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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】末端アルケニル官能性シリル化多糖類
(51)【国際特許分類】
   C07H 23/00 20060101AFI20240502BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20240502BHJP
   C08B 37/02 20060101ALI20240502BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20240502BHJP
   C08B 30/18 20060101ALI20240502BHJP
   C08B 37/18 20060101ALI20240502BHJP
   C08B 37/12 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C07H23/00 CSP
C08B37/16
C08B37/02
C08B37/00 D
C08B30/18
C08B37/18
C08B37/12 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023555573
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 US2022017665
(87)【国際公開番号】W WO2022203799
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】63/163,968
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】バウムガルトナー、ライアン
(72)【発明者】
【氏名】マンゴールド、シェーン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンズリック、ザカリー
(72)【発明者】
【氏名】クルトマンシュ、マルク-アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】フェリット、マイク
(72)【発明者】
【氏名】カルドエン、グレゴワール
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-265505(JP,A)
【文献】特開平7-252303(JP,A)
【文献】特開昭61-249523(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002346(WO,A1)
【文献】Martina PIETSCH et al.,“Regioselective synthesis of new sucrose derivatives via 3-ketosucrose”,Carbohydrate Research,Vol. 254,1994年,p.183-194,DOI: 10.1016/0008-6215(94)84251-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
C08B
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリル化多糖類を含む組成物であって、前記シリル化多糖類が、
a.連結されたフルクトース、ガラクトース、アンヒドロガラクトース、又はグルコース単糖類単位を含むこと(但し、グルコースのグリコシド連結がα連結であり、かつ前記シリル化多糖類がシリル化デンプン以外であることを条件とする)、及び
b.前記多糖類上のヒドロキシル基の平均して1~100モルパーセントが、C-O-Si結合を通して前記多糖類に連結した構造-SiR(式中、各Rが、独立して、1~12個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルから選択される)を有するシリル基でシリル化されていること(但し、多糖類1つ当たり平均して少なくとも1つのRが末端不飽和炭素-炭素二重結合を有することを条件とする)を特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記シリル化多糖類が、シリル化β-シクロデキストリン、シリル化マルトデキストリン、シリル化プルラン、シリル化デキストラン、シリル化トレハロース、シリル化スクロース、シリル化ラクトース、シリル化マルトース、シリル化イヌリン、及びシリル化アガロースからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記シリル化多糖類が、1分子当たり平均して2~2000個の単糖類単位を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
シリル化多糖類1つ当たり少なくとも2つのR基が、末端不飽和炭素-炭素二重結合を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
各Rが、メチル基及びビニル基から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のシリル化多糖類を調製するための方法であって、前記方法が、
a.フルクトース、ガラクトース、アンヒドロガラクトース、又はグルコースが連結された単糖類単位を含む、多糖類を提供する工程であって、グルコースのグリコシド連結がα連結であり、かつ前記シリル化多糖類がシリル化デンプン以外であることを条件とする、工程と、
b.ヒドロキシル基の水素原子を、式:-SiR(式中、Rが、独立して、1~12個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルから選択される)を有する基で置換することによって、前記多糖類上の前記ヒドロキシル基の平均して1~100モルパーセントをシリル化する工程であって、多糖類1つ当たり平均して少なくとも1つのRが末端アルケニル基であることを条件とする、工程と、を含む、方法。
【請求項7】
前記多糖類が、8以下である平均重合度を有し、シリル化が、極性非プロトン性溶媒の不在下で起こる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記シリル化が、前記多糖類を、1,1,3,3-テトラアルキル-1,3ジビニルジシラザン及び任意選択的にヘキサアルキルジシラザンと反応させることによって起こる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記多糖類が、β-シクロデキストリン、マルトデキストリン、プルラン、デキストラン、トレハロース、スクロース、ラクトース、マルトース、イヌリン、及びアガロースからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
各Rが、メチル基及びビニル基から選択される、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C-O-Si連結を通してアルケニル基を多糖類に連結する末端アルケニル官能性シリル化多糖類に関する。
【背景技術】
【0002】
序論
バイオ再生可能及び/又はバイオ由来の材料は、化粧品産業における使用を含む多くの使用に望ましい。シリコーンエラストマー材料は、化粧品産業において、特に皮膚ベースの化粧品における感触及び手触りの領域において、化粧品に望ましい感覚特性を付与するために望ましいものであった。バイオ再生可能及び/又はバイオ由来の態様を化粧品用のシリコーンエラストマー材料に組み合わせることは、化粧品の分野を進歩させる1つの方法であろう。
【0003】
多糖類は、バイオ再生可能及びバイオ由来の材料である。それらをシリコーンエラストマー材料に組み込むために、多糖類をシリコーンエラストマー分子に組み込むことを可能にする反応性基を用いて官能化することが必要である。例えば、ヒドロシリル化などの更なる反応を受けて、シリコーンエラストマーを形成し得る、ビニル基などの末端炭素-炭素二重結合(C=C)を有するアルケニル基を用いて官能価された多糖類を得ることが望ましい。
【0004】
しかしながら、課題は、そのような官能化された多糖類において望ましい特性を達成することである。
【0005】
末端C=Cを有する末端アルケニル基を用いて官能化され、炭素-酸素-炭素(C-O-C)結合連結ではなく炭素-酸素-ケイ素(C-O-Si)結合連結を通して単糖類単位に連結している多糖類を有することが望ましい。C-O-Si連結は、C-O-C連結よりも加水分解安定性が低く、これは、C-O-Si連結を有する分子をより分解性にし、環境に配慮したものにする。加えて、C-O-C結合連結を有するアルコキシル化材料は、微量レベルの1,4-ジオキサンを含む可能性があり、これは特に化粧品材料において望ましくない汚染物質である。
【0006】
非極性有機溶媒中で行われる反応におけるその使用を容易にするために、ベンゼンなどの非極性芳香族有機溶媒に可溶性である末端C=Cを有するアルケニル基を用いて官能化された多糖類を同定することも望ましい。
【0007】
低い着色(ASTM D1209-05によって決定されるAPHAスケールで300未満)を依然として達成しながら、ゲルを形成するために白金触媒を使用してSi-H官能性材料を用いるヒドロシリル化を受けることができる、末端C=Cを有するアルケニル基を用いて官能化された多糖類を同定することが更に望ましい。ヒドロシリル化反応に関する一般的な課題は、白金触媒が、反応生成物を、黄変、更に琥珀色又は茶色に変化させる点までもたらし得ることである。このような変色は、化粧品用途において望ましくない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、上記の望ましい特性のうちの1つ又は2つ以上を達成する末端C=Cを有するアルケニル基を用いて官能化された多糖類を提供する。本発明は、C-O-Si結合連結を通して単糖類単位に連結されている末端C=Cを有する末端アルケニル基を用いて官能化された多糖類を提供する。本発明は、ベンゼンなどの非極性有機溶媒に可溶性である末端C=Cを有するアルケニル基を用いて官能化された多糖類を提供する。更に、本発明は、低い着色(ASTM D1209-05によって決定されるAPHAスケールで300未満)を依然として達成しながら、白金触媒を使用してSi-H官能性材料を用いるヒドロシリル化を受け得る、末端C=Cを有するアルケニル基を用いて官能化された多糖類を提供する。
【0009】
本発明は、驚くべきことに、シリル化反応を多糖類と組み合わせて、単糖類単位とアルケニル基との間にC-O-Si連結を有する末端C=Cを有するアルケニル基を用いて官能化された多糖類を得、更に、ベンゼンなどの非極性芳香族炭化水素溶媒に可溶性であるこのような官能化された多糖類を達成するために、どの多糖類及びどの程度の官能化が必要とされるかを特定した結果である。白金触媒を使用してヒドロシリル化を受けると同時に、依然として低い着色を達成し得る、このような官能基化された多糖類を見出したことは、更により驚くべき発見である。
【0010】
第1の態様では、本発明は、シリル化多糖類を含む組成物であって、シリル化多糖類が、(a)連結されたフルクトース、ガラクトース、アンヒドロガラクトース、又はグルコース単糖類単位を含むこと(但し、グルコースのグリコシド連結がα連結であり、かつシリル化多糖類がシリル化デンプン以外であることを条件とする)、及び(b)多糖類上のヒドロキシル基の平均して1~100モルパーセントが、C-O-Si結合を通して多糖類に連結した構造-SiR(式中、各Rが、独立して、1~12個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルから選択される)を有するシリル基でシリル化されていること(但し、多糖類1つ当たり平均して少なくとも1つのRが末端不飽和炭素-炭素二重結合を有することを条件とする)を特徴とする、組成物である。
【0011】
第2の態様では、本発明は、第1の態様のシリル化多糖類を調製するための方法であって、本方法が、(a)フルクトース、ガラクトース、アンヒドロガラクトース、又はグルコースが連結された単糖類単位を含む多糖類を提供する工程であって、グルコースのグリコシド連結がα連結であり、かつシリル化多糖類がシリル化デンプン以外であることを条件とする、工程と、(b)ヒドロキシル基の水素原子を、式:-SiR(式中、Rが、独立して、1~12個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルから選択される)を有する基で置換することによって、多糖類上のヒドロキシル基の平均して1~100モルパーセントをシリル化する工程であって、多糖類1つ当たり平均して少なくとも1つのRが末端不飽和炭素-炭素二重結合を有することを条件とする、工程と、を含む、方法である。
【0012】
驚くべきことに、本発明のシリル化多糖類は、ベンゼンなどの非極性芳香族溶媒に可溶性である。シリル化デンプンは、本明細書の以下の実施例の節の試料において明らかなように、ベンゼンなどの非極性芳香族溶媒に不溶性であるために、本発明の範囲から明確に除外される。
【0013】
本発明のプロセスは、本発明の末端C=Cを有するアルケニル基を用いて官能化された多糖類を調製するのに有用であり、これは、バイオ再生可能及び/又は生物由来の特性を有するポリシロキサンゲルを作製するための合成プロセスにおける使用に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
試験方法は、日付が試験方法の番号とともに示されていない場合、本文書の優先日に直近の試験方法を指す。試験方法への言及は、試験の協会及び試験方法番号への参照の両方を含む。本明細書では、以下の試験方法の略語及び識別子が適用される。ASTMは、ASTMインターナショナル試験法(ASTM International methods)を指し、ENDは、欧州規格(European Norm)を指し、DINは、ドイツ規格協会(Deutsches Institut fur Normung)を指し、ISOは、国際標準化機構(International Organization for Standards)を指し、ULは、米国保険業者安全試験所(Underwriters Laboratory)を指す。
【0015】
商品名で識別される製品は、本文書の優先日において、それらの商品名で入手可能な組成物を指す。
【0016】
「複数の」とは、2つ以上を意味する。「及び/又は」とは、「及び、又は代替として」を意味する。全ての範囲は、特に指示がない限り、終点を含む。
【0017】
「ヒドロカルビル」は、炭化水素から水素原子を除去することによって形成される一価の基を指し、アルキル基及びアリール基を含む。
【0018】
「アルキル」は、水素原子を除去することによってアルカンから誘導可能な炭化水素基を指す。アルキルは、直鎖状又は分岐状であり得る。
【0019】
「アリール」は、芳香族炭化水素から水素原子を除去することにより形成可能な基を指す。
【0020】
「多糖類」とは、互いに共有結合している2つ以上の単糖類単位を含む分子を指す。「多糖類」とは、「二糖類」及び「オリゴ糖類」と称されることもあるものを含む。「二糖類」とは、互いに共有結合している2つの単糖類単位を含む分子である。「オリゴ糖類」は、環状鎖であり得る鎖に共有結合した3~10個の単糖類単位を含む分子である。
【0021】
多糖類に関して、「ペンダント基」とは、多糖類骨格から、具体的には多糖類骨格のピラノース又はフラノース環上の炭素原子から延在する水素以外の基を指す。多糖類中の隣接する単糖類群は、「ペンダント基」とはみなされず、むしろ多糖類骨格の一部とみなされる。
【0022】
「デンプン」とは、アミロース及びアミロペクチンとの組み合わせを指す。
【0023】
「APHA」とは、米国公衆衛生協会(American Public Health Association)を指す。
【0024】
「末端アルケニル」とは、炭素-炭素二重結合(C=C)を有するアルケンから誘導可能な一価の脂肪族炭化水素ラジカルを指し、C=Cの炭素原子は、末端炭素であり、一価の脂肪族炭化水素ラジカルは、C=Cにおける末端炭素原子以外の炭素原子から1個の水素原子を除去することによって誘導可能である。
【0025】
本発明は、シリル化多糖類を含む、かつシリル化多糖類からなり得る組成物である。シリル化多糖類は、少なくとも以下の特性を特徴とする。
(a)シリル化多糖類は、連結されたフルクトース、ガラクトース、アンヒドロガラクトース、又はグルコース単糖類単位を含む(但し、グルコース単糖類のグリコシド連結がα連結であることを条件とする)。αグリコシド連結は、C1及びC4炭素が同じ立体化学を有する場合に起こるものである。対照的に、βグリコシド連結は、C1及びC4炭素が異なる立体化学を有する場合に起こるものである。
シリル化多糖類はまた、シリル化デンプン以外であることも特徴とする。すなわち、シリル化多糖類は、デンプンではない。興味深いことに、シリル化デンプンは、ベンゼンなどの非極性芳香族溶媒に不溶性であるが、本発明の範囲にある同様のシリル化多糖類は、非極性芳香族溶媒に可溶性であることが見出された。
(b)平均して、1モルパーセント(モル%)以上、好ましくは3モル%以上、5モル%以上、10モル%以上、15モル%以上、20モル%以上、25モル%以上、30モル%以上、33モル%以上、40モル%以上、45モル%以上、50モル%以上、55モル%以上、60モル%以上、65モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、更には90モル%以上、95モル%以上であるが、それと同時に100モル%以下、場合によっては95モル%以下、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下、70モル%以下、65モル%以下、60モル%以下、55モル%以下、更には50モル%以下の多糖類上のヒドロキシル基が、構造-SiRを有するシリル基でシリル化されている。誤解を避けるために、多糖類は、典型的には、多数の多糖類分子を含み、平均して、モルパーセントヒドロキシル基は、多糖類1分子当たりである。-SiR基の各Rは、独立して、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、更には6個以上であるが、それと同時に12個以下、10個以下、8個以下、更には6個以下、又は4個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルから選択される。シリル化多糖類1つ当たり少なくとも1個、好ましくは2個以上のR基は、末端不飽和炭素-炭素二重結合(C=C)を有する。「末端不飽和」とは、連続炭素鎖に沿って-SiR基のケイ素原子から最も離れた2個の炭素間にC=Cが存在することを意味する。望ましくは、R基は、メチル基及びビニル基から選択される。好ましくは、末端不飽和C=Cを有するR基は、ビニル基である、なぜなら、ビニル基は、より長鎖の末端不飽和アルキル基(アリルなど)のように異性化を受けないからである。異性化は、異性化生成物が分解して、アセトアルデヒドを形成し得、これが望ましくない臭気の一因となるため、特に望ましくない。
-SiR基は、C-O-Si結合を通して多糖類に連結している。C-O-Si結合の炭素は、好ましくは、-SiR基が結合している多糖類単位のヘキソースの炭素である。C-O-Si結合のケイ素原子は、-SiR基のケイ素原子又は-SiR基が結合しているポリシロキサン中のケイ素原子であり得る。
プロトン核磁気共鳴分光法(H NMR)によってヒドロキシルシリル化の程度及びアルケニル置換の程度を決定する。例えば、10ミリグラムの試料を0.6ミリリットルのd6-ベンゼンに溶解し、400MHz Varian NMR分光計においてH NMRによって分析する。5秒の取得時間及び15秒の緩和遅延時間を使用し、16スキャンを収集する。δ7.16ppmの残留ベンゼンに対する最終スペクトルを参照する。スペクトル中の特定のグループの領域は以下のとおりである。不飽和領域(「U」)は、δ5.6~6.5ppmにわたって積分され、いずれかについて記述し、ビニル基(「U」=「A」)の3個のプロトン全て、又は他の末端アルケニル基(3「U」=「A」)の1個のプロトン、単糖類領域(「S」)は、δ3.6~4.6ppmにわたって積分され、メチル領域(「M」)は、δ0.20~0.55ppmにわたって積分される。アノマー炭素水素を除いて、単糖類領域をメタンジイル及びメタントリイル水素に正規化する。
関連する計算に従って、以下の試料の属性を決定する。
モル-パーセント(モル%)-OH置換={[(A/3)+(M-2*A)]/[出発単糖類1つ当たりの-OH]}*100%
この値は、C-O-Si結合を通して多糖類に連結した-SiRでシリル化された多糖類上のヒドロキシル基のモル%に対応する。
モル%末端アルケニル置換(モル%アルケニル)=[(A/3)]/[(A/3)+(M-2*A)]*100%
多糖類1つ当たりの末端アルケニル基=[(モル%アルケニル)]*[モル%-OH置換]*[出発単糖類1つ当たりの-OH]*[重合度]/10
式中、
「[出発単糖類1つ当たりの-OH]」値は、アガロースについては2であり、二糖類については4であり、本発明の範囲の全ての他の多糖類については3である
「重合度」(Degree of Polymerization、「DP)とは、多糖類1分子当たりの多糖類単位の数を指し、多糖類の供給業者から、又はルーチンのGPC法を使用して決定することによって得られ得る。
【0026】
d6-ベンゼンに不溶性である実験の節における試料については、中性子放射化分析(neutron activation analysis、NAA)によってモル%-OH置換を決定する。1.0グラムの試料を予め洗浄した2ドラムのポリエチレンバイアルに移すことによって、二連の分析物材料を調製する。試料と同様のバイアルに適切な量を採取することによって、NISTトレーサブル標準溶液からケイ素標準アリコートを調製する。純水を使用して分析物物質と同じ体積に希釈する。また、純水のみを含有するブランクを調製する。標準的なNAA手順(100kWで2分間照射)に従って、分析物材料、標準物、及びブランクを分析する。9分間の待ち時間の後、高純度ゲルマニウム検出器を使用してγ線分光法を実行する。CANBERRAソフトウェアを用いる標準比較技術を使用して、ケイ素濃度(重量%Si)を決定する。以下の計算を使用して、モル%-OH置換を計算する。
【0027】
モル%-OH置換=([出発多糖類反復単位のMW]*[重量%Si])/{(28-84*[重量%Si]/100)*[出発単糖類1つ当たりの-OH]}。これは、C-O-Si結合を通して多糖類に連結した-SiRでシリル化された多糖類上のヒドロキシル基のモル%に対応する。[反復多糖類反復単位のMW]は、アガロースについては154であり、二糖類については171であり、本発明の範囲の他の全ての多糖類については162である。[出発単糖類1つ当たりの-OH]は、アガロースについては2、二糖類については4、他の全ての多糖類については3である。
【0028】
典型的には、シリル化多糖類は、-OH、-CHOH、-OSiR、及び-CHOSiRからなる群から選択される多糖類骨格上のペンダント基を有することを更に特徴とし得、ここで、-SiRシリル基は、C-O-Si連結を通して多糖類骨格に連結している。
【0029】
シリル化多糖類は、望ましくは、シリル化β-シクロデキストリン、シリル化マルトデキストリン、シリル化プルラン、シリル化デキストラン、シリル化トレハロース、シリル化スクロース、シリル化ラクトース、シリル化マルトース、シリル化イヌリン、シリル化アガロース、α-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択される。好ましくは、シリル化多糖類は、シリル化β-シクロデキストリンである。本発明の多糖類の調査において、本発明者らは、シリル化β-シクロデキストリンが特に驚くべき有益な特性を有することを見出した。例えば、本発明のシリル化β-シクロデキストリンは、有意な着色を経験することなく(すなわち、ASTM D1209-05によって決定されるようなAPHAスケールで300を超えることなく)、後続のヒドロシリル化反応において使用され得るが、大部分の他のシリル化多糖類は、後続のヒドロシリル化反応中により大きな程度の着色をもたらす。低い色形成は、特に化粧品に使用するためのポリシロキサンエラストマーを作製するために望ましい。
【0030】
シリル化多糖類(及びシリル化多糖類を作製するために使用されるプレシリル化多糖類)は、望ましくは、1分子当たり平均して2~2000個の単糖類単位を含有する。典型的には、多糖類は、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、20以上、40以上、60以上、80以上、更には100以上、又は200以上であるが、それと同時に典型的には、2000以下、1800以下、1600以下、1400以下、1200以下、1000以下、800以下、600以下、400以下、200以下、100以下、80以下、60以下、40以下、20以下、10以下、更には8以下、又は更には7以下、又は6以下を含む、平均DP(1分子当たりの多糖類単位の平均数)を有する。ルーチンのゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)法によって平均DPを決定する。
【0031】
本発明の組成物は、シリル化多糖類からなり得るか、又はシリル化多糖類及び他の成分を含み得る。例えば、組成物は、シリル化多糖類以外の多糖類及び/又はポリシロキサンと組み合わせて、シリル化多糖類を含み得る。
【0032】
第一に、フルクトース、ガラクトース、アンヒドロガラクトース、又はグルコースが連結された単糖類単位を含む、多糖類を提供すること(但し、グルコースのグリコシド連結がα連結であり、かつ多糖類がデンプン以外であることを条件とする)と、次いで、平均して、1モルパーセント(モル%)以上、好ましくは3モル%以上、5モル%以上、10モル%以上、15モル%以上、20モル%以上、25モル%以上、30モル%以上、33モル%以上、40モル%以上、45モル%以上、50モル%以上、55モル%以上、60モル%以上、65モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、更には90モル%以上、95モル%以上であるが、それと同時に100モル%以下、場合によっては95モル%以下、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下、70モル%以下、65モル%以下、60モル%以下、55モル%以下、更には50モル%以下の多糖類上のヒドロキシル基を、構造-SiRを有するシリル基でシリル化することと、によって、本発明のシリル化多糖類を調製する。-SiR基の各Rは、独立して、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、更には6個以上であるが、それと同時に12個以下、10個以下、8個以下、更には6個以下、又は4個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカルから選択される。シリル化多糖類1つ当たり少なくとも1つ、好ましくは2つ以上のR基は、末端不飽和炭素-炭素二重結合(C=C)を有する。望ましくは、R基は、メチル基及びビニル基から選択される。
【0033】
誤解を避けるために、多糖類は、典型的には、多数の多糖類分子を含み、平均して、モルパーセントヒドロキシル基は、多糖類1分子当たりである。
【0034】
シリル化反応を使用して、多糖類をシリル化する。シリル化反応は、典型的には、多糖類とシリル化剤とを一緒に組み合わせ、次いで撹拌しながら加熱することを含む。シリル化反応を補助するために触媒も使用され得る。多糖類及びシリル化剤の濃度は、所望のレベルの多糖類ヒドロキシル基のシリル化を達成するように選択される。
【0035】
多糖類は、望ましくは、β-シクロデキストリン、マルトデキストリン、プルラン、デキストラン、トレハロース、イヌリン、及びアガロースからなる群から選択され、その結果、シリル化反応は、シリル化β-シクロデキストリン、シリル化マルトデキストリン、シリル化プルラン、シリル化デキストラン、シリル化トレハロース、シリル化イヌリン、及びシリル化アガロースからなる群から選択されるシリル化多糖類を生成する。好ましくは、シリル化反応の前に、多糖類を、例えば、90℃で24時間真空に供することによって乾燥させる。
【0036】
シリル化剤は、ヒドロキシル基を、上記の-SiR官能基でシリル化することができる任意の材料であり得る。典型的には、シリル化剤は、シラザン、シラン、アルコキシシラン、シロキサン、クロロシラン、シリルアミド、シリルカルバメート、シリルアジド、シリルアセテート、シリルシアニド、シルチアン、シリルチオアセテート、シリルスルホネート、シリル尿素、又はこれらの任意の組み合わせから選択される。好ましくは、シリル化剤は、シラザン、例えば1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシラザン単独又はヘキサメチルジシラザンとの組み合わせである。
【0037】
反応は、多糖類及びシリル化剤に加えて、溶媒の存在下又は不在下で起こり得る。溶媒を使用する場合、多糖類及びシリル化剤を一緒に溶媒中に添加し、加熱しながら混合する。好適な溶媒の例としては、N,N-ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide、DMAc)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide、DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide、DMF)、N-メチルピロリドン、イソドデカン(isododecane、IDD)、ファルネサン、キシレン、トルエン、及び酢酸エチルが挙げられる。特に、反応は、極性非プロトン性溶媒の不在下で実行され得る。更に、反応は、特にβ-シクロデキストリン及びマルトデキストリンなどの、8以下の平均DPを有する多糖類については、溶媒の全くの不在下で実行され得る。
【0038】
シリル化反応は、多糖類及びシリル化剤、並びに任意選択的に溶媒に加えて、触媒の存在下又は不在下で起こり得る。触媒は、一般に酸、ルイス酸、塩基又はルイス塩基であり得る。好適な触媒の例としては、サッカリン、イミダゾール、塩化アンモニウム、トリフルオロ酢酸、及び硫酸アンモニウムが挙げられる。
【実施例
【0039】
表1は、以下の試料において使用するための材料を列挙する。
【0040】
【表1】
【0041】
PUROLANは、LANXESS Distribution GmbHの商標である。MALTRINは、Grain Processing Corporationの商標である。SYL-OFFは、The Dow Chemical Companyの商標である。NEOSSANCEは、Amyris,Inc.の商標である。
【0042】
試料の調製
表2における配合を使用して、以下の様式で試料を調製する。多糖類が乾燥されたことを示すこれらの試料については、反応の前に、真空中(1.3キロパスカル、10mmHg)、摂氏90度(℃)で24時間、多糖類を乾燥させる。特定量の多糖類、シラザン、触媒、及び溶媒を40ミリリットルのバイアルに添加する。ポリテトラフルオロエチレン撹拌バーを加え、窒素ガスを用いてパージすることによってバイアルを不活性化し、セプタムで封止する。バイアルを加熱ブロック上に置き、撹拌しながら規定の温度まで規定の時間加熱する。次いで、試料を冷却し、真空下(1.3キロパスカル、10mmHg)で24時間乾燥させて、シリル化多糖類試料を得る。
【0043】
表2は、シリル化多糖類試料のための配合を表す。多糖類の量は、グラム(g)で提供される。触媒の量及びシラザンの量は、各々、多糖類の指定されたグラム(「当量」)中の単糖類単位1モル当たりのモル数で表される。溶媒濃度は、溶媒とシラザンとを組み合わせた体積中の指定された量の多糖類のモル濃度(「M」)で存在する。
【0044】
【表2-1】
【0045】
【表2-2】

*使用前に乾燥させた。N.D.=未決定
【0046】
結果
表2は、キサンタンガム(試料37)及びキチン(試料38)が首尾よくシリル化されなかったことを明らかにする。表2は、フルクトース、ガラクトース、アンヒドロガラクトース、又はグルコースが連結された単糖類単位を含む、様々な多糖類を更に明らかにし、グルコースのグリコシド連結が、α連結であり、単糖類ヒドロキシルの3~100モル%の範囲でシリル化されて、全て首尾よくシリル化されている。
【0047】
表2はまた、シリル化反応において、種々な異なる触媒、及び更には無触媒でも全て首尾よく使用され得ることも明らかにする。
【0048】
表2は、8以下の平均DPを有する多糖類(例えば、β-シクロデキストリンマルトデキストリン)、好ましくは4~8の範囲のDPを有する多糖類のシリル化反応が、溶媒の不在下、非プロトン性溶媒中、又は非極性溶媒中で、少なくとも33モル%のOH置換まで首尾よく行われ得、これは、多糖類の間で独自のものであることを明らかにする。例えば、表3の結果の焦点を当てた概要を参照されたい。他の多糖類は、極性非プロトン性溶媒を必要とする。
【0049】
【表3】

*成功とは、少なくとも33モル%のOH置換を意味する
【0050】
代表的な溶媒としてベンゼンを使用して、選択されたシリル化多糖類の非極性芳香族溶媒溶解性を試験する。10ミリグラムのシリル化多糖類を0.6ミリリットルのベンゼンに入れ、80℃に最大8時間かけて加熱して、多糖類が溶解するかどうかを決定する。表4は、代表的な試料及びベンゼン中での溶解度試験の結果を示す。表4における溶解性の結果は、本発明のシリル化多糖類が、ベンゼンに可溶性であるが、シリル化デンプン及びシリル化セルロースが、ベンゼンに不溶性であることを明らかにする。
【0051】
【表4】
【0052】
後続のヒドロシリル化における着色
以下に示される量に従って、シリル化多糖類、SiHポリマー、及びキシレンを、40ミリリットルのバイアルに添加することによって、ヒドロシリル化における着色を試験する。ポリテトラフルオロエチレン撹拌バーを加え、混合しながら混合物を70℃に加熱する。150マイクロリットルの白金触媒を添加する。反応物を2.5時間加熱し続ける。
【0053】
ASTM D1209-05を使用して、4つの異なる反応生成物を評価して、各々のAPHA色値を決定する。4つの異なる反応生成物及びAPHA色の決定は、以下のとおりである。
(1)基準=キシレン(0.92ミリリットル)及びSiHポリマー(0.35g)を使用する。末端アルケニル含有反応物を用いずに、SiHポリマーのみを反応条件に通す。得られたAPHA色=500超。
(2)ビニルを含まないβ-シクロデキストリン=キシレン(0.92ミリリットル)、SiHポリマー(0.25g)、及び80モル%がシリル化されているが完全に飽和したシリル基を有するシリル化多糖類としての試料41(0.20g)を使用する。得られたAPHA色=500超。
(3)33モル%のビニルβ-シクロデキストリン=キシレン(0.92ミリリットル)、SiHポリマー(0.25g)、並びに70モル%の-OH置換及び33モル%のビニル置換を有するシリル化多糖類としての試料17(0.20g)を使用する。得られたAPHA色=140。
(4)100モル%のビニルβ-シクロデキストリン=キシレン(0.92ミリリットル)、SiHポリマー(0.36g)、及び75モル%の-OH置換及び100モル%のビニル置換であるシリル化多糖類としての試料18(0.09g)を使用する。得られたAPHA色=50。
【0054】
結果は、ビニル官能性シリル化β-シクロデキストリンが、驚くべきことに、白金触媒を用いるヒドロシリル化反応に含まれた後、500未満、更には300未満のAPHA色を達成することを明らかにする。
【0055】
C-O-Si結合対C-O-C結合の加水分解不安定性
試料(15mg)を、0.6mLのd6-アセトン(試料46)又はd6-DMSO(多糖類15)のいずれか中のガラス製NMR管に入れた。次いで、5μLの水/トリフルオロ酢酸の9:1体積/体積溶液を添加し、1H NMRスペクトルを表5における時点で取得した。C-O-Si加水分解のモル%を、δ0.1~0.3ppmのTMS-シクロデキストリンピーク、及びδ0.03~0.07ppmの加水分解されたTMS基を積分することによって測定した。C-O-C加水分解のモル%を、d6-アセトン中のδ3.31及びd6-DMSO中のδ3.16に存在するMeOHの任意の共鳴の成長を評価することによって決定するように、C-O-CHを評価することによって決定した。試料46について5時間の時点後、白色沈殿物がNMR管中に観察された。沈殿物を、揮発性物質を蒸発させることによって単離した。沈殿物は、d6-DMSOに可溶性であり、出発材料である多糖類15と一致することが分析された。
【0056】
【表5】
【0057】
試料46は、加水分解されたC-O-Si結合の量の経時的な増加を示し、時間0での3%加水分解(合成反応からの残留副生成物に起因する)から、室温で5時間(h)後の84%の加水分解まで増加する。しかしながら、C-O-C結合を形成するその試料からのメチル基は、そのまま残っており、加水分解のいかなる形跡も示さない。対照例として、メチル-β-シクロデキストリンの初期の試料も、上記のようにトリフルオロ酢酸を用いて処理した。この試料はまた、室温で3時間後にC-O-C基のいかなる分解も示さず、この結合の安定性を実証する。
【0058】
したがって、データは、C-O-C結合と比較してC-O-Si結合の加水分解安定性が低いことを確認する。