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特許7481460プラズマによる処理の処理条件決定方法および処理条件決定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】プラズマによる処理の処理条件決定方法および処理条件決定装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/26 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
H05H1/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022543845
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2020031145
(87)【国際公開番号】W WO2022038679
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】神藤 高広
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-147140(JP,A)
【文献】特開2008-91641(JP,A)
【文献】特開2010-141193(JP,A)
【文献】特開2015-165580(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
B08B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドが対象物に対して所定の目標距離を保ったまま所定の目標速度で移動すると共に前記ヘッドから前記対象物の表面にプラズマを照射する照射工程と、
前記照射工程を実行した後の前記対象物の表面状態を測定する測定工程と、
前記照射工程と前記測定工程とを繰り返し実行し、前記対象物の表面状態が飽和するまでに要した前記照射工程の実行回数に基づいて前記照射工程の1回の実行で前記対象物の表面状態が飽和するのに必要な必要速度を算出する算出工程と、
前記必要速度を前記ヘッドの処理速度に決定する決定工程と、
を含むプラズマによる処理の処理条件決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマによる処理の処理条件決定方法であって、
前記算出工程は、前記目標速度を前記実行回数で除した値に基づいて前記必要速度を算出する、
プラズマによる処理の処理条件決定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラズマによる処理の処理条件決定方法であって、
前記測定工程は、前記対象物の表面状態として、前記対象物の表面における水接触角を測定する、
プラズマによる処理の処理条件決定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載のプラズマによる処理の処理条件決定方法であって、
前記決定工程は、前記対象物の融点に基づいて前記目標距離を決定する、
プラズマによる処理の処理条件決定方法。
【請求項5】
請求項1ないし3いずれか1項に記載のプラズマによる処理の処理条件決定方法であって、
前記決定工程は、前記必要速度が下限速度よりも低い場合、前記下限速度を前記ヘッドの目標速度に決定し、前記下限速度で前記照射工程を実行した場合に前記測定工程で測定される前記対象物の表面状態が飽和するのに必要な必要距離を導出し、該導出した必要距離を前記目標距離に決定する、
プラズマによる処理の処理条件決定方法。
【請求項6】
ヘッドが対象物に対して所定の目標距離を保ったまま所定の目標速度で移動すると共に前記ヘッドから前記対象物の表面にプラズマを照射する照射部と、
前記照射部による照射を実行した後の前記対象物の表面状態を測定する測定部と、
前記照射部による照射と前記測定部による測定とを繰り返し実行し、前記対象物の表面状態が飽和するまでに要した前記プラズマによる処理の実行回数に基づいて前記プラズマによる処理の1回の実行で前記対象物の表面状態が飽和するのに必要な必要速度を算出する算出部と、
前記必要速度を前記ヘッドの処理速度に決定する決定部と、
を含む処理条件決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、プラズマによる処理の処理条件決定方法および処理条件決定装置について開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ処理中のプロセス量をモニタするセンサからのモニタ出力および予め設定した処理結果の予測式をもとに処理結果を推定する処理結果推定モデルと、推定結果をもとに加工結果が目標値となるように処理条件の補正量を計算する最適レシピ計算モデルと、を備えるシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、最適レシピ計算モデルが生成したレシピ(処理条件)をもとにプラズマ処理を制御することにより、外乱による影響を抑制することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-33228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、プラズマによる処理にあたって対象物の表面改質に適した処理条件を決定することは、歩留まりの悪化を回避したり生産性の向上を図ったりする上で、重要な課題として認識される。例えばヘッドの移動速度は、プラズマによる処理の処理速度を左右する最も重要な処理条件であり、特別な装置を用いることなく、簡易な方法で最適な速度を決定することが望ましい。
【0005】
本開示は、より簡易な方法により対象物の表面改質に適した処理条件を決定することができるプラズマによる処理の処理条件決定方法または処理条件決定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示のプラズマによる処理の処理条件決定方法は、
ヘッドが対象物に対して所定の目標距離を保ったまま所定の目標速度で移動すると共に前記ヘッドから前記対象物の表面にプラズマを照射する照射工程と、
前記照射工程を実行した後の前記対象物の表面状態を測定する測定工程と、
前記照射工程と前記測定工程とを繰り返し実行し、前記対象物の表面状態が飽和するまでに要した前記照射工程の実行回数に基づいて前記照射工程の1回の実行で前記対象物の表面状態が飽和するのに必要な必要速度を算出する算出工程と、
前記必要速度を前記ヘッドの処理速度に決定する決定工程と、
を含むことを要旨とする。
【0008】
この本開示のプラズマによる処理の処理条件決定方法では、対象物に対して照射工程と測定工程とを繰り返し実行する。続いて、対象物の表面状態が飽和するまでに要した照射工程の実行回数に基づいて照射工程の1回の実行で対象物の表面状態が飽和するのに必要な必要速度を算出する。そして、必要速度をヘッドの処理速度に決定する。これにより、より簡易な手法により対象物の表面改質に適した処理条件を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】プラズマ処理装置の概略構成図である。
図2】プラズマ処理装置の概略構成図である。
図3】処理条件決定装置の概略構成図である。
図4】プラズマ処理に用いられるパラメータの一覧を示す説明図である。
図5】実行ヘッド速度決定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】プラズマ処理の繰り返し数と処理面の水接触角との関係を示す説明図である。
図7】実行ヘッド距離決定処理の一例を示すフローチャートである。
図8】ヘッド距離と処理面の水接触角との関係を示す説明図である。
図9】他の実施形態に係るプラズマ処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1および図2は、プラズマ処理装置10の概略構成図である。図3は、プラズマによる処理の処理条件決定装置50の概略構成図である。プラズマ処理装置10は、ワークWに対してプラズマを照射してワークWの表面改質を行なうものである。ワークWは、例えば、基板である。基板には、接着剤が塗布された後、部品が実装される。プラズマ処理装置10は、基板にプラズマ処理を施すことで基板表面の濡れ性(接着剤の接着強度)を改善する。
【0012】
プラズマ処理装置10は、図1,2に示すように、ヘッド20と、ヘッド20を移動させるヘッド移動装置31(図2参照)と、ヘッド20を昇降させるヘッド昇降装置32と、装置全体を制御する制御装置40(図2参照)と、を備える。
【0013】
ヘッド20は、一対の電極と、反応室内に突出するように一対の電極を保持する保持部材と、反応室と連通する噴出口を有するノズル21と、を備える。ヘッド20は、一対の電極に電圧を作用させると共に反応室に処理ガスを通してノズル21から噴出させることにより、プラズマ化させた処理ガス(プラズマガス)をワークWの表面に吹き付ける。ヘッド移動装置31は、例えばボールねじ機構により構成され、ヘッド20をワークWの表面に平行な方向に移動させる。ヘッド昇降装置32は、例えばボールねじ機構により構成され、ヘッド20をワークWの表面に垂直な方向に昇降することでノズル21の噴出口(先端部)とワークWの表面(上面)と距離を調整する。
【0014】
制御装置40は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他にROM,RAM、入出力インタフェース、通信インタフェースなどを備える。制御装置40には、ヘッド20の位置を検出する位置センサからの信号などが入出力インタフェースを介して入力される。制御装置40からは、ヘッド20への制御信号やヘッド移動装置31への制御信号、ヘッド昇降装置32への制御信号などが入出力インタフェースを介して出力される。また、制御装置40は、通信インタフェースを介して本実施形態の処理条件決定装置50と通信している。制御装置40は、処理条件決定装置50から送信される処理条件に従ってヘッド20やヘッド移動装置31、ヘッド昇降装置32を制御することによりワークWに対してプラズマ処理を施す。
【0015】
本実施形態の処理条件決定装置50は、プラズマ処理の処理条件を決定するものであり、CPU,ROM,RAM,ハードディスクやフラッシュメモリドライブ(SSD)などの外部記憶装置、各種インタフェースを有する汎用のコンピュータを用いて構成される。処理条件決定装置50には、液晶ディスプレイなどの表示装置57や、キーボードやマウスなどの入力装置58が接続される。更に、処理条件決定装置50には、プラズマ処理が施されたワークWの処理面の水接触角θを測定する水接触角測定装置60も接続される。処理条件決定装置50は、機能ブロックとしては、図3に示すように、プラズマ処理の処理条件を決定する処理部51と、処理条件の決定に必要な各種パラメータを入力する入力部52と、各種情報を記憶する記憶部53と、を備える。各機能ブロックは、コンピュータのCPU,ROM,RAM,外部記憶装置および各種インタフェースなどのハードウエアと、インストールされたプログラムを含むソフトウエアとが一体となって機能する。
【0016】
入力部52には、処理条件の決定に必要な各種パラメータが入力される。各種パラメータには、本実施形態では、「接着強度」,「水接触角」,「表面自由エネルギ」,「サチュレート接触角」,「照射回数」,「ヒータON/OFF」,「ノズルの種類」,「接着剤の種類」,「ワークの母材」,「ワークの添加物」,「ワークの融点」,「ワークの厚み」,「雰囲気温度」,「雰囲気湿度」,「供給ガス温度」,「周囲の気体流れ」,「周囲の気体風量」,「電極の長さ」,「内部ノズルの使用時間」、「要求処理速度」などが含まれる。「水接触角」,「表面自由エネルギ」は、ワーク表面の濡れ性の指標である。「サチュレート接触角」は、水接触角の最小値を示す。「照射回数」は、プラズマの照射回数を示す。「ヒータON/OFF」は、処理部分の保護に用いられるシールドガスの加熱の有無を示す。「ノズルの種類」は、ヘッド20に使用されるノズル21の種類を示す。「接着剤の種類」は、ワークW(基板)にプラズマ処理を施した後にワークWに塗布する接着剤の種類を示す。「ワークの母材」は、アルミニウムやポリプロピレンなどの母材を示す。「ワークの添加物」は、ガラス繊維やゴムなどの材質を示す。「雰囲気温度」は、プラズマ処理時のワーク周囲の温度を示す。「雰囲気湿度」は、プラズマ処理時のワーク周囲の湿度を示す。「供給ガス温度」は、プラズマ処理装置10に供給する処理ガスの温度を示す。「周囲の気体流れ」は、プラズマ処理時のワーク周囲の気体の方向を示す。「周囲の気体風量」は、プラズマ処理時のワーク周囲の気体の風量を示す。「電極の長さ」は、装置内部の電極の長さを示す。「内部ノズルの使用時間」は、装置の内部ノズルの使用時間を示す。「要求処理速度」は、ユーザが要求するヘッドの処理速度、すなわちワークの下限速度Vminを示す。なお、上述したパラメータは、一例であり、用いるプラズマ処理装置10や施すプラズマ処理の種類によって適宜定めることができる。
【0017】
処理条件決定装置50の処理部51は、プラズマ処理の処理条件として、ヘッド20のX軸方向における移動速度の目標値である目標ヘッド速度Vtagとヘッド距離Lの目標値である目標ヘッド距離Ltagとを設定し、設定した目標ヘッド速度Vtagや目標ヘッド距離Ltagをプラズマ処理装置10の制御装置40に送信する。制御装置40は、目標ヘッド距離Ltagを保ちつつ目標ヘッド速度Vtagでヘッド20が移動するようにヘッド移動装置31とヘッド昇降装置32とを制御すると共に、ノズル21からプラズマが照射されるようヘッド20を制御することによりワークWに対してプラズマ処理を施す。
【0018】
次に、目標ヘッド速度Vtagおよび目標ヘッド距離Ltagのそれぞれの最適値(実行ヘッド速度Vおよび実行ヘッド距離L)を決定するための手順について説明する。
【0019】
図5は、処理部51により実行される実行ヘッド速度決定処理の一例を示すフローチャートである。実行ヘッド速度決定処理では、処理部51は、まず、入力部52により入力されたワークWの材料の融点や供給ガス温度、雰囲気温度等に基づいて目標ヘッド距離Ltagを設定する(ステップS100)。本実施形態では、目標ヘッド距離Ltagには、プラズマを照射し続けてもワークWが溶融しない範囲で最短のヘッド距離Lminが設定される。続いて、処理部51は、目標ヘッド速度Vtagに予め定められた規定速度Vsetを設定する(ステップS110)。ここで、規定速度Vsetは、例えば、ヘッド移動装置31の最高速度付近の速度に定められる。
【0020】
次に、処理部51は、繰り返し数nを値1に設定し(ステップS120)、目標ヘッド距離Ltagと目標ヘッド速度Vtagとを含む指令信号を制御装置40に送信する(ステップS130)。指令信号を受信した制御装置40は、目標ヘッド距離Ltagを保って目標ヘッド速度Vtagでヘッド20が移動するようにヘッド移動装置31とヘッド昇降装置32とを制御すると共にワークWの表面にプラズマが照射されるようヘッド20を制御する(照射工程)。そして、処理部51は、プラズマ処理を施した後のワークWの処理面に対する水接触角θを取得する(ステップS140)。水接触角θの測定は、例えば、水接触角測定装置60により、ワークWの処理面に水滴を滴下し、滴下した水滴を側面から撮影し、得られた画像を処理して水接触角θを測定することにより行われる(測定工程)。
【0021】
次に、処理部51は、繰り返し数nが値2以上であるか否かを判定する(ステップS150)。繰り返し数が値2未満、すなわち値1であると判定すると、繰り返し数nを値1だけインクリメントして(ステップS160)、ステップS130に戻り、プラズマが照射されたワークWの処理面に対して重ねてプラズマが照射されるようにプラズマ処理を繰り返し、処理面の水接触角θを取得する(ステップS140)。
【0022】
処理部51は、ステップS150において繰り返し数nが値2以上であると判定すると、前回取得した水接触角(前回θ)から今回取得した水接触角θを減じて水接触角変化量Δθを計算する(ステップS170)。そして、処理部51は、水接触角変化量Δθが値0近傍の値であるか否かを判定する(ステップS180)。この判定は、ワークWの処理面に対してプラズマ処理を繰り返した結果、水接触角θがサチュレート接触角θthに達したか否かを判定する処理である。処理部51は、水接触角変化量Δθが値0近傍の値でないと判定すると、水接触角θがサチュレート接触角θthに達していないと判断し、繰り返し数nを値1だけインクリメントして(ステップS160)、ステップS130,S140の処理を繰り返す。
【0023】
一方、処理部51は、水接触角変化量Δθが値0近傍の値であると判定すると、繰り返し数nから値1を減じたもので規定速度Vset(目標ヘッド速度Vtag)を除した値を必要速度Vreqに設定する(ステップS190)。ここで、必要速度Vreqは、1回のプラズマ処理(照射工程)の実行でワークWの処理面の表面状態(水接触角θ)が飽和する(サチュレート接触角θthに達する)のに必要なヘッド20の移動速度である。図6は、プラズマ処理の繰り返し数と処理面の水接触角との関係を示す説明図である。図示するように、高速の目標ヘッド速度Vtag(規定速度Vset)でヘッド20を移動させてプラズマ処理を実行する場合において、プラズマ処理の繰り返し数nが5回目のときに水接触角変化量Δθが値0近傍の値(水接触角θの傾きが略値0)となり、その1回前の4回目でサチュレート接触角θthに到達したことがわかる。したがって、規定速度Vsetをサチュレート接触角θthへの到達に要した値4を除して得られる必要速度Vreq(=Vset/(n-1))でヘッド20を移動させることで1回のプラズマ処理でサチュレート接触角θthまでワークWの表面改質することが可能となる。これにより、簡易な手法によりプラズマ処理の処理速度を最適化することができる。
【0024】
処理部51は、こうして必要速度Vreqを設定すると、必要速度Vreqが下限速度Vmin以上であるか否かを判定する(ステップS200)。ここで、下限速度Vminは、生産タクト等からユーザにより要請される処理速度の下限値である。処理部51は、必要速度Vreqが下限速度Vmin以上であると判定すると、実行ヘッド速度Vに必要速度Vreqを設定して(ステップS210)、実行ヘッド速度決定処理を終了する。一方、処理部51は、必要速度Vreqが下限速度Vmin以上でなく下限速度Vmin未満であると判定すると、実行ヘッド速度Vに下限速度Vminを設定して(ステップS220)、実行ヘッド速度決定処理を終了する。
【0025】
図7は、実行ヘッド距離決定処理の一例を示すフローチャートである。実行ヘッド距離決定処理は、実行ヘッド速度決定処理の実行後に実行される。実行ヘッド距離決定処理では、処理部51は、実行ヘッド速度決定処理で設定した必要速度Vreqが下限速度Vmin未満であるか否かを判定する(ステップS300)。処理部51は、必要速度Vreqが下限速度Vmin未満でなく下限速度Vmin以上であると判定すると、実行ヘッド距離Lに実行ヘッド速度決定処理のステップS100で設定した最短のヘッド距離Lminを設定して(ステップS310)、実行ヘッド距離決定処理を終了する。
【0026】
一方、処理部51は、必要速度Vreqが下限速度Vmin未満であると判定すると、目標ヘッド速度Vtagに下限速度Vminを設定すると共に(ステップS320)、目標ヘッド距離Ltagに、例えば実行ヘッド速度決定処理のステップS100で用いられたヘッド距離Lminを設定する(ステップS330)。続いて、処理部51は、目標ヘッド距離Ltagと目標ヘッド速度Vtagとを含む指令信号を制御装置40に送信して新たなワークWの処理面にプラズマを照射させる(ステップS340)。そして、処理部51は、プラズマ処理を施した後のワークWの処理面に対する水接触角θを水接触角測定装置60から取得する(ステップS350)。
【0027】
処理部51は、水接触角θを取得すると、取得した水接触角θがサチュレート接触角θth近傍の角であるか否かを判定する(ステップS360)。サチュレート接触角θthは、例えば、上述した実行ヘッド速度決定処理において、ステップS180で肯定的な判定がなされたときにステップS140で取得された水接触角である。処理部51は、水接触角θがサチュレート接触角θth近傍の角でないと判定すると、現在の目標ヘッド距離Ltagから所定量ΔLを減じたものを新たな目標ヘッド距離Ltagに設定して(ステップS370)、ステップS340に戻り、新たなワークWに対して目標ヘッド距離Ltagと目標ヘッド速度Vtag(=Vmin)でプラズマ処理を施し、プラズマ処理を施した後のワークWの処理面の水接触角θを取得する(ステップS350)。
【0028】
処理部51は、こうしてステップS360で水接触角θがサチュレート接触角θth近傍の角となるまで目標ヘッド距離Ltagを少しずつ短くしながらその都度、新たなワークWに対してプラズマ処理を施す。そして、処理部51は、水接触角θがサチュレート接触角θth近傍の角度に達したと判定すると、実行ヘッド距離Lに現在設定されている目標ヘッド距離Ltagを設定して(ステップS380)、実行ヘッド距離決定処理を終了する。図8は、ヘッド距離と処理面の水接触角との関係を示す説明図である。必要速度Vreqが下限速度Vmin未満である場合、目標ヘッド速度Vtagは下限速度Vminに決定される。この場合、実行ヘッド距離Ltagに上述した最短ヘッド距離Lminが決定されると、1回のプラズマ処理でワークWの処理面をサチュレート接触角θthまで表面改質することができない。そこで、本実施形態では、目標ヘッド速度Vtagを下限速度Vminに決定した上で目標ヘッド距離Ltagを段階的に短くしながら都度、新たなワークWに対してプラズマ処理を施して当該ワークWの処理面の水接触角θを測定することで、下限速度Vminで1回のプラズマ処理でワークWの表面改質を完了できる最適なヘッド距離を求めるものとした。これにより、ユーザが要求するヘッド20の処理速度に対応することができる。
【0029】
ここで、実施形態の主要な要素と請求の範囲に記載した本開示の主要な要素との対応関係について説明する。即ち、本実施形態のヘッド20がヘッドに相当し、ワークWが対象物に相当する。また、プラズマ処理装置10が照射工程を実行する照射部に相当し、水接触角測定装置60が測定工程を実行する測定部に相当し、実行ヘッド速度決定処理のステップS150~S190の処理を実行する処理部51が算出部に相当し、実行ヘッド速度決定処理のステップS210の処理を実行する処理部51が決定部に相当する。
【0030】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上述した実施形態では、本実施形態のプラズマ処理装置10は、ヘッド20を水平方向に移動させるヘッド移動装置31と、ヘッド20を昇降させるヘッド昇降装置32と、を備えるものとした。しかし、他の実施形態に係るプラズマ処理装置110は、ヘッド20を3次元空間内で移動させる多関節ロボットを備える。図9は、他の実施形態に係るプラズマ処理装置の概略構成図である。他の実施形態のプラズマ処理装置110の多関節ロボットは、図示するように、ベースBと、ベースBに対して直列に連結された第1~第4リンクL1~L4と、各リンク間を連結する第1~第5関節軸J1~J5と、先端リンク(第4リンクL4)に連結されたヘッド20と、を備える垂直多関節ロボットとして構成される。これにより、ワークWの処理面が曲面であっても、ヘッド距離Lを保ってヘッド20を移動させながらワークWにプラズマを照射することができる。なお、多関節ロボットは、垂直多関節ロボットに限られず、水平多関節ロボットなど如何なるタイプのロボットであってもよい。
【0032】
本開示のプラズマによる処理の処理条件決定方法では、前記算出工程は、前記目標速度を前記実行回数で除した値に基づいて前記必要速度を算出するものとしてもよい。こうすれば、必要速度をより簡易な計算により求めることができる。
【0033】
また、本開示のプラズマによる処理の処理条件決定方法では、前記測定工程は、前記対象物の表面状態として、前記対象物の表面における水接触角を測定するものとしてもよい。こうすれば、対象物の表面状態をより良好に測定することができる。
【0034】
さらに、本開示のプラズマによる処理の処理条件決定方法では、前記決定工程は、前記対象物の融点に基づいて前記目標距離を決定するものとしてもよい。こうすれば、プラズマの照射でワークに不具合を与えないように適正な距離をヘッドの目標距離に決定することができる。
【0035】
あるいは、本開示のプラズマによる処理の処理条件決定方法では、前記決定工程は、前記必要速度が下限速度よりも低い場合、前記下限速度を前記ヘッドの目標速度に決定し、前記下限速度で前記照射工程を実行した場合に前記測定工程で測定される前記対象物の表面状態が飽和するのに必要な必要距離を導出し、該導出した必要距離を前記目標距離に決定するものとしてもよい。こうすれば、ヘッドの速度を下げられない場合でも、ヘッドの距離を最適化することで、1回のプラズマ処理で対象物の表面改質を良好に行なうことができる。
【0036】
上述した実施形態では、本開示は処理条件決定方法の形態としたが、処理条件決定装置の形態としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本開示は、プラズマ処理装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10,110 プラズマ処理装置、20 ヘッド、21 ノズル、31 ヘッド移動装置、32 ヘッド昇降装置、40 制御装置、50 処理条件決定装置、51 処理部、52 入力部、53 記憶部、57 表示装置、58 入力装置、60 水接触角測定装置、B ベース、J1~J5 第1~第5関節軸、L1~L4 第1~第4リンク、W ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9