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  • -フィルム及びマーカーの印字方法 図1
  • -フィルム及びマーカーの印字方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】フィルム及びマーカーの印字方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20240502BHJP
   G02B 1/11 20150101ALN20240502BHJP
   G02F 1/13 20060101ALN20240502BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/11
G02F1/13 101
G02F1/1335
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018235776
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020098248
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】314017635
【氏名又は名称】株式会社トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルム
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸康
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】廣田 健介
【審判官】本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-257343(JP,A)
【文献】特表2011-518332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B1/10-1/14
G01N21/84-21/958
G02F1/13
G02F1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠陥部分があることを特定するためのマーカーがレーザーマーカーにより印字されたフィルムであって、
光硬化性樹脂からなる光学機能層が積層されており、
前記マーカーは、前記レーザーマーカーによって前記光学機能層に形成された凹凸を有し、
前記マーカーの形状が二重円形状である、フィルム。
【請求項2】
前記フィルムがアクリル系樹脂からなる基材を有する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
光硬化性樹脂からなる光学機能層が積層されたフィルムの前記光学機能層にレーザーマーカーで凹凸を形成することにより、欠陥部分があることを特定するための二重円形状のマーカーを印字する、マーカーの印字方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層または複数層のフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等に用いられるハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等の光学機能性フィルムの製造時には、フィルム表面の欠陥の有無を検査し、製品として不良となる欠陥が見つかった場合には、欠陥の近傍にマーキングを施すことが行われる。フィルム状の欠陥の近傍にマーキングを施すことにより、フィルムの表面に更に別の層を積層する工程やフィルムを他の部材と貼り合わせる工程等の後の工程において、製品として不良となる部分を特定し除去することが可能となる。
【0003】
フィルムにマーキングする方法としては、マジックペンでフィルム表面にマーカーを印字する方法、インクジェットプリンタでフィルム表面にマーカーを印字する方法、レーザーマーカーによりフィルム表面にマーカーを印字する方法等がある。これらの方法の中でも、レーザーマーカーを用いた方法は、高速で微細なマーキングが可能であり、メンテナンス性に優れる点で利点がある。レーザーマーカーを用いた欠陥マーキング方法に関する技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0004】
マーキングに求められる要件としては、目視あるいは検査機によりマーキングを検出可能であることと、マーキングによる転写がないことが挙げられる。これらの2つの要件は、マーキング方法にかかわらずトレードオフの関係にあり、採用するマーキング方法に応じて最適な条件を設定することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-108473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、光学機能性フィルムの基材としてはトリアセチルセルロース(TAC)フィルムが多く用いられていたが、近年、基材としてアクリル系フィルムが用いられた光学機能性フィルムが増加している。アクリル系フィルムは、TACフィルムと比べて、レーザーマーカーによるマーキングで変形しやすいという特徴がある。TACフィルムを基材として用いたフィルムに適用していた従来のマーキング条件でレーザーマーキングを行った場合、マーキング箇所におけるフィルムの変形(凹凸)が大きくなるため、フィルムを巻回した状態で圧力が加わるとマーキング箇所の凹凸が重なり合ったフィルムに転写し、製品不良を引き起こすという問題があった。
【0007】
それ故に、本発明は、欠陥部分があることを特定するためのマーカーが印字されたフィルムにおいて、巻回した状態でのマーカーの転写を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、欠陥部分があることを特定するためのマーカーがレーザーマーカーにより印字されたフィルムであって、光硬化性樹脂からなる光学機能層が積層されており、マーカーは、レーザーマーカーによって光学機能層に形成された凹凸を有し、マーカーの形状が二重円形状であるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、欠陥部分があることを特定するためのマーカーが印字されたフィルムにおいて、巻回した状態でのマーカーの転写を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マーカーの形状とフィルムの変形との関係を説明するための模式図
図2】円形または二重円形のマーカーの顕微鏡画像
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
本実施形態に係るフィルムは、フィルム表面の欠陥箇所を特定するためのマーカーがレーザー光照射により印字されたものである。以下、レーザーマーカーと呼ばれるマーキング機器を用いて、レーザー光の照射によりマーカーを印字することを「レーザーマーキング」という。レーザーマーカーは、対象物にレーザー光を照射し、表面部分を溶かす、焦がす、剥離する、酸化させる、削る、変色させる等により、文字や図形等を対象物に印字する。レーザーマーキングには、高速で微細なマーキングが可能であるという利点がある。
【0012】
本実施形態において、フィルムに印字するマーカーの形状は、直線的な部分のない丸みを帯びた曲線からなる。尚、直線的な部分とは、完全な直線ではないが、実質的に直線に近似することができる部分をいう。マーカーが、直線的な部分のない丸みを帯びた曲線で描かれることによって、レーザー光の照射箇所の変形を抑制し、フィルムの巻回時における転写を抑制することができる。
【0013】
図1は、マーカーの形状とフィルムの変形との関係を説明するための模式図である。図1の説明では、図1(a)に示す、スポット形状が楕円形であるレーザー照射装置をパルス発光させてレーザーマーキングを行う場合を想定する。
【0014】
図1(b)は、レーザー光の照射位置を直線状に走査しながら、フィルム表面にn回目から(n+4)回目まで連続して5回のレーザー光を照射する例を示す(nは正の整数である)。また、図1(c)は、レーザー光の照射位置を円弧状に走査しながら、フィルム表面にn回目から(n+4)回目まで連続して5回のレーザー光を照射する例を示す。図1(b)に示す点P1及び図1(c)に示す点P2は、いずれもフィルム上の点を表す。図1(b)に示す点P1に対する(n+2)回目の照射スポットの相対位置と、図1(c)に示す点P2に対する(n+2)回目の照射スポットの相対位置とは同じである。
【0015】
図1(b)に示すように、レーザー光の照射位置を直線状に走査した場合、フィルム上の点P1に対しては、n回目から(n+2)回目まで3回のレーザー光照射が行われる。これに対して、図1(c)に示すように、レーザー光の照射位置を円弧状に走査した場合、フィルム上の点P2に対しては、(n+1)回目及び(n+2)回目の2回のレーザー光照射が行われる。照射回数は、フィルム上の位置によって異なるが、レーザー光の照射スポットを曲線状に走査すると、レーザー光の照射スポットを直線状に走査する場合と比べて、照射回数が多い箇所(つまり、照射時間が長い箇所)を少なくすることができる。フィルム上の1点に対するレーザー光の照射時間が長くなると、当該1点におけるフィルムの変形が大きくなる。したがって、レーザー光の照射領域のうち、レーザー光の照射時間が長い箇所が多くなるにつれて、レーザー光の照射領域の変形が大きくなり、フィルムの巻回時に変形箇所の転写を生じやすくなる。一方、本実施形態に係るマーカーは、直線状の部分がなく、丸みを帯びた曲線で描かれるため、レーザー光の照射領域のうち、レーザー光の照射時間が長い箇所が少なくなり、レーザー光の照射領域の変形(膨張)を抑制することができる。この結果、フィルムの巻回時に変形箇所の転写を抑制することができる。
【0016】
尚、図1の例では、レーザー光の照射スポットを円弧状(円形状)に走査する例を説明したが、直線状の部分がない丸みを帯びた曲線でマーカーが描画される限り、マーカーの形状は、円弧状に限らず、楕円弧状や波状等の他の曲線形状や、1種類または複数種類の曲線の組み合わせからなる曲線形状、円形状、楕円形状等であっても良い。また、マーカーの形状は、平仮名の「の」や、アルファベットの「C(シー)」、「O(オー)」のような曲線から構成される文字でも良い。ただし、レーザーマーキング時に照射領域が交差すると、交差部分の変形が大きくなるため、マーカーの形状は、線と線が交差する部分(重なり部分)を持たない形状とすることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態において、フィルムに印字するマーカーの形状は、上述した曲線を二重に描いた形状であることがより好ましい。尚、曲線を二重に描いた形状とは、上述した曲線及びこれと同一の曲線を所定の間隔を空けて描いた形状、または、上述した曲線及びこれと相似の曲線を所定の間隔を空けて描いた形状をいう。マーカーを二重曲線形状に描くことにより、単一の曲線形状で同じ大きさのマーカーを描いた場合と比べて、フィルム表面の変形面積が大きくなるため、視認や検査機による認識性を向上させることができる。
【0018】
直線的な部分がなく丸みを帯びた曲線を二重に描いたマーカーの形状としては、二重円形状や二重楕円形状が好ましく、二重円形状がより好ましい。マーカーを二重円形状とした場合、曲率が一定であるので、図1で説明した照射時間の長い箇所を低減し得る。
【0019】
フィルムへのマーキングは、次のように行う。フィルムの製造時にロール・ツー・ロールで搬送しながら検査機によりフィルム表面の欠陥の有無を検査し、欠陥が発見された場合は欠陥の座標を特定する。特定された座標を含むフィルムの一部をフラットにした状態で、レーザーマーカーを用いて、フィルム表面に対して垂直にレーザーを照射及び走査することにより、上述した形状のマーカーを印字する。
【0020】
マーキング対象となるフィルムの構成は特に限定されず、単層の樹脂フィルムであっても良いし、樹脂フィルムからなる基材上に1層以上の樹脂層や金属蒸着層が積層された積層フィルムであっても良い。
【0021】
単層の樹脂フィルムの例としては、トリアセチルセルロース;ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリイミド;ポリアリレート;ポリカーボネート;ポリエーテルサルフォン;ポリサルフォン;ポリビニルアルコール;ポリ塩化ビニル;シクロオレフィンコポリマー;含ノルボルネン樹脂;セロファン等のフィルムが挙げられる。
【0022】
積層フィルムの例としては、上述した単層の樹脂フィルムのいずれかを透明基材として用い、透明基材上に光学機能層を積層して構成されるハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等が挙げられる。
【0023】
ハードコートフィルムは、透明基材より上の層にハードコート層を積層したものである。ハードコート層は、例えば、ポリエステルアクリレート系モノマー、エポキシアクリレート系モノマー、ウレタンアクリレート系モノマー、ポリオールアクリレート系モノマー等の(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤とを含有する塗工液を塗布して硬化させることにより形成することができる。ハードコート層には、表面硬度の向上や高屈折率化のため、必要に応じて、シリカ(SiO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、ガリウムドープ酸化スズ(GTO)、ジルコニア(ZrO)及びチタニア(TiO)等の金属酸化物微粒子を含有させても良い。
【0024】
防眩フィルムは、透明基材より上の層に表面に微細な凹凸構造を有する防眩層を積層したものである。防眩層は、例えば、ハードコート層で説明したような(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤とを含有する塗工液を塗布して硬化させることにより形成することができる。防眩層の表面に防眩性の発現に必要な微細な凹凸構造を形成するため、防眩層には、膨潤性粘土、コロイダルシリカ、アルミナ、酸化亜鉛等の無機微粒子や、アクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリエチレン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン系樹脂等の透光性樹脂材料からなる樹脂粒子(有機フィラー)を含有させても良い。
【0025】
反射防止フィルムは、透明基材上に透明基材とは屈折率の異なる反射防止層を積層したものである。反射防止層は、透明基材上に積層されるハードコート層と、ハードコート層より屈折率が高い高屈折率層と、高屈折率層上に積層され、ハードコート層より屈折率が低い低屈折率層とから構成されても良い。また、高屈折率層とハードコート層の間に、ハードコート層より屈折率が高く、かつ、高屈折率層より屈折率が低い中屈折率層を更に設けても良い。高屈折率層及び中屈折率層は、例えば、ハードコート層で説明したような(メタ)アクリレートモノマーと、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ジルコニア(ZrO)及びチタニア(TiO)、酸化インジウム(In)、三酸化アンチモン(Sb)等の無機微粒子と、光重合開始剤とを含有する塗工液を透明基材に塗布して硬化させることにより形成することができる。また、低屈折率層は、例えば、ハードコート層で説明したような(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤とを含有する塗工液を塗布して硬化させることにより形成することができる。低屈折率層には、屈折率調整のために、必要に応じて、フッ化リチウム(LiF)やフッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、氷晶石(NaAlF)、中空シリカ粒子等を含有させても良い。
【0026】
尚、上述したハードコートフィルム、防眩フィルム及び反射防止フィルムの層構成は一例であって、透明基材上に、上記のハードコート層、防眩層、屈折率調整層(高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層)を適宜組み合わせて積層することにより、所望の特性を有する積層フィルムを構成しても良い。
【0027】
また、上述したハードコートフィルム、防眩フィルム及び反射防止フィルムは、必要に応じて、帯電防止層または防汚層を更に備えていても良い。
【0028】
帯電防止層は、ハードコート層で説明したような(メタ)アクリレートモノマーと、光重合開始剤と、耐電防止剤とを含む塗液を塗布し、重合により硬化させることによって形成できる。帯電防止剤としては、例えば、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)等の金属酸化物系微粒子、高分子型導電性組成物や、4級アンモニウム塩等を使用できる。帯電防止層は、積層フィルムの最表面に設けられても良いし、透明基材及びこれより上の層に設けられる機能層との間に設けられても良い。
【0029】
防汚層は、積層フィルムの最表面に設けられ、光学積層体に撥水性及び/または撥油性を付与することにより、防汚性を高める。防汚層は、珪素酸化物、フッ素含有シラン化合物、フルオロアルキルシラザン、フルオロアルキルシラン、フッ素含有珪素系化合物、パーフルオロポリエーテル基含有シランカップリング剤等をドライコーティングまたはウェットコーティングすることにより形成できる。
【0030】
本実施形態で説明した形状のマーカーは、レーザーマーカーを用いて、上述した単層フィルムまたは積層フィルムの検査工程で発見された欠陥箇所の近傍に印字される。欠陥箇所の近傍にマーカーが印字されたフィルムは、ロール状に巻回された状態で、偏光フィルムや透明導電フィルム、タッチパネル等の製造工程に供される。本実施形態に係るフィルムは、欠陥箇所を特定するためのマーカーが、直線的な部分のない丸みを帯びた曲線からなる形状を有していることにより、ロール状に巻回した状態でのマーカーの転写の影響が抑制される。また、マーカーの形状を、直線的な部分のない丸みを帯びた曲線を二重に描いた二重曲線形状とすることにより、マーカーの認識性をより向上させることができる。したがって、本実施形態に係るフィルムを用いた、偏光フィルムや透明導電フィルム、タッチパネル等の製造工程では、マーカーの転写に起因する製品不良が低減するため歩留まりを向上させることができると共に、得られた製品の検査時に検査機や目視によって不良部分の特定及び除去を容易に行うことができるため製品の不良率を低下させることができる。
【0031】
上述した樹脂フィルムの中で、例えば、アクリル系フィルムは、TACフィルムと比べて、レーザーマーカーによるマーキングで変形しやすい。上述したとおり、本実施形態に係るマーカーの形状であれば、レーザー光の照射領域のうち、レーザー光の照射時間が長い箇所を少なくして、樹脂フィルムの変形(膨張)を抑制できる。したがって、本実施形態に係るマーカーは、アクリル系フィルムのように、レーザー照射により変形しやすいフィルムまたはこれを用いた積層フィルムに対して特に好適である。
【実施例
【0032】
以下、本発明を具体的に実施した具体例を説明する。
【0033】
実施例では、レーザーマーカーとして、ML-9520(株式会社キーエンス製)を使用し、PMMA(ポリメチルメタクリレート)からなる基材フィルム上に、防眩性(アンチグレア:AG)ハードコート層(AGHC層)を積層した防眩性フィルムのAGHC層に対して、表1に示す形状のマーカーを印字した。四角形のマーカーの寸法は2mm角とし、円形または二重円形のマーカーの直径(最外径)は2mmとした。
【0034】
印字したマーカーの表面形状を、非接触表面・層断面形状計測システム(測定装置:バートスキャンR3300FL-Lite-AC、解析ソフトウェア:VertScan4、株式会社菱化システム製)を用いて測定し、印字したマーカー部分に形成された微細な凸部の高さ(最大値)及び凹部の深さ(最小値)を測定した。マーカー部分の凸部高さ及び凹部深さは、マーカーを印字していないフィルム表面を基準とした。尚、マーカー部の凸部は、レーザー光の照射によってフィルムの一部が膨張することによって形成されたものである。
【0035】
表1に、マーカー形状毎の凸部高さ、凹部深さ及び凸部及び凹部の高低差(最大値)を示す。
【表1】
【0036】
表1に示すように、マーカー形状が四角形である場合、マーカー形状が円形または二重円形である場合と比べて、凸部高さが高くなった。これは、四角形のマーカー形状は、直線部分のみで構成されるため、レーザー光の照射領域内で照射時間が長い箇所が多くなり、フィルムの変形(膨張)量が大きくなったためと考えられる。これに対して、マーカーが、直線的な部分のない丸みを帯びた曲線のみで構成される円形または二重円形である場合、レーザー光の照射領域内で照射時間が長い部分の増加が抑制された結果、フィルムの変形(膨張)が抑制され、四角形のマーカーよりも凸部高さが低減されたと考えられる。表1の結果から、直線的な部分のない丸みを帯びた曲線のみで構成されたマーカー形状であれば、マーカーの変形箇所の突出量を抑制できることが確認された。マーカーの変形箇所の突出量が抑制されることにより、フィルムの巻回時における転写を抑制することが可能となる。また、レーザー照射により発生した熱や凸部の変形に起因する応力により、レーザー照射領域の周辺部に凹部が発生する。マーカー形状が円形または二重円形の場合、四角形のマーカーよりも凸部高さが抑制される代わりに、凹部深さは四角形のマーカーよりも深くなり、凸部と凹部との高低差が2μm程度となった。凸部と凹部との高低差が2μm程度あることにより、マーカーの視認性、特に、目視時の視認性を確保することができた。
【0037】
尚、本実施例で用いたような積層フィルムにレーザーを照射してマーキングを施した場合、AGHC層だけでなく、基材フィルムにも変形を生じる。AGHC層側からレーザー照射を行った場合には、表面側のAGHC層の変形が裏面側の基材フィルムの変形より大きくなるのに対し、基材フィルム側からレーザー照射を行った場合には、表面側のAGHC層の変形よりも裏面側の基材フィルムの変形が大きくなる。基材フィルムの変形が相対的に大きいと、マーキング後のフィルムを巻回した際に、基材フィルムの変形が、視認側となるAGHC層に転写しやすくなるため、積層フィルムの外観不良に繋がりやすい。一方、視認側となるAGHC層側からレーザー照射を行って、AGHC層の変形が相対的に大きくなった場合、マーキング後のフィルムを巻回した際に、AGHCフィルムの変形が基材フィルムの裏面側に転写する可能性がある。しかしながら、マーキング箇所における基材フィルムの変形が小さく抑制されるため、視認側となるAGHC層に対する転写の影響を小さくすることが可能となる。したがって、本実施例で用いたような積層フィルムにマーキングを行う際には、本実施例のように、積層フィルムの視認側からレーザー照射を行うことが好ましい。
【0038】
次に、円形及び二重円形のマーカーの顕微鏡画像を、光学顕微鏡MX61L(オリンパス株式会社製)を用いて撮影した
【0039】
図2(a)に円形のマーカーの顕微鏡画像を示し、図2(b)に二重円形のマーカーの顕微鏡画像を示す。
【0040】
図2(a)に示す円形のマーカーと図2(b)に示す二重円形のマーカーとは、最外径が同じである。しかしながら、二重円形のマーカーを印字した場合、円形のマーカーと比べて、レーザー光照射により変形した部分の面積が大きいことにより、視認性がより高くなっている。図2に示すマーカーの画像から、直線的な部分のない丸みを帯びた曲線を二重に描いたマーカー形状場合に、検査機や目視による検査での認識性の面でより優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ディスプレイ等に使用されるフィルムの欠陥箇所をマーキングするために利用できる。
図1
図2