(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】サーカディアン・リズム改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/644 20150101AFI20240502BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240502BHJP
A61K 8/9755 20170101ALI20240502BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240502BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20240502BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20240502BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20240502BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20240502BHJP
A61K 36/13 20060101ALI20240502BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20240502BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240502BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240502BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240502BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240502BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A61K35/644
A23L33/10
A61K8/9755
A61K8/9789
A61K8/98
A61K8/99
A61K35/744
A61K35/747
A61K36/13
A61K36/28
A61P25/00
A61P25/20
A61P43/00 111
A61Q1/00
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2021013114
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 朋美
(72)【発明者】
【氏名】八巻 礼訓
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123828(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/017243(WO,A1)
【文献】特開2008-266319(JP,A)
【文献】特開2013-082701(JP,A)
【文献】特開2010-106001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/644
A23L 33/10
A61K 8/9755
A61K 8/9789
A61K 8/98
A61K 8/99
A61K 35/744
A61K 35/747
A61K 36/13
A61K 36/28
A61P 25/00
A61P 25/20
A61P 43/00
A61Q 1/00
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蜂蜜とカミツレ若しくはその処理物との発酵
物を含むサーカディアン・リズム改善剤
(ただし、皮膚バリア機能改善用、皮膚保湿用、皮膚の弾力改善用、皮膚のくすみ改善用、皮膚のシワ改善用、肌荒れ改善用、皮膚の老化防止用、肌の肌理改善用又は敏感肌改善用を除く)。
【請求項2】
前記カミツレ又はその処理物が、カミツレ花の乾燥粉末である、請求項1に記載の改善剤。
【請求項3】
前記発酵物が乳酸菌による発酵物である、請求項1又は2に記載の改善剤。
【請求項4】
前記乳酸菌がラクトバチルス・クンキーである、請求項3に記載の改善剤。
【請求項5】
化粧品、飲食品、医薬品、又は医薬部外品である、請求項1~4のいずれか一項に記載の改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーカディアン・リズム改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
動物、植物、菌類、藻類など、ほとんどの生物において生理機能が24時間周期のリズム(サーカディアン・リズム)を持っていることが知られている。各組織や細胞における生理機能のサーカディアン・リズムは多くの時計遺伝子により転写レベルで調整されており、その中心は転写因子Brain and muscle Arnt-like protein-1(Bmal1)である。中枢時計は視床下部視交叉上核(SCN)内に存在しているが、主要な概日タンパク質は多くの末梢組織で発現することで多くの臓器の遺伝子発現と生理学におけるサーカディアン・リズムを決定しており(非特許文献1)、各組織の遺伝子10%がサーカディアン・リズムによって直接的又は間接的に調節されていることが報告されている(非特許文献2,3)。
【0003】
サーカディアン・リズムは、時計遺伝子群の転写と翻訳のフィードバック機構によって発生している。BMAL1とCLOCKがヘテロ二量体(BMAL1/CLOCK複合体)を形成し、Per-1遺伝子のプロモーター領域に存在するE-box配列に結合して転写を促進し、産生されたPer-1産物がBMAL1/CLOCK複合体の転写促進作用を抑制することで周期が生み出される。したがって、各時計遺伝子の発現を活性化又は抑制することにより、全身のサーカディアン・リズムを制御できると考えられている(非特許文献4)。BMAL1は日中発現が低下し、夜間に増加する日内変動が知られているが、加齢によって日内変動が少なくなり(非特許文献5)、さらに、社会的恐怖ストレスや、高所の狭い場所にマウスを置く事で引き起こす不安ストレスなどの非侵襲的なストレスでもサーカディアン・リズムの変化が起こる事が報告されている(非特許文献6)。
【0004】
皮膚細胞においてもサーカディアン・リズムの存在が確認されており、生理機能においても影響を与えていることが報告されている(非特許文献7)。また、培養線維芽細胞の末梢時計の分子構成は、視交叉上核の中枢時計の分子構成と類似していることも報告されている(非特許文献8)。Bmal1ノックダウンマウスでは、皮膚の萎縮や体毛再生の抑制が見られ、サーカディアン・リズムが正常に働かない場合、皮膚の健康が損なわれることが知られている(非特許文献9)。
【0005】
これらの報告から、Bmal1遺伝子の発現量を増加させることは、皮膚性状保持においても重要であると考えられる。
【0006】
また、特許文献1では概日リズム改善剤の有効成分として乳酸菌の菌体又はその処理物を使用することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nature 418.6901 (2002):935-941.
【文献】Cell 109.3 (2002):307-320.
【文献】Nature 417.6884(2002):78-83.
【文献】Science 280.5369(1998):1564-1569.
【文献】Genes & development 20.14(2006):1868-1873.
【文献】Scientific Reports 2015,5:11417.
【文献】Chronobiology international l22.3(2005):585-590.
【文献】Science 292.5515(2001):278-281.
【文献】Journal of Investigative Dermatology 129.5(2009):1225-1231.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、サーカディアン・リズム改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、Bmal1遺伝子のプロモーターとルシフェラーゼ(Emerald Luc)遺伝子が導入されたトランスジェニックマウス由来の胚性線維芽細胞を用いて各種の素材について試験を行うことで、蜂蜜/カミツレ花発酵液とメリンジョエキスがBmal1遺伝子の概日リズムの有意な振幅増強作用を有することができるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、以下のサーカディアン・リズム改善剤を提供するものである。
【0012】
項1.蜂蜜とカミツレ若しくはその処理物との発酵物、並びに/又はグネツム若しくはその抽出物を含むサーカディアン・リズム改善剤。
項2.前記カミツレ又はその処理物が、カミツレ花の乾燥粉末である、項1に記載の改善剤。
項3.前記発酵物が乳酸菌による発酵物である、項1又は2に記載の改善剤。
項4.前記乳酸菌がラクトバチルス・クンキーである、項3に記載の改善剤。
項5.化粧品、飲食品、医薬品、又は医薬部外品である、項1~4のいずれか一項に記載の改善剤。
【発明の効果】
【0013】
蜂蜜とカミツレ又はその処理物との発酵物、及びグネツム又はその抽出物は、優れたサーカディアン・リズムの改善作用を有しているので、サーカディアン・リズム改善剤の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ポジティブコントロールであるカフェインにおけるサーカディアン・リズム変動の結果を示すグラフである。(A)測定開始7時間後から80時間後までのBmal1発現変動の結果を示すグラフ、(B)Bmal1変動の頂点(山と谷)の発光測定値と時間をもとに統計解析を実施した結果を示すグラフ。グラフの値は平均±標準偏差,****:p<0.0001
【
図2】蜂蜜/カミツレ花発酵液におけるサーカディアン・リズム変動の結果を示すグラフである。(A)測定開始7時間後から80時間後までのBmal1発現変動の結果を示すグラフ、(B)Bmal1変動の頂点(山と谷)の発光測定値と時間をもとに統計解析を実施した結果を示すグラフ。グラフの値は平均±標準偏差,*:p<0.05,**:p<0.01
【
図3】蜂蜜/カミツレ花熱水抽出液におけるサーカディアン・リズム変動の結果を示すグラフである。(A)測定開始7時間後から80時間後までのBmal1発現変動の結果を示すグラフ、(B)Bmal1変動の頂点(山と谷)の発光測定値と時間をもとに統計解析を実施した結果を示すグラフ。グラフの値は平均±標準偏差
【
図4】その他被験物質における測定開始7時間後から80時間後までのBmal1発現変動の結果を示すグラフである。(A)国産百花蜂蜜水溶液、(B)熟成アカシア蜂蜜水溶液、(C)マヌカ蜂蜜水溶液、(D)マヌカ蜂蜜発酵液、(E)蜂蜜/花粉荷発酵液
【
図5】メリンジョエキスにおけるサーカディアン・リズム変動の結果を示すグラフである。(A)測定開始7時間後から80時間後までのBmal1発現変動の様子の結果を示すグラフ、(B)Bmal1変動の頂点(山と谷)の発光測定値と時間をもとに統計解析を実施した結果を示すグラフ。グラフの値は平均±標準偏差,*:p<0.05,***:p<0.001,****:p<0.0001
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0017】
本発明のサーカディアン・リズム改善剤は、蜂蜜とカミツレ若しくはその処理物との発酵物、並びに/又はグネツム若しくはその抽出物を含むことを特徴とする。
【0018】
(蜂蜜とカミツレ若しくはその処理物との発酵物)
本発明における「蜂蜜とカミツレ若しくはその処理物との発酵物」(以下、単に発酵物と称することもある)とは、蜂蜜とカミツレ若しくはその処理物とを原料として乳酸菌等による発酵を行うことで得られる発酵物を意味する。
【0019】
蜂蜜は、蜜蜂が、花から集めた蜜を主原料として作りだし巣の中に貯蔵している天然の甘味物である。花の種類によって蜂蜜も、レンゲ、クローバー、アカシア、レモン、オレンジ、みかん、ラズベリー、マヌカ、ヒルガオ、コーヒー、さくらんぼ、ローズマリー、ヒマワリ、とち、菩提樹、りんご、ナタネ、甘露、ラベンダー、たんぽぽ、石楠花、そば、はぜ、もみの木蜂蜜等に分類されるが、本発明においてはその種類を特に制限されることなく、いずれの蜂蜜をも使用することができる。また、複数の花から集めた蜜を主原料とする百花蜂蜜を使用することもできる。本発明においては蜂蜜として精製蜂蜜や加糖蜂蜜も使用することができる。また2種以上の蜂蜜を混合して用いることもできる。精製蜂蜜とは、蜂蜜から臭い、色等を取り除いたものであり、加糖蜂蜜とは、蜂蜜に異性化液糖その他の糖類を加えたものであって、蜂蜜の含有量が重量百分比で60%以上のものである。さらに、蜂蜜を採取するために使用される蜜蜂の種類及び蜂蜜の産地についても特に限定されない。
【0020】
また、本発明が対象とする蜂蜜には、第十七改正日本薬局方で規定される「ハチミツ」が含まれる。第十七改正日本薬局方解説書((株)廣川書店発行、編者:日本薬局方解説書編集委員会)の「ハチミツ」の欄には下記のように記載されている。
【0021】
「本品はヨーロッパミツバチApis mellifera Linne又はトウヨウミツバチApis cerana Fabricius(Apidae)がその巣に集めた甘味物を採集したものである。
生薬の性状:本品は淡黄色~淡黄褐色のシロップ様の液で、通例、透明であるが、しばしば結晶を生じて不透明となる。本品は特異なにおいがあり、味は甘い。
比重:本品50.0gを水100mLに混和した液は比重d20
20:1.111以上を示す。
【0022】
純度試験
(1)酸:本品10gを水50mLに混和し、1mol/L水酸化カリウム液で滴定するとき、その消費量は0.5mL以下である(指示薬:フェノールフタレイン試液2滴)
(2)硫酸塩:本品1.0gを水2.0mLに混和し、ろ過し、ろ液に塩化バリウム試液2滴を加えるとき、液は直ちに変化しない。
(3)アンモニア呈色物:本品1.0gを水2.0mLに混和し、ろ過し、ろ液にアンモニア試液2 mLを加えるとき、液は直ちに変化しない。
(4)レソルシノール呈色物:本品5gをジエチルエーテル15mLを加えてよく混和し、ろ過して得たジエチルエーテル液を常温で蒸発し、残留物にレソルシノール試液1~2滴を加えるとき、残留物及び液は黄赤色を呈することがあっても1時間以上持続する赤色~赤紫色を呈しない。
(5)でんぷん及びデキストリン:
(i)本品7.5gに水15mLを加えて振り混ぜ、水浴上で加温し、これにタンニン酸試液0.5mLを加え、冷後、ろ過した液1.0mLに塩酸2滴を含むエタノール(99.5)1.0mLを加えるとき、液は混濁しない。
(ii)本品2.0gに水10mLを加え、水浴上で加温して混和し、冷後、この液1.0mLにヨウ素試液1滴を加えて振り混ぜるとき、液は青色、緑色又は赤褐色を呈しない。
(6)異物:本品1.0gを水2.0mLに混和した後、遠心分離し、得られる沈殿を鏡検すると、花粉以外の異物を認めない。
灰分:0.4%以下」。
【0023】
また、本発明が対象とする蜂蜜には、蜂蜜の国際規格である「蜂蜜Codex規格」で定められている蜂蜜の定義「植物の花蜜、植物の生組織上からの分泌物、又は植物の生組織上で植物の汁液を吸う昆虫が排出する物質からApis mellifera種(セイヨウミツバチ)がつくりだす天然の甘味物質であって、ミツバチが集め、ミツバチが持つ特殊な物質による化合で変化させ、貯蔵し、脱水し、巣の中で熟成のためにおいておかれたもの」に該当するものも含まれる。なお、「蜂蜜Codex規格」で定める品質規格値は下記のように定められている。
【0024】
【0025】
カミツレは、キク科(Compositae)の植物であり、学名はMatricaria chamomilla L.である。使用するカミツレの部位としては、特に限定されず、適宜選択することができ、例えば、葉、茎、根、花、蕾、種子、果実、果皮、果核、地上部、全草、これらの混合物などが挙げられる。中でも、使用する部位として好ましくは花である。
【0026】
発酵に使用するカミツレの原料は、採取して得られたカミツレそのもの又はカミツレの処理物のいずれであってもよい。カミツレ処理物としては、例えば、カミツレに、乾燥、粉砕、抽出などの処理を行うことにより得られる処理物が挙げられる。これらの処理は1種単独でもよく、又は2種以上を併用してもよい。カミツレ処理物は、自家調製品又は市販品を問わず使用することができる。
【0027】
カミツレの処理物としては、例えば、カミツレの乾燥物、粉砕物、破砕物、粉末、抽出物等が挙げられる。カミツレの乾燥は、例えば、天日乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等によって行うことができる。粉砕及び破砕は、例えば、それぞれ粉砕機、破砕機等を用いて行うことができる。カミツレ原料としては、好ましくはカミツレの乾燥粉末である。カミツレの乾燥粉末は、カミツレを乾燥し、更に粉砕することにより作製することができる。カミツレの乾燥粉末は、採取後直ちに乾燥し、粉砕したものであることが好ましい。
【0028】
カミツレの抽出物は、植物の抽出に一般的に使用されている方法により作製することができる。例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料であるカミツレの抽出部位を投入し、必要に応じて適宜攪拌しながら可溶性成分を溶出した後、濾過して抽出残渣を除くことにより作製することができる。
【0029】
カミツレの抽出物としては、カミツレから抽出して得られた抽出液をそのまま用いてもよく、更なる処理(例えば、希釈、濃縮、乾燥、ろ過、精製等)を行ったものを用いてもよい。
【0030】
抽出溶媒としては、例えば、水系溶媒、親水性有機溶媒などが挙げられる。水系溶媒としては、例えば、純水、精製水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などが挙げられる。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールなどが挙げられる。抽出溶媒は、これら1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
発酵は、乳酸菌、酵母、麹菌など発酵に使用することができる公知の微生物を制限なく使用して行うことができる。発酵に使用する微生物としては、乳酸菌が好ましく、乳酸菌の中でもラクトバチルス・クンキー(Lactobacillus kunkeei)が特に好ましい。ラクトバチルス・クンキーとしては、グルコース及びフルクトースに対する資化性を示すものであることが好ましく、グルコース、フルクトース、スクロース、トレハロース及びグルコン酸塩に対する資化性を示すものであることがより好ましい。
【0032】
ラクトバチルス・クンキーに属する菌株としては、例えば、ラクトバチルス・クンキーBPS402などがある。ラクトバチルス・クンキーBPS402は、2011年10月3日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566))に、受託番号FERM P-22177として寄託されており、入手可能である。また、当該菌株は、現在国際寄託に移管されており、受託番号はFERM BP-11439である。なお、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターは、2012年4月に独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センターと統合され、現在、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)にてその微生物寄託業務は承継されている。
【0033】
発酵に用いる微生物の培養は、常法に従って行うことができる。培地は、当該菌が培養できるものであれば特に制限はなく、天然培地、合成培地、半合成培地等を用いることができる。培地としては、窒素源及び炭素源を含有するものを使用することができ、窒素源としては、肉エキス、ペプトン、カゼイン、酵母エキス、グルテン、大豆粉、大豆加水分解物、アミノ酸等が挙げられ、炭素源としては、グルコース、ラクトース、フラクトース、イノシトール、ソルビトール、水飴、澱粉、麹汁、フスマ、バカス、糖蜜等が挙げられる。その他、無機質(例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、食塩、炭酸カルシウム、鉄、マンガン、モリブデン)、各種ビタミン類などを添加することができる。
【0034】
培養温度は、例えば、4~45℃、25~40℃、28~33℃などであり、培養時間は、例えば、8~72時間などである。培地のpHは、例えば、4~9、6~8などである。培養は、通気振とう又は通気攪拌して行ってもよい。
【0035】
微生物を培養して得た菌液は、そのまま蜂蜜及びカミツレ原料を含む発酵培地に播種して発酵に用いてもよく、又は培地等で希釈して発酵に用いてもよい。
【0036】
蜂蜜及びカミツレ原料の発酵は、例えば、4~45℃、25~40℃で行うことができる。発酵時間は、例えば、12~60時間、好ましくは24~48時間である。発酵開始時のpHは、例えば、3~8、好ましくは4~6である。発酵は、通気振とう又は通気攪拌して行ってもよい。
【0037】
蜂蜜及びカミツレ原料の発酵は、蜂蜜及びカミツレ原料を含む発酵培地中で微生物を培養することにより行うことができる。蜂蜜及びカミツレ原料を含む発酵培地は、微生物が発酵できる形態であればよく、例えば、液体、ペースト、ゲル等の形態が挙げられる。発酵培地は、例えば、水等の溶媒に蜂蜜及びカミツレ原料を溶解又は懸濁させたものである。
【0038】
発酵開始時の発酵培地中の蜂蜜濃度は、発酵培地全量に対して、例えば、0.1~40質量%、1~30質量%、8~13質量%などである。また、発酵開始時の発酵培地中の蜂蜜濃度は、固形分として、発酵培地全量に対して、例えば、0.08~32質量%、0.8~24質量%、6.4~10.4質量%などである。
【0039】
発酵開始時の発酵培地中のカミツレ原料濃度は、固形分として、発酵培地全量に対して、例えば、0.01~20質量%、0.1~5質量%、0.5~2質量%などである。発酵開始時の発酵培地中の蜂蜜(全量)とカミツレ原料(乾燥質量)との質量比は、例えば、4000:1~1:200、26:1~4:1などである。発酵培地は、例えばビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、塩類、界面活性剤、脂肪酸、金属類等の微生物の培養に必要とされている公知の栄養素を含むこともできる。発酵に用いる蜂蜜は加熱等により滅菌処理されたものであってもよい。
【0040】
発酵物は、発酵により得られたものそのままのものであっても、加熱、ろ過、精製、濃縮、蒸発乾固、凍結乾燥、スプレードライ等の処理が施されたものであってもよい。発酵物は、微生物の生菌体及び/又は死菌体を含んでいてもよく、又はろ過等により菌体が分離除去されていてもよい。
【0041】
(グネツム又はその抽出物)
グネツム(別名メリンジョ、学名Gnetum gnemon L.、英名Gnemon tree、インドネシア名Melinjo、Belinjo)は、グネツム科の植物であり、東南アジアで栽培されている。
【0042】
グネツムの使用する部位としては特に制限されず、実(又は種子)、花、葉などが挙げられ、好ましくは種子である。また、グネツムとしては加工された物も使用でき、そのような加工としては、乾燥、加熱乾燥、切断、粉砕などが挙げられる。
【0043】
本明細書において、グネツム種子とは種皮、薄皮、及び胚/胚乳(内乳)からなる物をいう。グネツム種子の形状及び形態としては、本発明の効果が得られる物であればどのような形状及び形態の物も使用でき、長径:約1.3~2.3cm、短径:約0.6~1.3cmであり、ピーナッツ状の形状である物が好ましい。グネツム種子としては、グネツム種子が含まれている形態の物であれば本発明で使用することができ、例えば、グネツム種子に果皮を有する形態であるグネツム果実が挙げられる。
【0044】
グネツム種子には、加工された物も包含され、このようなグネツム種子の加工物としては、(天日干し等により)乾燥された状態の物、加熱乾燥された状態の物などが挙げられる。また、グネツム種子としては、切断及び粉砕されていない原形のままの状態の物、並びにスライス及び粉砕されたグネツム種子の加工物を使用できる。本発明では、グネツム種子の胚/胚乳(内乳)、又は種皮のみのグネツム種子の加工物を使用することもできる。
【0045】
本発明においてグネツム種子の抽出物が使用されることが望ましく、当該抽出物の製造方法としては、特に制限されず、例えば、グネツム種子を浸漬液に浸漬することにより抽出する方法(例えば、特開2013-82701号公報に記載の方法)などを用いて行うことができる。
【0046】
上記浸漬液としては水、有機溶剤又は含水有機溶剤を使用することができる。有機溶媒としては、水と自由に混和可能なものが好ましく、そのようなものとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール等の炭素数1~5の低級アルコール、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類、酢酸、氷酢酸、プロピオン酸等の有機酸等が挙げられる。有機溶媒は、好ましくは低級アルコールである。
【0047】
浸漬を行う際の浸漬液の温度は、グネツム種子及び浸漬液の量などにより適宜設定され得、例えば10~50℃、好ましくは20~40℃である。浸漬を行う時間は、グネツム種子及び浸漬液の量などにより適宜設定され得るが、好ましくは2日以上、より好ましくは2日~7日である。
【0048】
回収した浸漬液は、そのままでも使用できるが、必要に応じて、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、透析法、これらの組合せなどにより精製を行い得る。
【0049】
グネツム種子の抽出物は、回収された浸漬液(必要に応じて更に精製されたものも含む)、当該浸漬液を濃縮した濃縮液、及び凍結乾燥、スプレードライ等により当該浸漬液の溶媒が除去された固形物の何れの状態も取り得る。ここで、浸漬液の濃縮、凍結乾燥及びスプレードライは、常法に従って行うことができる。本発明のグネツム種子の抽出物の形態は、好ましくは粉末状である。
【0050】
グネツム種子抽出物には、スチルベノイドとして、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドD、及びトランスレスベラトロール(レスベラトロール)が含まれていることが知られており、これらが含まれることが望ましい。
【0051】
本発明のサーカディアン・リズム改善剤中には、本発明の効果を妨げない範囲で、上記以外の公知の成分を適宜配合することができる。
【0052】
本発明のサーカディアン・リズム改善剤中の発酵物の含量は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限されず、最終形態等に応じて適宜調整することができ、サーカディアン・リズム改善剤中の、固形分全量に対して、例えば、0.00001質量%以上、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、57質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってもよく、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であってもよい。
【0053】
また、発酵物は、サーカディアン・リズムの改善のために定期的に経口投与されることが好ましく、一日数回に分けて経口投与されることが特に好ましい。特に限定されるものではないが、生換算値で、例えば、体重60kgの成人一日当たり10mg~15000mgの用量で用いることができ、100mg~10000mgの用量で用いることが好ましく、150mg~8000mgの用量で用いることがより好ましく、180mg~7200mgの用量で用いることが更に好ましく、600mg~5400mgの用量で用いることが更により好ましく、800mg~3600mgの用量で用いることが特に好ましい。用量は、投与される人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。
【0054】
本発明のサーカディアン・リズム改善剤中のグネツム又はその抽出物の含量は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限されず、最終形態等に応じて適宜調整することができ、サーカディアン・リズム改善剤中の、固形分全量に対して、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、57質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってもよく、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であってもよい。
【0055】
また、グネツム又はその抽出物は、サーカディアン・リズムの改善のために定期的に経口投与されることが好ましく、一日数回に分けて経口投与されることが特に好ましい。特に限定されるものではないが、有効成分換算値で、例えば、体重60kgの成人一日当たり10mg~15000mgの用量で用いることができ、50mg~1000mgの用量で用いることがより好ましい。用量は、投与される人の健康状態、投与方法、他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。
【0056】
本発明のサーカディアン・リズム改善剤は、化粧品、飲食品(特に、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養組成物(nutritional composition)、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品))、医薬部外品、医薬品などとして使用することができる。また、本発明のサーカディアン・リズム改善剤は、サーカディアン・リズム改善作用を付与する添加剤についての意味も包含するものである。
【0057】
上記の化粧品には、上記発酵物及びグネツム又はその抽出物以外に、通常化粧品に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0058】
化粧品には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等に適用されるあらゆる化粧品が含まれる。
【0059】
化粧品の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。
【0060】
化粧品の用途も任意であり、例えば、基礎化粧品であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク等が挙げられ、メークアップ化粧品であれば、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等が挙げられ、ネイル化粧料であれば、マニキュア、ベースコート、トップコート、除光液等が挙げられ、その他、洗顔料、(練又は液体)歯磨剤、マウスウォッシュ、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、育毛剤、制汗剤、入浴剤等が挙げられる。
【0061】
上記の飲食品には、上記発酵物及びグネツム又はその抽出物をそのまま使用することもでき、必要に応じて、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することもできる。
【0062】
飲食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト等);飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)などが挙げられる。
【0063】
飲食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0064】
サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤、シロップ、ペースト、ドリンク等が挙げられる。
【0065】
上記の医薬品には、上記発酵物及びグネツム又はその抽出物のみを使用することもでき、ビタミン、生薬など日本薬局方に記載の他の医薬成分と混合して使用することもできる。
【0066】
本発明の、サーカディアン・リズム改善剤を、医薬品として調製する場合、上記発酵物及びグネツム又はその抽出物を、医薬品において許容される成分とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液や電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。
【0067】
本発明の医薬組成物には、発酵物及びグネツム又はその抽出物以外にも、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、懸濁化剤、増粘剤、抗酸化剤、吸収促進剤、pH調節剤、保存剤、防腐剤、安定化剤、界面活性剤、甘味剤、矯味剤、香料等の薬学的に許容される成分を適宜配合することができる。
【0068】
なお、本発明の化粧品及び医薬品には、医薬部外品も包含される。
【0069】
以上説明した本発明のサーカディアン・リズム改善剤は、ヒトを含む哺乳動物(好ましくはヒト)に対して適用されるものである。
【0070】
本発明のサーカディアン・リズム改善剤が有効成分として含有する発酵物及びグネツム又はその抽出物は、後述する実施例で示されているように、Bmal1遺伝子の発現リズムの有意な振幅増強作用を有する。そのため、本発明のサーカディアン・リズム改善剤は、Bmal1遺伝子などのような時計遺伝子のmRNA発現量を正常化させることに基づいて、サーカディアン・リズムを改善することができる。結果として、本発明のサーカディアン・リズム改善剤は、優れたサーカディアン・リズムの改善作用を奏する。
【0071】
本発明の概日リズム改善剤は、サーカディアン・リズムの乱れや概日リズム機能の低下により引き起こされる様々な変調、障害及び疾患等の治療、改善用に使用することができる。このような変調、障害及び疾患等としては、例えば、概日リズム睡眠障害(ストレス性睡眠障害、時差ぼけ、シフトワーク及び夜勤等による内因性急性症候群における睡眠障害、並びに睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群、非24時間睡眠覚醒障害及び不規則型睡眠覚醒パターン等の内因性慢性症候群における睡眠障害)、体温リズムの乱れ、交感神経系の亢進等の自律神経失調症、双極性障害、躁うつ病、うつ病、高血圧、糖尿病、気管支喘息、冠攣縮性狭心症などの虚血性心疾患、内分泌障害、脳卒中、代謝異常、がん化の促進などが挙げられる。
【0072】
Bmal1遺伝子の発現量を増加させることは、皮膚性状保持においても重要であると考えられることから、本発明の概日リズム改善剤はさらに、皮膚バリア機能改善用、皮膚保湿用、皮膚の弾力改善用、皮膚のくすみ改善用、皮膚のシワ改善用、肌荒れ改善用、皮膚の老化防止用、肌のきめ改善用、敏感肌改善用、皮膚オートファジー機能活性化用などに使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0074】
試験例
<方法>
・細胞
サーカディアン・リズム評価用細胞(Bmal1-ELuc MEF)(株式会社ジーピーシー研究所)
CAT# GP-M02-P2 LOT#191128F20103
C57BL/6由来
【0075】
・基本培地
・DMEM,high glucose(L-グルタミン、フェノールレッド含有)(富士フイルム和光純薬株式会社)500mL
・FBS(Sigma-Aldrich)非動化処理50mL
・penicillin/streptomycin(ナカライテスク株式会社)5mL
【0076】
・測定試薬類
・dexamethasone(Sigma-Aldrich)
エタノールで10mMに調製後、PBSで1mMに希釈。分注し、-20℃で保存。
・D-luciferin(カリウム塩)(東洋紡株式会社)
Luciferin(ヒカリコメツキムシ由来ルシフェラーゼ)は22mM stockを180μLずつ分注し-80℃に保存。測定時の培地18mLに180μL添加し使用した。
・φ10cm dish(CORNING)
・カフェイン,SAJ special grade,≧98.5%(Sigma-Aldrich)
【0077】
・測定機器
WSL-1565クロノスHT(アトー株式会社)
【0078】
・被験物質
・蜂蜜/カミツレ花発酵液
次の手順により製造した:国産百花蜂蜜及びカミツレ花乾燥粉末に対し、水を添加(国産百花蜂蜜10%、カミツレ花乾燥粉末1%、水89%)→加熱滅菌(110℃、5分間)→乳酸菌(ラクトバチルス・クンキーBPS402)添加→発酵(30℃、40時間培養)→加熱滅菌(110℃、5分)→ろ過→凍結乾燥→10mg/mLになるようDMEM,high glucoseに溶解→ろ過(0.45μmフィルター)→滅菌(0.22μmフィルター)
・蜂蜜/カミツレ花熱水抽出液
次の手順により製造した:国産百花蜂蜜及びカミツレ花乾燥粉末に対し、水を添加(国産百花蜂蜜10%、カミツレ花乾燥粉末1%、水89%)→加熱滅菌(110℃、5分間)→ろ過→凍結乾燥→10mg/mLになるようDMEM,high glucoseに溶解→ろ過(0.45μmフィルター)→滅菌(0.22μmフィルター)
・メリンジョエキス
次の手順により製造した:グネツム・グネモン乾燥果実破砕物に対し、50%エタノール添加(グネツム・グネモン16.8%)→2日間浸漬→抽出液をろ過、減圧濃縮→凍結乾燥→10mg/mLになるようDMEM,high glucoseに溶解→ろ過(0.45μmフィルター)→滅菌(0.22μmフィルター)
・蜂蜜/花粉荷発酵液
次の手順により製造した:国産百花蜂蜜及び花粉荷(マリ)に対し、水を添加(国産百花蜂蜜9.9%、花粉荷(マリ)0.99%、水89.11%)→加熱滅菌(110℃、5分間)→乳酸菌(ラクトバチルス・クンキーBPS402)添加→発酵(35℃、48時間培養)→ろ過→凍結乾燥→10mg/mLになるようDMEM,high glucoseに溶解→ろ過(0.45μmフィルター)→滅菌(0.22μmフィルター)
・マヌカ蜂蜜発酵液
次の手順により製造した:マヌカ蜂蜜(MG250+)に対し、水を添加(マヌカ蜂蜜30%、水70%)→加熱滅菌(60℃、30分間)→酵母(Wickerhamomyces anomalus RHYd3020)添加→発酵(30℃、4日間培養)→加熱滅菌(60℃、30分)→遠心→ろ過→凍結乾燥→10mg/mLになるようDMEM,high glucoseに溶解→ろ過(0.45μmフィルター)→滅菌(0.22μmフィルター)
・マヌカ蜂蜜水溶液
・国産百花蜂蜜水溶液
・熟成アカシア蜂蜜水溶液
次の手順により製造した:10mg/mLになるようDMEM,high glucoseに溶解→ろ過(0.45μmフィルター)→滅菌(0.22μmフィルター)
上記被験物質の原料の入手先:株式会社山田養蜂場本社
【0079】
・ポジティブコントロール
・カフェイン,SAJ special grade,≧98.5%(Sigma-Aldrich)
【0080】
・細胞起眠
基本培地に細胞を起眠し、37℃5%CO2下で4日間培養を行った。
【0081】
・継代、播種
培養上清除去後、PBSで洗浄し、TrypLE expressで細胞を剥離し、37℃5%CO2下で3分静置後、基本培地で細胞を回収し、300×gで3分遠心を行った。上清除去後、基本培地1-2mLで懸濁し、細胞数を計測し、1×104cells/wellで96wellに細胞を播種したのち、37℃5%CO2で24時間培養を行った。
【0082】
・同調処理
播種の24時間後、基本培地に100nMのdexamethasoneを加えた培地に置換し、37℃5%CO2下で2時間培養を行った。
【0083】
・測定
2時間後、被験物質を加えたD-luciferin含有基本培地(200μM)に置換し、測定を開始した。測定条件は下記の通り設定した。
測定時間5秒
測定間隔20分
フィルター全光(F0)
測定4日
【0084】
・データ解析
得られた数値から時系列データのみを示し、統計解析を実施するため、下記手法を用いた。
1.トレンド処理
全体の増加に対する変動を強調するために、Pythonを用いて線形トレンドを除いた。
2.ノイズ処理
トレンド処理後のデータからExcelを用いて移動平均を算出し、ノイズ処理を行った。
3.遺伝子発現の頂点(山)、頂点(谷)の算出
同調開始時刻のずれや、被験物質の添加による位相のずれに対応するため、Bmal1遺伝子発現の山と谷の数値を、Pythonを用いて取得した。
4.統計解析
GraphPad PRISM 8(GraphPad Software Inc.)を用い、two way ANOVA解析で検定を行った。
【0085】
<結果>
ポジティブコントロールとして評価を実施したカフェインについては既報通り、Bmal1発現増強作用が認められた(
図1)。
【0086】
蜂蜜/カミツレ花発酵液において、振幅増強作用が認められた(
図2A)。さらに、統計解析の結果、測定開始から20時間後では1,000μg/mL添加条件、32、44時間後では500μg/mL添加条件で統計的有意差が認められた。そのため、蜂蜜/カミツレ花発酵液の有効濃度は500~1,000μg/mLであることが示唆された(
図2B)。
【0087】
その他の被験物質の評価を実施した蜂蜜/カミツレ花熱水抽出液、蜂蜜/花粉荷発酵液、マヌカ蜂蜜発酵液、マヌカ蜂蜜水溶液、国産百花蜂蜜水溶液、及び熟成アカシア蜂蜜水溶液においてはサーカディアン・リズムに対する影響は認められなかった(
図3、4)。
【0088】
メリンジョエキスにおいても、振幅増強作用が認められた(
図5)。さらに、統計解析の結果、測定開始から18、30、43時間後では6、12、24μg/mL添加条件、68時間後では24μg/mL添加条件で統計的有意差が認められた(
図5)。
【0089】
<考察>
蜂蜜単独では効果がなく、蜂蜜と花粉荷を混ぜてラクトバチルス・クンキーBPS402で発酵させた被験物質においても効果がなかった。さらに、蜂蜜とカミツレを混ぜたものは効果がなく、蜂蜜とカミツレを混ぜてラクトバチルス・クンキーBPS402で発酵させたものにはサーカディアン・リズム調整作用が認められた。このことから、発酵プロセスにのみ依存したサーカディアン・リズム増強作用ではなく、蜂蜜とカミツレの組み合わせで発酵させることにより新たな効果が得られたと考えられる。
【0090】
さらに、特開2013-181005号公報では、乳酸菌の菌体又はその処理物を有効成分として含有するサーカディアン・リズム改善剤が報告されているが、本試験例で使用した蜂蜜/カミツレ花発酵液では乳酸菌の菌体は発酵後に除去しているため、乳酸菌自体の効果ではないと考えられる。
【0091】
いずれの生物種及び細胞種においてもサーカディアン・リズムのコアシステムは共通であるため、本試験例のマウス線維芽細胞でのBmal1発現変動評価結果は、他の生物種及び細胞種にも反映できると考えられる。