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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】触媒担体及び誘導加熱触媒システム
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/50 20240101AFI20240501BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240501BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240501BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20240501BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240501BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20240501BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B01J35/50 311
B01J35/57 L ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 300
F01N3/20 K
F01N3/08 B
F01N3/24 L
F01N3/08 C
F01N3/28 301P
B01J35/57 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022560651
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2021029765
(87)【国際公開番号】W WO2022097341
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2020184566
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】市川 周一
(72)【発明者】
【氏名】石原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松本 海
(72)【発明者】
【氏名】藤江 典久
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋一
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/110395(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/031434(WO,A1)
【文献】特開2007-132240(JP,A)
【文献】特開2007-313486(JP,A)
【文献】国際公開第2020/110396(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/08,3/20,3/24,3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、ガス流れ方向入口側の端面から出口側の端面まで延びて流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する柱状ハニカム構造部を備えるハニカム構造体と、
前記隔壁の内部に担持された触媒と、
前記ハニカム構造体内に設けられた磁性体と、
を有する誘導加熱用の触媒担体であって、
前記触媒担体の、少なくともガス流れ方向入口側の端面側に、前記触媒を担持しない領域Aを有し、
ガス流れ方向において前記磁性体が少なくとも前記領域Aに配置されており、
前記磁性体が、リング状であり、前記触媒担体のガス流れ方向入口側の端面に設けられた溝部に、前記リング状の磁性体が埋め込まれている、誘導加熱用の触媒担体。
【請求項2】
前記領域Aは、前記触媒担体のガス流れ方向入口側の端面から前記触媒担体の長さの10%~70%の位置まで配置されている、請求項1に記載の誘導加熱用の触媒担体。
【請求項3】
ガス流れ方向において、前記触媒が担持された領域と前記磁性体が設けられた領域とが重なる部分を有する、請求項1または2に記載の誘導加熱用の触媒担体。
【請求項4】
前記触媒が、SCR触媒である、請求項1~のいずれか一項に記載の誘導加熱用の触媒担体。
【請求項5】
前記磁性体が、磁性粉体が分散されてなる、請求項1~のいずれか一項に記載の誘導加熱用の触媒担体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の誘導加熱用の触媒担体と、前記触媒担体の外周に設けられたコイルと、を有する誘導加熱触媒システム。
【請求項7】
前記コイルが、前記触媒担体のガス流れ方向において、前記磁性体が設けられた領域に対応する位置に設けられている、請求項に記載の誘導加熱触媒システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体及び誘導加熱触媒システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスには、通常は不完全燃焼の結果として一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの有害成分が含まれることがある。これらの有害成分は、エンジン始動直後という、触媒温度が低く、触媒活性が不十分な期間に排出される量が多くなる。このため、排気ガス中の有害成分が、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるおそれがある。このような要求に応えるためには、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるエミッションを極力低減させることが必要であり、例えば、触媒担体の加熱技術を利用した対策が知られている。
【0003】
このような技術として、自動車の排気ガスの流路にハニカム構造体の隔壁表面またはセル内に磁性体を設けた触媒担体を配置し、触媒担体の外周をコイルで取り囲み、誘導加熱によって磁性体を加熱し、触媒担体を発熱させることで、排気ガスの浄化を行う誘導加熱触媒システムが知られている。
【0004】
特許文献1には、セラミックス基材の複数のセルにおいて、セル内全体に亘って、金属粒子又は金属小片を設け、誘導加熱によって当該金属粒子又は金属小片を発熱させる構造を有する触媒担体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-188272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘導加熱の目的は、触媒担体のガス流れ方向入口近傍のガス温度がまだ低温の時に、触媒温度を上げて浄化率を良くすることである。しかしながら、触媒担体のガス流れ方向入口近傍では、誘導加熱によるガス温度、及び担体・触媒温度の上昇が十分ではなく、出口に向かうにつれて徐々に高くなる。このとき、特許文献1に記載の技術では、セル内全体に亘って設けられた金属粒子又は金属小片を誘導加熱によって発熱させても、触媒担体のガス流れ方向入口近傍の温度が十分に上昇していないため、当該領域に設けられた触媒が活性化し難くなる。
【0007】
このように、ガス流れ方向入口近傍に設けた触媒は、有効利用が不十分となり、特に、触媒としてPt等の貴金属を用いている場合に製造コストのデメリットが大きい。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、誘導加熱の際に触媒を有効に活用することができる触媒担体及び誘導加熱触媒システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明によって解決されるものである。本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、ガス流れ方向入口側の端面から出口側の端面まで延びて流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する柱状ハニカム構造部を備えるハニカム構造体と、
前記隔壁の内部に担持された触媒と、
前記ハニカム構造体内に設けられた磁性体と、
を有する誘導加熱用の触媒担体であって、
前記触媒担体の、少なくともガス流れ方向入口側の端面側に、前記触媒を担持しない領域Aを有し、
ガス流れ方向において前記磁性体が少なくとも前記領域Aに配置されている、誘導加熱用の触媒担体。
(2)(1)に記載の誘導加熱用の触媒担体と、前記触媒担体の外周に設けられたコイルと、を有する誘導加熱触媒システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、誘導加熱の際に触媒を有効に活用することができる触媒担体及び誘導加熱触媒システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における、触媒担体のセルの延伸方向に平行な断面模式図である。
図2図1における触媒担体のL1-L1断面の模式図である。
図3】本発明の実施形態における、触媒担体のセルの延伸方向に平行な断面模式図である。
図4】本発明の実施形態における、触媒担体のセルの延伸方向に平行な断面模式図である。
図5】本発明の実施形態における、触媒担体のセルの延伸方向に平行な断面模式図である。
図6図5における触媒担体のL2-L2断面の模式図である。
図7】本発明の実施形態における、触媒担体のセルの延伸方向に平行な断面模式図である。
図8】本発明の実施形態における、誘導加熱触媒システムのガス流れ方向に平行な断面模式図である。
図9】実施例における、誘導加熱触媒システムのガス流れ方向に平行な断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の触媒担体及び誘導加熱触媒システムの実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
<触媒担体>
図1は、本発明の実施形態における、触媒担体10のセル13の延伸方向に平行な断面模式図である。図2は、図1における触媒担体10のL1-L1断面の模式図である。
【0014】
触媒担体10は、ハニカム構造体11、触媒12及び磁性体17を有する。触媒担体10のハニカム構造体11は、外周壁14と、外周壁14の内側に配設され、ガス流れ方向入口側の端面から出口側の端面まで延びて流路を形成する複数のセル13を区画形成する隔壁15と、を有する柱状ハニカム構造部16を備える。
【0015】
柱状ハニカム構造部16の隔壁15及び外周壁14の材質については特に制限はないが、通常は、セラミックス材料で形成される。例えば、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、アルミナ、珪素-炭化珪素系複合材料、炭化珪素-コージェライト系複合材料、特に珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とする焼結体が挙げられる。本明細書において「炭化珪素系」とは、柱状ハニカム構造部16が炭化珪素を、柱状ハニカム構造部16全体の50質量%以上含有していることを意味する。柱状ハニカム構造部16が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、柱状ハニカム構造部16が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、柱状ハニカム構造部16全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、柱状ハニカム構造部16が炭化珪素を主成分とするというのは、柱状ハニカム構造部16が炭化珪素(合計質量)を、柱状ハニカム構造部16全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0016】
好ましくは、柱状ハニカム構造部16は、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つのセラミックス材料で形成される。
【0017】
柱状ハニカム構造部16のセル形状は特に限定されないが、柱状ハニカム構造部16の中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。好ましくは、多角形である。
【0018】
柱状ハニカム構造部16の隔壁15の厚さは、0.05~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.10~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.05mm以上であると、柱状ハニカム構造部16の強度がより向上し、0.50mm以下であると、圧力損失を小さくすることができる。なお、この隔壁15の厚さは、中心軸方向断面を顕微鏡観察する方法で測定した平均値である。
【0019】
隔壁15の気孔率は、20~70%であることが好ましい。隔壁15の気孔率は、製造の容易さの点で、20%以上が好ましく、70%以下であると、ハニカム構造体11の強度を維持できる。
【0020】
隔壁15の平均細孔径は、2~30μmであることが好ましく、5~25μmであることが更に好ましい。隔壁15の平均細孔径が、2μm以上であると、製造が容易になり、30μm以下であると、ハニカム構造体11の強度を維持できる。なお、本明細書において、「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0021】
柱状ハニカム構造部16のセル密度は、特に制限はないが、5~150セル/cm2の範囲であることが好ましく、5~100セル/cm2の範囲であることがより好ましく、31~80セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。
【0022】
柱状ハニカム構造部16の外形は、特に限定されないが、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。
【0023】
このような柱状ハニカム構造部16は、セラミックス原料を含有する坏土を、一方の端面から他方の端面まで延びて流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁15を有するハニカム状に成形して、ハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を、乾燥した後に焼成することによって作製される。そして、得られたハニカム構造体を、本実施形態のハニカム構造体に用いる場合には、外周壁をハニカム構造体と一体的に押し出してそのまま外周壁として使用してもよいし、成形又は焼成後に、ハニカム構造体の外周を研削して所定形状とし、この外周を研削したハニカム構造体に、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。なお、本実施形態においては、例えば、ハニカム構造体の最外周を研削せずに、外周を有したハニカム構造体を用い、この外周を有するハニカム構造体の外周面(即ち、ハニカム構造体の外周の更に外側)に、更に、上記コーティング材を塗布して、外周コーティングを形成してもよい。即ち、前者の場合には、ハニカム構造体の外周面には、コーティング材からなる外周コーティングのみが最外周に位置する外周壁となる。一方、後者の場合には、ハニカム構造体の外周面に、更にコーティング材からなる外周コーティングが積層された、最外周に位置する、二層構造の外周壁が形成される。外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま焼成し、外周の加工無しに、外周壁として使用してもよい。
【0024】
ハニカム構造体11は、隔壁が一体的に形成された一体型のハニカム構造体に限定されることはなく、例えば、セラミックス製の隔壁を有し、隔壁によって流体の流路となる複数のセルが区画形成された柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個組み合わされた構造を有するハニカム構造体(接合型ハニカム構造体)であってもよい。
【0025】
隔壁15の内部には、触媒12が担持されている。触媒12は、酸化触媒、三元触媒、NOx吸蔵還元触媒、NOx選択還元触媒(SCR触媒)、炭化水素吸着触媒、炭化水素、一酸化炭素酸化触媒、及び、アンモニアスリップ(酸化)触媒からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0026】
触媒12は、所望の排気ガス浄化の目的に応じて適宜選択することができる。触媒12の担持方法については、特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0027】
触媒担体10は、少なくともガス流れ方向入口側の端面側に、触媒12を担持しない領域Aを有している。触媒担体10の、ガス流れ方向入口側の端面側は、出口側の端面側と比べると低温領域であり、触媒12が十分な活性温度に到達し難い。このため、当該低温領域を、触媒12を担持しない領域Aとすることで、誘導加熱の際に触媒12を無駄なく有効に活用することができ、製造コストが向上する。特に、触媒12としてPt等の貴金属を用いている場合に製造コストのメリットが大きい。
【0028】
触媒担体のガス流れ方向の前段に電気加熱担体(EHC)を配置する従来技術があるが、この技術では触媒担体はガス流れ方向の前段に設けたEHCで温められたガスを介してのみ温められる。そのため、電気加熱エネルギーを個体間熱伝導で伝える経路が無く、触媒担体のガス流れ方向入口近傍の温度の上昇が不十分であり、特に触媒の有効活用が困難となる。このような問題に対しても、本発明の触媒担体10は、少なくともガス流れ方向入口側の端面側に、触媒12を担持しない領域Aを有しているため、触媒担体10のガス流れ方向入口近傍の温度の上昇が不十分な領域に触媒12を担持せず、誘導加熱の際に触媒12を無駄なく有効に活用することができる。
【0029】
また、触媒担体10がNH3を還元剤として排気ガス浄化を行う種類のものである場合、触媒担体10がSCR触媒を有している。SCR触媒は、NH3を吸着する性質があるため、触媒担体10のガス流れ方向入口近傍の低温領域でNH3が吸着してしまい、出口側まで十分にNH3が行き渡らず、排気ガス浄化性能が低下する問題がある。これに対し、本発明の実施形態に係る触媒担体10は、少なくともガス流れ方向入口側の端面側に、SCR触媒を担持しない領域Aを有しており、入口側でのNH3の吸着を良好に抑制することができ、排気ガス浄化性能の低下を抑制することができる。
【0030】
領域Aは、触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面から触媒担体10の長さの10%~70%の位置まで配置されているのが好ましい。触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面から触媒担体10の長さの10%~70%の位置までは、触媒12が十分に活性温度に到達していないことがあり、この位置まで触媒12を担持しない領域Aを配置することで、触媒12をより無駄なく有効に活用することができる。領域Aは、触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面から触媒担体10の長さの10%~50%の位置まで配置されているのがより好ましく、10%~30%の位置まで配置されているのが更により好ましい。
【0031】
ハニカム構造体11内には、磁性体17が設けられている。磁性体17は、触媒担体10のガス流れ方向において、少なくとも上述の領域Aに配置されている。磁性体17が領域Aに配置されることで、触媒担体10のガス流れ方向入口近傍を加熱させることができる。そのため、触媒担体10の排気ガス浄化性能を向上させることができる。
【0032】
磁性体17は、図1に示すように、ハニカム構造体11のセル13内に充填されていてもよい。このとき、触媒担体10において、磁性体17が充填されたセルと、触媒12が担持されたセルとが異なる構成となっている。
【0033】
磁性体17が充填されたセルは、縦横に隣接するセルに関し、1セルおきに配置されて千鳥状を構成していてもよく、2セル、3セル等の複数セルおきに配置されてもよく、連続して配置されていてもよい。磁性体17が充填されたセル(以下、磁性体充填セルとも称する)の数、または配置等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。ハニカム構造体11の外周壁14に近いところでは、磁性体充填セルの間隔を大きくとって磁性体充填セルの密度を小さくし、ハニカム構造体11の中央部では磁性体充填セルの間隔を小さくしてもよい。磁性体充填セルの間隔をこのようにすることで、コイルの磁場の影響が外周近傍の磁性体に遮られずにハニカム構造体11の中央部まで達するため、好ましい。また、磁性体充填セルの磁性体を充填する部分の長さは一定である必要はなく、外周壁14に近いところでは短く、中央部では長くすると、コイルの磁場の影響がハニカム構造体の内部まで十分達するため好ましい。なお、磁性体を充填する部分の長さがセルによって異なる場合には、平均の磁性体充填長さをもって領域Aを定義する。加熱の効果を高める観点からは、磁性体17が充填されたセル数を増やした方が良いが、圧力損失を下げる観点からはできるだけ減らした方が良い。また、図2に示すように、ハニカム構造体11が、断面積が小さいセルと、大きいセルとを有している場合、断面積が小さいセル内に磁性体17を充填させ、大きいセルには磁性体17を設けない形態が、誘導加熱による加熱性能を維持しつつ、圧力損失を下げる観点から好ましい。
【0034】
磁性体17は、磁性材料であり、磁場により磁化され、磁場の強さにより磁化の状態も変わる。これを表したものが「磁化曲線」である。磁化曲線は、横軸には磁場Hを目盛り、縦軸には、磁束密度Bを目盛る場合(B-H曲線)がある。磁性材料に全く磁場が加えられていない状態を消磁状態といい原点Oで表す。磁場を加えていくと、原点Oから、磁束密度が増加していき飽和する曲線を描く。この曲線が「初磁化曲線」である。初磁化曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾きが「透磁率」である。透磁率は、磁場が浸透するといったような意味合いで、磁性材料の磁化のしやすさの目安となる。原点付近の磁場が小さい所での透磁率が「初透磁率」であり、初磁化曲線上で最大となる透磁率が「最大透磁率」である。
【0035】
磁性体17は、500以上の最大透磁率を有するのが好ましい。このような構成によれば、ハニカム構造体11を誘電加熱した際、触媒12が活性化する温度(約300℃)まで、短時間に温度を上昇させることができる。
【0036】
磁性体17は、450℃以上のキュリー点を有するのが好ましい。磁性体17のキュリー点は、強磁性の特性を失う温度をさす。また、磁性体17は、25℃で20μΩcm以上の固有抵抗値を有するのが好ましい。また、磁性体17は、40A/m以上の保磁力を有するのが好ましい。このような構成によれば、触媒12が活性化する温度(約300℃)まで、短時間に温度を上昇させることができる。
【0037】
磁性体17の種類としては、例えば、残部Co-20質量%Fe、残部Co-25質量%Ni-4質量%Fe、残部Fe-15~35質量%Co、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-18質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-27質量%Co-1質量%Nb、残部Fe-20質量%Co-1質量%Cr-2質量%V、残部Fe-35質量%Co-1質量%Cr、純コバルト、純鉄、電磁軟鉄、残部Fe-0.1~0.5質量%Mn、残部Fe-3質量%Si、残部Fe-6.5質量%Si、残部Fe-18質量%Cr、残部Fe-16質量%Cr-8質量%Al、残部Ni-13質量%Fe-5.3質量%Mo、残部Fe-45質量%Ni、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni、残部Fe-35質量%Cr、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-20質量%Cr-2質量%Si-2質量%Mo、残部Fe-20質量%Co-1質量%V、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo等が挙げられる。
【0038】
磁性体17は、例えば、板状、棒状、リング状、ワイヤ状、または繊維状のものを用いることができる。なお、本発明では、棒状の磁性体とワイヤ状の磁性体とは、長さ方向に垂直な断面の直径が0.8mm以上のものを棒状とし、0.8mm未満のものをワイヤ状として区別している。磁性体17をセル13に充填する場合、これらの形状の磁性体を、セル13の形状に合わせて適宜使用することができる。磁性体17は、1つのセルに複数個が集合して充填されていてもよく、1個だけが充填されていてもよい。
【0039】
また、磁性体17がリング状である場合は、触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面に溝部が設けられ、この溝部にリング状の磁性体が埋め込まれている。このような構成によれば、電磁誘導加熱によりリング状に設けられた磁性体17を周回するように電流が流れやすくなり、渦電流が発生しやすい。このため、数十kHz以下の比較的低い周波数でも十分に電磁誘導加熱が可能となる。また、リング状に設けられた磁性体17によって渦電流が発生しやすくなっているため、磁性体に必ず強磁性体を用いなければならない等の材料のキュリー点による制限が無く、触媒担体10の加熱速度が良好となる。
【0040】
触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面に設けたリング状の磁性体17の数についても、特に限定されず、例えば、1つのリング状の磁性体が、触媒担体10の端面において、互いに間隔を空けて複数個設けられていてもよい。
【0041】
セル13には、磁性体と結合材または接着材料とで複合化した組成物を充填してもよい。結合材としては、例えば金属又はガラスを主成分とする材料が挙げられる。接着材料としては、シリカ又はアルミナを主成分とする材料が挙げられる。結合材または接着材料に加え、有機物又は無機物を更に含有してもよい。
【0042】
セル13内に充填される磁性体17は、図1に示すように、触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面から出口側端面まで全てに渡って充填されていてもよい。また、図3または図4に示すように、触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面から、セル13の途中まで充填されていてもよい。このとき、触媒担体10の外側に周回するように配置されるコイル19は、磁性体17が充填された領域に対応する位置に設けられている。磁性体17が、触媒担体10のガス流れ方向入口側の端面から、セル13の途中まで充填されている場合、図3または図4に示すように、触媒担体20、30のガス流れ方向において、触媒12が担持された領域と磁性体17が充填された領域とが重なる部分αを有するのが好ましい。このような構成によれば、誘導加熱で発熱した磁性体からの熱が、触媒12に良好に伝わるため、触媒12をより効果的に加熱することができる。触媒12が担持された領域と磁性体が充填された領域とが重なる部分αは、大きければそれだけ触媒12を良好に加熱することができる。このような観点から、当該重なる部分αの長さは、セル13の触媒担体10のガス流れ方向において、触媒12が担持された領域の10%以上であるのが好ましく、20%以上であるのがより好ましく、100%であるのが最も好ましい。
【0043】
また、磁性体は、図5、及び、図5における触媒担体40のL2-L2断面の模式図である図6に示すように、ハニカム構造体41の隔壁15上に設けられた表面層18に含まれていてもよい。表面層18は、磁性体の粉体が分散した固着材を含む。固着材としては、ケイ酸、ホウ酸、又はホウケイ酸を含むガラス、結晶化ガラス、セラミックス、または、その他の酸化物を含む、ガラス、結晶化ガラス、セラミックス等を用いることができる。ガラスとしては、融点が900~1100℃の高融点ガラスを用いることが好ましい。高融点ガラスを用いることにより、表面層18の耐熱性が向上する。
【0044】
表面層18の厚みは、10~100μmであることが好ましい。表面層18の厚みが10μm以上であれば、より多くの磁性体を含有することができ、誘導加熱による発熱効率が高まる。表面層18の厚みが100μm以下であれば、圧力損失を下げることができる。
【0045】
ハニカム構造体41は両端面に交互に目封じをした構造であってもよく、その場合にはガスが隔壁15を通過する。この場合、表面層18の気孔率は、30~70%であるのが好ましい。表面層18の気孔率が30%以上であると、表面層18を設けたセル13が、排気ガス流路としてより良好に使用される。表面層18の気孔率が70%以下であると、触媒担体10の誘導加熱性能がより良好となる。表面層18の気孔率は、35~65%であるのがより好ましく、40~60%であるのが更により好ましい。なお、表面層18の気孔率は、試料切り出しの観点で水銀圧入法での測定が困難であることから、この場合は画像解析で測定することが可能である。セルが入口から出口まで貫通するタイプのハニカム構造体の場合は、表面層18の気孔率は10%以上40%以下であることが好ましい。10%以上であることで触媒スラリーの水分を吸収しやすく、触媒コート性が良好になり、40%以下であることで、隔壁厚さが薄くても強度を維持できる。表面層18の気孔率は、より好ましくは、20%以上であり、35%以下である。
【0046】
磁性体を含む表面層18が隔壁15上に設けられているセル13は、縦横に隣接するセルに関し、1セルおきに配置されて千鳥状を構成していてもよく、2セル、3セル等の複数セルおきに配置されてもよく、連続して配置されていてもよい。磁性体を含む表面層18が隔壁15上に設けられているセルの数、または配置等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。加熱の効果を高める観点からは、磁性体を含む表面層18が隔壁15上に設けられているセル数を増やした方が良いが、圧力損失を下げる観点からはできるだけ減らした方が良い。
【0047】
隔壁15上に設けられた磁性体を含む表面層18は、図5に示すように、触媒担体40のガス流れ方向入口側の端面から出口側端面まで全てに渡って設けられていてもよい。また、図7に示すように、触媒担体50のガス流れ方向入口側の端面から、セル13の途中まで設けられていてもよい。
【0048】
隔壁15上に設けられた磁性体を含む表面層18が、触媒担体のガス流れ方向入口側の端面から、セル13の途中まで設けられている場合、図7に示すように、触媒担体50のガス流れ方向において、触媒12が設けられた領域と磁性体を含む表面層18が設けられた領域とが重なる部分αを有するのが好ましい。このような構成によれば、誘導加熱で発熱した磁性体からの熱が、触媒12に良好に伝わるため、触媒12をより効果的に加熱することができる。触媒12が設けられた領域と磁性体を含む表面層18が設けられた領域とが重なる部分αは、大きければそれだけ触媒12を良好に加熱することができる。このような観点から、当該重なる部分αの長さは、セル13の触媒担体のガス流れ方向において、触媒12が担持された領域の10%以上であるのが好ましく、15%以上であるのがより好ましく、20%以上であるのがさらに好ましい。上限については、特に限定はないが、100%以下である。
【0049】
磁性体は、磁性粉体が分散されてなるものであってもよい。磁性粉体は、上述の表面層18に分散して含まれていてもよく、ハニカム構造体11の隔壁15上に、直接分散して担持されていてもよい。磁性粉体の平均粒径は、10~200μmであってもよい。また、磁性粉体の分散性は、不均一であってもよい。
【0050】
<触媒担体の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る触媒担体の製造方法を説明する。まず、セラミックス製の隔壁を有し、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を作製する。例えば、コージェライトからなるハニカム構造体を作製する場合には、まず、坏土用材料としてコージェライト化原料を用意する。コージェライト化原料は、コージェライト結晶の理論組成となるように各成分を配合するため、シリカ源成分、マグネシア源成分、及びアルミナ源成分等を配合する。このうちシリカ源成分としては、石英、溶融シリカを用いることが好ましく、更に、このシリカ源成分の粒径を100~150μmとすることが好ましい。
【0051】
マグネシア源成分としては、例えば、タルク、マグネサイト等を挙げることができる。これらの中でも、タルクが好ましい。タルクは、コージェライト化原料中37~43質量%含有させることが好ましい。タルクの粒径(平均粒径)は、5~50μmであることが好ましく、10~40μmであることが更に好ましい。また、マグネシア(MgO)源成分は、不純物としてFe23、CaO、Na2O、K2O等を含有していてもよい。
【0052】
アルミナ源成分としては、不純物が少ないという点で、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの少なくとも一種を含有するものが好ましい。また、コージェライト化原料中、水酸化アルミニウムは10~30質量%含有させることが好ましく、酸化アルミニウムは0~20質量%含有させることが好ましい。
【0053】
次に、コージェライト化原料に添加する坏土用材料(添加剤)を用意する。添加剤として、少なくともバインダと造孔剤を用いる。そして、バインダと造孔剤以外には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。
【0054】
造孔剤としては、コージェライトの焼成温度以下において酸素と反応して酸化除去可能な物質、又は、コージェライトの焼成温度以下の温度に融点を有する低融点反応物質等を用いることができる。酸化除去可能な物質としては、例えば、樹脂(特に、粒子状の樹脂)、黒鉛(特に、粒子状の黒鉛)等を挙げることができる。低融点反応物質としては、鉄、銅、亜鉛、鉛、アルミニウム、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の金属、これらの金属を主成分とする合金(例えば、鉄の場合には炭素鋼や鋳鉄、ステンレス鋼)、又は、二種以上を主成分とする合金を用いることができる。これらの中でも、低融点反応物質は、粉粒状又は繊維状の鉄合金であることが好ましい。更に、その粒径又は繊維径(平均径)は10~200μmであることが好ましい。低融点反応物質の形状は、球状、巻菱形状、金平糖状等が挙げられ、これらの形状であると、細孔の形状をコントロールすることが容易となるため好ましい。
【0055】
バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。また、分散剤としては、例えば、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸を挙げることができる。なお、添加剤は、一種単独又は二種以上用いることができる。
【0056】
次に、コージェライト化原料100質量部に対して、バインダを3~8質量部、造孔剤を3~40質量部、分散剤を0.1~2質量部、水を10~40質量部の割合で混合し、これら坏土用材料を混練し、坏土を調製する。
【0057】
次に、調製した坏土を、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等でハニカム形状に成形し、生のハニカム成形体を得る。連続成形が容易であり、例えばコージェライト結晶を配向させることができることから、押出成形法を採用することが好ましい。押出成形法は、真空土練機、ラム式押出成形機、2軸スクリュー式連続押出成形機等の装置を用いて行うことができる。
【0058】
次に、ハニカム成形体を乾燥させて所定の寸法に調整してハニカム乾燥体を得る。ハニカム成形体の乾燥は、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等で行うことができる。なお、全体を迅速且つ均一に乾燥することができることから、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥と、を組み合わせて乾燥を行うことが好ましい。
【0059】
次に、ハニカム乾燥体に磁性体を設ける。ここで、種々の磁性体の形態について、それぞれ製造工程を説明する。
【0060】
(1)磁性体が、表面層に含まれた磁性粉体であり、表面層がセルの隔壁上に設けられている場合。
まず、磁性粉体、及び、ガラス等で構成された固着材を混在させた材料で表面層形成用スラリーを作製する。具体的には、例えば、磁性粉体とガラス粉末を配合し、これにバインダ、分散剤、水を配合して表面層形成用スラリーを作製する。磁性粉体とガラス粉体の配合比としては、体積基準で1:1以上、20:1以下である。
【0061】
次に、ハニカム乾燥体の上流側の端面のセルの一部にマスクを施し、その端面を、表面層形成用スラリーが貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに表面層形成用スラリーを塗工する。このとき、表面層形成用スラリーは、ハニカム乾燥体の一方の端面から所定の長さの領域におけるセル内に塗工する。その後、乾燥させることで、表面層形成用スラリーの水分が除去され、セルの隔壁に表面層が形成される。上記乾燥の条件は、ハニカム成形体を乾燥させる条件と同様の条件を採用することができる。また、上記焼成の条件は、コージェライト化原料を用いた場合には、通常、大気雰囲気下、1410~1440℃の温度で3~15時間とすることができる。なお、ハニカム構造体のセルの全てに表面層を形成する場合は、上流側の端面にマスクを施すことなく、セルに表面層形成用スラリーを塗工すればよい。
【0062】
セル内へのスラリーの充填方法としては、ペースト状の材料を、スキージのようなヘラで押し込むのが簡単な方法である。スキージの押し込み回数で深さを制御するのが簡単である。
【0063】
(2)磁性体が磁性粉体であって、結合材または接着材料に含まれた状態でセルに充填されている場合。
磁性粉体と、金属又はガラスを主成分とする結合材とを含むスラリーをハニカム乾燥体のセル内に流し込み、当該金属の融点、又は、ガラスの軟化点以上の温度で加熱して固める。または、磁性粉体と、シリカ又はアルミナを主成分とする接着材料とを含むスラリーをハニカム乾燥体のセル内に流し込み、加熱してシリカ又はアルミナを固化する。
【0064】
金属又はガラスを主成分とする結合材を使用する場合は、ハニカム乾燥体の耐熱温度以下で一度溶融又は軟化させる必要があるので、結合材の融点又は軟化点の温度以上で加熱することが好ましい。また、使用環境においては、最高温度が約700℃に到達するため、この温度以上の融点又は軟化点を有する金属又はガラスを用いることがより好ましい。具体的な融点又は軟化点としては、例えば、800~1200℃である。一方、シリカ又はアルミナを主成分とする接着材料を用いる場合は、製造時に加熱乾燥によって接着材料が固化することができるものであることが好ましい。加熱乾燥によって上記接着材料が固化することができるものとしては、例えば、シリカまたはアルミナのコロイド分散体が挙げられ、シリカおよびアルミナを含むコロイド分散体であってもよい。また、使用環境における最高温度が約700℃に到達するため、この温度以上の耐熱温度を有するシリカ又はアルミナを用いることがより好ましい。スラリーをハニカム乾燥体のセル内に流し込んだ後、ハニカム乾燥体下流に吸引治具を取り付け、ハニカム乾燥体下流である他方の端面側より吸引し余剰水分を取り除き、磁性体を含む材料を充填する。磁性体を含む材料を加熱処理する条件としては、温度800~1200℃、0.5~3時間で加熱することが好ましい。
アルミナやシリカを主成分とする接着材料を用いる場合においては、スラリーをセル内に流し込む工程はハニカム成形、乾燥体の段階で行っても良い。この場合は、スラリーをハニカム成形体のセル内に流し込んだ後、ハニカム成形体を乾燥し、ハニカム乾燥体の焼成工程において、磁性体が接着材料に固定する工程が同時に行われる。シリカ又はアルミナは、乾燥により固化する効果を発現することが好ましい。
【0065】
(3)磁性体が、板状、棒状、リング状、ワイヤ状、または繊維状を有し、セルに充填されている場合。
まず、磁性体を充填するハニカム乾燥体のセルの断面形状及びセルの長さを考慮して、所定の板状、棒状、ワイヤ状、または繊維状の磁性体を準備する。次に、ハニカム乾燥体の所定のセルに、上流側の端面から所定の長さまで磁性体を差し込むことで、セル内に磁性体を充填する。また、磁性体がリング状である場合は、ハニカム乾燥体の上流側の端面を所定の深さだけ切削除去して溝部を形成しておき、当該溝部にリング状の磁性体を差し込む。または、溝部を形成した生のハニカム成形体を作製しておき、これを乾燥させてハニカム乾燥体を作製した後、当該溝部にリング状の磁性体を差し込む。
【0066】
磁性体を設けた後は、ハニカム乾燥体の所定のセル内に、触媒を担持させる。触媒の担持方法については特に制限はなく、従来の触媒担体の製造方法にて行われている触媒担持の方法に準じて行うことができる。これにより、本発明の実施形態に係る触媒担体を製造することができる。
【0067】
<誘導加熱触媒システム>
図8に、本発明の実施形態における、誘導加熱触媒システム100のガス流れ方向に平行な断面模式図を示す。誘導加熱触媒システム100は、本発明の実施形態に係る触媒担体10、及び、触媒担体10の外周に設けられたコイル19を有する。
【0068】
コイル19は、触媒担体の外周を螺旋状に周回している。コイル19は、触媒担体のガス流れ方向において、磁性体が設けられた領域に対応する位置に設けることができる。例えば、図3図4図7に示す触媒担体は、触媒担体のガス流れ方向において、磁性体が設けられた領域のみに対応するように、コイル19が配置されている。これによって、触媒担体の加熱効率が良好となり、また、誘導加熱触媒システム100の簡略化が可能となる。誘導加熱触媒システム100には、触媒担体10及びコイル19を、無機マット材22を介して収容する金属管23を設けてもよい。
【0069】
誘導加熱触媒システム100では、コイルに流れる交流電流に応じた磁界の変化に応じて磁性体が発熱し、この熱によって触媒担体が昇温することで、触媒の温度が上昇し、触媒反応が促進され、触媒の種類によって、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、炭化水素(CH)が、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、水(H2O)に酸化又は還元される。このような機能が発揮されて、触媒担体を通る排気ガスが浄化される。誘導加熱触媒システム100の触媒担体は、上述のように、少なくともガス流れ方向入口側の端面側に、触媒を担持しない領域Aを有している。触媒担体の、ガス流れ方向入口側の端面側は、低温領域であり、触媒が十分な活性温度に到達し難い。このため、当該低温領域を、触媒を担持しない領域Aとすることで、誘導加熱の際に触媒を無駄なく有効に活用することができ、触媒の使用量を低減することが可能となるため、誘導加熱触媒システム100の製造コストが低減する。
【実施例
【0070】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
図9に、実施例1で準備した誘導加熱触媒システムのガス流れ方向に平行な断面模式図を示す。図9において、それぞれ、「SCR」は選択還元触媒を示し、「DOC」は酸化触媒を示し、「DPF」はディーゼルパティキュレートフィルターを示し、「CC-」はエンジン直下を示し、「UF」は床下を示す。
【0072】
シミュレーションを行う際の触媒担体の配置条件としては、図9に示すように、ディーゼルエンジンの排気ガス流路となる金属管67の入り口からガス流れ方向に200mm離れた位置にCC-SCR61を配置し、CC-SCR61から400mm離れた位置にDOC62/DPF63を配置し、DPF63から250mm離れた位置にミキサー64を配置し、ミキサー64から250mm離れた位置にUF-SCR65を配置する条件とした。
【0073】
CC-SCRは、セルの延伸方向の長さが152.4mmであるコージェライト担体(直径267mm、リブ厚0.076mm、セル密度93セル/cm2)のセル内に、SCR触媒を200g/L担持させる条件とした。実施例1において、SCR触媒を設けた領域は、セル内において、コージェライト担体のガス流れ方向の出口側の端面から50mm内側までの領域(後段50mmの領域)とした。すなわち、コージェライト担体のガス流れ方向の入口側の端面から102.4mmまでの領域は、触媒が担持されていない領域Aとした。この領域Aは、コージェライト担体の入口側端面からコージェライト担体の長さの67%までの位置である。また、実施例1のCC-SCRは、コージェライト担体のガス流れ方向の入口側の端面から出口側の端面まで磁性体を充填したセルを有している。磁性体は20μm径のFe-Cr粒子とガラスとを、体積基準でFe-Cr粒子:ガラス=8:2で配合したものを100g/L配置する条件とした。
【0074】
このような構成の誘導加熱触媒システムを用いて、ディーゼルエンジン(排気量10L)のCC-SCRへの適用例として、米国排ガス規制運転モード(FTP)の初期500秒(電力:30kW)のNOxエミッションを、解析ソフト:Exothermia suite 2019.2を用い、以下に示す初期条件、通電条件、および供給排ガス条件にてシミュレーションした。
<初期条件>
・ハニカム構造体温度:300K
・初期アンモニア吸蔵量:CC-SCR、UF-SCR共に0g/L
<通電条件>
・誘電加熱方法:30kWの誘電加熱相当の熱量をCC-SCR全域に均一付与
・通電時間:FTP走行モード開始から500秒間
<供給排ガス条件>
・NH3濃度:入りガスNOx濃度の1.5倍になるように0~500秒で供給
【0075】
(比較例1)
比較例1として、実施例1に対し、CC-SCRの触媒配置領域をコージェライト担体のガス流れ方向の入口側の端面から出口側の端面まで全域に設けた以外は、同様の条件でシミュレーションを実施した。
【0076】
(参考例1:基準値)
参考例1として、比較例1に対し、CC-SCRに磁性体を配置せず、さらにCC-SCRの周囲にコイルを設けず、誘導加熱をしなかった以外は、同様の構成とした。そして、このような構成の参考例1のNOxエミッションを基準値100%とした。
【0077】
表1に、上述の試験条件及びシミュレーション結果を示す。なお、表1の実施例1及び比較例1のNOxエミッション(相対値%)は、参考例1の基準値100%に対する相対値を示している。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、CC-SCRの全域に触媒を設けた比較例1に対し、実施例1は、CC-SCRの後段50mmの領域にのみ触媒を設けたため、CC-SCRのガス流れ方向の入口側でのNH3の吸着を良好に抑制することができ、排気ガス浄化性能の低下を抑制することができたものと考えられる。また、実施例1は、CC-SCRのガス流れ方向入口近傍の温度の上昇が不十分な領域に触媒を担持せず、誘導加熱の際に触媒を無駄なく有効に活用することができるものと考えられる。
【0080】
(実施例2)
実施例2として、実施例1に対し、CC-SCRのコージェライト担体のガス流れ方向において、前段と後段とに同じ距離だけ2等分し、前段にのみ実施例1と同様の磁性体及びコイルを設け、後段にのみ触媒を担持させた。
すなわち、実施例2のコージェライト担体は実施例1のコージェライト担体と同様であり、セルの延伸方向の長さが152.4mmである。また、後段の触媒配置領域のセルの延伸方向の長さが76.2mmである。ガス流れ方向において磁性体が配置されている領域Aは、コージェライト担体のガス流れ方向入口側の端面からコージェライト担体の長さの50%の位置まで配置されている。このように、実施例2のCC-SCRのコージェライト担体のガス流れ方向において、触媒が設けられた領域と磁性体が設けられた領域とが重なる部分αは無い。
また、誘導加熱の際の電力を10kWとした。それら以外は、実施例1と同様の条件でシミュレーションを実施した。
【0081】
(実施例3)
実施例3として、実施例2に対し、CC-SCRのコージェライト担体のガス流れ方向において、磁性体及びコイルを設けた領域を触媒配置領域へ22.9mmだけ延長して、触媒配置領域と磁性体が設けられた領域とが重なる部分αが触媒配置領域全体の30%となるようにした以外は、実施例2と同様の条件でシミュレーションを実施した。このとき、ガス流れ方向において磁性体が配置されている領域Aは、コージェライト担体のガス流れ方向入口側の端面からコージェライト担体の長さの65%の位置まで配置されている。
【0082】
(実施例4)
実施例4として、実施例2に対し、CC-SCRのコージェライト担体のガス流れ方向において、磁性体及びコイルを設けた領域を触媒配置領域へ38.1mmだけ延長して、触媒配置領域と磁性体が設けられた領域とが重なる部分αが触媒配置領域全体の50%となるようにした以外は、実施例2と同様の条件でシミュレーションを実施した。このとき、ガス流れ方向において磁性体が配置されている領域Aは、コージェライト担体のガス流れ方向入口側の端面からコージェライト担体の長さの75%の位置まで配置されている。
【0083】
(実施例5)
実施例5として、実施例2に対し、CC-SCRのコージェライト担体のガス流れ方向において、磁性体及びコイルを設けた領域を触媒配置領域へ60.96mmだけ延長して、触媒配置領域と磁性体が設けられた領域とが重なる部分αが触媒配置領域全体の80%となるようにした以外は、実施例2と同様の条件でシミュレーションを実施した。このとき、ガス流れ方向において磁性体が配置されている領域Aは、コージェライト担体のガス流れ方向入口側の端面からコージェライト担体の長さの90%の位置まで配置されている。
【0084】
表2に、上述の試験条件及びシミュレーション結果を示す。なお、表2の実施例2~5のNOxエミッション(相対値%)は、参考例1の基準値100%に対する相対値を示している。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示すように、触媒が設けられた領域と磁性体が設けられた領域とが重なる部分αは、大きければそれだけ触媒を良好に加熱することができ、排気ガス浄化性能が向上することがわかった。
【符号の説明】
【0087】
10、20、30、40、50 触媒担体
11、21、31、41、51 ハニカム構造体
12 触媒
13 セル
14 外周壁
15 隔壁
16 柱状ハニカム構造部
17 磁性体
18 表面層
19 コイル
22 無機マット材
23 金属管
61 CC-SCR
62 DOC
63 DPF
64 ミキサー
65 UF-SCR
66 無機マット材
67 金属管
68 コイル
100 誘導加熱触媒システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9