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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】寿命予測装置および工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/36 20060101AFI20240501BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20240501BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240501BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B23H7/36 Z
B23H7/02 A
B23H7/02 R
B23Q17/00 A
B23Q11/10 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022552008
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2021034671
(87)【国際公開番号】W WO2022065326
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020162035
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】大久保 晃佑
(72)【発明者】
【氏名】山岡 正英
(72)【発明者】
【氏名】山口 巡
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0266935(US,A1)
【文献】特開2002-283146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02、 7/36
B23Q 11/10、17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械で用いられる液体を濾過するフィルタの寿命を予測する寿命予測装置であって、
圧力センサから出力される信号に基づいて、前記フィルタに加わる前記液体の圧力値を時系列で取得する圧力取得部と、
前記工作機械の稼働状態を示す情報に基づいて、予め定められた規定加工の加工時間を取得する時間取得部と、
時系列で取得された前記圧力値に基づいて、前記加工時間における圧力変化量を算出する算出部と、
前記規定加工が終了した時点における前記圧力値と、前記加工時間と、前記圧力変化量とを用いて、前記フィルタに加わる前記液体の圧力の上限値に達するまでの寿命期間を予測する予測部と、
を備え
前記予測部は、前記上限値から、前記規定加工が終了した時点における前記圧力値を減算し、減算結果に対して前記加工時間を乗算した値を前記圧力変化量で除算することで前記寿命期間を予測す寿命予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の寿命予測装置であって、
前記予測部は、前記規定加工が繰り返されるたびに、前記寿命期間を予測する、寿命予測装置。
【請求項3】
工作機械で用いられる液体を濾過するフィルタの寿命を予測する寿命予測装置であって、
圧力センサから出力される信号に基づいて、前記フィルタに加わる前記液体の圧力値を時系列で取得する圧力取得部と、
前記工作機械の稼働状態を示す情報に基づいて、予め定められた規定加工の加工時間を取得する時間取得部と、
時系列で取得された前記圧力値に基づいて、前記加工時間における圧力変化量を算出する算出部と、
前記規定加工が終了した時点における前記圧力値と、前記加工時間と、前記圧力変化量とを用いて、前記フィルタに加わる前記液体の圧力の上限値に達するまでの寿命期間を予測する予測部と、
を備え、
前記予測部は、前記規定加工が繰り返されるたびに、前記寿命期間を予測し、
前記予測部は、前回の前記圧力変化量に対する今回の前記圧力変化量の差が規定値以上であった場合には、前記寿命期間を予測し直し、前記差が前記規定値未満であった場合には、前回予測した前記寿命期間を今回予測した前記寿命期間とする、寿命予測装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の寿命予測装置であって、
予測された前記寿命期間が規定期間未満であった場合に警告する警告部を備える、寿命予測装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の寿命予測装置であって、
前記規定加工は、1つの加工対象物の加工を開始してから終了するまでを単位とする1つの加工サイクルの加工である、寿命予測装置。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の寿命予測装置であって、
前記規定加工は、1つの加工対象物に対して繰り返し実行される同一形状の加工である、寿命予測装置。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の寿命予測装置であって、
前記規定加工は、荒加工または仕上げ加工である、寿命予測装置。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の寿命予測装置と、前記液体を用いて加工対象物を加工する加工機本体と、前記フィルタを有する液体処理装置と、を備える工作機械。
【請求項9】
請求項に記載の工作機械であって、
前記加工機本体は、加工槽に貯められた加工液中で電極と前記加工対象物との極間に電圧を印加して放電加工するものであり、
前記フィルタは、前記放電加工により前記加工槽に貯められた前記加工液中に存在するスラッジを除去するものである、工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寿命予測装置および工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械として、例えば、加工槽に貯められた加工液中で電極と加工対象物との極間に電圧を印加して放電加工する放電加工機がある。放電加工機では、放電加工により生じたスラッジが加工液中に生じる。このため、フィルタを用いて加工液中のスラッジを除去する処理が実行される。
【0003】
フィルタにスラッジが蓄積すると、フィルタの濾過能力が低下する、あるいは、フィルタに加わる加工液圧が上昇してフィルタが破損する等といった事態が生じ得る。このため、このような事態が生じる前に、フィルタを交換する必要がある。
【0004】
特開2016-74057号公報では、フィルタが寿命に達するまでの日時を演算するワイヤ放電加工機が開示されている。この演算には、加工条件、加工材質、加工板厚、ワイヤ線径、ワイヤ材質および加工液質の各パラメータに対応したフィルタの水圧変動量が用いられている。さらに、この演算には、センサで検出される現在の水圧と、水圧の上限値とが用いられている。
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記の加工条件等のパラメータは、加工対象物を加工するときの形状、寸法等に応じた値に設定される。このため、特開2016-74057号公報では、加工対象物を加工するときの形状、寸法等が変わるたびに、上記の加工条件等のパラメータを設定し直す必要がある。この場合には、煩雑になる傾向がある。一方、加工対象物を加工するときの形状、寸法等に応じた値にパラメータを設定しなかった場合には、真値に対する予測誤差が大きくなる傾向がある。
【0006】
そこで、本発明は、真値に対する予測誤差を抑制しつつも、簡易にフィルタの寿命を予測し得る寿命予測装置および工作機械を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の態様は、工作機械で用いられる液体を濾過するフィルタの寿命を予測する寿命予測装置であって、
圧力センサから出力される信号に基づいて、前記フィルタに加わる前記液体の圧力値を時系列で取得する圧力取得部と、
前記工作機械の稼働状態を示す情報に基づいて、予め定められた規定加工の加工時間を取得する時間取得部と、
時系列で取得された前記圧力値に基づいて、前記加工時間における圧力変化量を算出する算出部と、
前記規定加工が終了した時点における前記圧力値と、前記加工時間と、前記圧力変化量とを用いて、前記フィルタに加わる前記液体の圧力の上限値に達するまでの寿命期間を予測する予測部と、
を備える。
【0008】
本発明の他の態様は、工作機械であって、上記の寿命予測装置と、前記液体を用いて加工対象物を加工する加工機本体と、前記フィルタを有する液体処理装置と、を備える。
【0009】
本発明の態様によれば、実際に工作機械が稼働しているときの稼働時間と、フィルタに加わる液体の圧力とを反映したフィルタの寿命を予測することができる。このため、加工条件等のパラメータの設定の有無にかかわらず、また工作機械の機種にかかわらず、予測したフィルタの寿命を真値に近づけることができる。この結果、真値に対する予測誤差を抑制しつつも、簡易にフィルタの寿命を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の工作機械の概略構成図である。
図2図2は、液体処理装置および加工槽を含む工作機械の一部の構成を示す図である。
図3図3は、制御装置を示すブロック図である。
図4図4は、寿命期間の予測を説明するためのグラフである。
図5図5は、変形例1の制御装置を示すブロック図である。
図6図6は、加工対象物の加工の様子を示す概念図である。
図7図7は、変形例2の寿命期間の予測を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、工作機械10の概略構成図である。工作機械10は、加工液中で、ワイヤ電極12と図示しない加工対象物(被加工物)との間に発生する放電によって加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機である。ワイヤ電極12の材質は、例えば、タングステン系、銅合金系、黄銅系等の金属材料である。一方、加工対象物の材質は、例えば、鉄系材料または超硬材料等の金属材料である。
【0012】
工作機械10は、加工機本体14、および、液体処理装置16を主に備える。加工機本体14は、供給系統20aと、回収系統20bとを備える。供給系統20aは、加工対象物に向けてワイヤ電極12を供給する。回収系統20bは、加工対象物からワイヤ電極12を回収する。
【0013】
供給系統20aは、ワイヤボビン22と、トルクモータ24と、ブレーキシュー26と、ブレーキモータ28と、張力検出部30と、上ワイヤガイド32とを備える。ワイヤボビン22にはワイヤ電極12が巻かれる。トルクモータ24は、ワイヤボビン22にトルクを付与する。ブレーキシュー26は、ワイヤ電極12に摩擦による制動力を付与する。ブレーキモータ28は、ブレーキシュー26にブレーキトルクを付与する。張力検出部30は、ワイヤ電極12の張力の大きさを検出する。上ワイヤガイド32は、ワイヤ電極12をガイドする。
【0014】
回収系統20bは、下ワイヤガイド34と、ピンチローラ36およびフィードローラ38と、ワイヤ回収箱40とを備える。下ワイヤガイド34は、ワイヤ電極12をガイドする。ピンチローラ36およびフィードローラ38は、ワイヤ電極12を挟持する。ワイヤ回収箱40は、ピンチローラ36およびフィードローラ38により搬送されたワイヤ電極12を回収する。
【0015】
加工機本体14は、放電加工の際に使用される脱イオン水の加工液を貯留可能な加工槽42を備える。加工槽42内には、上ワイヤガイド32および下ワイヤガイド34が配置される。加工槽42は、ベース部44上に載置される。加工対象物は、上ワイヤガイド32と下ワイヤガイド34との間に設けられる。上ワイヤガイド32は、ワイヤ電極12を支持するダイスガイド32aを有する。下ワイヤガイド34は、ワイヤ電極12を支持するダイスガイド34aを有する。また、下ワイヤガイド34は、ワイヤ電極12の向きを変えながらピンチローラ36およびフィードローラ38にワイヤ電極12を案内するガイドローラ34bを備える。
【0016】
加工対象物は、ベース部44に設けられた図示しないテーブルによって支持される。テーブルは、加工槽42内に配置されている。加工機本体14は、テーブルの位置と、ダイスガイド32a、34aにより支持されたワイヤ電極12の位置とを相対的に移動させながら、加工槽42に貯められた加工液中でワイヤ電極12と加工対象物との間に放電を発生させる。
【0017】
液体処理装置16は、加工槽42に発生したスラッジ(加工屑)を加工液から除去し、スラッジを除去した加工液を加工槽42に戻す。制御装置18は、加工機本体14および液体処理装置16を制御する。
【0018】
図2は、液体処理装置16および加工槽42を含む工作機械10の一部の構成を示す図である。液体処理装置16は、汚水槽50、フィルタ52、および、清水槽54を少なくとも備える。汚水槽50は、加工槽42から排出管56を通って排出された加工液を一時的に貯留する。排出管56は、加工槽42から汚水槽50へ加工液を流す配管である。この排出管56にはバルブV1が設けられる。バルブV1は、図示しないアクチュエータによって開閉する。
【0019】
加工槽42の加工液には、放電加工によって発生したスラッジが混ざっている。このため、加工槽42から汚水槽50に排出される加工液はスラッジを含む。つまり、汚水槽50は、スラッジによって汚染された加工液を一時的に貯留する。
【0020】
汚水槽50に貯留された加工液は、ポンプP1によって汲み上げられる。ポンプP1によって汲み上げられた加工液は、移送管58を通って、フィルタ52に供給される。移送管58は汚水槽50からフィルタ52へ加工液を流す配管である。この移送管58にはポンプP1が設けられる。
【0021】
フィルタ52に供給された加工液は、フィルタ52によって濾過される。フィルタ52を通過した加工液は、移送管60を通って清水槽54に送られる。フィルタ52は加工液からスラッジを除去するフィルタである。移送管60はフィルタ52を通過した加工液を清水槽54に流す配管である。汚水槽50の加工液がフィルタ52を通過することで、スラッジが除去された加工液を清水槽54に送ることができる。フィルタ52の上流に位置する移送管58には、圧力センサ62が設けられる。圧力センサ62は、フィルタ52に加わる加工液の圧力を検出する。なお、圧力センサ62は、フィルタ52の上流に位置する移送管58に代えて、フィルタ52の下流に位置する移送管60に設けられていてもよい。
【0022】
清水槽54は、スラッジが除去された加工液を一時的に貯留する。清水槽54に貯留された加工液は、ポンプP2によって汲み上げられる。ポンプP2によって汲み上げられた加工液は、第1の給水管64を通って、ワイヤガイド66に送られる。第1の給水管64は清水槽54に貯留されている加工液をワイヤガイド66に流す配管である。この第1の給水管64にはポンプP2が設けられる。
【0023】
ワイヤガイド66は、上ワイヤガイド32と下ワイヤガイド34との少なくとも一方を意味する。ワイヤガイド66は、スラッジが除去された加工液を噴出する噴出部を有する。ワイヤガイド66から加工液を噴出しながら放電加工が施されることで、ワイヤ電極12と加工対象物との間を、放電加工に適した清浄な加工液で満たすことができる。その結果、スラッジによって放電加工の精度が低下することを防止することができる。
【0024】
清水槽54に貯留された加工液は、ポンプP3によって汲み上げられる。ポンプP3によって汲み上げられた加工液は、第2の給水管68を通って加工槽42に供給される。第2の給水管68は清水槽54に貯留されている加工液を加工槽42に流す配管である。この第2の給水管68にはポンプP3が設けられる。
【0025】
第2の給水管68は、第1の分岐管70と、第2の分岐管72とに分岐する。第1の分岐管70は、加工液を清水槽54に戻す。第1の分岐管70には、熱交換器74が設けられる。熱交換器74は、加工液の温度を調整する。これにより、加工槽42に供給される加工液の温度を適切に管理することができる。第2の分岐管72には、イオン交換器76が設けられる。イオン交換器76は、加工液の電気抵抗率等を調整する。これにより、加工槽42に供給される加工液の液質を適切に管理することができる。
【0026】
図3は、制御装置18を示すブロック図である。制御装置18は、情報を記憶する記憶部78と、情報を表示する表示部80と、情報を入力する入力部82と、情報を処理するプロセッサ84とを備える。
【0027】
記憶部78には、不図示の揮発性メモリと、不図示の不揮発性メモリとが備えられ得る。揮発性メモリとしては、例えばRAM等が挙げられる。不揮発性メモリとしては、例えばROM、フラッシュメモリ等が挙げられる。記憶部78の少なくとも一部が、プロセッサ84等に備えられていてもよい。また、記憶部78には、ハードディスク等が更に備えられ得る。表示部80の具体例として、液晶ディスプレイが挙げられる。入力部82の具体例として、マウス、キーボード等が挙げられる。表示部80の表示画面上に配置されるタッチパネル等によって、入力部82が構成されてもよい。プロセッサ84の具体例として、CPU、GPU等が挙げられる。プロセッサ84は、加工機本体14を制御する本体制御部86と、液体処理装置16を制御する液体処理制御部87とを有する。
【0028】
本体制御部86は、記憶部78に記憶された加工プログラムを読み出し、読み出した加工プログラムにしたがって、送り制御、電圧制御および移動制御を実行する。
【0029】
本体制御部86は、送り制御を実行する場合、ワイヤ電極12(図1)が延びる走行方向に沿って所定の速度でワイヤ電極12が走行するように、加工機本体14(図1)の送り用モータを制御する。本体制御部86は、電圧制御を実行する場合、ワイヤ電極12と、テーブルに設置される加工対象物との極間にパルス電圧が供給されるように、加工機本体14の電源部を制御する。本体制御部86は、移動制御を実行する場合、テーブルに設置される加工対象物に対して、ワイヤ電極12の走行方向に対して直交する方向にワイヤ電極12が相対移動するように、モータを制御する。このモータは、上ワイヤガイド32(図1)を駆動するモータ、下ワイヤガイド34(図1)を駆動するモータおよびテーブルを駆動するモータの少なくとも1つを含む。
【0030】
液体処理制御部87は、加工槽42と液体処理装置16とを加工液が循環するように、バルブV1(図2)に接続されるアクチュエータおよびポンプP1~P3(図2)を制御する。
【0031】
本実施形態のプロセッサ84には、フィルタ52の寿命を予測する寿命予測装置88が組み込まれる。なお、寿命予測装置88は、プロセッサ84に組み込まれていなくてもよい。寿命予測装置88がプロセッサ84に組み込まれない場合、制御装置18の外部に配置される汎用のパーソナルコンピュータ等のプロセッサに組み込まれる。この場合、汎用のパーソナルコンピュータ等のプロセッサと、制御装置18のプロセッサ84とは通信路を介して情報を授受し得る。寿命予測装置88は、圧力取得部90、時間取得部92、算出部94および予測部96を有する。
【0032】
圧力取得部90は、圧力センサ62から出力される信号に基づいて、圧力値を時系列で取得する。圧力取得部90が取得する圧力値は、フィルタ52に加わる加工液の圧力(フィルタ圧)を示す値である。この圧力値は、フィルタ52におけるスラッジの蓄積量等に応じて変化し得る。圧力取得部90は、圧力値を取得すると、取得した圧力値を記憶部78に記憶させる。
【0033】
時間取得部92は、工作機械10の稼働状態を示す情報に基づいて、予め定められた規定加工の加工時間を取得する。規定加工は、本実施形態では、1つの加工対象物の加工を開始してから終了するまでを単位とする1つの加工サイクルの加工とする。時間取得部92は、本体制御部86が実行する加工プログラムを解析することで、加工プログラムに基づいて加工機本体14で繰り返される加工サイクルの少なくとも1つのサイクル時間(開始時点および終了時点)を取得し得る。
【0034】
算出部94は、圧力取得部90により時系列で取得された圧力値に基づいて、時間取得部92により取得された加工時間における圧力変化量を算出する。算出部94は、記憶部78に記憶される時系列の圧力値のなかから、時間取得部92により取得された少なくとも1つのサイクル時間の開始時点の圧力値と、そのサイクル時間の終了時点の圧力値とを検出する。算出部94は、検出した終了時点の圧力値から開始時点の圧力値を減算することで、時間取得部92により取得された少なくとも1つのサイクル時間における圧力変化量を算出し得る。
【0035】
予測部96は、フィルタ52に加わる加工液の圧力(フィルタ圧)が上限に達するまでの寿命期間を予測する。図4に示すように、予測部96は、加工サイクルが終了した時点における圧力値Pnと、加工サイクルの加工時間Δtと、加工時間Δtにおける圧力変化量ΔPとを用いて、寿命期間Trを予測する。圧力値Pnは、圧力取得部90により取得される。加工時間Δtは、時間取得部92により取得される。圧力変化量ΔPは、算出部94により算出される。なお、図4には、1回目の加工サイクルが終了した時点で寿命期間Trを予測する場合の例が示されている。また、図4中の黒丸は、1回目の加工サイクル中に圧力取得部90により取得された圧力値を示している。
【0036】
フィルタ圧の単位時間あたりの変化量が一定であると仮定した場合、紙面の左上から右下に向かう斜線が付された領域AR1と、紙面の右上から左下に向かう斜線が付された領域AR2とは相似である。相似では、対応する辺の長さの比が同じになるため、下記の(1)式の関係が成立する。
Δt:Tr=ΔP:(Pd-Pn)・・・・・(1)
【0037】
上記の(1)式から、寿命期間Trは、下記の(2)式で表される。
【0038】
【数1】
【0039】
このように予測部96は、フィルタ圧の上限値Pdから規定加工(加工サイクル)が終了した時点の圧力値Pnを減算する。さらに、予測部96は、減算結果に加工時間Δtを乗算し、乗算結果として得られた値を圧力変化量ΔPで除算する。これにより予測部96は、寿命期間Trを予測し得る。
【0040】
予測部96は、規定加工(加工サイクル)が繰り返されるたびに寿命期間Trを予測してもよい。この場合、予測部96は、前回の圧力変化量ΔPと今回の圧力変化量ΔPとの差を求める。ここで、前回の圧力変化量ΔPと今回の圧力変化量ΔPとの差が規定値以上であった場合、予測部96は、上記の(2)式を用いて寿命期間Trを予測し直す。一方、前回の圧力変化量ΔPと今回の圧力変化量ΔPとの差が規定値未満であった場合、予測部96は、前回予測した寿命期間Trを、今回予測すべき寿命期間Trとする。
【0041】
このように寿命予測装置88は、規定加工(加工サイクル)が終了した時点の圧力値Pnと、規定加工(加工サイクル)の加工時間Δtと、加工時間Δtにおける圧力変化量ΔPとを用いて、寿命期間Trを予測する。これにより、工作機械10が実際に稼働している稼働時間と、当該稼働時間におけるフィルタ圧とを反映したフィルタ52の寿命を予測することができる。このため、加工条件等のパラメータの設定の有無にかかわらず、また工作機械10の機種にかかわらず、予測したフィルタ52の寿命を真値に近づけることができる。この結果、真値に対する予測誤差を抑制しつつも、簡易にフィルタ52の寿命を予測することができる。
【0042】
また、寿命予測装置88は、次のように演算して寿命期間Trを予測する。すなわち、寿命予測装置88は、フィルタ圧の上限値Pdから規定加工(加工サイクル)が終了した時点の圧力値Pnを減算し、その減算結果に加工時間Δtを乗算し、乗算して得られた値を圧力変化量ΔPで除算する。これにより、寿命期間Trを予測するための四則演算の回数を3回とすることができ、四則演算の回数が3回よりも大きい場合に比べて処理負荷を低減することができる。
【0043】
なお、寿命予測装置88は、規定加工(加工サイクル)が繰り返されるたびに寿命期間Trを予測した場合、寿命期間Trの変化を細かく捉えることができる。
【0044】
本実施形態は、以下のように変形することができる。
【0045】
[変形例1]
図5は、変形例1の制御装置18を示すブロック図である。図5では、実施形態において説明した構成と同等の構成には同一の符号が付されている。なお、変形例1では、実施形態と重複する説明は省略する。変形例1の制御装置18の場合、寿命予測装置88に警告部98が新たに備えられる。
【0046】
警告部98は、予測部96により予測された寿命期間Trが規定期間未満であった場合に警告する。これにより、オペレータに対してフィルタ52の交換を促すことができる。
【0047】
なお、表示部、スピーカおよび発光部の少なくとも1つが寿命予測装置88に備えられている場合、警告部98は、表示部、スピーカおよび発光部の少なくとも1つを用いて警告してもよい。また、表示部、スピーカおよび発光部の少なくとも1つを備えた外部装置が寿命予測装置88に接続される場合、警告部98は、その外部装置に作動信号を送信することで警告してもよい。
【0048】
[変形例2]
図6は、加工対象物の加工の様子を示す概念図である。工作機械10(加工機本体14)では、1つの加工サイクルにおいて、1つの加工対象物の互いに異なる位置に、同一の形状を順次加工する工程が含まれる場合がある。なお、図6では、1つの加工対象物の9つの位置に、同一形状を順次加工する場合が例示されている。
【0049】
この場合、時間取得部92は、加工サイクルを規定加工とする実施形態に代えて、形状加工を規定加工としてもよい。時間取得部92は、本体制御部86が実行する加工プログラムを解析することで、9つの同一形状の少なくとも1つの加工時間(開始時点および終了時点)を取得し得る。
【0050】
形状加工が規定加工とされても、図7に示すように、予測部96は、上記の(2)式を用いて、寿命期間Tr´を予測し得る。すなわち、予測部96は、フィルタ圧の上限値Pdから規定加工(形状加工)が終了した時点の圧力値Pn´を減算し、その減算結果に加工時間Δt´を乗算し、乗算して得られた値を圧力変化量ΔP´で除算する。
【0051】
[変形例3]
仕上げ加工時に加工する部分(取り代)を残して不要な部分を取り除く荒加工の工程と、取り代を取り除く仕上げ加工の工程とが1つの加工サイクルに含まれる場合がある。この場合、時間取得部92は、加工サイクルを規定加工とする実施形態に代えて、荒加工または仕上げ加工を規定加工としてもよい。このようにしても、実施形態と同様に、予測部96は、上記の(2)式を用いて、寿命期間を予測し得る。
【0052】
[変形例4]
工作機械10は、型彫り用の電極と加工対象物との間に発生する放電によって加工対象物に対して放電加工を施す型彫放電加工機であってもよい。型彫放電加工機は、加工槽42内に配置されるテーブルの位置と、型彫り用の電極の位置とを相対的に移動させながら、加工対象物に対して加工を行う。なお、工作機械10が型彫放電加工機である場合、供給系統20aおよび回収系統20bがなくなり、型彫り用の電極の位置を移動させるためのアクチュエータが設けられる。
【0053】
[変形例5]
寿命予測装置88は、放電加工機以外の工作機械10に設けられるフィルタの寿命を予測してもよい。例えば、寿命予測装置88は、工具と加工対象物との接触部分に噴霧されるクーラントを濾過するフィルタの寿命を予測してもよい。このようなフィルタを備える工作機械10として、工具を用いて加工対象物を加工する旋盤機等が挙げられる。
【0054】
[変形例6]
寿命予測装置88は、上記の(2)式以外の関係式を用いて寿命期間Trを予測してもよい。例えば、寿命予測装置88は、下記の(3)式を用いて、寿命期間Trを予測し得る。下記の(3)式の「N」は、予測時点から、フィルタ圧が上限(上限値Pd)に達するまでの間に繰り返し実行される規定加工の回数(自然数)である。
【0055】
【数2】
【0056】
[変形例7]
上記の実施形態および変形例1~6は、矛盾の生じない範囲で任意に組み合わされてもよい。
【0057】
以下は、実施形態および変形例から把握し得る発明として、第1の発明および第2の発明を記載する。
【0058】
(第1の発明)
第1の発明は、工作機械(10)で用いられる液体を濾過するフィルタ(52)の寿命を予測する寿命予測装置(88)であって、圧力センサ(62)から出力される信号に基づいて、フィルタに加わる液体の圧力値を時系列で取得する圧力取得部(90)と、工作機械の稼働状態を示す情報に基づいて、予め定められた規定加工の加工時間(Δt、Δt´)を取得する時間取得部(92)と、時系列で取得された圧力値に基づいて、加工時間における圧力変化量(ΔP、ΔP´)を算出する算出部(94)と、規定加工が終了した時点における圧力値(Pn、Pn´)と、加工時間と、圧力変化量とを用いて、フィルタに加わる液体の圧力の上限値(Pd)に達するまでの寿命期間(Tr、Tr´)を予測する予測部(96)と、を備える。
【0059】
これにより、実際に工作機械が稼働しているときの稼働時間と、当該稼働時間におけるフィルタ圧とを反映したフィルタの寿命を予測することができる。このため、加工条件等のパラメータの設定の有無にかかわらず、また工作機械の機種にかかわらず、予測したフィルタの寿命を真値に近づけることができ、この結果、真値に対する予測誤差を抑制しつつも、簡易にフィルタの寿命を予測することができる。
【0060】
予測部は、上限値から、規定加工が終了した時点における圧力値を減算し、減算結果に対して加工時間を乗算した値を圧力変化量で除算することで寿命期間を予測してもよい。これにより、寿命期間を予測するための四則演算の回数を3回とすることができ、四則演算の回数が3回よりも大きい場合に比べて処理負荷を低減することができる。
【0061】
予測部は、規定加工が繰り返されるたびに、寿命期間を予測してもよい。これにより、寿命期間の変化を細かく捉えることができる。
【0062】
予測部は、前回の圧力変化量に対する今回の圧力変化量の差が規定値以上であった場合には、寿命期間を予測し直し、当該差が規定値未満であった場合には、前回予測した寿命期間を今回予測した寿命期間としてもよい。これにより、前回の圧力変化量に対する今回の圧力変化量の差が規定値未満であっても寿命期間を予測し直す場合に比べて、処理負荷を削減することができる。
【0063】
寿命予測装置は、予測された寿命期間が規定期間未満であった場合に警告する警告部(98)を備えてもよい。これにより、オペレータに対してフィルタの交換を促すことができる。
【0064】
規定加工は、1つの加工対象物の加工を開始してから終了するまでを単位とする1つの加工サイクルの加工であってもよい。これにより、加工サイクルが実行されたときの寿命期間を捉えることができる。
【0065】
規定加工は、1つの加工対象物に対して繰り返し実行される同一形状の加工であってもよい。これにより、加工対象物に対して形状が加工されたときの寿命期間を捉えることができる。
【0066】
規定加工は、荒加工または仕上げ加工であってもよい。これにより、荒加工または仕上げ加工が実行されたときの寿命期間を捉えることができる。
【0067】
(第2の発明)
第2の発明は、工作機械であって、上記の寿命予測装置と、液体を用いて加工対象物を加工する加工機本体(14)と、フィルタを有する液体処理装置(16)と、を備える。
【0068】
上記の寿命予測装置が備えられていることにより、真値に対する予測誤差を抑制しつつも、簡易にフィルタの寿命を予測することができる。
【0069】
加工機本体は、加工槽(42)に貯められた加工液中で電極と加工対象物との極間に電圧を印加して放電加工するものであり、フィルタは、放電加工により加工槽に貯められた加工液中に存在するスラッジを除去するものであってもよい。これにより、放電加工中にフィルタの交換時期が訪れることを未然に防止することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7