(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】CMP用セリアスラリー再生方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240502BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240502BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240502BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240502BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240502BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240502BHJP
B24B 57/02 20060101ALI20240502BHJP
B24B 55/12 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
H01L21/304 622B
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B01D61/14 500
B01D71/02
B01D69/00
C02F1/44 E
B24B57/02
B24B55/12
H01L21/304 622E
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2022160207
(22)【出願日】2022-10-04
【審査請求日】2023-05-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519228669
【氏名又は名称】株式会社MFCテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】村田 誠
(72)【発明者】
【氏名】松尾 喬
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 修
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-003379(JP,A)
【文献】特表2015-535750(JP,A)
【文献】特表2015-533660(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017534(WO,A1)
【文献】特開2000-325965(JP,A)
【文献】特開2009-023061(JP,A)
【文献】特開2013-126928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
B01D 61/14
B01D 71/02
B01D 69/00
C02F 1/44
B24B 57/02
B24B 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路を製造するためのCMPプロセスから排出されるCMP工程廃液を貯液タンクに貯液する貯液工程と、前記貯液タンクに貯液された前記CMP工程廃液を
、バッチ式の固液分離を行うことなく、膜フィルタ
としてセラミックフィルタを用いた
クロスフロー濾過装置によって濃縮する濃縮工程とを備えるCMP用セリアスラリー再生方法であって、
前記CMP工程廃液は、セリアとシリカとを含み、前記CMP用セリアスラリー再生方法は、前記CMP工程廃液をセリアスラリーとして再生する方法であり、
前記セラミックフィルタは、アルカリ性溶液に溶解せず、
前記CMP用セリアスラリー再生方法は、前記濃縮工程中において、前記CMP工程廃液がpH13以上になるようにアルカリ性物質を添加して前記シリカを溶解させるpH調整工程を有し、pH調整された後の前記CMP工程廃液を前記クロスフロー濾過装置に通液させて、溶解したシリカ成分が除去されることを特徴とするCMP用セリアスラリー再生方法。
【請求項2】
前記セラミックフィルタは、孔径10~100nmのセラミックフィルタであることを特徴とする請求項1記載のCMP用セリアスラリー再生方法。
【請求項3】
前記CMP用セリアスラリー再生方法は、前記pH調整工程でpH13以上にpH調整された前記CMP工程廃液を希釈する希釈工程と、希釈された前記CMP工程廃液を濃縮する本濃縮工程とを有し、前記希釈工程と、前記本濃縮工程とが繰り返されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のCMP用セリアスラリー再生方法。
【請求項4】
前記CMP工程廃液が含む粒子の平均粒径(D50)が10~200nmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のCMP用セリアスラリー再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリアとともにシリカを含んだCMP工程廃液からのセリア再生方法に関し、特に、セリアスラリー再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造において、ウェハー基板表面の平坦化に加えて、近年はダマシン法における基板に埋め込まれた導体金属の平坦化、SiO2に比較して低い比誘電率をもつ絶縁材料の平坦化、セルの積層数を増やすためのビアホールの平坦化など、高密度セルの製造および100nm以下のより微細なパターンの製造などの方法が重要となってきている。ウェハーおよびこの基板上に形成された部材の平坦化は化学機械研磨法(以下、CMPプロセスという)が広く採用され、半導体製造プロセスにおいてより重要となっている。半導体材料の平坦化がより重要となるに従って、CMPプロセスに使用されるCMPスラリーの量が増えるとともに、半導体集積回路の製造コストに占める割合も高まっている。このため、CMPスラリーの品質を維持しながら価格を低減することが求められている。
【0003】
CMPスラリーの価格を低減するための一つの方法として、使用済みのCMPスラリーを再生する方法が知られている。半導体CMP工程に用いられるCMPスラリーには、研磨剤としてシリカやセリアが用いられている。シリカよりも希少価値の高いセリアを研磨剤として含むスラリー廃液には、シリカのみを含むスラリー廃液よりも、更に大きな再生利用へのニーズがある。
【0004】
シリカスラリーの再生技術は、セリアスラリーの再生にも適用可能である。しかし、CMP工程廃液の回収やCMPスラリーの再生を目的としていなかった半導体工場では、研磨剤種の異なる複数種類の使用済みCMPスラリーが混合されて廃液配管に流れ込む場合が多い。
【0005】
既に構築された半導体工場で廃液配管を分割することは、敷地面積の点や費用の面から容易でない場合が多く、複数種類のCMPスラリーが混合したCMP工程廃液からシリカを除去して、希少価値の高いセリアを再利用することの経済的価値は大きい。
【0006】
ここで、セリアスラリーは光学レンズなどガラスの研磨液としても多く用いられており、その研磨能力が低下すると使用済み研磨液としてスラッジ化して回収されている。この研磨能力の低下は研磨対象物であるガラス(実質的にシリカと同成分)がセリアの表面に付着することが主な原因と考えられており、上記スラッジ中のシリカ成分を除去して、最終的にセリアを固体として回収する技術が知られている。
【0007】
特許文献1には、回収したセリアスラッジである酸化セリウム研磨材の廃スラリーに強アルカリ溶液を加えてシリカ成分であるガラス材料を分離し、さらにフッ化ナトリウムを加えて水ガラスとして、沈降法、遠心分離法などのバッチ式の方法によりセリア粒子と分離する技術が記載されている。
【0008】
特許文献2には、回収したセリアスラッジであるセリア含有廃スラッジにフッ素化合物を含む溶解剤溶剤を混和してシリカ成分であるシリカ含有不純物を溶解し、クロスフローろ過システムによって未溶解成分であるセリアのみを分離した後に乾燥および焼成してセリアを採りだす技術が記載されている。本技術では、セリアの分離後に100℃程度での数秒間乾燥、数百度数時間の焼成という工程を必須としている。最終的に得られるセリア含有再生研磨材は、廃スラッジに含まれているシリカ含有不純物が選択的に溶解されセリアの純度が高められている。
【0009】
特許文献3には、回収したセリアスラッジである使用済みの酸化セリウム系研磨材粒子をスラリー化した後に、スラリーをアルカリ性にして塩化アルミニウム、塩化鉄などの凝結剤や有機物を除去し、さらに塩酸などの酸を加えてセリア表面に付着したシリカ成分であるガラスの微粒子を分離し、デカンテーション、遠心分離などによりセリア粒子を回収する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-189503号公報
【文献】特表2015-533660号公報
【文献】特開2015-3379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献に記載の技術は、いずれも光学レンズなどのガラス製部材用の研磨液としてのセリアスラリーを対象としたものであった。すなわち、従来のセリア回収技術において処理対象のセリアスラッジは、セリアスラリーを含むCMP工程廃液とは、砥粒(研磨材粒子)であるセリアやシリカの濃度、純度(組成)、粒径などが異なるため、セリアスラリーを含むCMP工程廃液にそのまま適用しても目的の結果が得られにくい。具体的には、CMP工程廃液が含むセリアは、ガラス研磨用のものに比べて粒径が小さく、また、セリアは酸の種類によっては若干の溶解性を有するため、酸処理によって粒子表面が溶解した場合に、ロスの比率が大きくなりやすいと考えられる。さらに、大量の水で希釈されて継続的(連続的)に流入してくるCMP工程廃液に対して、比重差を利用したデカンテーションや、遠心分離などの生産性の低いバッチ処理工程を適用することは実用的ではない。
【0012】
上記特許文献に記載の技術は、特に、セリアスラリーを再生する場合に不都合が生じることが予想される。例えば、特許文献2には、セリアの分離後に数百度数時間の焼成を行い、焼成されたセリアを粉砕、分級することが記載されている。固体として分離されたセリアのスラリー化のためには純水への分散工程も必要となる。このため、特許文献2に記載の技術は、CMPスラリーとして利用可能なセリアスラリーを得るための工程が多くなり、多大な労力を要すると考えられる。
【0013】
本発明は複数種の研磨剤を含むCMP工程廃液から選択的に高純度のセリアを簡易な工程で再生できるセリア再生方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のセリア再生方法は、半導体集積回路を製造するためのCMPプロセスから排出されるCMP工程廃液を貯液タンクに貯液する貯液工程と、上記貯液タンクに貯液された上記CMP工程廃液を膜フィルタを用いた濾過装置によって濃縮する濃縮工程とを備えるセリア再生方法であって、上記CMP工程廃液は、セリアとシリカとを含み、上記セリア再生方法は、上記濃縮工程中において、上記CMP工程廃液がpH13以上になるようにアルカリ性物質を添加して上記シリカを溶解させるpH調整工程を有し、溶解したシリカ成分が除去されることを特徴とする。
【0015】
上記濾過装置は、クロスフロー濾過装置が最適な例であり、更に、セラミックフィルタを用いた濾過装置が最適な例である。上記セリア再生方法は、上記pH調整工程でpH13以上にpH調整されたCMP工程廃液を濃縮することでシリカが溶解したアルカリ性の水を濾別することで実行される。この際、CMP工程廃液を希釈する希釈工程と、希釈された上記CMP工程廃液を濃縮する工程を繰り返してもよい。この2つの工程を繰り返す場合は、都度アルカリ性物質を添加してpH13以上を維持することが望ましいが、CMP工程廃液を一旦pH13以上にしてシリカを溶解させているため、厳密なpHの維持は最早必要ない。なお、CMP工程廃液のpHは、希釈と濃縮を繰り返す中で順次中性に近付いていき、シリカ濃度は順次減少していく。
【0016】
上記セリア再生方法は、セリアスラリーとして再生する方法(セリアスラリー再生方法)であることを特徴とする。ここで、「セリアスラリーを再生」とは、シリカが混合した使用済セリアスラリー(CMP工程廃液)からシリカ成分が除去されたセリアスラリーにすることを意味する。
【0017】
上記CMP工程廃液が含む粒子の平均粒径(D50)が10~200nmであることを特徴とする。
【0018】
上記濾過装置は、膜フィルタとして、孔径10~100nmのセラミックフィルタを有し、該セラミックフィルタは、アルカリ性溶液に溶解しないことを特徴とする。
【0019】
上記セリア再生方法は、セリア粒子として再生する方法(セリア粒子再生方法)であり、上記濃縮工程の後に、濃縮された上記CMP工程廃液からセリア粒子を得る適当な固液分離手段を有することを特徴とする。また、上記濃縮工程において、上記CMP工程廃液の砥粒濃度が20質量%以上になるように濃縮されることを特徴とする。ここで、「セリア粒子を再生」とは、セリア粒子を単独で回収することを意味する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のセリア再生方法は、CMP工程廃液が、セリアとシリカとを含み、セリア再生方法は、濃縮工程中において、CMP工程廃液がpH13以上になるようにアルカリ性物質を添加してシリカを溶解させるpH調整工程を有し、溶解したシリカ成分が除去されるので、酸処理工程やバッチ式の固液分離工程を行うことなく、CMP工程廃液から効率的にシリカを除去できる。そのため、本発明のセリア再生方法は、複数種の研磨剤を含むCMP工程廃液からセリアを簡易な工程で再生できる。
【0021】
pH調整工程は、濃縮工程実行中の濃縮スラリーが、少なくとも一定時間の間所定のpHとなっていれば、貯液工程の後や、濃縮工程をある程度進めた後(初期濃縮工程後)に行うことが可能である。初期濃縮工程後にpH調整を行う場合、pH調整工程においてより少ないアルカリ性物質量でCMP工程廃液をpH13以上にでき、低コスト化に繋がる。また、その後の濃縮工程で処理する液量を減らせるので、濃縮工程に要する時間の短縮にも繋がる。
【0022】
濾過装置は、クロスフロー濾過装置が最適な例であり、更に、セラミックフィルタを用いた濾過装置が最適な例である。セリア再生方法は、pH調整工程でpH13以上にpH調整されたCMP工程廃液を濃縮することでシリカが溶解したアルカリ性の水を濾別することで実行される。この際、CMP工程廃液を希釈する希釈工程と、希釈されたCMP工程廃液を濃縮する工程を繰り返してもよい。この場合、溶解したシリカ成分が水分とともに連続的に除去され、より効率的な処理ができる。希釈と濃縮を繰り返す場合、都度アルカリ性物質を添加してpH13以上を維持することが望ましいが、CMP工程廃液を一旦pH13以上にしてシリカを溶解させているため、厳密なpHの維持は最早必要ない。なお、CMP工程廃液のpHは、希釈と濃縮を繰り返す中で順次中性に近付いていき、また、シリカ濃度は順次減少していく。
【0023】
セリア再生方法は、セリアスラリーとして再生する方法であるので、粉体状のセリア粒子を回収した後に純水への再分散を行ってセリアスラリーとする場合に比べ、より少ない工程でセリアスラリーを再生できる。
【0024】
CMP工程廃液が含む粒子の平均粒径(D50)が10~200nmであるので、pH調整工程においてシリカがより短時間で溶解しやすく、再生効率に優れる。濾過装置は、膜フィルタとして、孔径10~100nmのセラミックフィルタを有し、該セラミックフィルタは、アルカリ性溶液に溶解しないので、セリアの透過を防ぎつつ、溶解したシリカ成分を選択的に除去できる。
【0025】
CMP工程廃液が含む粒子の平均粒径(D50)が10~200nmであり、かつ、濾過装置は、膜フィルタとして、孔径10~100nmのセラミックフィルタを有し、該セラミックフィルタは、アルカリ性溶液に溶解しないので、セリアが膜フィルタをより透過しにくく、再生効率により優れる。
【0026】
セリア再生方法は、セリア粒子として再生する方法であり、濃縮工程の後に、濃縮されたCMP工程廃液からセリア粒子を得る適当な固液分離手段を有し、濃縮工程において、CMP工程廃液の砥粒濃度が20質量%以上になるように濃縮されるので、低濃度のスラリー状態から再生されず、比較的短時間で再生できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】半導体工場におけるCMP工程廃液の排出の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明のセリアスラリー再生方法の一例を示す工程図である。
【
図3】セリアスラリー再生システムの一例を示す図である。
【
図4】セリアスラリーの再生過程を示すフロー図である。
【
図5】透過液のイオン状シリカ濃度とpH値の経時変化を示す図である。
【
図6】透過液の導電率と粘度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
CMPプロセスに使用されるCMPスラリーは、分散性がよく粒子径が揃っているシリカ微粒子(ヒュームドシリカやコロイダルシリカなど)や、研磨速度の大きいセリア微粒子、硬度が高く安定なアルミナ微粒子などが研磨剤として使用されている。これらCMPスラリーは、所定粒子径、濃度の微粒子が水中に分散されてCMPスラリーメーカーにより提供され、各現場(客先工場施設)に応じた濃度に希釈されてCMPプロセスマシンに供給される。なお、このCMPスラリー中には研磨剤の他に、水酸化カリウム、アンモニア、有機酸、アミン類などのpH調整剤、界面活性剤などの分散剤、過酸化水素、ヨウ素酸カリウム、硝酸鉄(III)などの酸化剤などが予め添加されたり、あるいは、研磨時に別途添加されたりする。
【0029】
CMPスラリーメーカーにより提供されるCMPスラリーは、通常、CMP工程、引き続く後洗浄工程を通じて50~500倍に希釈されて廃棄される。近年では、再利用や低コスト化の観点から、CMPスラリーとして広く使用されているシリカスラリーを再生する方法が検討されているが、シリカとセリアを含むCMP工程廃液からCMP用セリアスラリーを再生する方法については知られていない。
【0030】
CMPプロセスにおいて排出されるCMP工程廃液について
図1を用いて説明する。
図1は、半導体工場におけるCMP工程廃液の排出の一例を示す概略図である。
図1に示すように、メーカーから納入されたCMPスラリーは、例えば、2倍に希釈されて研磨に用いられる。CMPプロセスでは、研磨後の洗浄に大量の純水が供給されることで、CMPスラリーは、納入時の濃度(初期濃度)から、例えば、50~100倍に希釈される。廃液処理システムを同じくする半導体工場内の異なる工程でCMPスラリーとして、セリアスラリーとシリカスラリーがそれぞれ用いられる場合、廃液処理システムに集められたCMP工程廃液はセリアとシリカとをそれぞれ低濃度で含んだ廃液となる。例えば、CMPスラリーとして、ある工程で濃度25質量%のシリカスラリーが用いられ、他の工程で濃度4質量%のセリアスラリーが用いられる場合、各工程から排出される廃液中におけるセリアとシリカの濃度は、いずれも1質量%以下となる。
【0031】
本発明のセリアスラリー再生方法の一例を
図2に基づいて説明する。
図2は、本発明のセリアスラリー再生方法の一例を示す工程図である。
図2に示すように、本発明の再生方法の一例は、CMPプロセスから排出される使用済スラリー1を、新液と同じ組成、同じ濃度、同じ性質に戻して再利用する技術を採用している。具体的には、
図2のセリアスラリー再生方法は、使用済スラリー1を貯液タンクに貯液する貯液工程2と、希釈状態のCMP工程廃液PWを希釈・濃縮しながらシリカを除去し、セリア濃度が高められた濃縮セリアスラリーS1とする濃縮工程3と、濃縮セリアスラリーS1を再生セリアスラリーRSとする調液工程4とを備えている。
【0032】
図2において、濃縮工程3は、貯液タンク内のCMP工程廃液PWを10~50倍程度まで濃縮する初期濃縮工程31と、濃縮されたCMP工程廃液PWをpH13以上にしてシリカを溶解させるpH調整工程32と、pH13以上にpH調整されたCMP工程廃液(以下、アルカリ性廃液BWともいう)を希釈する希釈工程33と、希釈されたアルカリ性廃液BWを濃縮する本濃縮工程34とを備えている。なお、濃縮工程3は、初期濃縮工程31、希釈工程33を備えていなくてもよい。また、本発明のセリアスラリー再生方法は、調液工程4を備えていなくてもよい。その場合、濃縮工程3で得られる濃縮セリアスラリーS1を再生セリアスラリーRSとしてCMP研磨に用いることができる。
【0033】
ここで、セリアスラリーは、用途によって2種類に大別され、ガラス研磨に用いられるものと、半導体CMPに用いられるものがある。ガラス研磨に用いられるセリアスラリーは、CMP用セリアスラリーとは研磨剤であるセリアの濃度が高い点で異なる。特に、ガラス研磨後のセリアスラッジに比べ、CMP工程廃液は、使用済みスラリーと洗浄水などの混合液であるため、上述のとおり1質量%以下の極低濃度(例えば、0.1質量%程度)となっている。また、ガラス研磨用のセリアは、CMP用セリアと比べ、純度が比較的低く、粒径が大きい点でも異なる。
【0034】
ガラス研磨用のセリアは、純度が約50~90%で、粒子径は数μm程度である。これに対し、CMP用セリアは、純度がガラス研磨用のセリアよりも高く、粒子サイズはサブミクロンとなる。また、CMP用セリアには、ビルドアップ法により製造されるものがあり、本方法で得られるセリアは、粒子径が特に小さく(10~50nm程度)、粒度分布も狭い。
【0035】
CMP工程廃液は、上述のように極低濃度であるため、再生セリアスラリーとする場合、粉末状のセリアを取り出して再度CMPスラリーを調液することは、工程の増加や長時間化に繋がり工程上の負担が大きいため好ましくない。また、CMPスラリー中の粒子は粒径および粒度分布が精密に制御されている必要があるが、セリアを沈降法や遠心分離法などにより固液分離して液中での分散状態を変化させることは、粒径および粒度分布の変化に繋がりうるため好ましくない。
【0036】
本発明は、濃縮工程3中において、CMP工程廃液PWがpH13以上になるようにアルカリ性物質Bを添加してシリカを溶解させるpH調整工程32を有し、溶解したシリカ成分がCMP工程廃液PWから除去されることを特徴とする。これにより、CMP工程廃液から効率的にシリカを除去できる。その結果、複数種の研磨剤を含むCMP工程廃液から、セリアの粒径および粒度分布を維持したままセリアスラリーを簡易に再生できる。また、セリアは酸処理の際の酸性条件によっては溶解しうるところ、アルカリ条件下でシリカとの分離を行う本発明は、セリアをロスしにくく、高効率な再生に適すると考えられる。
【0037】
ここで、本明細書において、「シリカ成分が除去される」とは、再生処理後の透過液や濃縮スラリー中のシリカ成分量が所定の濃度以下となることを意味し、例えば、100ppm以下になることをいう。また、「シリカを溶解させる」とは、水中に分散したシリカをケイ酸イオン(オルトケイ酸イオンやその他の縮合ケイ酸イオン)として水中に溶解させることをいう。
【0038】
以下に、各工程について説明する。
【0039】
貯液工程2は、使用済スラリー1を貯液タンクに貯液する工程である。貯液タンクには種々の使用済スラリー1や洗浄液が流入する。本明細書において、これらが混合した廃液をCMP工程廃液PWと呼ぶ。
【0040】
ここで、CMP工程廃液PWは、少なくとも使用済スラリー1として使用済セリアスラリーおよび使用済シリカスラリーが混合された廃液であり、少なくともセリアとシリカとを含む。CMP工程廃液PWは、セリアを高純度で含むセリアスラリーを再生する観点から、セリアとシリカ以外の金属酸化物粒子を含まないことが好ましい。特に、アルミナやジルコニアは、アルカリ性溶液への溶解度がシリカよりも低く、再生スラリー中にセリアとともに残存する可能性があるため、CMP工程廃液PW中に含まれないことが好ましい。
【0041】
CMP工程廃液が含む粒子の平均粒径(D50)は、10~200nmであることが好ましく、10~100nmであることがより好ましい。この場合、CMP工程廃液が含むシリカの平均粒径がガラス研磨用のセリアに付着するシリカよりも小さくなりやすいため、酸処理を行わなくても完全に溶解でき、アルカリ処理のみで短時間でシリカを容易に溶解させることができる。ここで、平均粒径(数平均粒子径)は、SEM観察またはTEM観察により測定することができる。
【0042】
初期濃縮工程31は、CMP工程廃液PWが濾過装置(例えば、クロスフロー濾過装置)に通液されることで水分が濾別され、濃縮される工程である。濾別された水分は透過液Pとして排出される。
【0043】
セリアスラリー再生方法が初期濃縮工程31を有する場合、pH調整を行う液量を大幅に削減できる。その結果、貯液工程2で貯液された低濃度のCMP工程廃液PWをそのままpH調整工程32でpH13以上になるようにアルカリ性物質Bを添加する場合に比べ、アルカリ性物質Bの使用量も低減できるため、低コスト化の観点から好ましい。初期濃縮工程31では、例えば、CMP工程廃液PWを2~12質量%程度に濃縮することができる。低コスト化の観点からは、CMP工程廃液PWは5~12質量%程度に濃縮されることが好ましく、8~12質量%程度に濃縮されることがより好ましい。また、CMP工程廃液PWの粘度上昇や粒子の分散状態の変化などを抑制する観点からは、CMP工程廃液PWは2~9質量%程度に濃縮されることが好ましく、2~6質量%程度に濃縮されることがより好ましい。
【0044】
pH調整工程32は、貯液タンク内のCMP工程廃液PWが、pH13以上になるようにアルカリ性物質Bを添加してシリカを溶解させる工程である。pH調整工程32では、貯液タンク内のCMP工程廃液PWが、少なくとも一定の時間の間pH13以上で維持されることが好ましい。ここで、「一定の時間」とは、廃液中のシリカの一部または全部が溶解するのに要する時間であり、例えば、1~24時間の間で設定できる。撹拌を行う場合、一定の時間としては、1時間が好ましく、3時間がより好ましく、6時間がさらに好ましく、12時間が一層好ましい。撹拌しない場合、一定の時間としては、3時間が好ましく、9時間がより好ましく、15時間がさらに好ましく、24間が一層好ましい。アルカリ性物質Bとしては、例えば、水酸化ナトリウムや、水酸化カリウムを用いることができる。アルカリ性物質Bは、固体のまま添加してもよいし、希釈溶液の状態で添加してもよい。アルカリ性物質Bの添加量は、例えば、CMP工程廃液PWのpH測定結果に基づいて決定することができる。アルカリ性物質Bの添加によりCMP工程廃液PWのpHが13以上となっても、時間経過とともにpHが13よりも小さくなる場合、アルカリ性物質Bを複数回添加して、一定の時間の間pH13以上の状態を維持することが好ましい。
【0045】
pH調整工程32から希釈工程33への移行は、アルカリ性廃液BW中のシリカの全部が溶解してから行われることが好ましい。この場合、pH調整工程32で添加されるアルカリ性物質Bの全量がシリカの溶解のために利用されることとなるため、アルカリ性物質Bの使用量を最低限にできる。
【0046】
希釈工程33は、アルカリ性廃液BWに純水Dを加えて希釈する工程である。希釈工程33では、例えば、アルカリ性廃液BWに同量の純水Dを加えて希釈する。
【0047】
本濃縮工程34は、希釈されたアルカリ性廃液BWを膜フィルタを用いた濾過装置(例えば、クロスフロー濾過装置)によって濃縮する工程である。本濃縮工程34では、例えば、希釈工程33で希釈されたアルカリ性廃液BWを半分の体積になるまで濃縮する。本濃縮工程34では、初期濃縮工程31と同じ濾過装置を用いることができる。なお、本濃縮工程34では、複数の濾過装置を用いて濃縮してもよい。シリカ成分(ケイ酸イオン)は、希釈工程33と本濃縮工程34とを繰り返すことで所定の濃度まで低減できる。なお、希釈工程33と本濃縮工程34はどちらを先に行ってもよい。
【0048】
濾過装置のフィルタ孔径は、対象とするセリアの平均粒径よりも小さいものとすることで、セリアの濃度を高められる。フィルタ孔径は、セリアの収率の観点から、対象とするセリアの最小粒径よりも小さいものとすることが好ましい。
【0049】
アルカリ性廃液BWはクロスフロー濾過装置に通液されることで、溶解したシリカ成分が水分とともに連続的に濾別(除去)される。濾別された水分およびシリカ成分は透過液Pとして排出される。なお、本濃縮工程34では、水分およびシリカ成分の濾別の際にアルカリ性物質Bも濾別される。そのため、希釈と濃縮の循環を繰り返す場合、シリカ成分が減少するとともに、液性が中性へと近づいていく。
【0050】
シリカ成分の除去は、希釈工程と本濃縮工程を、例えば、5~40回繰り返すことにより行われる。この希釈と濃縮を連続的に行う工程(希釈・濃縮工程)を繰り返している間、スラリーからシリカ成分が除去されていることの確認(シリカ成分濃度測定)は、例えば、ICP発光分光分析などにより行うことができる。希釈工程と本濃縮工程を繰り返しながらシリカ成分濃度のモニタリングを行うことで、スラリー中のシリカ成分の除去の程度を把握できる。なお、シリカ成分濃度測定は、濃縮工程3における他の工程と同時に行われてもよいし、各工程の間に行われてもよい。また、シリカ成分濃度測定は、スラリーに対して行ってもよいし、透過液Pに対して行ってもよい。
【0051】
シリカ成分の除去が確認された後は、本濃縮工程のみを繰り返して所定の濃度まで濃縮する。シリカ成分が除去されたアルカリ性廃液BWは、濃度が所定の到達濃度になるまで循環濃縮が繰り返され、濃縮セリアスラリーS1となる。到達濃度は、例えば、1~30質量%に設定される。セラミックフィルタを用いて濃縮する場合、このような高濃度までの濃縮も可能となる。
【0052】
調液工程4の前には、シリカ成分濃度だけでなく、濃縮セリアスラリーS1の濃度、pH、導電率、粘度などについても確認することが好ましい。これらの確認結果に基づいて調液工程4においてpH調整剤や補正液を添加することで、組成がより厳密に管理された再生セリアスラリーRSが得られる。
【0053】
調液工程4は、濃縮セリアスラリーS1に所定の化学物質Cを添加して再生セリアスラリーRSとする工程である。pH調整は、濃縮セリアスラリーS1に水酸化カリウム、アンモニア、有機酸、アミン類などのpH調整剤を添加して行われる。その他、成分の補給として各種補正液が添加される。調液工程4は、例えば、有人で行われる。pH調整剤や補正液の添加量は、例えば、濃縮セリアスラリーS1のイオンクロマトグラフィー測定結果に基づいて決定することができる。
【0054】
上述した再生方法における貯液工程から調液工程までの工程の具体例について
図3を用いて説明する。
図3は、セリアスラリーの再生に用いられるセリアスラリー再生システムの一例を示す図である。
図3において、P01、P02はポンプ、V01~V07は液の流れる方向および流量を調節するためのバルブである。
【0055】
セリアスラリー再生システム11は、使用済スラリーを溜める貯液タンク12と、貯液されたCMP工程廃液が通液するクロスフロー濾過装置とを備える。
図3において、セリアスラリー再生システム11は、クロスフロー濾過装置として限外濾過装置13を備えている。
【0056】
貯液タンク12は、例えば、継続的に流入する使用済スラリーを受け入れる受入タンクと、受入タンクから移液した所定量のCMP工程廃液をクロスフロー濾過装置との間で循環濃縮させるための濃縮タンクを有していてもよい。
図3のセリアスラリー再生システム11では、貯液タンク12が受入タンクと濃縮タンクを兼ねている。貯液タンク12は処理すべきCMP工程廃液の量、種類などにより2個以上有していてもよく、連続的な廃液処理の観点からは、例えば、受入タンクを1個、濃縮タンクを複数個有していることが好ましい。
【0057】
限外濾過装置13は、
図3において、1個のフィルタユニットを有している。フィルタユニットは、内部に膜フィルタとしてセラミックフィルタを有している。なお、フィルタユニットが内部に有する膜フィルタとしては、セラミックフィルタに限らず、種々のフィルタから自由に選択できる。
【0058】
クロスフロー濾過装置として使用される膜フィルタは、CMP工程廃液中の研磨剤粒子を最も効率よく回収する観点から、限外濾過膜を好適に用いることができる。
【0059】
膜フィルタとしては、有機材料からなる有機膜であってもよく、無機材料からなる無機膜であってもよい。有機膜としては、ポリエチレン、4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスルホン、またはポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミドまたはポリビニルアルコールのいずいれかで構成されていることが好ましい。無機膜としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどのセラミックフィルタの他、ステンレスなどを用いることが好ましい。
【0060】
膜フィルタとしては、機械的強度に優れるとともにアルカリ耐性を有するセラミックフィルタを用いることが特に好ましい。この場合、膜フィルタの孔径が一定に維持されやすく、高効率な処理が期待できるとともに、再生利用も可能である。なお、樹脂製の限外濾過膜を使用した場合、低効率であるとともに、再生利用できず消耗品となるため、コスト高に繋がる。
【0061】
ここで、シリカとセリアの混合スラリーに対してフッ化水素などの強酸を用いてシリカのみを溶解させる場合、セラミックフィルタを用いて濃縮するとセラミックフィルタが溶解するおそれがあるため適さない。本発明の検討過程において、CMPスラリーの場合、pH13以上でのアルカリ処理によりシリカのみを選択的に溶解させることができる一方、セラミックフィルタは溶解しないことを見出した。その結果、強アルカリ処理したスラリーを、セラミックフィルタを備えたクロスフロー濾過装置で濃縮する場合、混合スラリーから特に効率的にシリカ除去することが可能となった。
【0062】
膜フィルタの孔径は10~100nmであることが好ましい。膜フィルタの孔径が100nmよりも大きい場合、セリアが透過しやすく、収率の低下に繋がりやすい。また、膜フィルタの孔径が10nmよりも小さい(例えば逆浸透膜)場合、溶解したシリカ成分のうち縮合ケイ酸イオンなどの比較的高分子量のイオンが膜を透過できず、セリアとシリカ成分の分離が不十分となりやすい。膜フィルタは、孔径10~100nmのセラミックフィルタであることがより好ましい。これにより、先端半導体工場で排出される平均粒径が10nm程度のセリアを含むCMP工程廃液からでもセリアスラリーを再生可能できる。
【0063】
フィルタユニットは1個に限らず、自由な数を設けることができる。フィルタユニットの数は、例えば、1~10個とすることができる。フィルタユニットは、装置の費用、メンテナンス負担の観点からは、1個~5個であることが好ましく、濃縮速度の観点からは、3個~10個であることが好ましい。
【0064】
(貯液工程)
出発原料となる使用済スラリーは、バルブV01を開状態とすることにより貯液タンク12に貯液される。
【0065】
(初期濃縮工程)
CMP工程廃液は、バルブV02およびV07を開き、ポンプP01を稼働させることで、限外濾過装置13を通過し、配管を循環して、貯液タンク12へ戻る。CMP工程廃液は、限外濾過装置13により化学物質を含んだ水が透過液としてV07を通って排出され、濃縮される。
【0066】
(pH調整工程)
貯液タンク12内のCMP工程廃液には、pH13以上になるようにアルカリ性物質を添加する。具体的には、アルカリ性物質として水酸化ナトリウムが調合タンク16へ投入され、バルブV06のみを開くことにより、純水が調合タンク16に供給される。調合タンク16では、撹拌羽根により撹拌することでアルカリ水溶液(例えば、濃度1規定)が調合される。調合されたアルカリ水溶液は、バルブV05のみを開き、ポンプP02を稼働させることで、貯液タンク12へ移液される。貯液タンク12では、CMP工程廃液とアルカリ水溶液とが撹拌羽根により撹拌され、pH13以上となることでシリカが溶解する。なお、アルカリ性物質は、水溶液でなく固体のまま貯液タンク12へ投入されてもよい。アルカリ性物質が添加されたCMP工程廃液は、貯液タンク12内で、一定の時間pH13以上の状態が維持される。
【0067】
(希釈工程)
貯液タンク12内のアルカリ性物質が添加されたCMP工程廃液には、バルブV04のみを開くことにより純水が供給されて希釈される。
【0068】
(本濃縮工程)
希釈されたCMP工程廃液は、初期濃縮工程と同様にバルブV02およびV07を開き、ポンプP01を稼働させて行う。限外濾過装置13からは、アルカリ性物質やシリカ成分を含んだ水が、透過液としてV07を通って排出される。貯液タンク12に戻ったCMP工程廃液は、限外濾過装置13で濃縮され、イオン成分やシリカ成分の量も低減する。シリカ成分の量をできるだけ低減させる場合、希釈工程と本濃縮工程を、例えば、10回以上繰り返すことが好ましい。
【0069】
(各種測定)
限外濾過装置13を通過した後の濃縮スラリーは、pH計14によりpH値が測定される。この際、密度計15で濃縮スラリーの砥粒濃度を測定することができる。また、砥粒濃度は、例えば、濁度計、吸光度計などから濃度に応じて適切な手段を選択して測定することができる。シリカ成分が除去されていることの確認は、例えば、透過液やスラリー自体のICP測定により行うことができる。シリカ除去の確認は、モリブデン青比色法、イオンクロマトグラフィー測定などによりシリカ成分(ケイ酸イオン)の濃度を測定して行うこともできる。上記測定は、バルブV02およびV07を開き、ポンプP01を稼働させながら濃縮と同時に行うことができる。また、各種測定は、バルブV02のみを開き、ポンプP01を稼働させて、濃縮とは別に行ってもよい。
【0070】
循環濃縮の結果、アルカリ性廃液からシリカが除去されていることと、砥粒濃度が所定の濃度範囲であることを確認した後、濃縮セリアスラリーを再生セリアスラリーとする調液工程へ移行する。
【0071】
(調液工程)
濃縮セリアスラリーには、pH調整剤、補正液などの化学物質を配合して再生セリアスラリーが調液される。具体的には、pH調整剤として有機酸、補正液として分散剤、硝酸鉄(III)などが、調合タンク16へ投入され、バルブV06のみを開くことにより、純水が調合タンク16に供給される。調合タンク16では、撹拌羽根により撹拌することで均一な溶液が調合される。調合された溶液は、バルブV05のみを開き、ポンプP02を稼働させることで、貯液タンク12へ移液される。貯液タンク12では、濃縮セリアスラリーと、上記溶液とが撹拌羽根により撹拌される。これにより、再生セリアスラリーが調液される。
【0072】
再生セリアスラリーは、バルブV02のみを開き、ポンプP01を稼働させることで、pH計14により、そのpH値が測定される。この際、密度計15で砥粒濃度を測定することができる。調液後のスラリーのpH値、砥粒濃度などが所定の範囲内であることを確認後、バルブV03のみを開き、ポンプP01を稼働させることで、濾過フィルタ17を通液させ、再生セリアスラリー18を得る。
【0073】
セリアスラリー再生システム11において、貯液タンク12と各設備の間を、配管を通って循環するスラリーの化学的および/または物理的性質は、装置を稼働している間、常時または適時、監視(モニタリング)することができる。監視する性質としては、例えば、pH値、砥粒濃度、ケイ酸イオン濃度に限らず、2種以上の選択されたイオンの濃度、密度、導電率、屈折率、粘度、砥粒の粒子径などを監視することができる。装置の稼働は、作業員がポンプや、バルブ、各機器を、現場または遠隔により操作して行ってもよい。また、装置に設置された各種測定機器から得られる情報を基に、プログラムにより全自動化された機械によって行われてもよい。
【0074】
本発明のセリア粒子再生方法について以下に説明する。本発明のセリア粒子再生方法は、セリア粒子とシリカ粒子とを含むCMP工程廃液からセリア粒子を再生する方法であり、上述した貯液工程と、pH調整工程と、濃縮工程とを備える。本方法は、濃縮工程において、溶解したシリカ成分がCMP工程廃液から除去され、濃縮工程の後に、濃縮されたCMP工程廃液(濃縮セリアスラリー)からセリア粒子を固液分離することを特徴とする。これにより、CMP工程廃液から簡易にシリカ粒子を除去できる。そのため、本発明のセリア粒子再生方法は、複数種の研磨剤を含むCMP工程廃液から選択的に、かつ、高純度のセリア粒子を簡易な工程で再生できる。
濃縮セリアスラリーからセリア粒子を再生するための固液分離手段としては、液分である水を除去するために熱風乾燥機などでの熱による乾燥が適当な事例があるが、熱の代わりにマイクロ波を用いることも可能である。さらに、遠心分離法や全濾過法と組み合わせて固液分離を行うことも有効である。
【0075】
特に、本方法は、濃縮工程において、CMP工程廃液の砥粒濃度が20質量%以上になるように濃縮されることが好ましい。この場合、砥粒濃度を高めるためにクロスフロー濾過装置を用いて砥粒濃度20質量%以上まで濃縮した後に再生し、1質量%以下の低濃度のスラリー状態から再生されないため、比較的短時間で再生でき、セリア粒子の凝集が起こりにくい。
【0076】
濃縮工程での過度な高濃度化は粘度の増大に繋がり、装置間の移液や濃縮セリアスラリーの取り扱いが困難となるおそれがある。そのため、濃縮工程では、砥粒濃度20質量%以上50質量%以下に濃縮することがより好ましく、砥粒濃度20質量%以上40質量%以下に濃縮することがさらに好ましい。なお、シリカ粒子(特にフュームドシリカ)の場合、砥粒濃度の増大は粘度上昇に繋がりやすく、砥粒濃度20質量%以上のスラリーは取り扱いが困難となりやすい。一方、セリア粒子の場合、砥粒濃度を1質量%以下から20質量%以上(例えば、30質量%程度)にしても粘度上昇は比較的小さく、取り扱い性が低下しにくい。
【0077】
本発明のセリア粒子再生方法は、貯液工程の後、pH調整工程の前に、CMP工程廃液を濃縮する初期濃縮工程を有してもよい。この場合、pH調整工程においてより少ないアルカリ性物質でCMP工程廃液をpH13以上にでき、低コスト化に繋がる。その結果、再生されたセリア粒子の適用範囲をより拡げることができる。
【0078】
本発明のセリア粒子再生方法では使用済CMPスラリーが原料であるため、比較的小粒径で粒度分布も狭いセリア粒子が得られやすい。また、再生工程全体にわたりセリア粒子の粒径および粒度分布が変化しにくいため、高品質な再生セリア粒子を得ることができる。そのため、再生されたセリア粒子は、例えば、CMP用研磨剤以外に、化粧品、触媒など様々な用途に用いることができる。
【実施例】
【0079】
試験例1
市販のシリカスラリーおよびセリアスラリーのそれぞれについて、超純水により砥粒濃度が0.1質量%となるように希釈して希釈スラリーを調製した。この希釈スラリーに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH調整を行い(アルカリ性スラリーとし)、一晩静置した。一晩静置前後の各サンプルの濁度変化を目視で判断し、粒子の溶解状態を評価した。ここで、シリカスラリーとして、フュームドシリカ粒子を砥粒として含むCMCマテリアルズ株式会社製SS25Eを用い、セリアスラリーとして、セリアを砥粒として含む昭和電工マテリアルズ製HS8005を用いた。表1に、各サンプルにおける粒子の溶解状態(濁度変化)の評価結果を示す。
【0080】
【0081】
シリカスラリーの結果に関し、pH10.7までは濁度変化が確認されず、シリカ粒子はほとんど溶解していないと考えられる。pH13.2の場合は透明化したことから、シリカ粒子のほとんどが溶解したと考えられる。これに対し、セリアスラリーでは、pH8.7~13.3の範囲で、濁度変化が確認されず、セリアはほとんど溶解していないと考えられる。本結果から、セリアはシリカよりもアルカリ耐性に優れ、pH13以上でも溶解しにくいと考えられる。
【0082】
試験例2
シリカスラリーについて、pHとシリカ溶解性の関係についてより詳細に検討するため、CMCマテリアルズ株式会社製SS25Eを用いて5水準のpH値(pH10.2~13.5)の0.1質量%希釈スラリーを調製した。5種の希釈スラリーについて、試験例1と同様に、一晩静置前後の濁度変化を目視で判断し、粒子の溶解状態を評価した。表2に、各サンプルにおける粒子の溶解状態(濁度変化)の評価結果を示す。
【0083】
【0084】
表2の結果より、シリカスラリーは、pH11.1以下の場合濁度変化が確認されず、シリカ粒子はほとんど溶解していないと考えられる。また、pH13.0以上の場合透明化したことから、シリカ粒子のほとんどが溶解したと考えられる。
【0085】
次に、pH11.1とpH13.0の一晩静置後のスラリーを、透析膜(MWCO 300K)を用いて70時間透析を行った。いずれの透析液も濁りは観察されなかった。透析液中のイオン状シリカ(ケイ酸イオン)濃度を株式会社共立理化学研究所製パックテスト・シリカにて確認したところ、pH13.0のサンプルでは、pH調整前の希釈スラリー中のシリカ成分全てがイオン状シリカとなって透析液に流出していることが確認された。一方、pH11.1のサンプルでは、pH調整前の希釈スラリーに含まれるシリカ成分の10質量%程度がイオン状シリカとなって透析液に流出していることが確認された。ここで、pH調整前の希釈スラリーが含むシリカ成分中のイオン状シリカの量を確認したところ10質量%程度であったことから、pH11.1の条件ではシリカ粒子の溶解は起こっておらず、pH調整前から含有されていたイオン状シリカのみが透析液に流出したと考えられる。なお、pH調整前の希釈スラリー中のシリカ成分は、JIS K 0101 44.2に基づいてシリカ粒子をすべて溶解させたサンプルについて測定することにより定量した。
【0086】
実施例1
実際のCMPプロセスを想定して、希釈されたセリアスラリーとシリカスラリーの混合スラリーからセリアスラリーの再生を行った。セリアスラリー再生の過程について
図4を用いて説明する。
図4は、セリアスラリーの再生過程を示すフロー図である。
図4に示すように、セリアスラリー5L(1.4質量%)と、シリカスラリー5L(12.5質量%)のそれぞれに純水を加えて50倍に希釈した後に混合し、混合スラリーとした(貯液)。ここで、混合スラリー中において、セリアは0.014質量%、シリカは0.125質量%の濃度で計算上存在する。
【0087】
上記混合スラリーを、孔径10~100nmのセラミックフィルタを備えたクロスフロー濾過装置を用いて初期濃縮し、シリカ濃度約4質量%、セリア濃度約0.4質量%となるまで濃縮した(初期濃縮)。初期濃縮された混合スラリーに対し、pHのモニタリングを行いながら水酸化カリウムを添加してpH13.5の状態を室温下で12時間維持した(pH調整)。イオン状シリカ濃度を株式会社共立理化学研究所製パックテスト・シリカを用いて行ったところ、25000~30000ppm程度であった。なお、試験例1、2の結果を考慮すると、シリカ成分は全て溶解したものと考えられる。
【0088】
このアルカリ性スラリーについて、初期濃縮に用いた濾過装置で希釈・濃縮を5回繰り返し行った結果、イオン状シリカ濃度は約2000ppmまで低下した。ここで、1回の希釈・濃縮では、希釈前のスラリーに純水を同体積加えて2倍に希釈し、その後希釈前と同じ体積まで濃縮する処理を行った。このスラリーに対し、希釈・濃縮を追加で繰り返し行った。
【0089】
図5に、追加での希釈・濃縮時に濾過装置から排出される透過液のイオン状シリカ濃度およびpH値の経時変化を示す。
図5において、横軸の「希釈・濃縮回数」は、希釈前のスラリーに純水を同体積加えて2倍に希釈し、その後希釈前と同じ体積まで濃縮する一連の工程(2倍希釈と2倍濃縮のセット)を行った回数を意味する。例えば、希釈・濃縮回数が10回の場合、約1000倍の希釈に相当する。一挙に1000倍希釈した場合、希釈前のスラリー体積が25Lとすると、25L×1000=25000Lの純水が必要となるところ、上記方法を用いれば、25L×10=250Lとなり1/100の純水と1/100の時間で処理を行える。
【0090】
図5に示すように、透過液中のイオン状シリカ濃度は、当初2000ppm程度であったものが、希釈・濃縮を28回繰り返した段階で5ppm程度まで減少した。また、セリア0.4質量%のスラリー中のイオン状シリカ濃度も測定し、10ppm以下であることも確認した。なお、透過液のpH値は、希釈・濃縮を繰り返すにつれて低下する傾向が見られ、当初pH12.5程度であったものが、希釈・濃縮を28回繰り返した段階でpH8程度まで低下した。
【0091】
図6には、透過液の導電率および粘度の経時変化を示す。
図6に示すように、透過液の導電率は、当初の10000μS/cm程度から、希釈・濃縮を28回繰り返した段階で10μS/cm以下まで低下した。これはpH調整で用いた水酸化カリウムの含有量と相関しており、pHの変化とほぼ一致していると考えられる。透過液の粘度は、希釈・濃縮5回まではイオン状シリカの影響により、水対比で若干高い傾向にあったが、その後は水と同程度の粘度になった。
【0092】
希釈・濃縮によりイオン状シリカ濃度が10ppm以下となったセリアスラリー(セリア濃度0.4質量%)を15質量%まで濃縮した。この濃縮時に、急激な粘度増加は起こらず、セリアの沈降なども見られなかった。また、得られた濃縮セリアスラリーは保存安定性にも優れ、CMP工程に利用可能なセリアスラリーが再生されたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のセリア再生方法は、セリア以外の研磨剤も含むCMP工程廃液からセリアを簡易な工程で再生でき、特に、CMP用セリアスラリーの再生に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 使用済スラリー
2 貯液工程
3 濃縮工程
31 初期濃縮工程
32 pH調整工程
33 希釈工程
34 本濃縮工程
4 調液工程
11 セリアスラリー再生システム
12 貯液タンク
13 限外濾過装置
14 pH計
15 密度計
16 調合タンク
17 濾過フィルタ
18 再生セリアスラリー
PW CMP工程廃液
B アルカリ性物質
BW アルカリ性廃液
P 透過液
S1 濃縮セリアスラリー
C 化学物質
RS 再生セリアスラリー
P01、P02 ポンプ
V01~V07 バルブ