(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法および形成方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/52 20060101AFI20240502BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20240502BHJP
E02B 3/10 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
E02D27/52 Z
C02F11/00 C
E02B3/10
(21)【出願番号】P 2018199882
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-07-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】浜谷 信介
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】野中 宗一郎
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】土屋 真理子
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-53150(JP,A)
【文献】特開2012-149425(JP,A)
【文献】浜谷 信介 外1名、「カルシア改質材とPS灰系改質材を用いた高含水浚渫土の改質」土木学会第73回年次学術講演会(平成30年8月)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C3/00,E02B3/06-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜部を含む構造物を形成するための、泥土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを混合した泥土状の
形成材料
を製造する方法であって、
前記泥土の含水比が1.5~2.5wLであり、
前記PS灰系改質材
を前記泥土と前記製鋼スラグとの混合材料の単位体積(1m
3)あたり25~
200kgの範囲で混合
し、
前記泥土状の形成材料が前記傾斜部の所定の勾配角度
θを確保可能な流動性を有する
ように前記PS灰系改質材の混合後3時間以内にJIS R 5201に基づいて測定された前記流動性を表すフロー値を10~13.1cmの範囲内にする、傾斜部を含む構造物の形成材料
の製造方法。ただし、wL:前記泥土の液性限界である。
【請求項2】
前記形成材料を前記泥土と前記製鋼スラグと前記PS灰系改質材との混合後に静置する請求項1に記載の傾斜部を含む構造物の形成材料
の製造方法。
【請求項3】
前記勾配角度θが少なくとも18.4°である請求項1または2に記載の傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法。
【請求項4】
打設により傾斜部を含む構造物を形成するための方法であって、
請求項
1乃至3のいずれかに記載の
製造方法において前記泥土と前記製鋼スラグと前記PS灰系改質材と
を混合し、その混合直後から6時間以内に
、前記製造方法により製造された形成材料を用いて打設を開始し
、前記傾斜部を形成する、傾斜部を含む構造物の形成方法。
【請求項5】
打設により傾斜部を含む構造物を形成するための方法であって、
請求項1
乃至3のいずれかに記載の
製造方法において前記泥土に前記製鋼スラグを混合してからさらに前記PS灰系改質材を混合し、前記PS灰系改質材の混合直後から6時間以内に
、前記製造方法により製造された形成材料を用いて打設を開始し
、前記傾斜部を形成する、傾斜部を含む構造物の形成方法。
【請求項6】
打設により傾斜部を含む構造物を形成するための方法であって、
請求項1
乃至3のいずれかに記載の
製造方法において前記泥土に前記PS灰系改質材を混合してからさらに前記製鋼スラグを混合し、前記PS灰系改質材の混合直後から6時間以内に
、前記製造方法により製造された形成材料を用いて打設を開始し
、前記傾斜部を形成する、傾斜部を含む構造物の形成方法。
【請求項7】
前記混合直後から3時間以内に打設を開始する請求項
4乃至
6のいずれかに記載の傾斜部を含む構造物の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤体や潜堤などの傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法および形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浚渫土と製鋼スラグを混合して作製したカルシア改質土は、特許文献1,2や非特許文献1から公知であり、浅場・干潟の基盤材や浚渫窪地埋戻し等の海域環境改善用材、港湾・空港・海岸工事等の土工用材として用いられる。また、カルシア改質土は、潜堤等の傾斜部を含む構造物の材料としても用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-121167号公報
【文献】特開2011-206625号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「港湾・空港・海岸等におけるカルシア改質土利用技術マニュアル」(沿岸技術研究センター、平成29年2月発行)
【文献】田中等「カルシア改質土による海面埋立」土木学会論文集B3(海洋開発),Vol.70,No.2,I_888-I_893,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルシア改質土は混合直後には流動性が大きく、混合直後に傾斜部を含む構造物を打設すると、勾配がなだらかになり、多量のカルシア改質土が必要になる。例として、カルシア改質土を管中混合や落下混合で作製後に法肩流下方式で打設した場合、勾配角度は1:15~1:37(平均1:21)であった(非特許文献2参照)。
【0006】
カルシア改質土の打設により傾斜部を含む構造物において所定の勾配角度を形成するために、改質後、長時間~数日間静置した後に打設すること等が行われている。しかし、この施工方法であると、長い静置時間が必要なため施工効率が悪くなるという課題がある。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、堤体や潜堤などの傾斜部を含む構造物を形成する場合、所定の勾配角度を確保でき、かつ、施工効率を向上できる傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法および形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法は、 傾斜部を含む構造物を形成するための、泥土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを混合した泥土状の形成材料を製造する方法であって、
前記泥土の含水比が1.5~2.5wLであり、
前記PS灰系改質材を前記泥土と前記製鋼スラグとの混合材料の単位体積(1m3)あたり25~200kgの範囲で混合し、
前記泥土状の形成材料が前記傾斜部の所定の勾配角度θを確保可能な流動性を有するように前記PS灰系改質材の混合後3時間以内にJIS R 5201に基づいて測定された前記流動性を表すフロー値を10~13.1cmの範囲内にする。ただし、wL:前記泥土の液性限界である。
【0009】
この傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法によれば、PS灰系改質材は吸水性の特性を有し、泥土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを混合することで製造された形成材料は従来のカルシア改質土よりも流動性が低下し、本形成材料を用いて堤体や潜堤などの勾配角度を有する傾斜部を形成すると、所定の勾配角度を確保でき、かつ、混合直後から所定時間以内に打設を開始できるので、施工効率を向上できる。
【0010】
上述の傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法において前記形成材料を前記泥土と前記製鋼スラグと前記PS灰系改質材との混合後に静置することが好ましい。また、前記勾配角度θは少なくとも18.4°であることが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するための傾斜部を含む構造物の形成方法は、上述の製造方法において前記泥土と前記製鋼スラグと前記PS灰系改質材とを混合し、その混合直後から6時間以内に、前記製造方法により製造された形成材料を用いて打設を開始し、前記傾斜部を形成するものである。
【0012】
この傾斜部を含む構造物の形成方法によれば、泥土に製鋼スラグと吸水性の特性を有するPS灰系改質材とを混合することで、従来のカルシア改質土よりも流動性が低下し、かかる混合材料を用いて堤体や潜堤などの勾配角度を有する傾斜部を形成すると、所定の勾配角度を確保でき、かつ、混合直後から所定時間(6時間)以内に打設を開始できるので、施工効率を向上できる。
【0013】
上記目的を達成するためのもう1つの傾斜部を含む構造物の形成方法は、上述の製造方法において前記泥土に前記製鋼スラグを混合してからさらに前記PS灰系改質材を混合し、前記PS灰系改質材の混合直後から6時間以内に、前記製造方法により製造された形成材料を用いて打設を開始し、前記傾斜部を形成するものである。
上記目的を達成するためのさらにもう1つの傾斜部を含む構造物の形成方法は、上述の製造方法において前記泥土に前記PS灰系改質材を混合してからさらに前記製鋼スラグを混合し、前記PS灰系改質材の混合直後から6時間以内に、前記製造方法により製造された形成材料を用いて打設を開始し、前記傾斜部を形成するものである。
【0014】
この傾斜部を含む構造物の形成方法によれば、泥土に製鋼スラグまたは吸水性の特性を有するPS灰系改質材を混合してから、さらに吸水性の特性を有するPS灰系改質材または製鋼スラグを混合することで、従来のカルシア改質土よりも流動性が低下し、かかる混合材料を用いて堤体や潜堤などの勾配角度を有する傾斜部を形成すると、所定の勾配角度を確保でき、かつ、PS灰系改質材の混合直後から所定時間(6時間)以内に打設を開始できるので、施工効率を向上できる。
【0015】
上記傾斜部を含む構造物の形成方法において、前記所定時間は3時間であることが好ましい。なお、条件によっては、前記所定時間は6時間である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の傾斜部を含む構造物の形成材料の製造方法および形成方法によれば、製造された形成材料により堤体や潜堤などの傾斜部を打設により形成する場合、所定の勾配角度を確保でき、かつ、施工効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態による堤体の形成方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図1の堤体の形成方法の混合工程(a)および打設工程(b)の例を概略的に示す図である。
【
図3】本実施形態によるもう1つの堤体の形成方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【
図4】本実験例におけるPS灰系改質材の混合量と混合直後のフロー値との関係を示すグラフである。
【
図5】本実験例におけるPS灰系改質材の混合量と混合3時間後のフロー値との関係を示すグラフである。
【
図6】本実験例における混合後の経過時間とフロー値との関係を示すグラフである。
【
図7】本実験例におけるPS灰系改質材の混合量と混合28日後の一軸圧縮強さとの関係を示すグラフである。
【
図8】本実施形態による形成材料により潜堤を形成した例を概略的に示す図である。
【
図9】本実施形態による形成材料により中仕切り堤に腹付け部を形成した例を概略的に示す図である。
【
図10】本実施形態による形成材料によりケーソンによる堤体の裏込め部を形成した例を概略的に示す図(a)およびケーソンによる堤体の裏込め部の吸い出し防止部を形成した例を概略的に示す図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態による堤体の形成方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
図2は、
図1の堤体の形成方法の混合工程(a)および打設工程(b)の例を概略的に示す図である。
【0020】
本実施形態による堤体の形成方法は、浚渫土等の泥土を解泥し(S01)、この泥土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを添加し混合する(S02)。
【0021】
上記混合工程S02は、たとえば、
図2(a)のように、水上で土運船DS内の泥土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを添加し、バックホウ台船BSのバックホウBHを用いて混合することで行うことができる。なお、かかる混合工程は、バックホー台船に限定されず、たとえば、岸壁に置いたバックホウを用いて岸壁に係船した土運船内を混合してもよい。また、これらのバックホウ混合に限定されず、ミキサーを用いたミキサー混合により行ってもよい。
【0022】
次に、上述のように混合された混合材料を運搬し(S03)、混合直後から3時間以内に混合材料の打設を開始することで打設箇所に堤体を形成する(S04)。
【0023】
上記打設工程S04は、たとえば、
図2(b)のように、土運船DS内の混合材料をグラブGSのクレーンCRを用いてクラブバケットBKにより打設することで行うことができる。これにより、打設箇所に傾斜部11,12を有する堤体10を形成する。
【0024】
浚渫土等の泥土に製鋼スラグと吸水性の特性を有するPS灰系改質材とを混合した混合材料は、従来のカルシア改質土よりも流動性が低下するように改質されることから、かかる混合材料を用いて打設により打設箇所に形成された堤体10は、その傾斜部11,12において所定の勾配角度として、たとえば、1:3の勾配(勾配角度θ=18.4°)を確保できる。また、かかる混合材料は、混合後から3時間以内に打設を開始できるので、従来よりも混合後の静置時間を短縮でき、混合当日に打設することも可能となり、施工効率を向上できる。
【0025】
PS灰系改質材とは、製紙スラッジ焼却灰系改質材であって、製紙スラッジ焼却灰からなる改質材、または、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする改質材であり、製紙スラッジ焼却灰に他成分が混合されていてもよいが、他成分の混合は必ずしも必要ではない。製紙スラッジ焼却灰とは、製紙産業において発生するペーパースラッジ(PS)を減容化のため焼却した際に生じる焼却灰をいい、PS灰などとも呼ばれる。PS灰は多孔質材料であるため、PS灰系改質材は優れた吸水性を有する。
【0026】
図1の堤体の形成方法によれば、泥土に製鋼スラグと吸水性の特性を有するPS灰系改質材とを混合することで、従来のカルシア改質土よりも流動性が低下し、かかる混合材料を用いて、勾配角度を有する傾斜部のある堤体を打設で形成した場合、傾斜部の所定の勾配角度を確保でき、かつ、混合直後から3時間以内に打設を開始できるので、施工効率を向上できる。また、泥土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを同時に混合するので、混合の施工効率を改善できる。また、混合工程S02を打設施工場所で行う場合には、運搬工程S03を省略でき、混合直後に混合材料を打設でき、効率的な打設施工を実現できる。
【0027】
図3により別の堤体の形成方法を説明する。
図3は、本実施形態によるもう1つの堤体の形成方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【0028】
本実施形態によるもう1つの堤体の形成方法は、浚渫土等の泥土を解泥し(S11)、この泥土に製鋼スラグを添加し混合する(S12)。この第1の混合工程S12は、たとえば、ミキサー混合、バックホウ混合(
図2(a)参照)、管中混合、落下混合等により行うことができる。
【0029】
次に、上述のように泥土に製鋼スラグを混合した材料にPS灰系改質材を添加し、混合する(S13)。この第2の混合工程S13は、たとえば、ミキサー混合やバックホウ混合(
図2(a)参照)等により行うことができる。
【0030】
次に、第2の混合工程S13で混合された混合材料を運搬し(S14)、PS灰系改質材の混合直後から3時間以内に混合材料の打設を開始することで打設箇所に堤体を形成する(S15)。この打設工程S15は、たとえば、上述の
図2(b)のようにして行うことができる。
【0031】
図3の堤体の形成方法によれば、泥土に製鋼スラグを混合してから、さらに吸水性の特性を有するPS灰系改質材を混合することで、従来のカルシア改質土よりも流動性が低下し、かかる混合材料を用いて、勾配角度を有する傾斜部のある堤体を打設で形成した場合、傾斜部を早期に形成でき、かつ、混合直後から3時間以内に打設を開始できるので、施工効率を向上できる。
【0032】
なお、
図3において、第1の混合工程S12でPS灰系改質材を混合し、第2の混合工程S13で製鋼スラグを混合するようにしてもよい。また、混合工程S13を打設施工場所で行う場合には、運搬工程S14を省略でき、混合直後に混合材料を打設でき、効率的な打設施工を実現できる。
【0033】
図1のように、泥土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを混合した混合材料、および、
図3のように、泥土に製鋼スラグ(またはPS灰系改質材)を混合してからさらにPS灰系改質材(または製鋼スラグ)を混合した混合材料は、打設により傾斜部を有する堤体等を形成するための形成材料として適切である。
【0034】
泥土の含水比は1.5~2.5wL(wL:液性限界)であることが好ましく、PS灰系改質材を、泥土と製鋼スラグとを混合した材料の単位体積(1m3)あたり25~200kgの範囲で添加し混合することが好ましい。PS灰系改質材は、上記範囲内で泥土の含水比に応じて混合することが好ましい。
【0035】
なお、含水比が少なくとも2.0×wLの高含水の浚渫土に、製鋼スラグとPS灰系改質材(製紙灰系改質材)とを添加し混合することで流動性を低下させてワーカビリティーを改善する方法がある(特願2018-034605参照)。しかし、この方法は、高含水比の浚渫土の施工性向上と、養生期間を経て強度発現させることを目的としたものであり、本実施形態のように堤体傾斜部の勾配角度の早期形成とは異なるものである。
【実験例】
【0036】
<実験1> カルシア改質土の水中打設実験
参考のための実験1として、従来方法により、従来のカルシア改質土の養生時間と流動性及び水中打設時の勾配角度の関係を調べるための水中打設実験を行った。すなわち、液性限界(wL=154.1%)の1.8倍の含水比の浚渫土に対して製鋼スラグを30vol%となるように添加し混合した改質材料を、混合2時間後、4時間後、16時間後に、それぞれ水で満たした鋼製水槽(20m3)の中へ水中打設し、勾配角度θ(°)を測定した。また、打設の前にモルタルフロー試験のフロー値α(cm)をJIS R 5201に基づいて測定した(αは10以上の値をとる)。それぞれ測定したフロー値α(cm)と水中打設した際の傾斜部の勾配角度θ(°)との関係から次の回帰式(1)を導いた。この式(1)から、傾斜部が所定の勾配1:3(勾配角度θ=18.4°)を確保できるためのフロー値の目標値(≦13.1cm)を設定した。
θ=-1.89×α+43.2 (R2=0.83) (1)
但し、10≦α≦22.8 (α>22.8の場合はθ=0)
【0037】
<実験2> 浚渫土、製鋼スラグ、PS灰系改質材の配合実験
実験2として浚渫土に製鋼スラグとPS灰系改質材とを添加し混合した混合材料の流動性を調べるため配合実験を行った。すなわち、液性限界(wL=128%)の1.55、1.75、2、2.5倍の含水比の浚渫土に対して製鋼スラグを容積混合率30vol%となるように添加し混合する際にPS灰系改質材を一緒に添加し混合し、次の表1に示す実験ケースで配合実験を行った。各混合材料について混合直後、3時間後、および24時間後にJIS R 5201に基づいてフロー値を測定した。また、混合28日後には一軸圧縮強さをJIS A 1216に基づいて測定した。なお、PS灰系改質材として、ジャイワット株式会社が吸水性泥土改質材として販売する商品名「ワトル」を使用した。
【0038】
また、浚渫土に対する製鋼スラグの容積混合率(βvol%)については、浚渫土の容積Vsと製鋼スラグの実容積Vc(空隙を除く容積)とにより次の式で求めた。
β={Vc/(Vc+Vs)}×100
【0039】
【0040】
図4は本実験例におけるPS灰系改質材の混合量と混合直後のフロー値との関係を示すグラフである。1.55wLの浚渫土の改質直後のフロー値は、製鋼スラグのみを添加し混合した場合、13.5cmであったのに対して、
図4のように、PS灰系改質材を50kg/m
3添加し混合した場合は12.4cmとなり、上記目標値(≦13.1cm)を満たした。また、PS灰系改質材を100kg/m
3添加し混合した場合は2.0wLの浚渫土で12.7cm、200kg/m
3添加し混合した場合は2.5wLの浚渫土で13.1cmとなり、目標値(≦13.1cm)を満たした。
【0041】
図5は本実験例におけるPS灰系改質材の混合量と混合3時間後のフロー値との関係を示すグラフである。浚渫土に製鋼スラグのみを添加し混合した場合、混合3時間後のフロー値は1.75wLで15.5cm、2.0wLで15.2cm、2.5wLで20.3cmであり、目標値(≦13.1cm)を満たさなかったのに対して、
図5のように、PS灰系改質材を、1.75wLでは25kg/m
3、2.0wLでは50kg/m
3、2.5wLでは100kg/m
3を添加し混合した場合、それぞれ目標値(≦13.1cm)を満たした。
【0042】
図6は本実験例における混合後の経過時間とフロー値との関係を示すグラフである。上記実験例1,2のうち2.0wLの浚渫土の改質(製鋼スラグを30vol%混合)を見ると、
図6のように、目標値を満たすまでに要する時間は、PS灰系改質材を添加しない場合、実測値から内挿により求めると、14.1時間であったのに対し、50kg/m
3を添加し混合した場合は改質3時間以内で目標値を満たし、100kg/m
3、200kg/m
3を添加し混合した場合は改質直後となった。本実験例からPS灰系改質材の混合を行わなかった場合には、夜間施工を行わない限り当日の打設はできないことが明らかになった。
【0043】
ここで、実際の施工にあたり、混合材料の混合後の品質管理、運搬、打設位置の決定等を考慮すると、混合後3時間後までの経過時間は必要に応じて形成材料(混合材料)の運搬時間に充当でき、混合当日の打設の妨げにはならない。すなわち、カルシア改質土で1:3の勾配を実際に施工する場合、従来の方法(PS灰系改質材0kg/m3)であれば混合後翌日打設であるのに対し、PS灰系改質材を混合することで、混合当日の打設が可能となる。
【0044】
図7は本実験例におけるPS灰系改質材の混合量と混合28日後の一軸圧縮強さとの関係を示すグラフである。
図7からわかるように、混合28日目の一軸圧縮強さquは、浚渫土が1.55wL、1.75wL、2.0wL、2.5wLの各場合において、製鋼スラグのみを添加し混合した場合よりもPS灰系改質材を添加したもののほうが大きくなり、PS灰系改質材の添加により強度増加を図ることも可能である。
【0045】
上述の本実験1,2により、2.5wLまでの浚渫土に製鋼スラグを30vol%添加し混合したカルシア改質土に吸水性のあるPS灰系改質材を添加し混合することで、混合直後から3時間後のフロー値について目標値(≦13.1cm)を満たすことができることを確認した。また、PS灰系改質材の混合量は25~200kg/m3であることが好ましいことを確認した。
【0046】
図1~
図3では、本実施形態による傾斜部を含む構造物の形成材料(混合材料)を用いて打設により傾斜部を有する堤体を形成する例を説明したが、本実施形態によれば、他の構造物の傾斜部を形成する場合にも使用可能である。
【0047】
図8に潜堤に適用した例を示す。
図8の例は、本実施形態による形成材料を用いて原地盤Gに打設により潜堤20を形成したものである。潜堤20の傾斜部21,22は、所定の勾配角度を確保できる。なお、傾斜部21側は砂・浚渫土・固化処理土等による埋め立て部RRである。
【0048】
図9に腹付け材に適用した例を示す。
図9の例は、原地盤Gに形成した中仕切り堤SBの一方の傾斜部に本実施形態による形成材料を用いて打設により腹付け部30を形成したものである。腹付け部30は中仕切り堤SBを補強するもので、その傾斜部31は、所定の勾配角度を確保できる。
【0049】
図10にケーソンによる堤体に適用した例を示す。
図10(a)の例は、原地盤Gに捨石で形成された基礎マウンドM上にケーソンCAを設置し、裏込め部40を、本実施形態による形成材料を用いて打設により形成したものである。裏込め部40は、土圧や水圧を低減させるもので、その傾斜部41は、所定の勾配角度を確保できる。
【0050】
図10(b)の例は、原地盤Gに捨石で形成された基礎マウンドM上にケーソンCAを設置し、裏込め部BCを捨石により形成し、裏込め部BCに吸い出し防止部50を本実施形態による形成材料を用いて打設により形成したものである。吸い出し防止部50側には浚渫土等により埋め立て部REが形成される。吸い出し防止部50は、埋め立て部REの浚渫土等が裏込め部BC、基礎マウンドMを通して海側に吸い出されることを防止するもので、その傾斜部51は、所定の勾配角度を確保できる。
【0051】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本発明において打設により形成される傾斜部は、堤体や潜堤等の傾斜部に限定されず、他の構造物の傾斜部や、他の構造物の一部の傾斜部であってもよいことはもちろんである。
【0052】
また、本発明による形成材料は、構造物の傾斜部のみならず、構造物の天端や小段の平坦部にも用いることができる。
【0053】
また、本実施形態では吸水性のある改質材料として、PS灰系改質材を用いたが、これに限定されず、竹繊維、吸水性ポリマー等の他の吸水性のある吸水性材料を用いてもよい。
【0054】
また、本発明による形成材料は、たとえば、
図2(b)のように水中に堤体10を形成する場合、その施工が水中打設となるが、従来のカルシア改質土よりも流動性が低下するので、水中打設の場合でも傾斜部11,12において所定の勾配角度を確保できる。また、堤体等の構造物のうち水中部分を水中打設で形成し、陸上部分を陸上打設で形成することができる。また、陸上構造物を本発明による形成材料により陸上打設で形成できることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、浚渫土等の泥土に製鋼スラグと吸水性のあるPS灰系改質材とを混合し、または、泥土に製鋼スラグもしくはPS灰系改質材を混合してからさらにPS灰系改質材もしくは製鋼スラグを混合することで、従来のカルシア改質土よりも流動性が低下するので、堤体や潜堤等の傾斜部を含む構造物を形成するのに適した形成材料を提供することができ、かかる傾斜部で所定の勾配角度を確保でき、混合直後から所定時間以内に打設を開始できるので、施工効率を向上できる。
【符号の説明】
【0056】
10 堤体
11,12 傾斜部
20 潜堤
21,22 傾斜部
30 腹付け部
31 傾斜部
40 裏込め部
41 傾斜部
50 吸い出し防止部
51 傾斜部
θ 勾配角度