクションのカテゴリも同様にラベル付けされる。
図6の例では、各セクションのカテゴリkは、以下の4つのカテゴリのうちの任意の1つであってもよい。(a)セクション内のすべての信号値が+1レベルに等しい場合、k=0、(b)セクション内の信号値が+1レベルから-1レベルに一度遷移する場合、k=1、(c)セクション内のすべての信号値が-1レベルに等しい場合、k=2、及び(d)セクション内の信号値が+1レベルから-1レベルに一度遷移する場合、k=3。
【0069】
図6では、復調信号604のセクションにおけるサンプルは、割り当てられたセクションのカテゴリ及び各サンプルのサンプルオフセット値に対応するアキュムレータに蓄積される。GPS C/Aコードは、毎m秒後にそれ自体を繰り返し、別の信号(「情報ビット」)で変調される周期的な信号であることに留意されたい。情報ビットは、それぞれ約20m秒の周期を有する。
【0070】
図7は、本発明による、セクション境界701の前、間、及び後の、プローブ信号(702、703、705、及び706)、並びに中央プローブ信号704の波形を示す図である。シフトされたプローブ信号(702、703、705、及び706)は、相対的なオフセット、-1/2、-1/4、1/4、1/2チップで中央プローブ信号704をオフセットすることによって得られる(すなわち、[-t
c/2,t
c/2]のオフセット範囲内にある)。
図7では、シフトされたプローブ信号(702、703、705、及び706)はまた、それぞれS(n+2)、S(n+1)、S(n-1)、及びS(n-2)とラベル付けされる。中央プローブ信号704は、S(n)とラベル付けされる。中央プローブ信号704の信号値は、セクション境界701の間で+1レベルから-1レベルに1度だけ遷移するため、セクションは、上記の分類スキームに従ってカテゴリk=1に割り当てられる。
図7では、チップ時間あたり4サンプルのサンプリングレートが使用され得る(すなわち、サンプル間で1/4チップ)。中央プローブ信号s(n)は、セクション境界701の外側のハーフチップ時間内に遷移を有していないため、各シフトされたプローブ信号において、同じカテゴリk=1に分類されるすべてのセクションは、それぞれのセクション境界内で同じ波形を有する。すなわち、k=1に分類された、シフトされたプローブ信号(702、703、705、及び706)のすべてのセクションは、セクション境界701内に示されるものと同じセクション境界間の波形をそれぞれ有する。
図7は、オフセット範囲が約1チップ時間長いため、「単一T分類」を示す。
【0071】
各相対オフセットxの相関を計算するために必要な算術演算の数を減らすために、分類が使用されてもよい。正式には、受信信号と相対オフセットのシフトされたプローブ信号との間の相関は、以下によって与えられる。
【0072】
【0073】
ここで、cはセクションインデックスを示し、Cは相関期間内のセクションの数を示し、mはセクション内のm番目のサンプルのサンプルインデックスを示し、s(c,m-x)はシフトされたプローブ信号s(n-x)のセクションcにおけるm番目のサンプルの信号値を示し、xは相対オフセットであり、y(cM+m)は復調信号のセクションcにおけるm番目のサンプルを示す。
【0074】
セクションを分類できるカテゴリの総数をKとする。上述のように、各カテゴリk内では、信号値s(c,m-x)は、すべてのc<Cについて同じであり、相対オフセットxは許容範囲Rx内にある。したがって、カテゴリkに分類されたセクションの信号値s(c,m-x)は、s(k,m-x)で示すことができる。したがって、
【0075】
【0076】
ここで、c∈kはカテゴリkに分類されるセクションcを示す。セクションcにおける復調信号のサンプルの合計、すなわち
【0077】
【0078】
は、アキュムレータのセットを用いて実行することができる。
【0079】
【0080】
数式24は、セクションサンプルインデックスmを有するカテゴリkに分類されるセクションの数を累算するためのアキュムレータにおける累積値を示す。次に、各k及び各サンプルオフセットインデックスごとに1つの、K×Mのアキュムレータが必要である。
図12は、本発明の一実施形態による、実行時にアキュムレータを操作する方法1200を示すフローチャート図である。
図12に示すように、ステップ1201において、セクションの開始が識別される。ステップ1202において、セクションカテゴリkは、前もって計算されたテーブルから決定されるか、または探索される。次に、カテゴリkに対するM個のアキュムレータが識別される。反復的にステップ1204~ステップ1208を実行することにより、サンプル値y(cM)、y(cM+1)、・・・、y(c(2M-1))は、それぞれ対応するアキュムレータに加算される。セクション内のすべてのサンプル値が累算されると、現在の相関セットに必要な復調信号のすべてのセクションのサンプル値が累算される(ステップ1209)まで、ステップ1208において、次のセクションに対してプロセスが繰り返される。したがって、各相関が復調信号のN個のサンプルを含む場合、累積演算の総数は、N=MN
cに等しい(数式23の部分については乗算が行われないことに留意されたい)。
【0081】
【0082】
ステップ1210において、各相対オフセットxについて、アキュムレータ内の値を使用して相関Conv(y,s,x)が計算される。
【0083】
【0084】
数式26は、長さNの各相関がM個のサンプル及びMNcxオフセットのそれぞれのK個の相関の和に変換されることを示している。一般に、数式26は、
【0085】
【0086】
積和演算操作、及び
【0087】
【0088】
加算を必要とする。したがって、
図12の方法では、すべての相対オフセットに必要な算術演算の総数が大幅に削減される。
【0089】
【0090】
アキュムレータを実装する多数の方法が存在する。一実施形態では、アキュムレータ操作は、汎用プロセッサ(例えば、中央処理装置すなわちCPU)、または共有アキュムレータハードウェアによって実行される。その実施形態では、アキュムレータの累算結果(及び状態)は、メモリシステム内の異なるメモリ位置に格納される。別の実施形態では、アキュムレータはハードウェアアキュムレータとして実装され、このようなアキュムレータによって累積される値は、システムによってアキュムレータに送信される。他の実施形態では、これらのアプローチの任意の組み合わせを使用することができる。
【0091】
上記の方法は、セクション分類可能な任意の信号に適用することができる。
図6の例では、セクションの長さがチップ時間であるように選択される。しかし、別のセクションの長さを選択することができ、カテゴリ(K)の総数がより多くなる可能性がある。GPS/GNSS信号の場合、必要な算術演算を更に削減する更なる方法が存在する。セクション長をチップ時間であるように選択しても、サンプル及び中央プローブ信号の両方にマスク信号を適用することによって、必要な算術演算を減らすことができる。m
s(n)で示されるマスク信号は、各セクションについて一様な信号値(+1レベルまたは-1レベル)を有することができる。言い換えると、
【0092】
【0093】
ms(n)ms(n)=1であることに留意されたい。他のマスク信号を使用することもできる。例えば、マスク信号の各セクションの一様な信号値を、セクションの後半の境界における中央プローブ信号の信号値に選択することができる。ms(n)ms(n)=1であるため、
【0094】
【0095】
ここで、ym(n)=y(n)ms(n)は、マスクされたサンプル信号であり、sm(n-x)=ms(n)s(n-x)は、マスクされ、シフトされたプローブ信号である。
【0096】
図8は、本発明の一実施形態による、マスクされたプローブ信号s
m(n)を示す。
図8に示すように、プローブ信号801(すなわち、プローブ信号s(n))が使用されることにより、マスク信号804が構成され、同様に、マスクされたプローブ信号であるマスク信号804(すなわち、マスクされたプローブ信号s
m(n))は、マスクされたプローブ信号s
mを示す。マスク信号805の各セクションは、セクション内で移行を有するk=1、またはセクション内で移行を有さないk=0の2つのカテゴリのうち1つに割り当てられることができる。マスク信号804は、プローブ信号801の-1レベルから+1レベルへの移行と、+1レベルから-1レベルへの移行との両方を、マスク信号805の+1レベルから-1レベルへの移行に変換する。マスク信号804はまた、一様な+1レベル信号値または一様な-1レベル信号値を有するセクションを、一様な+1レベルに変換する。マスクされたサンプル信号y
m(n)=y(n)m
s(n)の値は、結果として生じるサンプルが対応するアキュムレータに蓄積される前に計算されるが、マスクされたプローブ信号s
m(n)は予め計算されてもよい。マスキングに関する技術は、この詳細な説明では、「マスキング技術」と呼ばれる。この例では、カテゴリの数が半分に減少しているため、結果的に回路のフットプリントはより小さくなる。ソフトウェア実装では、相関の計算において必要とされる算術演算の数も対応して減少する。
【0097】
次に、より大きいオフセット範囲の相関をより効率的に計算することを可能にする、プローブ信号のセクションを分類する他の方法について説明する。例えば、一実施形態では、チップ境界はセクション境界として使用される。数式30及び数式31によって示されるマスキング技術は、プローブ信号及びサンプル信号(すなわち、復調された受信信号)の両方に適用されてもよい。マスクされた中央プローブ信号のセクションは、前及び後のチップ内に信号値の遷移が存在するか否かによって分類されてもよい。4つの考えられるカテゴリが存在するため、カテゴリは2ビット値を用いて示される。前のチップに遷移が存在する場合、2ビットカテゴリの第1のビットに「1」が割り当てられ、それ以外の場合には、「0」が割り当てられる。同様に、後のチップに遷移が存在する場合、2ビットカテゴリの第2のビットに「1」が割り当てられ、それ以外の場合には、「0」が割り当てられる。
図9は、本発明の一実施形態による、中央プローブ信号903の分類スキームを示す。
図9に示すように、セクション境界は、セクション境界901とラベル付けされる。参照符号902によって示されるように、セクションのカテゴリが提供される。この分類スキームは、[t
c,t
c]の許容オフセット範囲を提供し、これは
図6に示す単一T分類スキームの2倍の大きさである。
【0098】
同様の技術により、より大きなオフセット範囲が可能になる。一般的に、
1.チップ境界をセクション境界として使用することができ、
2.プローブ信号とサンプルとの両方を、数式30及び数式31に示す方法でマスクすることができ、
3.Cn前のチップと、Cn後のチップとの値を用いてセクションを分類することができる。
【0099】
この方法では、カテゴリは、2Cnビットの2進数によってエンコードされてもよく、各ビットは、現在のセクションにおける信号値が、相対的なオフセット-Cn、・・・、-1、1、・・・、Cnで対応する1つのチップにおける信号値と等しいか否かに対応する。チップ内の信号値が現在のセクションにおける信号値と同じ場合、カテゴリ値の対応するビットは「0」であり、それ以外の場合には、カテゴリ値の対応するビットに「1」が割り当てられる。結果として、カテゴリ値は22Cn値のいずれかであり、許容オフセット範囲は[-Cntc,Cntc]である。
【0100】
図6に示すように、チップの中間点にセクション境界を設定する場合、相関を計算するための許容オフセット範囲を拡張することもできる。
1.セクション境界としてチップの中間点を使用する。
2.数式30及び数式31に示す方法で、プローブ信号とサンプルとの両方をマスクする。
3.現在のセクションと、C
n前のセクション及びC
n後のセクションのそれぞれとに、遷移が存在するか否かをエンコードするカテゴリ値を用いて、各セクションを分類する。
【0101】
この方法では、カテゴリ値は2C
n+1ビットの2進数である。各ビットの値は、相対的オフセット-C
n、・・・、-1、1、・・・、C
nの1つを有するセクションに対応する。対応するセクションに遷移が存在する場合、対応するビットに「1」が割り当てられ、それ以外の場合には、対応するビットに「0」が割り当てられる。この方法での許容オフセット範囲は、[-(C
n+1/2)t
c,(C
n+1/2)t
c]であり、カテゴリ値は2
2Cn+1の値のいずれかである。
図10は、本発明の一実施形態による、C
n=1の場合のこの方法を示す。
図10において、セクション境界1001は、プローブ信号1003におけるチップの中間点であるように選択される。カテゴリ1002の値は、前の、現在の、及び後のチップが信号以降を含むか否かをエンコードするため、8つのカテゴリが存在する。
【0102】
バイナリプローブ信号について、定められた相対オフセットxに対する相関計算における算術演算の数を更に減らすことができる。例えば、上述のプローブ信号と同様に、uが2進数を有する(すなわち、u(i)の値が1または-1のいずれかである)2つの関数v及びuを考慮する。次に、xの相対オフセットに対する信号u、vの相関は、以下の数式によって与えられる。
【0103】
【0104】
上述のタイプのプローブ信号はバイナリ値であり、かつ複数のサンプルがすべてのチップで取得されるため、u(i-x-1)-u(i-x)の値は、しばしばゼロである。したがって、Conv(u,v,x)は、以下の方法で再帰的に計算され得る。
ステップ1:Conv(u,v,0)を計算する。
ステップ2:x=0を初期化する。
ステップ3:
【0105】
【0106】
を計算する。
ステップ4:数式33、及びステップ3の結果を用いてConv(u,v,x)を計算する。
ステップ5:xを1だけ増加させ、xのすべての値が計算されるまでステップ3~5を繰り返す。
【0107】
例えば、中央プローブ信号s(n)のセクションにおいて+1レベルから-1レベルへの遷移が機能する場合、
【0108】
【0109】
次に、
【0110】
【0111】
その結果、相関は、従来の計算に必要とされるM2個の乗算及び加算ではなく、M個の加算処理、M個の減算処理、及びM個の2との乗算を用いて、M個のステップを処理することによって計算可能である。
【0112】
信号の電力及び受信信号のノイズは、相関結果を用いて推定することができる。一般的なデジタル信号h(n)について、その信号の電力は
【0113】
【0114】
として定義される。したがって、N個のサンプルによって表される信号y(n)の電力は、以下の数式によって与えられる。
【0115】
【0116】
xmaxを、最大相関値Cmax、すなわち
【0117】
【0118】
をもたらす相対オフセットを示すものとする。
ゲインの期待値E[γ]は以下の数式によって与えられる。
【0119】
【0120】
信号の電力Psは、最大相関値を用いて得られる。
【0121】
【0122】
信号対雑音比は、次の数式を用いて計算できる。
【0123】
【0124】
GPS/GNSSシステムでは、Py>>PSとなるので、以下の通りとなる。
【0125】
【0126】
加法性ノイズε(ガウス分布で近似)の標準偏差σは、次の数式を用いて推定可能である。
【0127】
【0128】
信号対雑音比SNR及び信号電力Py(または標準偏差σ)の両方がわかっている場合、最大相関値Cmaxの期待される大きさは、次の数式によって与えられる。
【0129】
【0130】
ここで、Nは相関計算におけるサンプル数である。最大相関値の期待値
【0131】
【0132】
は、オフセットxが探索範囲内にある(すなわち、オフセットxの推定が成功した)かどうかを検出するために使用され得る。測定された最大相関値Cmaxが非常に小さい場合、
【0133】
【0134】
ここで、αcmaxが設計パラメータである場合、相対オフセットxは範囲外である可能性が高い。いくつかの実施形態では、αcmax=10を選択することができる。
【0135】
いくつかの実施形態では、1以上のサンプルをスキップすることができる(すなわち、アキュムレータに蓄積されない)。一実施形態では、上述のような単一T分類及びマスキングを用いる[tc/2,tc/2]のオフセット探索範囲に対して、相対オフセットにかかわらず、非遷移セクション(すなわち、カテゴリ0)における各相関へのサンプルの寄与は同じである。したがって、「カテゴリ0」セクションによる寄与は、任意の相対オフセットxに対する相対尤度を変更しない。したがって、このようなセクションは、正規化後の最終結果に影響を及ぼさない。したがって、カテゴリ0セクションにおけるサンプルの蓄積はスキップされてもよい。
【0136】
各セクションでは、セクションにおけるサンプルの相対オフセットxは、それぞれの中央プローブ信号s(n)で定義される。元のサンプルのインデックスはn=cM+mで表され、cはセクション番号であり、mはサンプルセクションインデックスである。定められたセクション内で、中央プローブ信号s(n)がサンプルインデックスm=M/2-1とサンプルインデックスm=M/2との間の遷移を有する場合、サンプルインデックスm=M/2-1は、相対オフセットx=0を有するように定義されたタイムポイントである。したがって、s(cM+m)は、相対オフセットx=m-M/2+1を有する。一実施形態では、Mは偶数であるように選択される。他の実施形態では、Mが奇数である場合、M/2の代わりにfloor(M/2)を使用して、相対オフセットがゼロのタイムポイントにすることができる。
【0137】
オフセットxの確率分布を利用して、算術演算の総数を更に減らすことができる。例えば、取得されて処理されたサンプルを考慮すると、オフセットxは相対オフセットのより小さい範囲内にある可能性が高い。一実施形態では、プローブ信号の急激な変化部分に対応する可能性の低いサンプルを含む計算をスキップすることができる。バイナリプローブ信号の急激な変化部分は、+1ベレルから-1レベルへの遷移、または-1レベルから+1レベルへの遷移が起こる時間に近い部分である。プローブ信号の急激な変化部分に対応する可能性が低いサンプルは、プローブ信号の不変部分に対応する可能性が高い。したがって、これらのサンプルは、異なるオフセットの尤度を区別する尺度には寄与しない可能性があり、スキップすることができる(すなわち、対応するアキュムレータに蓄積される必要はない)。
【0138】
単一T分類及びマスキング下のカテゴリ1セクション(すなわち、対応するプローブ信号において遷移が発生するセクション)では、相対オフセットxでサンプルの直後に遷移が発生する確率は、受信信号が相対オフセットxを有する確率と等しい。したがって、そのサンプルがスキップされるかを決定するために、相対オフセットの確率を使用することができる。相対オフセットxの確率が特定の閾値より小さい場合、相対オフセットxに対応する計算はスキップされてもよい。
【0139】
遷移を有する可能性が低いセクションにおいてどのサンプルがスキップされ得るかを決定するために、他の確率が使用されてもよい。例えば、一実施形態では、確率P(n-1)とP(n)との平均を用いて、相対オフセットnにおいてサンプルがスキップされてもよいかどうかを決定することができる。
【0140】
【0141】
これは、nが相対オフセットxの探索範囲外にある場合、P(n)=0であるためである。平均確率P2(n)は、必要に応じて正規化されるべきである。スキップすることを決定する別の方法は、累積確率を使用することである。
【0142】
【0143】
この方式(「確率閾値方式」)では、値Pc0を選択することができ、Pc<Pc0または1-Pc<Pc0である場合、ある相対オフセットcにおいてサンプルをスキップすることができる。いくつかの実施形態では、例えば、Pc0が0.1~0.3の間の値を有するように選択することができる。あるいは、Pc0は、実証的に調整されてもよく、またはシミュレーションによって決定されてもよい。
【0144】
図11は、本発明に従い、確率閾値方式を用いて、相対オフセットxの確率分布が、単一T分類及びマスキング下のカテゴリ1セクション(すなわち、対応するプローブ信号に遷移が生じるセクション)に対して経時的にどのように展開するかを示す。
図11では、不変セクションのサンプルの蓄積はスキップされている。最初に、確率分布1101によって示されるように、相対オフセットxに対する確率分布は一様であると仮定される。相対オフセットxに対する確率分布は、確率分布(1101、1102、1103、1104、1105、1106、1107、及び1108)によって順に示されているように、経時的に発展する。各バー(例えば、バー1110)は、相対オフセット値(例えば、相対オフセット値1112)に対応する確率値を提供する。ライン1111は、閾値確率値を表す。相対オフセットxに対する確率が閾値確率値より小さい場合、その相対オフセットに対応するサンプルはスキップされる。
【0145】
新しいサンプルが取得され、アキュムレータA(k,m)に連続的に加算される。アキュムレータは、繰り返しの間リセットされない。相関は、確率分布を計算するために、2回の繰り返し(例えば、
図12に示される方法のステップ1201~ステップ1209の繰り返し)の間に計算される。いくつかの実施形態では、アキュムレータは、相関が計算される前に経過した時間に対して調整されてもよい(確率分布も同様に調整される)。
【0146】
確率分布1102は、復調された受信信号のいくつかのサンプルが取得され、処理された後に得られる。相対オフセット-3及び4の確率は、閾値1111より小さいことがわかる。したがって、相対オフセット-3及び4での復調信号のサンプルは、次の繰り返しでスキップされ、確率分布1103につながる。この時点で、相対オフセット-3、-2、3、及び4の確率は、確率閾値1111を下回り、したがって、これらの相対オフセットでのサンプルは、次の繰り返しでスキップされる。更に、相対オフセット-1及び2のサンプルは、確率分布1104及び確率分布1105に基づいて、後に続く繰り返しでスキップされる。
【0147】
この処理中、ある相対オフセットのサンプルはスキップされるが、探索範囲内のすべての相対オフセットの相関は、引き続き計算される。スキップされたサンプルは蓄積されず、これはゼロ信号値を有することと等しい。したがって、相対オフセットの確率は更に変化し得る(より大きくなることもあり得る)。例えば、相対オフセット-1に対応するサンプルは、確率分布1104が現れた直後には累積されないが、その次の確率分布(すなわち、確率分布1106)における相対オフセット-1の確率、つまり相対オフセット-1に対する確率は実際に増加した。確率分布1106が示された後の繰り返しでは、相対オフセット-1でのサンプルの蓄積が再開する。範囲内で相対オフセットのいくつかに対してサンプルが累積されたかどうかに関わらず、探索範囲内のすべて(または、少なくともいくつか)の相対オフセットに対する確率を記録することによって、得られる方法は統計的変動に対して堅牢である。
【0148】
確率分布1107における相対オフセット0に対して示されるように、しばしば、単一の相対オフセットが閾値1111を超えたまま残る。本発明の一実施形態では、サンプリング及び確率更新は、確率分布1107に続く1回以上の繰り返しの後に生じる確率分布1108によって示されるように、その事象後に実行され続ける。
【0149】
各確率分布(または他の統計的状態)が計算される前に蓄積されるサンプルの数は、固定される必要はない。ある時点で適切な値を選択することは、スキップされるべきサンプルの蓄積を回避することと、確率更新の計算を頻繁に回避し過ぎることとの間のトレードオフである。最適値は、全体的な計算量を最小化し、消費電力を削減する。
【0150】
サンプルスキップは、システム内のいくつかの異なる段階のうち任意の段階で実施されてもよい。例えば、一実施形態では、スキップされた信号サンプルは、アナログ‐デジタル変換器(ADC)に受信される。別の実施形態では、信号サンプルはADCに受信されるが、変換されたデジタルサンプルはメモリに保存されない。別の実施形態では、サンプルはメモリに保存されるが、アキュムレータには提供されない。
【0151】
信号サンプルは、システムによってバッファリングされてもよい。一実施形態では、各サンプルはADCに受信された直後に処理される。別の実施形態では、ADCにおけるデジタル化の後、サンプルを後に処理するためにメモリ内にバッファリングすることができる。
【0152】
サンプルスキップは、高確率で起こり得る信号のオフセット間の差別化に影響を及ぼす、確率分布に寄与する確率の低いサンプルの取得または使用を回避できるという原理に基づいている。この結果は、多くの点で異なる方法で達成することができる。いくつかの実施形態では、サンプリング周波数を調整することによって、同じ、または類似した結果を達成することができる。
1.より低い初期サンプリングレートでサンプルを取得する。
2.可能性のあるオフセットの確率分布を計算する。
3.あるオフセットの範囲が他のオフセットの範囲より著しく小さい確率を有する場合、それらの低確率のオフセットはスキップされるように印を付けられる。
4.残りのオフセット範囲(すなわち、スキップされないサンプルに対応するオフセットの範囲)が十分小さい(例えば、前の範囲の半分未満である)場合、サンプル周波数を増加させる(例えば、2倍)。
5.所望のオフセット分解(offset resolution)が達成されるまで、ステップ2~5を繰り返す。
【0153】
対応する相対オフセットでのサンプルに対するアキュムレータの値は、相対オフセットに対するより細かい推定、例えば、サンプリング時間より細かい分解を有する推定を提供するために使用されてもよい。
【0154】
一実施形態では、システムは、アキュムレータに追加されるサンプル数Ns(k,x)を記録し、kはカテゴリであり、xは相対オフセットである。相対オフセットは、m=x+M/2-1という関係式によってサンプルインデックスに変換する。(アキュムレータ値は、この関係式を使用してA(k,x)を参照することもできる。)
【0155】
相対オフセットのサブサンプル部分をxsと表す。相対オフセットxでサンプルの直後に遷移が発生するとき、すなわちxs=0のとき、アキュムレータの期待値(A(1,x)で表され、1は信号遷移を有するカテゴリを表す)は、
【0156】
【0157】
ここで、pyは復調信号の平均電力であり、SNRは復調信号の信号対雑音比である。サンプルの直前、すなわちxs≒-1で遷移が発生する場合、アキュムレータの期待累積値は
【0158】
【0159】
である。サンプルの部分相対オフセットxsは、ケース間を補間することによって計算できる。
【0160】
【0161】
数式48におけるA(1,x)は、復調された受信信号のサンプルの累積を表すことに留意されたい。したがって、A(1,x)はおそらく実数である。任意の虚数部分は、数式48において無視することができる。相対オフセットxaの全体的な測定値は、次の数式によって与えられる。
【0162】
【0163】
2つ以上の推定された相対オフセットが存在する場合、全体オフセットx ̄は、xa(x)の加重和によって推定することができる。
【0164】
【0165】
ここで、P(x)は相対オフセットxの確率である。いくつかの実施形態では、積算は探索範囲内のすべてのxにわたって行われる。他の実施形態では、積算は、確率閾値より大きい確率を有する相対オフセットのみにわたっていてもよい。数式50は、確率分布の期待値より良好なオフセットの推定値を提供する。しかし、確率が探索範囲にわたって広く分布している場合、数式50は有効でない可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、単純な期待値法がより適切であり得る。
【0166】
システムは、サンプルが取得され、処理される時間にわたって変化し得る。例えば、ユーザの場所が変化したり、ローカルクロックがドリフトしたり、または他の条件が変化することがある。いくつかの実施形態では、このような変更は重要であり得る。このような変更を処理する1つの方法は、相関値(すなわち、対数尤度)を時間と共に消失させるように時間経過に伴って確率分布を更新することである。
【0167】
【0168】
ここで、conv0(y,s,x)は初期時点での相関値であり、convt(y,s,x)は、間隔時間τ(すなわち、フェーディング時間)の後の相関値である。変数τは、測定対象のダイナミクスに依存する設計パラメータとしてみなすことができる。大まかに言えば、現在の時間の前に予め定められた時間τ以上取得されたサンプルは、現在の相関値に大きく寄与すべきではない。例えば、一実施形態では、約30m/秒の速さで動く物体に対し、変数τを1秒に設定することができる。変数τは実証的に調整されてもよく、またはシミュレーションによって決定されてもよい。
【0169】
新しいサンプルが取得されると、新しいサンプルを用いて計算された相関が、既存の相関値に追加されてもよい。したがって、累積値も消失する可能性がある。
【0170】
【0171】
正規化されていない対数尤度も同様に消失する可能性がある。
【0172】
【0173】
この詳細な説明で議論した多くの特定の実施形態は、表記の便宜のために選択される。同じ結果を達成するために多くの変形が使用され得るが、例えば、一実施形態では、以下の手順を使用することができる。
1.信号の遷移のまわりでサンプルを取得する。
2.信号遷移(すなわち、レベル+1からレベル-1、またはレベル-1からレベル+1)の方向に従って取得されたサンプルの符合を調整する。
3.最初にサンプルをグループ化することによって相関を計算する。
【0174】
この手順は、
図8に関連して上述したマスキング分類(k=1)の手順と同等である。
【0175】
本発明の異なる構成要素は、本発明の異なる実施形態で使用されるか、または使用されないように選択され得ることに留意されたい。例えば、一実施形態では、スキップ法のみを使用して合計の計算量を減らすように選択することができる。信号のジャンプに近いと予想されるサンプルを取得することができ、ジャンプから遠く離れていると予想されるサンプルをスキップすることができる。次に、これらの信号に基づいて相関を計算する従来の方法を使用することができる。その実施形態では、分類構成要素は使用されないが、スキップなしの方法と比較して、計算/電力の総量は減少する。
【0176】
図2の数値発振器、すなわちNCO203は、RFフロントエンドからのIFキャリア信号の位相φ及び周波数fの推定に基づいて操作することができる。NCO203の1つの実装は、同相信号及び直交信号の両方を提供することができる。
【0177】
【0178】
いくつかの実施形態では、正弦波信号及び余弦波信号ではなく、単に2値信号を使用することができる。
【0179】
【0180】
ここで、符号(・)は符号関数である。
【0181】
【0182】
不経済な浮動小数点計算を避けるために、角速度ω=2πfts及び位相Φの両方を整数として表すことができる。符号(cos(x))及び符号(sin(x))は、サンプルnにおける全位相を用いて計算することができ、これは、φn=φ+ωnによって与えられる。
【0183】
RFフロントエンド(例えば、
図1のRFフロントエンド102)は、受信信号から周波数変調の大部分を除去する。残りの周波数変調は、チャネル特有の復調器によって除去することができ、これは次の数式を用いて達成される。
【0184】
【0185】
ここで、Io(n)及びQo(n)は、アウトプットデータサンプルであり、かつIi(n)及びQi(n)はデータサンプルである。
【0186】
いくつかの実施形態では、周波数及び位相推定は、従来の周波数及び位相トラッキングループを用いて行うことができる。計算量及び消費電力を低減するために、以下の、または同様の方法が使用され得る。
【0187】
粗推定(すなわち信号取得)は、周波数変調の初期推定を提供する。最初に、NCO203の位相及び周波数は、ゼロまたは任意の他の都合の良い初期値に設定されてもよい。次に、信号取得計算のためにサンプルを取得することができる。信号取得後、NCO203の周波数及び位相は初期値に設定されてもよい。
【0188】
【0189】
ここで、f0は信号取得からの周波数推定である。次に、位相を推定するための1つの方法は、時間間隔Tcの間にいくつかのサンプルを取得し、信号取得ステップによって決定された探索範囲にわたる相関の数を計算することである。最大相関値Cmaxとの相関の位相φmは、時間間隔Tcの間の平均残存位相の推定を提供する。
【0190】
【0191】
本発明の好ましい実施形態では、Tcは以下の基準を用いて選択される。
1.Tcは、時間間隔中の位相変化δφが小さくなるように、十分短くなければならない。例えば、Tcのための1つの基準は、
【0192】
【0193】
ここで、δfは周波数分解能であり、δφ1は選択された位相誤差である。選択された時間間隔Tcにわたる受信信号の位相変化δφは、δφ1より小さくなる。いくつかの実施形態では、δφ1は、π/6とπ/2との間で選択することができる。
2.信頼性の高い位相測定を行うために十分なサンプルが取得されるように、Tcを十分大きく選択する必要がある。例えば、Tcのための1つの基準は、
【0194】
【0195】
いくつかの実施形態では、位相誤差δφ2は、π/6とπ/4との間で選択された値であってもよい。
【0196】
周波数は、時間間隔Tmで分離された2つの位相推定を実行することによって推定され得る。Tmはできるだけ長くなるように選択され得るが、位相スキップを避けるために、間隔中の位相変化が2π未満であるように十分短く保たれる。すなわち、
【0197】
【0198】
ここで、δfは位相測定前の周波数推定の精度である。すなわち、
【0199】
【0200】
いくつかの実施形態では、安全マージンが適用されてもよい(例えば、Tm=0.3/δf)。
【0201】
第1位相測定結果φm1及び第2位相測定結果φm2と、それらの精度(すなわち分解能)δφ1及びδφ2とを、それぞれ示す。測定された周波数は、次の数式によって得られる。
【0202】
【数70】
2回測定した後の周波数の精度、すなわちδfは、次の数式によって与えられる。
【0203】
【数71】
測定後、数値発振器の位相及び周波数は、以下の関係を用いて更新されてもよい。
【0204】
【数72】
ここで、それぞれ、φ
-及びf
-は、更新前のNCOの位相及び周波数であり、φ
+及びf
+は、更新後のNCOの位相及び周波数である。
【0205】
一実施形態では、この2ステップ位相‐周波数更新は、精オフセット推定を実行する前に毎回行われる。いくつかの他の実施形態では、この2ステップ位相‐周波数更新は、ある周波数精度レベルが達成されるまで、複数回再帰的に実行される。例えば、再帰的な更新は、δf<10Hzまで実行される。
【0206】
本発明の一実施形態では、カルマンフィルタを用いて、位相及び周波数を推定することができる。これは、2ステップ位相‐周波数法より堅牢かつ正確な方法であるが、より大きな計算(すなわち、より大きな電力)を必要とする。
【0207】
カルマンフィルタの状態変数は、位相及び周波数であってもよい。
【0208】
【0209】
状態更新行列Aは、以下のようにモデル化することができる。
【0210】
【0211】
プロセスノイズは、以下によってモデル化され得る。
【0212】
【0213】
ここで、wφ及びwfは、それぞれプロセス位相ノイズ及び周波数ノイズを示す。これらのノイズは、ローカルクロック発振器及びユーザの動きによって発生する。したがって、状態更新関数は以下のようになる。
【0214】
【0215】
wの分散は、発振器の仕様及びアプリケーションのダイナミクスによって決定され得る。一実施形態では、プロセスエラーの分散は、経過時間に比例するものとしてモデル化することができる。
【0216】
【0217】
ここで、それぞれ、Pφは位相ランダムウォークノイズの電力であり、Pfは周波数ランダムウォームノイズの電力である。位相ランダムウォークノイズ及び周波数ランダムウォークノイズの両方は、クロック位相または周波数ランダムウォークノイズと、受信機のランダム動作による位相または周波数ランダムウォークノイズとの組み合わせであってもよい。実際に、Pφ及びPfは、クロック仕様及び受信機のダイナミクスから推定することができる。これらのパラメータは、許容可能な性能に達するまで、実証的に、またはシミュレーションによって調整されてもよい。別の実施形態では、分散は、時間tmの関数として、ローカルクロックのアラン分散を測定し、受信機のダイナミクスを考慮することによって推定することができる。
プロセスエラー共分散行列は、以下の通りである。
【0218】
【0219】
残りの位相の推定値をφmとし、φmは、上記の数式61を用いて求めることができる。あるいは、残りの位相が小さく、ノイズレベルが高い場合は、次の数式を用いてφmを得ることができる。
【0220】
【0221】
ここで、imag(・)は、複素数の虚数部分を抽出する関数である。E[|Cmax|]は、Cmaxの大きさの期待値を示す。測定値Yは、次の数式によって与えられる。
【0222】
【0223】
ここで、uは測定ノイズを示し、Cはアウトプット行列を示す。
【0224】
【0225】
設計パラメータであるuの分散σu
2は、次の数式によって与えられる。
【0226】
【0227】
測定値y(n)は、次の数式を用いて計算される。
【0228】
【0229】
測定値の共分散は以下の通りである。
【0230】
【0231】
カルマンフィルタは、パラメータA、C、Σw、Σu、測定値y、及び測定時間に基づくXの推定値と、その共分散行列Σuとを維持する。カルマンフィルタの時間更新及び測定更新は、従来のカルマンフィルタ構成を用いて実行することができる。
1.時間更新:
【0232】
【0233】
2.測定更新:
【0234】
【数86】
ここで、X
n
-及びX
n
+は、測定更新の前後の状態変数を示し、
【0235】
【数87】
は、更新の前後の状態共分散行列を示す。数式83のy
n-CX=φ
mにも注意されたい。
カルマンフィルタの共分散行列Σ
Xは、測定間の時間間隔T
mを決定するために使用され得る周波数誤差の良好な推定値、すなわち精度δfを提供する。
【0236】
【0237】
【数89】
一実施形態では、位相ラッピングまたはスキップを避けるために安全率を0.3とし、位相精度を維持することができる。相関時間t
cの持続時間は、上述の2ステップ位相‐周波数法を用いて同様に決定することができる。
【0238】
本発明の一実施形態では、位相‐周波数カルマンフィルタの挙動は、オフセット測定の状態と結び付けられる。
1.相関結果の信号対雑音比SNRが、設計パラメータαc≡1である次の数式を満たすように、現在のSNRでの相関に必要なサンプル数を選択する。
【0239】
【数90】
設計パラメータα
cは、実証的に、またはシミュレーションによって選択することができる。例えば、一実施形態では、α
c=0.5である。
2.スキップされたサンプルの数を考慮して、相関時間t
cの間にN個のサンプルが取得されることが期待されるように、相関時間t
cを決定する。
【0240】
【数91】
ここで、M
sは、信号遷移を含む各セクション内(すなわち、各カテゴリ1セクション内)でスキップされるサンプルの数である。ファクタ2は、セクションの約半分が変化しないセクション(すなわち、カテゴリ0セクション)であるという事実に起因する。
3.相関時間を調整する。
次の相関時間t
cの間、次の数式を用いて位相誤差を計算する。
【0241】
【数92】
位相誤差δφが予め定められた閾値φ
αより大きい場合、相関時間が低減されることにより、位相誤差が減少する。
【0242】
【数93】
t
c0は、「位相安定」時間である。一実施形態では、φ
αをπ/4であるように選択することができる。t
c<t
c0である場合、t
c0をt
cとして使用してもよい。t
c0がある閾値より長い場合、位相‐周波数更新をスキップすることができる。例えば、予め定められた閾値は、α
tct
cであってもよく、α
tcは設計パラメータであり、典型的な値は2より大きい。
4.確率分布の事前推定に基づいてサンプルをスキップすべきかどうか、及び位相‐周波数更新が必要かどうかを決定する。位相更新が必要な場合、サンプルはスキップされない。
5.相関を計算し、SNR、オフセット測定値、及び位相‐周波数カルマンフィルタを更新する。
6.オフセットの精度が予め定められた値に達していない場合、ステップ2から繰り返す。それ以外の場合には、オフセットをアウトプットし、次のオフセット推定が必要な次の時間までシステムをスリープまたは待機モードに保つ。例えば、システムが1Hzのオフセットアウトプットレートを必要とする場合、要求された精度でオフセット推定値を得るために必要な時間を1秒から引いたものに等しいタイマー期間の間、システムはスリープモードに入ることができる。その所要時間は、最後のオフセット推定に要した時間に基づいて推定され得る。
7.スリープモードから「覚醒」した後、経過時間に従ってオフセット確率分布及びカルマンフィルタを更新する。その後、ステップ1から繰り返す。
【0243】
システムをスリープモードにすると、使用されるエネルギーが最小限に抑えられ、全体的なエネルギーコストが削減される。
【0244】
サンプルスキップを実現できるのは、上述のアキュムレータだけではない。例えば、サンプルがいずれの計算にも関係する必要が無い場合、サンプルはRFフロントエンドでスキップされ得る(例えば、アナログ‐デジタル変換のために選択されない)。あるいは、オフセット推定器においてサンプルがスキップされてもよい。
【0245】
マルチパスは、GPS受信機及び他の飛行時間測定システムの主要なエラー発生源である。マルチパスエラーは、遷移を有するセクション(すなわち、単一T分類及びマスキングが使用される場合のカテゴリ1セクション)のアキュムレータ結果を用いて検出することができる。一実施形態では、LOS(line-of-sight)経路である可能性が高い、最も早く到着した信号を見つけるために、隣接するサンプルAδ(x)間の累積値の差が使用されてもよい。
【0246】
【数94】
この点について、2つのアキュムレータに蓄積されたサンプルの総数N
s2(x)は有用なパラメータであり、次の数式によって与えられる。
【0247】
【数95】
任意の相対オフセットxについて次の不等式が満たされる場合、検出された信号を考慮することができる。
【0248】
【0249】
検出された信号のうち、最も早いオフセットを有する信号は、LOS信号とみなすことができる。αAは設計パラメータであり、一実施形態では、2~3の間の所与の値である。マルチパスエラーを回避するために、初期信号の測定に寄与するサンプルをスキップすることは避けなければならない。一実施形態では、次の場合にサンプルがスキップされる。
1.より大きい相対オフセットを有するすべてのサンプル(すなわち、後に到着するサンプル)がスキップされる。または、
2.サンプルが、数式92に基づいて検出される信号のオフセットより大きなオフセット(すなわち、後に到着するサンプル)を有する。
【0250】
位相測定は、物体の位置を推定するために使用され得る任意のキャリア‐位相法を用いて得ることができる。キャリア‐位相法は、例えば、GPS/GNSSの文献(例えば、Pratap Misra及びPer Engeによる「Global Position System:Signals,Measurement and Performance」(「Enge」)、及びその引用文献)に記載されている。
【0251】
マルチパス環境では、異なる時間に受信機に到達する信号の異なる構成要素は、異なる位相を有する。アキュムレータ値及び相関結果は、LOS信号の位相推定を改善するために使用することができる。一実施形態では、最短経路の信号(すなわち、LOS信号)のキャリア位相の良好な推定値であるため、最も早い到達信号の相関値の位相をキャリア位相として使用することができる。別の実施形態では、上述の最も早い到着信号を検出するために使用される方法と同様の方法を用いて、2番目に早い到着信号を検出することができる。2番目に早い到着信号が検出された場合、LOS信号のキャリア位相を計算するために、2番目に早い到着信号のオフセットより前またはそれに等しいオフセットに関連するアキュムレータ値を使用することができる。別の実施形態では、簡略化のため、LOS信号のキャリア位相を計算するために、最も早い到着信号のオフセットより前またはそれに等しいオフセットに関連するアキュムレータ値を使用することができる。
【0252】
上述の方法のいずれかを適用する際に、性能、電力消費、及び複雑さの間でトレードオフが生じ得る。いくつかの実施形態では、説明された技術のいくつかは使用されていないか、または与えられたアプリケーションに対して調整されてもよい。例えば、いくつかの実施形態ではオフセット測定のために確率分布が使用されるが、確率分布を直接行わない他の方法が存在する。例えば、一実施形態では、統計的状態S(x)のセットがシステムによって保持される。この実施形態では、オフセット測定は、以下によって達成される。
1.相対オフセットxの事前確率分布の対数尤度によってS(x)を初期化する。
【0253】
【0254】
2.サンプルを累積し、これらのサンプルを使用して相関を計算する。相対オフセットxの相関結果をCb(x)と表す。
3.関数C'b(x)を、相対オフセットに対する探索空間内のすべての相対オフセットxのC'b(x)の合計がゼロであるように構築する。すなわち、
【0255】
【0256】
ここで、Nxは探索空間上の推定オフセットの数である。
4.S(x)を、次の数式を用いて更新する。
【0257】
【0258】
ここで、S-(x)及びS+(x)は、更新前後の状態であり、αscは、例えば、一実施形態では0.3である値を有する設計パラメータである。
5.S(x)において正の項のみを維持する。
【0259】
【0260】
6.S(x)=0の場合、相対オフセットxでサンプルをスキップする。
7.相対オフセットxが1つだけ残るまで2~6を繰り返し、xが1つになった時点で、相対オフセットxをオフセット推定値として報告する。
【0261】
この方法では、統計的状態S(x)は、確率分布の指標を提供する。S(x)が小さい場合(例えば、S(x)=0)、相対オフセットxの対応する確率P(x)は小さく、したがって、対応するサンプルはスキップされてもよい。
【0262】
上記の詳細な説明は、本発明の特定の実施形態を図示するために提供され、限定することを意図するものではない。本発明の範囲内で多くの変形及び変更が可能である。本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されている。