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特許7481723金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに金属カーバイド組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに金属カーバイド組成物
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/14 20060101AFI20240502BHJP
   C01B 32/935 20170101ALI20240502BHJP
   C01B 32/942 20170101ALI20240502BHJP
   C25B 1/18 20060101ALI20240502BHJP
   C07C 1/32 20060101ALN20240502BHJP
   C07C 9/04 20060101ALN20240502BHJP
   C07C 11/04 20060101ALN20240502BHJP
   C07C 11/24 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
C25B1/14
C01B32/935
C01B32/942
C25B1/18
C07C1/32
C07C9/04
C07C11/04
C07C11/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023023712
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2022159608の分割
【原出願日】2022-10-03
(65)【公開番号】P2023057159
(43)【公開日】2023-04-20
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2021163670
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【弁理士】
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】後藤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐太
(72)【発明者】
【氏名】福田 晴香
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦也
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 智弘
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】HIDEKI YABE他,THE EFFECT OF SILVER ION ON ELECTRODEPOSITION OF T,Electrochimica Acta,英国,1990年01月,35巻1号,187-189頁
【文献】D.C.Topor他,Molybdeunm Carbide Coatings Electrodeposited from ,Journal of the Electrochemical Society,米国,1988年02月,135巻2号,384-387頁
【文献】Xinxin Liang他,Electrochemical Reduction of Carbon Dioxide and Ir,Angewandte Chemie,米国,2021年01月18日,133巻4号,2148-2152頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/14
C25B 1/18
C01B 32/935
C01B 32/942
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属の炭酸塩が解離した第1金属イオンおよび炭酸イオンを含む溶融塩を調製すること、
前記溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ることを含み、
前記溶融塩は、前記第1金属イオンとして、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、金属カーバイドの製造方法。
【請求項2】
前記溶融塩は、さらに、第2金属のハロゲン化物が解離した第2金属イオンおよびハロゲン化物イオンを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項3】
前記第1金属と前記第2金属とが同じである、請求項2に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項4】
前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、化物イオンを含む、請求項2または3に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項5】
前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、フッ化物イオンを含む、請求項2または3に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項6】
前記析出物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記溶融塩に含まれる第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項7】
前記溶融塩は、前記第1金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに金属カーバイド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチレンは、様々な有機化合物の原料として、工業的に重要な物質である。アセチレンは、通常、金属カーバイド(主に、カルシウムカーバイド)と水との反応により得られる。
【0003】
カルシウムカーバイドは、一般に、生石灰(酸化カルシウム)とコークスとの混合物を、電気炉内で高温に加熱することにより得られる(例えば、特許文献1)。特許文献2は、コークスを予めブリケットにしてから生石灰と混合することを提案している。特許文献2によれば、これにより、より効果的にカルシウムカーバイドを得ることができる。特許文献3は、塩化リチウムを溶融電解して得られる金属リチウムと、カーボンブラック等の炭素粉末とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。また、特許文献4は、溶融炭酸塩を電気分解することでカーボンナノファイバーを製造する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-178412号公報
【文献】特開2018-35328号公報
【文献】特開平2-256626号公報
【文献】特表2018-513911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属カーバイドを製造するには、通常、原料を2000℃以上に加熱する必要がある。そのため、エネルギー効率が低いうえ、大量の二酸化炭素が生成するという問題がある。また、近年の地球温暖化対策の観点から、炭素源として二酸化炭素を利用することが強く求められているが、特許文献1~3では、金属カーバイドの炭素源として炭素そのものを使用しているに過ぎない。特許文献4には、カーバイドの生成に関する記載も示唆もない。
【0006】
本開示は、金属源として金属炭酸塩を用いる、金属カーバイドの製造方法を提供することを目的とする。本開示はさらに、金属源として金属炭酸塩を用いて得られた金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、下記の態様を含む。
[1]第1金属の炭酸塩を含む溶融塩を調製すること、
前記溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ることを含む、金属カーバイドの製造方法。
【0008】
[2]前記溶融塩は、さらに、第2金属のハロゲン化物を含む、上記[1]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0009】
[3]前記第1金属と前記第2金属とが同じである、上記[2]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0010】
[4]前記ハロゲン化物におけるハロゲンは、塩素を含む、上記[2]または[3]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0011】
[5]前記ハロゲン化物におけるハロゲンは、フッ素を含む、上記[2]または[3]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0012】
[6]前記析出物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記溶融塩に含まれる第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0013】
[7]前記第1金属は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0014】
[8]前記第1金属は、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびカルシウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0015】
[9]第1金属の炭酸塩を含む溶融塩を調製すること、
前記溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ること、および、
前記第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスおよび前記第1金属の水酸化物を得ることを含む、炭化水素の製造方法。
【0016】
[10]さらに、前記水酸化物と二酸化炭素とを反応させて、前記第1金属の炭酸塩を得ること、および、
得られた前記酸化物を、前記溶融塩の調製に再利用することを含む、上記[9]に記載の炭化水素の製造方法。
【0017】
[11]前記炭化水素は、アセチレンである、上記[9]または[10]に記載の炭化水素の製造方法。
【0018】
[12]前記ガスは、アセチレンと、エチレン、エタン、メタンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種とを含む、上記[9]~[11]のいずれかに記載の炭化水素の製造方法。
【0019】
[13]主成分として第1金属のカーバイドを含み、
さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、金属カーバイド組成物。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、金属源として金属炭酸塩を用いる金属カーバイドの製造方法、および、金属源として金属炭酸塩を用いて得られた金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法、ならびに金属カーバイド組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
図2】本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本開示に係る他の炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
図4】実施例1で得られた析出物のXRD分析の結果を示すグラフである。
図5】実施例2で得られた析出物のラマン分光分析の結果を示すグラフである。
図6】実施例3で得られた析出物のXRD分析の結果を示すグラフである。
図7】実施例4~9で得られた析出物のXRD分析の結果を示すグラフである。
図8】実施例7で生成したガスのGC-MS分析の結果を示すグラフである。
図9】実施例8で生成したガスのGC-MS分析の結果を示すグラフである。
図10】実施例9で得られた析出物の加水分解により生成したガスのGC-MS分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の金属カーバイドの製造方法では、金属炭酸塩を含む溶融塩に電圧を印加して、金属カーバイドを得る。この溶融塩を用いる方法によれば、800℃以下の比較的低温下で、速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることができる。さらに、金属炭酸塩を用いるため、目的とする金属カーバイドを、より高い生産性、選択性、安全性で得ることができる。加えて、炭酸カルシウムのように用途が制限されている炭酸塩を、有効活用することができる。また、金属炭酸塩は、金属に二酸化炭素を固定化することにより得られるため、地球温暖化の原因と言われるCOを有効活用することができる。
【0023】
本開示は、上記の方法により得られる金属カーバイドを加水分解して、炭化水素を得ることを包含する。この方法によれば、効率良く高純度の炭化水素を得ることができる。
【0024】
本開示は、金属カーバイドを加水分解する際に副生する金属水酸化物を二酸化炭素と反応させて、金属炭酸塩を再生し、上記の金属カーバイドを製造するための金属源として再利用することを包含する。これにより、第1金属の炭酸塩を用いた第1金属カーバイドの製造と、第1金属カーバイドを利用した炭化水素の製造と、を含むリサイクルシステムが構築される。そのため、資源を有効活用することができる。さらに、地球温暖化の原因と言われるCOが有効活用される。そのため、本開示の方法は、環境保全の観点からも非常に有用である。
【0025】
本開示は、第1金属のカーバイドを含むカーバイド組成物を包含する。このカーバイド組成物は、炭化水素の製造に利用できる。
【0026】
[金属カーバイドの製造方法]
本開示に係る金属カーバイドの製造方法は、第1金属の炭酸塩を含む溶融塩を調製すること、溶融塩に電圧を印加して、第1金属のカーバイドを含む析出物を得ることを含む。図1は、本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
【0027】
(I)溶融塩の調製(S11)
まず、第1金属の炭酸塩を含む溶融塩を調製する。第1金属の炭酸塩は、目的とする金属カーバイドの金属源である。便宜上、電解浴に含まれる金属塩(金属酸化物を含む。)を、それが完全に電離していない場合を含め、溶融塩と称する。
【0028】
(第1金属の炭酸塩)
第1金属の炭酸塩は特に限定されず、目的とする金属カーバイドに応じて適宜選択される。なかでも、第1金属は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、他の金属に比べてイオン化エネルギーが小さく、電離し易いためである。
【0029】
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。好ましいアルカリ金属としては、Li、Na、K、RbおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。特に、Li、Na、KおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0030】
アルカリ土類金属としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。好ましいアルカリ土類金属としては、Mg、Ca、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0031】
なかでも、第1金属の炭酸塩の水への溶解性を考慮すると、第1金属は、Li、Na、K、RbおよびCsが好ましい。安価である点ではNaおよびCaがより好ましく、反応性の点ではLiおよびCaがより好ましい。
【0032】
水酸化物の水への溶解性が高い点で、第1金属はLi、Na、KおよびCsが好ましい。第1金属の水酸化物の水への溶解性が高いと、後工程における第1金属のリサイクル効率が高まる。炭化水素の製造方法において、金属カーバイドは加水分解される。このとき、炭化水素とともに、第1金属の水酸化物が副生する。炭化水素は一般に水に溶解し難いため、ガスとして容易に取り出すことができる。また、析出物に含まれる炭素は、水中に浮遊もしくは沈殿する。副生する第1金属の水酸化物が水に溶解していると、濾過により、炭素を効率よく除去することが可能となる。濾液から水を除去すれば、第1金属の水酸化物を回収できる。この第1金属の水酸化物を二酸化炭素と反応させると、第1金属の炭酸塩が得られる。つまり、第1金属の水酸化物の水への溶解性が高いほど、第1金属の炭酸塩は回収され易い。得られた第1金属の炭酸塩は、上記の溶融塩の調製に再利用される。一方で、第1金属の水酸化物の水への溶解性が低いほど、その回収に必要なエネルギーを低減することができる。エネルギー削減の観点から、第1金属はCaが好ましい。
【0033】
溶融塩に含まれる第1金属の炭酸塩の量は特に限定されない。反応効率の観点から、第1金属の炭酸塩のモル数は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、3モル%以上が特に好ましい。第1金属の炭酸塩のモル数は、反応効率の観点から、多ければ多いほど好ましいが、溶融塩の融点が高くなりすぎる場合は、適宜他の金属塩を混合すればよい。一態様において、第1金属の炭酸塩のモル数は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、1モル%以上であり、100モル%であってよい。
【0034】
(他の金属塩)
溶融には、第1金属の炭酸塩以外の他の金属塩の溶融塩が含まれることが好ましい。他の金属塩の溶融塩は、電解浴において、主として電解質として機能する。他の金属塩はまた、第1金属の炭酸塩を溶融し易くする。他の金属塩としては、金属(以下、第2金属と称する)のイオンとそのカウンターイオン(以下、第2アニオンと称する。)との塩が挙げられる。
【0035】
第2金属と第1金属とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。第2金属が第1金属と同じであると、第1金属のカーバイドが生成され易くなる。第2金属が第1金属と同じである場合、第2アニオンは炭酸塩イオン以外である。
【0036】
他の金属塩は、目的物質である金属カーバイドが安定して析出できる限り、特に限定されない。なかでも、他の金属塩は、800℃以下の温度で溶融することが好ましい。
【0037】
第2金属としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)が挙げられる。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、上記の通りである。希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素およびアクチノイド元素が挙げられる。なかでも、他の金属塩の溶融温度が低くなり易い点で、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0038】
第2アニオンとしては、例えば、炭酸イオン(CO 2-)、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、カルボン酸イオン、酸化物イオン(O )およびハロゲンイオンが挙げられる。なかでも、他の金属塩の溶融温度が低くなり易い点で、ハロゲンイオンが好ましい。ハロゲンは、電子親和力が大きい。
【0039】
ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)およびアスタチン(At)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。好ましいハロゲンとしては、F、Cl、BrおよびIよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。特に、Fおよび/またはClが好ましい。第1金属の炭酸塩の溶解度が向上し得る点で、Fが好ましい。
【0040】
炭素源となり得る点で、第2アニオンは炭酸イオンを含んでもよい。好ましい第2金属の炭酸塩としては、例えば、第1金属とは異なるアルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の、炭酸塩が挙げられる。
【0041】
他の金属塩としては、具体的には、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等のハロゲン化アルカリ金属;MgF、CaF、SrF、BaF、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、MgI、CaI、SrI、BaI等のハロゲン化アルカリ土類金属、AlCl等の希土類元素のハロゲン化物、LiO、CaO等の金属酸化物、LiCO、NaCO、KCO等の第1金属以外の金属の炭酸塩、LiNO、NaNO、KNO等の金属硝酸塩が挙げられる。なかでも、リチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。特に、Li、NaおよびKよりなる群から選択される少なくとも1つの、塩化物および/またはフッ化物が好ましい。
【0042】
他の金属塩は、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、溶融温度が低下し易い点で、2種以上の他の金属塩を組み合わせて用いることが好ましい。例えば、複数種の塩化物の組み合わせ、複数種のフッ化物の組み合わせ、および、1以上の塩化物と1以上のフッ化物との組み合わせが挙げられる。具体例としては、LiClとKCl、LiClとKClとCaCl、LiFとNaFとKF、NaFとNaCl、NaClとKClとAlClとの組み合わせが挙げられる。
【0043】
複数種の金属塩の組み合わせにおいて、各金属塩の配合比は特に限定されない。例えば、NaFとNaClとの組み合わせにおいて、NaFのモル数は、NaFとNaClとの合計モル数に対して、10モル%以上であってよく、20モル%以上であってよい。NaFのモル数は、NaFとNaClとの合計モル数に対して、55モル%以下であってよく、50モル%以下であってよく、45モル%以下であってよい。一態様において、NaFのモル数は、NaFとNaClとの合計モル数に対して、10モル%以上55モル%以下である。
【0044】
(II)電圧の印加(S12)
続いて、溶融塩に電圧を印加する。これにより、CO 2-が還元されて、第1金属のカーバイド(第1金属カーバイド)を含む析出物が得られる。第1金属カーバイドを含む析出物は、電位の低い電極(陰極)の表面に析出する。副生成物として、陰極上において炭素および酸素が生成し得る。
【0045】
第1金属がNaである場合、陰極には、第1金属としてナトリウムカーバイド(Na)が析出する。陰極上には、炭素および金属ナトリウムも生成し得る。
2Na+2CO 2-+10e → Na+6O2-
CO 2-+4e → C+3O2-
2Na+2e →2Na
【0046】
第1金属がLi、KまたはCaの場合も、同様の反応により、リチウムカーバイド(Li)、カリウムカーバイド(K)またはカルシウムカーバイド(CaC)が析出する。その他の第1金属の場合も同様である。
【0047】
陽極上では、O が酸化されて酸素が発生する。陽極上で発生した酸素は気相中へと排出される。この酸素ガスを回収し、他の用途に利用することができる。
2O2- → O +4e
【0048】
電圧の印加は、溶融塩の溶融状態が維持できる温度で行われる。電解浴の温度は、例えば、150℃以上であってよく、250℃以上であってよい。電解浴の温度は、例えば、800℃以下であってよく、700℃以下であってよい。本開示によれば、このような比較的低い温度で反応が進行するため、エネルギー効率が高い。
【0049】
印加電圧は、陰極電位が、炭素が析出する電位(Ec)と第1金属が析出する電位(Em)との間になるように、設定される。これにより、第1金属カーバイドの選択性がより向上し得る。陰極の電位が過度に高い(貴である)と、主として炭素が析出し、目的の第1金属カーバイドの生成量は減少し易い。陰極の電位が過度に低い(卑である)と、第1金属カーバイドは生成するものの、溶融塩中に含まれる金属のうち、当該溶融塩中の酸化還元電位が最も貴な金属が主として析出する。溶融塩中に当該溶融塩中の酸化還元電位が近い複数の金属が存在する場合は、複数金属の合金が析出こともある。例えば、溶融塩が、LiClとKClとLiO(5mol%)とを含む場合、陰極電位は、0.0V以上1.0V以下(Li/Li基準)であればよい。電圧は、直流あってよく、間欠的(パルス電解)であってよく、交流を重畳してもよい。電位EcおよびEmは、使用する溶融塩中で、例えばNi電極を用いて、サイクリック・ボルタンメトリー測定を行って決定できる。
【0050】
陰極の材質は特に限定されない。陰極の材料としては、例えば、Ag、Cu、Ni、Pb、Hg、Tl、Bi、In、Sn、Cd、Au、Zn、Pd、Ga、Ge、Ni、Fe、Pt、Pd、Ru、Ti、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Zrおよびこれらの合金等の金属、ならびに、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、熱分解グラファイト、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンド等のカーボン材料が挙げられる。
【0051】
陽極の材質は特に限定されない。陽極の材料としては、例えば、Pt、導電性金属酸化物、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、熱分解グラファイト、プラスチックフォームドカーボン、導電性ダイヤモンドが挙げられる。導電性金属酸化物製の電極としては、例えば、ITO電極と呼ばれるインジウムとスズの混合酸化物をガラス上に製膜した透明導電性電極、DSA電極(デノラ・ペルメレック電極株式会社商標)と呼ばれるルテニウム、イリジウム等の白金族の金属の酸化物をチタン等の基材上に成膜した電極、近年同志社大学で開発されたLa1-xSrFeO3-δ焼結電極等が挙げられる。なかでも、酸化反応による消耗が起こり難い点で、酸化物系の陽極が好ましい。
【0052】
電圧印加の際、溶融塩には二酸化炭素を含有するガスが添加されていてもよい。二酸化炭素を含有するガス(以下、COガスと称する場合がある。)は、気体の状態で液体の状態の溶融塩と接触させられる。COガスを電解浴の気相部に吹き込んで、溶融塩の液面と接触させてもよいし、COガスを溶融塩中に吹き込んでもよい。COガスは、COと不活性ガス(典型的には、アルゴン)との混合ガスであってよい。電圧印加前に、十分な量のCOガスを溶融塩に添加してもよいし、電圧を印加しながら、COガスを溶融塩に添加してもよい。
【0053】
COは、溶融塩中で物理溶解するだけでなく、イオン化して、炭酸イオン(CO 2-)として電解浴中に溶解させることが出来る。COは、例えば、溶融塩に存在する酸化物イオン(O )と反応し、炭酸イオン(CO 2-)になり得る(下記式参照)。添加されるCOもまた、金属カーバイドの炭素源になり得る。酸化物イオンは、例えば、第1金属カーバイドが析出する際の副生物に由来する。
2CO+O →2CO 2-
【0054】
COガスの吹き込み量は、第1金属の炭酸塩の量に応じて適宜設定すればよい。COガスの吹き込み量は、例えば、ガスの溶融塩中への吸収効率を考慮して、溶融塩に含まれる第1金属の炭酸塩の当量以下であってよい。
【0055】
溶融塩へのCOの溶解が促進される点で、吹き込まれるCOガスの気泡径は小さい方が望ましい。COガスの気泡径は、10mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。COガスの気泡径は、100nm以上であってよく、1μm以上であってよい。COガスの気泡径は、例えば、石英ガラスや高純度アルミナ製の多孔質材料を通じてバブリングしたり、撹拌機によって撹拌したり、振動を加えたり、超音波を照射したりすることにより、微細化が可能である。
【0056】
COガスは、予め溶融塩の温度近くまで予熱しておくことが好ましい。予熱により、溶融塩の温度が低下して、凝固してしまうことが抑制され易くなる。
【0057】
(金属カーバイド)
得られる金属カーバイドは、主に第1金属の炭化物(第1金属カーバイド)である。後工程における加水分解性等を考慮すると、第1金属カーバイドは、Li、Na、KおよびCaCよりなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0058】
本開示によれば、第1金属カーバイドを高い選択率で得ることができる。第1金属カーバイドの選択率は、陰極上の析出物に含まれる第1金属の単体、第1金属を含む化合物(第1金属カーバイドを含む)および炭素の合計質量に対する、第1金属カーバイドの質量で表される。第1金属カーバイドの選択率は、60質量%以上であり、80質量%以上であり得る。第1金属カーバイドの選択率は、99質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。一態様において、第1金属カーバイドの選択率は、90質量%以上99.9質量%以下である。
【0059】
第1金属カーバイド以外の第1金属を含む化合物としては、例えば、第1金属と第2アニオンとの塩(例えば、第1金属のハロゲン化物)、第1金属の炭酸塩、第1金属の酸化物、第1金属の水素化物、第1金属の過酸化物が挙げられる。
【0060】
(不純物)
析出物には不純物が含まれ得る。不純物は、第1金属カーバイド以外の析出物である。陰極上の析出物に含まれる不純物としては、例えば、炭素、固化した電解質(他の金属塩)、電極材料等の装置を構成する金属材料を含む化合物、溶融塩や第1金属の酸化物に含まれている微量成分、第1金属の単体、上記の第1金属カーバイド以外の第1金属を含む化合物、ならびに第2金属を含む化合物よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0061】
上記炭素は、黒鉛、アモルファスカーボン、ガラス状カーボン、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、グラフェン等のナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。第2金属を含む化合物としては、第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。装置を構成する金属材料を含む化合物としては、当該金属のハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、金属、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0062】
例えば、第1金属がNaであって、他の金属塩としてNaFとNaClとの混合物を用い、装置の構成材料がニッケルを含む場合、析出物には、不純物として、Na、NaCl、NaCO、Ni、NiClよりなる群から選択される少なくとも1つが含まれ得る。
【0063】
不純物量は、陰極上の全析出物の40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。不純物量は、全析出物の10質量%以上であってよく、1質量%以上であってよく、0.1質量%以上であってよい。一態様において、不純物量は、全析出物の0.1質量%以上10質量%以下である。
【0064】
第1金属カーバイド、第1金属の単体、第1金属を含む化合物およびその他の不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、析出物のラマン分光分析およびX線回折(XRD)分析により行うことができる。
【0065】
[炭化水素の製造方法]
本開示は、金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を包含する。すなわち、本開示に係る炭化水素の製造方法は、第1金属の炭酸塩を含む溶融塩を調製すること、溶融塩に電圧を印加して、第1金属のカーバイドを含む析出物を得ること、および、第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素および第1金属の水酸化物を得ることを含む。図2は、本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
【0066】
(1)溶融塩の調製(S21)
上記の金属カーバイドの製造方法における溶融塩の調製(S11)と同様にして、溶融塩を調製する。
【0067】
(2)電圧の印加(S22)
上記の金属カーバイドの製造方法における電圧の印加(S12)と同様にして、溶融塩に電圧を印加する。これにより、第1金属カーバイドを含む析出物が得られる。
【0068】
(3)金属カーバイドの加水分解(S23)
次に、第1金属カーバイドに水を接触させて、加水分解する。これにより、目的とする炭化水素を含むガスが得られる。炭化水素は、通常、水への溶解度が低い。そのため、生成した炭化水素は速やかに気相中へと排出され、回収される。
【0069】
析出物から第1金属カーバイドを単離して加水分解してもよい。単離は、例えば、析出物を粉砕し、比重差を利用する方法により実施される。あるいは、析出物をそのまま加水分解してもよい。この場合、析出物に含まれ得る第2金属のカーバイドもまた、加水分解されて、炭化水素を生成する。
【0070】
得られる炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン(C)、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが挙げられる。単離した第1金属カーバイドを使用する場合や、析出物に含まれる不純物量(特に、金属の単体)が少ない場合、主成分としては、アセチレンが得られる。主成分とは、回収されるガスの全質量の50質量%以上を占める成分である。アセチレンは、工業的に重要な炭化水素である。
【0071】
得られるガスには、炭化水素の他、不純物として、水蒸気、水素、窒素、酸素が含まれ得る。不純物量は、回収されるガスの10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。不純物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上であってよく、0.001質量%以上であってよい。一態様において、不純物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上1質量%以下である。
【0072】
得られるガスは、例えば、アセチレンと、エチレン、エタン、メタンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種とを含み得る。
【0073】
炭化水素および不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、回収されるガスのガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS分析)、ガスセルを備えたフーリエ変換式赤外吸収分光分析(FT-IR分析)、紫外―可視吸収分光分析(UV-Vis分析)により行うことができる。
【0074】
本開示によれば、炭化水素の生成に関するファラデー効率eが向上する。ファラデー効率eは、例えば、50%以上であり、80%以上であり得る。ファラデー効率eは、例えば、99.9%以下であってよく、99%以下であってよい。一態様において、ファラデー効率eは、50%以上99.9%以下である。
【0075】
例えば、C生成に関するファラデー効率eは、以下のようにして算出できる。
まず、GC-MS分析から得られるピークの合計面積と検量線とから、回収したガスに含まれるCの体積割合を算出する。次いで、回収容器内の気相が占める体積と、算出されたガスに占めるCの体積割合とから、Cの生成体積を算出する。最後に、発生したCは標準状態(0℃、101kPa)にあったとして、下記の式により、ファラデー効率e(%)を算出する。
【0076】
【数1】
【0077】
析出物に接触させる水の量は、析出物の質量に応じて適宜設定される。上記の水の量は、例えば、析出物中に含まれる金属カーバイドおよび金属の加水分解に必要な量以上である。加えて、析出物全体が浸漬でき、加水分解時の発熱による蒸発を考慮した量の水を使用することが望ましい。第1金属の水酸化物が回収し易くなる点で、生成する水酸化物が全て溶解することができる量以上の水を使用することが望ましい。ただし、過剰な量の水を使用すると、第1金属の水酸化物を回収する際の負荷が大きくなり易い。第1金属がリチウムの場合、析出物の質量に対して、例えば、10倍以上であり、20倍以上であってよい。上記の水の量は、析出物の質量に対して、例えば、100倍以下であり、50倍以下であってよい。
【0078】
第1金属カーバイドの加水分解により、炭化水素とともに、第1金属の水酸化物も生成する。例えば、ナトリウムカーバイドを加水分解すると、水とともに水酸化ナトリウムが生成する。
Na+2HO → C+2NaOH
【0079】
(リサイクルシステム)
本開示は、さらに、この生成する第1金属の水酸化物を、炭酸塩として回収して、第1金属カーバイドを製造するための金属源として再利用することを含む。これにより、炭化水素を、サイクル化された方法により製造することができる。
【0080】
すなわち、本開示の炭化水素の製造方法は、さらに、生成する第1金属の水酸化物と二酸化炭素とを反応させて、第1金属の炭酸塩を得ること、および、得られた第1金属の炭酸塩を、上記の(1)溶融塩の調製に再利用すること、を含む。図3は、本開示に係る他の炭化水素の製造方法(リサイクルシステム)を示すフローチャートである。
【0081】
(4)二酸化炭素との反応(S24)
第1金属の水酸化物と二酸化炭素とを反応させる。例えば、二酸化炭素のガスを、加水分解に使用された水に吹き込んで、第1金属の水酸化物に接触させる。これにより、第1金属の炭酸塩が得られる。例えば、水酸化ナトリウムと二酸化炭素とを反応させると、炭酸ナトリウムおよび水が生成する。
2NaOH+CO → NaCO+H
【0082】
第1金属の水酸化物は、水への溶解度に応じて、加水分解に使用された水中に沈殿するかあるいは水に溶解している。析出物に含まれていた不純物もまた、水中に沈殿するかあるいは水に溶解している。不純物は、第1金属の水酸化物と二酸化炭素とを反応させる前あるいは後、できるだけ多く除去されることが望ましい。
【0083】
第1金属の水酸化物の20℃における水への溶解度Sが、10g/100gHO以上の場合、まず、(i)水中に沈殿している不純物(代表的には、炭素)を濾過あるいは遠心分離により除去する。次いで、(ii)残った濾液に二酸化炭素を吹き込んで、第1金属を炭酸塩として生成させる。
【0084】
例えば、水酸化ナトリウムの溶解度Sは109g/100gHOである。そのため、第1金属がナトリウムの場合、まず濾過により、沈殿する不純物を除去する。その後、濾液に二酸化炭素を吹き込むと、以下のような反応式により、炭酸ナトリウムが得られる。
2NaOH+CO → NaCO+H
【0085】
炭酸ナトリウムの溶解度Sは、21.5g/100gHOである。そのため、濾液から水を除去することにより、固化した炭酸ナトリウムを効率よく得ることができる。一方、水への溶解度が低い金属炭酸塩(例えば、リチウム炭酸塩)は、沈殿物として回収できる。
【0086】
水酸化物の溶解度Sが10g/100gHO以上の第1金属としては、ナトリウムの他に、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
【0087】
第1金属の水酸化物の溶解度Sが10g/100gHO未満の場合であり、かつ、第1金属が炭酸水素塩を形成しうる場合、(a)第1金属の水酸化物を含む水中にCOを過剰に吹き込んで、一旦、第1金属の炭酸水素塩を生成させてもよい。第1金属の炭酸水素塩は、通常、水に溶解し易い。次いで、(b)上記の(i)と同様に、不純物を含む沈殿物を除去する。残った水溶液を加熱して第1金属の炭酸水素塩を熱分解することで、再び、第1金属の水酸化物を生成させる。最後に、第1金属の水酸化物を、再度、COと接触させると、第1金属が炭酸塩として生成する。
【0088】
例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))の溶解度Sは0.17g/100gHOであり、かつ、カルシウムは炭酸水素塩を形成する。そのため、水酸化カルシウム(Ca(OH))からは、以下のような反応式により、炭酸水素カルシウム(Ca(HCO)および水酸化カルシウム(Ca(OH))を経て、炭酸カルシウム(CaCO)を得ることができる。炭酸水素カルシウムの熱分解により生成するCOは、この処理に再利用され得る。
Ca(OH)+2CO → Ca(HCO
Ca(HCO → Ca(OH)+2CO
Ca(OH)+CO → CaCO+H
【0089】
COガスの吹き込み量は、第1金属の水酸化物の量に応じて適宜設定すればよい。COガスの吹き込み量は特に限定されず、例えば、ガスの水溶液への吸収効率を考慮して、水溶液に含まれる第1金属の水酸化物の当量以上であってよい。
【0090】
気体であるCOが、第1金属の水酸化物と効率よく反応できる点で、吹き込まれるCOガスの気泡径は小さい方が望ましい。COガスの気泡径は、10mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。COガスの気泡径は、100nm以上であってよく、1μm以上であってよい。
【0091】
第1金属の炭酸塩を含む上記の生成物には、不純物として、第2金属の酸化物、第1、第2金属の水酸化物、過酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびそれらの水和物等が含まれ得る。不純物量は、上記の生成物全量の20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。不純物量は、上記の生成物全量の0.1質量%以上であってよく、1.0質量%以上であってよい。一態様において、不純物量は、上記の生成物全量の0.1質量%以上20質量%以下である。不純物量が上記範囲であると、再利用過程(例えば、第1金属カーバイドの析出過程)における副反応が抑制され易くなって、ファラデー効率がさらに向上し得る。第1金属の酸化物および不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、析出物のラマン分光分析およびX線回折(XRD)分析により行うことができる。
【0092】
(5)第1金属の炭酸塩の再利用(S25)
得られた第1金属の炭酸塩を、上記の(1)溶融塩の調製に再利用する。これにより、第1金属の炭酸塩を用いた第1金属カーバイドの製造と、第1金属カーバイドを利用した炭化水素の製造と、を含むサイクルが完成する。不純物を含み得る上記の生成物ごと、再利用してもよい。
【0093】
[金属カーバイド組成物]
本開示は、金属カーバイド組成物を包含する。金属カーバイド組成物は、主成分として第1金属のカーバイドを含み、さらに、炭素、第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む。金属カーバイド組成物は、例えば、本開示の金属カーバイドの製造方法により得られる。この場合、金属カーバイド組成物は、陰極上に生成する析出物である。第1金属以外の金属としては、上記の第2金属が挙げられる。
【0094】
金属カーバイド組成物の主成分は、第1金属のカーバイドである。第1金属は、上記の通りである。主成分とは、金属カーバイド組成物の全質量の50質量%以上を占める成分である。第1金属のカーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。第1金属のカーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の99.9質量%以下であってよく、99質量%以下であってよい。一態様において、第1金属のカーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上99.9質量%以下である。
【0095】
金属カーバイド組成物が本開示の金属カーバイドの製造方法により得られる場合も同様に、金属カーバイド組成物は、第1金属のカーバイドとともに、炭素、第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む。金属カーバイド組成物は、その他、固化した電解質(他の金属塩)、装置を構成する材料のハロゲン化物、酸化物、金属、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。上記炭素は、黒鉛、アモルファスカーボン、ガラス状カーボン、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、グラフェン等のナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【実施例
【0096】
[実施例1]
(金属カーバイドの製造)
NaFとNaClとを、NaF/NaCl=34モル%/66モル%になるように混合し、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。NaClおよびNaFの合計モル数に対して1モル%のNaCOを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩を高純度アルミナ製容器に収めて、電気炉にセットし、混合塩を700℃に加熱した。このようにして、NaCl-NaF-NaCOの溶融塩を得た。
【0097】
次いで、容器の蓋に、作用極(1cm×1.5cmのニッケル板)、対極(コイル状の白金線)および参照極(Ag/Ag)を取り付けて、この蓋で容器を密閉した。容器内の溶融塩を700℃に加熱し、COを流量100mL/分で30分間以上吹き込んだ。続いて、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.5Vに維持しながら、30分間電圧を印加した。その後、作用極を取り出して表面の析出物を採取し、XRD分析を行った。実験操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。
【0098】
XRD分析の結果を図4に示す。この分析から、析出物は、主成分としてNaを含み、不純物としてNaCl、NaF、NaCOおよび炭素を含むことが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。不純物の質量割合は、XRD分析によるピーク強度比から算出した。
【0099】
(炭化水素の製造)
密閉した試験管に収めた析出物に、常温下(23℃)で純水を少量ずつ加え、析出物の加水分解を行った。加えた水の全量は、2.5mlであった。試験管内で発泡が生じているのを確認した後、発泡が見られなくなるまで試験管を静置した。続いて、ガスタイトシリンジを用いて、試験管内のガス100μl(マイクロリットル)を採取した。
【0100】
ガスクロマトグラフ(GC)装置を用いて、得られたガスに対してGC-MS分析を行って、主成分としてCが生成されていることを確認した。さらに、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。各成分の生成量も、併せて確認した。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0101】
(金属炭酸塩の再生)
上記の加水分解の後に残った液を濾過して、沈殿物を除去した。次いで、濾液に二酸化炭素を吹き込んだ。その後、水を除去して固化物を得た。この固化物に対してXRD分析を行い、主成分としてNaCOが再生されていることを確認した。固化物には、不純物としてNaHCOが含まれていた。得られた固化物に占めるNaCOの質量割合は90質量%以上であり、不純物の質量割合は10質量%以下であった。
【0102】
[実施例2]
(金属カーバイドの製造)
混合塩を収めた容器としてガラス製容器を使用したこと、および、参照極に対する作用極の電位を0.7Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例1と同様にして析出物を得た。得られた析出物のラマン分光分析の結果を図5に示す。この分析から、析出物は、主成分としてNaを含み、不純物としてNaCl、NaF、NaCO、炭素を含むことが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0103】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスの主成分はCであることを確認した。さらに、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0104】
(金属炭酸塩の再生)
実施例1と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてNaCOを含み、不純物としてNaHCOを含むことが確認された。得られた固化物に占めるNaCOの質量割合は90質量%であり、不純物の質量割合は10質量%であった。
[実施例3]
(金属カーバイドの製造)
LiClとKClとCaClとを、LiCl/KCl/CaCl=52.3モル%/11.6モル%/36.1モル%になるように混合し、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。LiClとKClとCaClの合計モル数に対して1モル%のCaCOを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩をパイレックス(コーニング社商標)製容器に収めて、電気炉にセットし、混合塩を450℃に加熱した。このようにして、LiCl-KCl-CaCl-CaCOの溶融塩を得た。
この溶融塩を用いたこと、および、参照極に対する作用極の電位を0.1Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例1と同様にして析出物を得た。
【0105】
得られた析出物のXRD分析の結果を図6に示す。この分析から、析出物には、CaC、および、不純物としLiCl、グラファイトが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0106】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスの主成分はCであることを確認した。さらに、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0107】
(金属炭酸塩の再生)
実施例1と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaCOを含み、不純物としてCa(OH)を含むことが確認された。得られた固化物に占めるCaCOの質量割合は95質量%以上であり、不純物の質量割合は5質量%以下であった。
【0108】
[実施例4]
(金属カーバイドの製造)
LiClとKClとCaClとを、LiCl/KCl/CaCl=52.3モル%/11.6モル%/36.1モル%になるように混合し、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。LiClとKClとCaClの合計モル数に対して1モル%のCaCOを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩をパイレックス(コーニング社商標)製容器に収めて、電気炉にセットし、混合塩を450℃に加熱した。このようにして、LiCl-KCl-CaCl-CaCOの溶融塩を得た。
【0109】
次いで、容器の蓋に、作用極(1cm×1cmのニッケル板)、対極(コイル状の白金線)および参照極(Ag/Ag)を取り付けて、この蓋で容器を密閉した。容器内の溶融塩を450℃に加熱し、Arを流量100mL/分で30分間以上吹き込んだ。続いて、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を1.3Vに維持しながら、30分間電圧を印加した。その後、作用極を取り出して表面の析出物を採取し、XRD分析を行った。実験操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。
【0110】
得られた析出物のXRD分析の結果を図7(1)に示す。この分析から、析出物には、主成分としてK、不純物としてグラファイト、カーボン、浴由来のKCl、CaCO、CaCl、LiCO、LiClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0111】
[実施例5]
(金属カーバイドの製造)
ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を1.0Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例4と同様にして析出物を得た。
【0112】
得られた析出物のXRD分析の結果を図7(2)に示す。この分析から、析出物には、主成分としてK、不純物としてグラファイト、カーボン、浴由来のKCl、CaCO、CaCl、LiCO、LiClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0113】
[実施例6]
(金属カーバイドの製造)
ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.4Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例4と同様にして析出物を得た。
【0114】
得られた析出物のXRD分析の結果を図7(3)に示す。この分析から、析出物には、主成分としてK、不純物としてグラファイト、カーボン、浴由来のKCl、CaCO、CaCl、LiCO、LiClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0115】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。生成したガスの主成分はCであることを確認した。さらに、メタン、水素が副生していることを確認した。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0116】
[実施例7]
(金属カーバイドの製造)
ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.1Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例4と同様にして析出物を得た。
【0117】
得られた析出物のXRD分析の結果を図7(4)に示す。この分析から、析出物には、主成分としてK、不純物としてグラファイト、カーボン、浴由来のKCl、CaCO、CaCl、LiCO、LiClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0118】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。生成したガスのGC-MS分析の結果を図8に示す。この結果より、生成したガスの主成分はCであることを確認した。さらに、メタン、水素が副生していることを確認した。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0119】
[実施例8]
(金属カーバイドの製造)
ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、作用極と対極との間の電流値を100mA、すなわち作用極の電流密度を50mA/cmに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例4と同様にして析出物を得た。このとき、参照極に対する作用極の電位は、約0Vであった。
【0120】
得られた析出物のXRD分析の結果を図7(5)に示す。この分析から、析出物には、主成分としてK、不純物としてグラファイト、カーボン、浴由来のKCl、CaCO、CaCl、LiCO、LiClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0121】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。生成したガスのGC-MS分析の結果を図9に示す。この結果より、生成したガスは、Cとエチレンとを含んでいることを確認した。さらに、メタン、水素が副生していることを確認した。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。GC-MS分析の結果より、Cガス生成に関し、ファラデー効率は約12%と算出された。
【0122】
[実施例9]
(金属カーバイドの製造)
ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、作用極と対極との間の電流値を200mA、すなわち作用極の電流密度を100mA/cmに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例4と同様にして析出物を得た。このとき、参照極に対する作用極の電位は、約0Vであった。
【0123】
得られた析出物のXRD分析の結果を図7(6)に示す。この分析から、析出物には、主成分としてK、不純物としグラファイト、カーボン、浴由来のKCl、CaCO3、CaCl2、Li2CO3、LiClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0124】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。生成したガスのGC-MS分析の結果を図10に示す。この結果より、生成したガスは、Cとエチレンとを含んでいることを確認した。さらに、メタン、水素が副生していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示の製造方法は、比較的低温下で速やかに反応が進行するため、種々の分野において有用である。
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