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特許7481503リチウムイオン二次電池の電解液及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の電解液及びその使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240501BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240501BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240501BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/485
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M10/052
H01M10/0525
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022572790
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 CN2020124715
(87)【国際公開番号】W WO2021238052
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】202010467257.3
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522354388
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100159329
【弁理士】
【氏名又は名称】三縄 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲馮▼ ▲紹▼▲偉▼
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111106383(CN,A)
【文献】特開2001-185214(JP,A)
【文献】特開2003-132946(JP,A)
【文献】特開2005-222830(JP,A)
【文献】特開平11-003728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0569
H01M 10/0568
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/58
H01M 4/587
H01M 4/485
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 10/052
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含み、
前記有機溶媒は式IIに示される構造式のスルホン系化合物を含み、nの取り得る値の範囲は0、1、2、3、4であり、
【化1】
前記スルホン系化合物の添加量は、前記有機溶媒の総質量の5~10wt%であり
前記添加剤は式Iに示される構造式のホウ酸エステル化合物および炭酸ビニレンを含み、nの取り得る値の範囲は0、1、2、3、4であり、
【化2】
前記ホウ酸エステル化合物の添加量は、電解液の総質量の0.5~1wt%であ
前記炭酸ビニレンの添加量は、電解液の総質量の0.5~1wt%である、
リチウムイオン二次電池の電解液。
【請求項2】
ホウ酸エステル化合物は
【化3】
を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記スルホン系化合物は、
【化4】
を含む、請求項に記載の電解液。
【請求項4】
前記有機溶媒は環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートを含み、前記環状カーボネートは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びγ-ブチロラクトンから選ばれる少なくとも一種であり、前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸プロピルから選ばれる少なくとも一種であり、かつ
前記リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiBOB、LiDFOB、LiAsF、Li(CFSON、Li(FSON、LiPO、LiCFSO及びLiClOから選ばれる少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電解液を含む、リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
使用される正極活物質は、LiCoO、LiMn、LiMnO、LiMnO、LiFePO、LiNiMn1-x、LiNiCoMn、Li1+aMn1-x、LiCo1-x、LiFe1-xPO、LiMn2-y及びLiMn1-xから選ばれる少なくとも一種であり、ただし、Mは、Ni、Co、Mn、Al、Cr、Mg、Zr、Mo、V、Ti、B、F及びYから選ばれる少なくとも一種であり、aの取り得る値の範囲は0~0.2、xの取り得る値の範囲は0~1、yの取り得る値の範囲は0~1、zの取り得る値の範囲は0~1であり、かつ
使用される負極活物質は、天然黒鉛、人工黒鉛、軟質炭素、硬質炭素、チタン酸リチウム、ケイ素、ケイ素-炭素合金及びケイ素-酸素合金から選ばれる少なくとも一種である、請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
使用される正極活物質は、低コバルト又はコバルトフリー正極材料である、請求項5又は6に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池を含む、エネルギー貯蔵デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の分野に関し、例えば、リチウムイオン二次電池の電解液及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に適用されるリチウムイオン電池の産業は活発に発展しており、電気自動車の長時間作動、高い航続里程、高温及び低温環境での正常の使用、急速な充電可能性及び長い耐用年数を有する要求を満たすために、より高いエネルギー密度、より優れた高温サイクル、貯蔵性能及び低温倍率性能を有するリチウムイオン二次電池を開発する必要がある。電解液の電気化学的安定性は、リチウムイオン二次電池の高温サイクル、貯蔵、低温充放電性能に顕著な影響を与えるため、電解液の組成を改善し、正極と負極に高温安定性及びサイクル安定性を有するSEIフィルムを形成可能にし、高温及び低温での電池セルの総合性能を向上させるために非常に重要な意味を持つ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、リチウムイオン動力電池に使用される正極は高ニッケル含有量の三元正極材料(LiNiCoMn,LiNiCo1-X)であることが多く、近年、世界的なコバルト金属資源の希少性により、コバルトフリー正極材料(LiNiMn1-X)は研究の焦点になる。しかしながら、コバルト金属を含まないため、この正極材料は高温での構造が不安定であり、表面に不可逆的な相変化、酸素放出、非導電性NiOx化合物の生成が発生しやすく、且つサイクル過程にNi、Mn金属イオンが溶出しやすく、負極の表面で還元してインピーダンスを高め、また、正極の高価なNi4+は、電解液との触媒酸化反応を起こしやすく、ガスの発生につながり、サイクル寿命が低下する。
【0004】
本開示は、リチウムイオン電池の高温サイクル及び貯蔵性能を向上させ、高温貯蔵時のガス発生を抑制し、電池の総合性能を向上させることができるリチウムイオン二次電池の電解液及びその使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン二次電池の電解液を提供しており、前記電解液は有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含み、前記添加剤は式Iに示される構造式のホウ酸エステル化合物を含み、nの取り得る値の範囲は0、1、2、3、4である。
【化1】
【0006】
一実施例において、前記ホウ酸エステル化合物の添加量は、前記電解液の総質量の0.01~5wt%であり、例えば、0.01wt%、0.1wt%、0.5wt%、1wt%、2wt%、3wt%、4wt%又は5wt%などである。
【0007】
一実施例において、式Iに示される構造式中の炭素原子は、ハロゲン置換基を含む。
【0008】
一実施例において、前記ホウ酸エステル化合物は
【化2】
を含み、即ち、ホウ酸トリメチレンを含む。
【0009】
一実施例において、前記添加剤は炭酸ビニレンを含み、前記炭酸ビニレンの添加量は電解液の総質量の0.1~3wt%であってもよく、例えば、0.1wt%、0.5wt%、1wt%、1.4wt%、1.8wt%、2.2wt%、2.6wt%又は3wt%などであってもよい。
【0010】
一実施例において、前記有機溶媒は式IIに示される構造式のスルホン系化合物を含み、nの取り得る値の範囲は0、1、2、3、4である。
【化3】
【0011】
一実施例において、前記スルホン系化合物の添加量は、前記有機溶媒の総質量の1~20wt%であり、例えば、1wt%、3wt%、5wt%、10wt%、12wt%、14wt%、16wt%、18wt%又は20wt%などである。
【0012】
一実施例において、前記スルホン系化合物は、
【化4】
の少なくとも1つを含む。
【0013】
一実施例において、前記有機溶媒は環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートを含み、前記環状カーボネートは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びγ-ブチロラクトンから選ばれる少なくとも一種であり、前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸プロピルから選ばれる少なくとも一種である。
【0014】
一実施例において、前記リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiBOB、LiDFOB、LiAsF、Li(CFSON、Li(FSON、LiPO、LiCFSO及びLiClOから選ばれる少なくとも一種である。
【0015】
本開示は、一実施例において上記リチウムイオン二次電池の電解液を有するリチウムイオン二次電池を提供する。
【0016】
一実施例において、前記リチウムイオン二次電池に使用される正極活物質は、LiCoO、LiMn、LiMnO、LiMnO、LiFePO、LiNiMn1-x、LiNiCoMn、Li1+aMn1-x、LiCo1-x、LiFe1-xPO、LiMn2-y及びLiMn1-xから選ばれる少なくとも一種であり、ただし、Mは、Ni、Co、Mn、Al、Cr、Mg、Zr、Mo、V、Ti、B、F及びYから選ばれる少なくとも一種であり、aの取り得る値の範囲は0~0.2、xの取り得る値の範囲は0~1、yの取り得る値の範囲は0~1、zの取り得る値の範囲は0~1である。
【0017】
一実施例において、前記リチウムイオン二次電池に使用される正極活物質は、低コバルト又はコバルトフリー正極材料である。
【0018】
本開示に係るコバルトフリー正極材料は、正極材料が優れた倍率性能、サイクル安定性などの総合性能を有することを確保する上で従来の希少金属であるコバルトの供給源による正極材料の制限を解除することができる。
【0019】
一実施例において、前記リチウムイオン二次電池に使用される負極活物質は、天然黒鉛、人工黒鉛、軟質炭素、硬質炭素、チタン酸リチウム、ケイ素、ケイ素-炭素合金及びケイ素-酸素合金から選ばれる少なくとも一種である。
【0020】
本開示に係る負極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離反応を発生させ、リチウムイオン二次電池の電気化学的性能及びサイクル性能などをさらに確保することができる。
【0021】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン二次電池を提供しており、前記リチウムイオン二次電池は正極片、負極片、セパレータ、上記リチウムイオン二次電池の電解液及び包装を含み、前記正極片は、正極集電体と、正極活物質を含む正極集電体に設けられた正極メンブレンとを含み、前記負極片は、負極集電体と、負極活物質を含む負極集電体に設けられた負極メンブレンとを含み、セパレータは正極片と負極片との間に設けられ、包装は、アルミニウムプラスチックフィルム、ステンレス鋼シリンダ、正方形アルミニウムシェルなどであってもよい。
【0022】
本開示は、一実施例において上記リチウムイオン二次電池又は上記リチウムイオン二次電池の電解液を含むエネルギー貯蔵デバイスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン二次電池の電解液を提供しており、前記電解液は有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含み、前記添加剤は式Iに示される構造式のホウ酸エステル化合物を含み、nの取り得る値の範囲は0、1、2、3、4である。
【化5】
【0024】
本開示に係る電解液は、低コバルト又はコバルトフリー正極材料によりよく適用可能であり、コバルトフリー材料はコバルト金属を含まないため、高温での構造が不安定であり、表面に不可逆的な相変化、酸素放出、非導電性NiOx化合物の生成が発生しやすく、且つサイクル過程にNi、Mn金属イオンが溶出しやすく、負極の表面で還元してインピーダンスを高め、また、正極の高価なNi4+は、電解液との触媒酸化反応を起こしやすく、ガスの発生につながり、サイクル寿命が低下する。
【0025】
本開示に係る電解液は、充放電過程に安定なSEIフィルムを形成し、電極材料の表面での電解液の反応を効果的に抑制し、正極材料の金属の溶出を抑制し、リチウムイオン電池の高温サイクル及び貯蔵性能を向上させ、高温貯蔵時のガス発生を抑制することにより、電池の総合性能を向上させることができる。
【0026】
一実施例において、前記ホウ酸エステル化合物の添加量は、前記電解液の総質量の0.01~5wt%であり、例えば、0.01wt%、0.1wt%、0.5wt%、1wt%、2wt%、3wt%、4wt%又は5wt%などである。ホウ酸エステル化合物の添加量が少なすぎると、正極金属の触媒反応活性を低下させる効果が明らかでないだけでなく、正極材料の表面に安定なSEIフィルムを形成することに不利であり、正極材料は高温で構造が不安定であり、金属の溶出及びガスの発生を引き起こしやすい問題を効果的に解決できず、ホウ酸エステル化合物の添加量が多すぎると、電解液の粘度が高すぎて電池の電気化学的性能に影響を与えるだけでなく、同時に低温での電解液の導電性が低下し、電池の低温性能が低下する。本開示では、ホウ酸エステル化合物を上記添加量に制御することにより、電気化学的性能が低下しない前提で、電極材料の表面での電解液の反応を効果的に抑制し、正極材料の金属の溶出を抑制し、リチウムイオン電池の高温サイクル、貯蔵性能を向上させ、高温貯蔵時のガス発生を抑制し、よって、電池の総合性能を向上させることができる。
【0027】
一実施例において、式Iに示される構造式中の炭素原子は、ハロゲン置換基を含む。
【0028】
一実施例において、前記ホウ酸エステル化合物は
【化6】
を含み、即ち、ホウ酸トリメチレンを含む。
【0029】
本開示に係るホウ酸トリメチレンは分子量が低く、電解液の添加剤として使用されると、電子リッチの正極金属元素Ni、Mnと錯形成反応を発生し、正極金属の触媒反応活性を低下させ、正極材料の表面に酸化反応して安定なSEIフィルムを形成するだけでなく、電解液の粘度に対するホウ酸エステル化合物の悪影響を減らすことができ、これにより、リチウムイオン二次電池の電気化学的性能及びサイクル性能をさらに向上させ、高温での電池のガス発生率を低下させることで、リチウム電池が高温及び低温の両方でも良好な総合性能を有することができる。
【0030】
一実施例において、前記添加剤は炭酸ビニレンを含み、前記炭酸ビニレンの添加量は電解液の総質量の0.1~3wt%であってもよく、例えば、0.1wt%、0.5wt%、1wt%、1.4wt%、1.8wt%、2.2wt%、2.6wt%又は3wt%などであってもよい。
【0031】
本開示に係る炭酸ビニレンとホウ酸エステル化合物を組み合わせて電解液に使用し、エチレンカーボネートを上記添加量に制御することにより、リチウムイオン二次電池の高温及び低温性能並びにガス発生の問題をよりよく改善し、電池のサイクル性能及び高温での貯蔵性能をより著しく向上させることができる。
【0032】
一実施例において、前記炭酸ビニレンの添加量は電解液の総質量の0.5~1wt%であってもよく、これによりリチウムイオン二次電池の高温及び低温性能並びにガス発生の問題をさらに改善し、常温及び高温での総合性能を向上させることができる。
【0033】
一実施例において、前記有機溶媒は式IIに示される構造式のスルホン系化合物を含み、nの取り得る値の範囲は0、1、2、3、4である。
【化7】
【0034】
本開示の式IIに示される環状スルホン系溶媒は、カーボネート溶媒よりも高い耐酸化性を有し、正極表面の高価な金属Ni4+により容易に酸化されず、これにより電解液の耐酸化性を著しく向上させ、電池の高温性能を効果的に改善してガスの発生を低下させることができ、特に該スルホン系化合物とホウ酸エステル化合物及び/又は炭酸ビニレンとを共通に使用した後に相乗効果を有することもできる。
【0035】
一実施例において、前記スルホン系化合物の添加量は、前記有機溶媒の総質量の1~20wt%であり、例えば、1wt%、3wt%、5wt%、10wt%、12wt%、14wt%、16wt%、18wt%又は20wt%などである。
【0036】
本開示に係るスルホン系化合物の添加量が少なすぎると、電解液の耐酸化性を著しく改善できず、スルホン系化合物の添加量が多すぎると、スルホン系化合物を電解液に完全に溶解できず、スルホン系化合物と電解液が互いに成層化することにつながる。本開示では、スルホン系化合物を上記添加量に制御することにより、電解液の耐酸化性を著しく改善し、電池の高温性能を効果的に改善してガスの発生を低下させるだけでなく、電解液の誘電率を向上させ、電解液のイオン伝導度を改善することができる。
【0037】
一実施例において、前記スルホン系化合物は、
【化8】
の少なくも1つを含む。
【0038】
本開示に係るスルホラン及びシクロペンタスルホンは、他のシクロスルホン系よりも小さい分子量及び低い粘度を有し、溶媒として電解液に使用すると、電解液が低い粘度及び高い電気伝導度を有することをさらに確保でき、また、電解液の耐酸化性を向上させる前提で電池の電気化学的性能、高温性能及び高温でのガス発生の問題をさらに改善することができる。
【0039】
一実施例において、前記有機溶媒は環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートを含み、前記環状カーボネートは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びγ-ブチロラクトンから選ばれる少なくとも一種であり、前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸プロピルから選ばれる少なくとも一種である。
【0040】
一実施例において、前記リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiBOB、LiDFOB、LiAsF、Li(CFSON、Li(FSON、LiPO、LiCFSO及びLiClOから選ばれる少なくとも一種である。
【0041】
本開示に係るリチウムイオン二次電池の電解液は少なくとも以下の利点を有する。使用されるホウ酸エステル化合物は電子不足構造のルイス酸であるホウ原子を含み、電子リッチの正極金属元素Ni、Mnと錯形成反応を発生し、正極金属の触媒反応活性を低下させることができ、一方で、充放電過程に正極材料の表面で酸化反応して安定なSEIフィルムを形成し、電極材料の表面での電解液の反応を効果的に抑制し、正極材料の金属の溶出を抑制し、リチウムイオン電池の高温サイクル及び貯蔵性能を向上させ、高温貯蔵時のガス発生を抑制することにより、電池の総合性能を向上させることができる。従来の電解液と比べて、該電解液は低コバルト又はコバルトフリー正極材料に適用可能であり、本開示に係る電解液を有するリチウムイオン二次電池のサイクル安定性がよりよく、高温貯蔵後の容量保持率がより高く、且つガス発生率がより低く、高温及び低温での総合性能がより良好である。
【0042】
本開示は、一実施例において上記リチウムイオン二次電池の電解液を有するリチウムイオン二次電池を提供する。
【0043】
一実施例において、前記リチウムイオン二次電池に使用される正極活物質は、LiCoO、LiMn、LiMnO、LiMnO、LiFePO、LiNiMn1-x、LiNiCoMn、Li1+aMn1-x、LiCo1-x、LiFe1-xPO、LiMn2-y及びLiMn1-xから選ばれる少なくとも一種であり、ただし、Mは、Ni、Co、Mn、Al、Cr、Mg、Zr、Mo、V、Ti、B、F及びYから選ばれる少なくとも一種であり、aの取り得る値の範囲は0~0.2、xの取り得る値の範囲は0~1、yの取り得る値の範囲は0~1、zの取り得る値の範囲は0~1である。
【0044】
一実施例において、前記リチウムイオン二次電池に使用される正極活物質は、低コバルト又はコバルトフリー正極材料である。
【0045】
本開示に係るコバルトフリー正極材料は、正極材料が優れた倍率性能、サイクル安定性などの総合性能を有することを確保する上で従来の希少金属であるコバルトの供給源による正極材料の制限を解除することができる。
【0046】
一実施例において、前記リチウムイオン二次電池に使用される負極活物質は、天然黒鉛、人工黒鉛、軟質炭素、硬質炭素、チタン酸リチウム、ケイ素、ケイ素-炭素合金及びケイ素-酸素合金から選ばれる少なくとも一種である。
【0047】
本開示に係る負極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離反応を発生させ、リチウムイオン二次電池の電気化学的性能及びサイクル性能などをさらに確保することができる。
【0048】
本開示は、一実施例においてリチウムイオン二次電池を提供しており、前記リチウムイオン二次電池は正極片、負極片、セパレータ、上記リチウムイオン二次電池の電解液及び包装を含み、前記正極片は、正極集電体と、正極活物質を含む正極集電体に設けられた正極メンブレンとを含み、前記負極片は、負極集電体と、負極活物質を含む負極集電体に設けられた負極メンブレンとを含み、セパレータは正極片と負極片との間に設けられ、包装は、アルミニウムプラスチックフィルム、ステンレス鋼シリンダ、正方形アルミニウムシェルなどであってもよい。
【0049】
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、少なくとも以下の利点を有する。サイクル安定性がよく、高温貯蔵後の容量保持率が高く、且つガス発生率が低く、電池セルの膨張率が低く、高温及び低温の両方でも優れた総合性能を有する。
【0050】
本開示は、一実施例において上記リチウムイオン二次電池又は上記リチウムイオン二次電池の電解液を含むエネルギー貯蔵デバイスを提供する。
【0051】
従来の技術と比べて、本開示に係るエネルギー貯蔵デバイスはサイクル安定性がよく、高温貯蔵後の電池膨張率が低く、安全性が高く、且つ耐用年数が長い。
【実施例
【0052】
実施例1
本実施例はリチウムイオン二次電池を提供しおり、具体的な製造方法は以下のステップを含んだ。
【0053】
(1)リチウムイオン二次電池の正極片の製造
正極活物質であるニッケル・マンガン酸リチウム(LiNi0.75Mn0.25)、導電剤Super-P(超導電性カーボンブラック)、粘着剤PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を96:2.0:2.0の質量比で溶媒のN-メチルピロリドンに溶解し、均一に混合して正極スラリーを作成し、次に正極スラリーを集電体のアルミニウム箔に均一に塗布し、塗布量は18mg/cmであり、次に85℃で乾燥させてから冷間プレス、エッジカット、片を打ち抜き、バーに分割し、次に85℃の真空条件で4時間乾燥させ、タブを溶接し、要求を満たすリチウムイオン二次電池の正極片を作成した。
【0054】
(2)リチウムイオン二次電池の負極片の製造
負極活物質である人工黒鉛、導電剤Super-P(超導電性カーボンブラック)、増稠剤CMC(カルボキシメチルセルロース)、粘着剤SBR(スチレンブタジエンゴム)を96.5:1.0:1.0:1.5の質量比で溶媒の脱イオン水に溶解し、均一に混合して負極スラリーを作成し、次に負極スラリーを集電体のアルミニウム箔に均一に塗布し、塗布量は8.9mg/cmであり、次に85℃で乾燥させてから冷間プレス、エッジカット、片を打ち抜き、バーに分割し、次に110℃の真空条件で4時乾燥させ、タブを溶接し、要求を満たすリチウムイオン二次電池の負極片を作成した。
【0055】
(3)リチウムイオン二次電池の電解液の調製
リチウムイオン二次電池の電解液は、1mol/LのLiPFをリチウム塩とし、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジエチルカーボネート(DEC)の混合物を非水有機溶媒とし、ただし、EC:EMC:DECの体積比は30:50:20であった。また、リチウムイオン二次電池の電解液に添加剤をさらに含み、添加剤はリチウムイオン二次電池の電解液の総質量の0.5%を占めるホウ酸トリメチレンであり、即ち、式Iに示される構造式中のnが1の化合物であった。
【0056】
(4)リチウムイオン二次電池の製造
上記のプロセスにより製造されたリチウムイオン二次電池の正極片、負極片及びセパレータ(PEフィルム)を巻き付けプロセスによって、厚みが8mm、幅が60mm、長さが130mmの電池セルを製作し、75℃で10時間真空ベークし、電解液を注入して24時間静かに放置してから、0.1C(160mA)の定電流で4.2Vになるまで充電し、次に4.2Vの定期電圧で電流が0.05C(80mA)に低下するまで充電し、次に0.1C(160mA)の定電流で2.8Vになるまで放電し、充放電を2回繰り返し、最後に0.1C(160mA)の定電流で3.8Vになるまで充電し、リチウムイオン二次電池の製造を完了した。
【0057】
実施例2
実施例1との区別は、ステップ(3)において、電解液における添加剤がリチウムイオン二次電池の電解液の総質量の1%を占めるホウ酸トリメチレンであることにあった。
【0058】
実施例3
本実施例と実施例1の区別は、ステップ(3)において、電解液における添加剤がリチウムイオン二次電池の電解液の総質量の0.5%を占めるホウ酸トリメチレン、及びリチウムイオン二次電池の電解液の総質量の0.5%を占める炭酸ビニレン(VC)であることにあった。
【0059】
実施例4
本実施例と実施例1の区別は、ステップ(3)において、電解液における有機溶媒がスルホラン(SL)をさらに含み、スルホランが有機溶媒の総質量の5%を占め、有機溶媒の組成及び体積比がEC:EMC:DEC:SL=30:50:15:5であることにあった。
【0060】
実施例5
実施例1との区別は、ステップ(3)において、電解液における機溶媒がスルホラン(SL)をさらに含み、スルホランが有機溶媒の総質量の10%を占め、有機溶媒の組成及び体積比がEC:EMC:DEC:SL=30:50:10:10であることにあった。
【0061】
実施例6
本実施例と実施例1の区別は、ステップ(3)において、電解液における有機溶媒がスルホラン(SL)をさらに含み、スルホランが有機溶媒の総質量の10%を占め、有機溶媒の組成及び体積比がEC:EMC:DEC:SL=30:50:10:10であり、電解液における添加剤がリチウムイオン二次電池の電解液の総質量0.5%を占めるホウ酸トリメチレン、及びリチウムイオン二次電池の電解液の総質量0.5%を占める炭酸ビニレン(VC)であることにあった。
【0062】
比較例1
本実施例と実施例1の区別は、ステップ(3)において、電解液にいずれの添加剤及びスルホン系溶媒を添加しないことにあった。
【0063】
実施例1~6及び比較例1で製造されたリチウムイオン二次電池及び調製された電解液を評価した。
【0064】
1、リチウムイオン二次電池の高温サイクル性能のテスト
テスト方法は次のとおりであった。60℃で、まず1Cの定電流で4.2Vになるまでリチウムイオン二次電池を充電してから、4.2Vの定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、次に1Cの定電流で2.8Vになるまでリチウムイオン二次電池を放電し、これは1つの充放電サイクル過程であり、今回の放電容量は1サイクル目の放電容量であった。リチウムイオン二次電池を上記のようにサイクル充放電テストを行い、500サイクル目の放電容量を取った。
500サイクル後のリチウムイオン二次電池の容量保持率(%)=[500サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量]×100%。テスト結果を表1に示した。
【0065】
2、テストリチウムイオン二次電池の高温貯蔵性能のテスト
テスト方法は次のとおりであった。25℃で、まず1Cの定電流で4.2Vになるまでリチウムイオン二次電池を充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、次に1Cの定電流で2.8Vになるまでリチウムイオン二次電池を放電し、今回の放電容量はリチウムイオン二次電池の高温貯蔵前の放電容量であり、次に以1Cの定電流で4.2Vになるまでリチウムイオン二次電池を充電し、リチウムイオン二次電池を60℃で放置して30日間貯蔵し、貯蔵終了後に、リチウムイオン二次電池を25℃の環境で放置し、次に0.5Cの定電流で2.8Vになるまでリチウムイオン二次電池を放電し、次に1Cの定電流で4.2Vになるまでリチウムイオン二次電池を充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流が1Cになるまで充電し、次に1Cの定電流で2.8Vになるまでリチウムイオン二次電池を放電し、最後1回の放電容量はリチウムイオン二次電池の高温貯蔵後の放電容量であった。
リチウムイオン二次電池の高温貯蔵後の容量保持率(%)=[リチウムイオン二次電池の高温貯蔵後の放電容量/リチウムイオン二次電池の高温貯蔵前の放電容量]×100%。テスト結果を表1に示した。
【0066】
3、テストリチウムイオン二次電池の高温貯蔵ガス発生性能
テスト方法は次のとおりであった。25℃で、まず1Cの定電流で4.2Vになるまでリチウムイオン二次電池を充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、次に1Cの定電流で2.8Vになるまでリチウムイオン二次電池を放電し、今回の放電容量はリチウムイオン二次電池の高温貯蔵前の放電容量であり、次に1Cの定電流で4.2Vになるまでリチウムイオン二次電池を充電し、4.2Vの定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、リチウムイオン電池を満充電した。排水法を用いて電池セルの体積をテストし、マイクロメーターを用いて電池セルの厚みを測定した。
次にリチウムイオン電池を60℃で放置して30日間貯蔵し、貯蔵終了後に、リチウムイオン二次電池を25℃の環境で放置し、排水法を用いて電池セルの体積をテストし、マイクロメーターを用いて電池セルの厚みを測定した。次に0.5Cの定電流で2.8Vになるまでリチウムイオン二次電池を放電し、次に1Cの定電流で4.2Vになるまでリチウムイオン二次電池を充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流が1Cになるまで充電し、次に1Cの定電流で2.8Vになるまでリチウムイオン二次電池を放電し、最後1回の放電容量はリチウムイオン二次電池の高温貯蔵後の放電容量であった。
【0067】
電池セルの体積膨張率=(貯蔵後の体積/貯蔵前の体積-1)×100%。テスト結果を表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から分かるように、実施例1~2及び比較例1の比較から、いずれの添加剤を添加しない電池と比べて、ホウ酸トリメチレンの添加につれて、リチウムイオン二次電池が60℃で30日間貯蔵した後の容量保持率が増加し、60℃サイクル後の容量保持率も向上し、且つ高温貯蔵してガス発生した後に低下し、これは、該ホウ酸エステル化合物が高温で電解液と正極材料の副反応を抑制し、電池が高温サイクル貯蔵後の容量保持率を向上させることができることを示した。
【0070】
実施例3から分かるように、添加剤のホウ酸トリメチレンと添加剤のVC(炭酸ビニレン)を組み合わせた後に、電池のサイクル性能及び貯蔵性能の改善がより顕著になった。
【0071】
実施例4~6から分かるように、溶媒にスルホン系溶媒スルホラン(SL)を添加した後に、電池のサイクル寿命を改善し、ガス発生が低下し、これは、スルホランが電解液の耐酸化性を向上させ、正極界面の副反応を低減することを示した。
【0072】
実施例1~6から分かるように、電解液に同時にホウ酸トリメチレン、炭酸ビニレン及びスルホランを添加した後に、電池のサイクル寿命、高温貯蔵の容量保持率及びガス発生の改善に相乗効果があった。
【0073】
要約すると、本開示に係る実施例の電解液組成を有するリチウムイオン二次電池は、常温及び高温で良好なサイクル安定性及び高温貯蔵安定性を有することを示した。