(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】細胞移植装置
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240502BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240502BHJP
A61L 27/38 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
A61M37/00 500
C12M1/00 A
A61L27/38
A61L27/38 100
(21)【出願番号】P 2020148288
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】今井 慶一
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】南茂 彩華
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0019961(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0116192(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0135713(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0169420(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
C12M 1/00
A61L 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞群と前記細胞群から延びる部分を有したガイド部とを含む移植物を移送して前記細胞群を生体内に配置するための細胞移植装置であって、
筒状に延びる針状部であって、当該針状部の先端部の開口から前記細胞群を内部に取り込むように構成された前記針状部と、
前記針状部の内側に位置して前記針状部の延びる方向に沿って延び、前記移植物を保持可能な先端部を有する保持部と、を備え、
前記針状部は、前記開口の縁から前記針状部の基端部に向けて延びるスリット部を有し、前記針状部の延びる方向において、前記スリット部は、前記開口の縁から、前記保持部が前記針状部の内部で前記移植物を保持しているときの前記保持部の先端の位置を越える位置まで延びている
細胞移植装置。
【請求項2】
前記針状部の延びる方向における前記スリット部の終端は、前記開口の縁から前記針状部の基端に至る途中に位置する
請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項3】
前記スリット部は、前記針状部の延びる方向において、前記開口の縁のなかで前記基端部に最も近い位置から前記基端部に向けて延びる
請求項1または2に記載の細胞移植装置。
【請求項4】
前記保持部は、前記保持部の前記先端部が前記針状部の内部に配置される位置と、前記保持部の前記先端部が前記針状部の前記開口から突き出ている位置との間で、前記針状部の延びる方向に沿って前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されている
請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項5】
前記ガイド部は、糸状に延び、
前記保持部の前記先端部は、前記ガイド部を保持する
請求項4に記載の細胞移植装置。
【請求項6】
前記保持部は、2つの挟持片を有する挟持部を前記先端部に備え、2つの前記挟持片の間に前記ガイド部を挟むことにより前記ガイド部を保持する
請求項5に記載の細胞移植装置。
【請求項7】
前記保持部は、前記先端部に開閉可能な孔を有し、前記孔に前記ガイド部を通して前記孔を閉じることにより前記ガイド部を保持する
請求項5に記載の細胞移植装置。
【請求項8】
前記保持部は、前記針状部の延びる方向に沿って延びる筒状を有し、前記保持部内が吸引されることにより前記先端部に前記細胞群を保持する
請求項4に記載の細胞移植装置。
【請求項9】
前記細胞群は、毛包原基を含む
請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項10】
細胞群と前記細胞群から延びる部分を有したガイド部とを含む移植物を移送して前記細胞群を生体内に配置するための細胞移植装置であって、
複数の前記移植物から移植物ユニットが構成され、前記移植物ユニットは、複数の前記細胞群と、これらの細胞群を1列に繋いで延びる糸状体とを備え、前記糸状体は、前記ガイド部として機能する部分が連続して延びる構造体であり、
筒状に延びる針状部であって、当該針状部の先端部の開口から前記細胞群を内部に取り込むように構成された前記針状部と、
前記針状部の内側に位置して前記針状部の延びる方向に沿って延び、前記移植物を保持可能な先端部を有する保持部と、
前記保持部が、前記移植物ユニットにおける1つの前記移植物を保持している状態で、当該移植物が含む前記細胞群と、当該細胞群と前記移植物ユニットにて隣り合う他の前記細胞群との間で、前記糸状体を切断する切断部と、
を備える細胞移植装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の移植に用いられる細胞移植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞群を生体内へ移植する技術の活用が進んでいる。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を培養し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。毛包は、間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により形成される。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包が生じることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
さらに、培養された細胞群を、培養容器から生体内へ移すためのデバイスである細胞移植装置の開発も進められている(例えば、特許文献4参照)。細胞移植装置は、針状に尖る筒状の構造体である針状部を備え、針状部の内部へ培養容器から細胞群を取り込む。針状部が皮膚等の移植の対象の部位を刺した後、針状部の先端部から細胞群が放出されることにより、細胞群が生体内に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/073625号
【文献】国際公開第2012/108069号
【文献】特開2008-29331号公報
【文献】国際公開第2019/064653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞群の移植に際しては、細胞群からの組織形成を誘導するための部材であるガイド部を、細胞群と共に生体内に配置することが検討されている。例えば、上記特許文献2では、細胞群である毛包原基に糸状に延びるガイド部を挿入し、この毛包原基とガイド部とからなる移植物を皮内に移植することが提案されている。このガイド部は、皮内における毛包原基の配置の向きを規定するとともに、毛包原基由来の上皮系細胞が、移植を受けた領域の上皮系細胞と連続性を有するよう増殖して組織形成が進むように、組織形成の方向を規定する。
【0006】
上述の細胞移植装置を用いて移植物を移植する場合、細胞群とガイド部とを含む移植物は、略球形とは異なる形状を有しているため、細胞群のみを針状部内に取り込む場合と比較して、移植物の取り込みの効率が低下しやすい。また、良好な組織形成の進行のためには、ガイド部が所定の方向を向くように生体内に移植物を配置する必要があるため、細胞移植装置においては、取り込まれた移植物の向きの制御が可能であることが望ましい。
このように、細胞群とガイド部とを含む移植物の円滑な移植のためには、細胞移植装置には、未だ改良の余地が残されている。
【0007】
本発明は、細胞群とガイド部とを含む移植物の円滑な移植を可能とする細胞移植装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための細胞移植装置は、細胞群と前記細胞群から延びる部分を有したガイド部とを含む移植物を移送して前記細胞群を生体内に配置するための細胞移植装置であって、筒状に延びる針状部であって、当該針状部の先端部の開口から前記細胞群を内部に取り込むように構成された前記針状部と、前記針状部の内側に位置して前記針状部の延びる方向に沿って延び、前記移植物を保持可能な先端部を有する保持部と、を備え、前記針状部は、前記開口の縁から前記針状部の基端部に向けて延びるスリット部を有し、前記針状部の延びる方向において、前記スリット部は、前記開口の縁から、前記保持部が前記針状部の内部で前記移植物を保持しているときの前記保持部の先端の位置を越える位置まで延びている。
【0009】
上記構成によれば、針状部に細胞群が取り込まれたとき、ガイド部の端部がスリット部から針状部の外に出る。そして、針状部内において、スリット部から開口に向けてガイド部が延びる向きに、移植物が配置される。したがって、針状部内での移植物の向きを、特定の向きに制御することができるため、移植物を特定の向きで生体内に配置することが容易である。それゆえ、移植物の円滑な移植が可能となる。
【0010】
上記構成において、前記針状部の延びる方向における前記スリット部の終端は、前記開口の縁から前記針状部の基端に至る途中に位置してもよい。
上記構成によれば、針状部に細胞群と共に液状体を取り込むこと等を目的として針状部内が吸引される場合に、吸引に損失が生じることが抑えられる。
【0011】
上記構成において、前記スリット部は、前記針状部の延びる方向において、前記開口の縁のなかで前記基端部に最も近い位置から前記基端部に向けて延びてもよい。
上記構成によれば、針状部のなかで生体に最初に刺さる部分である先端付近とは異なる位置にスリット部が位置する。したがって、針状部の先端付近の鋭利さが保たれ、スリット部の形成によって針状部の生体への刺さりやすさが低下することが抑えられる。
【0012】
上記構成において、前記保持部は、前記保持部の前記先端部が前記針状部の内部に配置される位置と、前記保持部の前記先端部が前記針状部の前記開口から突き出ている位置との間で、前記針状部の延びる方向に沿って前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されていてもよい。
【0013】
上記構成によれば、保持部の先端部が針状部の開口から突き出ている状態で、保持部が移植物を保持し、保持部の先端部が針状部の内部に配置される位置まで保持部が針状部に対して移動することで、針状部に細胞群を取り込むことができる。したがって、開口付近にガイド部が引っ掛かって細胞群が針状部の中に入りにくくなることが抑えられる。これにより、移植物の取り込みが円滑に進むため、移植物の円滑な移植が可能となる。
【0014】
上記構成において、前記ガイド部は、糸状に延び、前記保持部の前記先端部は、前記ガイド部を保持してもよい。
上記構成によれば、針状部への細胞群の取り込みに際して、ガイド部が保持部に保持されて針状部の内部まで運ばれるため、開口付近にガイド部が引っ掛かることが的確に抑えられる。
【0015】
上記構成において、前記保持部は、2つの挟持片を有する挟持部を前記先端部に備え、2つの前記挟持片の間に前記ガイド部を挟むことにより前記ガイド部を保持してもよい。
上記構成によれば、保持部の先端部にガイド部を的確に保持することができる。
【0016】
上記構成において、前記保持部は、前記先端部に開閉可能な孔を有し、前記孔に前記ガイド部を通して前記孔を閉じることにより前記ガイド部を保持してもよい。
上記構成によれば、保持部の先端部にガイド部を的確に保持することができる。
【0017】
上記構成において、前記保持部は、前記針状部の延びる方向に沿って延びる筒状を有し、前記保持部内が吸引されることにより前記先端部に前記細胞群を保持してもよい。
【0018】
上記構成によれば、針状部への細胞群の取り込みに際して、細胞群が保持部に保持されて針状部の内部まで運ばれるため、開口付近にガイド部が引っ掛かって細胞群が針状部の中に入りにくくなることが的確に抑えられる。
【0019】
上記構成において、前記細胞群は、毛包原基を含んでもよい。
移植物が毛包原基を含む場合、ガイド部が細胞群から皮膚表面に向けて延び、ガイド部の端部が皮膚から出るように、移植物を配置することが求められる。上記細胞移植装置であれば、針状部内において、スリット部から開口に向けてガイド部が延びる向きに、移植物が配置されるため、生体に対して移植物を上述のように配置することが容易である。
【0020】
上記課題を解決するための細胞移植装置は、細胞群と前記細胞群から延びる部分を有したガイド部とを含む移植物を移送して前記細胞群を生体内に配置するための細胞移植装置であって、複数の前記移植物から移植物ユニットが構成され、前記移植物ユニットは、複数の前記細胞群と、これらの細胞群を1列に繋いで延びる糸状体とを備え、前記糸状体は、前記ガイド部として機能する部分が連続して延びる構造体であり、筒状に延びる針状部であって、当該針状部の先端部の開口から前記細胞群を内部に取り込むように構成された前記針状部と、前記針状部の内側に位置して前記針状部の延びる方向に沿って延び、前記移植物を保持可能な先端部を有する保持部と、前記保持部が、前記移植物ユニットにおける1つの前記移植物を保持している状態で、当該移植物が含む前記細胞群と、当該細胞群と前記移植物ユニットにて隣り合う他の前記細胞群との間で、前記糸状体を切断する切断部と、を備える。
【0021】
移植物ユニットを生成することによって、複数の移植物をまとめて生成することができるため、移植物の生成の効率が高められる。一方で、移植物の移植に際して移植物を移植物ユニットから分離する作業が増えてしまう。これに対し、上記構成によれば、針状部への細胞群の取り込みと、糸状体の切断による移植物の分離とを、1つの細胞移植装置によって実施できるため、分離の作業が煩雑になることが抑えられる。したがって、移植物の円滑な移植が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、細胞群とガイド部とを含む移植物を円滑に移植することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】第1実施形態の細胞移植装置の構成を示す図。
【
図3】第1実施形態の細胞移植装置が備える針状部の構成を示す図。
【
図4】第1実施形態の細胞移植装置における第1状態の針状部と保持部とを示す図。
【
図5】第1実施形態の細胞移植装置における第2状態の針状部と保持部であって、保持部の挟持部が開いている状態を示す図。
【
図6】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図7】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図8】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図9】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の配置工程を示す図。
【
図10】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の配置工程を示す図。
【
図11】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の配置工程を示す図。
【
図12】第1実施形態の変形例の細胞移植装置における第2状態の針状部と保持部であって、保持部の挟持部が開いている状態を示す図。
【
図13】第1実施形態の変形例の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図14】第1実施形態の変形例の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図15】第2実施形態の細胞移植装置における第2状態の針状部と保持部であって、保持部の貫通孔が開いている状態を示す図。
【
図16】第2実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図17】第2実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図18】第2実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図19】第3実施形態の細胞移植装置における第2状態の針状部と保持部とを示す図。
【
図20】第3実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図21】第3実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の取り込み工程を示す図。
【
図23】第4実施形態の細胞移植装置の構成を示す図。
【
図24】第4実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の分離工程を示す図。
【
図25】第4実施形態の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の分離工程を示す図。
【
図26】第4実施形態の変形例の細胞移植装置を用いた移植物の移植方法における移植物の分離工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
図1~
図14を参照して、細胞移植装置の第1実施形態を説明する。本実施形態の細胞移植装置は、細胞群を含む移植物を生体内へ移植するために用いられる。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織内である。本実施形態において「生体」には、生物の身体や組織だけでなく、身体や組織を模した人工的な生体モデルが含まれる。つまり、本実施形態の細胞移植装置は、生物への移植物の移植だけでなく、生体モデルへも移植物の移植を行い得る。なお、「移植物を移送して細胞群を生体内に配置するための細胞移植装置」は、「移植物を移送して細胞群を生体内に配置する機能を有する細胞移植装置」と読み替えてもよい。
【0025】
[移植物]
図1が示すように、移植物10は、細胞群11と、ガイド部12とを含む。
細胞群11は、複数の細胞を含む。細胞群11は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。移植物10において、細胞の集合体である細胞群11は、ゲル状の支持体に覆われていてもよい。あるいは、細胞群11は、分散した複数の細胞から構成され、移植物10においては、ゲル状の支持体に細胞群11を構成する複数の細胞が分散していてもよい。支持体は、例えば、コラーゲン等の細胞外マトリックスからなる。
【0026】
細胞群11を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群11は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群11は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニサイズの臓器等である。
【0027】
細胞群11は、生体における移植の対象領域に配置されることによって、生体の組織形成に作用する能力を有する。こうした能力を有する細胞群11の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。
【0028】
細胞群11は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。こうした細胞群11は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群11は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群11は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0029】
本実施形態の細胞群11の具体例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0030】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0031】
ガイド部12は、糸状に延びる。ガイド部12の長さは、細胞群11の外径よりも長い。ガイド部12は、細胞群11の内部を通り、細胞群11を貫通して延びていてもよいし、細胞群11の表面に接して延びていてもよい。要は、ガイド部12は、細胞群11から延びる部分を有していればよい。ガイド部12は、生体適合性を有する材料から形成されている。ガイド部12は、例えば、ナイロンやポリ乳酸等のポリマーからなる繊維や、絹等の天然繊維である。あるいは、ガイド部12は、生分解性の材料から形成されていてもよい。ガイド部12が生分解性の材料から形成されている場合、移植物10の移植後にガイド部12の除去が不要となる利点がある。
【0032】
細胞群11が毛包原基である場合、細胞群11は、間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分とが隣り合う構造を有する。そして、ガイド部12は、細胞群11における間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分とが並ぶ方向に沿って延びる。例えば、ガイド部12は、間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分との接触面に対して略垂直に延び、各凝集部分を貫いている。
【0033】
[細胞移植装置]
図2が示すように、細胞移植装置20は、1つの方向に沿って延びる筒状の針状部30と、移植物10を保持するための保持部40と、針状部30を支持する支持部70とを備えている。
【0034】
針状部30は、その先端部が、生体における移植の対象の部位を刺すことの可能な形状を有していれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、針状部30は、円筒状に延び、針状部30の先端部は、円筒をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有し、尖っている。針状部30は、例えば、金属や樹脂から形成されている。
【0035】
支持部70は、針状部30と一体に形成されていてもよいし、針状部30とは別々に形成された部材であってもよい。支持部70の外形形状は特に限定されない。支持部70が針状部30と一体に形成されている場合、針状部30は支持部70から突き出している。
【0036】
支持部70が針状部30とは別々に形成された部材である場合、支持部70は、針状部30の先端部とその付近とを除く部分の外側を囲み、針状部30を支持している。例えば、支持部70が有する孔に針状部30が通されることによって、支持部70に針状部30が組み付けられている。針状部30の先端部とその付近は、針状部30の延びる方向に沿って、支持部70から突き出している。
【0037】
針状部30と支持部70とが一体に形成されているか別々の部材であるかに関わらず、針状部30のなかで支持部70から突き出している部分には、少なくとも、生体における移植の対象領域まで進入する部分が含まれる。
【0038】
保持部40は、針状部30の内側に位置し、針状部30の延びる方向に沿って延びる。保持部40は、その先端部に、移植物10を保持するための構造を有している。保持部40は、針状部30の延びる方向に沿って、針状部30に対して相対的に移動可能に構成されている。
【0039】
細胞移植装置20は、さらに、保持部40に移植物10の保持およびその解除のための動作を行わせる機構部80を備えている。機構部80の作動により、保持部40は、保持部40の先端部が針状部30の内部に配置される位置と、保持部40の先端部が針状部30の先端部の開口31から突き出ている位置との間で、針状部30に対して相対的に動かされる。また、機構部80の作動により、保持部40の先端部は、移植物10の保持のための動作を行う。
【0040】
機構部80は、保持部40や針状部30を押し引きするための部材や、保持部40の先端部に動力を伝達するための部材を含む。機構部80の作動は、手動で行われてもよいし、あるいは、機構部80がモーター等の電子部品を含み、機構部80の作動は、電気制御により行われてもよい。機構部80は、支持部70の内部に組み込まれていてもよいし、支持部70の外部に設けられ、支持部70の内部を通じて保持部40や針状部30に接続されていてもよい。
【0041】
図3を参照して、針状部30の先端部の構造について説明する。
図3が示すように、針状部30は、開口31の縁から針状部30の基端部に向けて延びる切れ込みであるスリット部32を有している。スリット部32は、針状部30の径方向に沿って針状部30の側壁を貫通している。すなわち、スリット部32を通じて、針状部30の内部と外部とは連通する。針状部30の周方向に沿ったスリット部32の幅は、ガイド部12の径方向に沿った幅よりも大きく、細胞群11の外径よりも小さい。
【0042】
針状部30の延びる方向におけるスリット部32の終端は、開口31の縁から針状部30の基端に至る途中に位置する。したがって、針状部30において、スリット部32よりも基端側の部分は、周方向において切れ目を有さない閉じた環をなす管状を有する。
【0043】
開口31の縁の周上におけるスリット部32の位置は限定されない。針状部30の先端部が、筒をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有する場合のように、開口31に沿った面である開口面が、針状部30の延びる方向に対して傾斜している場合、
図3が示すように、開口31の縁のなかで、針状部30の先端である穿刺端Tpが位置する部分を除く位置からスリット部32が延びていることが好ましい。スリット部32が穿刺端Tpを除く位置に設けられていることにより、スリット部32が穿刺端Tpから延びる場合と比較して、生体に最初に刺さる部分である穿刺端Tpの付近の鋭利さが保たれる。そのため、針状部30の生体への刺さりやすさが低下することが抑えられる。
【0044】
さらに、
図3が示すように、スリット部32は、開口31の縁のなかで、開口31の中心に対して穿刺端Tpと反対側の位置、言い換えれば、針状部30の基端部に最も近い位置から延びていることが好ましい。開口31の縁における上記穿刺端Tpの反対側の部分の付近は、開口31の近傍の部分のなかで生体に最後に刺さる部分であるため、スリット部32が穿刺端Tpの反対側に設けられていることにより、スリット部32の形成が針状部30の生体への刺さりやすさに影響を与えることが最も抑えられる。
【0045】
図4および
図5を参照して、保持部40の構造と動きについて説明する。保持部40は、その先端部に、開閉可能に構成された挟持部41を備えている。
図4は、保持部40の先端部が針状部30の内部に位置する状態である第1状態を示す。すなわち、第1状態において、挟持部41は針状部30の内部に位置する。
図4において、挟持部41は閉じている。
【0046】
第1状態においては、保持部40の先端、すなわち挟持部41の先端と、針状部30の先端との間に、細胞群11が収容される領域が形成される。針状部30の内径は、細胞群11の外径よりも大きい。例えば、細胞群11の外径が200μmである場合、針状部30の内径は220μm程度であればよい。なお、保持部40と針状部30との間には、針状部30に沿って保持部40が動くことの可能な程度の隙間が空いていればよい。
【0047】
第1状態において、スリット部32は、針状部30の延びる方向において、開口31の縁から保持部40の先端の位置を越える位置まで延びている。言い換えれば、針状部30の延びる方向において、スリット部32の終端は、保持部40の先端に対して針状部30の基端側に位置する。
【0048】
図5は、保持部40の先端部が針状部30の開口31から突き出ている状態である第2状態を示す。すなわち、第2状態において、挟持部41は針状部30の外部に出ている。さらに、
図5において、挟持部41は開いている。
【0049】
挟持部41は、挟持部41の基端部に位置する支点部42と、支点部42から挟持部41の先端まで延びる2つの挟持片43とを備える。2つの挟持片43の先端部が互いに離れるように2つの挟持片43が支点部42を支点として動くことにより、挟持部41が開く。言い換えれば、挟持部41は、2つの挟持片43が針状部30の中心軸の一方側と他方側とに分かれるように開く。挟持部41は、上述した機構部80の作動に基づき動く。第1状態と第2状態との間での保持部40の動きと、挟持部41の開閉の動きとは、連動していてもよいし、連動していなくてもよい。
【0050】
保持部40は、例えば、金属や樹脂から形成されている。2つの挟持片43における互いに向かい合う面には、移植物10の保持に際してのすべり止めのための部材が設けられていてもよい。こうした部材は、例えば、ゴム等から形成される。
【0051】
[移植物の移植方法]
図6~
図11を参照して、細胞移植装置20を用いた移植物10の移植方法を説明する。
【0052】
図6が示すように、移植前において、移植物10は、培養容器等のトレイ100に保護液Plと共に保持されている。例えば、
図6が示すように、移植物10は、トレイ100が有する凹部110に入れられている。そして、トレイ100内において、凹部110の内部と凹部110上の領域の全体に、保護液Plが入れられている。なお、トレイ100における移植物10と保護液Plとの保持形態は、上述した凹部110内を含むトレイ100内の全域に保護液Plが保持され、凹部110に移植物10が保持される形態に限られない。例えば、保護液Plは凹部110内にのみ保持されていてもよいし、トレイ100が有する平面上に移植物10と保護液Plとが配置されていてもよい。
【0053】
保護液Plは、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい液体であることが好ましい。例えば、保護液Plは、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。保護液Plは、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、トレイ100が培養容器であって、細胞群11がトレイ100にて培養される場合、保護液Plは、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。保護液Plは、ゾル状体、ゲル状体、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0054】
針状部30への移植物10の取り込みに際しては、まず、細胞移植装置20が、挟持部41が針状部30の開口31から突き出ている第2状態とされる。そして、
図6が示すように、トレイ100に配置されている移植物10に、開いた挟持部41が近づけられる。挟持部41における2つの挟持片43の間を移植物10のガイド部12が通るように挟持部41を配置して、挟持部41を閉じることにより、
図7が示すように、2つの挟持片43の間にガイド部12が挟まれる。これにより、挟持部41にガイド部12が挟持され、すなわち、保持部40の先端部に移植物10が保持される。
【0055】
続いて、
図8が示すように、保持部40が針状部30に対して動かされ、挟持部41と移植物10とが開口31から針状部30の内部に引き込まれる。これにより、針状部30と保持部40とは第1状態となり、細胞群11は針状部30内に収容される。
【0056】
第1実施形態の細胞移植装置20によれば、保持部40にガイド部12が摘まれた状態で、移植物10が針状部30内に取り込まれる。したがって、移植物10を保持することなく例えば針状部30内の吸引のみによって移植物10を取り込む場合と比較して、開口31付近にガイド部12が引っ掛かって移植物10の取り込みが阻害されることが抑えられる。したがって、移植物10の取り込みが円滑に進むため、移植物10の取り込みの効率が高められる。
【0057】
そして、針状部30がスリット部32を有しているため、ガイド部12がスリット部32を通り、ガイド部12における挟持部41に挟持されている部分から延びる端部が、針状部30の外に出る。本実施形態では、挟持部41がガイド部12を挟持した状態で移植物10が針状部30内に引き込まれるため、移植物10は、ガイド部12から針状部30内に入る。したがって、ガイド部12がスリット部32に入りやすい。
【0058】
第1状態において、スリット部32は、保持部40の先端の位置を越える位置まで延びており、針状部30内に移植物10が取り込まれた状態において、細胞群11は、保持部40の先端と針状部30の先端との間に位置する。したがって、ガイド部12の一方の端部は細胞群11よりも針状部30の基端側に配置されてスリット部32から抜け出し、ガイド部12の他方の端部は細胞群11よりも針状部30の先端側に配置されて開口31に向けて延びるように、移植物10が配置される。言い換えれば、針状部30内に移植物10が取り込まれたとき、スリット部32から開口31に向けてガイド部12が延びる向きに、移植物10が配置される。
このように、第1実施形態の細胞移植装置20においては、針状部30内での移植物10の向きを、特定の向きに制御することができる。
【0059】
なお、第1状態において、2つの挟持片43の間の部分とスリット部32とが向かい合うように、針状部30の周方向における保持部40の向きが設定されていると、挟持部41に挟まれたガイド部12は、2つの挟持片43の間からスリット部32に向けて延びるようになる。それゆえ、移植物10の取り込みに際して、ガイド部12がスリット部32により入りやすくなる。ただし、図面においては、挟持部41の構造を理解しやすくするために、保持部40の向きを上記向きとは異なる向きで示している。
【0060】
移植物10の取り込みに際しては、移植物10とともに保護液Plも針状部30内に取り込まれ、針状部30の内部において細胞群11の周囲には保護液Plが存在することが好ましい。移植物10の取り込みに際しては、保護液Plの取り込みのために、針状部30内が吸引されてもよい。この場合、細胞移植装置20は、針状部30内を吸引する吸引部を備える。吸引部は、例えば、ポンプやピストンの動き等によって流体を吸引する機構を含む。スリット部32の終端が、開口31の縁から針状部30の基端に至る途中に位置しており、針状部30におけるスリット部32よりも基端側の部分が周方向において切れ目を有さないため、吸引部による吸引の損失が抑えられる。なお、スリット部32は微小であるため、取り込まれた保護液Plがスリット部32から漏れることは抑えられる。
以上により、針状部30への移植物10の取り込みが完了する。
【0061】
針状部30に移植物10が取り込まれると、細胞移植装置20が、生体の例えば頭部の皮膚である移植部位Skまで運ばれる。そして、
図9が示すように、針状部30によって移植部位Skが刺される。このとき、挟持部41および移植物10は針状部30の内部に位置し、細胞移植装置20の先端部には、針状部30の先端部が位置する。針状部30の先端部は生体に刺さりやすい形状を有しているため、針状部30は移植部位Skに円滑に進入できる。
【0062】
針状部30の先端部が移植部位Skの内部に進入したとき、ガイド部12の端部がスリット部32から出ているため、ガイド部12は移植部位Skの内部から表面に向けて延び、その端部が移植部位Skの表面から出た状態となる。ガイド部12の長さは、移植部位Skの内部における移植の対象領域に細胞群11が配置されたときに、ガイド部12がその端部まで移植部位Skの内部に入り込まない長さに予め設定されている。ガイド部12の端部が移植部位Skの表面から出ていれば、針状部30が進入する深さは、スリット部32の全体が移植部位Skの内部に入る深さであってもよいし、スリット部32の終端付近が移植部位Skの内部に入らない深さであってもよい。
【0063】
続いて、
図10が示すように、保持部40が針状部30に対して相対的に動かされる。これにより、細胞移植装置20が第2状態とされ、挟持部41とともに、移植物10が、針状部30の開口31から出る。このとき、挟持部41および移植物10の位置は変わらずに、針状部30が移植部位Skから引き抜かれる方向に後退させられることにより、細胞移植装置20が第2状態とされることが好ましい。これにより、移植部位Skの内部において、針状部30の先端部が位置していた空間に細胞群11が配置されるため、細胞群11が針状部30から出るときに周囲の組織から押圧されて細胞群11に負荷がかかることが抑えられる。また、ガイド部12がスリット部32による規制を受けない状態で移植物10が移植部位Skの内部を進むことが抑えられるため、移植物10の向きも維持されやすい。
【0064】
細胞移植装置20が第2状態とされた後、挟持部41が開かれることにより、移植物10の保持が解除される。これにより、移植の対象領域に細胞群11が配置される。移植物10と共に保護液Plが針状部30に取り込まれていた場合には、保護液Plも移植の対象領域に放出されればよい。吸引部が吸引に加えて加圧も可能に構成され、保護液Plの放出のために針状部30内が加圧されてもよい。
【0065】
図11が示すように、移植の対象領域に細胞群11が配置されると、針状部30が移植部位Skから引き抜かれる。針状部30の引き抜きは、第1状態で行われてもよいし、第2状態で行われてもよい。これにより、生体に対する移植物10の配置が完了する。
【0066】
第1実施形態の細胞移植装置20によれば、スリット部32によって、針状部30内での移植物10の向きが特定の向きに制御されるため、移植物10を特定の向きで生体内に配置することが容易である。したがって、移植物10の円滑な移植が可能である。
【0067】
細胞群11が毛包原基である場合、上皮系細胞の凝集部分が間葉系細胞の凝集部分に対して皮膚表面に近い位置に配置される向きに、細胞群11が配置される。挟持部41によって、ガイド部12のなかで上皮系細胞の凝集部分から出ている部分が挟持されることにより、上記向きに細胞群11を配置することが容易である。
【0068】
また、細胞群11に沿ってガイド部12が配置されることにより、細胞群11の移植に基づく組織形成の方向性の制御が可能である。細胞群11が毛包原基である場合、ガイド部12が細胞群11から皮膚表面に向けて延び、ガイド部12の端部が皮膚から出ていることにより、毛包原基由来の上皮系細胞と移植を受けた領域の上皮系細胞との連続性が確保され、かつ、形成された毛が皮膚の外へ出ていくように、組織形成を誘導することができる。本実施形態の細胞移植装置20によれば、ガイド部12が細胞群11から延びて皮膚から出るように、移植物10を配置することが容易である。
なお、組織形成が誘導された後、ガイド部12は除去される。ガイド部12が生分解性の材料から形成されている場合には、ガイド部12は除去されなくてもよい。
【0069】
[変形例]
上記形態では、2つの挟持片43の各々が動くことにより、挟持部41が開閉する例を説明した。これに代えて、
図12が示すように、挟持片43の一方のみが動くことにより、挟持部41が開閉してもよい。
図12が示す例では、挟持部41の基端部で、一方の挟持片43aが、他方の挟持片43bに対して回転可能に挟持片43bに接続されている。挟持片43aと挟持片43bとの接続部44を支点として、挟持片43aの先端部が挟持片43bの先端部から離れるように挟持片43aが動くことにより、挟持部41が開く。
【0070】
針状部30への移植物10の取り込みに際しては、第2状態で、開いた挟持部41が移植物10に近づけられ、挟持片43aと挟持片43bとの間をガイド部12が通るように挟持部41が配置された後、挟持片43aが動いて挟持部41が閉じられる。これにより、
図13が示すように、挟持片43aと挟持片43bとの間にガイド部12が挟まれ、保持部40の先端部に移植物10が保持される。
【0071】
そして、
図14が示すように、保持部40が針状部30に対して動かされ、挟持部41と移植物10とが開口31から針状部30の内部に引き込まれる。これにより、針状部30と保持部40とは第1状態となり、細胞群11は針状部30内に収容され、ガイド部12の端部はスリット部32から針状部30外に出る。
【0072】
以上のように、第1実施形態の細胞移植装置によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)スリット部32が、針状部30の延びる方向において、開口31の縁から、保持部40が針状部30内で移植物10を保持しているときの保持部40の先端の位置を越える位置まで延びている。したがって、針状部30に移植物10が取り込まれたとき、ガイド部12の端部がスリット部32から針状部30の外に出る。そして、針状部30内において、スリット部32から開口31に向けてガイド部12が延びる向きに、移植物10が配置される。したがって、針状部30内での移植物10の向きを、特定の向きに制御することができるため、移植物10を特定の向きで生体内に配置することが容易である。それゆえ、移植物10の円滑な移植が可能となる。
【0073】
(2)保持部40の先端部が針状部30の開口31から突き出ている状態で、保持部40が移植物10を保持し、保持部40の先端部が針状部30の内部に配置される位置まで保持部40が針状部30に対して移動することで、針状部30に移植物10が取り込まれる。したがって、開口31付近にガイド部12が引っ掛かって細胞群11が針状部30の中に入りにくくなることが抑えられる。これにより、移植物10の取り込みが円滑に進むため、移植物10の円滑な移植が可能となる。
【0074】
(3)針状部30の延びる方向におけるスリット部32の終端が、開口31の縁から針状部30の基端に至る途中に位置する。これにより、針状部30に細胞群11と共に液状体を取り込むこと等を目的として針状部30内が吸引される場合に、吸引に損失が生じることが抑えられる。
【0075】
(4)スリット部32が、針状部30の延びる方向において、開口31の縁のなかで針状部30の基端部に最も近い位置から当該基端部に向けて延びている。こうした構成によれば、針状部30のなかで生体に最初に刺さる部分である先端付近とは異なる位置にスリット部32が位置するため、針状部30の先端付近の鋭利さが保たれ、スリット部32の形成によって針状部30の生体への刺さりやすさが低下することが抑えられる。
【0076】
(5)保持部40が、ガイド部12を保持する。これにより、針状部30への移植物10の取り込みに際して、ガイド部12が保持部40に保持されて針状部30の内部まで運ばれるため、開口31付近にガイド部12が引っ掛かることが的確に抑えられる。
【0077】
(6)保持部40が、2つの挟持片43を有する挟持部41を先端部に備え、2つの挟持片43の間にガイド部12を挟むことによりガイド部12を保持する。こうした構成によれば、保持部40の先端部にガイド部12を的確に保持することができる。
【0078】
(7)移植物10が細胞群11として毛包原基を含む場合、ガイド部12が細胞群11から皮膚表面に向けて延び、ガイド部12の端部が皮膚から出るように、移植物10を配置することが求められる。細胞移植装置20であれば、針状部30内において、スリット部32から開口31に向けてガイド部12が延びる向きに、移植物10が配置されるため、生体に対して移植物10を上述のように配置することが容易である。
【0079】
(第2実施形態)
図15~
図18を参照して、細胞移植装置の第2実施形態を説明する。第2実施形態の細胞移植装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる。第2実施形態は、第1実施形態と比較して、保持部の構造が異なっている。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0080】
図15が示すように、第2実施形態の保持部50は、第1実施形態の保持部40と同様、針状部30の内側で針状部30の延びる方向に沿って延び、保持部50の先端部が針状部30の内部に配置される位置と、保持部50の先端部が針状部30の開口31から突き出ている位置との間で、針状部30に対して相対的に動かされる。保持部50の先端部が針状部30の内部に位置する状態が第1状態であり、保持部50の先端部が開口31から突き出ている状態が第2状態である。
図15は、第2状態の針状部30と保持部50とを示す。
【0081】
保持部50は、その先端部に、保持部50の延びる方向と直交する方向に保持部50を貫通する貫通孔51を有している。さらに、保持部50は、保持部50の延びる方向に沿って摺動可能に構成された摺動部52を備えている。摺動部52は、その先端部が貫通孔51を覆う位置と、その先端部が貫通孔51よりも基端側に位置し、貫通孔51が露出する位置との間で動く。摺動部52が貫通孔51を覆うことにより貫通孔51が閉じられ、摺動部52が貫通孔51を露出させることにより貫通孔51が開けられる。
図5は、貫通孔51が開けられている状態を示す。貫通孔51は、第1状態において針状部30の内部に位置し、第2状態において針状部30の外部に出ている。
【0082】
なお、針状部30に対する保持部50の移動、および、摺動部52の移動は、第1実施形態にて説明した機構部80の作動に基づき行われる。保持部50の移動と摺動部52の移動とは、連動していてもよいし、連動していなくてもよい。
【0083】
図16が示すように、針状部30への移植物10の取り込みに際しては、第2状態で、開いた貫通孔51が移植物10に近づけられ、貫通孔51にガイド部12が通される。例えば、移植物10の形成時に、トレイ内の細胞群11を刺すようにガイド部12を配置し、ガイド部12の端部が細胞群11から上に向けて出ているようにすれば、貫通孔51にガイド部12を通しやすい。
【0084】
図17が示すように、摺動部52が動いて貫通孔51が閉じられる。これにより、貫通孔51の縁と摺動部52の先端部との間にガイド部12が挟まれ、保持部50の先端部に移植物10が保持される。
【0085】
そして、
図18が示すように、保持部50が針状部30に対して動かされ、貫通孔51と移植物10とが開口31から針状部30の内部に引き込まれる。これにより、針状部30と保持部50とは第1状態となり、細胞群11は針状部30内に収容される。第1状態において、スリット部32は、針状部30の基端部に向けて、保持部50の先端の位置を越える位置まで延びている。針状部30内に移植物10が取り込まれた状態において、ガイド部12の端部はスリット部32から針状部30の外に出る。
【0086】
第2実施形態においても、保持部50にガイド部12が保持された状態で、移植物10が針状部30内に取り込まれる。したがって、移植物10を保持することなく針状部30内に取り込む場合と比較して、移植物10の取り込みが円滑に進むため、移植物10の取り込みの効率が高められる。
【0087】
そして、針状部30がスリット部32を有しているため、針状部30に移植物10が取り込まれた状態において、ガイド部12の一方の端部はスリット部32から針状部30の外に出るようになり、スリット部32から開口31に向けてガイド部12が延びる向きに、移植物10が配置される。したがって、針状部30内での移植物10の向きを、特定の向きに制御することができる。
【0088】
第2実施形態では、貫通孔51にガイド部12が通された状態で移植物10が針状部30内に引き込まれるため、移植物10は、ガイド部12から針状部30内に入る。したがって、ガイド部12がスリット部32に入りやすい。第1状態において貫通孔51とスリット部32とが向かい合うように、針状部30の周方向における保持部50の向きが設定されていると、貫通孔51を通ったガイド部12がスリット部32に向けて延びるようになるため、ガイド部12がスリット部32により入りやすくなる。ただし、図面においては、保持部50の構造を理解しやすくするために、保持部50の向きを上記向きとは異なる向きで示している。
【0089】
第2実施形態において、生体内への移植物10の配置は、第1実施形態と同様に行われる。すなわち、移植物10を取り込んだ針状部30によって移植部位が刺された後、保持部50が針状部30に対して相対的に動かされて第2状態とされる。これにより、貫通孔51と移植物10とが針状部30の開口31から出る。その後、摺動部52が動かされて貫通孔51が開かれることにより、移植物10の保持が解除される。これにより、移植の対象領域に細胞群11が配置され、ガイド部12の端部は移植部位の表面から出る。そして、針状部30が移植部位から引き抜かれることにより、生体に対する移植物10の配置が完了する。
【0090】
第2実施形態においても、スリット部32によって、針状部30内での移植物10の向きが特定の向きに制御されるため、移植物10を特定の向きで生体内に配置することが容易である。したがって、移植物10の円滑な移植が可能である。
【0091】
以上のように、第2実施形態の細胞移植装置によれば、第1実施形態の(1)~(5),(7)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(8)保持部50は、その先端部に開閉可能な貫通孔51を有し、貫通孔51にガイド部12を通して貫通孔51を閉じることによりガイド部12を保持する。これにより、保持部50の先端部にガイド部12を的確に保持することができる。
【0092】
(第3実施形態)
図19~
図21を参照して、細胞移植装置の第3実施形態を説明する。第3実施形態の細胞移植装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる。第3実施形態は、第1実施形態と比較して、保持部の構造が異なっている。以下では、第3実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0093】
図19が示すように、第3実施形態の保持部60は、針状部30の内側で針状部30の延びる方向に沿って延びる筒状を有する。保持部60は、筒状であればよく、その断面形状は特に限定されない。例えば、針状部30が円筒状に延びる場合、保持部60も円筒状に延びていればよい。保持部60の先端部の端面は、保持部60の延びる方向と直交する平面であることが好ましい。保持部60の内径は、細胞群11が保持部60の内部に入り込まない程度に小さい。
【0094】
第1実施形態と同様、保持部60は、保持部60の先端部が針状部30の内部に配置される位置と、保持部60の先端部が針状部30の開口31から突き出ている位置との間で、針状部30に対して相対的に動かされる。保持部60の先端部が針状部30の内部に位置する状態が第1状態であり、保持部60の先端部が開口31から突き出ている状態が第2状態である。
図19は、第2状態の針状部30と保持部60とを示す。
【0095】
針状部30に対する保持部60の移動は、第1実施形態にて説明した機構部80の作動に基づき行われる。また、第3実施形態では、機構部80は、保持部60内を吸引するポンプやピストン等の機構を備える。保持部60の移動と保持部60内の吸引とは、連動して行われてもよいし、別々に制御されてもよい。
【0096】
針状部30への移植物10の取り込みに際しては、第2状態で、保持部60の先端部が移植物10に近づけられ、保持部60内が吸引される。その結果、保持部60の先端部に移植物10が引き付けられ、
図20が示すように、細胞群11が、保持部60の先端部に当接するように、保持部60に保持される。これにより、保持部60の先端部に移植物10が保持される。このように、第3実施形態では、保持部60が、細胞群11を保持することによって、移植物10を保持する。
【0097】
そして、
図21が示すように、保持部60が針状部30に対して動かされ、保持部60の先端部と移植物10とが開口31から針状部30の内部に引き込まれる。これにより、針状部30と保持部60とは第1状態となり、細胞群11は針状部30内に収容される。第1状態において、スリット部32は、針状部30の基端部に向けて、保持部60の先端の位置を越える位置まで延びている。針状部30内に移植物10が取り込まれた状態において、ガイド部12の端部はスリット部32から針状部30の外に出る。
【0098】
第3実施形態では、保持部60に細胞群11が保持された状態で、移植物10が針状部30内に取り込まれる。これによれば、保持部60が細胞群11を直接に保持して針状部30内まで運ぶため、移植物10が保持されず例えば針状部30内の吸引のみによって取り込まれる場合と比較して、開口31付近にガイド部12が引っ掛かって細胞群11が針状部30内に入らなくなることが抑えられる。したがって、移植物10の取り込みが円滑に進むため、移植物10の取り込みの効率が高められる。
【0099】
そして、第3実施形態においても、針状部30がスリット部32を有しているため、針状部30に移植物10が取り込まれた状態において、ガイド部12の一方の端部はスリット部32から針状部30の外に出ており、スリット部32から開口31に向けてガイド部12が延びる向きに、移植物10が配置される。したがって、針状部30内での移植物10の向きを、特定の向きに制御することができる。
【0100】
第3実施形態において、生体内への移植物10の配置は、第1実施形態と同様に行われる。すなわち、移植物10を取り込んだ針状部30によって移植部位が刺された後、保持部60が針状部30に対して相対的に動かされて第2状態とされる。これにより、保持部60の先端部と移植物10とが針状部30の開口31から出る。その後、保持部60内の吸引が停止されることにより、移植物10の保持が解除される。これにより、移植の対象領域に細胞群11が配置され、ガイド部12の端部は移植部位の表面から出る。そして、針状部30が移植部位から引き抜かれることにより、生体に対する移植物10の配置が完了する。
【0101】
第3実施形態においても、スリット部32によって、針状部30内での移植物10の向きが特定の向きに制御されるため、移植物10を特定の向きで生体内に配置することが容易である。したがって、移植物10の円滑な移植が可能である。
【0102】
以上のように、第3実施形態の細胞移植装置によれば、第1実施形態の(1)~(4),(7)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(9)保持部60が筒状を有し、保持部60内が吸引されることにより、保持部60がその先端部に細胞群11を保持する。こうした構成によれば、針状部30への移植物10の取り込みに際して、細胞群11が保持部60に保持されて針状部30の内部まで運ばれるため、開口31付近にガイド部12が引っ掛かって細胞群11が針状部30の中に入りにくくなることが的確に抑えられる。
【0103】
(第4実施形態)
図22~
図26を参照して、細胞移植装置の第4実施形態を説明する。以下では、第4実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0104】
第4実施形態では、針状部30に取り込まれる前において、移植物10は、複数の移植物10から構成される移植物ユニット15の一部である。
図22が示すように、移植物ユニット15は、複数の細胞群11と、これらの細胞群11を1列に繋いで延びる糸状体16とを備えている。糸状体16は、ガイド部12として機能する部分が連続して延びる構造体である。すなわち、移植物ユニット15は、複数の移植物10が繋がった構造を有している。互いに隣り合う細胞群11の間で糸状体16が切断されることにより、ガイド部12が形成され、移植物10が1つずつ分離される。
【0105】
移植物ユニット15を生成することによって、複数の移植物10をまとめて生成することができる。すなわち、複数の細胞群11に対して1つの糸状体16を配置して複数の移植物10をまとめて生成することで、複数の細胞群11に対してガイド部12を1つずつ配置することにより移植物10を1つずつ生成することと比較して、移植物10の生成の効率を高められる。
【0106】
図23が示すように、第4実施形態の細胞移植装置25は、第1実施形態の細胞移植装置20と同様の構成に加えて、糸状体16を切断するための切断部90を備えている。切断部90は、その先端部に切断刃91を備えている。糸状体16を切断可能であれば、切断刃91の構造や形状は限定されない。例えば、切断刃91は、糸状体16を挟んで切る鋏状を有する。第4実施形態では、機構部80は、保持部40に移植物10の保持およびその解除のための動作を行わせることに加えて、切断刃91に、糸状体16の切断のための動作を行わせる。機構部80は、切断刃91に動力を伝達するための部材を含む。
切断刃91は、針状部30の外部において、針状部30の先端部の付近に配置されている。例えば、切断刃91は、開口31の下方にて針状部30の先端付近に位置する。
【0107】
図24が示すように、針状部30への移植物10の取り込みは、第1実施形態と同様に行われる。針状部30への取り込みの対象は、移植物ユニット15の端部の移植物10である。具体的には、第2状態で、保持部40が、移植物ユニット15の端部で糸状体16を保持した後、保持部40が針状部30に対して動かされて第1状態とされることにより、移植物ユニット15の端部の移植物10が針状部30内に取り込まれる。言い換えれば、保持部40は、移植物ユニット15の端部に位置する移植物10のガイド部12を保持する。このガイド部12は、他の移植物10に繋がっていない端部を有し、この端部付近が保持部40に保持される。
【0108】
針状部30内に移植物10が取り込まれた状態において、上記ガイド部12の上記端部、すなわち、糸状体16の端部は、スリット部32から針状部30の外に出る。そして、糸状体16は、スリット部32から開口31に向けて延び、針状部30内に取り込まれた移植物10に他の移植物10が開口31を通じて繋がっている状態となる。
【0109】
ここで、切断刃91が動かされ、切断刃91は、糸状体16において開口31から延びる部分を切断する。すなわち、切断刃91は、針状部30内に取り込まれている細胞群11aとこの細胞群11aに隣接する細胞群11bとの間で、糸状体16を切る。切断刃91が、開口31の下方で針状部30の先端付近に位置していれば、移植物10の取り込みが切断刃91によって阻害されることが抑えられるとともに、開口31から延びる糸状体16を切断刃91が切断しやすい。
【0110】
これにより、
図25が示すように、針状部30内に取り込まれた移植物10が他の移植物10と分離される。ガイド部12の一方の端部はスリット部32から針状部30の外に出ており、スリット部32から開口31に向けてガイド部12が延びる向きに、移植物10が配置される。以降、第1実施形態と同様に、生体内に移植物10が配置される。
【0111】
なお、切断部90は、針状部30に対して移動あるいは付け外し可能に構成されており、針状部30が移植物10を取り込む際や移植部位を刺す際には、切断刃91が針状部30から離されてもよい。
【0112】
移植物ユニット15を利用すると、上述のように移植物10の生成の効率が高められる一方で、移植物10の移植に際して移植物10を移植物ユニット15から分離する作業が増えてしまう。これに対し、第4実施形態では、針状部30への移植物10の取り込みと、糸状体16の切断による移植物10の分離とが、細胞移植装置25によって連続して行われるため、分離の作業が煩雑になることが抑えられる。したがって、移植物10の円滑な移植が可能となる。
【0113】
[変形例]
上記形態では、保持部40が糸状体16を移植物ユニット15の端部で保持する例を説明した。これに限らず、
図26が示すように、保持部40は、隣り合う細胞群11の間で糸状体16を保持してもよい。
【0114】
詳細には、保持部40は、移植物ユニット15の端部の移植物10が含む細胞群11aと、当該細胞群11aに隣り合う細胞群11bとの間において、細胞群11aの付近で糸状体16を保持する。第2状態から第1状態へ保持部40が動かされることにより、移植物ユニット15の端部の移植物10が針状部30内に取り込まれる。
【0115】
針状部30に取り込まれた移植物10のガイド部12のなかで、他の移植物10に繋がっていない端部、すなわち、糸状体16の端部は、開口31に向かって延びる。そして、糸状体16において、細胞群11aとその隣の細胞群11bとの間の部分は、スリット部32を通って針状部30の外部へ延びる。言い換えれば、糸状体16は、開口31からスリット部32に向けて延び、針状部30内に取り込まれた移植物10に他の移植物10がスリット部32を通じて繋がっている状態となる。
【0116】
当該変形例では、切断刃91は、針状部30の外部において、針状部30の先端部の付近のなかで、スリット部32の付近に配置されている。切断刃91が動かされ、切断刃91は、糸状体16においてスリット部32から延びる部分を切断する。すなわち、切断刃91は、針状部30内に取り込まれている細胞群11aと、その隣の細胞群11bとの間で、糸状体16を切る。切断刃91が、スリット部32の付近に位置していれば、スリット部32から延びる糸状体16を切断しやすい。
【0117】
これにより、針状部30内に取り込まれた移植物10が他の移植物10と分離される。
なお、上記実施形態において、切断部90による糸状体16の切断のタイミングは、針状部30の移植物10の取り込みの直後でなくてもよい。切断部90は、保持部40が移植物10を保持してから、生体に対する移植物10の配置が完了するまでの間に、糸状体16を切断すればよい。
【0118】
上記実施形態では、細胞移植装置25が第1実施形態の保持部40を備える例を説明したが、細胞移植装置25は、第1実施形態の変形例、第2実施形態、第3実施形態のいずれの保持部を備えていてもよい。
【0119】
以上のように、第4実施形態の細胞移植装置によれば、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態の各効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(10)移植物ユニット15を生成することによって、複数の移植物10をまとめて生成することができるため、移植物10の生成の効率を高められる。一方で、移植物10の移植に際して移植物10を移植物ユニット15から分離する作業が増えてしまう。これに対し、細胞移植装置25は切断部90を有するため、針状部30への移植物10の取り込みと、糸状体16の切断による移植物10の分離とを、1つの細胞移植装置25によって実施できる。したがって、移植物10の分離の作業が煩雑になることが抑えられ、移植物10の円滑な移植が可能となる。
【0120】
(実施例)
上述した細胞移植装置について、具体的な実施例を用いて説明する。
針状部として、スリット部が形成された12Gの注射針を用い、保持部として、先端部が開閉可能に構成されたマイクロ鉗子を用いた。すなわち、保持部は、その先端部に挟持部を有している。針状部の内側で保持部が摺動可能なように、針状部に保持部を組み付けて、実施例の細胞移植装置を作製した。針状部について、内径は2.4mm、外径は2.7mm、スリット部の幅は1.0mm、針状部の開口からのスリット部の長さは5.0mmである。挟持部が閉じているときの保持部の外径は2.0mmである。保持部は、針状部の開口の基端から保持部が20mm突出する位置と、針状部の内部において保持部の先端が針状部の開口の基端から4.5mm離れた位置に配置される位置との間で摺動可能である。摺動する保持部の位置を固定するために針状部と保持部との間にゴム製の部材を配置した。
【0121】
細胞群である毛包原基にナイロンからなる糸状のガイド部が挿入された移植物を用意した。毛包原基の外径は約400μmである。実施例の細胞移植装置を第2状態として移植物に近づけ、挟持部を開閉してガイド部を挟んだ後、細胞移植装置を第1状態として移植物を針状部の内部に取り込んだ。移植物の取り込み後の針状部を観察したところ、スリット部からガイド部の端部が出ていることが確認された。
【0122】
その後、ヌードマウスの摘出皮膚に針状部を刺し、細胞移植装置を第2状態として挟持部を開き、ガイド部の保持を解除した。針状部を抜いた後、上記摘出皮膚の表面を観察した。その結果、ガイド部の端部が表面に出ていることが確認された。
【0123】
これにより、実施例の細胞移植装置を用いて、細胞群とガイド部とを含む移植物を針状部内に取り込んで、ガイド部の端部が生体の表面から出るように、生体に対して移植物を配置することが可能であることが確認された。
【0124】
(変形例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・第1~第3実施形態において、保持部は、針状部30に対して移動せず、保持部の先端部は、常に針状部30の内部に位置してもよい。すなわち、細胞移植装置は、常に第1状態であってもよい。この場合、保持部は、針状部30内に取り込まれた移植物10を保持する。針状部30の延びる方向において、スリット部32が保持部の先端の位置を越える位置まで延びていれば、針状部30内において、スリット部32から開口31に向けてガイド部12が延びる向きに、移植物10が配置される。したがって、針状部30内での移植物10の向きを、特定の向きに制御することができるため、移植物10を特定の向きで生体内に配置することが容易である。それゆえ、生体に対する移植物10の配置という観点においては、移植物10の移植を円滑に進めることができる。
【0125】
・第1~第3実施形態において、針状部30は、スリット部32を有していなくてもよい。細胞移植装置が、移植物10を先端部に保持可能な保持部を備え、保持部が移植物10を保持して第2状態から第1状態に移動することで、針状部30内に移植物10を取り込む構成であれば、移植物10が保持されず例えば針状部30内の吸引のみによって取り込まれる場合と比較して、開口31付近にガイド部12が引っ掛かって移植物10の取り込みが阻害されることは抑えられる。したがって、移植物10の取り込みが円滑に進む。それゆえ、移植物10の取り込みという観点においては、移植物10の移植を円滑に進めることができる。特に、保持部がガイド部12を保持する形態であれば、開口31付近にガイド部12が引っ掛かることが的確に抑えられる。
【0126】
・第4実施形態において、保持部は、針状部30に対して移動せず、保持部の先端部は、常に針状部30の内部に位置してもよい。また、保持部の構成に関わらず、針状部30は、スリット部32を有していなくてもよい。要は、保持部が移植物ユニット15における1つの移植物10を保持している状態で、切断部90が糸状体16を切ればよい。これにより、針状部30への移植物10の取り込みと、糸状体16の切断による移植物10の分離とを、1つの細胞移植装置25によって実施できるため、移植物ユニット15を利用した移植での移植物10の分離という観点においては、移植物10の移植を円滑に進めることができる。
【0127】
・スリット部32は、針状部30の基端まで延びていてもよい。
・保持部は、細胞群11とガイド部12との双方を保持することにより移植物10を保持してもよい。
・細胞移植装置は、複数の針状部30と、針状部30ごとに設けられた保持部とを備えていてもよい。細胞移植装置が複数の針状部30を備えていれば、複数の移植物10をまとめて移植することが可能である。
【0128】
(付記)
上記課題を解決するための手段には、上記実施形態、および、上記変形例から導き出される技術的思想として以下の付記が含まれる。
【0129】
細胞群と前記細胞群から延びる部分を有したガイド部とを含む移植物を移送して前記細胞群を生体内に配置するための細胞移植装置であって、
筒状に延びる針状部であって、前記針状部の先端部の開口から前記移植物を内部に取り込むように構成された前記針状部と、
前記針状部の内側に位置して前記針状部の延びる方向に沿って延び、前記ガイド部を保持可能な先端部を有する前記保持部と、を備え、
前記保持部は、前記保持部の前記先端部が前記針状部の内部に配置される位置と、前記保持部の前記先端部が前記針状部の前記開口から突き出ている位置との間で、前記針状部の延びる方向に沿って前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されている
細胞移植装置。
【0130】
上記構成によれば、保持部の先端部が針状部の開口から突き出ている状態で、保持部が移植物を保持し、保持部の先端部が針状部の内部に配置される位置まで保持部が針状部に対して移動することで、針状部に細胞群を取り込むことができる。したがって、開口付近にガイド部が引っ掛かって細胞群が針状部の中に入りにくくなることが抑えられる。これにより、移植物の取り込みが円滑に進むため、移植物の円滑な移植が可能となる。
【符号の説明】
【0131】
10…移植物
11,11a,11b…細胞群
12…ガイド部
15…移植物ユニット
16…糸状体
20,25…細胞移植装置
30…針状部
31…開口
32…スリット部
40,50,60…保持部
41…挟持部
43,43a,43b…挟持片
51…貫通孔
52…摺動部
70…支持部
80…機構部
90…切断部
91…切断刃
100…トレイ