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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】溶離液およびスラッジ水の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/26 20060101AFI20240502BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240502BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01N30/26 A
G01N30/02 B
G01N30/88 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020079237
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021173688
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 由季
(72)【発明者】
【氏名】境野 彩
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雄一
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-040587(JP,A)
【文献】特表2020-501879(JP,A)
【文献】特開2011-095183(JP,A)
【文献】特開昭59-085957(JP,A)
【文献】特開2010-214909(JP,A)
【文献】特開2010-197125(JP,A)
【文献】特開昭62-237353(JP,A)
【文献】特開平05-223798(JP,A)
【文献】米国特許第05640704(US,A)
【文献】山口哲矢 他,安定化スラッジ水の自動管理に関する研究,月間コンクリートテクノ,32巻8号,セメント新聞社,2013年,36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
B01J 20/00 -20/34
G01N 33/00 -33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を、陰イオン交換樹脂が充填された分離カラムを有するイオンクロマトグラフ装置で分析するための溶離液であって、
炭素数が6以下の有機溶剤と有機酸と有機pH調整剤を含み、
前記有機pH調整剤が、β-アラニン、6-アミノ-n-ヘキサン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、及びグリシンからなる群から選択される一種以上であり、
前記溶離液に占める前記有機溶剤の割合は0.02~15体積%であり、
前記溶離液中の前記有機酸の含有量は0.5~10mMであり、
pHが3~5であることを特徴とする、溶離液。
【請求項2】
前記有機溶剤が、炭素数が6以下のアルコール、アセトン及びアセトニトリルからなる群から選択される一種以上である、請求項1に記載の溶離液。
【請求項3】
前記有機酸が、クエン酸、酒石酸、フタル酸、及びマロン酸からなる群から選択される一種以上である、請求項1又は2に記載の溶離液。
【請求項4】
電気伝導率が60mS/m以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の溶離液。
【請求項5】
レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を分析するスラッジ水の分析方法であって、
陰イオン交換樹脂が充填された分離カラムに請求項1~のいずれか一項に記載の溶離液を通過させ、スラッジ水又は希釈したスラッジ水を前記分離カラムに送られる前記溶離液中に注入し、前記分離カラムから流出した前記溶離液の電気伝導率を検出することを特徴とする、スラッジ水の分析方法。
【請求項6】
前記分離カラムの下流側にサプレッサーカラムを配置しない、請求項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶離液およびスラッジ水の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レディーミクストコンクリート(以下「生コン」という。)の工場においては、廃棄物としてスラッジ水が発生する。スラッジ水は、コンクリートの洗浄排水から粗骨材及び細骨材を取り除いて回収した懸濁水である。
スラッジ水中にはすでに水和反応したセメントだけでなく、未水和のセメントも含まれているため、未水和のセメントの水和反応を抑制しておくことで、新しい生コンを製造する際のセメント分の一部として再利用することができる。
【0003】
そこで、JIS A 5308 2019「レディーミクストコンクリート」では、一定の条件の下で、スラッジ水を練混ぜ水として使用することを認めている。
スラッジ水の再利用を促進することは、低炭素型社会を構築する上で極めて重要である。日本全体のCO排出量の約40%が建設産業に由来しており、このうちコンクリートの比率は20~30%である。コンクリートのCO原単位の大部分はセメントに由来するので、スラッジ水の再利用が促進されれば、コンクリート産業におけるCO排出量を大幅に削減できることになる。
【0004】
スラッジ水の再利用にあたっては、スラッジ水に含まれる未水和のセメント量(セメントの活性度)を評価することが求められる。特許文献1では、硫酸イオン濃度を指標として、セメントの活性度を求めることが提案されている。
また、未水和のセメントの水和反応を抑制するために、安定剤(凝結遅延剤)としてグルコン酸ナトリウムをコンクリートに添加することが提案されている(非特許文献1)。
そのためスラッジ水を再利用するにあたっては、グルコン酸イオン濃度を測定することも求められている。
【0005】
しかし、現時点において、硫酸イオン濃度及びグルコン酸イオン濃度を、生コン工場の現場において簡便に測定する方法は存在していない。
特許文献1によれば、近赤外分光分析計を使用すれば、硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を測定可能であるとされている。
しかしながら、近赤外領域においては、グルコン酸イオンとピークが重なる夾雑物が多数存在するため、低濃度のグルコン酸イオンを近赤外分光分析計で定量することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5462499号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】セメント・コンクリート論文集(Cement Science and Concrete Technology)、Vol.66,2012、2013年2月25日、p22-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、イオンクロマトグラフィーにより、硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を生コン工場の現場において簡便に測定できる自動分析装置を提供できるのではないかと考えた。
しかし、スラッジ水には、通常種々の夾雑物が含まれている。また、イオンクロマトグラフィーでは、通常分離カラムを一定の温度、例えば40℃程度に加温しておくことが必要である。そのため、イオンクロマトグラフィーでスラッジ水を分析しようとすると、加温されたカラム内において、カビや細菌が繁殖する懸念があった。
【0009】
また、イオンクロマトグラフィーでは、対象とするイオンの流出を、通常電気伝導率の変化として検出する。そのため、対象とするイオンの流出を精度良く捉えるには、バックグラウンドとなる溶離液の電気伝導率をできる限り小さくすることが好ましい。
電気伝導率検出器の前にサプレッサーカラムを取り付けて溶離液の解離を抑制することで、溶離液のバックグラウンド電気伝導率を低下させることも可能である。しかし、その場合、サプレッサーカラムが必要になるので、生コン工場の現場において使用する測定装置としては大がかりになり過ぎる。
【0010】
溶離液自体の電気伝導率を低くし、サプレッサーカラムに頼らないようにするためには、無機塩や無機塩基を避けて有機酸や有機塩基を使用することが考えられる。
しかし、有機酸は細菌の温床となりやすく、生コン工場の現場で溶離液を保管することが困難となる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、スラッジ水中の硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を分析可能で、溶離液やカラムにカビや細菌を繁殖させにくく、しかも、溶離液自体の電気伝導率を低くすることが可能なイオンクロマトグラフィーによるスラッジ水の分析方法、及び、この分析方法に使用する溶離液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を、イオンクロマトグラフ装置で分析するための溶離液であって、
炭素数が6以下の有機溶剤と有機酸と有機pH調整剤を含み、
前記溶離液に占める前記有機溶剤の割合は0.02~15体積%であり、
前記溶離液中の前記有機酸の含有量は0.5~10mMであり、
pHが3~5であることを特徴とする、溶離液。
[2]前記有機溶剤が、炭素数が6以下のアルコール、アセトン及びアセトニトリルからなる群から選択される一種以上である、[1]に記載の溶離液。
[3]前記有機酸が、クエン酸、酒石酸、フタル酸、及びマロン酸からなる群から選択される一種以上である、[1]又は[2]に記載の溶離液。
[4]前記有機pH調整剤が、β-アラニン、6-アミノ-n-ヘキサン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、及びグリシンからなる群から選択される一種以上である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の溶離液。
[5]電気伝導率が60mS/m以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の溶離液。
[6]レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を分析するスラッジ水の分析方法であって、
陰イオン交換樹脂が充填された分離カラムに[1]~[5]のいずれか一項に記載の溶離液を通過させ、スラッジ水又は希釈したスラッジ水を前記分離カラムに送られる前記溶離液中に注入し、前記分離カラムから流出した前記溶離液の電気伝導率を検出することを特徴とする、スラッジ水の分析方法。
[7]前記分離カラムの下流側にサプレッサーカラムを配置しない、[6]に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶離液及びこれを用いたスラッジ水の分析方法によれば、スラッジ水中の硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を分析可能で、溶離液やカラムにカビや細菌を繁殖させにくく、しかも、溶離液自体の電気伝導率を低くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られたクロマトグラムである。
図2】実施例2で得られたクロマトグラムである。
図3】実施例3で得られたクロマトグラムである。
図4】実施例4で得られたクロマトグラムである。
図5】実施例5で得られたクロマトグラムである。
図6】実施例6で得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[溶離液]
本発明の溶離液は、炭素数が6以下の有機溶剤と有機酸と有機pH調整剤を含む。
有機溶剤としては、炭素数が6以下のアルコール、アセトン及びアセトニトリルからなる群から選択される一種以上が挙げられる。中でも、炭素数が3以下のアルコール及びアセトニトリルからなる群から選択される一種以上がカラムに負荷を与えにくいので好ましい。
【0016】
炭素数が6以下の有機溶剤の溶離液に占める割合は0.02~15体積%であり3~10体積%であることが好ましく、5~10体積%であることがより好ましい。
炭素数が6以下の有機溶剤の割合が0.02体積%以上であることにより、溶離液やカラムにおける細菌やカビの繁殖を抑制することができる。また、炭素数が6以下の有機溶剤の割合が15体積%以下であることにより、スラッジ水中の硫酸イオンとグルコン酸イオンの分離を妨げない。また、分離カラムやガードカラムに充填されている樹脂にダメージを与えにくい。
【0017】
有機酸としては、クエン酸、酒石酸、フタル酸、及びマロン酸からなる群から選択される一種以上が挙げられる。中でもクエン酸は、スラッジ水中に存在する過剰なCaを捕獲し、分析時間初期に現れるカチオン(Ca等)由来の電位変動が、グルコン酸のピークに重なるのを抑える効果があるため、好ましい。
溶離液中の有機酸の含有量は0.5~10mMであり、1~5mMであることが好ましい。有機酸の含有量が0.5mM以上であれば、グルコン酸イオンのピーク感度を高くしやすい。有機酸の含有量が10mM以下であれば、硫酸イオンが流出するまでの時間を短縮しやすい。
【0018】
有機pH調整剤としては、β-アラニン、6-アミノ-n-ヘキサン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、及びグリシンからなる群から選択される一種以上が挙げられる。
溶離液中の有機pH調整剤の含有量は、溶離液全体のpHが3~5となる量とする。溶離液全体のpHは、3~4であることがより好ましい。
溶離液全体のpHが3以上であれば、硫酸イオンが流出するまでの時間を短縮できる。溶離液全体のpHが5以下であれば、濃度の低いグルコン酸イオンの感度を高めやすい。
【0019】
溶離液の電気伝導率は60mS/m以下であることが好ましく、30mS/m以下であることがより好ましい。
本発明の溶離液は、無機塩や無機塩基ではなく、有機酸と有機pH調整剤を用いるため、電気伝導率を容易に低くすることができる。
本発明の溶離液は、無機塩や無機塩基を含まないことが好ましい。
【0020】
具体的な溶離液の組成としては、以下の例が挙げられる。
(1)クエン酸とβ-アラニンを含むエタノール水溶液。
クエン酸の含有量は1~4mMが好ましい。β-アラニンの含有量は10~20mMが好ましい。エタノールの溶離液に占める割合は5~10体積%であることが好ましい。pHは3.5~4.5であることが好ましい。
例えば、4mMのクエン酸と16mMのβ-アラニンを含む10体積%エタノール水溶液(pH4.1)とすることができる。
【0021】
(2)フタル酸と6-アミノ-n-ヘキサン酸を含むエタノール水溶液。
フタル酸の含有量は1~4mMが好ましい。6-アミノ-n-ヘキサン酸の含有量は1~2mMが好ましい。エタノールの溶離液に占める割合は5~10体積%であることが好ましい。pHは2.5~4.5であることが好ましい。
例えば、1.3mMのフタル酸と1.8mMの6-アミノ-n-ヘキサン酸を含む5体積%エタノール水溶液(pH4.1)とすることができる。
【0022】
(3)酒石酸とβ-アラニンを含むエタノール水溶液。
酒石酸の含有量は0.5~4mMが好ましい。β-アラニンの含有量は5~10mMが好ましい。エタノールの溶離液に占める割合は5~10体積%であることが好ましい。pHは4~4.5であることが好ましい。
例えば、1mMの酒石酸と10mMのβ-アラニンを含む10体積%エタノール水溶液(pH4.3)とすることができる。
【0023】
(4)酒石酸と6-アミノ-n-ヘキサン酸を含むエタノール水溶液。
酒石酸の含有量は1~4mMが好ましい。6-アミノ-n-ヘキサン酸の含有量は1~10mMが好ましい。エタノールの溶離液に占める割合は5~10体積%であることが好ましい。pHは3~5であることが好ましい。
例えば、2mMの酒石酸と7mMの6-アミノ-n-ヘキサン酸を含む5体積%エタノール水溶液(pH4.5)とすることができる。
【0024】
(5)マロン酸とトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含むエタノール水溶液。
マロン酸の含有量は1~6mMが好ましい。トリスヒドロキシメチルアミノメタンの含有量は4~6mMが好ましい。エタノールの溶離液に占める割合は5~10体積%であることが好ましい。pHは3.0~4.5であることが好ましい。
例えば、5mMのマロン酸と5.25mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含む5体積%エタノール水溶液(pH4.6)とすることができる。
【0025】
(6)フタル酸とグリシンを含むエタノール水溶液。
フタル酸の含有量は1~5mMが好ましい。グリシンの含有量は20~35mMが好ましい。エタノールの溶離液に占める割合は5~10体積%であることが好ましい。pHは3.0~4.5であることが好ましい。
例えば、4mMのフタル酸と30mMのグリシンを含む5体積%エタノール水溶液(pH4.6)とすることができる。
【0026】
(7)上記(1)~(6)において、エタノールに代えて、アセトニトリル、メタノール、プロパノール、及び炭素数6以下の他のアルコールから選択される1以上を含む水溶液、又は、エタノールと、アセトニトリル、メタノール、プロパノール、及び炭素数6以下の他のアルコールから選択される1以上との双方を含む水溶液。
ただし、水溶性の低い有機溶剤(例えば炭素数が4~6のアルコール)を用いる場合は、カラム内に残存しやすいため、有機溶剤の含有量を5体積%未満とすることが好ましい。
【0027】
[試料]
本発明の溶離液は、レディーミクストコンクリート(生コン)のスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を、イオンクロマトグラフ装置で分析するための溶離液である。
分析の対象となるスラッジ水は、安定剤(凝結遅延剤)としてグルコン酸イオンが添加されたコンクリートのスラッジ水(安定化スラッジ水)であることが好ましい。
【0028】
グルコン酸イオンは経時で消費されること、また、スラッジ水中のカルシウム分は、空気中の炭酸ガスと反応して沈殿を生じやすいことから、スラッジ水は固形分を濾過した後、速やかに分析に供することが好ましい。また、スラッジ水中のカルシウム分と空気中の炭酸ガスとの反応を抑制するため、スラッジ水を希釈してから分析に供することも好ましい。
【0029】
[装置]
本発明のスラッジ水の分析方法に使用するイオンクロマトグラフ装置は、少なくとも分離カラムと、分離カラムに溶離液を送り通過させる溶離液ポンプと、分離カラムから流出した溶離液の電気伝導率を検出する電気伝導率検出器とを備える。
分離カラムは、陰イオン交換樹脂が充填されたカラムである。陰イオン交換樹脂が有するイオン交換基としては、第4級アンモニウム基が好ましい。第4級アンモニウム基としては、ジエチルアミノプロピル基、ジエチルアミノエチル基等が挙げられる。
例えば、基材がポリヒドロキシメタクリレート、官能基が第4級アンモニウム基である陰イオン交換樹脂を好適に使用できる。
【0030】
陰イオン交換樹脂の平均粒径は、3~12μmであることが好ましく、3~9μmであることがより好ましい。例えば、5μmとすることができる。平均粒径が3μm以上であれば、カラムの詰まりが生じにくい。平均粒径が12μm以下であれば、ピークを分離しやすい。
【0031】
分離カラムの上流側には、予期せずに混入した固形分や不純物等から、分離カラムをガードするガードカラムを有することが好ましい。
また、生コン工場の現場の負担軽減のため、試料を自動的に分離カラム又はガードカラムに注入する試料注入手段を有することが好ましい。さらに、スラッジ水の濾過、希釈等を自動で行う前処理部を備えることが好ましい。
【0032】
また、本発明の分析方法では、本発明の電気伝導率の低い溶離液を使用するため、サプレッサーカラムは不要である。そのため、サプレッサーカラムを分離カラムの下流側に配置しなくてもよく、装置全体を簡略化することができる。
ただし、本発明の分析方法はサプレッサーカラムの使用を排除するものではない。サプレッサーカラムを使用すれば、さらに溶離液のバックグラウンド電気伝導率を低下させることができるので、分析精度を向上させることができる。
【0033】
また、安定した分析を行うため、分離カラム及び電気伝導率検出器は、一定の温度に制御された恒温槽に収容されていることが好ましい。ガードカラムやサプレッサーカラムを有する場合は、これらも恒温槽に収容されていることが好ましい。恒温槽の設定温度は、37~40℃とすることが好ましい。
なお、電気伝導率検出器には特に安定した温度制御が求められるため、電気伝導率検出器の検出セルに、追加的な温度調節機能を持たせてもよい。
【0034】
さらに、電気伝導率検出器から出力された電気伝導率に基づくクロマトグラムをデータ処理すると共に、装置全体を制御する演算制御装置を有することが好ましい。
溶離液の流量は、分離カラムの容量にもよるが、例えば0.6~1.0mL/分とすることができる。その場合、試料のカラムへの注入量は、例えば20μLとすることができる。
【実施例
【0035】
[装置構成]
各実施例には、以下のガードカラム、分離カラム、及び検出器が直列に接続されたイオンクロマトグラフ装置を用いた。サプレッサーカラムは使用しなかった。
(ガードカラム)
内径(I.D.):4.6mm
長さ(L):10mm
充填基材:第4級アンモニウム基を有するポリヒドロキシメタクリレート、粒径5μm
【0036】
(分離カラム)
内径(I.D.):4.6mm
長さ(L):100mm
充填基材:第4級アンモニウム基を有するポリヒドロキシメタクリレート、粒径5μm
(検出器)
電気伝導率検出器
【0037】
[実施例1]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを、ガードカラムを介して分離カラムに注入して下記条件にて分析した。得られたクロマトグラムを図1に示す。
なお、図1において、GLAと記載されたピークが、グルコン酸イオンに対応するピーク、SO4と記載されたピークが硫酸イオンに対応するピークである。図2以下の図においても同様である。
(溶離液)
クエン酸の4mMとβ-アラニンの16mMを含む、10体積%エタノール水溶液。pH3.9、電気伝導率26mS/m。
(サンプル)
混和剤(BASF社製、マスターポリヒード)を、セメント重量(固形分)に対して8~13質量%添加したセメントのスラッジ水(ただし、採取後24時間以上が経過し、混和剤に含有されていたグルコン酸は、総て消費されていると考えられるもの。)の1mLに、グルコン酸イオン換算濃度が1000mg/Lのグルコン酸ナトリウム水溶液を0.1mL添加し、水を加えて10mLとし、シリンジフィルター(アドバンテック社製 13CP020CN)で濾過したもの。
【0038】
(分析条件)
溶離液流量:1.0mL/分
サンプル注入量:20μL
ガードカラム及び分離カラムの温度:37℃
検出器の温度:40℃
【0039】
[実施例2]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを、ガードカラムを介して分離カラムに注入して下記条件にて分析した。得られたクロマトグラムを図2に示す。
(溶離液)
フタル酸の1.3mMとアミノヘキサン酸の1.8mMを含む、5体積%エタノール水溶液。pH4.1、電気伝導率12mS/m。
(サンプル)
混和剤(BASF社製、マスターセット110LCN)を、セメント重量(固形分)に対して8~13質量%添加したセメントのスラッジ水(ただし、採取後24時間以上が経過し、混和剤に含有されていたグルコン酸は、総て消費されていると考えられるもの。)の1mLに、グルコン酸イオン換算濃度が1000mg/Lのグルコン酸ナトリウム水溶液を0.1mL添加し、水を加えて10mLとし、シリンジフィルター(アドバンテック社製 13CP020CN)で濾過したもの。
【0040】
(分析条件)
溶離液流量:1.0mL/分
サンプル注入量:20μL
ガードカラム及び分離カラムの温度:37℃
検出器の温度:40℃
【0041】
[実施例3]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを、ガードカラムを介して分離カラムに注入して下記条件にて分析した。得られたクロマトグラムを図3に示す。
(溶離液)
マロン酸の5mMとトリスヒドロキシメチルアミノメタンの5.25mMを含む、5体積%エタノール水溶液。pH4.6、電気伝導率39mS/m。
(サンプル)
グルコン酸ナトリウムをグルコン酸イオン換算で10mg/L、硫酸ナトリウムを硫酸イオン換算で250mg含む水溶液。
【0042】
(分析条件)
溶離液流量:0.65mL/分
サンプル注入量:20μL
ガードカラム及び分離カラムの温度:37℃
検出器の温度:40℃
【0043】
[実施例4]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを、ガードカラムを介して分離カラムに注入して下記条件にて分析した。得られたクロマトグラムを図4に示す。
(溶離液)
フタル酸の1.3mMとアミノヘキサン酸の1.8mMを含む、0.02体積%ヘキサノール水溶液。pH4.1、電気伝導率12mS/m。
(サンプル)
グルコン酸ナトリウムをグルコン酸イオン換算で10mg/L、硫酸ナトリウムを硫酸イオン換算で250mg含む水溶液。
【0044】
(分析条件)
溶離液流量:1.0mL/分
サンプル注入量:20μL
ガードカラム及び分離カラムの温度:37℃
検出器の温度:40℃
【0045】
[実施例5]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを、ガードカラムを介して分離カラムに注入して下記条件にて分析した。得られたクロマトグラムを図5に示す。
(溶離液)
フタル酸の4mMとグリシンの30mMを含む、5体積%エタノール水溶液。pH4.6、電気伝導率35mS/m。
(サンプル)
グルコン酸ナトリウムをグルコン酸イオン換算で10mg/L、硫酸ナトリウムを硫酸イオン換算で250mg含む水溶液。
【0046】
(分析条件)
溶離液流量:1.0mL/分
サンプル注入量:20μL
ガードカラム及び分離カラムの温度:37℃
検出器の温度:40℃
【0047】
[実施例6]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを濾過した後に10倍に希釈してから、ガードカラムを介して分離カラムに注入して下記条件にて分析した。得られたクロマトグラムを図6に示す。
(溶離液)
クエン酸の4mMとβ-アラニンの16mMを含む、10体積%エタノール水溶液。pH3.9、電気伝導率26mS/m。
(サンプル)
グルコン酸イオンを含む混和剤(BASF社製、マスターポリヒード)を、グルコン酸イオン濃度が75mg/Lとなるような管理条件で添加されているスラッジ水。
【0048】
(分析条件)
溶離液流量:1.0mL/分
サンプル注入量:20μL
ガードカラム及び分離カラムの温度:37℃
検出器の温度:40℃
【0049】
図1~6に示すように、いずれのクロマトグラムにおいても、硫酸イオンだけでなくグルコン酸イオンに対応するピークが明確に現れた。
また、実施例6の分析を2時間おきに繰り返すことを5日間続けたところ、カラムにカビや細菌が繁殖するような問題は生じなかった。また、溶離液についても生コン工場の現場で、1か月静置してもカビや細菌による劣化はみられなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6