(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】散乱トモグラフィ装置及び散乱トモグラフィ方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0507 20210101AFI20240502BHJP
G01N 22/02 20060101ALI20240502BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20240502BHJP
G01S 13/89 20060101ALI20240502BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A61B5/0507 100
G01N22/02 C
G01N22/00 S
G01S13/89
G01S7/02 210
(21)【出願番号】P 2021546534
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028886
(87)【国際公開番号】W WO2021053971
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019168675
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513034154
【氏名又は名称】株式会社 Integral Geometry Science
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】木村 憲明
(72)【発明者】
【氏名】木村 建次郎
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057524(WO,A1)
【文献】特開2005-323657(JP,A)
【文献】特開2001-184492(JP,A)
【文献】特表2001-516604(JP,A)
【文献】BOURQUI, Jeremie et al.,Bulk permittivity variations in the human breast over the menstrual cycle,2017 11th European Conference on Antennas and Propagation (EUCAP),2017年05月18日,pp.3476-3479,<Date of Conference: 19-24 March 2017>,<Date Added to IEEE Xplore: 18 May 2017>,<DOI: 10.23919/EuCAP
【文献】PORTER, Emily et al.,Study of daily tissue changes through breast monitoring with time-domain microwave radar,2015 9th European Conference on Antennas and Propagation (EuCAP),2015年08月31日,<Date of Conference: 13-17 April 2015>,<Date Added to IEEE Xplore: 31 August 2015>
【文献】木村建次郎,次世代乳癌スクリーニングのためのマイクロ波散乱場断層イメージングシステムの開発と臨床研究,日本放射線技術学会第75回総会学術大会予稿集,2019年04月11日,pp.126-127
【文献】前澤眞之 他,マイクロ波マンモグラフィとX線マンモグラフィのコントラストに関する研究,第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,2019年09月10日,11-168
【文献】木村建次郎 他,散乱逆問題の解析解発見とマイクロ波マンモグラフィの実現,Medical Science Digest,2019年07月25日,Vol45, No.8,pp.52(498)-54(500)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0507
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の外部から前記物体の内部へ電波を送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから前記物体の内部へ送信された前記電波の散乱波を前記物体の外部で受信する受信アンテナと、
複数の日のそれぞれにおいて前記散乱波の測定結果を取得することにより、前記複数の日において複数の測定結果を取得し、前記複数の測定結果に基づいて前記物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する情報処理回路とを備え、
前記情報処理回路は、
前記複数の測定結果のそれぞれについて、当該測定結果を境界条件として用いて、前記電波の送信位置及び前記散乱波の受信位置が入力されて前記受信位置における前記散乱波の量が出力される散乱場関数を算出し、
前記複数の測定結果のそれぞれについて、映像化対象位置が入力されて前記映像化対象位置の画像強度が出力される映像化関数であって、前記送信位置及び前記受信位置として前記映像化対象位置を前記散乱場関数に入力することで前記散乱場関数から出力される量に基づいて定められる映像化関数を算出し、
前記複数の測定結果のそれぞれについて前記映像化関数に基づいて中間画像を生成することにより、前記複数の測定結果について複数の中間画像を生成し、
前記複数の中間画像における各位置の画像強度の最小値を論理積により算出することにより前記再構成画像を生成する
散乱トモグラフィ装置。
【請求項2】
前記情報処理回路は、P
N(r)=b
1(r)∧b
2(r)∧・・・∧b
N(r)により前記再構成画像を生成し、
P
N(r)は前記再構成画像を表し、rは位置を表し、Nは前記複数の中間画像の個数を表し、1からNまでのiに関するb
iは前記映像化関数を表し、∧は論理積を表す
請求項1に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項3】
前記情報処理回路は、
前記映像化関数及び拡散係数に基づいて前記中間画像を生成し、
前記中間画像を生成する際、前記拡散係数が大きいほど前記中間画像において前記映像化対象位置の画像強度を空間的に大きく拡散させる
請求項1に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項4】
前記情報処理回路は、P
N(r)=e
νΔb
1(r)∧e
νΔb
2(r)∧・・・∧e
νΔb
N(r)により前記再構成画像を生成し、
P
N(r)は前記再構成画像を表し、rは位置を表し、Nは前記複数の中間画像の個数を表し、1からNまでのiに関するb
iは前記映像化関数を表し、1からNまでのiに関するe
νΔb
i(r)は前記中間画像を表し、νは前記拡散係数を表し、Δは前記散乱波の測定において位置ずれが生じる2方向に対応する2次元のラプラス作用素を表し、∧は論理積を表す
請求項3に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項5】
前記情報処理回路は、b
i(r)に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換を行った結果に対してexp(-ν(k
x
2+k
y
2))を掛け、exp(-ν(k
x
2+k
y
2))を掛けた結果に対して逆フーリエ変換を行うことにより、e
νΔb
i(r)を算出し、
exp(-ν(k
x
2+k
y
2))のk
x及びk
yは、b
iの前記2方向に対応する2つの波数を表す
請求項4に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項6】
前記拡散係数は、前記散乱波の測定位置の2乗平均誤差に比例する値として定められる
請求項3~5のいずれか1項に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項7】
前記拡散係数は、前記散乱波の測定位置の2乗平均誤差に等しい値として定められる
請求項3~5のいずれか1項に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項8】
前記拡散係数は、0として定められる
請求項3~5のいずれか1項に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項9】
前記拡散係数は、0よりも大きい値として定められる
請求項3~7のいずれか1項に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項10】
X座標、Y座標及びZ座標で構成される3次元空間において、前記送信アンテナの位置のX座標及びZ座標は、それぞれ、前記受信アンテナの位置のX座標及びZ座標と同じであり、前記散乱場関数は、
【数1】
で定められ、xは、前記送信位置及び前記受信位置のX座標を表し、y
1は、前記送信位置のY座標を表し、y
2は、前記受信位置のY座標を表し、zは、前記送信位置及び前記受信位置のZ座標を表し、kは、前記電波の波数を表し、前記散乱場関数におけるk
x、k
y1及びk
y2は、それぞれ、前記散乱場関数のx、y
1及びy
2に関する波数を表し、a(k
x、k
y1、k
y2)は、
【数2】
で定められ、Iは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが存在する前記送信位置及び前記受信位置のインデックスを表し、x
Iは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが存在する前記送信位置及び前記受信位置のX座標を表し、z
Iは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが存在する前記送信位置及び前記受信位置のZ座標を表し、
【数3】
は、x、y
1、y
2及びtにおける測定結果を表すΦ(x,y
1,y
2,t)のy1、y2及びtに関するフーリエ変換像を表し、tは、時間を表し、前記映像化関数は、
【数4】
で定められ、前記映像化関数のx、y及びzは、それぞれ、前記映像化対象位置のX座標、Y座標及びZ座標を表す
請求項1~9のいずれか1項に記載の散乱トモグラフィ装置。
【請求項11】
送信アンテナによって、物体の外部から前記物体の内部へ電波を送信するステップと、
受信アンテナによって、前記送信アンテナから前記物体の内部へ送信された前記電波の散乱波を前記物体の外部で受信するステップと、
複数の日のそれぞれにおいて前記散乱波の測定結果を取得することにより、前記複数の日において複数の測定結果を取得し、前記複数の測定結果に基づいて前記物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成するステップとを含み、
前記再構成画像を生成するステップでは、
前記複数の測定結果のそれぞれについて、当該測定結果を境界条件として用いて、前記電波の送信位置及び前記散乱波の受信位置が入力されて前記受信位置における前記散乱波の量が出力される散乱場関数を算出し、
前記複数の測定結果のそれぞれについて、映像化対象位置が入力されて前記映像化対象位置の画像強度が出力される映像化関数であって、前記送信位置及び前記受信位置として前記映像化対象位置を前記散乱場関数に入力することで前記散乱場関数から出力される量に基づいて定められる映像化関数を算出し、
前記複数の測定結果のそれぞれについて前記映像化関数に基づいて中間画像を生成することにより、前記複数の測定結果について複数の中間画像を生成し、
前記複数の中間画像における各位置の画像強度の最小値を論理積により算出することにより前記再構成画像を生成する
散乱トモグラフィ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電波の散乱波を用いて、物体の内部における要素を示す再構成画像を生成する散乱トモグラフィ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
電波の散乱波を用いて物体の内部における要素を示す再構成画像を生成する散乱トモグラフィ装置等に関する技術として、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載の技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、マイクロ波送出器から送出されたビームが検査対象に入射され、散乱したビームの振幅及び位相がマイクロ波検出器により検出される。そして、マイクロ波検出器の出力信号から誘電率の分布が計算され、検査対象における断層の像表示が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-66145号公報
【文献】国際公開第2014/125815号
【文献】国際公開第2015/136936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マイクロ波等の電波の散乱波を用いて、物体の内部における要素を示す再構成画像を生成することは容易ではない。具体的には、物体の内部の状態が既知である場合において、物体に入射された電波に対して散乱波として測定(計測)されるデータを求めることは、順方向問題と呼ばれ、容易である。一方、測定されたデータが既知である場合において、物体の内部の状態を求めることは、逆方向問題と呼ばれ、容易ではない。
【0006】
また、散乱波を用いて物体の内部における要素の存在を識別できても、その要素の特性を識別することは容易ではなく、例えば、その要素が物体の内部において永続的に存在するか否かを識別することは容易ではない。具体的には、永続的な悪性の腫瘍と、ランダムに発生し消滅する他の細胞とが、同じように電波を反射する場合、散乱波を用いて、人体の内部における要素が悪性の腫瘍であるか他の細胞であるかを識別することは容易ではない。
【0007】
そこで、本開示は、電波の散乱波を用いて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することができる散乱トモグラフィ装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る散乱トモグラフィ装置は、物体の外部から前記物体の内部へ電波を送信する送信アンテナと、前記送信アンテナから前記物体の内部へ送信された前記電波の散乱波を前記物体の外部で受信する受信アンテナと、複数の日のそれぞれにおいて前記散乱波の測定結果を取得することにより、前記複数の日において複数の測定結果を取得し、前記複数の測定結果に基づいて前記物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する情報処理回路とを備え、前記情報処理回路は、前記複数の測定結果のそれぞれについて、当該測定結果を境界条件として用いて、前記電波の送信位置及び前記散乱波の受信位置が入力されて前記受信位置における前記散乱波の量が出力される散乱場関数を算出し、前記複数の測定結果のそれぞれについて、映像化対象位置が入力されて前記映像化対象位置の画像強度が出力される映像化関数であって、前記送信位置及び前記受信位置として前記映像化対象位置を前記散乱場関数に入力することで前記散乱場関数から出力される量に基づいて定められる映像化関数を算出し、前記複数の測定結果のそれぞれについて前記映像化関数に基づいて中間画像を生成することにより、前記複数の測定結果について複数の中間画像を生成し、前記複数の中間画像における各位置の画像強度の最小値を論理積により算出することにより前記再構成画像を生成する。
【0009】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、又は、コンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの非一時的な記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、及び、記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、電波の散乱波を用いて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、月経周期中における黄体ホルモン(プロゲステロン)他の分泌を示すグラフである。
【
図2A】
図2Aは、月経周期における日に対する小葉の細胞増殖(有糸分裂)の度数を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、月経周期における日に対する細胞欠失(アポトーシス)の度数を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施の形態におけるアレイアンテナが曲面上で走査し散乱データを測定する例を示す概念図である。
【
図5】
図5は、実施の形態におけるマイクロ波マンモグラフィを用いて行われる時系列測定を示す概念図である。
【
図6】
図6は、実施の形態における画像強度の時系列データを示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施の形態における測定領域のずれを示す概念図である。
【
図8A】
図8Aは、実施の形態における画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図8B】
図8Bは、実施の形態における乳房内部を対象者の下側から上側へ見た半透明透視画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図8C】
図8Cは、実施の形態における乳房内部を対象者の前側から見た半透明透視画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図9A】
図9Aは、例1における1月11日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図9B】
図9Bは、例1における1月18日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図9C】
図9Cは、例1における1月25日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図9D】
図9Dは、例1における2月1日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図9E】
図9Eは、例1における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10A】
図10Aは、例2における6月1日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10B】
図10Bは、例2における6月5日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10C】
図10Cは、例2における6月8日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10D】
図10Dは、例2における6月12日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10E】
図10Eは、例2における6月15日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10F】
図10Fは、例2における6月19日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10G】
図10Gは、例2における6月22日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10H】
図10Hは、例2における6月26日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図10I】
図10Iは、例2における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11A】
図11Aは、例3における10月23日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11B】
図11Bは、例3における10月30日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11C】
図11Cは、例3における11月6日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11D】
図11Dは、例3における11月13日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11E】
図11Eは、例3における11月20日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11F】
図11Fは、例3における11月27日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11G】
図11Gは、例3における12月4日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11H】
図11Hは、例3における12月11日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図11I】
図11Iは、例3における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図12A】
図12Aは、例4における癌患者の測定データと2月26日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図12B】
図12Bは、例4における癌患者の測定データと2月5日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図12C】
図12Cは、例4における癌患者の測定データと2月12日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図12D】
図12Dは、例4における癌患者の測定データと2月19日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図12E】
図12Eは、例4における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。
【
図13】
図13は、実施の形態における散乱トモグラフィ装置の基本構成を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、実施の形態における散乱トモグラフィ装置の基本動作を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、実施の形態における散乱トモグラフィ装置の具体的な構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一態様に係る散乱トモグラフィ装置は、物体の外部から前記物体の内部へ電波を送信する送信アンテナと、前記送信アンテナから前記物体の内部へ送信された前記電波の散乱波を前記物体の外部で受信する受信アンテナと、複数の日のそれぞれにおいて前記散乱波の測定結果を取得することにより、前記複数の日において複数の測定結果を取得し、前記複数の測定結果に基づいて前記物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する情報処理回路とを備え、前記情報処理回路は、前記複数の測定結果のそれぞれについて、当該測定結果を境界条件として用いて、前記電波の送信位置及び前記散乱波の受信位置が入力されて前記受信位置における前記散乱波の量が出力される散乱場関数を算出し、前記複数の測定結果のそれぞれについて、映像化対象位置が入力されて前記映像化対象位置の画像強度が出力される映像化関数であって、前記送信位置及び前記受信位置として前記映像化対象位置を前記散乱場関数に入力することで前記散乱場関数から出力される量に基づいて定められる映像化関数を算出し、前記複数の測定結果のそれぞれについて前記映像化関数に基づいて中間画像を生成することにより、前記複数の測定結果について複数の中間画像を生成し、前記複数の中間画像における各位置の画像強度の最小値を論理積により算出することにより前記再構成画像を生成する。
【0013】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、散乱波の測定結果を境界条件として用いて算出される散乱場関数に基づいて、物体の内部における要素を示し得る中間画像を算出することができる。そして、散乱トモグラフィ装置は、複数の日における複数の測定結果を用いて得られる複数の中間画像から、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することができる。
【0014】
したがって、散乱トモグラフィ装置は、電波の散乱波を用いて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することができる。そして、これにより、例えば、散乱波を用いて、人体の内部における要素が、永続的な悪性の腫瘍であるか、ランダムに発生し消滅する他の細胞であるかを識別することが可能になる。
【0015】
例えば、前記情報処理回路は、PN(r)=b1(r)∧b2(r)∧・・・∧bN(r)により前記再構成画像を生成し、PN(r)は前記再構成画像を表し、rは位置を表し、Nは前記複数の中間画像の個数を表し、1からNまでのiに関するbiは前記映像化関数を表し、∧は論理積を表す。
【0016】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、映像化関数の出力に対応する中間画像の論理積によって、再構成画像をシンプルに生成することができる。
【0017】
また、例えば、前記情報処理回路は、前記映像化関数及び拡散係数に基づいて前記中間画像を生成し、前記中間画像を生成する際、前記拡散係数が大きいほど前記中間画像において前記映像化対象位置の画像強度を空間的に大きく拡散させる。
【0018】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、画像強度を拡散係数によって拡散させることができる。したがって、散乱トモグラフィ装置は、永続的な要素が散乱波の測定における位置ずれによって再構成画像から消失することを拡散係数によって抑制することができる。
【0019】
また、例えば、前記情報処理回路は、PN(r)=eνΔb1(r)∧eνΔb2(r)∧・・・∧eνΔbN(r)により前記再構成画像を生成し、PN(r)は前記再構成画像を表し、rは位置を表し、Nは前記複数の中間画像の個数を表し、1からNまでのiに関するbiは前記映像化関数を表し、1からNまでのiに関するeνΔbi(r)は前記中間画像を表し、νは前記拡散係数を表し、Δは前記散乱波の測定において位置ずれが生じる2方向に対応する2次元のラプラス作用素を表し、∧は論理積を表す。
【0020】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、確率論的方法に基づく関係式によって画像強度を適切に拡散させることができる。
【0021】
また、例えば、前記情報処理回路は、bi(r)に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換を行った結果に対してexp(-ν(kx
2+ky
2))を掛け、exp(-ν(kx
2+ky
2))を掛けた結果に対して逆フーリエ変換を行うことにより、eνΔbi(r)を算出し、exp(-ν(kx
2+ky
2))のkx及びkyは、biの前記2方向に対応する2つの波数を表す。
【0022】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、画像強度を高速にかつ適切に拡散させることができる。
【0023】
また、例えば、前記拡散係数は、前記散乱波の測定位置の2乗平均誤差に比例する値として定められる。
【0024】
これにより、拡散係数が、測定位置の誤差の大きさに基づいて定められ得る。そして、散乱トモグラフィ装置は、測定位置の誤差の大きさに基づいて、画像強度を適切に拡散させることができる。
【0025】
また、例えば、前記拡散係数は、前記散乱波の測定位置の2乗平均誤差に等しい値として定められる。
【0026】
これにより、拡散係数が、測定位置の誤差の大きさに基づいてシンプルに定められ得る。そして、散乱トモグラフィ装置は、測定位置の誤差の大きさに基づいて、画像強度を適切に拡散させることができる。
【0027】
また、例えば、前記拡散係数は、0として定められる。
【0028】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、拡散係数を用いない場合と同様に、映像化関数の出力に対応する中間画像の論理積によって、再構成画像をシンプルに生成することができる。
【0029】
また、例えば、前記拡散係数は、0よりも大きい値として定められる。
【0030】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、画像強度を0よりも大きい拡散係数によってより確実に拡散させることができる。したがって、散乱トモグラフィ装置は、永続的な要素が散乱波の測定における位置ずれによって再構成画像から消失することを0よりも大きい拡散係数によってより確実に抑制することができる。
【0031】
また、例えば、X座標、Y座標及びZ座標で構成される3次元空間において、前記送信アンテナの位置のX座標及びZ座標は、それぞれ、前記受信アンテナの位置のX座標及びZ座標と同じであり、前記散乱場関数は、
【数1】
で定められ、xは、前記送信位置及び前記受信位置のX座標を表し、y
1は、前記送信位置のY座標を表し、y
2は、前記受信位置のY座標を表し、zは、前記送信位置及び前記受信位置のZ座標を表し、kは、前記電波の波数を表し、前記散乱場関数におけるk
x、k
y1及びk
y2は、それぞれ、前記散乱場関数のx、y
1及びy
2に関する波数を表し、a(k
x、k
y1、k
y2)は、
【数2】
で定められ、Iは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが存在する前記送信位置及び前記受信位置のインデックスを表し、x
Iは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが存在する前記送信位置及び前記受信位置のX座標を表し、z
Iは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが存在する前記送信位置及び前記受信位置のZ座標を表し、
【数3】
は、x、y
1、y
2及びtにおける測定結果を表すΦ(x,y
1,y
2,t)のy1、y2及びtに関するフーリエ変換像を表し、tは、時間を表し、前記映像化関数は、
【数4】
で定められ、前記映像化関数のx、y及びzは、それぞれ、前記映像化対象位置のX座標、Y座標及びZ座標を表す。
【0032】
これにより、散乱トモグラフィ装置は、送信アンテナの位置のX座標及びZ座標がそれぞれ受信アンテナの位置のX座標及びZ座標と同じであることに基づいて定められる上記の散乱場関数及び上記の映像化関数に基づいて適切に中間画像を生成することができる。
【0033】
本開示の一態様に係る散乱トモグラフィ方法は、送信アンテナによって、物体の外部から前記物体の内部へ電波を送信するステップと、受信アンテナによって、前記送信アンテナから前記物体の内部へ送信された前記電波の散乱波を前記物体の外部で受信するステップと、複数の日のそれぞれにおいて前記散乱波の測定結果を取得することにより、前記複数の日において複数の測定結果を取得し、前記複数の測定結果に基づいて前記物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成するステップとを含み、前記再構成画像を生成するステップでは、前記複数の測定結果のそれぞれについて、当該測定結果を境界条件として用いて、前記電波の送信位置及び前記散乱波の受信位置が入力されて前記受信位置における前記散乱波の量が出力される散乱場関数を算出し、前記複数の測定結果のそれぞれについて、映像化対象位置が入力されて前記映像化対象位置の画像強度が出力される映像化関数であって、前記送信位置及び前記受信位置として前記映像化対象位置を前記散乱場関数に入力することで前記散乱場関数から出力される量に基づいて定められる映像化関数を算出し、前記複数の測定結果のそれぞれについて前記映像化関数に基づいて中間画像を生成することにより、前記複数の測定結果について複数の中間画像を生成し、前記複数の中間画像における各位置の画像強度の最小値を論理積により算出することにより前記再構成画像を生成する。
【0034】
これにより、散乱波の測定結果を境界条件として用いて算出される散乱場関数に基づいて、物体の内部における要素を示し得る中間画像を算出することが可能になる。そして、複数の日における複数の測定結果を用いて得られる複数の中間画像から、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することが可能になる。
【0035】
したがって、電波の散乱波を用いて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することが可能になる。そして、これにより、例えば、散乱波を用いて、人体の内部における要素が、永続的な悪性の腫瘍であるか、ランダムに発生し消滅する他の細胞であるかを識別することが可能になる。
【0036】
以下、図面を用いて、実施の形態について説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示す。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。
【0037】
(実施の形態)
本実施の形態における散乱トモグラフィ装置は、電波の散乱波を用いて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する。以下、本実施の形態における散乱トモグラフィ装置をその基礎となる技術及び理論なども含めて、詳細に説明する。なお、以下では、主に、マイクロ波マンモグラフィが想定され、電波にはマイクロ波が用いられ、物体には乳房が用いられているが、適用分野はマイクロ波マンモグラフィに限定されず、マイクロ波とは異なる電波、及び、乳房とは異なる物体が用いられてもよい。
【0038】
<I 概要>
本開示は、時系列確率論を用いて、悪性の腫瘍等を特定する方法、又は、腫瘍等が存在しないことを確認する方法を提供する。
【0039】
例えば、月経周期を有する人に対して数回の測定が実施される。そして、時系列確率論的方法を用いて、複数回の測定結果から、乳房内の長期的又は中期的に不変な要素を示す映像が抽出される。具体的には、例えば、散乱場理論に基づいて、一回の測定結果から乳房内の要素を示す3D画像が得られる。複数回の測定結果から複数の3D画像が得られる。こうした画像の時系列データから確率偏微分方程式(時系列確率偏微分方程式とも呼ぶ)を用いて最終的な再構成画像が得られる。
【0040】
本開示における時系列確率論的方法は、確率偏微分方程式に基づく解析方法である。時系列確率論的方法は、既存の散乱場理論に組み合わされてもよい。具体的には、本開示における時系列確率論的方法は、上述された特許文献2又は特許文献3等に記載の散乱場理論に組み合わされてもよい。
【0041】
本発明者らは、現在までに、散乱場理論と時系列確率論的方法との組み合わせに基づく臨床実験を20歳台前半から40歳台後半までの合計5人について行った。各人の1回の測定結果から得られる3D画像には乳房内の何らかの要素が映し出される場合もあったが、全員について悪性腫瘍が全く見当たらないという結果が得られた。
【0042】
散乱場理論に基づくマイクロ波マンモグラフィでは、高い分解能及び高いコントラストで映像化対象要素が映し出される。典型的には、この映像化対象要素は、生成と消滅とを短期間に行う細胞、又は、長中期的に不変な腫瘍(又は単調増殖する腫瘍)である。散乱場理論と時系列確率論的方法との組み合わせは、特に映像化対象要素が上記のいずれかであるというシンプルな状況で効力を発揮し、実用上強力な診断技術を構成する。
【0043】
<II 基礎となる生理学的予備知識と考察>
図1は、月経周期中における黄体ホルモン(プロゲステロン)他の分泌を示すグラフである。
【0044】
人の乳房の内部では、細胞増殖(有糸分裂)及び細胞欠失(アポトーシス)が生じている。細胞増殖(有糸分裂)及び細胞欠失(アポトーシス)は、月経周期に伴うホルモン環境、すなわちエストロゲン及びプロゲステロンの分泌量に依存すると想定される。
【0045】
図2Aは、月経周期における日毎の小葉の細胞増殖(有糸分裂)の度数を示すグラフである。
図2Bは、月経周期における日毎の細胞欠失(アポトーシス)の度数を示すグラフである。
【0046】
図2A及び
図2Bは、「D.J.P.FERGUSON AND T.J.ANDERSON 『MORPHOLOGICAL EVALUATION OF CELL TURNOVER IN RELATION TO THE MENSTRUAL CYCLE IN THE “RESTING” HUMAN BREAST』 Br.J.Cancer (1981) 44,177」(非特許文献)に基づく。
【0047】
図3は、小葉及び乳管を示す概念図である。乳腺は、複数の乳腺葉で構成される。乳腺葉は、さらに、小葉と乳管とで構成される。小葉は、母乳を生成し、乳管は、母乳を乳頭まで運ぶ。
【0048】
図2Aに示されているように、特に、小葉の細胞増殖の度数は、月経周期の終わりへ日が進むにつれて上昇する。そして、小葉の細胞増殖の度数は、28日の月経周期の25日目に高い数値となる。この高い数値は、小葉の数の増加に関連する。
【0049】
マイクロ波マンモグラフィによって得られる測定結果にも小葉の細胞増殖が影響する。誘電率が高い小葉の増加は悪性腫瘍の発見に明らかに障害となる。一方、
図2Aからも判るように、月経周期の4日目~19日目では、細胞増殖が活発とは言えないので、この時期はマイクロ波マンモグラフィを用いた測定に適している。しかしながら、実際には、この時期においても小葉から多少の反射信号があるので、このような反射信号が小さな腫瘍の発見には障害となる。
【0050】
また、月経周期の中で短期間に細胞増殖(有糸分裂)及び細胞欠失(アポトーシス)が行われ、かつ、その現象は、乳房内のかなり広い領域のどこででも生じ得る。このような現象によって生じる小葉が、マイクロ波マンモグラフィによって得られる測定結果において局所的でかなり強い信号として現れる。
【0051】
小葉の細胞増殖が発生する場所にはランダム性があり、小葉の細胞増殖は、乳房内の全体で一様に広がって起きる現象ではなく、局所的(離散的)に発生する現象である。つまり、小葉細胞は、局所的かつランダムに発生し、消滅すると想定される。
【0052】
マイクロ波マンモグラフィで映像化される要素は、このランダムに発生し消滅する小葉細胞、又は、一度できると長期間消滅しない腫瘍等(繊維線種等の良性の腫瘍を含む)であると想定される。本開示の時系列確率論的方法では、これらの違いを最大限に利用して腫瘍等が抽出される。
【0053】
時系列確率論的方法は、上記に述べた月経周期における特定の時期を狙った方法を大きく凌駕する強力な方法である。月経周期を有する若年者に関して、実験では、僅か数回の時系列の測定でも、健常であるか否かが確実に決定された。
【0054】
なお、マイクロ波マンモグラフィ以外の乳房内測定技術にこの時系列確率論的方法が適用できるか否かについて、X線マンモグラフィでは、コラーゲン等が、映像において強く、かつ、長期安定的に表れるため、適用が難しい。超音波エコー装置では、機械的インピーダンスをマニュアルで整合させて測定が行われるため、再現性を高めることが極めて困難であり、また、長期安定的な乳房内の層界から反射が多い。また、乳房内の層界が測定時に自由に変形するので、やはり適用が困難である。
【0055】
また、MRI(核磁気共鳴画像法)又はPET(ポジトロン断層法)での測定に時系列確率論的方法を適用することについても、課題が多い。
【0056】
<III 散乱場理論概要(曲面上のマルチスタティック逆散乱理論)>
この章は、測定結果を解析して、3D画像を取得するための散乱場理論を示す。散乱場理論で得られた3D画像は、次のステップにおいて、確率偏微分方程式を用いて解析される。なお、適宜、特許文献2又は特許文献3に記載の散乱場理論が適用されてもよい。
【0057】
図4は、アレイアンテナが曲面上で走査し散乱データを測定する例を示す概念図である。アレイアンテナ401は、曲面上で走査するマルチスタティックアレイアンテナであって、送信アンテナT及び受信アンテナRを含む。曲面上で走査するマルチスタティックアレイアンテナに対応する散乱場理論(曲面上のマルチスタティック逆散乱理論とも呼ぶ)には、様々なバリエーションがある。
【0058】
ここで例として散乱場理論に用いられる曲面は、x方向に対して有限の曲率があり、y方向に対して曲率が0であるという比較的シンプルな曲面である。また、この例では、y方向に沿って直線状に配置されたアレイアンテナ401が、x方向へ曲線に沿って走査する。
【0059】
アレイアンテナ401は、X座標が同じ直線上に配置されている。ガウス曲率が0である曲面上にある2つの直交する主曲率方向のうち、曲率が0のy方向が、アレイアンテナ401の送信アンテナT及び受信アンテナRが並ぶ方向であり、もう一方のx方向がアンテナ走査方向である。この例は、マイクロ波マンモグラフィへの応用ではかなり汎用的かつ実用的な例である。なお、アレイアンテナ401は、複数の送信アンテナTを備えていてもよいし、複数の受信アンテナRを備えていてもよい。
【0060】
点P1(x,y1,z)から放射された電波は、点P(ξ,η,ζ)で反射し、点P2(x,y2,z)で受信される。点Pが領域D全体のあらゆる位置に存在するとき、点P2で受信される信号は、次式(3-1)で表現される。
【0061】
【0062】
式(3-1)において、時間の因子は、exp(-iωt)に比例すると仮定されている。また、ωは、電波の角周波数を表し、kは、電波の波数を表し、ε(ξ、η、ζ)は、P(ξ、η、ζ)における反射率を表す。また、ω=ckが成立する。ここで、cは、電波の伝搬速度である。式(3-1)の関数は、散乱場関数とも表現され得る。ε(ξ、η、ζ)が未知である状態では、式(3-1)の散乱場関数は、未知である。
【0063】
式(3-1)の散乱場関数は、同一のx座標及びz座標を有する任意の送信位置及び任意の受信位置が入力されて受信位置における散乱波の量が出力される関数と解釈され得る。散乱場関数に入力される送信位置及び受信位置が送信アンテナTの位置及び受信アンテナRの位置にそれぞれ一致する場合、散乱場関数の出力は、受信アンテナRによって得られる測定データに一致する。
【0064】
そして、散乱場関数にt→0、x→x、y1→y2(=y)、及び、z→zを適用することで、(x,y,z)において電波送信後にそこで瞬時に受信される散乱波の量、すなわち、(x,y,z)における反射の量が示されると想定される。
【0065】
具体的には、例えば、散乱場関数に送信位置及び受信位置として任意の同じ位置を入力することで散乱場関数から散乱波の量として出力される値は、その位置での反射が大きいほど、大きいと想定される。つまり、散乱場関数に送信位置及び受信位置として任意の同じ位置を入力することで散乱場関数から出力される値は、その位置における反射の量を示し得る。物体の内部を示す画像を生成するための映像化関数は、このような量を示す関数として以下のように導出される。
【0066】
次式(3-2)は、式(3-1)の散乱場関数が満たす方程式である。
【0067】
【0068】
式(3-2)に示された方程式の一般解として次式(3-3)が得られる。つまり、散乱場関数として次式(3-3)が得られる。
【0069】
【0070】
ここで、k
x、k
y1及びk
y2は、それぞれ、x、y
1及びy
2に関する散乱場関数の波数を表す。測定対象領域の境界上で測定した散乱データ(つまり測定結果)がΦ(x,y
1,y
2,t)と表現され、Φ(x,y
1,y
2,t)のy
1、y
2、tに関するフーリエ変換像が
【数8】
と表現される場合、式(3-3)のa(k
x,k
y1,k
y2)として次式(3-4)が得られる。
【0071】
【0072】
上記においてxIで表されるxjは、送信アンテナT及び受信アンテナRの共通のX座標を表し、上記においてzIで表されるzjは、送信アンテナT及び受信アンテナRの共通のZ座標を表す。xj及びzjは、次式(3-5)によって示される関係を満たす。なお、次式(3-5)における関数fは、境界面の形状関数である。
【0073】
【0074】
式(3-3)及び式(3-4)が、測定結果を境界条件として用いて算出される散乱場関数である。最終的に映像化関数として次式(3-6)が得られる。
【0075】
【0076】
ρ(r)は、画像を表す。より具体的には、rは、映像化対象位置を表し、ρ(r)は、その映像化対象位置の画像強度を表す。映像化対象位置の画像強度は、映像化対象位置に対する散乱場関数の出力、つまり、映像化対象位置での反射の大きさに対応する。例えば、乳房内の要素が電波を反射するため、乳房内の要素の位置において大きい画像強度が得られる。
【0077】
式(3-6)のρ(r)が、次章の確率場を構成する。また、i回目の測定に対応するt=tiにおけるρ(r)は、bi(r)と記載される。
【0078】
<IV 確率偏微分方程式>
<IV-1 時系列測定>
図5は、同一人の同一領域に対してマイクロ波マンモグラフィを用いて行われる時系列測定(時系列3D測定とも呼ぶ)を示す概念図である。
【0079】
時系列測定の最も標準的な方法は、月経周期に対応する約28日を4週と見做し、毎週1回の測定を行い、4週間ないし5週間において合計4回ないし5回の測定を行う方法である。こうして得られた3D画像ρ(r)は、bi(r)(例えばi=1,2,・・・,5)と定められる。
【0080】
<IV-2 基礎方程式>
tが時間を表し、r=(x,y,z)が3次元ベクトルを表し、ρ(t,r)が画像強度(具体的には時系列確率的画像強度)を表すとき、画像強度の時間的空間的変化は、次式(4-1)のような確率偏微分方程式で記述される。
【0081】
【0082】
ここで、νは、拡散係数を表し、各測定の度に入ってくるノイズに対応する。ノイズは、ランダムと仮定され、目盛の位置のずれ、及び、プローブの走査のずれ等に伴う測定領域のずれによって発生する。また、δは、デルタ関数を表す。また、∧は、論理積を表す記号であって、次式(4-2)のような最小値を意味する。
【0083】
【0084】
式(4-1)の方程式におけるρ(ti-,r)は、次式(4-3)のような下極限を意味する。
【0085】
【0086】
αは、ν及びΔt=ti-ti-1に依存した定数を表し、α=1であってもよい。bi(r)は、時間tiにおける空間座標rの位置の確率的画像強度を表す。
【0087】
つまり、式(4-1)における右辺の第1項は、測定領域のずれに対応する。式(4-1)における右辺の第2項は、測定時の画像強度の変化に対応し、画像強度の固定分と全体分との差(変化分)に対応する。画像強度の時間的空間的変化は、これらの足し合わせに対応する。
【0088】
図6は、r=r
0における確率的画像強度の時系列データを示すグラフであって、r=r
0における離散的なb
j(r
0)(j=1,2,3,・・・,N)を示す。b
i(r)は、マイクロ波マンモグラフィにおけるi回目の測定結果から得られる画像である。上述された散乱場理論では、b
i(r)は、ρ(r)と記載されている。つまり、b
iは、映像化関数を表し、b
i(r)は、映像化関数によって得られる画像を表す。
【0089】
式(4-1)で示される確率偏微分方程式をt=tiの近傍で積分することにより、次の式(4-4)が得られる。
【0090】
【0091】
式(4-4)の積分を実行することにより、次式(4-5)が得られる。
【0092】
【0093】
Δt=ti-ti-1とすると、Δt→0の極限では次式(4-6)が成立する。
【0094】
【0095】
式(4-5)及び式(4-6)に従って、次式(4-7)が成立する。
【0096】
【0097】
また、tがtiの近傍ではない場合、式(4-1)に従って、次式(4-8)が成立する。
【0098】
【0099】
<IV-3 確率偏微分方程式の解>
式(4-1)の確率偏微分方程式の特異点t=ti以外での解、つまり、式(4-8)の解を次式(4-9)のようなフーリエ変換を用いて求める。
【0100】
【0101】
ここで、Q(t,k)は、ρ(t,r)のフーリエ変換像を表す。
【0102】
【数21】
は、ρ(t,x,y,z)のフーリエ変換像を表す。k
x、k
y及びk
zは、それぞれ、x、y及びzに関する波数を表す。式(4-9)の通り、Q(t,k)のkは、(k
x,k
y,k
z)に対応する。式(4-8)及び式(4-9)に基づいて、次式(4-10)の微分方程式が得られる。
【0103】
【0104】
式(4-10)の微分方程式は、容易に解け、次式(4-11)のような解が得られる。ここで、c(kx,ky,kz)は、t=tj→tiにおけるQ(t,k)の値、つまり、tj→tiの極限におけるQ(tj,k)に対応する。
【0105】
【0106】
式(4-11)に基づいて、式(4-1)の確率偏微分方程式の特異点t=ti以外での解として、次式(4-12)が得られる。
【0107】
【0108】
<V 拡散項νの物理的意味>
図7は、測定領域のずれを示す概念図である。例えば、片面粘着の薄いシールを被検体に貼付し、貼付されたシールの表面上で測定が行われる。つまり、貼付されたシールの領域が、測定領域として用いられる。また、例えば、このシールは、電波が透過する透明又は半透明の部材(具体的には合成樹脂等)で構成されていている。そして、シールには、32×32のます目等が印刷されており、時系列測定において、被検体の乳頭又はほくろ等が同じます目に位置するように、シールは貼付される。
【0109】
ここで、時系列測定における測定領域は、Di(i=1,2,3,・・・,N)と表現される。上記のようなシールのます目が用いられていても、各Diを被検体の同じ場所にすることは難しい。毎回ずれが発生する。このずれは、ランダムと仮定され、拡散項で表現される。
【0110】
例えば、Δt毎に測定領域が(x,y)平面内でランダムにΔσずれる。Δσは、Δσ=(Δx,Δy)と表現されてもよい。また、Δσは、回転及び平行移動の組み合わせに対応してもよい。
【0111】
上記のように2次元平面内でずれが発生するため、式(4-8)のラプラシアンΔが2次元演算子になっている。測定領域のずれに関する式(4-8)の基本解は、次式(5-1)のように表現される。
【0112】
【0113】
測定領域のずれは、測定の回数と共に増加するような特性を有していない。測定領域は、おおむね同じ場所の近くで位置の誤差を伴いながらランダムに変化する。測定領域のずれは、正規分布に従っていると仮定すれば、よく知られたブラウン運動と同様になり、測定領域のずれの分布関数は拡散方程式で表される。ここでr0を基準位置、rをブラウン運動の粒子位置とすると、これらの2乗平均誤差がνtに比例する。この関係は、次式(5-2)のように表現される。
【0114】
【0115】
上記の通り、測定領域のずれは、測定の回数と共に増加するような特性を有していない。したがって、式(5-2)のtは、ある測定時から次の測定時までの時間を表していると解釈され得る。例えば、ある測定時がt=0であり、その次の測定時がt=1であると定められ得る。この場合、式(5-2)から次式(5-3)が得られる。
【0116】
【0117】
例えば、拡散係数νを2回の測定間での測定領域のずれ量と見積もることが可能である。
【0118】
<VI 腫瘍と小葉細胞とを識別する方法>
式(4-8)の解は、形式的に次式(6-1)のように定められる。
【0119】
【0120】
また、時系列測定における各測定間の仮想的な時間間隔は、δt=1(つまりti-ti-1=1)と定められる。そして、時系列測定画像がbi(r)(i=1,2,3,・・・,N)で表される場合において、次式(6-2)は、測定時の測定領域の誤差を考慮した時系列測定画像を表す。つまり、次式(6-2)は、測定時の測定領域の誤差を考慮して各位置の画像強度をその周辺に拡散させた時系列測定画像を表す。
【0121】
【0122】
eνΔbi(r)は、式(4-12)に基づいて、x,y及びzについてbi(r)のフーリエ変換を行い、exp(-ν(kx
2+ky
2))を掛けて、逆フーリエ変換を行うことにより得られる。つまり、eνΔbi(r)は、次式(6-3)により得られる。
【0123】
【0124】
最終的な腫瘍確率画像は、式(4-7)に基づく次式(6-4)により得られる。
【0125】
【0126】
式(6-4)では、νを明瞭に定義するため、νの式(5-3)の比例関係に等式が用いられている。
【0127】
時系列測定画像における各位置の画像強度の最小値を算出することによって、腫瘍確率画像において、一時的な小葉が消え、永続的な腫瘍が残る。一方、測定領域にずれがある場合、位置のずれによって、腫瘍確率画像から腫瘍も消失してしまう可能性がある。時系列測定画像における各位置の画像強度をその周辺に拡散させることで、測定領域にずれがある場合でも、このような消失が抑制される。
【0128】
<VII 実データを用いた検証>
以上の理論の有効性を臨床実験データ及び臨床実験データに基づく合成データを用いて検証する。以下に例1~4の4つの例を示す。
【0129】
例1~3の対象者は全員健常者と思われている若年層である。時系列臨床実験において、測定頻度は、月経周期を考慮して、4~8回/人である。各人のデータは、全て同一の画像強度で整理されている。つまり、画像間で画像強度の尺度が揃えられており、画像間で画像強度の最大値及び最小値がそれぞれ揃えられている。解析では最も理想的なν=0が用いられている。
【0130】
例4は、癌がある場合のシミュレーションの例である。癌患者及び健常者の2名の臨床実験データに基づいて作成された合成データが検証に用いられている。具体的には、癌患者の1回の臨床実験データを、健常者の4回の時系列臨床実験データにそれぞれ重畳して作成された合成データが用いられている。
【0131】
【0132】
図8Aは、乳房の内部を示す画像の表示例を示すイメージ図である。
図8Aのように、乳房の内部が半透明かつ3次元で表示される。画像の上側が対象者の上側に対応し、画像の下側が対象者の下側に対応する。そして、画像の左側が対象者の右側に対応し、画像の右側が対象者の左側に対応する。
【0133】
図8Bは、乳房の内部を対象者の下側から上側へ見た半透明透視画像の表示例を示すイメージ図である。画像の左側が対象者の右側に対応し、画像の右側が対象者の左側に対応する。
【0134】
図8Cは、乳房内部を対象者の前側から見た半透明透視画像の表示例を示すイメージ図である。画像の左側が対象者の右側に対応し、画像の右側が対象者の左側に対応する。
【0135】
図8A、
図8B又は
図8Cのように表示される画像を測定毎に取得することで、時系列の複数の画像が取得される。そして、時系列の複数の画像から腫瘍等を識別するための腫瘍確率画像が生成される。
【0136】
<VII-1 例1>
図9Aは、例1における1月11日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
1(r)に対応する。
【0137】
図9Bは、例1における1月18日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
2(r)に対応する。
【0138】
図9Cは、例1における1月25日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
3(r)に対応する。
【0139】
図9Dは、例1における2月1日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
4(r)に対応する。また、例1において、2月1日は、月経周期の開始日に対応する。
【0140】
図9Eは、例1における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたρ
4(r)に対応する。例1において、腫瘍等は全く見られないことが腫瘍確率画像によって識別される。
【0141】
<VII-2 例2>
図10Aは、例2における6月1日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
1(r)に対応する。また、例4において、6月1日は、月経周期の開始日に対応する。
【0142】
図10Bは、例2における6月5日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
2(r)に対応する。
【0143】
図10Cは、例2における6月8日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
3(r)に対応する。
【0144】
図10Dは、例2における6月12日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
4(r)に対応する。
【0145】
図10Eは、例2における6月15日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
5(r)に対応する。
【0146】
図10Fは、例2における6月19日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
6(r)に対応する。
【0147】
図10Gは、例2における6月22日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
7(r)に対応する。
【0148】
図10Hは、例2における6月26日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
8(r)に対応する。
【0149】
図10Iは、例2における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたρ
8(r)に対応する。例2において、腫瘍等は全く見られないことが腫瘍確率画像によって識別される。
【0150】
<VII-3 例3>
図11Aは、例3における10月23日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
1(r)に対応する。
【0151】
図11Bは、例3における10月30日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
2(r)に対応する。
【0152】
図11Cは、例3における11月6日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
3(r)に対応する。
【0153】
図11Dは、例3における11月13日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
4(r)に対応する。
【0154】
図11Eは、例3における11月20日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
5(r)に対応する。
【0155】
図11Fは、例3における11月27日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
6(r)に対応する。
【0156】
図11Gは、例3における12月4日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
7(r)に対応する。
【0157】
図11Hは、例3における12月11日の測定データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
8(r)に対応する。
【0158】
図11Iは、例3における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたρ
8(r)に対応する。例3において、腫瘍等は全く見られないことが腫瘍確率画像によって識別される。
【0159】
<VII-4 例4>
図12Aは、例4における癌患者の測定データと2月26日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
1(r)に対応する。
【0160】
図12Bは、例4における癌患者の測定データと2月5日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
2(r)に対応する。
【0161】
図12Cは、例4における癌患者の測定データと2月12日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
3(r)に対応する。
【0162】
図12Dは、例4における癌患者の測定データと2月19日の健常者の測定データとの合成データから得られる再構成画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたb
4(r)に対応する。また、例4において、2月19日は、健常者の月経周期の開始日から10日以内の日に対応する。
【0163】
図12Eは、例4における腫瘍確率画像の表示例を示すイメージ図である。この画像は、上述されたρ
4(r)に対応する。例4において、乳房の右側に腫瘍があることが腫瘍確率画像によって識別される。
【0164】
<VIII 散乱トモグラフィ装置の構成及び動作>
上述された内容に基づいて、以下に、電波の散乱波を用いて物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する散乱トモグラフィ装置の構成及び動作を示す。ここで、永続的な要素は、例えば、4週間等の所定期間に消滅しない要素である。
【0165】
図13は、本実施の形態における散乱トモグラフィ装置の基本構成図である。
図13に示された散乱トモグラフィ装置100は、送信アンテナ101、受信アンテナ102及び情報処理回路103を備える。また、散乱トモグラフィ装置100は、ディスプレイ104を備えていてもよい。
【0166】
送信アンテナ101は、電波を送信する回路である。具体的には、送信アンテナ101は、物体の外部から物体の内部へ電波を送信する。電波は、マイクロ波、ミリ波又はテラヘルツ波等であってもよい。物体は、生体、製造物又は自然素材などであってもよい。特に、物体は、乳房であってもよい。散乱トモグラフィ装置100は、複数の送信アンテナ101を備えていてもよい。
【0167】
受信アンテナ102は、電波の散乱波等である電波を受信する回路である。具体的には、受信アンテナ102は、物体の内部へ送信された電波の散乱波を物体の外部で受信する。散乱トモグラフィ装置100は、複数の受信アンテナ102を備えていてもよい。また、受信アンテナ102は、送信アンテナ101と実質的に同じ位置に配置されてもよいし、送信アンテナ101とは異なる位置に配置されてもよい。
【0168】
また、送信アンテナ101と受信アンテナ102とは、マルチスタティックアンテナを構成していてもよいし、モノスタティックアンテナを構成していてもよい。
【0169】
情報処理回路103は、情報処理を行う回路である。具体的には、情報処理回路103は、複数の日において送信アンテナ101及び受信アンテナ102によって得られる複数の測定結果に基づいて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する。例えば、情報処理回路103は、測定結果に基づいて再構成画像を生成する際に、上述された理論に示される演算処理を行う。
【0170】
また、情報処理回路103は、コンピュータ、又は、コンピュータのプロセッサであってもよい。情報処理回路103は、メモリからプログラムを読み出し、プログラムを実行することにより情報処理を行ってもよい。また、情報処理回路103は、複数の日における複数の測定結果に基づいて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する専用回路であってもよい。
【0171】
また、情報処理回路103は、生成された再構成画像をディスプレイ104等に出力してもよい。例えば、情報処理回路103は、再構成画像をディスプレイ104に出力することにより、再構成画像をディスプレイ104に表示してもよい。あるいは、情報処理回路103は、再構成画像をプリンタ(図示せず)に出力することにより、プリンタを介して再構成画像を印刷してもよい。あるいは、情報処理回路103は、有線又は無線の通信によって再構成画像を電子データとして他の装置(図示せず)に送信してもよい。
【0172】
ディスプレイ104は、液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置である。なお、ディスプレイ104は、任意の構成要素であって、必須の構成要素ではない。また、ディスプレイ104は、散乱トモグラフィ装置100を構成しない外部の装置であってもよい。
【0173】
図14は、
図13に示された散乱トモグラフィ装置100の基本動作を示すフローチャートである。具体的には、
図13に示された散乱トモグラフィ装置100の送信アンテナ101、受信アンテナ102及び情報処理回路103が、
図14に示された動作を行う。
【0174】
まず、送信アンテナ101は、物体の外部から物体の内部へ電波を送信する(S201)。次に、受信アンテナ102は、物体の内部へ送信された電波の散乱波を物体の外部で受信する(S202)。そして、情報処理回路103は、複数の日において送信アンテナ101及び受信アンテナ102によって得られる複数の測定結果に基づいて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成する(S203)。
【0175】
情報処理回路103は、複数の測定結果に基づいて再構成画像を生成する際、まず、複数の測定結果のそれぞれについて、測定結果を境界条件として用いて散乱場関数を算出する。散乱場関数は、電波の送信位置及び散乱波の受信位置が入力されて受信位置における散乱波の量が出力される関数である。すなわち、散乱場関数は、任意に定められる送信位置及び受信位置に対して受信位置における散乱波の量を示す関数である。
【0176】
そして、情報処理回路103は、複数の測定結果のそれぞれについて算出された散乱場関数に基づいて映像化関数を算出する。映像化関数は、映像化対象位置が入力されて映像化対象位置の画像強度が出力される関数であって、送信位置及び受信位置として映像化対象位置を散乱場関数に入力することで散乱場関数から出力される量に基づいて定められる関数である。
【0177】
そして、情報処理回路103は、複数の測定結果のそれぞれについて算出された映像化関数に基づいて中間画像を生成することにより、複数の測定結果について複数の中間画像を生成する。そして、情報処理回路103は、複数の中間画像における各位置の画像強度の最小値を論理積により算出することにより再構成画像を生成する。情報処理回路103は、生成された再構成画像をディスプレイ104等に出力してもよい。
【0178】
これにより、散乱トモグラフィ装置100は、散乱波の測定結果を境界条件として用いて算出される散乱場関数に基づいて、物体の内部における要素を示し得る中間画像を算出することができる。そして、散乱トモグラフィ装置100は、複数の日における複数の測定結果を用いて得られる複数の中間画像から、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することができる。
【0179】
したがって、散乱トモグラフィ装置100は、電波の散乱波を用いて、物体の内部における永続的な要素を示す再構成画像を生成することができる。そして、これにより、例えば、散乱波を用いて、人体の内部における要素が、永続的な悪性の腫瘍であるか、ランダムに発生し消滅する他の細胞であるかを識別することが可能になる。
【0180】
例えば、情報処理回路103は、PN(r)=b1(r)∧b2(r)∧・・・∧bN(r)により再構成画像を生成してもよい。ここで、PN(r)は再構成画像を表す。また、rは位置を表す。また、Nは複数の中間画像の個数を表す。また、1からNまでのiに関するbiは映像化関数を表す。また、∧は論理積を表す。
【0181】
これにより、散乱トモグラフィ装置100は、映像化関数の出力に対応する中間画像の論理積によって、再構成画像をシンプルに生成することができる。
【0182】
また、例えば、情報処理回路103は、映像化関数及び拡散係数に基づいて中間画像を生成し、中間画像を生成する際、拡散係数が大きいほど中間画像において映像化対象位置の画像強度を空間的に大きく拡散させる。
【0183】
これにより、散乱トモグラフィ装置100は、画像強度を拡散係数によって拡散させることができる。したがって、散乱トモグラフィ装置100は、永続的な要素が散乱波の測定における位置ずれによって再構成画像から消失することを拡散係数によって抑制することができる。
【0184】
また、例えば、情報処理回路103は、PN(r)=eνΔb1(r)∧eνΔb2(r)∧・・・∧eνΔbN(r)により再構成画像を生成してもよい。ここで、PN(r)は再構成画像を表す。また、rは位置を表す。また、Nは複数の中間画像の個数を表す。また、1からNまでのiに関するbiは映像化関数を表す。また、1からNまでのiに関するeνΔbi(r)は中間画像を表す。また、νは拡散係数を表す。また、Δは散乱波の測定において位置ずれが生じる2方向に対応する2次元のラプラス作用素を表す。また、∧は論理積を表す。
【0185】
これにより、散乱トモグラフィ装置100は、確率論的方法に基づく関係式によって画像強度を適切に拡散させることができる。
【0186】
また、例えば、情報処理回路103は、bi(r)に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換を行った結果に対してexp(-ν(kx
2+ky
2))を掛け、exp(-ν(kx
2+ky
2))を掛けた結果に対して逆フーリエ変換を行ってもよい。そして、これにより、情報処理回路103は、eνΔbi(r)を算出してもよい。ここで、exp(-ν(kx
2+ky
2))のkx及びkyは、biの2方向に対応する2つの波数を表す。
【0187】
これにより、散乱トモグラフィ装置100は、画像強度を高速にかつ適切に拡散させることができる。
【0188】
また、例えば、拡散係数は、散乱波の測定位置の2乗平均誤差に比例する値として定められてもよい。これにより、拡散係数が、測定位置の誤差の大きさに基づいて定められ得る。そして、散乱トモグラフィ装置100は、測定位置の誤差の大きさに基づいて、画像強度を適切に拡散させることができる。
【0189】
また、例えば、拡散係数は、散乱波の測定位置の2乗平均誤差に等しい値として定められてもよい。これにより、拡散係数が、測定位置の誤差の大きさに基づいてシンプルに定められ得る。そして、散乱トモグラフィ装置100は、測定位置の誤差の大きさに基づいて、画像強度を適切に拡散させることができる。
【0190】
また、例えば、拡散係数は、0として定められてもよい。これにより、散乱トモグラフィ装置100は、拡散係数を用いない場合と同様に、映像化関数の出力に対応する中間画像の論理積によって、再構成画像をシンプルに生成することができる。
【0191】
また、例えば、拡散係数は、0よりも大きい値として定められる。これにより、散乱トモグラフィ装置100は、画像強度を0よりも大きい拡散係数によってより確実に拡散させることができる。したがって、散乱トモグラフィ装置100は、永続的な要素が散乱波の測定における位置ずれによって再構成画像から消失することを0よりも大きい拡散係数によってより確実に抑制することができる。
【0192】
また、例えば、X座標、Y座標及びZ座標で構成される3次元空間において、送信アンテナ101の位置のX座標及びZ座標は、それぞれ、受信アンテナ102の位置のX座標及びZ座標と同じであってもよい。
【0193】
そして、散乱場関数は、
【数32】
で定められてもよい。
【0194】
ここで、xは、送信位置及び受信位置のX座標を表す。また、y1は、送信位置のY座標を表す。また、y2は、受信位置のY座標を表す。また、zは、送信位置及び受信位置のZ座標を表す。また、kは、電波の波数を表す。また、散乱場関数におけるkx、ky1及びky2は、それぞれ、散乱場関数のx、y1及びy2に関する波数を表す。
【0195】
また、a(k
x、k
y1、k
y2)は、
【数33】
で定められてもよい。
【0196】
ここで、Iは、送信アンテナ101及び受信アンテナ102が存在する送信位置及び受信位置のインデックスを表す。また、xIは、送信アンテナ101及び受信アンテナ102が存在する送信位置及び受信位置のX座標を表す。また、zIは、送信アンテナ101及び受信アンテナ102が存在する送信位置及び受信位置のZ座標を表す。
【0197】
また、
【数34】
は、x、y
1、y
2及びtにおける測定結果を表すΦ(x,y
1,y
2,t)のy1、y2及びtに関するフーリエ変換像を表す。また、tは、時間を表す。
【0198】
そして、映像化関数は、
【数35】
で定められてもよい。ここで、映像化関数のx、y及びzは、それぞれ、映像化対象位置のX座標、Y座標及びZ座標を表す。
【0199】
これにより、散乱トモグラフィ装置100は、上記の散乱場関数及び上記の映像化関数に基づいて適切に中間画像を生成することができる。上記の散乱場関数及び上記の映像化関数は、送信アンテナ101の位置のX座標及びZ座標がそれぞれ受信アンテナ102の位置のX座標及びZ座標と同じであることに基づいて適切に定められ得る。
【0200】
また、例えば、上記の基本構成及び基本動作において示された送信アンテナ101、受信アンテナ102、情報処理回路103、散乱場関数、映像化関数及びパラメータ等には、本実施の形態において示された構成要素、式及び変数等が適宜適用され得る。
【0201】
また、本実施の形態において示された散乱場関数及び映像化関数等は、適宜変形して適用されてもよい。例えば、上述された数式と実質的に同じ内容を他の表現で示す数式が用いられてもよいし、上述された理論に基づいて導出される他の数式が用いられてもよい。
【0202】
図15は、
図13に示された散乱トモグラフィ装置100の具体的な構成を示す概念図である。
【0203】
図13に示された散乱トモグラフィ装置100の送信アンテナ101及び受信アンテナ102は、マルチスタティックアレイアンテナ1008に含まれていてもよい。
図13に示された散乱トモグラフィ装置100の情報処理回路103は、
図15に示された複数の構成要素のうちの1つ以上に対応していてもよい。具体的には、例えば、情報処理回路103は、信号処理計算機1005に対応していてもよい。また、
図13に示されたディスプレイ104は、信号モニタ装置1006に対応していてもよい。
【0204】
散乱トモグラフィ装置100において用いられるマイクロ波の信号は、DC~20GHzの周波数成分を持った擬似ランダム時系列信号(PN符号:Pseudo Noise Code)である。この信号は、PN符号生成用FPGAボード1002から出力される。より具体的には、この信号は2種類ある。一方の種類の信号(LO信号:local oscillator signal)は、遅延回路(デジタル制御ボード1003)を通してRF検波回路(RF検波ボード1007)へ送られる。
【0205】
他方の種類の信号(RF信号:Radio Frequency Signal)は、マルチスタティックアレイアンテナ1008の送信用マイクロ波UWBアンテナへ送られ放射される。マイクロ波の散乱信号がマルチスタティックアレイアンテナ1008の受信用UWBアンテナで受信され、RF検波回路(RF検波ボード1007)へ送られる。ここで送受信信号はアンテナ素子選択スイッチ(UWBアンテナRFスイッチ1004)を通る。
【0206】
また、遅延される信号(LO信号)は、PN符号の値が変化する時間の1/2n倍(nは2よりも大きい整数)の時間ずつ遅延される。検波した信号は、IF信号(Intermediate Frequency Signal)として、信号処理計算機1005でA/D変換され記憶される。また、検波した信号を示す情報が、信号モニタ装置1006に表示されてもよい。
【0207】
これら一連の動作のタイミングは、距離計1001からの信号(距離信号又はフリーラン信号)に同期するように、デジタル制御ボード1003内のマイクロプロセッサによって制御される。例えば、デジタル制御ボード1003内のマイクロプロセッサは、Switch切替信号、及び、PN符号掃引トリガ等を送信する。
【0208】
また、信号処理計算機1005は、A/D変換され記憶された信号を用いて、3次元再構成を行い、3次元画像表示を行う。また、信号処理計算機1005は、信号校正を行ってもよい。また、信号処理計算機1005は、生波形表示を行ってもよい。
【0209】
また、例えば、信号処理計算機1005は、測定毎に得られる3次元画像をメモリ1009に保存することにより、複数の3次元画像をメモリ1009に保存する。これらの3次元画像は、上述された時系列測定画像に対応する。信号処理計算機1005は、これらの3次元画像を用いて、最終的な腫瘍確率画像を生成し、生成された腫瘍確率画像を信号モニタ装置1006等に表示する。
【0210】
図15に示された構成は例であって、散乱トモグラフィ装置100の構成は、
図15に示された構成に限られない。
図15に示された構成の一部が省略されてもよいし、変更されてもよい。
【0211】
(補足)
以上、散乱トモグラフィ装置の態様を実施の形態に基づいて説明したが、散乱トモグラフィ装置の態様は、実施の形態に限定されない。実施の形態に対して当業者が思いつく変形が施されてもよいし、実施の形態における複数の構成要素が任意に組み合わされてもよい。例えば、実施の形態において特定の構成要素によって実行される処理を特定の構成要素の代わりに別の構成要素が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよいし、複数の処理が並行して実行されてもよい。
【0212】
また、上記の説明では、マイクロ波マンモグラフィにおいて乳房内の小葉と腫瘍とを識別する例が示されているが、実施の形態に示された散乱トモグラフィ装置の適用例は、この例に限られない。散乱トモグラフィ装置は、物体を破壊せずに物体内の永続的な要素を抽出することができ、乳房と腫瘍との関係と同様の関係を有する他の物体及び他の要素に関して適用が可能である。
【0213】
また、散乱トモグラフィ装置の各構成要素が行うステップを含む散乱トモグラフィ方法が任意の装置又はシステムによって実行されてもよい。例えば、散乱トモグラフィ方法の一部又は全部が、プロセッサ、メモリ及び入出力回路等を備えるコンピュータによって実行されてもよい。その際、コンピュータに散乱トモグラフィ方法を実行させるためのプログラムがコンピュータによって実行されることにより、散乱トモグラフィ方法が実行されてもよい。
【0214】
また、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体に、上記のプログラムが記録されていてもよい。
【0215】
また、散乱トモグラフィ装置の各構成要素は、専用のハードウェアで構成されてもよいし、上記のプログラム等を実行する汎用のハードウェアで構成されてもよいし、これらの組み合わせで構成されてもよい。また、汎用のハードウェアは、プログラムが記録されたメモリ、及び、メモリからプログラムを読み出して実行する汎用のプロセッサ等で構成されてもよい。ここで、メモリは、半導体メモリ又はハードディスク等でもよいし、汎用のプロセッサは、CPU等でもよい。
【0216】
また、専用のハードウェアが、メモリ及び専用のプロセッサ等で構成されてもよい。例えば、専用のプロセッサが、測定データを記録するためのメモリを参照して、上記の散乱トモグラフィ方法を実行してもよい。
【0217】
また、散乱トモグラフィ装置の各構成要素は、電気回路であってもよい。これらの電気回路は、全体として1つの電気回路を構成してもよいし、それぞれ別々の電気回路であってもよい。また、これらの電気回路は、専用のハードウェアに対応していてもよいし、上記のプログラム等を実行する汎用のハードウェアに対応していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0218】
本開示の一態様は、電波の散乱波を用いて、物体の内部を示す画像を生成する散乱トモグラフィ装置に有用であり、物理探査又は医療診断等に適用可能である。
【符号の説明】
【0219】
100 散乱トモグラフィ装置
101 送信アンテナ
102 受信アンテナ
103 情報処理回路
104 ディスプレイ
401 アレイアンテナ
1001 距離計
1002 PN符号生成用FPGAボード
1003 デジタル制御ボード
1004 UWBアンテナRFスイッチ
1005 信号処理計算機
1006 信号モニタ装置
1007 RF検波ボード
1008 マルチスタティックアレイアンテナ
1009 メモリ