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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B62K 5/007 20130101AFI20240501BHJP
   B62K 5/025 20130101ALI20240501BHJP
【FI】
B62K5/007
B62K5/025
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023510142
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014362
(87)【国際公開番号】W WO2022208876
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(72)【発明者】
【氏名】粒崎 春介
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正典
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-275486(JP,A)
【文献】特開平10-216178(JP,A)
【文献】特開2000-85378(JP,A)
【文献】特開2004-321312(JP,A)
【文献】特開2020-048611(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2075183(EP,A1)
【文献】特開2019-97601(JP,A)
【文献】特開2019-064359(JP,A)
【文献】特開2018-51101(JP,A)
【文献】特開2007-61342(JP,A)
【文献】特開2003-261039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 5/007
B62K 5/025
A61G 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪を含む少なくとも三輪の車輪と、
前記後輪を駆動する駆動源と、
前記後輪を支持するスイングアームを有し、ピボットが前記後輪の回転軸よりも前方に位置するサスペンションと、
乗員が座るシートと、
を備えた車両であって、
前記車両のホイールベースをWB、前記後輪の外径をDwとしたとき、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たし、
前記シートに質量75kgの物体を乗せて水平な路面で静止している所定状態の側面視において、
前記路面から前記ピボットまでの高さをHp、
前記シート前部の上端部と、前記後輪が前記路面から受ける駆動力の反作用が前記ピボットに作用する作用線との間の上下方向の距離をHsとしたとき、
3.0 ≦ Hs/Hp
を満たす、車両。
【請求項2】
前輪および後輪を含む少なくとも三輪の車輪と、
前記後輪を駆動する駆動源と、
前記後輪を支持するスイングアームを有し、ピボットが前記後輪の回転軸よりも前方に位置するサスペンションと、
乗員が座るシートと、
を備えた車両であって、
前記車両のホイールベースをWB、前記後輪の外径をDwとしたとき、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たし、
前記シートに質量75kgの物体を乗せて水平な路面で静止している所定状態において、
前記路面から前記ピボットまでの高さをHp、
前記路面からシート前部の上端部までの高さをHgとしたとき、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp
を満たす、車両。
【請求項3】
前記作用線は、前記所定状態の側面視において、前記後輪が前記路面に接触する位置と、前記ピボットの中心とを通る、請求項1に記載の車両。
【請求項4】
前記車両は、
3.0 ≦ Hs/Hp ≦ 6.0
を満たす、請求項1または3に記載の車両。
【請求項5】
前記所定状態において、前記路面から前記シートの座面の上端部までの高さをHcとしたとき、
3.0 ≦ (Hc-Hp)/Hp
を満たす、請求項1、3および4のいずれかに記載の車両。
【請求項6】
前記車両は、前記所定状態において、
3.0 ≦ (Hc-Hp)/Hp≦ 6.0
を満たす、請求項5に記載の車両。
【請求項7】
前記車両は、前記所定状態において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp ≦ 6.0
を満たす、請求項2に記載の車両。
【請求項8】
前記車両は、
1.5 ≦ WB/Dw ≦ 2.5
を満たす、請求項1から7のいずれかに記載の車両。
【請求項9】
前記シートは、シートベースと、前記シートベースの上方に設けられたクッションとを備え、
前記所定状態において、前記路面から前記シートベースの上端部までの高さは、500mm以上である、請求項1から8のいずれかに記載の車両。
【請求項10】
前記所定状態において、前記路面から前記シートベースの上端部までの高さは、500mm以上700mm以下である、請求項9に記載の車両。
【請求項11】
前記所定状態において、前記ピボットの高さは、前記後輪の回転軸の高さよりも低い、請求項1から10のいずれかに記載の車両。
【請求項12】
前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上である、請求項1から11のいずれかに記載の車両。
【請求項13】
前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上150mm以下である、請求項12に記載の車両。
【請求項14】
前記車両は、前記乗員が操舵を行うハンドルを備えたハンドル形電動車椅子である、請求項1から13のいずれかに記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
人間を乗せて走行する車両の一つとして、ハンドル形電動車椅子が知られている(例えば特許文献1)。ハンドル形電動車椅子は、電動カートと称される場合もある。
【0003】
一般的に、ハンドル形電動車椅子は、比較的平坦な舗装路を走行する用途で利用されている。例えば、ユーザは、ハンドル形電動車椅子に乗ることで、自宅と店舗との間を移動して買い物を行ったりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-247155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような車両の走行性能および乗り心地をより向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある実施形態に係る車両は、前輪および後輪を含む少なくとも三輪の車輪と、前記後輪を駆動する駆動源と、前記後輪を支持するスイングアームを有し、ピボットが前記後輪の回転軸よりも前方に位置するサスペンションと、乗員が座るシートと、を備えた車両であって、前記車両のホイールベースをWB、前記後輪の外径をDwとしたとき、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たし、
前記シートに質量75kgの物体を乗せて水平な路面で静止している所定状態の側面視において、前記路面から前記ピボットまでの高さをHp、前記シート前部の上端部と、前記後輪が前記路面から受ける駆動力の反作用が前記ピボットに作用する作用線との間の上下方向の距離をHsとしたとき、
3.0 ≦ Hs/Hp
を満たす。
【0007】
車両の未舗装路および段差に対する走破性を高めようとした場合、車輪の外径を大きくすることが考えられる。一方で、車両の前後方向の長さに制限がある場合に、車輪の外径を大きくすると、ホイールベースは短くなり得る。ホイールベースが短くなると加減速時にピッチングが発生しやすくなり、乗員は違和感を覚える場合がある。
【0008】
本発明のある実施形態によれば、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たすホイールベースが短い車両において、
3.0 ≦ Hs/Hp
を満たす。
【0009】
これにより、加減速時にピボットに作用するモーメントを適切な大きさにでき、ピッチングを抑制することができる。
【0010】
本発明のある実施形態に係る車両は、前輪および後輪を含む少なくとも三輪の車輪と、前記後輪を駆動する駆動源と、前記後輪を支持するスイングアームを有し、ピボットが前記後輪の回転軸よりも前方に位置するサスペンションと、乗員が座るシートと、を備えた車両であって、前記車両のホイールベースをWB、前記後輪の外径をDwとしたとき、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たし、前記シートに質量75kgの物体を乗せて水平な路面で静止している所定状態において、前記路面から前記ピボットまでの高さをHp、前記路面からシート前部の上端部までの高さをHgとしたとき、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp
を満たす。
【0011】
車両の未舗装路および段差に対する走破性を高めようとした場合、車輪の外径を大きくすることが考えられる。一方で、車両の前後方向の長さに制限がある場合に、車輪の外径を大きくすると、ホイールベースは短くなり得る。ホイールベースが短くなると加減速時にピッチングが発生しやすくなり、乗員は違和感を覚える場合がある。
【0012】
本発明のある実施形態によれば、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たすホイールベースが短い車両において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp
を満たす。
【0013】
車両の重心位置となるシート前部の上端部とピボット位置との間の距離を離すことで、加減速時に後輪が路面から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0014】
ある実施形態において、前記作用線は、前記所定状態の側面視において、前記後輪が前記路面に接触する位置と、前記ピボットの中心とを通ってもよい。
【0015】
後輪が路面から受ける反作用のピボットへの伝達を考慮したピッチングの抑制を実現できる。
【0016】
ある実施形態において、前記車両は、
3.0 ≦ Hs/Hp ≦ 6.0
を満たしてもよい。
【0017】
ホイールベースが短い車両において、
3.0 ≦ Hs/Hp ≦ 6.0
を満たすことにより、加減速時にピボットに作用するモーメントを適切な大きさにでき、ピッチングを抑制することができる。
【0018】
ある実施形態において、前記所定状態において、前記路面から前記シートの座面の上端部までの高さをHcとしたとき、
3.0 ≦ (Hc-Hp)/Hp
を満たしてもよい。
【0019】
シートの座面位置とピボット位置との間の距離を離すことで、加減速時に後輪が路面から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0020】
ある実施形態において、前記車両は、前記所定状態において、
3.0 ≦ (Hc-Hp)/Hp≦ 6.0
を満たしてもよい。
【0021】
シートの座面位置とピボット位置との間の距離が離れていることで、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0022】
ある実施形態において、前記車両は、前記所定状態において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp ≦ 6.0
を満たしてもよい。
【0023】
ホイールベースが短い車両において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp ≦ 6.0
を満たすことにより、加減速時に後輪が路面から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0024】
ある実施形態において、前記車両は、
1.5 ≦ WB/Dw ≦ 2.5
を満たしてもよい。
【0025】
ホイールベースが短い車両において、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0026】
ある実施形態において、前記シートは、シートベースと、前記シートベースの上方に設けられたクッションとを備え、前記所定状態において、前記路面から前記シートベースの上端部までの高さは、500mm以上であってもよい。
【0027】
シートの位置が500mm以上と高いことにより、ホイールベースが短く乗員の足元のスペースが小さい場合でも、乗員は着座することができる。
【0028】
ある実施形態において、前記所定状態において、前記路面から前記シートベースの上端部までの高さは、500mm以上700mm以下であってもよい。
【0029】
シートの位置が高いことにより、ホイールベースが短く乗員の足元のスペースが小さい場合でも、乗員は着座することができる。
【0030】
ある実施形態において、前記所定状態において、前記ピボットの高さは、前記後輪の回転軸の高さよりも低くてもよい。
【0031】
加減速時にピボットに作用するモーメントを適切な大きさにでき、ピッチングを抑制することができる。
【0032】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上であってもよい。
【0033】
ホイールストロークが60mm以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0034】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上150mm以下であってもよい。
【0035】
ホイールストロークが大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0036】
ある実施形態において、前記車両は、前記乗員が操舵を行うハンドルを備えたハンドル形電動車椅子であってもよい。
【0037】
加減速時のピッチングが抑制されたハンドル形電動車椅子を実現することができる。
【発明の効果】
【0038】
車両の未舗装路および段差に対する走破性を高めようとした場合、車輪の外径を大きくすることが考えられる。一方で、車両の前後方向の長さに制限がある場合に、車輪の外径を大きくすると、ホイールベースは短くなり得る。ホイールベースが短くなると加減速時にピッチングが発生しやすくなり、乗員は違和感を覚える場合がある。
【0039】
本発明のある実施形態によれば、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たすホイールベースが短い車両において、
3.0 ≦ Hs/Hp
を満たす。
【0040】
これにより、加減速時にピボットに作用するモーメントを適切な大きさにでき、ピッチングを抑制することができる。
【0041】
また、ある実施形態において、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たすホイールベースが短い車両において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp
を満たす。
【0042】
車両の重心位置となるシート前部の上端部とピボット位置との間の距離を離すことで、加減速時に後輪が路面から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】実施形態に係る車両1を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る車両1を示す左側面図である。
図3】実施形態に係る車両1を示す正面図である。
図4A】実施形態に係る車両1が備えるステアリング機構の概要を示す平面図である。
図4B】実施形態に係る車両1が備えるステアリング機構の概要を示す平面図である。
図5】実施形態に係るリアサスペンション50を示す正面図である。
図6】実施形態に係る車両1の電気的構成を示すブロック図である。
図7】実施形態に係る所定状態の車両1を示す左側面図である。
図8】実施形態に係る所定状態の車両1を示す左側面図である。
図9】実施形態に係る重心G1の位置をシート3の座面の上端部の位置とした車両1を示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。同様の構成要素には同様の参照符号を付し、重複する場合にはその説明を省略する。以下の説明において、前、後、上、下、左、右は、それぞれ車両のシートに着座した乗員から見たときの前、後、上、下、左、右を意味するものとする。車両の左右方向を車幅方向と称する場合がある。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
図1は、実施形態に係る車両1を示す斜視図である。図2は、車両1を示す左側面図である。図3は、車両1を示す正面図である。車両1の構造を分かりやすく説明するために、図2および図3ではボディカバーの一部の図示を省略している。車両1は、例えばハンドル形電動車椅子であるが、本発明はそれに限定されない。以下では、車両1がハンドル形電動車椅子である場合の例を説明する。
【0046】
車両1は、車体フレーム2(図2)を備える。車体フレーム2は、アンダーフレーム2u、リアフレーム2r、シートフレーム2sおよびフロントフレーム2f(図3)を備える。アンダーフレーム2uは、車両1の前後方向に延びている。アンダーフレーム2uの後部からリアフレーム2rが上方に延びており、リアフレーム2rの上部からシートフレーム2sが後方に延びている。アンダーフレーム2uの前部からフロントフレーム2fが上方に延びている。
【0047】
フロントフレーム2f(図3)の上部には、ヘッドチューブ22(図2)が設けられている。ヘッドチューブ22は、その内部を通るステアリングコラム26を回転可能に支持している。ステアリングコラム26の上端部には、乗員が操舵を行うハンドル6が設けられている。ハンドル6にはアクセル操作子7(図1)および左右一対のバックミラー9が設けられている。
【0048】
ボディカバー28は、車体フレーム2の一部を覆うように設けられている。ボディカバー28には、フロントガード29が設けられている。乗員の前方にフロントガード29が配置されていることで、乗員は走行時に安心感を得ることができる。
【0049】
フロントフレーム2f(図3)には、独立懸架のフロントサスペンション40が設けられている。フロントサスペンション40は、アッパーアーム41L、ロアアーム42L、ショックアブソーバ45Lを有する。アッパーアーム41Lの一端は、ピボット46Lを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。アッパーアーム41Lの他端は、ピボット47Lを介してナックルアーム44Lを回転可能に支持している。ロアアーム42Lの一端は、ピボット48Lを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。ロアアーム42Lの他端は、ピボット49Lを介してナックルアーム44Lを回転可能に支持している。ナックルアーム44Lは、前輪4Lを回転可能に支持している。
【0050】
また、フロントサスペンション40は、アッパーアーム41R、ロアアーム42R、ショックアブソーバ45Rを有する。アッパーアーム41Rの一端は、ピボット46Rを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。アッパーアーム41Rの他端は、ピボット47Rを介してナックルアーム44Rを回転可能に支持している。ロアアーム42Rの一端は、ピボット48Rを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。ロアアーム42Rの他端は、ピボット49Rを介してナックルアーム44Rを回転可能に支持している。ナックルアーム44Rは、前輪4Rを回転可能に支持している。フロントサスペンション40は、ナックルアーム44Lおよび44Rを介して前輪4Lおよび4Rを回転可能に支持している。前輪4Lおよび4Rは操舵輪である。
【0051】
フロントサスペンション40は、ダブルウィッシュボーン式サスペンションと称される場合がある。本明細書において、ダブルウィッシュボーン式サスペンションのアーム形状は、A字状(V字状)に限定されない。本明細書において、「ダブルウィッシュボーン式」は、上下一対のアームで車輪を支持するサスペンション方式の総称である。
【0052】
フロントフレーム2fにはサスペンションタワー27が設けられている。ショックアブソーバ45Lおよび45Rそれぞれの上部は、サスペンションタワー27によって回転可能に支持されている。ショックアブソーバ45Lの下部は、アッパーアーム41Lを回転可能に支持している。ショックアブソーバ45Rの下部は、アッパーアーム41Rを回転可能に支持している。
【0053】
フロントフレーム2fは、車幅方向の中心近傍の位置で上下方向に延びている。サスペンションが取り付けられるフレーム部分には、サスペンションが路面から受けた衝撃が伝達されるため、高い強度が求められる。サスペンションタワー27を車体の左右端部付近に設けた場合、車幅方向の中心部から左右方向に延びるフレーム部分に高い強度を確保する必要があり、車体重量が大きくなる。車幅方向の中心近傍に位置するフロントフレーム2fにサスペンションタワー27を設けることで、上記のような高い強度の左右方向に延びるフレーム部分が不要になり、車体重量を軽くすることができる。
【0054】
ショックアブソーバ45Lおよび45Rは、アッパーアーム41Lおよび41Rに取り付けられている。
【0055】
図4Aおよび図4Bは、車両1が備えるステアリング機構の概要を示す平面図である。ステアリングコラム26の下端部にはピットマンアーム49が取り付けられている。タイロッド43Lの一端およびタイロッド43Rの一端のそれぞれは、ピットマンアーム49に回転可能に接続されている。タイロッド43Lの他端はナックルアーム44Lに回転可能に接続されている。タイロッド43Rの他端はナックルアーム44Rに回転可能に接続されている。
【0056】
図4Aは直進走行時のステアリング機構を示している。カーブを走行するとき、乗員はハンドル6(図1)を回転させる。図4Bを参照して、乗員がハンドル6を回転させて発生した操舵力は、ステアリングコラム26を介してピットマンアーム49に伝達される。ピットマンアーム49はステアリングコラム26を中心に回転し、タイロッド43Lおよび43R、ナックルアーム44Lおよび44Rを介して、前輪4Lおよび4Rに操舵力が伝達される。伝達された操舵力により前輪4Lおよび4Rの切角が変化し、車両1は、左または右に曲がりながら走行することができる。
【0057】
図1および図2を参照して、シートフレーム2sには、乗員が座るシート3が設けられている。シート3は、シートフレーム2sに設けられたシートベース31と、シートベース31に設けられたクッション32とを備える。
【0058】
シートベース31は、プレート材またはボトムプレートとも称される。シートベース31は、シート3の底部を構成し、シート3全体の強度を担保する役割を有する。そのため、シートベース31は、比較的剛性の高い材料から形成されている。シートベース31の材料として、例えば金属材料またはポリプロピレンなどの合成樹脂材料を用いることができるが、それらに限定されない。
【0059】
クッション32は、シートベース31の表面に重ねられている。クッション32は、良好な乗り心地を維持するために、適度な弾力性を長期間に亘って保つ材料から形成され得る。クッション32の材料として、例えば発泡ポリウレタン(ウレタンフォーム)を用いることができるが、それに限定されない。
【0060】
シート3の両サイドには、乗員が腕を置くアームレスト38が設けられている。アームレスト38はサイドガードの役割も果たしている。シート3の後部には、乗員がもたれかかる背もたれ39が設けられている。
【0061】
アンダーフレーム2uには、乗員が足を置くフットボード8(図1)が設けられている。フットボード8には滑り止め加工がなされている。乗員の乗り降りが容易なように、フットボード8の上面は概ね平坦な形状を有している。
【0062】
アンダーフレーム2uの後部には、独立懸架のリアサスペンション50(図2)が設けられている。図5は、リアサスペンション50を示す正面図である。リアサスペンション50は、トレーリングアーム式サスペンションと称される場合がある。
【0063】
リアサスペンション50は、リアアーム51Lおよび51Rと、ショックアブソーバ55Lおよび55Rとを有する。リアアーム51Lおよび51Rは、スイングアームである。リアアーム51Lの前部は、ピボット56Lを介してアンダーフレーム2uの左後方部に回転可能に支持されている。リアアーム51Rの前部は、ピボット56Rを介してアンダーフレーム2uの右後方部に回転可能に支持されている。
【0064】
ショックアブソーバ55Lの上部およびショックアブソーバ55Rの上部のそれぞれは、リアフレーム2r(図2)によって回転可能に支持されている。ショックアブソーバ55Lの下部は、リアアーム51Lを回転可能に支持している。ショックアブソーバ55Rの下部は、リアアーム51Rを回転可能に支持している。
【0065】
リアアーム51Lの後部には、電動モータ60Lが設けられている。電動モータ60Lはインホイールモータであり、電動モータ60Lに後輪5Lが設けられている。リアサスペンション50は、電動モータ60Lを介して後輪5Lを回転可能に支持している。リアアーム51Rの後部には、電動モータ60Rが設けられている。電動モータ60Rはインホイールモータであり、電動モータ60Rに後輪5Rが設けられている。リアサスペンション50は、電動モータ60Rを介して後輪5Rを回転可能に支持している。後輪5Lおよび5Rは駆動輪である。
【0066】
本実施形態の車両1は、サイズが大きい車輪4L、4R、5Lおよび5Rを採用している。前輪および後輪の外径は例えば14インチ以上であるが、これに限定されない。サイズが大きい前輪および後輪を採用することにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0067】
本実施形態では、二つの電動モータ60Lおよび60Rを用いて、後輪5Lおよび5Rを互いに独立して駆動する。左右の車輪の回転を独立に制御することで、車両1の旋回時の挙動の安定性を高めることができる。デファレンシャルギアを備える車両では、一方の駆動輪が空転したときに、他方の駆動輪に駆動力が伝わりにくくなるという課題がある。本実施形態では、後輪5Lおよび5Rの一方が空転したとしても、他方がグリップ力を発揮することで走行を安定して継続することができる。
【0068】
なお、後輪5Lおよび5Rを駆動する電動モータはインホイールモータに限定されない。例えば、一つの電動モータから後輪5Lおよび5Rに駆動力が伝達されてもよい。
【0069】
ここでは、電動モータ60Lおよび60Rが後輪5Lおよび5Rを駆動する二輪駆動の形態を例示したが、車両1は四輪駆動であってもよい。その場合は、前輪4Lおよび4Rのそれぞれに対してもインホイールモータが設けられる。なお、一つの電動モータから前輪4Lおよび4Rに駆動力が伝達されてもよい。また、一つの電動モータから前輪4Lおよび4Rと後輪5Lおよび5Rのそれぞれに駆動力が伝達されてもよい。
【0070】
本実施形態の車両1は、独立懸架のフロントサスペンション40および独立懸架のリアサスペンション50を備える。また、二つの電動モータ60Lおよび60Rを用いて後輪5Lおよび5Rを互いに独立して駆動する。これにより、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、駆動力を安定して路面に伝達することができる。また、車両の旋回性能を高めることができる。本実施形態によれば、未舗装路や段差に対する車両の走破性を高めることができる。
【0071】
なお、フロントサスペンション40およびリアサスペンション50は独立懸架のサスペンションに限定されず、車軸懸架のサスペンションであってもよい。
【0072】
本実施形態では電動モータとしてインホイールモータを採用している。これにより、車両のボディ部分に電動モータおよび動力伝達機構を配置するスペースを確保する必要がなくなり、省スペース化を実現することができる。また、車両1の左右方向に延びるドライブシャフトが不要であるため、リアサスペンション50はドライブシャフトによる制約を受けない。リアサスペンション50では、リアアーム51Lおよび51Rは前後方向に延びており、ピボット56Lおよび56Rが後輪5Lおよび5Rの回転軸57よりも前方に位置している。このような構成により、リアサスペンション50のホイールストロークを大きくできる。
【0073】
例えば、リアサスペンション50のホイールストロークは60mm以上であるが、これに限定されない。ホイールストロークが60mm以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。リアサスペンション50のホイールストロークの上限は車両1のサイズにより異なり得、例えば150mmであるが、これに限定されない。
【0074】
また、ドライブシャフトが不要であり且つ車両後方の中心部付近にリアアーム52Lおよび51Rが位置しないことから、車両後方の中心部付近に空間を確保することができる。車両後方の中心部付近に空間があることにより、独立懸架のリアサスペンション50の動作に応じて左右の後輪5Lおよび5Rの上下方向における位置に大きな差が発生した場合でも、車両本体部分を地面に接触しにくくすることができる。なお、インホイールモータを使用せず、一つの電動モータから後輪5Lおよび5Rに駆動力を伝達する場合は、車両1はドライブシャフトを備えていてもよい。
【0075】
次に、電動モータ60Lおよび60Rの制御を説明する。図6は、車両1の電気的構成を示すブロック図である。車両1は、制御装置70を備える。制御装置70は、車両1の動作を制御する。制御装置70は、例えばMCU(Motor Control Unit)である。典型的には、制御装置70はデジタル信号処理を行うことが可能なマイクロコントローラ、信号処理プロセッサ等の半導体集積回路を有する。
【0076】
制御装置70は、プロセッサ71、メモリ72、駆動回路73Lおよび73Rを備える。プロセッサ71は、電動モータ60Lおよび60Rの動作を制御するとともに、車両1の各部の動作を制御する。メモリ72は、電動モータ60Lおよび60Rおよび車両1の各部の動作を制御するための手順を規定したコンピュータプログラムを格納している。プロセッサ71は、メモリ72からコンピュータプログラムを読み出して各種制御を行う。制御装置70には、バッテリ10から電力が供給される。制御装置70およびバッテリ10は、車両1の任意の位置に設けられ、例えばシート3の下方に設けられるが、それに限定されない。バッテリ10は、車両1に対して着脱可能に設けられ得る。例えばバッテリ10は、シート3の後方に着脱可能に設けられてもよい。バッテリ10をシート3周辺の車両端部に配置することで、乗員はバッテリ10の着脱を容易に行うことができる。
【0077】
アクセル操作子7は、乗員のアクセル操作量に応じた信号をプロセッサ71に出力する。舵角センサ75は、例えばヘッドチューブ22またはステアリングコラム26に設けられ、ステアリングコラム26の回転角に応じた信号をプロセッサ71に出力する。
【0078】
電動モータ60Lには、回転センサ61Lが設けられている。回転センサ61Lは、電動モータ60Lの回転角を検出し、回転角に応じた信号をプロセッサ71および駆動回路73Lへ出力する。プロセッサ71および駆動回路73Lは、回転センサ61Lの出力信号から電動モータ60Lの回転速度を演算する。
【0079】
電動モータ60Rには、回転センサ61Rが設けられている。回転センサ61Rは、電動モータ60Rの回転角を検出し、回転角に応じた信号をプロセッサ71および駆動回路73Rへ出力する。プロセッサ71および駆動回路73Rは、回転センサ61Rの出力信号から電動モータ60Rの回転速度を演算する。後輪5Lおよび5Rのサイズは予めメモリ72に記憶されており、電動モータ60Lおよび60Rの回転速度から車両1の走行速度を演算することができる。
【0080】
プロセッサ71は、アクセル操作子7の出力信号、舵角センサ75の出力信号、車両の走行速度、およびメモリ72に格納されている情報などから、適切な駆動力を発生させるための指令値を演算し、駆動回路73Lおよび73Rへ送信する。プロセッサ71は、車両の走行状態に応じて、駆動回路73Lおよび73Rに互いに異なる指令値を送信し得る。
【0081】
駆動回路73Lおよび73Rは、例えばインバータである。駆動回路73Lは、プロセッサ71からの指令値に応じた駆動電流を電動モータ60Lに供給する。駆動回路73Rは、プロセッサ71からの指令値に応じた駆動電流を電動モータ60Lに供給する。駆動電流が供給された電動モータ60Lおよび60Rが回転することで、後輪5Lおよび5Rは回転する。電動モータ60Lおよび60Rが減速機を備える場合は、それらの減速機を介して後輪5Lおよび5Rに回転が伝達される。
【0082】
上述したように、本実施形態の車両1は、外径が大きい車輪4L、4R、5Lおよび5Rを備えている。これにより、未舗装路および段差に対する走破性を高めることができる。一方で、車両1の全長(前後方向の長さ)には制限が設けられている場合がある。例えば、ハンドル形電動車椅子に関する日本産業規格“JIS T 9208:2016”では、車両の全長は1200mm以下と制限されている。このように車両1の全長に制限がある場合に、車輪の外径を大きくすると、ホイールベースは短くなる。
【0083】
図2を参照して、本実施形態の車輪4L、4R、5Lおよび5Rそれぞれの外径Dwは、車両1の全長Loの0.26倍以上と相対的に大きい。また、車両1のホイールベースWBと車輪の外径Dwとは、
WB/Dw ≦ 2.5
の関係を満たし、ホイールベースWBは相対的に短い。
【0084】
このようなホイールベースWBが短い車両1では、乗員の足元のスペースが小さくなる。このため、車両1ではシート3を高い位置に配置し、乗員の腰の位置を高くしている。例えば、路面15からシートベース31の上端部35までの高さHb(図2)は、500mm以上である。これにより、乗員の足元のスペースが小さくても、そのスペースに両足を収めることができ、快適に乗車することができる。高さHbの上限は、例えば700mmであるが、これに限定されない。高さHbのこれらの値は、シート3に質量75kgの物体12(図7)を乗せたときの値である。物体12の詳細は後述する。車輪の外径Dwの上限は、例えば車両1の全長Loの0.4倍であるが、これに限定されない。ホイールベースWBと車輪の外径Dwとの関係“WB/Dw”の下限は、例えば1.5であるが、これに限定されない。
【0085】
ホイールベースWBが短い車両1では、前後の荷重移動に対して車両の挙動が敏感に変化し得る。すなわち、ホイールベースWBが短い車両1では、加減速時にピッチングが発生しやすくなり得る。ピッチングが発生すると、乗員は違和感を覚える場合がある。本実施形態の車両1は、このようなピッチングの発生を抑制する。
【0086】
図7および図8は、車両1を示す左側面図である。図7および図8は、シート3に質量75kgの物体12を乗せて水平な路面15で静止している所定状態の車両1を示している。物体12は、ハンドル形電動車椅子に関する日本産業規格“JIS T 9208:2016”に規定されている“おもり”のうちの一つである。このようなおもり12をシート3に乗せることで、車両1に人間が乗った状態を疑似的に実現することができる。
【0087】
このようなシート3に乗せたおもり12を含む車両全体の重心G1の位置は、概ねシート3の上部の位置となり得る。この例では、シート3の前部の上端部33の位置を車両全体の重心G1の位置とする。シート3の前部の上端部33の位置は、シート3の前後方向の中心よりも前方における最も高い位置である。
【0088】
以下では、主に後輪5L、リアアーム51Lおよびピボット56Lの特徴について説明するが、後輪5R、リアアーム51Rおよびピボット56Rの特徴もそれと同じである。
【0089】
加減速時のピッチングには、ピボット56L周りに発生するモーメントが主に影響する。車両1が加速するとき、駆動輪である後輪5Lから路面15に駆動力が加わる。このとき、後輪5Lと路面15との接線方向における後輪5Lが路面15から受ける反作用の力Drがピボット56Lに作用し、ピボット56L周りにモーメントMtが発生する。また、重心G1にかかる慣性力等による後輪5L側における荷重変化ΔWrにより、ピボット56L周りにモーメントMwが発生する。
【0090】
ブレーキを掛けて車両1が減速するとき、後輪5Lと路面15との接線方向における後輪5Lが路面15から受ける反作用の力Brがピボット56Lに作用する。減速時のモーメントは、加速時のモーメントと符号が逆となる。
【0091】
重心G1にかかる慣性力による後輪5L側における荷重変化ΔWr1は、
ΔWr1=(Hs/WB)×Dr
で表される。ここでHsは、シート3におもり12を乗せて水平な路面15で静止している所定状態の側面視において、シート3の前部の上端部33と、反作用の力Drがピボット56Lに作用する作用線Laとの間の上下方向の距離である。作用線Laは、上記所定状態の側面視において、後輪5Lが路面15に接触する位置P1とピボット56Lの中心とを通る。位置P1は、後輪5Lと路面15との接触面における前後方向の中心の位置である。Hsは、上記所定状態の側面視において、重心G1から鉛直方向に延びる線と作用線Laとの交点をP2としたときの、重心G1と交点P2との間の距離である。WBは、ホイールベース(図2)である。
【0092】
反作用の力Drによる後輪5L側における荷重変化ΔWr2は、
ΔWr2=(-Hp/Lr)×Dr
で表される。ここでHpは、路面15からピボット56Lの中心までの高さである。Lrは、おもり12をシート3に乗せた状態でのピボット56Lと後輪5Lの回転軸57との間の前後方向の長さ(図5)である。
【0093】
後輪5L側における荷重変化ΔWrは、
ΔWr=ΔWr1+ΔWr2
で表される。
【0094】
重心G1にかかる慣性力による前輪4L側における荷重変化ΔWfは、
ΔWf=-(Hg/WB)×Dr
で表される。ここで、Hgは上記所定状態における路面15から重心Gまでの高さ(図8)である。本実施形態では、前輪4L側にかかる荷重変化も考慮してピボット56L周りに発生するモーメントMを調整する。
【0095】
上記のモーメントMtは、
Mt=-Hp×Dr
で表される。
【0096】
上記のモーメントMwは、
Mw=(Hs/WB)×Dr×Lr
で表される。
【0097】
ピボット56L周りに発生するモーメントMは、
M=Mt+Mw
で表される。モーメントMtおよびMwは上記の数式で表されることから、モーメントMは、
M=Dr×{(Hs×Lr/WB)-Hp}
で表される。
【0098】
ホイールベースWBと長さLrとの比率“Lr/WB”は、車両1の規格により概ね決定され得る。このため、加減速時のモーメントMを適切な大きさにするためには、距離Hsとピボット56Lの高さHpとの関係が重要となる。
【0099】
車両1においてピッチングが抑制されたフラットな挙動を実現しようとした場合、車両のフロント側の動きも考慮する必要がある。フロント側も加減速時に若干の上下動を行う。本実施形態では、単純にモーメントMをゼロにしようとするのではなく、そのようなフロント側の動きも考慮して、モーメントMを適切な大きさにする。
【0100】
後輪5L側における荷重変化ΔWrと、前輪4L側における荷重変化ΔWfとが等しいとき、車両1の挙動はフラットになる。ハンドル形電動車椅子では、一般的にWBはLrの概ね6倍の長さになる。ここで、
・ΔWr=ΔWf
・Hg=Hp+Hs
・WB=6Lr
と近似したとき、
5/2Hp=Hs
となる。HpとHsとがこの関係のとき、ピッチングが抑制されたフラットな挙動を得ることができる。しかし、加速時にリア側が若干沈んだり、減速時にフロント側が若干沈んだりした方が、乗員は自然な乗り心地に感じる場合がある。
【0101】
本願発明者らは鋭意研究を行い、上記所定状態における側面視において、距離Hsと高さHpとが、
3.0 ≦ Hs/Hp
を満たす場合に、ピッチングを効率良く抑制しながら自然な乗り心地を実現できることを見出した。作用線Laに対して重心G1の位置を高くすることで、加減速時に後輪5Lが路面15から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。また、上記所定状態において、ピボットの中心の高さHpが後輪5Lの回転軸57の中心の高さHrよりも低いことによっても、ピッチングを効率良く抑制することができる。
【0102】
次に“Hs/Hp”の上限の例を説明する。例えばWB=12LrのようにWBに対してLrが短い車両を考えたとき、
11/2Hp=Hs
となる。HpとHsとがこの関係のとき、ピッチングが抑制されたフラットな挙動を得ることができる。しかし、加速時にリア側が若干沈んだり、減速時にフロント側が若干沈んだりした方が、乗員は自然な乗り心地に感じる場合がある。本実施形態では、例えばWBとLrの様々な関係において自然な乗り心地を実現する。
【0103】
本願発明者らは鋭意研究を行い、上記所定状態における側面視において、距離Hsと高さHpとが、
Hs/Hp ≦ 6.0
を満たす場合に、ピッチングを効率良く抑制しながら自然な乗り心地を実現できることを見出した。“Hs/Hp”の上限を6.0とすることで、ピッチングを効率良く抑制しながら自然な乗り心地を実現することができる。
【0104】
なお、“Hs/Hp”の上限は6.0に限定されない。
【0105】
また、本願発明者らは、上記所定状態における路面15から重心Gまでの高さをHg(図8)としたとき、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp
を満たす場合に、ピッチングを効率良く抑制できることを更に見出した。
【0106】
重心G1の位置とピボット56Lの位置との間の距離を離すことで、加減速時に後輪5Lが路面15から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。“(Hg-Hp)/Hp”の上限は、例えば6.0であるが、これに限定されない。
【0107】
上記の説明では、重心G1の位置をシート3の前部の上端部33の位置としていたが、シート3の座面の上端部の位置であってもよい。
【0108】
図9は、重心G1の位置をシート3の座面の上端部の位置とした車両1を示す左側面図である。図9は、シート3におもり12を乗せて水平な路面15で静止している上記所定状態における車両1を示している。シート3の座面36(図1)は、シート3のクッション32(図2)の上面である。本実施形態では、座面36の左右方向における中心を通り、座面36の形状に沿って前後方向に延びる線CL上において最も高い位置を、座面36の上端部34(図9)の位置としている。図9に示す例では、この座面36の上端部34の位置を重心G1の位置としている。
【0109】
上記所定状態において、路面15から座面36の上端部34の位置(重心G1の位置)までの高さをHcとしたとき、
3.0 ≦ (Hc-Hp)/Hp
を満たす場合に、ピッチングを効率良く抑制することができる。
【0110】
重心G1の位置とピボット56Lの位置との間の距離を離すことで、加減速時に後輪5Lが路面15から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。“(Hc-Hp)/Hp”の上限は、例えば6.0であるが、これに限定されない。
【0111】
上述の実施形態の説明では、車両1は四輪のハンドル形電動車椅子であったが、車両1はそれに限定されない。車両1は、ジョイスティック形電動車椅子であってもよい。車両1は、車椅子に限定されず、別の車両であってもよい。
【0112】
また、車両1の車輪の数は四輪に限定されない。車輪の数は三輪以上であればよい。また、車輪を駆動する駆動源は電動モータに限定されず、内燃機関であってもよい。また、一つの駆動源から複数の車輪に駆動力が伝達されてもよい。
【0113】
以上、本発明の例示的な実施形態を説明した。
【0114】
本発明のある実施形態に係る車両1は、前輪4L、4Rおよび後輪5L、5Rを含む少なくとも三輪の車輪と、後輪5L、5Rを駆動する駆動源60L、60Rと、後輪5L、5Rを支持するリアアーム51L、51Rを有し、ピボット56L、56Rが後輪5L、5Rの回転軸57よりも前方に位置するリアサスペンション50と、乗員が座るシート3と、を備えた車両1であって、車両1のホイールベースをWB、後輪5L、5Rの外径をDwとしたとき、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たし、
シート3に質量75kgの物体12を乗せて水平な路面15で静止している所定状態の側面視において、路面15からピボット56L、56Rまでの高さをHp、シート3の前部の上端部33と、後輪5L、5Rが路面15から受ける駆動力の反作用がピボット56L、56Rに作用する作用線Laとの間の上下方向の距離をHsとしたとき、
3.0 ≦ Hs/Hp
を満たす。
【0115】
車両1の未舗装路および段差に対する走破性を高めようとした場合、前輪4L、4Rおよび後輪5L、5Rの外径を大きくすることが考えられる。一方で、車両1の前後方向の長さに制限がある場合に、車輪の外径を大きくすると、ホイールベースWBは短くなり得る。ホイールベースWBが短くなると加減速時にピッチングが発生しやすくなり、乗員は違和感を覚える場合がある。
【0116】
本発明のある実施形態によれば、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たすホイールベースWBが短い車両1において、
3.0 ≦ Hs/Hp
を満たす。
【0117】
これにより、加減速時にピボット56L、56Rに作用するモーメントを適切な大きさにでき、ピッチングを抑制することができる。
【0118】
本発明のある実施形態に係る車両1は、前輪4L、4Rおよび後輪5L、5Rを含む少なくとも三輪の車輪と、後輪5L、5Rを駆動する駆動源60L、60Rと、後輪5L、5Rを支持するリアアーム51L、51Rを有し、ピボット56L、56Rが後輪5L、5Rの回転軸57よりも前方に位置するリアサスペンション50と、乗員が座るシート3と、を備えた車両1であって、車両1のホイールベースをWB、後輪5L、5Rの外径をDwとしたとき、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たし、
シート3に質量75kgの物体12を乗せて水平な路面15で静止している所定状態において、路面15からピボット56L、56Rまでの高さをHp、路面15からシート3の前部の上端部33までの高さをHgとしたとき、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp
を満たす。
【0119】
車両1の未舗装路および段差に対する走破性を高めようとした場合、車輪の外径を大きくすることが考えられる。一方で、車両1の前後方向の長さに制限がある場合に、車輪の外径を大きくすると、ホイールベースWBは短くなり得る。ホイールベースWBが短くなると加減速時にピッチングが発生しやすくなり、乗員は違和感を覚える場合がある。
【0120】
本発明のある実施形態によれば、
WB/Dw ≦ 2.5
を満たすホイールベースWBが短い車両1において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp
を満たす。
【0121】
車両1の重心G1の位置となるシート3の前部の上端部33とピボット56L、56R位置との間の距離を離すことで、加減速時に後輪5L、5Rが路面15から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0122】
ある実施形態において、作用線Laは、所定状態の側面視において、後輪5L、5Rが路面15に接触する位置P1と、ピボット56L、56Rの中心とを通ってもよい。
【0123】
後輪5L、5Rが路面15から受ける反作用のピボット56L、56Rへの伝達を考慮したピッチングの抑制を実現できる。
【0124】
ある実施形態において、車両1は、
3.0 ≦ Hs/Hp ≦ 6.0
を満たしてもよい。
【0125】
ホイールベースWBが短い車両1において、
3.0 ≦ Hs/Hp ≦ 6.0
を満たすことにより、加減速時にピボット56L、56Rに作用するモーメントを適切な大きさにでき、ピッチングを抑制することができる。
【0126】
ある実施形態において、車両1は、所定状態において、路面15からシート3の座面の上端部34までの高さをHcとしたとき、
3.0 ≦ (Hc-Hp)/Hp
を満たしてもよい。
【0127】
シート3の座面位置とピボット56L、56Rの位置との間の距離を離すことで、加減速時に後輪5L、5Rが路面15から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0128】
ある実施形態において、車両1は、所定状態において、
3.0 ≦ (Hc-Hp)/Hp≦ 6.0
を満たしてもよい。
【0129】
シート3の座面位置とピボット56L、56Rの位置との間の距離が離れていることで、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0130】
ある実施形態において、車両1は、所定状態において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp ≦ 6.0
を満たしてもよい。
【0131】
ホイールベースWBが短い車両1において、
3.0 ≦ (Hg-Hp)/Hp ≦ 6.0
を満たすことにより、加減速時に後輪5L、5Rが路面15から受ける反作用に起因するピッチングを慣性力が抑制する割合を大きくすることができる。これにより、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0132】
ある実施形態において、車両1は、
1.5 ≦ WB/Dw ≦ 2.5
を満たしてもよい。
【0133】
ホイールベースWBが短い車両1において、加減速時のピッチングを抑制することができる。
【0134】
ある実施形態において、シート3は、シートベース31と、シートベース31の上方に設けられたクッション32とを備え、所定状態において、路面15からシートベース31の上端部35までの高さは、500mm以上であってもよい。
【0135】
シート3の位置が500mm以上と高いことにより、ホイールベースWBが短く乗員の足元のスペースが小さい場合でも、乗員は着座することができる。
【0136】
ある実施形態において、所定状態において、路面15からシートベース31の上端部35までの高さは、500mm以上700mm以下であってもよい。
【0137】
シート3の位置が高いことにより、ホイールベースWBが短く乗員の足元のスペースが小さい場合でも、乗員は着座することができる。
【0138】
ある実施形態において、所定状態において、ピボットの高さは、後輪の回転軸の高さよりも低くてもよい。
【0139】
加減速時にピボットに作用するモーメントを適切な大きさにでき、ピッチングを抑制することができる。
【0140】
ある実施形態において、リアサスペンション50のホイールストロークは、60mm以上であってもよい。
【0141】
ホイールストロークが60mm以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0142】
ある実施形態において、リアサスペンション50のホイールストロークは、60mm以上150mm以下であってもよい。
【0143】
ホイールストロークが大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0144】
ある実施形態において、車両1は、乗員が操舵を行うハンドル6を備えたハンドル形電動車椅子1であってもよい。
【0145】
加減速時のピッチングが抑制されたハンドル形電動車椅子1を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、車両の分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0147】
1:車両(ハンドル形電動車椅子)、 2:車体フレーム、 2f:フロントフレーム、 2u:アンダーフレーム、 2r:リアフレーム、 2s:シートフレーム、 3:シート、 4L、4R:前輪、 5L、5R:後輪、 6:ハンドル、 7:アクセル操作子、 8:フットボード、 9:バックミラー、 10:バッテリ、 12:おもり(物体)、 15:路面 22:ヘッドチューブ、 26:ステアリングコラム、 27:サスペンションタワー、 28:ボディカバー、 29:フロントガード、 31:シートベース、 32:クッション、 33:シート前部の上端部、 34:シート座面の上端部、 35:シートベースの上端部、 36:座面、 38:アームレスト、 39:背もたれ、 40:フロントサスペンション、 41L、41R:アッパーアーム、 42L、42R:ロアアーム、 43L、43R:タイロッド、 44L、44R:ナックルアーム、 45L、45R:ショックアブソーバ、 46L、46R:ピボット、 47L、47R:ピボット、 48L、48R:ピボット、 49L、49R:ピボット、 49:ピットマンアーム、 50:リアサスペンション、 51L、51R:リアアーム、 55L、55R:ショックアブソーバ、 56L、56R:ピボット軸、 57:回転軸 60L、60R:電動モータ、 61L、61R:回転センサ、 70:制御装置、 71:プロセッサ、 72:メモリ、 73L、73R:駆動回路、 75:舵角センサ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9