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特許7481695種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法
(51)【国際特許分類】
   A01C 1/00 20060101AFI20240502BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240502BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A01C1/00 B
A01P21/00
A01N25/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022569839
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2021044039
(87)【国際公開番号】W WO2022130975
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020210528
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】515040704
【氏名又は名称】株式会社大日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岡 好浩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智裕
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-103125(JP,A)
【文献】特開2008-120815(JP,A)
【文献】特表2013-512870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 1/00
A01P 21/00
A01N 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させることによって生成した、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水からなることを特徴とする種子の発芽促進用液体。
【請求項2】
水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させることによって生成した、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を用いて、種子を湿潤させることを特徴とする種子の発芽促進方法。
【請求項3】
前記静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を、有機物に触れない環境下で使用することを特徴とする請求項2に記載の種子の発芽促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種子の発芽を促進するために、各種薬剤を用いて種子を処理したり、種子に物理的処理を施したりすることが提案されている(例えば、特許文献1-2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2020-506952号公報
【文献】特開2012-135226号公報
【文献】特開2011-41914号公報
【文献】特開2015-3297号公報
【文献】特開2017-176201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の発芽促進剤は、特定の化合物を使用するものであり、また、特許文献2に記載の発芽促進方法は、種子の表面を研削するものであることから、適用方法や適用対象に制約があるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の種子の発芽を促進するための発芽促進剤や発芽促進方法が有する問題点に鑑み、適用方法や適用対象に制約がなく、種子の発芽促進の用途に広く利用できる種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の種子の発芽促進用液体は、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒(ナノ粒子が凝集して2次粒子になっているものを含む。以下、本明細書において同じ。)を含有する水からなることを特徴とする。
【0007】
また、上記種子の発芽促進用液体を用いる本発明の種子の発芽促進方法は、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を用いて、種子を湿潤させることを特徴とする。
ここで、種子を湿潤させる方法としては、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に、種子を浸す方法や、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を、種子に噴霧したり、散布したりする方法を含む。
【0008】
この場合、前記静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を、有機物(ただし、種子を除く。)に触れない環境下で使用することが好ましい。
このため、具体的には、以下の事項が推奨される。
・静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を生成するための原料となる水として、イオン交換水等の精製水を用いる。
・静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を、生成したり、貯蔵したりするために使用する器機や器具、栽培過程で使用する器機や器具には、ガラス製や金属製等の有機物でないものを、例えば、中性洗剤で洗浄後イオン交換水で複数回濯ぐ、次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗浄後イオン交換水で複数回濯ぐ等の方法で洗浄することによって有機物が残存しない状態で使用する。
これにより、有機物によって、活性酸素種の消滅を抑制し、種子の発芽促進効果が失われることを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法によれば、発芽促進用液体に含有される種子の発芽促進作用を発揮すると考えられる成分である活性酸素種が、原料の水を処理することで生成することができ、その後、最終的に水に戻ることから、安心、安全なものであり、適用方法や適用対象に制約がなく、種子の発芽促進の用途に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の種子の発芽促進用液体の生成に適用する発芽促進用液体の生成装置の一例を示す概念図である。
図2】活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す図である。
図3】電極の材質ごとの処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を示す図である。
図4】種子の発芽試験及び成長試験の手順を示すフロー図である。
図5】過酸化水素の濃度の変化(CBP処理水生成後の経過時間と過酸化水素の濃度との関係)を示す図である。
図6】発芽率(経過時間と発芽率との関係)を示す図である。
図7】発芽率(経過時間と発芽率との関係)を示す図である。
図8】発芽率(経過時間と発芽率との関係)を示す図である。
図9】発芽率(経過時間と発芽率との関係)を示す図である。
図10】苗の成長度合い(経過時間と茎の長さ及び太さとの関係)を示す図である。
図11】苗の成長度合い(葉の面積と乾燥重量)を示す図である。
図12】苗の成長度合い(根の長さと乾燥重量)を示す図である。
図13】発芽率(経過時間と発芽率との関係)を示す図である。
図14】発芽率(処理時間と発芽率との関係)を示す図である。
図15】発芽率(処理時間と発芽率との関係)を示す図である。
図16】発芽率(処理時間と発芽率との関係)を示す図である。
図17】苗の成長度合い(処理時間と葉の面積との関係)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法の実施の形態を説明する。
【0012】
本発明の種子の発芽促進用液体は、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水からなるものであり、この種子の発芽促進用液体は、導電率が2000μS/cm以下の水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させることによって生成することができる。
【0013】
種子の発芽促進用液体の生成装置としては、従来公知の装置、すなわち、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させる機構、より具体的には、先行技術文献の欄に記載した特許文献3-4に記載された、ノズル、障害物等によって流路断面積を変化させて水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置、同特許文献5に記載された、回転翼を回転させることによって水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置等を用いることができる。
【0014】
ここでは、種子の発芽促進用液体の生成装置として、回転翼を回転させることによって水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置を用いた例について、以下説明する。
【0015】
この種子の発芽促進用液体の生成装置は、図1に示すように、水を貯留するタンク1と、キャビテーション発生機構としてのタンク1から供給された水を撹拌する撹拌装置2と、撹拌装置2によってキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡(キャビテーション気泡)を含む水中で、プラズマを発生させるプラズマ発生機構3と、これらの機構を接続して水を循環させる管路4とを備えて構成されている。
ここで、水を循環させることは必須ではなく、例えば、プラズマ発生機構を複数設けたり、電極対を複数組設置したりすることによって、より処理効率を高めることができれば、1パス処理でもよい。
【0016】
ここで、撹拌装置2は、ケーシング21の内部に同心状で回転可能に設けられたロータ22と、ロータ22を回転駆動するモータ23等を備えて構成されている。
【0017】
また、プラズマ発生機構3は、導体からなる電極31と、電極31間に、例えば、放電開始電圧以上の電圧、パルス幅1.5μs以下、繰り返し周波数100kHz以上のパルス電圧を印加するパルス電源32等を備えて構成され、絶縁性の気泡領域で、パルス電圧による高電圧絶縁破壊放電により気化物が電離(プラズマ化)して液中プラズマ(キャビテーションプラズマ。本明細書において、「CBP(Cavitation bubble plasma)」という場合がある。)を発生させるものである。
パルス電圧によって生起される放電形態は、グロー放電であることが好ましく、電極31の消耗成分に起因する金属や金属酸化物、液中プラズマによって生成される水に含まれる不純物に起因する硫化物、塩化物等の無機化合物等からなる、結晶、準結晶、アモルファス等の形態のナノ粒子触媒の合成を、低温で、かつ、エネルギ効率よく行うことができる。すなわち、ナノ粒子触媒は、電極31の成分のナノ粒子であり、電極が金属の場合、ナノ粒子ができた瞬間は金属ナノ粒子となり、金属の種類によって、そのナノ粒子が酸化されたり、水に塩素や硫黄が含まれているとナノ粒子が塩化されたり硫化されたりする(不純物に含まれる物質によってその物質との化合物になる場合がある。)。
ここで、プラズマ発生機構3内の電極31付近の水の流速は約10m/sであり、5m/s以上が望ましい。
電極31は、水の流れに対して垂直方向に、対向させて配置することが好ましいが、プラズマが生成できる限りにおいて、ハの字等の配置形態を採用することができる。
電極31の材料には、タングステン、銅、鉄、銀、金、白金のほか、アルミニウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、インジウム、錫、アンチモン、ランタノイド、ハフニウム、タンタル、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ビスマス、ボロニウム等の金属、カーボン、導電性ダイヤモンド、それらの合金や複合材料(メッキやドライコーティング等の手法で薄膜で被覆したものを含む。)や酸化物(電極31の表面が水と反応したものを含む。)等の導体材料を、用途に応じて、任意に選択することができる。対向させて配置する電極31で、金と銀など、用いる材料や電極サイズを異ならせることもできる。
電極31の形状は、円柱のほか、角柱、楕円柱、円錐、角錘であってもよい。電極31は、1対あれば問題ないが、より処理効率を上げるために2対以上設置してもよい。また、プラズマ発生機構は1セットあれば問題ないが、より処理効率を上げるために2セット以上設置してもよい。
電極31の片側は接地してもよいし、接地しなくてもよい。接地しない方が放電路は電極間に限定されるため、安全である。
また、必要に応じて、種子の発芽促進用液体の生成装置に設けた冷却手段、例えば、撹拌装置2に設けたジャケット冷却手段(図示省略)を稼働することによって、水を50℃以下で処理するようにすることができる。
【0018】
そして、このようにして液中プラズマによって生成された水には、ナノ粒子触媒に加えて、活性酸素種としての過酸化水素等が、種子の発芽促進用液体の生成装置の稼働を停止した静置状態でも安定して存在することで、その作用により、種子の発芽促進用液体として利用することができる。
そして、この種子の発芽促進用液体は、種子の発芽促進用液体中に存在する長寿命の活性酸素種(スーパーオキシドアニオンラジカル(・O )、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、過酸化水素(H))による殺菌作用に加えて、発芽促進用液体中に存在する過酸化水素(H)が、発芽促進用液体中に存在するナノ粒子触媒の触媒作用によって、活性酸素種の中で最も酸化力の高いヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種を持続的に生成させることにより、より増強され、種子の発芽促進効果が長期間持続するものとなる。
このため、種子の発芽促進用液体は、種子の発芽促進用液体中に存在する過酸化水素及びナノ粒子触媒の量が重要であり、本発明によって、原料は水だけで簡単、高速、かつ、大量に同時に生成することができる。
【0019】
図2に、活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す。
図2からも明らかなように、ヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種は、種子の発芽促進効果に加えて、有機物(微生物(ウイルス、細菌、真菌、原虫)等を含む。)の大きな分解(殺菌)作用を有するため、併せて、種子の消毒効果も期待できる。
【実施例
【0020】
次に、種子の発芽促進用液体の生成装置(具体的には、日本スピンドル製造社製「キャビテーションプラズマ装置」。)を使用して行った試験について説明する。
【0021】
[種子の発芽促進用液体の生成装置の処理条件について]
表1に、種子の発芽促進用液体の生成装置の処理条件(好ましい範囲)を、図3に、電極の材質ごとの処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を、それぞれ示す。
【0022】
【表1】
【0023】
ここで、表1及び図3において、以下のことがいえる。
・初期(「プラズマ処理前」を意味する。他の項目も同じ。)の導電率は低い方がプラズマ生成率(印加したパルス数に対するプラズマが生成したパルス数の割合。)が高くなり、効率よく種子の発芽促進用液体を生成することができる。
・初期CODが高いと、生成される活性酸素種が消費されてしまい好ましくない。
・初期導電率、初期pH、初期CODが好ましい範囲内であれば、他の混雑物は影響しない。このため、処理原料となる水としては、イオン交換水(本明細書において、「DIW」という場合がある。)等の精製水を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
・撹拌装置の回転数は高い方がキャビテーション気泡が増えるので、プラズマ生成率が高くなり、効率よく種子の発芽促進用液体を生成することができる。
・印加電圧は低すぎるとプラズマが点灯せず、高くなるとプラズマ生成率が高くなるが、高すぎると好ましいグロー放電からアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・パルス幅は短すぎるとプラズマが点灯せず、長くなるとプラズマ生成率が高くなるが、長すぎるとアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・繰り返し周波数は高いほどプラズマ生成率が高くなり、安定してプラズマが生成できる。
・パルス電圧の極性は、両極性でも正極性でも負極性でもよい。
・電極材質は、水中で安定な導体であればよい。金属でも合金でもカーボンでもよい。
・種子の発芽促進用液体に不純物として電極成分等のナノ粒子触媒が混入するため、使用方法によって材料を選ぶ必要が生じる場合がある。
・電極直径は細すぎると電界が集中してプラズマが点灯しやすいが、アーク放電に移行しやすくなり、太すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・電極のギャップ長は短すぎるとアーク放電に移行しやすくなる、長すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・処理時間は短すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子触媒が少なくなり、長すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子触媒によって導電率が高くなり、プラズマ生成率が低下する。処理時間は、通常は、2-10分程度、好ましくは、3-8分程度、より好ましくは、5分程度である。ここで、種子の発芽促進用液体の生成装置は、撹拌装置の回転数が7200rpmの場合、1秒間に250mLの水が装置内を1回循環するようにされている。
【0024】
[種子の発芽試験(1)](表2-表4及び図4図5参照。)
次に、以下の試験方法で、モデルとしてカイワレ大根の種子を用いた発芽試験を行った。
(1)種子及び前処理(後述の種子の発芽試験(2)及び(3)も同じ。)
カイワレ大根の種子を使用し、種子が細菌に汚染されている場合、種子の発芽や成長に影響を与える可能性があるため、種子を殺菌した。種子の殺菌は独立行政法人林木育種センターのマニュアルに従った。供試植物としてカイワレ大根の種子(中原採種場、発芽率85%)を使用した。種子100個を1.0%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液100mLで5分間浸透滅菌し、イオン交換水で5回洗浄した。その後、乾燥室(DKM300、Yamato)内にて40℃で17時間乾燥させた。実験で使用するビーカーやシャーレ等は、有機物が残存しない状態にして使用するために、水道水で洗浄し次亜塩素酸ナトリウム水溶液200ppmに15分間浸漬させた。その後、水道水に2分間浸漬させ、チオ硫酸ナトリウム水溶液20ppmに2分間浸漬し、乾燥室(DKM300、Yamato)にて40℃で乾燥させた。また、殺菌試験後にパックテスト(WAK-CIO・DP、kyoritsu Chemica-Cheak Lab)を用いて種子や器具の残留塩素が0.1ppm未満となることを確認した。
(2)発芽条件
種子を発芽用液体(水)に、種子が空気に触れるよう約半分ほど1日間浸漬した後、その時点の発芽率を測定した。
(3)種子の発芽促進用液体の生成装置の操作
種子の発芽促進用液体の生成装置に精製水(イオン交換水)260mLを投入し、表3に示す処理条件で種子の発芽促進用液体の生成装置を作動時間t=5分間作動させたものを試料水とした。試料水を滅菌合成樹脂製容器に採水し、所定時間t放置した。所定時間放置後(種子を浸漬させるまでの経過時間t=1min-4weeks)の試料水4mLをガラス製のビーカー(φ42mm、高さ50mm)に採取し、その中に種子を浸漬した。
なお、対照として精製水(イオン交換水)4mLをガラス製のビーカーに採取し、その中に種子を浸漬した。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
図6及び図7に示す、種子の発芽試験の試験結果(CBP処理水及びCBP処理後の経過時間と発芽率との関係)から、以下のことが分かった。
・精製水(イオン交換水)(DIW)と比較して、CBP処理水(CBPTW)は、発芽率(発芽促進率)が最大20%向上する。
・使用するCBP処理水の放置時間t(CBP処理水を生成してからの経過時間)が長くなる程、発芽率(発芽促進率)が低下し、CBP処理水の効果が失われていく。図7に示す試験結果では、4週間で効果がほぼ失われるため、それより早く(できるだけ早く)使用することが望ましいことが分かる。
このことから、水に含まれる活性酸素種の量が発芽率(発芽促進率)に影響している(CBP処理水の放置時間が長くなる程、活性酸素種の量が減少する。)と推定できる。
なお、このことは、図8に示す、種子を浸漬する発芽用液体(水)として、精製水(イオン交換水)のほか、過酸化水素水を用いた比較試験の結果からも推認できる。
【0029】
さらに、種子の発芽促進用液体の生成装置に使用する電極の材質を変えた試験から、表5及び図9に示すように、種子の発芽促進用液体の生成装置に使用する電極の材質が、発芽率(発芽促進率)に若干影響することが分かった。
【0030】
【表5】
【0031】
[成長試験](表6参照。)
次に、以下の手順で、成長試験を行った。
種子の発芽試験で発芽した苗を、培地に定植し、その間の茎の長さ及び太さを測定し、3日後に採取し、根の長さ及び葉の面積を測定し、乾燥し、7日後に乾燥重量を測定した。
ここで、培地は、ロックウール(JAN130031、大和プラスチック)(30mm×30mm×30mm)に電動ドリルで径3mm、深さ5mmで対角線を四等分し等間隔に5つの穴をあけた。その後、穴をあけたロックウール4つをガラスシャーレに設置したものを培地とした。そして、発芽率を24時間測定した後、シャーレに置いた4つのロックウールのそれぞれの穴に1粒ずつ種子を定植した。定植後、イオン交換水100mLをシャーレに入れロックウールに十分給水させた後、シャーレの底から高さ10mmになるまでイオン交換水を入れ、暗室に放置した。そして1日間隔で成長の様子を撮影し、イオン交換水をシャーレの底から高さ10mmに調整した。また、カイワレ大根同士が接触すると成長の妨げとなるため3日目からはLEDプランター(greenteria、Deagostini)でカイワレ大根にLED光を12時間当て茎を垂直に伸ばすようにした。
【0032】
【表6】
【0033】
図10図12に示す、成長試験の試験結果から、以下のことが分かった。
・精製水(イオン交換水)と比較して、CBP処理水は、成長試験においても、発芽率(発芽促進率)の良好な結果を引き継いで、苗が良好に成長することを確認した。
【0034】
[種子の発芽試験(2)](表2-表4及び図4参照。)
次に、以下の試験方法で、異なる発芽環境下での発芽試験を行った。
具体的には、(1)種子に溶液を噴霧させる方法と、(2)種子を溶液に浸漬させる方法の2通りの方法で発芽試験を行った。
【0035】
(1)種子に溶液を噴霧させる方法(表7参照。)
キッチンペーパー(スーパーグリッドエンポス、エリエール)(22cm×22.5cm)を二つ折りにし、四隅を4cm山折りにしてキッチンペーパーの厚さを均一にし、ガラスシャーレ(φ90mm、高さ20mm)の中に入れたものを苗床とした。
苗床に縦5個、横4個で等間隔に20個の種子を並べた。
イオン交換水及び表3の条件で処理したCBP処理水(経過時間t=1min)を霧吹きで6mL種子に噴霧しシャーレに蓋をした。なお、CBP処理水は、作製後、装置からビーカーに移し、その後霧吹きに入れた。カイワレ大根の種子は暗発芽種子であるため苗床は25(±2)℃、湿度30(±5)%の暗室に1日間設置し、各条件下における発芽率を30分間隔でインターバル撮影のアプリ(HD Camera Lite)を用いて測定した。試料の個数は1つの苗床に種子20個とし、苗床を5個用意することで計100個とした。
【0036】
【表7】
【0037】
(2)種子を溶液に浸漬させる方法(種子の発芽試験(1)と同じ)
ガラスビーカー(φ42mm、高さ50mm)に種子20個入れイオン交換水、表3の条件で処理したCBP処理水(種子を浸漬させるまでの経過時間t=1min-4weeks)を4mL霧吹きで種子に振りかけ、種子が空気に触れるよう約半分ほど浸漬させた状態で同様に発芽率を測定した。
【0038】
図13((1)種子に溶液を噴霧させる方法)と、図6及び図7((2)種子を溶液に浸漬させる方法と同じ)に示す、種子の発芽試験の試験結果(CBP処理水と発芽率との関係)から、以下のことが分かった。
・(2)種子を溶液に浸漬させる方法と異なり、(1)のシャーレにキッチンペーパーを敷き、種子に溶液を噴霧させる方法では、CBP処理水は、精製水(イオン交換水)と有意差がなく、種子の発芽促進効果がないことを確認した。これは、キッチンペーパーには有機物(材質そのもの+結着剤)が含まれており、その有機物によってCBP処理水が有する種子の発芽促進効果が早期に失われたものと考えられる。また、このことから、CBP処理水が有する種子の発芽促進効果を発揮させるためには、有機物がない環境で使用することが重要であり、具体的には、CBP処理水が接触する、CBP処理水の生成過程や貯蔵過程で使用する器機や器具、栽培過程で使用する器機や器具には、ガラス製や金属製等の有機物でないものを、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の洗浄液を用いて洗浄することによって有機物が残存しない状態で使用することが重要であることが分かる。
【0039】
[種子の発芽試験(3)](表8-表9及び図14図17参照。)
次に、以下の試験方法で、モデルとしてカイワレ大根の種子を用いた発芽試験を行った。
(1)発芽条件
種子を発芽用液体(水)に、種子が空気に触れるよう約半分ほど1日間浸漬した後、その時点の発芽率を測定した。
(2)種子の発芽促進用液体の生成装置の操作
種子の発芽促進用液体の生成装置に精製水(イオン交換水)260mLを投入し、表9に示す処理条件で種子の発芽促進用液体の生成装置を作動時間t=1-30分間作動させたものを試料水とした。試料水を滅菌合成樹脂製容器に採水し、所定時間t放置した。所定時間放置後(種子を浸漬させるまでの経過時間t=1min)の試料水15mLをガラス製のシャーレ(φ92mm、高さ15mm)に採取し、その中に種子を浸漬した。
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
図14図17に示す、種子の発芽試験の試験結果(種子の発芽促進用液体の生成装置の作動時間(処理時間t)と発芽率及び苗の成長度合い(葉の面積)(成長試験は、表6に示す方法に準じて行った。)との関係)から、以下のことが分かった。
・精製水(イオン交換水)(DIW)と比較して、CBP処理水(CBPTW)は、発芽率(発芽促進率)が向上するが、24h後の発芽率の結果から、特に、処理時間t=5min付近で発芽率(発芽促進率)のピークが出現する。このことから、処理時間tは、5minを中心に、3~10min程度が好ましいといえる。
・苗の成長度合い(葉の面積)の試験結果も、同様の傾向(種子の発芽が促進されることによって、苗の成長度合いも速くなる。)を示し、処理時間tは、5minを中心に、3~10min程度が好ましいといえる。
【0043】
以上、本発明の種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の種子の発芽促進用液体及びそれを用いた種子の発芽促進方法は、発芽促進用液体に含有される種子の発芽促進作用を発揮すると考えられる成分である活性酸素種が、原料の水を処理することで生成することができ、その後、最終的に水に戻ることから、安心、安全なものであり、適用方法や適用対象に制約がなく、例えば、ブロッコリー、マスタード、クレス、レッドキャベツ、緑豆、ブラックマッペ、大豆、アルファルファ、豆苗等のスプラウト類、ミズナ、エンダイブ、グリーンマスタード、ターサイ、ビートルビークイーン、グリーンロメイン、レッドロメイン、トレビス、レッドオーク、レッドサラダ、ロロロッサ、レッドマスタード、スピナッチ、アイスバーグレタス、レッドケール、ロログリーン、ルッコラロケット、ピノグリーン等のベビーリーフ類等の種々の種子の発芽促進の用途に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 タンク
2 撹拌装置
21 ケーシング
22 ロータ
23 モータ
3 プラズマ発生機構
31 電極
32 パルス電源
4 管路
図1
図2
図3
図4
図5
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