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特許7481703衝突評価試験体、衝突試験方法および衝突試験装置ならびに船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】衝突評価試験体、衝突試験方法および衝突試験装置ならびに船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造
(51)【国際特許分類】
   B63B 71/00 20200101AFI20240502BHJP
   G01N 3/30 20060101ALI20240502BHJP
   B63B 3/16 20060101ALI20240502BHJP
   B63B 43/18 20060101ALI20240502BHJP
   B63B 3/26 20060101ALI20240502BHJP
   B63B 3/56 20060101ALI20240502BHJP
   B63B 3/62 20060101ALI20240502BHJP
   B63B 3/20 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B63B71/00
G01N3/30 N
B63B3/16
B63B43/18
B63B3/26
B63B3/56
B63B3/62
B63B3/20
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020064057
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2020172256
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019074306
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス(1) https://www.crcpress.com/Developments-in-the-Collision-and-Grounding-of-Ships-and-Offshore-Structures/Soares/p/book/9780367433130 (2) https://www.taylorfrancis.com/books/e/9781003002420 (3) https://www.taylorfrancis.com/books/e/9781003002420/chapters/10.1201/9781003002420-5 掲載日:令和1年10月11日 [刊行物等] 8th International Conference on Collision and Grounding of Ships and Offshore Structures 開催日:令和1年10月21日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス:https://www.jasnaoe.or.jp/members/koenronbun/29/program/plist-j.html 掲載日:令和1年11月14日 [刊行物等] 令和元年 日本船舶海洋工学会 秋季講演会 開催日:令和1年11月22日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス:http://dtbn.jp/DPT8Cxz 掲載日:令和1年11月28日 [刊行物等] 溶接構造シンポジウム2019-「デジタル技術が拓く溶接構造化技術の革新」- 開催日:令和1年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】市川 和利
(72)【発明者】
【氏名】大川 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】島貫 広志
(72)【発明者】
【氏名】山田 安平
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-191009(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1240313(KR,B1)
【文献】特開2013-2960(JP,A)
【文献】特開平7-165159(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0068077(KR,A)
【文献】特開2004-132739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0227434(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 71/00
G01N 3/00- 3/62
B63B 3/16
B63B 3/20
B63B 3/26
B63B 3/56
B63B 3/62
B63B 43/18
B63J 1/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象となる船体の外板または内板に相当する試験鋼板と、前記試験鋼板の一方の表面に溶接された拘束板の枠と、前記拘束板の枠の内部で前記試験鋼板及び前記拘束板の枠に溶接された1枚ないし複数枚の防撓部材とを備える、ことを特徴とする、衝突評価試験体。
【請求項2】
前記衝突評価試験体において、
試験鋼板の板厚: 3.2~40mm
試験鋼板の長さ: 1500~2500mm
試験鋼板の幅: 1000~2000mm
防撓部材の板厚: 10~30mm
防撓部材の高さ: 50~150mm

拘束板の板厚: 30~70mm
拘束板の枠の外長: 1000~2000m
だし、前記試験鋼板の長さ未
拘束板の枠の外幅: 500~1500m
だし、前記試験鋼板の幅未
拘束板の枠の高さ: 300~700mm
であることを特徴とする、請求項1に記載の衝突評価試験体。
【請求項3】
前記防撓部材の形状が、板形状又はフランジ部を有する形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の衝突評価試験体。
【請求項4】
前記フランジ部を有する形状が、T字型、L字型、バルブプレート形状の少なくとも一つを含み、該フランジ部の幅が30~80mmであり、かつ前記防撓部材の板厚を超えることを特徴とする、請求項3に記載の衝突評価試験体。
【請求項5】
前記防撓部材と前記拘束板の枠との溶接部に、補強板が配置されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の衝突評価試験体。
【請求項6】
前記試験鋼板は、板継ぎのための溶接部を有する鋼板であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の衝突評価試験体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の衝突評価試験体の前記試験鋼板に圧子を衝突させて、前記試験鋼板を変形または破口させることを特徴とする、衝突試験方法。
【請求項8】
前記圧子の先端部が、球体の一部、曲面、突起形状の少なくとも一つを有することを特徴とする、請求項7に記載の衝突試験方法。
【請求項9】
前記球体の外半径を200~400mmとすることを特徴とする、請求項8に記載の衝突試験方法。
【請求項10】
前記圧子の衝突速度が0.1~10000mm/秒であることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の衝突試験方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の衝突評価試験体、前記衝突評価試験体を固定する固定手段、前記衝突評価試験体に衝突させる圧子、および前記圧子を駆動する機構、を備える、ことを特徴とする衝突試験装置。
【請求項12】
請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が160kN以下である鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
【請求項13】
請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が160kN以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
【請求項14】
請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下である鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
【請求項15】
請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
【請求項16】
請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と、前記拘束板の枠の外幅との比が0.20であるときに破口が生じない鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
【請求項17】
請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中において破口が生じないことを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
【請求項18】
船側部の外板又は内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が160kN以下であることが確認された鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
【請求項19】
船側部の外板又は内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下であることが確認された鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
【請求項20】
船側部の外板又は内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中において破口が生じないことが確認された鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
【請求項21】
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が160kN以下である鋼板であることを特徴とする船体構造。
【請求項22】
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が160kN以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板であることを特徴とする船体構造。
【請求項23】
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下である鋼板であることを特徴とする船体構造。
【請求項24】
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板であることを特徴とする船体構造。
【請求項25】
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と、前記拘束板の枠の外幅との比が0.20であるときに破口が生じない鋼板であることを特徴とする船体構造。
【請求項26】
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、請求項7~10のいずれか1項に記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中において破口が生じないことを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板であることを特徴とする船体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に船側部に衝突された船舶における船殻の変形や破口を模擬し、鋼材とその溶接部の性能を評価する衝突評価試験体、衝突試験方法および衝突試験装置、ならびに、船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱石運搬船や石炭運搬船などのバルクキャリアにおいては、現在でも一重船殻構造(シングルハル)が採用されている。これら船舶からの積荷(鉱石、石炭)の流出は海洋を汚染するものはないが、船舶に積載されている燃料油などの油が流出すると海洋汚染を引き起こす場合がある。このため、衝突事故などによる船殻の破口を抑制する必要がある。
【0003】
また、タンカーからの油の流出は顕著な海洋汚染を引き起こす恐れがあるため、国際的な問題になっている。近年、衝突事故などによる油の流出を抑制するため、二重船殻構造(ダブルハル)への切り替えが進みつつある。ダブルハルはシングルハルと比較し、漏洩比率が減少しているものの、効果は不十分との指摘もなされている。
【0004】
そこで、近年、造船分野においては、万一船舶同士が衝突事故を起こしてもその破壊(破口)を最小限にくい止め、油の流出を防止し、破損部からの浸水等の被害を最小限にし、人命や積荷を保護するための技術が検討されている。
【0005】
その中でも、船体用鋼材面からの取り組みとして、鋼材の延性を改善させた高延性鋼により、船体の破壊を抑制することが例えば特許文献1のように提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/013288号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献1などで示されている船体構造の評価方法は有限要素法による計算結果である。これは、自動車の衝突実験とは大きく異なり、船体の海上での実大規模の衝突実験は経済的に考えて実現が不可能なためである。また船体の一部を作製し、研究室で衝突実験を行うにしても、例えば、惠美洋彦 著、英和版 新 船体構造イラスト集(成山堂書店、2015)に示されているように、実際の船体構造は外板だけではなく様々な補強部材や防撓部材が配置された極めて複雑な構造を有しており、それらを忠実に再現して製作することは溶接の工期やコストに鑑みると現実的ではない。
【0008】
しかしながら、このようなマクロスケールでの有限要素法での評価では十分に考慮されていない、溶接部(防撓部材等)を含んだ構造体の衝突安全性評価を実験で行うことが望ましい。しかし、これまではそのような実験的評価はなされていない。したがって、適正な衝突評価試験体の形状や衝突試験方法および試験装置も考案されていない。
【0009】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、船体の衝突安全性を評価の合理性を損なわずに、実際の船体構造を簡略化し、経済的に実現可能な衝突評価試験体(以下、「試験体」と称することがある)、衝突試験方法(以下、「試験方法」と称することがある)および衝突試験装置(以下、「試験装置」と称することがある)、ならびに、船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造を提供する所にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
船舶が衝突したときに船舶側面部に破口が生じるメカニズムを考察する。例えば、船舶Aの側壁部に他の船舶Bの舳先が衝突した場合には、船舶Bの舳先の全体が船舶A側壁部の平らな鋼板にめり込んでくるので、船舶A側壁部の鋼板は大きく曲げ変形を受け、奥に引き伸ばされて大きく引っ張られる。そして、鋼板が破壊されると、船舶A側壁部の鋼板が破口することとなる。
【0011】
したがって、船舶が衝突したときに船舶側面部の鋼板に破口を生じさせないようにするためには、衝突時の初期段階で鋼板が大きく曲げられた時に、その曲げに耐えられること、そして、曲がっていない部分が大きく引き伸ばされ引張り変形を起こすこととなるが、その部分が伸びて破断しないことが必要である。
【0012】
そこで、船舶が衝突したときに船舶側面部の破口を抑制するには鋼板の伸びを大きくすることが本質的に重要であるが、一般に鋼板の強度を向上させると鋼板の伸びが劣化するので、強度と伸びとを両立させた高強度高延性鋼板が望まれ、開発がなされた。ただし、その鋼板そのもの強度や延性については、試験片を用いて機械的に評価することが可能であるが、実際の船舶に適用した場合の衝突評価については、有限要素法によるものにとどまっている。一方で、実際の船舶またはその一部を忠実に再現したものによる試験は現実的でない。そこで、本発明では溶接部材(防撓部材)を含んだ船体構造体の衝突評価試験体、衝突試験方法および、衝突試験装置、ならびにその衝突試験方法を用いて、船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造を検討した。
【0013】
本発明者は、船体構造の衝突安全性を合理的且つ経済的に評価する試験体、試験方法および試験装置を検討し、評価対象となる船体の外板あるいは内板に相当する鋼板(試験鋼板)と、前記試験鋼板の一方の表面に溶接された拘束板の枠と、前記拘束板の枠の内部で前記試験鋼板及び前記拘束板の枠に溶接された1枚又は複数枚の防撓部材とを備えた、衝突評価試験体、衝突試験方法および試験装置により鋼材の耐衝突安全性能が、合理的且つ経済的に評価できること、ならびにその衝突試験方法を用いて、船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造が合理的且つ経済的に得られることを見出して、本発明を完成した。なお、衝突評価試験体は、事前に有限要素法シミュレーション等を実施し、最大荷重が試験機の範囲内であること、意図した崩壊モードで崩壊すること等を十分に確認して製作したものを使用した。
【0014】
本発明の要旨は、次の通りである。
(1)
評価対象となる船体の外板または内板に相当する試験鋼板と、前記試験鋼板の一方の表面に溶接された拘束板の枠と、前記拘束板の枠の内部で前記試験鋼板及び前記拘束板の枠に溶接された1枚ないし複数枚の防撓部材とを備える、ことを特徴とする、衝突評価試験体。
(2)
前記衝突評価試験体において、
試験鋼板の板厚: 3.2~40mm
試験鋼板の長さ: 1500~2500mm
試験鋼板の幅: 1000~2000mm
防撓部材の板厚: 10~30mm
防撓部材の高さ: 50~150mm

拘束板の板厚: 30~70mm
拘束板の枠の外長: 1000~2000mm
(ただし、試験鋼板の長さ未満)
拘束板の枠の外幅: 500~1500mm
(ただし、試験鋼板の幅未満)
拘束板の枠の高さ: 300~700mm
であることを特徴とする、(1)に記載の衝突評価試験体。
(3)
前記防撓部材の形状が、板形状(フラットバー形状)又はフランジ部を有する形状であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の衝突評価試験体。
(4)
前記フランジ部を有する形状が、T字型、L字型、バルブプレート形状の少なくとも一つを含み、該フランジ部の幅が30~80mm(ただし、防撓部材の板厚を超える)であることを特徴とする、(3)に記載の衝突評価試験体。
(5)
前記防撓部材と前記拘束板の枠との溶接部に、補強板が配置されていることを特徴とする、(1)~(4)のいずれか1つに記載の衝突評価試験体。
(6)
前記試験鋼板は、板継ぎのための溶接部を有する鋼板であることを特徴とする、(1)~(5)のいずれか1つに記載の衝突評価試験体。
(7)
(1)~(6)のいずれか1つに記載の衝突評価試験体の前記試験鋼板に圧子を衝突させて、前記試験鋼板を変形または破口させることを特徴とする、衝突試験方法。
(8)
前記圧子の先端部が、球体の一部、曲面、突起形状の少なくとも一つを有することを特徴とする、(7)に記載の衝突試験方法。
(9)
前記球体の外半径を200~400mmとすることを特徴とする、(8)に記載の衝突試験方法。
(10)
前記圧子の衝突速度が0.1~10000mm/秒であることを特徴とする、(7)~(9)のいずれか1つに記載の衝突試験方法。
(11)
(1)~(6)のいずれか1つに記載の衝突評価試験体、前記衝突評価試験体を固定する固定手段、前記衝突評価試験体に衝突させる圧子、および前記圧子を駆動する機構、を備える、ことを特徴とする衝突試験装置。

(12)
(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が160kN以下である鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
(13)
(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が160kN以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
(14)
(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下である鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
(15)
(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
(16)
(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と、前記拘束板の枠の外幅との比が0.20であるときに破口が生じない鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
(17)
(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中において破口が生じないことを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板を、船側部の外板の一部の部位若しくは前記外板の全ての部位、又は、船側部の内板の一部の部位若しくは前記内板の全ての部位、に使用することを特徴とする船体構造の製造方法。
(18)
船側部の外板又は内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が160kN以下であることが確認された鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
(19)
船側部の外板又は内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下であることが確認された鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
(20)
船側部の外板又は内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中において破口が生じないことが確認された鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
(21)
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が160kN以下である鋼板であることを特徴とする船体構造。
(22)
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が160kN以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板であることを特徴とする船体構造。
(23)
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下である鋼板であることを特徴とする船体構造。
(24)
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が最高荷重の5%以下であることを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板であることを特徴とする船体構造。
(25)
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と、前記拘束板の枠の外幅との比が0.20であるときに破口が生じない鋼板であることを特徴とする船体構造。
(26)
船側部の外板若しくは内板の一部の部位、又は、前記外板若しくは前記内板の全ての部位の鋼板が、(7)~(10)のいずれか1つに記載の衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中において破口が生じないことを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された鋼板であることを特徴とする船体構造。
【発明の効果】
【0015】
本発明の衝突評価試験体、衝突試験方法および衝突試験装置を使用することにより、万一船舶同士の衝突事故が起こった場合でも、船舶の鋼板が破断して破口する可能性を合理的かつ経済的に評価することができるので、有限要素法と合わせて、鋼材の安全性評価を行って、より安全な船体構造の採用や鋼材の選定を行うことで、衝突事故による沈没を回避し、人命や貨物の保護や燃料油の流出による海洋汚染の可能性を低減できるなど環境保護及び安全性の点から顕著な効果を奏する。さらに、その衝突試験方法を用いて、船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造を得ることができ、衝突事故による船舶の沈没を回避し、人命や貨物の保護や燃料油の流出による海洋汚染の可能性を低減できるなど環境保護及び安全性の点から顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】防撓部材と試験鋼板の溶接接合部近傍の相当塑性ひずみの分布を有限要素法で計算した例を示す図。
図2】本発明による典型的な衝突評価試験体を用いた、衝突試験装置の一例を模式的に示す図。
図3】本発明による典型的な衝突評価試験体形状を示す図。
図4】本発明による典型的な衝突評価試験の結果による押込み変位と荷重の関係を高延性鋼と一般鋼で比較した図。
図5】衝突評価試験後の試験鋼板表面(圧子が衝突した面)の写真。
図6】衝突評価試験後の一般鋼Bの裏面の写真。
図7】船体構造を説明するための図である。
図8図8における船側部底部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明について詳細に説明する。
【0018】
船舶の側壁構造は、一般に外板とそれに付随する防撓部材(例えば、一般的にはロンジ部材と称される。)から構成され、さらに二重隔壁を有する船体の場合には、外板に加えて、内板とそれに付随する防撓部材を有する。船体が衝突を受けた場合の構造体の安全性評価を、評価の合理性を損なわずに経済的な寸法に実構造から縮小した部分構造で行うことを検討し、その結果、以下に詳述する衝突評価試験体の構成、試験方法および試験装置、ならびに船体構造の製造方法、船体構造の設計方法および船体構造を発明した。
【0019】
本発明者らは、このような船体構造が衝突を受けた場合の安全性評価を、合理性を損なわずに経済的な寸法に実構造から縮小した部分構造で行うことを検討した。その結果、評価対象となる船体の外板あるいは内板に相当する鋼板(試験鋼板)に、防撓部材を1枚または複数枚配し、且つ拘束板の枠を溶接で配置した衝突評価試験体、当該試験体を用いた衝突試験方法および衝突試験装置が適当であることを知見した。ここで、拘束板の枠とは、試験鋼板に対し、T字状に突合せ溶接された複数の拘束板によって構成された枠をいう。また、枠とは、物体を支える役割をもつ構造の一部と定義され、拘束板同士は必ずしも溶接されている必要はなく、間隔が空いていてもよい。
【0020】
特に試験体には防撓部材を備える必要がある。有限要素法による解析を行ったところ、図1に示すように防撓部材と試験鋼板の溶接接合部の近傍にはひずみが集中するので、実際の船舶の衝突を考慮するためには、このような防撓部材の存在を考慮することが不可欠であることを知見した。防撓部材がない場合には、圧子の先端が接触する試験鋼板部分のひずみが最も高くなるが、これは、防撓部材を有する実際の船舶の被衝突時の状況とは全く異なるので、防撓部材を考慮しない試験体は実際の衝突現象を合理的に再現できない。
【0021】
本発明試験体、試験方法および試験装置の限定理由を説明する。
【0022】
(試験鋼板)
試験鋼板は、衝突試験の評価対象となる船体の外板あるいは内板に相当する鋼板である。試験鋼板は、製造ままの1枚の鋼板であってもよく、実際の船体構造をより厳密に考慮して、板継ぎ溶接部を有していてもよい。試験鋼板の形状は、矩形であってもよく、実際の船体構造に応じて、略矩形の形状に適宜調整してもよい。試験鋼板の形状は、船舶側壁構造を模擬する形状であってよい。
試験鋼板の面寸法(板厚を除く、鋼板の長さおよび幅)は、想定される原寸との縮尺に応じて決定することができる。実際の船舶を模擬した衝突現象を再現するためには、原寸に対する縮尺が、1/10以上であることが好ましい。一方、変形、破口を生じさせるために、実際に衝突してくる船舶の船首を模擬するほどの(実機程度の)、大がかりな試験装置を要せず、試験を行うためには、原寸に対する縮尺が、3/4以下であることが好ましい。なお、縮尺が大きくなると相対的に試験機は大型のものが必要となり、縮尺が小さくなると小型のものですむ傾向にある。
試験鋼板の板厚は3.2~40mmとしてもよい。試験鋼板の板厚を3.2mm以上にすれば、船舶の衝突現象を精度良く再現することが可能になる。実際の船舶の衝突現象を再現するという観点から、より好ましくは、試験鋼板の板厚を10mm以上とする。一方、アイス級(氷海を運航する)船舶で使用されることを想定した鋼板の板厚は40mmであり、これよりも厚い板厚は特殊な用途で使用されることが想定される。したがって、経済的な実現性を考慮して、試験鋼板の板厚を40mm以下とすることが好ましい。試験鋼板の板厚は、想定される原寸との縮尺に応じて決定することができる。アイス級よりも汎用性の高い板厚という観点から、より好ましくは、試験鋼板の板厚を30mm以下とする。
試験鋼板には、溶接された拘束板による補強が加わるため、実際の船舶の側壁構造よりも過大な強度を模擬したものにならないように、試験鋼板の長さおよび幅の下限を設定することが好ましい。一方、経済性の観点から、過度に大きな試験機を使用することなく試験が行えるように、試験鋼板の長さおよび幅の上限を設定することが好ましい。試験鋼板の長さは1500~2500mm、試験鋼板の幅は1000~2000mmとしてもよい。試験鋼板の長さを1500mm以上にすると、試験評価部が十分に大きくなり、試験の結果に及ぼす拘束板と試験鋼板との溶接の影響を無視できる程度に小さくすることができる。同様の理由で、試験鋼板の幅を1000mm以上とすることが好ましい。一方、試験鋼板の長さは、2500mm以下であれば、実際に衝突してくる船舶の(実船程度の)船首を模擬するほどの、大きな容量の試験機を要することがないので、経済的に有利である。同様の理由で、試験鋼板の幅を2000mm以下とすることが好ましい。
【0023】
(拘束板及び拘束板の枠)
試験鋼板の一方の表面に拘束板の枠(以下、拘束板枠ということがある。)が溶接される。これにより、試験鋼板の変形が制限され、試験鋼板の面中心に、圧子(衝突治具)の衝突(押込み等)による変形を効果的、集中的に生じさせることができる。さらに、試験鋼板の周縁部に拘束板の枠を溶接で附置してもよい。
まず、拘束板枠を構成する拘束板について説明する。拘束板の板厚は30~70mmとしてもよい。拘束の効果を十分に得るために、拘束板の板厚は30mm以上が好ましい。一方、経済的な観点から、溶接作業負荷や、試験体の重量が過大にならないように、拘束板の板厚を70mm以下にすることが好ましい。
拘束板で構成される拘束板枠の形状は、溶接で接合される試験鋼板の形状に応じて、適宜調整してもよい。試験鋼板は、製造ままの1枚の鋼板であるか、または板継ぎされた1枚の鋼板であり、略矩形である場合が多いことから、複数の拘束板で構成される拘束板枠の形状も略矩形としてもよい。拘束板枠の形状は多角形でもよい。
拘束板枠の外長および外幅は、溶接される試験鋼板の長さ未満の範囲で、適宜調整してもよく、拘束板枠の外長は1000~2000mm、拘束板枠の外幅は500~1500mmとしてもよい。ここで、拘束板枠の外法(そとのり)のうち大きいものを拘束板枠の外長、小さいものを拘束板枠の外幅と定義する。上述のように、試験鋼板には、溶接部を介して拘束板による補強が加わり、拘束板枠の外長および外幅も同様に影響を及ぼすことから、実際の船舶の側壁構造よりも過大な強度を模擬したものにならないように、拘束板枠の外長および外幅の下限を設定することが好ましい。一方、経済的な観点から、溶接作業負荷や、試験体の重量が過大にならないように、拘束板枠の外長および外幅の上限を設定することが好ましい。
拘束板枠の外長を1000mm以上にすると、試験評価部位が十分に大きくなり、試験の結果に及ぼす拘束板と試験鋼板との溶接の影響を無視できる程度に小さくすることができる。同様の理由で、拘束板枠の外幅を500mm以上とすることが好ましい。一方、経済的な観点から、溶接作業負荷や、試験体の重量が過大にならないように、拘束板附置のための溶接作業負荷や、試験体の重量が過大にならないように、拘束板枠の外長を2000mm以下とすることが好ましい。同様の理由で、拘束板枠の外幅を1500mm以下とすることが好ましい。拘束板の枠の外長は試験鋼板の長さ未満であることが好ましく、拘束板の枠の外長は試験鋼板の長さ未満であることが好ましい。
拘束板枠の高さは、試験鋼板の厚み方向の拘束枠板の長さであり、適宜調整してもよく、300~700mmとしてもよい。拘束の効果を十分に得るために、拘束板枠の高さを300mm以上にすることが好ましい。一方、経済性の観点から、拘束板枠製作のための溶接作業負荷を軽減し、試験体の重量が過大にならないように、拘束板枠の高さを700mm以下にすることが好ましい。
なお、拘束板は、圧子(衝突治具)を試験鋼板に衝突させた場合に、拘束板が動かないように、試験場にアンカー等で固定されてもよい。これにより、圧子(衝突治具)による動的な衝撃を効率的に、試験鋼板に与えることができる。
【0024】
(防撓部材)
実際の船体構造を模擬するために、上記拘束板の枠の内部で、上記試験鋼板及び上記拘束板の枠に溶接された防撓部材が備えられる。防撓部材とは、鋼板の撓みを防止するために、鋼板に適当な間隔で設ける骨材であり、JIS F 0012-1997において、スチフナ(Stiffener)と規定されるものである。附置する防撓部材は、1枚または複数枚を配する。防撓部材は、略縦方向(略鉛直方向)または略横方向(略水平方向)に配置されてもよく、または縦・横を組み合わせて十字型や格子型に配置されてもよく、その両端は当接する拘束板に溶接される。典型的には、防撓部材が例えば鉛直方向にのみ、2枚配置され、その2枚の間に圧子の中心が配置される場合であって、このような場合が最も厳しい評価となる。ここで、略縦方向(略鉛直方向)および略横方向(略水平方向)とは、それぞれ鉛直方向および水平方向に対して±10°以内の方向を指す。このような防撓部材の配置により、試験体がより実際の(例えば、後述する図7図8に示すような)船体構造を模擬することができ、船体の衝突安全性を評価の合理性を高めることができる。防撓部材の配置の間隔などは、下記にも示すように、防撓部材の寸法と同様に実際の船舶構造の原寸との縮尺に応じて決定することができる。溶接箇所や溶接点数は、適切な溶接が確保できるものであれば特に限定はされない。防撓部材の側面を試験鋼板の表面に隅肉溶接してもよい。また、防撓部材の両端部の端面を拘束板(枠)の表面に隅肉溶接してもよい。
防撓部材の基本形状は、板形状(フラットバー形状)であるが、実際の船体構造を模擬するために、防撓部材はフランジ部を有した形状であってもよい。つまり、防撓部材の形状は、単純な板形状だけではなく、T字型、L字型、バルブプレート形状等のフランジ部を有する形状であってもよい。
防撓部材の寸法は、想定される原寸との縮尺に応じて決定することができる。実際の船舶を模擬した衝突現象を再現するために、原寸に対する縮尺を1/10以上にすることが好ましい。一方、変形、破口を生じさせるために、実際に衝突してくる船舶の船首を模擬するほどの(実機程度の)、大がかりな試験装置が必要にならないように、原寸に対する縮尺を3/4以下にすると、経済的に試験を行うことができる。
防撓部材の基本形状(板形状)部の板厚、高さ、さらに基本形状(板形状)の防撓部材に任意付加されるフランジ部の幅は、適宜、決定すればよい。防撓部材の基本形状(板形状)部の板厚は10~30mm、高さは50~150mmとしてもよい。基本形状(板形状)の防撓部材に任意付加されるフランジ部の幅は30~80mm(ただし、防撓部材の板厚を超える)であってもよい。防撓の効果を十分に得て、実際の船舶を模擬した衝突現象を再現するために、基本形状(板形状)部の板厚を10mm以上にすることが好ましい。同様の理由で、基本形状(板形状)部の高さを50mm以上にすることが好ましく、基本形状(板形状)の防撓部材に任意付加されるフランジ部の幅を30mm以上にする(ただし、防撓部材の板厚を超える)ことが好ましい。一方、経済的な観点から、変形、破口を生じさせるために、実際に衝突してくる船舶の船首を模擬するほどの(実機程度の)、大きな試験荷重を要しないように、基本形状(板形状)部の板厚を30mm以下にすることが好ましい。同様の理由で、基本形状(板形状)部の高さを150mm以下にすることが好ましく、基本形状(板形状)の防撓部材に任意付加されるフランジ部の幅を80mm以下にすることが好ましい。
【0025】
(補強板)
防撓部材は拘束板の枠と溶接で接合されるが、試験中に本来の評価部位ではないその溶接部分での破断を防止するために、その溶接部には補強板を附置してもよい。補強板は、防撓部材のフランジ部に附置してもよい。補強板の板厚は、例えば、10~30mmであってよい。補強板は、防撓部材又は拘束板の枠への応力の集中を回避できる形状を有することが好ましい。例えば、補強板の形状は、三角形、あるいは図3のsで示すように、三角形のうち、拘束板の枠に接しない片が曲面を有する形状である。補強板と防撓部材および拘束板の枠との接合は応力伝達の効率性を鑑みて溶接によってなされる。補強板があると、拘束板の枠と防撓部材との溶接部が剥離しにくくなり、試験体評価のために本質的ではない溶接部での破断をより確実に防止できる。
【0026】
(衝突評価試験体)
試験体は、試験鋼板に、防撓部材を1枚または複数枚配し、且つ拘束板の枠を溶接で配置したものであり、防撓部材は試験鋼板および拘束板の枠に溶接されている。実際の船舶の構造に近い条件での評価が可能になるように、試験体では、評価対象となる試験鋼板が防撓部材を備えている。さらに、試験鋼板に溶接される拘束板の枠によって試験鋼板の変形が制限されるので、圧子(衝突治具)による動的な衝撃を効率的に、試験鋼板に与えることができる。したがって、当該試験体を用いて、衝突評価試験をすることによって、より合理的な衝突安全性の評価が可能である。
【0027】
(衝突評価試験方法)
試験鋼板、拘束板の枠、防撓部材、任意付加的な補強板で構成される試験体の、試験鋼板面の防撓部材を附置した逆側の面から圧子(衝突治具)を衝突させ、陥入させて試験鋼板の変形と破口の試験を行う。
圧子の衝突方法は、想定される衝突現象に応じて、適宜調整することができる。圧子を、油圧シリンダー等で、試験鋼板に押し込む(押し付ける)ように衝突させてもよい。また、圧子を、振り子のように、衝突させてもよい。また、試験鋼板を、水平に設置して、圧子を上下方向(鉛直方向)から、押し込む(押しつける)ように衝突させてもよく、あるいは、圧子を適当な高さから落下衝突させてもよい。衝突速度が遅く、精度良く調整したい場合は、圧子を油圧シリンダーで押し込むことが好ましい。圧子を適当な高さから試験鋼板に落下衝突させると、衝突速度を速くすることができる。
【0028】
(圧子)
圧子の材質は、想定される衝突物に応じて、適宜調整することができる。衝突対象が、他の船舶であることを想定して、圧子が鋼製であってもよい。
圧子の形状は、想定される衝突物に応じて、適宜調整することができる。圧子の先端部が、衝突してくる船首を模擬するために、球体の一部あるいは曲面を有してもよく、または突起形状(圧子先端が三角柱の角である形状、圧子先端に突起を設けた形状等)の少なくとも一つを有してもよく、それらを組み合わせたものであってもよい。
圧子の先端部が球体の一部の形状を有する場合、球体の外半径を200~400mmとすることが妥当である。荷重の極端な集中を回避し、実際の船舶の衝突を再現するためには、球体の外半径を200mm以上にすることが好ましい。また、球体の外半径を400mm以下にすることにより、荷重を適度に集中させて、合理的な変形や破口が得られて、容易に試験鋼板の評価を行うことが可能になる。
【0029】
(衝突速度)
衝突速度(押し込み等の速度)は、実際の大型船舶の衝突状況を再現するために、適宜調整してもよく、0.1~10000mm/秒としてもよい。実際の動的な衝突現象を再現するためには、衝突速度(押し込み等の速度)を0.1mm/秒以上にすることが好ましく、0.4mm/秒以上にすることがより好ましい。一方、実際の船舶の衝突事故における衝突速度が10000mm/秒を超えることは想定しがたく、また、大型の高速な圧縮試験機を用意するためには莫大なコストを要するので、経済的な観点からも衝突速度(押し込み等の速度)を1000mm/秒以下にすることが好ましい。経済的な観点から、衝突速度(押し込み等の速度)は100mm/秒以下がより好ましく、10mm/秒以下がより一層好ましい。衝突速度(押し込み等の速度)は1mm/秒以下であってもよい。
また、衝突試験を行う際に、試験装置および環境を含めて、その試験温度を、実際の海洋環境温度に合わせて調整してもよい。試験温度を、略室温(25±15℃)としてもよく、氷海域を想定して、試験温度の下限値を-60℃としてもよい。
【0030】
(衝突評価試験装置)
試験装置は、試験体に圧子(衝突治具)を衝突させて、衝突評価試験が行えるように、試験体、その固定手段および圧子を配設したものである。また、試験装置は、圧子が動的な衝撃を試験体(すなわち試験鋼板)に与えることができるように、圧子を駆動する機構を備えたものである。
ここで、試験体の配置は、試験鋼板に圧子を適切に衝突させることができるものであれば、特に限定されるものではなく、試験体は、垂直に配置されてもよく、または水平に配置されていてもよい。試験体は、圧子(衝突治具)を試験鋼板に衝突させた場合に、拘束板が動かないように、試験装置においてアンカー等の固定手段で固定されてもよい。さらに、試験装置が、試験場にアンカー等で固定されてもよい。これにより、圧子(衝突治具)による動的な衝撃を効率的に、試験鋼板に与えることができる。
また、駆動機構は、合理的な動的衝撃を実現できるものであれば、特に限定されるものではない。駆動機構の一態様として、圧子を吊り具で吊り下げ、圧子を振り子のように、試験体の試験鋼板に衝突させてもよい。また、圧子を、油圧シリンダー等で、試験体に押し込む(押し付ける)ような駆動機構であってもよい。また、試験体を、水平に配置して、圧子を上下方向から、押し込む(押しつける)ことをしてもよく、あるいは、圧子を適当な高さから落下衝突させてもよい。図2は、試験装置の一例を模式的に図示したものである。荷重および変位の測定は主に磁気ひずみによる応力測定や電気抵抗ひずみゲージなどによってなされるが、レーザ変位計など光学的な方法を使用してもよい。
【0031】
本発明の船体構造及びその製造方法について説明する。
【0032】
まず、衝突評価試験体の前記試験鋼板に圧子を衝突させて、前記試験鋼板を変形または破口させる衝突試験方法における合否の判定について説明する。後述する実施例の図4に示すように、圧子の押し込み量(変位)の増加に伴い、荷重が上昇する。
高延性鋼Aのように、試験中に荷重低下が見られない場合は合格である。一方、一般鋼Bのように、最高荷重に到達した後、荷重が低下する場合、試験中の荷重低下が160kNを超えると不合格である。
試験中の荷重低下が160kNであれば、降伏現象は生じているものの、破口の発生には至らないとみなし、合格と判定する。したがって、試験中の荷重低下が160kN以下であれば、合格と判定する。また、試験中の荷重低下が最大荷重の5%以下であれば、降伏現象は生じているものの、破口の発生には至らないとみなし、合格と判定することも可能である。したがって、試験中の荷重低下が最大荷重の5%以下であれば、合格と判定することも可能である。ここで、上記判定は前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20とした試験により行うが、さらに高い要求特性として、0.20~0.28の何れかを合格判定基準とすることもできる。
なお、試験中の荷重低下は、圧子の変位の増加に伴い、荷重が低下する状態をいい、除荷による荷重低下は除外される。試験中の荷重低下は、試験中に表示される荷重-変位曲線に基づいて判定してもよく、試験の終了後、得られた荷重-変位曲線に基づいて判定してもよい。特に、荷重低下を最大荷重に対する割合とする場合は、試験後の荷重-変位曲線に基づいて判定してもよい。試験中に目視又はCCDカメラによって破口の発生の有無を確認してもよい。
一方、圧子を振り子のようにして試験鋼板に衝突させる場合や、圧子を適当な高さから試験鋼板に落下衝突させる場合など、荷重を測定できないときは、破口の発生の有無によって合否を判定する。このとき、破口の発生には試験鋼板の変形量が影響するため、圧子の押込量と、拘束板の枠の外幅との比が0.20であるときに破口が生じないことを合格とする。試験鋼板の変形量は、圧子を振り子のようにして衝突させる場合は降り幅によって、圧子を試験鋼板に落下させる場合は、落下させる高さによって調整することができる。ただし、試験条件を、圧子の押込量と、拘束板の枠の外幅との比が正確に0.20となるように調整する必要はない。圧子の押込量と、拘束板の枠の外幅との比が0.20を超える試験条件で破口が発生していなければ合格と判定することができる。また、さらに高い要求特性として、0.20~0.28の何れかを合格判定基準とすることもできる。したがって、圧子の押込量と、拘束板の枠の外幅との比が0.20~0.28の何れかであるときに破口が生じないことを合格としてもよい。試験中に目視又はCCDカメラによって破口の発生の有無を確認してもよい。
【0033】
次に、上述した合格判定基準を満たす鋼板を使用する、船体構造の製造方法について説明する。船体構造の製造方法においては、船側部の外板の一部の部位若しくは外板の全ての部位、又は、内板の一部の部位若しくは内板の全ての部位に上述した合格判定基準を満たす鋼板を使用する。以下では、合格判定基準を満たす鋼板を高延性鋼板と称する場合がある。本発明に係る衝突試験方法は、圧延ロット、転炉ロット、適用される鋼板の単一船体ロット毎に行えばよいものである。あるいは同一の造船会社から発注される同一設計の一連の船舶に対し、一度、本発明に係る衝突試験方法を行えばよい。
【0034】
上述した合格判定基準を満たす鋼板を使用する船体構造の製造方法においては、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験において上述した合格判定基準を満たすことが仕様として課され、且つ当該仕様を満たすことが確認された鋼板を使用するものであってもよい。
ここで、「仕様」とは、造船会社が製鉄会社に対して鋼板を発注する際に要求する鋼板の特性であり、例えば船級協会が高延性鋼にノーテーションを付記している場合には、ノーテーションを付記した材料記号に基づいて発注するものであってもよい。
【0035】
船体構造に用いられる鋼板は、各船級協会の規格を満たす必要がある。このため、各船級協会の規格で規定された頻度で、必要とされる評価試験が行われる。通常、その試験結果において鋼材仕様書等を満たす鋼板のみが各製鉄会社の検査に合格と判定され、その評価試験の結果等が鋼材検査証明書等に記載される。鋼材検査証明書等は、各船級協会の検査員の確認を受けたのち、製鉄会社から発注した造船会社に引き渡される。
【0036】
本発明において、「衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中の荷重低下が160kN以下であることを仕様として課せられ」、「衝突試験方法において、試験中の 荷重低下が最高荷重の5%以下であることを仕様として課せられ」、及び、「衝突試験方法において、前記圧子の最大押込量と前記拘束板の枠の外幅との比を0.20~0.28のいずれかとした試験中において破口が生じないことを仕様として課せられ」とは、鋼板仕様書等にて、鋼板が、前記衝突試験方法に合格することが要求されることを意図している。造船会社と製鉄会社との鋼材取引き等のコンピューター処理化が進んでおり、鋼板仕様書等の書面の送付等を行わない場合も多い。本発明においては、データの電送などの書面によらない方法で、仕様として課されてもよい。
また、「前記仕様を満たすことが確認できた」とは、少なくとも各製鉄会社の検査で、鋼板が、前記衝突試験方法に合格することが確認されることを意図している。この確認は、一般的には、各製鉄会社内のコンピュータシステムにより行われる(例えば、試験結果が鋼板仕様書等の要求値を満たしているか否かが、コンピュータシステムにより判定される)。
【0037】
図7及び図8に、船体構造の一例を示す。図7は、油槽の二重船殻構造の例であり、船体構造を構成する主要な部材は、船側外板10と内板11、外板10と内板11にそれぞれ付随する防撓材12、13、トランス14、ストリンガー15、アッパーデッキ16及びビルジ17である。
【0038】
本発明は、高延性鋼板を、船側部の外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に使用する、船体構造の製造方法である。更に、前記高延性鋼板が使用された前記外板に対向する内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用することが好ましい。
また、本発明は、高延性鋼板を、船側部の内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に使用する、船体構造の製造方法である。更に、前記高延性鋼板が使用された前記内板に対向する外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用することが好ましい。
また、ストリンガーの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。また、アッパーデッキの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。また、ビルジの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。また、トランスの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。
【0039】
また、本発明は、船側部の外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位の鋼板が、前記高延性鋼板である、船体構造である。更に、鋼板に前記高延性鋼板が使用された前記外板に対向する内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位の鋼板が、前記高延性鋼板であることが好ましい。
また、本発明は、船側部の内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位の鋼板が、前記高延性鋼板である、船体構造である。更に、鋼板に前記高延性鋼板が使用された前記内板に対向する外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位の鋼板が、前記高延性鋼板であることが好ましい。
また、ストリンガーの一部又は全部の鋼板が、前記高延性鋼板であることがより一層好ましい。また、アッパーデッキの一部又は全部の鋼板が、前記高延性鋼板であることがより一層好ましい。また、ビルジの一部又は全部の鋼板が、前記高延性鋼板であることがより一層好ましい。また、トランスの一部又は全部の鋼板が、前記高延性鋼板であることがより一層好ましい。
【0040】
経済性及び効率的エネルギー吸収の観点からは、前記高延性鋼板は、外板、内板及び防撓材にまず適用することが望ましい。この場合、内板に付随する防撓材への適用は止めて、外板、内板及び外板に付随する防撓材へ前記高延性鋼板を適用するバリエーションや外板及び内板に前記高延性鋼板を適用するバリエーションもあり得る。外板及び内板のいずれか片方のみを前記高延性鋼板とする場合には、内板より外板を前記高延性鋼板とすることがより好ましい。しかしながら、内板のみに前記高延性鋼板を使用することを、妨げるものではない。また、船底構造、船首構造、船尾構造に高延性鋼板を使用してもよい。さらに、上部構造(ブリッジ等)に高延性鋼板を使用してもよい。
【0041】
本発明に係る船体構造の製造方法は、大型船舶に加えて小型船舶にも適用可能であるが、特に大型船舶に適用した場合に効果が大きい。本発明の効果は、大型原油タンカー(Very Large Crude oil Carrier、VLCCという)が特に大きい。バルクキャリア(鉱石運搬船)等の一重船殻構造(シングルハル)に適用しても、効果を発揮する。本発明に係る船体構造の製造方法においては、外板と内板という2つの部材を区別している。一重船殻構造の場合、外板は内板でもあると看做せる(逆に、内板は外板でもあると看做せる)ため、一重船殻構造の場合も本発明の技術的範囲内である。また、このようなバルクキャリア等の被衝突時の破口により油漏洩が危惧されるその燃料油タンク部(船体が基本的に一重船殻構造であっても、多くの場合、当該燃料油タンク部は、外板と内板にて囲まれた(局部的な)二重船殻構造となっている。)に適用してもよい。
【0042】
本発明の試験方法を使用する、船体構造の設計方法について説明する。
【0043】
本発明に係る船体構造の設計方法を実施するためには、破口を抑制する必要がある船側鋼板部材を特定し、当該部材に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用する必要がある。特に外板又は内板においては破口を抑制する必要がある部位まで特定し、当該部位に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用する必要がある。つまり、破口を抑制する必要がある部材を特定し、当該船側鋼板部材に使用する鋼板に、本発明の試験方法に合格することが確認された高延性鋼板を使用する船体構造の設計方法を意図している。このような意図した船体構造の設計方法の結果、本発明の試験方法に合格することが確認された鋼板が、船殻構造の特定の船側鋼板部材(破口を抑制する必要がある部材)に使用された船体構造を製造することができる。
【0044】
破口を抑制する必要がある船側鋼板部材(外板又は内板においては破口を抑制する必要がある部位)は、船殻構造の設計者の耐衝突安全性に対する考え方によるが、船舶の種類に大きく依存する。例えば、バルクキャリアにおいては、バラストタンクがなく船倉が外板1枚の部位(つまり、内板がない部位)を、破口を抑制する必要がある外板と特定し、当該部位の外板に高延性鋼板を使用してもよい。あるいは、燃料タンクの一部となる外板がある部位を、破口を抑制する必要がある外板と特定し、当該部位の外板に高延性鋼板を使用してもよい。
【0045】
また、例えばタンカーにおいては、製品油(原油タンカーの場合には、原油)が貯蔵されているタンクがある部位(内板の部位)に対向する外板を、破口を抑制する必要がある外板と特定してもよい。この場合、当該部位は、外板の高さ方向及び長さ方向にほぼ全体の部位となり、その部位の外板に高延性鋼板を使用することになる。船殻設計者の耐衝突安全性に対する考え方にもよるが、高延性鋼板を使用した前記外板に対向する内板にも、前記高延性鋼板を使用してもよく、前記外板及び前記内板に付随する防撓材の一部又は全部に、高延性鋼板を使用してもよい。
また、例えば球形タンク方式のLNG船においては、LNGが貯留されている球形タンクが最も近接する船側外板の部位を、破口を抑制する必要がある外板と特定してもよい。この場合、タンクは球形であるため、当該部位は、平面視及び側面視においてタンク全体をカバーする部分である必要はなく、タンクが最も近接する部分のみでもよい。そして、特定された部位の外板に高延性鋼板を使用してもよい。必要に応じて、球形タンクが最も近接する船側外板の周辺の部位も、破口を抑制する必要がある外板と特定してもよい。
また、船舶の種類によらず、前記外板、前記内板及び前記防撓材に加え、ストリンガーの一部又は全部、アッパーデッキの一部又は全部、ビルジの一部又は全部、トランスの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用してもよい。
【実施例
【0046】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0047】
図2で模式的に示された試験装置(4000トン圧縮試験機)を用いて、図3に示す試験体の衝突実験を行った。試験装置の圧子は、鋼製であり、先端の形状が球形の一部であるものを用いた。試験体の各部寸法及び圧子先端(試験鋼板と衝突する際に接触する範囲)の外半径(R)は以下の通りである。圧子の押し込み速度は0.43mm/秒とした。
なお、試験体は想定した船体の1/2スケールのものとした。なお、括弧内のアルファベットは図3の符号である。
試験鋼板の板厚(a): 12mm
試験鋼板の長さ(b): 1900mm
試験鋼板の幅(c): 1300mm
防撓部材の板厚(d): 12mm
防撓部材の高さ(e): 100mm
防撓部材のフランジ部の幅(f): 50mm
拘束板の板厚(g): 50mm
拘束板枠の外長(h): 1500mm
拘束板枠の外幅(i): 900mm
拘束板枠の高さ(j): 500mm
圧子の外半径(R): 300mm
補強板(S)
【0048】
試験鋼板と防撓部材には、表1に示す2種類の鋼板を用い、その耐衝突安全性能を比較した。
【0049】
【表1】

なお、高延性鋼Aは、特許文献1の発明(船体構造)に使用される高延性鋼板の規定を満たすものである。
【0050】
図4に示すように、一般鋼Bでは押し込み荷重3500kNで破口が生じ、荷重の上昇が見られなくなったが、高延性鋼Aでは、その高い伸びが効果的に作用して、試験終了まで荷重を負担することが示された。
図5は、試験後の試験鋼板表面(圧子が衝突した面)の写真であり、一般鋼Bでは大きな開口が見られたが、高延性鋼Aでは破口が見られなかった。また、図6は、一般鋼Bの裏側の写真であり、防撓部材に沿って破口が延在していることが示された。この結果は、図1に示される、有限要素法による解析結果(防撓部材の近傍にひずみが集中する)と一致しており、本発明の試験体、試験方法および試験装置の合理性を裏付けるものである。また、本発明の試験体、試験方法および試験装置は、実際の船舶を用意して、それを用いて衝突試験を行うよりも経済的である。
したがって本試験体、試験方法および試験装置によって、船体構造に適用する高延性鋼を合理的且つ経済的に評価が可能であることが示された。
【0051】
さらに、このように合理性を損なわずに経済的に実現可能な、本発明による試験体、試験方法、および試験装置を用いて、一般鋼Bでは破口が生じるものの、高延性鋼Aでは破口が生じていないことが確認された。すなわち、高延性鋼Aが、一般鋼Bに比べて、耐衝突性に優れたものであることが、あらためて確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8