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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/04 20060101AFI20240502BHJP
   C11D 3/50 20060101ALI20240502BHJP
   C11D 17/00 20060101ALI20240502BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20240502BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20240502BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20240502BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C11D1/04
C11D3/50
C11D17/00
C11B9/00 A
C11B9/00 B
A61Q19/10
A61K8/36
A61K8/31
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020147038
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041687
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年8月20日に一般社団法人大阪工研協会発行「科学と工業」第94巻、233頁において公開 令和元年8月29日https://www.saraya.com/news/2019/114887.htmlにおいて公開 令和元年8月29日https://www.saraya.com/news/2019/114887.htmlにおいて公開 令和元年9月2日にサラヤ株式会社、東京サラヤ株式会社にて販売
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富田嵩大
(72)【発明者】
【氏名】松村玲子
(72)【発明者】
【氏名】山本将司
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-182698(JP,A)
【文献】特開2017-066071(JP,A)
【文献】特開2000-192078(JP,A)
【文献】特開2020-132680(JP,A)
【文献】特開2000-154394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物全量に対して脂肪酸塩の合計濃度が15質量%以下であり、脂肪酸塩としてラウリン酸塩を7から12質量%およびミリスチン酸塩を3から5質量%を含み、香料としてオレンジ精油を0.1質量%以上含み、ラベンダー、ゼラニウム、ローズマリーの少なくとも1つを含み、香料全量に対してモノテルペン炭化水素類が50から90質量%であり、流水下で20秒以上手洗いすると香りが変化することを特徴とする、泡状手指用洗浄剤組成物:
(但し、両性界面活性剤、シンナミックアルデヒド、緑茶抽出物のいずれかを含む手指用洗浄剤組成物を除く)。
【請求項2】
組成物全量に対して脂肪酸塩の合計濃度が10質量%以下であり、脂肪酸塩としてラウリン酸塩を5から7質量%およびミリスチン酸塩を1から2質量%、パルミチン酸塩を0.3から1質量%を含み、香料としてオレンジ精油を0.1質量%以上含み、ラベンダー、ゼラニウム、ローズマリーの少なくとも1つを含み、香料全量に対してモノテルペン炭化水素類が50から90質量%であり、流水下で20秒以上手洗いすると香りが変化することを特徴とする、泡状手指用洗浄剤組成物:
(但し、両性界面活性剤、シンナミックアルデヒド、緑茶抽出物のいずれかを含む手指用洗浄剤組成物を除く)。
【請求項3】
香料としてライム精油を含む請求項1又は2に記載する、泡状手指用洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸塩と香料を組み合わせた洗浄剤において、一定時間(20秒以上)洗浄すると香りの強度、あるいは質が変化し、香料の溶解性、製剤の安定性、香りの安定性に優れた洗浄組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手などの身体部位を洗浄するためにハンドソープ等の洗浄組成物が用いられている。洗浄効果を高めるため、様々な角度から研究が行われている。食中毒や感染症予防等の観点から、手を十分に洗浄するにはある程度の洗浄時間が必要であり、大量調理施設衛生管理マニュアル(非特許文献1)にも30秒程度の手洗いが推奨されている。しかし、手が荒れる、水が冷たい等の外的要因や、手洗いという行為自体を億劫に感じるといった心的要因等から、手洗い時間が20秒より短い使用者が大半である。そこで、使用者に洗浄時間が十分であるか否かを把握させるための技術が求められる。使用者に洗浄時間の目安を与えることを目的として、pH変化(特許文献1)やマイクロカプセル化された着色剤顆粒を含む洗浄組成物(特許文献2)などが開示されている。しかし、2剤を用いたり、色の変化まで約2分要したりと、実用的な技術はほとんどないのが現状である。
【0003】
一方、手洗いを面倒と感じさせない工夫として、香料を配合して嗜好性を高める方法が知られている。香料は一般的に親油成分であり、液状ハンドソープ等の水の含有量が多い洗浄剤に配合しただけでは、溶解せずに分離・沈殿等が発生し、香りの安定性が悪い等の懸念がある。特に、天然香料(精油)は動植物から抽出され、様々な成分が含まれておりリラックスなど心身への効果を期待できるものの、合成香料と比較して、溶解性が悪く、香りが弱いかつ安定性が悪い(香りが揮発しやすい)といった課題がある。そのため、香料を安定的に配合するための工夫が必要である。香料等の親油成分を配合する場合には、可溶化剤やアルコール(特許文献3)等を用いる方法が知られている。しかし、アルコール等を配合することで香料の溶解性は向上するが、泡立ち(起泡性)の悪化などが懸念される。
【0004】
脂肪酸塩は、泡立ちに優れるだけでなく、良好な生分解性能を有することから、洗浄剤の主剤として広く用いられている。さらに、すすぎ性に優れるため水に接触する時間が短いこと、すすぎ時に石けんカス(金属石鹸)を生じるため界面活性剤の手への残留がないことから、環境にも手肌にも優しいことが知られている。脂肪酸塩に香料を溶解させ、その安定性に問題がなく、30秒程度手洗いを行うために良好な泡質が持続する洗浄剤が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5788114号公報
【文献】特許第5669836号公報
【文献】特開1997-255986号公報
【文献】特許6522867号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】大量調理施設衛生管理マニュアル、平成29年6月16日付け生食発0616第1号
【文献】アロマテラピー検定 公式テキスト1級・2級、公益社団法人 日本アロマ環境協会 発行、2020年6月改訂版
【文献】新版 これ1冊できちんとわかる アロマテラピー、株式会社 マイナビ出版 発行、2017年12月25日初版第3刷発行
【文献】POMS 2 日本語版マニュアル、株式会社 金子書房 発行、2018年9月5日初版第4刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、脂肪酸塩を主剤とした洗浄剤に複数種類の香料を組み合わせ、十分な時間(20~30秒)をかけて洗浄すると香りが強くなる、あるいは変質することによって、洗浄時間が十分であることをユーザーに知らせることを可能にする実用的な手洗い用洗浄組成物を提供することを課題とする。
【0008】
さらに本発明は、脂肪酸塩と複数種類の香料を組み合わせた洗浄組成物において、香料の溶解性を改善し、賦香性および香りの安定性に優れ、起泡性が適度によく、30秒程度手洗いが行えるきめ細かな良好な泡質の洗浄組成物を提供することを課題とする。ば
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]脂肪酸塩および香料を含有する洗浄剤組成物であって、流水下で20秒以上手洗いすると香りが変化することを特徴とする洗浄剤組成物。
[2]脂肪酸塩の合計濃度が20質量%以下であって、脂肪酸塩としてラウリン酸塩を7から15質量%およびミリスチン酸塩を3から7質量%を含む請求項1に記載する洗浄剤組成物
[3]
脂肪酸塩の合計濃度が20質量%以下であって、脂肪酸塩としてラウリン酸塩を4から15質量%およびミリスチン酸塩を1から5質量%、パルミチン酸塩を0.3から3質量%を含む請求項1に記載する洗浄剤組成物
[4]香料としてラベンダー、ゼラニウム、ローズマリーの少なくとも1つを含み、全香料の質量に対する全香料が含むモノテルペン炭化水素類の質量%が50から90%である請求項1乃至3に記載する洗浄剤組成物
[5]香料としてオレンジ、ライム精油の少なくとも一つを含む請求項1乃至4に記載する洗浄剤組成物
【発明の効果】
【0010】
本発明の洗浄組成物は、脂肪酸塩を主剤とした洗浄剤に複数種類の香料を組み合わせ、十分な時間(20~30秒)をかけて洗浄をすると香りが強くなる、あるいは変質することによって、洗浄時間が十分であることをユーザーに知らせる効果を奏する実用的な手洗い用洗浄組成物を提供することができる。
【0011】
さらに、脂肪酸塩と複数種類の香料を組み合わせた本発明の洗浄組成物において、香料の溶解性を改善向上し、賦香性および香りの安定性に優れ、怒りー敵意・混乱―当惑・抑うつー落込み・疲労―無気力・緊張―不安のネガティブな感情を軽減したり、活気―活動・友好のポジティブな感情を増加させるような心理的な効果を提供することができる。また、試験管に試料および精製水を同量投入して攪拌1分後の泡高さが4~6cmと起泡性が適度によく、20~30秒手洗いが行えるきめ細かな良好な泡質のため、日常的に使用することができる。
【0012】
一般的に香料は嗜好性に着目して配合され、特に柑橘系が人気で多く用いられるが、柑橘系精油のみでは20秒以上の手洗いで香りが変化せず(比較例2,6)、20秒の手洗いで香りを変化させるために脂肪酸塩組成および精油の種類および精油成分(モノテルペン系炭化水素)を検討したことで、20~30秒で香りが変化して十分な洗浄時間をユーザーに知らせる効果を有する実用的な手洗い用洗浄組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を詳しく説明する。本発明の洗浄組成物に使用する(a)成分は脂肪酸塩で、洗浄剤の泡立ちに寄与し、それと同時に香りの放出速度にも寄与している。使用する脂肪酸塩は中和法にて脂肪酸とアルカリを加熱混合して生成させても、けん化法にて油脂とアルカリを加熱混合して生成させてもよい。脂肪酸と反応して脂肪酸塩を形成する対イオン(塩基)としては、リチウム、ナトリウム、及びカリウム等のアルカリ金属イオン、アルカノールアミン、アルギニンやリシン等の塩基性アミノ酸、アンモニウムなどが挙げられる。好ましくは、カリウム等のアルカリ金属イオン、並びにジエタノールアミンであり、特に好ましくはカリウムイオンである。ラウリン酸塩およびミリスチン酸の2種類、あるいは、ラウリン酸塩およびミリスチン酸塩、パルミチン酸塩の3種類を含有することが必須であるが、本発明の効果を奏するものであれば、下記脂肪酸を含有する天然油脂由来の混合脂肪酸を用いることもできる。脂肪酸は炭素数8~22の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の中から選択される脂肪酸を挙げることができる。炭素数8~22の脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、及びベヘン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びアラキドン酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。上記脂肪酸はどのような由来のものでもよく、植物由来のものが好ましい。天然油脂としては、例えば、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、白カラシ油、ゴマ油、米ぬか油、サフラワー油、シアナット油、シナキリ油、大豆油、茶実油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまし油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、木ロウ、及び落花生油等の植物性油脂; 馬脂、牛脂、豚脂、山羊脂、乳脂、魚脂、及び鯨油等の動物性油脂が挙げられる。好ましくはヤシ油、パーム油、パーム核油である。脂肪酸は花王株式会社、日油株式会社等、天然油脂は不二製油株式会社、三菱商事株式会社等から商業的に入手可能なものを使用することができる。
【0014】
本発明の洗浄組成物における(a)脂肪酸塩は、ラウリン酸塩7~15質量%およびミリスチン酸塩3~7質量%を必ず含み、脂肪酸塩の総濃度が20重量%以下、あるいは、ラウリン酸塩4~15質量%、ミリスチン酸塩1~5質量%、パルミチン酸塩0.3~3質量%を必ず含有し、脂肪酸塩の総濃度が20重量%以下がよい。より好ましくは、ラウリン酸塩7~12質量%およびミリスチン酸塩3~5質量%、あるいは、ラウリン酸塩5~10質量%、ミリスチン酸塩1~3質量%、パルミチン酸塩0.3~2質量%である。脂肪酸塩の総濃度は好ましくは9~20質量%、より好ましくは10~15質量%がよい。脂肪酸塩がラウリン酸塩、ミリスチン酸塩からなる場合、9質量%未満であると起泡性が高く、キメが粗い泡となり、泡の崩壊が早くなり、約20秒での香りの変化という特徴が損なわれる(比較例10)。20質量%より多い場合では液に粘性があり、フォーマー容器で吐出したとき、泡が不均一でキメが粗い泡となる。脂肪酸塩がラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩からなる場合、脂肪酸塩の総濃度は好ましくは5~20質量%以上、好ましくは5~10質量%がよい。5%未満では上記と同様に起泡性が高く、キメが粗い泡となり、泡の崩壊が早くなり、約20秒での香りの変化という特徴が損なわれる(比較例9)。また、氷点下以下に保存した場合、容易に凍結するなど低温安定性が悪化する。20質量%より多い場合では上記同様、吐出性能が悪化する。
【0015】
本発明の洗浄組成物に使用する(b)香料はフローラル系精油であるラベンダー、ゼラニウム、ハーブ系精油であるローズマリーの少なくとも1種類を含む、さらに、柑橘系精油であるオレンジあるいはライムの少なくとも1種類を含むが、それらは一般的なものを用いてよい。また、本発明の効果を奏するものであれば、下記記載の動植物から抽出される天然由来の精油を配合することもできる。例えば、柑橘系精油としてはグレープフルーツ、シトロネラ、ベルガモット、マンダリン、ゆず、レモン、レモングラス、などが挙げられる。フローラル系精油としてはイモーテル、カモミール、ジャスミン、ネロリ、パルマローザ、ローズ、などが挙げられる。ハーブ系精油としてはクラリセージ、月桃、スペアミント、セージ、タイム、バジル、フェンネル、ペパーミント、マジョラム、などが挙げられる。オリエンタル系としてはイランイラン、サンダルウッド、パチュリ、ベチバーなど、樹脂系ではフランキンセンス、ベンゾイン、ミルラなど、スパイス系ではカルダモン、クローブ、コリアンダー、シナモン、ジンジャー、ブラックペッパーなど、樹木系ではサイプレス、シダーウッド、ジュニパーベリー、ティーツリー、パイン、プチグレイン、ユーカリなどが挙げられる(非特許文献2および3)。これらの製造方法の例としては、水蒸気蒸留法や溶媒抽出法、圧搾法、超臨界流体抽出法など一般的な方法を採用することができる。商業的に入手可能なものを使用することもでき、たとえば株式会社種村商会、香栄興業株式会社、株式会社ロベルテ等から入手することができる。配合量は洗浄組成物の総質量に対し0.1~0.5質量%である。0.1質量%未満では原料臭があり、十分な芳香性が得られない。0.5質量%より多い場合は溶解性が悪く、白濁、沈殿、香料の浮遊等が生じる。
【0016】
本発明の洗浄組成物において(b)香料はフローラル系精油であるラベンダー、ゼラニウム、ハーブ系精油であるローズマリーの少なくとも1種類を含む、さらに、柑橘系精油であるオレンジあるいはライムの少なくとも1種類を含むことができ、香料の総量100質量部に占めるモノテルペン炭化水素類の割合が50~90質量%であることが好ましい。柑橘系精油のみでモノテルペン炭化水素類割合が90質量%より多い場合、溶解性は良好だが、香りの安定性が悪くなる傾向がある(比較例2)。香料の総量100質量部に占めるモノテルペン炭化水素類の割合が50~90質量%の範囲内であっても柑橘系精油のみだと分子量が小さい成分量が多く、揮発性が高いため、香ってくるのが早くなり、約20秒での変化がなくなる傾向がある(比較例6)。香料の総量100質量部に占めるモノテルペン炭化水素類の割合が50質量%未満の場合、溶解性が悪くなる傾向がある(比較例4および5)。フローラル系精油のみの場合、香りの安定性は良好だが、溶解性が悪くなる傾向、ハーブ系精油のみの場合、溶解性および香りの安定性は良好だが、香りの嗜好性が悪い傾向がある。脂肪酸塩およびソホロ―スリピッドを含有することで、保存安定性、泡質、吐出性などを向上させる技術が知られているが(特許文献4)、本技術では上記記載の脂肪酸塩にモノテルペン炭化水素類含有量を調整した精油を含有することで保存安定性に優れ、一定時間の洗浄後に香りを強く変化させ、心理的な効果を与えることができる。
【0017】
モノテルペン炭化水素類とは、炭素と水素からなるイソプレンが2つ結合した化合物で、カンフェン、サビネン、α―テルピネン、α―ピネン、α―ファルネセン、α―フェランドレン、γ―テルピネン、デルマクレンD、β―ピネン、β―フェランドレン、リモネン、ミルセン、trans-β―オシメンなどが挙げられる。
【0018】
本発明では、上記(a)、(b)成分に加えて、任意成分を本発明の効果を妨げない範囲で適宜含有することができる。任意成分とは、例えば、上記以外の界面活性剤、湿潤剤、シリコーン類や高級アルコールなどの油分、可溶化剤、酸化防止剤、安定化剤、緩衝材、増粘剤、抗菌剤、防腐剤、殺菌剤、pH調整剤、金属イオン封鎖剤、消炎剤、紫外線吸収/散乱剤、上記以外の動植物抽出物、精油、合成香料、色素、などが挙げられる。
【0019】
本発明の洗浄組成物に配合する各成分は、市販品もしくは公知の方法で製造して使用してもよい。本発明の洗浄組成物は、常法にしたがって、上記の各成分と必要に応じて配合する添加剤を所定量の水と撹拌・混合することにより調製される。
【0020】
本発明の洗浄剤組成物の残部は水で調整される。本発明で使用される水は、本発明の効果を損なわないようなものであればよく、好ましくは精製水、蒸留水、イオン交換水、及びRO水を挙げることができる。一般に3 0 0 m g / l 以下( 日本国水道法・水質基準に関する省令による) 、通常10 ~ 1 0 0 m g / l 程度の硬度を有するといわれている水道水を使用する場合は、キレート剤を併用して水道水に含まれるミネラル分を封鎖することが好ましい。キレート剤の使用量はミネラル分を封鎖できる割合であればよく、制限されないものの0 . 1 質量% 程度を例示することができる。
【0021】
本発明の洗浄剤組成物は、泡状または液状のいずれかの使用形態に応じて、液吐出機構を有する容器(例えばセンサー式ディスペンサー、トリガー式ディスペンサー、およびポンプ式ディスペンサー)、または泡形成機構と泡吐出機構を有する容器(例えばセンサー式ディスペンサー、トリガー式ディスペンサー、ポンプ式ディスペンサー、及びスクイズフォーマー容器) に充填することができる。好ましくは、手動でポンプを押し下げる、またはセンサーで感知させ自動にてポンプ部分を動かし、泡を生成し、吐出することができる容器である。
【実施例1】
【0022】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例によって限定されるものではない。なお、下記の実験例における工程、処理、又は操作は、特に言及がない場合、室温及び大気圧条件下で実施される。室温は10~40℃の範囲内の温度を意味する。
【0023】
表1~3に示す各成分を常法に従って撹拌・混合することにより、実施例1~6、比較例1~11の各洗浄剤組成物を調製し、それぞれについて性能評価を行った。評価項目と評価方法は以下の通りである。
【0024】
香りが変化するまでの時間測定
各洗浄組成物を手動式あるいは自動式フォーマー容器で2回(約2mL)吐出して手にとり、手を洗った。
「香りの強度が変化した」あるいは「香りが変化した」と感じるまでの時間を測定した。タイミングを言い逃した場合や次のサンプルを評価する場合等は半日程度後に改めて評価を行った。被験者は日頃から香りに関する試験/商品開発に携わり、2点識別法により香りの強弱を識別できる男女9名で、各サンプルはランダムに評価した。試験場所は固定し、空調についても常に同じ条件で試験を実施した。また、試験場所に香りが残ることを考慮し、1試験毎に数分換気を行った。結果は平均値で示し、対応のあるt検定により有意差検定を実施した。
[香り変化の判定基準(徐々に香る判定)]
○:変化するまでの時間が20秒以上かつ実施例1と比較して有意差なし
△:変化するまでの時間が10~19秒かつ実施例1と比較して有意差に短い
×:変化するまでの時間が10秒未満かつ実施例1と比較して有意差に短い
【0025】
溶解性および保存安定性
各洗浄剤組成物を、PET容器 (50mL)に充填し、-5 ℃に保たれた恒温槽及び室温にて1か月保管した。-5 ℃ 保管サンプルは-5 ℃ ± 2 ℃ 条件下(暗所)に、室温保管サンプルは室温(25±5℃)条件下(暗所)に、静置保管した。保管後の外観を目視で観察して、変化がない場合は〇、-5 ℃保管サンプルに白濁沈殿があっても室温に放置すると初期の外観と同一の場合は△、室温保管サンプルで白濁沈殿・浮遊物または固液分離等が確認された場合は×とした。
【0026】
香りの安定性
各洗浄剤組成物を、PET容器 (50mL)に充填し、-5 ℃及び50℃に保たれた恒温槽にて1か月保管した。-5 ℃ 保管サンプルは-5 ℃ ± 2 ℃ 条件下(暗所)に、50℃保管サンプルは50℃±5℃条件下(暗所)に、静置保管した。次いで保管後の香りを嗅ぎ、下記基準に基づいて50℃に保管した香りの安定性を評価した。
[香りの安定性判定基準]
〇:原料臭がせず、十分香っており、-5℃と同等の強度および質の香りである。
△:原料臭はややするが、-5℃と比較して許容できる強度および質の香りである。
×:原料臭が強く、-5℃と比較して香りの強度および質が明らかに変化している。
【0027】
起泡性
試験管(直径18mm×長さ180mm)に各被験試料2.5mlおよび精製水2.5mlを入れ、上下に激しく2回攪拌した。攪拌から1分間静置した後の各被験試料の気泡の量(試験管中の液面から気泡トップまでの長さ(以下、「泡の高さ」と称する)を測定し、下記の基準に従って評価した。
[起泡性の判定基準]
〇:泡のきめが細かく、撹拌1分後の泡の高さが4~6cm
×:泡のきめが粗く、撹拌1分後の泡の高さが6cmより高い
【0028】
実施例1~6、比較例1~11
(1)洗浄組成物の調整
表1~3に記載する割合で各成分を配合混合し、実施例1~6、比較例1~11の洗浄組成物を調整した。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1および2より本発明の洗浄剤は5~10秒で香りが立ち始め、徐々に香りが立ち、20~21秒で香りが変化し、溶解性、香りの安定性、起泡性が〇判定となった。一方、香料の総量100質量部に占めるモノテルペン炭化水素類の割合が50%未満あるいは90%より多い比較例1~5では徐々に香らない、または、溶解性あるいは香りの安定性が悪かった。分子量が小さいモノテルペン炭化水素類は揮発性が高いため、90質量%より多くなると香る時間が早くなる、香りの変化が起こりにくい、香りの安定性が悪いなどがあった。一方、50質量%未満だと分子量が大きい成分が多くなり、溶解性が低下した。また、柑橘系精油のみである比較例6は香料の総量100質量部に占めるモノテルペンの割合が50~90質量%の範囲内であっても揮発性が高いため香りの安定性が悪く、約20秒での変化もなかった。合成香料(高砂香料工業株式会社)のみの比較例7は香りが変化するまでの時間が早く、12秒であった。
【0031】
【表2】
【0032】
実施例1~6より本発明の洗浄剤は徐々に香りが立ち、約20秒で香りが変化し、溶解性、香りの安定性、起泡性が〇判定となった。一方、(a)成分を配合していない比較例8は香りが変化するまでの時間が早く、徐々に香る技術は△となった。(a)成分がラウリン酸カリウム4質量%未満、ミリスチン酸カリウム1質量%、パルミチン酸カリウム0.3質量%で脂肪酸カリウムの配合量が4.3質量%の比較例9はキメが粗い泡となり起泡性が×判定となった。キメが粗い泡だと素早く泡立ち、泡の崩壊速度も速いため香りが変化するまでの時間が早く、徐々に香る技術は×判定となった。(a)成分がラウリン酸カリウムおよびミリスチン酸カリウムからなり、ラウリン酸カリウムが7質量%未満かつミリスチン酸カリウムが3質量%未満で脂肪酸カリウムの配合量が8質量%の比較例10もキメが粗い泡となり起泡性が×判定、かつ、香りが変化するまでの時間が早く、徐々に香る技術は△判定となった。
【0033】
POMS(Profile of Mood States)(非特許文献4)による心理変化評価
各被験者の心理状態の変化を評価するため、POMS(気分プロフィール検査)を用いた。POMSは、ネガティブな感情「 怒り―敵意、混乱―当惑、抑うつ―落込み、疲労―無気力、緊張―不安」およびポジティブな感情「活気―活動・友好」を同時に評価することができる。平日午前中に約5分間の安静時間を設け、その後にPOMSを実施した。各洗浄剤を用い、1日5回以上手洗いした。同夕方、約5分間の安静時間後に再度POMSを実施した。得られた素得点から標準化されたT得点に変換し、試験前後のT得点について統計処理(対応のあるt検定)を行った。被験者は男女各4名で実施した。ネガティブな感情(怒り―敵意、混乱―当惑、抑うつ―落込み、疲労―無気力、緊張―不安)は試験後に有意に減少した場合に〇、変化がない場合に△、増加した場合に×と判定した。ポジティブな感情(活気―活動、友好)は試験後に有意に増加した場合に〇、変化がない場合に△、減少した場合に×と判定した。
【0034】
【表3】
【0035】
実施例1~2より徐々に香る判定が〇であると、POMSによる評価でもネガティブな感情が〇となり、心理的効果があった。一方、徐々に香る判定が×である比較例1においてはPOMSによる心理的効果がなかった。また、香料未配合の比較例11でも心理効果はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の洗浄組成物は、十分な時間(20~30秒)をかけて洗浄をすることで香りが強くなる、あるいは変質することにより、洗浄時間が十分であることをユーザーに知らせることを可能とし、感染予防に貢献することができる。上記特性に加え、香料の溶解性を改善し、賦香性および香りの安定性に優れ、起泡性が適度によく30秒程度手洗いが行えるきめ細かな良好な泡質のため、日常使用において快適に使用することができる。