(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】果樹栽培設備
(51)【国際特許分類】
A01G 9/24 20060101AFI20240502BHJP
A01G 9/14 20060101ALI20240502BHJP
A01G 9/18 20060101ALI20240502BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240502BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20240502BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A01G9/24 G
A01G9/14 W
A01G9/18
A01G7/00 603
A01G22/05
A01G7/02
A01G7/00 601Z
(21)【出願番号】P 2020212417
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【氏名又は名称】岸本 高史
(72)【発明者】
【氏名】古市 涼
(72)【発明者】
【氏名】手塚 達也
(72)【発明者】
【氏名】野畑 慶介
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-065965(JP,A)
【文献】特開2018-117539(JP,A)
【文献】特開2019-037225(JP,A)
【文献】実開昭60-036067(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/24
A01G 9/14
A01G 9/18
A01G 7/00
A01G 22/05
A01G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウスと、ハウス内を走行する走行車両と、前記ハウス内を換気する換気手段と
、前記ハウス内を暖房する暖房手段とを備え、
前記走行車両に、果実のエリアの画像と茎葉のエリアの画像を撮像する画像装置が設けられ、
さらに、前記画像装置が撮像した画像に基づいて、前記果実のエリアの温度と前記茎葉エリアの温度を測定する温度測定装置と、
前記温度測定装置が測定した前記果実のエリアの温度と前記茎葉のエリアの温度の温度差を算出する温度差算出手段と、
日没後、前記温度差算出手段によって算出された算出温度差と、予め設定された設定温度差との数値を継続的に比較し、前記算出温度差と、前記設定温度差とが等しくなった時点から、所定の時間が経過したことを条件として、前記換気手段による換気を停止し、前記暖房手段による暖房を開始するよう制御する制御手段とを備えたことを特徴とする果樹栽培設備。
【請求項2】
前記温度測定装置が、サーモグラフィーカメラによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の果樹栽培設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウス内で、果樹を栽培する果樹栽培設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハウス内に、複数の栽培ベッドと細霧装置と遮光カーテンを備え、栽培ベッド間を走行する走行車両に果実の温度を測定する放射温度測定装置が搭載された植物栽培設備が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された植物栽培設備においては、走行車両を所定の位置に移動させ、走行車両に搭載された放射温度測定装置を用いて、果実の温度を測定し、果実の温度が高いときは、細霧装置から細霧を噴霧させ、あるいは、遮光カーテンを閉じ、果実の温度が低いときは、細霧装置からの細霧の噴霧を停止させ、あるいは、遮光カーテンを開いて、果実の温度を制御することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された植物栽培設備においては、植物の栽培環境を向上させるために、栽培ベッド間を走行する走行車両が十分に活用されていない。
【0006】
本発明は、ハウス内を移動する走行車両を活用して、果樹の栽培環境をより向上させることができる果樹栽培設備を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のかかる目的は、
ハウスと、ハウス内を走行する走行車両と、前記ハウス内を換気する換気手段とを備え、
前記走行車両に、果実のエリアの画像と茎葉のエリアの画像を撮像する画像装置が設けられ、
さらに、前記画像装置が撮像した画像に基づいて、前記果実のエリアの温度と前記茎葉エリアの温度を測定する温度測定装置と、
前記温度測定装置が測定した前記果実のエリアの温度と前記茎葉のエリアの温度の温度差を算出する温度差算出手段と、
前記温度差が目標温度差になるように、前記換気手段の換気時間を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする果樹栽培設備
によって達成される。
【0008】
植物において、光合成産物は温度の高い方に転流されることが知られているが、本発明によれば、果実のエリアの温度と茎葉のエリアの温度との温度差が目標温度差になるように、換気時間を制御するように構成されているから、光合成産物を所望のように温度が高い果実に転流させることができ、大きな果実を栽培することが可能になる。
【0009】
本発明の好ましい実施態様においては、前記温度測定装置が、サーモグラフィーカメラによって構成されている。
【0010】
本発明の別の好ましい実施態様においては、
果樹栽培装置は、さらに、前記ハウス内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、前記ハウス内の温度を測定するハウス内温度センサを備え、
前記温度測定装置によって、果樹の上部エリアの温度が測定され、
前記温度差算出手段が、前記温度測定装置によって測定された前記果樹の上部エリアの温度と、前記ハウス内温度センサによって測定されたハウス内温度との温度差を算出するように構成され、
前記制御手段が、前記温度差算出手段によって算出された前記温度差が所定の温度差以下のときに、前記温度差に応じて、前記二酸化炭素供給手段を駆動して、前記ハウジング内に二酸化炭素を供給するように構成されている。
【0011】
果樹の上部エリアの温度と、ハウス内温度との温度差が所定の温度差よりも大きいときは、葉の気孔が閉じやすく、二酸化炭素をハウス内に供給しても、光合成を促進することができないことが認められ、一方で、果樹の上部エリアの温度と、ハウス内温度との温度差が所定の温度差以下のときは、葉の気孔が開いているから、二酸化炭素をハウス内に供給することによって、光合成を促進することが認められているが、本発明のこの実施態様によれば、果樹の上部エリアの温度とハウス内温度との温度差が所定の温度差以下のときに、ハウス内に二酸化炭素を供給するように構成されているから、活発な光合成が期待できないときには、ハウス内に二酸化炭素を供給せず、活発な光合成が期待できる場合に限って、果樹の上部エリアの温度とハウス内温度との温度差に応じて、ハウス内に二酸化炭素を供給することができ、したがって、効率的に、光合成を促進することが可能になる。
【0012】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
果樹栽培設備の前記走行車両がさらに、果樹の花房を検出可能なカラーカメラと、エアを噴射するエア噴射手段を備え、
前記エア噴射手段が、前記カラーカメラと連動して、その高さ位置が、前記カラーカメラの高さ位置と同じになるように構成され、
前記走行車両が停止するたびに、前記カラーカメラが果樹の花房を検出可能な位置に移動され、前記エア噴射手段が果樹の花房にエアを噴射するように構成されている。
【0013】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、走行車両が停止するたびに、カラーカメラが前記果樹の花房を検出可能な高さ位置に移動され、カラーカメラの移動に連動して、エア噴射手段も果樹の花房に正対する高さ位置に移動されるから、エア噴出手段から花房に確実にエアを吹き付けることができ、したがって、ハチを利用して、花房に受粉させることができない農薬散布後、数日間においても、花房を受粉させることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハウス内を移動する走行車両を活用して、果樹の栽培環境をより向上させることができる果樹栽培設備を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる植物栽培設備の構成を示す略縦断面図である。
【
図3】
図1に示された本発明の実施態様にかかる植物栽培設備の植物生育診断装置の制御系、検出系、駆動系、表示系および入力系のブロックダイアグラムである。
【
図4】
図4は、植物生育診断装置のディスプレイに表示されたトマト群落のサーモグラフィーを可視画像化した図面である。
【
図5】
図5は、ハウス内の温度と時刻との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、換気装置の作動時間が長くなるように制御した場合のハウス内の温度と時刻との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる果樹栽培設備の構成を示す略縦断面図である。
【
図8】
図8は、
図7に示された果樹栽培設備の植物生育診断装置の制御系、検出系、駆動系、表示系および入力系のブロックダイアグラムである。
【
図9】
図9は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる果樹栽培設備の走行車両の略正面図である。
【
図10】
図10は、
図9に示された走行車両を備えた果樹栽培設備の植物生育診断装置の制御系、検出系、駆動系、表示系および入力系のブロックダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
【0017】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる果樹栽培設備の構成を示す略縦断面図である。本実施態様にかかる果樹栽培設備は、トマトを栽培するように構成されている。
【0018】
図1に示されるように、本実施態様にかかる植物栽培設備は、金属などで構成されたフレームとフレームに支持された透光性を有する合成樹脂フィルム製の被覆材によって構成されたハウス1を備え、ハウス1内には、
図1の紙面に垂直な方向に延びる複数の培地3が互いに略平行に設置されている。
【0019】
図1においては、便宜上、2つの培地3が設けられたハウス1が図示されている。
【0020】
ハウス1の上部には、
図1において左右方向に延びるワイヤ5が張られ、ワイヤ5には、フック6を介して、誘因紐7が上下方向に垂下されており、培地3に植えられたトマトFは、誘因紐7に沿って成長するように構成されている。
【0021】
ハウス1の天井部には、ハウス1内に細霧を噴霧する細霧装置10が設けられ、
図1においてハウス1の右側の壁部に沿って昇降可能で、太陽光を遮光する遮光カーテン11が設けられている。
【0022】
さらに、ハウス1内には、ハウス1内の空気を換気する換気装置12およびハウス1内を暖房するヒーター13が設けられている。
【0023】
図1に示されるように、ハウス1内にはレール15が設けられており、レール15は、
図1において左右端部に位置する培地3の一方の外側から、複数の培地3の隣り合った培地3の間を通って延びている。
【0024】
ハウス1内には、さらに、レール15上を走行する走行車両16が設けられている。
【0025】
【0026】
図2に示されるように、走行車両16には、トマトFの生育状況を診断する植物生育診断装置20が搭載され、植物生育診断装置20には、対象物の温度を感知して、画像を生成するサーモグラフィーカメラ22が設けられ、サーモグラフィーカメラ22は支柱24に沿って上下動可能であり、サーモグラフィーカメラ22の高さおよび向きを変更可能なカメラ位置設定装置(
図2には図示されていない)が設けられている。
【0027】
さらに、植物生育診断装置20には、パーソナルコンピュータ(
図2には図示せず)が設けられており、サーモグラフィーカメラ22はパーソナルコンピュータによって制御されるように構成されている。
【0028】
図3は、植物生育診断装置20の制御系、検出系、駆動系、表示系および入力系のブロックダイアグラムである。
【0029】
図3に示されるように、植物生育診断装置20の制御系は、装置全体を制御するパーソナルコンピュータ30を備え、パーソナルコンピュータ30はCPU31と、制御プログラムが格納されたROM32と、各種データを記憶可能なRAM33を備えている。
【0030】
図3に示されるように、植物生育診断装置20の検出系は、サーモグラフィーカメラ22と、ハウス1内の温度を検出するハウス内温度センサ35と、ハウス1外の外気温度を検出する外気温度センサ36を備えている。
【0031】
図3に示されるように、植物生育診断装置20の駆動系は、サーモグラフィーカメラ22の高さおよび向きを変更するカメラ位置設定装置40と、細霧装置10と、遮光カーテン11と、換気装置12と、ヒーター13を備えている。
【0032】
一方、植物生育診断装置20の表示系は、ディスプレイ50を備え、植物生育診断装置20の入力系は、パーソナルコンピュータ30をオンオフする電源スイッチ41を備えている。
【0033】
本実施態様においては、走行車両16に搭載する植物生育診断装置20のパーソナルコンピュータ30で、走行車両16に搭載するサーモグラフィーカメラ22をはじめ、細霧装置10と、遮光カーテン11と、換気装置12と、ヒーター13等のハウス1内の各設備を集中制御する構成について記載しているが、前述のハウス1内の各設備については、ハウス1用の別の制御盤で制御し、該制御盤と植物生育診断装置20のパーソナルコンピュータ30を無線通信で接続できる構成でもよい。
【0034】
以上のように構成された本実施態様にかかるトマト栽培設備においては、以下のようにして、トマトの温度が測定される。
【0035】
本実施態様においては、まず、トマト群落の果実温度および茎と葉の温度(植物体温)が測定され、温度を測定すべきトマト群落の果実温度の平均値と、トマト群落の植物体温の平均値が算出される。
【0036】
まず、作業者によって、温度を測定すべき複数のトマト群落のうち、1番目のトマト群落(1)に対向する位置に走行車両16が移動されて、停止される。
【0037】
次いで、作業者により、電源スイッチ41が操作され、パーソナルコンピュータ30が起動されると、植物生育診断装置20が起動され、カメラ位置設定装置40によって、サーモグラフィーカメラ22が、トマト群落の果実温度と植物体温の画像を撮像可能な高さ位置に移動され、その位置に固定される。次いで、サーモグラフィーカメラ22がオンされて、トマト群落が撮像され、トマト群落(1)のサーモグラフィー画像データ(1)が生成される。
【0038】
こうして生成されたトマト群落のサーモグラフィー画像データ(1)は、パーソナルコンピュータ30のCPU31に送られ、CPU31によって、サーモグラフィー画像(熱画像)がパーソナルコンピュータ30のディスプレイ50の画面上に表示される。
【0039】
次いで、作業者によって、パーソナルコンピュータ30のディスプレイ50の画面上に表示されたサーモグラフィー画像内に、目視で、1番目のトマト群落(1)のうち、トマトの果実が撮像された果実領域FR(1)と、トマト群落の葉と茎が撮像された植物領域PR(1)が、タッチペンなどを用いて、ディスプレイ50の画面上で選択される。
【0040】
図4は、植物生育診断装置20のディスプレイ50の画面上に表示された1番目のトマト群落(1)のサーモグラフィー画像を便宜的にトマト群落の果実(トマト)と茎および葉が肉眼で見えるような画像に変換したものであり、トマトの果実が撮像された果実領域がFR(1)にて、トマト群落の茎および葉が撮像された植物領域PR(1)にて表示されている。
【0041】
こうして、果実領域FR(1)と植物領域PR(1)が選択されると、領域選択信号がディスプレイ50からパーソナルコンピュータ30のCPU31に入力され、パーソナルコンピュータ30のCPU31によって、トマト群落(1)のサーモグラフィー画像データに基づいて、1番目のトマト群落の果実領域FR(1)内の平均温度である果実温度TF(1)および植物領域PR(1)内の平均温度である植物体温TP(1)が算出される。
【0042】
こうして算出された1番目のトマト群落(1)の果実温度TF(1)および植物体温TP(1)はパーソナルコンピュータ30のRAM33に格納される。
【0043】
以上のようにして、1番目のトマト群落(1)の果実温度TF(1)および植物体温TP(1)がパーソナルコンピュータ30のRAM33に格納されると、作業者によって、パーソナルコンピュータ30の電源スイッチ41がオフされて、植物生育診断装置20の電源がオフされる。
【0044】
次いで、作業者によって、j番目のトマト群落(j)に対向する位置に走行車両16が移動されて、停止され、作業者によって、パーソナルコンピュータ30の電源スイッチ41がオンされると、植物生育診断装置20が起動され、カメラ位置設定装置40によって、サーモグラフィーカメラ22が、トマト群落(j)の果実温度と植物体温の画像を撮像可能な高さ位置に移動され、その位置に固定される。次いで、サーモグラフィーカメラ22がオンされて、トマト群落(j)が撮像され、トマト群落(j)のサーモグラフィー画像データ(1)が生成される。ここに、jは2以上、N以下の整数であり、Nは温度を測定すべきトマト群落の数である。
【0045】
その結果、サーモグラフィーカメラ22によって、j番目のトマト群落(j)が撮像され、トマト群落のサーモグラフィー画像データ(j)が生成される。
【0046】
こうして生成されたトマト群落のサーモグラフィー画像データ(j)は、パーソナルコンピュータ30に送られ、CPU31によって、サーモグラフィー画像(熱画像)がパーソナルコンピュータ30のディスプレイ50の画面上に表示される。
【0047】
次いで、作業者によって、ディスプレイ50の画面上に表示されたサーモグラフィー画像内に、タッチペンなどを用いて、目視で、トマト群落(j)のうち、トマトの果実が撮像された果実領域FR(j)と、トマト群落の葉と茎が撮像された植物領域PR(j)が選択される。
【0048】
こうして、果実領域FR(j)と植物領域PR(j)が選択されると、パーソナルコンピュータ30のCPU31によって、トマト群落のサーモグラフィー画像データに基づいて、j番目のトマト群落の果実領域FR(j)内の平均温度である果実温度TF(j)および植物領域PR(j)内の平均温度である植物体温TP(j)が算出される。
【0049】
このようにして算出されたj番目のトマト群落の果実温度TF(j)および植物体温TP(j)はパーソナルコンピュータ30のRAM33に格納される。
【0050】
かかる操作を、j=2からj=Nまで繰り返し、果実温度TF(j)および植物体温TP(j)がパーソナルコンピュータ30のRAM33に格納されると、トマト群落の温度測定が完了する。
なお、走行車両16は、低速で自律走行し、トマトの群落を検出する毎に停止し、前記果実領域FRや植物領域PRの温度を検出する等の制御を行ってもよい。
【0051】
トマト群落の温度測定が完了すると、パーソナルコンピュータ30のCPU31は、RAM33に格納されているトマト群落の果実温度TFの総和を算出し、温度を測定したトマト群落の数Nで除して、果実温度TFの平均値TFavを算出するとともに、RAM33に格納されているトマト群落の植物体温TPの総和を算出し、温度を測定したトマト群落の数Nで除して、植物体温TPの平均値TP(av)を算出する。
【0052】
トマトFの栽培においては、光合成産物は温度の高い方に転流されることが知られており、本実施態様においては、日没時において、果実温度と植物体温がその差が大きくなるように制御され、大きなトマトFが栽培されるように構成されている。
【0053】
図5は、ハウス内温度センサ35によって測定されたハウス1内の温度と時刻との関係を示すグラフである。
【0054】
本実施態様においては、日中は、換気装置12によって、ハウス1内の空気が所定の流量で換気されているため、
図5に示されるように、ハウス1内の温度(ハウス内温度)はほぼ外気温度である約24℃に等しいが、16時を過ぎた日没後には、外気温度が急激に低下するため、換気を続けていると、ハウス温度も約10℃程度にまで急激に低下する。
【0055】
本実施態様においては、日没後、約15分が経過した後に、換気装置12による換気が停止され、ヒーター13がオンされるようにセットされており、そのため、16:15頃からハウス温度が上昇し始め、16:30頃になると、ハウス温度は約20℃に達し、その後はほぼ一定になる。
【0056】
ハウス内温度の変化にともなって、果実温度TFと植物体温TPも変化するが、一般に、茎と葉は熱発散しやすいため、ハウス温度の変化にともなって、植物体温TPは変化しやすく、その一方で、果実は植物に比して熱発散しにくいため、ハウス内温度が変化しても、果実温度TFはただちにはハウス内温度に追随して、変化はしない。
【0057】
したがって、日没後、換気を続けていると、ハウス内温度の低下にともなって、植物体温TPはただちに外気温度にまで低下するが、果実温度TFはただちには低下せず、しばらくの間、果実温度TFが植物体温TPよりも高い状態が続くことになる。
【0058】
図5は、果実温度TFと植物体温TPの差[果実温度TF-植物体温TP]が1℃になるように、換気装置12の停止時間を制御した場合のハウス1内の温度と時刻との関係が示されている。
【0059】
植物の栽培において、光合成産物は温度の高い方に転流されるため、果実温度TFが植物体温TPよりも高い状態では、光合成産物は果実に転流する。
【0060】
そこで、本実施態様においては、果実温度TFと植物体温TPの差[果実温度TF-植物体温TP]が所定の温度差になるように、換気装置15による換気時間が制御され、より大きなトマトを栽培するように構成されている。
【0061】
具体的には、パーソナルコンピュータ30のCPU31は、日没後に、上述のようにして、N個のトマト群落の果実温度TFの平均値TF(av)を算出するとともに、植物体温TPの平均値TP(av)を算出し、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)の差を算出する。
【0062】
本実施態様においては、あらかじめ、光合成産物を茎および葉から果実(トマト)に転流させる上で、トマトの温度と茎および葉の温度との差の好ましい値である所定の温度差ΔTが定められて、RAM33に格納されており、パーソナルコンピュータ30のCPU31は、上述のようにして、算出した果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)の差を所定の温度差ΔTと対比する。
【0063】
日中においては、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)の差はほぼ外気温度に等しいので、CPU31は、特段の処理は実行せず、日没後、外気温度センサ36によって検出されたハウス1の外気温度が急速に低下したと認められると、CPU31は、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)の差のウォッチングを開始し、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)が低下して、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)の差が所定の温度差ΔTに等しくなったことを検出した後も、換気装置12の作動を続け、所定の時間tが経過した時点で、換気装置12の作動をオフするとともに、ヒーター13を作動させる。
【0064】
図6は、換気装置12の作動時間が長くなるように制御した場合のハウス内温度センサ35によって測定されたハウス1内の温度と時刻との関係を示すグラフである。
【0065】
また、
図5と
図6は、各時刻におけるハウス内温度を示すもので、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)との温度差が何度であるかは、
図5および
図6には示していないが、日没後、ハウス内温度が最低になっている時間が、
図6の方が
図5より長いことで、果実温度TFの平均値TF(av)は、と植物体温TPの平均値TP(av)の低下に遅れて、低下するため、果実温度TFの平均値TF(av)は、と植物体温TPの平均値TP(av)の温度差は
図6の方が
図5よりも大きくなる。
【0066】
本実施態様によれば、換気装置12の作動時間が長くなるように、換気装置12の停止時間が制御されているため、ハウス1内の温度が最低になっている時間がより長くなり、したがって、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)との温度差が
図5の場合よりも大きくなるため、より多くの光合成産物をトマトの果実に転流させることが可能になるから、より大きなトマトを栽培することができる。
【0067】
図7は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる果樹栽培設備の構成を示す略縦断面図であり、
図8は、
図7に示された果樹栽培設備の植物生育診断装置の制御系、検出系、駆動系、表示系および入力系のブロックダイアグラムである。
【0068】
図7および
図8に示されるように、本実施態様にかかる果樹栽培設備のハウス1には、二酸化炭素をハウス1内に供給する二酸化炭素供給手段43とハウス1内の二酸化炭素濃度を検出する二酸化炭素濃度センサ38が設けられており、二酸化炭素供給手段43はパーソナルコンピュータ30のCPU31によって制御され、二酸化炭素濃度センサ38が検出した二酸化炭素濃度信号はパーソナルコンピュータ30のCPU31に入力されるように構成されている。
【0069】
本実施態様においても、前記実施態様と同様に、まず、作業者によって、温度を測定すべき複数のトマト群落のうち、1番目のトマト群落(1)に対向する位置に走行車両16が移動されて、停止される。
【0070】
次いで、作業者により、電源スイッチ41が操作され、パーソナルコンピュータ30が起動されると、植物生育診断装置20が起動され、カメラ位置設定装置40によって、サーモグラフィーカメラ22が、トマト群落の果実温度と植物体温の画像を撮像可能で、トマトの成長点が撮影画像の上端に位置するような高さ位置に移動され、その位置に固定される。次いで、サーモグラフィーカメラ22がオンされて、トマト群落が撮像され、トマト群落(1)のサーモグラフィー画像データ(1)が生成される。
【0071】
こうして生成されたトマト群落のサーモグラフィー画像データ(1)は、パーソナルコンピュータ30のCPU31に送られ、CPU31によって、サーモグラフィー画像(熱画像)がパーソナルコンピュータ30のディスプレイ50の画面上に表示される。
【0072】
次いで、作業者によって、パーソナルコンピュータ30のディスプレイ50の画面上に表示されたサーモグラフィー画像内に、目視で、1番目のトマト群落(1)のうち、トマトの果実が撮像された果実領域FR(1)と、トマト群落の葉と茎が撮像された植物領域PR(1)が、タッチペンなどを用いて、ディスプレイ50の画面上で選択される。
【0073】
こうして、果実領域FR(1)および植物領域PR(1)が選択されると、領域選択信号がディスプレイ50からパーソナルコンピュータ30のCPU31に入力され、パーソナルコンピュータ30のCPU31によって、トマト群落(1)のサーモグラフィー画像データに基づいて、1番目のトマト群落の果実領域FR(1)内の平均温度である果実温度TF(1)および植物領域PR(1)内の平均温度である植物体温TP(1)に加えて、サーモグラフィー画像全体の平均温度である群落温度TT(1)が算出される。
【0074】
こうして算出された1番目のトマト群落(1)の果実温度TF(1)、植物体温TP(1)および群落温度(1)はパーソナルコンピュータ30のRAM33に格納される。
【0075】
以上のようにして、1番目のトマト群落(1)の果実温度TF(1)、植物体温TP(1)および群落温度(1)がパーソナルコンピュータ30のRAM33に格納されると、作業者によって、パーソナルコンピュータ30の電源スイッチ41がオフされて、植物生育診断装置20の電源がオフされる。
【0076】
次いで、作業者によって、j番目のトマト群落(j)に対向する位置に走行車両16が移動されて、停止され、作業者によって、パーソナルコンピュータ30の電源スイッチ41がオンされると、植物生育診断装置20が起動され、カメラ位置設定装置40によって、サーモグラフィーカメラ22が、トマト群落の果実温度と植物体温の画像を撮像可能で、トマトの成長点が撮影画像の上端に位置するような高さ位置に移動され、その位置に固定される。次いで、サーモグラフィーカメラ22がオンされて、トマト群落(j)が撮像され、トマト群落(j)のサーモグラフィー画像データ(1)が生成される。ここに、jは2以上、N以下の整数であり、Nは温度を測定すべきトマト群落の数である。
【0077】
その結果、サーモグラフィーカメラ22によって、j番目のトマト群落(j)が撮像され、トマト群落のサーモグラフィー画像データ(j)が生成される。
【0078】
こうして生成されたトマト群落のサーモグラフィー画像データ(j)は、パーソナルコンピュータ30のCPU31に送られ、CPU31によって、サーモグラフィー画像(熱画像)がパーソナルコンピュータ30のディスプレイ50の画面上に表示される。
【0079】
次いで、作業者によって、パーソナルコンピュータ30のディスプレイ50の画面上に表示されたサーモグラフィー画像内に、目視で、j番目のトマト群落(j)のうち、トマトの果実が撮像された果実領域FR(j)およびトマト群落の葉と茎が撮像された植物領域PR(j)が、タッチペンなどを用いて、ディスプレイ50の画面上で選択される。
【0080】
こうして、果実領域FR(j)と植物領域PR(j)が選択されると、パーソナルコンピュータ30のCPU31によって、トマト群落のサーモグラフィー画像データに基づいて、j番目のトマト群落の果実領域FR(j)内の平均温度である果実温度TF(j)および植物領域PR(j)内の平均温度である植物体温TP(j)が算出され、さらに、サーモグラフィー画像全体の平均温度である群落温度TT(j)が算出される。
【0081】
このようにして算出されたj番目のトマト群落の果実温度TF(j)、植物体温TP(j)および群落温度(j)は、パーソナルコンピュータ30のRAM33に格納される。
【0082】
かかる操作を、j=2からj=Nまで繰り返し、果実温度TF(j)、植物体温TP(j)および群落温度(j)がパーソナルコンピュータ30のRAM33に格納されると、トマト群落の温度測定が完了する。
【0083】
トマト群落の温度測定が完了すると、パーソナルコンピュータ30のCPU31は、RAM33に格納されているトマト群落の果実温度TFの総和を算出し、温度を測定したトマト群落の数Nで除して、果実温度TFの平均値TFavを算出するとともに、RAM33に格納されているトマト群落の植物体温TPの総和を算出し、温度を測定したトマト群落の数Nで除して、植物体温TPの平均値TP(av)を算出し、さらに、RAM33に格納されているトマト群落の群落温度TTの総和を算出し、温度を測定したトマト群落の数Nで除して、群落温度の平均値TT(av)を算出する。
【0084】
本実施態様においても、前記実施態様と同様に、日没後に、外気温度センサ36によって検出されたハウス1の外気温度が急速に低下したと認められると、CPU31は、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)の差のウォッチングを開始し、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)が低下して、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)の差が所定の温度差ΔTに等しくなったことを検出した後も、換気装置12の作動を続け、所定の時間tが経過した時点で、換気装置12の作動をオフするとともに、ヒーター13を作動させる。
【0085】
したがって、本実施態様においては、前記実施態様と同様に、換気装置12の作動時間が長くなるように、換気装置12の停止時間が制御されているため、ハウス1内の温度が最低になっている時間がより長くなり、したがって、果実温度TFの平均値TF(av)と植物体温TPの平均値TP(av)との温度差が
図5の場合よりも大きくなるため、より多くの光合成産物をトマトの果実に転流させることが可能になるから、より大きなトマトを栽培することができる。
【0086】
さらに、本実施態様においては、パーソナルコンピュータ30のCPU31は、常時、トマト群落の群落温度TTの平均値TT(av)と、ハウス内温度センサ35によって検出されたハウス1内の温度との差である葉温度差δTを検出しており、葉温度差δTの値に応じて、二酸化炭素供給手段43を制御するように構成されている。
【0087】
具体的には、本実施態様においては、トマト群落の群落温度TTの平均値TT(av)とハウス内温度センサ35によって検出されたハウス1内の温度との差として定義される葉温度差δTが0℃以上、2℃以下であるときは、二酸化炭素センサ38によって検出された二酸化炭素濃度が1000ppmになるように、二酸化炭素供給手段43を作動させて、二酸化炭素を積極的に、ハウス1内に補充し、葉温度差δTが2℃を超え、5℃以下であるときは、葉温度差δTが1℃上昇するたびに、二酸化炭素センサ38によって検出された二酸化炭素濃度がー50ppmずつ低下するように、二酸化炭素供給手段43の作動を制御し、葉温度差δTが5℃を超えると、二酸化炭素供給手段43の作動を停止するように制御している。
【0088】
これは、トマト群落の群落温度TTの平均値TT(av)とハウス内温度センサ35によって検出されたハウス1内の温度との差として定義される葉温度差δTが大きいときは、トマト群落の葉の気孔が閉じやすく、二酸化炭素をハウス1内に供給しても、光合成を促進することができないという知見に基づくものである。
【0089】
本実施態様によれば、葉温度差δTが0℃以上、2℃以下で、トマト群落の気孔が開いていると認められるときは、二酸化炭素供給手段43が作動されて、ハウス1内に二酸化炭素が供給されるから、光合成を促進することができ、葉温度差δTが2℃を超え、5℃以下であるときは、葉温度差δTが大きくなるにしたがって、トマト群落の葉の気孔が閉じやすくなるから、葉温度差δTが1℃上昇するたびに、二酸化炭素センサ38によって検出された二酸化炭素濃度がー50ppmずつ低下するように、二酸化炭素供給手段43が制御され、したがって、トマト群落の葉の気孔の開度に応じて、光合成を促進し、二酸化炭素を不必要にハウス1内に供給することを防止することができる。さらに、葉温度差δTが5℃を超え、トマト群落の葉の気孔が閉じていると認められるときは、二酸化炭素供給手段43の作動が停止されるから、二酸化炭素を不必要にハウス1内に供給することを防止することが可能になる。
【0090】
したがって、本実施態様によれば、不必要な時の二酸化炭素の供給を低減させることができる。
【0091】
図9は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる果樹栽培設備の走行車両16の略正面図であり、
図10は、
図9に示された走行車両16を備えた果樹栽培設備の植物生育診断装置の制御系、検出系、駆動系、表示系および入力系のブロックダイアグラムである。
【0092】
図9に示されるように、本実施態様にかかる果樹栽培設備の走行車両16に設けられた植物生育診断装置20は、さらに、カメラ位置設定装置40によってその高さ位置を変更可能なカラーカメラ26と、エアを噴射するエア噴射手段14を備え、
図10に示されるように、カラーカメラ26およびエア噴射手段14は、パーソナルコンピュータ30のCPU31によって制御されるように構成されている。
【0093】
本実施態様において、エア噴射手段14は、カラーカメラ26と連動して、その高さ位置が、カラーカメラ26の高さ位置と同じ高さ位置に設定されるように構成されている。
【0094】
本実施態様においても、
図1ないし
図6に示された実施態様と同様に、果実温度TFの平均値TF(av)と、葉と茎の温度の平均値TP(av)の差が目標温度差になるように、換気装置12の作動が制御され、また、
図7および
図8に示された実施態様と同様に、トマト群落の群落温度TTの平均値TT(av)とハウス1内の温度との差として定義される葉温度差δTの値に応じて、二酸化炭素供給手段43の作動が制御される。
【0095】
加えて、本実施態様においては、走行車両16がトマト群落(k)の前に停止するたびに、カメラ位置設定装置40によって、カラーカメラ26がトマト群落の開花花房を撮影可能な位置に移動され、カラーカメラ26の移動に連動して、エア噴射手段14も果樹の花房に正対する高さ位置に移動されるから、エア噴出手段14から花房に確実にエアを吹き付けることができ、したがって、ハチを利用して、開花花房に受粉させることができない農薬散布後、数日間においても、花房を受粉させることが可能になる。ここに、kは1以上、N以下の整数である。
【0096】
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0097】
たとえば、前記実施態様においては、果樹としてトマト群落が対象にされているが、果実と花房をつける果樹であれば、トマト群落に限定されるものではない。
【0098】
また、
図7および
図8に示された実施態様においては、葉温度差δTが0℃以上、2℃以下であるときは、二酸化炭素センサ38によって検出された二酸化炭素濃度が1000ppmになるように、二酸化炭素供給手段43を作動させて、二酸化炭素を積極的に、ハウス1内に補充し、葉温度差δTが2℃を超え、5℃以下であるときは、葉温度差δTが1℃上昇するたびに、二酸化炭素センサ38によって検出された二酸化炭素濃度がー50ppmずつ低下するように、二酸化炭素供給手段43の作動を制御し、葉温度差δTが5℃を超えると、二酸化炭素供給手段43の作動を停止するように制御しているが、かかる制御は一例にすぎず、異なるアルゴリズムで、二酸化炭素供給手段43を制御することもできる。
【符号の説明】
【0099】
1 ハウス
3 培地
5 ワイヤ
6 フック
7 誘因紐
10 細霧装置
11 遮光カーテン
12 換気手段
13 ヒーター
14 エア噴射手段
15 レール
16 走行車両
20 植物生育診断装置
22 サーモグラフィーカメラ
24 支柱
26 カラーカメラ
30 パーソナルコンピュータ
31 CPU
32 ROM
33 RAM
35 ハウス内温度センサ
36 外気温度センサ
38 二酸化炭素センサ
40 カメラ位置設定装置
43 二酸化炭素供給手段
50 ディスプレイ
51 電源スイッチ