(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】固体二次電池用結着剤、固体二次電池用スラリー、固体二次電池用層形成方法及び固体二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240502BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240502BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240502BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240502BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240502BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/139
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2022547468
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030584
(87)【国際公開番号】W WO2022054540
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020151525
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】藤原 花英
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】古谷 喬大
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076371(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/071336(WO,A1)
【文献】特開2001-167798(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110854429(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニリデンフルオライド単位及びフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素重合体であって、前記フッ素化単量体単位が、下記一般式(1)で表される構造を有する単量体単位及び下記一般式(2)で表される構造を有する単量体単位からなる群より選択される少なくとも1の共重合単位(A)である含フッ素重合体を含むことを特徴とする酸化物系固体電解質を使用する固体二次電池用結着剤。
【化1】
(式中、Rf
1、Rf
2は、炭素数1~12の直鎖状または分岐鎖状のフッ素化アルキル基またはフッ素化アルコキシ基であり、炭素数が2以上である場合は、炭素-炭素原子間に酸素原子を含むものであってもよい。)
【請求項2】
ビニリデンフルオライド単位/共重合単位(A)のモル比が87/13~20/80である請求項1記載の結着剤。
【請求項3】
含フッ素重合体のガラス転移温度が25℃以下である請求項1又は2記載の結着剤。
【請求項4】
ビニリデンフルオライド単位、上記一般式(1)で表される構造を有するフッ素化単量体単位、及び、これらと共重合可能な他の単量体単位からなる含フッ素共重合体であり、ビニリデンフルオライド単位/フッ素化単量体単位のモル比が87/13~20/80であり、他の単量体単位が全単量体単位の0~50モル%である請求項1~3のいずれか1に記載の結着剤。
【請求項5】
酸化物系固体電解質及び結着剤を含有する固体二次電池用スラリーであって、
前記結着剤は、請求項1~4のいずれか1に記載されたものであることを特徴とする固体二次電池用スラリー。
【請求項6】
酸化物系固体電解質は、リチウムを含む請求項5記載の固体二次電池用スラリー。
【請求項7】
酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物である請求項5又は6記載の固体二次電池用スラリー。
【請求項8】
スラリーを基材上に塗布し、加熱乾燥を行う工程を有する固体二次電池用層形成方法であって、
前記スラリーは、請求項5~7のいずれか1に記載の固体二次電池用スラリーであることを特徴とする固体二次電池用層形成方法。
【請求項9】
加熱乾燥は、結着剤の分解温度以下で行われるものである請求項8記載の固体二次電池用層形成方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1に記載の結着剤、酸化物系固体電解質及び活物質を含有する活物質層を有することを特徴とする固体二次電池用電極。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1に記載の結着剤を含有することを特徴とする固体二次電池用酸化物系固体電解質層。
【請求項12】
請求項10記載の固体二次電池用電極及び/又は請求項11記載の固体二次電池用酸化物系固体電解質層を有することを特徴とする固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体二次電池用結着剤、固体二次電池用スラリー、固体二次電池用層形成方法及び固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体二次電池は、安全性に優れる電池としての検討が行われている。固体二次電池に使用される固体電解質としては、硫化物系と酸化物系とが知られており、これらを利用した固体二次電池の検討がなされている。これらのうち、酸化物系の固体二次電池においては、結着剤を使用しないスラリーを調製し、これを400℃以上の高温に加熱して焼成することによって電極層、固体電解質層を形成することが公知である。
【0003】
特許文献1には、固体二次電池の正極側電解質層において、テトラフルオロエチレンを含有したフッ素系共重合体を有する結着剤を使用することが開示されている。
特許文献2には、固体二次電池の正極の正極材料層と負極の負極材料層において、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを使用することが開示されている。
特許文献3,4には、固体二次電池を構成する層を形成するためのスラリーが開示されている。
更に、近年では、固体二次電池の大型化が望まれている。
【0004】
特許文献5には、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを使用し、高温での焼成を行うことなく電極体を製造する方法が開示されている。
特許文献6、7には、ビニリデンフルオライドに基づく重合単位及びアミド基又はアミド結合を有する単量体に基づく重合単位を有する含フッ素重合体を含む結着剤又は結着剤溶液が開示されており、更に、上記含フッ素重合体は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに基づく重合体単位を有していてもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2015/049996号
【文献】特開2016-164888号公報
【文献】特開2019-46721号公報
【文献】特開2007-5279号公報
【文献】特開2017-188379号公報
【文献】特開2013-229337号公報
【文献】特開2013-219016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、スラリーのゲル化抑制効果に優れた、酸化物系固体電解質を使用する固体二次電池用結着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ビニリデンフルオライド単位及びフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素重合体であって、前記フッ素化単量体単位が、下記一般式(1)で表される構造を有する単量体単位及び下記一般式(2)で表される構造を有する単量体単位からなる群より選択される少なくとも1の共重合単位(A)である含フッ素重合体を含むことを特徴とする酸化物系固体電解質を使用する固体二次電池用結着剤である。
【0008】
【化1】
(式中、Rf
1、Rf
2は、炭素数1~12の直鎖状または分岐鎖状のフッ素化アルキル基またはフッ素化アルコキシ基であり、炭素数が2以上である場合は、炭素-炭素原子間に酸素原子を含むものであってもよい。)
【0009】
上記結着剤は、ビニリデンフルオライド単位/共重合単位(A)のモル比が87/13~20/80であることが好ましい。
上記結着剤は、含フッ素共重合体のガラス転移温度が25℃以下であることが好ましい。
【0010】
上記結着剤は、ビニリデンフルオライド単位、上記一般式(1)で表される構造を有するフッ素化単量体単位、及び、これらと共重合可能な他の単量体単位からなる含フッ素共重合体であり、ビニリデンフルオライド単位/フッ素化単量体単位のモル比が87/13~20/80であり、他の単量体単位が全単量体単位の0~50モル%であることが好ましい。
【0011】
本開示は、酸化物系固体電解質及び結着剤を含有する固体二次電池用スラリーであって、
前記結着剤は、上述したいずれか1に記載されたものであることを特徴とする固体二次電池用スラリーでもある。
【0012】
上記酸化物系固体電解質は、リチウムを含むことが好ましい。
上記酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。
【0013】
本開示は、スラリーを基材上に塗布し、加熱乾燥を行う工程を有する固体二次電池用層形成方法であって、
前記スラリーは、上述したいずれか1の固体二次電池用スラリーであることを特徴とする固体二次電池用層形成方法でもある。
上記加熱乾燥は、結着剤の分解温度以下で行われるものであることが好ましい。
【0014】
本開示は、上述したいずれか1の結着剤、酸化物系固体電解質及び活物質を含有する活物質層を有することを特徴とする固体二次電池用電極でもある。
【0015】
本開示は、上述したいずれか1の結着剤を含有することを特徴とする固体二次電池用酸化物系固体電解質層でもある。
【0016】
本開示は、上述した固体二次電池用電極及び/又は上述した固体二次電池用酸化物系固体電解質層を有することを特徴とする固体二次電池でもある。
【発明の効果】
【0017】
本開示によって、酸化物系固体二次電池を効率よく大面積に生産することで安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の固体二次電池の積層構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示は、固体二次電池に使用する結着剤を提供するものである。
固体二次電池を構成する層の形成を、結着剤を使用しないか又は残存させずに高温焼成する方法では、焼結のため高温での加熱が必要とされ、このような工程が大面積の電池製造においてはコストアップの原因となる。そこで、低温で成形する方法として、スラリーを調製し塗工乾燥する手法も考案されているが、結着剤として比較的安価で汎用的な重合体であるポリビニリデンフルオライドを使用すると、スラリー中でのゲル化を生じるという問題がある。結着剤がゲル化してしまうと、均一なスラリーが得られないため、結着剤としての機能を果たすことができない。
【0020】
このようなゲル化は、水酸化リチウムを含有した正極活物質を使用したスラリーで特に発生しやすい。一部の酸化物系の固体電解質は水分に弱く、空気中の水分と反応して水酸化リチウムへと変化し、ゲル化の要因となるアルカリ成分になると推測される。
【0021】
従来、特に電極材料の製造に使用されるスラリーの製造においても、ゲル化が生じることが知られており、これを改善するための試みも多くなされていた。
しかし、従来検討されてきたゲル化の問題は、主に電極活物質に由来するものであった。このため、主に電極作製用のスラリーに関して、使用する電極活物質と結着剤の組み合わせを適宜選択することで、問題を解決してきた。
【0022】
本開示は、固体電池において使用される酸化物系固体電解質を含有するスラリーにおいて特に大きな問題となる点を改善するものである。
すなわち、固体電池において使用される酸化物系固体電解質は、水酸化リチウムを発生させやすく、このような水酸化リチウムがゲル化の原因になると推測される。したがって、固体電池において使用される酸化物系固体電解質との相互作用によるゲル化の問題は、従来の電極活物質に由来するゲル化の問題とは全く別個のものである。したがって、解決のための手法も、従来の電極活物質に由来するゲル化の問題とは完全に別個のものとなる。
【0023】
本開示においては、電極や電解質層の製造において特定の化学構造を有する含フッ素重合体を含む結着剤を使用する点に特徴を有するものである。本開示においては、結着剤として、ビニリデンフルオライド単位及びフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素重合体であって、前記フッ素化単量体単位が、下記一般式(1)で表される構造を有する単量体単位及び下記一般式(2)で表される構造を有する単量体単位からなる群より選択される少なくとも1の共重合単位(A)である含フッ素重合体を使用するものである。これを使用することによって、ゲル化という問題を生じないため、好適にスラリーを使用することができる。これによって、安価に良好な性能を有する電極や電解質層の形成が可能となる。
【0024】
【化2】
(式中、Rf
1、Rf
2は、炭素数1~12の直鎖状または分岐鎖状のフッ素化アルキル基またはフッ素化アルコキシ基であり、炭素数が2以上である場合は、炭素-炭素原子間に酸素原子を含むものであってもよい。)
【0025】
本開示の結着剤は、ビニリデンフルオライド単位及びフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素重合体であって、前記フッ素化単量体単位が、上記一般式(1)で表される構造を有する単量体単位及び上記一般式(2)で表される構造を有する単量体単位からなる群より選択される少なくとも1の共重合単位(A)である含フッ素重合体を含む。このような重合体は、長時間に亘りゲル化の問題を生じにくい点で好ましいものである。
【0026】
上記一般式(1)で表される構造を有する単量体単位及び上記一般式(2)で表される構造を有する単量体単位からなる群より選択される少なくとも1つの共重合単位(A)を含む重合体は、耐アルカリ性に優れるため、酸化物系固体電解質と反応を生じることのないスラリーを得ることができる。また、耐熱性、柔軟性、耐酸化性、耐還元性等の性能にも優れているという利点を有する。
【0027】
一般式(1)で表されるフッ素化単量体単位を構成する単量体において、Rf1は、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のフッ素化アルキル基、または、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のフッ素化アルコキシ基である。フッ素化アルキル基およびフッ素化アルコキシ基は、いずれも、炭素数が2以上ある場合には、炭素-炭素原子間に酸素原子(-O-)を含むことができる。
【0028】
Rf1のフッ素化アルキル基は、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルキル基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルキル基であってもよい。また、Rf1のフッ素化アルキル基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基を含まないことが好ましい。
【0029】
また、Rf1のフッ素化アルコキシ基は、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルコキシ基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルコキシ基であってもよい。また、Rf1のフッ素化アルコキシ基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基を含まないことが好ましい。
【0030】
Rf1の炭素数としては、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~4であり、特に好ましくは1である。
【0031】
Rf1としては、一般式:
-(Rf11)m-(O)p-(Rf12-O)n-Rf13
(式中、Rf11およびRf12は、独立に、直鎖状もしくは分岐鎖状の、炭素数1~4のフッ素化アルキレン基、Rf13は、直鎖状もしくは分岐鎖状の、炭素数1~4のフッ素化アルキル基、pは0または1、mは0~4の整数、nは0~4の整数である)で表される基が好ましい。
【0032】
Rf11およびRf12のフッ素化アルキレン基は、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルキレン基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルキレン基であってもよい。また、Rf11およびRf12のフッ素化アルキレン基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基を含まないことが好ましい。Rf11およびRf12は、各出現において、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
Rf11のフッ素化アルキレン基としては、-CHF-、-CF2-、-CH2-CF2-、-CHF-CF2-、-CF2-CF2-、-CF(CF3)-、-CH2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-、-CF2-CF(CF3)-、-C(CF3)2-、-CH2-CF2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-CF2-、-CH(CF3)-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-CF2-、-C(CF3)2-CF2-などが挙げられ、なかでも、炭素数1または2の過フッ素化アルキレン基が好ましく、-CF2-がより好ましい。
【0034】
Rf12のフッ素化アルキレン基としては、-CHF-、-CF2-、-CH2-CF2-、-CHF-CF2-、-CF2-CF2-、-CF(CF3)-、-CH2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-、-CF2-CF(CF3)-、-C(CF3)2-、-CH2-CF2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-CF2-、-CH(CF3)-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-CF2-、-C(CF3)2-CF2-などが挙げられ、なかでも、炭素数1~3の過フッ素化アルキレン基が好ましく、-CF2-、-CF2CF2-、-CF2-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-または-CF2-CF(CF3)-がより好ましい。
【0035】
Rf13のフッ素化アルキル基としては、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルキル基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルキル基であってもよい。また、Rf13のフッ素化アルキル基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基(たとえば、-CN、-CH2I、-CH2Brなど)を含まないことが好ましい。
【0036】
Rf13のフッ素化アルキル基としては、-CH2F、-CHF2、-CF3、-CH2-CH2F、-CH2-CHF2、-CH2-CF3、-CHF-CH2F、-CHF-CHF2、-CHF-CF3、-CF2-CH2F、-CF2-CHF2、-CF2-CF3、-CH2-CF2-CH2F、-CHF-CF2-CH2F、-CF2-CF2-CH2F、-CF(CF3)-CH2F、-CH2-CF2-CHF2、-CHF-CF2-CHF2、-CF2-CF2-CHF2、-CF(CF3)-CHF2、-CH2-CF2-CF3、-CHF-CF2-CF3、-CF2-CF2-CF3、-CF(CF3)-CF3、-CH2-CF2-CF2-CF3、-CHF-CF2-CF2-CF3、-CF2-CF2-CF2-CF3、-CH(CF3)-CF2-CF3、-CF(CF3)-CF2-CF3、-C(CF3)2-CF3などが挙げられ、なかでも、-CF3、-CHF-CF3、-CF2-CHF2、-CF2-CF3、-CF2-CF2-CF3、-CF(CF3)-CF3、-CF2-CF2-CF2-CF3、-CH(CF3)-CF2-CF3または-CF(CF3)-CF2-CF3が好ましい。
【0037】
pとしては、0が好ましい。
【0038】
mとしては、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。また、pが0であるときはmも0であることが好ましい。
【0039】
nとしては、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。
【0040】
繰り返し単位としては、
-CH2-CF[-CF3]-、
-CH2-CF[-CF2CF3]-、
-CH2-CF[-CF2CF2CF3]-、
-CH2-CF[-CF2CF2CF2CF3]-、
-CH2-CF[-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CHF-CF3]-、
-CH2-CF[-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CF2-CF3]-、
-CH2-CF[-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CF(CF3)-CF3]-、
-CH2-CF[-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CH(CF3)-CF2-CF3]-、
-CH2-CF[-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CF(CF3)-CF2-CF3]-、
-CH2-CF[-OCF2OCF3]-、
-CH2-CF[-OCF2CF2CF22OCF3]-、
-CH2-CF[-CF2OCFOCF3]-、
-CH2-CF[-CF2OCF2CF2CF2OCF3]-、または、
-CH2-CF[-O-CF2-CF3]-
が好ましく、
-CH2-CF[-CF3]-、または、
-CH2-CF[-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CHF-CF3]-
がより好ましい。
【0041】
上記式(2)で表されるフッ素化単量体単位を構成する単量体において、Rf2は、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のフッ素化アルキル基、または、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のフッ素化アルコキシ基である。フッ素化アルキル基およびフッ素化アルコキシ基は、いずれも、炭素数が2以上ある場合には、炭素-炭素原子間に酸素原子(-O-)を含むことができる。
【0042】
Rf2のフッ素化アルキル基は、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルキル基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルキル基であってもよい。また、Rf2のフッ素化アルキル基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基を含まないことが好ましい。
【0043】
また、Rf2のフッ素化アルコキシ基は、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルコキシ基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルコキシ基であってもよい。また、Rf2のフッ素化アルコキシ基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基を含まないことが好ましい。
【0044】
Rf2の炭素数としては、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~4であり、特に好ましくは1である。
【0045】
Rf2としては、一般式:
-(Rf21)m-(O)p-(Rf22-O)n-Rf23
(式中、Rf21およびRf22は、独立に、直鎖状もしくは分岐鎖状の、炭素数1~4のフッ素化アルキレン基、Rf23は、直鎖状もしくは分岐鎖状の、炭素数1~4のフッ素化アルキル基、pは0または1、mは0~4の整数、nは0~4の整数である。)で表される基が好ましい。
【0046】
Rf21およびRf22のフッ素化アルキレン基は、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルキレン基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルキレン基であってもよい。また、Rf21およびRf22のフッ素化アルキレン基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基を含まないことが好ましい。Rf21およびRf22は、各出現において、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
Rf21のフッ素化アルキレン基としては、-CHF-、-CF2-、-CH2-CF2-、-CHF-CF2-、-CF2-CF2-、-CF(CF3)-、-CH2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-、-CF2-CF(CF3)-、-C(CF3)2-、-CH2-CF2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-CF2-、-CH(CF3)-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-CF2-、-C(CF3)2-CF2-などが挙げられ、なかでも、炭素数1または2の過フッ素化アルキレン基が好ましく、-CF2-がより好ましい。
【0048】
Rf22のフッ素化アルキレン基としては、-CHF-、-CF2-、-CH2-CF2-、-CHF-CF2-、-CF2-CF2-、-CF(CF3)-、-CH2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-、-CF2-CF(CF3)-、-C(CF3)2-、-CH2-CF2-CF2-CF2-、-CHF-CF2-CF2-CF2-、-CF2-CF2-CF2-CF2-、-CH(CF3)-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-CF2-、-C(CF3)2-CF2-などが挙げられ、なかでも、炭素数1~3の過フッ素化アルキレン基が好ましく、-CF2-、-CF2CF2-、-CF2-CF2-CF2-、-CF(CF3)-CF2-または-CF2-CF(CF3)-がより好ましい。
【0049】
Rf23のフッ素化アルキル基としては、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子により置換された部分フッ素化アルキル基であってもよいし、炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子により置換された過フッ素化アルキル基であってもよい。また、Rf23のフッ素化アルキル基は、水素原子がフッ素原子以外の置換基により置換されていてもよいが、フッ素原子以外の置換基(たとえば、-CN、-CH2I、-CH2Brなど)を含まないことが好ましい。
【0050】
Rf23のフッ素化アルキル基としては、-CH2F、-CHF2、-CF3、-CH2-CH2F、-CH2-CHF2、-CH2-CF3、-CHF-CH2F、-CHF-CHF2、-CHF-CF3、-CF2-CH2F、-CF2-CHF2、-CF2-CF3、-CH2-CF2-CH2F、-CHF-CF2-CH2F、-CF2-CF2-CH2F、-CF(CF3)-CH2F、-CH2-CF2-CHF2、-CHF-CF2-CHF2、-CF2-CF2-CHF2、-CF(CF3)-CHF2、-CH2-CF2-CF3、-CHF-CF2-CF3、-CF2-CF2-CF3、-CF(CF3)-CF3、-CH2-CF2-CF2-CF3、-CHF-CF2-CF2-CF3、-CF2-CF2-CF2-CF3、-CH(CF3)-CF2-CF3、-CF(CF3)-CF2-CF3、-C(CF3)2-CF3などが挙げられ、なかでも、-CF3、-CHF-CF3、-CF2-CHF2、-CF2-CF3、-CF2-CF2-CF3、-CF(CF3)-CF3、-CF2-CF2-CF2-CF3、-CH(CF3)-CF2-CF3または-CF(CF3)-CF2-CF3が好ましい。
【0051】
pとしては、0が好ましい。
【0052】
mとしては、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。また、pが0であるときはmも0であることが好ましい。
【0053】
nとしては、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。
【0054】
繰り返し単位としては、
-CHF-CH[-CF3]-、
-CHF-CH[-CF2CF3]-、
-CHF-CH[-CF2CF2CF3]-、または、
-CHF-CH[-CF2CF2CF2CF3]-、
が好ましく、
-CHF-CH[-CF3]-
がより好ましい。
【0055】
上記重合体のビニリデンフルオライド単位/共重合単位(A)のモル比は、87/13~20/80であることが好ましい。上記モル比であることで、ゲル化の抑制を好適に図りつつ、結着剤としての機能を良好に発揮することができる点で好ましい。
【0056】
本開示に係る重合体は、含フッ素エラストマーであることが好ましい。含フッ素エラストマーは低いガラス転移温度を有する非晶性の含フッ素重合体である。また、反応性官能基部位を与える単量体に基づく繰り返し単位を含有してもよいが、本開示の一実施形態においては、架橋剤を含有しない。
【0057】
本開示に係る重合体は、ガラス転移温度が25℃以下であることが好ましい。より好ましくは、ガラス転移温度が0℃以下である。ガラス転移温度は、-5℃以下が更に好ましく、-10℃以下が最も好ましい。更には-20℃以下とすることもできる。ここで、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(日立テクノサイエンス社製、X-DSC823e)を用い、-75℃まで冷却した後、試料10mgを20℃/分で昇温することによりDSC曲線を得て、DSC曲線の二次転移前後のベースラインの延長線と、DSC曲線の変曲点における接線との交点を示す温度をガラス転移温度とした。
【0058】
本開示に係る重合体は、非晶質であることが好ましい。非晶質であるとは、上述したDSC曲線において、融点ピークが存在しないものであることを意味する。
このような低Tgで非晶質である含フッ素エラストマーは、溶媒に溶けやすく、結着剤として使用した場合に、電極に柔軟性を与え、加工し易さを与えるという点で特に好ましいものである。
【0059】
本開示に係る重合体は、上記ビニリデンフルオライド単位と共重合単位(A)の2成分であることが好適であるが、結着剤に、より低温性が望まれるときは、ビニリデンフルオライド単位と共重合単位(A)に共重合可能な他の単量体単位を有するものとしてもよい。この場合、その他の単量体単位の含有量は、全単量体単位の50モル%以下であることが好ましい。その他の単量体単位の含有量は、30モル%以下であることがより好ましく、15モル%以下であることが更に好ましい。
【0060】
上記の場合、特に、重合体は、上記ビニリデンフルオライド、上記一般式(1)で表されるフッ素化単量体単位及び他の単量体単位からなる含フッ素共重合体であることが好ましい。ビニリデンフルオライド単位/フッ素化単量体単位のモル比が87/13~20/80であり、他の単量体単位が全単量体単位の0~50モル%であることが好ましい。
【0061】
上記他の単量体としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、及び、反応性官能基を与える単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、更に好ましくはTFEや反応性官能基を与える単量体である。それぞれTFEまたは反応性官能基を与える単量体のみであることも好ましい形態の一つである。
【0062】
上記重合体は、上記他の単量体として、反応性官能基を与える単量体を使用するものであってもよい。
上記反応性官能基を与える単量体としては特に限定されず、たとえば、一般式:
CX1
2=CX1-Rf1CHR1X2
(式中、X1は、水素原子、フッ素原子または-CH3、Rf1は、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロ(ポリ)オキシアルキレン基またはパーフルオロ(ポリ)オキシアルキレン基、R1は、水素原子または-CH3、X2は、ヨウ素原子または臭素原子である。)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式:
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2)n-X3
(式中、mは0~5の整数、nは1~3の整数、X3は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ヨウ素原子、又は臭素原子である。)で表される単量体、一般式:
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)m(CF(CF3))n-X4
(式中、mは0~5の整数、nは1~3の整数、X4は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ヨウ素原子、臭素原子、又は-CH2OHである。)で表される単量体を他の単量体として使用するものであってもよい。
【0063】
なかでも、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH、CF2=CFOCF2CF2CH2I、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CH2I、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CN、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、及び、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OHからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
上記重合体は、末端構造が以下の不等式:
0.01≦([-CH2OH]+[-COOH])/([-CH3]+[-CF2H]+[-CH2OH]+[-CH2I]+[-OC(O)RH]+[-COOH])≦0.25(式中、Rは炭素数1~20のアルキル基を表す。)
を満たすことが好ましい。
末端官能基が上記式を満たすものとすることで、密着性・柔軟性が良好なものとなり、結着剤として優れた機能を有するものとなる。
【0065】
[-CH2OH]や[-COOH]は、水酸基、カルボキシル基といった親和性が高い官能基を有するものであるため、酸化物系固体電解質や活物質との親和性を有するものである。したがって、これらの官能基量を一定以上の割合で含有すると、密着性が優れた結着剤となる点で好ましい。一方、[-CH2OH]や[-COOH]の量が過剰になると、柔軟性が低下することとなってしまう。このような観点から、[-CH2OH]や[-COOH]が上述した範囲内となることが好ましい。
【0066】
なお、上記一般式を満たすということは、上記重合体末端中に、[-CH3]、[-CF2H]、[-CH2OH]、[-CH2I]、[-OC(O)RH]、[-COOH]のすべての官能基を有することを意味するものではなく、これらのうち、存在する末端基について、その個数比が上述した範囲内とすることを意味するものである。
【0067】
また、樹脂の各末端基の存在量は、NMRによる分析によって行うことができる。
なお、NMRの末端基分析は、プロトンの溶液NMR法により測定した。分析サンプルはAcetone-d6を溶媒として、20wt% 溶液となるように調整し、測定を行った。
基準ピークはアセトンのピークトップを2.05ppmとする。
測定装置:バリアン社製 VNMRS400
共鳴周波数:399.74(Sfrq)
パルス幅:45°
各末端は、以下のピーク位置のものに対応させた。
[-CH3]:1.72~1.86ppm
[-CF2H]:6.1~6.8ppm
[-CH2OH]:3.74~3.80ppm
[-CH2I]:3.87~3.92ppm
[-OC(O)RH]:1.09~1.16ppm
[-COOH]:10~15ppm
上述した測定によって特定された各ピークの積分値に基づいて、各ピーク強度から官能基量を算出し、その結果に基づいて下記式にて計算する。
([-CH2OH]+[-COOH])/([-CH3]+[-CF2H]+[-CH2OH]+[-CH2I]+[-OC(O)RH]+[-COOH])
【0068】
また、[-CH2OH]や[-COOH]を上述した所定の範囲内のものとする方法は、特に限定されず、公知の方法(例えば、使用する開始剤の選択・使用量等)によって制御することができる。
【0069】
本開示に係る重合体は、密着性、柔軟性を良好なものとし、溶媒への溶解性を良好とするために、数平均分子量(Mn)が7,000~5,000,000であることが好ましく、質量平均分子量(Mw)が10,000~10,000,000であることが好ましく、Mw/Mnが1.0~30.0であることが好ましく、1.5~25.0であることが更に好ましい。上記数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、及び、Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定する値である。溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを用い、50℃で測定することができる。測定において使用したカラムは、東ソー株式会社製のAS-8010、CO-8020、カラム(GMHHR-Hを3本直列に接続)、及び、株式会社島津製作所製RID-10Aである。溶媒を流速1.0ml/分で流して測定したデータ(リファレンス:ポリスチレン)より算出した。
【0070】
本開示に係る重合体は、121℃におけるムーニー粘度(ML1+10(121℃))は2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、30以上であることが特に好ましい。本開示に係る重合体は、140℃におけるムーニー粘度(ML1+10(140℃))は2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、30以上であることが特に好ましい。ムーニー粘度は、ASTM-D1646-15およびJIS K6300-1:2013に準拠して測定する値である。
【0071】
本開示の重合体は、一般的なラジカル重合法により製造することができる。重合形態は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合のいずれの形態でもよいが、工業的に実施が容易であることから、乳化重合であることが好ましい。
【0072】
重合においては、重合開始剤、界面活性剤、連鎖移動剤及び溶媒を使用することができ、それぞれ従来公知のものを使用することができる。共重合体の重合において、重合開始剤として油溶性ラジカル重合開始剤、または水溶性ラジカル開始剤を使用できる。
【0073】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネート等のジアルキルパーオキシカーボネート類、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジt-ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等が、また、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルパレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロ-デカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロドトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドのジ[パーフロロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類等が代表的なものとして挙げられる。
【0074】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸等のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。サルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤も併せて含んでもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0075】
ラジカル重合開始剤の添加量は、特に限定はないが、重合速度が著しく低下しない程度の量(たとえば、数ppm対水濃度)以上を重合の初期に一括して、または逐次的に、または連続して添加すればよい。上限は、装置面から重合反応熱を除熱できる範囲である。
【0076】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が使用でき、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム等の炭素数4~20の直鎖又は分岐した含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましい。添加量(対重合水)は、好ましくは10~5000ppmである。より好ましくは50~5000ppmである。また、界面活性剤として反応性乳化剤を使用することができる。反応性乳化剤は、不飽和結合と親水基とをそれぞれ1つ以上有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4、CH2=CFCF2CF(CF3)OCF2CF2COONH4、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF(CF3)COONH4が挙げられる。添加量(対重合水)は、好ましくは10~5000ppmである。より好ましくは、50~5000ppmである。
【0077】
上記重合において、連鎖移動剤としては、例えば、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチル等のエステル類のほか、イソペンタン、メタン、エタン、プロパン、イソプロパノール、アセトン、各種メルカプタン、四塩化炭素、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0078】
連鎖移動剤として臭素化合物又はヨウ素化合物を使用してもよい。臭素化合物又はヨウ素化合物を使用して行う重合方法としては、例えば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物又はヨウ素化合物の存在下に、加圧しながら水媒体中で乳化重合を行う方法があげられる(ヨウ素移動重合法)。使用する臭素化合物又はヨウ素化合物の代表例としては、例えば、一般式:
R2IxBry
(式中、x及びyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、R2は炭素数1~16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物が挙げられる。
【0079】
ヨウ素化合物としては、例えば、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、2-ヨードパーフルオロプロパン、1,3-ジヨード-2-クロロパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨード-2,4-ジクロロパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタン、1,12-ジヨードパーフルオロドデカン、1,16-ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨード-n-プロパン、CF2Br2、BrCF2CF2Br、CF3CFBrCF2Br、CFClBr2、BrCF2CFClBr、CFBrClCFClBr、BrCF2CF2CF2Br、BrCF2CFBrOCF3、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2-ヨードエチル)及び(2-ブロモエチル)置換体等が挙げられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。
【0080】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性等の点から、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、2-ヨードパーフルオロプロパンを用いるのが好ましい。
【0081】
溶媒としては、連鎖移動性を持たない溶媒であることが好ましい。溶液重合の場合、ジクロロペンタフルオロプロパン(R-225)が挙げられ、乳化重合及び懸濁重合の場合、水、水と水溶性有機溶媒との混合物、又は、水と非水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。
【0082】
上述した方法で得られた重合体は、乳化重合の場合、重合上がりの分散液を凝析させ、水洗し、脱水し、乾燥することによって粉体状態のものを得ることができる。凝析は、硫酸アルミニウム等の無機塩又は無機酸を添加するか、機械的な剪断力を与えるか、分散液を凍結させることによって行うことができる。懸濁重合の場合は、重合上がりの分散液から回収し、乾燥することにより粉体状態のものを得ることができる。溶液重合の場合は、重合体を含む溶液をそのまま乾燥させて得ることができるし、貧溶媒を滴下して精製することによっても得ることができる。
【0083】
重合体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。特に、分子構造の異なる2種類の共重合体を併用する形態であってもよい。
【0084】
本開示の結着剤は、更に、本開示の効果を阻害しない範囲でその他の含フッ素系重合体を含有するものであってもよい。
上記その他の含フッ素重合体としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニリデンフルオライド等を挙げることができる。上記ポリビニリデンフルオライドは、ホモポリマーであっても共重合体であってもよい。また、例えば、ビニリデンフルオライド(VdF)系含フッ素エラストマーであってもよい。上記VdF系含フッ素エラストマーにおける共単量体としては、VdFと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテルなどが挙げられ、これらの中から、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体などが挙げられる。
【0085】
上記その他の含フッ素重合体を併用する場合、当該その他の含フッ素重合体は、上記含フッ素重合体の質量に対して、10~90質量%の割合で使用することが好ましい。
【0086】
本開示は、上記結着剤及び酸化物系固体電解質を含有するスラリーでもある。当該スラリーは、液体媒体中に酸化物系固体電解質粒子が分散した状態のものである。上記結着剤は、液体媒体中に溶解又は分散した状態であることが好ましい。
【0087】
上記酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0088】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、LixcBycMcc
zcOnc(MccはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦2、0≦zd≦2、0≦ad≦2、1≦md≦7、3≦nd≦15)、Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子または2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfOzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、LixgSygOzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、Li3BO3-Li2SO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li6BaLa2Ta2O12、Li3PO(4-3/2w)N w(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.51Li0.34TiO2.94、La0.55Li0.35TiO3、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。また、LLZに対して元素置換を行ったセラミックス材料も知られている。例えば、LLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも1つの元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったLLZ系セラミックス材料も挙げられる。また、Li、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD1(D1は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
具体例として、例えば、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2-GeO2、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2等が挙げられる。
【0089】
上記酸化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する酸化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0090】
上記酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。結晶構造を有する酸化物は、良好なLiイオン伝導性という点で特に好ましいものである。
結晶構造を有する酸化物としては、ペロブスカイト型(La0.51Li0.34TiO2.94など)、NASICON型(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3など)、ガーネット型(Li7La3Zr2O12(LLZ)など)等が挙げられる。なかでも、ガーネット型が好ましい。
【0091】
酸化物系固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、酸化物系固体電解質粒子の体積平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。酸化物系固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0092】
酸化物系固体電解質の固体電解質組成物中の固形成分における含有量は、全固体二次電池に用いたときの界面抵抗の低減と低減された界面抵抗の維持を考慮したとき、固形成分100質量%において、電極においては3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。
また、正極と負極の間に配置される酸化物系固体電解質層においては50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.8質量%以下であることがより好ましく、99.7質量%以下であることが特に好ましい。上記酸化物系固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において固形分(固形成分)とは、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理を行ったときに、揮発ないし蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒体以外の成分を指す。
【0093】
本開示のスラリーの調製に用いる分散媒体としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の含窒素系有機溶媒の他、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;更にそれらの混合溶剤等の低沸点の汎用有機溶媒を挙げることができる。これらのなかで特に、スラリーの安定性、塗工性に優れている点からN-メチルピロリドンが好ましい。
【0094】
本開示のスラリーにおいては、水分値が低いものであることが好ましく、具体的には、200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下であり、更に好ましくは50ppm以下である。
【0095】
本開示のスラリーは、正極用スラリーとすることもできるし、負極用スラリーとすることもできる。更に、固体電解質層形成用スラリーとすることもできる。これらのうち、電極用スラリーとする場合は、更に、活物質を含有するものである。活物質は、正極活物質、負極活物質とすることができる。本開示のスラリーは、正極活物質を使用した正極用のスラリーとしてより好適に使用することができる。
本開示のスラリーにおいて、活物質の配合量はスラリーの固形分全量に対して1~99.0質量%であることが好ましい。上記下限は、10質量%であることがより好ましく、20質量%であることが更に好ましい。上記上限は、98質量%であることがより好ましく、97質量%であることが更に好ましい。上記割合で配合することで、得られる活物質層中に、上述した割合で活物質が含まれるものとなる。
【0096】
正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限はない。具体的には、リチウムと少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましく、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。
【0097】
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiO2等のリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnO2、LiMn2O4、Li2MnO3等のリチウム・マンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。置換されたものの具体例としては、例えば、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.82Co0.15Al0.03O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMn1.8Al0.2O4、LiMn1.5Ni0.5O4、Li4Ti5O12等が挙げられる。Niを含む正極活物質において、Niの割合が多いほど正極活物質の容量が高くなるため、さらなる電池の容量の向上が期待できる。
【0098】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、リチウム含有遷移金属リン酸化合物の具体例としては、例えば、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム含有遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0099】
特に、高電圧、高エネルギー密度、あるいは、充放電サイクル特性等の観点から、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2、LiNi0.82Co0.15Al0.03O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiFePO4が好ましい。
【0100】
正極活物質の形状は粒子状であり、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられるが、中でも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状ないし楕円球状であるものが好ましい。通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化が起きやすい。そのため一次粒子のみの単一粒子活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐため好ましい。また、板状等軸配向性の粒子であるよりも球状ないし楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作成する際の導電助剤との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0101】
また、これら正極活物質の表面に、主体となる正極活物質を構成する物質とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0102】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により正極活物質表面に付着させることができる。
【0103】
表面付着物質の量としては、正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm、より好ましくは1ppm、更に好ましくは10ppm、上限として好ましくは20%、より好ましくは10%、更に好ましくは5%で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での非水系電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0104】
正極活物質のタップ密度は、通常1.3g/cm3以上、好ましくは1.5g/cm3以上、更に好ましくは1.6g/cm3以上、最も好ましくは1.7g/cm3以上である。正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電助剤や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い金属複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における非水系電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、通常、5g/cm3以下、好ましくは2.4g/cm3以下である。
【0105】
正極活物質のタップ密度は、目開き300μmの篩を通過させて、20cm3のタッピングセルに試料を落下させてセル容積を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の質量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0106】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、最も好ましくは3μm以上で、通常20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。上記下限を下回ると、高嵩密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成すなわち正極活物質と導電助剤や結着剤等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引いたり等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性を更に向上させることもできる。
【0107】
なお、本開示におけるメジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0108】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、正極活物質の平均一次粒子径としては、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.08μm以上、最も好ましくは0.1μm以上で、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.6μm以下である。上記上限を超えると、球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下するために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなったりする場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。なお、一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0109】
正極活物質のBET比表面積は、通常0.2m2/g以上、好ましくは0.3m2/g以上、更に好ましくは0.4m2/g以上で、通常4.0m2/g以下、好ましくは2.5m2/g以下、更に好ましくは1.5m2/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質形成時の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0110】
BET比表面積は、表面積計(例えば、(株)大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0111】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属硝酸塩、硫酸塩等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、また、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0112】
なお、正極活物質は1種を単独で用いても良く、異なる組成又は異なる粉体物性の2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0113】
上記負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。なかでも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が安全性の点から好ましく用いられる。
【0114】
金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0115】
上記炭素質材料としては、
(1)天然黒鉛、
(2)人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質;炭素質物質{例えば、天然黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、あるいはこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物(例えば軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ、或いは乾留液化油等の石炭系重質油、常圧残油、減圧残油の直流系重質油、原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等分解系石油重質油、更にアセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素、フェナジンやアクリジン等のN環化合物、チオフェン、ビチオフェン等のS環化合物、ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、これらのものの不溶化処理品、含窒素性のポリアクニロニトリル、ポリピロール等の有機高分子、含硫黄性のポリチオフェン、ポリスチレン等の有機高分子、セルロース、リグニン、マンナン、ポリガラクトウロン酸、キトサン、サッカロースに代表される多糖類等の天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂)及びこれらの炭化物、又は炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-へキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液及びこれらの炭化物}を400から3200℃の範囲で一回以上熱処理された炭素質材料、
(3)負極活物質層が少なくとも2種類以上の異なる結晶性を有する炭素質から成り立ちかつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
(4)負極活物質層が少なくとも2種類以上の異なる配向性を有する炭素質から成り立ちかつ/又はその異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
から選ばれるものが初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスが良く好ましい。
【0116】
負極活性物質としてはまた、黒鉛、活性炭、あるいはフェノール樹脂やピッチ等を焼成炭化したもの等の粉末状炭素質材料に加えて、金属酸化物系のGeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2等、あるいはこれらの複合金属酸化物(例えば、特開平7-249409号公報に開示されるもの)等を用いても良い。
【0117】
導電助剤は、電池においてLiCoO2等の電子伝導性の小さい活物質を使用する場合に、導電性を向上させる目的で必要に応じて添加するものであり、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛微粉末又は炭素繊維、カーボンファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の炭素質物質やニッケル、アルミニウム等の金属微粉末、あるいは繊維が使用できる。
【0118】
上記粉末電極材料の含有量は、得られる電極の容量を増やすために、電極合剤中40質量%以上が好ましい。
【0119】
本開示のスラリーの総質量を100質量%としたときの、溶媒(分散媒体)の含有割合は10~90質量%であることが好ましい。溶媒の含有割合が10質量%未満であると、溶媒の含有割合が少なすぎるため、結着剤や正極活物質等が溶媒中に溶解又は分散せず、固体電池を形成する層の形成に支障が生じるおそれがある。一方、溶媒の含有割合が90質量%を超えると、溶媒の含有割合が多すぎるため、目付(塗工)の制御が困難となるおそれがある。スラリーの総質量を100質量%としたときの、溶媒の含有割合は、15~70質量%であることがより好ましく、20~65質量%であることが更に好ましい。なお、スラリー中の固形分比率は、30~85質量%であることが好ましい。
【0120】
本開示においては、以下の手順でスラリーを作製することが好ましい。
(1)溶媒中に上述の結着剤を添加し、結着剤を含む結着剤溶液を得る。
(2)溶媒に、(1)で得られた結着剤溶液と別途用意した酸化物系固体電解質及び使用する正極活物質又は負極活物質を添加し、撹拌処理を施すことで、酸化物系固体電解質、活物質、結着剤とが溶媒中に分散された「電極用スラリー」を得る。更に溶媒を添加し、撹拌機等を使用した分散処理を施すことで、電極活物質と酸化物系固体電解質と結着剤とが溶媒中に高度に分散されたまま所定の粘度の「電極用スラリー」を調整することが出来る。工程(2)において、導電助剤を必要に応じて添加するものであってもよい。
(3)固体電解質層用スラリーの場合は、溶媒に、(1)で得られた結着剤溶液と別途用意した酸化物系固体電解質を添加し、撹拌機等を使用した分散処理を施すことで、酸化物系固体電解質と結着剤とが溶媒中に高度に分散した「固体電解質層用スラリー」を得る。更に溶媒を添加し、撹拌機等を使用した分散処理を施すことで、酸化物系固体電解質と結着剤とが溶媒中に高度に分散されたまま、所定の粘度の「固体電解質層用スラリー」を調整することが出来る。工程(3)において、導電助剤を必要に応じて添加するものであってもよい。
【0121】
このように、結着剤、酸化物系固体電解質及び必要に応じて使用する電極活物質を段階的に添加し、逐次分散処理を施すことで、各成分が溶媒中に高度に分散されたスラリーを容易に得ることができる。これら以外の任意成分(導電助剤等)を添加する場合も同様で、逐次分散処理を施しつつ添加することが好ましい。
ただし、溶媒中に、結着剤、酸化物系固体電解質及び必要に応じて使用する電極活物質、並びに、任意成分を一度に添加し、一度に分散処理を施した場合であっても、スラリーを得ることが可能である。
なお、分散処理の形態としては、一例として上記の撹拌機があげられる。また、他にもホモジナイザーによる分散等も考えられる。
【0122】
スラリーを作製する工程において、結着剤、酸化物系固体電解質、及び必要に応じて使用する電極活物質の混合比については、それぞれの層を形成した際に適切に機能するような混合比であればよく、公知の混合比を採用できる。
なお、スラリー中の固形分総質量100質量部に対して、上述の結着剤を0.1質量部以上9.5質量部以下含ませることが特に好ましい。結着剤が少なすぎると、電極にした場合において電極層内の密着性及び電極層と集電体との間の密着性に劣り、電極のハンドリングが困難となる場合がある。一方、結着剤が多すぎると、電極の抵抗が大きくなって、十分な性能を有する固体電池を得ることができなくなる場合がある。
【0123】
本開示のスラリーを作製する工程において、溶媒に対する固形分(電極活物質、酸化物系固体電解質及び結着剤)の量は特に限定されるものではないが、例えば、スラリーにおける固形分が30質量%以上75質量%以下となるようにすることが好ましい。このような固形分比率であれば、より容易に電極を製造することができる。固形分比率の下限はより好ましくは50質量%以上であり、上限はより好ましくは70質量%以下である。
【0124】
本開示のスラリーは、固体二次電池用電極及び/又は固体二次電池用酸化物系電解質層を形成するために使用することができる。
このような固体二次電池用電極及び/又は固体二次電池用酸化物系電解質層の製造方法は特に限定されるものではないが、(1)基材を準備する工程、(2)スラリーを準備する工程、及び、(3)スラリーを塗工して固体二次電池用電極及び/又は固体二次電池用酸化物系電解質層を形成する工程によって行うことができる。
以下、上記工程(1)~(3)について、順に説明する。
【0125】
工程(1) 基材を準備する工程
本開示に用いられる基材は、スラリーを塗工できる程度の平面を有するものであれば、特に限定されない。基材は、板状であってもよいし、シート状であってもよい。また、基材は、予め作製したものでもよいし、市販品でもよい。
【0126】
本開示に用いられる基材は、酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層を形成した後に酸化物系固体電池に用いられるものであってもよいし、酸化物系固体電池の材料とならないものであってもよい。酸化物系固体電池に用いられる基材の例としては、例えば、集電体等の電極材料や、酸化物系固体電解質膜等の酸化物系固体電解質層用材料等が挙げられる。本開示のスラリーを使用することで得られた酸化物系固形電池用電極及び/又は酸化物系電解質層を基材として使用し、ここに更に、酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層を形成することもできる。
【0127】
酸化物系固体電池の材料とならない基材としては、例えば、転写用シートや転写用基板等の転写用基材が挙げられる。転写用基材上に形成した酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層と、酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層とを熱圧着等により接合した後、転写用基材を剥離することにより、酸化物系固体電解質層上に酸化物系固体電池用電極を形成できる。
また、転写用基材上に形成した酸化物系固体電池用電極層は、集電体と熱圧着等により接合した後、転写用基材を剥離することにより、酸化物系固体電池用電極を形成できる。
【0128】
工程(2) スラリーを準備する工程
この工程については、上述したスラリーの調製方法に従って行うことができる。
【0129】
工程(3) スラリーを塗工して酸化物系固体電池用電極又は酸化物系電解質層を形成する工程
本工程は、上記基材の少なくともいずれか一方の面に、上記スラリーを塗工して酸化物系固体電池用電極又は酸化物系電解質層を形成する工程である。
酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層は、基材の片面のみに形成されてもよいし、基材の両面に形成されてもよい。
【0130】
スラリーの塗工方法、乾燥方法等は適宜選択することができる。例えば、塗工方法としては、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、バーコート法、ロールコート法、グラビア印刷法、ダイコート法等が挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥等が挙げられる。減圧乾燥、加熱乾燥における具体的な条件に制限はなく、適宜設定すればよい。なお、加熱乾燥は、結着剤の分解温度以下で行われるものであることが好ましい。このようにすることで、結着剤の性能を十分に発揮することができるためである。なお、結着剤の分解温度は、熱重量測定装置〔TGA〕(島津社製)を用い、10℃/分の昇温速度で昇温した時の重量減少を記録し、5質量%が減少した温度を熱分解温度とした。
【0131】
スラリーの塗工量は、スラリーの組成や目的とする酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層の用途等によって異なるが、乾燥状態で5~30mg/cm2程度となるようにすればよい。また、酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層の厚さは、特に限定されないが、10~300μm程度とすればよい。
【0132】
本開示に係る酸化物系固体電池用電極は、上記電極用スラリーからなる活物質層を有するものであり、上記活物質層に加えて、集電体、及び当該集電体に接続されたリード等を備えていてもよい。
【0133】
本開示に用いられる活物質層の厚さは、目的とする酸化物系固体電池の用途等により異なるものであるが、10~300μmであるのが好ましく、20~280μmであるのがより好ましく、特に30~250μmであることが最も好ましい。
【0134】
本開示に用いられる集電体は、上記の活物質層の集電を行う機能を有するものであれば特に限定されない。集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、銅、ニッケル、鉄、チタン、クロム、金、白金、亜鉛等を挙げることができ、なかでも、アルミニウム及び銅が好ましい。また、集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、なかでも、箔状が好ましい。
【0135】
本開示に係る酸化物系固体電池用電極は、上記結着剤の含有割合を酸化物系固体電池用電極(好ましくは電極活物質層)の0.5~9.5質量%とすることにより、優れた接着力を発揮し、且つ、当該正極を用いた酸化物系固体電池は高い出力を発揮する。
【0136】
本開示は、上述した酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層を備えることを特徴とする固体二次電池でもある。当該固体二次電池は、リチウムイオン電池であることが好ましい。本開示の酸化物系固体二次電池は、正極、負極、並びに当該正極及び当該負極の間に介在する酸化物系固体電解質層を備える酸化物系固体二次電池であって、酸化物系固体電池用電極及び/又は酸化物系電解質層が上述した本開示の結着剤を含有するものである。
【0137】
図1は本開示に係る酸化物系固体二次電池の積層構造の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本開示に係る酸化物系固体二次電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
酸化物系固体二次電池は、正極活物質層2及び正極集電体4を備える正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を備える負極7と、上記正極6及び上記負極7に挟持される酸化物系固体電解質層1を備える。本開示に用いられる正極、負極は、上述した酸化物系固体電池用電極と同様である。以下、本開示に係る酸化物系固体二次電池に用いられる電極及び酸化物系固体電解質層、並びに本開示に係る酸化物系固体二次電池に好適に用いられるセパレータ及び電池ケースについて、詳細に説明する。
【0138】
本開示の酸化物系固体二次電池は、正極及び負極の間にセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0139】
本開示の酸化物系固体二次電池は、更に電池ケースを備えていてもよい。本開示に用いられる電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、酸化物系電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0140】
本開示の固体二次電池は、例えば、上記酸化物系電解質層を準備する工程、上記正極又は負極活物質、酸化物系電解質、結着剤及び溶媒を混練し、スラリーを準備する工程、並びに上記酸化物系電解質層の一方の面に上記スラリーを塗工して正極を形成し、且つ、上記酸化物系電解質層の他方の面にスラリーを塗工して負極を積層し、プレスすることで酸化物系固体二次電池を製造する工程によって製造することができる。
【実施例】
【0141】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。またすべての作業は露点温度が-60℃以下の雰囲気中で行った。
【0142】
(結着剤の製造方法)
(結着剤1;実施例用)
3Lのステンレス製オートクレーブに純水1500ml、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 50%水溶液を0.3001g、C5F11COONH4 50%水溶液を6.001g入れ窒素置換し、ビニリデンフルオライド(VdF)で微加圧とし、600rpmで攪拌しながら80℃に温調して、VdFを1.22MPaまで圧入し、さらにVdFと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンのモル比が77.2/22.8の混合液モノマーを1.501MPaまで圧入した。過硫酸アンモニウム0.1gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。連続モノマー11gに到達したときに1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-2-ヨード-プロパン1.6738g添加した。圧力が1.44MPaまで降下したところで連続モノマーにて1.50MPaまで昇圧した。これを繰り返し約6.2時間の後連続モノマーを521g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを放出し、冷却して2087gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は26.08%であった。この分散液に塩化カルシウムを加えて凝析し、乾燥することで524.3gのポリマーを得た。得られたポリマーは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとVdFをモル比で23.1/76.9の割合で含んでいた。得られたポリマーのムーニー粘度(ML1+10(121℃))は25で、TgはDSCにより-14℃と決定された。
【0143】
(結着材2;実施例用)
6Lのステンレス製オートクレーブに純水3500ml、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 50%水溶液を0.7010g、C5F11COONH4 50%水溶液を14.005g入れ窒素置換し、ビニリデンフルオライド(VdF)で微加圧とし、600rpmで攪拌しながら80℃に温調して、VdFを1.22MPaまで圧入し、さらにVdFと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンのモル比が77.6/22.4の混合液モノマーを1.501MPaまで圧入した。2-メチルブタン0.23ml、過硫酸アンモニウム0.775gを純水10mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。圧力が1.5MPaを維持するよう連続モノマーを供給し、4.8時間の後連続モノマーを400g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを放出し、冷却して3937gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は10.79%であった。この分散液に硫酸アルミニウムを加えて凝析し、乾燥することで423gのポリマーを得た。得られたポリマーは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとVdFをモル比で22.8/77.2の割合で含んでいた。得られたポリマーのムーニー粘度(ML1+10(140℃))は60で、TgはDSCにより-14℃と決定された。
【0144】
(結着剤3~10;実施例用)
同様の方法で、表1に示した結着剤2~10の組成になるように、ポリマー組成を調整し、これを得た。
【0145】
(結着剤11;比較例用)
結着剤11に関しては、KF7200(クレハ製)を使用した。
【0146】
(結着剤12;比較例用)
結着剤12に関しては、3Lのステンレス製オートクレーブに純水1716ml、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 50%水溶液を0.3432g、C5F11COONH4 50%水溶液を3.421g入れ窒素置換し、HFPで微加圧とし、560rpmで攪拌しながら80℃に温調して、HFPを0.56MPaまで圧入し、VdFを0.69MPaまで圧入し、さらにVdFとTFEとHFPのモル比が70.2/11.3/18.5の混合液モノマーを2.000MPaまで圧入した。過硫酸アンモニウム0.0218gを純水4mlに溶解したものを窒素で圧入して重合スタートした。連続モノマー12gに到達したときに1,4-ジヨードパーフルオロブタン2.5022gを添加した。圧力が1.97MPaまで降下したところで連続モノマーにて2.03MPaまで昇圧した。これを繰り返し約5.0時間の後連続モノマーを572g仕込んだところでオートクレーブ内のガスを放出し、冷却して2302gの分散液を回収した。分散液の固形分含有量は23.5%であった。この分散液に硫酸アルミニウムを加えて凝析し、乾燥することで571gのポリマーを得た。得られたポリマーはVdFとTFEとHFPをモル比で69.9/11.2/18.9の割合で含んでいた。得られたポリマーのムーニー粘度(ML1+10(121℃))は50で、TgはDSCにより-20℃と決定された。また、融解熱は、セカンドランでは認められなかった。
【0147】
(結着剤13;比較例用)
結着剤13に関しては、結着剤12と同様の方法で、表1に示した結着剤13の組成になるように、ポリマー組成を調整し、これを得た。
【0148】
実施例において、各繰り返し単位の含有量は、NMR法により測定した値である 。
<ポリマー組成>
含フッ素エラストマーの組成は、溶液NMR法により測定した。
測定装置:バリアン社製 VNMRS400
共鳴周波数:376.04(Sfrq)
パルス幅:30°(pw=6.8)
【0149】
実施例及び比較例で使用した結着剤を以下表1に示す。
【0150】
【0151】
実施例1~10、13~15、比較例1~3
表1に記載の結着剤をN-メチルピロリドン(以下、NMP)に溶解させ、8%の結着剤溶液を作製した。
導電助剤としてアセチレンブラックを0.35g、結着剤溶液を固形分換算で0.3g加えて、撹拌した。2分間氷冷した後、固体電解質Li7La3Zr2O12(以下、LLZ)を6.8gと正極活物質(LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])を13.28gとを混合した粉末を加え、再度撹拌した。その後、再度、NMPを3.5g加えて、再度撹拌した。
【0152】
実施例11
表1に記載の結着剤をNMPに溶解させ、8%の結着剤溶液を作製した。
固体電解質LLZを10.4gと、結着剤溶液を固形分換算で0.21g加えて、撹拌し、容器ごと氷冷した。
【0153】
実施例12
結着剤1をNMPに溶解させ、8%の結着剤溶液を作製した。
固体電解質LLZを6.8gと負極活物質として人造黒鉛13.5g、結着剤溶液を固形分換算で0.41g加えて撹拌した。2分間容器ごと氷冷した後、再度、撹拌した。
【0154】
評価方法
耐ゲル化特性、スラリー化を調整した後、静置状態で、時間経過とともにゲル化の有無を目視で観察した。スラリーがゲル化して流動性を失った場合には×、流動性が維持されている場合には○とした。表2に結果をまとめた。
【0155】
【0156】
表2の結果から、本開示の結着剤を使用すると、ゲル化を生じることなく、良好なスラリーを得ることができる。
【0157】
作製したスラリーを用いて電極作製をおこなった。
(負極の作製)
実施例12で作製した負極用スラリーを負極集電体である銅箔上にドクターブレードを用いて塗工し、100℃で10分間乾燥させた。その後、70℃にした真空乾燥機で12時間乾燥し、負極集電体の表面に厚み100μmの負極層が形成されてなる負極を得た。このような活物質層は、目視観察による問題を生じていないものであり、良好な膜形成を行うことができた。
【0158】
(正極の作製)
実施例5で作製した正極用スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔上にドクターブレードを用いて塗工し、100℃で10分間乾燥させた。その後、70℃にした真空乾燥機で12時間乾燥し、正極集電体の表面に厚み90μmの正極層が形成されてなる正極を得た。このような活物質層は、目視観察による問題を生じていないものであり、良好な膜形成を行うことができた。
【0159】
(固体電解質層の作製)
実施例11で作製した電解質スラリーを剥離可能な基材(PET箔)上にドクターブレードを用いて塗工し、100℃で20分間乾燥させた。その後、70℃にした真空乾燥機で12時間乾燥し、基材上に厚み205μmの固体電解質層を形成した。このような固体電解質層は、目視観察による問題を生じていないものであり、良好な膜形成を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本開示の結着剤は、固体二次電池の製造に使用されるものである。より具体的には、固体二次電池を形成する各層の形成において使用することができるものである。本開示の結着剤によって、より大型の固体二次電池を安価かつ効率的に提供することができる。
【符号の説明】
【0161】
1 酸化物系固体電解質層
2 正極活物質層
3 負極活物質層
4 正極集電体
5 負極集電体
6 正極
7 負極