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特許7481774シート、積層シート、又は飲食品用包装容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】シート、積層シート、又は飲食品用包装容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240502BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240502BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240502BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B32B27/20 Z
B32B27/32 Z
B65D65/40 D
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2023202393
(22)【出願日】2023-11-30
(62)【分割の表示】P 2023198124の分割
【原出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大森 望
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/017661(WO,A1)
【文献】特許第7227671(JP,B1)
【文献】特許第7195678(JP,B1)
【文献】特開2020-158560(JP,A)
【文献】特開2018-34804(JP,A)
【文献】特開2003-301038(JP,A)
【文献】特開平11-311851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/20
B65D 65/40
B32B 27/32
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層からなるシート、又は、単層部とインク受理層とを備えるシートであって、
前記シートは、飲食品用包装容器を成形するためのシートであり、
前記単層又は前記単層部が、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす、シート。
(要件1)前記無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【請求項2】
前記無機物質粉末が、更に下記の要件を満たす、請求項1に記載のシート。
(要件4)前記無機物質粉末1g当たりのヒ素の含有量が3μg以下である。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムが、重質炭酸カルシウムを含む、請求項1に記載のシート。
【請求項4】
前記重質炭酸カルシウムが、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウムを含む、請求項3に記載のシート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む、請求項1に記載のシート。
【請求項6】
前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項5に記載のシート。
【請求項7】
前記ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレンブロックポリマーを含む、請求項5に記載のシート。
【請求項8】
前記シートが、真空成形用である、請求項1から7の何れかに記載のシート。
【請求項9】
請求項8のシートから成形された飲食品用包装容器。
【請求項10】
3層以上の積層シートであって、
前記積層シートは、飲食品用包装容器を成形するためのシートであり、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層と、を少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記内層の無機物質粉末の割合が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす、積層シート。
(要件1)前記無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【請求項11】
前記無機物質粉末が、更に下記の要件を満たす、請求項10に記載の積層シート。
(要件4)前記無機物質粉末1g当たりのヒ素の含有量が3μg以下である。
【請求項12】
前記炭酸カルシウムが、重質炭酸カルシウムを含む、請求項10に記載の積層シート。
【請求項13】
前記重質炭酸カルシウムが、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウムを含む、請求項12に記載の積層シート。
【請求項14】
前記内層、前記第1の外層、及び前記第2の外層のうち、少なくとも1つの層が、前記熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む、請求項10に記載の積層シート。
【請求項15】
前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項14に記載の積層シート。
【請求項16】
前記ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレンブロックポリマーを含む、請求項14に記載の積層シート。
【請求項17】
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上10.0%以下である、請求項10に記載の積層シート。
【請求項18】
前記積層シートが、真空成形用である、請求項10から17の何れかに記載の積層シート。
【請求項19】
請求項18の積層シートから成形された飲食品用包装容器。
【請求項20】
3層以上の積層シートからなる飲食品用包装容器であって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層と、を少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記内層の無機物質粉末の割合が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く、
前記飲食品用包装容器の断面の少なくとも一部において、前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす、飲食品用包装容器。
(要件1)前記無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【請求項21】
請求項20の飲食品用包装容器を、真空成形によって作製するための、積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート、積層シート、又は飲食品用包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減等の観点から、樹脂成形品に対して無機物質粉末を高充填する試みがなされている(例えば、特許文献1)。
無機物質粉末を高充填した樹脂成形品は、一般的に、樹脂単体と比較して機械的特性等に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-158560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者は、無機物質粉末を高充填した飲食品用包装容器について、表面に生じた微細な傷や、容器の端部(容器使用者の口に接する可能性が高い部分)において、無機物質粉末のうち、特に炭酸カルシウムが溶出し得ることを見出した。
炭酸カルシウムの溶出は、生体の安全性を害するものではない。しかし、本発明者は、用いた炭酸カルシウム次第で、容器に入れられた飲食品に異味を生じてしまう可能性を見出した。飲食品が、酸性であるもの、味の薄いもの、液体素材(水、油、乳化物等)である場合、異味は顕著になり得る。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、無機物質粉末を高充填した飲食品用包装容器における、異味の発生を抑制する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、無機物質粉末を高充填した飲食品用包装容器において、微量成分含有量について所定の要件を満たす無機物質粉末を配合することで上記課題を解決出来る点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) 単層からなるシート、又は、単層部とインク受理層とを備えるシートであって、
前記シートは、飲食品用包装容器を成形するためのシートであり、
前記単層又は前記単層部が、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす、シート。
(要件1)前記無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【0008】
(2) 前記無機物質粉末が、更に下記の要件を満たす、(1)に記載のシート。
(要件4)前記無機物質粉末1g当たりのヒ素の含有量が3μg以下である。
【0009】
(3) 前記炭酸カルシウムが、重質炭酸カルシウムを含む、(1)に記載のシート。
【0010】
(4) 前記重質炭酸カルシウムが、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウムを含む、(3)に記載のシート。
【0011】
(5) 前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む、(1)に記載のシート。
【0012】
(6) 前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、(5)に記載のシート。
【0013】
(7) 前記ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレンブロックポリマーを含む、(5)に記載のシート。
【0014】
(8) 前記シートが、真空成形用である、(1)から(7)の何れかに記載のシート。
【0015】
(9) (8)のシートから成形された飲食品用包装容器。
【0016】
(10) 3層以上の積層シートであって、
前記積層シートは、飲食品用包装容器を成形するためのシートであり、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層と、を少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記内層の無機物質粉末の割合が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす、積層シート。
(要件1)前記無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【0017】
(11) 前記無機物質粉末が、更に下記の要件を満たす、(10)に記載の積層シート。
(要件4)前記無機物質粉末1g当たりのヒ素の含有量が3μg以下である。
【0018】
(12) 前記炭酸カルシウムが、重質炭酸カルシウムを含む、(10)に記載の積層シート。
【0019】
(13) 前記重質炭酸カルシウムが、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウムを含む、(12)に記載の積層シート。
【0020】
(14) 前記内層、前記第1の外層、及び前記第2の外層のうち、少なくとも1つの層が、前記熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む、(10)に記載の積層シート。
【0021】
(15) 前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、(14)に記載の積層シート。
【0022】
(16) 前記ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレンブロックポリマーを含む、(14)に記載の積層シート。
【0023】
(17) 前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上10.0%以下である、(10)に記載の積層シート。
【0024】
(18) 前記積層シートが、真空成形用である、(10)から(17)の何れかに記載の積層シート。
【0025】
(19) (18)の積層シートから成形された飲食品用包装容器。
【0026】
(20) 3層以上の積層シートからなる飲食品用包装容器であって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層と、を少なくとも備え、
前記内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記内層の無機物質粉末の割合が、前記第1の外層及び前記第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く、
前記飲食品用包装容器の断面の少なくとも一部において、前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす、飲食品用包装容器。
(要件1)前記無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)前記無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【0027】
(21) (20)の飲食品用包装容器を、真空成形によって作製するための、積層シート。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、無機物質粉末を高充填した飲食品用包装容器における、異味の発生を抑制する技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
<単層シート>
本発明の一実施形態に係るシートは、単層からなるシート、又は、単層部とインク受理層とを備えるシートであり、下記要件を全て満たし得る。
・シートが、飲食品用包装容器を成形するためのシートである。
・単層又は単層部が、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む。
・無機物質粉末の含有量が、シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下である。
・無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含む。
・無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす。
(要件1)無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【0031】
本発明者らが検討した結果、無機物質粉末を高充填した飲食品用包装容器に飲食品を入れると、無機物質粉末のうち、特に炭酸カルシウムが溶出し得ることを見出した。
このような溶出は、容器の表面に生じた微細な傷や、容器の端部(容器使用者の口に接する可能性が高い部分)において認められ易い。
【0032】
炭酸カルシウムの溶出は、生体の安全性を害するものではない。
しかし、本発明者は、用いた炭酸カルシウム次第で、容器に入れられた飲食品に異味を生じてしまう可能性を見出した。このような異味は、炭酸カルシウムに含まれる、微量不純物(鉛やアルカリ金属等)に由来するものと推察される。
また、飲食品が、酸性である飲食品(食酢等)、味の薄い飲食品、液体素材(水、油、乳化物等)等である場合、異味は顕著になり得る。
【0033】
本発明において、「異味」とは、味覚の違和感だけではなく、金属臭等の異臭も包含する。
異味の有無や程度は、実施例に示した方法で特定出来る。
【0034】
本発明の一実施形態において「成分Aからなる」とは、成分A以外の成分を実質的に含まないことを意味する。本発明の一実施形態において「成分Bを実質的に含まない」とは、例えば、成分Bを全く含まない態様を包含する。
【0035】
以下、本発明の一実施形態に係るシートの構成について詳述する。
【0036】
(1)熱可塑性樹脂
シートを構成する熱可塑性樹脂としては特に限定されず、樹脂成形品に通常配合され得る樹脂を採用出来る。熱可塑性樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
(1-1)熱可塑性樹脂の種類
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、成形性等の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。
【0038】
本発明の一実施形態において、熱可塑性樹脂は、好ましくはポリオレフィン系樹脂を含み、より好ましくはポリオレフィン系樹脂からなる。
本発明の一実施形態において「ポリオレフィン系樹脂」とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂を意味する。
「オレフィン成分単位を主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上(好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上)含まれることを意味する。
なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定されず、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、ラジカル開始剤(酸素、過酸化物等)等を用いる方法等の何れでも良い。
【0039】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、本発明の効果が奏され易く、更に、良好な外観等を実現し易いという観点から、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂からなることがより好ましい。
【0040】
(1-1-1)ポリプロピレン系樹脂
本発明におけるポリプロピレン系樹脂は、プロピレン成分単位が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の樹脂を包含する。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンホモポリマー(プロピレン単独重合体)、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。
「他のα-オレフィン」としては、例えば、炭素数4~10のα-オレフィン(エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等)が挙げられる。
【0042】
プロピレン単独重合体としては、種々の立体規則性(アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック等)を示す、直鎖状又は分枝状のポリプロピレン等が包含される。
【0043】
プロピレンの共重合体は、ポリプロピレンランダムコポリマー(ランダム共重合体)、ポリプロピレンブロックコポリマー(ブロック共重合体)、二元共重合体、三元共重合体等の何れであっても良い。具体的には、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0044】
上記のポリプロピレン系樹脂のうち、ポリプロピレンブロックポリマーを含む樹脂が好ましく、ポリプロピレンブロックポリマーからなる樹脂がより好ましい。
【0045】
(1-1-2)ポリエチレン系樹脂
本発明におけるポリエチレン系樹脂は、エチレン成分単位が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の樹脂を包含する。
【0046】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。
【0047】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む樹脂が好ましく、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンからなる樹脂がより好ましい。
【0048】
高密度ポリエチレンは、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、21.6kg)が、5g/10分以上15g/10分以下であるものが好ましく、7g/10分以上13g/10分以下であるものがより好ましい。
【0049】
直鎖状低密度ポリエチレンは、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、2.16kg)が、0.5g/10分以上1.5g/10分以下であるものが好ましく、0.7g/10分以上1.3g/10分以下であるものがより好ましい。
【0050】
高密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含む樹脂において、両者の質量比(高密度ポリエチレン:直鎖状低密度ポリエチレン)は、好ましくは90:10~50:50、より好ましくは92:8~50:50、更に好ましくは94:6~50:50である。
【0051】
(1-2)熱可塑性樹脂の配合量
熱可塑性樹脂の含有量は、無機物質粉末の配合量等に応じて適宜設定出来る。
【0052】
熱可塑性樹脂の含有量は、成形性等の観点から、シート(好ましくは単層又は単層部)に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。
【0053】
熱可塑性樹脂の含有量は、充分な量の無機物質粉末を配合出来、良好な機械的特性を奏し易いという観点から、シート(好ましくは単層又は単層部)に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0054】
(2)無機物質粉末
無機物質粉末のうち炭酸カルシウムは、環境負荷が低い材料である一方で、上述の通り、飲食品に用いる成形品として調製した場合、異味を生じてしまうリスクが有る。
しかし、下記で説明する通り、用いる無機物質粉末全体の微量成分含有量を調整することで、異味を抑制出来る。
【0055】
本発明は、無機物質粉末として、炭酸カルシウムとその他の無機物質粉末を含む態様だけでなく、炭酸カルシウムのみを含む態様も包含する。
【0056】
本発明の効果が特に奏され易いという観点から、本発明の一態様において、無機物質粉末は、炭酸カルシウムからなる。したがって、かかる態様においては、以下の記載において、「無機物質粉末」を、「炭酸カルシウム(好ましくは、重質炭酸カルシウム)」と適宜読み替えても良い。
【0057】
(2-1)無機物質粉末の種類
無機物質粉末としては、炭酸カルシウムを含む点以外は特に限定されず、通常の樹脂成形品等に含まれるものを採用出来る。無機物質粉末は、1種類の物質を単独で、又は2種類以上の物質を組み合わせて用いても良い。
【0058】
(2-1-1)炭酸カルシウム
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムのうち、何れであっても良く、これらの組み合わせであっても良い。
「重質炭酸カルシウム」とは、CaCOを主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕(乾式法、湿式法等)して得られる炭酸カルシウムである。
「軽質炭酸カルシウム」とは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。
したがって、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムは互いに明確に区別される。
【0059】
重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムの違いは、例えば、SEM画像の分析に基づき算出された真円度から特定出来る。
重質炭酸カルシウムの真円度は、例えば、0.50以上0.95以下の範囲である。軽質炭酸カルシウムの真円度は、例えば、ほぼ1.00である。
【0060】
本発明の一実施形態において「真円度」とは、下式で表される値であり、粒子の不定形性度合いの指標である。真円度が「1」(最大値)に近いほど真円に近いことを意味し、数値が低いほど不定形の度合いが高いことを意味する。
「真円度」=(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)
【0061】
重質炭酸カルシウムは、その製法上、形状等が一定ではなく、低コストであるにもかかわらず、樹脂成形品に対して良好な機械的特性を安定的に付与し易い。
したがって、本発明の好ましい態様は、炭酸カルシウムが重質炭酸カルシウムを含む態様や、炭酸カルシウムが重質炭酸カルシウムからなる態様を包含する。
【0062】
(2-1-2)炭酸カルシウム以外の無機物質粉末
炭酸カルシウム以外の無機物質粉末としては、例えば、以下のものが挙げられる。
金属(マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、又はホウ酸塩;
金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の酸化物;
上記塩又は酸化物の水和物等。
【0063】
炭酸カルシウム以外の無機物質粉末としては、例えば、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。
【0064】
無機物質粉末は合成のものであっても良く、天然鉱物由来のものであっても良い。
【0065】
(2-2)無機物質粉末中の微量成分
上記の通り、本発明は、無機物質粉末として、微量成分の含有量が所定範囲に有るものを使用する点に主要な技術的特徴が有る。
これらの成分の調整によって、シートから得られた成形品を使用する際の異味が抑制される理由は、炭酸カルシウムが溶出した場合、それに伴って飲食品又は口腔へと放出される微量成分自体による異味、あるいは微量成分に由来する飲食品の変質(例えば酸化劣化)等を抑制出来るためであると推察される。
【0066】
(2-2-1)鉛
本発明の一実施形態において、無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量は、20μg以下である。
鉛の含有量は、低いほど本発明の効果が奏され易く、無機物質粉末1g当たり、好ましくは10μg以下、より好ましくは3μg以下である。
鉛の含有量の下限は、特に限定されないが、無機物質粉末1g当たり、好ましくは0.0μg以上である。
【0067】
(2-2-2)アルカリ金属及びマグネシウム
本発明の一実施形態において、無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量は、1.0質量%以下である。
アルカリ金属及びマグネシウムの総量は、低いほど本発明の効果が奏され易く、無機物質粉末を100質量%とした場合、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下である。
アルカリ金属及びマグネシウムの総量の下限は、特に限定されないが、無機物質粉末を100質量%とした場合、好ましくは0.0質量%以上である。
【0068】
(2-2-3)バリウム
本発明の一実施形態において、無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量は、0.030質量%以下である。
バリウムの含有量は、低いほど本発明の効果が奏され易く、無機物質粉末を100質量%とした場合、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.010質量%以下である。
バリウムの含有量の下限は、特に限定されないが、無機物質粉末を100質量%とした場合、好ましくは0.0質量%以上である。
【0069】
(2-2-4)その他の微量成分
その他の微量成分の含有量は、特に限定されないが、無機物質粉末の純度が高いほど本発明の効果が奏され易い。
【0070】
例えば、無機物質粉末1g当たりのヒ素の含有量が、好ましくは3μg以下、より好ましくは2μg以下であると、本発明のシートから得られる成形品の安全性が高まり易い。
【0071】
(2-2-5)微量成分の含有量の調整方法
微量成分の含有量の調整方法としては特に限定されないが、例えば、以下が挙げられる。
・本発明の要件を満たす無機物質粉末の合成や採取。
・本発明の要件の何れかを満たさない無機物質粉末と、本発明の要件を満たす無機物質粉末とのブレンド。
・本発明の要件の何れかのみ(例えば、鉛含量のみ)を満たさない無機物質粉末と、本発明の別の要件のみ(例えば、アルカリ金属及びマグネシウムの総量のみ)を満たさない無機物質粉末とのブレンド。
【0072】
(2-2-6)微量成分の測定方法
無機物質粉末に含まれる微量成分の含有量は、実施例に示した第9版食品添加物公定書(厚生労働省消費者庁)に記載の方法で特定出来る。
【0073】
(2-3)無機物質粉末のその他の条件
無機物質粉末は、微量成分について上記条件を満たしていれば、任意の形態であり得る。
【0074】
無機物質粉末の平均粒子径は、実現しようとする成形性等に応じて適宜設定出来る。
ただし、安定した分散性を実現し易く、樹脂成形品全体で均質な機械的特性を奏し易いという観点から、無機物質粉末における、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が、好ましくは0.7μm以上6.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上5.5μm以下である。
無機物質粉末の平均粒子径は、無機物質粉末全体が上記の要件を満たしていれば良い。
【0075】
無機物質粉末の分散性や反応性を高めるために、無機物質粉末の表面を、常法に従い、予め表面改質しても良く、しなくても良い。
表面改質法としては、物理的処理方法(プラズマ処理等)、化学的処理方法(カップリング剤や界面活性剤を使用した方法)等が挙げられる。
【0076】
無機物質粉末の形状は、特に限定されず、粒子状(球形、不定形状等)、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。
【0077】
(2-4)無機物質粉末の配合量
本発明の一態様において、無機物質粉末の含有量は、シート(好ましくは単層部)に対する無機物質粉末の含有量が、40.0質量%以上80.0質量%以下であれば特に限定されない。
【0078】
無機物質粉末の含有量の下限は、充分量の無機物質粉末を配合する観点から、シート(好ましくは単層部)に対して、50.0質量%以上、好ましくは52.0質量%以上、より好ましくは54.0質量%以上、更に好ましくは56.0質量%以上である。
【0079】
無機物質粉末の含有量の上限は、成形性等の観点から、シート(好ましくは単層部)に対して、90.0質量%以下、好ましくは85.0質量%以下、より好ましくは80.0質量%以下、更に好ましくは75.0質量%以下である。
【0080】
無機物質粉末における炭酸カルシウムの含有量は、多い場合であっても良好に異味を抑制出来るという観点から、無機物質粉末全体に対して、好ましくは70.0質量%以上、より好ましくは80.0質量%以上、最も好ましくは100.0質量%である。
【0081】
無機物質粉末に炭酸カルシウムが含まれているかどうかや、その含有量は、樹脂成形品を焼成し、その灰分分析によって特定出来る。
【0082】
(3)その他の成分
シートの単層又は単層部には、本発明の効果を阻害しない範囲で、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0083】
その他の成分としては、樹脂成形品に通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、着色剤、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0084】
本発明の好ましい態様において、シートの単層又は単層部は、熱可塑性樹脂、及び無機物質粉末のみからなるものを包含する。
【0085】
(4)熱可塑性樹脂と無機物質粉末との割合
シート(好ましくは単層又は単層部)において、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との質量比(熱可塑性樹脂:無機物質粉末)は、好ましくは50:50~20:80、より好ましくは45:55~20:80、更に好ましくは40:60~25:75である。
このように、熱可塑性樹脂に対する無機物質粉末の比率を同等以上とすることで、無機物質粉末による異味の抑制効果を奏し易くなる。
【0086】
(5)シートの製造方法
シートの製造方法としては特に限定されず、樹脂シートの製造方法として知られる任意の方法を採用出来る。
【0087】
例えば、シートの構成成分をペレット(樹脂組成物)化してからシートへ成形しても良く、シートの構成成分を溶融混練等してそのままシートへ成形しても良い。
【0088】
シートは、必要に応じて、任意の加工(延伸等)を行っても良い。
【0089】
シートの大きさや厚さは特に限定されない。
ただし、成形性等の観点から、通常、厚さは50~500μmである。
【0090】
シートが、単層からなるシートである場合、該シートは、熱可塑性樹脂及び無機物質粉末を含み、好ましくは熱可塑性樹脂及び無機物質粉末からなる。
【0091】
シートが、単層部とインク受理層とを備えるシートである場合、該シートは、通常、単層の表面の一部又は全てにインク受理層が形成された構成を有する。
【0092】
本発明において「インク受理層」とは、印刷用紙の分野で採用される任意の構成を包含し、例えば、印刷で塗布されるインクを滲みなく定着させるためのコーティング層を包含する。
印刷方式としては特に限定されず、例えば、インクジェット印刷等が挙げられる。
コーティング層の種類は特に限定されず、膨潤タイプ、マットタイプ等を包含する。
【0093】
インク受理層は、インク受理層用の塗工液を、塗工装置(グラビアコーター、バーコーター等)を用いて、単層部の表面に塗工及び乾燥することによって、設けることができる。
【0094】
本発明のうち、単層部とインク受理層とを備えるシートは、表面に印刷処理が施されるシートとして好適である。
【0095】
(6)シートの用途
本発明の一態様において、シートは、飲食品用包装容器を成形するために用いられる。
【0096】
本発明において「飲食品用包装容器」とは、容器の使用者が飲食品を摂取する際に飲食品を保持するための、任意の容器を包含する。
【0097】
本発明によれば、炭酸カルシウムの溶出が生じ易い飲食品や、異味を感じ易い飲食品を入れるための容器であっても、良好に異味を抑制出来る。
このような飲食品としては、酸性である飲食品(食酢等)や、味の薄い飲食品、液体素材(水、油、乳化物等)が挙げられる。
【0098】
飲食品用包装容器の大きさ、形状等は特に限定されない。
【0099】
飲食品用包装容器としては、例えば、皿、トレー、タッパー、ソーサー、コップ、ボトル等が挙げられる。
【0100】
シートから成形品を得るための成形方法は特に限定されない。
成形方法としては、真空成形、圧空成形、熱プレス成形等が挙げられる。これらのうち、好ましい成形方法として、真空成形が挙げられる。
【0101】
本発明は、本発明のシートから成形された飲食品用包装容器も包含する。
【0102】
<積層シート>
本発明の一実施形態に係るシートは、3層以上の積層シートであり、下記要件を全て満たし得る。
・積層シートが、飲食品用包装容器を成形するためのシートである。
・積層シートが、内層と、内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層と、を少なくとも備える。
・内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含む。
・第1の外層及び第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含む。
・無機物質粉末の含有量が、積層シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下である。
・内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多い。
・第1の外層及び第2の外層の厚さの比率が、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である。
・無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含む。
・無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす。
(要件1)無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【0103】
本発明の積層シートは、上述の単層からなるシートの両面に外層を設けたシートであるともいえる。換言すれば、上述の単層は、積層シートの内層と同様の構成を有し得る。
【0104】
積層シートが、本発明の要件を満たしているかどうかは、走査電子顕微鏡(SEM)画像に基づき特定出来る。
具体的には、積層シートの断面等のSEM画像を分析し、各層の厚さ、各層に含まれる成分の含有量を特定出来る。
【0105】
(1)積層シートの全体構成
本発明の一態様において、積層シートは、無機物質粉末及び熱可塑性樹脂を少なくとも含み、好ましくは、無機物質粉末及び熱可塑性樹脂からなる。
【0106】
本発明は、無機物質粉末として、炭酸カルシウムとその他の無機物質粉末を含む態様だけでなく、炭酸カルシウムのみを含む態様も包含する。
【0107】
本発明の効果が特に奏され易いという観点から、本発明の一態様において、無機物質粉末は、炭酸カルシウムからなる。したがって、かかる態様においては、以下の記載において、「無機物質粉末」を、「炭酸カルシウム(好ましくは、重質炭酸カルシウム)」と適宜読み替えても良い。
【0108】
(1-1)積層シートに配合される成分
積層シートに配合される無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂は、上記<単層シート>の項で挙げた構成を採用出来る。
【0109】
本発明の一態様において、無機物質粉末の含有量は、積層シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下である。
このように無機物質粉末の含有量が高い積層シートから得られた成形品は、異味が生じる可能性があり得る。しかし、本発明においては、上述の通り、無機物質粉末に含まれる微量成分の含有量の調整により、このような異味を抑制出来る。
【0110】
無機物質粉末の含有量は、充分量の無機物質粉末を配合する観点から、積層シートに対して、40.0質量%以上、好ましくは45.0質量%以上、より好ましくは50.0質量%以上である。
【0111】
無機物質粉末の含有量は、成形性等の観点から、積層シートに対して、80.0質量%以下、好ましくは75.0質量%以下、より好ましくは70.0質量%以下である。
【0112】
熱可塑性樹脂の含有量は、無機物質粉末の含有量等に応じて適宜設定出来、その下限は、積層シートに対して、好ましくは25.0質量%以上、より好ましくは30.0質量%以上である。
また、その上限は、積層シートに対して、好ましくは55.0質量%以下、より好ましくは50.0質量以下である。
【0113】
(1-2)積層シートの層厚さ等
本発明の一態様において、第1の外層及び第2の外層における厚さの比率は、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である。つまり、かかる態様において、外層の総厚さ(第1の外層及び第2の外層における厚さの合計値)は、積層シートの全体厚さに対して、4.0%以上40.0%以下である。
【0114】
第1の外層及び第2の外層における厚さの比率の下限は、炭酸カルシウムの含有量や炭酸カルシウムの要件を過剰に制限しなくても異味のマスキング効果が良好となり易いという観点から、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上、好ましくは2.5%以上、より好ましくは3.0%以上である。
【0115】
第1の外層及び第2の外層における厚さの比率の上限は、仮に傷が生じて内層が露出しても異味の抑制効果が奏される観点から、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、20.0%以下、好ましくは18.0%以下、より好ましくは16.0%以下、最も好ましくは10.0%以下である。
【0116】
本発明の積層シートにおいて、内層の厚さの比率は、外層の厚さに応じて調整され、積層シートの全体厚さに対して、60.0%以上96.0%以下であり得る。
【0117】
第1の外層及び第2の外層における厚さの下限は、炭酸カルシウムの含有量や炭酸カルシウムの要件を過剰に制限しなくても異味のマスキング効果が良好となり易いという観点から、それぞれ、好ましくは5.0μm以上、より好ましくは10.0μm以上である。
【0118】
第1の外層及び第2の外層における厚さの上限は、良好な成形性等を実現し易い等の観点から、それぞれ、好ましくは50.0μm以下、より好ましくは45.0μm以下である。
【0119】
内層の厚さの下限は、厚くても異味の抑制効果が奏され易い等の観点から、好ましくは50.0μm以上、より好ましくは100.0μm以上である。
【0120】
内層の厚さの上限は、良好な成形性等の観点から、好ましくは950.0μm以下、より好ましくは900.0μm以下である。
【0121】
積層シートの全体厚さの下限は、外層や内層の厚さに応じて調整され、好ましくは100.0μm以上、より好ましくは150.0μm以上である。
【0122】
積層シートの全体厚さの上限は、外層や内層の厚さに応じて調整され、好ましくは990.0μm以下、より好ましくは700.0μm以下である。
【0123】
積層シートの密度は、特に限定されない。
【0124】
積層シートは、内層、第1の外層、及び第2の外層からなる3層シートであっても良く、外層の外側(最外層)にその他の層が設けられた4層以上のシートであっても良い。
上記その他の層としては、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の層(印刷層等)が選択され得る。
ただし、本発明の一態様は、積層シートが、内層、第1の外層、及び第2の外層からなる3層シートである態様を包含する。
【0125】
(2)内層
内層は、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含む。
【0126】
(2-1)内層に配合される成分の種類
内層に配合される無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂は、上記<単層シート>の項で挙げた構成を採用出来る。
【0127】
内層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0128】
その他の成分としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0129】
本発明の好ましい態様は、内層が、無機物質粉末(好ましくは炭酸カルシウムのみ)、及び熱可塑性樹脂のみからなる積層シートを包含する。
【0130】
(2-2)内層に配合される成分の割合
内層に配合される無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂の含有量は、積層シートに含まれる無機物質粉末に関する上述の要件を満たせば特に限定されない。
ただし、後述する外層に無機物質粉末が配合される場合、内層の無機物質粉末の割合は、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く調整する。
【0131】
本発明の効果が奏され易いという観点から、内層には充分量の無機物質粉末が含まれていることが好ましいため、無機物質粉末の含有量の下限は、内層に対して、好ましくは40.0質量%以上、より好ましくは45.0質量%以上、更に好ましくは50.0質量%以上である。
【0132】
積層シートに充分な成形加工性を付与する観点から、無機物質粉末の含有量の上限は、内層に対して、好ましくは80.0質量%以下、より好ましくは75.0質量%以下、更に好ましくは70.0質量%以下である。
【0133】
内層の無機物質粉末の含有量は、以下の方法で特定された数字であり得る。以下の方法で特定された数字は、上記で挙げた内層に対する無機物質粉末の含有量の例と重複し得る。
(1)工程1
まず、積層シートの任意の5箇所において、積層シート断面のSEM画像を取得する。
該積層シートについて、総質量も記録する。
得られた5箇所のSEM画像に基づき、積層シートの断面全体に対する無機物質粉末の占有面積(面積1)、及び、積層シートの断面のうち内層に対する無機物質粉末の占有面積(面積2)を特定する。
(2)工程2
次いで、積層シートを焼成し、灰分(乾燥粉末)を得る。
得られた灰分に基づき、無機物質粉末の種類や質量を特定する。
(3)工程3
下記式に基づき、内層の無機物質粉末の含有量(質量%)を特定する。
内層の無機物質粉末の含有量(質量%)=「無機物質粉末の質量」×「面積2/面積1」÷「積層シート総質量」
【0134】
工程1において、「面積2/面積1」の下限は、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.0である。
【0135】
熱可塑性樹脂の含有量は、無機物質粉末の含有量に応じて調整出来る。
無機物質粉末の含有量の下限は、内層に対して、好ましくは20.0質量%以上、より好ましくは25.0質量%以上、更に好ましくは30.0質量%以上である。
熱可塑性樹脂の含有量の上限は、内層に対して、好ましくは60.0質量%以下、より好ましくは55.0質量%以下、更に好ましくは50.0質量%以下である。
【0136】
(3)外層
外層は、内層の2つの表面に積層される1対の層である(つまり、本発明の積層シートにおいて、外層は、内層を挟むように2層形成される。)。
本発明において、該1対の層を、第1の外層及び第2の外層と称する。
【0137】
第1の外層及び第2の外層の構成は同一であっても良く、異なっていても良い。ただし、第1の外層及び第2の外層は、それぞれ、熱可塑性樹脂を少なくとも含む。
【0138】
本発明の好ましい態様は、第1の外層及び第2の外層の構成(組成、厚さ、形状等)が全て同一である態様を包含する。
【0139】
(3-1)外層に配合される熱可塑性樹脂
外層に配合される熱可塑性樹脂としては、上記<単層シート>の項で挙げた構成を採用出来る。
【0140】
本発明の積層シートにおいて、外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とは同一であっても良く、異なっていても良い。
【0141】
本発明の好ましい態様は、以下の態様を全て包含する。
(態様1)外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とが全て同一である態様
(態様2)第1の外層に配合される熱可塑性樹脂と、第2の外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とが全て異なる態様
(態様3)第1の外層に配合される熱可塑性樹脂、第2の外層に配合される熱可塑性樹脂、及び内層に配合される熱可塑性樹脂のうち2種のみが同一である態様
【0142】
(3-2)外層に配合されるその他の成分
外層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0143】
その他の成分としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、上述の無機物質粉末、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0144】
(3-3)外層に配合される成分の割合
外層に配合される熱可塑性樹脂等の含有量は、上述の積層シート全体の要件を満たせば、特に限定されない。
【0145】
外層に配合される熱可塑性樹脂の割合は、樹脂シートを成形出来る範囲であれば、特に限定されない。
【0146】
熱可塑性樹脂の含有量の下限は、外層に対して、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、更に好ましくは99.0質量%以上である。
【0147】
熱可塑性樹脂の含有量の上限は、外層に対して、好ましくは100.0質量%である。
【0148】
外層に無機物質粉末が配合される場合、内層の無機物質粉末の割合(つまり、内層全体に対する無機物質粉末の割合)が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の総量の割合(つまり、第1の外層及び第2の外層の全体に対する無機物質粉末の割合)よりも多く配合される。
このように調整することで、炭酸カルシウムが溶出しても、異味をより効果的に抑制出来る。
【0149】
内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の総量の割合よりも多いかどうかは、積層シート断面のSEM画像の分析に基づき特定出来る。
具体的には、積層シートの断面画像において、内層における無機物質粉末が占める面積割合が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の面積割合の合計よりも多ければ、内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の総量の割合よりも多いと判断出来る。
【0150】
内層の無機物質粉末の含有量に対する、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の含有量の総量の比率(第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の含有量の総量/内層の無機物質粉末の含有量)は、1.0未満であれば良いが、該比率が小さいほど本発明の効果が得られ易い。
最も好ましい態様では、第1の外層及び第2の外層には無機物質粉末が含まれない。
【0151】
本発明の好ましい態様は、外層が、それぞれ熱可塑性樹脂のみからなる積層シートを包含する。
【0152】
(4)積層シートの製造方法
積層シートの製造方法は特に限定されず、従来知られる多層シートや積層体の製造方法を採用出来る。
【0153】
積層シートの製造方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。
・シート状に成形した内層及び外層をカレンダーロールで積層する方法
・内層及び外層を共押出する方法
・多層Tダイ方式の二軸押出成形機を用いて、内層用原材料の溶融混練と内外層の共押出成形とを同一工程で行う方法
・複数の環状ダイスを用いた、押出インフレーション方式による方法
【0154】
積層シートは、必要に応じて延伸を行っても良い。
【0155】
(5)積層シートの用途
本発明の一態様において、シートは、飲食品用包装容器を成形するために用いられる。
飲食品用包装容器やその成形に関しては、上記<単層シート>の項で挙げた構成を採用出来る。
【0156】
本発明は、本発明の積層シートから成形された飲食品用包装容器も包含する。
【0157】
<飲食品用包装容器>
本発明は、下記飲食品用包装容器も包含する。
3層以上の積層シートからなる飲食品用包装容器であって、
積層シートが、内層と、内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層と、を少なくとも備え、
内層が、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂を含み、
第1の外層及び第2の外層が、それぞれ熱可塑性樹脂を含み、
無機物質粉末の含有量が、積層シートに対して、40.0質量以上80.0質量%以下であり、
内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層の無機物質粉末の総量の割合よりも多く、
飲食品用包装容器の断面の少なくとも一部において、第1の外層及び第2の外層の厚さの比率が、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
無機物質粉末が、下記の要件を全て満たす、飲食品用包装容器。
(要件1)無機物質粉末1g当たりの鉛の含有量が20μg以下である。
(要件2)無機物質粉末を100質量%とした場合、アルカリ金属及びマグネシウムの総量が1.0質量%以下である。
(要件3)無機物質粉末を100質量%とした場合、バリウムの含有量が0.030質量%以下である。
【0158】
本発明の飲食品用包装容器の各構成の詳細は、上記<単層シート>及び<積層シート>の項で挙げた構成を採用出来る。
【0159】
本発明は、上記飲食品用包装容器を、真空成形によって作製するための、積層シートも包含する。
【実施例
【0160】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0161】
<シート及び飲食品用包装容器の作製及び評価>
以下の方法でシート(単層シート、又は3層の積層シート)を作製した。該シートから、飲食品用包装容器を作製し、その評価を行った。
【0162】
(1)材料の準備
各層の材料を以下の通り準備した。
【0163】
(1-1)無機物質粉末
無機物質粉末として、炭酸カルシウム粒子(重質炭酸カルシウム粒子)を使用した。
該炭酸カルシウム粒子における、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が、2.0μmだった。
【0164】
まず、異なる鉱山から回収した、微量成分含有量(炭酸カルシウム純度)が異なる3種類を種々比率でブレンドして無機粉末1乃至6(表1)を調製した。この無機粉末1乃至6を表2乃至5に示す量で使用した。なお、炭酸カルシウム粒子中の微量成分含有量は、第9版食品添加物公定書(厚生労働省消費者庁)の「炭酸カルシウム」の項(748~749頁)に準拠して測定した。この公定書では、炭酸カルシウムに含まれる微量成分(鉛、アルカリ金属及びマグネシウム、塩酸不溶物、並びに遊離アルカリ等)の測定方法が規定されている。
【0165】
表1中、各微量成分含有量は、以下を意味する。
・鉛:無機物質粉末1グラム当たりの鉛の含有量(単位:μg)
・アルカリ金属:無機物質粉末を100質量%とした場合の、アルカリ金属及びマグネシウムの総量(単位:質量%)
・バリウム:無機物質粉末を100質量%とした場合の、バリウムの含有量(単位:質量%)
・ヒ素:無機物質粉末1グラム当たりのヒ素の含有量(単位:μg)
【0166】
【表1】
【0167】
(1-2)熱可塑性樹脂
以下の何れかの熱可塑性樹脂を使用した。
ポリプロピレン系樹脂(PP):ポリプロピレンブロックコポリマー(融点160℃)
ポリエチレン系樹脂(PE):HDPE及びLLDPEのブレンド(HDPE:LLDPE(質量比)=70:30)
なお、上記HDPEにおける、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、21.6kg)は、7.5g/10分である。
上記LLDPEにおける、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、2.16kg)は、0.8g/10分である。
【0168】
(2)シートの作製
表2乃至5に示す割合で熱可塑性樹脂、及び無機物質粉末を用いて、Tダイ法により、シート(単層部のみからなるシート)を作製した。
また、単層の両面に、外層(ポリプロピレン系樹脂又はポリエチレン系樹脂からなる)を備えた積層シートをあわせて作製した。
【0169】
(3)飲食品用包装容器の作製
上記(2)で得られたシートを用いて、真空成形により、広口ボトル状の成形品(縦150mm×直径120mm×厚さ2mm)を得た。
次いで、スクレーパーを用いて、成形品の内側表面全体を軽くひっかき、微細な傷を付けたものも準備した。
なお、各成形品の口部は、シート断面が露出した状態となっている。
【0170】
(4)官能試験-1(飲料)
各成形品(傷が有るもの、又は、無いもの)に、飲用酢(pH=2.7)を注ぎ、その一部を口部から出した後、口部に蓋を載せ、常温で1週間保存した。この操作により、成形品の口部には、飲用酢が付着した状態となった。
次いで、20名のパネルに、成形品から清浄なガラスコップに注いだ飲用酢を一口飲ませ、以下の基準で異味の有無や程度を評価させた。その結果を、表2乃至5の「異味」の項に示す。例えば、「異味(飲料、傷無し)」とは、傷の無い成形品を用いた場合の、飲用酢の異味に関する結果を示す。
【0171】
なお、以下、本例において、「異味」とは、味覚の違和感だけではなく、金属臭等の異臭も包含する。
【0172】
[評価基準(飲料)]
A:20名中、異味を感じた者がいなかった。
B:20名中、異味を感じた者が1名以上3名以下だった。
C:20名中、異味を感じた者が4名以上だった。
D:20名中、異味を感じた者が6名以上だった。
【0173】
(5)官能試験-2(油)
各成形品(傷が有るもの、又は、無いもの)に、食用サラダ油を注ぎ、その一部を口部から出した後、口部に蓋を載せ、常温で1週間保存した。この操作により、成形品の口部には、食用サラダ油が付着した状態となった。
次いで、20名のパネルに、成形品から清浄なガラスコップに注いだ油を一口飲ませ、以下の基準で異味の有無や程度を評価させた。その結果を、表2乃至5の「異味」の項に示す。例えば、「異味(油、傷無し)」とは、傷の無い成形品を用いた場合の、食用サラダ油の異味に関する結果を示す。
【0174】
[評価基準(油)]
A:20名中、異味を感じた者がいなかった。
B:20名中、異味を感じた者が1名以上3名以下だった。
C:20名中、異味を感じた者が4名以上だった。
D:20名中、異味を感じた者が6名以上だった。
【0175】
【表2】
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
【表5】
【0179】
表に示される通り、本発明の要件を満たす成形品を使用すると、傷の有無にかかわらず、異味が抑制されていた。
他方で、本発明の要件を満たさない成形品を使用すると、異味が生じ、その程度は、傷が有る場合にはより悪化していた。
【0180】
特に、「無機粉末4」を用いた成形品について、食用酢では異味がほぼ認められなかったものの、食用サラダ油では明確な異味が認められた。
これは、成形品に含まれる鉛が、油を酸化したことによると推察される。
【0181】
本例では、無機物質粉末として、重質炭酸カルシウムを採用したが、その他の無機物質粉末(軽質炭酸カルシウム、タルク等)でも上記と同様の傾向が認められた。
【0182】
単層のみからなるシートと比較して、積層シートを用いると、異味の抑制効果がより安定的かつ効果的に奏された。

【要約】
【課題】本発明の課題は、無機物質粉末を高充填した飲食品用包装容器における、異味の発生を抑制する技術を提供することである。
【解決手段】本発明は、単層からなるシート、又は、単層部とインク受理層とを備えるシートであって、前記シートは、飲食品用包装容器を成形するためのシートであり、前記単層又は前記単層部が、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含み、前記無機物質粉末の含有量が、前記シートに対して、40.0質量%以上80.0質量%以下であり、前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、前記無機物質粉末が、所定の要件を全て満たす、シート等を提供する。
【選択図】なし