(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】薬品としての適用のためのモリンガ・ペレグリナ種子固形物のタンパク質加水分解物、それを得るための方法、並びに薬学的及び皮膚科学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20240502BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240502BHJP
A61K 38/01 20060101ALI20240502BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240502BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240502BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240502BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240502BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240502BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20240502BHJP
C07K 1/12 20060101ALI20240502BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A61K36/185
A61K8/64
A61K38/01
A61P17/00
A61P29/00
A61P31/14
A61P35/00
A61P43/00 105
A61Q19/02
C07K1/12
C07K2/00
(21)【出願番号】P 2022571221
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2021063704
(87)【国際公開番号】W WO2021234165
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-01-27
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522452190
【氏名又は名称】アジャンス フランセーズ プール ル デヴロプマン ダル ウラ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ドディネ エリザベート
(72)【発明者】
【氏名】ブールジェトー ヴァンサン
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第02776519(FR,A1)
【文献】中国特許出願公開第107012190(CN,A)
【文献】Crop Res.,Vol.40 No.1-3,p.161-167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/12
A61K 38/01
C07K 2/00
A61K 36/185
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリンガ・ペレグリナ種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法であって、
a)熟したモリンガ・ペレグリナの果実から殻付きの成熟した種子を収集し、乾燥させて、内部水分含量を8%未満とする工程と、
b)乾燥させた前記種子をプレスして、油を前記種子の残りの部分から分離させて、6重量%未満の残油を含む固形物を得る工程と、
c)前記工程b)で得られた前記固形物を粉砕する工程と、
d)水相中に、前記工程c)で得られた粉砕された前記固形物を、それぞれ90.9/9.1(質量/質量)の割合で分散させる工程と、
e)前記工程d)で得られた水分散液の化学
加水分解を、13より高いpHで、16℃から25℃の温度で約2時間行う工程と、
f)得られたタンパク質加水分解物を安定させるために、前記
水分散液を
化学的に中性にする工程と、
g)前記タンパク質加水分解物を固液分離によって回収する工程と、
h)前記タンパク質加水分解物を、100Daから25000Daの間のカットオフ閾値を用いて行われる限外ろ過及び/又はナノろ過によって精製する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ナノろ過は、前記タンパク質加水分解物から、
分子量が10000Da未満であるバンドP1と、
分子量が10000Daから17000Daの間であるバンドP2と、
分子量が約23000DaであるバンドP3と、の3つのバンドを分離するように行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程h)の前記ナノろ過は、1500Daから5000Daの間、好適には3000Daから4500Daの間のカットオフ閾値を用いて行われる、請求項1又は2に記載
の方法。
【請求項4】
前記工程h)の前記ナノろ過は、10000Daから17000Daの間のカットオフ閾値を用いて行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程h)の前記ナノろ過は、17000Daから25000Daの間のカットオフ閾値を用いて行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
i)前記工程h)で得られた前記タンパク質加水分解物を凍結乾燥させる工程をさらに含む、請求項1~5のいずれかの何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物から得られるタンパク質加水分解物であって、
前記タンパク質加水分解物は、
アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる重量%における主要画分P1であって、分子量が1500Daから5000Daの間である主要画分P1と、
分子量が10000Daから17000Daの間である約20重量%の画分P2と、
分子量が約23000Daである約20重量%の画分P3と、を含み、
前記タンパク質加水分解物は、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学加水分解を行
い、続いて、17000Daから25000Daの間のカットオフ閾値を用いて行われるナノろ過と、10000Daから17000Daの間のカットオフ閾値を用いて行われるナノろ過と、1500Daから5000Daの間のカットオフ閾値を用いて行われるナノろ過と、を行うことにより得られたものであり、
液体であり、そして、
密度が1より高い、タンパク質加水分解物。
【請求項8】
前記タンパク質加水分解物は、乾燥物含有量が約12.5
重量%
であり、窒素含有化合物を1%から6%含み、
そして、ポリフェノールを20mg/リットル含む、請求項
7に記載のタンパク質加水分解物。
【請求項9】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物から得られるタンパク質加水分解物であって、
前記タンパク質加水分解物は、
アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる
重量%における主要画分P1
であって、分子量が1500Daから5000Daの間である主要画分P1を含み、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで
、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学
加水分解を行い、続いて、1500Daから5000Daの間のカットオフ閾値で行われるナノろ過によることにより得られたものであり、
液体であり、そして、
密度が1より高い、タンパク質加水分解物。
【請求項10】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物から得られるタンパク質加水分解物であって、
前記タンパク質加水分解物は、
アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる、分子量が10000Daから17000Daである約20
重量%
の画分P2を含み、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで
、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学
加水分解を行い、続いて、10000Daから17000Daの間のカットオフ閾値で行われるナノろ過によるこ
とにより得られたものであり、
液体であり、そして、
密度が1より高い、タンパク質加水分解物。
【請求項11】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物から得られるタンパク質加水分解物であって、
前記タンパク質加水分解物は、
アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる、分子量が約23000Daである約20
重量%
の画分P3を含み、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで
、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学
加水分解を行い、続いて、17000Daから25000Daの間のカットオフ閾値で行われるナノろ過によることにより得られたものであり、
液体であり、そして、
密度が1より高い、タンパク質加水分解物。
【請求項12】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物から得られるタンパク質加水分解物であって、
請求項
9の前記タンパク質加水分解物と請求項
10の前記タンパク質加水分解物との組み合わせを含む、
タンパク質加水分解物。
【請求項13】
薬品としての応用のための、請求項
7~
12の何れか一項に記載のモリンガ・ペレグリナ種子固形物から得られるタンパク質加水分解物。
【請求項14】
活性剤として、有効量の請求項
7~
12の何れか一項に記載のモリンガ・ペレグリナ種子固形物から得られるタンパク質加水分解物と、
生理学的に許容される添加剤と、を含有する、薬学的組成物又は皮膚科学的組成物。
【請求項15】
経口摂取のために製剤化された、請求項
14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
皮膚及び粘膜への局所適用のために製剤化された、請求項
14に記載の皮膚科学的組成物。
【請求項17】
モリンガ・ペレグリナ種子固形物の前記タンパク質加水分解物は、前記組成物中に、前記組成物の総重量に対して0.0001重量%から40重量%の濃度で存在する、請求項
14~
16の何れか一項に記載の薬学的組成物又は皮膚科学的組成物。
【請求項18】
有効量の請求項
9又は
10、好適には請求項
10に記載の前記タンパク質加水分解物を前記活性剤として含む、線維症疾患の治療及び炎症の治療のための薬品として使用するための請求項
14~
17の何れか一項に記載の薬学的組成物又は皮膚科学的組成物。
【請求項19】
有効量の請求項
11に記載の前記タンパク質加水分解物を前記活性剤として含む、がんの治療のための薬品として使用するための請求項
14~
17の何れか一項に記載の薬学的組成物又は皮膚科学的組成物。
【請求項20】
有効量の請求項
7又は
8に記載の前記タンパク質加水分解物を前記活性剤として含む、SARS-COV2のスパイクCOV2タンパク質を阻害するためのウイルス性感染症を治療する薬品として使用するための請求項
14~
17の何れか一項に記載の薬学的組成物又は皮膚科学的組成物。
【請求項21】
有効量の請求項
12に記載の前記タンパク質加水分解物を前記活性剤として含む、皮膚線維症及び黒子の治療のための薬品として使用するための請求項
14~
17の何れか一項に記載の薬学的組成物又は皮膚科学的組成物。
【請求項22】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法であって、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学加水分解を行う工程と、
前記化学加水分解により得られた前記タンパク質加水分解物を収集する工程と、を含み、ただし前記タンパク質加水分解物は、アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる重量%における主要画分P1であって、分子量が1500Daから5000Daの間である主要画分P1と、分子量が10000Daから17000Daの間である約20重量%の画分P2と、分子量が約23000Daである約20重量%の画分P3と、を含み、
前記タンパク質加水分解物は液体であり、
前記タンパク質加水分解物の密度は1より高い、方法。
【請求項23】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法であって、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学加水分解を行う工程と、
続いて、1500Daから5000Daの間のカットオフ閾値でナノろ過を行う工程と、
前記化学加水分解及び前記ナノろ過により得られた前記タンパク質加水分解物を収集する工程と、を含み、ただし前記タンパク質加水分解物は、アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる重量%における主要画分P1であって、分子量が1500Daから5000Daの間である主要画分P1を含み、
前記タンパク質加水分解物は液体であり、
前記タンパク質加水分解物の密度は1より高い、方法。
【請求項24】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法であって、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学加水分解を行う工程と、
続いて、10000Daから17000Daの間のカットオフ閾値でナノろ過を行う工程と、
前記化学加水分解及び前記ナノろ過により得られた前記タンパク質加水分解物を収集する工程と、を含み、ただし前記タンパク質加水分解物は、アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる、分子量が10000Daから17000Daである約20重量%の画分P2を含み、
前記タンパク質加水分解物は液体であり、
前記タンパク質加水分解物の密度は1より高い、方法。
【請求項25】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法であって、
16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない前記種子固形物の化学加水分解を行う工程と、
続いて、17000Daから25000Daの間のカットオフ閾値でナノろ過を行う工程と、
前記化学加水分解及び前記ナノろ過により得られた前記タンパク質加水分解物を収集する工程と、を含み、ただし前記タンパク質加水分解物は、アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる、分子量が約23000Daである約20重量%の画分P3を含み、
前記タンパク質加水分解物は液体であり、
前記タンパク質加水分解物の密度は1より高い、方法。
【請求項26】
熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された殻がむかれていない種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法であって、
請求項
23に記載のタンパク質加水分解物を得るための方法と、請求項24に記載のタンパク質加水分解物を得るための方法と、を組み合わせて行うことを特徴とする方法。
【請求項27】
薬学的組成物又は皮膚科学的組成物を得るための方法であって、
請求項22~26の何れか一項に記載の方法により、活性剤として、有効量の請求項22~26の何れか一項に記載のモリンガ・ペレグリナ種子固形物から得られるタンパク質加水分解物を得る工程と、
前記タンパク質加水分解物と、生理学的に許容される添加剤とを組み合わせる工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
前記薬学的組成物を経口摂取のために製剤化する工程を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記皮膚科学的組成物を皮膚及び粘膜への局所適用のために製剤化する工程を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記モリンガ・ペレグリナ種子固形物の前記タンパク質加水分解物は、
前記
薬学的組成物又は皮膚科学的組成物中に、前記組成物当該薬学的組成物又は皮膚科学的組成物の総重量に対して0.0001重量%から40重量%の濃度で存在するように、前記薬学的組成物又は皮膚科学的組成物を製剤化する工程を含む、請求項27~29の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学及び皮膚科学の分野に関し、より具体的には、薬品の製剤化における活性成分の分野に関する。本発明は、モリンガ・ペレグリナ種子固形物からのタンパク質加水分解物を得るための方法に関する。本発明はまた、モリンガ・ペレグリナ種子固形物からのタンパク質加水分解物にも関し、また、このタイプの加水分解物を含み、線維症疾患の治療、炎症の治療、がんの治療、細菌性若しくはウイルス性感染症の治療、並びに遺伝的浮動及び皮膚の色素沈着に関連する病状の治療に使用される薬学的及び皮膚科学的組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
ワサビノキ科(Moringaceae)は、Saharo-Sindian地域の植物相の要素である単属の科(属が1つのみ、Moringa Adans)であり、著者らによると、12種から14種で構成され、東アフリカからアジアに分布している。本属は、慣用的には3つのセクションに分けられるが、系統解析により単系統であることは確認されていない。むしろこの解析により、パシコール(瓶の木)、塊茎の木、及び瓶の木でも塊茎の木でもないもの(細長い木)という、特定の形態学的特徴を中心とするクレードが明らかとなった。モリンガ・ペレグリナ(Forssk.)Fiori種は第3群に属する。属又は科に関するいくつかの遺伝学的研究により、属中の他の種と比較したときの、特にインドモリンガ、モリンガ・オレイフェラ(Moringa oleifera Lam.)と比較したときの、種の実体が確かめられる(特に次の論文参照。OLSON, M.E. 2002, Combining Data from DNA Sequences and Morphology for a Phylogeny of Moringaceae (Brassicales), Systematic Botany 27(1): 55-73; HASSANEIN, A.M.A. et al., 2018, Morphological and genetic diversity of Moringa oleifera and Moringa peregrina genotypes, Horticulture, Environment and Biotechnology 59(2): 251-261)。サウジアラビアの様々な場所でサンプリングしたモリンガ・ペレグリナに関する最近の論文では、ITSマーカーを用いることにより同種の遺伝的安定性が認められたが(ALAKLABI, A., 2015, Genetic diversity of Moringa peregrina species in Saudi Arabia with ITS sequences, Saudi Journal of Biological Sciences 22: 186-190)、但し、集団内の遺伝的変異は高いレベルであると結論づけられた。
【0003】
モリンガ・ペレグリナ種はイエメン、オマーン、サウジアラビア、東アフリカ、スーダン、エチオピア、エリトリア、ソマリア、ジブチの岩の多い環境で見られる。イランにおけるその存在は南東部地方に限られているように見えるが、これには確認が必要である(PROTA14 = MUNYANZIZA, E. et al. Vegetable oils/oilseed plants, Moringa peregrina (Forssk.) Fiori, http://database.prota.org/protahtml/moringa peregrina_fr.htm、2019年10月23日にアクセス)。東方の地及びエジプトでは、現在、この種は、主にスーダン地域のセクターにおいて、希少な分散した遺存種プラント(高地でのわずかな個体群を除く)によってのみ代表される。モリンガ・ペレグリナは今日、スーダンとイエメンでも珍しく、危機に直面していえると考えられている。モリンガ・ペレグリナは、そのグレードの他の種と比較して最も乾燥し荒れた生息地を占めている。モリンガ・ペレグリナは、熱帯及び亜熱帯地域で大規模に商業的に植栽されているモリンガ・オレイフェラよりも明らかに耐乾性が高い。最近の研究では、種子の大きさと重さが発芽時間並びに若い個体の成長速度及び速度に好影響を与えることが示されており(GOMAA, N. H. et al., 2011, Seed germination, seedling traits, and seed bank of the tree Moringa peregrina (Moringaceae) in a hyper-arid environment, American Journal of Botany 98(6): p. 1024-1030)、このことは数よりも種子品質に関する資源の割り当てにおいて調整がされることを示しており、これにより、モリンガ・ペレグリナは極端な(超乾燥)非生物環境において効率的に繁殖することが可能となる。モリンガ・ペレグリナ種子は、モリンガ・オレイフェラよりも細胞層に関して厚い中層を有する。
【0004】
モリンガ・ペレグリナ油がウラーの地域のイスラムの始まりにおいて活発に取り引きされたことを示すのに役立ついくつかの過去の報告が存在する(NASEEF, A. A. S., 1995, Al-‘Ula, A study of Cultural and Social Heritage)。地元でモリンガ・ペレグリナから生産される油は、現在では主に国内消費又は地元市場向けである。サウジアラビアでは、葉が、糖尿病、腸疾患、眼疾患及び貧血の治療のための内服用煎剤として伝統的に使用されており(ABDEL-KADER et al., A survey on the traditional plants used in Al Kobah village, Saudi Pharmaceutical Journal 26(6): p. 817-821)、利尿薬、発赤剤及び収れん薬として使用されている(サウジアラビアのリヤドにあるサウジアラビア国立科学技術センターに提出された報告書である、AQEEL, A. A. M. et al., 1984, Plants used in Arabian Folk medicine)。オマーンでは、夏の終わりに女性によって抽出された油は、片頭痛、発熱、熱傷、裂傷、骨折、便秘及び胃の痛みに対処するため、また、筋肉痛、毛髪の乾燥及び労働による痛みに対処するために使用される(GHAZANFAR, S. A., 1994, Handbook of Arabian Medicinal Plants, 1st edition, CRC Press, Boca Raton, Ann Harbor, USA; GHAZANFAR, S.A., 1998, Plants of Economic Importance, chapter 15, in GHAZANFAR, S.A. et al. (ed.) Vegetation of the Arabian Peninsula. Geobotany 25, p. 241-264, Kluwer Academic Publishers, table 11.1, p. 247 and 11.7 p. 251)。また、これは、香料組成物(GHAZANFAR S.A., 1998, page 259)において使用され、またオマーンとイエメンではフェースローションとしても使用された(GHAZANFAR, S. A. et al., 1996, Two multi-purpose seed oils from Oman. Plants for Food and Medicine。この論文は1996年7月1日から7日にロンドンで開催されたEconomic Botany and International Society for Ethnopharmacologyの合同会議で発表された)。
【0005】
モリンガ・オレイフェラ種子に由来するいくつかの抽出物は美容用品分野で知られている。皮膚科学の分野では、FR2776519から、濁水をきれいにする効果で知られているモリンガ・オレイフェラ種子からのタンパク質抽出物が、皮膚及び粘膜に対する軟化、生理学的コンディショニング、保湿、再構築及び修復効果、並びに抗汚染効果を有することも知られている。上記文献では、活性成分は、モリンガ・オレイフェラの固形物(tourteau)を水抽出することによって得られる、6500Daから8800Daの分子量を有するタンパク質である。
【0006】
薬学の分野では、KR20140143655から、がんを治療又は予防するための活性成分としてモリンガ・オレイフェラの葉からの水溶性抽出物を含む組成物が知られている。モリンガ・オレイフェラの葉の抽出物を酵素加水分解する方法を用いて、分子量が6000Daから8000Daのタンパク質を分離することができる。
【0007】
文献CN107012190は、油を抽出し、マイクロ波照射を使用して酵素加水分解を行った後、種子タンパク質からポリペプチドを取得するためのモリンガ・オレイフェラ種子の使用に関する。得られた製品は経口で使用され、その抗がん活性に有用である。この粉末状の製品は、化学療法の副作用を軽減し、肝臓がん患者の食欲を増進させたり、白血球指数や体温をコントロールしたりする作用があると実際に記載されている。
【0008】
最後に、文献IN2009CH02906から、抗糖尿病製品として使用できるカチオン性タンパク質と結合したグルコシノレートを含むモリンガ・オレイフェラ固形物の水性抽出物が知られている。
【0009】
上に示した文献はすべてモリンガ・オレイフェラ種の使用に関するものであり、モリンガ・ペレグリナ種から得られる抽出物の薬学的及び皮膚科学的分野における使用については記載されていない。
【0010】
加えて、ABU TARBOUSHらによるXP055753092(2005年)には、10時間にわたる酵素加水分解によって生成されたモリンガ・ペレグリナの殻付き種子からの加水分解物の抽出が開示されている。この抽出の目的は、油と水を吸収する能力が高い生産物を得ることである。
【0011】
(1/1)ジクロロメタン/メタノール混合物を使用してエジプトの種子から生成されたモリンガ・ペレグリナ油の抽出物は、3つのヒトがん細胞株、MCF-7(乳房の腺がん)、Hep-G2(肝細胞がん)及びHCT-116(結腸がん)に対して、IC50値が2.92、9.40及び9.48μg/mnで、活性を示した(ABD EL BAKY et al., 2013, Characterization of Egyptian Moringa peregrina seed oil and its bioactivities, International Journal of Management Sciences and Business Research, 2(7): p. 98-108)。著者らはまた、DPPH(2,2-ジフェニル1-ピクリルヒドラジル)、ABTS(陰イオン除去能力及び還元力)及び抗増殖測定による高い抗酸化活性を実証した。抽出物を得る方法が本発明の方法とは異なるため、得られる分子はかなり異なる極性を有する。
【0012】
ABOU-HASHEMら(ABOU-HASHEM, M. M. M. et al., 2019, Induction of sub-G0 arrest and apoptosis by seed extract of Moringa peregrina (Forssk.) Fiori in cervical and prostate cancer cell lines, Journal of Integrative Medicine 17: p. 410-422)によって、子宮頸がん(HELA)及び前立腺(PC-3)がん細胞株に対するsub-G0停止(arrest)及びアポトーシスの誘導活性も実証されている。プロトコルには、エジプトのモリンガ・ペレグリナの種子を粉末にし、95%エタノールで抽出した後、水溶液に溶解し、そこから3つの分画された抽出物(石油エーテル(PE)、CHCl3、及びEtOAcを使用した画分)と水アルコール抽出残留物を調べた。活性は、全クロロホルム画分で実証され、飽和及び不飽和脂肪酸とポリフェノールに起因するものであったが、メカニズムの具体的な研究はなされていない。抽出物を得る方法が本発明の方法とは異なっていたため、得られた活性分子は大きく異なる極性を有していた。
【0013】
上記を鑑みて、本発明が解決しようとする課題の1つは、薬学又は皮膚科学に使用可能で且つ使用が容易である、モリンガ属の及びワサビノキ科のモリンガ・ペレグリナ種の抽出物をベースとする新規の製品を開発することである。
【0014】
したがって、出願人は驚くべきことに、モリンガ・ペレグリナ種子固形物から得られる特定のタンパク質加水分解物を、薬品として、特に線維症疾患の治療(フーリン転換酵素の阻害剤として)、炎症の治療、がんの治療、細菌性若しくはウイルス性感染症の治療、並びに遺伝的浮動及び皮膚の色素沈着に関連する病状の治療に応用するために開発した。
【0015】
モリンガ・ペレグリナ種は非常に乾燥した気候で育つ。このように、干ばつに抵抗し、極限環境下で繁殖するその能力により、モリンガ・ペレグリナ種は特にユニークな特徴を獲得することができ、本出願人はこれを、モリンガ・ペレグリナの種子固形物に特定の抽出方法を実行することによって特定することができた。本発明によるタンパク質加水分解物は、薬品としての特性を有することが示されており、特に、非常に高いフーリン転換酵素阻害活性を有することが実証されている。
【0016】
フーリン転換酵素(以下、フーリンと称する)は、さまざまな細胞型で発現する794個のアミノ酸を持つ1型膜貫通タンパク質である。フーリンは多数の生物学的プロセスに関与することが示されているタンパク質である(BRAUN E. et al., 2019, Furin-mediated protein processing in infectious diseases and cancer, Clinical & Translational Immunology https://doi.org/10.1002/cti2.1073)。これは特に、創傷の瘢痕形成、並びに、線維化が主要な組織修復メカニズムであるような又は過度の線維化が病理学的破壊や組織機能障害を引き起こすような疾患の治療における線維化の調節に関与している(この点に関しては、文献WO2004/09113を参照のこと。この文献は、損傷の治癒中の瘢痕化を軽減し、線維症状態の治療における線維化を軽減するための転換酵素の使用に関する)。成人における創傷の瘢痕形成は複雑な修復プロセスである。創傷には、肺、腎臓、心臓、腸、腱又は肝臓などの組織又は内臓へのダメージ、損傷又は外傷が含まれ得る。組織の創傷治癒プロセスは、通常、皮膚の血管へのダメージによって引き起こされる止血反応によって始まる。このプロセス中に、治癒プロセス中に形成される結膜組織は、多くの場合、繊維状の性質を有し、通常は結合組織瘢痕として形成される(線維症として知られる過程)。したがって、線維症には、肺線維症、腎線維症、肝線維症、皮膚線維症、眼線維症、心臓線維症及び他の様々な線維症状態が含まれる。本発明のタンパク質加水分解物はまた、高血圧、がん、感染症(細菌性及びウイルス性)、遺伝性疾患(例えば、嚢胞性線維症(CF))及び神経変性疾患を含むがこれらに限定されない、フーリンによって媒介される他の病理学的状態の治療においても有用であり得る(これに関しては、文献WO2019/215341を参照。この文献は、新しいフーリン転換酵素阻害剤化合物及びそれらを含む医薬組成物に関し、この文献には阻害剤の薬学的活性を実証する多くの刊行物が引用されており、これらは参照により本明細書に組み込まれるものとする)。
【0017】
2018年4月10日のフランス共和国政府とサウジアラビア王国との間の政府間合意により、出願人であるアジャンス フランセーズ プール ル デヴロプマン ダル ウラ(AFALULA)[AlUlaのフランスエージェント]と、Commission Royale pour AlUlA(RCU)[AlUlaの委員会]は、特に、先住植物に由来する天然産物の地元生産のため、並びに生物多様性及びサウジアラビア王国のウラー地域の権利を保護するために、持続可能な農業及び地元経済を開発する共同プロジェクトを有する。サウジアラビア王国は2020年10月8日以降、名古屋議定書のメンバーである。本特許の起案時において、名古屋議定書が関連する地方法の側面に統合される施行規則が検討中である。したがってこの段階では、サウジアラビア王国は本特許出願及び名古屋議定書に関して特定の要件を定めていない。したがって、本特許出願の出願日において、遺伝資源へのアクセスに関するコンプライアンス要件の証明はない。
【発明の概要】
【0018】
第1の態様では、本発明は、モリンガ・ペレグリナ種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法に関し、この方法は、
a)熟したモリンガ・ペレグリナの果実から殻付きの成熟種子を収集し、乾燥させて、内部水分含量を8%未満とする工程と、
b)乾燥させた種子をプレスして、油を種子の残りの部分から分離させて、6重量%未満の残油を含む固形物を得る工程と、
c)工程b)で得られた固形物を粉砕する工程と、
d)水相中に、工程c)で得られた粉砕された前記固形物を分散させる工程と、
e)工程d)で得られた水分散液の化学タンパク質分解を、13より高いpHで、16℃から25℃の温度で約2時間行う工程と、
f)得られたタンパク質加水分解物を安定させるために、前記化学タンパク質分解を中和させる工程と、
g)タンパク質加水分解物を固液分離によって回収する工程と、
h)タンパク質加水分解物を限外ろ過及び/又はナノろ過によって精製する工程と、その後、オプションで、
i)工程h)で得られたタンパク質加水分解物を凍結乾燥させる工程と、を含む。
【0019】
第2の態様では、本発明は、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された、殻がむかれていない種子固形物から得られるタンパク質加水分解物に関し、当該タンパク質加水分解物は、アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる主要画分であって、分子量が1500Daから5000Daである主要画分P1と、分子量が10000Daから17000Daである約20%の画分P2と、分子量が約23000Daである約20%の画分P3と、を含み、前記タンパク質加水分解物は、16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで化学タンパク質分解を行うことにより得られたものであり、液体であり、密度が1より高い、好適には約1.1である。
【0020】
その特定の特徴により、本発明によるモリンガ・ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、モリンガ属及びワサビノキ科において開示されたことはない。モリンガ・ペレグリナ種からの抽出物は属の他の種、特にモリンガ・オレイフェラの種とは異なる特定のペプチドプロファイルを有することが以下において実証され、これは本出願人により明らかにすることができたものである。
【0021】
第3の態様では、本発明は、薬品としての応用のための、モリンガ・ペレグリナ種子固形物からのタンパク質加水分解物に関する。
【0022】
第4の態様では、本発明は、活性剤として有効量の本発明によるモリンガ・ペレグリナ種子固形物からのタンパク質加水分解物と、生理学的に許容される添加剤と、を含有する薬学的及び皮膚科学的組成物に関する。
【0023】
最後に、第5の態様では、本発明は、線維症疾患の治療、炎症、がん、細菌性若しくはウイルス性感染症の治療、並びに遺伝的浮動及び皮膚の色素沈着に関連する病状の治療に使用される薬学的及び皮膚科学的組成物に関する。
【0024】
添付の図面を参照して、説明のみを目的として非限定的に示される本発明のいくつかの特定の実施形態についての以下の記載から、本発明はより良く理解され、そのさらなる目的、詳細、特徴及び利点がより理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】SARS-COV2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)コロナウイルスによる感染を表す図であり、SARS-COV2コロナウイルス偽ウイルスに対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の抗感染及びウイルス増殖抑止作用を示す。
【
図2】ペレグリナ油の抽出物を用いたフーリンの阻害図を表す。この図において、**は、「対照」グループとは有意に異なること(P<0.001)を意味する。
【
図3】ペレグリナ固形物の抽出物(96°エタノール)を用いたフーリンの阻害図を表す。この図において、*は、「対照」グループとは有意に異なること(P<0.001)を意味する。
【
図4】本発明によるペレグリナ固形物からのタンパク質加水分解物を使用したフーリンの阻害図を表す。この図において、***は、「対照」グループとは有意に異なること(P<0.001)を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において、別段の定めがない限り、ある範囲が与えられた場合にはその範囲の上限及び下限が含まれるものとする。
【0027】
本発明において、以下の略語は以下に示す意味を有する。
・MTT:3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT試験は生細胞をカウントするための迅速な方法である)
・SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
・PBS:リン酸緩衝生理食塩水
・ELISA:酵素免疫測定法
・PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
・ANOVA:分散分析
・MSH:メラノサイト刺激ホルモン
【0028】
本発明においては、以下の定義が適用される。
・「主にアミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチド」は、乾燥物の重量に対し、アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドの乾燥物の量が20%超、より好適には30%超、場合によっては最大約40%(質量/質量)であること、より好適には50%であることを指す。
・「有効量」:所望の結果を得るため、すなわち、特に所望の治療活性を保証するために必要な活性分子の量。
・「タンパク質分解」:化学的加水分解による、タンパク質のペプチド、オリゴペプチド及びその塩基性フラグメント(アミノ酸)及び残留物への分解。
・「局所投与」:その作用ポイントに直接適用される薬品が、その薬理学的効果を疾患の正確な部位に発揮することを指す。局所投与の目的は、投与部位からの活性成分の拡散を制限し、望ましくない影響を最小限に抑えることである。採用される主な局所投与モードは、皮膚、鼻及び呼吸器への投与、眼への投与、耳への投与、膣への投与及び頬への投与である。
・「局所適用」:本発明による活性成分又はこれを含有する組成物を皮膚、粘膜又は爪及び髪の表面に適用又は広げることを指す。
・「生理学的に許容される」:局所使用の文脈では、毒性、不適合性、不安定性若しくはアレルギー反応のリスクなしに、ヒトの皮膚と接触させること、又は他の投与モードの文脈では、例えば経口投与又は皮膚への注入を指す。
・「固形物(tourteau)」:プレス後の種子の脱油部分を指す。これは種子から油を抽出した際の固体残留物である。これは油を生産する工程である粉砕作業の副産物である。これは通常は種子の質量の50%から75%である。
・「殻付き種子」:採取した種子の殻(果皮)及び上皮が実の周囲に維持されていることを指す。
・「果実が熟したとき」:果実が熟していることを指し、好適には、鞘が裂開の開始時にあって暗いベージュ色から茶色に変わり、鞘の下側4分の1が180°ねじれることで弁が開こうとするときを指す。
・「約」:所与の情報に対するプラス又はマイナス10%から20%のマージンを指す。
・「活性分子のプール」、「活性剤」、「活性成分」:モリンガ・ペレグリナ種子固形物から開始して本発明の方法にしたがって抽出されたタンパク質加水分解物を指す。この加水分解物は、本発明に記載される生理活性の原因となる。
・「活性剤」:記載される生理活性を得るのに十分な量の本発明による抽出物を指す。抽出物が液体であるか又は乾燥されたものであるか、濃縮されたものであるか又はその他であるかに応じて、活性剤の量は、組成物の総重量に対して0.0001重量%から40重量%の割合で変わり得る。
【0029】
本発明の第1の態様では、本発明は、モリンガ・ペレグリナ種子固形物からタンパク質加水分解物を得るための方法であり、この方法は、
a)熟したモリンガ・ペレグリナの果実から殻付きの成熟種子を収集し、乾燥させて、内部水分含量を8%未満とする工程と、
b)乾燥させた種子をプレスして、油を種子の残りの部分から分離させて、6重量%未満の残油を含む固形物を得る工程と、
c)工程b)で得られた固形物を粉砕する工程と、
d)水相中に、工程c)で得られた粉砕された前記固形物を分散させる工程と、
e)工程d)で得られた水分散液の化学タンパク質分解を、13より高いpHで、16℃から25℃の温度で約2時間行う工程と、
f)得られたタンパク質加水分解物を安定させるために、前記化学タンパク質分解を中和させる工程と、
g)タンパク質加水分解物を固液分離によって回収する工程と、
h)タンパク質加水分解物を、100Daから25000Daのカットオフ閾値を用いて限外ろ過及び/又はナノろ過によって精製する工程と、その後、オプションで、
i)工程h)で得られたタンパク質加水分解物を凍結乾燥させる工程と、を含む。
【0030】
殻付きの種子が収集される、すなわち、果実が熟し、好適には外皮が裂け始めたときに殻が保持されている。
【0031】
種子は内部水分含量が8%未満、好適には約6%となるよう乾燥され、この乾燥は、好適には、太陽光から遮蔽された、好適には外気中の日陰下で、通気されたラック上で行われる。
【0032】
次いで、乾燥させた種子をすぐに冷間プレスしながら粉砕し、これにより、油を、圧縮された種子の残りの部分、すなわち固形物から、機械的に分離させることが可能となる。
【0033】
次いで、固形物は、ハンマーミル、フレイルミル、ナイフミル、破砕/細断ミル、ボールミル又はすりこぎミルなどの任意のタイプの機械ミルを用いて粉砕され、但し任意のタイプのクライオミルを用いても粉砕され得る。
【0034】
工程d)による水相を形成するための分散及び工程e)によるタンパク質分解は、有利には連続的に撹拌しながら行われ、したがって液体中における固体の分散及び均等化が可能となり、交換のための全体の表面積が向上し、結果としてタンパク質分解が向上する。
【0035】
得られる液体タンパク質加水分解物は、密度が1より大きく、好適には約1.1であり、乾燥物含有量が10%から15%、好適には約12.5%であり、窒素含有化合物を1%から6%含み、特に揮発性ニトリル誘導体を0.5%から1.5%の割合で、好適には約0.8%の割合で含み、そして、ポリフェノールを20mg/リットル(0.002%)含む。
【0036】
本発明による方法の好適な実施形態では、工程f)のタンパク質分解の温度は約22℃である。
【0037】
本発明による方法の好適な実施形態では、工程g)の固液分離は、遠心分離、脱水又はろ過などの異なる方法を用いて行われる。
【0038】
液体モリンガ・ペレグリナ・タンパク質加水分解物を得るための方法の一実施形態では、タンパク質加水分解物は、蒸留、マイクロろ過、限外ろ過及び/又はナノろ過によって精製され、これにより、タンパク質加水分解物を、同様に抽出された有機物に対し、特に同様に抽出された他の誘導体に対し、目的の化合物として濃縮する。これらの精製工程により、上に記載したような他の抽出された化合物を使って目的の化合物のプールを濃縮することが可能となる。
【0039】
本発明による方法の別の好適な実施形態では、ナノろ過は、タンパク質加水分解物から、分子量が10000Da未満であるバンドP1と、分子量が10000Daから17000DaであるバンドP2と、分子量が約23000DaのバンドP3と、を含むの3つのバンドすなわち画分を分離するようなかたちで行われる。
【0040】
また、タンパク質加水分解物を得るための方法によって、ナノろ過により3つのバンドを分離して以下のバンドを得ることが有利である。
・1500Daから5000Daの間のカットオフ閾値、好適には3000Daから4500Daの間のカットオフ閾値で行われるナノろ過によるバンドP1。
・10000Daから17000Daの間のカットオフ閾値で行われるナノろ過によるバンドP2。
・17000Daから25000Daの間のカットオフ閾値で行われるナノろ過によるバンドP3。
【0041】
本発明による抽出方法の別の実施形態では、得られた液体タンパク質加水分解物を乾燥させて、モリンガ・ペレグリナ種子固形物の乾燥加水分解物が得られ、当該乾燥加水分解物には、乾燥物の重量に対し、ペプチド、オリゴペプチド、グリコペプチド及びアミノ酸又はそれらの揮発性ニトリル誘導体の乾燥物が、10%超、好適には20%超、より好適には30%超、場合によっては最大約40%(質量/質量)、より好適には50%の量で含まれる。
【0042】
本発明の一実施形態では、得られたモリンガ・ペレグリナ種子固形物からの液体タンパク質加水分解物を、例えば、噴霧化、凍結乾燥又はゼオドレーションにより乾燥させて、モリンガ・ペレグリナ種子の固体加水分解物を得るようにし、水分は蒸発除去されている。乾燥は、マルトデキストリン、シクロデキストリン若しくはイヌリンなどの有機担体の存在下で、又はフィロケイ酸塩、ケイ酸マグネシウム若しくは炭酸塩及びそれらの塩などの無機担体の存在下で行うことができる。
【0043】
本発明はまた、本発明による抽出方法によって得られるモリンガ・ペレグリナ種子固形物からのタンパク質加水分解物に関する。
【0044】
第2の態様では、本発明は、熟したモリンガ・ペレグリナ果実から採取された、殻がむかれていない種子固形物から得られるタンパク質加水分解物に関し、当該タンパク質加水分解物は、アミノ酸誘導体、アミノ酸、ペプチド及びグリコペプチドからなる主要画分であって、分子量が1500Daから5000Daである主要画分P1と、分子量が10000Daから17000Daである約20%の画分P2と、分子量が約23000Daである約20%の画分P3と、を含み、タンパク質加水分解物は、16℃から25℃の温度で約2時間、13より高いpHで化学タンパク質分解を行うことにより得られたものであり、液体であり、密度が1より高い、好適には約1.1である。
【0045】
一実施形態では、得られた液体タンパク質加水分解物を乾燥させて、モリンガ・ペレグリナ種子固形物から乾燥加水分解物が得られ、当該乾燥加水分解物には、乾燥物の重量に対し、ペプチド、オリゴペプチド、グリコペプチド及びアミノ酸又はそれらの揮発性ニトリル誘導体の乾燥物が、20%超、より好適には30%超、場合によっては最大約40%(質量/質量)、より好適には50%の量で含まれる。
【0046】
好適な実施形態では、タンパク質加水分解物はまた、0.3%から3%の揮発性化合物をさらに含み、この化合物の50%、すなわち本発明による抽出物の0.15%から1.5%が、主にイソブチロニトリル及びメチルブタンニトリルを含む軽ニトリル化合物から構成され、この化合物の5%から10%、すなわち本発明による抽出物の0.015%から0.3%が、主にイソプロピルイソチオシアネート及びイソブチルイソチオシアネートを含むイソチオシアネート誘導体から構成され、この化合物の1%から5%、すなわち0.003%から0.15%が、主にユーカリプトール、メントール及びベンズアルデヒドを含む精油から構成される。
【0047】
さらに別の実施形態では、タンパク質加水分解物は、乾燥物含有量が10%から15%、好適には約12.5%であり、窒素含有化合物を1%から6%含み、特に揮発性ニトリル誘導体を0.5%から1.5%の割合で、好適には約0.8%の割合で含み、そして、ポリフェノールを20mg/リットル含む。
【0048】
本発明の文脈において、選択される植物部分はモリンガ・ペレグリナ種子である。モリンガ・ペレグリナ種子は、その油の抽出のために使用されることが知られており、これは、国内消費又は様々な伝統的薬物治療において有用である。種子の脱油後に得られる固形物は、現在、特に動物用飼料に使用されている廃棄物である。
【0049】
さらに別の実施形態では、タンパク質加水分解物は、分子量が1500Daから5000Daである主要画分P1を含む。
【0050】
さらに別の実施形態では、タンパク質加水分解物は、分子量が10000Daから17000Daである約20%の画分P2を含む。
【0051】
さらに別の実施形態では、タンパク質加水分解物は、分子量が約23000Daである約20%の画分P3を含む。
【0052】
さらに別の実施形態では、タンパク質加水分解物は、分子量が1500Daから5000Daである画分P1と、分子量が10000Daから17000Daである画分P2とを含む。
【0053】
第3の態様では、本発明は、薬品としての応用のための、モリンガ・ペレグリナ種子固形物から得られるタンパク質加水分解物に関する。
【0054】
第4の態様では、本発明は、活性剤として有効量の本発明によるモリンガ・ペレグリナ種子固形物から得られるタンパク質加水分解物と、生理学的に許容される添加剤と、を含有する薬学的及び皮膚科学的組成物に関する。
【0055】
本発明による組成物は、組成物が経口摂取されるか、注射されるか又は皮膚若しくは粘膜に適用されるかに応じて、一般に使用されるガレノス製剤形態のいずれであってもよい。
【0056】
第1の変形例では、種々の組成物が摂取に適しており、組成物は、カプセル、シロップ、顆粒又は錠剤の形態であってもよい。添加剤を含む必要はなく、乾燥形態のタンパク質加水分解物を含む植物抽出物によって全体が構成されてもよい。
【0057】
第2の変形例では、種々の組成物が注射に適しており、組成物は、水性油性ローションの形態、又はセラムの形態であってもよい。
【0058】
第3の変形例では、種々の組成物が局所投与に特に適しており、これにより、皮膚又は粘膜を介して疾患の正確な部位で薬理学的効果を得ることができる。
【0059】
本発明による活性剤の投与に使用される主な局所モードは、皮膚及び経皮モード、鼻及び呼吸器モード、眼球モード、耳モード及び膣モードである。組成物を粘膜を介して投与するための他のモード、特にバッカルモード、及びマイクロインジェクションによる皮下モードも想定され得る。
【0060】
薬学的使用のための本発明による組成物は、局所経路を介する適用のために通常使用されるガレノス製剤形態のいずれかであってもよい。これらは、特に鼻若しくは呼吸器、眼球、頬、膣及び耳への投与によって、粘膜に投与されてもよい。
【0061】
皮膚科学的使用のための本発明による組成物は、皮膚適用のために皮膚科学分野で通常使用されるガレノス製剤形態のいずれかであってもよい。これらは、経皮的に投与されるか、又は皮膚に局所的に適用されてもよい。
【0062】
本発明によるタンパク質加水分解物を含有する組成物は、局所又は皮膚投与用のこのタイプの製剤で日常的に使用される成分を含んでもよい。
【0063】
好ましい形態によれば、種々の組成物が局所投与に適しており、これらには、クリーム、水中油型及び油中水型エマルジョン、ミルク、軟膏、ローション、オイル、バルム、水性若しくは水性-アルコール性若しくはグリコール性溶液、セラム、粉末、パッチ、スプレー、又は外部適用のためのその他の任意の製品、例えば医療デバイス若しくは圧力下の推進剤も有するエアロゾル製品を含む。
【0064】
別の好適な実施形態によれば、種々の組成物が皮下注射及び経皮投与に適しており、組成物は、水性ローション若しくはエマルジョンの形態、又はセラムの形態であってもよい。経皮又はパッチシステムでは、活性成分又は複数の活性成分の放出は、一般に粘着性があり皮膚に直接接触する透過性膜によって制御される。
【0065】
特に局所投与が意図される本発明による組成物は、許容可能な薬学的又は皮膚科学的媒体を含み、すなわち、皮膚及び粘膜に適合し、すべての適切なガレノス製剤形態をカバーする。これらの組成物は、特に、クリーム、水中油型又は油中水型のエマルジョン又は複数のエマルジョン、セラム、溶液、懸濁液、ゲル、ミルク、ローション、スティック、エアロゾル、スプレーの形態であってもよく、あるいは外部適用のためのその他の任意の製品、例えば医療デバイス又は圧力下の推進剤も有するエアロゾル製品を含んでもよく、あるいは実際には皮膚及び粘膜への適用に適する任意の形態の粉末でもよい。これらの組成物はこれを製剤化するのに必要な添加剤を含み、添加剤は例えば、溶媒、皮膚軟化剤、増粘剤、希釈剤、界面活性剤、抗酸化剤、生物活性剤、染料、保存剤及び芳香剤などである。
【0066】
したがって、本発明による組成物は、想定される適用分野において一般的に使用される任意の添加剤及びその製剤化に必要とされる補助剤、例えば、溶媒、増粘剤、希釈剤、酸化防止剤、染料、日焼け止め剤、自己日焼け剤、顔料、充填剤、保存剤、芳香剤、臭気吸収剤、皮膚科学的又は薬学的活性剤、精油、ビタミン、必須脂肪酸、界面活性剤、フィルム形成ポリマーなども含む。
【0067】
いずれの場合にも、当業者は、これらの補助剤及びその割合の選択を、本発明による組成物の所望の有利な特性に確実に悪影響を及ぼさないようにするよう注意を払うであろう。
【0068】
本発明の組成物において、本発明によるタンパク質加水分解物は、組成物の総重量に対して0.0001重量%から40重量%の範囲の量で使用される。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明によるタンパク質加水分解物は、組成物の総重量に対して0.001重量%から10重量%の範囲の量で、より好適には組成物の総重量に対して0.01重量%から5重量%の範囲の量で使用される。
【0070】
最後に、第5の形態では、本発明は、以下のような薬学的及び皮膚科学的組成物に関する。
・有効量のタンパク質加水分解物の画分P1又はP2、好適には画分P1を活性剤として含む、線維症疾患及び炎症を治療する薬品として使用するための薬学的及び皮膚科学的組成物。
・有効量のタンパク質加水分解物の画分P3を活性剤として含む、がんを治療する薬品として使用するための薬学的及び皮膚科学的組成物。
・有効量のタンパク質加水分解物全体を活性剤として含む、細菌性又はウイルス性感染症を治療する、特にスパイク-COV2タンパク質を阻害する薬品として使用するための薬学的及び皮膚科学的組成物。
・有効量のタンパク質加水分解物の画分P1及びP2を活性剤として含む、遺伝的浮動及び皮膚の色素沈着に関連する病状を治療する薬品として使用するための薬学的及び皮膚科学的組成物。「遺伝的浮動」との用語は特に環境ストレスを意味する。「色素沈着に関連する病状」との用語は例えば上皮性悪性腫瘍及び黒子を意味する。
【0071】
線維症疾患の治療について、線維症(線維化)との用語は、肺線維症、腎線維症、肝線維症、皮膚線維症、眼線維症、心臓線維症及び他の様々な線維症状態を意味し、また、他のフーリンを介する病状の治療について、以下に特に限定されないが、高血圧、がん、ウイルス性及び細菌性疾患を含む感染症、遺伝性疾患(例えば、嚢胞性線維症(CF)など)、及び神経変性疾患である。
【0072】
本発明はいくつかの特定の実施形態に関連して記載されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の文脈内に入る場合には記載される手段の全ての技術的均等物及びその組み合わせも包含することは明らかである。
【0073】
動詞「含有する」、「備える」又は「含む」並びにこれらの活用形の使用は、特許請求の範囲に記載のもの以外の要素又は工程の存在を除外するものではない。
【0074】
<例>
【0075】
[例1]モリンガ・ペレグリナ固形物から開始する本発明による植物タンパク質加水分解物の準備
【0076】
モリンガ・ペレグリナ(Forssk.)Fioriの種子を乾燥させて内部水分含量を8%未満とし、好適には約6%とし、その後、機械エンドレススクリュープレスでプレスして、一方でバージン油を、他方で固形物を得るために、油を種子の残りの部分から分離させる。次いで、固形物を、1cmから2cmの断片に事前にカットされた押し出し物の形に切り離し、これに対して抽出が行われる。
【0077】
使用された開始材料は以下のとおりである。
【0078】
【0079】
・プロトコル
a)濃縮された1モル濃度の強アルカリ剤、例えば、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくは水酸化カルシウムなどを含む溶液、又は1モル濃度の強アルカリ剤を含むが、好適に水酸化ナトリウムを含む水性混合物を準備し(この強アルカリ溶液のpHは13から14である)、
b)1cmの断片に事前にカットされたペレグリナ固形物を、90.9%(重量/重量)のアルカリ溶液中に対し9.1%(重量/重量)となるよう計量し、
c)工程b)で得られた固形物を粉砕し、
d)水相中に、工程c)で得られた粉砕された固形物を分散させ、
e)工程d)で得られた水分散液の化学タンパク質分解を、温度22℃で約2時間行い、
f)得られたタンパク質加水分解物を安定させるために、タンパク質分解を中和させ、
g)タンパク質加水分解物を、1μmフィルタを介する経路によって固液分離によって回収し、
h)タンパク質加水分解物を限外ろ過によって精製する。
【0080】
約12.48%の乾燥物を含む半透明の黄色のろ液が得られる。得られた液体抽出物を、本明細書では以下、「本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物」又は「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」又は「本発明による抽出物」という。この液体抽出物は、後に、効率試験に使用される。
【0081】
本発明によるこのペレグリナ・タンパク質加水分解物は、密度が1より大きく、好適には約1.1であり、乾燥物含有量が10%から15%、好適には約12.5%であり、窒素含有化合物を1%から6%含み、特に揮発性ニトリル誘導体を0.5%から1.5%の割合で、好適には約0.8%の割合で含み、そして、ポリフェノールを20mg/リットル含む。本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の組成を以下に示す。
【0082】
【0083】
ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、イソプロピルイソチオシアネート及びイソブチルイソチオシアネートを比較的高レベルで含み、種に関する従来の出版物を裏付ける(KJAER, A. et al. 1979, Isothiocyanates in Myrosinase-treated seed extracts of Moringa peregrina, Phytochemistry, 18, p. 1485-1487; AFSHARYPUOR, S. et al., 2010, Volatile Constituents of the Seed Kernel and Leaf of Moringa peregrina (Forssk.) Fiori, Agricolt. Cultivated in Chabahar (Iran), Iranian Journal of Pharmaceutical Sciences 6(2): p. 141-144; DEHSHAHRI, S. et al., 2012, Determination of volatile glucosinate degradation products in seed coat, stem and in vitro cultures of Moringa peregrina (Forssk.) Fiori, ScienceOpen, Research in Pharmaceutical Sciences 7(1): p. 51-56)。イソチオシアネートは、病原体による攻撃に対する防御システムとして、アブラナ科、特にBrassicaceae科、フウチョウボク科、パパイア科、Moringaceae科に属するさまざまな植物によって生成される化合物である。モリンガ属では、これらは特にモリンガ・オレイフェラLam.及びモリンガ・ステノぺタラ(Baker f.)Cufoldで示されている(ABD RANI, N.Z. et al., 2018, Moringa genus: A review of Phytochemistry and Pharmacology, Frontiers in Pharmacology, vol. 9, art. 108, p. 3-8)。イソチオシアネートは、植物組織が損傷を受けたときの酵素ミロシナーゼによるグルコシノレートの加水分解に由来する。イソチオシアネート類には、様々な生物学的効果、例えば、抗真菌活性(TRONCOSO-ROJAS, R. et al., 2007, Natural compounds to control fungal diseases in fruits & vegetables, in TRONCOSO-ROJAS, R., TIZNADO-HERNANDEZ, M. E., GONZALEZ-LEON, A. (ed) Recent advances in alternative postharvest technologies to control fungal diseases in fruits & vegetables. Transworld Research Network, Kerala, India, p. 127-156; TRONCOSO-ROJAS, R. et al., 2005, Analysis of the isothiocyanates present in cabbage leaves extract and their potential application to control Alternaria rot in bell peppers, Food Research International 38, p. 701-708)や、抗菌、抗がん及び抗炎症作用(PARK, E. J. et al., 2011, Inhibition of lipopolysaccharide induced cyclooxygenase-2 expression and inducible nitric oxide synthase by 4-[(2′-Ο-acetyl-α-L-rhamnosyloxy)benzyl]isothiocyanate from M. oleifera, Nutrition and Cancer 63(6), p. 971-982; RAJAN T. S. et al., 2016, Anticancer activity of glucomoringin isothiocyanate in human malignant astrocytoma cells, Fitoterapa 110, p. 1-7; PADLA, E. P. et al. 2012, Antimicrobial isothiocyanates from the seeds of Moringa oleifera Lam., Zeitschrift fur Naturforschung C, 67, p. 557-564; WATERMAN, C. et al., 2014, Stable, water extractable isothiocyanates from Moringa oleifera leaves attenuate inflammation in vitro. Phytochemistry 103, p. 114-122)などがあることが報告されている。フルフラールは、このタイプの種子や多くのドライフルーツに見られる非常に標準的な濃度で存在する。二硫化炭素、イソブチロニトリル、イソ酪酸メチル、メチルブタンニトリル及びヘキサンニトリルはアミノ酸から得られる揮発性化合物である。それらはタンパク質分解マーカーである。これらの分解化合物は、ペレグリナ・タンパク質加水分解物の揮発性化合物の約50%を表す。この結果は、加水分解物が主にタンパク質から構成されていることを示している。ペレグリナ・タンパク質加水分解物中において、ごく微量の脂肪又は遊離糖の名残が検出され、加水分解物は主にタンパク質と糖タンパク質からなる。乾燥物において、クエン酸緩衝剤(これはサッカリド化合物である)は残りの部分の約50%を表し、これには、タンパク質、オリゴペプチド及びアミノ酸のタンパク質分解による分解から生じるグリコシル化(サッカリド)化合物が含まれる。最後に、モリンガ・ペレグリナ種子から得られる約21mg/リットルのポリフェノール(0.002%)の存在にも注目すべきである。安息香酸は、抽出物に添加される安定剤であるため、特性評価において考慮されるべきではない。
【0084】
上に記載した乾燥抽出物は、蒸発前後の液体抽出物中に存在する塊に基づく重量法を介して得られる。
【0085】
[例2]フーリン転換酵素(フーリンとして知られている)の阻害剤としての本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用
【0086】
この研究の目的は、例1により得られたモリンガ・ペレグリナ種子固形物からのタンパク質加水分解物の阻害活性を評価することである。
【0087】
・プロトコル
【0088】
この研究は、特定の蛍光参照基質を切断する触媒作用を及ぼす組換えヒトフーリンを使用して行われた。
【0089】
フーリンの活性についての参照阻害剤として、100nMのデカノイル-Arg-Val-Lys-Arg-クロロメチルケトンが用いられた。
【0090】
フーリンは、参照製品の非存在下(対照)若しくは存在下で、又は試験化合物「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」の濃度を増加させて(0.02、0.2、及び2%(v/v))、周囲温度にて10分間プレインキュベートした。
【0091】
プレインキュベーション工程の終わりに、フーリン基質を添加し、実験条件を再び周囲温度にて光を避けて5分間インキュベートした。実験はすべて三重に行った。
【0092】
・化合物の準備
【0093】
試験用ペレグリナ・タンパク質加水分解物をアッセイ緩衝液に直接溶解し、次いで希釈して、上記の試験濃度を得た。
【0094】
・評価プロトコル
【0095】
蛍光フーリン基質の切断は、基質の添加後に5分間、485nm/535nmでの蛍光を読み取ることによってモニターされた。
【0096】
・統計
【0097】
結果は、RFU(相対蛍光単位)±S.D.(標準偏差)で表される。
【0098】
「対照」グループと「参照製品」グループの間で観察された差の統計的有意性は、スチューデントのt検定によって評価された(p<0.001)。
【0099】
「対照」グループ又は「参照」グループと「試験化合物」との間で観察された差の統計的有意性は、一方向ANOVAとそれに続くホルム・シダック検定によって、評価された(p<0.05)。
【0100】
デカノイル-Arg-Val-Lys-Arg-クロロメチルケトンと呼ばれるフーリンの参照阻害剤は100nMで試験され、フーリンの活性を97.9%大幅に阻害した(p<0.001)。
【0101】
この結果は予想されたものであり、研究の妥当性を確認した。
【0102】
得られた塩基活性と比較したフーリン酵素の活性の結果を以下に示す。
【0103】
【0104】
・結論
本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は、2%の濃度で、フーリン転換酵素の活性の98.8%を阻害することができる。本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は、0.2%の濃度を超えると、フーリンの活性を26.8%阻害することができる。
【0105】
[例3]ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)及びサーチュインI酵素の阻害に対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用
【0106】
この研究の目的は、本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の、酵素HDAC及びサーチュインIに対する阻害活性を実証することであり、これら酵素はDNAによって運ばれる遺伝子へのアクセスを提供又は禁止するクロマチンの凝縮/脱凝縮の調節による遺伝的浮動の制御に関与する酵素である。HDAC及びサーチュインIの緩衝溶液は37℃で20分間基質と反応し、これを変換して、37℃での10分間のインキュベーション後に現像剤の存在下で染色される化合物を形成する。したがって、サーチュインの最大脱アセチル化活性は、405nmでの吸光度を測定することによって評価され得る。本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物又は参照製品「トリコスタチンA(STA)阻害剤1μM」を、37℃で20分間、酵素基質と同時にサーチュインの溶液と接触させ、酵素で変換された基質を、現像剤を添加することによって染色する。次いで、活性成分の存在下でのHDAC及びサーチュインIの脱アセチル化活性を405nmでの吸光度を測定することによって評価する。この活性の調節は、活性成分の非存在下、すなわち、HDAC及びサーチュインI酵素についての基質の存在下でのみ、HDAC及びサーチュインIの阻害又は最大活性の活性化のパーセンテージとして表される。
【0107】
・プロトコル
【0108】
参照製品の非存在下(対照)若しくは存在下で、又は濃度を増加させた試験製品の非存在下若しくは存在下で、サーチュイン酵素の溶液をその基質中で20分間インキュベートする。本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物を、2%、1%、0.1%(V/V)の濃度で試験する。インキュベーション期間の終わりにおいて、試験又は参照製品を含む及び含まないサーチュイン酵素の活性が、現像剤溶液を用いて染色する(37℃で10分間)ことによって明らかにされ、405nmでの反応媒体の吸光度を測定することによって評価された。試験された各濃度について、ヒストン脱アセチル化酵素及びサーチュインI酵素の脱アセチル化活性の試験製品による調節が、以下の式にしたがって計算された。
【0109】
[数式1]
サーチュイン酵素活性のパーセンテージ調節=100×[(OD405試験又は参照製品)-(OD405HDAC及びサーチュインIのみ)]/OD405サーチュインのみ
【0110】
結果が陰性の場合、パーセンテージは酵素反応の阻害として表され、結果が陽性の場合、パーセンテージは酵素反応の活性化として表される。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)酵素の阻害に関する結果を以下に示す。
【0111】
【0112】
・結論
本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は、2%において有意なHDAC阻害を示し、この阻害は、遺伝的浮動に対する皮膚細胞の自己保護を促進する能力を示す。このように、抽出物は皮膚表面のよるある遺伝的浮動の1つ、すなわち肉の「しこり」(線維性突起)の出現によって現れる線維症に対して有用であるとみられる。抽出物は、有利には、皮膚表面上の線維症を防ぐことができる。
【0113】
[例4]エンドセリン-1(ET-1)の作用の阻害するための本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用
【0114】
エンドセリンは、受容体を介してさまざまな細胞や組織に作用する内皮細胞由来のホルモンペプチドである。一例として、エンドセリンは、平滑筋血管細胞及び他の細胞においてカルシウムの細胞内濃度の増加をもたらすことが知られている(OHBA T.らによるWO2012/081370)。
【0115】
近年、エンドセリン-1(ET-1)は、直接的及び間接的な作用によって血管及び非血管平滑筋細胞を収縮させる生理活性因子であることが報告されている。エンドセリンの働きが高まると、末梢部や腎臓、脳などの血管が持続的に収縮し、高血圧、心筋梗塞、脳血管障害、急性腎不全、レイノー症候群、アテローム性動脈硬化症、喘息、前立腺がんなどの様々な疾患が発症する可能性がある(MIYAGAWA K. & EMOTO N. et al., 2014, Current state of endothelin receptor antagonism in hypertension and pulmonary hypertension, Therapeutic Advances in Cardiovascular Diseases, vol. 8(5) 202-216; SCHINZARI F. et al., 2018, Increased Endothelin-1-Mediated Vasoconstrictor Tone in Human Obesity: Effects of Gut Hormones, Physiological Research 67 suppl.1: S69-S81)。人間を含む動物には、構造が似ているエンドセリンファミリーの3種類のペプチドが存在する(KADONO, S. et al., 2001, The Role of the Epidermal Endothelin Cascade in the Hyperpigmentation Mechanism of Lentigo Senilis, Journal of Investigative Dermatology 116 4, p. 571-577; ANONYMOUS, 2006, American Society for Biochemistry and Molecular Biology, New Cosmetics Handbook, p. 527-529)。これらのペプチドはすべて血管収縮作用及び血圧上昇作用がある。
【0116】
近年、血管平滑筋細胞以外の様々な細胞におけるエンドセリンの役割が解明されている。一例として、科学出版物は、皮膚が紫外線にさらされるとケラチノサイトでET-1及び他の因子の生成が増加することを報告しており、ET-1が紫外線にさらされたメラノサイトのメラニン形成に関連している可能性があることを示唆している。したがって、エンドセリン発現の抑制は、上記疾患の予防・治療のみならず、皮膚色素沈着の予防・改善にも有用であると考えられる(IMOKAWA, G. et al., 1995, Endothelin-1 as a New Melanogen: Coordinated Expression of its Gene and the Tyrosinase Gene in UVB-Exposed Human Epidermis, Journal of Investigative Dermatology 1051, p. 32-37; IMOKAWA, G. et al., 1992, Endothelins Secreted from Keratinocytes are Intrinsic Mitogens for Human Melanocytes, Journal of Biological Chemistry, 267, p. 24675-24680; GILCHREST, B. et al., 1996, Mechanisms of Ultraviolet Light-Induced Pigmentation, Photochemistry and Photobioliogy 63, p. 1-10)。
【0117】
目的は、ヒト微小血管内皮細胞中のエンドセリン-1を、本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物に24時間暴露させた後に測定することである。
【0118】
・プロトコル
【0119】
ヒト微小血管内皮細胞はPELOBiotech社から提供され、サプライヤーの生成手順にしたがって96ウェルプレート中で培養された。抽出物は、80%コンフルエンス状態で24時間、種々の濃度で内皮細胞に作用させたままにし、次いで、細胞上清中のエンドセリン-1が、PicoKine ELISAキット(EDN1)を使用して定量化される。エンドセリン-1の測定で使用する非毒性投与量を決めるために事前に生存率試験が行われる。陰性対照は培地中の細胞を処理せず用いて形成される。生存率試験における陽性対照は0.5%SDSである。全条件が培地中で準備され、続いて細胞が36.5℃、5%CO2で24時間インキュベートされる。
【0120】
a)内皮細胞への試験溶液の適用
試験製品を、96ウェルプレート内でサブコンフルエント状態の内皮細胞に接触させる。各濃度について、試験は3つのウェルで行う。プレートを36.5℃、5%CO2で24時間±1時間インキュベートする。
b)生存率試験
細胞生存性を、製品とともにインキュベートさせた後の細胞についてMTT法を用いて評価する。24時間のインキュベーション後、上清を回収し、測定用に-20℃で保存する。次いで、ウェルを200μLのPBSで1回洗浄する。0.5mg/mLのMTT溶液を各50μLウェルに加え、36.5℃、5%CO2で3時間インキュベートする。100μLのイソプロパノールを各ウェルに加える。均等化後、550nmでの吸光度読み取り値を取得する。各条件について、陰性対照の平均光学濃度値に対する細胞の平均光学濃度値の比によって、生存率が決定される。
c)エンドセリン-1測定
測定は、ELISAキットを用いて行う。エンドセリンの作用の阻害についての結果を以下に示す。
【0121】
【0122】
・結論
【0123】
処理の終わりにおいて行われる生存率試験は、試験された濃度について、いかなる毒性効果も示さなかった。
【0124】
エンドセリン-1測定は細胞上清中において非毒性濃度で行う。各条件についてのエンドセリン-1の量はELISAキットを使用して測定される。
【0125】
ベースレベルの対照細胞について、値は134.94pg/mLのオーダーである。様々な濃度の加水分解物で処理された細胞について、ベースレベルは、47.09pg/mL減少し(本発明による抽出物は2%)、17.58pg/mL減少した(本発明による抽出物は1%)。これは、本発明による抽出物が1%以上のときエンドセリン-1産生が約13%阻害されるという非常に有意な阻害を示し、本発明による抽出物が2%のときには最大34.90%阻害されることを示す。
【0126】
エンドセリン及びその特異的用量依存的阻害に関する結果は、本発明によるタンパク質加水分解物が、エンドセリンを有意に減少させるその能力のために、抗血管新生及び抗線維化作用を有することを実証する。
【0127】
例12に記載のP1、P2、P3及び複合体P1+P2の評価のための相補的研究を、エンドセリンの産生について以下に記載する:正常なヒト内皮細胞における細胞試験モデル。
【0128】
例12に記載されるように、3つのバンド又はタンパク質画分が、本発明による加水分解物から分離され、それらの質量P1(分子量が10000Da未満)、P2(分子量が10000Daから17000Da)、そして最後にP3(分子量が約23000Da)によって特徴づけられる。これらの画分は、以下「抽出物」と称する。
【0129】
【0130】
すべての濃度にて標準偏差は高く、タンパク質加水分解物の画分P1はエンドセリン-1に対して有意な調節を示さなかった。
【0131】
【0132】
0.1%及び1%の濃度では、標準偏差が高く、タンパク質加水分解物の画分P2は、これらの濃度でエンドセリン-1に対して有意な調節を示さなかった。0.3%の濃度で、P2はエンドセリン-1の産生を24.8%抑制する。
【0133】
【0134】
すべての濃度で、標準偏差は高く、画分の組み合わせP1+P2は、エンドセリン-1に対して有意な調節を示さなかった。
【0135】
【0136】
0.3%及び1%の濃度で、タンパク質加水分解物の画分P3は、エンドセリン-1の産生を約50%非常に有意に阻害する。
【0137】
・結論
【0138】
「抽出物P1」及び「抽出物P2」と称される化合物は、エンドセリン-1の調節に対して有意な作用を示さず、「抽出物P3」のみが、本発明による抽出物が0.3%で、52.3%阻害というスコアで、単層培養の正常なヒト内皮細胞によって培地に放出されるエンドセリン-1を有意に減少させた。P1とP2を組み合わせても相乗効果は観察されなかった。
【0139】
抽出物P3は特に抗がん効果を示した(BAGNATO A. et al., 2011, Role of the endothelin axis and its antagonists in the treatment of cancer, British Journal of Pharmacology, 163: 220-233)。
【0140】
[例5]幹細胞の保護に対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用
【0141】
皮膚表皮、胃腸上皮及び造血細胞系を含む成体組織は非常に高いレベルの細胞再生を有する。組織の恒常性を維持する生理学的プロセスは、器官の再生において一定数の細胞を維持することにより起こる。胚性幹細胞(ESC)は皮膚組織の維持及び再生に不可欠である。
【0142】
表皮は胚表面の外皮から発達する。これは、神経形成後に胚を覆う非特異的な前駆細胞の単層として始まり、基底表皮層に発達する。基底表皮層は、ESC(表皮幹細胞)が豊富である。実際、この層の細胞は、層状表皮(毛包間表皮としても知られる)、並びに毛包、皮脂腺及び汗腺などの表皮付属物を含むすべての表皮構造を生じさせる。下層の真皮は、主に外皮の下の中皮に由来する。中皮は、間葉系幹細胞の主な源であり、これはコラーゲンを産生する線維芽細胞、皮下脂肪細胞、及び皮膚の免疫細胞を生じさせる。
【0143】
幹細胞は多能性細胞として知られる未分化細胞であり、自己再生及び分化して器官又は皮膚などの組織を生成することができる若い遺伝子型を有する。この段階において、これらは「多能性細胞」として識別される。幹細胞集団の子孫細胞の50%が未分化のままであることを考えると、幹細胞はホメオスタシスを維持すること及び損傷若しくは老化した分化細胞の再生を確実にすることに寄与する。しかしながら、これらの表皮幹細胞はしばしば環境の影響を受ける。YEJIN GEら(10 March 2020, The aging skin microenvironment dictates stem cell behavior, PNAS, Vol. 117, p. 5339-5350)によると、汚染や紫外線放射などの酸化ストレスはDNAにダメージを与える。このダメージにより、自己再生と分化の能力が変化し、幹細胞のプールが減少し、最終的に皮膚が老化する。
【0144】
この研究の目的は、UVB照射に対する表皮幹細胞の保護に対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用を評価することである。
【0145】
・プロトコル
【0146】
ヒトケラチノサイト細胞は、62歳のドナーから入手した。実験を行うために、ケラチノサイトを80%のコンフルエンスに達するまで単層で培養した。
【0147】
次いで、細胞培地において、GOODELL M.ら(1996, Hoescht 33342 HSC staining and stem cell purification protocol, Journal of Experimental Medicine 183, p. 1797-806)によって記載された方法にしたがって表皮幹細胞を増やした。
【0148】
参照製品:1μMのケルセチンがこの研究の参照製品として使用された。ケルセチンはSigma Aldrich社から購入した。
【0149】
細胞を、参照製品の非存在下(「対照」)又は存在下で、あるいは試験される化合物の濃度を増加させて、24時間プレインキュベートした。プレインキュベーション期間の終わりにおいて、細胞にUVB(30mJ/cm2)を照射し、次いで、参照製品の非存在下(参照)又は存在下で、あるいは試験される化合物の濃度を増加させて、37℃で8日間インキュベートした。
【0150】
「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」:0.01%、0.05%及び0.15%(v/v)。
【0151】
・試験化合物の準備
【0152】
上記の様々な濃度を得るために、試験化合物「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」をインキュベーション培地で直接希釈した。
【0153】
インキュベーション期間の終わりに、細胞生存率を、ミトコンドリアによるレザズリンの還元に基づく非細胞毒性生存率インジケータであるアラマーブルーを使用して測定した。各実験条件を3回行った(n=3)。
【0154】
結果を、「UVBなしの対照」実験条件(平均±S.D)に対する生存率として以下に示す。「UVBなしの対照」と「UVBありの対照」の間の有意性のレベルは、スチューデント試験(p<0.05)を使用して評価した。
【0155】
【0156】
・結論
ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、細胞ストレス(UV)を受けたヒト皮膚の幹細胞を大幅に保護することができる。幹細胞は、保護された若いDNA物質を有する細胞である。これらは組織再生の開始、及び若く健康な状態への復帰にあるものである。幹細胞の保護は、DNA物質を保護する能力と相関している。本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は、幹細胞の完全性を維持し、したがってDNA変換に関与している。
【0157】
[例6]DNAの保護に対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用
【0158】
テロメアの長さのダイナミクスは、特に長命の種の場合、細胞の複製寿命を制御するために非常に重要である。テロメア短縮及びテロメラーゼ活性は老化及び腫瘍形成の重要な因子である(SHAY, J. W. & WRIGHT, W. E., 2005, Senescence and Immortalization: Role of Telomeres and Telomerase, Carcinogenesis 26(5), p. 867-874)。テロメアは、染色体の末端を、分解、望ましくない融合組み換え、及びDNA損傷応答の不適切な活性化から保護する複雑なヌクレオチド配列である。それらはまた、細胞分裂及び染色体の安定性において重要な役割を果たす。テロメアの安定性及びテロメアの平均長さはストレス、特に環境ストレス、あるいは環境影響下の疾患によって影響を受ける可能性があるという証拠が増え続けている(VALDES, A.L. et al., July 2005, Obesity, cigarette smoking and telomere length in women, Research Letters.366(9486), p. 662-664; PHILLIPS A.C. et al., 2013, Do symptoms of depression predict telomere length? Evidence from the West of Scotland Twenty-07 Study, Psychosomatic Medicine, 75(3), p. 288-296; SHIN, D. et al. May 2019, Effects of inflammation and depression on telomere length in young adults in the United States, Journal of Clinical Med 2019, 8(5), p. 711; SALIQUES, S. et al., October 2010, Telomer length and cardiovascular disease, Archives of Cardiovascular Diseases, 103(8-9), p. 454-459)。したがって非常に短いテロメアは、神経変性疾患、心血管疾患(CVD)及びがんのリスクと関連付けられてきた。
【0159】
テロメラーゼは、テロメアの末端へのテロメア反復の付加を触媒するリボ核タンパク質である。テロメアは染色体の末端を覆い、染色体を安定させると知られている反復配列の長いセクションである。ヒトでは、テロメアは一般に7kbから10kbの長さで、配列-TTAGGG-が数回繰り返されたものからなる。
【0160】
テロメラーゼは大部分の成体細胞では発現せず、テロメアの長さは連続する複製サイクルとともに減少する。一定数の複製サイクルの後、テロメアの漸進的な短縮により、細胞はテロメア危機段階に入り、細胞老化につながる。特定の疾患は、早期の細胞老化をもたらす急速なテロメア損失に関連している。ヒト細胞におけるヒトテロメラーゼタンパク質をコードする遺伝子の発現(BLASCO M., 2007, Telomere Length, Stem Cells and Aging, Nature Chemical Biology, 3(10), p. 640-649)は、おそらく細胞の自然な老化経路を逆転することによって、一定の質の表現型を付与することが実証されている。さらに、上で引用した研究により、短いテロメアを有する老化細胞におけるテロメラーゼ遺伝子の発現は、テロメア長の増加をもたらし、一般的に若い細胞に関連する表現型を回復することが実証されている。
【0161】
この研究の目的は、単層培養の正常ヒト線維芽細胞からなるモデルにおけるテロメア短縮に対する、「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」と称される化合物の作用を評価することである。テロメアが体内時計に対応していることはよく知られている。テロメアの長さは細胞分裂に伴って徐々に減少し、最終的には細胞が複製できなくなる。テロメアの長さの測定は、定量的PCRを用いて、そして2回継代及び5回継代の細胞間のテロメアの長さの比較によって行われた。
【0162】
・プロトコル
【0163】
ヒト線維芽細胞は44歳のドナーから得られた。実験を行うために、2回継代及び5回継代の細胞を使用した。繊維芽細胞は、0.01%、0.1%及び0.5%(v/v)の増加する試験濃度のペレグリナ・タンパク質加水分解物の存在下又は非存在下(対照)で、連続3回継代培養した。
【0164】
試験化合物の準備:試験化合物「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」をインキュベーション培地で直接希釈して、上に記載した各種濃度に到達させた。
【0165】
インキュベーションの終わりに、細胞をトリプシン処理した。専用のDNA抽出キットを用いて細胞からDNAを抽出した。DNAはnanodropによって定量化された。
【0166】
テロメアの長さは、定量PCR(q-PCR)によって測定された。各サンプルについて、参照遺伝子としてSCR(single copy reference)遺伝子を使用する相対定量により、テロメア長の変化を測定した。各サンプルについて、テロメア配列を認識して増幅するテロメアプライマーのセットを使用してq-PCRを行い、ヒト17番染色体上の100bp領域を認識して増幅し、データの正規化のための参照の役割をするSCRプライマーのセットを使用して2つ目のq-PCRを行う。
【0167】
結果は、2回継代の細胞に対するテロメアの長さに対応する相対単位で表される(平均±S.D.)。2回継代と5回継代での「対照」の間の有意水準は、スチューデントt検定によって評価された(*:p<0.05)。「対照」と「試験化合物」の間の有意水準は、一元配置分散分析(一元配置ANOVA)とそれに続くホルム・シダック検定(*:p<0.05)によって、各製品について個別に評価された。
【0168】
【0169】
・結果
【0170】
我々の実験条件下では、0.05%、0.1%及び0.5%(v/v)で試験されたペレグリナ・タンパク質加水分解物は、正常ヒト線維芽細胞のテロメア短縮を大幅に減少させた。
【0171】
テロメア短縮が示した(対照との比較における)阻害は、0.05%(v/v)では+8.9%(p<0.05)、及び、0.1%(v/v)では+15.1%(p<0.01)、及び、0.5%(v/v)では+16.6%(p<0.01)であった。
【0172】
・結論
【0173】
ヒト細胞の正常な増殖又は分裂という文脈において、本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は、テロメア長を大幅に増加させる能力を示す。テロメアは、DNA物質の保護に関与するプラグであり、テロメアの長さの増加はDNA物質を保護する能力と相関している。ペレグリナ・タンパク質加水分解物はテロメアの長さを増加させることができる。したがって、加水分解物はヒトの遺伝物質(DNA)の保護に関与している。
【0174】
例12に記載の抽出物P1、P2、P3及び複合体P1+P2の、数回の細胞分裂後にテロメアの長さを増加させることによってDNAを保護する能力に関する評価の補足的研究。
【0175】
【0176】
本発明による抽出物P1は、0.3%の濃度からの3回の細胞分裂の後、正常なヒト細胞培養モデル(繊維芽細胞)にいてテロメアのサイズを24.3%増加させた。また、抽出物P1は、1%の濃度では、同じ条件下で、テロメアのサイズを39.6%増加させた。
【0177】
【0178】
正常なヒト細胞培養モデル(線維芽細胞)における3回の細胞分裂の後、本発明による抽出物P2は、各試験濃度について、テロメアの伸長について統計的に確認されていない傾向を有していた。
【0179】
【0180】
正常なヒト細胞培養モデル(繊維芽細胞)における3回の細胞分裂の後、本発明による抽出物P3は、各試験濃度について、テロメアの伸長を促進する能力を有していなかった。
【0181】
【0182】
本発明による抽出物P1及びP2(体積が50/50)の混合物は、1%(すなわち、各抽出物について0.5%)の濃度での3回の細胞分裂の後、正常なヒト細胞培養モデル(線維芽細胞)においてテロメアのサイズを49.1%増加させた。このスコアは、個々の抽出物では到達できなかったものであり、したがって、抽出物P1とP2を混合することでの相乗効果が実証された。
【0183】
・結論
「抽出物P1」及び「抽出物P1+P2」と称される化合物は、3回連続の細胞継代の後に発生するテロメアの短縮を大幅に減少させる。P1とP2の組み合わせで相乗効果が確認された。
【0184】
[例7]ZAGタンパク質の刺激に対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用
【0185】
亜鉛α-2-糖タンパク質(ZAG)は、電気泳動移動度とZn塩で沈殿する能力にちなんで名付けられた血漿糖タンパク質である。ZAGは免疫グロブリン遺伝子のスーパーファミリーのメンバーであり、クラスI及びIIのCMH分子とかなり一致する三次元構造を有する。ZAGは、乳房、前立腺及び肝臓の正常な分泌上皮細胞、唾液腺、気管支腺、胃腸腺及び汗腺の中、並びに表皮を含む正常な層状上皮で、免疫組織化学的に検出されている。ZAGのmRNAは、さまざまな細胞型に均一に分布したままである(FREIJE, J. P. et al., 1991, Human Zn-α2-Glycoprotein cDNA Cloning and Expression Analysis in Benign and Malignant Breast Tissues, FEBS Letters 290 (1-2), p. 247-249)。ZAGは、分泌上皮によって産生されるため、体分泌物の大部分に存在し、唾液中のタンパク質の2.5%及び精液中のタンパク質の30%をそれぞれ構成する。血漿及び血清中のZAGレベルは年齢によって変化することが報告されており、報告されている値は0.9~3.5mg/dl(胎児)から7.8~12.1mg/dl(若年成人)の範囲である(JIRKA, M. et al., 1974, The Zn-alpha 2-Glycoprotein Level in Human Serum During Ontogenesis. Clinica Chimica Acta 56, p. 31-33; JIRKA, M. et al., 1978, Human Serum Zn-α2-Glycoprotein in Amniotic Fluid, Clinica Chimica Acta 85, p. 107-110)。ZAGは乳房嚢胞液中に血漿濃度の30倍から50倍まで蓄積し(BUNDRED et al., 1987, An Immunohistochemical Study of the Tissue Distribution of the Breast Cyst Fluid Protein, Zinc Alpha2-Glycoprotein, Histopathology 11, p. 603-610; DIEZ-ITZA, I. et al., 1993, Zn-α2-Glycoprotein Levels in Breast Cancer Cytosols and Correlation with Clinical, Histological, and Biochemical Parameters, European Journal of Cancer 29A, p. 1256-1260)、乳癌がんの40%から50%で過剰発現する。大部分の前立腺がんによりZAGが多量に産生されることが最近証明されており(SUSAN, M. el al., Zinc-alpha2-glycoprotein Expression as a Predictor of Metastatic Prostate Cancer Following Radical Prostatectomy, 2006, Journal of the National Cancer Institute, Volume 98(19), p. 1420-1424)、これは基底細胞がんにおける前立腺がん患者のZAGの血清レベルの上昇を引き起こす。この研究の目的は、ペレグリナ・タンパク質加水分解物のZAGを刺激する能力を評価することである。
【0186】
・プロトコル
【0187】
正常なヒトケラチノサイトを包皮から分離し、社内手順にしたがって24ウェルプレート及び96ウェルプレートで培養する。
【0188】
サンプルを、所定の濃度で、80%コンフルエント状態のケラチノサイトに48時間作用させ、その後、細胞上清中のZAGをELISAキットにより定量化した。
【0189】
事前の生存率試験を、ZAGの測定で使用される非毒性投与量を決めるために行った。陰性対照は、培養された細胞を処理せず用いて作製される。生存率試験の陽性対照は0.5%SDSである。
【0190】
すべての条件が培地中で準備され、その後、細胞を36.5℃、5%CO2で、生存率試験のために24時間、ZAG測定のために48時間、インキュベートした。
【0191】
ケラチノサイトへの試験溶液の適用:
・試験製品は、24ウェルプレート及び96ウェルプレート中のサブコンフルエント状態のケラチノサイトと接触するように配置された。
・各濃度について、試験は3つのウェルで行われた。
・プレートは36.5℃、5%CO2で24時間及び48時間インキュベートされた。
【0192】
生存率試験:
・細胞生存率は、製品とともにインキュベーションした後の細胞に対してMTT法で評価された。
・24時間及び48時間のインキュベーション後、提供されたウェルを200μLのPBSで1回すすいだ。
・50μLの0.5mg/mL MTT溶液が各ウェルに加えられ、36.5℃、5%CO2で3時間インキュベートされた。
・100μLのイソプロパノールが各ウェルに加えられた。
・均等化後、550nmで吸光度が読み取られた。
・各条件について、陰性対照の平均光学濃度値に対する細胞の平均光学濃度値の比によって生存率が決定される。
【0193】
ZAGタンパク質の測定:
・48時間のインキュベーション後、すべての上清が回収され、測定のために-20℃で保存された。
・測定はELISAキットを用いて行われた。ZAG測定の結果を以下に示す。
【0194】
【0195】
・結論
【0196】
ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、ZAG産生を大幅に増加させることができ、投与量依存性が良好で、ヒト細胞に対する毒性が低い。このため、ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、ZAGを大幅に増加させるその能力に基づき抗線維化作用及び抗炎症作用を有する。
【0197】
例12で特定されたタンパク質バンドから開始するZAGの刺激の補足的研究について、正常なヒトケラチノサイトに関し以下に記載する。
【0198】
【0199】
0.2%から、抽出物P1はZAG産生を107%よりも多く大幅に増加させた。
【0200】
【0201】
0.2%から、抽出物P2はZAG産生を80%よりも多く大幅に増加させた。
【0202】
【0203】
抽出物P3は、この研究モデルではZAG生産に大きな影響を与える能力を有していなかった。
【0204】
【0205】
抽出物P1とP2の組み合わせは、ZAGの産生を活性化する傾向を示したが、この傾向は統計的な観点からは有意ではなかった。したがって、抽出物P1とP2の組み合わせに相乗効果はなかった。
【0206】
「抽出物P1」及び「抽出物P2」と称される化合物は、単層培養の正常なヒトケラチノサイトによって培養液中に放出されるZAGを大幅に増加させたが、P1とP2を組み合わせた場合、相乗効果は観察されなかった。
【0207】
・結論
本発明による加水分解された抽出物において、抽出物P1は、ZAGを増加させるために最もよく機能する抽出物である。このため、0.2%の投与量で、抗線維化作用及び抗炎症作用がある。
【0208】
[例8]DKK1及びDKK3の測定の調節に対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用
【0209】
メラニン形成制御におけるメラニン細胞と線維芽細胞の間の相互作用の関与はよく知られており、集中的に研究されている。これらの相互作用はまだ完全には理解されていないものの、これらは掌蹠領域を「白くさせる」原因であり、現在、色素除去製品の開発のために化粧品に使用されている。山口ら(YAMAGUCHI Y. et al., 2004, Mesenchymal-Epithelial Interactions in the Skin: Increased Expression of Dickkopf by Palmoplantar Fibroblasts Inhibits Melanocyte Growth and Differentiation, Journal of Cell Biology 165(2), p. 275-285)は、掌蹠領域の線維芽細胞によって産生される可溶性メッセンジャーが、これらの領域のメラニン細胞の分化プログラムを調節し、メラニン生成の減少をもたらすことができることを実証した。このメッセンジャーは、チームによってDickkopf-1(DKK-1)という名前のタンパク質として特定された。
【0210】
これらの結果をもたらすためにDKK-1が使用するシグナル伝達経路は、現在明確に特定されている。Wnt受容体へのその拮抗作用により、DKK-1は実際には、メラニン形成に関与する遺伝子の制御に一般的に関与しているβ-カテニンによって活性化される細胞内シグナル伝達経路を短絡させることができる。山口ら(上記参照)はまた、DKK-1に似ているがWnt受容体に影響を及ぼさない分子であるDKK-3がDKK-1の作用に対して調節的役割を果たす可能性があることを実証した。実際、このWnt受容体の近傍のDKK-3の量が多いほど、DKK-1とこの受容体との間の相互作用は弱くなる。山口ら(上記参照)の研究は、非掌蹠由来の正常なヒト皮膚線維芽細胞培地におけるDKK1/DKK3比に影響を与える薬剤の特定により、正常なヒト非掌蹠メラニン細胞から始まるメラニン生成を制御することが可能になることを示唆している。
【0211】
この研究の目的は、単層培養の正常ヒト線維芽細胞のモデル化合物におけるDKK-1の合成及び放出に対するペレグリナ・タンパク質加水分解物の作用を評価することである。
【0212】
・プロトコル
【0213】
ヒト線維芽細胞は68歳のドナーから得られた。実験を行うために、線維芽細胞を、コンフルエンス状態に達するまで単層培養で培養した。100nMのデキサメタゾンをDKK-1の合成及び放出の参照誘導物質として使用した。皮膚ディスクを、参照製品又は試験製品の非存在下(対照)又は存在下で48時間インキュベートした。ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、0.01%、0.1%及び0.5%(V/V)である。
【0214】
インキュベーションの終わりに、インキュベーション培地を除去し、DKK-1放出法を行った。
【0215】
「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」試験化合物を、上に記載した種々の濃度に達するようにインキュベーション培地中で直接希釈した。
【0216】
48時間のインキュベーション期間の終わりに、インキュベーション培地に放出されたDKK-1を高感度特異的ELISAキットによって定量化した。
【0217】
インキュベーション期間の終わりに、細胞溶解物に含まれるタンパク質を分光比色法(ブラッドフォード法)によって定量化した。
【0218】
結果は、タンパク質1mg当たりのDKK-1(単位:ng)(平均±S.D.)として表される。
【0219】
「対照」と「参照製品」の間の有意水準は、スチューデントのt検定(p<0.05)によって評価された。
【0220】
「対照」と「試験製品」の間の有意水準は、一元配置分散分析(一元配置ANOVA)とそれに続くホルム・シダック検定(p<0.05)によって評価された。
【0221】
我々の実験条件下では、100nMで試験された「デキサメタゾン」として知られる参照製品は、「対照」と比較して、放出されたDKK-1を181.8%(p<0.01)有意に増加させた。DKK-1測定の調節に関する結果を以下に示す。
【0222】
【0223】
この研究は、本発明による加水分解物が、DKK1のレベルを、0.05%の投与量で、ベースレベルに対して26.1%の増加で有意に増加させ、そして、本発明による抽出物の0.5%の濃度で、ベースレベルに対して131.5%の増加が観察された。
【0224】
この研究の目的は、単層培養の正常ヒト線維芽細胞のモデル化合物におけるDKK-3の合成及び放出に対する、「ペレグリナ・タンパク質加水分解物」の作用を評価することである。ヒト線維芽細胞は68歳のドナーから得られた。実験を行うために、線維芽細胞はコンフルエンス状態に達するまで単層培養された。ヒト線維芽細胞は68歳のドナーから得られた。実験を行うために、線維芽細胞はコンフルエンス状態に達するまで単層培養された。
【0225】
48時間のインキュベーション期間の終わりに、インキュベーション培地に放出されたDKK-3を高感度特異的ELISAキットによって定量化した。
【0226】
インキュベーション期間の終わりに、細胞溶解物に含まれるタンパク質を分光比色法(ブラッドフォード法)によって定量化した。
【0227】
結果は、タンパク質1mg当たりDKK-3(単位:ng)(平均±S.D.)として表される。「対照」と「参照製品」の間の有意水準は、スチューデントのt検定(*:p<0.05)によって評価された。
【0228】
「対照」と「試験製品」の間の有意水準は、一元配置分散分析(一元配置ANOVA)とそれに続くホルム・シダック検定(*:p<0.05)により評価された。DKK-3測定の変化に関する結果を以下に示す。
【0229】
【0230】
・結論
【0231】
本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は、0.5%で、ベースレベルと比較して、DKK3に対して21%程度のかなりの阻害を示した。本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は、DKK1を有意に増加させ、DKK3を有意に減少させ、これによりDKK1/DKK3の比を増加させるその能力によって、掌蹠阻害原理(ベータカテニンシグナル伝達経路)により、細胞分化に関与する遺伝子を管理する大きな能力を有する。
【0232】
DKK1の産生に関する例10に記載のP1、P2、P3及び複合体P1+P2の評価の補足的研究:正常ヒト繊維芽細胞における細胞試験モデル。
【0233】
【0234】
抽出物P1は、DKK1の産生を、0.3%の投与量で26.6%、1%の投与量で27.8%有意に増加させた。
【0235】
【0236】
抽出物P2は、実験投与量のいずれにおいても、DKK1の産生を統計的に有意に増加させなかった。
【0237】
【0238】
抽出物P3は、実験投与量のいずれにおいても、DKK1の産生を統計的に有意に増加させなかった。
【0239】
【0240】
抽出物P1及びP2の組み合わせは、1%(すなわち、各抽出物に対して0.5%)の投与量で、DKK1の産生を39%よりも多く有意に増加させた。このスコアは、抽出物P1のみ又は抽出物P2のみで得られたスコアよりも大きく、したがってこれは、2つの抽出物P1及びP2の組み合わせに相乗効果があることを意味する。
【0241】
・結論
「抽出物P1」及び「抽出物P1+P2」と称される化合物は、単層培養の正常ヒト線維芽細胞によって培養培地中に放出されるDKK-1を有意に増加させた。P1とP2を混合すると相乗効果が確認された。
【0242】
・本発明によるタンパク質加水分解物の上記活性から引き出される結論
【0243】
インセルロ(in cellulo)の試験で実証されたペレグリナ・タンパク質加水分解物の最も顕著な活性は、細胞分裂後のテロメア短縮プロセスをかなり大幅に遅らせる能力を有するそのエピジェネティックな作用である。加水分解物は、特に幹細胞の細胞保護剤であり、幹細胞を非常に優れた細胞及び組織ジェネレータにする。これらの特性は、DNA及びその遺伝物質を非常に高度に保護する。ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、ZAG及びエンドセリン-1の産生の強力な調節剤でもあり、抗線維化作用及び抗炎症作用がある。
【0244】
[例9]アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)に対する、脱脂ペレグリナ固形物からのタンパク質加水分解物の作用の評価-阻害剤作用の無細胞研究。
【0245】
アンジオテンシン転換酵素2は、他の転換酵素、より具体的にはフーリンによるスパイクタンパク質の活性化後のCOVID19による細胞内感染に特に関与している。PETER BRADDINGら参照(ACE, TMPRSS2, and furin gene expression in the airways of people with asthma - implications of COVID-19, JOURNAL ALLERGY CLINICAL IMMUNOLOGY, July 2020, n°146(1), p. 206-211)。
【0246】
【0247】
・結論
ペレグリナ固形物の加水分解抽出物は、アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)の直接阻害にはあまり関与していない。以下の例11の表32を考慮することにより、別の転換酵素、すなわちフーリンに対するこの抽出物の作用の大きさを評価した。フーリンに対する本発明による抽出物の阻害作用が明確に実証され、例11の表32に示されている。単一の転換酵素で実証されたこの特異的阻害は、フーリン転換酵素の特異的阻害剤としての本発明によるタンパク質加水分解物の重要性を強固にする。
【0248】
[例10]「スパイクSARS-CoV-2偽型コロナウイルス」の侵入を防止することによるインセルロでのフーリンの阻害における加水分解抽出物の抗感染作用の評価:「SARS-CoV-2偽型レンチウイルス」の存在下でのヒトHEK細胞のインセルロモデル
【0249】
本評価では、2つの主成分が使用された。一方では、フローサイトメトリーによって確認されたACE2の表面発現を伴う、全長ヒトACE2(Genbank番号NM_021804.3)を構成的に発現する安定した組換えクローンHEK293細胞である。他方では、スパイクSARS-CoV-2偽型レンチウイルスが、従来使用されているVSV-Gの代わりに、エンベロープ糖タンパク質としてスパイクSARS-CoV-2(Genbankアクセス番号QHD43416.1)を使用して、作製された。これらの偽ウイルスには、CMVプロモーターによって指示されるルシオール・ルシフェラーゼの遺伝子も含まれており、したがって、ピークによって媒介される細胞侵入は、ルシフェラーゼレポーターの活性を介して実用的な方法で測定することができる。スパイクSARS-CoV-2偽型レンチウイルスは、バイオセーフティレベル2の施設でアプリケーションをスクリーニングするために使用され得る。
【0250】
用いられた物質は以下のとおりであった。
【0251】
【0252】
・ステップ1:ACE2-HEK細胞の固定
【0253】
ACE2-HEK細胞を解凍培地1で解凍し、1N増殖培地で増殖させた後、回収し、50μLの解凍培地1中10000細胞/ウェルの量で、白い透明な平底の96ウェル培養プレートに入れた。細胞を37℃で一晩インキュベートした。
【0254】
・ステップ2:偽型レンチウイルス感染試験
【0255】
翌日、倒立顕微鏡を使用して細胞層の均一性及び統合性を視覚的にモニターし、以下の指示にしたがって以下の試験成分を調製した。
【0256】
【0257】
第1のステップでは、ペレグリナ・タンパク質加水分解物を、解凍培地1中で11倍に希釈して中間濃度とし、続いて、5μLを試験プレートに移し、ACE2-HEK細胞との共培養を行った。37℃で30分間のインキュベーション期間の後、5μLの未希釈の偽型レンチウイルス(Bald又はS1-spike)を対応するウェルに加えて分析した。
【0258】
ACE2をブロックするmAbを、分析用のウェル中において0.5μMの最終濃度で陽性対照として使用した。
【0259】
・ステップ3:48時間のインキュベーション期間の後、50μLの試薬ルシフェラーゼを分析用のウェルに加え、PolarStar Omegaルミノメーターを使用して発光シグナルを測定した。
【0260】
SARS COV2の偽ウイルスに対する本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の抗感染作用についての結果を
図1に示す。
【0261】
・結論
【0262】
ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、研究モデルで3%(C1)の投与量から開始して、SARS COV2の偽ウイルスに対して信憑性のある抗感染作用を示す。濃度C1(3%)で60%の顕著な阻害が実証された。
【0263】
例12で同定されたバンドP1、P2、P3及び複合体P1+P2のフーリン転換酵素における評価:無細胞試験モデル。
【0264】
特定されたバンドで行われた研究では、P1、P2、P3及びP1+P2で試験されたすべての濃度で、フーリン転換酵素に対する阻害作用は示されなかった。
【0265】
・結論
【0266】
したがって、フーリン転換酵素の阻害活性は、これらのタンパク質バンドのうちの1つによってもたらされるものではない。このことは、フーリン転換酵素の阻害活性が、記載された方法によって得られたタンパク質加水分解物全体によるものであることを示している。
【0267】
タンパク質加水分解物全体によって、特にフーリン転換酵素の不活性化により、SARS-CoV2スパイク型タンパク質を阻害する。これらの阻害によって抗感染性及びウイルス増殖抑止性がもたらされる。
【0268】
[例11]モリンガ・ペレグリナの種子から得られた異なる調製物によるフーリン転換酵素の阻害に関する比較試験
【0269】
この研究の目的は、まず殻付き種子をコールドプレスすることによって得られたペレグリナ油の、フーリンの活性に対する阻害作用を評価し、
次に約1.1%の乾燥物で構成されるエタノール(96%)を含むペレグリナ抽出物であって、前記乾燥物自体が、約55重量%の2,5-ジホルミルフラン、2.5%フルフラール、1.2%ミリスチン酸イソプロピル、4.7%パルミチン酸、11.1%オレイン酸及び25.8%トリグリセリドで構成されるものであるペレグリナ抽出物の、フーリンの活性に対する阻害作用を評価し、
そして最後に本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物のフーリンの活性に対する阻害作用を評価することである。
【0270】
・プロトコル
【0271】
エタノール(96%)中のペレグリナ抽出物及びペレグリナ・タンパク質加水分解物は、使用するまで光を避けて+4℃で保存された。ペレグリナ油は暗所で、周囲温度で保存された。
【0272】
・参照製品:
フーリンの活性についての参照阻害剤として、100nMのデカノイル-Arg-Val-Lys-Arg-クロロメチルケトンが用いられた。
【0273】
・インキュベーションプロトコル
【0274】
フーリンは、参照製品の非存在下(対照)又は存在下で、あるいは以下のように試験化合物の濃度を増加させて、周囲温度で10分間プレインキュベートされた。
0.3%、1%及び3%(v/v)のペレグリナ油
0.02%、0.2%及び2%(v/v)の、エタノール(96%)中のペレグリナ抽出物
0.02%、0.2%及び2%(v/v)の本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物
【0275】
プレインキュベーションステップの最後に、フーリン基質を添加し、実験条件を再び周囲温度で、光を避けて5分間インキュベートした。実験はすべて3回行った。
【0276】
・化合物の準備
【0277】
上述のように、96%エタノール中のペレグリナ抽出物及びペレグリナ・タンパク質加水分解物をアッセイ緩衝液に直接溶解し、次いで上記の試験濃度に達するように希釈した。ペレグリナ油を、アッセイ緩衝液中の0.05%Tween20溶液中に3%となるまで溶解した。次いで、溶液を上記の濃度を得るよう希釈した。
【0278】
・評価プロトコル
【0279】
蛍光フーリン基質の切断を、基質の添加後5分間、485nm/535nmで蛍光を記録することにより、モニターした。
【0280】
・統計
【0281】
結果は、RFU(相対蛍光単位)±S.D.(標準偏差)で表される。「対照」グループと「参照製品」グループの間で観察された差の統計的有意性は、スチューデントのt検定によって評価された(p<0.001)。「対照」グループと「試験化合物」グループとの間で観察された差の統計的有意性は、一元配置ANOVAとそれに続くホルム・シダック検定(p<0.05)によって評価された。
図2にペレグリナ油についての結果を、
図3に96°エタノール性ペレグリナ抽出物についての結果を、最後に
図4に本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物についての結果を示す。
【0282】
・結果
【0283】
【0284】
【0285】
【0286】
・結論
本研究により、本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物のみが、2%の濃度にてフーリンの活性を98.8%有意に阻害できることを実証することができた。
【0287】
[例12]ペレグリナ・タンパク質加水分解物の分離電気泳動ゲルクロマトグラフィー(タンパク質バンド)
【0288】
ドデシル硫酸ナトリウムを含むポリアクリルアミドに対するゲル電気泳動は、SDS-PAGE電気泳動として知られている。これは、電場の影響下でSDSを介して負電荷を飽和させることにより、ポリアクリルアミドゲル中で変性タンパク質を移動させ、それによってそれらを分離できるようにする手法である。これは、負に帯電したイオン性界面活性剤(SDS)を使用して非共有結合タンパク質複合体を解離する変性的手法である。この界面活性剤は、疎水性結合を介して2つのアミノ酸に無差別に結合する。したがって、この手法を使用して、タンパク質を分析し、それらを分子量に関して分離することができる。
【0289】
電気泳動法による分離クロマトグラフィー
【0290】
・積層物
MW(分子量)=サイズマーカー
ウェル1:加水分解されたペレグリナ固形物抽出物
ウェル2:加水分解されたペレグリナ固形物抽出物の上清
ウェル3:加水分解されたペレグリナ固形物抽出物のペレット
【0291】
ウェル1の加水分解抽出物は、予想されたすべてのタンパク質バンドを明確に示した。
【0292】
ウェル2(上清)は、特に中間の及び最大の分子量について予想されたバンドを示した。ウェル2は、特に揮発性物質を含む、高濃度の最低の分子量を有するとみられる。
【0293】
ウェル3(ペレット)は、明らかに最も高い分子量のバンド(75000Da超)を明確に示し、次に約23000DaのP3として知られるバンド、次に10000Daから17000DaのP2として知られるバンド、最後に10000Da未満の、4000Daから6000Daと推定されるP1として知られるバンドを示した。
【0294】
・ロータリーエバポレータの準備
揮発性物質は論理的に、「最も軽い」化合物を含む上清中にあった。10mLの上清を回収し、10mLの96°エタノールを補充した。
混合物を45℃で真空下で抽出し、揮発性化合物を真空フラスコ内で凝縮させた。
揮発性物質中において濃縮された凝縮物を、SPMEマイクロ抽出後にGC/FIDに通した。
【0295】
FID検出を用いるSPME抽出法の後のガスクロマトグラフィー研究。
【0296】
揮発性化合物は検出されなかった。
【0297】
・結論
【0298】
タンパク質バンドの分離により、揮発性化合物がタンパク質に結合していないことが明らかにされ、揮発性化合物は最小タンパク質バンドの分子のオンパレードには関与しない。
【0299】
・3つのタンパク質バンドの決定
【0300】
バンドP1(10000Da未満)、P2(10000Daから17000Da)、及びP3(約23000Da)を準備し、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー分析(LC MS/MS)に送った。
【0301】
結果は、植物におけるタンパク質認識のための2つの特殊ソフトウェアプログラム(Mascot及びPeaks)を使用して得られた。
【0302】
特定の結果、これらのタンパク質を正確に特定することはできなかった。上記のデータベースにまだ記載されていないタンパク質が存在していた。
【0303】
[例13]皮膚用抗線維化製品(液体クリーナー)の組成
【0304】
【0305】
[例14]局所線維化を治療する皮膚用製品(洗い流さないケア製品)の組成
【0306】
【0307】
[例15]皮下注射可能な組成物の組成
【0308】
皮下投与用製品の組成:生理学的媒体による溶解の準備が整った、不活性ガス下で単回投与フラスコにパッケージされた本発明による乾燥抽出物(イヌリン担体上にタンパク質加水分解物を60%含む)。
【0309】
[例16]皮下注射可能な組成物の組成
【0310】
注射可能な液体製品の組成:滅菌条件下、特にカットオフ閾値0.45μmの真空ろ過によりパケージされた生理学的媒体中の、1回分が5%の本発明による液体抽出物。
【0311】
[例17]パッチの形態における組成(活性成分のゆっくりとした拡散の効果を提供するためにゆっくり放出される活性成分を含浸させた、皮膚に付着される包帯又は外部医療機器)。
【0312】
[例18]カプセル中の薬品についての組成
【0313】
100mgのピペリン、300mgの本発明による乾燥抽出物(イヌリン担体上のタンパク質加水分解物を60%含む)、100mgのボスウェリア酸、及び250mgの炭酸カルシウムを含有する750mgカプセル中の抗線維化薬。
【0314】
[例19]タブレットとしての薬品の組成
【0315】
1gタブレット中の抗線維化薬:300mgの本発明による乾燥抽出物(イヌリン担体上のタンパク質加水分解物を60%含む)、200IUのビタミンDを含む400mgの炭酸カルシウム、150mgのグルコン酸マグネシウム、80mgのイヌリン、及び70mgのステアリン酸マグネシウム。
【0316】
[例20]鼻腔用スプレーとしての薬品の組成(活性成分を鼻腔に噴霧することによって活性成分を動かす医療機器中の活性成分を含む溶液)。
【0317】
[例21]本発明によるタンパク質加水分解物の毒性試験
【0318】
・例1によるタンパク質加水分解物の準備
【0319】
果実が熟したときに採取されたモリンガ・ペレグリナ(Forssk.)Fioriの殻付き種子を乾燥させて内部水分含量を8%未満、優先的には約6%とし、その後、エンドレススクリュー機械プレスでプレスして、一方でバージン油を、他方で固形物を得るために、油を種子の残りの部分から分離させる。次いで、固形物を、1cmから2cmの断片にカットされた押し出し物の形に分離させる。例1に記載のプロトコルにしたがい、液体抽出物が得られ、これが以下の試験において希釈されずに使用される。
【0320】
1.ネズミチフス菌(TA100)株に対する変異原活性の決定-細菌に関する復帰突然変異試験
【0321】
試験は3つの主なフェーズで行った。
- 予備実験は、試験する要素の細胞毒性を評価し、後続の実験のための投与量範囲を選択するために行う。
- 第1の遺伝毒性実験(試験1)は、代謝活性化の存在下及び非存在下で、試験系及び試験物(又は対照)を予備実験で定められた投与量範囲で最小限のゲル上に直接組み込む。
- 第2の実験(試験2)は、代謝活性化の存在下及び非存在下で、第1の実験の結果の分析後に試験責任者によって定められた投与量レベルを用いて、試験系及び試験物(又は対照)をプレインキュベーションする。この第2の実験は、特に、あいまいな結果又は陰性結果が得られた場合に、第1の実験の結果を確認する又は補うために行われた。
【0322】
例1による抽出物の希釈物は細胞毒性試験を行うために水中で準備された。
【0323】
細胞毒性試験は、ネズミチフス菌のTA100株について、S9混合物の存在下及び非存在下で、5000、1600、500、160及び50μg/プレートの濃度で行われた。
【0324】
S9混合物の準備に使用される試薬は、以下の指示にしたがって準備された。
【0325】
【0326】
細菌は、代謝活性化系の存在下及び非存在下で試験抽出物にさらされた。使用された代謝系は補酵素添加ポストミトコンドリア画分(S9)である。このS9画分、すなわち酵素誘導物質で処理されたSprague-Dawleyラット肝ホモジネートのミクロソーム画分は、Maron,D.M.ら(1983, Revised Methods for the Salmonella Mutagenicity Test, Mutation Research/ Environmental Mutagenesis and Related Subjects, 113, p.173-215)にしたがって準備され、MOLTOX TMによって提供された。これは、-70℃未満の温度で保存された。ミクロソーム画分S9はS9混合物中において10%の濃度で使用された。
【0327】
適用したプロトコルは以下の通りであった。
【0328】
- 3本の溶血管に、以下を導入した。
代謝活性化非存在下での測定:
0.1mLの種々の濃度の試験要素
0.5mLの0.2MのpH7.4の滅菌リン酸緩衝液
2mLのネズミチフス菌用トップアガー
0.1mLの細菌種菌(TA100)
代謝活性化存在下での測定:
0.1mLの種々の濃度の試験要素
2mLのネズミチフス菌用トップアガー
0.1mLの細菌種菌(TA100)
0.5mLのS9混合物
- 混合し、事前にペトリ皿に広げられたボトムアガーの表面に注ぐ。
- インキュベーションを、37±2℃で48時間から72時間行う。
【0329】
これらの測定は、予備細胞毒性試験、試験1及び試験2の各試験について行った。プレインキュベーション法中に生成された未処理対照、陰性対照及び陽性対照を、トップアガーを注ぐ前に、37℃±2℃にて20分間から30分間インキュベートした。
【0330】
適用したプロトコルは以下の通りであった。
【0331】
- ネズミチフス菌について、2mLのトップアガーの画分4つに、以下を導入する。
0.1mLの0.2MのpH7.4のリン酸緩衝液
0.1mLの溶媒
0.1mLのS9混合物
0.1mLの最高濃度の試験要素調製物
- トップアガー画分2mLを、ネズミチフス菌の無菌性をコントロールするために使用する。
- 混合し、事前にペトリ皿に広げられたボトムアガーの表面に注ぐ。
- インキュベーションを、37±2℃にて48時間から72時間行う。
- 試験は3回行われる。
- 細菌の増殖は認めなれないはずである。
【0332】
試験抽出物の少なくとも5つの濃度について、代謝活性化を伴わない試験及び代謝活性化を伴う試験を行った。
【0333】
・結果の表現及び解釈
【0334】
多くの基準を用いて結果が陽性であるか否かを決定することが可能であり、特に、代謝活性化の存在下及び非存在下での、試験されるアイテムの投与量に相関した復帰突然変異株数の増加、又は1つ若しくは複数の濃度での復帰突然変異株数の再現性を有する増加を決定することが可能である。
- 検証工程の終わりにおいて、試験要素が変異原性であると考えられるのは以下の場合であり、すなわち、代謝活性化の存在下及び/又は非存在下で、5つの菌株のうち1つ以上で投与量と効果の間の関係が再現性よく得られた場合である。変異原性は、復帰突然変異株の数がTA98株、TA100株及びTA102株で自然復帰率の2倍以上(R≧2)である場合、並びにTA1535株及びTA1537株で自然復帰率の3倍以上(R≧3)である場合にのみ、所定の濃度について考慮される。
- 試験1及び試験2の終わりに、試験要素が非変異原性であると考えられるのは以下の場合であり、すなわち、代謝活性化の存在下及び非存在下で、試験要素の全濃度について、復帰突然変異株の頻度が常に、TA98株、TA100株及びTA102株については自然復帰率の2倍未満(R<2)である場合、TA1535株及びTA1537株については自然復帰率の3倍未満(R<3)である場合であるが、但し、試験濃度の毒性に変異原性作用の欠如が関係していないことを確認したことを条件とする。
【0335】
予備試験は試験要素の細胞毒性を示さなかった。したがって、この濃度範囲が遺伝毒性試験1に使用された。
【0336】
試験1について得られた結果により、試験2について同じ希釈範囲を使用することが決定された。復帰突然変異株の分析により以下のことが示される。
- 細胞毒性作用は認められなかった。
- 試験抽出物のいずれの濃度も、代謝活性化の存在下及び非存在下で、TA98株、TA100株及びTA102株について自然復帰率の少なくとも2倍以上、又はTA1535株及びTA1537株について自然復帰率の3倍以上の比率Rを示さなかった。
- 試験系又は試験条件に関係なく投与量に対する応答は観察されなかった。
【0337】
この研究中に得られた結果に鑑み、例1によるタンパク質加水分解物は変異原性も前変異原性活性も有さないとみなすことができる。
【0338】
2.in vitro 3T3 NRU光毒性試験
【0339】
試験の原理は、培養中の細胞に対する、非細胞毒性照射量のUVAの存在下及び非存在下での、例1によるタンパク質加水分解物の細胞毒性の比較に基づく。細胞毒性は、参照要素及び本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物を用いる処理から24時間後に、UVAの照射下又は非照射下で、生体染色液ニュートラルレッドを使用して細胞生存性を決定することによって評価される。用いた細胞は、Balb/c 3T3クローン31系統(ATCC-CCL163)のマウス胚線維芽細胞である。陽性対照はクロルプロマジン溶液(CAS番号は69-09-0)である。陰性対照は試験抽出物及び参照抽出物用の希釈液(緩衝生理食塩水溶液±1%溶媒)である。ペレグリナ・タンパク質加水分解物を、UVAの存在下又は非存在下で、8つの濃度で、試験される濃度当たり少なくとも4つの培養ウェル中で試験した。線維芽細胞をトリプシン処理し、2つの96ウェル培養プレートには、完全培地中に、細胞数2×105cells/mLを含む細胞懸濁液100μLが植菌された(すなわち、ウェル当たりの細胞数2×106)。
【0340】
植菌されたプレートは37℃、5%CO2で24時間、オーブン内でインキュベートされた。インキュベーションの終わりにおいて、細胞芝地のセミコンフルエンス状態を確認した。これらを細胞上に置く直前に希釈液が準備された。最高濃度のpHを測定したところ、6.5から7.8であった。培地を除去し、各ウェルを、室温に維持した150μLのPBSで注意深く予備洗浄し、次いで100μLの各抽出物希釈液又は参照希釈液で処理した。培養プレートを暗所で1時間±5分間、37℃、5%CO2でインキュベートした。照射はBIO SUN太陽光照射装置(Vilber Lourmat RMX3W)を用いて行った。BIO SUNはプログラム可能なマイクロプロセッサによってUV照射を制御するシステムである。このシステムはUV光の放出を連続的にモニターする。照射エネルギーがプログラムされたエネルギーと等しくなると照射は自動的に停止する。試験装置の分光放射照度は、キャリブレートされた分光放射計で250ナノメートルから700ナノメートルの波長範囲で測定した。
【0341】
2つのプレートのうちの一方のプレートがカバーを付けた状態で室温で照射され、照射中に、他方のプレートはUVAから保護され室温に維持された。照射後、処理媒体を吸引し去り、細胞をすすいだ。次に、100μLの完全培地が注意深く加えられ、プレートは37℃、5%CO2で18時間から22時間インキュベートされた。翌日、細胞生存性(増殖、形態、単層完全性)を位相差顕微鏡を使用する観察により評価した。培地を除去し、各ウェルを予備洗浄し、室温に維持した後、100μLの染色液で処理した。プレートは同じ条件下で3時間インキュベーターに戻された。染色液を除去し、細胞を洗浄し、その後洗浄液を除去し、150μLの脱着溶液を各ウェルに加えた。結晶が完全に溶解するまでプレートを振動させた。吸光度値は450nmで測定された。
【0342】
・試験の検証
【0343】
細胞のUVA感受性は、増加する照射線量に細胞を曝露した後の細胞の生存性を評価することによって、約10回継代毎に確認される。細胞を試験に用いた密度で培養する。それらを2.5J/cm2及び9J/cm2の照射量で翌日に照射し、細胞生存性を1日後にNRU試験によって決定する。細胞は、5J/cm2のUVA照射後の生存性が暗所に維持された対照の生存性の80%以上である場合、品質基準を満たし、9J/cm2のUVAの最高照射量では、生存性は、暗所に維持された対照の生存性の少なくとも50%に等しくなければならない。
【0344】
・結果
陰性対照は0.4以上の吸光度を有する。陽性対照であるクロルプロマジンは、IC50値が、UVAの存在下で0.1μg/mLから2μg/mL、UVAの非存在下で7μg/mLから90μg/mLであった。これらの結果により試験の妥当性を確認することができた。UVAの照射下又は非照射下で50%細胞死をもたらす例1によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の濃度は推定できなかった。死亡率が50%に達することはなかった。UVAの照射下又は非照射下で50%細胞生存率をもたらすペレグリナ・タンパク質加水分解物の濃度は推定できなかった。生存率は常に50%を超えた。
【0345】
・結論
適用された実験条件の下において、本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物は非光毒性と考えることができる。
【0346】
3.SIRC細胞株に対するニュートラルレッド放出法を用いるin vitro細胞毒性試験による眼刺激性の評価
【0347】
このin vitro試験は、ニュートラルレッド放出法を用いて細胞単層に対して50%細胞死(IC50)をもたらす濃度を決定することによりペレグリナ・タンパク質加水分解物の細胞毒性を評価することに基づくものである。使用された細胞は、マイコプラズマを含まないSIRCウサギ角膜線維芽細胞(ATCC-CCL60)である。
【0348】
ペレグリナ・タンパク質加水分解物を生理食塩水中で25%及び50%に希釈した。線維芽細胞をトリプシン処理し、2つの24ウェル培養プレートには、完全培地中に、細胞数2×105cells/mLを含む細胞懸濁液が1mLずつ植菌された。植菌されたプレートをオーブン内で37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。インキュベーションの終わりにおいて、細胞芝生のコンフルエンス状態を確認した。染色液は、完全培地中で0.5mg/mLの濃度で準備した。培地を除去し、1mLの染色液を各ウェルに入れた。プレートを、37℃、5%CO2で、3時間±15分間、インキュベーターに戻した。この接触期間の後、染色液を除去し、ウェル当たり1mLの完全培地と置き換えた。抽出物又は参照物との接触前に、系を安定化させるために、プレートを室温で少なくとも30分間維持した。各ウェルを2mLのPBSで洗浄し、室温に維持し、次いで、ペレグリナ・タンパク質加水分解物の希釈液又は参照物の希釈液を各々500μL、細胞芝生と接触させた。接触時間は60秒(陽性対照では30秒)であった。処理は、ウェル毎に、ペペレグリナ・タンパク質加水分解物又は参照物が置かれた時点でストップウォッチを開始させて行った。プレートは処理中、手動で振動させた。55秒後(又は陽性対照については25秒後)に希釈液を吸引し去った。正確に60秒又は30秒にて、5回の連続洗浄を行った(室温に維持された2mLのPBS×5つ)。各洗浄の後と最終洗浄の後に上清を吸引し去り、ウェルは発現フェーズを待っている間、培地無しで維持された。培養プレートの処理の完了後に1mLの脱着溶液を各ウェル中に置いた。均等な染色が得られるまでプレートを約15分間振動させた。各培養ウェルについて得られた溶液を除去し、96ウェルプレートの2つのウェル内に分け、すなわち150μL/ウェルに分けた。
【0349】
・結果
50%細胞死をもたらすペレグリナ・タンパク質加水分解物の濃度は50%超と評価された。ペレグリナ・タンパク質加水分解物50%での細胞死のパーセンテージは17%であると評価された。
【0350】
・結論
適用された実験条件下において、本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の細胞毒性は無視できる細胞毒性であると考えることができる。
【0351】
4.皮膚科学的管理下における48時間の密封包帯下での、単回適用後の本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の皮膚適合性の評価
【0352】
この研究の目的は、48時間、腕の前外側に対し行われる上皮試験によってペレグリナ・タンパク質加水分解物の皮膚適合性の程度を評価することであり、概して、皮膚を良好な状態に保つペレグリナ・タンパク質加水分解物の能力を評価することである。皮膚が乾燥肌でなく、敏感肌でもなく、処理される部位において皮膚病変が何もない18歳から65歳の健康な女性又は男性ボランティア10名をこの研究に含むこととした。例1によるペレグリナ・タンパク質加水分解物5%とプロパンジオール/ソルビトール混合物95%とを含有するローションの形態で準備したペレグリナ・タンパク質加水分解物の皮膚適合性を、包帯を除去した後30分から40分の間に行われる最初の適用から48時間後に評価した。皮膚反応(紅斑及び浮腫)を、以下のスケールにしたがって0から3まででスコア化した。
【0353】
【0354】
全ての皮膚反応(水疱、丘疹、小水疱、乾燥、落屑、荒れ、石鹸作用など)を、以下のスケールにしたがって評価し、記述的に報告した。
0:反応なし
0.5:非常に軽度
1:軽度
2:中程度
3:顕著
【0355】
研究終了時に、平均刺激インデックス(M.I.I.)が以下の式にしたがって計算された。
【0356】
[数式4]
M.I.I.=皮膚反応の和(紅斑+浮腫+水疱+丘疹+小水疱)/分析したボランティアの数
【0357】
得られたM.I.I.により、以下のスケールにしたがって試験ペレグリナ・タンパク質加水分解物を分類することができた。
M.I.I.≦0.20 非刺激性
0.20<M.I.I.≦0.50 わずかに刺激性
0.50<M.I.I.≦2 中程度の刺激性
2<M.I.I.≦3 高度の刺激性
【0358】
・結果
ペレグリナ・タンパク質加水分解物の平均刺激インデックス(M.I.I.)は0に等しい。
【0359】
・結論
ペレグリナ・タンパク質加水分解物は、12名のボランティアに48時間連続適用した後、非刺激性と考えることができる。
【0360】
・試験の一般的結論
【0361】
上で行った試験の結果は疑う余地のないものであり、例1によるペレグリナ・タンパク加水分解物について、以下の点を実証する。
眼及び皮膚刺激性試験は陰性
光毒性試験は陰性
変異原性試験は陰性
【0362】
本発明によるペレグリナ・タンパク質加水分解物の安全性が実証され、ターゲット集団に関する制限なく大規模皮膚科学的使用に理想的である。