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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】変性ポリマー及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/22 20060101AFI20240502BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240502BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240502BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C08C19/22
C08L21/00
C08K3/36
C08K5/541
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021512053
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014246
(87)【国際公開番号】W WO2020203860
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019065576
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】田邊 祐介
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-174548(JP,A)
【文献】特開2001-097002(JP,A)
【文献】米田 昭夫,ニトロソベンゼンとジエン系ゴムとの反応,工業化学雑誌,1971年,74巻、8号,203-208頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19、C08K3、C08K9
C08L15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が5,000以上である炭素-炭素二重結合を1つ以上有するポリマーと、ニトロソ基を有する化合物とを反応させることで得られる、変性ポリマーであって、
前記ポリマー中の炭素-炭素二重結合が前記ニトロソ基を有する化合物によって変性された、変性ポリマーであって、
下記式(1)又は下記式(2)で表される構造を有し、
変性率が0.1モル%以上である、変性ポリマー
【化1】

式(1)及び(2)中、Rは置換基を表す。
式(2)中、R は水素原子又はハロゲン原子を表す。2つのR は同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記ニトロソ基を有する化合物が、ニトロソベンゼン、N,N-ジメチル-4-ニトロソアニリン、N-ニトロソジフェニルアミン、1-ニトロソ-2-ナフトール、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、1-ニトロソ-2-ナフトール-3,6-ジスルホン酸二ナトリウム1水和物、N-メチル-N-ニトロソ-p-トルエンスルホンアミドである、請求項に記載の変性ポリマー。
【請求項3】
前記炭素-炭素二重結合を1つ以上有するポリマーが、ジエン系ポリマーである、請求項1又は2に記載の変性ポリマー。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の変性ポリマーと、フィラーとを含有する、組成物。
【請求項5】
請求項に記載の変性ポリマーを含むジエン系ゴムと、フィラーとを含有し、
前記ジエン系ゴム中の前記変性ポリマーの含有量が、1質量%以上である、組成物。
【請求項6】
前記フィラーが、シリカであり、
前記シリカの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~150質量部である、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
さらに、シランカップリング剤を含有し、
前記シランカップリング剤の含有量が、前記シリカの含有量に対して、1~20質量%である、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリマー及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤやコンベヤベルト等に使用される組成物は、通常、ジエン系ゴム等のポリマーとカーボンブラックやシリカ等のフィラーとを含有する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-017107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、組成物中でフィラー同士が凝集することで、機械的強度や耐摩耗性等が不十分になることがある。また、フィラーがシリカである場合には、ヒステリシスロスを小さくするという効果が十分に得られない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、フィラーとの組成物にしたときに組成物中のフィラーが優れた分散性を示すポリマー、及び、上記ポリマーとフィラーとを含有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、ニトロソ基を有する化合物によって炭素-炭素二重結合を変性したポリマーが、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 炭素-炭素二重結合を1つ以上有するポリマーと、ニトロソ基を有する化合物とを反応させることで得られる、変性ポリマーであって、
上記ポリマー中の炭素-炭素二重結合が上記ニトロソ基を有する化合物によって変性された、変性ポリマー。
(2) 後述する式(1)又は下記式(2)で表される構造を有する、上記(1)に記載の変性ポリマー。
(3) 上記ニトロソ基を有する化合物が、ニトロソベンゼン、N,N-ジメチル-4-ニトロソアニリン、N-ニトロソジフェニルアミン、1-ニトロソ-2-ナフトール、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、1-ニトロソ-2-ナフトール-3,6-ジスルホン酸二ナトリウム1水和物、N-メチル-N-ニトロソ-p-トルエンスルホンアミドである、上記(1)又は(2)に記載の変性ポリマー。
(4) 上記炭素-炭素二重結合を1つ以上有するポリマーが、ジエン系ポリマーである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の変性ポリマー。
(5) 上記(1)~(4)のいずれかに記載の変性ポリマーと、フィラーとを含有する、組成物。
(6) 上記(4)に記載の変性ポリマーを含むジエン系ゴムと、フィラーとを含有し、
上記ジエン系ゴム中の上記変性ポリマーの含有量が、1質量%以上である、組成物。
(7) 上記フィラーが、シリカであり、
上記シリカの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~150質量部である、上記(6)に記載の組成物。
(8) さらに、シランカップリング剤を含有し、
上記シランカップリング剤の含有量が、上記シリカの含有量に対して、1~20質量%である、上記(7)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、フィラーとの組成物にしたときに組成物中のフィラーが優れた分散性を示すポリマー、及び、上記ポリマーとフィラーとを含有する組成物を提供することができる。また、上記組成物がゴム組成物である場合、上記ポリマーは、ゴム組成物を加硫したときの加硫時間を短縮する効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の変性ポリマー、及び、上記変性ポリマーを含有する組成物について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
【0010】
[特定ポリマー]
本発明の変性ポリマーは、炭素-炭素二重結合を1つ以上有するポリマーと、ニトロソ基を有する化合物とを反応させることで得られる、変性ポリマーであって、上記ポリマー中の炭素-炭素二重結合が上記ニトロソ基を有する化合物によって変性された、変性ポリマー(以下、「特定ポリマー」とも言う)である。
【0011】
特定ポリマーはこのような構成をとるため、上述した効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、ニトロソ基(-N=O)がポリマーの炭素-炭素二重結合に反応することで-NR-OH(R:置換基)が生じ、これがフィラーと相互作用して、フィラー同士の凝集が抑制されるためと推測される。また、-NR-OH中の窒素原子は加硫を促進する効果も有するものと推測される。
【0012】
なお、後述する特定ポリマー~3のように変性後の構造が確認されている(具体的には後述する式(1)の構造を有することが確認されている)態様があるのに対して、後述する特定ポリマー4のように変性後の構造が不明な態様もある。これは、特定ポリマー4の場合にはNMR(核磁気共鳴法)スペクトルにおいて変性後の構造に由来すると考えられるピークが極めて密集しているためである。そして、上記ピークを分離できるほど分解能の高いNMR装置は存在しない。すなわち、特定ポリマーには、その特徴を物の構造により直接特定することはおよそ実際的ではない態様が存在する。
【0013】
〔炭素-炭素二重結合を1つ以上有するポリマー〕
特定ポリマーに使用される炭素-炭素二重結合(以下、「炭素-炭素二重結合」を単に「二重結合」とも言う)を1つ以上有するポリマー(以下、「変性前ポリマー」とも言う)は、二重結合(C=C)を有するポリマーであればよい。
【0014】
<二重結合の数>
変性前ポリマー中の二重結合の数は1以上であれば特に制限されないが、フィラー分散性がより優れ、加硫時間がより短くなり、組成物(加硫後)の強靭性、耐摩耗性、耐熱性、耐寒性、耐劣化性、耐汚染性及び耐光性がより優れ、並びに、組成物をタイヤにしたときにWET性能、低燃費性能及び操縦安定性により優れる理由から、2以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましく、100以上であることが特に好ましく、1,000以上であることが最も好ましい。変性前ポリマー中の二重結合の数の上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましい。
以下、「フィラー分散性がより優れ、加硫時間がより短くなり、組成物(加硫後)の強靭性、耐摩耗性、耐熱性、耐寒性、耐劣化性、耐汚染性及び耐光性がより優れ、並びに、組成物をタイヤにしたときにWET性能、低燃費性能及び操縦安定性により優れる」ことを「本発明の効果がより優れる」とも言う。
【0015】
<炭素数>
変性前ポリマーの炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、18以上であることが好ましい。変性前ポリマーの炭素数の上限は特に制限されないが、10,000,000以下であることが好ましく、7,500,000以下であることがより好ましい。
【0016】
<分子量>
変性前ポリマーの分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、400以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1,000以上であることがさらに好ましく、5,000以上であることが特に好ましい。変性前ポリマーの分子量の上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、50,000,000以下であることが好ましく、25,000,000以下であることがより好ましい。
なお、分子量に分布がある場合、上記分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる重量平均分子量(標準ポリスチレン換算値)とする。
【0017】
<好適な態様>
変性前ポリマーは、本発明の効果がより優れる理由から、ジエン系ポリマーであることが好ましい。変性前ポリマーがジエン系ポリマーである場合の特定ポリマーを「特定ジエン系ポリマー」とも言う。
なお、ジエン系ポリマーとは、ジエンを含むモノマーを重合することで得られるポリマーを意味する。ただし、ジエンを含むモノマーを重合することで得られるポリマーと同じ構造を有すれば、実際にジエンを含むモノマーを重合したものでなくても構わない。例えば、スクアレンはイソプレンを重合することで得られるポリマーと同じ構造を有するため、実際にイソプレンを重合したものでない場合でもジエン系ポリマーに該当する。
上記ジエン系ポリマーは特に制限されず、その具体例としては、スクアレン、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)及びこれらの各ゴムの誘導体などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、天然ゴム、イソプレンゴム及びブタジエンゴムであることが好ましい。
【0018】
〔ニトロソ基を有する化合物〕
特定ポリマーに使用されるニトロソ基を有する化合物(以下、「ニトロソ基を有する化合物」を「ニトロソ化合物」とも言う)は、ニトロソ基(-N=O)を有する化合物であれば特に制限されない。ニトロソ化合物は水和物であってもよい。
【0019】
<好適な態様>
ニトロソ化合物は、本発明の効果がより優れる理由から、A-N=Oで表される化合物(以下、「特定化合物」とも言う)であることが好ましい。ここで、Aは置換基(置換基X)を表す。
【0020】
上記置換基Xの具体例としては、ハロゲン原子、アルキル基(例えば、tert-ブチル基)(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、複素環基(ヘテロ環基といってもよい)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルまたはアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルまたはアリールスルフィニル基、アルキルまたはアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールまたはヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(-B(OH)2)、ホスファト基(-OPO(OH)2)、スルファト基(-OSO3H)、アルコキシシリル基、その他の公知の置換基などが挙げられる。上記の具体例のうち、イオン性基(カルボキシ基、スルホ基等)については塩であってもよい。
【0021】
置換基Xは、本発明の効果がより優れる理由から、炭化水素基であることが好ましい。
上記炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(特に、炭素数1~30)、直鎖状または分岐状のアルケニル基(特に、炭素数2~30)、直鎖状または分岐状のアルキニル基(特に、炭素数2~30)などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの炭素数6~18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
置換基Xは、本発明の効果がより優れる理由から、芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0022】
上記置換基Xはさらに置換基(置換基Y)を有していてもよい。置換基Yの具体例は上述した置換基Xと同じである。置換基Yは、本発明の効果がより優れる理由から、アルコキシシリル基、カルボキシ基若しくはその塩、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロソ基、又は、スルホ基若しくはその塩であることが好ましい。
【0023】
特定化合物は、本発明の効果がより優れる理由から、ニトロソベンゼン、N,N-ジメチル-4-ニトロソアニリン、N-ニトロソジフェニルアミン、1-ニトロソ-2-ナフトール、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、1-ニトロソ-2-ナフトール-3,6-ジスルホン酸二ナトリウム1水和物、又は、N-メチル-N-ニトロソ-p-トルエンスルホンアミドであることが好ましい。
【0024】
〔特定ポリマーの製造方法〕
特定ポリマーは、上述した変性前ポリマーと上述したニトロソ化合物とを反応させることで得られる。具体的としては、変性前ポリマーとニトロソ化合物とを混合する方法、混合して加熱する方法等が挙げられる。触媒を使用しても使用しなくてもよいが、本発明の効果がより優れる理由から、触媒を使用しないのが好ましい。
変性前ポリマーとニトロソ化合物との混合比は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、変性前ポリマー中の二重結合に対するニトロソ化合物の割合が、0.01~50モル%になるように混合するのが好ましく、0.02~25モル%になるように混合するのがより好ましい。
【0025】
〔特定ポリマーの分子量〕
特定ポリマーの分子量は特に制限されない。特定ポリマーの分子量の好適な態様は上述した変性前ポリマーと同じである。
【0026】
〔特定ポリマーの変性率〕
特定ポリマーの変性率は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、0.001~30モル%であることが好ましく、0.01~10モル%であることがより好ましく、0.1~5モル%であることがさらに好ましい。
ここで変性率とは、変性前ポリマーが有する二重結合のうちニトロソ化合物によって変性された割合(モル%)を表す。
【0027】
〔特定ポリマーの好適な態様〕
特定ポリマーは、本発明の効果がより優れる理由から、下記式(1)又は下記式(2)で表される構造を有するのが好ましく、下記式(1)で表される構造を有するのがより好ましい。なお、-CH-C(CH)=CH-CH-で表される構造を有する変性前ポリマー(例えば、スクアレン、天然ゴム、イソプレン)と、上述した特定化合物とを反応させた場合、上記構造中の二重結合がニトロソ化合物によって変性され、下記式(1)で表される構造を有する特定ポリマーが得られる。
【0028】
【化1】
【0029】
上記式(1)及び(2)中、Rは置換基を表す。Rで表される置換基の定義、具体例及び好適な態様は上述した置換基Xと同じである。
上記式(2)中、Rは水素原子又はハロゲン原子を表す。2つのRは同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
[組成物]
本発明の組成物は、上述した本発明の変性ポリマー(特定ポリマー)とフィラーとを含有する組成物である。
【0031】
〔特定ポリマー〕
本発明の組成物に含有される特定ポリマーについては上述のとおりである。
【0032】
〔フィラー〕
本発明の組成物に含有されるフィラーは特に制限されないが、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、層状又は板状粘土鉱物、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムなどが挙げられ、こちらのうち1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、フィラーとして、カーボンブラック又はシリカを含有することが好ましく、カーボンブラック及びシリカを含有することがより好ましい。
【0033】
<カーボンブラック>
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、カーボンブラックを含有するのが好ましい。上記カーボンブラックは、1種のカーボンブラックを単独で用いても、2種以上のカーボンブラックを併用してもよい。
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
【0034】
本発明の組成物において、カーボンブラックの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上述した特定ポリマー100質量部に対して、3~150質量部であることが好ましい。
【0035】
<シリカ>
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、シリカを含有するのが好ましい。上記シリカは、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
上記シリカは特に制限されず、従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカの具体例としては、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。
【0036】
本発明の組成物において、シリカの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上述した特定ポリマー100質量部に対して、5~150質量部であることが好ましい。
【0037】
<含有量>
本発明の組成物において、フィラーの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上述した特定ポリマー100質量部に対して、3~150質量部であることが好ましい。
【0038】
〔好適な態様〕
本発明の組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、本発明の組成物中の特定ポリマーが特定ジエン系ポリマーであるのが好ましい。
また、本発明の組成物は、特定ポリマー以外のジエン系ゴムを含有していてもよい。上記ジエン系ゴムは特に制限されず、その具体例及び好適な態様は、上述したジエン系ポリマーと同じである。
【0039】
上述のとおり、本発明の組成物中の特定ポリマーが特定ジエン系ポリマーであるのが好ましい。ここで、特定ジエン系ポリマーはジエン系ゴムの一種とみなせる。
本発明の組成物において、ジエン系ゴム中の特定ジエン系ポリマーの含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。ジエン系ゴム中の特定ジエン系ポリマーの含有量の上限は特に制限されず、100質量%である。
【0040】
〔任意成分〕
本発明の組成物は、必要に応じて、上述した成分以外の成分(任意成分)を含有することができる。
そのような成分としては、例えば、シランカップリング剤、テルペン樹脂(好ましくは、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、プロセスオイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0041】
<シランカップリング剤>
本発明の組成物がシリカを含有する場合、本発明の効果がより優れる理由から、シランカップリング剤を含有するのが好ましい。シランカップリング剤は、加水分解性基および有機官能基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。
上記加水分解性基は特に制限されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、アルコキシ基であることが好ましい。加水分解性基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、本発明の効果がより優れる理由から、1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0042】
上記有機官能基は特に制限されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であることが好ましく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、スルフィド基、メルカプト基、ブロックメルカプト基(保護メルカプト基)(例えば、オクタノイルチオ基)などが挙げられ、なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、スルフィド基(特に、ジスルフィド基、テトラスルフィド基)、メルカプト基、ブロックメルカプト基が好ましい。
シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
上記シランカップリング剤は、本発明の効果がより優れる理由から、硫黄含有シランカップリング剤であることが好ましい。
【0044】
上記シランカップリング剤の具体例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明の組成物において、シランカップリング剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上述したシリカの含有量に対して1~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0046】
〔用途〕
本発明の組成物は、タイヤ、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に好適に用いられる。なかでも、タイヤ(空気入りタイヤ)に好適に用いられる。
【実施例
【0047】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
〔特定ポリマーの製造〕
以下のとおり、特定ポリマー~4を製造した。特定ポリマー~4はいずれも上述した特定ポリマーに該当する。
【0050】
スクアレン
【化2】
【0051】
ニトロソベンゼン
【化3】
【0052】
<特定ポリマー2>
50cc小型混合機(東洋精機製作所製ラボプラストミルBR50型)で天然ゴム(SIR20、33.98g)(二重結合の数:20,000以上)とニトロソベンゼン(東京化成工業社製;1.02g)を、5分間混合し、40℃で放出した。
H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルから、ニトロソベンゼンの消失、及び、得られた生成物が天然ゴム中の二重結合がニトロソベンゼンによって変性された変性ポリマーであることが確認された。また、上記変性ポリマーが上述した式(1)で表される構造を有すること(ここで、式(1)中のRはフェニル基を表す)、及び、上記変性ポリマーの変性率が0.6モル%であることが確認された。得られた変性ポリマーを特定ポリマー2とする。
【0053】
<特定ポリマー3>
天然ゴムの代わりにイソプレンゴム(二重結合の数:5,000以上)を用いた点以外は特定ポリマー2と同様の手順に従って変性ポリマーを得た。
H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルから、ニトロソベンゼンの消失、及び、得られた生成物がイソプレンゴム中の二重結合がニトロソベンゼンによって変性された変性ポリマーであることが確認された。また、上記変性ポリマーが上述した式(1)で表される構造を有すること(ここで、式(1)中、のRはフェニル基を表す)、及び、上記変性ポリマーの変性率が1.4モル%であることが確認された。得られた変性ポリマーを特定ポリマー3とする。
【0054】
<特定ポリマー4>
天然ゴムの代わりにブタジエンゴム(二重結合の数:5,000以上)を用いた点以外は特定ポリマー2と同様の手順に従って変性ポリマーを得た。
H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルから、ニトロソベンゼンの消失、及び、得られた生成物がブタジエンゴム中の二重結合がニトロソベンゼンによって変性された変性ポリマーであることが確認された。また、上記変性ポリマーの変性率が0.2モル%であることが確認された。得られた変性ポリマーを特定ポリマー4とする。
【0055】
〔組成物の調製〕
表1~3に示す成分を同表に示す割合(質量部)で配合することで組成物を調製した。
具体的には、50ccの密閉式ブラベンダーミキサーを用いて145℃で5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却することで、組成物を得た。
【0056】
〔バウンドラバー量の評価〕
得られた組成物0.3gを金網かごに入れ、室温で300mLのトルエン中に48時間浸漬した後取り出して乾燥し、サンプルの質量を測定して、バウンドラバー量を下記式から算出した。
バウンドラバー量=[(トルエン浸漬、乾燥後のサンプル質量)-(シリカの質量)]/(ゴム成分質量)
結果を表1~3に示す。結果は、表1については比較例1を100とする指数で表し、表2については比較例2を100とする指数で表し、表3については比較例3を100とする指数で表した。
バウンドラバー量が大きいほど、バウンドラバー(シリカと反応したゴム)が多く、組成物中のシリカ(フィラー)の分散性が優れる(高い)ことを意味する。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
上記表1~3に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・比較ポリマー2:天然ゴム
・比較ポリマー3:イソプレンゴム
・比較ポリマー4:ブタジエンゴム
・特定ポリマー2~4:上述のとおり製造された特定ポリマー2~4
・シリカ:ローディア社製Zeosil 1165MP
・シランカップリング剤:ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
【0061】
表1~3から分かるように、上述した特定ポリマーである特定ポリマー2~4は、上述した特定ポリマー以外のポリマーである比較ポリマー2~4と比較して、フィラーとの組成物にしたときに、組成物中のフィラーが優れた分散性を示した。