(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】高純度シリカの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/193 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
C01B33/193
(21)【出願番号】P 2020057628
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】中居 直人
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将治
(72)【発明者】
【氏名】松下 修也
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5496122(JP,B2)
【文献】特開昭63-291808(JP,A)
【文献】特表2012-504101(JP,A)
【文献】米国特許第4973462(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の溶液が過酸化水素と混合された、液分中のSi濃度が10.0質量%以上のケイ酸アルカリ水溶液と10.0体積%以上の濃度の鉱酸とを混合して、液分中のSiを非ゲル状の沈降性シリカとして析出させた後、固液分離を行ない、SiO
2を含む第1固形分を得るシリカ析出工程と、
前記第1固形分と、過酸化水素と混合された10.0体積%以上の鉱酸と、を混合して酸性スラリーを調製し、前記酸性スラリーを固液分離して、SiO
2を含む第2固形分を得る酸洗浄工程と、
前記第2固形分と水とを混合してスラリーを調製し、前記スラリーを固液分離して、SiO
2を含む第3固形分を得る水洗浄工程と、を含み、
前記シリカ析出工程または前記酸洗浄工程の少なくとも一方の工程において、当該工程中の沈降性シリカを含む液分のpHを1.5以下、酸化還元電位を-0.5V以上+1.5V以下の範囲内となるようにオゾン含有ガス通気量を調整して通気することを特徴とする高純度シリカの製造方法。
【請求項2】
前記第3固形分を乾燥させ、高純度シリカの水分含有量を少なくする乾燥工程を含むことを特徴とする請求項1記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項3】
前記オゾン含有ガス通気量の調整において、液分のpHを0.0以上1.3以下、酸化還元電位を-0.2V以上+1.0V以下の範囲内となるように、少なくとも前記オゾン含有ガスの通気量を調整することを特徴とする請求項1または請求項2記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項4】
前記オゾン含有ガス通気量の調整において、液分のpHを0.0以上1.0以下、酸化還元電位を+0.0V以上+1.0V以下の範囲内となるように、少なくとも前記オゾン含有ガスの通気量を調整することを特徴とする請求項1または請求項2記載の高純度シリカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度シリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、触媒単体などに使用される高純度シリコンの製造方法として、特許文献1に記載されるような技術がある。特許文献1に記載の方法によると、非常に高純度なシリコンを得ることができるが、工程が煩雑かつ高コストであるという問題がある。このような事情下において、高純度のシリコンを、低コストかつ大量に製造可能とする技術が望まれている。
【0003】
これを解決すべく、特許文献2に記載される、二酸化ケイ素を含有し、多孔質で微細構造を有する原料から高純度シリカを製造し、次いで、この高純度シリカを原料としてシリコンを生成し、得られたシリコンにレーザーを照射することなどにより、高純度シリコンを製造する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献3のような、液分中のSi濃度が10.0質量%以上のケイ酸アルカリ水溶液と10.0体積%以上の濃度の鉱酸の、少なくともいずれか一方と過酸化水素を混合したものを混合して、液分中のSiを非ゲル状の沈降性シリカとして析出させた後、固液分離を行い、SiO2を含む固形分と、不純物を含む液分とを得るシリカ回収工程を含んだ、高純度シリカの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-001804号公報
【文献】特許4686666号公報
【文献】特許5496122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法によると、従来技術に比べて、低コストかつ簡易に高純度シリコンを得ることができる。また、特許文献3に記載の方法によると、非常に高純度なシリカを、低コストかつ簡易に製造することができる。しかし、シリコンの原料となる高純度シリカを、低コストかつ簡易に得ることに加えて、不純物量を十分に低減し、シリカの純度を安定的に高くすることができれば、半導体デバイスなどの各種用途における高純度化を図ることができ、より好都合である。
【0007】
特許文献3記載の発明は、原料液分中に過酸化水素を投入することで、高純度シリカの不純物含有量を十分に低減できる発明であるが、原料液分中に過酸化水素を投入し、pHを制御するだけでは、原料液分中の条件により、液分中などに不純物、特にTiなどが再析出する恐れがあり、高純度シリカの不純物含有量にバラツキが生じる恐れがあることから、高純度シリカの不純物含有量をより安定的に十分に低減できる技術が望まれていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高純度シリカを、低コストでかつ簡易に、また、不純物、特にTiの含有量をより安定的に十分に低減できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の高純度シリカの製造方法は、少なくとも一方の溶液が過酸化水素と混合された、液分中のSi濃度が10.0質量%以上のケイ酸アルカリ水溶液と10.0体積%以上の濃度の鉱酸とを混合して、液分中のSiを非ゲル状の沈降性シリカとして析出させた後、固液分離を行ない、SiO2を含む第1固形分を得るシリカ析出工程と、前記第1固形分と、過酸化水素と混合された10.0体積%以上の鉱酸と、を混合して酸性スラリーを調製し、前記酸性スラリーを固液分離して、SiO2を含む第2固形分を得る酸洗浄工程と、前記第2固形分と水とを混合してスラリーを調製し、前記スラリーを固液分離して、SiO2を含む第3固形分を得る水洗浄工程と、を含み、前記シリカ析出工程または前記酸洗浄工程の少なくとも一方の工程において、当該工程中の沈降性シリカを含む液分のpHを1.5以下、酸化還元電位を-0.5V以上+1.5V以下の範囲内となるようにオゾン含有ガス通気量を調整して通気することを特徴としている。
【0010】
このように、シリカ析出工程または酸洗浄工程の少なくとも一方の工程において、当該工程中の沈降性シリカを含む溶液のpHを1.5以下、酸化還元電位を-0.5V以上+1.5V以下の範囲内となるようにオゾン含有ガス通気量を調整して通気させることで、高純度シリカを、低コストでかつ簡易に、また、不純物、特にTiの含有量をより安定的に十分に低減できる。
【0011】
(2)また、本発明の高純度シリカの製造方法は、前記第3固形分を乾燥させ、高純度シリカの水分含有量を少なくする乾燥工程を含むことを特徴としている。これにより、水分含有量を少なくした高純度シリカを得ることができ、高純度シリコンの材料等として好適に使用できる。
【0012】
(3)また、本発明の高純度シリカの製造方法は、前記オゾン含有ガス通気量の調整において、液分のpHを0.0以上1.3以下、酸化還元電位を-0.2V以上+1.0V以下の範囲内となるように、少なくとも前記オゾン含有ガスの通気量を調整することを特徴としている。これにより、不純物、特にTiの含有量をより低減することが可能となる。
【0013】
(4)また、本発明の高純度シリカの製造方法は、前記オゾン含有ガス通気量の調整において、液分のpHを0.0以上1.0以下、酸化還元電位を+0.0V以上+1.0V以下の範囲内となるように、少なくとも前記オゾン含有ガスの通気量を調整することを特徴としている。これにより、不純物、特にTiの含有量を十分に低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高純度シリカの製造方法は、高純度シリカを、低コストでかつ簡易に、また、不純物、特にTiの含有量をより安定的に十分に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施例および比較例の酸洗浄工程に使用した洗浄装置の概念図である。
【
図3】実施例および比較例の製造条件およびTi濃度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、鋭意研究の結果、一定のSi濃度以上のケイ酸アルカリ水溶液と、一定の濃度以上の鉱酸を混合して、非ゲル状の沈降性シリカとして析出させた後、一定の濃度以上の鉱酸による酸洗浄、水洗浄を行い、高純度シリカを得る製造工程において、液中のpHと酸化還元電位を一定の範囲内に保ちつつオゾン含有ガスを通気させることで、除去対象の金属元素、特にTiの濃度が十分に低減されたシリカ粉末を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
[本発明の高純度シリカの製造方法の原理]
上記の通り、特許文献3記載の発明は、原料液分中に過酸化水素を投入することで、高純度シリカ中の不純物の含有量を十分に少なくすることができる発明であるが、原料液分中に過酸化水素を投入し、pHを制御するだけでは、液分中の条件により、不純物が再析出する恐れがあり、そのため、高純度シリカの不純物含有量にバラツキが生じることがあった。
【0018】
そこで、シリカ析出工程または酸洗浄工程の少なくとも一方で、溶液のpHに加え、酸化還元電位を一定の範囲内に保ちつつオゾン含有ガスを通気させることにより、前述の目標を達成することができた。
【0019】
これは、液中で過酸化水素とオゾンを共存させることにより、過酸化水素よりも非常に強力な酸化力を有するオゾンあるいは過酸化水素とオゾンの反応によりヒドロキシラジカル(HO・)を原料液分中に生成させ、シリカ中に含まれる不純物、特にチタン(Ti)の酸化を促進させることで、シリカに含まれる不純物を液分中に溶解させるとともに、液中のpHと酸化還元電位を安定化させることにより、再析出を防ぐことができるため、より安定的に不純物量を低減することができると考えられる。
【0020】
Douglas G. Brookins著「Eh-pH Diagrams for Geochemistry」によると、
図1に示されるようにTiは、溶液のpHおよび酸化還元電位を所定の範囲で制御すると、TiO
2+イオンとして存在できることが知られている。また、他の不純物となる金属も同様の結果となると推測される。本発明は、この知見に基づいてされたものであり、オゾンを通気することで、液中のpHと酸化還元電位を制御することを可能とした。
【0021】
[高純度シリカの製造方法]
(シリカ析出工程)
シリカ析出工程は、液分中のSi濃度が10.0質量%以上のケイ酸アルカリ水溶液と10.0体積%以上の濃度の鉱酸を混合して、液分中のSiを非ゲル状の沈降性シリカとして析出させた後、固液分離を行い、SiO2を含む固形分(第1固形分)と、不純物を含む液分を得る工程である。
【0022】
本工程において用いられるケイ酸アルカリ水溶液は、特に限定されないが、市販の水ガラスを使用することができ、JIS規格により規定される1号、2号、3号の他に各水ガラスメーカーで製造販売されているJIS規格外の製品も使用することができる。ケイ酸アルカリ水溶液中に含まれるSiの濃度は、10.0質量%以上、好ましくは10.0~20.0質量%、より好ましくは12.0~18.0質量%、特に好ましくは13.0~16.0質量%である。Si濃度が10.0質量%未満であると、シリカがゲル状で析出する場合があり、固液分離に時間がかかるとともに、得られるシリカの量が低下する。Si濃度が20質量%を超えると、ケイ酸アルカリ水溶液のハンドリング(輸送等)が悪化するとともに、不純物の除去が不十分となる場合がある。
【0023】
本工程において用いられる鉱酸は、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、硫酸を用いることが薬剤コスト低減の理由で好ましい。鉱酸の濃度は、10.0体積%以上、より好ましくは10.0~20.0体積%、特に好ましくは10.0~15.0体積%である。鉱酸の濃度が、10.0体積%未満の場合には、沈降性シリカが生成しない、あるいは沈降性シリカとゲル状シリカの両方が生成するおそれがある。このゲル状シリカが生成すると、最終シリカ生成物中の不純物濃度が高くなる。20.0体積%を超えるとコストの面から好ましくない。なお、鉱酸の濃度は、後述する過酸化水素を鉱酸に添加する場合、添加する前の濃度である。
【0024】
本工程において、ケイ酸アルカリ水溶液、および鉱酸の少なくともいずれか一方と過酸化水素とを混合する。これにより、不純物(特にTi)が低減された高純度シリカを得ることができる。混合方法は特に限定されるものではなく、(1)ケイ酸アルカリ水溶液と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物と鉱酸を混合する方法、(2)鉱酸と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物とケイ酸アルカリ水溶液を混合する方法、(3)ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸を混合し、次いで得られた混合物と過酸化水素を混合する方法、(4)ケイ酸アルカリ水溶液と、鉱酸と、過酸化水素を同時に混合する方法が挙げられる。中でも、工程の上流側で不純物(特にTi)の低減を図るという観点から(1)が好ましい。
【0025】
過酸化水素の添加量は、ケイ酸アルカリ水溶液に含まれるシリカ(SiO2)の質量(100質量%)に対して、好ましくは0.1~15.0質量%、より好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~5.0質量%である。過酸化水素の添加量が0.1質量%未満では、不純物(例えばTi)の低減効果が十分ではなく、15.0質量%を超えると、不純物(例えばTi)の低減効果が飽和状態となる。
【0026】
ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸の混合方法は、特に限定されるものではないが、沈降性シリカのみを生成させる観点から、ケイ酸アルカリ水溶液を鉱酸に添加する方法が好ましい。具体的には、ケイ酸アルカリ水溶液を鉱酸に滴下する方法や、ケイ酸アルカリ水溶液を、1.0mmφ以上、好ましくは4.0mmφ以上のチューブ等から、鉱酸中に直接押し出す方法等が挙げられる。なお、沈降性シリカは、ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸との混合と同時に生成する。
【0027】
また、混合する際の沈降性シリカを含む液分のpHは、混合開始から混合終了まで1.5以下に保つことが好ましい。pHが1.5を超えるとシリカがゲル状で析出する場合があり、固液分離に時間がかかるとともに、得られるシリカの量が低下する。また、ケイ酸アルカリ水溶液の鉱酸中への流出速度は限定されないが、混合する際にpHが1.5を超え、かつ流出速度が大きい場合には、沈降性シリカが生成しない、あるいは沈降性シリカとゲル状シリカの両方が生成するおそれがある。
【0028】
本工程において、析出した沈降性シリカ中に含まれる不純物を液分中に溶解させ、それを再析出させないために、オゾン含有ガスを混合容器下部より通気することが好ましい。このとき、沈降性シリカを含む液分のpHを1.5以下、好ましくは0.0以上1.3以下、さらに好ましくは0.0以上1.0以下に保ちつつ、液分の酸化還元電位を-0.5V以上+1.5V以下、好ましくは-0.2V以上+1.3V以下、さらに好ましくは+0.0V以上+1.0V以下に保つように、少なくともオゾン含有ガスの通気量を調整することが好ましい。
【0029】
なお、オゾン含有ガスの通気量の範囲およびオゾンの濃度の範囲は、pHおよび酸化還元電位を所定の範囲内に調整することができれば十分であるため、特に限定されないが、例えば、通気量を一定として濃度を調整することでpHおよび酸化還元電位を調整することもできる。
【0030】
本工程において、このような制御をすることにより、沈降性シリカに含まれるアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、リン(P)、有機物(C)などの不純物を安定的に低減させることができ、特にチタン(Ti)の含有量を、安定的に十分低減させることができる。また、オゾン含有ガスを混合容器下部から通気することで、沈降性シリカが液中で攪拌され、沈降性シリカの表面の不純物の除去により効果的である。
【0031】
上記ケイ酸アルカリ水溶液中のSiを沈降性シリカとして析出させた後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、SiO2を含む固形分(第1固形分)と、不純物を含む液分に分離する。得られた沈降性シリカはゲル状ではなく、粒子状であるため、固液分離に要する時間を短くすることができる。
【0032】
(酸洗浄工程)
酸洗浄工程は、シリカ析出工程で得られたSiO2を含む固形分(第1固形分)と、過酸化水素と混合された10.0体積%以上の鉱酸と、を混合して酸性スラリーを調製し、固形分中に残存する不純物(例えば、Ti、Al、Fe)を溶解させた後、酸性スラリーを固液分離して、SiO2を含む固形分(第2固形分)と、不純物を含む液分を得る工程である。本工程は、酸性スラリーを一定時間攪拌することが好ましい。
【0033】
本工程における酸性スラリーのpHは、1.5以下にすることが好ましい。酸性スラリーのpHを上記範囲内に調整して酸洗浄を行なうことにより、シリカ析出工程で得られた固形分にわずかに残存するTi、Al、Fe等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のシリカ含有率を上昇させると共に不純物含有量を低減させることができるため、さらに高純度のシリカを得ることができる。
【0034】
本工程において用いられる鉱酸は、例えば、硫酸、塩酸、シュウ酸等が挙げられ、硫酸を用いることが薬剤コスト低減の理由で好ましい。鉱酸の濃度は、10.0体積%以上、より好ましくは10.0~20.0体積%、特に好ましくは10.0~15.0体積%である。鉱酸の濃度が、10.0体積%未満の場合には、不純物の洗浄効果が低減するおそれがある。20.0体積%を超えるとコストの面から好ましくない。なお、鉱酸の濃度は、後述する過酸化水素を添加する前の濃度である。
【0035】
本工程では、鉱酸と過酸化水素とを混合する。これにより、不純物(特にTi)が低減された高純度シリカを得ることができる。混合方法は特に限定されるものではなく、(1)シリカ析出工程で得られたSiO2を含む固形分と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物と鉱酸を混合する方法、(2)鉱酸と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物とシリカ析出工程で得られたSiO2を含む固形分を混合する方法、(3)シリカ析出工程で得られたSiO2を含む固形分と鉱酸を混合し、次いで得られた混合物と過酸化水素を混合する方法、(4)シリカ析出工程で得られたSiO2を含む固形分と、鉱酸と、過酸化水素を同時に混合する方法が挙げられる。中でも、工程の上流側で不純物(特にTi)の低減を図るという観点から(2)が好ましい。
【0036】
過酸化水素の添加量は、第1固形分に含まれるシリカ(SiO2)の質量(100質量%)に対して、好ましくは0.1~15.0質量%、より好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~5.0質量%である。過酸化水素の添加量が0.1質量%未満では不純物(例えばTi)の低減効果が十分ではなく、15.0質量%を超えると、不純物(例えばTi)低減効果が飽和状態となる。なお、第1固形分全体の質量をシリカの質量とみなしてもよい。
【0037】
また、本工程は、鉱酸と過酸化水素との混合液を洗浄容器の一方から投入し他方から排出するように、固形分に対して混合液を流通させながら行なってもよい。そのような方法で酸洗浄工程を行なうときに、後述するようにオゾン含有ガスを通気する場合も、同様の条件で液分のpHおよび酸化還元電位を調整することが好ましい。
【0038】
本工程において、シリカ析出工程で得られたSiO2を含む固形分のシリカにわずかに含まれる不純物を液分中に溶解させ、それを再析出させないために、オゾン含有ガスを洗浄容器下部より通気することが好ましい。このとき、液分のpHを1.5以下、好ましくは0.0以上1.3以下、さらに好ましくは0.0以上1.0以下に保ちつつ、液分の酸化還元電位を-0.5V以上+1.5V以下、好ましくは-0.2V以上+1.3V以下、さらに好ましくは+0.0V以上+1.0V以下に保つように、少なくともオゾン含有ガスの通気量を調整することが好ましい。
【0039】
なお、オゾン含有ガスの通気量の範囲およびオゾンの濃度の範囲は、pHおよび酸化還元電位を所定の範囲内に調整することができれば十分であるため、特に限定されないが、例えば、通気量を一定として濃度を調整することでpHおよび酸化還元電位を調整することもできる。また、固形分に対して混合液を流通させながら酸洗浄を行なう場合、オゾン含有ガスの通気量の調整に加えて、鉱酸と過酸化水素との混合液の洗浄容器内への投入量や濃度を調整することでpHおよび酸化還元電位を調整してもよい。
【0040】
本工程において、このような制御をすることにより、シリカに含まれるアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、リン(P)、有機物(C)などの不純物を安定的にさらに低減させることができ、特にチタン(Ti)の含有量を、安定的にさらに低減させることができる。また、オゾン含有ガスを洗浄容器下部から通気することで、沈降性シリカが液中で攪拌され、沈降性シリカの表面の不純物の除去により効果的である。
【0041】
酸洗浄後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、SiO2を含む固形分(第2固形分)と、不純物を含む液分に分離する。
【0042】
本発明においては、シリカ析出工程、または酸洗浄工程の少なくともいずれか一方においてオゾン含有ガスを通気することで、本発明の効果を得ることができる。オゾン含有ガスの通気は、一方の工程のみで行なってもよいし、両方の工程で行なってもよいが、両方の工程で行なうことがより好ましい。
【0043】
(水洗浄工程)
本工程は、酸洗浄工程で得られたSiO2を含む固形分(第2固形分)と水とを混合してスラリーを調製し、固形分中に残存する不純物を溶解させた後、スラリーを固液分離して、SiO2を含む固形分(第3固形分)と、不純物を含む液分を得る工程である。すなわち、第2固形分を水により洗浄を行なう工程である。水洗浄を行なうことにより、酸洗浄工程で得られた固形分にわずかに残存するナトリウム、硫黄等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のシリカ含有率を上昇させることができるため、さらに高純度のシリカを得ることができる。また、固形分の表面に付着した酸の成分を洗い流すことができる。
【0044】
水洗浄後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、SiO2を含む固形分(第3固形分)と、不純物を含む液分に分離する。
【0045】
(乾燥工程)
本発明の製造方法によって最終的に得られたシリカを含む固形分(第3固形分)は、適宜、乾燥処理および/または焼成処理を行なうことができる。乾燥処理および/または焼成処理の条件は、特に限定されないが、例えば、100~1000℃で1~24時間とすることができる。これにより、水分含有量を少なくした高純度シリカを得ることができ、高純度シリコンの材料等として好適に使用できる。
【0046】
[実施例および比較例]
(実施例1)
まず、ケイ酸アルカリ水溶液および鉱酸を準備した。ケイ酸アルカリ水溶液として、水ガラス溶液(富士化学(株)製、SiO2/Na2Oのモル比3.2)420gに、水を105g加えて混合し、さらに35質量%の過酸化水素水を14.1ml添加することで、Si濃度が10.0質量%となる、過酸化水素が添加された水ガラス溶液を得た。また、鉱酸として、濃硫酸60mlを水496.8mlに混合して、硫酸濃度10.7体積%の硫酸を得た。
【0047】
次に、シリカ析出工程として、得られた水ガラス水溶液198.6gを硫酸600g中に常温(25℃)環境下で滴下して沈降性シリカを析出させるとともに、容器下部からオゾン含有ガスを滴下終了まで通気させた。なお、シリカ析出工程中の硫酸のpHは多少の変動はあったが、平均して1.0で保たれていた。また、シリカ析出工程中の酸化還元電位は、+0.6V~+0.8Vの範囲となるように、オゾン含有ガスの通気量を調整した。滴下終了後、ブフナー漏斗を用いて減圧濾過を行い、SiO2を含む固形分(第1固形分)として58.2gと、不純物を含む液分740.4gを得た。
【0048】
次に、酸洗浄工程として、35質量%の過酸化水素水を14.1ml添加した硫酸濃度が10.7体積%となるよう調製した硫酸600g中に、得られたSiO2を含む固形分を、常温(25度)で浸漬させ、この際のpHが1.5となる酸性スラリーを調製した。この酸性スラリー中にオゾン含有ガスを、酸化還元電位を+0.5V前後に保ちながら10時間、攪拌しながら供給した。なお、酸洗浄工程中の酸性スラリーのpHは多少の変動はあったが、平均して1.5で保たれていた。また、酸洗浄工程中の酸化還元電位は、+0.4V~+0.6Vの範囲となるように、オゾン含有ガスの通気量を調整した。そして、この酸性スラリーを固液分離した後に、得られた固形分(第2固形分)を、蒸留水を用いて水洗した(水洗浄工程)。その後、105℃で1日乾燥させ(乾燥工程)、高純度シリカを29.1g得た。
【0049】
図2は、実施例および比較例の酸洗浄工程に使用した洗浄装置の概念図である。なお、実施例および比較例の酸洗浄工程は、硫酸と過酸化水素の混合液を流通させながらではなく、一定量の混合液で調製した酸性スラリー中にオゾン含有ガスを供給することで行なった。
【0050】
また、pHおよび酸化還元電位の測定は、pHメータ(HORIBA製、卓上型pHメータ F-73)、およびORP電極(HORIBA製、ORP電極9300-10D)を用いて、溶液の温度25℃で測定した。なお、本明細書に記載された酸化還元電位は、標準水素電極を基準電極とした値である。実施例および比較例では、標準水素電極を基準電極とした値がそれぞれ所定の範囲に入るような上記の使用した電極に対する測定値の範囲を求め、測定値がその範囲内になるようにオゾン含有ガスの通気量を調整した。
図3に記載された酸化還元電位の範囲も、標準水素電極を基準電極とした値の範囲である。
【0051】
得られた乾燥後の高純度シリカをフッ酸で溶解し、ICP発光分光分析により、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、リン(P)の濃度を測定して、高純度シリカに含まれる濃度を算出した。乾燥後の高純度シリカのTiの濃度は、0.6ppmとなった。また、乾燥後の高純度シリカは、SiO
2:99.999質量%、Al:検出下限値未満(0.5ppm未満)、Fe:0.6ppm、B:検出下限値未満(0.05ppm未満)、P:検出下限値未満(1.0ppm未満)の成分組成であった。
図3は、実施例および比較例の製造条件およびTi濃度を示す表である。
【0052】
(実施例2)
シリカ析出工程のpHを0.5に、酸洗浄工程のpHを1.0に変更する以外は実施例1と同様にして、高純度シリカを29.4g得た。得られた乾燥後の高純度シリカに含まれるTiの濃度を測定した結果、0.3ppmとなった。また、乾燥後の高純度シリカは、SiO2:99.999質量%、Al:検出下限値未満(0.5ppm未満)、Fe:0.5ppm、B:検出下限値未満(0.05ppm未満)、P:検出下限値未満(1.0ppm未満)の成分組成であった。
【0053】
(実施例3)
シリカ析出工程のpHを0.2に、酸化還元電位の範囲を+0.2V~+0.5Vに、また、酸洗浄工程のpHを0.2に、酸化還元電位の範囲を+0.7V~+1.0Vに変更する以外は実施例1と同様にして、精製シリカ29.2gを得た。得られた乾燥後の高純度シリカに含まれるTiの濃度を測定した結果、0.3ppmとなった。また、乾燥後の高純度シリカは、SiO2:99.999質量%、Al:検出下限値未満(0.5ppm未満)、Fe:0.6ppm、B:検出下限値未満(0.05ppm未満)、P:検出下限値未満(1.0ppm未満)の成分組成であった。
【0054】
(実施例4)
シリカ析出工程のpHを0.5に、酸化還元電位の範囲を+1.1V~+1.5Vに、また、酸洗浄工程のpHを1.0に、酸化還元電位の範囲を-0.4V~-0.1Vに変更する以外は実施例1と同様にして、高純度シリカ28.9gを得た。得られた乾燥後の高純度シリカに含まれるTiの濃度を測定した結果、0.5ppmとなった。また、乾燥後の高純度シリカは、SiO2:99.999質量%、Al:検出下限値未満(0.5ppm未満)、Fe:0.7ppm、B:検出下限値未満(0.05ppm未満)、P:検出下限値未満(1.0ppm未満)の成分組成であった。
【0055】
(比較例1)
シリカ析出工程の酸化還元電位の範囲を+1.4V~+1.8Vに、酸洗浄工程の酸化還元電位の範囲を+1.3V~+1.7Vに変更する以外は実施例1と同様にして、高純度シリカ29.3gを得た。得られた乾燥後の高純度シリカに含まれるTiの濃度を測定した結果、9.3ppmとなった。また、乾燥後の高純度シリカは、SiO2:99.99質量%、Al:0.9ppm、Fe:1.8ppm、B:検出下限値未満(0.05ppm未満)、P:検出下限値未満(1.0ppm未満)の成分組成であった。
【0056】
(比較例2)
シリカ析出工程のpHを2.0に、酸洗浄工程のpHを2.0に変更する以外は実施例1と同様にして、高純度シリカ29.1gを得た。得られた乾燥後の高純度シリカに含まれるTiの濃度を測定した結果、10.5ppmとなった。また、乾燥後の高純度シリカは、SiO2:99.99質量%、Al:1.1ppm、Fe:2.2ppm、B:検出下限値未満(0.05ppm未満)、P:検出下限値未満(1.0ppm未満)の成分組成であった。
【0057】
(比較例3)
シリカ析出工程の酸化還元電位の範囲を-0.8V~-0.5Vに、また、酸洗浄工程の酸化還元電位の範囲を-1.0V~-0.6Vに変更する以外は実施例2と同様にして、高純度シリカ28.9gを得た。得られた乾燥後の高純度シリカに含まれるTiの濃度を測定した結果、31.3ppmとなった。また、乾燥後の高純度シリカは、SiO2:99.99質量%、Al:0.8ppm、Fe:1.5ppm、B:検出下限値未満(0.05ppm未満)、P:検出下限値未満(1.0ppm未満)の成分組成であった。
【0058】
以上の結果から、本発明の高純度シリカの製造方法は、高純度シリカを、低コストでかつ簡易に、また、不純物、特にTiの含有量をより安定的に十分に低減できることが分かった。