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特許7481754ナノ粒子可溶化マルチアミン配位子、および配位子被覆ナノ粒子を含有するインク組成物
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  • 特許-ナノ粒子可溶化マルチアミン配位子、および配位子被覆ナノ粒子を含有するインク組成物 図1
  • 特許-ナノ粒子可溶化マルチアミン配位子、および配位子被覆ナノ粒子を含有するインク組成物 図2
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  • 特許-ナノ粒子可溶化マルチアミン配位子、および配位子被覆ナノ粒子を含有するインク組成物 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】ナノ粒子可溶化マルチアミン配位子、および配位子被覆ナノ粒子を含有するインク組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/14 20060101AFI20240502BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240502BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240502BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240502BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20240502BHJP
   C01F 7/021 20220101ALI20240502BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20240502BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240502BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20240502BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240502BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240502BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C01B13/14 A
B41M5/00 120
B82Y20/00
B82Y30/00
C01B33/18 C
C01F7/021
C01G23/047
C01G25/02
C09D11/101
C09K11/08 G
G02B5/20
G02B5/20 101
G09F9/30 349A
G09F9/30 349Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021518786
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 US2019051627
(87)【国際公開番号】W WO2020076466
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】62/742,937
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513317345
【氏名又は名称】カティーバ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140833
【弁理士】
【氏名又は名称】岡東 保
(72)【発明者】
【氏名】ウイリアム ピー. フリーマン
(72)【発明者】
【氏名】エレナ ロゴジナ
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0045398(US,A1)
【文献】特表2016-511773(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123103(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0021521(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0102449(US,A1)
【文献】QI et al.,Synthesis and Characterization of CdS Nanoparticles Stabilized by Double-Hydrophilic Block Copolymers,Nano Letters,2001年,Vol. 1, No. 2,p.61-65
【文献】SIDOROV et al.,Stabilization of Metal Nanoparticles in Aqueous Medium by Polyethyleneoxide-Polyethyleneimine Block Copolymers,Journal of Colloid and Interface Science,1999年,Vol.212,p.197-211
【文献】NIKOLIC et al.,Micelle and Vesicle Formation of Amphiphilic Nanoparticles,Angew. Chem.,2009年,Vol.121,p.2790-2792
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/14
B41M 5/00
B82Y 20/00
B82Y 30/00
C01B 33/18
C01F 7/021
C01G 23/047
C01G 25/02
C09D 11/101
C09K 11/08
G02B 5/20
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する金属酸化物ナノ粒子または半金属酸化物ナノ粒子と、
記ナノ粒子の前記表面に結合した複数のジブロック配位子とを含む、配位子被覆ナノ粒子であって、
前記複数の配位子の1つ以上は、
少なくとも1つのカチオン性第四級アミン基を有するポリアミン基であって、記ナノ粒子の前記表面に結合したポリアミン基と、
ポリアルキレンオキシド基とを含む、配位子被覆ナノ粒子。
【請求項2】
前記ポリアルキレンオキシド基は、ポリエチレンオキシド鎖を含む、請求項1に記載の配位子被覆ナノ粒子。
【請求項3】
前記ポリアルキレンオキシド基は、ポリプロピレンオキシド鎖を含む、請求項1に記載の配位子被覆ナノ粒子。
【請求項4】
硬化性モノマーと、
複数の配位子被覆ナノ粒子とを含む、インク組成物であって、
前記複数の配位子被覆ナノ粒子は、
表面を有する金属酸化物ナノ粒子または半金属酸化物ナノ粒子と、
記ナノ粒子の前記表面に結合した複数のジブロック配位子とを含み、
前記複数の配位子の1つ以上は、
少なくとも1つのカチオン性第四級アミン基を有するポリアミン基であって、記ナノ粒子の前記表面に結合したポリアミン基と、
ポリアルキレンオキシド基とを含む、インク組成物。
【請求項5】
複数の配位子被覆量子ドットをさらに含み、
前記複数の配位子被覆量子ドットのそれぞれは、
表面を有する量子ドットと、
前記量子ドットの前記表面に結合した複数のジブロック配位子とを含み、
前記複数の配位子の1つ以上は、
前記量子ドットの前記表面に結合した第1の基と、
ポリアルキレンオキシド鎖を含む第2の基とを含む、請求項に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記量子ドットの前記表面に結合した前記配位子の前記第2の基は、ポリエチレンオキシド鎖を含む、請求項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記量子ドットの前記表面に結合した前記配位子の前記第2の基は、ポリプロピレンオキシド鎖を含む、請求項に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記量子ドットは、III-V族量子ドット、II-VI族量子ドット、IV族量子ドット、またはそれらの組み合わせを含む、請求項に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記硬化性モノマーは、ジ(メタ)アクリレートモノマー、モノ(メタ)アクリレートモノマー、またはジ(メタ)アクリレートモノマーとモノ(メタ)アクリレートモノマーとの組み合わせを含む、請求項に記載のインク組成物。
【請求項10】
前記配位子被覆ナノ粒子と前記配位子被覆量子ドットの前記インク組成物中の合計濃度は、1重量%から50重量%の範囲内である、請求項に記載のインク組成物。
【請求項11】
基板と、
前記基板の表面上のフィルムとを含む、フィルムコーティング基板であって、
前記フィルムは、インク組成物の重合生成物を含み、
前記インク組成物は、
硬化性モノマーと、
複数の配位子被覆ナノ粒子とを含み、
前記複数の配位子被覆ナノ粒子は、
表面を有する金属酸化物ナノ粒子または半金属酸化物ナノ粒子と、
記ナノ粒子の前記表面に結合した複数のジブロック配位子とを含み、
前記複数のジブロック配位子の1つ以上は、
少なくとも1つのカチオン性第四級アミン基を有するポリアミン基であって、記ナノ粒子の前記表面に結合したポリアミン基と、
ポリアルキレンオキシド基とを含む、フィルムコーティング基板。
【請求項12】
フォトニックデバイス基板と、
前記フォトニックデバイス基板の表面上のフィルムとを含む、フォトニックデバイスであって、
前記フィルムは、インク組成物の重合生成物を含み、
前記インク組成物は、
硬化性モノマーと、
複数の配位子被覆ナノ粒子とを含み、
記配位子被覆ナノ粒子のそれぞれは、
表面を有する金属酸化物ナノ粒子または半金属酸化物ナノ粒子と、
記ナノ粒子の前記表面に結合した複数のジブロック配位子とを含み、
記ジブロック配位子のそれぞれは、
少なくとも1つのカチオン性第四級アミン基を有するポリアミン基であって、記ナノ粒子の前記表面に結合したポリアミン基と、
ポリアルキレンオキシド基とを含む、フォトニックデバイス。
【請求項13】
前記フィルムは、カラーフィルタのサブ画素ウェル内に位置し、
前記フォトニックデバイスは、液晶表示デバイスまたは発光ダイオード表示デバイスである、請求項12に記載のフォトニックデバイス。
【請求項14】
フォトニックデバイス内にフィルムを形成する方法であって、
前記フォトニックデバイスのデバイス基板上にインク組成物の層をインクジェット印刷することと、
前記インク組成物を硬化させることとを含み、
前記インク組成物は、
硬化性モノマーと、
複数の配位子被覆ナノ粒子とを含み、
前記複数の配位子被覆ナノ粒子は、
表面を有する金属酸化物ナノ粒子または半金属酸化物ナノ粒子と、
記ナノ粒子の前記表面に結合した複数のジブロック配位子とを含み、
記配位子のそれぞれは、
少なくとも1つのカチオン性第四級アミン基を有するポリアミン基であって、記ナノ粒子の前記表面に結合したポリアミン基と、
ポリアルキレンオキシド基とを含む、フォトニックデバイス内にフィルムを形成する方法。
【請求項15】
前記インク組成物は、カラーフィルタのサブ画素ウェル内にインクジェット印刷され、
前記フォトニックデバイスは、液晶表示デバイスまたは発光ダイオード表示デバイスである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
表面を有する金属酸化物ナノ粒子または半金属酸化物ナノ粒子と、
記ナノ粒子の前記表面に結合した複数の配位子とを含む、配位子被覆ナノ粒子であって、
1つ以上の前記配位子は、
なくとも1つのカチオン性第四級アミン基を有するポリアミン鎖を含む頭部基であって、前記ナノ粒子の前記表面に結合した頭部基と、
ポリアルキレンオキシド鎖を含む尾部基とを含む、配位子被覆ナノ粒子。
【請求項17】
前記配位子はジブロック配位子である、請求項16に記載の配位子被覆ナノ粒子。
【請求項18】
前記配位子の前記ポリアルキレンオキシド鎖は、ポリエチレンオキシド鎖、ポリプロピ レンオキシド鎖、またはその両方を含む、請求項17に記載の配位子被覆ナノ粒子。
【請求項19】
硬化性分子と、
請求項16から18のいずれかに記載の複数の前記配位子被覆ナノ粒子とを含む、インク組成物。
【請求項20】
配位子被覆量子ドットをさらに含み、
前記配位子被覆量子ドットのそれぞれは、
表面を有する量子ドットと、
前記量子ドットの前記表面に結合した複数の配位子とを含み、
1つ以上の前記配位子は、
前記量子ドットの前記表面に結合し頭部基と、
ポリアルキレンオキシド鎖を含む尾部基とを含む、請求項19に記載のインク組成物。
【請求項21】
基板と、
前記基板の表面上のフィルムとを含み、
前記フィルムは請求項19または20に記載の前記インク組成物の重合生成物を含むフィルムコーティング基板。
【請求項22】
前記基板はフォトニックデバイス基板である、請求項21に記載のフィルムコーティング基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年10月9日出願の米国仮特許出願第62/742,937号の優先権を主張し、その内容の全体を参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
散乱粒子および量子ドット(QD: quantum dot)蛍光体を含有する高分子光学フィルムを含む高性能フォトニックデバイスを得るためには、散乱粒子および蛍光体粒子をフィルム内で均一に分散させなければならない。これは、マイクロドメインの散乱粒子および/または蛍光体粒子が高濃度であると、光変換およびアウトカップリングが不均一になり、デバイスの外部量子効率および発光特性に影響を及ぼす可能性があるためである。散乱したナノ粒子およびQD蛍光体粒子は、不都合なことにポリマーフィルム中で凝集する傾向があり、その結果、粒子分布が不均一になることがある。
【発明の概要】
【0003】
配位子被覆ナノ粒子、配位子被覆ナノ粒子を含有する硬化性インク組成物、およびインク組成物からフィルムを形成する方法が提供される。また、インク組成物を硬化させることにより形成された硬化フィルム、およびこの硬化フィルムを組み込んだフォトニックデバイスが提供される。
【0004】
配位子被覆ナノ粒子の一実施形態は、表面を有する無機ナノ粒子と、無機ナノ粒子の表面に結合した複数の配位子とを含む。複数の配位子の1つ以上は、ポリアミン鎖を含む頭部基であって、無機ナノ粒子の表面に結合した頭部基と、ポリアルキレンオキシド鎖を含む尾部基とを含む。
【0005】
インク組成物の一実施形態は、硬化性モノマーと、硬化性モノマーと混合された上述の複数の配位子被覆ナノ粒子とを含む。
【0006】
フィルムコーティング基板の一実施形態は、基板と、上述のインク組成物の重合生成物を含み、フィルムの表面に位置するフィルムとを含む。
【0007】
フォトニックデバイス内にフィルムを形成する方法の一実施形態は、フォトニックデバイスのデバイス基板上に上述のインク組成物の層をインクジェット印刷する工程と、インク組成物を硬化させる工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の例示的実施形態について、添付の図面を参照しながら以下で説明する。図中、同じ参照符号は同じ要素を示す。
【0009】
図1】マルチアミン頭部基を有する配位子を合成する反応スキームの一実施形態を示す図である。
【0010】
図2】マルチアミン頭部基を有する配位子を合成する反応スキームの別の実施形態を示す図である。
【0011】
図3】マルチアミン頭部基を有する配位子の合成に使用できるマルチアミン反応物を示す図である。
【0012】
図4】有機発光ダイオードバックライトユニット(BLU)を備えた赤緑青(RGB)画素の基本的な実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
配位子被覆ナノ粒子、配位子被覆ナノ粒子を含有する硬化性インク組成物、およびインク組成物からフィルムを形成する方法が提供される。また、インク組成物を硬化させることにより形成された硬化フィルム、およびこの硬化フィルムを組み込んだフォトニックデバイスが提供される。硬化フィルムは、種々のフォトニックデバイスの光散乱層として組み込むことができる。ある実施形態では、インク組成物は配位子被覆QDを含む。これらのインク組成物から形成されたフィルムは、液晶ディスプレイ(LCD)やマイクロ発光ダイオード(LED)ディスプレイ等のLEDディスプレイ等のデバイス内のカラーフィルタ層およびカラーエンハンスメント層として使用することができる。なお、マイクロLEDディスプレイとは、約10μm以下の画素サイズを有するLEDディスプレイを指す。米国特許出願公開第2018/0102449号にこのフィルムをカラーフィルタ層またはカラーエンハンスメント層として組み込むことができるデバイスの例が記載されている。
【0014】
配位子は、インク組成物中の散乱ナノ粒子の可溶性を高め、また、散乱ナノ粒子が、インク組成物中の他の散乱ナノ粒子またはQDと凝集することを防止または低減させる。その結果、散乱ナノ粒子が配位子で被覆されていないインク組成物、およびそのフィルムに比べて、配位子によりインク組成物中の散乱ナノ粒子濃度を高めることができ、また、このインク組成物から形成されたフィルム内での散乱ナノ粒子およびQDの分散がより均一となる。
【0015】
配位子被覆ナノ粒子は、無機ナノ粒子と、無機ナノ粒子の表面に結合した複数の配位子とを含む。本明細書では、用語「ナノ粒子」とは、直径等の少なくとも1つの寸法が約1000nm以下である粒子を指す。なお、複数のナノ粒子の凝集体の全体粒子径は、それよりも大きくてもよい。散乱ナノ粒子は様々な形状が可能であり、粒子断面寸法が全て1000nm未満である略球形、少なくとも2つの粒子断面寸法が1000nm未満である細長形(例:ナノワイヤ)、少なくとも1つの粒子断面寸法が1000nm未満である略平面形(例:ナノプレート)等が挙げられる。
【0016】
光散乱ナノ粒子は、幾何的散乱ナノ粒子(GSNP: geometric scattering nanoparticle)またはプラズモン散乱ナノ粒子(PSNP: plasmonic scattering nanoparticle)でよい。GSNPは、ナノ粒子表面での反射、屈折、回折によって光散乱を実現することを特徴とする。GSNPの例としては、酸化ジルコニウム(すなわちジルコニア)、酸化チタン(すなわちチタニア)、酸化アルミニウム(すなわちアルミナ)のナノ粒子等の金属酸化物ナノ粒子、および二酸化ケイ素等の半金属酸化物ナノ粒子が挙げられる。
【0017】
PSNPは、入射光がナノ粒子内で電子密度波を励起し、ナノ粒子表面から外方に延びる局所的な振動電界を形成することを特徴とする。粒子の散乱効果に加えて、PSNPが1つ以上のQDに近接している場合には、この電界がQDに結合してQD層の吸収を高めることができる。PSNPの例としては、銀ナノ粒子や金ナノ粒子等の金属ナノ粒子が挙げられる。
【0018】
散乱ナノ粒子を用いて光を散乱させる応用例では、意図した波長で光を散乱させるようにナノ粒子の寸法を調整しなければならない。GSNPは通常PSNPよりも大きく、両種の粒子とも、一般的にインク組成物中のQDよりも大きい。配位子被覆ナノ粒子、ならびに配位子被覆ナノ粒子含有インク組成物およびそのインク組成物から形成されたフィルムの種々の実施形態において、GSNPは約200nmから約1μmの有効サイズを有し、PSNPは約30nmから約200nmの有効サイズを有するが、これらは例示にすぎない。
【0019】
散乱ナノ粒子に結合した配位子は、頭部基と尾部基を含む。頭部基はポリアミン鎖を含み、散乱ナノ粒子表面と頭部基の官能基との間の静電相互作用により配位子が散乱ナノ粒子表面に結合する。散乱ナノ粒子の表面に結合する配位子の種類は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0020】
尾部基は、散乱ナノ粒子表面から離れる方向に延びるポリアルキレンオキシド鎖を含み、インク組成物中において散乱ナノ粒子の可溶性を増す働きを有する。配位子は、実施例で例示するように、ポリエーテルアミンから合成することができる。使用可能な市販のポリエーテルアミンの例として、ハンツマン・インターナショナルLLC(Huntsman International LLC)の商品「Jeffamine(登録商標)」がある。ある実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖はポリエチレンオキシド鎖であり、ある実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖はポリプロピレンオキシド鎖である。例として、尾部基は、以下の構造を有してもよい。
<尾部基の例>
ここで、xおよびyは、鎖内の繰り返し単位の数を表し、RはHまたはCHである。尾部基の種々の実施形態において、xおよびyは、1から31である。この尾部基構造を有する配位子を形成するために使用可能なJeffamineの例としては、JeffamineM-600(x=9;y=1)、M-1000(x=3;y=19)、M-2005(x=29;y=6)、およびM-2070(x=10;y=31)が挙げられる。
【0021】
頭部基のポリアミン鎖は、2つ以上のアミン基を含み、直鎖状ポリアミンであっても、分岐状ポリアミンであってもよい。ある実施形態では、ポリアミン鎖は少なくとも3つのアミン基を含み、ある実施形態では、ポリアミン鎖は少なくとも4つのアミン基を含む。アミン類は、第一級アミン、第二級アミン等の非荷電アミンであってもよいし、アミン基の窒素原子に水素原子2つまたは3つを含む4つの基が結合した荷電第四級アミン(第四級アンモニウムイオンとも呼ばれる)であってもよい。
【0022】
荷電(カチオン性)アミン基を含まない配位子は、極性頭部基と散乱ナノ粒子表面との間の静電相互作用により、散乱ナノ粒子表面に結合することができる。しかし、1つ以上のカチオン性第四級アミン基を含む配位子は、荷電アミン基と散乱ナノ粒子の表面電荷との間の静電相互作用によって、より強く散乱ナノ粒子に結合することができる。第一級アミン基や第二級アミン基等の非荷電アミン基は、実施例で例示するように、非荷電アミン基をプロトン化してアンモニウム塩に変換することにより、カチオン性第四級アミン基に変換することができる。アンモニウム塩合成時に各種酸を使い分けることで、塩の対イオンを調整することができる。対イオンは、無機イオンであっても有機イオンであってもよい。パラトルエンスルホン酸塩等の有機対イオンを用いると、インク組成物中の配位子の初期溶解度を高めることができる。
【0023】
配位子被覆散乱ナノ粒子を含むインク組成物は、1つ以上の硬化性モノマーをさらに含む。インク組成物は、任意選択で、1種以上の多官能性架橋剤および/または1種以上の硬化開始剤を含んでもよい。インク組成物は、2種以上の散乱粒子を含むことができる。例えば、種々の実施形態では、インク組成物は配位子被覆PSNPと配位子被覆GSNPとの混合物を含有する。本明細書では、硬化性モノマーとは、他のモノマーと重合してポリマーを形成するモノマー、および/または架橋剤と架橋してポリマーを形成するモノマーである。本明細書に記載の組成物は、種々の実施形態において、従来のインクを基板に塗布する印刷技術等の技術を用いて塗布することができるため、「インク組成物」と称する。このような印刷技術としては、例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、熱転写印刷、フレキソ印刷、および/またはオフセット印刷等が挙げられる。ただし、インク組成物は、例えば、スプレーコーティング、スピンコーティング等の他のコーティング技術を用いて塗布することも可能である。さらに、インク組成物は、従来のインク組成物に含まれる染料や顔料等の着色剤を含まなくてもよい。
【0024】
ある実施形態では、インク組成物はまた、複数の配位子が表面に結合された配位子被覆QDを含む。本明細書では、用語「QD」とは、結晶性の無機蛍光体小粒子を指し、この粒子は、所与の波長または波長範囲の入射放射線を吸収し、この入射放射線を異なる波長または異なる波長範囲を有する放射線に変換して放出する。この放射線は、非常に狭い光学スペクトル範囲でQDから放出される。QDが吸収し放出する放射線の波長は、QDのサイズに依存する。したがって、適切なサイズと材料のQDを適切な濃度と比率でフィルムに組み込むことにより、ある色の光(例えば、青色光)を吸収し、その少なくとも一部を別の色の光(例えば、赤色光または緑色光)に変換するようにフィルムを設計することができる。本開示では、青色光を吸収して赤色光に変換するQDを赤色発光QDと称し、青色光を吸収して緑色光に変換するQDを緑色発光QDと称する。QDの例としては、InPQD等のIII-V族半導体QD;ZnSQD、ZnSeQD、カドミウムVI族QD(例:CdSeQD、CdSQD)等のII-VI族半導体QD;SiQD、GeQD、SiGeQD等のIV族半導体QD;鉛含有QD等のペロブスカイトQDが挙げられる。
【0025】
散乱ナノ粒子に結合した配位子(ナノ粒子配位子と称する)と同様に、QDに結合した配位子(QD配位子と称する)もやはり、QD表面に結合した頭部基と、インク組成物中においてQDの可溶性を増す有機尾部基とを有する。ある実施形態では、QD配位子の尾部基はポリアルキレンオキシド鎖を含む。頭部基は、静電結合により通常QD表面に結合する1つ以上の官能基を含む。QD配位子頭部基に含まれ得る官能基の例としては、カルボキシル(-COOH)基やアミン基(例:-NR基、ここでRはH原子またはアルキル基である)が挙げられる。また、頭部基は、表面に共有結合した1つ以上のチオール(-SH)官能基を含んでもよい。
【0026】
QD配位子の有機尾部基は、ナノ粒子配位子の尾部基と相溶性があり、したがって、インク組成物中におけるQDの可溶性を高め、QDがインク組成物中の他のQDまたは散乱ナノ粒子と凝集することを防止または低減させる。尾部基に含まれ得るポリアルキレンオキシド鎖の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドが挙げられる。QD配位子の尾部基は、同じインク組成物中の散乱ナノ粒子配位子の尾部基と同じでも、異なってもよい。
【0027】
硬化性モノマーは、アクリレート基またはメタクリレート基等の重合性二重結合を有する1つ以上の官能基を有することを特徴とする。硬化性アクリレートモノマーの例としては、ジ(メタ)アクリレートモノマー、モノ(メタ)アクリレートモノマー、およびそれらの混合物が挙げられる。本明細書では、「(メタ)アクリレートモノマー」とは、記載のモノマーがアクリレートであっても、メタクリレートであってもよいことを示す。
【0028】
種々の実施形態において、インク組成物は、1つ以上の硬化性ジ(メタ)アクリレートモノマー、1つ以上の硬化性モノ(メタ)アクリレートモノマー、または1つ以上の硬化性ジ(メタ)アクリレートモノマーと1つ以上のモノ(メタ)アクリレートモノマーとの混合物、配位子被覆散乱ナノ粒子、および配位子被覆QDを含む。
【0029】
例として、ある実施形態では、インク組成物は、(a)10重量%から96重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー、またはジ(メタ)アクリレートモノマーとモノ(メタ)アクリレートモノマーとの組み合わせ、(b)4重量%から10重量%の多官能性(メタ)アクリレート架橋剤、(c)0.1重量%から30重量%の配位子被覆散乱ナノ粒子、(d)1重量%から50重量%の配位子被覆QDを含む。一般的に、配位子被覆散乱ナノ粒子と配位子被覆QDの合計濃度は、約50重量%以下となる。例として、配位子被覆散乱ナノ粒子と配位子被覆QDの合計濃度が40重量%から45重量%のインク組成物を調合することができる。しかし、これらの範囲外の濃度も使用することができる。インク組成物に揮発性有機溶媒が含まれない場合、硬化したフィルム内の配位子被覆散乱ナノ粒子および配位子被覆QDの濃度は、その硬化フィルムを形成するために使用したインク組成物中のそれらの濃度に対応することになる。しかし、より高濃度の散乱ナノ粒子および/またはQDを含むフィルムが求められる場合には、配位子被覆散乱ナノ粒子および/または配位子被覆QDの可溶性を増すために、トルエン等の揮発性有機溶媒をインク組成物中に含めることができる。このような溶媒を含有したインク組成物から形成された硬化フィルムでは、配位子被覆散乱ナノ粒子と配位子被覆QDの合計濃度を例えば最大60重量%、または最大70重量%にまで増大させることができる。
【0030】
インク組成物のある実施形態では、光重合開始剤や熱重合開始剤等の硬化開始剤が含まれる。例として、硬化開始剤は、約0.1重量%から約20重量%の量で含めることができる。
【0031】
モノ(メタ)アクリレートモノマーおよびジ(メタ)アクリレートモノマーは、薄膜形成性を有するエーテルおよび/またはエステル化合物であり、硬化時に結合材料として機能する。これらのモノマーは、液体インク組成物の成分として、室温を含むインクジェット印刷温度の範囲内で噴出可能な組成物を形成することができる。ただし、液体インク組成物は、スロットダイコーティングやスピンコーティング等の他の方法で塗布することもできる。一般的に、インクジェット印刷用途に有用なインク組成物では、印刷時の温度(例:室温、約22℃、またはそれよりも高い例えば約70℃までの温度)で、組成物がノズル上で乾燥したり、組成物によりノズルが詰まったりすることなく、インクジェット印刷ノズルを介してインク組成物が吐出されるように、インク組成物の表面張力、粘度、および湿潤特性を調整しなければならない。種々の実施形態において、インク組成物は、調合により、22℃から70℃の温度で、例えば約2cpsから約30cpsの粘度(例えば、約10cpsから約27cpsの粘度、約14cpsから約25cpsの粘度)、および22℃から70℃の温度で、約25dynes/cmから約45dynes/cmの表面張力(例えば、約30dynes/cmから約42dynes/cmの表面張力、約28dynes/cmから約38dynes/cmの表面張力)を有することができる。粘度および表面張力を測定する方法は周知であり、市販の流量計(例:DV-IPrimeブルックフィールド流量計)および張力計(例:SITA気泡圧張力計)の使用が挙げられる。
【0032】
モノ(メタ)アクリレートモノマーおよびジ(メタ)アクリレートモノマーは、例えば、直鎖脂肪族モノ(メタ)アクリレートおよびジ(メタ)アクリレートでよく、または環状基および/または芳香族基を含んでもよい。インクジェット印刷可能なインク組成物の種々の実施形態において、モノ(メタ)アクリレートモノマーおよび/またはジ(メタ)アクリレートモノマーは、ポリエーテルである。モノマーは、好ましくは極性のある、沸点が比較的高い低蒸気圧モノマーである。
【0033】
適切な(メタ)アクリレートモノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ビニルベンジル(メタ)アクリレート等のアルキルまたはアリール(メタ)アクリレート;環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート;アルコキシル化テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート;トリシクロデカンジメタノールジアクリレート;2-[[(ブチルアミノ)カルボニル]オキシ]エチルアクリレートが挙げられるが、これに限定されるものではない。他の適切なジ(メタ)アクリレートモノマーとして、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート;1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート;1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられ、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば約230g/モルから約440g/モルの数平均分子量を有するエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーやポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーがある。インク組成物の種々の実施形態において、他のモノおよびジ(メタ)アクリレートモノマーとして、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(DCPOEA)、アクリル酸イソボルニル(ISOBA)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)、メタクリル酸イソボルニル(ISOBMA)、N-オクタデシルメタクリレート(OctaM)が挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて用いることができる。また、環上のメチル基の1つ以上が水素で置換されたISOBA、ISOBMAのホモログ(「ISOB(M)A」ホモログと総称)も使用することができる。
【0034】
インクジェット印刷可能なインク組成物の種々の実施形態において、ジ(メタ)アクリレートモノマーは、アルコキシル化脂肪族ジ(メタ)アクリレートモノマーである。これらには、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジ(メタ)アクリレートやネオペンチルグリコールエトキシレートジ(メタ)アクリレート等のアルコキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート等のネオペンチルグリコール基含有ジ(メタ)アクリレートが含まれる。種々の実施形態において、ネオペンチルグリコール基含有ジ(メタ)アクリレートは、約200g/モルから約400g/モルの分子量を有する。上記には、約280g/モルから約350g/モルの分子量を有するネオペンチルグリコール含有ジ(メタ)アクリレート、さらには約300g/モルから約330g/モルの分子量を有するネオペンチルグリコール含有ジ(メタ)アクリレートが含まれる。各種のネオペンチルグリコール基含有ジ(メタ)アクリレートモノマーが市販されている。例えば、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジアクリレートは、サートマー社(Sartomer Corporation)から商品SR9003Bとして販売され、またシグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich Corporation)から商品Aldrich-412147(約330g/モル;24℃で粘度約18cps;24℃で表面張力約34dynes/cm)として販売されている。ネオペンチルグリコールジアクリレートもやはり、シグマアルドリッチ社から商品Aldrich-408255(約212g/モル;粘度約7cps;表面張力約33dynes/cm)として販売されている。
【0035】
多官能性(メタ)アクリレート架橋剤は、少なくとも3つの反応性(メタ)アクリレート基を有する。したがって、多官能性(メタ)アクリレート架橋剤は、例えば、トリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート、および/またはさらに高次の多官能性(メタ)アクリレートでよい。ペンタエリスリトールテトラアクリレートまたはペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラメタクリレートは、一次架橋剤として用いることができる多官能性(メタ)アクリレートの例である。本明細書では、用語「一次」とは、インク組成物の他の成分も架橋に寄与し得るが、架橋はそれら成分の主な機能目的ではないことを示す。
【0036】
光重合開始剤を含むインク組成物の場合、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を使用することができるが、多種多様な光重合開始剤を使用することができることが理解されるであろう。例えば、α-ヒドロキシケトン、フェニルグリオキシレート、α-アミノケトン類の光重合開始剤も使用することができる。フリーラジカルを用いた重合を開始するには、各種光重合開始剤は、約200nmから約400nmの吸収プロファイルを有し得る。本明細書に開示のインク組成物および印刷方法の種々の実施形態では、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド(TPO)および2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィン酸塩が好ましい特性を有する。アシルホスフィン系光重合開始剤の例としては、380nmで吸収するI型溶血(hemolytic)開始剤Irgacure(登録商標)TPO(以前は商品Lucirin(登録商標)TPOとして販売);380nmで吸収するI型光重合開始剤Irgacure(登録商標)TPO-L;370nmで吸収するIrgacure(登録商標)819等がある。例として、350nmから395nmの公称波長で、最大1.5J/cmの放射エネルギー密度で発光する光源を用いて、TPO光重合開始剤を含むインク組成物を硬化させることができる。
【0037】
本明細書に記載のインク組成物の種々の実施形態は光重合開始剤を含むが、光重合開始剤の代わりに、または光重合開始剤に加えて、他の種類の開始剤を使用することもできる。例えば、適切な他の硬化開始剤として、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(ABCVAまたはACVA)等の熱開始剤や、電子線開始剤等の他の種類のエネルギーを用いて重合を誘起する開始剤が挙げられる。
【0038】
配位子被覆散乱ナノ粒子および配位子被覆QDを添加することができるアクリレート系インク組成物として、2015年7月22日出願の米国特許出願公開第2016/0024322号、2016年7月19出願の同第2017/0062762号、2017年10月6日出願の同第2018/0102449号、2016年6月10日出願の同第2017/0358775号、および2017年7月18日出願の同第2018/0026234号に記載のインク組成物が挙げられる。各出願内容の全体を参照により本明細書に組み込む。
【0039】
インク組成物は、インクジェットプリントヘッドのインクジェットノズルからインク組成物を基板上に噴出してインクジェット印刷することができる。インク組成物は、米国特許第8,714,719号に記載の印刷システム等を用いて、大気中または不活性環境下で印刷することができ、上記特許の内容の全体を本明細書に組み込む。フィルムは、UV照射、熱エネルギー、または他の形態のエネルギー(例:電子ビーム)を用いて、大気中または不活性環境下で硬化させることができる。硬化中に、インク組成物中の揮発性成分が除去され、硬化性モノマーがポリマー鎖に重合して硬化フィルムが形成される。
【0040】
フォトニックデバイスのデバイス基板上にインク組成物の層をインクジェット印刷し、インク組成物を硬化させてフィルムを形成することにより、フォトニックデバイス内でインク組成物をフィルムとして形成することができる。例えば、インク組成物を、LCDデバイスのカラーフィルタのサブ画素ウェルに印刷することができ、またはLCDデバイスの導光板上に印刷することもできる。例として、赤色(R)サブ画素、緑色(G)サブ画素、および青色(B)サブ画素を含むRGB画素の赤色、緑色、および/または青色のサブ画素にこのフィルムを組み込むことができる。RGB画素の基本的な実施形態を図4に示す。この図では単一の画素のみが示されているが、この画素は複数の画素の大型アレイの一部となり得る。本実施形態では、画素100は、光学的に透明な基板102と、赤色(R)サブ画素103と、緑色(G)サブ画素104と、青色(B)サブ画素105とを含む。各サブ画素は、サブ画素ウェル(106、107、108)によって画定される。サブ画素ウェルは、フォトリソグラフィを用いてブラックマトリクス材料に設けることができる。ブラックマトリクス材料は、各サブ画素を分離画定し、サブ画素間の光漏れを防止する。ブラックマトリクス材料をその上に堆積させ、サブ画素を作製するのに適した基板として、ガラス、ポリマー、窒化ガリウム(GaN)が挙げられる。しかし、他の基板を使用することもできる。任意選択で、基板を窒化ケイ素またはポリマーコーティング等で表面コーティングしてもよい。
【0041】
光学的に透明な基板は、青色光を発するBLU109を用いて背面から照射される。BLUは、例えば、散光器を備えた青色LEDであっても、青色有機発光ダイオード(OLED)であってもよい。これに代えて、BLUは、GaN基板上に成長させたGaN系LEDでもよい。この場合、サブ画素ウェルは、GaN基板上に直接形成することができる。図4に示すように、単一の拡散バックライトを用いて全てのサブ画素を照射することができる。ただし、複数の分離したマイクロLEDを、各サブ画素の下方に位置する基板と一体化することも可能である。この場合、各サブ画素が独自の青色光源を有することになる。赤色サブ画素103は、赤色発光配位子被覆QD(黒丸で表示)と、配位子被覆散乱ナノ粒子(白丸で表示)とを含む赤色カラーフィルタ層110を含む。同様に、緑色サブ画素104は、緑色発光配位子被覆QD(黒丸で表示)と、配位子被覆散乱ナノ粒子(白丸で表示)とを含む緑色カラーフィルタ層111を含む。図示されていないが、青色サブ画素105はまた、配位子被覆散乱ナノ粒子、および任意選択で青色発光配位子被覆QDを含むカラーフィルタ層を含んでもよい。図4に示すデバイスでは、BLU109と基板102とが直接接触しているが、フィルタ層110、111がBLU109から放出される青色光の光路内にあるならば、何らかの層が介在してもよい。介在層の例としては、キャッピング層、薄膜封止層、緩衝層、および/または隣接層間の単なる空隙が挙げられる。
【0042】
図4に示す画素ウェルは、フォトリソグラフィ工程によりポリマー層上に形成することができる。この場合、フォトリソグラフィ工程によりポリマー層に開口を形成する。この開口は、後にインク封止特徴部として機能する。ただし、堆積されたインク組成物を封止するこの特徴部(封止特徴部)は、物理的なウェル(例:側壁と底面によって画定される)である必要はない。あるいは、封止特徴部は、インク組成物を封止し、サブ画素の境界を越えて拡散することを防止するいかなる基板構造および/または属性でもよい。例えば、封止特徴部は、ウェハ基板上の表面エネルギーが局所的に変化することによって実現することができる。その場合、表面エネルギーの局所的な変化により、基板上にインクが仮固定されることでインクの封止が実現される。物理的なインクの封止部は存在せず、基板のうち表面エネルギーの局所的な変化を持つ領域が封止特徴部として機能する。さらに別の選択肢では、基板全体の表面エネルギーを調整することによりインクの拡散を調整することで、ウェハの表面エネルギーによりインク組成物の封止を実現する。このため、物理的な画素ウェルが不要となる。したがって、本明細書に記載の画素は物理的なサブ画素ウェルを使用する実施形態として例示しているが、これらの実施形態におけるウェルは、他の封止特徴部に置き換えることができる。
【実施例
【0043】
本実施例では、マルチアミン頭部基とポリエチレンオキシド尾部基またはポリプロピレンオキシド尾部基とを有するナノ粒子配位子(本明細書では電荷制御剤(CCA: charge control agent)と称する)の合成について説明する。
【0044】
配位子合成の一実施形態で使用される反応スキームを図1に示す。この合成の第1ステップは、室温で実施されるマイケル付加反応である。第2の反応では、第一級アミンとメチルエステルを用いてアミドを形成する。この反応で生じる副生成物はメタノールのみであり、メタノールは、真空により合成物から容易に除去することができる。加熱によりこの反応を促進することができるが、トルエンまたはキシレン還流条件下で反応させなければならない。合成物の生成後、揮発性成分を除去するだけで合成物を単離することができる。
【0045】
配位子合成の別の実施形態で使用される反応スキームを図2に示す。このスキームは、無水コハク酸とポリエーテルモノアミン(Jeffamine(登録商標)M-600)からカルボン酸末端配位子(「M600SA」)を合成する工程から開始する。次の二工程において、M600SAのカルボン酸から形成された酸塩化物中間体を経てアミドを合成する。カルボン酸から酸塩化物を生成する方法はいくつかあるが、塩化チオニル(SOCl)を使用した場合、1当量の気体状のSOおよび気体状の塩酸(HCl)が副生成物として生じる。副生成物が形成されると、SOは溶液から放出される。反応溶媒の性質に応じて、HClは溶液中に留まることがある。マルチアミンを添加すると、酸塩化物との反応が進み、1当量のHClがさらに放出される。アミンがこの1当量のHClを吸収することにより平衡が進み、合成物が2当量の塩化アンモニウム塩で単離される。真空により溶媒を除去すると、水酸化アンモニウムと錯体化したHClの一部も除去され得る。アンモニウム塩は、HClガス(またはMeOH中のHCl等の等価な試薬)との反応により増量させてもよいし、塩化物を別の酸と反応させて酢酸塩やトリフラート等の別の対イオンで置換してもよい。さらに、電荷制御剤(CCA)は、合成に使用するポリアミンに応じて、表面結合部の1つから5つの複数の電荷を用いて合成することもできる。
【0046】
図1および図2に示すスキームでは、マルチアミン反応剤としてジエチレントリアミンを使用しているが、他のマルチアミン反応剤を用いて、頭部基に異なるポリアミン鎖を有する配位子を形成することもできる。アルドリッチ社から市販されているいくつかのマルチアミンの構造を以下に示す。これらのマルチアミンは、図1および図2に示す反応スキームにおいてジエチレントリアミンの代わりに使用して各配位子を形成することができる。反応の化学量論を用いて、得られる配位子の構造を求めることができる。例えば、分岐したマルチアミンの頭部基と単一の尾部基とを有する配位子および/または2つ以上の尾部基を有する配位子を形成するように化学量論を設計することができる。同様に、図1および図2の反応スキームに例えばJeffamine(登録商標)M-1000、M-2005、またはM-2070等の他のポリエーテルアミンを使用して各配位子を形成してもよい。
【0047】
本明細書では、用語「例示的」とは、例、例証、または例示として機能することを意味する。本明細書に「例示的」として記載されている態様または設計はいずれも、必ずしも他の態様または設計よりも好ましい、または有利であると解釈されるものではない。さらに、本開示では、特段の明記がない限り、「1つの」は「1つ以上の」を意味する。
【0048】
本発明の例示的実施形態の前述の説明は、例示および説明の目的で提示したものである。前述の説明は、網羅的なものでも、本発明を本開示の形態に厳密に限定するものでもない。上記の教示に照らせば、または本発明の実施により、上記例示的実施形態の改変および変更が可能である。本発明の原理を説明するために、また、本発明の実用的な応用例として、上記実施形態を選択し説明した。したがって、当業者であれば、種々の実施形態において本発明を利用し、また、企図された特定の使用に適した種々の改変を加えることができるであろう。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義されるものである。

図1
図2
図3
図4